ホオジロザメのアルベルト君「エチゼンクラゲ?」(24)


昔書いたやつ↓のおまけっていうか、小ネタ。
男「なにをしているのだ、少女?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1406434638/)

良かったら本編も読んでね!


俺の名はアルベルト。並みの人間よりも賢いホオジロザメだ。

何? 「鮫の脳味噌が何をほざく」だと? 食い殺すぞこの野郎。黙って俺の話を聞け。


こうも賢いと、天敵とされるシャチを出し抜いて翻弄するなんてのは朝飯前だ。そもそも、人間どもが持ち上げるほど奴らの知能ってのは大したもんじゃない。

自分たちに媚びを売って芸をするからご褒美に宣伝してやってるだけなのに、そいつを真に受けて、高等生物にでもなったみてえに鼻にかけやがって。要はバカなんだ。

そんな連中が足りない知恵を絞って包囲網を形成しても、やすやすと脱け出して背後を取ったりできる。
俺に尾びれを齧り取られて悔し涙を流すシャチがどれだけいたことか。

「この俺様が! 鮫の脳味噌に尻尾を食いちぎられるなんて!」──血の涙を流す心の叫びが聞こえたりすると、気の毒にもなる。

そういう思い込みが間違ってるってのにな。奴らいつになったら気付くんだろう。




だから俺をこの世に誕生させた現実は、時として残酷だとも言える。

しかも、人間とコミュニケーションができる長所を最大限に生かして、連中と契約を結んだりもする。
もちろん、あくまで契約だ。物好きな人間を背中に乗せて海中の珍しい場所に案内したり、「海の底に葬られたい」って奴を海藻の揺らめく岩礁の墓場に連れてってやったりする。


最近は人間の寿命も無闇に伸びたから、浮き世にうんざりして、誰にも知られずに死にたいって奴が増えたのさ。ここだけの話だぜ。

浅い海の底から日の光を見上げて、感無量のうちにポックリ逝っちまう年寄りを何十人となく看取った。


これが地上であくせくした生涯のご褒美ってわけだ。一応、俺も年寄りには敬意を表するが、何がそんなにいいんだか理解できない。


とにかく俺は、そうやって報酬を得る。とは言っても、ストレスを溜めすぎるほどには仕事はしない。
俺たち鮫にとっては、生きてること自体が仕事みたいなものだからだ。この話は後でじっくり聞かせてやろう。


生きることに一生懸命だと、時には息抜きをしたいと思うことだってある。

お前らが「浦島太郎」の伝説で知っている竜宮城も、俺が息抜きに訪れる場所の一つだ。

ついでに言うと、お前らが聞かされてる話と違って浦島はまだ竜宮にいる。帰ったって何もいいことがないんだとよ。
で、うまいこと乙姫をたらし込んで、今もわがまま放題の生活を送ってる。

あの野郎が言うには、「自分は生まれながらのヒモ」なんだそうだ。何を勘違いしてるか知らねえが、そんなの自慢になるかっての!

俺から見ればただの酒乱の役立たずだ。


……話がそれたな。


竜宮城ってのは乙姫が開設した、テーマパークってやつだ。

その売り物の一つに、海中の別の生き物に転生して、死んで分解されるまでを体験できるコーナーがある。
その感覚は実体験そのもの。どんな生物も抱いている、ひそかな変身願望を究極の形で満足させる。こういう趣向を考え出した姫は天才だ。

お前ら、人間を長いことやってると、他の生き物になってみたいと思うようなことはねえか?


蟻になって踏み潰されてみたいとか、鯛になってエビに釣られてみたいとか、豚になって泣きわめきながら屠殺されてみたいとか……

趣味が偏ってると言いてぇんだろ? だがこれが世界の現実だ。お前らが直視しようとしないだけだ。

人間だから、自分は関係ないと思ってる。そうかな? お前らだって生き物なんだぜ?
俺たちホオジロザメは時々あからさまに思い知らせてやるから評判が悪いが、人間だって心の、というか体の一番深い所で、そんな原初の世界へ回帰してみたいって思ってるんだ。俺は知ってる。

