高垣楓とクリスマスと年末 (217)

 雪は降っていない、今年一番の寒さだと言うのに雪のひとかけらも降ってこない。
 何も舞い落ちては来ない。

 ただ、白いものと言えば、寒い手を暖める為の吐く息。
 それから自動車がもうもうと吐く排気ガスだけ。
 
 いや、もう一つあった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451054149




目の前のクリスマスツリー。

 私が小さかったころはオレンジ色の電球がピカピカしているようなものだったとおもうけど、

このごろの電球は白いものと青いものが多い。

 ここみたいなホワイトクリスマスには馴染みのない地域でせめて雰囲気だけでも味わおうというのかしら。

でも、私はすこしひねくれものだからそれはよけいに寂しく感じる。



ないものの代わりに違うものをそれと思う。

 それはもうそれを得ようと思わなくなりそうな気がしてなんだか怖くもある。

結局今年最初の雪の華は来なかったのね。


 今日は久しぶりにお休みがもらえた。

 アイドルという身分で、この時期にお休みがもらえるだなんていいことか悪いことか分からないけれど、
ライブもないし今日は家でのんびりしようかな、と思っていたけど……というか、
それしかやることがないんだけどね。

 なんとなく、外にでてみたらやっぱり綺麗なものなのね。

うっとりしながら半ばぼうっとしてツリーが並ぶ通りをあるく。

 幸い周りにたくさん人が居るけど、気づかれては居ないみたいね。
マスクと眼鏡のせいというのもあるけど……
 その理由はわかる。

 私だってわかる。

 わかるわ……ふふっ、まるであの人みたい。

まあ、とにかく今日はイルミネーションでも見てのんびりするとしましょう。

 しばらくツリーに見とれているとビルに架かっているモニターから見知った顔が流れてくる。
 
 楽しそうに笑ってしゃべる姿は見ているだけでこちらも楽しくなる。
 


最初の頃は、自分や自分の身近な人がTVにでているだなんて

何だか不思議な気持ちがしたものだけど、

いまではすっかり慣れて、ただこうやって純粋に楽しむことができるようになった。


でも、モニターの向こうに私たちの誰かがいるってことはつまり、あの人も仕事中だということで……

いや、分かってはいるのだけど。
 
いつ休んでるのかしら、とか、気になるじゃない?

気にならない?

あれでも大手のプロダクションなんだから従業員の休暇ぐらいふつうにあるものだと思うけど、

彼が休んでいるの……見た事が無いわね。


別にずっと酔ってたから記憶がないとかそういうわけじゃないと思うのだけれど。

一升瓶と添い寝してたという事実なんてないわ


元気な若い子と一緒にいると少し疲れませんか?

たまには大人な私と温泉にでも行きませんか?

我ながら自爆的な発言だったと思っているけれど、言ってしまったことがある。
 
まあ、彼は堅物で真面目だから丁重にお断りされてしまったけど。

首に手を当てるのは癖なのかしら




大人な私ねえ……。
 
 確かに私はあの中では少しばかり年を取っている方だけど、

正直言って『年を取っている』じゃなくて『大人』って言うほうが正しい年齢だし……。

 いや、別に誰のことを言っているわけでもないけど。

どちらにしろ、誰かを若いね、って形容するようになったらもうその時点で若くないのかしら。

 大人な私って言ってみたけど、彼女たち―--彼のアイドルたちと私。何が違うだろう。
 年齢は確かに上だけど、それ以外の要素は?

この世界は、長く続けていればいいってわけでもなさそう。

事実、頑張り屋さんは私がアイドルになろうって思う前からこれの練習をしていたって言ってたし、

お花屋さんのあの娘は……彼の熱烈なアプローチを受けてステージに立ったって言ってたわ。

あのなかでの年長はあの子だけど、私より四つほど若いわ。

でも私なんかよりもずっと頼りがいがあるしいいお姉さんなんだろうなって思う。

 責任感も強いし、彼も安心なんじゃないかな……。背負い込みすぎるのは欠点かもしれないけど、

それですら……。なんでもない。

でも、私だってがんばってるんですよ?


センターで踊るほどがんばったんですよ?


いっつもの感じじゃわからないですか、そうですか。

ちょっとこう、シリアスな感じで、イメチェンしてみるっていうのもいいかもしれないですね。

 
 
自分がこう、きりっとした感じで何かしゃべっている姿を想像する……。

 
 

お仕事お疲れさまであります! 

……なんか違うわね。

 
 そもそも私の思うシリアスって実際にシリアスなのかしら。

 いきなりこんな感じで話しかけて敬礼なんかしちゃったりしたらどんな反応するかしら。
 またいつもの感じで戸惑うのかしら。

 ふふっ……それもいいかも。

もしくは、逆にもっと幼い感じで……

 メルヘンチェーーーンジ!

 これはだめ。だめだ。

 いくら何でもこれはひどい。

 飲んでないのに酔っているのかしら。

 彼女が本当に幼いかどうかは別問題として、とりあえずこれはよくないかもしれない。

自分でもこれはひどいと思う。

とりあえず、私が誰かのまねをするのは難しいってことはわかったわ。自分らしくいないとだめね。

 彼は……どんなのが好きなのかしら……。

 いや、それは……。

 首をぶんぶんと振ってしまう。

それは考えないようにしていた事。今の私では考えてはいけない事。

 直接の担当じゃないんだから大丈夫だとかそういう事じゃなくて、

こう……今を頑張っている不器用な人はそんなにいろんなことがいくつも出来る訳じゃないから。

だからもう、考えないようにしよう。

誰が誰であろうかなんて考えなくていい。


 


クリスマスはゆっくり済ますって決めたじゃない?

<Christmas 編 終わり>


1です。何かご要望があれば書きます

Pは武内Pかな?もしそうなら二人で初詣デート

>>23
今高垣楓のプロデューサーは武内Pではない別の人ですが、それでも良ければ。

乙です

武内Pとの初詣みたいけどなー俺もなー

>>24 ぜひ


さて、いくらなんでもこんな時期に働く人はいないわ。

っ……て思っても芸能人は忙しいものね。

私も新年早々生番組に出て、歌番組の収録に参加して

歌い初めって感じかしらね。


少しばかりお正月料理食べ過ぎたかしら、体が重いわ。

おもちは自重してあんまり食べないようにしてたけど、

しょっぱいおせち料理がほんとにお酒に良く合うの。

子供の頃は濃い味であんまり好きじゃ無かったけれど、

いまになって良さがわかるものなのね。

今日の収録はこれで終わり。

スタジオから出て、広間に向かうとまだまだ日の光がこちらに射してくる。

冬は直ぐに暗くなっちゃうけど、まだまだ明るい時間。

時計を見ると、お昼を少し過ぎたぐらい。

朝から入ってたからこんな時間で終わるんだわ。

いつもなら他の収録が入って別のスタジオに行くんだけど、お正月特番って

実は年末とか、それより前にかなり撮りだめしておくもので、意外と生放送を

除いて忙しくない。

あれっ、あそこにいるのは……

見間違えることもない。あの長身は……。

 広間にこちらに背を向けて立っているのは……彼ね。
 
只立っているだけなのにどうしてこうも威圧感があるのかしら。

ちょっと驚かしてみましょうか……。

 こつこつと音がなるハイヒールを階段の途中で脱いでそっと近づく。

両手にヒールを持って、そろりそろり。

 床がひんやりするわ。

「わっ!」

……

 なんだろう、思い描いた反応じゃないですね……。
 
 いや、思い描いた反応ではあるんですが……こう、もっと驚いてくれてもいいんじゃないですか?

