妹「わたしはずっと、お姉ちゃんのことが好きだったよ」 (39)

※百合注意

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妹「ただいまー。 ……あれ、お姉ちゃんの靴がある」




わたしが学校から家に帰ると、お姉ちゃんの靴が一足だけあった。
両親は共働きで、遅くまで帰ってこない。




妹「お姉ちゃん、いるー?」




呼びかけても、特に反応はない。




妹「……寝てるのかな? 朝に今日は彼氏さんとデートデートって騒いでたけど……ん?」




リビングのドアの前を通り過ぎようとすると、中から微かに声らしきものが聞こえた。

妹「……お姉ちゃん?」




リビングのドアをそっと開いて中を覗き込むと、お姉ちゃんがテーブルに突っ伏していた。




妹「お、お姉ちゃん? どうしたの、大丈夫?」

姉「…………ぐすっ、うぅ……」

妹「……泣いてるの?」




すぐにお姉ちゃんに駆け寄って、背中をさすってあげた。




妹「何かあったの?」

姉「……っ」




ふるふると首を振る、お姉ちゃん。




妹「……話したくない?」

姉「……ひとりに、させて」

妹「……む」




そんなこと言われても。
こんなお姉ちゃん、ほっとけない。

妹「こんな状態のお姉ちゃん、一人にさせられるわけないでしょ。 話せないならこれ以上聞かないけど、お姉ちゃんが落ち着くまではここにいるから」

姉「……ぐすっ」




時々しゃくりあげるお姉ちゃんの背中をさすりながら、テーブルに突っ伏したままのお姉ちゃんを黙って見守る。
……なんとなく、お姉ちゃんに何があったのかは検討がついた。




姉「……男くんとね、別れちゃった」

妹「……」




しばらくして、お姉ちゃんの嗚咽も落ち着いてきた頃。
ようやくお姉ちゃんが口を開いた。
内容は、やっぱりわたしの予想通りだった。

姉「私よりも、好きな人ができたって。 その人と付き合うんだって」

妹「……そっか」

姉「……私じゃ、だめなのかなあ……っ」

妹「……」




嗚咽混じりに、お姉ちゃんが続ける。




姉「あんなに、好きだったのにっ……今だって、好きで、辛いのにっ……男くんは、私を選んでくれなくてっ……」

妹「……」




わたしは黙って、お姉ちゃんの背中をさすりながら話を聞いている。

姉「やだよ……別れたくないよ……」

妹「……」

姉「ねえ……私、どうしたらいいのかな……? 諦めるしか、ないのかな……?」

妹「……難しいよね、取られちゃった人を取り返すのって」

姉「……うん」

妹「諦めるなんて口で言えば簡単だけど、それも難しいこともわかってる。 何かアドバイスとかできたらよかったんだけど……ごめんなさい、わたし……」

姉「……謝らないで。 妹は悪くないし、こうやって話を聞いてくれただけで、すごく嬉しい……一人にさせてって言ったけど、ほんとは、誰かに助けて欲しかった……」

妹「お姉ちゃん……」




普段は明るく振舞っているお姉ちゃんが、これまで見たことがないほどに落ち込んでいる。
そのお姉ちゃんの姿を見て、すごく辛くなった。




妹「……相談には乗れる、から。 きっといいアドバイスはできないけど、吐き出したくなったらいつでも吐き出してくれていいから」

姉「……ありがとう、妹……」

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姉「一緒に寝るのなんて、いつ以来かな?」

妹「ふふ、どうだろ」




その日の夜。
どうしてもお姉ちゃんを一人にさせたくなくて、わたしはお姉ちゃんと一緒に寝たいとゴネた。
そこまでしなくていいと若干呆れながら言っていたお姉ちゃんだったけど、最終的には折れてくれて。
そして今、おんなじベッドで並んで寝っ転がっている。




姉「……ゴメンね、心配かけて」

妹「ううん、わたしが勝手に心配してるだけだし。 お姉ちゃん、一人にできないし」

姉「……」ギュッ

妹「わ」




不意に、お姉ちゃんが抱きしめてきた。

姉「……ごめん、妹……」

妹「……」

姉「情けないお姉ちゃんで、ごめんっ……」

妹「……しょうがないよ。 誰だって、辛くなるよ」

姉「妹ぉっ……ひっくっ……」




わたしの背中に顔を押し当てて、お姉ちゃんが泣きじゃくる。
本当に、辛い。
どうして、彼氏さんはお姉ちゃんを捨てたんだろう。
こんなに想ってくれてるのに。
それなのに、別の女の人を選んだ。
何が不満だったんだろう。




