立つかな
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【咲-Saki-】 竜華「ウチはな、正義の味方になりたかったんや」
【咲-Saki-】 竜華「ウチはな、正義の味方になりたかったんや」 - SSまとめ速報
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優希「おっ、咲ちゃん! 久しぶりだじぇ~!」ダキッ
咲「優希ちゃん!? もぅ驚かせないでよ~」
優希「エヘヘ、ごめんだじぇ。 ムムッ、手にしている本からするとまた図書館帰りと見たじょ!」
咲「うん、面白そうな本を見つけたから借りてきたんだ」
優希「そっか。 ……なぁ咲ちゃん、時間があるならちょっと部に遊びに来ないか?」
咲「……えっ」オジ
優希「皆も咲ちゃんと打ちたがってたし、今日なら部長もいないしのどちゃんも来る予定だじょ?」
咲「……う、うん。 でも私はもう……、折角誘ってくれたのにごめんね優希ちゃん」ペコッ
優希「あ……、まぁ気が向いたら何時でも遊びに来てほしいじょ。自動卓の様子も見てほしかったしな」
咲「自動卓? もしかしてまた壊れちゃったの」
優希「う~ん、まだ完全には壊れてはいないみたいなんだけど調子が悪いのが幾つかあって困ってるんだじょ」
咲「そうなんだ。 それなら本当に駄目になっちゃう前に業者さんに修理出した方がいいんじゃないかな?」
優希「それはそうなんだけど…… 新しい顧問の先生も頼りないし修理とかの申請する部長も相変わらずだじょ……」
咲「染谷部長…… やっぱりまだ私たちのことで……」
優希「そ、そんなことないじょ! ええっと……、ほら部長はお家のお手伝いとか忙しいだけで咲ちゃんたちとは……」アタフタ
咲「……ありがとう、優希ちゃん。それじゃあ私、行くね」ニコッ
優希「うん…… それじゃ咲ちゃん、まただじょ~」
――――
咲「せっかく誘ってくれたのに悪い事したな。でも、もう私は……」
咲「……」
咲「……お姉ちゃん」
衣「……ククッ」 カツンカツン
咲「……ッ!?」
衣「……久しいな、嶺上使い。その様子では未だ半醒半睡ようだな」
咲「衣ちゃん、なの……?」ゾクッ
衣「冀望叶い麻雀から離れられたと言うのに、未だ浮かぬ相貌とは不可思議な者よ」クスクス
咲「……」
衣「まぁいい。 ……それより、早く呼び出さねば冥加が尽きるぞ嶺上使い」スゥッ
咲「……えっ?」ガバッ
咲「―――― 誰も…いない……?」
――――― 咲宅・夜
咲「……さっきの衣ちゃん、一体何だったんだろう?」
咲「それに和ちゃん、麻雀部のみんな…… ごめんね。けどもう何もないから、私には……」
咲「……ハァ。それにしてもなんだろう、この本?」
咲「ハリーポッターみたいなお話だと思ってたのに……」
咲「難しいことばっか書いてあって、本物の専門書みたい」
咲「せっかく借りてきたのに、あんまり面白くないな……」
咲「……うん、ジャンレイを召喚して願い事を叶える呪文? これ占い系の本だったの!?」
咲「『―――― 素に銀と鉄。礎に石と契約の大公』 ……えへへ、なんか雰囲気あるなぁ」
――――
咲「まだあるんだ~ それで次は……『―――― 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者?』」
咲「難しそうな言葉ばっかで疲れちゃったよ…… あ、でもこれでおしまいだ」
咲「『―――― 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ』」
咲「―――― 天秤の守り手よ―――!!」
咲「……」
咲「………」
咲「……小説じゃないんだからこんなんで願い事が叶う訳ないよね。何やってんだろう、私……」///
ドオォォォン
咲「うわぁっ!?」
咲「なんだろう今の音? 納屋の方から聞こえたけど……」ソロッ
咲「と、扉が壊れている…… それじゃあやっぱり何かいる?」
咲「……だ、誰かいるんですか!?」ソロッ
?「……うん?」ジロッ
―――― 扉を開けた瞬間、私は全てを理解した。納屋はメチャクチャになっていた。
―――― 部屋は瓦礫にまみれており、しまっていたソファーには偉そうにふんぞり返っている女が一人。
―――― 赤い外套に銀髪の女がこちらを一瞥する。交わった視線は一瞬に過ぎなかったはず。
―――― されど、その光景をその姿を、例えこの身が果てる瞬間でも鮮明に思い返せるだろう。
咲「ど、泥棒!?」 カタカタ
?「フッ、開口一番それか? これはとんでもないマスターに引き当てられたものだ」
咲「だ、誰ですか? 早く出て行かないと警察呼びますよ!!」ガクブル
?「おいおい、君の召喚に応じて招いた者を泥棒呼ばわりか? やれやれ、これは貧乏くじを引いたかな」ニヤッ
咲「お、お父さ……、いや警察に…… あ、腰が抜けちゃったよぉ」ペタン
?「……落ち着くんだ、マスター。私が物盗りの類に見えるのか?」
咲「……」コクコク
?「……参ったな。私は君の召喚に従い参上したサーヴァント、――――アーチャーだ」
咲「……さーばんと? あーちゃー??」
アーチャー「……」ハァー
咲「な、なんです? 人の家に勝手に上がりこんでその呆れ顔は!?」
――――
アーチャー「……と、言う訳だ。これが聖牌戦争の大まかな概要だが、理解はできたかなマスター?」
咲「……信じられません。聖牌なんて物が本当にあるなんて」
アーチャー「だが事実だ。君がこの聖牌戦争について全く知識がない状況でマスターに選ばれてしまった事は把握した……」
アーチャー「しかし、聖牌に選ばれてしまった以上この事実を受け止めなければ…… 君は、命を落とすことになる」
咲「……そ、そんな」
アーチャー「そう怯えることはない、荒事は私が全て引き受ける。それに聖牌も闇雲に君を選んだ訳でもないだろう」
咲「……どういうことですか?」
アーチャー「マスターとは聖牌の力をより強く求める者が選ばれると聞く。君にはその万能の願望機を求める理由があるはずだ」
咲「万能の願望機…… それは、どんなことでも叶うんですか?」
アーチャー「……ああ。 だが、主の目的がわからなければ私も弓を預けられない。君の願いは何だ?」
咲「……私にはそんな物ありません」
アーチャー「……なに? 馬鹿な、現実の力を手に入れられる力なんだぞ!?」
咲「例え神様がいたとしても私の願いなんてもう叶うわけないし……」ボソッ
アーチャー「……ん?」
咲「いえ、何でもないです。本当に私、そんなの全然ありませんからっ!」
アーチャー「……ふむ、召喚物もないようだしどうやら互いにイレギュラーとして選ばれたということか」
咲「ごめんなさい、お役に立たなくて」ペッコリン
アーチャー「いや、君が謝ることではない。状況から推測するとどうも我々は因果から外れた者同士のようだ」
咲「そう、なんですか?」
アーチャー「ああ、だが君の言動を見るにどうやら我が弓を預けるに値する人物のようだ」
アーチャー「……ならばこの身を捧げるに何ら厭うことはない。君の器となり護ることを改めて誓おう」スッ
咲「そ、そんなことを言われても逆に困っちゃうますよ。むしろ私のほうこそよろしくお願いしますね」ニコッ
アーチャー「やはり似ている…… そうだな、今度こそ約束を果たさねばな……」ボソッ
咲「どうしたんですアーチャーさん、人の顔をジッと見て?」
アーチャー「……いや、見慣れたら案外と可愛い顔をしていると関心していたのさ」フッ
咲「な”!? 何を急に言い出すんですか!?」///
アーチャー「冗談だ、そう真に受けられたらこちらも困る。 ……だが関心していたのは事実だ」
咲「冗談って…… じゃあ私のことを見て一体何に気を取られていたんですか!」プンスカ
アーチャー「ああ、君の桁違いな麻力さ。 これ程とは召喚されて間もなかったからかすぐに気が付かなかった」
咲「……麻力? ああ、さっき教えてもらいましたね。麻雀の資質や生命力に似た物が麻力なんでしたっけ」
アーチャー「概ねその捉え方で構わない。だが本来なら君の様な素養の有る者でも修養せねば麻力を扱うことはできない」
アーチャー「……しかしマスターとして選ばれた者は聖牌の力により麻力を行使する能力を付与される」
咲「そんなことを言われても自分自身は何も変わった様な気はしないんですけど……」
アーチャー「なに、いずれどうしてかは分からなくてもどうすれば良いのか理解できる様になるさ」
咲「アーチャーさんはそう言いますけど私は不器用だし、そんな訳の分からない物を使う自信なんてないです……」
アーチャー「いや、その君の言う訳の分からない物ならば聖牌に選ばれた者は全て既に手にしているはずだが」
咲「ええっ!? そんな凄いこと、出来る訳ないじゃないですか!!」
アーチャー「日常ではそうだろう。 ―――― だが雀卓と言う限られた場所ならば違うんじゃないかな?」
咲「……それは」
アーチャー「思い当たる節はあるようだな。そう、君の麻雀に於ける能力はきっと普通の人間からすれば十分に異能だろう」
咲「……けど麻雀の能力とそんな凄いことが出来る能力は全く別の物じゃないんですか?」
アーチャー「確かに力の在り様は違うな。だが本質は同じ、麻雀も麻術も諦めたら終わり……」
アーチャー「必要なのは出来るという確信…… 人が空想することは全て起こり得る麻法事象、だろう?」ニッ
咲「……ッ!!」
アーチャー「まぁ当初は敵のステイタスを見る程度の能力しかないだろうが麻力の行使には細心の注意を払ってもらいたい」
咲「は、はいっ」
アーチャー「何しろ我々サーヴァントは基本、マスターから麻力を供給されて活動ができるのだからな」
アーチャー「故に、麻力に優れたマスターの下でこそ我々は能力を十二分に発揮できるので君の能力は私にとっても喜ばしい」
咲「あ、そっか、アーチャーさんとか呼ばれた人たちにも叶えたい希望があるんでしたよね……」
アーチャー「何、そんなことは君が気にするようなことではない。私は君に勝利をもたらすために最善を尽くすだけだ」
咲「……そうなんですか。 それじゃあアーチャーさん、早速なんですけど一つお仕事をお願いして良いですか?」
アーチャー「ほぅ、君は見かけによらず好戦的なんだな。それでどの敵を…… ん!?」
咲「はい、これ。 お父さんが出張から帰ってくるまでに散らかした納屋のお掃除をお願いしますね」ニコッ
アーチャー「ま、待て! 君はサーヴァントは何だと思っている?」
咲「だって今言ってくれたじゃないですか、私の願いのため最善を尽くしてくれるって」ニコニコ
アーチャー「……了解した。どうやら君の接し方を少し改める必要があるようだ」ハァー
チュンチュン
咲「…………ん、もぅ朝?」
咲「ってもうこんな時間!? どうしよう、何でこんなに寝坊したんだろ??」アタフタ
咲「……あ、令呪。 そっか、昨日の話は夢じゃなかったんだ」
アーチャー「やれやれ、賑やかなお嬢さんだ。やっと目をさましたかと思ったら起きるなりドタバタと」スゥッ
咲「あ、アーチャーさん! 普段はこんな寝坊することないんですけど……」
アーチャー「当然だ。あれ程の膨大な麻力を使って平然としていられた昨晩の状態がむしろ異常だったのだからな」
咲「そうなんですか。じゃあ今も妙に気怠いのもそのせいなのかな?」
アーチャー「ああ、だがその程度で済むとはやはり君の麻力は飛び抜けた物があるようだ」
咲「はぁ…… でもこんな時間になっちゃったし学校どうしよう」
アーチャー「ふむ、勤勉なのは感心するが諦めた方が無難だな」
咲「えっ、どうしてですか?」
アーチャー「見た所、君の運動能力はどうも鈍そうだ。その上、万全でないときたら転んで怪我でもしかねんからな」フッ
咲「ムッ……」
アーチャー「それよりマスター、君はもっと大切なことを忘れていないか?」
咲「えっ、大切なことって何ですか?」
アーチャー「全く…… 君、契約において最も重要な交換を私たちはまだしていない」
咲「けーやくにおいてもっともじゅうよーなこうかん……?」キョトン
アーチャー「君なぁ…… 朝は本当に弱いんだな」ハァ
咲「うぅ……、君、君って私は…… ―――― あ、そうだ名前」
アーチャー「やっと思い当たったか。 それでマスター、これからは何と呼べばいい?」
咲「私は咲、宮永咲といいます。アーチャーさんの好きなように呼んでください」ニコッ
アーチャー「それでは咲と。 ―――――― …………ああ、この響きは実に君に合っている」
咲「ッ……」///
アーチャー「ん、どうした咲。顔が赤いが熱でも出て来たか?」
咲「大丈夫ですッ! それでアーチャーさんは何処の雀霊でどんなお名前なんですか?」
アーチャー「私がどのような者だったかは答えられない。何故かと言うと…… ―――― 自分でもわからない」
咲「えぇっ!? もしかして記憶喪失なんですか?」
アーチャー「ふむ……、これは咲の不完全な召喚のツケだな。記憶に混乱が見られる、名前や素性がどうも曖昧だ」
咲「あぅ……」シュン
アーチャー「まぁそう気落ちすることはない。さして重要な欠落ではない、こんなことは些末な問題だ」
咲「些末な問題って言われても私のせいで……」
アーチャー「そんなことより咲、体調が元に戻ったら頼みたいことがある」
咲「頼みたいこと……? どういうことですか」
アーチャー「ああ、戦場となるこの街の地勢を確認しておきたい。案内を頼めるかな?」
――――
咲「どうでしたか、一通り周った清澄の感想は?」
アーチャー(落ち着いた生活するには適した環境だな。 だが、それと同時に異質な空気も感じた)
咲「異質な空気……?」
アーチャー(そうだな、こうして夜になるとその感覚がより一層強くなる。そこかしこから不似合な死の臭いがする)
咲「……それは実際に人が大勢亡くなっているからでしょうね」
アーチャー(そうか、この空気からするとそう昔の話ではないのだろう? この町で一体何があった)
咲「私が小学生の頃、この清澄市内で未だ原因不明の大火災があって……」
アーチャー(……成程、それで合点がいった。 それで咲、あの山の麓にある大きな建物は何だ?)
咲「山の麓? ああ、あれは今日案内する最後の場所。私の通う清澄高校です」
アーチャー(……咲、注意しろ。先程から酷い大気の澱みをあの場所から感じている)
咲「アーチャーさん、それってどういう…… ――――ッ!?」ビクッ
アーチャー(良い危機感知能力を持っているな、咲。 この波動、麻力によるものだ)
咲「なに、この感覚……」ゾクッ
――――
咲「やっぱりこの感覚、学校からですか……?」
アーチャー(ふむ、どうやら結界の準備をしているようだ。ここまで派手にやるとは余程の大物かとんでもない素人だな)
咲「アーチャーさん、結界って……?」
アーチャー(……ここに集まる人間から麻力を奪うのが目的だろう。だがこれは麻力だけではなく生命力も吸い上げる類の物だ)
咲「麻力!? じゃあこれってもしかして……」
アーチャー(ああ、サーヴァントによる物だろう。 君たちが肉を得ようとする様にサーヴァントは精神と魂を得ようとする)
アーチャー(我々は基本、霊体だからな。 つまり、生命力を取り入れる程に麻力の貯蔵量も増えるということだ)
咲「……じゃあ麻力や生命力を取られちゃった人たちはどうなるんですか?」
アーチャー(この規模の結界で生命力を奪われたら恐らく生命活動に深刻な支障をきたすだろうな)
咲「そんな危ない物、放ってなんかいられません! 止めるにはどうすればいいんですか!?」
アーチャー(残念ながら私にも理解できない術式でこの結界は組まれている。完全に破壊することは難しい)
咲「そんな……」
アーチャー(まぁ発動を遅らせる程度のことは可能だ。しかし結界の主とは敵対することになるがどうする、咲?)
咲「知っちゃった以上、何もしない訳にはいかないし…… アーチャーさん、手伝ってもらえますか?」
――――
咲「ここが最後の呪刻。これも潰せば結界は……」
?「へぇ消しちゃうんだ、勿体ないなぁ」
咲「えっ!?」
?「あー、ソイツを潰したいなら続けてもらっても構わないよ。こっちは急ぎの仕事じゃないからさ」ニッ
咲「あ、貴女がコレを作った人ですか?」ガクブル
?「いや、小細工を弄するのは魔術師の役割さ。私たちはただ命じられたまま打つだけ」
?「―――― でしょ、そこのおねーさん?」ニヤッ
咲「姿を消しているアーチャーさんが視えてるの!? 貴女、もしかしてサーヴァント……?」
?「……んじゃ、それを分かるお嬢ちゃんは私の敵ってことでいいのかな?」スッ
咲「……ッ!?」ビクッ
咲(槍……!? するとあの人はランサーのサーヴァント……、だとするとこんな近距離じゃアーチャーさんには不利……)キョロ
ランサー「……へぇ、凄いなぁ。ビビりまくって足とか震えてるのに頭は冷静に状況判断しようとしてる」
ランサー「あ~あ、失敗したかなぁ。 面白がって声なんてかけなきゃ良かった、かなッ!!」ゴッ
アーチャー「……」カキンッ
咲「アーチャー……さん……!?」
ランサー「ふぅん、お嬢ちゃんのサーヴァントはやっぱ弓兵だったんだ……」ニィ
咲「あっ……!?」
ランサー「そら、弓を出しなよおねーさん? それぐらいは待ってあげるよ」
アーチャー「……気遣いは無用だ」ザッ
ランサー「チッ、強情だねぇ……!?」カキン
アーチャー「……」キンッ ランサー「……」キィン
咲「……これがサーヴァントの闘牌」ブルッ
アーチャー「……クッ!?」パリン
ランサー「ほらっ、弓兵だってのに打ち合いなんて強情はるからッ……」グッ
アーチャー「……」キィィンッ
ランサー「―――― ッ!?」
咲「……いま、アーチャーさんの武器が弾き飛ばされた様に見えたけど」
――――
ランサー「……フゥ。二十七、それだけ弾き飛ばしてもまだあるなんてね」
アーチャー「どうした、様子見とはらしくないな。先程の勢いはどこに行った?」
咲(やっぱり勘違いなんかじゃない。アーチャーさんは何度も武器を失っていたはずなのにどうして……)
ランサー「ハッ、減らず口叩くねぇ。 ……参ったね、聞いてあげるよ。おねーさん、どこの雀霊?」
アーチャー「そういう君はわかりやすいな。槍兵には最速の雀霊が選ばれると言うが君はその中でも選りすぐりだ」
アーチャー「加えてその異形な神性の篭った打牌と言えば恐らく一人……」
ランサー「へぇ、そこまでわかってんなら喰らってみる、おねーさん? 私の必殺の一撃を……」ゴゴゴッ
アーチャー「……止めはしない。いずれは越えなければならない敵だ」チャキッ
咲(……あの槍の人が本気になった。 駄目だ、尋常な麻力じゃない。あんなのアーチャーさんだって……)カタカタ
?「……」ジリッ
ランサー「誰だッ!?」
咲「えっ?」
?「……」スタスタッ
咲「生徒!? こんな時間にまだ残っていたの?!」
アーチャー「そのようだな。おかげで命拾いしたよ」
咲「……あ、ランサーはどこに行っちゃったの!?」
アーチャー「さっきの人影を追ったよ。目撃者だからな、恐らく消しに行ったのだろう」
咲「……えっ!? アーチャーさん、追って!私もすぐに追いつくから」
――――
咲「……ランサーは?」ハァハァ
アーチャー「……」フルフル
咲「……じゃあ、さっきの生徒は」
アーチャー「……」クイッ
?「 」
咲「……ッ!?」ブルッ
アーチャー「……もう手遅れだろう。面倒に巻き込まれる前に我々も撤収すべきだ」
咲「……駄目。関係ない子まで手にかけたあんな人を野放しになんてできない」ゴッ
アーチャー「……わかった、足取りを追ってみよう。だが君はすぐに撤収してくれ」スゥッ
咲「酷い出血……、どこのクラスの子だろう…… ごめんなさい、私が学校なんかに来なけ ―――――――!!?? 」
和「 」
咲「和……ちゃん…… 嘘でしょ…… どうして、どうしてこんな時間にこんな場所で……」
和「 」ピクッ
咲「息が……、ある!? 救急車、いやこんなに血が出てたら間に合わない……」
咲「―――――あ、まだ手は……ある……」
――――
アーチャー「済まない。よほど用心深いマスターなのだろう、見失ってしまった」
咲「……そうでしたか」
アーチャー「だいぶ疲れた様子だな、咲。まぁそれも当然か」スッ
咲「……あ、それって。アーチャーさん、どうしてこれを?」
アーチャー「……校舎に落ちていた。これは君の物だろう?」
咲「正確には私のじゃないんだけどね。さっきので落としちゃってたんだ…… アーチャーさん、これを拾いに?」
アーチャー「……まだ君が残ってはいないか確かめに行っただけだ。それより咲、一つ聞きたいことがある」
咲「……何ですか、聞きたいことって」
アーチャー「先程の生徒が見当たらなかった。あの後、君は何をしたんだ?」
咲「いなかった? ……そっか、和ちゃんあの後自分で帰れたのかな」ホッ
アーチャー「……帰った、だと? どういうことだ、咲。まさかあの生徒がまだ生きていたとでも?」
咲「うん、酷い怪我だったけど運が良かったみたいで命は取り留めたみたい」
アーチャー「俄には信じ難いな。だがあの出血量だ、即死は免れても自分の足で帰宅するなど不可能なはず……」
咲「う、うん。きっとランサーも慌てていて失敗しちゃったんだよ、きっと」ソワソワ
アーチャー「……ん、咲。ちゃんと私の目を見て話してくれないか? ああ、それと腕の令呪も見せてもらえるかな?」
咲「な、何ですか急に!?」ビクッ
アーチャー「……やけに咲から感じる麻力が減ったと思ったがそういうことか」
咲「だ、だってああでもしなければ和ちゃんが!!」
アーチャー「やれやれ、こんな無駄使いをするなら麻力運用の方法など説明するべきでなかったな」
咲「うぅ、ごめんなさい……」
アーチャー「麻力だけならまだしも、まさか令呪を使って生命力に無理矢理転化させるとは呆れたよ……」ハァ
咲「で、でもそれで人の命が救えたんですよ!良いじゃないですか!!」
アーチャー「確かに咲の行いは美徳なのだろう。だが、麻力を生命力に転化させる程度のことに令呪を費やすとは……」
アーチャー「何より咲の取った行動は全く無意味だったからな……」
咲「無意味な訳ないじゃですか! 死にそうだった和ちゃんが自分で歩けるまで回復したんですよ!!」
アーチャー「……ではあれほど用心深いランサーとそのマスターが目撃者が死に損なったと知ったらどうすると?」
咲「……あ!?」ゾクッ
――――
アーチャー「……全く、余計な苦労を背負おうとしているぞ君は」
咲「和ちゃんが危ないって知ったのに見過ごしておけるわけないじゃないですか!」
アーチャー「予想通りだ、この先からランサーの麻力を感じる」スタッ
咲「和ちゃん……」タタタッ
アーチャー「……ん、待て咲! サーヴァントの気配が一つではないッ!!」
咲「えっ……」クルッ
?「……」ギュルルッ
アーチャー「チイッ!!」カキンッ
咲「アーチャーさんッ!!」
?「……遅い」グッ
アーチャー「――――――― ッ!?」ビクッ
セイバー「……」ギロッ
咲「あ、あの人は…………」
凛を咲に変えただけでくっそつまらん
安価スレのが面白かったわ
>>21
士郎豚がSN女キャラに飽きただけだから、嫌ならスルーしろ。
荒らしは気にせず頑張って
面白そう。期待
乙。
>>1よ、リベンジか。
―――――― I am the bone of my bow and arrow.
―――――― 体は弓矢で出来ている。
―――――― Steel is my body, and fire is my blood.
―――――― 血潮は鉄で 心は硝子。
―――――― I have created over a thousand blades.
―――――― 幾たびの戦場を越えて不敗。
―――――― Unknown to Death.
―――――― ただの一度も敗走はなく、
―――――― Nor known to Life.
―――――― ただの一度も理解されない。
―――――― Have withstood pain to create many weapons.
―――――― 彼の者は常に独り 弓矢の丘で勝利に酔う。
―――――― Yet, those hands will never hold anything.
―――――― 故に、生涯に意味はなく。
―――――― So as I pray, unlimited bow works.
―――――― その体は、きっと弓で出来ていた。
―――― 気が付けば、焼け野原にいた。
あの日、私は一人で家にいた。父も母も仕事で不在。そんな中、あの清澄大火災に遭ってしまった。
どこまで歩いても炎の壁に囲まれ、見慣れた町は一面の廃墟に変わっていて映画で見る戦場跡のようでした。
まず助からない。幼い子供がそう理解できるほど、それは、絶対的な地獄でした。
そうして倒れた。曇り始めた空を見上げながら雨が降れば火事も終わる。息苦しさの中、そんなことを考えながら気を失った。
そのまま私はそこで死ぬはずでした。けれど奇跡的に助けられた。
―――― それが数年前の話です。
優希「お~い、のどちゃん?」
和「…………あ、優希?」キョトン
優希「なんか寝息みたいのが聞こえたからこれはもしやと思ったけど、ほんとに寝てたのかぁ」
和「そうですね、お昼休みだったから気が緩んでいたのかもしれません」
優希「そっか、せっかく寝てたのに起こしちゃってごめんだじょ」シュン
和「いえ、優希に声を掛けてもらわなければそのまま寝ていたかもしれません。むしろ助かりました」
優希「でものどちゃんが居眠りするなんて珍しいじょ。もしかして予備校の方で疲れてるのか?」
和「……まぁ多少は。でも麻雀部で鍛えましたからこのぐらい平気です」
優希「ふぅん、のどちゃんでもお医者さんになるの大変なのかぁ。 あ、それよりちょっと聞きたいことがあったんだじょ」
和「何ですか?」
優希「なぁのどちゃん、今日は学校終わったら何かあるのか?」
和「……いえ、予備校もお休みですし特には」
優希「おっ、なら久しぶりに部に顔を出すといいじぇ! 京太郎やムロたちも打ちたがってるし息抜きにどうだじょ?」
和「……えっ、でも私は」
優希「……今日はたぶん染谷部長もいないし、この後咲ちゃんにも声をかける予定だじょ」ヒソヒソ
和「……咲さん?」
優希「そう、それに雀卓の調子も悪くって見てほしかったじょ。あーゆうのは咲ちゃんかのどちゃんじゃないとわかんないじょ」
和「そうでしたか…… わかりました、では手が空きましたらちょっとだけお邪魔します」
優希「おー、思いきって声かけて正解だったじぇ! それじゃ放課後待ってるじょ~!」ヒラヒラ
和「……全く優希ったら」クスッ
――――
和「……旧校舎に来るのも久しぶりですね」
健夜「……こんなところで何をしているの、原村さん?」スゥッ
和「えっ!? あ、小鍛治先生……」ビクンッ
健夜「……もう一度聞くけど貴女はこんな場所で何をしているの?」
和「あ、その優…… 麻雀部の片岡さんにちょっと用事を頼まれていまして……」
健夜「そう…… 私は麻雀のことは何も知らないから部のことは染谷に一任している」
和(小鍛治先生が麻雀部の顧問をされていたなんて知りませんでした……)
健夜「部外者が顔を出すのも咎める気はない。貴女が去年まで麻雀部員だったのは聞いているし……」
和「は、はい……」
健夜「だけど特進クラスの生徒なら、こんな場所で時間を過ごす余裕など無いはずだけど……」
和「……御忠告ありがとうございます。私も用事が済みましたら速やかに帰るつもりですので」
健夜「そう…… 貴女の判断に口出しするつもりはない。好きにすればいい」スッ
和「はい、ありがとうございます……」ペッコリン
和(悪い先生じゃないのは分かっていますが、どうもあの他人を近寄らせない雰囲気は少し苦手ですね……)
まこ「……ほぅ、珍しゅうあの幽霊顧問が誰かと喋っとるかゆぅて思うたら、とんだ珍しいお客さんじゃのぅ」スゥッ
和「あ、染谷先輩……」ビクッ
まこ「どうした、おらん筈の者に出くわした様な顔をして? それともワシの顔に何かついとるんか」
和「……いえ、別にそういう訳じゃ」
まこ「おぅそうか、そりゃ良かった。てっきりワシがおらん隙にちょっかいかけに来たもんだと勘違いしょぉったわ」
和「そんなことをする気は私には……」
まこ「勘弁してくれかのぅ、ワシが部長になった当てつけに咲と二人して辞めたアンタが今更部を掻き回すのは」
和「そんな…… あの時、ちゃんと説明したじゃないですか!? 私は希望進路が医学部だから……」
まこ「まだそんなこと言いおるんか! ……正直に言えばええじゃろ、自分たちより弱いワシが部長なのが気に食わんと」
和「どうして……」
まこ「……こっちもアンタらの顔を見とぉないんじゃ。とっとと失せんかッ!!」
和「……わかりました。それでは失礼します」クルッ
――――
和「優希にはメールで今日行けなかったこと謝っておかないと……」
和「何か疲れてしまいましたね…… どうしてこんなことになってしまったのでしょう……」ハァ
和「正義の味方…… 一体、何をどうすればなれるんでしょうか……」
和「私にはわからないです…… 竜華さん……」スゥ
―――― 睡魔に誘われ薄れていく意識の中、日中のうたた寝の際に久しぶりに見たあの“光景”がまた脳裏に蘇っていた
あの地獄から奇跡的に生還し、両親と再会できたのは火災の混乱が治まってから何日も経ってからでした。
両親との再会を見届けた彼女は立ち去ろうとしましたが、
それまでの間、両親に代わってずっと付き添ってくれた彼女にすっかり懐いてしまった私は
随分と我侭を言い、両親達を困らせました。
聞くと彼女も今回の事故で家族を失い、独りだと言うこと。そしてその家族は私の両親と同じ法曹関係者であること。
後に彼女本人から教えてもらうまで、それは全て嘘であると気が付きませんでした。
そんな事情を知った両親は私の嘆願もあり、私の容態が安定するまでの間でも構わないと
暫くの同居を彼女に申し入れました。すると、彼女は随分と困った表情をしていましたが
一つ条件があると切り出し、両親は戸惑いながらも了承しました。
その条件とは彼女の家に住むこと。私たちが火災で家を失った事情を知っていた彼女の条件は有り難い話でした。
これからも彼女と一緒にいられるとわかった私としては破格の条件でしたが
さすがに両親は遠慮もあり、暫くしてから隣家が空いた際に住まいを改めました。
けれど私は相変わらず彼女の家、特にお気に入りの土蔵にまるで我が家のように出入りを続けていました。
――
――――
――――――――
和「…………んっ?」
和「真っ暗…… 何時の間にこんな所で……」
和(勉強で疲れていたのかもしれませんね…… そうだ、もう誰もいないでしょうし部室に行ってみましょうか)
和(優希が雀卓の調子が悪いと言っていましたし、せめてもの罪滅ぼしに様子を見てみましょう)
キィンッ
和「……金属音? 校庭の方からでしょうか」
和(こんな時間に何でしょうか? ……幽霊?いえ、そんなオカルト有り得ませんし)
和「………えっ?」
ランサー「タァァッ!!」カキン アーチャー「フンッ!!」キィンッ
和(な、なんですかあの人たちは…… あんなの人間じゃ…ない……?)カタカタ
ランサー「へぇ、そこまでわかってんなら喰らってみる、おねーさん? 私の必殺の一撃を……」ゴゴゴッ
アーチャー「……止めはしない。いずれは越えなければならない敵だ」チャキッ
和(オカルトとかそんなことはどうでもいい…… とにかくここを離れないと……)ダッ
ランサー「誰だッ!?」
和(気付かれた!?)
