――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「お待たせ。注文、もうしてくれてたんだね」
加蓮「……あっれぇ?」
高森藍子「こんにちは、加蓮ちゃん。……どうしたんですか?」
加蓮「いや……予想が外れたっていうか。クリスマス系で来なかったかー、って感じ」
藍子「ふふ。ケーキ、いっぱい食べちゃってるかなぁって。私も、今月に入ってからケーキばかりでしたから」
加蓮「キャンペーンとかなくても差し入れと事務所のみんながね。最近の……ほら、地方ロケに行った子達がさ、ご当地ケーキを持ってくるのとかって」
藍子「そうそう、そういうのです! じつは私、明日帰ってくる卯月ちゃんのおみやげが楽しみだったりっ」
加蓮「卯月かー」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第18話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「温泉にて」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「いつものカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「記念パーティー前の時間を」
お久しぶりです。
加蓮「賭けてもいい。ふつーのお土産を買ってくる!」
藍子「いえいえっ。だからこそ、ここでちょっとびっくりするおみやげを買ってくるって思います!」
加蓮「普通だって自覚してる子は普通じゃないんだよ。自称天然に本物の天然がいないのと同じ」
加蓮「……って言っても今日、私は藍子の予想を外してるんだよね。説得力ないっか」
藍子「それに卯月ちゃん、よく普通普通って言われちゃってて、卯月ちゃんも自覚はしていると思いますよ」
藍子「でも、普通かそうじゃないかって言われたら、普通に近いと思います」
加蓮「まぁね。それに、正直さー」
加蓮「『自称普通が本当に普通な訳がない』『自称天然が本当に天然な訳がない』って、よく言うけどさ。ただの一般論じゃん」
加蓮「うちの事務所に通じるか、って聞かれると……ね?」
藍子「あはは、個性派揃いですからっ」
加蓮「もう一般論とか普通はって法則は役に立たないよね……あ、今の"普通は"ってのと卯月は無関係だよ」
藍子「あんまり、世の中の常識に当てはめ過ぎない方が楽しめるかも?」
加蓮「そうそう」
藍子「……でも、あんまりびっくりさせられると、私、びっくりしちゃいますけれど」
加蓮「だねー」
藍子「加蓮ちゃんもっ」
加蓮「私? 最近はそーゆーことしてな……あっ、これってアレ? 最近は刺激がなくなってきたってヤツ?」
藍子「どこをどうしたらそうなるんですかっ」
加蓮「そっかそっかー、藍子ちゃんは私の意地悪を待ってたかー。期待されたら応えるしかないよね!」
藍子「その真面目な部分は別の時に見せてください! ほら、アイドルの時とかっ」
加蓮「何言ってんの。ファンやモバP(以下「P」)さんに期待されたら応えるのなんて改めて言うまでもない、当然のことでしょ」
藍子「そう……かもしれませんけどっ。……もー」
加蓮「ふふっ」
藍子「あの、それより加蓮ちゃん。……座らないんですか? 店員さん、こっちを不思議な目で見ちゃってます」
加蓮「……あはは、つい。じゃ、よいしょっと」スワリ
加蓮「んー……」
加蓮「…………ただいま」
藍子「お、おかえりなさい?」
加蓮「あはは……ほら、アニバーサリーのパーティーからずっと忙しかったから」
藍子「そうですね。加蓮ちゃんを事務所で見ることも、あんまりなかったような……」
