「まゆの声が聞こえなくなった」 (30)
P「あぁ、まゆ」
まゆ『はい』
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452952356
P「あぁ、まゆ。まゆはそこにいるのかい?」
まゆ『はい。まゆはずっとあなたの隣にいますよ』
P「あぁ、まゆ。いるなら返事をしてくれないか、まゆ」
まゆ『まゆはここにいますよ、Pさん』
P「あぁダメだ。もう僕には君の声が聞こえない」
まゆ『耳をすませて。まゆはそこにいますから。……あなたが逢いに来てくれれば、まゆはあなたと逢うことができるから」
P「あぁまゆ、ダメだ。事務所に行っても、君の声なんて聞こえないよ。牧野さんの声は聞こえるよ?だけれども僕が聞きたい君の声じゃないんだ」
まゆ『まゆはまゆですよ?』
P「あぁ、まゆ。君は前、僕のことを『パパ』と呼んでくれたね。『あなた』とも。だけれど今は聞こえないんだ」
まゆ『……
P「あぁ、まゆ。それが今では聞こえない。一緒にこうだったら、あぁだったらと二人で話し合ったこともあった』
まゆ『…
P「あぁ、まゆ。その会話の時には聞こえてた、まゆの声が今はもう聞こえないんだ。なぁ、まゆ、そこにいるのかい?」
まゆ『
P「あぁ、まゆ。もう一度聞かせてくれ。僕にしか聞こえない君の声を」
まゆ
P「あぁ、まゆ。いないのかい?今まではどこに行っても君は僕の隣にいたのに。なんで今はいてくれないんだい?」
ま
P「あぁ、まゆ。聞きたい、また君の声を」
朝起きてこっちに出てきてからもう四年は使ってるだろうユニットバスのトイレに向かう。冬が自分の本分を思い出したのか、今週は特に冷える。そのせいか用も近い気がする。
自分の排泄物の行き先などを見ても仕方がないので、どこか別のところに視線を移そうとキョロキョロすると、ここに越して来てからろくすっぽ掃除してない水垢や諸々で汚くなった鏡で止まった。
自分の顔を見たところで喜ぶほどナルシストでも無いし、そもそもそれほど自分の顔が見ていて愉快では無いことくらいは理解している。
しかし、まぁ繰り返しになるが排泄物よりはマシだろう。
鏡の中の顔はえらく不機嫌そうな顔をしていた。ついでに眼の下にはクマが出来ている。
理由はなんとなく察しがついた。
そんなところで用も済み、そさくさとまだ暖かい布団の中に戻った。男の一人暮らしは手など洗わないのである。
二度寝をしようかとも思ったが、寒さで完全に覚醒してしまったのか、そんな気分にはなれなかった。なので次にしたのは現代っ子らしく枕元の充電器が刺さりっぱなしのスマートフォンを弄ることだ。
今朝見た不愉快な夢を忘れてしまおうと、俺はスマートフォンを弄る。
「んっ。あんまりこれコメント伸びなかったな」
チェックするのは昨日書いたSSがまとめてあるサイトのコメント欄だ。
「コメント2つとかくらいならコメント欄で喧嘩始まったりとかしてくれたほうが良いのに」
そう言いながらひょいひょいチェックする。書いたのはアイマスのシンデレラで、地の文形式のまぁイチャコラものだ。シリアスな内容では無いからコメントの伸びもそれほど期待はしてなかったがこう低いと少々凹む。
像とキノコのコメント欄をチェックして、別のサイトを開くと、あぁここにはまとめられなかったか。と、またガッカリする。
次にTwitterを開き、タイトルを入れて検索してみる。いわゆるエゴサというやつだ。コメントはしないがまとめサイトのURLを感想を貼りながら、宣伝してくれる人は多い。ありがたいことだ。
「……担当Pからは結構褒められてるなぁ」
『やっぱりこの子は可愛いんだわぁ』
『いつの間にカメラ仕込んでうちの様子を隠し撮りしてたんだ!』
何分書かれる子が少ない子だから少し贔屓目に見られてるのもあるかもしれないが、こういうのを見ると素直に嬉しい。
もうお判りとは思うが、俺はSSのいわゆる書き手だ。別に専門的に文章を学んだわけでも無いし、これから学ぼうとは思わず、読んだ本と言えばラノベと東野圭吾と宮部みゆきぐらいの、どこにでもいる暇を持て余した大学生だ。
