瑞鶴「忘れられない日々」 (23)
彼女の笑顔は、とても冷たい。まるで仮面でも被っているかのような形だけの笑顔だ。
いつからそんな顔をするようになったのかも、どうしてそんな顔をするのかもわかってる。そしてもう二度とその仮面を外すことは無い事もわかってる。
でも、それでも私は眩しくて、暖かくて、見ると安心するような彼女の笑顔が大好きでした。
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【瑞鶴「忘れられない日々」】
「何してるの?瑞鶴さん」
私が艦載機のお手入れをしていると、瑞鶴さんが隣で何かを書き出した。始めはただただ眺めていようと思ったけれど、少し書いては筆を止め、何かを懐かしむように目を閉じる彼女をみて思わず声をかけてしまった。
「手紙を書いているのよ」
「手紙?」
「そ、手紙」
彼女はこちらに視線を移さずずっと何かを書いている。私は艦載機を磨いている手を止め、すらすらと滑らかに紙の上を滑る筆先を眺めていた。
「瑞鶴さんって、字を書くの上手かったんだ」
「それはどういう意味かしら、瑞鳳」
彼女の書く字があまりに綺麗で、普段の姿からは想像もつかない程に美しくて、つい思った事を口に出してしまった。
続けたまえ
「い、いやっ!これはその、違うの!」
「わかってるって」
慌てふためく私に瑞鶴さんはま、私がこんな字書けるなんて思わないよねと苦笑いした後すぐにまた筆を動かし始めた。
字はその人の本質が出るとはよく言ったもので、その美しく綺麗で纏まった字からは中々表には出ない彼女の気品が確かに感じられる。
ここで私は漸く自分の手が止まっている事に気づき再び布を持った手を動かし始めた。でも静かな雰囲気が苦手で、黙々と作業するのに堪えられなくなって瑞鶴さんに話しかける。
「でもなんで急に手紙なんて書いてるの?」
「うーん、なんでだろ。自分でもわかんない」
「なにそれ……」
「でも、手紙なら言葉が届く気がしたんだ」
「そうなの?」
「そうよ」
「ふーん」
感情を上手く伝えるのが苦手な彼女に手紙は合ってるのかもしれない、そんな事を思いなが傷だらけの艦載機を丁寧に擦る。
「ちなみに誰に送るの?」
「赤城さん達と、翔鶴姉に」
「え……?」
私の何気ない質問に彼女はさらりと答えた。あまりにも簡単に答えるものだから、友達に送るような口調で言うものだから、一瞬私が間違っているのではないかと思ってしまった。
―――だって、一航戦とニ航戦、翔鶴さんはもういないのだから
「届くと……いいね」
「届いても返事は帰って来ないけどね」
聞かなければよかった。瑞鶴さんと話す時は極力赤城さん達の話題はしないよう心掛けてきた、きっと彼女も触れて欲しくはないだろうと思っていたから。なのにこんな時に私は地雷を踏んでしまった。
帰ってこない手紙を書くのはどんな気持ちだろう、何を思って彼女は手紙を書いているのだろう、そう考えると自分の安易な発言に酷く後悔してしまう。
「その、ごめんなさい……」
「あーいいよいいよ、全然気にしてないから」
そういって彼女は私に微笑んだ。無機質で、全く中身の無い形だけの笑顔を私に向けた後、また静かに筆を動かした。
MI作戦から帰ってきたあの日を境に彼女は変わった。
それまでは悪戯をされて怒ったり、笑いながら食事をしたり、怒られて泣いたり、色んな表情を表に出していた。
でも今の彼女は無表情でいることが多くなった。時折見せる笑顔もどこか寂しげで、はっきりと感情を表には出さなくなった。
海域から帰ってきて一航戦とニ航戦が沈んだ事を伝えた時、彼女はただただ泣いていた。思えばそれが私が最後に見た彼女のはっきりとした感情表現かもしれない。泣いて、私に掴みかかってさえ来た時の彼女の表情は今でも忘れられない。
それから彼女は変わった。それは些細な違いだったかもしれないし、私の勘違いかもしれないけれど、彼女の笑顔から光が消えた気がした。
でもそれでもよかった、強がりでも、気休めでも、翔鶴さんといる時は楽しそうだったから、笑顔に暖かさがあったから。
マリアナ沖海戦で翔鶴さんが沈んで以降、彼女の笑顔から暖かさが消えた。
翔鶴さんが沈んだ次の日に私に大丈夫と言ったその笑顔は冷たくて、重くて、まるで一人だけ暗い海の底にいるような、そんな顔だった。
史実ネタで艦これはやばいとあれほど……
期待
「よし、できた。これが赤城さんの、これが飛龍さんの、これが……」
書き終えたのか彼女は手紙を一枚一枚確認する。懐かしむように、愛おしむように紙を撫でる。
ふと彼女の手が止まった。彼女の手には一枚の紙があるけど見なくてもわかる。それはきっといつも事あるごとに喧嘩して、五航戦なんかと一緒にしないでと憎まれ口を叩いていた一航戦の片割れの物だ。
「私さ、一つ後悔してる事があるんだよね」
「え、なんですか?」
瑞鶴さんから何かを語るなんていつ振りだろう。昔はそんな事よくある事だったのに、当たり前のような事だったのに珍しく感じる。
「MI作戦ね、私は大破しちゃってて行けなかったんだ。提督に高速修復剤を頼んだけど許可されなくて、喧嘩してたの」
「そうだったんですか……」
「でもね、そこに加賀さんがやってきて貴女は私達の事が信用できないのかって怒られちゃった」
「加賀さんらしいですね」
まあ当然だよねと言って彼女は手元の手紙をゆっくりと台に置いた。
「一航戦もニ航戦も出るんだから私も出せって我儘以外の何物でもないしね」
「そうですね」
「でもその時の私にはわからなかった。大破してるからじゃなくて五航戦が劣ってるから出してもらえないんだと思ってた」
「瑞鶴さん……」
「だから加賀さんの言葉も聞かないでうるさいって、あんたなんかに私の何がわかるのって言って出てっちゃったんだ。それが加賀さんと交わした最後の言葉になっちゃうなんてね……」
何も言えなかった。彼女の後悔の重さを知っているからこそ、決意を知っているからこそいっそう安易な発言なんてできなかった。今この場に加賀さんがいたらなんて声をかけただろう。きっと気の利いた憎まれ口を言うんだろうな。
「加賀さんについてもっと教えてもらってもいいですか?」
やっと絞り出した言葉がこれだった。別に加賀さんを尊敬している訳じゃない、興味がある訳でもない。ただ……彼女の話しをしている瑞鶴さんが一瞬昔の瑞鶴さんに見えたから。
「いいけど、あんまり面白くないよ?」
「はい、それでも聞きたいんです」
「わかった。あいつって実は結構食いしん坊でね……」
加賀さんの話しになると急に瑞鶴さんの口数が増えて驚いた。溜まっていた物が溢れ出すように次から次へと話し出すのだ。私の反応なんて意にも介してなかった。
期待
ageんなゴミクズ
三航戦は絶望しかない
エタ?
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