――――
和(ここまで離れればひとまず大丈夫でしょう…… でも身を隠さないと)ハァハァ
和(用務員室……、灯りが点いていない…… じゃあ何処に!? どこかに隠れる物は)
ランサー「よっ」
和(!? ……後ろに?!)クルッ
和「誰も……いない……」ハァハァ
ザクッ
和「―――― ッ!?」
ランサー「運がなかったね、お嬢ちゃん。 ま、見られたからには死んでもらうよ」ザシュ
和「あ…… がっ……」ドサッ
ランサー「嫌な仕事をさせてくれる。よく見たらどっかユキに似た可愛い娘だったのに勿体ないなぁ……」スゥゥッ
――――
『和……ちゃん…… 嘘でしょ…… どうして、どうしてこんな時間にこんな場所で……』
『息が……、ある!? 救急車、いやこんなに血が出てたら間に合わない……』
『―――――あ、まだ手が……ある……』
和(誰……です…か…… 胸の熱さが……和らいでいく……)
『令呪も使ったし、多分これで大丈夫なはず…… ごめんね。でもこれ以上、巻き込む訳にはいかないからもう行くね……』
和(この…声…… どこかで……)
――
――――
――――――――
和「――――ッ!?」
和「……一体何が? この胸の血、それにこの気持ち悪さは……?」ハァハァ
和「そうだ、あの青い槍の人に…… いや、そんなことより早く逃げないとまた襲われるかも……」スクッ
和「……これは? 確かこれはあの時に交換した咲さんのマスコット……、どうしてこんな所に?」
和「駄目ですね、この体調では思考がまとまりません…… まずは家に帰ってから……」ヨロッ
――――
和「やっと…帰れた…… こんな時、誰も家にいないのは心細いですね」ゼェゼェ
和「さっきの青い服と赤い服を来た人たち…… あれは何だったんでしょう……」ドタッ
和「殺されかけたのは本当…… いえ、殺されかけたのではなく殺された……」
和「だけどこうして生きている…… 後から来た誰かに助けられた?一体誰だったんでしょう……」
『上やッ!』
和「えっ!?」ヨロッ
ランサー「……チッ」シュッ
和「あ…、あ……」カタカタ
ランサー「あ~あ、見えていたら痛いだろうと私なりの配慮だったんだけどな」
和(なんでこの人が家に…… それにさっきの声、一瞬でしたがあれが虫の予感という物でしょうか……)ハァハァ
ランサー「一日に同じ人間を二度トバす羽目になるなんてね。今度こそ迷うなよお嬢ちゃん」シャキン
和(いや、そんなことはどうでもいい、今はただ生き残ることだけを考えないと……)キッ
ランサー「……ほぅ、いい面構えだね。覚悟を決めたってとこかな?」ニヤッ
和(大声で助けを求めて、誰かが来てくれたとしてもその前に…… 戦うなんて当然無理、なら……)
和「くっ……」ガシャン
ランサー「へぇ、可愛い顔してる割には窓ガラスを突き破って逃げるなんて随分と大胆だねぇ。 でも……」
和(ガラスが刺さってしまいましたね…… でも逃げ回っている内にあの音で誰か気付いてくれれっ……)ドカッ
ランサー「さっきの一撃躱したのってまぐれだったのかなぁ…… 微弱だけど麻力を感じたのに」スッ
和(息が…苦しい……、蹴られた所が熱い…… いえ、痛みなんて今はどうでもいい。とりあえず土蔵の中に……)ヨタヨタ
ランサー「……ったくしぶといね。今も微妙に直撃避けてたし、見た目よりも運動神経いいのかなあの子?」
和(どこか隠れられる場所は……)ハァハァ
『後ろから突きが来るでっ!』
和「なッ……!?」ドサッ
ランサー「詰めだ…… 今のは割と驚いたよ、お嬢ちゃん。どう言う訳かわかんないけど今の動きは偶然じゃない」
和「……」ゼェゼェ
ランサー「それに今度は麻力をはっきりと感じた。もしかしたらお嬢ちゃんが7人目だったのかもしれないね」
ランサー「……ま、だとしてもこれで終わりなんだけどさ」シャキッ
和「……ふざけないでください」キッ
ランサー「……あ?」
和「助けてもらったんです…… 助けてもらったからには簡単には死ねない。私には生きて果たさなければいけないことが……」
ランサー「……」シュッ
和「こんな所で意味もなく、平気で人間を殺せる貴女みたい人にッ!」
ゴッ
ランサー「7人目のサーヴァント……!?」キィィンッ
?「……」ギュルルッ
和「…………っ!?」
?「―――――― 問おう、貴女が私のマスターか?」
これどのルートになるんだろう?それにしても優希ちゃんがノッブになるなんて。あとは白石だけだ。
和「マス…ター……?」
セイバー「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。 マスター、指示を……」
和「え……」キョトン
セイバー「これより我が右腕は貴女と共にあり、貴女の運命は私と共にある……」
セイバー「―――― ここに契約は完了した」ゴッ
和「契約って何の……?」
セイバー「たぁぁッ!!」ギュルッ
ランサー「チィッッ!!」カキンッ
和(あの人、とんでもなく強い…… あの青い槍の人を押している……)
ランサー「……卑怯者、自分の武器を隠すなんてそれでも雀士かッ!」
セイバー「どうしたの、ランサー。止まっていたら槍兵の名が泣く。そっちが仕掛けて来ないなら私から行くけど?」ゴッ
ランサー「……その前に一つ聞かせな。アンタの宝具、それは剣か?」
セイバー「さぁ、どうだろう…… 斧かもしれないし槍かもしれない、もしかしたら弓の可能性だって……」
ランサー「喰えない奴だね…… ついでに一つ聞くけどお互い初見だし、ここらで分けにする気はない?」
セイバー「断る。貴女はここで箱割れして、ランサー」ギュルルッ
ランサー「あ、そう…… こっちは元々様子見が目的だったんだけどね」ゴゴゴッ
セイバー「……っ」ビクッ
和(あの構え、校庭で見たのと同じ構え……)ゾクッ
ランサー「その心臓、貰い受ける…… ―――――― 刺し穿つ烈火の神威ッッ!!」
セイバー「――――ッッ!?」ドサッ
和「……なっ!?」
ランサー「…………必殺の一撃を躱したか、セイバー」ギロッ
セイバー「今のは呪詛、いや因果の逆転…… 『トバす』という結果を作った後で『手を作る』という原因を起こす……」ハァハァ
セイバー「その打ち筋と赤い煙、貴女は神威遣いの獅子原爽か……」
ランサー「あ~あ、これを遣うからには必殺じゃなきゃヤバいんだけどなぁ」クルッ
セイバー「えっ……?」
ランサー「ウチの雇い主は臆病でね。コイツが躱されたら帰って来い、なんて言ってるんだ」スタスタ
セイバー「逃げる気……?」
ランサー「追ってくるなら構わないよ。 ……ただし、その時は決死の覚悟を抱いてきな」スゥッ
セイバー「……」ギリッ
和「……だ、大丈夫ですか? その傷、ずいぶん酷そ…、治っていく……!? 貴女は一体……?」
セイバー「……見た通りセイバーのサーヴァント。だから私のことはセイバーと」
和「あ、私は和、原村和…… いや、私が聞きたいことはそういうことではなくって……」
セイバー「事情は大体わかっている。和、貴女は正規のマスターじゃないんでしょ?」
和「ちょっと待ってください、さっきからマスターとか貴女は何を言っているのですか!?」
セイバー「どうやら和は聖牌戦争を理解していないようだね…… でも私にとってマスターであることには変わりない」
和「だから少しは私の話も聞いてくだ 「待って」 ……えっ?」
セイバー「……和、傷の治療をお願い」
和「治療……? 私にはそんなことまだ出来る訳が……、いえ、そもそもこんな場所で治療なんて無理ですし……」
セイバー「……そう、じゃあこのままでいい。 外の敵は二人、あと一度の闘牌なら支障はない」ダッ
和「外に敵って? あ、ちょっと待ってください!」
セイバー「……」ギュルルッ
アーチャー「チイッ!!」カキンッ
咲「アーチャーさんッ!!」
セイバー「……遅い」グッ
アーチャー「――――――― ッ!?」ビクッ
和「今の声…… 止めてください、セイバーさんッ!!」キュインッ
セイバー「令呪!? 正気なの、和……? 今のタイミングなら確実にこの二人をトバせていたのに……」ギロッ
和「待ってください、セイバーさん! そこに居る女性は……」
咲「和…ちゃん……?」
和「やっぱり、咲さんでしたか……」
――――
和「つまり私もその聖牌戦争の参加者ということですか……」
咲「うん…… 和ちゃんにはとても信じられない話だと思うし、私もまだよくわかっていないんだけど……」
和「普段でしたら咲さんの話でも信じなかったと思います。ですがこんな状況では信じざるを得ませんね」
咲「あぁ、良かった~ まずは和ちゃんにどう説明したら信じてもらえるかちょっと悩んでいたんだ」ホッ
和「でもセイバーさんが幽霊だなんてこうして実際に目にしているからこそ信じられませんが……」
セイバー「それは当然。今は実体化しているから実際の肉体がある。それに霊体であることは確かだけど幽霊とは違う」
和「聖牌の力によって呼び出された過去の雀士…… それがセイバーさんたち雀霊でしたよね」
セイバー「その認識は少し違う。雀霊なら過去のだけではなく、現在未来と時間は問わず聖牌に招かれる」
咲「それじゃあ現在、この世界で生きている人が未来で雀霊になるってこともあるんですか?」
和(咲さん……)
セイバー=照、アーチャー=菫かな?
セイバー「……雀霊になる可能性はあるかもしれない。けど、自分が存在した世界に召喚されることは有り得ない」
咲「それはどういうことですか……」
セイバー「同じ人間が同時に存在する矛盾が発生するから。例えばこの和が未来で雀霊になったとする……」
セイバー「けれどこの世界には召喚されない。何故なら同じ人間が同時に存在する矛盾が発生するから」
咲「じゃあ、もし仮にすごく似た人がいたとしても雀霊とその人は……」
セイバー「それは全くの別人。でも世界は可能性で分岐しているから、他の世界でその人物が雀霊になっているのかも」
咲「そうなんですか……」シュン
和(咲さんの態度も無理はありません。セイバーさんの容姿や雰囲気、あの女性にそっくりですからね……)
セイバー「それより和、さっきの話の続きをした方が」
和「え!? ……あ、そうですね。咲さん、先程の協定の話ですけど」
咲「うん。ほら、私たちこの聖牌戦争について全然知らないし、生き残るためにも協力しあっていければいいなって」
和「ええ、そのお話なら喜んで受けさせて頂きます。セイバーさんも問題はありませんね?」
セイバー「マスターとして成立していない和にとって、まずはこの戦いに生き残るのが最優先されるべき。異存はない」
咲「い、いえ私だってマスターの役割なんて何もわかっていませんから!」アタフタ
アーチャー「……いいや、そこの小娘に比べれば咲は十分にマスターの責を果たしているさ」スゥー
和「……」キッ
セイバー「……アーチャーと言ったか。私のマスターに対してその無礼な口、控えてもらえる?」ギロッ
アーチャー「これは失礼。だが君自身がそう言われるだけの理由をその麻力の乏しい身体で一番理解しているはずだが?」フッ
咲「麻力が乏しい……?」
アーチャー「ああ、私たちサーヴァントはマスターからの麻力供給によってこの世界にこの身を留めていられる」
アーチャー「私は咲から十分に麻力を供給されているがそこのセイバーはどうやら違うようだ」
和「そうなんですか、セイバーさん?」
セイバー「……見抜かれている以上、隠しても意味がない。確かに和からの麻力供給は皆無に近い」
和「どうしてそんな大事なことを今まで……」
セイバー「恐らく正規の召喚じゃなかったからで和の責任じゃない。それに時間が経てば直るかもしれないし」
アーチャー「そういうことだ。こんな容易く倒せる敵と同盟など考え直す気はないのか、咲?」
セイバー「……ならば試してみる、アーチャー。貴女一人ぐらいなら現状でも十分に倒せる」ゴッ
咲「止めてください、アーチャーさん! もう和ちゃんたちといっしょに頑張るって約束したんですよ!」
アーチャー「やれやれ、咲は甘い…… まぁ私としては不服だが、マスターの決定とあらば仕方がないな」
和「……セイバーさんも抑えてください」
アーチャー「何だ小娘、不服そうな顔をして? そんなことよりも咲、そろそろ監査役に参加報告をするべきではないのか」
咲「えっと、監査役って何ですか?」キョトン
アーチャー「そうか、君も正規のマスターではなかったのだな…… ならば知らなくて当然か」
アーチャー「……そうだな、我々が知り得る聖牌戦争の知識に依ると開催地の宗教施設に監査役がいることが一般的だ」
咲「宗教施設ってお寺とか教会ですか?」
和「そんな物、この清澄に幾つあると思っているのですか…… まさか一軒づつ聞いて周れと?」
セイバー「……いや、監査役ならば私に心当たりがある」
咲「どういうことですか、セイバーさん?」
セイバー「……私は以前、聖牌戦争に参加したことがある。その時もこの世界に似た同じ清澄だった」
和「清澄で聖牌戦争が……」
セイバー「もし、同じ条件だとしたら監査役は新道寺にいると思う」
アーチャー「ふむ、違う世界だとしても類似する環境なら近似の結果に収束する可能性は高い…… 行ってみる価値はあるな」
アーチャー「……だがセイバー、お前はどうして前回の記憶を持ち合わせている?」
セイバー「そう言われてみればどうして私は……」
咲「えっ、別に覚えていてもおかしくはないんじゃないですか?」
アーチャー「いや、聖牌戦争として召喚された後の記憶は召喚終了と共に消えるはずだが」
和「私の召喚がイレギュラーだったからセイバーさんも色々とおかしなことになってしまっているのでしょうか……」
セイバー「そんなことは多分ないと思う…… まぁとりあえず今は新道寺に行ってみよう」
美子「……ほぅ、珍しい客ばい。こげな時間に懺悔でもしにきたのかね」
咲「……いえ、私たちはその」オジオジ
美子「うん、そん腕の聖痕…… そうか、君たちが6人目と7人目か」ニヤッ
和「!? それじゃあシスター、貴女がこの……」
美子「そうばい。うちが此度ん聖牌戦争ば監督するために派遣しゃれた安河内美子だ」
咲「あ、あのぅ…… 実は私たち、偶然選ばれただけでして」
和「ええ、この聖牌戦争がちゃんとした方が行う物ならばマスターを他に選び直した方がいいんじゃないかと」
美子「成程…… ばってん、マスターとゆう物は他人に譲れる物やなかし、なってしもうた以上辞められる物でもなか」
美子「マスターとはある種与えられた試練ばい。そん痛みからは聖牌ば得るまで解放されなか」
咲「でも、何で戦う必要があるんですか!? それだけ凄い物なら皆で分ければいいじゃないですか」
美子「尤もな意見だが聖杯ば手にする者は唯一人。それはウチ達が決めたけんがはなく、聖杯が決めたことだ」
和「聖牌が決める……!?」
美子「全ては聖牌自体が行うこと、彼等ば競わせ唯一人ん持ち主ば選定するとよ。そいが聖牌戦争だ」
和「勝手にそんな物に巻き込んでおいて、じゃあ戦えなんて納得がいきません……」
美子「君らの気持ちも分からんでもなか……」
美子「ばってん、繰り返される戦いば監督するために派遣されたウチんの立場ではなんともし難い」
和「……待ってください。こんな馬鹿げた戦いが過去にもあったと言うのですか!?」
美子「そうばい。此度は前回からはまだ10年も経っていなか最短のサイクルで、これで5回目ん聖牌戦争となるな」
咲「では過去に聖牌を得た人もいたのですか?」
美子「一時的にはな。前回ん聖牌戦争では相応しくなか者が聖牌に触れたとよ。そん者がなんば望んでいたのかは知らん」
美子「ウチらに分かるんは愚かな女が詰まらぬ感傷に流された結果に遺された災害ん爪痕だけだ……」グッ
和「ちょっと待ってください…… まさか、それって……」
美子「そうばい。未だもって原因不明とされる清澄大火災は聖牌戦争に因る物ばい」
和「……!?」ヨロッ
咲「和ちゃん!?」
和「大丈夫です。 ……ではシスターさん、今回もまた望ましくないマスターが聖牌を手にしたらどうするのですか」
美子「聖牌に選ばれたマスターば止める力などウチらにはなか。なんしろ聖牌は万能ん願望機やけんな」
美子「……そいが嫌だと言うならば君たちが勝ち残ればよか。君たちの手に渡れば少しはマシな結果になるやろう」
咲「で、でも、私たちには戦う理由なんてありませんし……」
美子「そうか、ならばマスターん権利ば全てこの場で棄てろ。そうすれば君たちの身ん安全は監督役としてウチが保障しよう」
美子「……ばってん、そん選択は己が身の保身と引き換えに、どの様な結末になろうとも甘受せざるを得なくなる」
美子「どうか自分の選択がどげん意味ば持つんかよく理解した上で選び取ってほしか……」ニィ
和・咲「……」
美子「さて、話はここまでばい。 ……宮永咲に原村和、改めて問うが聖牌戦争に参加するか否か今ここで決めてもらおう」
――――
透華「やっと出揃った様ですわね…… 招きに応じて下さり感謝致しますわ、白築ナナ……」
ナナ「やっぱりアンタだったかい、お嬢ちゃん」ニヤッ
透華「残念ですが父では貴女と面を突き合わすなんて真似はできっこありませんわ」
ナナ「ほぅ、どうやら本当だったようだね。竜門渕の実権をお嬢ちゃんが握ったって噂は……」
透華「ええ、竜門渕第十六代頭首・竜門渕透華。以後お見知りおきを」スッ
ナナ「……ふぅん、で要件は何だい? まさか新頭首のお披露目って訳じゃないだろ」
透華「“始まりの御三家”頭首同士の会談ですわ。要件など決まっていますでしょう?」クスッ
ナナ「……ほぅ、ならば此度の聖牌戦争、龍門渕は参加する気なんだね」
透華「ええ、前回の茶番など眼中にありませんでしたがこれ以上、余所者に庭を荒らされるのもどうかと思いまして」
ナナ「新頭首様は威勢が良いねぇ。まぁ足元を掬われない様、精々気をつけな」ククッ
透華「御忠告感謝致しますわ。 ……そこで一つお伺いしますが白築は此度の聖牌戦争、参加されないと?」
ナナ「ああ、勝利し根源に至ったとしてもそこに在る物を使いこなせる器がなければ話にならないだろ?」
透華「白築慕……、やはり間に合わなかった御様子ですわね。ならば話は早いですわね」
透華「……貴女の愛娘、色々とお困りでしょう? そのお手伝い、この竜門渕がして差し上げてもよろしいですわ」
ナナ「……どういうことだい」
透華「竜門渕に伝わる生命精製の秘術をお伝えしてもよろしい、と……」ニヤッ
ナナ「……お嬢ちゃん、自分の言ってることがどういう意味なのかわかってんだろうね」
透華「……ええ、もちろん大禁呪である我等“始まりの御三家”の秘術、そう易々とお伝えするには参りませんが」
ナナ「この私に取引を持ちかけるのかい? ……それで見返りに何を求めるつもりだい、竜門渕」
透華「貴女が前回の聖牌戦争で手に入れた聖牌の欠片。まずはこれをお譲り頂きたく思いますわ」ニィッ
――――
美子「多くの声、多くの声が貴方を惑わす。語りは易く、偽りは人の常……」
?「口元が歪んでいるわよ、聖職者。他人に見せられた物じゃないわね」クスクス
美子「そう見えたかね?」
?「見えたわよ、鉄面皮に相応しい笑みだったわね。良い出会いでもあったの?」
美子「ああ、そうだな。旧い知己に再会した気分ばい。嬉しくなかはずがなか」
美子「……お前の言った通り僅か10年も経たんで聖牌戦争が再開された。監督役として此度こそ奇跡ん成就ば願うのみばい」
?「この地が地獄になろうとも、か……」
美子「そいはウチん預かり知る所ではなか。地獄の門ば開くんはマスターたちなのだから」ニタァ
?「……フッ」
美子「まずは待とうではないか。初戦ん結果がどんことなるんかば」
――――
咲「……良かったのかな、本当にこれで?」
和「どうだったのでしょう。恐らく私たちには最初から選べる道なんてなかったのかもしれません……」
和「……でも決めてしまった以上、私はもう迷いません。もう二度とあんな惨劇を繰り返させる訳にはいきませんから」ゴッ
咲「……和ちゃん?」
セイバー「和、話は終わったの?」
和「セイバーさん…… ええ、私も咲さんも聖牌戦争に参加すると決めてきました。貴女は私がマスターだと納得頂けますか?」
セイバー「納得も何も和は最初から私のマスター。貴女の剣となって戦うと誓ったでしょ?」
和「わかりました。それでは改めてよろしくお願いします、セイバーさん」
アーチャー(咲、聞こえているか……?)
咲「……アーチャーさん?」
アーチャー(気をつけろ。君たちの前方からとんでもない麻力の持ち主が接近している)
咲「えっ……」
セイバー「……なっ!?」ビビクン
衣「……話は終わったか、お前たち」クスッ
和「天江…さん……?」
セイバー「バーサーカー……」ボソッ
咲「あの後ろいる大きな人…… あれはサーヴァントなんですか……」
バーサーカー「■■■□■■■■■■■■」
衣「久方ぶりだな、ののか! 咲は先日に遇ったばかりか。 どうやら二人とも、聖牌戦争がなんたるかは知った様だな」
アーチャー(ほぅ、単純な能力値ではセイバーも上回るか。これは凄まじい)
咲「えっ…… じゃあ衣ちゃ……、天江さんもマスターなの……」
セイバー「……下がって、和」グッ
和「待ってください、セイバーさん! あの人は私たちの知り合いです」
セイバー「アレは“人間”なんかじゃない…… 甘いことを言っていたら全員トバされる」
和「セイバーさん、貴女は何を!」キッ
アーチャー(ふむ…… そっちはセイバーに任せ、私は遠方から援護をする。咲、無理はするなよ)スッ
咲(待って、アーチャーさん! ……嘘、どうして天江さんと戦わなきゃいけないの)
衣「……相談は済んだか? では始めるとするか。やっちゃえ、バーサーカー」クスッ
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■―――!!」ドォン
セイバー「疾い……!? 和、咲、避けてッ!!」
和(あ、足が竦んで動けない……)カタカタ
咲「誰か助け…… 弓!?」
ドオォォン
咲「アーチャーさん!」
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■」ギロッ
衣「ハァ…… その程度の火力でバーサーカーを穿通しようとは気勢が削がれたぞ」
アーチャー「……チッ」
セイバー「動きが止まったよ、バーサーカー。貴女の相手は私……」ギュルッ
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■!?」スッ
アーチャー「あの間合いで躱すだと? ふん、狂戦士と化しても体に染み込んだ打牌の術理は消えていないということか」
バーサーカー「■■□■■■■■□■■■」グッ
セイバー「……きっと高名な雀霊なのだろう。狂気に呑み込まれても失われないその打ち筋は尊敬する」
――――
咲(確かにセイバーさんは体躯の差で力負けはしている。けど、こうして打っている間にもう順応している様に見える……)
和(しかし、あのバーサーカーの強さは異常ですね…… 未だに無傷とはあのサーヴァントは不死身なんでしょうか)
セイバー「語り合う想いもなく、互いに名乗ることも叶わない。私たちが交えるのは互いを仕留める打牌だけ……」
バーサーカー「■■■■□□■■」
セイバー「……だからこそ全霊の一撃でゴッ倒すしかない。行くよ、バーサーカー!!」ギュルルルル
咲「セイバーさん、そんな懐に飛び込んだりしたら危ないッ……!?」
衣「その進取果敢な判断は嫌いではない。だが、麻力が足りていない様だな。その程度、バーサーカーには効かぬ」ニヤッ
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■!!!」ギィィンッ
和「セイバーさんの一撃が止められた……!?」
アーチャー「見事だ。だが、それだけでは足りない…… 合わせろ、セイバー!!」ビシュ
咲「……えっ、アーチャーさん? そこから離れろってどういう……」
セイバー「……アーチャー!? なるほど、そういうことならッ……」ゴッ
ドォォォン
咲「大丈夫、和ちゃん?」
和「は、はい、何とか無事です…… それより今の爆発は一体?」
咲「セイバーさんの攻撃に合わせて弓を撃つってアーチャーさんから連絡があったんだけど直前過ぎて……」
咲(あのタイミング、もしかしてアーチャーさんは――――)
和「全く自分のマスターもいると言うのにあの人は…… まぁでもこれでバーサーカーも……」
咲「この感覚、もしかしてバーサーカーの……!? 待って和ちゃん、まだ終わっていない!!」ゾクッ
アーチャー「……チッ、まだ生きていたか」
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■」グルルルル
セイバー「……蘇生。いや、もうこれは時間の巻き戻しに近い。トバされた瞬間に復活する宝具か」ギリッ
衣「……ほぅ、見直したぞ二人とも。お前たちだけではなく、あのサーヴァントたちも暫く吟味する必要がある様だな」
衣「戻るが良い、バーサーカー…… 紛擾は宵に済まそうと思ったが気が変わった」
セイバー「逃げる気……?」
衣「ああ、思做すにも暫し刻がかかるようだ。これならアレらを掠め取ろうとする輩もいないだろうし猶予をやろう」
衣「ではな、今度会う時までには吾が運命に観取して衣を括目させてくれ」クルッ
――――
咲「……アーチャーさん、さっきの戦いの件で聞きたいことがあります」
アーチャー「どうした咲、怖い顔をして。まぁあの直後から君が何か言いたそうな顔をしているとは気付いていたがな」
咲「なら単刀直入に聞きますけどバーサーカーを撃った時、和ちゃんやセイバーさんも巻き込もうとしませんでしたか?」
アーチャー「ああ、アレか。 そうだな、セイバーはともかくあの小娘は仕留められる良い機会だったのだがな」
咲「どうして和ちゃんを? 私たちはいっしょに戦うって約束したの、アーチャーさんだって知っていましたよね」
アーチャー「……何を言っているんだ、咲。同盟を結ぼうが所詮原村和は敵だ。排除できる機会を見逃す訳にはいかないだろう」
咲「……アーチャーさんは和ちゃんといっしょに戦うのがそんなに嫌なんですか?」
アーチャー「いや、同盟を結ぶ戦略に不満はない。だが相手は選ぶべきだと思うがね」
アーチャー「この聖牌戦争於いて天江衣も原村和も君にとっては敵でしかない。咲、君はこの事実を改めて認識すべきだ」
咲「アーチャーさんの言っていることはわかります。でも、私はそんな風には割り切れません……」
アーチャー「その甘さが君の命取りになるやもしれないのにか?」
咲「それでも、それでも私は…… せめて当分の間だけでも和ちゃんたちを敵と見なさないことも駄目ですか?」ウルッ
アーチャー「……分かった、私もマスターの命に逆らう気はない。 ―――― 全く私も君を甘いなど言えないな」ハァ
待ってたのよー
ランサーとバーサーカーの配役が分からねぇ…亦野?
――――
京太郎「お~い咲、聞こえてっか?」
咲「あ、京ちゃんかぁ。おはよう」
京太郎「やっと気付いたか。ったく、さっきからずっと声かけてたのに、まだ寝ぼけてんのか?」
咲「うん、昨日いろいろあってね」
京太郎「なんだ、マジで寝不足なのかよ。 家で火を使う時は寝ぼけてたりすんなよ」
咲「火? 私、そんなにだらしなくないよぉ」
京太郎「そっか、ならいいけどな。 最近、清澄じゃガスの事故とか多いから気つけた方がいいぞ」
咲「ああ、それならニュースとかで知ってるよ。まだ原因不明で運ばれた人も意識不明とか怖いよね……」
京太郎「昨日もまたあったみたいだしな。 お前んとこ、また親父さん出張中で一人なんだから注意しろよ」
咲「うん、ありがとう京ちゃ…… ――――!?」ビビクン
京太郎「……ん、どうした咲?」
咲「……京ちゃん、これって何なの?」ゾクッ
京太郎「……これ? 俺は何も変わったもんはない気がすっけどどうかしたのか」キョトン
咲(京ちゃんはこの空気の澱みを感じてない…… 校門を抜けた途端にこうも急に変わるなんて……)
和「……咲さん、おはようございます」
咲「あ、和ちゃん……」
――――
咲「和ちゃん、これって……」
和「私は雰囲気がおかしい程度にしか感じなかったのですが、やっぱりこれは異常なのですね」
咲「うん、こんな変なのに他の人は全く気付いていないなんて明らかにおかしいと思う……」
和「こんなことになるなら霊体化できなくてもセイバーさんについてきてもらうべきでした……」
咲「アーチャーさんも付いてきてくれるって言ってくれたけど疲れていたみたいだから断っちゃったよ……」
和「そうでしたか。私はとりあえずセイバーさんに連絡しようと思ったのですが返事がない状態でして」
咲「じゃあ私がアーチャーさんに―――― ……駄目だ、何も反応がない」
和「二人ともサーヴァントに連絡ができないなんて偶然とは思えません。やはりこれは……」
咲「たぶんアーチャーさんが言ってた結界なんだと思う。わかる範囲で結界の呪刻は壊したつもりだったのに」
和「となると咲さんたちに呪刻を潰されたのを知って慌てて起動させた、ということでしょうか?」
咲「……じゃあ今、学校内にサーヴァントとそのマスターがいる可能性が高いんだ」
和「ええ、多分…… 相手に私たちがサーヴァントといっしょにいないのを悟られたら不味いですね……」
――――
和「……染谷先輩?」
まこ「おぅ和ぁ、ちぃと話があるんじゃが顔をかしてくれんかのぉ?」ニヤァ
和「申し訳ありませんがまだ授業がありますのでお話なら放課後に……」
まこ「そう邪険にせんでもええじゃろ。 ま、これを見たらどがぁな要件かわかってくれるよの?」スッ
和「……令呪!?」
まこ「……ほぅ、やっぱりアンタこれが見えるんか」ニィ
和「染谷先輩、この結界は貴女が仕掛けたのですね」キッ
まこ「ああ、これは保険じゃ。折角仕掛けたのにまさか和に邪魔されるたぁ思わんかったわ」
和(……私が呪刻を壊したと勘違いしている。すると咲さんがマスターであることをまだ把握していない?)
まこ「どうしてバレたのかちゅう顔をしとるぞ、和ぁ?」ククッ
和「別にそう言う訳じゃ……」
まこ「そりゃ校内に4人もマスターがおるんじゃ。アンタらの内の誰かの仕業だろうと最初からわかっとったわ」
和「……マスターが4人?」
まこ「……うん? アンタ、もしかして何人この校内におるのかわかっとらんかったんか」
和「……そう思って頂いても構いません」
まこ「マスターは麻力の優れた者から選ばれるっちゅう話じゃろ? なら残りはアンタら2年の三人と思ぅとったんじゃが……」
和(4人目のマスター…… 確かにその理屈なら優希も選ばれたとしてもおかしくはありませんが……)
まこ「まさか一年間いっしょに打っとった先輩に三味線弾ぃたりはしとらんよな、和ぁ」ギロッ
和「そんなことするつもりはありません…… それより染谷先輩、この結界が保険とはどういうつもりですか?」
まこ「そりゃあそうじゃろ? アンタらに徒党組まれて襲われたら戦う気がないワシは敵わんからのぅ」
和「……戦う気がない?」
まこ「ああ、ワシも無理矢理マスターをやらされているからのぅ。だからせめて身を守るための保険を、ちゅう訳じゃ」
和「……わかりました、先輩がそういうおつもりでしたら私もお邪魔をする気はありません」クルッ
まこ「おぅ、ちぃと待ちや。 ……どうじゃ和、ここは無理矢理参加させられている者同士、ワシと協力せんか?」
和「……先輩に戦う気がないのなら協力する必要もないと思いますが」
まこ「……そうか、まぁええ。 それより和、この話はアンタを仲間と見込んで話したんじゃ。この意味わかっとるの?」
和「……ええ、ご心配頂かなくても先輩が他の人に喋らない以上、私も誰かに話す気はありません」
――――
咲「和ちゃん、遅くなってごめん」トタトタ
和「いいえ、お気になさらずに。 でもどうしたのですか、咲さんの方が先に授業は終わっていたはずですが?」
咲「う、うん、授業終わってこっちに来る途中で染谷先輩に会って……」
和「……染谷先輩?」
咲「染谷先輩もマスターだ、なんてビックリしちゃったよ」
和「――――!? それで咲さん、先輩とはどんなお話を?」
咲「うん、この結界はたぶん3人目のマスターの仕業だろうけど心当たりないか、とかそんな感じの話を……」
和「……3人目? どういうことですか、それは」
咲「さっき聞いた話だとこの学校には3人のマスターが……」
和「いえ、そういうことではありません。私と話した時は結界は先輩が仕掛けた物でマスターは4人いると」
咲「4人目!? 和ちゃんも染谷先輩と? いや、でもそんな話は全然聞かせてくれなかったよ……」
和「それとマスターは麻力の優れた人間が選ばれやすい、と…… なので私たちがマスターだと目安をつけていたとも」
咲「うん、そのマスターと麻力の話はアーチャーさんから聞いて私も知っていたけど……」
和「ですが先輩は他のマスターの存在は知っていましたが、誰なのかまでは特定はできていませんでした……」
咲「じゃあ私たちと接触して、先輩の予想はほぼ確証を得たってこと?」
和「ええ、そして結界を壊した相手が誰なのかも…… そしてその目的は恐らく」
ドンッ
和「これは……!?」
咲「この麻力の感覚、もしかして染谷先輩が結界を……!?」
――――
まこ「ええのぉ、サーヴァントってなぁこうじゃないとな」ククク
ライダー「アンタの仕入れた他マスターの情報、信じていいンだよなァ?」
まこ「ああワシが目ぼしつけた通り、よう知っとる連中がマスターやっとった」
ライダー「ハッ、イイ子の優等生も澄まし顔の下じゃ聖牌欲しさで欲の皮を突っ張らせてるってか?」カカッ
まこ「……それよりオマエの情報はどうなんじゃ? 本当にアイツら、サーヴァントを連れとらんなんか」
ライダー「安心しなマスター、今ンとこ校内で他サーヴァントの気配は感じねェ」
まこ「今頃はこの予想外の仕掛けに慌てているじゃろ。アイツらの泡を喰っとる顔が拝みたかったのぅ」
ライダー「邪魔も入らず、麻力は稼ぎ放題。ガキほどやりやすい相手はないぜ」カカカー
――――
和「……何ですか、この甘く気怠くなる様な空気は」
咲「酷い、生徒が皆倒れている…… でも染谷先輩がこんなことするなんて信じられないよ」カタカタ
和「……安心してください、まだ息はあるようです。ですが急がないと不味いですね」
咲「え…… うん、そうだね何としてもこの結界を止めないと……」
和「誰であろうとこんな物を発動させた人は許せません。こんな関係ない人まで巻き込む罠なんて」キッ
咲「麻力は科学室の方に集まってる。たぶんそこにこの結界を作った人とそのサーヴァントがいるはず……」
和「わかりました…… なら私たちだけで止めることはできませんね」スッ
咲「和ちゃん、もしかして令呪を……?」
和「ええ…… お願いします、来てください。――― セイバーさんッッ!!」ゴッ
ドォォォン
セイバー「……召喚に応じて参上した。和、状況は?」
――――
まこ「ククッ、ええ調子じゃのぉ。後で萎びたアイツらでも見に行ってやるかの」
ライダー「……ん?」ピクッ
まこ「どうしたんじゃ、ライダー?」
?「……」ガラッ
まこ「…………あ? なんでアンタ動けてんじゃ」キョトン
?「……」カツン カツン
まこ「……おい、何とか言わんか! コッチ来んな、来るなって言うとるじゃろ!!」
ライダー「……テメェ、何者だ?」スッ
?「……」グッ
――――
セイバー「……気配が」
咲「甘い空気が薄くなっていく…… どういうこと?」
和「私たちが近づいて来ていたのを察知して退いたのでしょうか」
セイバー「和、あそこに人が」
和「染谷先輩! 戦う気がないだなんて言っておいて、どうしてこんな酷いことを!!」
まこ「ヒッ!?」カタカタ
咲「和ちゃん、落ち着いて! 染谷先輩、この結界を張ったのが先輩なら今すぐこれを解いてください」
まこ「ワ、ワシじゃない…… この結界はワシがやったんじゃない、ライダーが勝手に!!」
セイバー「……あれは」ピクッ
咲「どうしたんですか、セイバーさん?」
セイバー「咲…… 貴女は見ない方がいいと思う」
咲「キャアッ!?」
和「咲さん!? どうしたのですか、今の悲鳴は?」
セイバー「ごめん、一応止めたんだけど……」
和「大丈夫ですか、咲さん?」
咲「う、うん……」カタカタ
和「教室が滅茶苦茶ですね…… あれは、死体でしょうか……」
ライダー「 」
セイバー「うん、でもあれは人間の物じゃない。サーヴァント…… 教室の荒れ具合からここで闘牌があったのだと思う」
和「では結界が効力を弱めているのも結界を張った、あのサーヴァントが絶命したからでしょうか」
セイバー「多分。どうやら校内にはもう一人、サーヴァントがいたってことだね」
――――
和「では、そろそろお答え頂けますか染谷先輩? ライダーのサーヴァントでしたか、先輩が召喚した雀霊は」
まこ「そ、そうじゃあの面汚しが! あがぁなんに負けおって!!」
和「……それでライダーを倒したのはどんなサーヴァントですか?マスターの顔は見たのですか」
まこ「は……?」
和「相手の顔を見たのでしょう、次に狙われるのは染谷先輩ですよ」
まこ「そがぁな訳なかろ!? もうワシにサーヴァントはいないんじゃけぇ狙われるのはアンタらじゃろ!!」
和「まだ令呪が残っているのでしょう。他のマスターからしたらまだ敵と見なすには十分ですよ……」
まこ「ワ、ワシはもうマスターじゃないんじゃぞ! それなのにアンタらはまだワシを許さんのかッ!?」
和「私たちのことじゃありません。 ……そんなことよりどんなサーヴァントだったのですか相手は?」
まこ「ハ…… ハハッ、そがぁなモン知るかッ! 次にアイツに狙われるのはアンタらじゃ!!」ダダッ
和「染谷先輩ッ!!」
咲「……いいよ和ちゃん、染谷先輩のことよりも皆を助ける方が先決だと思う」
和「……あ。 そうですね失礼しました、見た感じでは息があるようですからまずは救急車を呼びましょう」
咲「うん、分かった。 ……なんか今日の和ちゃん、普段とどこか違う感じがするね」
和「普段と違う……?」
セイバー「それは私も同意見。今日の和はどこか相手に対して激している印象だった」
和「……それは、こんな酷い真似をするのを目のあたりにしたら当然じゃないでしょうか」
咲「……気持ちは分かるけど私なんかはこんな時、慌てちゃうだけだったのに和ちゃんは凄く落ち着いている様に見えて」
セイバー「普段の和からすると意外な気は私もする。まぁこういう時にも平静なのは良いことだけど」
和「……そうですか。私はただ死体を見るのには慣れているだけですから」
咲「死体……」
セイバー「……」ピクッ
アーチャー「ほぅ、セイバーがいるとは意外だったな」スゥッ
咲「アーチャーさん!」
アーチャー「ふむ…… 主の異常を察して駆けつけたのだが、どうやら遅かったようだな」
和「全く…… サーヴァントが一人脱落した今頃になって来るような人に咲さんの身が守れるんでしょうかね」ツン
アーチャー「ん……?」ギロッ
セイバー「和の言うことも分かるけど私も命呪で召喚されなければここにはいれなかったはず。彼女の落ち度とは言い難い」
アーチャー「成程、君がいたのはそういう訳か。まぁ今度からは気をつけるさ。 ……で、脱落したのはどのサーヴァントだ?」
咲「脱落したのはライダーのサーヴァント。 けど、どういう状況だったのかはわからないんだ……」
アーチャー「ふん、腑抜けめ。仮にも雀霊を名乗るのなら、せめて命がけで相打ちに持ちこめと言うのだ」
セイバー「アーチャー、彼女はマスターを庇って斃れた。なのにそんな言い方をするなんて貴女こそ雀霊なの」ギロッ
アーチャー「雀霊だろうがなかろうがこの戦いに相応しくない者は早々に消え去ればいい」フン
咲「もぅ、二人とも喧嘩なんて止めてください! まだライダーを倒したサーヴァントがいるかもしれないんですよ」
和「ですがこれから学校は救護などで慌ただしいでしょう。今日はこれ以上の行動は私たちも無理ですね」
咲「それじゃあ今日はこのまま帰って、明日までに4人目のマスターについてお互い考えておこう」
おお、待ってた!
