「偽りだらけの魔王討伐、始めました」 (29)

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――屋敷前・広場の北――

外套=侍従E「始まるようです。王が姿を見せました」


【かつて世界は滅亡の危機にあった。女神様の見捨て給うた闇の果てから、魔王の軍勢が侵略を始めたのだ。魔族共は、女神様の祝福を受ける我々人間を憎んだ。瞬く間に、光ある大地は邪悪な意志に汚染されていった】

【魔族共の残虐さは、もはや語るまでもない。今でさえ、破壊と暴虐の爪痕は、世界のあちこちに残されているのだから。まず最初に殺されたのは、勇敢にも立ち向かった男たちだった。地に伏せた彼らの骸を、魔族は踏みつけにして、目に付く女子供を連れ去った。そして、彼女たちは二度と帰ることはなかった……】


侍従E「ぬけぬけと……! 私達に今、何をしているのか、まるで知らない顔で、被害者面をして……!」

外套=侍従D「不愉快。――まだ間に合う。わたしなら、仕留められる」

外套=侍従F「いやいや、ドラちゃんは大事なトコでトチるでしょー。あたしに任せなさいって、誰にも気付かせずに終わらせるから」

侍従D「心外。こういうのは、得意」

外套=侍従H「あ、もう、火! 気をつけてよね、また羽根が焦げちゃうじゃない! だいたいあなたたちじゃ遅いわ、私なら一瞬よ」

侍従E「――旦那様、どうなさいますか」

「だめだな」

侍従達「……!」

「殺るのは簡単だが、それでは魔王の仕業ということになってしまう。ただでさえ火の粉を被っているのだ、このうえ油を注ぐことになれば、火傷ではすまなくなる」

【……だが、神は我々を見捨ててはいなかった。絶望の淵でまさに息絶えなんとする我々に、救いの手を差し伸べてくださった。――魔王を打ち倒すべく祝福を授けた、奇跡の申し子を地上に遣わされたのだ!】


侍従D「勇者伝説……」

「そうだ。古ぼけた、馬鹿みたいなお伽話だが、それだけに民衆は熱狂する。今さら、暗殺程度の小細工ではどうにもならん」


【百年前、女神様の祝福を受けし者が、この極東の国を旅立った。幾多の困難を乗り越え、数年にも及ぶ旅路の果て、ついに勇者はその身と引き換えに魔王を滅ぼした】

【我らは悲願だった平和を手に入れた。以来、我々は魔を打ち破った勇気ある若者の偉業を語り継いでいる。悪しき闇の帳を打ち払った勇者のことを胸に、いつまでも。――そのはずだった】


侍従E「“今さら”とは、事を起こすなら神託が下る前だったということですか」

侍従F「でも勇者伝説の再現だなんて、あたしの耳にも入ってないよ? 教団本部にも結構出入りしてたんだけど」

侍従H「またあなたはそんな……教団の人間は魔力感知に長けているのだから、あまり無茶はするなっていつも言われているでしょう」

侍従F「だいじょぶだいじょぶ、バレるようなヘマしないって」

侍従E「……たしかに、この娘を欺くほどの情報封鎖は不可能に近い。では、そもそもこの神託には教団が関わっていない? あり得るのですか? そんなことが」

【……魔王はまだ滅んではいなかったのだ! 狡知に長けた魔王は今でも、人界に魔の瘴気を放っている。瘴気に蝕まれ、心身を消耗させて、心に魔を宿らせてしまった者は後を絶たない。近隣の異族の動静も近年になって活発化している。先だっては天地が胎動する災異さえ起こった】

【勇者による封印は不完全だった。魔王を弱らせはしたが、その悪しき魂までを消し去ることはできなかったのだ】


侍従H「けど、神教関係は基本、教団の専権事項でしょう。教団が関知しない神託なんて現実的じゃない。やっぱり、この神託は偽りと見るべきよね。偽りの神託をごり押せる勢力なんて、この国には――って、え?」

侍従D「……いる。教団に隠したまま動けて、わたしたちが近付けない、存在」

侍従F「あーあー、なるほどね。そもそも神託が下りる人間なんて、本当は一人しかいないよね。百年前、女神サマから神託受けたやつの子孫で、この国の実質上の支配者様。たしかにそいつなら、教団には口出しできない」

侍従E「……勇者」


【……ここに今、女神様より今一度、魔王討伐の神託が下った。さあ、かの伝説の『勇者』の血を受け継ぎ、祝福を授けられし者よ。神託に従いて、三人の供と必ずや魔王を討ち、世に真の平和をもたらすのだ!】


侍従E「この国では、権力の源泉は『勇者』の血統。王家は勇者の直系ではないから発言権も低い。直系は勇者一族と騎士団長、教団主教ですが、騎士団は王家の飼い犬、教団は性質上勇者に傅きます。勇者が神託を受けたといえば、たとえそれが偽りでも、それで通ってしまう」

侍従H「“三人の供をもって魔王を滅ぼせ”――神託で言う供が騎士団と教団から一人ずつ選出されるのは、血統から言って当然。わざわざ“三人”にしたのは、残り一人としてあなたを指名するため、というわけね」

