そだちアクシアム (51)

化物語のssです。

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公園で遊ぶ母子が目に焼きついて離れない

そんなことあったかな

そんなこと無かったかな

無かったかな

無かったな

駄目だ、無かったかどうかが分からない

自分がそんなに卑屈にならなくても、とは思うけど

まあ、もう仕方がない

私はあいつと同じくらい忘れているのか

私も私が何でできているかわからなかったのか

1人で出かけるのは嫌だけど

家族で出かけるほうが

出かけることが怖かった

世界中に2人きりなのに

どこかに連れていかれてしまう

どこかに行ってしまう

1人で移動するときはいつもそれを思い出す

概ねいつもひとりだけどそれはいい

まずは駅にある地図を見上げて私が通うであろうところは

どこだろうと探せばいい


扇「お困りですか?」

いえ、困っていません

私は絶対こう答える。構われたくないから

街中で話しかけてくるやつは大体敵だ

例外はほんとに例外だ


育「いえぇ?」


やたら顔色の悪い女の子が近くまできていた


扇「人の顔を見て驚くなんて酷いなあ。傷つくなあ」


絶対傷ついてない。だってニヤニヤしてる

育「どこかで会ったことあった?」

扇「いえ、ありませんよー」


この制服は私が前に通っていたところのものだ


扇「どうしました?顔色が良くありませんよ」


普段は外に全然出ないから顔色は良くないだろうけど

お前に言われたくない


育「あっ大丈夫です」


離れよう

扇「いえいえ、そんなことありません」


断定された。なんなのこいつ


扇「流石先輩ですね。困ったところを人に見せようとしません。感服します」

扇「そして全く人に好かれようとしませんね。これはもう才能です」

育「あっ大丈夫です」


離れよう

扇「いやいやいやいや」


大丈夫じゃないでしょうと言って

ニヤニヤ顔が少し焦っているように見える

腕を掴まれたので


育「何?」

扇「あなたはディスコミュニケーションを極めていらっしゃるのですね」


極めたくて極めたのではないけど。それより


育「先輩って何?」


あそこには一瞬しか行ってないから私を見かけているわけがない


扇「そこに気付いていらっしゃったのに行こうとしたんですか?」

育「じゃあ私は用があるから」


さよなら

扇「それもそんなに興味がないとは」


恐れ入りますなんて言うけど

私が私にそんなに興味がないから仕方がないでしょ


扇「・・・仕方が無い。親愛なる阿良々木先輩からあなたのことを聞いたのですよ」

育「はっ?」


私の前でその名前を言ったな


育「親愛なるってどういう意味?」

扇「そっちですか」

扇「そろそろ二言以上話してもらっていいですか?」

育「いいよ」

扇「いいよですか」


きついことを言いたいとか、したいとかはまったくないが

自然にそうなっているだけ


扇「いいよと仰る」

育「2回言わないでもらえる?」

扇「まあまあ、立ち話もあれですからちょっと歩きません?」


立ち話と歩きながら話すことに違いはあるのか

扇「公園などを通ってあなたを知っている町へ行きましょう」


変な言い方をする


育「町が私を知っていることはない」

扇「失礼致しました。あなたが知っている町ですね」


どのくらい知っていれば知っているといえるのだろう

少なくとも私なんか知ってる人はいない


育「あなたは?」


この後輩と言えるだろうか。この子のことはひとまず知らない

扇「私はあなたを知っています」

育「嘘」

扇「嘘ではありませんよー」


うさんくさいな


扇「疑いの眼差しを感じますが」

扇「その心配はいらないでしょう。杞憂ですね」

扇「知ってます?杞憂の話」

扇「この話っていつも思いますが」

扇「空が落ちてきたところであなたにどうにかできるのですかって思いません?」

育「別にそうでも」

扇「この愚か者が」

育「愚か者?」

扇「ああーすみません口癖です」

育「嫌な口癖ね」


お前絶対友達いないだろ

それなら仲間だね


扇「おや?」

育「名前は?」

扇「忍野、忍野扇です」

扇「お目にかかれて光栄です。老倉先輩」

扇「兼ねてから是非、お会いしたいと思っておりました」