加蓮「もともと予定は入ってたんだけどね。それが終わってからPさんに営業に連れていってもらっちゃった」
加蓮「地道なことだけどけっこー楽しいんだ。え? いいの? うちの番組に出てくれるの!? って顔されるのとか、案外面白かったりしてっ」
藍子「私も、たまにそういう反応をされることが……なんだか恐縮しちゃいますけれど、でも、アイドルなんですよね」
加蓮「だねー。明日も朝から収録です。今日は早めに寝なきゃ」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃんが夜更かししないように私が見張っちゃいますね!」
加蓮「お、そーくるか。って言ってもいっつも私の方が先に寝てるじゃん。藍子が泊まりに来た時とかさー」
加蓮「……私が寝るが否やほっぺたぷにぷにされるし」
藍子「!」バレテルッ
加蓮「お返し……仕返し? って、やっぱり同じ土俵でやりたいよね。アイドルで負けたことはアイドルで勝ち返す、学校で負けたことは学校で勝ち返す。って、学校で勝ち負けなんてあんまりないか」
加蓮「だからいっつも、藍子より遅くまで起きてつつきかえしてやろうって思うんだけど……習慣って恐いよねー。すぐ寝ちゃうよ」
藍子「なるほど……。私、じつは加蓮ちゃんが寝ちゃった後も、けっこう起きている時があるんです」
加蓮「げぇ、マジ?」
藍子「はい。眠れないってことはないんですけれど、ゆっくりごろごろするのが楽しくてっ。隣に加蓮ちゃんがいるからかも?」
加蓮「そうなんだ。……とか言って実は人が寝たからって部屋漁りとかしてたり?」
藍子「やりませんよー。それに加蓮ちゃん、私が部屋に行った時にいろんなものを見せてくれるから、漁ろうって気持ちにはならないです」
藍子「……あ、でも、そういう宝探しみたいなのも面白いかもしれませんね。ふふっ、加蓮ちゃんのお宝……探してみたいです」
加蓮「じゃあそれっぽいところにびっくり箱でも置いとってやろっ」
藍子「加蓮ちゃんのことですから、警戒していても別のところからびっくりさせられちゃいそうですね」
加蓮「お、裏の裏を読むってヤツ?」
藍子「はい、読んじゃいますっ。……どれだけ読んでも加蓮ちゃんに勝てそうにありませんけれど、でも、楽しいんです」
藍子「どう考えてるのかな? どう思うのかな? って想像することが」
加蓮「だよねー。さて問題です。先に来た藍子が注文してくれていた単品ハンバーグ、食べた加蓮ちゃんはどんなリアクションを見せるでしょうか?」
藍子「それはもちろん……美味しい、って言って笑ってくれるっ」
加蓮「あはっ、なにそれー。それ想像じゃなくて藍子の願望じゃん」
加蓮「でも期待されたら応えないとね。いただきますっ」パチン
加蓮「…………」モグモグ
加蓮「うん、美味しいっ!」
藍子「ふふっ♪」
加蓮「お肉はちょっぴり辛い味付けなのに、タレは程よく甘いってバランスがいいよねー」ングング
加蓮「はい、藍子も」アーン
藍子「あーんっ。……美味しいですっ」
加蓮「ねー」モグモグ
藍子「ふふっ。加蓮ちゃん、今、私の為にタレを多めにかけてくれましたか?」
加蓮「……さぁ? もしそうだとしても、そういうのは言わないものだよ」モグモグ
加蓮「すみませーん! 白ご飯お願いします。小盛でっ。藍子は何か注文する?」
藍子「じゃあ、アップルティーでっ」
(ハンバーグを食べ終わって)
藍子「…………」ズズ
加蓮「……実は今日さー、あんまりネタ持ってきてないんだ」
藍子「ネタ?」
加蓮「喋るネタ。あれがあったよこれがあったよ、とか、これってどう思うー? みたいな」
藍子「今日は、ってことは、いつもは用意をしていたんですか?」
加蓮「うん、それなりに」