侍従F「供というより従者よねー。だってキミ、全然戦えないもの。“三人の供”ってのがあるから、ぞろぞろ護衛を引き連れてくと、神託に背くとか難癖つけてくるわけだ」

侍従D「駄目。ひとりにしたら、絶対すぐ殺される。誰でもいいから、いっしょに連れて行って」

「お前たちの素性が割れたら、俺は言い逃れの余地なく縛り首だぞ。――だが、いい機会だろう。どうせ、今のままでは打つ手がなかったのだから、この際、みんなが大好きな『勇者』様も利用させてもらうとしよう」

【はい。必ずや魔王を打ち倒してみせます】


(広場からひときわ大きい歓声。人垣が割れた先には四人。一人=壇上の男=王。三人=壇下――跪く鎧兜姿が一人、他、女が二人)

「つまらん儀式も終わったようだ。屋敷に戻れ」

侍従E「ッ――、この件は後ほど。失礼します」


【勇者様だ】【勇者様が旅立たれるぞ】

【あの男は――】


綺羅びやかな鎧兜=勇者「こんにちは。よろしく頼むよ、『従者』殿」


【従者だと? あの男が?】【汚いことばかりしているあいつが従者?】

【勇者様の品位が汚れるぞ】【やめろ、聞こえたら何をされるか……】【くわばらくわばら】

【なぜあいつなんぞが勇者様の従者に――】


「こちらこそ、『勇者』様」

(偽りに満ちた勇者の旅が始まる)

――
――――

『じゃあ、行ってくる』

女=侍従服・黒のエプロンドレス=侍従長『ッ……』

『あ、こら』

(背を向けた手が引かれる。振り向くと、侍従長はさらに強い力で握り締めてくる。無理に振り解けば、もっと強く握ってくるだろう)

『……俺は、行かなきゃ、ならない。わかるな?』

(もう片方の手で、握ってくる侍従長の指を一本ずつ外す。侍従長は抵抗しなかった。手の甲に雫、肌を滑って、落ちる)

(最後に侍従長が泣いたのは、いつだったか)

侍従長『……』

『――留守を預ける』

侍従長『……気、を、つけ、て』

(久しぶりに聞く侍従長の声に頷く)

(侍従長に背を向けて、俺は――)

――――
――

柔らかな声=頭上「……起きて。起きて」

「ん……?」

女=法服=教団の神官「着いた、から。国境。……どうか、した?」

「いや、なんでもない。すぐ行く」

神官=幌から出る――顔が誰かと重なるが、誰だったろう。(発った日の夢、か)

(馬車から出る。開かれた巨大な城門、居並ぶ衛士の向こう、見晴るかす限りに人が詰めかけている)

(馬車でひと月、王都以来最大の都市――『国境の都』)

女・軽鎧・胸当てに紋章=騎士団団長「やっと起きたか馬鹿者。もう少しで馬車から蹴りだすところだぞ」

「まるで凱旋だな」

騎士「当然だろう、我々は魔王討伐の旅に赴くのだぞ? 見ろ、道にはみ出すほどの民の希望に満ちた眼差しを。皆、我々が、今度こそ地上から魔を滅ぼすことを願っている」

「……」

(入城する)

(道に整然と敷き詰められた石畳、調和の取れた美しい建物。この都市は豊かだ。交通の要衝、交易の中心地。この都市を通らないで、この国に出入りするものはない)

(手を振る勇者――この人々の熱狂ぶり。熱に浮かされた絶叫に、真横の馬車の車輪の音さえ聞こえない)

(前方に集団――歩み出た男の装束は集団の中で最も豪奢だった。国境地方一帯を治める領主はこの都市に拠点を構えていたはず――領主に違いない)

領主「ようこそ我が都市においでくださいました、勇者様」

中性的な声=勇者「はい、お久しぶりです、(…)殿。魔王討伐の神託に従い、この地にやって参りました。どうぞ、お力をお貸し下さい」

領主「もちろんでございます。さあさ、どうぞこちらに。長旅でお疲れでしょう、ひとまずごゆるりとお身体をお休めなさるといい。祝宴の準備も整っておりますゆえ」

勇者「はい。ありがとうございます」

(領主は何事かを臣下に言い付ける。騎士とも二言、三言言葉を交わす。領主が俺の姿を認めた)

領主「……噂は耳にしておりましたが、本当に貴殿が同行しておられるとは」

「神託に従い、非才の身ではありますが、私も力を尽くすつもりです。領主殿はこの国境地方を治める大領主であられるから、是非お力添えを頂きたいものだ」

領主「ええ、ええ。我ら王国臣民にとって、いやこの世界に生きる者にとって、魔王討滅は宿願でございます。微力ながら、我々にできることでしたら何でもお申し付けください」

(領主は胸に手を当てて一礼する。ちら、と神官に向けた目が数秒動かない)

