【デレマス】泣いて 泣いて 泣きやんだら【柳清良】 (17)

・書き溜めアリ
・暗い要素混じってるので注意(過去話で死人出てます)

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-トレーニングルーム-

早苗「あ゛ー…湿布とマッサージがカラダにしみるわぁ…」

清良「早苗さん、毎回無理し過ぎなんですよ。アイドルの仕事は長期的に身体を酷使するものです。
   肉体派だったと言っても、瞬発力重視になりがちな警察と今は違うんですよ?
   限度を超えたやり過ぎは身体に毒です」

早苗「いやー、でもあたしが期待されてるのってこういう仕事じゃない?
   それにこう、若い子に見られないようにコッソリ治療してくれる清良ちゃんがいるから、
   あたしも無理できるってものよ」

清良「頼ってもらえるのは嬉しいですけど、それで身体を壊してたらお話になりません」

早苗「手厳しいわねー。毎度のことだけど」

清良「元とはいえ、医療従事者が患者の身体のことを思うのは当然ですよ」


コンッ


早苗「何の音っ!?…不審者かしら。あたし、ちょっと外見てくるわ!」

清良「はい!」

-廊下-

早苗「ん!?あの後ろ姿は…レイナちゃん?」

タタタタタッ…

早苗「まったく、逃げ足の早いこと。原因はこのピンポン玉ね。
   音の感じからして、スリングショットか何かでスポーンと飛ばした感じかしら?
   なんにしろ今から追っても無理があるから、問い詰めるのは後にするしかないわ」



早苗「あーもう、逃がしちゃった。
   ピンポン玉使ったイタズラだし、不審者ってセンはないからいいけど、
   あたしがいるってわかってやってるんでしょうねコレ。今度からは場所変えよっかなー。
   …ん、清良ちゃん?」

清良「……」

早苗「もしもーし?」

清良「…………」

早苗「き・よ・ら・ちゃ・ん!!!」

清良「…っ!はっ、はい、なんでしょう?」

早苗「なんでしょうも何もないわよ。どうしたのよ、ボーっとしちゃって」

清良「いえ…あの、不意を突かれて、驚き過ぎただけです。なんでもありませんから」

早苗「そう。じゃあ、マッサージの続きお願いしようかしら。
   いきなり走ったんで、また痛みが出ちゃったわ」

清良「…はい」

-トレーニングルーム-

早苗「いやー、レイナちゃんにも困ったもんだわ。
   悪党キャラだからって普段から悪さしなくてもいいでしょうに」

清良「レイナちゃん?…そう、よね」

早苗「時子ちゃん来てから調子付いてるみたいだし、一旦シメとこうかしら。
   ああ、そうそう清良ちゃん?」

清良「なんでしょう?」

早苗「さっきから顔、真っ青よ」

清良「…!!」

早苗「こんなんで露骨にビクつくのに、本当になんでもないのかしら?
   それに手の動きもさっきと比べて大分カタいわね。効きが悪いわ」

清良「それは…ごめんなさい」

早苗「まったくもう。…よっこいしょっと」

清良「早苗さん?あの、身体を起こされるとマッサージができません」

早苗「治療は一旦休憩、ついでに攻守交代よ。たまにはあたしが治す側になったげるわ」

清良「え?」

早苗「よかったら、話してくれない?さっき見た光景で、何か思い出しちゃったんでしょ」

清良「……」

早苗「言っとくけど、別に好奇心とかそういうのじゃないわよ。
   聞かれたくないこと、言いたくない事なら、そう言ってくれればこれでおしまい。
   それでも聞くのは…あんまりに辛く見えたからよ。何か抱え込んでるんじゃないかって」

清良「そう、見えました?」

早苗「顔とか色々合わせて判断できるくらいには。ほら、これでもあたし元警官だし」

清良「…言いたくないなら、言わなくてもいいんですよね」

早苗「そうよ」

清良「……」

清良「ここだけの話に…しませんか?」

早苗「こっちはハナからそのつもり。安心して、口は堅いつもりだし、聞かなかったフリも慣れたモンよ」




清良「…アイドルになる前の私は、外科外来の看護師でした」

早苗「たしか、リハビリ中の同僚を見舞いに来たプロデューサーにスカウトされたんだっけ?」

清良「その通りです。患者さんが元気になってくれる姿を見て、アイドルになったらもっと多くの人を元気にできる…
   その思いでこの世界に飛び込んだのも、嘘じゃありません。ただ、理由はもう1つあったんです」