藍子「へぇ……私、そういうのあんまり意識してなかったから……。なんとなく、加蓮ちゃんとおしゃべりしたいなっ、って思った時に連絡するくらいです」
藍子「ちょっぴり、見習わなきゃっ」
加蓮「えー? 藍子だってよく言ってるじゃん。周りでこういうことあったよーって」
藍子「あれは……加蓮ちゃんとお話していたら思い出せるんです。そういえばあのお話って加蓮ちゃんにしたかな? って」
藍子「それに、加蓮ちゃんなら何を返してくれるかな? って。加蓮ちゃん、いつも私が思いつかないことを言ってくれるから、なんだか楽しくて」
加蓮「おっと、これまた期待に応えないといけないことが増えたかな?」
加蓮「それとさ、正直……なんていうかな。今日、ここに来るのが……うーん、そのさ」
加蓮「……うーん……?」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「いや、なんだろ……ここに来るのが怖かった、って言おうと思ったんだけど……怖かったって言うのかな? って自分で疑問に思っちゃって……あははっ」
加蓮「べ、別に藍子のことが怖かった訳じゃないんだからね! ……駄目だ、こんなごってごてのツンデレなんて時代遅れどころじゃない」
藍子「はあ……??」
加蓮「えっと、まあとにかく……今日はいつもよりゆっくり歩いちゃったかも。ここに来るまで」
藍子「そういえば加蓮ちゃん、約束の時間ぴったりでしたね。いつもは、もうちょっと早く来るのに」
加蓮「……心配させちゃった?」
藍子「えーっと、ちょっとだけ。あ、でも大丈夫です。私が勝手に心配してしまっただけで……」
加蓮「あはは、ごめん。……正直にありがと。心配してもらえること、少しだけ嬉しいかも」
藍子「そうなんですか? でもいつもは、私にもPさんにも、心配なんていらない、大丈夫だ、って言ってるのに」
加蓮「それとこれとは違うの。ミント味とハッカ味くらいに違うっ」
藍子「……???」
加蓮「…………ミント味とハッカ味くらいに違うっ」
加蓮「……」
加蓮「……どう違うの?」
藍子「私に聞かれても……あっ、でも加蓮ちゃんの言いたいこと、なんとなくですけれど分かった気がしますっ」
加蓮「おっ」
藍子「つまり、どっちも加蓮ちゃんだけれど同じ加蓮ちゃんではない、ってことですよね」
藍子「うーん……例えば、アイドルの加蓮ちゃんと今の加蓮ちゃんは、おんなじだけど違う……みたいにっ」
加蓮「かな?」
藍子「あ、それで、ここに来るのがこわかったってお話ですよね。……あの、私、なにかこわがらせるようなこと――」
加蓮「そんなこ――……うん、最近は藍子が変なことばっかり言うしなんかガチっぽい雰囲気あるし?」
藍子「…………今、"そんなことない"って言おうとしましたよね?」ジトー
加蓮「ここに来たらまたどんなことを言わされることか。場合によっては逃げ出すまで――」
藍子「私のお話を聞いてくださいっ!」
加蓮「あっはは! ごめんごめん。うん、藍子のせいじゃないよ」
藍子「もうっ」
加蓮「ほら、アニバーサリーパーティーからずっと"アイドル"だったからさー……。しばらく藍子とカフェでのんびりすることもなかったし」
加蓮「それに言ったじゃん。今日は喋るネタがないって」
加蓮「今日、ここに座って藍子と向かい合うことを想像して……あれ、私っていっつも何を喋ってたっけ? どうしてたっけ? って思っちゃって……ちゃんとできるかな? なんて思っちゃったら、少し怖くなっちゃった」
藍子「…………」ズズ
加蓮「藍子もそういうこと……って、ある? 私にじゃなくても、アイドルの時とか……ほら、もう何度もやった定例LIVEなのに、いつもどういう風に歌っていたか忘れちゃったり、それで怖くなっちゃったり」
藍子「うーん…………」