領主「お噂はかねがね、女神のごとき美貌とはまさにこのことですな。神通力も歴代随一であるとか。いやはや、本当にお美しい」

勇者「はい、これまでの道中でも、彼女には何度も危ういところを救われました。……」

(割って入った勇者は神官を気にする素振りを見せる。勇者の顔色が変わる)

勇者「どうかした? 顔色が良くないよ」

神官「う……」

勇者「領主殿! 急で申し訳ありませんが、彼女の体調が良くない。少し休ませてあげたいのですが」

領主「なんと! それはいけない、すぐに拙宅までご案内いたします。おい、道を開けさせよ! 勇者様たちを邸宅までお連れする!」

勇者「大丈夫? 無理はしなくていいからね」

(勇者は神官に優しく声を掛ける。勇者は、神官が弱々しく首を振るのに何度か頷きを返して、馬車に乗せた)

(突き刺さる視線を感じて顔を向ける。騎士が馬車を睨んでいる)

(にわかに慌ただしくなった。群衆が不安げにざわつく)

「……ふん」

――領主私邸=都市西端――

勇者「さあ、横になって。どこか痛いところはない? 欲しいものは? ああ、飲み物がいるかな、待ってて、すぐに用意させるから」

神官「え……ぅ……」

騎士「ふん、日頃の鍛錬が足りんからそうなるのだ。勇者様に恥をかかせおって」

勇者「そういう言い方はないだろう。彼女は繊細なんだから、あんなに人が多い所に連れ出すべきじゃなかったんだ。僕が気を配ってあげられなかった。謝るのは僕の方だ。……ごめん」

騎士「勇者様! 勇者様は少し甘すぎます、ここはビシっと言ってやらねば――」

「……」

(来客用の部屋は恐ろしく広い。調度も見事。これを人数分用意できる、領主の財力を思う)

(ドアを開け、部屋から出ようとする)

騎士「貴様、どこに行くつもりだ? これから領主殿の催してくれる宴があるのだぞ?」

「しばらくここを出る。今のうちに済ませておきたい用事がある。領主には適当に言い繕っておけ」

騎士「貴様、こんな時に……常々思っていたが、勝手な行動が目に余るぞ! この前の村でもそうだ、折角の村長殿のお誘いを貴様だけ無碍にして、一体どこをほっつき歩いていたんだ!」

(ぎりぎり、と騎士の歯が軋む音)

勇者「……そうだね。僕も、同じ旅の仲間として知りたいと思っていたんだ。それに、今はこんな状況だ、彼女の心を乱すようなことは避けてくれないか」

「お前たちには関係ない」

騎士「貴様ァ……!」

(騎士が腰の剣に触れる。勇者が何事か言おうとして、神官が起き上がるのに気付く)

勇者「大丈夫だよ、心配しなくてもいい。少し揉めているだけだから――」

(神官がこちらを見る。ただでさえ白い顔が蒼白だった)

神官「わたしも、行く」

勇者「何を言ってるんだ! 君は体の具合が悪いんだ、今は安静にしていないと」

(神官は頑なに同行を主張し、勇者が必死に止める)

(神官だけならまだしも、勇者たちまで付いて来ることになると最悪だ)

「来るな。というか、お前には休んでいてもらわないと困る。宴とやらが始まるまで、時間を稼いでくれ。その間に用を済ます」

神官「……わかった」

(神官が寝台に横になるのを見る。騎士が何か言うのを無視。部屋を出る)

(通りに添って歩く)

(角を曲がって路地に入る。入り組んだ道は進むほどにうらぶれていく。物乞いとすれ違いざま硬貨を渡す。物乞いはこちらを見ない。記憶している道を進む)

(この都市は領主のために設えられた庭だ。城門から領主宅まで、そして東端の港まで繋がる大通りは、王都のそれと見紛うほどよく整備されている。だが、一本道を逸れれば、この有様。この都市の縮図)

(ただし、この国には、外貨を得られる産業はない。海に面した国だから漁は盛んだが、沖には海魔が出没する。漁獲高は上がらず、富は一方的に流出するだけ。国は損失を、国民からの搾取で埋めている)

(領主は交易で得られる富を一門で独占している。だが、この地方の人々の暮らしは、他の地方に比べて特別悪いわけではない。だから、この領主の富裕と栄華は交易の独占によるもの、ということになるが、それにしたって領主の金満ぶりは桁が違いすぎる……)

(前方に人影。外套のシルエットに見覚えが、声には聞き覚えがある)

外套=女「お待ちしておりました。……尾けられていますね」

「撒けるな?」

外套「すでに人払いの術は済んでいます」

「よし。……で、何故お前がここにいるのか、納得のいく説明はしてもらえるのだろうな」

(外套の女は笑ったようだった。顔の半ばまでを隠した覆いを後ろに払う)

(現れたのは金の髪、碧の瞳。尖った耳は恐ろしく長い。――人ではない特徴)

外套=侍従E(エルフ)「まさか旦那様をお一人で行かせるわけがないでしょう? 旦那様に死なれて、困るのは私達なのですから」

(侍従Eの先導で路地を進む。進路は東)

