暦「サイレントヒル」 (28)


暦「ここはどこだ……?」


湖のほとりの駐車場。

辺りには霧が立ちこめている。

視界が悪い。

とても静かだった。まるで──


扇「どこって、サイレントヒルに決まってるじゃないですか、阿良々木先輩」



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暦「サイレントヒル?」


扇「そうですよ。覚えていらっしゃないのですか?阿良々木先輩がここに用があるっておっしゃられたんじゃないですか。私はたまたまその話を聞いて、以前からここに興味はあったのでお供したわけというわけです」


暦(そうだっただろうか……?扇ちゃんが言うのならそれで間違いはないのだろうけど)



暦(扇──ちゃん?)


暦「なあ、扇ちゃん。凄く失礼で不躾で僕としてもあまり気は進まないんだけど、扇ちゃん、君って女の子だっけ?」


扇「酷いですよー。これは私、傷ついちゃうなー。いくら私が羽川先輩のようにセックスアピールの塊である駄肉は持ち合わせてないからといって、こんなに女の子らしい格好をしているんですよ。阿良々木先輩の大好きな女の子に決まっているじゃないですかー」

私立直江津高校の制服のスカートを持ちくるりと回る。


暦(僕がまるで女好きかのように聞こえる言い方は置いておくとして、確かに扇ちゃんが男なわけがない)

暦(なぜそのような勘違いをしたんだろうか)



扇「そんなことよりも、阿良々木先輩の用事を終わらせに行きましょうよ」


暦「ああ……そうだな」


扇ちゃんはサイレントヒルの看板へ向かって歩き始める。僕も慌ててあとを追いかけようとしたとき、車の施錠を忘れていたことに気がついた。



……いつの間にかにだいぶ汚れてしまっていたようで、塗装の何ヶ所かが薄く剥げている。


暦(この車に乗ってから、まだ一年と経っていないのにこの傷みよう、大切に扱ってきたはずなんだが……)



用事を終え、扇ちゃんを送り届けたら洗車と整備をしようと心に決め、サイレントヒルへと足を向けた。





暦「なあ、扇ちゃん。サイレントヒルまではどのくらいあるんだ?」


駐車場を出てからかれこれ十分が経過していた。

その間に見える物はなく、ひたすら霧の中を進んでいる。


扇「具体的な距離はわかりかねますが、大の大人が走って30分くらいの距離があるそうですよ」


暦「遠すぎないか?町の人は不便じゃないのか」

扇「仕方ないですよ。工事中なんですから」


暦(工事中。看板にはそう書かれていたが、工事が少なくとも真面目に行われている様子ではなかった)


扇「一部の人間の間では、町までの移動をマラソンと例える人もいるようですよ」


暦「マラソン……は少し言い過ぎな気もするれども」


扇「まあゲームの初っ端からこの仕様はプレイヤーに対する挑戦としかとれない気もしますね」

暦「プレイヤー?」


扇「こちらの話です。阿良々木先輩は気にしないでください」



期待

化物語とサイレントヒルは、少しだけストーリーが似てるよね
期待

期待


扇「さあ着きましたよ。阿良々木先輩、ここがかの有名なサイレントヒルです」


【愚者の中の愚者ここに眠る】



暦「着いていきなり墓地か……」


暦「吸血鬼と墓地という組み合わせはどうなのだろうか?棺桶と吸血鬼はよく見る組み合わせであるけども、墓地とダイレクトに関係しているイメージはないな」


いつもならそこで扇ちゃんから蘊蓄じみた皮肉じみた教訓じみた何かが返ってくるところだが


暦「あれ?扇ちゃん?」


忍野扇は忽然と消えた。突然にして忽然と。

影も姿も形もなく消えた。


霧に撒かれてしまったのだろうか?


目の前の視界も怪しい濃霧では歩けれども、すぐとなりにいた人間を見失うだろうか?

独裁スイッチでもあるまいに、人一人を一瞬で消すなど……


都市伝説、街談巷説、道聴塗説。

怪異談にはその手の物があとをたたないが


でも、怪異だとしたら忍が起きてこないのは流石におかしい。

今は昼(視界は悪いが暗くはないので昼のはず)だが、緊急時とドーナツの前には起きてくるはずだ。


いつまでも、ここにいるわけにも行かない。

確か迷子同士は互いに探しあった方が合流される可能性は高かったはず。

暦「行こう」


なんだ静岡か

訂正>>9
怪異談→怪異譚




歩けども歩けども、霧は晴れない。

寧ろ、より濃くより深くなっている気がしてならない。


普段なら、ただ歩いているシーンには八九寺とかの誰かしらいて楽しいお喋りができるため、大歓迎なのだが、こうも怪しげな町を一人で歩いてあるとどうも心細くなってくる。


それにしても、この町はどうなっているんだろうか。

いくら霧が深いとはいえ、墓地はともかく町中に一人たりともいないというのは、些かというかかなり不可思議なことではないか。


嫌な予感がする。


そもそも、僕はここに何をしに来たのか。

扇ちゃん曰く、僕自身が用があると言っていたということだが、頭にパッと浮かんでくる物はなにもなかった。


ギャリ、ギャリ


その時だ。前方から妙な音が聞こえたのは。


その時だ。前方から妙な音が聞こえた。


金属とアスファルトが擦れる音。

次第に、その音はこちらに接近してくる


逃げた方がいい。第六感直感的な生命としての危険信号がそう告げる。

しかし、それに反して行かねばならない。

僕の理性的な部分がそう告げる。


暦(行かねばならない──どうして?)