口先ではふた言目には「神になりたい」とか言うくせにな。


実際、このアトラクションは人間どもには結構人気があるんだよ。



……というわけで俺は、竜宮城の「Bゾーン」にやってきた。

ここでは主任従業員としてタコが案内係を務めている。タコは例によってバカ丁寧に俺を出迎えた。


「おひさしぶりでございますアルベルト様。この前の…… なんでございましたかな」

「トビウオ」

「はい、トビウオはいかがでございました?」

「うん、この体でも真似してみたんだが」


トビウオ。あの滑空は楽しかった。このまま進化して鳥になりたいと思うほど癖になったが、油断している隙にマグロに食われた。

俺ほどの才覚があるトビウオなら、飛んだ先で木にでも止まって魚類が地上に進出する先駆けになってやってもよかったのだが、システム上そうはいかないんだろう。

とはいえ鮫の体に戻って、どれくらい真似ができるか試してみるだけの価値はあった。
そりゃ、トビウオに比べればブリーチングに毛が生えた程度のもんだったけどよ。


「……結構やれるもんだ。飛翔距離は15メートルくらい」

「15メートル! それはまたすごい! そのご立派なボディーでですか?」

「うん。水面上に飛び出すときの角度にコツがあるんだよ。試してみな」

「やってみたくなりましたな……」

「ブリーチングするタコ。お前の恥ずかしい姿を写真に撮ってばらまいてやろうか?」

「またご冗談を! ではまいりましょうか」

「うむ」


何に転生するかはルーレットで決められる。トビウオなんて人気種別にはそうそう当たるもんじゃない。

浦島の野郎はナマコとか貝みたいなのが好みと言ってた。あれは生まれながらのヒモというより怠け者だからな。よく漁師が務まったもんだ。


「ではスタート!」


盤面に「マッコウクジラ」とあったので、俺は玉がそいつに入るよう念を送った。潜水艦みたいな音を出して捕食や反響定位をやってみたかった。しかし結果は……


「エチゼンクラゲ! これはまた異色でございますな」

「……ちと退屈かもしれないが、まあクラゲも悪くねえか」


メタモルフォーゼをするためのアレンジメントルームに入る。
ここではAIの爺さん「命の司」が待っている。この爺さんの毒舌を聞きながら、別の生き物に生まれ変わる心構えをするのだ。


「性懲りもなくまた来おったかこの穀潰しめが」

「よっ、世話になるぜ」

「働きもせずこのような道楽にうつつを抜かしおって。おぬしの先祖は皆、泣いておるぞ。おぬしの眷属たちは、皆、体が擦り切れるまで働いて海の藻屑となったものぢゃに」


この前に聞いた言い草と大して変わらない。初心者を打ちのめすには、これじゃ不十分だ。


「毒舌にキレがねえな爺さん。芸ってのは磨かねえとサビつくんだぜ」

「まったく。なりばかり大きゅうなって。親が見たらなんと思うか」


駄目だこりゃ。プログラム更新の時期だって姫に言っとこう。
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人間どもは俺たちを海のギャングと呼ぶ。俺はこう呼ばれるのが嫌いだ。といっても、たぶんお前らが想像するような理由と違う。


シャチも「海のギャング」と呼ばれているからだ。もっとも連中は、人間に媚びを売ることで人気者の地位を不動にしてはいる。

何が「海のギャング」だ。たかが鯨のくせに。


「たかが鯨のくせに」というのは理由がある。奴らは地上生物の落伍者だ。

いったん地上に上がったんなら、滅びるまで地上で全うしやがれ。体重増やしたのはてめえらの責任だろ? 「自己責任」ってやつだよな? 増えすぎた体重がしんどいからって、おめおめと海に舞い戻ってくるとはどういう了見だ?


恐竜を見ろ。今じゃ鳥になって空を飛んでるだろ。少しは恥ずかしいと思わねえのか? 「哺乳類の恥さらし」って陰口叩かれてるの知らねえんだろうな。

いや、ひょっとしたら意識してるのかもしれない。鯨どもが気持ち悪いくらい人間に愛想を振りまくのは、何とはなしに感じている引け目のせいだとしたら?
あいつらの気持ち悪いへつらい方を見れば、そういう詮索をしたくもなる。


人間の言葉では、海の中に母親がいたり、逆に母親の中に海があったりするくらい、母親と海は一体化してる。それは俺も共感できる。
その「母なる海」ってやつが、「立派になるのよ!」と言って送り出したんだから、立派になれよ。地上が嫌なら、月へでも行きやがれ。誰も止めはしねえぜ。