早苗「そこははじめて聞くわね。…その様子からすると、プロデューサーも知らない話?」

清良「はい。私、外科外来には配置変えで入ったんです。
   最初にいたのは…精神科でした」

早苗「精神科か。じゃあ、清良ちゃんの歌が最初から上手かったのも?」

清良「ええ、音楽療法のためです。アイドルになれる程の才能があるなんて当時は思ってませんでしたけれど。
   そこで精神科医の先生と二人三脚でがんばってました。今のプロデューサーさんと同じですね」

早苗「なるほどね。だからウチのプロデューサー制に慣れてたのね」

清良「精神科には様々なこころの問題を抱えている患者さんがいらっしゃいましたが、
   先生の腕もあって、しばらくは何事もない日々を送っていました。
   私の歌や会話が、患者さんのメンタルを救えたこともわずかながらあります。
   そんな日々が崩れたのは、ある患者さんが来た時でした」

早苗「念のため聞くけど、精神科のよね?」

清良「もちろんです。その患者さん…仮に、名前をRさんとします。
   長いストレートヘアーの目立つRさんは重度の鬱病で、手首にはリストカットの跡もありました。
   原因は、学校でのいじめでした」

早苗「…続けて」

清良「はじめは親に迷惑をかけたくないと来院も嫌がっていましたが、先生手製のハーブティーと、
   私を交えた会話療法の甲斐もあって、Rさんは徐々に回復の兆しが見えてきました。
   リストカットの数が増えなくなり、学校にもまた行けるようになった。
   Rさん自身もとても感謝してくださって、先生と私を描いた似顔絵を贈ってくれたこともありました」

早苗「ん?でも原因はいじめって…まさか…!」

清良「さすがに、早苗さんは察しがつきますか。
   先生と私は、この時点で親御さんにRさんの転校を勧めていました。
   このタイミングが危険だとわかっていたからです。
   ですが転校の決まらないまま、幾ばくかの時間が過ぎて…あの日が来ました」





早苗「清良ちゃん…唇噛むのはわかるけど、最後まで吐きなさい。
   ここで止めたら、あなたまで心が砕けちゃうわよ」

清良「…はい」




清良「夜分遅く、病院にRさんの親御さんがやってこられました。
   その時感じた悪い予感は、すぐに現実のものとなってしまいました。

   ―Rさんはその日の夕方に亡くなっていました。自室で、首を吊って」



早苗「…予想はできてても、キツイわね」

清良「鬱病の患者さんの場合、一番危険なのは快方に向かって気力が回復し出した直後なんです。
   死ぬにも、気力が必要ですから。まして今回は学校でのいじめ問題が全く解決されていない。
   登校できるようになってもいつ爆発するかわからず…結局、爆発するまで手が打てなかった」

早苗「迅速に転校を判断できなかった、親御さんにも責任あるんじゃないの?」

清良「責任問題だけなら、そう言えるかもしれません。ですが…これが、医療の限界であることは事実です。
   共同体は時として、弱者を迫害する。傷付いたこころを癒すことはできても、共同体にまで手を出せない以上、
   根本的な対処はできない。そうわかっていても、Rさんの死という事実の前には無力さを感じざるを得ません」

早苗「……」

清良「Rさんは私達を好いていました。亡くなる少し前に、3人で一緒にピクニックにでも行こうとも誘ってくれました。
   親御さんも、私達にとても感謝してくれた。最後に少しだけでも楽しい時間を過ごせたと。
   私達は結局、Rさんを救えなかったというのに…なのに…なのに!」