 彼はまた首に手を当ててうーーむみたいにして私を見下ろした。

 体を冷やすといけないから。って言って靴を履かせてくれました。

 正確に言えば手を取ってバランスを保たたせてくれただけなんですけどね。


 これからどうするんですか?

 きっと彼の事だろうから今日もお仕事なんだろうな……ってわかってるけど一応。

 ……ほらねやっぱり。

 



 今はニュージェネの子たちを待っているんだそうで、ちょっと収録が長引いて一時間位暇が出来たんですって。

 本当なら、いつもの私ならお疲れ様を言って別れるところなんだけど、今日の私はちょっと違うんですよ?


 「は、初詣ですか……」


「この事務所の近くに小さいですけどあるんです。そこなら行って帰ってこられると思うんですけど……」


 彼は時計をちらっとみていきましょうと言った。

 私は……そうね、笑ってたかもしれないわ。
 

 道すがら何を話すって訳でもなく、彼は私よりちょっと早めに歩いてしまう。

 別にさけられている訳じゃ無く、ただ彼の方が足が速いとかそういうのなんだろうけど……。

「高垣さんは……」

 はい?

「最近どうですか……?」

 最近どうですか……ね、なんて答えようかしら。

「この頃はゴロゴロしてますよ」


 相変わらずですね。なんて言われてしまったけど、彼が笑っているならそれでいいわ。

「シンデレラプロジェクトどうなんですか?」

 このままだと沈黙が続いてしまうと思って出した話題。これのお陰で
彼は以前より饒舌にものを話してくれた。
 みんな成長したんですよ。と語る彼はとっても幸せそうだった。



本当に幸せそうだった。

ビルとビルの隙間に場所をかりるようにしてそのお社は有った。

 赤いのぼりがひらひらとはためいていて場所を主張しているけど、人は凄く少ない。

 せいぜい時間に追われた会社員たちがスケジュールの隙間を縫ってお参りをしにくるだけだと思えた……って私たちもそうね。

人がいない割にはきちんと新鮮なお花が飾ってあったり、新しいしめ縄が付けられていて良い感じ。

 ちゃりーんと二人同時にお金を入れて、ぱんぱんと柏手を。

 ちらっと彼の方を見る。

 眉間にしわを寄せて何をお願いしているのかしら。

 きっとあの子たちのことね……。そう。

 ああ、いけない。私もお願いしなきゃ。



 何をお願いしたんですか?

 って訊いてみようかしら。だめね、言っちゃ叶わなくなるって話でしょう?

 それに、私の事をお願いしてくれてるかもしれなじゃない?

 有りえない? わからないじゃない。

 ふふっ……これがほんとの神のみぞ知るってことかしら?


 石段を降りる時にダダをこねて手を握ってもらったわ。

 それだけで十分だと思って。


 彼はちらと時計を見て、凄く申し訳なさそうに別れを告げた。

 私はほっぺたをぷくっとふくらませて、
 
 そうすると彼はますますしょぼんとした顔になる。

 面白いけど、解放してあげましょう。


「そういえば、プロデューサー」

「はい?」

「あけましておめでとうござます」

 ああ、とピンと来たような顔をして彼も返してくれた。

 まだ言って無かったわ。去年までを断ち切る言葉。

 新しい明日を迎える言葉。


「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」

 はい!


<初詣編 終了>
 

1です。何かご要望があれば書きます

おつ
しかしこんなに未練タラタラだと今の担当Pと上手くやれてるのか気になる
大人だからそこはちゃんとしてると思うけど

>>47

25歳児と雖も彼女は大人ですからね、大丈夫ですよきっと


初詣終わったなら次のイベントはバレンタインかな?

乙、良い雰囲気でした
慕情とお仕事はまた別物だしね、楓さんなら大丈夫でしょう

>>49
じゃあ、バレンタインで書きますね。

お疲れ様ですー。

ああ、疲れちゃった。CMの撮影です。

バレンタイン企画の撮影でずっとチョコを食べることになるだなんて、

最初は嬉しかったけれど、やっぱり食べ過ぎると辛いわね……。

鼻の奥が何だかつんとする感じがする。

 指にすっかり融けたチョコの香りがついて離れない。

撮影用のライトは暖かいを通り越して少し暑いぐらい。

そんなところでチョコを持っていたりしたら当然なんだけどね。


 二月最初の週から流れると言ってたからまだまだ先ね……

とは言ってもあと一週間か……。

 

あら、まゆちゃんじゃない。まゆちゃんも撮影に来てたのね。


 彼女のイメージにぴったりだわ、確かに。

 誰かに渡すのかしら? と訊いてみたけど我ながら愚問だったわね。


「楓さんは渡す人いるんですかぁ?」

「ふふっ……まゆちゃんにもあげるわよ、はいこれ、と言っても撮影のあまりのあまーいチョコよ」
余りだと言って小さな個包装のチョコレートをたくさんもらったんだった。


「そうじゃなくてですねぇ……」

「まゆちゃん頑張ってね」

 
あぶないあぶない。

 すたすたと逃げるのは良くないけど、嘘を吐くのはやっぱり駄目だわ。

 まゆちゃんはいいなぁ……、あんなにストレートに感情を表せるんだもの。

 私のキャラじゃないかしら、昔彼が言ってたような気がするわ、自由なのが私のいいところだって。

 実はそうじゃないのは彼でも見抜けないものね、あんなにきれいなアイドルたちを

見出しているというのに鈍感なんだから。



あ、ロックな子がいる……たしか、多田李衣菜ちゃんね。あと猫耳の彼女がいる。

「チョコはやっぱりミルクチョコにゃ!」

「ビターの方が絶対ロックだってー!」

「でもりーなちゃんビター苦くて食べられないじゃない!」

「なっ!」



うわさにきくけど、やっぱり仲がいいのね。うらやましいわ。
 私もユニット……組んでみようかしら。

 二人にも余ったチョコを配って別れた。李衣菜ちゃんにはイチゴ味、みくちゃんにはミルク味。

イチゴ味ってロックなのかしら……? 確かにロックチョコレートだったけどね。

ニュージェネの子たちも来ていたわ、なんだか今日はシンデレラプロジェクトの子に良く会うわ、

年齢層はばっちりだものね。

 中高生向けの企画の方が世の中には多いのかしら。

恋する乙女と言うのはやっぱり彼女達の方が似合うわ。

「楓さんだー」

 未央ちゃんが声を掛けてくれた。そして卯月ちゃんが丁寧にお辞儀をしてくれた。

凛ちゃんは相変わらずね。昔の私に似ているかもしれない。


そして……彼はそのままだった。

ニュージェネの子たちと並ぶとやっぱり大きく見えるものね。私が大きすぎるからかしら。

「はい、みんなこれどうぞ」

撮影で余った小さなチョコ。それぞれに手渡す。

彼にも。

でもこれは余り物では無いわ、ううん、正確にはそうだけど、みんなに配ったものとは

チョコっと意味が違うのよ。



少し早い、一番乗りのHappy valentine.


1です。何かご要望があれば書きます。

乙です

お花見とかどうだろう?