藍子「……もしかしたら、あるかもしれません。そういう時は、みんなに相談したり、Pさんに相談したりして、すぐに安心しちゃいますけれど」
藍子「それに、ステージに立ったらすぐに思い出せるから……」
藍子「だから、大丈夫! って自分に唱えちゃってますっ」
加蓮「そっかー……」
加蓮「ここに入ってきた時に藍子を見てすっ飛んだんだけどね。怖いとか、どうしてたんだろって戸惑いの気持ちとか」
藍子「それならよかったですっ」
加蓮「……藍子は強いなー。私、自分に言い聞かせてもぜんぜん駄目だったよ」
藍子「じゃあ……もしも次にそういう時があったら、電話してくださいっ」
藍子「いろいろお話しながらだったら、カフェにもすぐ到着しちゃいますし……カフェに入ってきた後は、もう大丈夫なんですよね?」
加蓮「うん、到着したら大丈夫だし。じゃあそういう時は電話するね」
藍子「はい。……それに――」
加蓮「?」
藍子「加蓮ちゃんには、ここにいる時だけでも、ゆっくり休んで欲しいですから……そんなに角ばらなくていいって、私は思います」
藍子「もし不安になっちゃうなら、その……あ、あはは、私に何ができるか分かりませんけれど、でも、……ううんっ」
藍子「私がなんとかしちゃいますから!」
藍子「私が、ここにいますから。……ねっ?」
加蓮「…………そっか」
加蓮「あーあ、今日も加蓮ちゃんは藍子ちゃんに丸め込められちゃいました。……悔しいなー」
藍子「もー、またそんなことを……」
加蓮「藍子が助けてーって言って私がアドバイスする、それが私の理想」キリッ
加蓮「……現実って厳しいなぁ」グデー
藍子「あはは……じゃあ、何かあったら相談してくださいね?」
加蓮「がーっ!」ハネオキ
藍子「ひゃっ」
加蓮「違う違う、そうじゃなくて! そんなの出来レじゃん、ヤラセじゃん! そういうんじゃなくてー……ええと…………」
加蓮「……なんかもうどーでもいいや」グデー
藍子「あはは…………」
加蓮「コーヒーうまー」ズズ
藍子「ごくごく……ふうっ。アップルティー、なくなっちゃいました」
加蓮「……前にさー、事務所でジュース飲んでた時にさ」
藍子「?」
加蓮「こう、ぐでーってしながら飲んでたの。そしたらさ、仕事してたPさんからみっともないって言われちゃった」
加蓮「別にいいでしょー、事務所なんだし、って言ったんだ。そうしたら、そんなこと言ったらまた藍子に写真を撮られるぞ? って言われちゃった」
藍子「私に、ですか?」
加蓮「うん、藍子に」
藍子「……あはは。ちょっとだけ見てみたかったです」
加蓮「見てもなんにも面白くないよー」
藍子「それでもですっ。あ、ぐたってなってる加蓮ちゃんはよく見るから……Pさんに叱られちゃった加蓮ちゃんの方が見たいですっ」
加蓮「余計に面白くないって」
加蓮「……ん? 写真? ……あ、そういえば藍子さ、なんか写真を持ってくるって話をしてなかった?」
藍子「写真をですか? うーん、……加蓮ちゃんに……あっ!」
藍子「わ、忘れてましたっ。ほら、お散歩に行った時の写真! パーティーの日の、集合時間の前にここに来た時に約束したのにっ」
藍子「あうぅ……加蓮ちゃんに見せたかったのに」
加蓮「あはは。そういえば、忘れてるかもしれないから覚えててって言われた気がするや。私も忘れちゃってた」
加蓮「藍子の家って写真がいっぱいありそうだね。アルバムとか何冊あったりするの?」
藍子「確か……この前、35冊目を使いきったような」
加蓮「わ、想像以上にすごかった」
藍子「あっ、でもこれはアイドルになってからカウントしているアルバムなので、それよりも前からってなったらもっとあるかもしれません」
加蓮「さらに上乗せしてくるかー」