ライダーが誰だかわかんねえ。ランサーは爽だと思うが。
ライダー誰だ…?
バーサーカーは婚期逃して発狂したアラフォーさんかな?
>>78
ライダーはシノハユの与那嶺若菜です
――――
コンコン
和「はい、どうぞ」
セイバー「やっぱりここにいたんだ。邪魔をしてごめん」
和「いいえ、気分転換をしていただけですから。何か用ですか、セイバーさん?」
セイバー「いや、大した用事ではなかったから。和はこの蔵が好きなようだね」
和「ええ、どうしてなのか自分でもわからないのですがここに来ると妙に落ち着くんです」
セイバー「その気持ち、分かる気がする。 私もここは何か魅かれる物を感じる」
和「そうでしたか。ここは竜華さんが亡くなってから誰も入居していなかったので……」
セイバー「竜華……?」
和「あ、セイバーさんには何もお話していませんでしたね、竜華さんのことを」
――――
セイバー「―――― なるほど。和にとって家族も同然の大事な人だったんだね、その清水谷竜華という人は」
和「ええ、私にとって命の恩人で姉でもあり時には母だったのかも……、そして今も目標なのだと思います」
セイバー「目標…… それは雀士としての?」
和「いいえ、確かに麻雀を始めたのは彼女の影響ですが雀士としての彼女はあまり知らないので違いますね」
セイバー「……あまり知らない? 聞くとずいぶんと近しい間柄の様だったのに意外だね」
和「私がせがんで無理に教えてもらっただけで、最初は教える気はなかったのだと思います」
セイバー「……そうなんだ」
和「ええ、彼女自身、あまり麻雀は好きではなかった様でしたから……」
セイバー「そうだったんだ。じゃあ和にとって清水谷竜華とは何の目標なの?」
和「……彼女から託された想いを実現させるための目標、ですね。 ―――― iPS細胞の、正義の味方の夢を」
セイバー「iPS、正義の味方……」ピクッ
和「あれ、セイバーさん笑わないのですね。正義の味方なんて子供じみた夢で恥ずかしい話でしたのに」
セイバー「iPSとかはよく分からないけど、和の言う正義の味方とは他人を助けたりして役に立ちたいということなんでしょ?」
和「え…… あ、はい、そういうことになるのだと思います」
セイバー「ならばそんな素敵な夢を笑うなんてことはしない。頑張って、和」ニコッ
和「……!?」///
セイバー「どうかしたの、和?」
和「いえ、何でもありません……」
―――――――― 『頑張って、原村さん!』
和(どこか似ているとは思っていましたがここまでとは。やはりセイバーさんはあの女性の……)
和「ええっと…… あ、そうです、セイバーさんこそ何か私に用事があったのではないですか?」
セイバー「いや、別に大した話じゃなかったのだけど今日の学校の件で……」
和「何か気になることでも?」
セイバー「以前から気付いていたけど今日ではっきりと。和、貴女はアーチャーと反りが合わないみたいだね」
和「アーチャー…… ええ、どうしてか分からないのですが、相性が悪いと言うのか虫が好かないと言うのでしょうか……」
セイバー「私が見た限りでは和は好悪を表に出さないし、そもそもそういった感情をあまり持たなそうだから意外だなと」
和「そうですね、正直なところ私自身も戸惑っている感情ですね。 でも彼女も私を嫌っている、とは確信しています」
セイバー「……人間ならばそういったこともあるとは思うけど。まぁ今日は色々と和の意外な面が見れて発見も多かった」
和「色々と? 他にも私に何かおかしなことがありましたか」
セイバー「……うん、正直に言うなら死体を見慣れていると言うのも意外だった」
和「……」
セイバー「考えてみれば和は医者になるための勉強をしているのだから、見慣れていてもおかしくはないんだよね」
和「いえ、見慣れているのは先程お話した竜華さんに救われた時から、あの地獄の様な光景を見てきたからですね……」
セイバー「……そうだったんだ。変なことを聞いてごめん」ペッコリン
和「いいえ、気にしないでください。別に隠していた訳でもありませんから」
セイバー(どうやら本人も気が付いていないみたいだ、ライダーのマスターに対し、彼女らしくなく激していた理由を)
セイバー(けど今の話でその理由に推測はついた。 きっと彼女の心象にはその光景がまだ焼き付いているのだろうな……)
――――
和「正義の味方になりたい理由、ですか……」
『―――― 和の言う正義の味方とは他人を助けたりして役に立ちたいということなんでしょ?』
和「分かっています。人助けと正義の味方が違うってことは……」
『生きてる、生きてる、生きてるで!!』
『ありがとう、ありがとう…… 見つけられて良かった……、一人でも助けられて ―――― 救われた』
あの日、覚えているのは熱かった事と息が出来なかった事。そして誰かを助けようとしてその誰かも死んでいった事
そういうのは嫌です。誰もが助かって、幸福で笑い合える様な結末を望むのは欲張りなのでしょうか?
『それは難しいで。和の言うことは誰も彼もを救おうってことやからな』
『……和、誰かを救うってことは誰かを助けないってことなんや』
『ええか?人間の手で救えるもんはね、自分が肩入れした側だけ。 当たり前の事やけど、これが正義の味方の定義やね……』
『そないな事をウチは本当に分かっていなかった。 だから一番大事なもんも見失ったんやろうな……』
和「一番大事な物って……何なんですか、竜か…………」zzz
『―――― いらっしゃい』クスクス
――――
セイバー「……」ピクッ
セイバー「今の波動は……」ガバッ
コンコン
セイバー「……和、入るよ」ギィィッ
セイバー「……こっちにもいない、か」ギリッ
セイバー(部屋に戻った形跡もないし、蔵にもいなかった。和がこんな時間に一人で外出なんて有り得ない)
セイバー(和から感じる麻力が普段の物よりも酷く弱い。そして、さっきの感覚は明らかに外部からの麻術……)
セイバー(和の麻力はマスターとしてはかなり見劣りをする。当然、遠隔麻術への抵抗力も低い……)
セイバー(失敗した…… 敵に麻術に優れたキャスターがいるのだからこんな事態は想定すべきだった)
セイバー「今は悔いている時間なんてない…… まだ和は生きている。今ならまだ間に合う……」
セイバー「―――― 照魔鏡、マスターのいる処を私に指し示せッ!」ゴッ
――――
和「……ここ、は?」ボォー
キャスター「あらあら、やっとお目覚めですかセイバーのマスターさん」クスクス
和「サーヴァント!? か、体が動かない!?」
キャスター「そう、私はキャスター。気分はどうですかお嬢さん?」
和「クッ……、私をトバす気ですか」ギリッ
キャスター「まさか、トバすつもりならばとっくにしています。貴女には他の用事で来て貰いました」
和「……他の、用事?」
キャスター「ええ、用があるのは貴女の麻力。それと、その命呪ですから……」
――――
セイバー「山全体を覆う雀霊という概念その物を退ける概念、か……」
セイバー(山頂から和の麻力を感じる…… 今すぐ向うべきだけど、ここには結界が山門を除き敷かれている)
セイバー(結界の穴は麻力の通り道なのだろうけど、敵が何も対策を施していないとは考えられない……)
セイバー「でも、今は迷ってなんかいられ……!?」ビクッ
?「ほぅ、今夜の客も活きが良さそうだ」スゥッ
セイバー「貴女、どこのサーヴァント……?」ゴッ
アサシン「アサシンのサーヴァント、辻垣内智葉…… 何を驚く?対局の前に名乗るのが雀士の礼だろう」フッ
セイバー「……名乗られたからにはこっちも名乗り返すのが雀士の礼。その上でここを退いてもらう」
アサシン「あー、いい、いいそんな物は。 悪かったな、わざわざ名乗り返す様な大層な奴とは思っていなかったんだ」
アサシン「互いを知りたいのなら打てば分かる、だろ? ―――― ここを通りたければ私をトバして行け」ニヤッ
――――
和「……命呪を奪う?」ギリッ
キャスター「そう、貴女の命呪を引き抜き、私のマスターに移植する。そしてセイバーには目障りなバーサーカーを倒させる」
和「そ、そんなこと……」ギリッギリッ
キャスター「無駄な抵抗をすると痛いだけですよ? 別に貴女の命を奪おうとする訳ではないのですから」
和「あ…… あぁ……」ビビクンッ
キャスター「さぁ、体の力を抜いて楽にしてください。すぐに終わらせてあげますから」クスクス
ヒュンヒュン ヒュンッ
キャスター「なっ!?」バッ
アーチャー「フン、とっくにトバされていると思っていたが案外としぶといのだな」スタッ
和「貴女…… どうしてここに?」
アーチャー「なに、ただの通りがかりだ。 ……で、体はどうだ?今のでキャスターの拘束麻術も断ち切った筈だが」
和「あ……、動きます」
アーチャー「それは結構。 ……後は好きにしろ、と言いたい所だが暫くそこから動かぬことだな」
キャスター「アーチャーですって!? アサシンは一体何をしていたんですかッ!!」
アーチャー「そら、フラフラしていると八つ当たりを喰らうぞ? いつの世も年増女のヒステリーは見苦しい物だ」フッ
キャスター「……何ですって?」ギロッ
アーチャー「やれやれ、どうやら少しばかり手荒いことになりそうだ」ニヤッ
おつ
――――
咲「………んっ」モゾッ
咲「夢か…… あれって……」
―――― 荒涼とした丘に突き刺さる無数の弓矢。見ているだけで心が寒々となる様な色褪せた風景の中に彼女は居た。
―――― そこかしこに傷を負った体が痛々しかった。けれど彼女は自らを何ら顧みる様子はなかった。
―――― 背中越しの姿しか見えなかったが女性と確信できた。それは風に靡く藍色の長髪が酷く美しかったからだ。
―――― 視点が変わる。端正な口を歪ませ弓矢を地表に突き刺す。憤りを埋めるかの様に何度も、何度も、何度も。
―――― そうか、突き刺さっている無数の弓矢は墓標なんだ。その都度自分の手で葬ってきた行き処のない感情の。
咲「アーチャーさん……、いない……?」
――――
セイバー「聞こえなかったの? そこを退いてと言った。貴女には用がない、アサシン」
アサシン「ここを通りたければ私をトバせと言ったのが聞こえなかったか? 急がなければお前のマスターの命はないぞ」
セイバー「――― チィ!」ガッ アサシン「フッ……」スッ
キン キィン
セイバー(どうなっているの? 私の方が速度も火力も優っているはずなのに何故攻めきれない……)
セイバー「タァァッ!!」ゴッ アサシン「ほぅ……」シュッ
アサシン「大した者だ。7度はトバすつもりで打っていたのだが、まだ箱は割れていない……」
アサシン「火力任せとばかり思っていたが技術も持ち合わせていたとは感心したぞ」ニヤッ
セイバー「そっちこそ凌ぐだけの業はなかなか見応えがあった。小細工はずいぶんと上手みたいだね」キッ
アサシン「ああ、力も気合もそちらが上…… と、なるとこちらの見せ場は上手さだけだからな」
アサシン「――― まぁ、その視えない右手にも大分慣れてきた」フッ
セイバー(今の打ち合いだけで……? このサーヴァント、技術に関しては私よりも遥かに上か)
――――
アーチャー「アサシンのことならそう怒るな、キャスター」
アーチャー「あの女、何者か知らんがセイバーを押し留めるとは大した雀士だ。むしろ褒めてやるべきではないのか?」
キャスター「何をふざけたことを。貴女を止められない様では門番失格です。あの女、雀霊を名乗らせるには実力不足ですね」
和(セイバーさんがここに……?)
アーチャー「……その言いぶり、やはり協力し合っているのか君たちのマスターは?」
和「……協力し合っている?」
アーチャー「別に珍しいことでもない。現にお前と咲も手を結んでいるだろう?」
キャスター「あらあら、私があの狗と協力ですって? 何を言い出すかと思ったら私の手駒に過ぎないアサシンとなんて」クスクス
アーチャー「手駒、だと……」
キャスター「ええ、あの狗を呼び出したのは私。キャスターである私がサーヴァントを呼び出して何の不都合が?」
アーチャー「成程、これであの門番の麻力が低いのも合点がいく。真っ当なマスターによる召喚ではないのだから当然だな」
和「でも、どうしてそんな真似を……?」
アーチャー「キャスターは街の人間からの麻力収集に専念し、築いた陣地の守備はアサシンに任せる。実に効率的だ」
和「じゃあ、もしかして最近清澄で起きている原因不明、患者も意識が戻らない事故と言うのは……」
アーチャー「ああ、この女の仕業だ。 麻力収集の邪魔になるライダーを始末し、蓄積されていた麻力を掠め取ったのもな」
和「無関係な人にまで手を出すなんて……」キッ
アーチャー「だが解せないな、キャスター。 溜めこんだ麻力をもう十分だろう、なのにまだこうも策を弄し続ける理由は何だ?」
キャスター「私が手を打っているのはその後の為、聖牌戦争に勝つなんて眼中にありません」ウフフフ
アーチャー「ほぅ、我々を倒すのは容易いと。逃げ回るだけが取り柄の魔女が笑わせてくれる」
キャスター「ええ、貴女程度ではかすり傷一つ負わすのも無理ですがその口の悪さには罰を与えないといけませんね」ギロッ
アーチャー「よく言った、キャスター ……では一撃だけ、それで無理なら後はセイバーに任せよう」ザッ
キャスター「……」クスッ アーチャー「……」ダッ
キャスター「 」スカッ アーチャー「……手応えがない。空間転移、いや固有時制御か」
キャスター「どこを見ているのですか、アーチャー?」クスクス
アーチャー「……いずれにせよ魔術にも長けたお前ならばその程度、不可能ではないか。見直したよキャスター」
キャスター「……私はがっかりしました、アーチャー。少しは使えるかと試したのにこれではアサシン以下ですね」ハァ
アーチャー「いやいや、これは耳に痛い。次があるならもう少し気を利かせるよ」
和「一体、今何が起きたのですか……!?」
キャスター「あらあらまぁまぁ……」クスクス
アーチャー「チッ、間抜け。まだ逃げていなかったのか……」
ドオォォン
和「離してください! 何を考えているのですか、貴女なんかに助けてくれなんて言った覚えはないですよ!!」
キャスター「あら……?」
アーチャー「折角助けてやったと言うのに、間抜け面を晒したまま結局死なれたら私の気分が悪いだろうこの馬鹿が!」
キャスター「……何をやっているんでしょうね、あの二人は」ガッ
アーチャー「チッ……」バッ
和「いいから離してください! このぐらい一人で何とかします!!」
アーチャー「……そうか、じゃあそうして貰うか」ブンッ
ゴロゴロ
和「ひ、人を投げるなんて貴女は何を……?」
アーチャー「クッ……」ピタッ
キャスター「気分はどうです、アーチャー? 逃げ足は達者でしたけど空間固定をされたら身動きは取れないでしょう?」
和「あの人、もしかして私を庇って……?」
キャスター「これで詰みのようね。どこの雀霊だったかは知りませんがこれでお別れですね」クスクス
アーチャー「……」ボソボソ
キャスター「あら、何かしらアーチャー? 命乞いなら聞いてあげても……」
アーチャー「戯けッ! 躱せと言ったのだ、キャスター!!」
ドォォォンッ
――――
アサシン「ふぅむ…… 上は上で思った通りには進んでいないようだな」
アサシン「こっちもマスターの危機だ、手の内を隠す余裕はなくなったが…… ここまで来ても宝具を明かさないのか、セイバー」
セイバー「……」
アサシン「それだけ己のマスターを信用している、ということか。羨ましい物だ」カツカツン
セイバー「……上家の有利を棄てるの、何のつもりアサシン?」
アサシン「大した雀士ではなかったが、それでも麻雀に捧げた人生だ。お前が死力を尽くせぬと言うのなら……」
アサシン「――― その信念、力尽くでこじ開けてやろう」ギロッ
セイバー「――― ッ!?」ゾクッ
アサシン「秘技…………」グッ
セイバー(まずい…… 右手の風王結界、間に合うッ……!?)
アサシン「―――――― 燕返し」シュゥッ
――――
キャスター「……アーチャー、何故止めを刺さないのです?」ハァハァ
アーチャー「……試すのは一撃だけと言っただろう?」
キャスター「では私をトバす気はないと……?」
アーチャー「この場に居合わせたのは私の独断でね。不必要な戦いは避けるのが主義だ」
和「貴女、関係ない人たちまで巻き込んだキャスターを見逃すつもりですか!?」
キャスター「面白い人たち…… なら貴女たちは似た物同士ということですね?」クスクス
和・アーチャー「「はぁ!?」」
キャスター「だってそうじゃない。そこのお嬢さんは無関係な人間を糧にする私が許せない……」
キャスター「アーチャー、貴女は無意味な殺戮を好まない…… ほら、全く同じじゃないですか?」
和「だっ……、誰がこんな人と同じなんですか!」
アーチャー「同感だ。平和主義であることは認めるが根本が大きく異なる」
キャスター「あらあら…… 気に入りましたわ、貴女たちの考えも能力も希少です。私と手を組みなさい」
和「お断りします。私は貴女みたいな非道な人とは絶対に手を組みません」
アーチャー「…………拒否する。 君の陣営は些か戦力不足だ、まだ与する条件じゃないな」
キャスター「そう、交渉は決裂ってことですか」
アーチャー「ああ、そして今夜はマスターの命令ではないから君を討つ理由もない。ここは痛み分けで手を打たないか?」
和「えっ……?」
キャスター「意外ですね。貴女のマスターもそこのお嬢さん同様、私の様なサーヴァントを許すとは思わないのですが」
アーチャー「そうだろうな、だが私にとってはお前がここで何人殺そうと与り知らぬことだ」
キャスター「あらあら、酷い女だこと……」スゥッ
――――
セイバー「い、今のは……」ハァハァ
アサシン「凌いだな、私の燕返しを……」
セイバー「……」キッ
アサシン「なに、そう大した芸じゃない。真剣勝負でツミコミを重ねていた内に身に着いただけだ」
アサシン「賭場での勝負では監視の目が厳しくてな。一呼吸の内に積み、入れ替え、開く三動作をしなければ間に合わん」
アサシン「……そんな物、人間の業ではない。だが生憎と他にやることもなくてな、気が付けばこの通りだ」クスッ
セイバー(……違う、一呼吸の内に重ねる? アレは全くの同時だった)
セイバー(あの瞬間、彼女は3つの行動を同時に行った…… 信じ難いが今のは次元屈折……)
セイバー(何も麻術も使わず、ただ技術だけで己の業を宝具の域まで達したと言うのかこのサーヴァントは……)
――――
和「……アーチャー、貴女はどうしてキャスターを見逃したのですか?」
アーチャー「ここでトバそうとした所でアレは逃げ果せただろう。キャスターを倒すのならマスターが先なのだ」
和「ですけど街で起きている事件はキャスターの仕業なんですよ! 彼女を止めなければ被害者が増え続けます」
アーチャー「……むしろ奴にはこのまま続けてもらいたいくらいだ」
和「なっ……!?」クルッ
アーチャー「キャスターは人々から麻力を集め、その力でバーサーカーを倒す。私たちはその後でキャスターを倒せばいい」
和「咲さんがそんなこと許す訳ありません!」
アーチャー「そうだな。だからこそキャスターには手早く済ませて欲しいのだが奴は手緩い……」
和「は……?」
アーチャー「いっそ命まで奪ってしまえばより早く麻力を集められると言うのに……」
和「貴女って人は!!」ブンッ
アーチャー「……何の真似だ、我々は協力関係ではなかったのか?」
和「ふざけないでくだい! 私は貴女とは違う。勝つ為に、結果の為に周囲を犠牲にするなんて絶対にしません!」
アーチャー「……フッ、貴様がそんなことを口にするとはな。 まぁいい、その理想は私も同じだ原村和」
アーチャー「だが全ての人間を救うことなんて出来はしない。キャスターが聖牌を手にしたら被害は清澄だけでは留まらんだろう」
アーチャー「私たちが勝利せねば被害は更に大きくなる。……ならばこの街の人間には犠牲になってもらうしかないだろう?」
アーチャー「その結果で被害が抑えられるのならお前の方針と同じだろうさ……」
和「……」スクッ
アーチャー「キャスターを追うつもりか? せっかく助けたやった命を無駄に……「黙ってください!」……ん?」
和「……頼まれても貴女なんかの手助けなんて必要ありません」
アーチャー「……そうか、懐かれなくて何よりだ」
和「……」
アーチャー「……」ブンッ
和「なっ……!?」ザクッ
アーチャー「戦う意義のない原村和はここで死ね。自分の為ではなく、誰かの為に戦うなどただの偽善だ」
アーチャー「お前が求めるのは勝利ではなく平和だろう? そんな物、この世のどこにも有りはしないと言うのにな……」
和「な、何を……」
アーチャー「―――――――― さらばだ。理想を抱いて溺死しろ」
ザシュッ
ゴロゴロ
和「ぁ……」ドサッ
セイバー「和!?」ダッ
アサシン「……女狐め、尻をまくったな」
和「セイバー、さん……」ガクッ
セイバー「……アサシン、何故私を今仕留めなかったの?」
アサシン「なに、見惚れていただけだ。闘牌中の顔も良かったが、マスターを想う張りつめた顔も捨て難がったからな」フッ
アサシン「……今夜はこれで十分。立ち去るといい」
セイバー「……私たちを見逃すと言うの?」
アサシン「見逃すさ、良い好敵手とは得難いからな。万全でなければ勿体なくて仕留められん」
アサシン「……それともこれを貸しと思うか、セイバー?」
セイバー「当然。 ……辻垣内智葉、非礼を謝らせて。貴女は最初から全力を尽くすべき相手だった」
セイバー「貴女との決着は必ず果たす。この聖牌戦争がどのようになろうとも必ず……」
アサシン「……ん?」ピクッ
セイバー「アーチャー!?」
キィィンッ
アーチャー「……邪魔をするつもりか、アサシン?」
アサシン「それはこっちの台詞だ。見逃すと言った私の邪魔をする気か?」
アーチャー「キャスターの手駒風情が大した口を叩く……」ギロッ
アサシン「あの女の慌てた顔でも拝めるかと行きは見逃してやったと言うのに、おめおめ逃げ帰ってくるとは失望したぞ……」
アーチャー「フンッ!」カキン アサシン「ハァァッ!!」キィィン
セイバー「……行こう和、今の内に」
――――
美子「戦いが始まってからここに足ば運んだのは君が初めてだ、歓迎する」ニヤリ
まこ「ここに来りゃぁ保護して貰えるゆぅて聞いて来たがほんまじゃろうな……」ハァハァ
美子「では戦いば放棄するのか、少女よ?」
まこ「あ、当たり前じゃろ! サーヴァントがおらにゃ戦えんし、マスターなんてやってらりゃぁせん!!」
美子「そうか……」フッ
まこ「なんじゃ、何か文句でもあるんか!?」
美子「……まさか、君は今回初めての放棄者であり新道寺始まって以来ん使用者ばい。丁重に持て成そう」
まこ「何じゃと、リタイアしたんわワシだけだと言うんか…… こんなことじいさんに知られたらワシは……」
まこ「それもこれもアンタらのせいじゃぞ! ライダーなんてカスを掴ませおって!!」
美子「ほぅ……、ではライダーは役に立たんかったと?」
まこ「そうじゃ、あかぁな役立たず掴まされた上に2対1だぞ! そがぁなもん最初から勝ち目ある訳なかろぉが!!」
まこ「負けたのは単にサーヴァントの質の差じゃ!それをアイツら偉そうに勝ち誇りおって……」ギリ ギリッ
美子「…………つまり君にはまだ戦う覚悟がある、ちゅうことだな?」
まこ「え……」
美子「君は運がよか。丁度一人手ん空いとるサーヴァントがおってね……」ニタァ
――――
咲「……あ、和ちゃん!?」
和「おはようございます、咲さん。どうしたのですか、そんなに驚いて」
咲「いや、だって和ちゃん大丈夫なの? ……その、昨日のことアーチャーさんから聞いて」
和「そうでしたか…… 体の方は無事とは言えませんが学校に来れる程度には」
咲「そうだったんだ。当分は動けないぐらいの怪我を負ったはずだって聞いていたから驚いたよ」
和「ええ、セイバーさんも私の回復力には驚いていました。正直、私自身も信じられないくらいです」
咲「和ちゃん本当に大丈夫? 無理とかしているんじゃないの」
和「はい、大丈夫です。セイバーさんが言うには彼女と何らかの麻術リンクの作用で回復が早いんじゃないかと」
咲「そっか、安心した…… それで和ちゃん、ちょっとお話いいかな?」
――――
和「……それで咲さん、お話とは何でしょうか?」
咲「……うん、昨日のことだけど本当にごめんなさい!」ペッコリン
和「えっ?」キョトン
咲「いや、だってアーチャーさんが和ちゃんのことを……」
和「それは咲さんが謝ることじゃありません。それに私も悪かった所もありましたし」
咲「でも元々は私がアーチャーさんに自由にしてもらってたのが悪いんだし……」
和「いいえ、確かに彼女には酷い目に合されましたが、でも彼女がいなければ命を落としていたかもしれませんから」
咲「アーチャーさん、和ちゃんやセイバーさんのことになると普段と違う感じになっちゃうのはどうしてなんだろう……」
和「……もしかしたら雀霊になる以前にセイバーさんと何か縁があった人なのかもしれませんね」
咲「そうかな…… それでね、令呪を使ったんだ。和ちゃんたちと協力している内は絶対に手出ししないでって……」
咲「こんなことじゃ済まされないって分かっているけど、本当にごめんなさい……」
和「わかりました。咲さんがそこまでしてくれたのですから今回はこれでお終いにしましょう」ニコッ
咲「う、うん…… ありがとう、和ちゃん」
和「ええ、今の私たちにはもっと大事なことがありますし何時までも済んだことを気にしても仕方ないです」
咲「もっと大事なこと……?」
和「染谷先輩が言っていたじゃないですか、この学校には4人目のマスターがいるって……」
咲「あ、そうだったね。アーチャーさんの話だと多分その人がキャスターのマスターだろうって」
和「あんな無関係ない人まで襲うサーヴァントを平気で使うなんて信じられません……」
咲「うん…… でも、アーチャーさんはこうも言ってたよ。キャスターのマスターは操られているんじゃないかって」
和「どういうことですか?」
咲「普通のマスターならあれほど策略に長けたキャスターを召喚したなら例え令呪があっても警戒する、と……」
咲「なのにその上にキャスターの手足となるアサシンの召喚を許すなんて考え難いって言ってた」
和「なるほど、それならばあの子がマスターであってもおかしくありませんね……」
咲「あの子……? もしかして和ちゃん、4人目のマスターが誰なのか見当がついているの?」
和「ええ、恐らくですが優希がマスターなんじゃないでしょうか……」
咲「えっ!? そんな、よりにもよって優希ちゃんがマスターだなんて有り得ないよ」
和「いえ、その思い込みは危険です。 思い出してください咲さん、マスターの条件はまず麻力に優れた者だと」
咲「うん、確かに優希ちゃんならマスターに選ばれてもおかしくないけど……」
和「……それに優希なら簡単に操られちゃいそうじゃないですか?」
咲「う、うん……」
和「私だって友人を疑うのは気がひけます。けれどこうまで疑うべき余地があるとしたら仕方がありません」
咲「わかったよ、和ちゃん。むしろ早く疑いを晴らすことが優希ちゃんのためになるんだよね」
和「ええ、私もそう思います。 ……でも、いざ疑いを晴らす方法となると困りますね」
咲「そうだね、本人にマスターですか?って聞いても教えてくれる訳ないもんね」
和「……仕方がありません。少し強引ですが良い方法があります、咲さん協力頂けますか?」キリッ
続き待ってた
――――
カチャッ
和・咲「……」
優希「のどちゃんに咲ちゃん、か……?」
咲「……ごめんね、優希ちゃん」ボソッ
優希「……じょ?」
和「……優希、何も聞かず裸になってください」
優希「……じ、じょじょッ!?」
和・咲「……」カツン カツン
優希「な、何を言ってるんだじょ二人とも!? 冗談にしては二人とも顔が怖いじょ!!」
咲「……ううん、冗談なんかじゃないよ優希ちゃん。でも大丈夫、他人が来る前にすぐに済ますから」ジリ ジリッ
優希「だ、大丈夫って何がだじぇ!? 今の私には思いっきり不安しか感じないじょ!!」カタカタ
和「私たちを信じてください、優希。 ……私たちも慣れていませんので抵抗されると痛くしちゃうかもしれませんし」ジリ ジリッ
優希「じょッ~~~!!!」///
咲「良かったぁ。うん、本当に良かったよ!」ニコニコ
和「ええ、これでスッキリとしましたね!」ニッコリ
優希「ひ、酷いじょ…… 嫌がる私を無理やり二人で絶え間なく隅々まで……」
咲「優希ちゃん、他人が聞いたら誤解されちゃうからそういう言い方はちょっと……」
優希「誤解じゃないじょ、全部事実じぇ! それにここまでして何もないってのはレディに対して失礼だじょ!」プンスカ
和「ごめんなさい、優希。 ……あ、それはともかくちょっと気が付いたのですが」
優希「それはともかくって…… 何だじょ?」ブー
和「貴女、また少しお腹がぷっくりしていましたよ? 規則正しい食生活を心がけなさいってこの前も注意したはずですよ!」
優希「この流れで私がお説教されるの!?」ガーン
ガラッ
健夜「……騒々しいわね。何をしているの?」
優希「あ、小鍛治せんせ。ごめんなさいだじょ」ペッコリン
健夜「……片岡さん、例え昼休みでも節度は守る様に。それと部活動のことだけど集団下校期間内は休止になったから」
優希「はい……」
健夜「染谷さんは今日は欠席しているからこの事は貴女が代わりに部員に伝えておいてね……」スッ
優希「わかりました……」コクッ
咲「そうか、今は小鍛治先生が麻雀部の顧問をしているんだっけ。私、あの先生の授業まだ受けたことないんだ」
和「私は倫理で受けたことがありますが粛々とした教え方で良い先生ですよ。まぁ、でも人を寄せ付けない雰囲気はありますね」
優希「へぇ、そうだったのか。 私はてっきり体育とかの先生だと思ってたじぇ」
和「……どうしてです? 小鍛治先生から体育会系的な印象は受けないのですが」
優希「あー、昨日の薬品漏れがあったじょ? あの時、私は何とか動けたんだけど」
咲「あ、あの中でも動けたんだ。やっぱり凄いね優希ちゃん……」
優希「いや、流石の私も職員室には辿り着けなかったじぇ…… で、気を失う前に見たんだじょ」
咲「……見たって何を?」
優希「う~ん、まぁはっきり見たって訳じゃないんだけど小鍛治せんせっぽい人をだじょ」
和「えっ……」
優希「あんな中でも普通にしてた感じだったし、アレは相当に鍛えていると睨んだじぇ!」キラーン
優希「……で、体育の先生だろうなぁって思ったんだけど外れみたいだな」
咲「……和ちゃん」
和「……ええ、わかっています」
優希…不憫な子…
――――
セイバー「……状況は理解した。つまりその人がマスターかどうか調べたいと言うことなんだ」
咲「うん、優希ちゃんの話だと小鍛治先生は麻雀は全く打てないみたいだけど……」
和「ですが疑わしいのも確かです。そこでセイバーさんの照魔鏡で麻力反応を見てもらおうと」
咲「確かマスターなら例えどんなに僅かであろうと必ずサーヴァントと麻力の繋がりがあるんですよね?」
セイバー「うん…… でも本来の照魔鏡の使い方とは違うから上手く反応してくれるか自信はない」
和「どうしても判断が難しい時は更に調査をします。 ……ですが今はマスターだった場合を想定すべきでしょう」
セイバー「その時は私はギリギリまで潜んで一撃でトバせばいいと…… でも咲、どうしてこんな時にアーチャーがいないの?」
咲「色々考えたんですがアーチャーさんは昨日のこともあるから……」
和「まぁ今夜はセイバーさん一人で十分でしょう。そろそろ時間です、配置に着きましょう」
――――
健夜「……」カツン カツン
和(来ましたね……)ヒソ
咲(うん。あともうちょっとで照魔鏡のとこに……)ヒソ
パリンッ
咲(照魔鏡が割れた!? これってどういうことなの……)
キャスター「……だからお諫めしたじゃないですか、健夜様。このようなことになるから学校になど行く必要はない、と」スゥッ
健夜「……そうでもないよ。実際に獲物が釣れた」
和(キャスター!? じゃあやっぱり小鍛治先生がマスター……)
キャスター「ではこんなお粗末な罠を仕掛けた方にはそろそろ出てきて頂きましょうか?」クスクス
咲(どうしよう和ちゃん、もうセイバーさんに出てきてもらう?)ヒソ
和(……ギリギリまでこっちに注意を引き付けます。咲さんはこのまま隠れていてください)スッ
咲(和ちゃん!?)