>>64

素晴らしいですね。
高垣楓さんと年中行事できます


今日はお花見。

346プロの予定が空いている組が集まってお花見。

大きな会社で、敷地の中なのに立派な桜が咲いているから周りの

目を気にすることなくお花見が出来る。そんな日。



 かな子ちゃんが持ってきてくれるお弁当はとてもおいしいわ、

ロックなりーちゃんも料理上手なのね、ちょっぴり意外だわ。

 ありすちゃんはなんだろう……イチゴ料理を持ってきてくれたわ、

一瞬驚いたけど中々に美味しい。

そういうとありすちゃんはえへへ、と言う様な顔をして直ぐに

「タブレットで調べたんで簡単ですよ」と言った。

年相応な表情も可愛いと思うんだけどな……。

シートを広げてみんなでお花見なんて何年振りだろう。もう記憶に残ってないわね。

春のぽかぽか陽気に自然に目がとろんとしてくるわ。
 

みんなが色々持ち込んでくれているけど私……

といったら何か持ってくるものと言えばお酒ぐらいしかないかな……?

だけど、未成年の子たちが沢山いるからあまり持ってくる気は起きずに無難なお菓子を持ってくるだけだったけど。

キャンディーアイランドのみんなは全員いる。

杏ちゃんはきらりちゃんの膝の上でのんびり飴をなめていて、

智恵里ちゃんは晴れやかな顔で桜を眺めている。

 今日は天気予報でお花見日和と言っていたっけ、

だからさっきから少しねむくなるのね。杏ちゃんじゃなくてもなんだかぼんやりしちゃうわ。

時折吹く少し冷たい風がそれを醒ますけれどそれよりも日の光のほうが勝ってしまうようね。

彼は……今は何処かへ行っているみたい。蘭子ちゃんの付添だと誰かがいってたっけ。

 まぁ、どっちでもいいわ。今は桜と美味しいお料理を楽しみましょう。


「楓さん楓さん」

 ちょっとぼおっとしてる間になにか面白い話が出来たらしいわ。
なにかしら。

「和歌を詠みませんか」

 訊くと乃々ちゃんがポエムを詠むのが趣味だというのでそれに合わせるとのことらしいけど……

「和歌なんでむぅりぃ……」

 「わかるわー」

 なに私のマネしてるんですか川島瑞樹さんや……。

高垣さんと年中過ごしたい

「和歌ってなんでございますですかー」

 ライラちゃんはたしか……まだどうなんだろうできるのかしら。

智恵理ちゃんが教えるとよくわかったかよくわからないかよくわからない顔でふんふん頷いている。
 
 順番で発表することになったけど……どうしようかしら正直何も浮かばないわ。


こうなったらしょうがないですね……。みんなのを聞いて考えましょう。

出来た順で手を挙げるみたいね。

李衣菜ちゃんが手を挙げたわ、もう出来たのかしら。

「花びらを 散らす勢い 咲くライブ 観客みんなを ロックに変えよう」
 
 あら、いいんじゃないかしら、桜と咲くライブが掛かっているわ、にしても……
やっぱりロックなのね。


みくちゃんが「もう、しょうがないにゃあ……」みたいな目で見ているのももうお約束ね。

みく「花びらは ほろりと落ちて 桜の木 見上げる空は いつも青空」

 この光景を詠んだものね、すごいわ……。そういえば、この二人は自分たちの

曲を作詞したって言ってたわね。道理で上手いわけだわ……。

みくちゃんの前向きな気持ちがよくあらわされている様な気がする。

李衣菜「猫耳はどうしたんだ?」

みく「時にはネコミミからはなれるのも重要にゃ」

……なるほどね……。

次は杏ちゃんね。

「陽気なら ゆっくり過ごそう 杏なら 桜の木より お呼びでないから」

 そういってまたぐだーっとする杏ちゃん。同じ季節の花だものね確かに。

智恵里ちゃんは何を言うのかしら。

「咲き誇る 花は大きく 無いけれど 小さな仲間 集まって咲く」

わぁ……。これ素敵だわ、私たちのことかしら、一つ一つは大きくは無いけれど

みんなで力を合わせて輝く。そんな情景なのかしら。
智恵里ちゃんらしいわね……。

みんなもこれはよいというぐらいだから。

「春の日は 眩しすぎます 私には せめて木陰で 花弁と戯むる」

 乃々ちゃん……。ネガティブなのは本当なのね……。でも

 森久保ォ!!!! って大人気じゃない。もっと輝く場所に居てもいいんじゃないかなって。

どうしよう半分ぐらい過ぎちゃったわ。まだ碌なものを考えついてないわ……

どうしましょう。

「桜なら きれいですけど みなさんと みるならもっと すてきです」

 ライラちゃん……。いい。とっても素直な感じがしていいわ。どうしても駄目ね……。

なんかうまい事言おうとしちゃうんだもの。


「それならと 行った場所には 人ごみと 瞳を埋める 桜吹雪や」

 うぬぅ……川島さん……ひと で掛ける感じ良いですね……。

 こっちをにやりと見てくるのもたまりません。このぽかぽか陽気のせいで頭が回らないのです。


きらりちゃんが挙手したわ。 

「いつまでも 続いてほしい この瞬間 ああ春風や 時を奪うな」

 まじか……と一瞬言いそうになったわ。きらりちゃんにしては言葉のセンスがあれね……。

ちょっと意外だったわ。

残っているのは……私とありすちゃん、かな子ちゃんね。

「では……私が」

なにやら難しそうな顔をしたありすちゃん。

「青き空 染めたる色は 初桜 夜の明かりも 映えて煌めく」

 一日をギュッと凝縮したって感じかしら。
 
 どこからか「蒼だよ」って聞こえた気がするけど……。


「幸せは 景色とご飯 外せない たのしいお喋り ここでみんなと」

 さきに言われてしまったわ……。

 かな子ちゃんはみんなに何かを作ってあげるのが大好きだからこんな句が詠めるのね……。

さて、残ったのは私一人。

これまで聞いたのを参考に一句詠んだわ。そしたらね、

「それって誰のことなんですかー」とか「わからないわ……わからないわ……」って大変だったんだから。

ふふふっ、やっぱり私にはこういうの苦手みたいね。






春の日は 変えて私を 桜の木 それなら君の 瞳奪える。


<お花見編終わり>

1です。何かご要望ありましたら書きます。

お花見の後に2人でひっそりと屋台でお酒

>87 わかりました。後程書きます

雰囲気はこんなもんでいいですかね

だいすきです

いい雰囲気だ

青空の下でのお花見もいいけど、やっぱり私には夜桜、そしてこれね。

手にしたおちょこを少し振る。

 ふわり……と満たされたお酒が波紋を立てる。

あら、プロデューサーさん、お酒が進んでいませんよ?

下戸って訳でもないんですから少し如何ですか?

ほんのりと明るくなった彼の頬が今は少し緩んできている様な気がするの。

「とくとくと徳利から注ぎますよ?」

 お酌をすると彼は慎み深くそれを受け取って口を付けた。


 美味しいですか? と訊くと、ええ……。というつれない返事。

もっと良い感じの答えは無いんですか? プロデューサーさん。


ふふっ……責めてる訳じゃないんですよ、あなたは……ずっとそういう人ですからね。


屋台が立ち並ぶ公園。

 346プロダクションの近くにある少し広めな公園のちょっと人目につかない場所。 

私がアイドルなんて身分じゃなかったらもっと明るい場所に居られたのかしら。

遠くにはブルーシートを広げて騒ぐ団体さんが沢山見えるわ。ときたま笑い声がこちらに響いてくる。


 隣に座る彼はそんなことを気にしても無いようで、ずっと少し上の方を眺めている。

 団子より花と言う事かしら、目の前のお酒や焼き鳥などには目もくれていない様で……


もちろん私にも。

 