(侍従Eは一週間前から、この都市入りしていたらしい。今さら追い返すわけにもいかない。仕方なく、詳しい情報を聞く)

侍従E「近日中に、領主所有の例の超大型船が出航いたします。詳細な日程は不明ですが、明日にも出航できる状態です。おそらく『荷』を待っているものと」

「『荷』はいつこの都市に持ち込まれる?」

侍従E「ここ最近、不審な人間の出入りが確認されています。ただ、この数日は流入してくる人間が多すぎて、捕捉しきれておりません。ですが、国境西の森に複数の生体反応があります」

「勇者の到着に合わせて運ぶつもりか? となると、勇者を出航の宣伝材料にするつもりかもしれんな。領主の超大型船は有名だ。勇者が直々に称えたとなれば、領主の名声はいや増す」

侍従E「そんな危険な橋を渡るでしょうか。もし、『荷』の中身が露見すれば、その瞬間に全てを喪うのに」

「やるさ。やってもらわねば困る。奴を増長させて、油断を誘うために、今まで奴には何の手出しもしてこなかったのだから」

侍従E「……十年です。あれから十年、自棄に走りそうな心を抑え、耐えに耐えて、――やっと、この時が来たのですね」

「おかげで、こんなふざけた旅に同行する羽目になったがな」

侍従E「……」

(侍従Eはしばらく喋らなかった)

(視界がひらける。空の青に対を成す青海を飲み込むような巨大な港。この国の海路の最大拠点。この都市の――領主の富の源)

(居並ぶ建物のうち、侍従Eの示した一つに入る。目当ての人間は現場に出ているらしかった。波止場に向かう)

(小舟を連ねた一角。そのうちの一艘で積み荷を運ぶ男――懇意の商会の主。自ら現場に出るのは、本人の気質によるものだという)

商会主「おや、坊っちゃん、お久しぶりで」

「坊っちゃんは辞めろ。景気はどうだ?」

商会主「さっぱりでさァ。皆、仕事は領主様ん処の商会に持ってかれちまう。どうしたって、あんなデカい船持ってんだから、目を引くしねェ。親父の代のときは、うちもあんなデッカい船動かしてたんだけど」

「やはり、沖に出ると沈むか?」

商会主「へい、商売仲間も何遍も冷ヤっとしてますぜ。ですが、領主様ん処は今日明日にもあの船出すってんですから、剛毅なもんですわな。うちも、親父の代まではあれよりよっぽどデッカい船で商売してたんですが」

「それも、十年前に海魔に沈められた」

商会主「いやはや、坊っちゃんがあの時助けてくれやせんでしたら、今頃あっしら一家は仲良く首括ってなきゃいけねぇ所でした。――ですが、まあ、なんですな。実は、ほっとしていたりするんで」

「何がだ?」

商会主「親父のときはそりゃもう、坊っちゃんの爺様から目が回るぐらい仕事もらっておりやしたんで、あっしもあちこちすっ飛んでったもんですが、不思議と、ああいうデカい船の仕事はやらせてもらえなかったんで。親父はどうも、あっしに関わらせたくないようでした」

「商売の中身も何も言わなかったのか?」

商会主「へい、というのも、口に出すのも気が引けるというか、あの陽気な親父が、あの件に関すると途端に口が重くなるんで、それで、なんとも聞けなかったんで。それに、あっし自身、どうもあの船は、どうも嫌な感じがして、近付きたくなかったもんです」

「領主のあの船にも、同じものを感じるか?」

商会主「……実は、そうなんで。漁場仲間も、なんとなく気味が悪いと口を揃えやす。商ってる品も絶対誰にも見せませんので、なおさら。……ねえ、坊っちゃん、いったい領主様はなんの商売をしているので?」

「……良い話を聞いた礼に、ひとつ教えておく。おそらく明日、面白い見世物があるぞ」

商会主「へい、そりゃどうも……?」

――領主居館――

(侍従Eとは港で別れ、居館に戻る。広い玄関に這入ると、男の一団と鉢合わせた)

男=上質な衣装=領主(?)「おや、いったい何処においででしたかな。神官様の具合はいかがかと、これよりお見舞い申し上げようと思っていたのですが」

「なに、少し街をぶらついていただけです」

(領主(?)の一団と、勇者たちの部屋へ向かう)

「やはりこの都市は豊かですな。港なども拝見致しましたが、あれほど活気に満ちたものはここを置いて他にない。領主殿の手腕が偲ばれます」

領主(?)「いやいや、私などとてもとても。父から家督を受け継いで二十年余りになりますが、これがなかなか思い通りにならないものです」

「ご謙遜なさるな、あれほど巨大な船ははじめて見ました。聞けば領主殿手ずから経営なさっている港湾組合のものだというではないですか。船乗りも、なぜか領主殿の船には海魔が寄り付かないと感心しておりました」

領主(?)→領主「はは、女神様の加護あってのものです、我が信仰に、情け深くも慈悲を垂れてくださっているのでしょう。私などには恐れ多いことです。是非、明日の船出を(…)様や勇者様にご覧いただき、女神様から航海無事の加護を賜りたく思うのですが」