姉「ぐすっ……うえぇっ……男くんっ……」

妹「……っ」

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お姉ちゃんが彼氏さん……いや、あの人と付き合い始めたのは、三ヶ月くらい前だったと思う。
あの人はお姉ちゃんのいっこ上の先輩。
ずっと好きだったって言うお姉ちゃんに初めてできた恋人だった。
わたしは直接会ったことはないけど、お姉ちゃんが幸せそうな顔で話しているのを聞いて、きっと悪い人ではないんだろうなって。
そう、思ってた。
でも、違った。
別の人のほうが好きになったって、つまり浮気じゃん。
本当に、ひどい。
……せっかく、認めたのに。
やっと最近になって、辛くなくなってきたのに。
お姉ちゃんが幸せなら、それでいいやって。
そう、思えてたのに。

……わたしは、お姉ちゃんのことが好きだった。
お姉ちゃんがあの人と付き合い始めるよりも、お姉ちゃんがあの人と出会うよりも前から、わたしはお姉ちゃんが好きだった。
どんな時でも気にかけてくれて、優しく接してくれて。
いつもにこにこ笑っているお姉ちゃんが、大好きだった。
もちろんそんなことは伝えられるはずもなくて、ずっと黙ってた。
お姉ちゃんとの関係を、壊したくなかったから。
それからお姉ちゃんに彼氏ができて、しばらくわたしは魂が抜けたような(お姉ちゃんがそう言ってた)感じになってた。
だから、わかる。
お姉ちゃんが今、どれだけ辛いのか。
大好きだった人が取られて、どれだけ辛いのか。
わたしは体験したから、それがわかってしまう。
だから、お姉ちゃんを一人でいさせたくなかった。

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妹「……」




ぼーっと空を見上げる。
時刻は夕方で、空は赤く染まっている。
カラスがかあかあ鳴いていて、もう秋なんだなって思う。
そんな頃にわたしは、お姉ちゃんの通う学校の校門に寄っかかっていた。
時刻的に下校時間で、下校していく生徒たちが、制服の違うわたしを興味深げにちらちらと見てくるのがわかる。




姉「……」

妹「……あ」




しばらくして、ようやく目的の人が校舎から現れた。
そう、わたしは下校してくるお姉ちゃんを待っていた。
お姉ちゃんとは通う学校が違うけれど、距離はそう離れていない。
とにかくお姉ちゃんを一人にさせたくなくて、しつこいと思われるかもしれないけどこうやってお姉ちゃんを待っていた。

姉「……ん、あ、え」




校門を通り過ぎようとしたお姉ちゃんが、わたしに気がついて素っ頓狂な声をあげた。
わたしはにっこりと笑って、お姉ちゃんに駆け寄った。




妹「やほ、お姉ちゃん。 一緒に帰ろ?」

姉「……どう、して……?」




驚いたように目を見開いて、お姉ちゃんがそれだけを言った。




妹「言ったでしょ、お姉ちゃんを一人にできないって。 ほら、帰ろ?」

姉「……~~っ、うんっ……」




目に涙を浮かべて、お姉ちゃんは笑ってくれた。
ちょっとドキっとした。

―――――――――――――――――――――――




妹「学校、どうだった?」




帰り道。
並んで歩きながら、わたしはお姉ちゃんに尋ねた。




姉「……うん、みんな、慰めてくれたよ」

妹「そっか……よかった」




おもしろおかしくネタにされたりとかじゃなくて、本当によかった。
そこにまず安堵する。




妹「……あの人、とは?」

姉「……」




お姉ちゃんは無言で首を振った。

妹「……ほんとはさ、このあと色んなところに引っ張り回して、少しでもあの人のことを忘れさせようと思ってたんだ」

妹「でも……無理だよね」

姉「……うん」

妹「ごめん、帰ろっか」

姉「……待って」

妹「え」




お姉ちゃんが、先を歩こうとしたわたしの制服の裾を掴んだ。




姉「忘れるのは、きっと無理だけど……引っ張り回して、いいよ」

妹「……」

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それから。
とにかくいろいろな場所に行った。
近くのショッピングモールとか、足を伸ばして街まで行って大きなデパート行ったりとか。
レストランに行ったり、屋台のクレープ食べたり。
最初の方は笑顔がなかったお姉ちゃんだけど、だんだん笑顔が見られるようになって。