和歌詠みのお花見が終わって暫くして屋台の音が遠くから聞こえ始めたの。

屋台の音、わかるかしらあの┣¨┣¨┣¨┣¨ドって音。いいな、って思って少し覗いてみることにして……

そしたらもうたまらなくてね。マスク越しでもいい香りなのは止められないものだったわ。
 


焼き鳥とかいかとかビールとかたくさん買っちゃって……。

 まぁ一人で食べきれるかどうが解らなくて……携帯で呼んでみたら来てくれたってわけ……。

 正直驚いたわ。
 
 本当に来てくれるなんて。

あの、プロデューサーさん、お暇でしたら一緒に夜桜でもどうですか」



「……いいですね……今日はもう仕事は終わりですから」

「ふふっ……まってますよ、花びらも私も」

 なんて言って電話を切ったけれど内心冷静じゃ無かったわ。

 何故か頬がほうっとしてしまったの。


お酒の冷たさで顔のほてりが消えるといいのだけれどと

おちょこを傾けると余計に顔が熱くなってしまった。
 
酔いが回るのが早すぎだわ。










こうして二人で並んでいてもあまりそれほど喋ることもないわね……。

 どうしてなのかしら。

 普段はずっとしゃべりたいって思っているのに……。

 いざ目の前にすると何も言えないんだわ。

 何度も何千人の前に立ってもただ一人に対してこんなにも緊張してしまうものなのね……。
 


彼は相変わらず空と桜を楽しんでいた。こっちがこんなにいろいろ悶々としていること

なんて何にも知らないでただそうしているだなんて……なんだかずるい。

 ……ですね。
 えっ?

「綺麗ですね」

 ああ……。桜ね。はい、きれいですね……。

「ええ……」


……


何でここで黙っちゃうんだろう……。私ってこんなに臆病だったかしら……。

彼はこのままだと何もしゃべらないわ……。ずっとこのなんかちょっと

気まずい空気でいることになっちゃうのかなぁ……。

「御加減が優れませんか……?」

 そうじゃないのよ……。そうじゃないんだわ。

 いいえと笑って首を振っておちょこの中身を全て流し込んだ。

 乾いた喉に酒がなだれ込んでいった。ずっとおちょこを握りしめていたからかしら、

ほんのり温くなってしまっていたけれど。

 そうですか……ならいいんですが。と彼は私に倣って一口。

 鈍感だって言われないのかしらね。


「プロデューサーさん」

 ここはひとつ

「はい」

「シンデレラプロジェクトのみんなとは心が通じていますか?」

 忠告しておいてあげましょう。


 かれはその細い目をちょっと開いてこちらを向いた。どうやら私の予想は当たっ

ていたみたいね。

でも話を聞く限り関係性はとってもよくなってきているみたいね。

未央ちゃんや卯月ちゃんの件は聞いていたけどあんなものもうとっくに乗り越え

てみんなもう大丈夫みたい。


 でも彼は未だに心配している

自分は全然彼女たちの気持ちが解らないから……いつまたあんな事が起きて

しまうのではないかと。

 彼は普段無表情だから悲しい顔をすると一発でわかるの。

 すごく……辛い顔。

もうスレタイ詐欺やん……

高垣楓出てるからセーフ

楓さんが幸せになれば丸く収まる

このまま年中行事コンプして
最終回をクリスマスと年末(2度目)で締めれば詐欺じゃなくなるよ!

なんなら三回目までいってもいいんだよ?


自分がプロデューサーに向いてないんじゃないか、なんて悩んでる。

 彼をここまで悩ませるなんて、みんな罪ね……。

なんて軽く嫉妬交じりに思う。


「プロデューサーさん」

「はい」

「じゃあ……なんであなたはプロデューサーをやっているんですか」

 今まで見た事が無いような顔になってしまった。

 まずいことを訊いてしまったかもしれない。だけど、彼にはこうした方がいいのだと思う。

私ね、思うんです。プロデューサーさんが本当に向いていないならあの中のだれも

笑顔になってないと思うんです」

……。

彼の瞳を見ないようにして私は続ける。


「あの子たちと共演してみてきました。最初は私がダジャレを言っても笑ってくれなかったんですよ、
そりゃもう緊張のさなかって感じでした」

ふふふっ……。

「でもこの前のイベントでは全員笑ってくれるようになったんです。別に私のクオリティが
上がったとかそういう訳じゃないんですけどね」

……。

「要は彼女達は舞台の上で、カメラの前で、観客の前で十分に楽しんでいますよ。
彼女たちは今なんの不安も抱えてませんよってことが言いたかったんです」

「そう? ですか……」

「そうですよ。これはみんなあなたのお陰ですよ?」

「は、はぁ……」

「もう……煮え切らないですね……」

「自分では……わからないですよ。自己評価なんてそんなにできるものではありませんし」

 ……っもう、なんでこんなにいじけ虫なのかしら。日頃あんなに「笑顔です」なんて
言って新しい子に無視されても追っていけるのに。
 
 わからないわ……。


「高垣さんは強い人ですから……」

強い?

「常務からの仕事をきちんと断れたじゃないですか」

「あなただって常務に徹底抗戦してたらしいじゃないですか……この前のイベントもあなたの発案じゃないですか」

「でも、それは……私の仕事ですから。私は彼女たちの笑顔の為に働くのが仕事ですから」

でももかかしも無いわ。こんな私を……こんな隣でお酒を飲んでお喋りするだけで
どうにかなりそうな私を強いだなんて言わないでよ。
 
見る目を疑っちゃいますよ?



 ぽんこつぷろでゅーさーって。


「彼女達は大丈夫です。もし、あなたがまた何か失敗したとしてももう平気だと思いますよ……?」

……。

「もう、お話し合いできる仲じゃないですか」

 みくちゃんのようにデビューしたくてもできなくて極端な行動に出てしまった子。
 
 未央ちゃんのようにギャップに悩んでしまった子。
 
 美波ちゃんのように全責任を背負ってしまいがちな子……。

「だから、彼女たちは辛いって思ったらきっとあなたに相談してきます。つらいよープロデューサーって」

彼は一瞬考え込むような顔をしてまた頷いた。微かにだけど。


「そうだといいんですが……」


 ははは……そこまで言ってもそうですか。まぁ……仕方ないですよね。


「わかりましたプロデューサーさん。弱音を吐くなとはいいません、ですけど彼女達の前では
こんな顔してたりしちゃだめですよ?」

「もちろんで……」

それから、と遮る。


「こんな話をするのは私にだけで留めること。他の人にばれたら彼女達に伝わっちゃうかもしれません。
彼女たちのモチベーションにかかわりますよ、みんなも悩んでいるプロデューサーさんをみたらきっと悲しみます」

 ああ、私は卑怯者に違いない。
 彼女達をだしにしてこうして喋る機会を欲しがるだなんて……。
 もし私の心の中が彼にバレたとしたらきっと軽蔑されちゃうんだろうな。


 それなのに彼は私の方に向き直って

「宜しくお願いします」

 って頭を下げた。

ああ、嘘吐きは私なんだ。どうしようもない嘘吐きだ。

悩んでるあなたをみて悲しむどころか……どこか言い知れない愉しさを感じてしまっているから……。

もっともっと自分を頼って。


よくいる頑張り屋さんとか責任感が強い人の心って案外こんな……卑怯なこころが渦巻いているものかもしれないわ……。

自分がその人を守ってあげてるんだ、あの子は私が居ないとだめだから……なんて思って気持ち良くなるの。

 