早苗「清良ちゃん。泣いて、いいんだからね」

清良「…すみません。少しだけ…」

早苗「少しと言わず全部出しなさい。お姉さんが受け止めてあげる」



早苗(大人の泣き方ね。声は上げない、でもずっと泣き続けてる。どれだけ溜めこんでたのよ。
   …まったく、限度を超えて壊れかけてるのは、どっちなんだか)

清良「もう…大丈夫です。ありがとうございます、早苗さん」

早苗「そう。でも、もう少しだけお話しない?
   もう1つの理由が聞けてないし、その泣き腫らした眼で部屋出たら、あたしが泣かせたように見えるもの」

清良「そうですね。それじゃ、もう少しだけ付き合ってください。
   Rさんの死後も精神科での日々は続きましたが、彼女の死からきっかり一週間後、私は病院内で急激な痛みに襲われました。
   ストレス性の急性胃炎。精神科の看護師が心療内科に担ぎ込まれるなんて、笑い話にもなりません」

早苗「今は大丈夫?」

清良「…多分、大丈夫です。早苗さんが『あれはレイナちゃんだ』ってすぐ教えてくれましたから」

早苗「やっぱり、後ろ姿にあの子を見てしまったのね。
   …引きずり過ぎ、ってのはあんま良い言い方じゃないか。
   清良ちゃん、意識して忘れないようにしてるんでしょ?」

清良「はい。誰からも忘れ去られたら、本当に死んでしまう。だから、忘れてはいけない。
   今も自室に残してあるんです。Rさんの描いてくれた似顔絵」

早苗「その姿勢は感心するけど…やっぱり、引きずり過ぎよ。
   アイドルじゃなくて警官としてそれなりに事件見てきた身で言うけど、
   死者をきっかけにした行動理由って、行動を起こした当人の心理状況と鏡合わせになってるの。
   だから、Rさんのことをずっと忘れないってのも、あたしには有刺鉄線でカラダ縛り上げるような所業に見える」

清良「でも、それは…」

早苗「そりゃご遺族は喜んでくれるでしょうし、他の患者さんもそれだけ思ってもらえる実例あれば嬉しいでしょうけど、
   精神科の看護師としちゃ、あまりにも入れ込み過ぎてると思う。
   …気を悪くしたらごめんね。門外漢が、勝手にこんなことベラベラ言って」

清良「いえ、入れ込み過ぎてるのは多分、その通りですから。
   だからでしょうね。次に配置換えの時期が来た時、人員不足になっていた外科外来に移されたんです。
   それでもプロデューサーさんと会った時、最初に思い出したのはRさんのことでした。

   …もし、Rさんのように気付いた人々の心を、より多く癒すことができるのなら。
   …もし、弱者への迫害が必要ないほど、共同体を満たす方法があるのなら。
   そこに外科外来で元気になってくれた患者さん達の笑顔が重なって、私はアイドルになりました」

早苗「ホント、重いわね。デスクワークに嫌気が差して警察やめたあたしが小石みたいに思えるわ」

清良「動機の違いでアイドルは変わりません。病気に貴賎がないのと同じです」

早苗「まったく。本当にそう思ってるなら、最後にビシッと言わなきゃね」

清良「…なんでしょう?」



早苗「ムネ張って、前を見なさい。どうやったって日々は過ぎてくんだから。
   あたしみたいなチャランポランならまだしも、出来る限りをやりきったあなたを責める人なんていないわ。
   だから今はもう、アイドルとしてちゃんと進むの。
   後ろ髪引かれる思いを残してたら、未来だけ見上げて歩けはしないわよ」

清良「早苗さん…ありがとうございます」

早苗「あーもう、また泣きそうになってるじゃないの。ほら、またムネ貸してあげるから。
   …もっとも、そこにいる悪い子に貸してあげるつもりはないけれど」

清良「悪い子?」

早苗「聞いてるんでしょ?いるのバレてるんだから、出てきなさいよ」





愛海「ううっ、なんて悲しいお話なんだぁ!!」

清良「愛海ちゃん!?いつの間に…」

早苗「レイナちゃんのイタズラをオトリにして入ってきたのよ。
   話してる途中で気付いたけど、空気読んでくれたから今まで黙っててあげたの。
   …あれ?目、赤い?」