分かるだろ。こんなことをうるさく言う俺たちに、人前で芸をするようなサービス精神を求めるのは無理ってわけだ。


そのせいかもしれない。俺たちの扱いっていうと、背びれと腹びれが高級食材になる以外は、すり身にしてカマボコかはんぺんか。どっちにしても割に合わない立場にある。


さて、ひさしぶりに来た竜宮で、試すことになったエチゼンクラゲだが……


クラゲは食ったことないな。見るからにまずそうだし。

だいたいあれを生き物だなんて意識したことすらねえ。


俺たち鮫はひたすら泳ぎ続ける宿命を背負った生き物だ。でないと沈んじまう上に、えらの構造上呼吸もままならない。


だから必要とするエネルギーの量といったら半端ない。そんな必要に迫られて餌をあさってれば、はた目には「どんだけ凶暴なんだ」とも思われる。


そこへいくとクラゲ。なんだあいつら。


水の中でゴミみてえにユラユラして、食餌行動といったら、寄ってくる小魚を取り込むだけだ。ほんとに生きてんのかお前ら、って言いたくもなる。


生きるってのはそういうもんじゃねえだろう。


休むことなく泳ぎ続け、獲物を見たら一直線に襲いかかり、貪欲に食い散らす。
休みたいとか、遊びたいとか、一度でも考えたら、死ね。なんて歌の文句があったかどうか知らねえが俺たちの一生はまさにそれだ。


休みたいとか考えたら死ぬしかない。死ぬまで前に進み続ける。鮫とはそういう生き物だからな。


硬骨魚類どもの浮き袋を、うらやましいと思ったことがないとは言わない。
だが俺の一族は、浮き袋を堕落の象徴と考えている。

エイみてえに、体を扁平にして水への抵抗を増やすなんてのは論外だ。
「私たちはものぐさなのでこんなみっともない姿になりました」って言ってるようなもんじゃねえか。


親父は俺によく言った。「海底でのんびりしたいとか考えやがったら殺すぞ」。

おっかねえ親父だった。だが今、俺がホオジロザメとしてやっていけてるのもこの親父のおかげだ。


俺は絶対に、ネコザメとかイタチザメのように、海底にひっついたりしない。

これは生存うんぬんじゃなくて、節度の問題だ。

仮にも鮫としての矜持があるなら一生泳ぎ続けろ。泳げなくなったら死ね。
すぐ海底にひっつきたがるものぐさ連中に、俺はそう言ってやりたい。言っても無駄なのは分かってるが。


要するに、クラゲは俺たちとは対極にある生き物だってことだ。


今までにここで5回、別の生き物になった。カジキマグロ、鮭、チョウチンアンコウにウルメイワシ、それからトビウオと、一応は魚類続き。
クラゲなんてのにはかかわり合ったこともない。

だからおもしろいのかもしれないがな。



幼生段階をすっとばし、ある程度成長した個体に俺は転生した。
極小のままプランクトン食いの魚にやられて即終了じゃつまらない、そんな配慮があるんだろう。


周囲を眺めると、……俺と同じようなバカでかいクラゲだらけだ。大発生らしい。


クラゲってのは群れをつくるのか。
意図的にそうしてるのか、ただ偶然寄り集まってるのか……
アンコウやイワシになったときもそうだったが、その生物になってみればすぐ分かる。これもこのゲームのおもしろいところだ。

どうやら社会的集団を形成してるらしいんだなこれが……



俺の周りは、みっともないクラゲどもが交わす言葉で騒然としていた。


その内容ときたら…… ひと言で言い表すことはとてもできない。


人間どもが呪詛とか罵倒とか、陰口とかいう種類の言葉。

それが渾然一体となって、クラゲの群れが占める水域全体に溢れかえってるような有り様だった。
いったいどこから、これだけの悪意が湧いてきてクラゲどもに取り憑いたのか。


クラゲの身になってみてもそれはよく分からない。別の生き物になっても神になれるわけじゃないからだ。


そして…… やはり鮫から転生したような奴のうさんくささというのを、ボンクラどもは鋭敏に嗅ぎ取ってしまうんだろう。
いつの間にか俺はクラゲどもに取り囲まれ、呪詛なのか罵倒なのかよく分からない言葉を浴びせられていた。