キャスター「あら、やっぱり昨日のお嬢さんでしたか。今夜は素直で助かります」
和「……小鍛治先生、貴女はキャスターに操られているのですか?」
健夜「……その質問の出所はなに、原村さん? 疑問には理由があるはず、言ってみて」
和「先生は真っ当な方だと思っています。ならキャスターのやっていることを見逃している筈はないと思いました」
健夜「……キャスターのやっていること?」
和「ええ、キャスターは街中の人から麻力を集めています。そのサーヴァントは人の命を何とも思っていません……」
和「キャスターが麻力を吸い上げ続ける限り死んでしまう人だって…… このままだと大惨事にも成りかねません!」
健夜「……成程、マスターである私がキャスターの所業を放置しているのは彼女に操られていると考えたんだね」
和「はい。そういうことなら私たちはキャスターだけを倒します」
和「……ですが、もし先生が分かった上でキャスターを好きにさせているのなら、貴女もただの殺人鬼です」キッ
健夜「……いや、今の話は初耳だったよ」
和「あ……」ホッ
健夜「……でも原村さん、キャスターの行いはそう悪い物なの?」
和「え……?」
健夜「……他人が何人死のうが私には関わりがないこと。私が生きていることを他人が問題視しないように」
和「……貴女、それでも教師なんですか!人間なんですか!!」
健夜「……私はそんな物ではない。只の朽ち果てた真剣師、打つためだけにあった道具」
健夜「……故に人間の営みや命であろうと、例え聖牌であろうと真剣勝負以外のことには等しく価値を感じない」
健夜「……貴女がキャスターと打つというのなら傍観する。じゃあ後は好きにして、キャスター」
キャスター「……」ニヤッ
和「仕方ありませんね…… セイバーさんッ!!」
セイバー「……ならこの場でトバされても構わない覚悟もあるんだねキャスターのマスター!!」ギュルルルッ
キャスター「健夜様ッ!!」
ドォォォンッ
セイバー「なっ……!?」
健夜「侮ったね、セイバー……」ビシッ
和「嘘……、素手でセイバーさんの右腕を止めた……」
健夜「フンッ!!」ドォンッ セイバー「……ガッ!?」ズサッ
健夜「今のでトバせなかった…… 読みがいいって言うよりは恐ろしく勘がいい……」ズンッ
セイバー「あ…… ぁ……」ガクッ
和「そ、そんな…… 人がサーヴァントをトバすなんてオカルト、有り得ません……」
健夜「マスターの役割は後方支援と決めつけるのは構わないけど例外は常に存在する……」
健夜「……私みたいに前に出て打つしか能のないマスターもいるんだよ」
セイバー「……」
キャスター「マスター、セイバーには私が止めを刺します。貴女はあのお嬢さんを……」
健夜「……」コクッ
和「くっ……」タジッ
咲「……大丈夫だよ、和ちゃん。また私がいるから」ゴッ
和「駄目です咲さん! 早く逃げてください!!」
健夜「宮永さん…… そう、貴女もマスターだったんだ」
咲「ううん、ここで逃げる訳にはいかない。 ―――― 令呪を以て命ず。来て、アーチャーさんッ!!」
ドォォォンッ
アーチャー「済まない、咲。遅くなった……」ギロッ
咲「セイバーさんがやられた。キャスターのマスターとは打ち合いは避けて……」
アーチャー「……了解した。距離を保って射抜くのは弓兵の本分だ、任せてくれ」
健夜「……ここまでだね、キャスター。退くよ」
キャスター「わかりました。こちらは目的を果たせましたから……」スッ
アーチャー「あれはまさか……!? 目を覚ませ、セイバー!!」
セイバー「……ぅ、うん?」ボー
キャスター「気付くのが遅かったですね、アーチャー そう、これが私の宝具・ルールブレイカーですッ!!」ザクッ
セイバー「アァァァッッッ!!!!」ドンッ
和「セイバーさん!? 令呪が消えて……!?」キュインッ
アーチャー「ルールブレイカー…… この世界のあらゆる麻術を否定する裏切りの否定の剣」
アーチャー「己が宿業を他者にも担わすとはいかにも貴様らしい宝具ではないか、裏切りの巫女よ」ニヤッ
キャスター「その忌み名で私を呼ぶからには覚悟があるんでしょうね……」ギリッ
健夜「……キャスター、事が済んだのならここに留まる理由はないはずだけど?」
キャスター「……失礼しました。 運が良いわね、アーチャー。今は負け犬の遠吠えとして聞き流してあげます」ニコッ
キャスター「セイバーも私の物になった今、貴女たちの出来ることは私たちが聖牌を掲げるのを眺めるだけですものね」スゥッ
和「待ってください、セイバーさんを貴女なんかに渡し……!?」ドサッ
咲「和ちゃん!? しっかりして、和ちゃん!!」
アーチャー「……キャスター、勝利を確信するにはまだ早計であったと思い知らせてやる」
――――
咲「……それでアーチャーさんの方は大丈夫ですか?」
アーチャー「大丈夫とはどういうことだ、咲? 君が何を尋ねているのか明瞭にして貰わないと答え様がない」
咲「いえ、さっきの戦いの後からどこかアーチャーさんが元気がなさそうで……」
アーチャー「……私が? ふむ、どうして咲がそう思ったのか理由を聞かせてもらえるかな」
咲「それはやっぱりセイバーさんが連れ去られちゃったからですよね。ずっとセイバーさんのこと気にしていたみたいですし」
アーチャー「……いや、そんな素振りを見せた覚えはないのだが何を以てそう思う、咲?」
咲「う~ん、女の勘ってのじゃダメですか?」
アーチャー「却下だ。女という歳か、君は? まず色香が足りない。優雅さも不足だ」
アーチャー「おまけに…… ああ、これが致命的なのだが、とにかく可愛さが判りづらい」
咲「ふふ、ようやくいつものアーチャーさんっぽくなりましたね」クスッ
アーチャー「……」フッ
咲「じゃあ今度は真面目に答えます。そう思った理由の一つはセイバーさんに初めて会った時のことです」
咲「……あの時のアーチャーさん、手を抜いていませんでしたか?」
アーチャー「……ほぅ」
咲「いくらセイバーさんが強くてもアーチャーさんがあんな簡単にトバされそうになるなんて考え難いんですよね」
アーチャー「……あれは不意打ちだったからな。君と同じ、予想外の展開には弱いんだ」
咲「うぅ…… それで二つ目の理由。アーチャーさん、いつもセイバーさんにもキツく当たっていますよね?」
咲「……でも嫌いだからって感じじゃなくって、どこか叱ってる様な雰囲気を感じるんです」
アーチャー「……」
咲「あ、正解ですか? もしかしたらアーチャーさん、 雀霊になる前にセイバーさんと関係があったんじゃないですか?」
咲「―――― ……で、そろそろ自分の真名を思い出しました?」
アーチャー「……いや、霧がかかったままだ。だが君の言う通りあのセイバーには見覚えがある」
アーチャー「あちらは知らない様だからあまり深い関係ではなかったようだが……」
咲「ふぅん…… バーサーカーと戦った時もすごく息が合ってたから絶対関係ある人だと思ったんだけどなぁ」
アーチャー「……それより咲、連れ込んで来た者の様子はどうだ?」
咲「和ちゃんの状態はあまり良くない…… キャスターに特に何かされた訳じゃないのに凄く体が痛いって」
咲「最近はすぐに怪我が治るって言ってたけどセイバーさんとの契約が切れたからか全然治らないんだ……」
アーチャー「そうか…… ではあの小娘との契約もここまでだな」
咲「え……?」
アーチャー「え?ではない。 原村和はマスターではないのだろう?ならば共闘する理由はなくなっているはずだが」
咲「それはそうですけど……」
アーチャー「いま優先すべきはキャスター退治だ。セイバーが完全に操られる前に手を打たねば奴等を倒すのはより困難になる」
咲「うん……」
アーチャー「分かっているのならそれでいい。連戦で疲れているだろう、暫く休んだ後に我々も行動に移ろう」
――――
美子「では新子憧、暫く彼女のサーヴァントとして動いてもらうが構わないかね?」
アコ「ああ、構わないわ。 あれだけ笑わせてくれるのはそう滅多にいないもん、当分は飽きずに済みそうだし」クスッ
美子「そうか、気に入ってもらえて何よりばい」
アコ「で、アンタの方はいいの? セイバーを手に入れたキャスターが調子コイて乗り込んできてもおかしくない頃合いだけど」
美子「あん女には目くらましん役に立っちもらうが、あん詰めの甘かモンに討たれる程度ならそれまでばい」
アコ「それもそうね。案外あの女、根は善良なのかもしれないわね」クスクス
美子「……それよりも龍門渕が大人しいのが気になっと。あん新しか頭首んお嬢さん、何ば企んでいるんか」
アコ「ああ、その名前は覚えてる。この聖牌戦争を作った連中の一つだっけ、その龍門渕ってのが」
美子「そうばい。今更“始まりの御三家”などに儀式ん遂行ば邪魔されるんは上手か話ではなか」
アコ「なら仕掛けられる前にこっちから出向いてみましょ。あの大雀霊ならきっと私の倦怠も晴らしてくれるでしょうし」ニタァ
おつ
――――
咲(―――― 体は弓矢で出来ている。血潮は鉄で心は硝子)
咲(―――― 幾たびの戦場を越えて不敗。ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない)
咲(―――― 彼の者は常に独り弓矢の丘で勝利に酔う。故に、生涯に意味はなく)
咲(―――― その体は、きっと弓で出来ていた)
―――― またあの夢だ。
―――― 荒涼した風景の中、彼女はまた立っていた。ただ風に靡いていたあの美しい藍色の髪が銀髪に変わっていた。
―――― 脈絡もなく視界が変わる。血に塗れた雀卓。周囲に斃れている無数の人々。そして弓を握り立ち尽くす彼女。
―――― 地獄。そう形容するのが相応しい様々な凄惨な卓に彼女はいた。そして、また独りあの丘に帰ってくる。
咲「……ん、寝ちゃってたんだ」ウトッ
咲「そっか…… あれってアーチャーさんの記憶、なんだ……」
コンコン
アーチャー「咲、目を覚ましたか?」
咲「……どうぞ、もう起きていますから」
アーチャー「……やれやれ、君も年頃の女性なら人を招き入れる時は寝ぐせを直す程度の気は使うべきだと思うがね」ハァ
咲「うそっ!?」///
アーチャー「まぁ君も大分疲れていたのだろう。 まだ万全でないなら見合わすか?何も今すぐ仕掛ける必要はない」
咲「ううん……、アーチャーさんの言う通りセイバーさんが完全に制御される前に動かないとますます後手になっちゃうから」
アーチャー「そうか、咲が決めているのなら口を挟む余地はないな。では現状の報告をしておこう」
咲「……え、私たちが休んでいた間に何かあったのですか?」
アーチャー「ああ、新道寺がキャスターに襲撃された。監督役の生死は不明、そして奴らは新道寺から動いていない」
咲「どうしてそんなことを……」
アーチャー「さて、キャスターたちの意図はわからないな。だが我々にとっては悪い展開ではないな」
咲「それはどうしてですか?」
アーチャー「アサシンは山門から動いている様子はない。恐らく奴は山の設備を憑代として召喚されているからだろう」
咲「……つまりキャスターの戦力が今は薄くなっているっていうことですか」
アーチャー「そう言うことだ。キャスターを叩くと言うのなら悪い機ではない」
咲「わかりました。 ……それで和ちゃんの容態は?」
アーチャー「いや、相変わらずのようだ。時折部屋の外まで呻き声が聞こえていたから死んではいないようだが」
咲「そう…… きっと和ちゃんのことだから起こしちゃったら付いて来ちゃうよね」
アーチャー「だろうな……」
咲「じゃあ今の内に行くしかないね。これ以上は和ちゃんまで巻き込めない」スクッ
――――
和「さ、咲さ……ん……」
和「待って……くださ…… 痛っ!」
和「……」ハァハァ
和「体がまともに動いてくれない…… いえ、そんな甘えたことを言っている暇はないですね」
和「確か新道寺と聞こえました。急がないと咲さんだけでキャスターに……」ガクッ
ガシャン
和「あ、テーブルが。後で咲さんに謝らないといけませんね…… これは……?」
和「……私のマスコット? いえ、咲さんと交換した物はちゃんと鞄に付いていますし……」
和「同じ物をまた買った……、にしては随分とこっちは古ぼけた感じがしますね。所々縫い直した跡もありますし」
和「……あ、血をつけてしましましたね。きっと大事な物なんでしょうし、これも咲さんに謝らないと」
和「さて、こんなことで時間を費やしている時間はありません。私も新道寺に行かないと……」ヨロッ
――――
セイバー「んッ……」ハァハァ
キャスター「健気なことですね。貴女がいくら拒み続けてもサーヴァントとして作られた体は抗えません」
セイバー「くっ……」ギリッ
キャスター「令呪が少しづつ浸食していくのが分かりますよね? 抵抗を止めた方が楽になれるのに強情ですね」クスクス
健夜「……こんな所で何をしているの、キャスター?」
キャスター「マスター!? 何故ここに?貴女には向こうにいて頂く様にお願いしたはずですが」
健夜「……質問しているのはこっちが先。何をしていると聞いているんだけど?」
キャスター「はい。昨日、原村和から奪ったこのサーヴァントの調教を……」
健夜「……それは分かった。でもそれはここを襲撃した理由ではないでしょうし、そんな指示を出した覚えもないよ」
キャスター「……私の独断です、マスター。襲撃の目的はこの新道寺を秘匿されていた聖牌の器を手に入れるため」
キャスター「管理役のシスターは仕留めました。ですが聖牌の行方は不明です……」
健夜「……戻らなかったのは聖牌が見つからなかったからなんだね。状況は分かった。理由を説明できる?」
キャスター「独断専行、申し訳ございません……」ペッコリン
キャスター「……ですがこれも全て貴女の為。私の目的は貴女を勝利させることだけです。理由などそれ以外にありません」
健夜「……そう。なら私もここを離れる訳にはいかないね。貴女は納得行くまで探索を続けて」
キャスター「いえ、それには及びません。聖牌の探索には時間を必要とします。向こうに居る方が貴方の身は安全です」
健夜「……正論だね。でもそれでは私の目的が果たせなくなる」
キャスター「……健夜様?」
健夜「急いでね。絶対にいま必要な物じゃないのだから手に入れられなくても構わない。成果は問わない、結果だけ出して」
――――
咲「血の跡…… ここにいたあのシスターさんもトバされちゃったのかな」
アーチャー「……教会が派遣した者がそうも簡単に飛ぶかな。それより咲、乗り込む前に一つ聞いておきたいことがある」
咲「何ですかアーチャーさん?」
アーチャー「確かにキャスターを叩くのなら今は好機かもしれない。だが君に何か勝算はあるのか?」
咲「正直特には何も…… でも待っていても状況は余計悪くなっちゃうって思ったから……」
アーチャー「咲の判断は誤りではないだろう。だが今回の積極的な行動に君らしさを感じないのはどうしてだろうな?」
咲「私らしさ……?」
アーチャー「先ず勝算を確信できない戦いに挑もうとすること自体らしくないと言うのだ。今回は何か特別な理由があるとでも?」
咲「それは……」
アーチャー「……もしセイバーを誰かと重ね、それが君を急かす理由ならば挑むべきではない」
咲「そんなこと、ないです……」
アーチャー「ならばここは退くべきだ。状況は悪化するだろうがまだやり様はある。セイバーは諦めろ」
咲「そんな……!? アーチャーさんはいいんですか、このままだったらセイバーさんは……」
アーチャー「……彼女は元から排除すべき敵の一人だ。戦うことを厭う理由は私にはない」
咲「冷たいんですね、アーチャーさん。貴女だったらきっと……、あの人を助けるのだって……」
アーチャー「咲、以前にも言ったが我々サーヴァントはこの世界に似た者がいても非なる別個の存在だ」
アーチャー「故に私は彼女に何の感情を抱くこともない。同様にセイバーもまた私に何ら思うこともなかろう」
咲「……分かりました。じゃあ私一人でもセイバーさんを取り戻します」
アーチャー「冷静になるんだ。君ひとりで何が出来ると言うのだ?」
咲「何も出来ません。けれどもう何もしないで後悔をするのは嫌なんです!」
アーチャー「後悔、か……。 分かった、私の負けだよマスター。君を護ると誓った身だ、共に行こう」
咲「アーチャーさん!」
アーチャー「そうだったな。ここぞと言う所では絶対に自分の意思を曲げなかったな、君たちは……」ボソッ
――――
和(間に合ったのでしょうか。戦いはまだ始まっていないようですが……)ハァハァ
アーチャー「……ん」チラッ
和(……ッ!? 今一瞬こっちを見た?あの人、私がここにいるのに気付いたのでしょうか)
咲「……もう一度だけ言います。セイバーさんを今すぐ解放してください」キッ
キャスター「そんな怖い顔して睨んでも駄目ですよ。貴女のその麻力とそのサーヴァント、とても興味深かったのですが」クスクス
セイバー「……ンッ」ハァハァ
咲「……打つのなら早く済ませましょう。私は貴女みたいな人なんかと絶対に手は組みませんから」ギロッ
キャスター「あらあら、随分と嫌われたものねぇ。折角命だけは助けてあげるって言ってあげてるのに」
和(セイバーさんはまだキャスターに支配されきっていないようですね。けれど……)
アーチャー(不味いな。セイバーの姿を目にしてから咲がすっかり冷静さを失ってしまっている。このままでは……)
咲「もう小鍛治先生のことも分かっています、この前みたいに行くなんて思わないでくださいね」
健夜「……」スッ
アーチャー(ここまで、か……)チャキッ
咲「貴女はここでゴッ倒します。 ……アーチャーさん、打ち合わせ通りでお願いしますね」
アーチャー「……」
咲「……アーチャーさん?」
アーチャー「……」バシィ
ドタンッ
健夜「……?」
キャスター「えっ……?」
咲「……い、痛ぃ どういうつもりですか、アーチャーさん……!?」
アーチャー「……さて、彼女をここで倒すと言うのは理想論だと思ってね」
アーチャー「逃げると言うならば彼女は当代一だ。何しろ逃亡の為に己の主をも手を掛ける女だからな」
キャスター「知った様な口を叩くのですね。貴女には私の正体を分かっているのですか?」
アーチャー「君の打牌から神境の力を感じる。だが魔なる物の能力も備えるとなると姫を守護する天倪の者のみと聞く……」
アーチャー「鹿児島神境六仙女、岩戸霞は裏切りの巫女と謳われたそうだが」
キャスター「クッ……」ギリッ
和「……まさかあの人!?」
アーチャー「フッ…… さてキャスター、一つ尋ねるがお前の許容量にまだ空きはあるのだろうな?」
キャスター「!? あは……、あははッ!! 当然です、一人と言わず全てのサーヴァントを扱えるだけの貯蔵はあります」
アーチャー「ならば話は早い。以前の話、受けることにするよキャスター」
咲「アーチャーさん……?」
キャスター「……あの時は断ったのに?」
アーチャー「状況が変わった。セイバーがそちらにいるのなら勝てる方に着くのは当然だろ?」
キャスター「……私は裏切り者を信用しません」
アーチャー「確かにな。私は私の為に降るのだ。そこに信用を忠誠もない。だがサーヴァントとは元からそう言う物ではないか?」
キャスター「ふん、いいでしょう。貴女一人を御しえないようでは私の器が知れると言う物……」チャキッ
キャスター「貴女の思惑にはまってあげましょう」ザクッ
キイィィィンッ
咲「クッ、令呪が……」ビリッ
健夜「……」スクッ
和「咲さんッ!!」バッ
咲「和ちゃん、どうしてここに!?」
キャスター「あら、最後まで隠れているものだと思っていたのに驚きました。けれど貴女達はここでおしまいですね」クスクス
アーチャー「……いや、待てキャスター。お前の軍門に降るには一つだけ条件をつけたい」
キャスター「……条件ですって?」
アーチャー「無抵抗で自由を差し出したのだ、その代償としてこの場では奴等を見逃してやれ」
キャスター「言動のわりには甘いのですね、貴女」
アーチャー「なに、傷心の元主をトバすのは雀霊としてどうかと思ってね」フッ
キャスター「裏切り者のくせによく人並のことを言えたものですね」ギロッ
キャスター「今回は見逃してあげましょう。けれど次に目障りな真似をしたら……」
アーチャー「当然だ。勝ち目のない戦いを挑む愚か者なら容赦なくトバすことができる」
和「……行きましょう咲さん、今はあの人の言う通りです」キッ
アーチャー「恨むのなら筋違いだぞ、咲。マスターとしてこの女の方が優れていただけの話だ。 ……私は強い方を取る」ニヤッ
咲「……私は絶対に諦めない。キャスターを倒して貴女も取り戻します。 ……その時に謝ったって許さないんだから」ギリッ
――――
咲「……」トボトボ
和「……ッ!?」ズキン
咲「大丈夫? そんな体で無茶したら当然だよ、少し休もう」
和「いえ、このぐらい平気です。今は少しでも早く家に帰りましょう、私ならそう辛くありませんから」
咲「あんな大怪我して辛くないなんて嘘だよ。そんな体であんな所に来たら死んじゃっていてもおかしくなかったんだよ!」
和「すいません。危険なのは理解していたつもりだったのですけど……」
咲「分かっていたのに来るなんてもっと酷いよ! 傷が悪化するのも当然だよ。なのに辛くないなんて……」
和「……だって咲さんの方が辛いはずですから」
咲「……えっ」
和「だから帰りましょう。家に戻れば弱音を吐いたって良いんですから」
咲「ぁ……」ポロポロ
和「あ…… え、えっと……」アタフタ
――――
咲「泣いたらなんだかスッキリしたよ。迷惑かけちゃってごめんね、和ちゃん」
和「いえ、そんなことありません。それよりもう大丈夫ですか、咲さん?」
咲「うん、何とか…… 同じ景色なのにそこに見える人が変われば景色も変わって見えるって本当なんだね……」
咲「私っていつもこうなんだ、自分のせいで大事な人が周りからいなくなっちゃう……」
和「そんな、咲さんのせいなんてことは……」
咲「ううん、私が悪いんだって自分自身が一番わかっているから」
和「もし……」
咲「……?」
和「もし、咲さんにとって私がその…… 大事だと思って頂けても私はいなくなりません!ずっと御傍にいます!!」///
咲「……!? ありがとう、和ちゃん。それに、『もし』じゃないよ。和ちゃんも私にとって大事な人だから」ニコッ
和「ぁ…… そ、そうでした大事なことを言い忘れていました」///
咲「大事なこと?」
和「え、ええコレなんですけど。申し訳ございません、先程こっちに向かう際に血で汚してしまって」ペッコリン
咲「え、これって和ちゃんのマスコットじゃないの?」キョトン
和「……いえ、私のなら家にある鞄にありますけど」
咲「同じ物が二つ……?」
和「私が咲さんと交換した物はこの世に二つはないですが、同じ物ならば普通に買えるんじゃないでしょうか?」
咲「そ、そうかな……」ドキッ
和「でも同じ製品だとしても不思議なんですよ。ほら咲さん、これをよく見てください」
咲「う、うん」ジッ
和「こっちのは色もあいぶ褪せていますし、縫い直した跡なんかもあって随分と古めかしいんですよ」スッ
咲「本当だ、コレってそんな昔から売って…… ――――!?」ゾクッ
和「……どうしたのですか、咲さん?」
咲「……ううん、何でもない。 それより寒くなってきたしそろそろ帰ろうか」スクッ
和「あ、はい……」
咲(……違う。これは世界に同じ物が絶対に存在しない。同じ色で後ろに刺繍されたTM……)
咲(これはあの時、私がお姉ちゃんに渡せなかった物だ。 そうか、結局これは別の世界でも渡せない運命なんだね……)
咲(でもあの人はきっと、あの時の約束を果たそうとずっと持っていてくれたんだ……)
――――――――
――――
――
照「……」クルッ
咲「待って、お姉ちゃん!」
淡「ちょっと、アンタいい加減にしなよ。テルーが嫌がってるのわかんないの?」
咲「えっ、でも私は……」タジッ
淡「妹かなんか知らないけどさ、自分がやらかしたことがどんなことか自覚ないの」ギロッ
菫「……そこまでにしておけ、淡。照に付いて行ってやってくれ」
淡「……はーい」ダッ
菫「済まないな。アイツもアレなりに照のことを案じていてな、君に悪意がある訳ではないのだが」
咲「はい……」ショボン
菫「……君たち姉妹の間に何があったか、多少は知っているつもりだ」
咲「えっ……」
菫「立ち入る気はないし、君の気持ちも分からんでもないがまだ照には時間が必要なのだろう。今はまだ無理だ……」
咲「そう、ですか……」ギュッ
菫「……それは?」
咲「あ、これですか…… このIHの後、お姉ちゃんは海外遠征に行くって聞いたから御守にって……」
菫「……そうか。良かったら私が預かろう、折を見てアイツに渡しておく。妹さんからだとな」
咲「え、でも……」
菫「約束するよ、必ずアイツに届けると…… 何時かきっと照も君の気持ちに気付いてコレを受け取ってくれるさ」ニコッ
――
――――
――――――――
ランサー「ちぇっ、やっぱりまだピンピンしてやがったか。いっそくたばっちまえば良かったのにさ」
美子「期待に沿えなくて悪かったな、ランサー。 呼んだんは他でもなか、お前に仕事ば命じる」
ランサー「……仕事? んなもん、あのはぐれサーヴァントの生意気な姉ちゃんにやらせりゃいいじゃん」
美子「ああ、彼女には他にやっちもらいたいこつができたばい」
ランサー「ふぅん、道理でアイツの姿を見かけないね…… おい一つ答えな、あのはぐれサーヴァントは一体何者だい?」
美子「……お前に答える必要はなか」
ランサー「そうかい。ま、アンタが素直に私に教えるなんて最初から期待してなかったけどね」
美子「そうか。では仕事ん話やけど恐らく近日に大規模なサーヴァントん戦いが起こる」
ランサー「……どうしてそれが分かる?」
美子「……お前はそん戦いでマスター資格ば持つ者を保護せんね。どん陣営でも構わなか、最低一人は生き長らえさせ」
ランサー「何だいそりゃ? 訳の分からないことを言いやがって」
美子「理解する必要はなか。お前はただ黙っち命令ば果たせばよかばい」
ランサー「断らせてもらう。私に言うことを聞かせたかったら令呪を使いな」ギロッ
美子「そうだな、こいはお前に言うこつば従わせようとしたウチの落ち度だったばい」クスッ
ランサー「……いいか、良く覚えておきな。アンタと私はその忌々しい令呪で繋がれた、形だけの主従だってことをな」
美子「ああ、良く覚えておくばい。 ……そいっちもう一つ、8番目んサーヴァント。何か情報ば掴んだらすぐに知らしぇろ」
ランサー「……8番目のサーヴァント? どういうことだい、あのはぐれ者がイレギュラーの8番目じゃないのか」
美子「彼女は違う。 ……あげな旧い血ん者共にウチが追い求める答えば邪魔されっ訳にはいかんばい」
ランサー「へぇ、アンタにも人並に願いがあったんだ。 まぁいい、さっさと令呪を使いな。早く消費してくれた方が助かる」
ランサー「……そいつを使ったら残りは一角だ、命が惜しかったら大事に取っときな」
美子「そうだな、大事な残り一角ばい。使い道をよぉ考えておかんちな」シヤキンッ
ランサー「……ああ、よく考えておくんだな。そして、自分が何をしたのか努々忘れるなよ」ギロッ
――――――――
――――
――
美子「……ほぅ、そいでアンタが麻雀教会より派遣されっち封印指定ん執行者と」
成香「はいっ! この本内成香、菲才の身ながら教会より聖牌戦争に参加して封印指定物を持ち帰る様、命を受け参りました」
美子「ふむ…… そいで事に当たりこん聖牌戦争ん監査役であっけんウチはアンタに協力をせよ、と?」
成香「ええ、この地に降臨する聖牌は大変危険だと伺っています。現に先の聖牌戦争では多大な被害があったと……」
美子「ああ、あいは酷か惨状だったばい。あげな光景こそ地獄と呼ぶのやろう……」
成香「そうでしたか…… やはりそんな物は何があっても回収するしかありませんね」
美子「教会ん意向はよぅ分かったと。ばってん気がかりがあっと……」
成香「はい、何でしょうか?」
美子「聖牌戦争は過酷な戦いばい。何ぞ必勝ん策でも用意をしてっと?」
成香「ええ、それは勿論。戦いに後れを取らぬよう既に同郷の雀霊を召喚し、備えも万全に積んで参りました」
美子「……そいは重畳。確かアンタん出身は北海道やったと?」
成香「はいっ! 有珠山が誇るあんな大雀霊を素敵に授かるとは夢にも思いませんでした」ニパァ
美子「……ほぅ、そいでそんサーヴァントは今どこにおっと?」
成香「ランサーさんには今の内にこの街一帯の地形調査をお願いしています」ニコッ
美子「なるほど…… では本内成香、早速やけど伝えるべき話があっけん奥ん部屋に案内するばい」ニヤッ
――
――――
――――――――
和「さて目下の敵はキャスターですが小鍛治先生に加え、あっちに着いたアーチャーにも護られ盤石です」
和「加えてセイバーさんが操られるのも時間の問題。こっちは二人ともサーヴァントを失ったというのに……」
咲「完全に支配されちゃったらそれこそ私たちじゃ何もできなくなっちゃうね……」シュン
和「そうですね…… 咲さん、何か良いアイディアはありませんか?」
咲「……難しいとは思うけど他のマスターと協力できないかな?」
和「ええ、実は私も同じことを考えていました。ですがランサーのマスターは不明ですので無理ですね……」
咲「と、なると残りはバーサーカーのマスターである衣ちゃんだけだね」
和「確かに天江さんにとっても一方的にキャスター陣営が強化されるのは喜ばしくない状況でしょう」
咲「うん、衣ちゃんならまだお話ができそうだし」
和「……私たちには選択できる余地も残された時間もそうありません。ここは迷ってはいられませんね」
咲「そうだね。じゃあ行こうか、龍門渕に」
――――
キャスター「……どうして見つからないの?」
『―――― ここに聖牌などなか』
キャスター「いいえ出鱈目に決まっている…… 聖牌戦争の監督役が切り札を手放す物ですか」
キャスター「……絶対にある、はずです」
――――――――
――――
――
小蒔「いいえ…… 永遠の若さを保つ秘術など、そのような物はありません……」
霞「嘘よッ!! じゃあどうして私と貴女にこうも差が付くのですかッ!!」
小蒔「……もしそんな物があるとしたら、それは“血”が為しているのでしょう」
霞「血……? また血ですか……、どうして!どうしてッ!!そんな物の為に私はッッ!!!」
小蒔「ッ!?」ビクッ
霞「……ええ、貴女は何時だってそうだったわね。手を汚さず、何も知らぬ存ぜぬで澄ましているだけで良いんだから」
霞「……けどね、能力も才覚も全て貴女より優る私が、どうして天倪の業なんて物を背負わされなくちゃいけなかったのッ!!」
小蒔「それは……」オドオド
霞「良く見なさい、貴女が本来担わなければならなかった災厄を生まれながら背負わされた私の見窄らしい姿を……」
小蒔「そんなことありません! お役目を全うして下さる、我等六仙女が誇りの燦たる御姿じゃないですか……」
霞「この期に及んでも詭弁を弄するか神代小蒔ッ!! ……もういい、もう沢山だわ」スゥッ
霞「そんなに尊いと言うならその血で私を止めなさいよッ! 自分の命くらい自身の手で護りなさいよォッ!!」ズンッ
小蒔「……ゥッ!?」ザクッ
霞「……は、ははッ ……これで私は自由になれる。理不尽な運命から逃れられる」ハァハァ
小蒔「ごめんなさい、霞ちゃん……」ポロッ
霞「えッ……?!」
小蒔「私……、なんかが頭首になっちゃって…… 辛い思い……、いっぱいさせちゃったんですね……」ポロポロッ
霞「何を言って……」
小蒔「こんな……、家に生まれなければ…… ……私たちずっとお友達で、いられ……」
霞「あ、ぁ…… こま……き…ちゃ……」
小蒔「ごめん……なさ…ぃ……」
―――― そうだ、彼女と私は頭首と災厄を被る天倪の関係以前にもっと大切な繋がりがあったのだ。
―――― なのに因習に囚われ続けた年月はそれを忘れさせ、変わらぬ姿で眩かった彼女への呪いを募らせていた。
―――― 思い出した時には既に手遅れだった。 “裏切りの巫女”この名が付き纏う限り私はあの場所には帰れない。
――――――――
――――
――
美子「……つまりキャスターがアンタん手に余る、と?」
やえ「能力の問題ではない、信頼の問題だ。麻術ならまだしも“魔術”を使う女なんて人間じゃない」
やえ「そもそもアレは主筋を謀殺した謂れのある女だろ? そんなサーヴァントを信頼する方がどうかしている」
美子「……なるほど、アンタは霧島六女仙ん逸話ばそう読んだ訳ばいね。まぁよか」
美子「マスターん希望は極力聞くんがウチの役目ばい。アンタが麻術協会ん肝煎りなら尚の事……」
やえ「フン、話が早くて助かるよ」
美子「幸い、現状で聖牌に選ばれたマスターは5人。まだ空席が2つあっと」
やえ「それが聞きたかった。新たなサーヴァントと再契約を結べる可能性はあるんだね?」
美子「前例ん無かことだが可能性はあっと。だが現在契約しているサーヴァントば何とかせんと……」
やえ「ああ、それなら安心しな。この王者、あの女狐を排除する布石はもう打っている」ニヤッ
美子「ほぉ……」
やえ「裏切りの巫女に背中を狙わたら堪らないからね、既に私への宝具の使用を禁じている。 ……だが念には念だ」
やえ「安河内シスター、ランサーのマスターにこれを。教会から参戦した者同士、このぐらいの加勢はして貰わないとね」スッ
美子「……これは?」
やえ「なに、キャスターを始末する権利を売り払う証文さ。彼女が乗ってくれたら私も令呪を使わなくても済む」ギイィィ
ゴオォォォ
やえ「今戻っ…… 火ッ……!?」
やえ「……いや、この工房のセキュリティで火事など有り得ない。敵の襲撃、それとも……」ギロッ
キャスター「お帰りなさい、マスター……」クスクス
やえ「……これはどういうことなの、キャスター?」
キャスター「……この麻術工房は私の一存で解体しました。陣地ならもっと相応しい場所にご案内します」
やえ「解体、ねぇ…… それでもっと相応しい場所ってのは?」
キャスター「この儀式の中心となり、麻力が集まるサーヴァントを寄せ付けない天然の要塞を見つけました……」
キャスター「このまま大人しく従うのなら案内してあげますけど、マスター?」クスッ
やえ「それには及ばない。アンタとはここまでだよ、霞…… 令呪を以て命じる、自害しろキャスター」キィィン
キャスター「……?」