その人の為って言って何かをするけど……それをしてる自分が快感なの。

 歪んでるって解ってるわ。

 でもね、あなたのその少し安堵したような顔を見る為なら……

 私はそうなっちゃう。

 丁度あなたが笑顔を追い求めるように。

 私はあなたの笑顔を作ってあげたい。

 でも私の場合は……自分のためだけどね。


宜しくと頭を下げられた私。

返す言葉は決まってるわ。

「はい。いつでもいいんですよ。ずっとこの先も」

ぽんこつでいてください。と心の中で続けた。




<夜桜編終了>

1です。何かご要望ありましたら書きます

温泉ロケの付き添い

そろそろ告白が欲しいね

武内P?視点からってのはグレーゾーンかな

桜に飛んじゃったけどバレンタインもみたいな

あったですよ


新緑の候っていう感じです。

 五月の連休直前の番組が入りました。

 なんと温泉です。ふふっ……ラッキーだわ。こんな気持ちのいい季節に温泉に入れるだなんて。

 桜は散って葉桜になってじめじめした梅雨までまだ時間がある。すっごく良い時期です。

「ぁあ……杏もうつらいよ……」

 今日はシンデレラプロジェクトの杏ちゃんと一緒です。なんでもプロデューサーから

「温泉に入るだけの仕事です」と言われてきたみたいだけど来る途中の山道でへばってしまったみたい。


「車でも入ってこられないとか……秘境すぎるでしょ……」

いつもみたいに運んでくれるきらりちゃんが今日は居ないので自力でえっちらおっちら登っていく。

私の担当プロデューサーもひいふぅ……という様子で石段を上がっていくのだけど、

彼は……杏ちゃんのプロデューサーは無表情のまま進んでいってる。

呼吸ひとつ乱れるような雰囲気は無い。すごいひとなのかもしれないと思うわ。

あれだけの人数をいっぺんにプロデュースするっていうのはやっぱり体力が

必要なのかしら……。


 目的地はて山の中腹にあるそうで……ちゃんと見えて来たわ。皆が旅館だよ、と聞いたらすぐに思い浮かぶような建物。
 木造で平屋建ての年季が入った旅館。

 カメラさんとかが先に入って女将さんとかとあいさつしている間に私たちは

撮影に備えてメイクをしてもらいに部屋へと移った。

部屋では杏ちゃんがさっそくお気に入りのうさぎさんを枕にぐでぇっとしている。

TVカメラが無いところだと本当にこんな感じなのね……。

かわいいわ……。

 
「メイクまで時間があるわね」

「そーですねぇー」

 アルタ前みたいな返事をされた。そういえば私出演する前にあの番組おわっちゃったのよね……

 一回出てみたかったものだわ……。

「今日は杏……もうつかれたよ……」

 ごろりんと寝返りをうってこちらを見る。



「楓さんはつかれてないの?」

「うーん、ちょっとだけね」

 そっかーとか言いながらまたごろり。



少し静かになった部屋に杏ちゃんの飴をなめる音だけが鳴る。

 私はそこまでおしゃべりじゃないからこういう沈黙は嫌いじゃない。

 むしろ気の遣いあいよりも心地いいものだわ。



 しばらくしてスタッフさんが呼びに来てくれた。


こんな山の奥だから荷物はそこまで多くは運べなくて、個別にメイク部屋を

作ることが出来なかったみたいで私と杏ちゃんは仲良く並んでメイクを受けることに。

卓に姿見を横に置いて二人分の鏡を作った。


「これから温泉にはいるってのになんでメイクなんかするんだよぉ……」

ふぁおふぁおみたいなかわいらしい声を上げるけれどちょこんと畳に正座していて

……本当に可愛いわね……きらりちゃんがいつも抱っこしている気持ちが解るかもしれないわ……。

「入浴前に旅館を撮るんですって」

「でもなぁ……」

メイクさんがやりづらくないようにきちんと顔の角度をずらしたり、体の向きを

変えたりと口ではいやがっているように見せかけてこういうところは真面目に

する子なんだとわかると少しほほえましい。

「プロデューサー言ってたんだよ。『温泉でのロケですので……あまり動いたりはしませんし……
ゆっくりして頂けるだけで結構です……』って」

 あの特徴的な目つきと声を真似して言った。それがとても良く似ていたから

軽く吹き出してしまった。

「良く似ているわ」

「そう? まぁ……あれはね……真似しやすいから」

付き合いもそれなりにあるしねぇ……。と言ってむきなおった。

「そういえば、楓さんうちのプロデューサーと知り合いなんだっけ、誰かから
聞いたような気がする」

「ええ……同じ会社ですし」
 
 ……ふーん。とだけ言って杏ちゃんはそのまま何も言わなくなった。


「まだ間に合う! 五月の連休 温泉旅!」

旅館の前で撮影が始まった。

バスガイドさんみたいな制服を着た杏ちゃんは本当に、失礼だけど別人みたいな

はきはきさを見せてくれたの。もうびっくり。

 私以外共演者がいないこともあってぽんぽん話を振ってくれるし私の解答も

上手い事拾ってくれる。本当この子ってば凄いわ……。

前半のロケは無事に終わり後は夜景の露天風呂の撮影だけ。

 時計を見るとまだ15時。あと三時間は暇になる。お昼御飯も食べてしまったし、

お風呂も入ってしまったわ……。

 浴衣に着替えちゃったから遠くまでは行けないし……。


うちのプロデューサーに訊いたら「お酒はまだだめ」って言われちゃったし
……。どっか行っちゃうし……。

 杏ちゃんも女将さんたちにどっか連れて行かれてしまったわ……。
 それにしてもすごい人気だったわね……。

 涙目の笑顔で私に助けを求めてくるだなんて思わなかったわ……なんとも言えない表情だったわ……。


一人で部屋にいても仕方がないわ……。

 ほんとうに仕方がないからプロデューサーとお話しするしかないんだわ……。

ほら、プロデューサー魅惑の美白ですよ」

 温泉に浸かってつるつるになった腕を差し出した。
 
 縁側に腰掛けて手帳に何か書いているプロデューサーは何拍か遅れて

「え、ええ……」

 とだけ言った、っていうか……これはうめき声なんじゃないのかしら?



ここいいですか? とだけ訊いて隣に座った。

「ここ……いいところですよねぇ……」

「ええ……穴場と聞きましたので」

「企画を出したのプロデューサーなんですか? てっきりうちのプロデューサーが出したのかと」


「私の方です。今回は双葉杏さんの方に来た仕事でして、温泉がイメージに

あうアイドルをもう一人追加できないかということであなたに……」

ふーん。

「私はおまけってことですか? プロデューサー」

「あ、いぇ……そういうわけでは……」

「ふふっ……わかってますよ、ありがとうございます」

 わざとしょげたような声をだすと彼は面白いように狼狽える。
 やってはいけないと解ってるけどやっぱりやめられないわ……。


「私温泉大好きなんですよ。こう、温泉で飲むお酒っていいと思いません?」

「ええ……」

「よければ一緒に入りませんか? ここ混浴もあるんですよ」

「……いゃ……遠慮しておきます……」

 ですよねー。知ってたわよ。


……そして……はい、間が持ちません……。どうしてかしら……。意識しすぎ

ると沈黙がつらくなってしまうのかしら……。

 つつじの花が庭に咲いていて風にふわふわと揺らいでいる。

「高垣さん……」

「は、はい……!」

 びっくりした。いつもは私から話しかけるばかりなのに……。


「あのときの約束って有効でしょうか……?」

 あのとき? ああ……えっと……あ、あれだ、お花見の時の……。

「悩みを聞くってやつですよね? もちろんです」

 そう言うと彼はありがとうございますと頭を下げた。

「実は……」


正直言って話の中身なんて聞いちゃいなかったの。
 
彼の少しづつ変わる表情、溜息交じりの独白、広い肩幅がしゅんと縮まるところを
ずっとずっと見ていたんだもの。

 わたしはうんうんと聞いてあげている振りをしていたの。
 勿論全然聞いていなかったってわけじゃないけど……でも殆ど右から左だったわ……。
 
 言った台詞に責任取れてないんです……。プロデューサー。


「すみません……こんな話をして……」

 いいえ、大丈夫ですから……と手を振るのは私が慎み深いからじゃなくて
本当に大丈夫だったから。

「シンデレラプロジェクトの皆さんにはまだお伝えできる精度じゃないので……すこし外部の意見を聞こうと思いまして……」

 ええ……。そうね……。外部だからこそっていうのもあるのよね……。
 あの子たちにはずるいっていわれちゃうかしら? そんなことないわ。私から言わせれば、
 ずっと彼といられてずるいってものよ。