俺は俺で、嫌悪感しかなかったから、別に弁解もしないでいた。

すると、その様子が気に食わなかったのか元気のよさそうな(クラゲに元気も糞もないが)成熟個体が2体進み出てきて、俺の両脇を捕らえた。どこかに連れて行かれるらしかった。


立派な成熟個体2体に両脇を抱えられるようにして引きずられていく俺の左右を、無数のクラゲどもがずらりと並んで見ていた。
触手を俺に向けて、ガヤガヤと盛んに何か言っている。もちろん内容はさっぱり分からない。


しばらくして俺は、群れの長(おさ)らしいクラゲの前に突き出された。


それは、とてつもなく大きな個体だった。縦にも横にも長く、これまた長大な触手を、群れ全体を抱きかかえるように広げている。
群れを統率するのにこの威圧感がものを言っているらしい。


その長が、荘重極まりない声を俺の脳髄に響かせてのたまった。


「オ前ハナンダ」

「へ?」

「『オ前ハナンダ』ト聞イテイル!」

「なんだと言われましても…… ご覧の通りケチなクラゲでござんすが」

「『ゴザンスガ』ダト! クラゲハソンナ口ノキキ方ヲシナイ!」

「そう言われても困りますねえ。俺は生まれてこのかた、ずっとこれで通してきましたから」

「ナラドウシテ、オ前ハクラゲナノカ!?」


なるほど。クラゲかクラゲでないかは外見じゃなくて、喋り方で決まるらしい。少なくともこいつらの世界では。
しかしクラゲでない奴がクラゲの外見をしてれば、どんな事態を招くんだろうか?


「困っちゃったな……」



その瞬間、周囲のクラゲどもに驚愕が走ったのを、俺はクラゲの肌で感じ取った。俺の不用意に発したひと言が、気色悪い声で一斉に復唱される。


「コマッチャッタナ!」

「コマッチャッタナ!」

「コマッチャッタナ!」


湧き立つ泡みたいに、クラゲどもの耐え難い声が繰り返される。耳があったら触手で塞ぎたいくらいの、そりゃひどい声だ。
奴らの恐怖が、肌を透かして中枢神経にまで伝わってくるようだった。それほどにも俺の呟きは、連中の世界で発せられてはならない言葉だったのか。


しかし、ざわめきは波が引くように鎮まった。束の間もたらされた静寂を破って、長が声に一段と荘重さを加えて言った。


「オ前ハ異端者ダ」

「異端者ダ!」


周りのクラゲが一斉に、鮫のままだったら悶絶死してしまいそうな声でわめきたて始めた。そいつらの顔を見回す。
どいつもこいつも憎しみに満ちた視線を俺に向けて……いるわけなんだが、その割にはどこか楽しそうだ。その証拠に、俺に向かって「異端者ダ!」とわめき立てながら、水の中で跳ねている。


想像してみるがいい。自分を取り囲んだエチゼンクラゲの群れが跳躍を繰り返している様子を。生きてれば思いがけない光景に出くわすっていうのが改めて納得できるだろう。

さて、これから何が起こるのか。

クラゲの長が触手を広げて騒ぎを静め、俺に向かっておごそかに宣告した。


「極刑ニ処スル!」


周囲でまた、一斉に「極刑ダー!」との叫びが上がる。エチゼンクラゲどもが楽しそうに飛び跳ねている様子は、クラゲに転生している俺自身が辛うじて我慢できるほどの醜い代物だった。

俺の親父が見たら即座にぶっ倒れて頓死しているだろう。


俺は左右をとりわけ図体のデカイエチゼンクラゲに固められ、海の浅いところへ引っ立てられていった。

触手から毒を注入され、俺は意識を失った……



・・・・・・・・・・・


気がつくと、俺はカワハギの群れに取り囲まれていた。

こいつらに食われちゃたまらんと気付いて、体を横にしてクラゲなりに逃れようとしたが、体が動かない。毒が効いているらしい。

そして予感した通り、ふざけた顔をした中型魚は動けない俺の周りを泳ぎ回りながら、三々五々触手と言わず胴体と言わず食いちぎっていく。
……それが痛いわけじゃなく、妙にくすぐったいんだ。いや気持ちがいいと言っていいくらいだった。


時間が経つうちに、触手みたいな体の末梢部分はあらかた食われて、エチゼンクラゲの体幹部分が捕食者の前にむき出しにされた。
カワハギどもが俺の体の奥深くまで容赦なく突っつき始めた時、……俺の快感はたまらないものになった。


たまらないなんてもんじゃない、ほとんど耐え難いものになった。ああ! 食われるのがこんなに気持ちいいものだったなんて!