やえ「……どういうことだ、一度では効かないということか!? 重ねて令呪を以て命ず、自害しろキャスター!!」キイィィンッ
キャスター「あはははははッ!! とうとう令呪を使い切ったわね、愚かなマスター。私の宝具が何なのか忘れたのですか?」
やえ「ルール・ブレイカー…… だがそれは令呪で使用を禁じたはず!!」ゾクッ
キャスター「ええ、貴女には使えません。 ……だから自分に使って貴女との契約を断たせて頂きました」クスクス
やえ「なッ……!? あ、有り得ない!マスターの麻力供給を断つなど貴様等サーヴァントにとって自殺行為だろ!!」
キャスター「ええ、でもそれが何か? ……今ここでトバされる貴女には関係のない話でしょ」ニタァ
――――
キャスター「……」ゼェゼェ
キャスター「……クククッ 結局、またこの結末なのですね」
キャスター「他人の意思で駆り出され利用され、裏切り者と蔑まされ……」
キャスター「この呪いを、この忌み名を捨て、私はただ故郷に帰りたかっただけなのに……」
?「……そこで何をしているの?」
~~~
キャスター「……こんな話を信じるのですか?」
健夜「貴女が嘘を言う必要はないようだけど。それとも私を謀る理由があるの?」
キャスター「……貴女こそこんな血に塗れた女を助ける理由がありません」
健夜「……貴女がどのような人間なのかは起きて話してみるまでは分からない。落ち着いたのなら事を済ましなさい」
キャスター「それは、つまり……」
健夜「貴女は憑代とやらが必要なんでしょ。なら私がマスターになるしか方法がないと思ったけど違った?」
――
――――
――――――――
成香ちゃんがバゼット、王者がアトラムか。やえさんすごく納得の人選。
咲「この森から向こうが全部龍門渕さんの敷地なの!?」
和「ええ、地図上ではそのようですね。ずっと向こうに見えるあの小さいのが母屋じゃないでしょうか」
咲「……急に押しかけて来ているんだし、お出迎えなんてある訳ないよね?」
和「そうですね…… あそこまではこの森を歩いて抜けるしかないでしょうね」
咲「衣ちゃん、もう私たちがここに来ているの分かっているのかな……?」
和「恐らくは…… 天江さんも聖牌戦争の参加者ですからこの先、仕掛けの一つや二つあってもおかしくありませんね」
咲「それは構わないよ。むしろ仕掛けに引っかかって早く気付いてくれた方がいいし……」
和「……そうですね。私たちは話をするために来たのですから、会えなければ意味がありませんからね」
――――
衣「相変わらず咲は方向音痴だな。あんな調子ではここに辿り着くのは何時になるのやら」クスクス
純「おい衣、まさかアイツらをこのまま招き入れるんじゃないだろうな?」
衣「別に良いのではないか、話し合いに来たと言っているのだし。 ……それに聞いてみたいこともあるしな」
純「……衣ぉ」
衣「純は心配性だな。何か企んでいたとしてもバーサーカーには勝てっこないのだから」
純「それは事実かもしんねぇけどオレは反対だ」
衣「うるさい、もう決めたのだ! マスターである衣が招くと言ったのだ、お前たちは従えばいいのだ!」
純「マスターだって言うなら尚の事、それなりの応対をしねぇと後で透華がうるせぇぞ」
智紀「……純は頑固」
衣「ぐぬぬ…… 分かった。それなら純と智紀よ、二人を連行してこい。捕えるのなら構わないのだろ!」
純「……はい?」
智紀「……泣く子と衣には逆らえない。行こう、純」
――――
まこ「こ、ここはどこじゃ…… あの阿呆、人を勝手に連れまわして。ホンマにここがバーサーカーの居場所か?」ブツクサ
智紀「……あれ、宮永咲とは違う」
純「ああ、人畜無害の小物だな。さっさと片付けるとすっか」
まこ「……ん? おぅ龍門渕の召使共、ちょうどええ。バーサーカーのッ!? なぁぁぁぁッ!!??」
純「黙れ、不意の来客に使う暇なんてねぇんだ。とっとと消え失せるか、智紀にトバされるか10秒の内に決めな」
智紀「9……、7……、6……、5…4…3……」
まこ「ち、ちょっと待たんか!嘘じゃろォ!?」ジタバタ
純「……ッッ!?」ビクッ
アコ「へぇ、アイツの言った通りね。ホムンクルスなんて本当に造ることできるんだ」クスクス
智紀「……純、アイツすごく」
純「……ああ、分かってる。オレのことは気にせずお前は逃げろ」
アコ「そんなに怯えなくてもいいって。アンタたちには用はないから、とっとと失せなさい」
アコ「そうね……、じゃあ私のマスターを見逃した礼としてアンタたちにも10秒の猶予をあげるわ」クスッ
純「アイツがお前のマスター……? じゃあその言葉は聞けねぇな」
智紀「……衣を外敵から護るのが私たちの役目」
純「ああ、どこの雀霊か知らねぇがお前みたいな血生臭い女を通す訳にはいかねぇな」
アコ「そう、じゃあトビなさい。アンタたちの悲鳴を聞けばマスターも駆けつけるでしょうし」
アコ「……始まりの御三家だっけ? その秘術で出来た作り物がどんな出来か試してあげるわ」クスッ
智紀「……どうしてそれを? お前、衣の敵だッ!」
純「止めろ、智紀ィッッ!!」
衣「……ッ!?」ビクゥッ
――――
アコ「……物に心を与えるなんて馬鹿なことをするから」
ドォォォォン
衣「純くん、ともきー……!?」
純「 」 智紀「 」
アコ「ふぅん、アンタがマスターか。どうやらアンタたちを造った奴はよっぽど人間を信用してないようね」クスッ
衣「お前が二人を……」ギリッ
衣「トバして!! 今すぐアイツをトバして、バーサーカー!!」
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■―――!!」ズゥゥゥンッ
アコ「……だ、そうよ。 来なさい、大雀霊」ニヤッ
バーサーカー「■■□□■■□□■■□□!!」ググッ
アコ「アンタが相手なら復帰戦にはちょうどいいかな。 ――― 世界一の女が誰なのか、ここで決めるとしましょうか」ククッ
――――
咲「うわぁ、すっごいお屋敷……」
和「この音…… どうやら中で誰かが打っているようですね」
咲「凄い麻力…… 正面からは不味いよね。和ちゃん、裏口の方から回ろう!」
――――
アコ「……」スッ
バーサーカー「……□■■■■■■■■■■■」キンキインッ
アコ「この程度の火力じゃ避けもせず、か…… じゃあこれならッ!!」ブンッ
バーサーカー「□■■■■■■■■□■■■■!!」キンッ
アコ「……なるほど、一定以上の火力でないとアンタには通らないのか。これは厄介ね」クスッ
アコ「けどッッ!!」ゴオォォッ
バーサーカー「□■■■■□■■■■□■―――!?」ザクッザクッ
まこ「や、やりおった…… 何じゃアンタ、ほんまは強いんじゃのぉ。それに比べてこのデカブツは……」
アコ「……命が惜しかったら下がりなさい。笑いを取るにはまだ早いわよ」
まこ「はぁ……?」
バーサーカー「――― ■■■■■■■■■■■■」ゴゴゴゴッ
まこ「ヒッ!? こ、コイツ、トバされたんじゃないんか!?」
アコ「斬ろうが焼こうが斃れない雀霊は見飽きたけど、まさか本当にトバされても甦る女がいるなんてね」
アコ「アンタの宝具、逸話を昇華したものでしょ。 ……曰く、其の者六耀の試練を乗り越え民話の座に迎えられたと」
アコ「雀士として生前に人の域を超えたのはアンタぐらいでしょうね。 ……けど残念ね、遠野の英雄さん」クスッ
バーサーカー「……■■■■■■■■■■■■」グッ
アコ「見ての通り、私の宝具は尽きることはない。不撓不屈な大女退治の道具は有り余ってんの」ゴォォォォッ
アコ「……子守はそこまでにしときなさい、姉帯豊音。本気にならないとアンタの試練、全部使い果たすわよ」
衣「……バーサーカーは誰にも負けない。世界で一番強いんだからッ!!」
バーサーカー「□□■■□□■■□□□□ ―――!!!」ガァァァァッッ
――――――――
――――
――
純「今日からお前の世話を任された純だ。こっちは智紀」クイッ
智紀「……よろしく、衣」
純「あ~、悪ぃな。まだ智紀は色々と慣れていなくてな」
衣「……どうでもいい」
純「……ん?」
衣「挨拶なんてどうでもいい、どうせお前たちも同じなのだろうから。 ……それよりサーヴァントは?」
純「ああ、召喚なら既に済んでいるってよ」
純「遠野の民話で名高い大雀霊 ―――― 背向のトヨネが」
バーサーカー「■■■□□□■■□□□■」ガルルルル
衣「……そう、ならどの程度の物か見分する」
――――
智紀「これがバーサーカー……」
純「すげぇな…… 喜べよ、衣。こんだけの雀霊が召喚されたのなら勝利は確実じゃん。 ま、オレらも命をかけて……」
衣「不要だ……」
純「……おっ?」
衣「その様な物、衣には不要…… 只の道具であるサーヴァントの中身など枝葉末節。衣は啻にやっていける」
智紀「……それは違う」
純「……智紀?」
智紀「……バーサーカーは必要。バーサーカーは絶対に衣を護る」
衣「笑わすな。サーヴァントなぞ令呪で縛らねばすぐに裏切る。衣はもう誰も信じぬのだから……」キッ
純「……んじゃバーサーカーとの同調を始めるぜ。衣の麻力だとサーヴァントからのフィードバックも通常の比じゃねー」
純「……つまり、それだけ負担も半端ないからな。マジで注意しろよ?」
智紀「……衣、痛かったらすぐに止めて」
衣「……関係ない。始めるぞ」ゴッ
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■……!?」ビクッ
衣「……何だこれは? 何をしているこの怪物が! 動け!動けと命じているのが分からぬのかッ!!」
バーサーカー「―――― ■■□□■■■■□□■■!!」ガァァァッ
衣「―――― 痛ゥッッ!!??」ビクゥッ
智紀「……衣!?」
純「止めろ、衣!同調を切れ!! 正式契約なんて後でだって出来るんだ、無理をすんな!!」
衣「……このぐらい、なんでもない ……すぐに使いこなしてみせるから黙って見ていよ!」ハァハァ
衣「衣は負けぬ…… 衣は世界で一番強いマスターなのだから!」キッ
――――
――
衣「あれ、衣は……? ……そうか、今は最終試験の途中だった。生きて屋敷に帰れば聖牌戦争に行けるんだっけ……」
衣「……でもバーサーカーは捨ててきてしまった。いいよね別に、屋敷に帰ったら新しいサーヴァントを召喚すればいいんだし」
衣「……今度はもっと痛くなくて怖くないサーヴァントを」トボトボ
狼「……」グルルゥ
衣「……ッ!?」ビクッ
狼「……ガゥゥ」ジリッ
衣「……ひっ!?」ダッ
狼「ガゥ!ガウッ!!」
衣「痛い!痛いっ!!止めて、誰か助けてッ!!」ウワァァン
ズゥゥゥンッ
バーサーカー「□□□□□□□□□□□□」
衣「……バーサーカー? ……どうして、衣はお前を見捨てたのに」
狼「ガゥ!ガウッ!!」ガブ ガブッ
バーサーカー「……□□□□□□□□□□□」
衣「何で戦わないのだ? ……衣のため? ……衣を苦しめたくないから、傷つけたくないからか?」
バーサーカー「□□□□□□□□□□□……」
衣「…………やっちゃえ、バーサーカー」
バーサーカー「■■■■□□□■■■■」クワッ
狼「キャン!?」
ドォォォンッ
衣「やっと分かった。お前は命令だから、サーヴァントだから衣を守っていたんじゃなくて……」
衣「……自分の意思で衣を守っていてくれてたのだな」
バーサーカー「□□□□□□□□□□□」
衣「―――― バーサーカーは強いんだな」
――
――――
――――――――
アコ「……」ニッ
バーサーカー「―――― ■■■■■■■■■■■■」
衣(……負けない。 バーサーカーはあんな奴に負けない。バーサーカーは……)
衣「誰よりも強いんだからッ!!!」
――――
咲「衣ちゃん! 戦っているのは誰……?」
和「セイバーさんたち二人がかりでも押されていたあのバーサーカーがこうも……」ゾクッ
アコ「アンタの敗北は決まりね。 ……ねぇ、どうせトバされるのなら最後にその荷物を降ろしてみたら?」
アコ「余計な気を使わなければまだ私と戦う余地は残ってるんじゃない?」クスッ
バーサーカー「 ■■■□■■■■■■□■!!」
衣「……バーサーカー、どうして君は」
アコ「……そう、じゃあ主共々トびなさい。この最大の試練、どう凌ぐ姉帯豊音!?」ゴゴゴゴッ
バーサーカー「■■■□■■■■■■■■!!!」キィン キィィン
衣「……負けないで、バーサーカー!!」
バーサーカー「■■■□■■□■■□■■……?!?」ズズンッ
アコ「これで5つ! いよいよ後がなくなったわね」クククッ
バーサーカー「…………□□■■■!?!」ガクッ
アコ「とっとと主を見捨てておけば勝ち目はあったのに…… 戦いしかできない狂化された雀霊じゃそんな判断もできないか」ハァ
バーサーカー「■■■□■■■■■□□■!!!」ガァァァツ
アコ「……ん?」
バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■■!?!?」ジャキン ジャキンッ
衣「……鎖!?」
アコ「……トンだふりをして私が近づくのを待っていたんだ? 狂戦士程度の浅知恵じゃそれが限界ね」クスッ
衣「戻って、バーサーカー!! ……どうして!どうして令呪も使ったのに戻らないの!?」
アコ「無駄よ、ホムンクルス。 ―――― 天の鎖、友の名を冠するこの鎖に繋がれた者は例え神でも逃れることができない」
アコ「いや、むしろこの女の様に神性が高い程に餌食になる。 ―――― これで終わりね、バーサーカー」ザシュ
バーサーカー「…………■□ ……■■■ ……■ □ 」ドサッ
アコ「さ、アンタもこれで終わりよ人間の紛い物」ザクッ
衣「……ぁ …………っ!?」
アコ「へぇ、ホムンクルスなのに痛覚もあるんだ」クスクス
衣「……」クククッ
アコ「……人形、何がおかしいの?」
衣「……ずっと待ってたんだ ……君がこうして油断してくれるのを」ニヤッ
アコ「えっ……?」
バーサーカー「―――― ■■■□■■■■■■■■■■■■ッッ!!!!」ドォォォンッ
アコ「何っ……!?」ゴギィッ
咲「そんな、バーサーカーが動いた!?」
アコ「ガァッ…… な、なんで天の鎖に繋がれていた……、アンタが動け……?!」
衣「……簡単さ。これだけ時間があれば……、どんな鎖でも何とかなる……」
バーサーカー「―――― ■■ ■ ■■」ズンッ
アコ「クッ……」ゾクッ
衣「鎖抜けのマジック…… ボクの一番得意な手品……さ……」ガクッ
バーサーカー「―――― □ □■■ □」ズズンッ
アコ「ま、麻力切れ、か…… 再稼働した時点で麻力なんてとっくに切れていたのに……」ハァハァ
衣「 」 バーサーカー「 」
アコ「あと少しでも動けていたらトバされていたのはどっちだったか…… 呆れた女ね、最期に自分の民話を乗り越えるなんて」
和「……天江さん」
咲「……」ブルブル
―――― 『……気にしないで、これは誰が悪い訳じゃないんだもん、仕方ないよ』
―――― 『だからそんな顔しないで……、咲にテルお姉ちゃん』
―――― 『最後ぐらい……、二人の笑っている顔…… ずっと、覚えて…………』
咲「……」ハァハァ
和「咲さん……?」
アコ「あーあ、やっぱりコレもホムンクルスだったか…… 人形風情にここまでやられたのは癪ね」ゲシッ
衣「 」ゴロッ
咲「……!?」ブチッ
まこ「何やっとんじゃ油断しおって。 ま、倒したからええけど今度からは……」
咲「その足を退けなさいッ!!」ゴッ
和「なっ……、咲さん何を……!?」
アコ「へぇ、覗き見してたのがまだいたんだ。……ってアーチャーのマスターじゃない」
咲「……」ギロッ
アコ「何を興奮してんのかわかんないけどさ、肝心のサーヴァントがいなきゃアンタは何も出来ない。ここで……」スッ
まこ「ちぃと待ちや、そんなぁはワシの知り合いなんじゃ。なぁ咲……」クククッ
まこ「こがぁなとこで会うなんて奇遇じゃのぅ。コイツはワシの新しいサーヴァントじゃ」
まこ「ライダーなんかより凄いじゃろ? 命乞いしいさんや、咲。ちぃとは考えてやってもエエよ」
咲「……お断りします」キッ
まこ「なっ……!? そ、そうか、ならここでトバされてもエエとでも言うんか!!」
和「そこまでです、染谷先輩! そこのサーヴァント、指一本でも動かせばマスターの命は保障しませんよッ!!」
まこ「の、和……!?」
アコ「―――― のど……か…… ……へぇ、こんな所にいたんだ和。道理で阿知賀にいても会えなかった訳だ」ニヤァ
和「……ッ!?」ゾクッ
まこ「……何じゃ、アンタぁ和と知り合いなんか?」
アコ「気が変わったわ、まこ。和ならば器として申し分ないわ……」クルッ
まこ「あ…… なるほど。なぁ和、咲などほっといてワシらと手ぇ組まんかぁ? キャスターが力を蓄えて……」
和「お断りします。いいように使われている人について行く道理はありません」キッ
まこ「な、何じゃと…… やれぇアコ、咲も和もトバしてしまえッ!!」
アコ「……いや、残念だけど時間切れよ。こんな所にこれ以上いたら服が煤で汚れちゃうし」クスッ
まこ「クッ…… 後悔すなよ二人とも、もうアンタらに声なんかかけちゃらんからな!」
アコ「……だ、そうよ。良い先輩を持ったわね、アンタたち」クスクス
――――
和「……どういうことですか?」
咲「えっ……?」
和「サーヴァント相手にどうしてあんな向こう見ずな真似を? トバされてもおかしくなかったんですよ!!」
咲「うん……、和ちゃんにもすごく迷惑かけちゃったよね。ごめんなさい」ペッコリン
和「そうじゃなくて…… どうしてあんな無謀なことをしたのか聞いているんです!!」
咲「自分でも無茶なことをしたのはわかっているんだ…… けど、衣ちゃんを見ていたら昔のこと思い出しちゃって……」
和「……あの時もそうでしたね、お姉さんと何があったのか。そして結局、咲さんは何も言わず麻雀からも離れてしまって……」
和「以前に何があったかはわかりません。けれど取り返しがつかないことだってあるじゃないですか!!」
和「忘れることは無理でも、せめて過去の呪縛から放たれて前を向くことも許されないのですか、咲さんは……」グスッ
咲「……ごめんね、和ちゃん。もうこれ以上、私なんかのために辛い思いさせちゃう人を増やしたりなんかしないよ」
和「本当、ですか……」
咲「うん、約束する。 ……だから、本当にごめんね」ギュッ
咲和いいぞ~
乙です
憧は悪者が似合うなぁ…
確かにw
――――
咲「……ねぇ、和ちゃん。さっきのサーヴァントのことだけど」
和「染谷先輩が連れていたあのサーヴァントのことですか?」
咲「うん、あのサーヴァント。和ちゃんのことを知っていた様だけど何処かで会った覚えとかあるの?」
和「……いいえ、全く心当たりがありません」
咲「……そっか。それにしてもアーチャーさんたち二人がかりでも倒せなかったあのバーサーカーが圧倒されちゃうなんて……」
和「存在しないはずの8体目のサーヴァント、マスターにはあの染谷先輩…… 一体何が起きているのでしょう」
咲「そうだね。何にせよまず私たちはアーチャーさんとセイバーさんを取り戻さないとね……」
ランサー「アンタたち二人で? そんなの通用する訳ないじゃん」
咲・和「「ランサー!?」」
ランサー「いつぞやの夜以来だねお二人さん」
和「……ッ!!」キッ
ランサー「待て待て、こっちに戦う気はない。見るに見かねて少しばかり手伝ってやろうと出しゃばりに来たんだけどな」
咲「えっ?」
和「どういうこと、ですか……?」
ランサー「うん、分かりにくかったかな? アンタたち二人だけじゃキャスターに太刀打ちできない」
ランサー「……出来ないだろうから私が手を貸してあげるって言ってるんだけど?」ニヤッ
和「本当に出しゃばりですね、ランサー。それは貴女の提案ですか」
ランサー「いいや、マスターの指示さ。 ま、キャスターを倒すまでの一時的な共同戦線って奴だろうね」
咲「確かに理由は分かります。けど私たちより頼りがいのある人たちがいるじゃないですか」
ランサー「ああ、バーサーカー倒した奴か。あれは駄目だね性に合わない。戦力的には申し分ないんだけどね」
和「正しい選択ですね。それも貴女のマスターの指示ということですか?」
ランサー「……いいや、アンタたちを選んだのは私の趣味さ」
和「……私は貴女に二度もトバされかかったんです。そう簡単に信用するとでも」
ランサー「勿論。アンタのパートナーは随分とお人好しの様だ。そんな奴と組んでるアンタも相当だろうさ」
ランサー「……なら協力相手はアンタたちだ。仕事は選べない分、相棒は好きに選ばないとね」ニッ
咲「……どうする、和ちゃん?」
和「私たちだけでは現状どうにもなりません。少し不安ですが手を貸して頂きましょう」
ランサー「そうそう、素直な方がより可愛さを増すってもんだ。ほら、じゃあ協力の約束ってことで握手だ」スッ
和「あ…… いえ、そういうのは遠慮させて頂きます」
ランサー「何だ、おっぱいは大きいのに器は小っちゃいなぁ」
和「む、胸は関係ありません!」///
ランサー「つかさ、アンタって左利きなのか? 今も左手差し出しかけてたし、あの日の夜も左手で私の突きを躱してたもんな」
和「……そうですか? 確かに元は左利きでしたけど、矯正して今は右手を使う様にしています」
咲「ふぅん。そういうのってよく分からないんだけどお家の躾とかなの?」
和「いいえ、家の者ではなく私に麻雀を教えてくれた人の言いつけです」
ランサー「……麻雀の師匠が? お嬢ちゃん、マスターに選ばれるくらいなんだからそこそこは打てるんだろ」
咲「そこそこ程度じゃないです。和ちゃん、すごく強いんですよ」
ランサー「ほぅ、そりゃあアンタよりもか?」
和「当時、部内での咲さんとの対戦成績はほぼ五分程度だったかと。ただ得失点のトータルでは大分見劣りはしていましたが」
ランサー「いや、この麻力の塊みたいなお嬢ちゃんと五分なら大したもんだね。なら尚のこと解せないなぁ」
和「何が分からないと?」
ランサー「あの夜、私の攻撃を躱したアンタからこっちのお嬢ちゃんと同じくらいの麻力を確かに感じた」
ランサー「だが、麻雀の腕もあるようなのに今のアンタから感じる麻力は微々たるもんだ。それがどうにもね」
咲「言われてみると確かに変だね。アーチャーさんも一般的には麻雀の能力が高い人ほど麻力も高いって言ってたのに」
和「そんなオカルトめいたことを言われても……」
ランサー「なるほど…… 察するにアンタ、麻雀もオカルト否定のデジタル派だろ? 頭固そうだもんな」ククッ
和「べ、別に否定とかではなく、私には咲さんみたいな特別な能力もないから効率の良い最善手を選んでいるだけで……」
ランサー「ま、本当にあるかないか試してみればすぐに分かる。ちょっとこっちの左手向けてみてよ」
和「……こう、ですか?」
ランサー「そう、そう……」ブンッ
『右から薙ぎに来てるで!』
和「~~ッ!? いきなり何をするんですか!!」
ランサー「……やっぱりな。あの夜よりもはっきりと麻力を感じた」
咲「すごい和ちゃん、今どうやって避けたの!?」
和「あ…… いえ、誰かの声が聞こえた気がして右から薙ぎに来ていると。そうしたら周囲が一瞬止まった様に見えて……」
ランサー(未来視…… いや、固有時制御か。何にしろ単純な麻力行使とは違うようだね)
ランサー「何にせよアンタの左手、どうやらそいつは麻力行使のためのスイッチの様だ」
和「私の左手が……」
ランサー「そりゃあ自分自身で能力を否定してたんだ、まともに使える訳ないさ」
ランサー「……だがその能力、使いこなせる様になったらキャスターとの勝負も面白いことになりそうだ」ニヤッ
――――
ギイッ
アーチャー「……」ギロッ
健夜「……外の警護はどうしたの?」
アーチャー「形ばかりの役目に飽きてきてね。キャスターの目は寺の周囲を網羅している。私が見るまでもない」
健夜「……それで自由行動? さぞキャスターも頭が痛いだろうね」
アーチャー「その点なら安心していい。私にも監視の目が付いているからな、不穏な動きを見せれば令呪で処理される運命だ」
健夜「……そこまでわかっていて何故ここに? 背任と咎められてもやむ得ないよ」
アーチャー「いや、そう言えば最後までアンタを知る機会がなかったと思ってね」ニヤッ
――――
健夜「……私は最後まで自分を育てなかった人間。自分の欲というヤツが薄い」
健夜「……そんな私が上手く言えないけどあの女の願いを叶えてやりたいと思った。これは人間らしい欲望だと思うのだけど」
アーチャー「よりにもキャスターの願いと来たか……」
アーチャー「あの女の狙いは自分だけが聖牌を手に入れ、自由を得ることだ。お前はそれを容認すると?」
健夜「それは願いじゃない。生きる上で当然の様にこなす義務なんでしょう」
健夜「……キャスター自身気が付いていない様だけどアレは還りたいだけだよ。自由など求めていない」
健夜「……じき大一番が来る。持ち場に戻って、アーチャー。連中が諦めていないのならこれが最後の機会になる」
アーチャー「同感だ。襲撃があるとしたら明け方だと私も睨んでいた」クルッ
アーチャー「……一つ聞き忘れていた。アンタが思う正しさとは何だ?」
健夜「……そうだね、例え自分の選択が間違っていたとしても後悔をしないことだろうね」
健夜「善悪が等価に見える以上、それだけが私が良しとする人間らしさの証明……」
アーチャー「ッ……」ギリッ
――――
咲「それでランサーさん、自分の役割はちゃんとわかってもらえてますよね?」
ランサー「ああ、私の役割はアーチャーの相手だね。で、最悪の場合はセイバーもどうにかしろと」
和「ええ、難しい役目だとは思いますがお願いします」
ランサー「なに、抑えるだけなら何とでもなる。そんなことよりアンタたちだけでキャスターを倒せるのか?」
和「正直、今の私たちではかなり難しいかと。けどルール・ブレイカーを奪うなり破壊すればセイバーさんたちを……」
ランサー「無理だね。そんなことする前にアンタらが天に召されちゃう方が早い」
咲「でも、ランサーさんだけで全員を相手にするのも無理でしょうし……」
ランサー「ったく…… じゃあこうするか。咲、アンタの方が相性が良さそうだからコイツらを預ける。大事に扱ってくれ」スッ
咲「な、なんですかコレ!?」ビクッ
和「どうしたのですか、咲さん?」キョトン
ランサー「やっぱりね。こっちの嬢ちゃんには知覚もできてない様だが咲の方はもう懐かせるとは流石だねぇ」
咲「あわわ…… こ、この人たち噛んだりしませんよね」カタカタ
和「ランサー、一体咲さんに何をしたのですか?」
ランサー「いやなに、アンタらがあまりに心もとないからね。私が連れているカムイを貸したのさ」
和「カムイ……? 私にはよくわかりませんが戦力を割いたら貴女が……」
ランサー「アーチャーの一人や二人、私にはカムイ1体いれば十分。これでアンタたちにも少しは勝機が出るだろうさ」ニッ
――――
アーチャー「君のことだ。必ず来ると思っていた」
咲・和「……」
アーチャー「……それで用意した策は何だ? 何の手立てもなく来た訳ではあるまい」
ランサー「ああ、とりあえずアンタの相手は私さ」スゥッ
アーチャー「……驚いたな。私を失い、数日も経たぬ間に新しいサーヴァントと契約したか」
アーチャー「私もそうだが君の移り気も中々の物だ。これは袂を分かって正解だったかな」ニヤッ
ランサー「……前から気に食わない奴だと思っていたけどさ、アンタ性根から腐ってるね」
アーチャー「ほぅ、裏切りは癇に障るかランサー? 他人事なのに律儀なことだ」
ランサー「アンタみたいなサーヴァントがいるってことが気に食わないだけだッ!!」ゴッ
アーチャー「……」シャキンッ
咲「……あの、ランサーさん」ゴニョ
ランサー「……ああ、手を抜いてやる。アイツには土下座して嬢ちゃんに謝ってもらわないとね」ニッ
咲「ありがとう……。助力に来てくれたのが貴女で良かった。 ……行こう、和ちゃん」
和「……」コクッ
タタタッ
ランサー「……全く、面倒なことになったねぇ」
アーチャー「……何がだ、ランサー?」
ランサー「いやなに、おいそれと主を裏切れない身としちゃあのお嬢ちゃんはちょっと眩しいってことさ」
アーチャー「随分と甘いな。君は隣の芝生は青いと言うことわざを知っているか?」
ランサー「何を言ってんだか…… そんな物、知っている訳ないだろぉぉがッッ!!」ダッ
――――
キャスター「……何故ランサーが?」
健夜「……どうしたの、キャスター。何か問題でも起きた?」
キャスター「いえ、些細なことです。心配頂く様なことは何も」
健夜「……そう」
キャスター「マスター、一つお尋ねしたいことが」
健夜「……」コクッ
キャスター「以前、貴女は此処でこう言われた。私の目的が果たせなくなる、と……」
キャスター「ですが私が知る限り貴女に望みはなかったかと。貴女は人間が持つ欲らしき物を一度も口にしなかった」
キャスター「……そんな貴女に目的があったのですか?」
健夜「……そうだね。私は強過ぎた故に非人間として扱われ、それを自身疑うこともなく成長し、結果として人の枠を外れた物」
健夜「普通の人として生きる道を放棄し、選択したのも自分。キャスターの言う通り私には自分に還る願いはない……」
健夜「その様に生きるのが麻雀で人を毀してきた自分の責任だと信じていたから……」
健夜「だけど、在るべき処に在った筈の物を還さないと…… 今になって生きる以外の目的を持つなんてね」
キャスター「マスター……」
健夜「全く持って我侭な話だけど詰まる所、願いとはそういう物じゃないかな……?」
ランサー爽ちゃんいいねいいね
ランサー爽がイケメンすぎて俺爆死
――――
キャスター「折角助けてあげた命なのにわざわざ捨てに来るなんて懲りないお嬢さんたちね」
和「……捨てに来たのではありません、取り返しに来たのです。貴女を倒して」
セイバー「はぁはぁ……」グタッ
咲「セイバーさん……」ギリッ
キャスター「ランサーを手懐けたのは褒めてあげます。けれどまだ駒不足。そんな計算も出来ないなんて」クスクス
咲「ええっと…… こ、こんな加齢臭が臭い所にいたらこっちにまで臭いが移っちゃう。すぐに叩きのめしてやる」
健夜「……」ピクッ
和「……特にキャスター、前から思っていたのですが貴女の様な年齢の女性が巫女服姿なんて羞恥心って物がないのですか?」
キャスター「……あらあら、貴女たちはただ命を捨てに来たのではなく苦しみ抜いて息絶えるのが御所望なのね」ニコニコ
咲(ね、ねぇ和ちゃん、今まで見たことないくらいキャスターが笑ってるけど今の絶対に逆効果だよぉ)
和(ああいうことを言えばすぐに逆上するという話でしたが…… いえ、ランサーを信じた私たちのミスですね……)
咲「……くれぐれも無理はしないでね和ちゃん、相手はセイバーさんも追い詰めた小鍛治先生なんだから」ボソッ
和「……それは咲さんも同じです。私たちが策頼りなのはキャスターも重々承知でしょうし」ボソボソ
咲「……うん、分かっている。けど私はもう絶対に諦めない。だから和ちゃんも自分のことを信じてあげてね」キッ
和「咲さん…… はい、分かりました!」
――――
アーチャー「……くっ」ゼェゼェ
ランサー「いつぞやの夜とは違うでしょ? あの時は手を抜いて悪かったね」
ランサー「相手を斃さず生還しろ、なんて馬鹿げたマスターの令呪が働いていたんでね」ニヤッ
アーチャー「チッ……」
ランサー「だけど今はその縛りはない。 ……加減なしで ――――――― トバしてあげるよ」シュンッ
アーチャー「……ッ!?」ゾクッ
ランサー「へぇ、今のも躱すか。ったく、なおさら分かんないなぁ……」
アーチャー「何がだ、ランサー」ハァハァ
ランサー「ああ、これだけの腕があるならあのお嬢ちゃんとならキャスターになんか遅れを取らないだろうに」
アーチャー「何を言いだすかと思えばまだそんなことを口にするのか。私は少しでも勝算の高い手段を取っただけだ」フッ
ランサー「……あ、そう。アンタなんかに尋ねた私が馬鹿だったよ」
ランサー「ま、腕は認めるがそれじゃ勝利は得れないな。アンタの打牌には決定的に誇りが欠けている」
アーチャー「ああ、生憎誇りなどない身だからな。 ……だがそれがどうした。雀霊としての名前が汚れるとでも?」
アーチャー「八ッ、笑わせないでくれよランサー。汚れなど成果で洗い流せる。そんな余計な誇り今の内に捨てておけ」ニヤッ
ランサー「そうかい。 ……この赤い槍がどんな物か、知っているよねアーチャー?」ギロッ
アーチャー「勿論。小賢しい因果逆転の呪い。たかが蛸の化け物を恐れるとでも?」
ランサー「それだけじゃない、コイツを一度穿てば山も河も全て朱に染まる。 ……この一撃、手向けとして受け取りなッ!!」
アーチャー(知っているとも。……アッコロカムイ。一刺一殺、狙いは必中。であれば正面より受けて立つ他はない)
ランサー「―――――― 刺し穿つ烈火の神威ッッ!!」
アーチャー(どこまでオリジナルに似せれるか…… ―――――― 来たれ、豊穣の地より無限に湧く収穫の刻ッ……!!)ゴッ
ランサー「木々が盾になっている、だと……」
アーチャー「くっ、ハーヴェストでもあの神威は止められないのかッ!!」
アーチャー「ぬあぁぁぁぁッッ!!!」ゴッ
ドォォォンッ
アーチャー「ふぅ…… 参ったな、まさかここまで仕込んだハーヴェストすら貫通するとは誤算だったよ」ハァハァ
ランサー「……アンタ、何者だい? 弓兵がアッコロを防ぐ程の盾を持つなんて有り得ない」
アーチャー「場合によっては持つだろう。だが麻力の大部分を消費したと言うのにこの様だ……」
アーチャー「更に片腕を潰され、私が持ち得る最強の護りも完全に破壊された。 ……それより気付いたか、ランサー?」
ランサー「……ん?」
アーチャー「キャスターめ、存外苦戦しているようだ。監視の目が止まったぞ」
ランサー「そういうことね…… そうじゃないかとは思ってたけどさ、アンタ最初っからコレを狙ってたんだ?」
アーチャー「無論だ。言っただろう、勝率の高い手段だけを取ると……」ニヤッ
――――
キャスター(クッ、この煙は一体何なの…… 私の麻術や魔術でも晴れないと言うことはどの魔術系統とも異なる……)
健夜(……これは煙や霧と言うよりは雲か。そして視界を奪っただけじゃない、先程から急に敵の気配が薄くなった)
キャスター(あの小娘たちにこんな能力があったなんて誤算だったわ。目的は煙に紛れてのセイバーの救出?)