 だからこれぐらい許してもらわなきゃ。

内容を少し思い出すと新しいプロジェクトとかイベントとかだったわ。まだ構想

段階だって言ってたけど彼の事だもの、成功させちゃうんだわ。

 成功してもっとあの子たちとの絆を深めていくのよね……。

 とっても喜ばしい事だと思うわ……。ええ。



 それから一時間ぐらいたったのかな、担当のプロデューサーが私を呼んできて

再開になったの。

 後ろ髪を引かれるような気持ちでそこから温泉に行って奇麗な街の光を眺めて

夕食を食べてコメントをして撮影は終了となりました。

 終了。と言われたのでもう一回露天風呂に入ることにした私たちは今度こそ気を緩めて

純粋に景色を楽しんでいた。
 

女湯に居るのは私と杏ちゃん二人だけ。



「ねえ楓さん」

 唐突に杏ちゃんが向こうを眺めたままぼそっと呟いた。

「何かしら」

「……楓さんさ……うちのプロデューサーのこと好きでしょ」

 ……。
 このときの気持ちなんてどうしよう……。
 きっと顔が真っ赤で、のぼせた人みたいに見えると思う。
 それでも冷静に振る舞おうとしていたからとっても滑稽に見えるに違いない。


「いや、いいんだよ楓さんがうちのプロデューサーが好きでも」

 認めてないわよ。だなんて台詞を吐いてもここでは恥の上塗りかしらね……。

 杏ちゃんは確信しているみたい。……まあ真実だから仕方ないけどね

「そうなの……? いいの?」

 杏ちゃんに確認しても仕方のないことだけど……。

「かまわないよ……杏はね? でも他の子はどうか解らないよ」

「ほ、他の子?」
 
 声の上ずりが恥ずかしいと思う暇なんて無かった。


「そうそう。あれで頼りになるからねー、くらっときちゃう子もいるかもねーって話。
みんな言おうとしないけどね」

「言おうとしない?」

「うん、楓さんが言わないのと理由は一緒だよ」

 ううう……。見事に見抜かれてる……。どうしよう……。
そんな私の思案を覗いたのか


「いや別に弱みを握ろうとかそういうのじゃないよ」

ただ……と続けた。

「後悔しない選択をしてほしいって思ってる」

 それだけ言うと「あーあつかったー杏はもうでるよぉ……」と出て行ってしまった。

 私はぽつんと一人。


 同じ部屋に戻った時、部屋は暗く杏ちゃんはうさぎさんを抱いてもう夢の中でした。

 あれほど大人びた言動をしていた子だとは思えないぐらいの安らかなあどけない寝顔だったわ。


 


 翌朝の出発。

 荷物をまとめて玄関にいるとプロデューサーがやって来て

「昨日は……お礼も言えずすみませんでした……」
いつまで経っても腰が低い人なのね……。

「いえいえ、大丈夫です、みんながまだ知らない秘密を知ってしまったみたい

でなんだかちょっとたのしかったですっていったら失礼ですかね……?」

「そんなことはありません」

…………。




「この温泉どうでしたか?」
訊いてきた。

「とっても良かったです。すぷりんぐーです、温泉だけに
今度プライベートでも来ようかなって思いました」

親指を立てる。

それはよかったと彼は確かにわらった。



「今後ともシンデレラプロジェクトを宜しくお願いします」

「こちらこそ……杏ちゃんにはいろいろお世話になりましたし」
 内容は言えないけどね

「……また共演をしていただくかもしれません、また近いうちに」

 本当に? それってつまりその……あれですよね……

「嬉しいです。……えっと……アイドルのみなさんとも会えますし……あ、あと
ほらプロデューサーにも会えますからね、あははは……」


「ありがとうございます。……また企画を考えたら聞いてもらいたいと思います」


「も、もちろんです。プロデューサーのプロジェクトききますよ!」



彼はぺこりと礼をしてどっかへ行ってしまった。あれ……私いまとんでもないこと言ったかもしれない。

 プロデューサーに会えるのが嬉しい……みたいなこと……言っちゃった…

…じゃない……。

 でもほら、これはおまけだからそう、最後に言うのはおまけなんだから。

 今回のロケみたいに杏ちゃんあっての私みたいなものだから、そう、プロデューサーならそう思ってくれますよね?


<温泉編終了>

1です。何かご要望ありましたらどうぞ

乙です

六月=梅雨で一緒に雨宿り
もしくはベタにジューンブライド企画で…とかかな

楓さんの結婚ドレスの撮影に武内Pが引率

楓さんの現Pは女性という線もありえる?
相談聞いたりとかして

楓さん主演の恋愛ドラマのセリフをPと読み合わせ

いまさらですまんが智絵里なんやで…

>>176
これは大変申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないよう気を配ります。不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。





私のプロデューサーがプロデューサーと仲良さそうに話しています……。

 いや、お仕事なのはわかります。事実こう、温泉ロケみたいな感じで共演する

こともありましたし……ですがなんでしょうか、こう……割り切れないところもあり

ますよね?

