提督「加賀よ、ここは寒くはないか?」 (40)
今更なにを、と言った顔だな。
まあ、我が鎮守府は日本に建っているわけでは無い、少々冷えるが堪えてくれ。
さて、執務だ。
貴様は私の纏めた書類に不備がないか確認した後、警戒態勢のまま待機だ。
なに?いつもそればかりだ、だと?
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敵もこちらから小突かぬ限り攻めて来ぬ、ならば無理に小突く必要も無かろう。
今は戦力を蓄え、来るべき艦隊決戦に備えるのが順当ではないか?
分かれば良い。
私は建造された艤装を見にゆく。
では、あとは頼んだぞ。
どれ、出来上がった艤装はなんだ?
...ほう、木曾か。
残念だが我が鎮守府にはすでに着任している、他の鎮守府へ回してやれ。
その声は球磨か?
当たり前だ、自分の部下の声が分からずに偉そうに提督など出来るものか。
そう言えば貴様は着任してあまり月日が経っておらんな。
ふむ...それはすまない、我が鎮守府の球磨型は貴様と木曾しかおらんのだ。
そう言ってくれるな、ここは辺境の地...物資の供給などもうふた月も来ておらん。
食料だと?
...付いてこい、貴様に良いものを見せてやる。
持て、貴様の釣竿だ。
何をするかだと?
食料確保だ。
普段は伊168...イムヤやゴーヤに任せているのだが奴らも潜水艦とはいえ女児、休息は必要だ。
奴らが羽を休めている間は、私が貴様らの食料を確保する手筈になっている。
なに、心配するな。
私はこう見えて釣りが上手いのだ...掛かったぞ。
おっと...コイツはデカいな...期待できそうだ
...笑うな、球磨。
こういう時もあるのだ、釣りとはな...。
この長靴は後で加賀あたりに履かせてみるか...。
ただ釣りをしているだけでは暇か?
どれ...ひとつ話をしてやろう。
...なぜ私の部下は私が話そうとすると嫌な顔をするのだ。
なに?加賀から私の話は長いと着任式の後聞かされているのか?
有りもしない虚言だ、捨て置け。
それでだ、話と言うのは貴様の末妹の昔話だ。
知っての通り、我が第一艦隊は最古参の艦で編成されている。
奴は...木曾はその中で最も新しい艦と言えるだろう。
時期としては深雪、伊勢と同じだがな。
全く、奴の性格には苦労させられてばかりだった。
.........
......
...
『木曾だ、お前に最高の勝利を与えてやる』
『球磨型五番艦、軽巡洋艦木曾...か、よろしく頼むぞ』
『ふっ、言われるまでもない』
『なあ、提督』
『なんだ』
『早く撃ち合いたいんだが...出撃はまだなのか?』
『当たり前だ、貴様程度の実力ではまだ鎮守府近海の警備が妥当と言えよう』
『...舐めてんのか?』
『口だけは一人前だな...どれ、木曾』
『私を撃ってみよ』
『はあ?頭イカレてんのか?』
『何を言っている?私は正常だ』
『確かに当たってやると言うのであれば愚か者だが...』
『あいにく貴様の蝿が止まるような砲撃を食らってやる義理はない』
『そして私も暇ではない、さっさと撃たんか』
『それとも恐ろしいか?ん?』
『...後悔すんなよ!』
『...な......』
『遅い、遅すぎる』
『その程度ではイ級にすら満足に当てられんだろうな』
『...黙れっ!』
『ふん、怒りに任せて撃ちすぎているぞ』
『はぁ...はぁ...』
『もう弾切れか?』
『生身の人間にすら当てられぬ貴様の力量が知れただろう』
『己の未熟さを噛み締め、鍛錬に励め』
『貴様の野蛮な素行が直るまで出撃はさせん、良いな?』
『...クソがっ!』
『あのさ、木曾...』
『お前は...最上か...』
『提督がなんで木曾にあんなことしたのか分かる?』
『チッ...お前も俺に説教垂れようってのか...?』
『違うよ、木曾』
『はっきり言うけどね、木曾は危なすぎる』
『どうして死に急ぐような真似をするのさ?』
『俺達は戦艦だ、戦って死ぬのは当たり前だろ?』
『木曾、ボク達は戦艦だけど』
『提督はそう思ってないよ』
『...言っている意味がさっぱりだ』
『頭を冷やしてよく考えてごらん』
『あと...提督をあまり怒らせない方がいいよ』
『すごくおっかないからね...ふふふっ』
『...どいつもこいつも小馬鹿にしやがって!』
その後私を見返してやろうと必死に練度を上げていたな。
なぜ弾を避けられたか、か。
私は士官学校で剣道を嗜んでいてな。
奴の目を見れば何処に砲撃したいかぐらいは分かった。
あとは少し体を捻ってやれば弾は私の真横を通り過ぎる。
もちろん奴の頭が怒りに支配されていたからできた事だ。
砲塔を相手に向けた時から感情は殺せ、最上や電にはそう教えたものだ。
さて木曾だが、その後何度も私に決闘を申し込んできてな。
.........