思考に絡みとられ、足は完璧に停止していた。


その間も、近づき続けた音は僕の目の前にそいつが現れることで止まった。




霧の中に、筋骨隆々とした大男がいた。

背丈は僕の遥か頭上、2メートルはありそうだ。かつて、対峙した吸血鬼退治の専門家ドラマツルギーよりは小柄であるが、それでもでかい物はでかい。


腕にはそいつと同じくらい巨大な鉈が握られている。

無骨でアンバランスなそれはかなり重量があるようでそいつも引きずっているようだ。


しかし、何よりも異様だったのはそいつの頭だ。




三角形。



その一言に尽きる。尽きてしまう。

三角形の奇妙な鉄仮面。

頭に工事現場にあるような三角コーンの形状をした鉄仮面を被っている。


その三角頭のせいで余計に巨大に見える。


暦「……」


▲「……」


そいつは僕のことを確認するように見る(そんな気がしただけだ)と


大鉈を振り上げた。


アスファルトに鉈が擦れ、ジャリジャリと音を立てる。


暦(避けなければ)


いくら多少吸血鬼の成分が入っているとはいえ、あの一撃は耐えきれない。


しかし、足が動かない。身が竦んでしまったわけではない。



──ぉ……、…………て──


暦(頭の中に声が……?)


気づいたときにはもうそいつは大鉈を振り下ろしていた。


一瞬の赤の後、僕は意識を失った



暦「……夢……か」


自分の首に手をはわせる。

しっかりとくっついている。
怪我の痕もない。

暦(夢にしては嫌なくらいリアルだった気がするが……)


暦(ここは、喫茶店か?)


ソファーから起き上がって周りを見渡す。


暗く狭い店内には、他に客はいない。

そして、おそらく店員も。


やはりこの町は何かおかしい。


暦「早く扇ちゃんを探さないと」


だが、どこにいるのかわからない。


しらみつぶしに町を歩き回るしか……


何かヒントはないか……と適当にテーブルを見ると、一枚のメモに眼が止まる。


英語のメニューやら地図やら新聞やらの上に一枚だけ日本語で書かれている。


『アルケミラ病院 505号室』


暦「アルケミラ病院?」


テーブルの上にある地図で病院を探す。


英語でも地図は地図だ。少し時間がかかったが、地図上にアルケミラ病院を発見した。


暦(あのメモが扇ちゃんのものとは限らないけど、今はこれしかない)


暦「行ってみるしかないか」


僕は念のために、厨房からサバイバルナイフ(包丁を頂戴しようとしたら、なぜかあった)を持って行くことにした。

個人的には使うようなことがあってほしくはない。

だが、もう吸血鬼の力を使うわけにはいかない、使えない僕には多少でも自分を守る術が必要なのだ。

怪異相手にこんな物が通用するかは微妙だが、忍野には『元気いいなあ、何かいいことでもあったのかい?』と言われそうな気もするが。


僕は喫茶店をあとにした。

a

静岡期待

時系列どの辺?

車乗ってるから時系列的には終物語が終わった後の話のはずだけど


>>18
時系列は花物語のあとです。(愚物語は未読です)

今更ですが、ネタバレ及び多少の改変注意



いつの間にか外は暗くなり始めていた。


霧のせいで昼とも視界の良し悪しは変わらないが。


変わらずこの町の住人とは誰一人ともすれ違うことはなく、病院の近くまで来ていた。


時々、遠くで奇妙な物音が聞こえることもあったが、それだけだった。

あの三角ともエンカウントはしていない。






ジジッ……ザッーザッー…


暦「何の音だ?」


どこからか機械のノイズが聞こえる。


周りに気を配りながら、その音のする方へ足を進める。

ここでサイレントヒルスレを建てるのはあまり宜しくないな

なんだそのいちゃもん

>>23
自治スレに行ってサイレントヒルスレって何?って聞いてごらん

待ってます

まだかな?

待ってる


そこに留まっていたのはパトカーだった。

日本の見慣れたものとは多少異なる見た目をしていたが、パトカーであることには間違いない。

左側のドア──運転席のドアがあいている。


そこからそれははみ出ていた。

赤黒く汚れたずた袋のようなそいつは何かに夢中でこちらに気づく様子はない

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