 私のプロデューサーは女性ですから……。


 346プロ内、高垣楓の個人執務室にて

「楓さん、新しいお仕事が入りましたよ。受けてみませんか?」

 プロデューサーが差し出してくる企画書と台本。その厚さから見て連続ドラマだと思った。

「ありがとうございます、連ドラですか」

「そうです、楓さんCMやバラエティは多いですがドラマはそれに比べて少ないので……新しい挑戦になったらどうかなと思って」

 企画書を捲るともう、なんて表現したらいいのか解らないけど……こう……。

「激甘ですね……」

「はい」


 いまどき少女マンガでもこんなに甘くないよ……と言ってしまう展開がこれでもかと……。

 そして私に振られていた役は主役、ヒロインでした。

 職場内での上司と部下のラブストーリーで……私は部下役。
 
 不器用な性格の二人は素直になれずにお互いの思いを伝えられなくてやきもきして……すれ違って時には喧嘩して……最後には結婚する。

 みたいな王道ストーリー。だけどこのセリフの甘いこと甘い事。
 第一話からウエディングドレスの妄想とか半端ない主人公ですね……。

きっと素面じゃ演じられないわ……。収録前に一杯やらなきゃやってられないかも……。

それでも酔わない頑丈な私の肝臓が少し憎らしい。

「これを……私に?」
 
「はい! 楓さんの新境地です、ミステリアスな魅力を持つ高垣楓がこんなにベタで甘い台詞を言うだなんて……

普通なら違和感バリバリですけど、最近の楓さんを見てると大丈夫だと思うんです、

これを機に女優路線もバリバリいけるようになるでしょうね!」

 良く見ているわね……。確かに……こう……恋する乙女って言っていい年頃かどうかわからないけど……。
 
 彼女のその真摯なまなざしに私はこくんと首を縦に落とした。
 
 どうしてプロデューサーって人種は人を乗り気にさせるのが上手なのかしら……。

「楓さんならやるって思ってましたよ! では報告しますね!」

 ぽちぽちとすぐさま携帯を出して連絡をしている。ああ……この瞬間から私は

ミステリアスな高垣楓じゃなくてふわふわあまあまな美人OLになってしまうのね……。

 別にミステリアスさは狙ってやってるものではないの……生来の性格と環境が

混ざって出来た自然な物。だから苦労してやっているって自覚は無いけれど……

自分とまるっきり違う物をやるだなんて……やっぱり難しいわ……。

 今までのお仕事はどうにか私のキャラクターにあったものを貰ってきたけれど

こればかりは初挑戦だからどうかしら……。

台本を読んでいるだけで顔が熱くなってくるわ……。例えば……

『あの、私今すっごく恋しているんです! 部長! 大好きです!』とか……。

『えへへ……ぶちょ……ぅ』と言いながら顔をとろけさせる……。とか……。

 いったいなんなんでしょうか……嫌がらせでしょうか。

 ですが、了承してしまったのは私です、精一杯頑張ろうと思います……。 




「で、この台本きちんと読んで下さいね? 本読みは一週間後なんで、あと衣装合わせもそれぐらいで」

 えっ早くないですか、はやくない? そうですか……。

 けっこうスケジュールが早くできてるんですね、まぁ何か都合があるのかもしれませんので

練習はキチンと行った方がいいですね……。

 うちのプロダクションの面々の他に765プロの方も出演されるってことで……一応私としては
余り経験のない外部の方との共演となるのですね。

 少し緊張します。只台本を読み合わせる本読みと言ってもそれなりに……。


「そうだ、楓さん」

 なんでしょうか、と首をかしげる私に彼女は

「本読みの前に練習しましようね? 出来たら私が一緒に出来るといいんですけど……」

 まぁ、しょうがないですよ……プロデューサーも忙しいんですから……と私は手を振りましたが、


その瞬間の台詞を忘れることはありませんね……。


「ほら、シンデレラプロジェクトのプロデューサーさんが居るじゃないですか、やったね! 
ほらほら頼んでおきますから頑張って下さいね?」



 頑張ってってなんなんですか……! 



 顔を赤信号みたいにちかちかさせながら反論しましたけど……これこそが彼女

に対して「そういうこと」だと匂わせる結果になってしまいます……。

「なんでそういうことするんですか……第一か、彼はそっちで忙しいはずです……
私なんか担当じゃないのに付き合ってくれるはずがありません……」


 そうしょげた台詞を言うと彼女は満面の笑みで台本を指さした。

「ここに、同僚役として新田美波さんが入っていますね?」

 はい……。ばっちりはっきり入っていますね。
 いつも行動を共にする仲の良い同僚役で入っていらっしゃいます……。

「新田さんも演技は経験が浅いということなので、プロデューサーさんが見てあげる必要がありますね?」

 はい……。確かにそうですね……。

「で、あなたと新田さんは会話するシーンが沢山あるので一緒に練習した方がいいのではないでしょうか」

 あ……はい。そうですよね……。

「そこにプロデューサーさんがいても不自然ではないですよね?」

 ……はい……。

「論破です」と言ってきそうな表情で彼女は私を見ると、それから目を閉じて何度

も一人で頷きながら私に台本を押し付けた。

それから、と彼女は付け加えるようにして言う。




「これは……個人的な判断ですけど……楓さん……モロバレですよ」

 はい?

「いや、なんていうかその……いや……言うのも苦しいぐらいモロバレです……」

 モロバレってなにがですか……。




「プロダクションとして、プロデューサーとしてはこういう事を黙認するとか、勧める

ことはやってはまずい事なんですけど……ね……。それをすることによってあなたの

モチベーションが上がってくれるといいんですよ。それでパフォーマンスが

上がれば万々歳なんで……」

 なんの話だかさっぱり……。


「んなわけないでしょう? まあ……私が女だから気が付くのかもしれないですけど……

恋すると女性は奇麗になるぅみたいな話あるじゃないですか……」


……。



「意識し出したのは結構前からですよね……?」

 ……はい。

 ほらなぁ? みたいな顔で正面のソファーで偉そうにします。彼女はそういうひとなのです。

ちなみに女性ですけどパンツルックで良く足を広げて座ります、今は絶賛おっぴろげ中です。
 

「いや、まぁ……まだ幸い他の人には気が付かれてないですから……ね? でしょ? 楓さん」

 
きょろきょろと周りを見回す彼女、ここまで話しておいて今更すぎます。
 
しかもここは私と彼女の個室です。



「……気づかれちゃいました……」

「ハァン?」

 怖いです……そんな顔しないでください。
 あと私仮にもアイドルなんですけど……そんな感じで脅さないでください……。

「だれにですか、リークの危険性は?」

「双葉杏さんです……。危険性はないと思います……」

 私が言うと彼女は腕を組んで顔をうずめるようにした。

「まぁ……双葉杏さんなら? 大丈夫だと思います……はい。これが城ヶ崎の妹の場合だったらどうなっていた事か……」
 
 確かに小さい子にばれてしまうのは……失礼かと思いますが……不安です。

「346プロとしてもあなたのように話題性がある方のスキャンダルはめっちゃ警戒してますし……正直言っていいですか?」

 これ以上何か正直に言う事があるのでしょうか……あなたは。

「ぶっちゃけ今は諦めてください。いいですね?」

「……はい」

 ここでNOとは言えませんよね……。


「……で、ここで締め付けて外で、私の監視が行き届かないところで逢瀬を繰り

広げられてもらっても困るんで、一応仕事上の付き合いしかねーよっていう言い

訳が効く共演とかプロダクション内でやってくださいね」

……。

「やってくださいねってのは、たまに喋って元気をもらってくださいねってだけの話

ですからね? それ以上のことは厳禁ですわかりましたね?」

 出来の悪い生徒を諭すような感じで私に言う。もうここまで見抜くだなんて怖いですね……。

「ほれ、明後日の15時にプロデューサーさんと新田さんにアポとっときましたから

早く台本読んでくださいね? 私は別の要件があるのでこれで」



 がちやりとドアを閉めて彼女は部屋を出て行った。
 残された私は自然に台本を捲っていた。





 ……


「女優路線に行けば……楓さんも想いを遂げられるだろうな……」

高垣楓のプロデューサーは部屋の前でこう呟き次の仕事場に向かった。



 ……


 家に帰ってベッドの中で台本を読むのが日課だったけれれどこの台本を読んでいたら寝られなくなってしまったわ……。
 
どうしてもこの部長って役がプロデューサーにしか見えなくなる病にかかってしまったから……。

 いや、でもこの寡黙さ加減、不器用さ加減は実に彼そっくりで彼をモデルに執筆したのだろうと思えるほどだった。
 
で、私の役柄はというと……彼にぞっこんの美人OLで色んなアプローチを仕掛けるけど

元気と勇気が空回りして上手く気持ちが届かない子。

 そして良く喋る子だ……。

 どうしてそんなに喋れるんですか……というような感じ……。普段の私なら一週間かけて

喋る内容がドラマ一回で消費されてしまいます。

 なるほど……彼女が新境地だと言ったのも解ります。

 美波さんの役柄はそんな私、美人OLと部長のあいだをどうにか取り持とうとする子で……

良くある展開なのだけど……その美波さんがそうです、部長に惚れます……。

 ああああ……理解しています、これはフィクションで、しかもまったくプロデューサー

が関わる余地がないもので、私の現実とは全くかけ離れています。

 そんなことはわかっています……。
 
 それなのにどうしてこうも私の心は何かに掴まれたように痛いのかしら……。

 いや、もう誰かに掴まれいるのです。





 結ばれてはいけないひとに……。


 よろしくお願いします。と彼はとても深いお辞儀をした、いつものことだけれど。

 美波さんはとっても深い笑みを浮かべてくれました。もう人妻役で出ても大丈夫
なのでは……と思うのは私だけかしら?