咲(クンネニシ、そいてホヤウ…… ランサーさんから借りたこの2つのカムイでまずは敵の有視界行動を制限する……)
和(この戦いは本来敵う筈のない相手をどこまで攪乱できるかが勝負…… ―――― ッ!?)ブンッ
健夜「……そこにいたんだ」
和「こんなに早く見つかるなんて想定していなかったんですけどね……」ザッ
健夜「……へぇ、逃げないんだ」スッ
和(ランサーの指摘ではっきりと自覚しましたが、ずっと以前から私の左手の不可思議な能力は薄々とは感じていました)
和(昔の癖で誤って使ってしまった際、周囲と流れる時間のずれや次巡先が視えた様に感じるあの感覚……)
和(どこか自分が自分でなくなる様なのが怖くて今まで竜華さんの言いつけを守ってきましたが……)
和「ごめんなさい、竜華さん…… 大事な人を護るため、約束を破らせてもらいます……」スゥッ
――――
咲(さっきの空気を割く様な音、和ちゃんたちの方で戦いが始まったのかな……)
咲(私の役割はランサーさんから貸してもらった、この4色のカムイを制御し続けること)
咲(そして、小鍛治先生から分断されたキャスターからルール・ブレイカーを何としても奪うか壊すこと……)
咲(先の2体以外にもう1体、相手の調子をおかしくさせるパコロカムイというのも使っているけど想像以上にキツい……)
咲(カムイの平行使役はまだ無理だってランサーさんも忠告してくれてた。 ……けど、無理をしなきゃ勝負にならない)
咲(今こそアーチャーさんのあの言葉を実践するんだ……)
咲(―――― 必要なのは出来ると確信すること。人が空想することは全て起こり得る麻法事象)
咲(森林限界を超え峰の上に咲く花を呼び込む様に、より強固に、もっと精密に、空想を躍らせるッッ!!)ゴッ
キャスター「……これは!?」ゾクッ
咲「もう私は誰も失いたくないんだ…… キャスター、返してもらうよセイバーさんを……」ゴゴゴッ
――――
和「……」ハァハァ
健夜(既に何度もトバすつもりの攻撃が躱された…… 侮るつもりなど全く無い。なのにどうして……)
健夜(恐ろしく読みや勘が良いと言う類の身体の使い方じゃない…… 打ち込む前から既にわかっている様な動き……)
和(……こうして何とか凌げでいるのです。本当に私の左手には何かおかしな能力があったのを認めざるを得ませんね)
和(けれど、あの未来を教えてくれるあの声を聞いてからでは疲労したこの体の反応では間に合わない……)
健夜(……ならより疾く予測を超えた速度で撃てばいいだけのことッ)シュッ
和「……ガッ!?」ズンッ
ドォォォンッ
咲「和ちゃん!?」
キャスター「ここまでね、お嬢さん…… まさかここまで手こずらせてくれるなんて予想していませんでした」クスクス
健夜「……キャスター、彼女たちは甘く見ていい相手じゃない。これ以上、妙なことをする前に全力で始末するよ」
キャスター「ええ、的確な判断ですマスター」
アーチャー「……ああ、それがあと数秒早ければな」ビシュッ
健夜「……!?」
キャスター「マスター、危ないっ!!」ザクッ
キャスター「…………無事、ですかマスター……?」ヨロッ
健夜「……うん」
キャスター「良かった、貴女に死なれてたら困ります…… 皮肉な物ですね、今際になって望みが見つかるなんて……」
健夜「……悲嘆することは無いよ。キャスターの願いは私が代わりに果たすから」
キャスター「それは駄目でしょうね…… だって、私の望みは姫様を手にかけた贖罪……」スゥッ
キャスター「だから……、今度こそ主に……、最期の瞬間まで御傍にいることなんですから……」ニコッ
―――― 『全く、霞ちゃんは体ばかり大きくなってもいつまでもお子様ですよー』
―――― 『待ちくたびれて姫様がまた居眠りしちゃってる……』ポリポリ
キャスター「―――― えっ?」
―――― 『ほら、姫様起きてください。霞さんが着きましたよ』
―――― 『ンんっ…… あ、霞ちゃん、待っていましたよ。御勤めお疲れ様でした』ニコッ
キャスター「…………姫様、みんな」
―――― 『それじゃあ皆揃いましたし、帰りますですよー 私たちの霧島神境に』
キャスター「――――でも、私は……」
――――『もう赦すことも、赦されなければいけないこともありません。帰りましょう、霞ちゃん』
霞「…………はいっ、姫様!」
キャスター「 」スゥーッ
咲「……アーチャーさん、もしかしてとは思っていたけど」
健夜「……獅子身中の虫か。最初からこれを狙っていたんだね、アーチャー?」ギロッ
アーチャー「……止めておけ、今のお前にはキャスターの魔力強化はもはやないのだぞ」
健夜「……お前の様な女を引き込んだキャスターの落ち度だったね」スッ
和「小鍛治…、先生…… 待ってください、もうキャスターはいない。戦う理由なんてないじゃないですか!?」
健夜「……戦う理由はない。だけどこれは私が始めたことだから」スッ
アーチャー「……そうか、ならば止めはしない」シャキン
健夜「……善悪を顧みず良しとしたのだから、それを途中で止める訳にはいかないッ」ゴッ
アーチャー「……」ザシュッ
健夜「……!!」ドサッ
咲「アーチャーさん……」
和「……セイバーさん、大丈夫ですか?」
セイバー「和……? ッ!?」ドンッ
ドンドンッ
和「なっ……!?」
アーチャー「……ちっ、外したか」
咲「何のつもりですかアーチャーさん!? もうキャスターは倒したのだからもうお芝居する必要はないじゃないですか!!」
アーチャー「……芝居? 何を勘違いをしているのだお前は」
咲「お前…… キャッ!?」ドドドドッ
アーチャー「その弓の檻で少し大人しくしていろ、小娘……」
咲「まさか…… アーチャーさん、まだ和ちゃんを!?」
アーチャー「そう、自らの手で原村和をトバす。それだけが守護者と成り果てた私の唯一の願望だ……」ギロッ
セイバー「……アーチャー、自分で何を言っているのか分かっているの」キッ
アーチャー「……私はな、雀霊になどならなければ良かったんだよ。 ―――― そこを退け、照 」
セイバー「―――― ッッ!?」ビクッ
乙。アイアスというより全ては我が槍より通ずだな。
乙です
アーチャー「そんな体で無茶をすれば消えるぞ。自分の主でもない女を護ってどうする?」
セイバー「……マスターであろうかなかろうと私は和に誓った、この右腕で貴女を護ると」
アーチャー「……そうか。ならば偽りの主共々ここで消えろ」
セイバー「くっ……」
キィンッ
和「いい加減にしてください。確かに私も貴女のことが最初から気に食わなかった……」
和「けど、ここまで憎まれる覚えはありません! 私に何か恨みでもあるのですかッ!!」
アーチャー「ほぅ、もう暫くは竦んだままだと思っていたがな…… ああ、大有りだよ。貴様への憎しみはッ!!」ガッ
和「がっ……ッ……!?」
咲「和ちゃんッ!!」
咲(このままじゃ…… でも、私じゃアーチャーさんを止めることは…… ―――― いや、私じゃなくても)
アーチャー「どういった麻術かは知らんが過ぎた麻力行使はその身を滅ぼす…… その馬鹿げた願いと共にここでトべ」スッ
咲「……告げる」
アーチャー「……なにっ?」
咲「―――― 汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に ―――― 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
セイバー「……そういうことか、咲」ダッ
咲「―――― 我に従え。 ならばこの命運、汝が剣に預けようッ!!」
セイバー「―――― セイバーの名にかけて誓いを受ける。私の主として認めよう、咲ッ!!」
アーチャー「……チィッ」
ゴォォォォオォォッッ
セイバー「……」ギュルルルッ
アーチャー「……さて、どうするセイバー? 咲と契約した以上、本当に原村和とは無関係となった訳だが」
セイバー「言ったはずだよアーチャー、和との誓いは無くならないと……」
セイバー「それよりも貴女こそどうするの、今の私を相手に勝機があるとは思わないでしょ?」
アーチャー「フン、たかだか麻力が戻った程度でよくもそこまで強気になれるものだッ!!」ブンッ
セイバー「今の私は咲の麻力供給を受けている。その意味がわからない訳じゃないでしょ、……sアーチャー!!」キィィンッ
アーチャー「くっ……」ビリビリ
セイバー「もう止めて…… さっきは私の体を案じてくれたけど、それは貴女だって一緒でしょ?」
セイバー「この世に留まるための憑代もなく、麻力の供給もままならない。そんな状態で何が出来るって言うの!!」
アーチャー「アーチャーのクラスには単独行動のスキルが与えられていてな、マスターを失っても数日は存命できる」
アーチャー「それだけあればそこの小娘をトバすには十分さ……」
セイバー「馬鹿なことを…… 和をトバした所で何を得れるの?そんな願いは間違っているよ、アーチャー!!」
アーチャー「間違っているだと…… それはこちらの台詞だ、セイバー。お前こそ何時まで間違えた望みを抱いている?」
アーチャー「全ての咎を雀士であったことを否定すれば贖えるだと? 馬鹿馬鹿しい……」
アーチャー「守護者として様々な世界を巡り、あの子が生き永らえる選択肢を探した。だが、そんな世界はどこにもなかった……」
アーチャー「最初からお前にも、咲にも何の過ちなどない。あれは不条理に定められた運命であると何故受け入れられない?」
セイバー「……ッ!?」
咲「あの子…… アーチャーさん、もしかして……」
アーチャー「……真髄を見せよう。これがお前に出来る最大の返礼だ」ゴッ
セイバー「止めてアーチャー! 私は貴女とは……」
アーチャー「セイバー、いつかお前を解き放つ者が現れる。だが今の私の目的は原村和をトバすことだけだ」
アーチャー「それを阻むのならこの世界ではお前でも容赦はしない…… ―――――― unlimited bow works !!」
和「この風景は、一体……」
咲「地面に突き刺さる無数の弓、それ以外に何もない…… 夢で見たあの風景と同じだ……」
セイバー「固有結界、心象風景を具現化する大麻術…… こんな荒野が貴女の行き着いた先だと言うの、アーチャー……」
アーチャー「言ってくれるな、セイバー。この世界にある無限の弓矢ならばお前の右腕とも渡り合える。試してみるか?」
アーチャー「だが、ぶつかり合えば周囲の者が生きていられるかな? まぁ躱すのもいいがその場合は背後の女は諦めろ」
セイバー「くっ……」
咲(幾らセイバーさんでも自身以外に私たちも庇い続けるのは無理だ。このままじゃ衣ちゃんとバーサーカーみたいに……)
和「あの人は……」ダッ
セイバー「和、何を……!?」
和「貴女の目的は私でしょう!! ならこんな真似をしないで私だけ狙いなさいッ!!」
咲「和ちゃん!!」
アーチャー「開き直ったか、原村和。 ―――――― ならば望み通りにしてやろう」シュンシュン
和(数えるのも馬鹿らしくなる程の矢。あれらを跳ね返すことも耐えることもできないのなら……)
和( ―――――― 全て躱す。キャスターたちと戦った時と同程度では無理。ならもっと先、更に未来を視るッ!!)ゴッ
――――
和「んっ…… ここは……、まだ生きて……いる……?」
咲「ちょっとアーチャーさん、離してくだ…… んっ……」ガクッ
和「咲さん!!」
セイバー「アーチャー、どこへ行く気なの」
アーチャー「なに、仕切り直しだよ。今ので私は麻力切れだ、万全となったお前の相手などしていられない」
アーチャー「コレは保険だ。マスターの命が惜しかったらここで手を引け、セイバー。私の目的はそこの小娘……」
和「龍門渕です……」
アーチャー「なにっ……?」
和「龍門渕の郊外に誰もいなくなった屋敷があります。私に文句があるんですよね?いいですよ、聞いてあげます」
アーチャー「フン、確かにあの屋敷ならば邪魔は入るまい。良い覚悟じゃないか、原村和」
和「……咲さんに手を出したら貴女をトバします」キッ
アーチャー「……1日は安全を保障してやる。期限を過ぎたら腹いせに人質に手を出しかねんぞ」ダッ
和「……グッ」ガクッ
セイバー「和ッ!?」
――――
セイバー「全く、無茶をする。今まで使わなかったあんな能力を使うなんて……」
和「ごめんなさいセイバーさん。咲さん、取られちゃいました……」ハァハァ
セイバー「そんなことより今は和の方が危ない。咲のことは私に任せて和は家で休息をとるべき」
ランサー「……事は済んだようだね、お嬢ちゃん」スゥッー
セイバー「ランサー!?」ザッ
和「……いや、違うんですセイバーさん。あの人は私たちの手助けをしてくれたんです」
セイバー「えっ……、ランサーが和たちに協力した……?」
和「……ええ、そうです。出来れば今は戦わないで頂けますか」
セイバー「……どうして、ランサー? 貴女が和たちに協力するなんて何か企みでもあるの」
ランサー「えっ……? そんな物、あるに決まってるじゃん。見返りがなきゃ他所の手助けなんてする訳ないでしょ」
セイバー「なるほど。得る物を得たのならもう去って、ランサー。私も今は貴女とは戦わない」
ランサー「……首尾よくいった、って訳じゃなさそうだね。何が起きたんだい、お嬢ちゃん」
和「……咲さんが、アーチャーに連れて行かれました」
――――
『菫ちゃんはどんな大人になりたいの?』
『わたしはね、おおきくなったらまほーしょうじょになるんだよ!!』
『……魔法少女?』
『うん! あいとゆうきのまほーしょうじょになって、こまってるひとをたすけたりするの!!』
『そう、素敵な夢だね。うん、信じていればきっと叶うから頑張るんだよ』
『うん、すみれがんばる!!』
―――――――――
『……だから言いたくなかったんだ。あんな笑うことないだろうに』
『仕方ない。私だって弘世さんがあんな可愛い夢を持ってるなんて意外だった』
『自分だって高校生にもなって魔法少女なんておかしいのはわかってるさ……』
『そう?素敵な夢だと私は思うけどな』
『……宮永?』
『う~ん、つまり魔法少女って要は正義の味方でしょ?人の為に生きるって立派だと思う』
『……人の為に生きる、か。 そうか、私は正義の味方になりたかったのか……』
『頑張って弘世さん。いつか素敵な正義の味方になるの、私楽しみにしてるから』
―――――――――――――――
『……でも、もう決めたから。私達だけじゃない、沢山の人達がこのiPS技術の完成を待ってるの』
『だからと言ってよりにもよって照が…… まだiPS治療は臨床実験の段階なんだろう?危険すぎる!!』
『……ありがとう。けれど、もう可能性に賭ける段階になっちゃったって原村先生も言ってたし』
『かもしれんが安静にしていたらまだ保つのだろう。それにもう少ししたら咲ちゃんだって帰ってくる。ならそれからでも……』
『ううん、わかるの。自分の体だもん、多分咲が帰ってくるまでは……』
『……気弱なこと言うのはよせよ。そんな気持ちじゃ治る物も治らなくなる』
『……そうだね、ごめん。 でも、もしこれが成功したら、私も咲や菫ともまた同じ時間を過ごせるんだよね?』
『あ、あぁ…… そうだ、今度こそお前から咲ちゃんに言わなければいけないことだってあるんだろ?だから……』グスッ
『うん…… でも、咲だけじゃないよ。元気になったら菫にも言わなくちゃいけないこと残ってる』ニコッ
『私に……?』
『大丈夫、こんな泣き虫を一人で放っておけないから。 けど、もし駄目だったら…… その時は咲のことお願いね、菫』
―――――――――――――――――――――
『……済まない。必ず照に会わせると、仲直りをさせると約束したのに果たせなかった』
『……ううん、菫さんが謝ることじゃないですから』
『皮肉な物だな。原村が作り上げた人々の希望が、私達から希望を奪うのだからな』
『……誰も何も悪くなんてないです。ただ……、ただ、お姉ちゃんはこういう運命だったのだと』
『……こんな結末が運命だと言うなら私は認めたくない。 あの時にもっと反対しておけば、照は……』
『……菫さん、もう自分を責めないでください。きっとお姉ちゃんだって同じことを言うと思います』
『……照が?』
『はい。お姉ちゃんと約束したんですよね?自分がいなくなっても後悔なんてしないって…… だから……』
『照…… 照との、約束……』
――――
咲(この記憶、これが雀霊となった彼女の過去なんだ……)
咲(この後、彼女は失った物を埋めるかの様に、ただ失った者との約束を果たす為に生きる)
咲(その行動は利益を得ようとするのでも、賞賛を求めるのでもない、他人にとって理解できない正義の味方という生き方……)
咲(自分の限度を知りながら、尚も血を流して他人の為に生き、他人の為に生きた彼女への報酬など一切なかった……)
咲(そして、生前に求めた奇跡と言うには余りにもちっぽけな願いの代償は死後も守護者として使役される運命)
咲(それでも人の為になるなら、と進んで歩んだ先にあったのは多数を救い、少数を切り捨てる天秤の護り手という生き方……)
咲(そして、理想にも裏切られた彼女は繰り返される終末の場で悪を為す最も小さく、けれど全てに繋がる要素の排除を期す……)
咲(iPS細胞…… 未来で和ちゃんが完成させるその技術は多くの人を救い、更に多くの人に絶望を与える因子となっていた)
咲(もし、この技術が生み出されることがなければ…… 彼女はずっと人々を、そして自分も救うその機会を待ち続けていた……)
――――
咲「……どういうつもりですか、アーチャーさん」
アーチャー「ふん、目を覚ましたか……」
咲「どうあっても和ちゃんをトバすって言うんですか……」
アーチャー「ああ、あの女は今の内に消えた方がいい。奴の妄想は人にとって災厄でしかない」
咲「他の世界ではそうだったのかもしれないけど……、でもこの世界じゃ和ちゃんはまだ何もしてないじゃないですか!」
アーチャー「奴があの妄想に憑りつかれている限りこの世界でも同じ結果になる。だからその禍根を断つ、ただそれだけの話だ」
咲「……そうやって貴女は天秤が傾いた方だけを救う、理想とかけ離れた正義の味方にさせられたんですね」
アーチャー「……!?」
咲「体は弓で出来ている……」
アーチャー「……」ピクッ
咲「……それが雀霊となった貴女に与えられた呪文なんですよね? そんなのって呪いじゃないですか……」
カツン カツン
アーチャー「……ん?」
まこ「ほぉ、驚きじゃのぉ咲。半信半疑じゃったが、げにこがぁな所におったんか」ククッ
このSSとは直接関係ないけど、爽の諳じたマタイによる福音書がGOのマシュの元ネタじゃないかな。あとアポ以前のモードレッドって今の本編の咲みたいなんだね。
咲「……染谷先輩!?」
アーチャー「来客か。邪魔が入らないと言うから来たのだがな」
まこ「おっと物騒な真似はなしじゃけぇね、アーチャー。こっちはお前に用はないんじやけぇ」
まこ「……何じゃ? 言っておくけどお前なんて相手になる訳ないんじゃぜ」ニヤッ
アコ「……」スゥッ
まこ「ビビってんじゃろアーチャー? そいつはバーサーカーだって難なく仕留めたサーヴァントじゃ。まぁ無理もないわ」
アーチャー「……咲に意趣返しがしたいと言う訳か、染谷まこ?」
まこ「お、おう。そりゃあまぁそうじゃが……」
アーチャー「ならば事が済むまで待て。原村和を始末した後ならくれてやる」
咲「……ッ!?」
アーチャー「……だが、それが聞けぬとあればサーヴァント共々消えてもらう」
アコ「へぇ……」ギロッ
まこ「待ちんしゃい、アコ。折角くれると言うなら貰ってこう。ワシらはちぃと待っとるだけでええんじゃけ」
咲「アーチャーさん……」
まこ「ククッ、憐れじゃのぅ咲。サーヴァントに売っ払われるとはのぅ」カカッ
アーチャー「……」クルッ
アコ「ふぅん……」ニヤッ
――――
アーチャー「随分と遅い到着だな、原村和」
和「……アーチャー、咲さんはどうしました?」ギロッ
アーチャー「先に来た染谷まこにくれてやった……」
和「何ですって!?」
セイバー「アーチャー、貴女は何を……」
ランサー「チッ、相変わらず気に食わない奴だね。焦りなさんなお嬢ちゃん、咲は私に任せな」スゥッ
アーチャー「ほぅ、案外と暇な様子だなランサー。まだソイツらに肩入れしているとはな」
ランサー「マスターからの命令でね。元から私はあの娘を助けるために協力したって訳さ」
和「ランサー……」
ランサー「いやぁ、これが思いの外面白くってね。 ……なんで最後まで面倒みさせな」ニヤッ
和「……わかりました。咲さんをお願いします」
ランサー「あいよっ…… じゃ、行こうかセイバー?」
セイバー「……私はここに残る」
ランサー「正気かい? 今のマスターは咲じゃないのか」
セイバー「いえ、アーチャーとは私が決着をつける。一度は和を護ると誓ったこの身、約束を果たすまでのこと」
和「……ありがとうございます、セイバーさん。ですがアーチャーとは私が打ちます」
セイバー「何を言っているの、和!? 幾ら麻術を使えるようになったと言えどアーチャーを相手するなんて無茶過ぎる!!」
和「……セイバーさん、貴女に彼女をトバすことなんてさせたくありません」
セイバー「―――― !? 和、何時から私たちのことを……」
和「……まぁ何となくでしたが。例え別の存在であろうとも貴女にそんな真似をさせる訳にはいきません」
和「……それに、アーチャーも私との決着を望んでいますし、私自身もこの戦いから逃げる気はありません」
セイバー「だけど和……」
和「お願いです、セイバーさん。これは私の願いが信じた物で有り続けるために絶対に避けれないんです」ニコッ
セイバー「……わかった。和がそう言うのなら私は貴女たちの戦いを見守るだけ」
アーチャー「……ほぅ、覚悟だけは一人前だな原村和」
和「……私は貴女が見た結末なんて信じません。例え真実であったとしてもこの世界ではそんな未来には絶対にしないッ」キッ
ランサー「……ふぅん、どうやらアンタたちも訳有りのようだね。んじゃ好きにしな」スゥッー
アーチャー「見守る、か…… それは有り難い、ここまで来てお前に邪魔されるのでは咲と契約を切った意味がなくなるからな」
セイバー「ええ、何があっても貴女たちの戦いを邪魔はしない」
セイバー「……だけどその代わりに答えて、どうして和をトバそうと言うの?」
アーチャー「何故も何もないだろう? そいつの願いは破滅しかもたらさない。故に排除するだけのことだ……」
セイバー「貴女の言う通り未来の災いに和が原因になるのだとしても、その責任を今の和に問うのはおかしいよ」
アーチャー「さて、それはどうかな? 私は守護者としてそいつが招く未来に幾度と立ち会ってきたからな」
セイバー「守護者…… 確か死後に抑止力となって人類と麻雀を護る存在だと聞いたけど」
アーチャー「ああ、私はお前と違い自らの輝きで雀霊となった者ではない。死後の自分を売り渡して雀霊になったのだからな」
セイバー「でも経緯は違っても雀霊として招かれた者と違いはないはず……」
アーチャー「それが間違いだ、セイバー。だがおかげで私は約束を果たしたよ。正義の味方になる、と言うな……」
セイバー「正義の味方……」
アーチャー「そうだ。かって誰一人涙することない世界を夢見た女がいた……」
アーチャー「その女は託された約束を果たせずその証を形見として生涯持ち続け、死後に雀霊となった」
アーチャー「やがてその者はある願いを抱きその機会を待ち続け、そしてその形見を触媒としてこの世界に召喚された」
和「触媒……」
アーチャー「当然だ。召喚者と雀霊には必ず縁が必要となる。偶然呼び出される雀霊などいないからな……」
セイバー「咲は貴女を召喚する触媒を持っていなかったはず……」
アーチャー「ああ、召喚者じゃなく雀霊自身が触媒を持っていた。宮永咲が姉の照に贈ったこの世に二つとない御守……」
和「じゃあ咲さんの家で見たあの御守は……」
アーチャー「そうだ、宮永照の形見として咲から託された雀霊ヒロセを召喚するための触媒だったということだ」
セイバー「菫、どうして……」
――――
まこ「惨めじゃのぅ、咲。サーヴァントにも裏切られ、仲良しの和も今となってはアンタのことなんぞ眼中に無いようじゃぞ」
咲「……」
まこ「どうじゃ、裏切られた気分を味わうのは? 安心せぇ。ワシが味わさせられた分、たっぷりと返しちゃるからのぅ」
咲「私は先輩を裏切ったことなんて一度も……」
まこ「こんガキぃ、素直に詫びいれりゃまだ許してやったもんをまだそがぁなこと言いよるんかッ!!」
咲「……ッ!!」バシィ
まこ「……おぅ、その目じゃ。いつもワシのことを見下したその目が気に食わんかったんじゃ」トントン
まこ「……ん?」
バシイィィッ
まこ「ほげッ!?」ドンガラガッシャン
ランサー「……あ、悪ぃねガキ、口より先に手が出ちゃったわ」
咲「ラ、ランサーさん……!?」
ランサー「よぉ、今その枷を切ってあげるよ。後は好きにしな」
咲「何でここに……?」
ランサー「後は好きにすればいい。広間に行ってバカ共の喧嘩を止めるなり、裏口から帰るなりアンタは自由さ」
カツン カツン
咲「ランサーさん、足音が! 誰か来るみたいです!!」
ランサー「何っ……?」
美子「そこまでばい、ランサー。協力しろとは言ったが深入りしろとは言わんかったぞ……」
ランサー「……私のマスターは表に出てこないのが信条じゃなかったのか?」
美子「そげな信条などなか。 ……そう言うお前こそ命令違反ぞ。アーチャーん始末ば命じたはずやけど?」
ランサー「……アレは放っといていても自滅する。それよりそこのワカメはアンタの差し金か?」
美子「人聞きの悪かな。彼女とは協力関係ばい。聖牌ば手にいれるため共に認め合った仲やけど?」ククッ
咲「……そういうことだったんですね、シスターさん。監督役が聖牌戦争に参加するなんてルール違反じゃないんですか?」
美子「フフッ……」
咲「自分はトバされた物だと偽装して、脱落した染谷先輩をそそのかし聖牌戦争の裏で暗躍していた、と……」
美子「さすがは聖杯ん候補者だ、理解が早くて助かるばい…… ばってん、自分がこん後どげんなるかはわからんやろな」ニヤッ
咲「……!?」ゾクッ
ランサー「……おい、どういうことだ安河内。聖牌を担うマスターの命は保障されるって話、あれは嘘だったのか?」ギロッ
美子「嘘な物か、聖牌ば担うマスターはそん命ば永遠にできるばい」
美子「……但し、こん世全てん悪意ば一身に浴びて尚も耐えれればん話やけどな」ニタァ
ランサー「テメェ……」
――――
アーチャー「だが守護者となった私がしてきたことは道具と成り果て、機械的な守護者として掃除をしてきたに過ぎん……」
セイバー「掃除…… アーチャー、貴女がしてきたことは……」
アーチャー「ああ、命なぞどうでもよくなるくらいトバして来たよ。何度も、何度も。人類と麻雀を護るためにな……」
アーチャー「そしてトバした数倍の人々を救ったが、本来一番守りたかった者たちをこの手で削ぎ落してきた……」
アーチャー「何が正義の味方だ…… 私の理想が過ちだったのだ。こんな天秤の守護者など存在しなければいい!」
セイバー「……けれどそれは貴女が理想に裏切られただけのこと。和とは直接関係がないはず」
アーチャー「ふっ、簡単に言ってくれるなセイバー。誰よりも過去をやり直したいお前なら理解してくれると思ったがな」
和「セイバーさんが……?」
アーチャー「……何だ、聞いていなかったのかセイバーの願望を? 何故こんな不毛な戦いに身を投じても聖牌を欲するのかを」
和「……」
アーチャー「なら私が教えてやろう、彼女は……」
セイバー「アーチャー! ―――― ……和、私は聖牌の力を以てして過去のある選択をなかった物にしたかった」
セイバー「私の過ちは雀士になったこと。だからこの手に聖牌が欲しい、私は麻雀など打たなければ良かったんだ……」
和「どうして……、どうして貴女がそこまでして……」
アーチャー「そういうことだ、原村和。私も彼女同様、過去の過ちを糺すためにこの機会を待っていたのだからな」
和「過ち……」
アーチャー「ああ、正義の味方などと言う愚かな理想を消し去る。そのために先ずはiPSなどと言うくだらん理想を消し去る……」
セイバー「先ずは…… どういうこと、アーチャー。貴女はもしかして……」
アーチャー「……そうだ。その女をトバし、そして弘世菫という愚かな女の痕跡も消し去る」
アーチャー「そうすればこんな正義の味方も、災いの元凶も存在しなくなる。それこそが私に残された最後の願望だ……」
セイバー「そんな…… 和や自分自身をトバしたことで既に存在している自分や他の世界の結末を変えることなんて……」
アーチャー「そうだな、だが可能性のない話でもあるまい……」
アーチャー「潰える物が肉体だけでなく、精神を含めるのなら少なくてもこの世界でこんな愚かな幻想など現れんだろう」
和「やっとわかりました、貴女を気に食わなかった理由が…… アーチャー、貴女は後悔しているのですか」
アーチャー「……無論だ」
和「そうですか…… ならばやはり私と貴女は相容れません。私はどんなことになっても後悔はしません」
アーチャー「その考えがそもそもの元凶だ。お前もいずれ己の過ちを悔いる時が来る」
和「来ません! そんな物、絶対に有り得ません!」
アーチャー「……そうか、確かに来ないな。ここで逃げないのなら、どうあれ貴様に未来はない」スクッ
セイバー「……アーチャー!!」バッ
和「セイバーさん、ありがとうございます。でも、どうか下がっていてください」
セイバー「和……!?」
和「だって、ここから逃げたら本当に後悔しちゃいますから……」キッ
アーチャー「フン…… ならばその欺瞞と傲慢を悔いて逝け」スゥッ
セイバー「……麻力切れ!?」
アーチャー「変な期待はするな。この程度、ハンデにも成り得まい。……原村和、お前がトブことには変わりない」
和「……自分さえもトバす? そんなことをして消える物が自身だけだと本当に思っているのですか」キッ
和「自分への想いを一片も想像もできない勝手な貴女なんかに私は絶対負けませんッ!!」
おつー
――――
美子「……さて、とんだ足踏みばしたばい。宮永咲、その心臓ば貰い受けっと」
まこ「ま、待ちんしゃい!安河内シスター、約束が違うじゃろ!! そ、その咲はワシが好きにしてエエちゅう話で……」カタカタ
まこ「なっ、何もトバせとはワシも言っとらんけぇそこまでする必要は……」
咲「染谷先輩……」
美子「……」ギロッ
まこ「ひ、ひっ……」ガタガタ
美子「……最期に言い残しゅことはあっと? 遺言ぐらいは聞くばい」スッ
咲「……」キッ
美子「良か目つきばい。結果はわかりきっていても最後の最後まで勝負を諦めん眼ん光だ」ニヤァ
まこ「くっ…… ―――――――――― えっ!?」
美子「……ん?」クルッ
ランサー「……」ブンッ
美子「ラ……ランサー、きさん…………」ザシュッ
ランサー「……生憎だったな、安河内。この程度でトバされるなら私は雀霊になんかなってないさ」
美子「がっ…………」ドサッ
ランサー「……ったく、結局こうなったか馬鹿が」ガクッ
まこ「ハ、ハハッ…… なぁにが聖牌はワシの物じゃと?役立たずは最後まで役立たずじゃたのぅ、シスターさんっ!!」ゲシッ
美子「 」
まこ「……けど、文句は言わんとくわ。トバされた奴にあれこれ言うんはみっともないからのぅ」
咲「染谷先輩……」
まこ「待たせたのぅ、咲。これでようやく話ができるのぉ。ま、トバすまではせんがアンタにゃ詫びを入れさせんと……」
咲「……ええっとその」
まこ「……あ? 言いたいことがあるならはっきりと言いんしゃい」トントン
まこ「……ん?」
バシイィィッ
まこ「ほげッ!?」ドンガラガッシャン
ランサー「懲りないワカメだねぇ…… つまんないことをいつまでもグチグチ言いやがって」
まこ「……何じゃ、この死にぞこないの癖にワシに意見しようちゅうんか? アンタぁ、楽にはトバさないからな!」
まこ「ほら、出番じゃけぇねアコッ!こいつ、カッコつけてトバされたいじゃと!! ……あり?」
ランサー「……」スッ
まこ「何じゃ…… 何やっとんじゃアイツ、聞こえんのかッ!?早く来いって言うとるじゃろ!!」アタフタ
ランサー「……」チラッ
咲「……!!」フルフル
ランサー「……ったく甘いなぁ。ほれ大サービスだ、少しは反省してこれからは心を入れ替えな」チクッ
まこ「痛ッッッ~~~!!!」ダダダッ
――――
和「がっ……!?」ズズンッ
セイバー(無理だ…… 和はあの能力を上手く使い立ち回っている。マスターに付与された能力を遥かに超えたレベルで……)
セイバー(けれどアーチャーの言う通り、彼女と和の戦力差はいかんとも埋められない……)
アーチャー「……ふんっ」キィンッ
セイバー(ならば何故…… トバすことが目的なら和は既に命を落としている)
アーチャー「どこで覚えたかは知らんがその能力で私の攻撃を凌げきれるとでも驕っていたか?」
和「……くっ」ハァハァ
セイバー(……そうか。アーチャーの目的はトバすことだけじゃなく、和の心も折ろうとしているのか……)
アーチャー「酷い勘違いだ。その傲慢さが禍を招くとも知らずに」
和「どこまでも人を見下して……」グッ・・・
和(それよりさっきから脳内に浮かぶこの風景は一体…… アーチャーと打ち合う度により鮮明になり気分が悪くなっていく……)
アーチャー「ほぅ、貴様にも見えているのだなアレが……」
和「……!?」
アーチャー「本来交わらない現世と未来の者が打っているのだ。そういったことも有り得るのだろうな」
和「何を訳の分からないことをッ!!」ガッ
アーチャー「いいだろう。貴様の犯す罪を視て悔いを知れッ!!」キイィィンッ
和「なっ……!?」グワン
―――― そこに見えた物は過酷で暗澹な無残で悲惨な風景だった。
―――― 信じた理想が歪められ、その結末が終末を招く私の未来がそこにあった。
―――― そして、自分の理想を信じ抜き、最期にはその理想にも裏切られた女性が同じ結末の荒野にいた。
―――― その女性が一番大切にしていた物を、人を、私の願いが大きく歪め失わせてしまっていた。
―――― 後悔はしない。後悔はしない。後悔はしない。 ……けれど、自分の願いが辿る道を見せられると心が欠けそうになる。
和「あ…… ぁ…………」カタカタ
セイバー「和ッ!?」
アーチャー「その今にも吐きそうな最低の面構え。視えた様だな、これから招く自分の咎の大きさを……」
アーチャー「ならば話は早い。貴様が視た物は全て事実だ、原村和。貴様の存在と幻想はここで朽ち果てろッ!!」
アーチャー「―――――― I am the bone of my bow and arrow unlimited bow works!!」ドォォンッ
――――
ランサー「全く、余計な体力使わせやがって……」スパッ
咲「あ、ありがとうございますランサーさん……」ペッコリン
ランサー「はっ、成り行きだからね…… 礼を言われるような筋じゃ……ない…さ……」ガクッ
咲「ランサーさん!?」
ランサー「気にしなくていいよ…… こういうのには慣れているからね。雀霊なんて何時だって理不尽にトバされるもんだし」
ランサー「……いやぁ、お互いに詰まらないパートナーと組んじゃったもんだね」ニヤッ
咲「……ええ。でも私の場合、詰まらないって言うより扱い難かっただけだったと思います」
ランサー「……そうだね、女なんて大抵面倒くさい物だけどアレはその中でも一級品だね。さすがの咲でも手に余ったか」クスッ
咲「……でもだからこそ、ここまで頑張れたのだと思います。悔しいけど私じゃサーチャーさんを救えない」
咲「だって、私もアーチャーさんの気持ちわかっちゃうんだもん。だから私に出来ることは私のことだけ……」
咲「かってのあの女性みたいに自分の信じた道を貫き通す。そのぐらいしか示せないし、そのぐらいの事しかできなかったから」ニコッ
ランサー「あーぁ、咲みたいな娘がマスターだったら言うことなかったのになぁ」
ランサー「でも生憎と良い娘とは縁がなくってね。 こればっかは、何度やり直しても……直らないみたいだ……」ニヤッ
咲「ランサーさん……」
ランサー「……さ、早く行きな。あの腐れシスターは私とパコロで連れて逝く」
咲「でもそれじゃあ……」グスッ
ランサー「野の百合を見よ……」
咲「……えっ」
ランサー「労せず紡がざるなり かって栄華を極めたるソロモンだに ―――― その花の一片にしかざりき」
咲「何ですか、それ?」
ランサー「なに、ちょっとした愚痴さ。 ……咲、希望は前にしかない。だからお前は真っ直ぐ前だけ見て進むんだ。いいな?」
咲「はいっ…… ……さようなら、ランサーさん。短い間だったけど私も貴女みたいな人が好きですよ」クルッ
ランサー「……へっ、私の周りにはこんなのしか来ないのかねぇ」
―――― 『やっぱり本当だったのですね。周囲の女の子を魅了する、有珠山の神威使いの雀霊伝承は』
ランサー「ああ、けど色気のない小娘ばっかりで困ったもんさ。どうだった成香。私はちゃんとお前の分まで頑張れたかな?」
―――― 『ええ、素敵に御勤めされていました! 最後のあの言葉、微妙に間違えていましたけど』クスッ
ランサー「そっか…… じゃあ、まぁ成香がそう言うなら…… 今回はこれで良しと……しておくかな…………」スゥッー
乙。
そういや気になったんだけど、前作の汚い末原先輩の回想に出てきた咲ちゃんって今の咲みたいなことが重なって麻雀やめたの?