育「へえそう。それはどうでもいいから」

扇「どうでもいいと仰られる」


公園の中はもうだれもいなくて

さっきいた人たちももういない

扇「誰もいませんね。天気が悪かったからでしょうか」

育「そこ水たまりがあるから」

扇「おっと」


軽々と飛び越えてくるっと回って


扇「ありがとうございます」


深くお辞儀をする姿は飄々として軽々しい


扇「またまた、複雑な表情をされていらっしゃる」

育「いつもこういう表情だけど?」

それでもニヤニヤ顔が羨ましいってことは無いなあ

私がしてたら気持ち悪いもの

猟奇的だと思われてしかるべき場所を紹介されるだろう

されても治らないから行くつもりはないけど


扇「私もそうですかねー」

育「一緒に行く?」

扇「どこにでしょう?」

扇「ところで猟奇的という言葉の意味は異常なことを捜し求める。だそうです」

扇「だから、それこそが異常であると」

育「へー」

扇「そーなんですよー」

育「私も愛想よくできたらいいのかもね」

扇「まあどちらもどちらですね」

扇「大体の物事はどちらもどちらですから」

扇「選択することは妥協なのかどうなのかってところになるでしょう」

扇「話は少し変わるかもしれませんが」

扇「物事には常に2面性がありますからね」

扇「プラスとマイナスがありますよ」


どう考えても私のはマイナスだと思う


扇「ですから先輩の凶悪な目付きもなにかしらなにかありますよ」

育「あやふやな悪口言わないでもらえるかな」

扇「悪口ではありませんよー。客観的に見た事実です」


生意気な後輩だ。分かってるよ自分でも

扇「あのー不敵な笑みを浮かべてないでもらえます?」

育「してた?」

扇「してました」

扇「なんとまあ不思議な思考回路ですね」

扇「考え方をどう思いえたとして、それは基本的には自由でしょうが」

扇「私とあなたはどうあっても違いますから」

育「その違いは?」

扇「その違いはなんでしょう」

扇「あなたは1人で歩いている。それだけで充分です」

扇「1人残されているものは、ずっと苦しむでしょう」

扇「どうあっても苦しむのです」

扇「幾ばくかの増減があるだけの」


この子はなんでそんなことを言うのかな

知っていることばかりを言うのかな

扇「呪いみたいに思えますか?私には分かりませんがそうでしょう」

扇「そう思うことが呪いの目的なのですから」

扇「誰しも思うことなんです」

扇「生きていれば良いことがあるなんて嘘ですよ」

扇「全然やり直しなんて効かないですよ。当たり前じゃないですか」

扇「それも誰しもが思うことですね」

扇「どうですか?」

育「なにを言いたいのかはどうでもいいよ」

育「私がどうであろうともどうでもいいし」

育「私がどうなってもそうでもないけど」

育「だからどうしたんだと思うだけなんだけど」

育「あなたなにがしたいの?」

扇「はっはー」

扇「弱いくせにそれを隠そうとしてしかも下手で」

扇「あなたのことはもっと弱い人間かと思ってましたが」

扇「いや違いますね」

扇「駄目人間かと思っていましたが」

扇「そうでもないのですね」

扇「あなたにお会いしたら言って差し上げようと思っていたのに」

扇「もう言う機会がなくて残念です」

扇「言う機会のなくなった言葉が可哀相です」

扇「放っておくと忘れてなくなりそうです」

扇「忘れたことさえ忘れそうです」

扇「記念に言っていいですか?駄目人間って」

育「良い訳ないでしょう」

扇「厳しいなあ。寂しいなあ」

扇「こんなにお慕い申し上げているのに」

扇「心の広い阿良々木先輩ならば許していただけたでしょう」

育「はっ?」


またも、私の前でその名前を言ったな


育「いいよ。別に好きに呼びなさい」

扇「はい。では先輩」


呼ばないのか


扇「お腹が空きましたので」

扇「先輩に免じてご飯を奢ってください」

扇「わあい、コンビニのおにぎりだ」

育「いいでしょ。海苔はパリパリのほうが良いって言う人がいるけど私はそうでもない」

扇「へえ、どうでもいいなあ」

扇「このおにぎりおいしいなあ」

扇「とってもおいしいなあ」

扇「せめて選ばせてもらえたらなあ」

扇「おもむろにコンビニに入って何をするのかなあって思ったら」

扇「これだもんなあ」

扇「この人本気なのかなあ」