「勿論です。私も海運事業の真似事をしているのですが、海魔のため沖まで出られませんので、あんな大きな船などとてもとても。もっぱら小舟で沿岸に張り付いているような有様で、それでは海路を選ぶ利点がない。陸路では運べぬものを運ぶなら、やはり大型の艦船でなければ」

領主「ほう。陸では運べぬもの、とな」

「私の祖父が存命だったときは、私どもにも女神様の加護があったのか、領主殿のように海魔の被害を受けなかったらしいのですが。是非私も、亡き祖父が賜っていたという女神様の寵愛を取り戻したいものです」

領主「お祖父様が身罷られたのは十年前でしたかな。私も若い折、お祖父様には大変お世話になったものだから、あの方のお孫様である(…)様の苦労なさっている姿を拝見するのは心苦しい……」

(領主がこちらを見る。周囲の男たちが一気に緊張する。懐に手をやるもの、手を腰の後ろに隠すもの。合図に即応できる態勢に入っている)

(領主の落ち窪んだ眼が俺を観察している)

「今までは不運にも、こうして近しくお話する機会がございませんでしたが、領主殿と祖父は親しい間柄だったのですよね? 領主殿さえよろしければ、是非、祖父の存命中のお話をお聞かせ下さいませんか」

「私はすぐにも国を離れる身です。その前に、少しでも心残りを少なくしておきたい。不躾なお願いとは重々承知ですが、祖父の所有していた大型艦の話や、祖父がどういう事業をしていたのか、お聞きしたいのです」

(領主が笑う。こいつはうちの窮乏を知っている。俺を嘲笑っている……)

領主「(…)様がお望みであるなら、喜んでお教えいたしましょう。ええ、私が今手掛けている商売の話なども交えながら。祝宴が終わったら、私の居室までおいでなさい。面白いものを見せて差し上げよう。明日、船に載せる『荷』なのですが」

「楽しみにしています。きっと滅多に見られない稀少品であることでしょうから。……おっと、もう着いてしまった。領主殿とはもっとお話がしたかったのですが」

領主「なに、まだまだ時間はたっぷりとある。今後とも、よい間柄であれば、ね」

「ええ。……私もそう願います」

(ドアをノック。領主の来室を告げて、部屋に入る)

――領主居館・裏口――

騎士「待て、貴様、宴に出ないとはどういうことだ!」

「静かにしろ。俺達がこんな所にいることがバレたら面倒なことになる」

騎士「何を勝手な……!」

「騒ぐなと言っている。なんなら、お前は神官と一緒に部屋に篭もっていてもいいのだが。神官の敷いた結界を破らなければ、それでいい」

(脱出の手引きをした者が裏口のドアを開ける。外に出ようとした俺の腕を騎士が掴む)

騎士「……いいから来い、と連れ出した挙句、館を出て宴には出ないと言う。目的も理由も何も言わないで、何をどう従えというのだ!」

「時間がない。黙って付いてくるか、部屋に戻るかしろ」

騎士「貴様ァ……!」

勇者「……最初から祝宴に出るつもりがなかったね? 世話を申し出てくれた娘を追い返した時点で、妙だと思っていた。僕達をここまで連れて来てくれた人も、君の手の者だろう? 領主殿が開いてくれるという、この宴の裏で、何かがあるのかい?」

「見ればわかる。木を隠すなら森の中、人目に付きたくないなら群衆の混乱の中に隠す。この場合、大胆ではあっても、巧みさに欠けているが」

騎士「だからッ……」

勇者「今は彼の言うとおりにしよう。何事もなければ、すぐに領主殿のところに戻ればいいだけのことなんだから」

(騎士は頷いて、俺の腕から手を離す)

(外に出る。領主邸宅は城壁にほど近い。すぐに城壁に辿り着き、そのまま城壁を抜ける。行く手広がる森。その前に人影、こちらの姿を認めると一礼する)

外套=侍従E「準備は完了しています。が、森に潜む者たちが、こちらに気づきました」

「奴らの使う予定だった門を使ったのだから、当然だな。――やれ」

従者E「はい」

(侍従Eが両手を組む。祈るような格好、高まる魔力で従者Eの身体が燐光を発する。澄んだ緑光が輝きを増していく)

(森の中から異音。樹木が破砕する音、葉の擦れる音、巨大なものが動く音。――すぐに人の悲鳴が上がる)

侍従E「ほぼ全員拘束しましたが、『荷』を傷つける恐れがあるため、二人は無傷のままです」

「いい。やはり森はお前の独擅場だな」

(夕方になっていた。暗い森の中を進む。怒号とも悲鳴ともつかない複数人の声に近付いていく)

(目の前に異常繁殖した樹木。十人ばかりの男たちが絡め取られている。傍らに馬車。頑丈な幌の覆いが外れていて、中身の鉄格子が覗く)