>>230
あの咲さんは色々あって麻雀やめざるをえなかったんだと思う
――――
アーチャー「叶わないと知って尚、ここに現れる愚かさ…… iPSなどそもそも霊長の理として間違えている……」
アーチャー「そうだ、私はお前の理想の果てを知っている。それは貴様とて理解したはずだが?」
和「……う、うわぁぁぁッ!!」キィンッ
アーチャー「そうか、認められないのは道理だな。 ……では聞くが、お前は本当にiPS細胞など作りたいと思っているのか?」
和「何を今更…… 私は作りたいんじゃない、絶対に作るんですッ!!」ブンッ
アーチャー「……そう、絶対に作らねばならない。何故ならそれは貴様の唯一の感情だからだ」
アーチャー「……例えそれが自身の内から現れた物でないとしてもだ」
和「っ……!!」
アーチャー「ほぅ、その様子では薄々感づいていた様だな。お前はただ清水谷竜華に憧れた……」
アーチャー「あの女のお前を助けた顔が余りにも幸せそうだったから自分もそうなりたいと思っただけ……」
アーチャー「それだけなら構わん。だがあの女はお前に呪いを遺した…… お前はあの日からiPSに憑りつかれた」
アーチャー「お前の理想は只の借り物だ。清水谷竜華が取り零した理想、正しいと信じた物を真似ているだけに過ぎん」
和「そ、それは…………」
アーチャー「iPSだと、笑わせるな。 誰かの為にと繰り返し続けたお前の想いは決して自ら生み出した物ではない!」
アーチャー「そんな女が他人の助けになるだと思い上がりも甚だしいッ!それを偽善と言わずに何と言うッッ!!」ザシュ
和「があぁッ!!」
アーチャー「iPSなど空想の御伽噺だ! そんな夢でしか生きられないのなら抱いたまま溺死しろッ!!」ザクッ
和「ぐぁ…… っ…………」ドサッ
セイバー「和ッ!!」
―――― 彼女の言い分はほとんどが正しかったのですがどうも何か忘れていると思いました
―――― 最初に地獄を見た。これから犯す罪を知った。私は何のためにあの地獄を生き延び、ここにいるのか
和「貴女は…… その、正しかったのですね」
―――― 『器用ではなかったんだ』
和「多くの物を失った様に見えますけど……」
―――― 『それは違う。何も失わない様に意地を張ったから私はここにいる。何も失った物はない』
―――― 『あ……、でも確かに一つ忘れてしまった物がある』
『あかん、ウチの治癒麻法程度じゃこの傷を治すのは……』
『治せないのなら傷を負う前迄に時間を遡らせれば…… でも…… ……そうか伶もそう言うてくれるんか』
『ホンマ、今の今までこんな大事なこと気が付かんかったなんてウチはアホやったわ…… ありがとうな、怜……』
和「あ…… そうか、そうでしたよね……」スクッ
―――― 『おい、その先は地獄だぞ』
和「これが貴女の忘れた物です。 ……確かに最初は憧れでした。けれど根底にあるのは願いなんです」
和「誰かの力になりたかったのに、結局何もかも取りこぼした女性の果たされなかった願いなんです……」
『生きてる、生きてる、生きてるで!!』
『おおきにな、おおきになっ…… 見つけられて良かった……、一人でも助けられて ―――― 救われた』
―――― 『その人生が機械的な物だったとしても?』
和「いいえ…… 貴女も、かって貴女の様に正しさを追い求めた清水谷竜華という女性もそうでした……」
和「誰よりも正しさを求め、公平であろうとし、私心を棄てた。貴女もそうやって自らを武器になぞらえたのでしょう」
和「でも、竜華さんが最後に思い出した大事な物が私の心にはまだあります……」
和「例え偽善に満ちた物だろうと、それがある限り私は私の未来を信じる。iPSの夢を形にしてみせますッ!!」ゴッ
――――
和「…………」ゴォッ
アーチャー「傷が癒えていくだと……?」
セイバー「これは、怜の麻力……!?」
アーチャー(そうか…… 原村和を救うためにあの日、清水谷竜華が埋め込んだ園城寺伶の麻術回路……)
アーチャー(奴のあの能力、園城寺伶の固有時制御が源泉だったと言うことか……)
セイバー「やっと気付いたよ…… 私が和に召喚されたのは偶然じゃなかったんだね、竜華、怜……」
アーチャー「貴様……」ビシュ
和「……貴女には、負けられないッ!!!」キィィィンッ
セイバー(和……!? いや、あの力は伶や竜華、今までの和とも違う何かが働いている……)
和「痛みや哀しみ、過ちだって受け容れてみせます…… けれど、自身で一番最初の心を棄てた様な女性には負けられません」キッ
アーチャー「……世迷い事を。実力差は歴然だと骨の髄まで理解できたはずだが?」
和「手も足もまだ動きます。負けていたのは私の心です。貴女を正しいと受け入れていた私の心が弱かった」
アーチャー「なにっ……?」
和「貴女の正しさはただ正しいだけの物。そんな物、私はいりません……」
和「貴女が知る未来なんて認めません! 貴女が私を否定するのなら、私もそんな物を打ち負かしますッ!!」
キンッ キイィンッッ
アーチャー「ぬんッ!!」 和「たぁッ!!」
セイバー(……和の中で一体何があったのだろう。瀕死の状態から回復した和はアーチャーと打ちあう度に力を増している)
セイバー(一方のアーチャーには迷いが生じ始めている。このまま行けば和はアーチャーに追いつく。けど……)
アーチャー(何を馬鹿正直に付き合っている。数歩退くだけで片は付く)
アーチャー(……だが一歩でも引けば決定的な物に敗北する予感がある。 ……いや、ここまでだ)
アーチャー「ふんッ!!」ダンッ 和「がッ!?」ゴロゴロッ
アーチャー(奴はもう死に体。これが最後の……)
和「……はぁはぁ」ピクッ
アーチャー(……間抜けか、私は! これが最後を何度見せつけられればいいッ!!)
アーチャー(コイツは止まらない。限界は訪れない。そんな物、とっくに通り過ぎている……)
アーチャー(何故ならこいつが切り伏せようとしている物はとっくに私でなくなっている……)
和「……」ギロッ
アーチャー(知っているとも…… その無様さ、私はよく知っている)
アーチャー(心は折れない。ただの一度も敗北を、諦めることをしなかった姿をよく知っているッ……)
セイバー(和が超えようとしている物は自分自身の未来、運命。信じてきた物、これからも信じていく物を守るために……)
セイバー(アーチャーが無き物としようとしているのは己を生み出す過去。これから繰り返される過ちを消し去るために……)
セイバー(……一度、夢を見た。雀士となるあの選択は間違っていなかったんだ。どっちも正しかったんだ)
セイバー(ただ、結末が願った物と違っただけ。悔いしか残らなかったとしても、その過程に多くの理想を果たせたのなら……)
和「だァッ!!」キィィンッ アーチャー「チィッッ!!」キンッ
アーチャー(勝てぬと知り、愚かな願いであると知ってもなお前を見て抗い進むその姿……)
アーチャー(それこそが私の過ち…… だと言うのにコイツは結末を知っても何故ッ……!?)
アーチャー「……いいや、同じだ! 貴様も私と同じ様に絶望する!!」ガキンッッ
和「がぁっ……!?」ガクン
アーチャー「皮肉だな。心が折れる前に麻力が尽きるとはな…… どうあれ原村和の戦いはここで終わる」
和「あなたの信念は正しい。私の願いは借り物の偽物です。 ……けれど、美しいと感じたんです」
アーチャー「何っ……?」
和「iPSが人を救うなんて偽善だなんてわかっています。それでも、それでも……」
和「制限を超えて、大事な人と添い遂げる生き方が出来たのならどんなにいいかと憧れました……」
和「私の人生や理想が紛い物でも、誰もが幸せであってほしいと思う願いは美しい物のはずです」
和「私は失くさない。未知の絶望なんかに屈しない。 ―――― この想いは決して間違いじゃないのですからッ!!」ドォンッ
アーチャー「くぅッ……」ビシュッ
ザッ
―――― 『もぅお姉ちゃんったら。だから駄目だって言ったのに』
―――― 『いいの、和は私たちが仲良しなのをやきもち焼いてるだけだから』
―――― 『全くあの二人は…… 弘世先輩も部長なんですからちゃんと注意してください!』
―――― 『おいおい私に八つ当たりするのは止せ、原村。 だが照たちもいい加減にして卓に着け』
―――― 『はいっ』『は~い』
ザザッ
アーチャー(何だ、今の光景は……!? こんな過去、こんな記憶は私には無いぞ)
和「……じゃない」キンッ
アーチャー(私の知らない世界…… いや、このような世界などあってたまるかッ……)
和「……間違いじゃない」キィィンッ
アーチャー(だがアレがこの世界を経て生じた可能性だとしたら……)
和「…………この夢は間違いなんかじゃないッッ!!」
アーチャー(いいや、認めない。認める訳にはいかない、こんな幻など……)
アーチャー「消えろッッッ!!!」
『ありがとう、菫……。でもその先を聞くのは元気になった時まで楽しみにとっておく……』
『照……』
『―――― だから忘れないでね、約束だよ』
『……ああ、忘れる訳ないだろ、こんな大事なことを。約束する、今度は必ず最後まで伝えるよ』
和「ッ……!!」シュッ
アーチャー(酷い話だ、古い鏡を見せられている…… 私もかってはこうだったのだろうな……)スッ
セイバー「はッ……!?」
和「―――― ……私の勝ちです、アーチャー」
アーチャー「―――― ……ああ、そして私の敗北だ」
咲「和ちゃん、アーチャーさん!!」
和「咲さん……」ニコッ
アーチャー「全く、つくづく甘い…… 咲に召喚されなければかっての自分に戻らなかったものを……」フッ
セイバー「アーチャー……」ニコッ
アーチャー「……ともあれ決着はついた。お前を認めてしまった以上、ヒロセなどと言う雀霊はここにはいられない」
セイバー「ん……?」ゾクッ
アーチャー「敗者は早々と立ち去ると……」
セイバー「アーチャー!!」
アーチャー「……ッ!?」ザクッ
アコ「愉しませてもらったわ。似た者同士の実にくだらない対局だったわね」クスクス
セイバー「まさかッ……!? どうして貴女が……」
アコ「お久しぃ、セイバー。 でも、数年ぶりの再会を祝う前にまずは人の物に手をつけた盗人には罰を与えないとね」
アコ「……それは私が愉しみにとっておいたのに誰に断って手出ししてんの? 消えなさい、ゴミがッ!!」ビシュゥッ
アーチャー「 」ザクザクザクッ
ドオォォォンッ
咲「アーチャーさんッッ!!」
よく考えたら、fateのキャラにあてはめると姉がアルトリアで妹がジャンヌなのか。そして一期のときはアルトリアがオルタ化して、今はジャンヌがアヴェンジャーに。
アコ「あ、力入れ過ぎちゃったかな。消し炭ぐらいは残してあげるつもりだったのに」クスッ
咲「このぉぉッ!!」ギリッ
セイバー「駄目、咲!! ……どうして貴女がここにいるの、アーチャー」
咲「アーチャー……?」
アコ「決まってんでしょ、前回の聖牌戦争が終わった後、私は消えずにこの世に留まっただけ」ニヤッ
セイバー「そんな馬鹿な…… 聖牌は破壊され、あの戦いの勝者はいなかったはず。なのにどうして……」
アコ「あんたのおかげよ、セイバー。私はあんたが壊した聖牌から溢れた泥を受けて受肉を果たしたんだから」
和「セイバーさんが聖牌を破壊した……?」
アコ「事実よ、和。零れ落ちた泥は炎となって街を焼き、聖牌の真下にいた私は当然その奔流を一身に浴びた」
アコ「ま、それで聖牌の正体を知ったって訳。知っちゃえばくだらない話だけど、このシステムを考え付いた奴は大した者ね」
アコ「……何しろ私たち全員騙し通したんだから」クスクス
セイバー「私たちを騙した…… アーチャー、貴女は前回の聖牌戦争で一体何を知ったの!?」
アコ「7人のマスターによる生存競争……、最後の1人になったマスターが聖牌を得る儀式……? そんなの全部嘘ってこと」クスッ
アコ「こんな物を考えた奴等が欲しかったのは純然な力。6騎のサーヴァントの魂をくべた膨大な麻力をね……」
セイバー「そんな…… それじゃあ聖牌は同じ霊体のサーヴァントには扱えない……」
アコ「そう、それだけの麻力なら全てを叶える万能器と呼べるでしょ。 まぁ私は願いの成就とやらには興味ないけどね」
アコ「けど、あれが人智を超えた力ならば世界一の女である私が扱うに相応しい。あの人間の欲望と呪いを具現化した牌を……」
咲「そんな、全ての願いを叶えてくれる聖牌が呪いだなんて……」
アコ「ああ、美子は言ってなかったんだ。あの聖牌は既に汚染されてるって」クスクス
和「では貴女はそんな物だと知りながらどうして聖牌を……」
アコ「決まってんじゃない、一人占めするのも悪いから造った連中に一人残さず還してあげるの……」
アコ「―――― この世全ての悪と呼ぶべき憎悪と呪いを、それを生み出した人間たちにね」ニヤァ
セイバー「馬鹿なことを…… そんな真似をしたらこの地上から人が一掃されてしまう!」
アコ「いいじゃない、自業自得ってやつでしょ? まぁ有象無象に浴びせる前にセイバー、そして和……」
和「……ッ!?」ビクッ
アコ「あんたたちがあの泥に溺れて、汚れ堕ちるのをゆっくり愉しませてもらうから……」ニタァ
アコ「さてお喋りはここまで。それじゃ始めましょセイバー、あの時の対局の続きを」スッ
?「お待ちなさい、新子憧……」
アコ「……誰?」ギロッ
透華「……お初にお目にかかりますわ、新子憧」
咲「龍門渕さん…… どういうこと……?」
透華「私は竜門渕第十六代頭首・竜門渕透華。以後お見知りおきを」クスッ
アコ「竜門渕……? ああ、美子の言っていた“始まりの御三家”の一つだっけ」
透華「ええ、御存知の様子で何よりですわ」
アコ「……で、こんな馬鹿げた宴に私を呼び出した主催者が詫びにでも来たって訳?」
透華「いえ、原村和に宮永咲……、その二人には大事な用がありますの。ですので手出しをお控え頂けませんかしら?」
アコ「何を言うかと思ったら只の人間如きが…… 世界一であるこの私に指示をするとは大きく出たわね」
透華「訂正を願いますわ、新子憧。残念ですが私は只の人間ではございませんわ」スッ
和「令呪!? どうして、龍門渕さんが……」
セイバー「この聖牌戦争は7つのクラス、7つのマスターで戦う物だったはず。なのにどうして……」
アコ「……なるほど、美子の言っていた8番目のマスターはあんたのことだったのね」
透華「ええ…… 本来でしたらバーサーカーだけでこの戦いを制し、私が表に立つ予定はありませんでした」
アコ「なるほど…… あのホムンクルス共を造り出し、けしかけといて自分は高みの見物を決め込む予定だった訳か」
透華「正直、あの子たちがトバされるとは思ってもいませんでした…… 新子憧、貴女の参戦は想定外でしたわ」
アコ「ふぅん、それで人形共を壊された御礼にわざわざ出しゃばって来たんだ」ククッ
透華「……いいえ、そこの二人にさえ手出ししなければ貴女も見逃して差し上げると伝えにきただけですわ」クスッ
アコ「見逃す…… 戦いに怯え人形共の影に隠れていた女が舐めた口を!覚悟はできてるんでしょうねッ!!」
透華「育ちの悪い娘は直ぐに地が出ますのね。 では、そろそろ皆さまにご挨拶させる頃合いですわね。さぁ来なさい……」
衣「……」スッ
咲「衣ちゃん……!? そんな、衣ちゃんは私たちの前で……」
セイバー「咲たちが見たトバされたそのマスターは彼女を隠すための存在、囮だったということか」
和「令呪を持っていると言うことは貴女が本当のマスターだったのですね、龍門渕さん……」
透華「いいえ、バーサーカーの正規のマスターは最初からハジメですわ」
咲「……はじめ?」
透華「……彼女に斃されたのは国広一。あの子は器になれなかったもう一人の天江衣ですわ」
アコ「へぇ、すっかり騙されていたわ。大した手品師じゃない、一度ならず二度もこの私を誑かすなんて」
和「それではそこにいる天江さんが本当の……?」
透華「ええ、貴女たちが衣と認識していた者は別人。ここにいる者こそ私たちの悲願を成就させる最後の天江衣ですわ」
アコ「龍門渕透華、と言ったわね…… アンタ、一体何者なの?」
透華「察しはついているのでしょう。 ―――― 私は8番目のクラス『奏者』を創造して参戦した8番目のマスターですわ」
セイバー「プレイヤー……?」
透華「サーヴァントも既に召喚済み。 新子憧、貴女がお望みでしたら今ここで打って差し上げても構いませんわ」
衣「……」
咲「えっ…… じゃあ、本物の衣ちゃんがサーヴァントなの……?」
透華「違いますわ。これはあくまでもサーヴァントを召喚するための憑代……」
アコ「へぇ、そういうことか…… ホムンクルスなんてお人形遊びも全てその為だったのね」
透華「ええ、この世界には最初から天江衣なんて人間は存在していなかった……」
透華「ここにいるのは天江衣という触媒を以て召喚した私のサーヴァント…… 奏者、ネリー・ヴィルサラーゼですわ」
ネリー「……」ギロッ
乙。ここで運命奏者を絡めてきたか。ちょっとややこしくなったから整理すると
透華 アハト翁
最初の衣 イリヤ
一 リズ
というかんじでいいのか?
今週は連休で更新なしです
>>247
色んな媒体の漠然としたアインツベルン周辺のイメージです
――――
セイバー(悪い夢を見ているようだ…… まさか彼女が現世で過ごしたこの数年で衰えたとでも言うのか……)
アコ「がッ!?」ドサッ
ネリー「……口ほどにもないネリね」
セイバー(いいや、咲たちがアーチャーがバーサーカーをトバしたのを目撃している。それも圧倒していたと言う……)
セイバー(あれほどの雀霊を圧倒できるのならば彼女の能力は健在なはず。ではこの目の前の光景は一体……)ゾクッ
ネリー「……ほら、立つネリ。この程度でトバれては世界一の冠が泣くネリよ」クスクス
アコ「このガキっ、調子に乗るなぁぁッ!!」ビシュ
ネリー「ふっ、学ばない奴ネリね……」スゥッ
アコ「……なッ!?」
和(また躱した…… さっきからあの泥は敵を捉え、貫いているはず。なのに彼女は一切無傷なのはどうして……?)
和(避ける動作は全くなく、何か特別な能力を使っている素振りも一切ない。一体何が起きているのでしょうか……)
咲(あそこにいる衣ちゃん……、いやネリーというサーヴァントは幻か何かで実体がない……?)
咲(いや、そんなことはない。とてつもない麻力を今もこうしてあの場にいる彼女から感じている。……じゃあこれは一体?)
セイバー(あのサーヴァントがどういった能力でアーチャーの攻撃を無効化しているのかはわからない)
セイバー(……けど、こうして見て一つわかったことがある)
セイバー(アーチャーの泥…… あれは前回の聖牌戦争で街を焼き尽くした、あの聖牌から零れ落ちた泥と同じ類の物だ……)
セイバー(アーチャーが言っていた聖牌の話が真実だとすれば確かに対サーヴァントにおいて彼女は最強だ)
セイバー(あの泥は霊体であるサーヴァントと同質の物。あれに触れたら私たち雀霊は身を保つことができない……)
セイバー(だがどうしてアーチャーはこの様な能力を……。当時から使っていたのだから受肉した際に得た能力ではない)
セイバー(宝具が生前の由来に依る物…… と、すると彼女は生前から信じ難い呪いを身に帯びていたことになる……)
セイバー(……アーチャー、貴女は一体どんな運命を辿った雀士だったの?)
アコ「……もぅ最悪っ、服もこんなに汚れちゃったし」ハァ
ネリー「余裕ネリね、ネリーと打って服のことなど気にするとは」ククッ
アコ「……いいわ、認めてあげる。アンタをトバすには出し惜しみしてらんない様ね」
ネリー「ふぅん、そんな無様を晒しておいてまだ何か残していたとはネリーも舐められたものネリね」
アコ「……ふん、まさかアンタみたいなガキにこれを使う羽目になるとはね」
アコ「仰ぎ見なさい。世界一の名に相応しきこの新子憧、至高にて究極、唯一にて無二の宝具……」ジャラッ
セイバー「何という麻力…… 彼女はまだこんな手を残していたのか!?」
ネリー「……なるほど、言うだけのことはあるようネリね」
アコ「さぁ出番よ、朋友の名を冠する戒めの鎖。 ―――― 寝起きで悪いんだけどちょっと付き合って貰うわよ、シズッ!!」
ドオォォンッ!!