姉「妹妹、次はどこ行く?」




なんて、期待に満ちた表情で聞いてくるまでになった。




妹「ウキウキなお姉ちゃんには申し訳ないけど、もう暗いし。 そろそろ帰らなきゃ」

姉「……ん、あー……そっか」




心底残念そうに、お姉ちゃんが呟いた。

姉「……すっごく楽しかったのに」

妹「あはは、そう言ってくれると嬉しいかも。 でもほら、また来ればいいでしょ?」




そう。
本当に嬉しい。
だって……ずっと前に思い描いてた、お姉ちゃんとのデートコースだったんだから。




姉「また連れ回してくれるの?」

妹「もちろん。 お姉ちゃんが良ければ」

姉「全然おっけー! じゃ、帰ろっか!」

妹「ぷっ……うん!」




すっかり元のお姉ちゃんに戻ってる。
少なくとも表面上は、そう見える。
それだけでも、わたしはほっとした。

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その日の夜。




姉「ありがとね、今日はすっごく楽しかった」

妹「うん」




お姉ちゃんにゴネられて、お姉ちゃんと一緒に寝ることになった。
というかお姉ちゃんがゴネなくてもわたしは元々一緒に寝るつもりだったのに。
お姉ちゃん曰く昨日ゴネられた復讐だとかなんとか。

姉「ほんとに昨日から気を遣ってもらってばっかりで、ごめん」

妹「いやいや、別にいいって。 わたしも今日は楽しかったし」

姉「……ありがとう、本当に」ギュ

妹「わ」

姉「妹のおかげで……忘れるのは無理だし、きっと男くんに会ったら辛くなると思うし、また泣いちゃう時もあるかもしれないけど……心の整理は、ついたから」

姉「だから、明日から完全復活です!」

妹「……よかった。 それでこそ……」

姉「うん?」

妹「……ううん、なんでもない」

姉「えー? なにそれ、気になる」

妹「なんでもないの! ほら、寝るよ!」

姉「お~し~え~ろ~!」コチョコチョ

妹「うひゃっ!? ひゃあっ、ちょっ、こらあっ!」




それでこそ、わたしの大好きなお姉ちゃんだよ。

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翌日。




姉「んむ……おはよ~……」

妹「おはよ、お姉ちゃん」

父「おはよう」

母「おはよう。 遅かったわね、急がないと遅刻よ?」

姉「えっ、嘘っ!? 妹っ、どうして起こしてくれなかったの!」

妹「えっ」

母「妹のせいにしないの。 ほら、早く顔洗ってきなさい」

姉「は、はーい!」

父「……姉は、元気になったのか」

母「……そうみたいね。 よかったわ」

父「まあ、運が悪かった……のだろうな。 今すぐにでも姉を捨てた男を殴りに行ってやりたいくらいだが」

母「ダメですよ、お父さん。 誰にだって失恋の一つや二つ経験するものよ。 ね、妹」

妹「んぐ? ん」コクコク

父「なんだ、妹もフラれたのか?」

妹「え? いや、ないけど……」

姉「ひえ~、遅刻遅刻っ!」バタバタ

父「……」

母「……」

妹「ごちそうさまでした」

姉「あっ! 妹、ちゃんと待っててよ!」

妹「遅刻しない時間までは待ってるよ」

姉「うう~~!」

母「なに、一緒に登校するつもり? 学校違うのに」

姉「途中まで!」

―――――――――――――――――――――――




姉「ごめんごめん、お待たせ!」

妹「遅い! お姉ちゃんよりわたしのほうが遠いんだから!」

姉「だ、だからごめんてば……ほら、行こう?」

妹「まったく……どうして今日に限って寝坊なんて」

姉「昨日遊びまくって疲れちゃったの!」

妹「……それは、ごめんなさい」

姉「あっ、いやいや、妹が悪いわけじゃなくて。 楽しかったよ、ほんとに」

妹「……まあ、お姉ちゃんが元気になってくれればそれでいいんだけど」

姉「うん、元気元気」

妹「失恋の傷を治すには新しい恋が一番効くって言うし……難しいだろうけど、考えてみるといいかもよ」

姉「……うん、そだね。 考えてみる」

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それから数週間。
わたしはお姉ちゃんに、出来る限りのサポートをした。
あれ以来遊びに行ったりはしてないけど、お姉ちゃんがフラれる前よりも頻繁に話しかけたり、たまに一緒に寝てみたり。
正直、自分でもちょっとしつこかったかなって思う。
でも、そのお陰かどうかはわからないけど、今ではすっかりお姉ちゃんは元気になってくれた。
お姉ちゃんは強いなって、本当に思った。
わたしは立ち直るまでに何ヶ月もかかったのに。
お姉ちゃんは一日や二日で心の整理をつけ、数週間で元通りに。
最初にすごく落ち込んでいたところを見た時は、本当に驚いたけど。
やっぱり、お姉ちゃんはお姉ちゃんだった。
わたしの、大好きなままの。

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妹「どうしたの? 今日は元気なかったね」

姉「そうかな?」

妹「うん。 前ほど騒いでなかったし……楽しくなかった?」

姉「ううん、楽しかったよ」




そして、それからしばらくが経って。
お姉ちゃんに頼まれて、また放課後にお姉ちゃんを連れ回した。
前と同じところだったり、前は行ってないところに行ってみたり。
お姉ちゃんは楽しんでたけど、前と比べるとそれほどでもないのかなって思った。
そして今は、適当な公園のベンチで休憩中。