愛海「だって、悲し過ぎるじゃない!あたしの見知らぬお山がぁ!」

早苗「ンなこと言いながらあたしのムネを狙ってんじゃない!ほんっと、油断も隙もないエロガキなんだから」

愛海「いだだだだだ!」

早苗「マッサージ中で動けないあたしを狙おうとしたんでしょうけど、フルパワーじゃないだけで全然動けるのよ!」

愛海「キャ、キャメルクラッチじゃお山が狙えないいぃ…ギブギブギブ!」

清良「ふふっ…」

早苗「…やっと、笑えたわね」

清良「早苗さんの、治療のおかげです」

早苗「あんなんで良かったら、いつでも早苗先生がお相手するわ。
   プロデューサーの前じゃ泣き虫になるのイヤでしょうしね。
   いつもマッサージで世話になってるんだから、これくらいはしてもいいでしょ?」

清良「…はい!」

清良「あと、愛海ちゃんがものすごく苦しそうなんですけど」

早苗「え?…ヤバい、力抜くの忘れてた!」

愛海「っはぁー、目の前チカチカしてきたところだった…」

早苗「それで済むんだからあんたも随分タフよねー。
   せっかくいるんだから、動けるようになったら愛海ちゃんもあたしのマッサージしなさい。
   あ、おイタしたらシメるからね」

清良「ふふ、大丈夫ですよ早苗さん。ナース拳でお相手しますから」

愛海「清良さんがすっかり復調していらっしゃる…!
   これじゃレイナちゃん煽ってまで入り込んだ意味がないよぉ!」

早苗「だから反省しろっての!」

愛海「今度はパロスペシャル!?あだだだだだ!!」

-スタジオ出口-

早苗「まったく、マッサージでカラダ休めるつもりがとんだ無茶しちゃったわ」

愛海「でも愛海ちゃんのマッサージのおかげで、腰周りはずいぶん良くなりましたね。
   押し方のメリハリもきちんとしてるし、勉強すれば理学療法士になれるかも」

早苗「それがおっぱい揉むために上手くなったんじゃなかったらね…。
   動機でアイドルは変わらなくとも、ああも明け透けだとさすがにどうなのかしら」




清良「あの、早苗さん」

早苗「なにー?」

清良「今日は、本当にありがとうございました。
   早苗さんの言う通り、ずっと自分で自分を縛りつけてたんだと思います。
   まだすぐには外せないけれど、少しだけ緩めて、代わりに手を差し伸べていければ良いんじゃないかって…
   そう、思えるようになりました」

早苗「なら、あの子らにも少しは感謝しないとね。
   口外しないようにシメちゃったけど、きっかけがなかったら気付けなかった」

清良「…また私、泣くかもしれません」

早苗「いいじゃないの。人間らしいってことよ、ソレは」




早苗「さ、湿っぽい話はおしまい!なんか夕飯においしいものでも食べに行こっか?」

清良「いいですね。でも、お酒の飲み過ぎはダメですよ?」

早苗「まったく、ホント手厳しいんだから!」

清良「元医療従事者ですもの、これくらいじゃないと。ね?」




清良(あなたを忘れるわけじゃない。
   でもあなたのような悲劇を生まないためにも、私は前を向いて進むわ。
   だから、今はお別れ。私が亡くなるその日まで。

   …さようなら、心冷子ちゃん)



[END]

これにて終わりでございます。
昨日の深夜、輿水幸子のキャラ把握のために『ゲームセンター輿水 「AIRAM EVA」後編 【モバマス】』見直したら、
突発的に書き始めてました。最後の「心冷子」という名前はもろに「AIRAM EVA」から来ています。
初見であのイベント入った時は本当にメンタル砕けそうになりました…orz
ちなみに元ゲームにはイラストがほぼないので、心冷子さんがレイナ様似のヘアースタイルというのは創作です。

あと、タイトル・進行ともにB'z「泣いて 泣いて 泣きやんだら」を意識して書いてみたり。
百合ではないので完全にトレースしてはいませんが…。
ということで、今回はこれまで。

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