「では―――そうですね、私がこの部長役を演じます、私は演技は上手くありませんから今回は新田さん、

高垣さんの台詞あわせがメインと言う事でよろしくお願いします」
 


 はじまりました。今回は主にこの三人だけの登場になるから他の台詞は私か

南さんのどちらかが流すという形式でどんどん進めていく。



美波『今日はどうだったの?』

楓『もー今日はね、一緒の缶コーヒー買って隣で飲んだのよ? でも話しかけてもくれなかった』

美波『そりゃー悲しいわね』

楓『ちょっとー聞いてるぅ? あんたは恋してないからわからないわね、この胸のときめきが!』

美波『ほんとぞっこんなのね……手伝ってる私でも見てて甘々だわ……』

 
P『ほら……な、なにしてるんだこんなところで、はやく業務にもどったらどうだ』

美波『は、はーい、ほらいくよっ』

楓『ぅぅぅぅん……』

美波『このこまたフリーズしてる……』

とまぁ一話ではあんまり期待したほどプロデューサーと喋る……じゃなかった

部長と喋るシーンには恵まれて無かったわ……。

 でもやっぱりあるにはある。そのときは台本を読んでいるんだけど、台本の通りに

喋っている気がしなかった……。


『部長は結婚なさらないんですか?』

『せっ、専務みたいなことをきくんだね……。いまは仕事に向かって一直線だよ』


 台本から顔を上げると彼がかちんこちんになって台本を必死に追っているのが

見えてなんだか胸の奥が温かくなった。きっと目がすっごく細くなってほっぺたが垂れていたと思うわ……。
 

 
『部長部長、私は結婚したいと思ってますよ?』

『ほ、ほう……』


 ……っとこんなところで第一話はおしまい。
 肝心な台詞を言う前に終わっちゃうだなんてちょっと心残り。
 番組的にはこれでいいのかもしれないけどね……。




終わった後に一同で感想を言い合うというか、改善点を見出すけれど……正直

美波さんは初めてと言われても嘘だと思えるような出来栄えだったのでなにも

言うことは無いわ……。
 
でも私ね……。

「高垣さんは……やはりこういう役柄は新鮮で驚きました」
「楓さんはこんなかんじの役にも挑戦するんですね! 凄いです!」

と微妙な感じ……。あんまり上手じゃないでしょうか……?

そう聞くと


「良い感じです……」

 なんとも曖昧な表現ね……やっぱり私にはこんなの出来なかったのかしら……?

「楓さん、プロデューサーはうまく表現出来てないだけで、すっごく驚いている

みたいですよ? 私はすっごくいいと思いました、恥らっている感じがとってもかわいいです」

 恥らっている感じですか?

「はい! こう、好きな人を目の前にしてもじもじしてしまうそんな感じ、とってもいいと思います!」

 びしっ! と親指を立てて貰った。

 プロデューサーを見ると笑顔で頷いてくれた。

「ええ、いい……演技でした」


 解散の後、美波ちゃんがたたたと走ってきた。



 亜麻色の髪がふわふわと優しく舞っていて彼女の魅力を無意識に広げていっているような気がするわ、

 私も少し髪を伸ばしてみようかしら?

 「楓さん、ちょっといいですか?」

 「はい?」

 「どうやったら……そんなふうに恋する乙女の感情を出せるでしょうか」

 あっ……これは……いけない質問ね……「恋をしているからです!」だなんて言えるわけないですから……ね。

 杏ちゃんには知られてしまったとはいえ、傷口を自ら広げるようなことは出来ないわ……。


「そうねぇ、私にも良く解らないの、もっとも自分でもそんなにうまく出せていたか

どうかなんて自信なくて……」



 ごめんなさい美波さん、嘘をついてしまったわ。



「……そうですか、実はプロデューサーさんにも訊いてみたんですけど、良く解らないです

と言われてしまったんですよね……」

そうですよねぇ と思いながら私も頷く。
彼がそういうものに敏感だったらこんなに苦労しな……何考えてるのよ私……。


「やっぱり難しいですか……」

 気のせいか美波さんが小さくなってしまっているようで……これ以上は心が痛

いわ……。かといって出まかせをいうのも違うわ……。どうしよう。

「ごめんなさい、美波さんは恋をした事がありますか?」

「わ、私ですか―――!?」



誤魔化すみたいなことして済まないと思っています……ですが、もし私と美波さん

とで違う事があるとすればこれぐらいしかないと思いまして……。

 美波さんは少し俯いて、長い脚を少し内股気味にして立ち止った。


「あ……ありますけど」


「ふふっ……それなら大丈夫です、恋したことがあるならどんとこいってね、そのときの

気持ちのままやってみるといいのではないですかね」

 嘘は教えてない。だって私自身……恋するあの人がいたからそうなってみえただけですもの。

 



 それにしても美波さんはどんな人に恋したのかしら……?



本読み当日。


 私の読み方はとっても役に似合っていると言われてしまいました。

 これもプロデューサーのお陰ですね、あ、あと美波さんも。

 

衣装合わせです。

 私の役柄ではOLというのでオフィスカジュアル、そして……あの衣装。

 雑誌の写真にもなるのでスタジオでの拘束となりました。

 モデル時代のことをほんのりと思い出します……。

 あのころは言われた服を着させられて無表情に歩くだけでした、でも……今は……



――――いいね!!! その表情いいよ!!

 同じフラッシュでも

 ――――楓さんそんな風に笑えるんですね!! とってもいいです!!



 同じような照明でも

 




 今の私には全く違うものです。


 


 シンデレラプロジェクト……いや、楓さん「の」プロデューサーさんとの打ち合わせ中

彼の携帯電話がぶぅぶぅと鳴り始めたわけです。

 彼はすんごく申し訳なさそうな顔をしてそれを取るとしばらくして私に見せてきました。

「いい……笑顔だと思いませんか?」


 だって。
 そりゃ、大好きな人の事を考えてるときのだもんね? 楓さん。


 でも知ってましたか?
 結婚前に着ると婚期が遅れるっていいますよ?




 ウエディングドレスなんて。


<ドラマ編 終了>

何かご要望があればどうぞ。

ドラマならキスシーンの練習とベッドシーンの練習はないんですか?

>>209 マジっすか…… マジでですか……

乙です

>>210
自分の意見だけではわからないので他の人にも意見を聞いてみて下さい

さすがにあのPが練習でそこまで付き合えるとは想像できないし
いくらドラマでもアイドルイメージ大事にするなら脚本時点でリテーク入るんじゃないかなって

この手の連ドラだと擦れ違い・嫉妬・告白などの心情描写辺りが見せ場になるかなあ

これはいいスレを見つけた

水着撮影中に、武内Pに見られたらどうしようみたいなことを楓さんが悶々と

キスはやめといたほうがいいよ
打ち上げで酔っ払って寝ちゃった楓さんの介抱はよ

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