育「なにぶつぶつ言ってるの。ほらっさっきの公園のベンチ行こう」

扇「はっはー・・・」

家族でご飯を食べに行くのがとても嫌だった

家族がそろうのが嫌だった

1人でいるのも嫌だった

私、ご飯食べるのあまり好きじゃないな

そんなの生き物として駄目な気がする

でも好きじゃないのだから

それを曲げることは

私としても駄目な気がする

うん。駄目だ

扇「おにぎり先輩」

育「おにぎり?」

扇「いくら先輩」

育「いくらがどうしたの?」

扇「すみません、間違えました。老倉先輩」

扇「どうされました?食が進んでませんね」

扇「パクパク、ムシャムシャ、ガリガリ食べてくださいよ」

育「そんなワンパクではないし、ガリガリって変でしょ。おにぎりなのに」

扇「それは梅干のおにぎりを食べておられるので」

育「種は食べない」

扇「食べてみたらどうです?案外美味かもしれませんよ」

育「じゃあ食べる?もう1個あるし」

扇「ご冗談を仰る。ああ、先輩はおもしろいなー」

育「そっそう?」

扇「そういう反応をしてしまいますか」

育「まだ何か食べたいものある?」

扇「はあ、そうですか。ならばこの寒い中、外で食事などせずに」

育「それならおでんとか」

扇「・・・味しみ大根って書いてあるのを見ると、なぜか悲しみ大根って見えませんか?」

育「ぜんっぜん見えないと思う。そんな大根食べたくないし」

扇「味があっていいと思うのですが」

育「上手くないからね」

扇「食べたことがあるのですか?これは恐れ入りました」

扇「先輩は料理をしますか?私は全然ですが」


まあそうだろうな。家庭的とかいうより人間的なイメージがない

霧や霞でも食べていそうな感じ


育「できるよ」

扇「それは素晴らしい。きっと悲しみ大根でも煮込んでいるのですね」

扇「それはもうグッツグツと」


一緒に煮込んでやろうか

もう料理はあまり作らない

昔がちらついてしまうから

出した料理が戻ってきてしまうほど空しく、哀しいものはない

それと同時に思い出すことは

昔は

今もかな

お母さんに会ったらなにを言おうかって

ずっと考えていたけど

どうして思い出せないのだろう

あんなに考えていたのに

求めるものなんて全然ないのに

せめて人並みに

いやそんなに高望みしないよ

不幸を望んで、飲み込まれないように

なってしまわないようになりたい

いなくていいなんて思われないような人に

いなくていいなんてさえも思われないような人に

だからといってどうしようもない過去があるから


扇「ではでは、出発しましょう」

前髪のように目の前にちらつく

同じく離れないものだ

望んじゃいないけど実績としてあったものはどうすればいいのだ

不幸な実績は着実に積み重ねられていく

私の人生の総和は幸福とイコールになるかな

ならば、とんでもない幸福がこの後にあるかな

でも死ぬ間際に幸福であっても持て余すよね

絶対持て余す


扇「どうしました?そんなに俯いて。暗い人みたいじゃないですか?」


いつぞやの子のように、いえーいなんて言える様な子ではない

そもそも幸福な人ってどんな気分なんだろ

いつも俯いて歩いていたいって思わない人なのかな

知るか。そんなの

育「いや、別にどうでもない。行こう」

扇「はー」

扇「ははー」

扇「はっはー」

育「うるさいな」

扇「それはそれは」

扇「これから言う事は私が私のために言う事でありますが」

扇「実は私達にできることは少なくなっていくことでしょう」

扇「時間切れは常に迫っています」

育「なんの?」

扇「私があなたに話すこと、あなたが私を聞くこと、それを思うことについてです」

扇「あなたは自分と相手がどれだけ離れているかに絶望を感じるかもしれませんが」

扇「相手の感じている距離も同様なのですよー」

育「その話は」


なんの意味が

育「相手も同じように絶望を感じているってことでしょ?私に」

扇「やはりそういった捉え方をしてしまいますか」

扇「あなたのそういうところが私はいいと思いますが、まあそれは別として」

扇「良いことと悪いことは強調されてしまいますね」

扇「良い事と悪い事をどちらが多かったなんて比べることは不毛なことです」

扇「良い事をすれば悪い事を作り出すかもしれませんし、その逆も少なからずあるでしょう」