......
...
『はぁ...はぁ...』
『貴様は熱くなりすぎる、もう少し冷静を保てんのか?』
『うるせえ!』
『だいたい戦いってのはな...』
『懐に飛ん来んで...一気にカタをつけるもんなんだよ!』
『...この』
『愚か者めが!!』
『っ!?』
『貴様は戦いを喧嘩か何かと勘違いしているのではないのか?』
『戦いとは常に死神に心臓を握られているのだぞ!!』
『貴様は戦死を名誉だとでも考えているようだがそれこそが愚か者の考えだとなぜ分からん!?』
『な...なにが愚かなんだよ!』
『死者は動くか?』
『死者は物を言うか?』
『死者は戦いに赴くか?』
『...』
『恥を晒せ、恐怖し恐れろ、場合によっては逃げる事も考えろ』
『そうして生き延びよ』
『生きて帰ってこそ、先の決戦の雪辱も晴らせると言うものだ』
『死んでしまっては何もできん』
『私の艦隊に加わった以上、これだけは必ず守ってもらう』
『貴様ら艦娘は艦であり...艤装と言う矛を背負った娘だ』
『私の目が黒いうちは誰一人として戦死なぞさせるものか』
『木曾よ』
『戦いたいなら生きろ』
今ではすっかり私の言いつけを守る良い子になった。
しかし球磨型は見た目に反してじゃじゃ馬が多いようだな?
ふっ、そう拗ねるな。
一番手がかかったのは誰か、か。
ふむ...やはり木曾だな。
決闘の度に私の腰が悲鳴を上げてな。
ここだけの話だが、私は腰痛持ちだ。
加賀の耳に入れば定期診察を義務付けられてしまう。
私は病院と言うものがあまり得意でなくてな。
あの臭いと言うか...察してくれ。
一番手のかからなかった艦娘か?
最上だな。
木曾が馬なら彼女はウサギだ。
彼女に手を焼かされた覚えは全く無いな。
ならなぜ最上を結婚相手に選ばなかった、だと?
ふむ...それはおいおい話してやろう。
なに、根性を叩き直した順番を教えろ?
知ってどうするんだ...。
叩き直したと言うのならば...初めは木曾だ。
その次に加賀を、そして深雪、最後に伊勢だな。
最上と電か?
彼女らは荒治療を必要としなかっただけだ。
「さて、飯もつれんし場所を変えるか」
「もう終わりクマ?」
「ああ、その後の木曾は貴様のよく知る木曾へと成長した...噂をすればなんとやら、だな」
「提督に姉ちゃんじゃねえか、なにやってんだ?」
「釣りだ、木曾もやるか?」
「...たまには悪くないな」
「クマー...釣れんクマ」
「まだ竿を垂らして二分と経ってないぞ?」
「ソナー使えばいいクマ」
「姉ちゃんそれは反則だろ」
「釣りとは待つ時間も楽しむものだぞ...よし、今度こそ...」
「むんっ」
「...」
「岩だな」
「岩だクマ」
「提督の晩飯は岩か?」
「...貴様ら全員の皿に岩を乗せてやってもいいんだぞ?」
「はは、そんな事してみろ」
「加賀が血相を変えて怒鳴り散らすぞ?」
「おっかないクマー」
「容易く想像できるな、ははは」
「ところで姉ちゃんと何の話してたんだ?」
「何、貴様の昔話を少しな」
「あー...あの頃はまだ若かったんだよ」
「まだまだ若いクマ」
「違いない」
「あの時提督に怒られなかったら今の俺はないだろうな」
「そうだな、今や私より立派なマントなど付けおって」
「ふっ、似合うだろ?」
「ああ、よく似合っている」
「球磨も改二になればマント付くクマ?」
「さあなぁ...」
「どうだろうな」
「提督、釣りですか?」
「ああ」
「なあ加賀、この長靴を貴様のために買ったのだが履いてはくれぬか?」
「気持ちだけお受け取りします、イソギンチャクが長靴の中で生きているような商品を売る店は信用できませんので」
「順調かしら?」
「この調子だと晩ご飯は岩になりそうだクマ」
「なんとかしてくれよ、一航戦さん」
「全く...第一艦隊のメンバーはどうして私をからかうのかしら」
「私に似ているからだろう」
「違いねぇや」
「なあ、提督」
「なんだ木曾」
「...あの時、叱ってくれてありがとうな」
「何を今更...自分の部下は」
「自分で管理するってか?」
「ほぅ...やるではないか」
「当然だ、何年お前とやってると思ってんだ」
「それもそうだな」
「...いつか、俺達が」
「お前に最高の勝利を与えてやるよ」
終
おつ、このシリーズ読んでて面白いし癒されるから好きだ
乙乙
ここの鎮守府ってどこの設定だったっけ
ショートランド?
>>36
今まで特に明記はしてませんでしたがこの提督は幌筵泊地にいます。
乙
寒いっていってたし幌筵か どうもです
ショートランドとか真逆の南方だから暑いよな笑
乙
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