勇者「これは……」

騎士「樹木を……いや、森を操った? しかもこんな大規模に……そこの女、何者だ……?」

「殺していないな?」

侍従E「はい。多少手足が捥げているかもしれませんが」

「口さえ動けばいい。尋問して、知っていることを洗いざらい吐かせる」

勇者「ッ!」

(右側に風。勇者、と気付いた瞬間、男の絶叫。勇者の前に右腕のない男、腕が剣とともに地面に落ちる音)

騎士「逃げるな、貴様!」

(逃げる一人を騎士が一閃。男が背を裂かれて倒れる)

「死んだか? そいつが頭目かもしれないから、あまり殺されると困るが」

騎士「いや、浅い。死にはせん」

(言いつつ、騎士は男の足に剣を突き刺し、捻る。勇者も同じことをしていた)

(一件落着。馬車に近づき、幌をめくる)

(夕日が当たる。鉄格子の中身があらわになる。饐えた匂いに顔をしかめる)

騎士「……金髪。長い耳、碧い瞳。そんな……」

勇者「エルフ、か。確かに、一目見れば、わかる」

(勇者がこちらを見る。歯噛みするような表情)

勇者「異族売買だね? これからこの町に入って、この娘はどこかに売り飛ばされる。君はそれを止めに来た。この現場を押さえる段取りを付けるために、館を出ていたのか」

騎士「この国で異族が売買されている、という噂が流れているのは知っていたが……まさか、ここが異族密売の拠点……?」

「今の元締めはここの領主だ。人混みに紛れて『荷』を運び入れ、船に乗せて、売り先まで運ぶ。誰にも見つからないように『荷』を輸送するための巨大艦船であり、そのための港だ。それが領主の商売だ」

勇者「領主殿は、こんなものを積んだ船を、僕達に見送らせようとしていたのか……」

「ただでさえ、あんな大艦船を運用していることから、奴は実業家として名誉的な地位にある。それに勇者の箔が付けば言うことなし、というところだろう。あの大艦船を受け入れられる港は限られる。金を積みさえすれば、誰にも見つかる心配なく、積み荷を運べる」

(鉄格子の中の虜囚を検める。生臭い臭いが鼻を突く。窶れた細い手足、痩けた頬。手枷、足枷は鉄製、足には鉄球が鎖で繋がれている。粗末な服。――禍々しい漆黒の首輪)

「情報は掴んでいたが、なかなか手が出せなかった。――異族売買は重罪だ。異族は魔王の手先として発見次第殺すのが、伝説以来、この国の鉄の掟だ。領主の膨大な資金と、それを基盤とする権力が、領主を元締めたらしめている。王都の人間も、多かれ少なかれ領主に弱みがあるから、下手に手出しをすると、逆に反撃を受けてしまう……」

(侍従Eが鉄格子の鍵を探し出した。錠を開けさせる)

「そこで、お前の出番というわけだ」

勇者「……僕の、『勇者』という看板を使う、ってことかな」

「無論、そうだ。『勇者』の威光を前に、平伏さない者はいない――」

(勇者に振り向く。背後から物音(引き摺った音……土を蹴った?)――衝撃。首に食い込む腕。肉感のない、骨と皮の感触)

女の声「『勇者』? 『勇者』、『勇者』……私達を地獄に落とした、死神の名前! お前のせいで、私達は……!」

(身構える勇者と騎士。視界の端で従者Eが構えた。小さく右手を挙げて制する)

女=虜囚エルフ「お前のせいで何人が死んだと思っている! 私の家族は皆、人間に殺された! 里を焼かれ、森を失い、命も、尊厳も奪われて、――私達が何をしたっていうの!? ただ平和に暮らしていただけなのに!」

勇者「……そんなことをしても、何にもならない。君が恨んでいるのは僕なんだろう? なら、彼を離してあげてくれないか」

騎士「勇者様!?」

勇者「君たち異族を殺したのは、間違いなく『勇者』だ。君には復讐の権利がある。けれど、彼には関係がない。勇者は、僕なんだから」

虜囚エルフ「お前たち人間は悪魔だ! 魔王などよりよほどどす黒い、醜い、おぞましい生き物め!」

騎士「黙れ、異族。それ以上汚い口で勇者様を汚すな!」

虜囚エルフ「……汚い? 汚いだと、ふざけるな! お前たちが私の里で何をしたか忘れたのか!? その口で、私を、私たちを殺して、でも、女は殺さなかった。殺したのは男だけだった」

騎士「なにを……」

虜囚エルフ「人間なんて皆地獄に落ちてしまえばいいんだ! そうすれば、あんな事にはならなかったのに! 父が殺される眼の前で、何人もの人間に犯された母の、姉の気持ちがわかるか!?」

(騎士は凍りついたように動きを止めた。勇者も絶句)

虜囚エルフ「父を殺されたくなければ股を開けと――卑猥な、下劣な事を無理やり言わせて、少しでも抵抗すれば父を刺して! 気が済むまで弄んで、挙句父を殺した! 母を、姉を何処にやったんだ! 眼を塞いで、耳を塞いで逃げた、私を捕まえて、私も、私も――!」