扇「ただし、積み重ねられるのは片方だけです」

扇「もう片方は積み重なる前に崩れ去ります」

扇「今ここにあるものは全てその積み重ねにより存在しています」


私は崩れ去る前の瞬間に思える

どんなに頑張ろうと

脆いままだ

いつも自分の耐久力を試しているような感じ

崩れ去ったものを見たことがある

徐々にゆっくりと急に

変わる様があった

私もそれに似ているのかな


扇「あなたにどういった過去があり、それを思うことであなたが形成されているとして」

扇「そうですね・・・」

扇「ならば私達はずっと一緒にいましょう」

育「へえそう」

扇「信じられませんか?」

育「それはそうだよ」

扇「はい。その通りです」

扇「こんなにも嘘な言葉はありません」

扇「先輩は実によく分かっておられます」


そんなの分かりたくなかった

ずっと一緒にいるなんて無理だ

一緒にいれないし

普通の人なら家族とか言うんだろうけど

もういないし

大体、望んでいないかもしれなかったし

望んでいなかったのだろうな

気持ちなんて分からない


扇「あそこにブランコがありますね」

育「あるね。それが?」

扇「おや?お乗りにならない」

育「ならない」

扇「おやおや子供の頃は乗っていらしたでしょうに」

育「子供の頃はそうかもしれないけど、今乗ったら笑われるよ」

扇「では、あなたを笑うのは誰でしょうか?」

扇「相手のことなんて誰にもわかりません」

扇「かつてあなたの傍にいた者達も」

扇「迷惑をかけたくなかったからかもしれません」

扇「迷惑をかけたかったかもしれません」

扇「それこそ物事の2面性ですね」

扇「1か0、ON-OFFの機械みたいな状態なんてそうありません」

扇「だからこんなにも嘘な言葉を言われてもいいのではありませんか?」

扇「あなたがそれらの人と似ているということがあれば」

扇「いつか分かるかもしれません」

扇「それまで憶えていることができれば」

扇「呪いをかけた人も本望でしょうから」

扇「そうでもしないと、あらゆることを少しでも認めない限りは」

扇「好きな言葉も言えないことでしょう」

扇「永遠に言われることのない言葉を抱えますか?」

扇「可哀相な言葉達を」

扇「その言葉はきっといつしかあなたを笑うことでしょう」

扇「そう、あなたを笑うのは常にあなたです」

扇「更には笑わなくなるでしょう」

扇「最後には無かったものになります。くらやみに帰ります」

扇「私としてはその言葉達をできる限り失うことなく」

扇「正しく持って、使っていただきたいと思う限りですね」

扇「そして私はあなたに変わってほしいと思わない」

扇「どうです?」

扇「とまあ、長々と無駄話をしましたが」

育「無駄話って、いいけど。扇ちゃんってよく話すんだ」

扇「それはまあ、私の役割は終りましたから」

育「役割?」

扇「こっちの話です。いやあちら側ですね」

扇「いやーそれにしても良いこと言いました」

育「そうかな」

扇「良く話すと言ったじゃないですか」

扇「価値があることを言いましたね」

扇「すごいなーこんなことを言える私すごいなー」

育「はいはい、すごいすごい」

扇「そんな心無い賛辞よりここはお礼がほしいなー」

育「お礼って」

扇「いやいや催促したみたいですね」

扇「お礼として」

扇「先輩は勉強がお得意と聞き及んでおります」

育「はあ?」

扇「いやだからですね。私が欲しいのはいつも知識なんです」


なんだろう


扇「要領を得ませんね」

扇「愚か者が」

扇「愚か者ですね」

扇「愚か者」

扇「私に勉強を教えてください」

この子はそれを言いたいがためにこんなにも長く言葉を重ねてきたのか

私と話していたのか

バカじゃないかこの子は

普通に言えばいいのに

たかがこんなことを言うのに。意地でも張っていたのかな


扇「ではなんと着きました。図書館ですよー」

育「最初からここに向かっていたの?」

扇「それはもちろん」

扇「だから私が私のために言っていると言ったのです」

扇「私、理数系が駄目なんですよ」

育「へえ」

扇「早く教えなさい」

扇「いや何でこの計算になるんですか」

扇「そもそも計算する意味があるんですか」

扇「この答えに意味はありません」

扇「えっ?えっ?」

扇「わざと解り難く教えていませんか?」