透華「……」ニヤッ
セイバー「そんな……、あの宝具が外れた……!?」
アコ「どう……して…………!? なんでシズまで…………??」
ネリー「見直したネリ、新子憧。お前の趣意は間違いではなかったぞ」ズンッ
アコ「……ガッっ!?」
ネリー「……だが、その程度でこの運命奏者の律を縛ろうなどとは思い上がりも甚だしいネリ」ザシュ
アコ「 」ドサッ
透華「少々遊びが過ぎたのではなくて、衣……? 想定よりも能力を使い過ぎですわよ」
ネリー「……私はネリーだ。その名で呼ぶな」ギロッ
透華「……ふん、まぁ彼女の存在自体がイレギュラーだったのですし、これで良しとしましょう」スッ
セイバー「咲と和は下がって。今度はこっちに来る……」ギリッ
咲「で、でもセイバーさん……」
透華「そう身構えなくても良いですわ、セイバー。貴女には用はありません、おとなしく彼女たちを差し出しなさい」クスッ
セイバー「ふざけたことを……。この身は彼女たちの剣となり、盾となると誓った。そんな言葉に耳を貸すとでも思ったの」キッ
透華「抵抗は無意味と知りつつも揺るぎませんのね、セイバー。無論、私も貴女に差し上げる物がありますわ」
透華「……無駄な諍いを避ける代償として貴女の願い、如何様な物でも私が叶えて差し上げます」ニィッ
セイバー「……見くびられた物だね。聖牌を引き換えにすれば二人を差し出すとでも?」
透華「聖牌……? 貴女の願いがあのような汚物で事足りる物でしたらガッカリですわね」クスクス
セイバー「何を嗤う。貴女だって聖牌を得ようとこの聖牌戦争に参加しているんじゃないの?」
透華「いいえ…… ―――― 閔宥利、それに青山和、私の目的は最初から貴女方お二人ですわ……」
和「閔宥利、青山和……? もしかして私たちのことでしょうか……」
ネリー「やはり戻ったのは能力だけか。まぁお前たちに庭園の記憶があればこんな無様晒す訳ないネリね」ククッ
咲「……ガーデン?」
透華「そう、庭園とは既に消失した別の世界。そしてネリーと貴女方はその世界の因子を継ぐ最後の子供達……」
セイバー「咲と和が別世界の……?」
透華「ええ、全ての時に揺蕩う青山和。想像を舞遊す閔宥利。貴女方が揃うこの世界をどれほど待ち望んだか……」
和「龍門渕さんが何を言っているのか理解できません。私は私、咲さんは咲さんでしかありません!」
透華「ええ、貴女方が理解できないのも当然ですわね。他の世界を知覚できないのですから」
セイバー「馬鹿な。いかに強大なマスターであろうとも人間が他の世界を感知することなど出来る訳が……」
透華「普通の人間ならば無理でしょう。ですが私たち龍門渕にはそれを知る術を持ち合わせていますの」クスッ
咲「そっか、龍門渕さんの家は確か“始まりの御三家”と呼ばれるこの聖牌戦争を始めた人たちの血筋……」
透華「そう、かって我が龍門渕、そして白築家とニーマン家の父祖らが根源に至るためある協力を誓った……」
透華「それは共通の目的のため、互いの秘術を以て聖牌降臨の儀式を執り行うこと。それがこの聖牌戦争の始まり……」
透華「私たち龍門渕の父祖が担った役目は儀式を行う舞台の構築。この聖牌降臨の地、清澄一帯を治めること」
透華「膨大な麻力を集めるこの地を構築し、治めるため、龍門渕は多層世界を監視する秘術を提供しましたわ」
和「庭園と呼ぶ別世界もその継承した秘術で認知したと…… 俄には信じ難い話ですね」
セイバー「仮に貴女の話が全て事実だとしても咲と和を必要とする理由は何?」
ネリー「思い上がるな、その二人には何の用はない。ネリーたちが必要なのはあくまでも閔宥利、青山和の能力だけネリ」
透華「そう、庭園の能力を取り戻した貴女方にはその能力、その身を新しい聖牌にくべて頂きます」
和「私たちを聖牌に……」ゾクッ
乙。
どちらかというとエインズワースだったのか。
それはそうと清澄高校麻雀部全員型月入りを果たしたな。
おつー
透華「ええ、新子憧の言った通りこの聖牌は既に汚染され、本来の機能も失っている……」
透華「そこで私たち龍門渕はこの汚れた膨大な麻力を機能させるため新たな聖牌を求め、そして答えを得ました」
透華「新たな聖牌、それは世界を燃やし尽くす程の麻力すら制御できる器…… それがこのネリー・ヴィルサラーゼですわ」
セイバー「……なら貴女が聖牌戦争に勝利し、新しい聖牌を起動させれば済む話。咲と和を求める必要はないはず」
透華「その通りですわ。ですが残念ながら彼女ですら単身では聖牌に溜まる麻力は完全には制御できませんの」
ネリー「……ああ、庭園は既に滅び、召喚されたネリーもまた不愉快だが本来の状態には程遠いネリ」
セイバー「そんな、アーチャーを一蹴したとあの能力がまだ完全じゃないと……」ゾクッ
透華「ええ。彼女をかっての完全な運命奏者へと至らす物。それは旧き聖牌、そして欠けた庭園の因子……」
ネリー「お前たちがこのネリーの贄に値するか見定めるのに随分と無駄な時間を使わせてくれたネリね」ククッ
透華「これでおわかりになったでしょ、セイバー。貴女の願望は今の聖牌では到底叶わない理由が」
セイバー「ああ…… そして竜華がかって私に聖牌の破壊を命じた理由も今更ながら理解した……」
セイバー「あれは万能の願望機なんかじゃない、災厄を招く膨大な力でしかないと彼女は正体を理解したのだろう……」
透華「ならばその腕を納めなさいまし。最早貴女に戦う意義などなく、願望も私が叶えて差し上げるのですから」
セイバー「……確かに貴女たちからすれば私には戦う意義は失われていると映るのだろう」
セイバー「事実、思い描いていた聖牌による私の過ち、雀士となる過去の選択を糺す願いは失われている……」
セイバー「……けれど、契った誓いが消えた訳じゃない。私は彼女たちの剣として最後までこの腕を振るう」
和「セイバーさん……」
セイバー「やっと分かったよ。私が此処に呼ばれ、こうしてまた戻ってきた意味が」
セイバー「―――― 和、そして咲。貴女たちに会うために私はこの世界に召喚されたんだと」ニコッ
咲「セイバーさ……、お姉ちゃん……」ボロッ
透華「はぁ…… 興醒めですわね。私、貴女はもう少し聡明なサーヴァントだと思っていましたわ」
透華「その気宇は確かに美しい。ですがこの程度の押し引きが出来ない雀士でしたら用はありませんわね……」スッ
ネリー「ではその誓いとやらを抱いたままトべ。お前の魂もあの釜にくべてマスター共々贄としてやるネリ」ニタァ
――――
セイバー「くッ……」ハァハァ
ネリー「ククッ、最優のサーヴァントと言えどこの程度ネリか。意気沮喪したぞセイバー」
咲「どうして、どうして当たらないの……」カタカタ
和(やはりあのサーヴァントに一切躱す様な素振りはない。むしろセイバーさんが自ら外している様な錯覚に……)
和(攻撃もそうだ。完全に防ぎ躱しきったと見える物を悉く受けてしまう。こんな対局、最初から勝算なんて……)
和(最初から…… いや、まさかそんな能力なんて有り得る訳が)
ネリー「ああ、お前も新子憧と同じ顔をしているネリね。自分がこうも一方的に嬲られるのが信じられない、というな」クスクス
セイバー「ッ……」ギリッ
セイバー(直接打てば少しは糸口が見つかるかと思ったけどここまで手が読めないとは……)ゼェゼェ
セイバー(このままじゃアーチャーの二の舞になるのは避けられない…… 手遅れにならない内に次の手を打たないと)
ネリー「思い上がったネリね、セイバー。絶対王者などと持て囃され、雲泥万里の力量差を見誤った様ネリね」クククッ
セイバー(私がこの場でまだ出来ること…… そうだ、少しでも咲たちを生き永らえせ、例え僅かだろうと希望を繋がないと)
セイバー(幸いプレイヤーは油断しきっている。残り麻力を全て費やして約束された勝利の右腕でせめて一太刀でも……)ゴッ
透華「!? ネリィッ!!」ゾクッ
ネリー「チィッ、悪あがきを!」ドゴッ
セイバー「……ぁ …………ッ」ガクッ
咲「セイバーさんッ!!」
透華「……悪い癖ですわよ。何度目ですの、こうして足元を掬われそうになるのは」ギロッ
ネリー「フン、このネリーに懲羹吹膾せよと説くか。まぁ許せ、慢心は頂点に立つ者の宿業ネリ」
和(今、明らかにセイバーさんの攻撃する気配に狼狽した…… いや、今はそれよりも)バッ
咲「セイバーさん!しっかりしてセイバーさんっ!! ……お姉ちゃん、嫌だよこんなのッ!!」
セイバー「……っぁ」ピクピク
和「セイバーさん!? よかった、まだ息はあるようですね」ホッ
透華「ほらご覧なさい、雑な真似をするから…… お説教は後ですわ、とっととセイバーを始末してあの二人も回収なさい」
ネリー「全く、しぶといだけが取り柄の麁陋が……」
ネリー「だがこれもネリーの霖雨蒼生よ。おかげでお前のマスターがどうなるか、その目で見ずに済むのだからな」
和「咲さん!? 駄目です、逃げてくださいッ!!」
咲「お姉ちゃん……」ヒシッ
ネリー「かの閔宥利も情に流され、能力の使い方も忘れたらこんな物ネリか。さらばだイメージダンサー……」クスッ
和(クッ、咲さんがセイバーさんを置いて逃げるなんて出来る訳が…… 間に合ってッ!!)ダッ
ザッ
透華「……原村和?」
ネリー「……貴様、いつの間に? まぁいいネリ、立ち竦んでいれば良い物を自ら虎口に飛び込むとは愚かな女ネリね」
和「グッ……」ボタボタ
咲「和ちゃん、どうして……?」
和「良かった、咲さんは無事ですね……」ゼェゼェ
ネリー「……透華、コイツらはどうすれば良かったネリか?」
透華「……聖牌に二つの人格など不要ですわ。必要なのはその能力だけ、心臓を抉り出し後は棄てなさい」
ネリー「……だ、そうだ。これ以上遊ぶと透華が煩い。さらばだ時空に揺蕩う者よ、お前の蕩揺の旅もここで終わりネリ」スッ
和(ここまで、ですね…… さようなら咲さん……)フッ
ジャラッ
ネリー「貴様まだ……?」ググッ
アコ「……人がちょっと目を離した隙に何好き勝手してくれちゃってんの。言ったでしょ、ソレは私のだって」ハァハァ
透華「新子憧…… まだ息があったのですね」
――――
アコ(痛ぅ…… 口の中、血の味がする。気失ってたんだ、私……)
アコ(地面ってこんなに冷たかったんだ…… ったく、這い蹲されたまんま放っておかれるなんて何が世界一だか……)
アコ(世界一の女、か……)ククッ
ネリー「チィッ、悪あがきを!」ドゴッ
咲「セイバーさんッ!!」
アコ(セイバーもやられたか…… あのガキ、どんな理屈で出来てんのよ。こっちの手は一切効かなかったし)
アコ(……まさかシズまで私の意が伝わらなくなっちゃうなんて。これで本当に独りになっちゃったな)
和「咲さん!? 駄目です、逃げてくださいッ!!」
アコ(和…… 馬鹿ね、サーヴァントなんてとっとと見捨てて自分たちだけでも逃げときゃ良かったのに)
アコ(もし、あの時に和もいたらあの子はどうしたのかな……)
―――― とある村に一人の巫女がいた。正確にはまだ巫女になる程の修練を修める前の巫女見習いの少女だった。
―――― 彼女は巫女であり、そして雀士でもあったが雀霊となるには程遠く日常の小さな幸福を喜ぶ普通の少女であった。
―――― 始まりは唐突だった。ある日目覚めると淫売と罵倒され、抗えぬ暴力によって村内に引きずり出された。
―――― その村では日々の苦しさに耐えるために「物事がうまくいかない元凶」「無条件で貶めてよい何か」を必要としていた。
―――― 理不尽に抗う彼女の震える声は周囲を覆う悪意に掻き消され、人間の身を失った今でも消せぬ名を冠することになる。
―――― “世界一の女” 不幸なことに彼女は神に仕える巫女としては華やかで、そして聡明で有り過ぎた。
―――― 山の頂に幽閉され、悪意に晒されながら悠久の時の中で彼女は理不尽に遭った理由を理解した。
―――― 「自分が悪いのでも、誰かが悪い訳じゃない。人々は世界一の女として機能すれば誰でも良かった」
―――― やっと憎む対象を見つけられたが既に彼女は人間として毀れる間際だった。そんな最中、救いの手が差し延ばされた。
―――― 『遅くなってごめんね、アコ……』
―――― 断崖絶壁の山頂まで一条の鎖で登って来たその者は、まだ人間として扱われていた頃の友だった。
―――― 私を解放するなどと言う村の禁忌を犯したら彼女はどのような目に遭うのだろう。それなのにどうして
―――― もはや声にならない言葉を友に投げるも答えはなかった。だが、差し延ばされた手の温もりが無性に暖かった。
咲「和ちゃん、どうして……?」
和「良かった、咲さんは無事ですね……」ゼェゼェ
アコ(馬鹿ね、アンタ程度で敵いっこないの分かってたでしょうに…… ほんと、お人好しなのも変わんないのね)
アコ(……でも、そんな他所から来たアンタが私の理想を全部持っててさ、ちょっと悔しくて、すごく眩しかったな……)
ネリー「……透華、コイツらはどうすれば良かったネリか?」
透華「……聖牌に二つの人格など不要ですわ。必要なのはその能力だけ、心臓を抉り出し後は棄てなさい」
アコ(全く、都会のもやしっ子が慣れないことをするからそんな目に遭うのよ……)
アコ(―――― お願いシズ、もう一度だけ私に力を貸してくれる?)グッ
ネリー「……だ、そうだ。これ以上遊ぶと透華が煩い。さらばだ時空に揺蕩う者よ、お前の蕩揺の旅もここで終わりネリ」スッ
アコ(……うん、ありがとシズ。あの子を助けたらさ、もう一度あの頃みたいにはしゃげるかな、私たち)スクッ
アコ「……さ、行こうか。ドン臭い和の尻拭いはやっぱ私たちじゃないとねッ!」ジャラッ
――――
透華「新子憧…… まだ息があったのですね」
アコ「御期待に沿えなくて悪かったわね、こう見えて結構しぶといの。じゃなきゃとっくにあの山獄でくたばってたつーの」ニッ
ネリー「今更お前に何が出来るネリ? そのまま倒れていれば麻力も尽き楽にトベたものを」
アコ「はっ、人形風情が知った様な口叩いてんじゃないわよ」ニヤッ
ネリー「人形……?」
アコ「そうよ、アンタには何もない。人間らしい欲もなく、何を欲することもなくただ打たされてるだけのお人形……」クスッ
ネリー「世迷い事を、ネリーにはちゃんと庭園の記憶が……」
アコ「アンタは所詮新しい聖牌とやらを機能させるためだけの道具。そんな人間らしい物、ある訳ないでしょ」ククッ
ネリー「……ッ!? 荒唐無稽の佞言でネリーを惑わすか、この死にぞこないがッ!!」ビシュ
アコ「グっ……!? クク……、ガキが図星突かれてキレちゃった?やっぱガキんちょはガキんちょね……」
ネリー「貴様っ…… いいだろう、地上に一片の欠片も残さぬ覚悟はあるのだなッッ!!」ゴォォッ
透華「落ち着きなさい、ネリー! そんな見え透いた挑発に乗るのはお止めなさいッ!!」
アコ「……ほら、ご主人様はああ言ってるけどどうすんの、お人形さん」クスッ
ネリー「黙れッ! 私は、ネリーは人形なんかじゃないッッ!!」ザクッ
アコ「……ガぁッ」ズシャァッ
ネリー「貴様、何故無防備で……?」
アコ「……やっぱそうだ。今ので本当に分かった。アンタ、ほんとに空っぽなんだね」ガッ
ネリー「は、離せッ下郎ッ! 何を言ってるのだ、どうしてネリーをそんな憐れんだ目で見るッ!?」
アコ「……そりゃそうでしょ。運命奏者だなんて名乗っておいて自分の過去も未来も分かんないなんて私でも流石に嗤えないわよ」
ネリー「お前は一体何を……?」
アコ「今のアンタじゃ一生分かりっこないわよ…… ま、そんな奴にはこの子を渡す訳にはいかないのよぉッ!!」ジヤラッ
和「うっ……!?」ドサッ
セイバー「の、のどか……?」
咲「セイバーさん、和ちゃん!!」
和「咲さん……? 私はどうして……」ボォ
透華「新子憧…… 貴女、最初からこれを狙っていましたのね」
アコ「ハッ、気付くのが遅過ぎよ…… ほら、そこの!」ギロッ
咲「は、はいっ!?」ビクゥッ
アコ「もっとシャキッとしなさい!確かに和を返したからね。 ……いい、コイツはアンタが倒すのよ、和」ハァハァ
セイバー「アーチャー、貴女がどうして……?」
ネリー「いい加減に離すネリ! 貴様も一角の雀霊なら往生際ぐらい潔くするネリッ!!」
アコ「お生憎様、私って反雀霊なの。それも世界一の、ね…… 悪いけど、もうちょっとだけつきあって貰うわよッ!」ゴッ
ネリー「貴様、まさか……?」ゾクッ
透華「新子憧、貴女程の雀格を持った雀霊が相打ちを……!?」
アコ「さ、自分の身が大事なら令呪でも使ってこのガキにでも守らせたら?迷ってる暇はあんまないわよ……」ニヤァ
透華「くぅッ……」ギロッ
アコ「ほらセイバー、ボっとしてないでアンタたちもとっとと離れなさい。巻き込まれたって知らないわよ」
セイバー「う、うん…… 咲、和、さぁ急ごう」ザッ
咲「う、うんッ!」
アコ「……」ジッ
和「……あの人、どこかで」
セイバー「和、早くッ!」
和「は、はい……」クルッ
アコ「そう、アンタはそれでいいの。 ―――― さよなら、和」ボソッ
和「えっ? あの人、今何か言って……?」タタタッ
透華「……分かりませんわね、貴女にそこまでの真似をさせる理由が。セイバーへの妄執、という訳でもないでしょうに」
アコ「ああ、アレもまたあの子といっしょ。あの眩しさがちょっとムカついただけよ……」クスッ
透華「全く、これだから雀霊と言う物は…… 令呪を以て命じます。ネリー、私を護ることを優先なさい」キィンッ
ネリー「……その身を投げ出しても目的を完遂するか。その名、銘肌鏤骨するぞ新子憧」スッ
アコ「いちいち頭が固いのよ、アンタは…… ―――― ありがと、シズ。最期まで付き合ってくれて」スゥッ
ドォォンッ
セイバー「アーチャー……」
咲「大丈夫、和ちゃん……? どこか痛いの」
和「え、ええ体は平気です。けど……」グスッ
セイバー「和……?」
和「自分でも分からないんです…… けれど、あのサーヴァントの、あの人のことを思うと、涙がどうしようもなく……」ヒックヒック
咲「あの人、最初からずっと和ちゃんのこと気にしてた。何だったんだろう、あの人にとって和ちゃんは……」
―――― 『遅いよ和ッ!』『普段運動してないんでしょ』『今、行きますね。□■、□……』
和「……どうして、どうしてッ!」ボロ ボロッ
なあ、これ咲でやる必要ある?
>>1がやりたければいいんだよ。アコチャーが村人Aだったとは思わなかったけど
――――
セイバー「……酷い有様だけどこうして咲を取り戻して皆で帰ってこれた。結果的には良かったと思う」
咲「……アーチャーさんがいないよ」ボソッ
和「……咲さん」
セイバー「そうだね…… けれど、新子憧があのような行動に出なかったら確実に皆トバされていた」
和「運が良かったのでしようね、今夜は…… けれど色々なことがあり過ぎて戸惑っています」
セイバー「うん…… でも今は分からないことを詮索している余裕はない」
和「そうですね。まずは私たちに出来ること、したいことを確認する。そして、最善を尽くせるよう備えないといけませんね」
咲「分かった。多分アーチャーさんがここにいても同じことを言うと思うし」コクッ
セイバー「咲……」
和「まずは聖牌…… アレを放っておく訳にはいきませんね。あんな物は壊した方がいいです」
セイバー「そうだね、私も和の意見に賛成する」
和「セイバーさん!? 良いのですか、だって貴女は……」
セイバー「いや、皆の願いを汲み取りながらたった一つの願いしか受け付けない奇跡。そんな物、最初からあっちゃいけなかった」
和「わかりました。ですが咲さんは良いのですか、聖牌で叶えたかった願いがあったんじゃ……」
咲「ううん…… 私の願いなんて最初から聖牌で叶えられる物じゃなかったし、なくっても頑張れば出来ることだから」
セイバー「そう…… じゃあ決まりだね。私たちは聖牌を破壊する」
咲「けど肝心の聖牌がどんな物で、どこにあるのかも全くわからないけど大丈夫かな?」
セイバー「場所ならば心当たりはある。聖牌の降霊が出来る麻格のある土地、それはもうキャスターが目星を付けていた」
和「キャスターが?」
セイバー「キャスターのクラスには陣地作成のスキルがある。その彼女が選んだ土地こそ今回の降霊の場所……」
和「あの山、ですか……」
セイバー「うん。そしてプレイヤーたちもこの情報は得ているだろうし、私たちが知っているのもわかっているはず……」
咲「つまり、そこで聖牌の降霊準備すれば私たちも来ると予測済みなんだね」
セイバー「恐らく。追撃が来ないのもだからだと思う…… 厄介なのはあの山の構造。周囲が対霊結界で覆われている」
和「なるほど。確かにセイバーさんたちサーヴァントは正面の山門からしか山頂には行けませんでしたからね」
セイバー「そう。あの場所だと桟道から登って奇襲をかける様なことはできない」
咲「待ち構えている相手に正面突破か…… ただでさえ不利なのに厳しいね」
――――
ネリー「……透華、少し下がるネリ」
透華「えっ?」
アサシン「こんな寂れた山道を夜更けに女二人とは随分と訳ありだと見たが」スゥッ
透華「サーヴァント!?」
アサシン「ほぅ、私が見えるということはどうやら当たりだったようだな」ニヤッ
透華「貴女がキャスターが召喚したアサシンですのね。まさかマスターが消失した今もここにいたとは驚きましたわ」
アサシン「ああ、あの女狐が憑代を山門にしてくれたおかげでな、どうにかこうして今日まで生き永らえているよ」ニヤッ
ネリー「主人を失くし、その身が消えかけているというのに未だ律儀に門番を続けているとは健気な狗だな」ククッ
アサシン「フッ、忠義か。そんな物はさらさら無いが確かに番犬の縛りはまだ解けてはいない様だな」
透華「……ではこのまま素通りさせては頂けないのでしょうね」
アサシン「ああ、お前たちには何の蟠りもないがこれも役目だからな」
透華「まさかこんな場所で手を煩わす羽目になるとは計算外でしたわ。ネリー……」
ネリー「全く、詰まらん仕事をさせるネリね」スウッ
アサシン「ネリー、だと……」ピクッ
ネリー「どうした番犬、この期に及んで臆したか?」
アサシン「……一つ聞くがお前の名、ネリー・ヴィルサラーゼじゃないだろうな?」
ネリー「お前、どうしてネリーの名前を知っているネリ?」
透華(どういうことですの、何故庭園の頃の名前をアサシンが…… 彼女も庭園から召喚されたサーヴァントとでも?)
アサシン「奇遇、なのかな…… いやなに、容姿は全く違うがどこか雰囲気がよく知る者と似ていてな」フッ
ネリー「……訊かせろ、お前の識るネリー・ヴィルサラーゼとはどのような者ネリ?」
アサシン「……そうだな、私が知る限り最も麻雀の強い女の一人だったな。だが打ってみたいとは思わなかったかよ」
ネリー「それは単に貴様が臆しただけじゃないネリか」ククッ
アサシン「フッ、どうだろうな。 ……確かにアイツは強かった。だが、ただ強いだけの麻雀だったからな」
ネリー「……強いだけ? 雀士を計るにそれ以外の尺度など不要であろう」
アサシン「ああ、お前もそうなのか…… そんな奴を見ているとな、どうもこっちが辛くて結局打つことはなかったよ」
ネリー「分からないネリ。どうして貴様が辛くなる……?」
アサシン「……アイツには何もなかった。打たされている者の麻雀は私にはどうにも哀しく見えてな」
ネリー「……ッ!?」
透華(召喚した「ネリー・ヴィルサラーゼ」を構成する麻力はあくまで衣の能力。運命奏者としてのネリーは麻雀とは無縁)
透華(ですが、どうやら庭園以外にネリー・ヴィルサラーゼという雀士も別個として存在していたとは偶然でしょうか?)
透華「……ネリー、お喋りはいい加減にして早くトバしなさい」
アサシン「やれやれ…… いいさ、とっとと行け。こっちも余裕がなくてな、先約を果たすまで無駄は避けたい」クルッ
ネリー「待て!お前もサーヴァントの端くれならば強者たるネリーを前にして心沸かぬのかッ!!」
アサシン「……止めておく。どういう訳だか知らんがお前も一緒だよ、アイツと。見たくもない物が透けて見える」
ネリー「巫山戯るな番犬風情がッ! 現世に縋りつくその身、雲散霧消してやるネリッ!!」
透華「止めなさいネリー、無駄な対局などする必要ありませんわ!」
透華(やはり新子憧との対局後、ネリーの様子が明らかにおかしいですわね)
透華(憑代の問題なのか、それともネリー自身の問題なのか…… それとも、この別世界からの召喚自体に問題があったとでも)
透華(何せよ私の願いが成就するまであと僅か。それまで持てば良いだけの話ですわ、ネリーも私も……)
アサシン「あの女の言う通りだ。放っておいても恐らく後一日も保たないサーヴァントの戯言なんか気にするな」ククッ
アサシン「……まぁ、例えどんなに強かろうと打たされている麻雀は存外と脆い物だ。気をつけろよネリー」スゥッ
ネリー「貴様、何を……?」
アサシン「なに、懐かしい名を聞いて無用の節介を焼きたくなっただけだ。じゃあな、もう一人のネリー・ヴィルサラーゼ」シュン
ネリー「おい、待て貴様ッ!」
透華「……あんなサーヴァントの戯言、捨て置きなさい。行きますわよ、ネリー」
ネリー「……」ギリッ
憧役の東山さんもfgoに参戦。このタイミングからして、間違いなくあの狂戦士だろう。だっつーのに何穏乃を生け贄にしようとしてんだ憧ァ
>>279
配布鯖欲しかったですね
――――
セイバー「寝れないの? 今の内に少しでも体を休めておかないと」
咲「あ、セイバーさん。 ごめんなさい、何だか寝つけなくて」ペッコリン
セイバー「別に謝ることじゃない。咲にとっても色んなことがあったからね、落ち着かない気持ちもよく分かる」
咲「御守り……」
セイバー「えっ?」
咲「この御守り、アーチャーさんが私にって。 ……けど私、同じ物を持っているんです。ほら、ここに」
セイバー「……どういうこと?」
咲「存在しないはずの同じ物。でも、違う世界から持ち込まれた物ならば二つあってもおかしくないですよね?」
セイバー「じゃあそれはアーチャーの……」
咲「はい…… 因果って言うんでしたっけ?この御守り、きっとアーチャーさんの世界でも同じ結果だったんでしょうね」
セイバー「……それは何か特別な物なの?」
咲「私のは仲直りしたくってお姉ちゃんに会いに行く時、用意したんですけど結局渡せなかったんです」
セイバー「っ……」
咲「そうだ、良かったらこれセイバーさん貰って頂けますか?」
セイバー「咲……」
咲「大事な人が元気でありますようにって用意したのに誰にも受け取って貰えないなんてこの御守り、ちょっと可哀想ですし」ニコッ
セイバー「……ありがとう、咲。けどこれは貰う訳にはいかない」
咲「――――!? ……そっか、そうですよね。セイバーさんもこんな物、要らないですよね」
セイバー「違うよ、咲。それはね、咲が本当に渡したい人に手渡さなきゃいけない物なの」
咲「でも……」
セイバー「きっと咲の渡したかった人も本当は仲直りしたかったんだよ」
セイバー「咲だけが悪くないことも分かっていた。けど臆病だったその人は認めることも許すこともできなかった……」
セイバー「……だからそのことをずっと悔やみ続けて、今も全てのやり直しだけを願っていたんだ」
咲「お姉ちゃ……」ジワッ
セイバー「……ううん、私は咲たちを護るため、自分の後悔を終わらせるために召喚されたサーヴァント」
セイバー「私なんかは貴女の姉じゃない。 ……だからそれは本当の、臆病なお姉ちゃんに渡してあげて」
セイバー「―――― お願い、咲 」ニコッ
咲「……わかりました。 じゃあ約束しましょう、セイバーさん」
セイバー「約束……?」
咲「はい! 私はこの聖牌戦争が終わったらもう一度会いに行って御守りを渡します。それで仲直りもしてみせます」
咲「聖牌なんて無くでも運命なんて変えられるはずです! ……だからセイバーさんも後悔なんてここでお終いにしてください」
セイバー「……うん、わかった。ありがとう、咲」
――――
和「どうしたのですか、セイバーさん?」
セイバー「和、もう起きていたんだ。まだ出発まで時間はあるのに休んでいなくて大丈夫?」
和「ええ、体の方は何とか。それよりセイバーさんこそ土蔵なんかで何をしていたのですか」
セイバー「うん、ここでは色々あったから。今の内にこの世界の風景を心に焼き付けておこうと思って」
セイバー「……結果はどうあれ私がここに戻ってくることはもう無いだろうから」
和「そうでしたね。サーヴァントの方たちは聖牌によって召喚されている……」
和「つまり、聖牌を壊すと言うことはセイバーさんとも……」
セイバー「気にしないで、元からそういう物だと分かっていたのだから。それよりも和、貴女に御礼を言っておかないと」
セイバー「ありがとう、和。 随分と時間はかかったけど貴女たちは私の行先を教えてくれた」ペッコリン
和「……私がですか?」
セイバー「うん。 ……夢見て叶えた結果に後悔は多いけど、そこに至るまでに得た物だって沢山あった」
セイバー「その道を選んだのは私自身なんだし、それらを全て否定する必要なんて無かったんだって」
和「そうですか。私にはそんなことを教えたつもりはありませんけど……」キョトン
和「でも、自分が納得してるのならそれで良いと思います。今のセイバーさん、すごくいい顔されてますし」
セイバー「そっか…… じゃあ和、最後にお願いしてもいいかな?」
和「何でしょうか?」
セイバー「和たちは私が護る。だから和と咲、二人でここにまた戻ってきてね」ニコッ
和「わかりました…… 約束します、必ず咲さんと一緒に帰ってきます。またここに」
――――
ネリー「ほぅ、これが世界を穿つ孔か。なかなかの物ネリね……」
透華「ですが如何にサーヴァント6騎分の魂を費やしても受け皿が無ければこの程度ということですわ」
ネリー「やれやれ、我がマスターは業が深いネリね。 ……さて、最後にもう一度だけ聞くが本当にいいネリね透華?」
透華「ふん、この期に及んで揺らぐ程度の覚悟だとお思いですの?」
ネリー「そうか、ならばその覚悟見届けさせて貰うネリ。この孔より溢れる麻力、どこまで制御できるか愉しみにしているネリ」
透華「ええ、特等席で篤と御覧なさい。 ……それより貴女こそ大丈夫ですの?」
ネリー「……この運命奏者を疑うか?」イラッ
透華「先程のアサシンの言葉に揺らぎが見えましてよ、ネリー?」
ネリー「……気のせいネリ」
透華「……まぁいいですわ。貴女はセイバーを討ち果たし、原村和と宮永咲を取り込み運命奏者の能力を完全とする」
ネリー「そしてそなたは孔を保ち、麻力を制御する。 役割は十二分に心得ている。だが、未だに分からないネリね」
透華「……何が、ですの?」
ネリー「では最後に改めて問うておこう。透華、そなたの願いはそうまでして果たさねば成らぬ物ネリか?」
透華「何を今更。私からすれば根源に至るなど只の妄執。存在し得ない可能性を創造する方が余程高尚ですわ」ククッ
ネリー「だが、他者からすれば世に生を得れなかった者共など端から存在していなかったことと同じ」
ネリー「つまりは他人にとってそなたの願いは価値なき物。それは己の形すら棄ててまで願う物ネリか?」
透華「……ええ。衣を、あの子たちを人間に還すのは私にとって何よりも意味がある。そこに他人の価値観を不要ですわ」
ネリー「そうか、やはりネリーには理解はできぬネリ。だがその愚直な願い故に手を貸すに値するネリ、龍門渕透華」カカッ
透華「……では、問いも尽きたのならお別れですわね、ネリー・ヴィルサラーゼ。その手で己の宿願を存分に果たしなさい」
ネリー「……ああ、さらばだ透華。約束しよう、そなたを掲げ願いを果たすのは我等であると」ザクッ
――――
和「ここまで来て何ですが調子はどうですか、咲さん?」
咲「うん、何でか分からないけど凄くいい…… 昨日あんな大変な目にあったのに全然疲れとか感じないんだ」
和「そうですか、咲さんもでしたか」
咲「も? じゃあ和ちゃんも」
和「ええ、ですが私は調子が良いと言うよりも身体が勝手に昂っているような感覚ですね」
咲「そっか、和ちゃんもなんだ。私もそう、ここに近付くにつれ身体が熱っぽくなっていく感じがしてたんだ」
和「この茂みを抜けた山頂に何かあるのでしょうね……」
咲「私もそう思う。 ……セイバーさん、いま山門の所に着いたみたい」
和「予定通りですね。後は手筈通り私たちがセイバーさんに合図を…… あれは!?」
咲「孔……? どうしてあんな物が!?それにあの孔の下にある塊みたいなのは何……」ゾクッ
和「この匂い、あの清澄大火災の時と同じ匂いがします……」
ネリー「ああ、アレか。あれは麻力が物質化したものネリ」ククッ
和「ネリー・ヴィルサラーゼ!? どうしてここに……」
咲「何で…… セイバーさんは山門の方で誰かと打っている感覚は伝わって来てるのに!?」
ネリー「ん、お前たちも知らなかったネリか。山門には消え損ねのサーヴァントが残っているネリ」カカッ
――――
セイバー「ッ!?」ビクゥ
アサシン「……待っていたぞ、セイバー。良くぞ間に合ってくれたな」スゥッ
セイバー「アサシン、どうして貴女が!?」
アサシン「そう驚くなセイバー。それとも決着をつける約束を忘れていたか?」フッ
セイバー「いや、そんなことはない。けど、貴女のマスターであるキャスターは既に消え去ってるのに……」
アサシン「ああ、確かに召喚したのはあの女狐だが私はちょっと特殊でな、この山門を憑代にした謂わば雀霊の紛い物だ」
アサシン「まぁ、そのお蔭で何とか生き永らえていたがそれも恐らく今夜が限界だろうと諦めかけていたよ」ククッ
アサシン「―――― だが、どうやら運には見放されていなかった様だ」ギロッ
セイバー「貴女にはもうその門を守る意味などない。そこを通してアサシン。いや、辻垣内智葉……」
アサシン「以前にも言っただろう、ここを押し通りたければ私をトバして行けと」ニヤッ
セイバー「……クッ」ギリッ
――――
ネリー「フン、運にも見放されたな運命奏者の成り損ない共」ククッ
咲「そんな、アサシンがまだ残っていたなんて……」
ネリー「さて、ただ貴様等を取り込んでも詰まらないネリ。少しばかりこの世の名残を惜しませてやるネリ」
ネリー「せっかく透華が頑張っているのだ、彼奴の功績を見届けるのがネリーだけではアイツもさぞ寂しいだろうからな」
和「……龍門渕さん? どういうことですか」
ネリー「ほら、貴様等の目の前にいるだろう? まだ気付いていなかったネリか」
咲「えっ……」ゾクッ
ネリー「まだ僅かながら見えるではないか、この麻力の塊に取り込まれるのを健気に抗う透華の姿が」ニタァ
和「まさか貴女、自分のマスターに手をかけたのですか!!」
ネリー「何を戯けたことを。確かに彼奴に聖牌の欠片を埋め込んだのはネリーだが、これを望んだのは透華自身よ」
咲「どうして龍門さんがこんなことを……」
ネリー「考えてみればアレも哀れな娘ネリ。人の身では到底叶わぬ大望に憑りつかれたばかりに」
和「……龍門渕さんは一体何を願いこんなことを?」
ネリー「アレは酔狂でな、己を聖牌と化し無から新たな世界を造ろうとしているネリ」
咲「龍門さんが望む世界?」
ネリー「そうとも。あらゆる平行世界を観測しても望むべく世界は存在しない、可能性にも見放された者の末路があれネリ」クイッ
咲「どうしてここまでして……」
ネリー「さぁてな。己の我欲ではなく、ただ人間としての生を得れなかったホムンクルス共の為にとはネリーにも理解は出来ぬ」
ネリー「……だが、妄執もここまで来れば大した物ネリ。召喚されたサーヴァントとしては手を貸すには十分に値するネリ」
和「龍門渕さんがどんな願いを抱こうと構いません……」
和「ですが、こんな膨大な麻力が溢れ出したらまたあの時の様な大惨事になります。今すぐ止めてください!」
ネリー「何を暢気なことを。透華が孔より招き入れている麻力は最早この世を焼き尽くす程の呪いネリ」ククッ
咲「……和ちゃん無駄だよ、言って止めてくれるような人じゃない」
咲「これを制御している龍門さんを孔から引き戻す。止めるにはそれしか方法はないよ」
ネリー「ほぅ、流石は慧眼だな閔宥利。確かにその通りだがこの呪いの中を進むだと?笑わせるネリね」カカカッ
和「そうですよ咲さん、こんな悍ましい麻力に身を晒すなんて無茶です!」
咲「いや、麻力だったら雀士である私たちなら制御はできる。触れたとしても呪いに満たされる前に龍門さんを引き戻せば……」
ネリー(何を言いだすかと思いきや、そのか細い躰で耐えれる訳ないネリ。だがアレはイメージダンサー・閔宥利……)
ネリー(彼奴の現実改変能力は想像を躍らせば虚妄すら現実と為す。可能性の芽は摘んでおくか……)
ネリー「待て、閔宥利。ネリーの前から立ち去ることを誰が許した?」ブンッ
和「クッ……!?」キィンッ
咲「ッ!?」ビクッ
ネリー「なッ!?」
ネリー(何だ今の動きは……!? ネリーですら捕えきれぬなど単純な速度では有り得ないネリ……)
ネリー(まさか短距離時空間跳躍……! だがこの女はタイムワンダラー・青山和の因子を持つ者のはずネリ)
和「全く咲さんはいつも無茶を…… でも彼女の反応からして良い読みの様です、お願いします咲さん!」
咲「うんッ! 和ちゃんも無茶はし過ぎないでね」ザブザブッ
和「咲さんに手出しはさせません! ネリー・ヴィルサラーゼ、貴女の相手は私ですッ!!」
ネリー(ネリーが見誤ったとは思えぬ。だが、この者が青山和ではなくあの女の因子を持つ者だとしたら……)
ネリー「フン、セイバーを迎えるまでの余興と思っていたが気が変わった…… 貴様の庭園の因子はこの場で献上するネリ」
ネリー「これはネリーの慈悲ネリ。この世界が燃え尽きる様を見ずに逝けるのだからな!」カカッ
――――
セイバー「クッ……」キィン
アサシン「どうしたセイバー、何時ぞやの夜よりも随分と軽い打牌だぞ」キィィン
セイバー「……そこを退いてアサシン、こんな意味のない対局なんてもう打つ必要はない!」
アサシン「意味? フッ、意味など最初からない。元より叶える願いもなく、正規に召喚された雀霊でもない身だからな」
アサシン「……だが、こんな私でも聖牌に呼び寄せられた意味があるならばそれは今だ」
セイバー「えっ……」
アサシン「表舞台に出ることが叶わぬ真剣師としてひたすら業を磨き続けた私に望みがあったなら……」
セイバー「アサシン……」
アサシン「それは、この業がどこまで通じるか。己の為、心行くまま好敵手と打つことだったのだろうな」ギロッ
セイバー「分かった…… そんな願いを聞かされたら雀士として背は向けられない」
セイバー「あの夜の約束、ここで果たそうアサシン……」ゴッ
――――
和「たあっ!」スカッ
ネリー「どうした、どうした和ぁ? これでは其処らにいる有象無象の女と何も変わらないネリ!」ククッ
和(どうして、どうして当たらない……)ハァハァ
ネリー「ン……? 随分と顔色が悪いネリ、まるで視てはいけない物でも見た様な面をしているぞ」
和「……!?」ゾクッ
和(彼女は私が視えないことも分かっている!? 私がネリーの数巡先を視れないことを……)
ネリー「同じ庭園の因子を持つ者ならば少しは愉しめると思ったがこれでは新子憧の方がまだマシだったネリ」
和(未来視ができない私なんか万が一にもサーヴァントに適う訳がない……)
『……いい、コイツはアンタが倒すのよ、和』
和(新子憧…… どうして何故あの人は私にネリーを倒せなどと……)
ゴゴッ
和「……この音は?」
ネリー「……ん、聖牌が蠢いているな。閔宥利め、聖牌の核である透華に届いたネリか」チッ
――――
透華「……」
咲「龍門さん…… ごめんなさい、貴女も大事な人のため頑張っているのは分かっています」
咲「……けど、こんな形でしか果たすことができない願いなんてやっぱり駄目なんです」ズブッ
咲「はぁ、はぁ…… 取れた、これで後は龍門さんといっしょに向こう岸に戻れれば……」
??「……」グイッ
咲「何っ!?」ビクッ
??「返セ…… 返セ……… 返セ…………」ガシッ
咲「腕……!? そっか、龍門さんが聖牌の核なんだもん当然取り戻そうとするよね」
咲(ごめん和ちゃん、どうやらこっちは無事には戻れなそうだよ……)
――――
セイバー(今の衝撃音は上から…… 山頂では一体何が?)
アサシン「ほぅ、私の目前で他のことに気を取られるとは余裕だな」キィンッ
セイバー「……間合いにッ!?」キンッ
アサシン「この状況、どういう意味か理解しているだろうなセイバー?」
セイバー(クッ…… 手を開かせたらアレが来る、あの燕返しが……)
アサシン「いいのか? 力を弱めれば弾き飛ばして私の手を作らせてもらうぞ」
セイバー「……そのために自ら間合いに入ったの」
アサシン「無論、勝負をつけに来た。対局中に後のことなど考えるな……」
セイバー(このまま間合いを離したらアサシンの燕返しは完成する。それこそ彼女の狙い……)
アサシン「……何を迷う、セイバー。私がこの門を守る様にお前にも護る物があるのだろう?ならば迷うことなどあるまい」
アサシン「……それに時間がないのはこちらもいっしょでな。ほら、麻力が切れかけているからこの通りよ」スゥッ
セイバー「アサシン……」
セイバー「……失礼をした。確かにお互いに時間はないみたいだね」ゴッ
アサシン「……ふん、出し惜しみしやがって。そうだ、私はその全力のお前と打ちたかったんだ」
セイバー「……」ゴゴゴッ
アサシン「―――――― 秘技、燕返し」
ザシュ
セイバー「――――」
アサシン「……往け」
セイバー「……」コクッ
ダッ
アサシン「馬鹿火力だけが取り柄の女だとばかり思ったが呆れた迅さよ……」ガハッ
アサシン「こっちは一呼吸の内に積み、入れ替え、開く動作をやってのけたのにそれ以上とは恐れ入った」フッ
アサシン「表にはあんな雀士がいるとは、まだまだ修行不足だったか……」
アサシン「またいつか……、あんな女と……打ってみたいものよ……」スゥー
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