騎士「黙れ! 黙れ、黙れ黙れ黙れ! それ以上喋るな! 私は……違う、私は、そんなことはされていない、誰にも、誰にも、そんなの、嘘だ、違う! 嘘だ! あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ! 嘘だ、嘘だ、やめろ!」

勇者「(…)!? どうしたんだ!?」

(勇者は騎士を落ち着かせようとしたのか、騎士の肩に手を置く。騎士は勇者の手を払い落として、絶叫)

騎士「私に触るなぁっ! 違う、違うの、そんなの、嘘嘘嘘! お父さん、助けて! 触らないで、やめて――」

虜囚エルフ「殺してやる! お前だけは絶対に、人間なんて、勇者なんて……!」

(膝をつき、頭を抱えて絶叫する騎士。恨み言を言い続ける虜囚。勇者は騎士に言葉をかけ続けるが、効果なし)

(侍従Eが目配せする。手に燐光。従者Eなら背後の虜囚だけを殺せる。だが、大切な証拠品が死んでしまうのは困る)

(なにより、このままでは錯乱した虜囚か騎士に殺されかねない。こんなところで死ぬわけにはいかない)

「おい、お前。お前だ、俺を捕まえている、お前」

虜囚エルフ「殺してやる……家族の仇……」

「お前の欲しいものをくれてやる。だから俺を離せ」

勇者「いいから、落ち着いて――君はこんなときに何を言い出すんだ!?」

(剣を取り落として、違う、違うと呟く騎士。今のうちに虜囚をなんとかしよう)

「命乞いだ。俺はここで死ぬわけにはいかんからな。おい、俺の命以外ならなんでもいいぞ。望むなら、そこのいけ好かない男の首でも何でもくれてやる」

(首に加わる力が弱まる。虜囚の衰弱がひどい。自棄を起こして自爆的な行為に出ないとも限らない。さっさと落ち着かせよう)

「お前の仲間の墓前に勇者の首を捧げれば満足か。本当にそれで良いのか? お前が欲しい物は、もっと他にあるのではないか?」

虜囚エルフ「私が……欲しいもの……」

(勇者が俺を凝視している。どうでもいい)

「“元の暮らしを取り戻したい”、それがお前の望みだろう。死者を蘇らせることはできないが、誰にも侵されない平和な日々、安息な暮らし――それを、お前に約束する」

虜囚エルフ「……嘘。嘘よ。人間は汚い、悪魔……」

「俺を誰だと思っている。王国評議会議長代理、兼枢密府筆頭顧問だぞ。まあ今では、元、が付くがな」

(従者Eが外套の頭巾を下ろす。息を呑む音)

勇者「森の魔法……森の民。エルフの術か、あれは」

虜囚エルフ「どうして、同族が……誇り高いエルフが、人間に、協力を……?」

「目的のためだ。俺がお前に、お前の失ったものをくれてやる。だから証言しろ、お前の身に起こった全てを。とりあえずはこの賊共を捕縛、領主を捕らえて尋問。この俺を舐め腐って、この俺の眼前でふざけた商売をやったツケを払わせてやる」

――――
――

【私は憂えている。百年前、私の祖先が魔王を打倒し、世界に安寧をもたらした。世界のあちこちで人々を苦しめていた闇を払い、光で満たした。勇者の末裔として、私は彼が誇らしい】

【だが、私達は、私達が受けた苦しみを忘れてしまったのだろうか。今ここに、家族を失い、故郷を失い、哀れにも身と心を擦り切らせてしまった者がいる。彼らは私達の敵だった。彼女らはかつて、我々を剣の切っ先で貫いたかもしれない相手だった】

【私たちは、私達が負った傷を、かつて敵だった彼らに与えてしまっているのではないか。それでは、私達はあの残虐で卑劣な魔王の軍勢と同じではないのか。私達は女神の加護を受ける人間の誇りにかけて、一切の魔を払い、光のもとに進まねばならないのに】

【異族への迫害をやめよ、彼らは私達の同胞である。彼らに石を投げることは、我々に石を投げるのと同じことだ。我々は十分に傷つけ合った。我々の傷は彼らの傷であり、彼らの苦しみは我々の苦しみとなった】

【かつての敵を許そう。そして、彼らと手を携え、新しい道を開くのだ! あの伝説でさえ叶わなかった、新しい時代を迎えるために!】

――
――――

「よし。お前の演説はすべて筆写している。これで明日には王国全土に行き渡る」

(湧き上がる歓声を背に、男が壇上から降りてくる)

男=勇者「これで、本当に上手くいくのか? こんな、ただの言葉で」

「上手くいかせるのが俺の仕事だ。この国の人間にとって、勇者の言はそれ自体が法のようなものだから、強引に事を進めてもさほど問題ない。ついでに他国にも波及すればなおよし、だ」

勇者「本気で、やるつもりなのか。たしかに広場の皆は歓声を上げているが、だからといって、皆が皆、遺恨を捨てられるわけじゃないだろう? 異種族排除は我が国の国是で、皆そうやって今まで生きてきていたんだから」