扇「駄目ですねー分かり易く教えることもスキルの一つですよ」


うるさい奴だ

なぜ教えられているほうが上から目線なんだろう

扇「全然、駄目です」

扇「何が楽しいのですか」

育「楽しいって言うか・・・綺麗だから」

扇「綺麗?」

育「例えば、このレムニスケートって綺麗でしょ?」


歪な円を描き0に戻るこの形はずっと変わらない

先に進まない


扇「はぁ、そういうもんですか」

扇「これってあの愚か者に解るものですかね?」

育「意外かもしれないけど愚か者は解ると思う」

扇「はっはー。そういえば先輩が教えられたのでしたっけ」

扇「互いに数学だけは嫌いにならずにいたのですから」

扇「まだ御二人の間に残る絆なのでしょうか」


ボールペンで頬をつつく


扇「はぅ」

育「早く問題を解いたら?」


抗議の意味かは知らないけどあまった袖をペシペシと当ててくる

ニヤニヤ顔が面白いな

教えるのはそんなに嫌じゃなかったっけ

そんな思い出もあった

ここは死ぬほど私がいた町だった

死ぬほど嫌な思い出があった場所だ

これは憶えている。真だろう

誰も知らなくても憶えていなくても

私がここにいたことを知っていた町だった

どうしようもない事実だ。忘れようもない

扇「まったく良く教わりました。物分りのいい生徒だったでしょう?」

扇「まだまだ教わりたいところではありますが」

育「嘘言うね」

扇「いやー、そろそろお別れの時間です」

育「そう」

扇「ありがとうございました」

育「あのさ」

扇「何です?」

育「あのっ連絡先を」

扇「ええ喜んで」

扇「またこの町に戻ってこられるのですか?」

育「いつかね」

扇「楽しみにしています」

扇「そうだ、言って下さい。あいるびーばっくって」

育「未来から来た怖い人みたい」


そうです。当然ですよだって

扇「奴が帰ってきたって恐れられて下さい」

扇「それこそあなたが必要としていたことなのですから」

扇「最後に」

扇「いくらのおにぎり美味しかったですよ」


カーテンコールの演者みたいに深々としたお辞儀をして


扇「ただ、あなたの優しさはいつもわかりにくいです」

扇「わざわざ高いものを買ってくれたのでしょう?」

扇「誰にも分からないくらいです」

扇「困ったお方です」

扇「自分を犠牲にすることも卑下することも厭わずに優しさに混ぜてしまわれる」

扇「あなたがあなたを嫌いな分」

扇「あなたを私が好きになりましょう」

扇「そんな人がいるのでどんどん自分を嫌いになられてください」

扇「しかし、です。でも」

扇「嫌いじゃなくなったらどうするんです?」

扇「いつまでも嫌いままでいられるんですか?」

育「えっどうしよう」

扇「アホですかあなたは」

扇「私が一緒にいてあげたではありませんか」

扇「それでもまだならば、言ってあげましょうか」

扇「あなたはまたも、またしても大丈夫さ」

育「扇ちゃん」

扇「はいはい」

育「あなたの役割が終りだなんて、そんなことないからね」

育「また勉強を教えてあげるよ」

扇「それはそれは」


永遠のような形状でもその長さを求めることができる

それは私にもできるかな

あいつにもできるって言ったから

私もできなくちゃね

もう少し歳をとれば嫌なことは

嫌なことだという現象に置き換えて

切り離してしまえるかもしれない

それは楽なことだろう

いまはまだ駄目だ

まだとっておく

それでは昔のあいつと同じになってしまうから

そんな風になるなら、私は脆いままでいい

脆弱さが私の性分になっているんだ

粉々になっても灰になっても

ぼろぼろのままで蘇ってやる

だからお母さんのことも忘れないよ

絶対に忘れない

あなたに会うとき

言う事はいつだって的外れかもしれない

でもそれが間違いだと思っても自分でなんとか正しいと思うしかない

定義しなくてはいけない。先に進めないから

たくさん定義づけをして、なんとか話してやろう

元気だった?

私のこと覚えてる?

簡単なことばかりを言おうと思う

そして

春になれば

また会おう。私の嫌いな人

負けないから


扇「さて、もう1人の愚か者にでも会いに行きますか」

これで終りです。ありがとうございました。

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