藍子「でも私、アイドルになってから写真をいっぱい撮るようになったんです。だから、アイドルになる前のアルバムは……もしかしたら、10冊もないかも」
加蓮「そうなの?」
藍子「はい。アイドルになって、残しておきたい景色がいっぱい生まれて。……ふふっ、忙しくなってから撮った写真の方が多いなんて、なんだかおかしいですね」
加蓮「あ、それ今言おうとしたのにっ」
藍子「そうだっ。次にカフェで会う時に、アルバムを1つ持ってきましょうか。加蓮ちゃんが見たがっていた写真が入っているアルバムを!」
加蓮「えー、藍子が見せたがってる写真でしょ? それにここに持ってくるの? 大変じゃない?」
藍子「大丈夫ですよ。よく、事務所に昔のアルバムを持っていったりしますから。実はそんなに大変じゃなくて……」
加蓮「そういえば盛り上がってることあるよね」
藍子「加蓮ちゃんも入ってくればいいのに」
加蓮「またタイミングがあったらね。……っていうか、そっか、私が藍子の家に行けばいいんじゃないの?」
藍子「あっ」
藍子「……でも、私が加蓮ちゃんの家に行くことはよくありますけれど、加蓮ちゃんが私の家に来ることって滅多にないから……もしかしたら、そういうの苦手なのかな? って思ってました」
藍子「学校のクラスメイトにもいるんです。友だちを呼ぶのは大丈夫だけれど、友だちの家に行くのは苦手って人が」
加蓮「いるいる。私の周り……にいたっけ……?」
加蓮「私は苦手ってほどじゃないなー。凛の家に行ったりとかはよくあるし……じゃあまたいつかお邪魔するね。今日はほら、藍子がうちに来るってことで」
藍子「はーいっ。また楽しみに待っていますね」
藍子「……ふふっ。加蓮ちゃんとアルバムを見てたら、すぐに時間が経っちゃいそうっ」
加蓮「1回じゃ済まなさそうだね。2回3回……でも見終わらないかも」
加蓮「…………」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「ん……ううん。えっと……その、藍子。だからさ。えーっと……その、呼びたいって思った時だけでいいから、あのー……」
加蓮「……藍子の方から誘ってよ。ほら、このカフェでの時と同じように」
藍子「……はいっ。そうしますね、加蓮ちゃん」
加蓮「うん」
藍子「でも、たまには加蓮ちゃんから誘ってくれると嬉しいな……♪」
加蓮「頑張る」
加蓮「…………はー」
加蓮「…………」
加蓮「……………………」
藍子「加蓮ちゃんっ」
加蓮「んー?」
藍子「ちょっとだけ、身を乗り出してください。ほら、こんな風に、ぐいーって!」
加蓮「ん……こう?」
藍子「はい。そして――えいっ」グニ
加蓮「みゅっ?」
藍子「ぐにぐにぐに、えいっ」ハナシ
加蓮「わぷっ」
藍子「はい。……ちょっとくらい、ほぐれましたか?」
藍子「加蓮ちゃんが、難しい顔をしちゃってたから……実力行使ですっ」
加蓮「…………」ホオニテヲアテ
藍子「たぶん、これくらいがいいのかなって思います。加蓮ちゃんが考えこんでる時……考えこまないといけない時もあるのは分かってますけど、でも、真面目になりすぎたら、疲れちゃうから」
藍子「私、さっき言いました。ここにいる間は、加蓮ちゃんにはゆっくり休んでほしいって」
藍子「だから、ほっぺたをぐにぐにってすれば、柔らかくなるかな? なんて……」
藍子「どうですか? ……少しは、楽になりましたか?」
加蓮「…………」
加蓮「……ありがと。また沼に沈みそうになってたかも」
藍子「いいえ。加蓮ちゃんが楽になれるなら、それでいいんです」
加蓮「あはは、藍子は謙虚だね。自分が引きずり上げてあげたんだー、なんか寄越せー! くらいでいいのに」
藍子「そこまではちょっと……って、加蓮ちゃん、どうせ冗談ですよね?」