歩いてくる女=騎士「人の心はそう簡単には変わらんぞ。こんな急激なやり方で、民がついてくると思っているのか?」

「別に、そんな大層なことをやるわけではないだろう。異族を見つけ次第殺す、なんていう馬鹿騒ぎをやめるだけだ。種族が違っても、敵対していなければ、どのような関係であれ大差ない」

(都城の中を歩く。傍らの従者Eは外套を身に着けていないから、誰もが侍従Eを見る。神官が侍従Eを隠すような位置にいる)

騎士「……どうしてそこまで、異族との関係改善に固執する。領主の居館に踏み込んだ時、領主が――元、領主か――言おうとしていたことと関係があるのか。お前の祖父がどう、とか」

「もともと、異族売買は俺の爺の商売だったのさ」

騎士「なに――」

「十年前に叩き斬ってやったんだが、おかげで詳しい商売の中身もわからずじまいでな。超大型船を使っていたのは分かったが、それ以上はお手上げだった。一族内での実権掌握にかかずらっている間に、もともと商売の実務者だった領主に締め出された、というわけだ」

(侍従Eを見遣る)

「爺は異族を売るだけではなく、自分でも囲っていた。爺を殺したとき、その場に居合わせた異族のうちの一人が、こいつだ」

(侍従Eがほんの少し、頭を下げるようにする。神官も目を伏せ、騎士も俯いている)

勇者「……では、君はその異族たちを助けるために、こんなことをやってのけたんだね」

「なぜ俺がこいつらを助けてやらねばならん。何の得にもならんのに」

勇者「違うのかい? てっきり、君が義侠心に駆られて、異族を助けてあげようとしたのかと思ったのに」

「あいつらの偉そうな態度が気に食わんからだ。爺は自分が世界の中心で、何をしても許されるとでもいうようだったからぶっ殺した。爺の配下も曲者揃いだ、爺の右腕だったあの領主も、何かにつけて俺を見下してきやがるから、機会を窺っていた」

勇者「……」

「尻尾を掴むまでは手を出さないでいようと思ったが、これがなかなかしぶとい。おかげで手持ちの資金は尽きるし、足元を見たあの領主が俺に対抗する王族、貴族を陰で支援仕出して始末に負えん。全く、ろくなことはない」

(勇者はそれきり黙った。横から、噛み殺した笑い声。侍従Eが小さく笑っているようだった)

「いったん王都まで帰るぞ。王や取り巻きでは、こんな爆弾は処理できん。足りない頭で俺を国外追放にしようと考えるから、使者をよこして俺の帰還を乞う羽目になる。ふん、精々、大手を振って帰ってやるとしよう」

「……これでやっと、今まで掃除できなかった屑共を一掃できる。お前には俺の官房として、迅速に今回の法案を起草してもらう。しばらくは寝られないと思えよ? 王への脅迫に評議会工作、世論誘導と、これから忙しくなる」

(侍従Eは頷く)

「……あのエルフの様子はどうだ?」

侍従E「じきに回復いたします。エルフの自然治癒能力は高いですから」

「首輪と超大型船については?」

侍従E「領主は吐きませんでした。あれだけの拷問を受けて言わないということは、案外、本当に知らないのかも。業者に解析を依頼しておりますが、どちらも素材は現状、見当もつかないと。こちらのものではないかもしれません」

「賊共も、出処は知らんと喚いていたな……。領主への拷問はもういい、処刑前に舌噛み切って死なれるのも面倒だ。しかし、正体不明の、魔力の流れを封じる首輪と、魔を寄せ付けない船? またぞろ、頭の痛い話だ」

侍従E「ともあれ、この度はお疲れ様でした。帰って、一息つきましょう。……帰りましょう、私たちの家に」

(勇者は、走り寄ってきた召使いの女と小声で話しているようだった。目だけを後ろに向ける。女が勇者になにか手渡す。感極まった様子の女に、勇者が顔を近づけるのが見えた)

(騎士はじっと俯いている)

(神官は何も言わず、従いてくる。ふと、屋敷の侍従長を思い出した。屋敷に帰れば、侍従長はまた泣くだろうか)

(首を振る。詮ないことを頭から追いやって、今後の行動を思案する……)

というところで今回はここまで

大体、1イベントでこのぐらいの長さにするつもり

また書き溜めたら投下します。イベントのリクエストとかあったら取り入れたいな―とも思います
安価はしないつもり

毎週土日のどっちかで投下できたらいいな


前のやつ見てたけどあそこまで書き上げられるなら安価いらないよなぁ…とは思っていた。
楽しみにしています。

初っ端からオリ設定だらけなのといちいちト書きが入るのが非常に邪魔で読みづらい
地の文禁止縛りでもしてるのかしらないけど、素直に段落下げて地の文として従者の内心を書いた方が100倍読みやすいと思う

>>27-28
どもです

……そんなに読みにくい? ト書き形式のほうがSSとしては合ってるかと思ったんだけど、そうでもないのかな
とりあえずト書きはできるだけ削るようにするので、それで様子見てみる

次のイベント全く考えてないので、頑張って書き溜めます

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