クラゲのくせにこんな極刑を考え出しやがるとは! 油断してたぜ!



あっダメ! そんなところ齧ったら俺、い、イっちゃうじゃない! え、でも齧るの? やめ、やめて!

あっ、ああっ! ホントだめだったらやめ、やめ、あひ、ひぃぃぃぃぃーーー!!


ハァハァ…… 不覚にも俺はカワハギにイかされた…… 俺をい、イかせたのはカワハギよ、お前が最初だ……

なんて言ってる間に今度はそこか! だめ、だめだそこだけは! ほんとに勘弁! だめだってのに! あひ、あひ、あひひひぃぃぃ~~~んんんん!!!


へ、変な声を出して、変なモノを噴いちまったぜ俺は! なんだよこれは! 俺の噴いたモノ、お前らなんでうまそうに飲み込んでんだ!

とか言ってたら俺の全ポイント一気攻めかよ! ほ、本当に、俺を、殺すんだな! やれよ! いいよやれよ! 俺を天国に送るつもりで、で、で、てってい、てきにぃぃぃぃぃ~~~……


いやっ、おりぇ、ほんとにしっしんしちゃったじゃないにょぉぉぉぉーー!! え、まだまだじょにょくちぃぃ? いやだ、いやだ、も、もう、らめ、らめだっていってりゅのにぃぃぃ~~~!!!


また噴いちゃうじゃにゃいにょぉぉぉぉぉ!!!!!


ほぎゃぎゃあぁぁぁぁaaaaaaaaaっっ!らめりゃめぇぇぇぇっぇぇぇぇ!!!ころしてぇぇぇぇ!!はやくこりょしてぇぇぇぇぇぇ!!!ここからもあしょこからもフいてぇ、フいちゃってりゅうううううう!!フいちゃってりゅのォォォォォooo~~~!!!


・・・・・・・・・・・



いったい、何回失神したんだか、何十回イかされたんだか覚えていない……

気が付いた時、俺はリラクゼーションルームにいた。
目の前には澄まし顔のタコが立ってた。


「お疲れ様でした。いかがだったでしょう」

「とんでもねえ代物だ…… もう当分ここには来たくない」


そっぽを向こうとしたら、タコがニヤニヤ笑ってる。痴態を一部始終見られてた気がしてぞっとした。


「何笑ってんだお前!」

「アルベルト様、隠したって駄目ですよ。顔にちゃんと書いてあります」

「何だと?」

「『なかなか悪くなかった』って。私も長いお付き合いですからそれくらい分かります」


酢ダコにするぞてめぇ。うう、危うく口に出して言いそうになった俺は、顔をそむけて部屋を出た。



「お送りはよろしいので? カートを用意させますが」

「泳いで行くからいいよ!」


ホオジロザメに戻って泳ぐ海。強大な水の抵抗を切り裂いて前進する、鍛え上げられた軟骨魚類の肉体。
改めて自分がクラゲじゃないと実感する。だが、もうお遊びは終わったのに、鮫の体に感じるこの微かな違和感はなんなんだ?


今回のはただの悪夢でしかなかった。このアトラクションに当たりはずれは付き物とはいえ、後味が悪すぎる……

だが、その時思い出した。前回トビウオをプレイした後で、姫が俺を出迎えた時のことを。



「どうだった?」

「いやーいいね、飛ぶって最高。癖になりそうだぜ!」

「あらそう! じゃあ次は、アルベルトちゃんのためにとっておきの趣向を用意しておかなくちゃね!」


……俺のためにとっておきの? 俺をどうするつもりだったんだ? ルーレットに細工でも仕掛けてたのか?

あの時姫は俺の顔を見ながら、気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべていた。どぎつい接客スマイルの下で、何を考えていやがったのか。
この後、あの顔を見なきゃならんかと思うと鮫肌が鳥肌になりそうだ。


俺は金輪際、このゲームはしない。そう固く心に誓った。


おわり。

聞き覚えがあるなとおもったら、やっぱりか

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