加蓮「さぁ?」
藍子「もうっ。じゃあ、加蓮ちゃんがどうしても気にしてしまうなら……」
加蓮「アンタは相変わらず相手のことばっかりなんだね……。自分が欲しいから、でいいのに」
藍子「……だって私、そっちの方が好きなんですもん」
加蓮「そっか。知ってる」
藍子「バレちゃってましたっ」
加蓮「うん、バレてるよ。藍子が気を遣ってくれた時とか、心配してくれてる時とか……だって藍子、分かりやすいもん」
藍子「や、やっぱりですか? 私は……加蓮ちゃんのそういうところ、ちゃんと見抜けるようになればいいなって思いますけれど、私にはちょっと難しいみたいで……」
加蓮「んー……んー? や、けっこう見抜かれてる自覚あるんだけどなぁ……さっきのだってそうじゃん。ぐにぐにってしてくれた時」
藍子「あれはたぶん、私じゃなくてもわかりますよっ」
加蓮「そう? それでさー、私もぜんぶ分かるなんて大げさなこと言わないけど、分かることは分かるんだよね」
加蓮「……嘘じゃなくて、隠し事になるのかな。うん、そう言い訳しとこ」
加蓮「正直、今日カフェに来るのが怖かった理由、もう1つあるんだ。28日の時は誤魔化しちゃったもんね。でも藍子だって覚えてるんでしょ?」
加蓮「写真のことは忘れてた癖に、ホント、相手の……私のことばっかり」
藍子「…………」
加蓮『来年の今日に、私と――』
加蓮『…………』
加蓮『……………………』
加蓮『……ここから先はパーティーが終わってからで!』
加蓮「ねえ、藍子」
藍子「はい」
加蓮「私さ、あんまり滅多なことって言いたくないんだ。言葉って重たいこと、知ってるから。冗談はまだいいけど嘘なんて絶対に言いたくない。それに、自分の言葉を嘘にしたくない」
加蓮「嘘になるかもしれないこと、あんまり言いたくない」
加蓮「また明日、なんて、明日の私が両足で立ってるか信じられないこと、あんまり言いたくない」
加蓮「でも――言葉って、目標にできると思うんだ」
加蓮「考えてるだけだったら、いくらでも言い訳ができる。誰にも言ってないし、なんて逃げ道も作れる……けれどそれは、逃げ道を用意することにしかならない」
加蓮「だから――」
加蓮「……」
加蓮「…………」
藍子「……大丈夫ですよ。ちゃんと、聞いてます」
加蓮「ん……」
加蓮「藍子。予防線を張らしてね……そこが今の私の、せいいっぱいなの」
加蓮「嘘になったらごめんなさい」
加蓮「でも」
加蓮「ら――来年の今日、じゃなかった、11月28日に」
加蓮「私と一緒に、『え? もう1年経ったの? ま、当然でしょ。だって頑張ったもんね』って言ってください」
加蓮「……ううん、ちょっと違うかな」
加蓮「そう言う私の、隣にいてください」
藍子「……………………」
加蓮「……」
加蓮「…………」
加蓮「………………」
加蓮「………………な、何か言ってよ! 嫌だとか断るとか面倒くさいとか!」
藍子「どうして断る言葉ばっかりなんですか。……私でいいなら、隣にいます。それで、加蓮ちゃんが喜ぶなら――」
藍子「ううん、そうじゃないですよね」
藍子「私も、見てみたいです。そう言って喜ぶ姿と……1年を無事に過ごせて、楽しそうに笑ってる笑顔を!」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……………………」グタッ
藍子「え? ……加蓮ちゃん!?」
加蓮「ぅあー……あ、大丈夫……大丈夫だけどー……うぁー……」
加蓮「ちょっと今、心臓がうるさいかも……く、口からなんか出そう……」
藍子「え、えええええっ!? えと、えとっ」アワアワ
藍子「よ、よーしよーし、だいじょうぶですよ~、だいじょうぶですよ~……」ナデナデ
加蓮「…………」プスプスプスプス...