「次は誰の話を書こうか……」
久しぶりに担当の子の話でも、と考えたところではたと気づく。
「あぁそうか。まゆの声、聞こえなくなったんだっけか」
と。
聞こえないとは言ったものの物理的に聞こえなくなったわけでは無い。耳は健常だし、ゲームを開いてみればCV.牧野由依さんのまゆの声が脳に響いてくる。しかし、俺が聞きたいのはそのまゆの声ではない。俺の頭の中に聞こえてくるまゆの声だった。
電波な話だが、SSを書くときに俺は大概その子の声が聞こえてくる。
その子の声とセリフがリアルに頭の中で再現されるのだ。まずはそこを書き出して、あとはそこに繋がるように前後を埋めていく、他の人がどうだか知らないが、俺はいつもそうやって書く。
しかし、今年に入ってから一番好きなアイドルの、担当であるまゆの声が聞こえないのだ。
最初は嫌いになったのかと思ったが、そうじゃない。TwitterのTLに流れてくるまゆの絵は欠かさずふぁぼって画像は保存している。広めたい気持ち半分、まゆの可愛さがこれ以上知られたくない気持ちでRTは迷うが。それにTLでまゆのことについて喋ってる人を見るとムッとして怒りたくなるし。「俺のほうが好きなのに、お前らが語ってるんじゃない」と。
ゲームのほうだって、まゆが来れば無理のないほうの無課金で手に入れるようにしている。
この前のイベントはキツかった。
だと言うのに、俺にはまゆの声が聞こえないのだ。
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まゆの声が聞きたい。
ここ最近はいつもそう思ってる。
俺のことを『あなた』や『パパ』と呼ばれるまゆの声が。
告白されて、嬉しいような恥ずかしいような泣きそうになってるまゆの震えた声が。
俺にしか聞こえない、俺だけのまゆの声が。
Twitterで他の書き手のツイートを見れば、新しいまゆのSSを書き上げていたりする。
布団にくるまりながら、それを読む。
文章が綺麗で読みやすく、内容は王道のPドルものだった。王道ゆえに、素直にニヤニヤしてしまう。
作者に直接@で感想を飛ばす。
可愛かった、とても。
でもなぜか、なぜだかそれがたまらなく悔しかった。
あいつには声を聞かせるのに、俺には聞かせてくれないのか。
と、そうまゆに聞く。
当然声は帰ってこない。
それどころか姿さえも見せてくれない。
もちろん俺とあいつの中にいるまゆは、また別のまゆなんだけれども。
『他の子との話、楽しいですかぁ?』
『魔法を……かけますね♪』
『可愛く……もっと可愛く』
『赤い糸で結ばれた私たちにはピッタリの赤いマフラーですよぉ♪』
『まゆ……赤が好きなんですよぉ』
『横を見れば、いつだって、まゆが』
『まゆはいつだって一緒ですよ♪』
「一つでいいからさ、俺の知らないことを言ってみてくれよ」
まゆが俺から去ったのか、俺からまゆが去ったのか、それはもう今となってはもう分からない。
今となってはあの狂おしいほどまゆが好きだった気持ちがよく分からない。
他の者がまゆについて語ることへの嫉妬、その気持ちは確かにあるのに、あるはずなのに。
嫉妬するということは好きだというはずなのに。
心はどこかで、「まゆを好きでいなくちゃならない」と考えている自分がいる。
あぁ、まゆ。君のことを愛していた。
それは確かなんだ。
ただ君のことを今も愛しているかは、自信が無い。
あぁ、まゆ。声を聞かせておくれ。
お前の声を聞けば、また君を愛してると分かるはずだから。
お読みいただきありがとうございました。
おつ
こういうの好き
俺はよしのんとほたるの声が聞こえてるよ
乙
いい[田島「チ○コ破裂するっ!」]だった
好みの文章だ
是非とも長い話を書いてみてもらいたい
ジーエム
引き込まれるな
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