藍子「煙が出てるーっ!?」
加蓮「……ぁー……いち、1年後かぁ……。……私、それまで藍子に嫌われないでいられるのかなぁ……」
藍子「もうっ、まだそんなこと言ってるんですかっ」
加蓮「だってさ……私、いつ、藍子に邪魔だって言われるか分かんなくて、怖くて……」
加蓮「……しょうがないじゃん……しょうがなくないけど……」
加蓮「私が悪いんだけどさー……」
藍子「はぁ……。もうっ」
藍子「……いいですよ。そう言うなら、そう言う度に、こうして」
藍子「えいっ」チョップ
加蓮「あてっ」
藍子「チョップしちゃいますからっ」
加蓮「……………………口からなんかでそー。藍子がどついたからなんかでそー」
藍子「もう……」ナデナデ
(10分くらいが経過して……)
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………教訓」
藍子「?」
加蓮「冗談で後のばしにすると、口からなんか出る」
藍子「…………」ジトー
加蓮「あと、藍子の目が冷たくなる」
藍子「……。……少しだけ、思ったことがあるんです」
加蓮「んぅー?」
藍子「もしかして加蓮ちゃんって、あんまり怒られたことがなかったりするんじゃないかな、って」
加蓮「…………」
藍子「加蓮ちゃんの昔のお話と、それから、加蓮ちゃんの昔のことと、嘘が嫌いだってお話から考えると、もしかしたらそうなのかなって」
藍子「あと加蓮ちゃん、確か……ハロウィンの時だったかな? 私が落ち込んじゃってた時、叱ってくれる人が必要だみたいなお話をしていたのを思い出して」
藍子「そうなのかな……? って思っちゃったんです。……その、違ってたらごめんなさいっ」
加蓮「…………アイドルになった頃、Pさんに叱られたことはあったなー。とりあえず外ではその態度をやめろ、って」
加蓮「あと……は、うん」
加蓮「……カフェや家に誘ってくれるのと同じで、強く言って欲しい、のかも」
加蓮「あ、でも無茶はやめろとか心配させるなとかは嫌だからね! ……フリじゃなくてガチで!」
藍子「分かってますっ。……ううん、でも、怒るかぁ……わ、私にはちょっぴり難しそう、なんてっ」アハハ
加蓮「藍子はそういうキャラじゃないもんね。無理強いになっちゃってるかな」
藍子「いえいえっ。"そういうキャラじゃない"ことをやるの、もう慣れちゃいましたから!」
藍子「加蓮ちゃんには怒られちゃうかもしれませんけれど、私、いつまで経っても自分がアイドルらしいなんて思うことができないから……」
藍子「それとおんなじです! 慣れないことだって、やりたいことがあるんですから大丈夫です!」
加蓮「……そっか。ホント、藍子は強いね」
加蓮「よいしょ、っと」オキアガリ
加蓮「…………」
加蓮「」グデー
藍子「あ、あれ? 加蓮ちゃん? ……わっ、顔が真っ赤!?」
加蓮「……やっぱ口からなんかでそう……」プスプス...
藍子「あはは……じゃあ、落ち着いたら言ってくださいね。それまで私、ずっと待っていますから」
藍子「……もし時間がいっぱいかかっても、ずっと、加蓮ちゃんの側で待っていますから」
加蓮「うんー……」
藍子「今日は加蓮ちゃんの家にお泊りですしっ」
加蓮「そだね……」
加蓮「…………」
加蓮「……ありがとね」
藍子「……はいっ」
加蓮(…………うぁー)
加蓮(……言わなくても、良かったことだけど……でも、言っておきたかった。言いたかった)
加蓮(後悔……するかどうかは、今決めることじゃない)
加蓮(言ったことを、後悔したくない。うん、それが今、決めることだ)
加蓮「ねー、起き上がれる気しないからおぶってー」
藍子「めっ」
おしまい。読んでいただき、ありがとうございました。
乙
乙乙
乙
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