妹「……何か、悩み事?」

姉「……うん」

妹「今度は話せる?」

姉「……話すつもりだったから、妹にこうやって連れ回してもらったんだよね」




ぐしゃりと持っていた紙コップを潰して、お姉ちゃんが言った。

姉「私ね、新しく恋人ができたんだ」

妹「……そうなんだ。 おめでとう」

姉「ふふっ、ありがと。 でもね……すぐ、別れちゃった」

妹「え」

姉「向こうから告白されたんだけど……その人、すごく優しくて。 良い人なんだなって思って、男くんを忘れるいいタイミングかもって思って、付き合ってみたの」

姉「で……付き合ってみたはいいんだけど、やっぱり……好きじゃない人と付き合うのって、長続きしないね」

妹「……そうなのかな」

姉「うん。 付き合っていれば、そのうち好きになるかもって思ってたんだけど……」




そこで、お姉ちゃんが言いよどんだ。




姉「……妹ってさ、彼氏とか、いる?」

妹「え? いないけど……」

姉「……そっか」




もじもじと指を弄んで、お姉ちゃんが続けた。




姉「あの……私ね、たぶん、好きな人ができたんだと思う」

妹「それは……さっき言った人でも、あの人でもなくて?」

姉「……うん」




恥ずかしそうに俯くお姉ちゃんを見て、ずきりと胸が痛んだ。
まただ。
またわたしは、あの時と同じようになってしまうのだろうか。

姉「新しい彼氏さんと付き合ってみて、考えたの。 こんなに良い人なのに、どうして私は好きになれないんだろうって。 男くんのことももう諦めがついてるのに、なんでだろうって」

姉「それで……よく考えてみて、わかった。 私は、別に好きな人ができたんだって。 妹の言う通り、新しい恋をしてるんだって」

妹「……」




心ここにあらずといった感じに、お姉ちゃんの言葉がわたしの耳を通り抜けていく。
わたしも、諦めがついていたはずだったのに。
なんでこんなに辛いんだろう。
この数週間で、また好きになってしまった……いや、これまで以上に好きなってしまったのだろうか。




姉「……ほんとに、その人のことを考えたら、止まらなくて。 抑えられなくて。 でも、抑えなきゃいけなくて……あはは、私、恋愛運無いのかも」




お姉ちゃんの中では、わたしはただの家族で、妹で。
それ以上なんて、あり得ない。

なのにわたしは、お姉ちゃんが失恋したから今がチャンスだって、きっと無意識のうちに考えていたんだと思う。
それが今、こうだもん。
辛くて、胸が痛くて、泣きそうで……。
それでもやっぱり、わたしは決めた。
どんなに辛くても、お姉ちゃんが幸せならそれでいいんだって。





姉「……あなたが、好き」

妹「…………え?」




そんな感じのことをごちゃごちゃと考えてお姉ちゃんの話を聞き流していたら、に、にわかには信じがたい言葉が聞こえた。




姉「妹が、好きなの」




顔を赤くして、でも真剣な表情で、お姉ちゃんがわたしを見ている。

妹「……え」

姉「……ほんとは、言わないつもりだったよ。 だって女の子同士だし、姉妹だし。 引かれるだろうなって思うと怖くて」

姉「でも、我慢できなかった。 抑えられなかった。 ……妹は優しいから、きっと言ってもこれまで通り接してくれるかもしれないって勝手に考えて」

姉「優しく慰めてくれたり、励ましてくれる優しい妹が、好きになってた。 私が笑ってるのを見て、嬉しそうに微笑む妹が、好きになってた。 どんな時にも私を気にかけてくれる妹が、好きになってた」

姉「……好きだよ、妹」

妹「…………」




お姉ちゃんの告白を聞いてて、頭が真っ白になってた。
わたしは夢を見てるのかな。
だってこんなの、あり得ない。
絶対にあり得ない。

姉「……返事、聞かせて欲しいんだけど」




……でも、夢じゃない。
現実だった。
叶うはずがないと思って胸の奥底にしまっておいて、誰にも言うつもりがなかった、わたしの初恋の人。
それが、向こうから想いを伝えてくるなんて。




妹「っ……」

姉「……えっ、なっ、いっ、妹っ!?」




胸の奥から、熱いものが込み上げてきて。
涙がどんどん溢れてくる。
嬉しい。
お姉ちゃんが、わたしのことが好きだって。
そう言ってくれただけで、すごく嬉しい。
嬉しくて、止めようとしても涙が止まらない。

姉「ご、ごめん、辛いよね。 わがままが過ぎちゃった。 忘れてもいいから……」

妹「……ううん、忘れない」




袖で涙を拭って、お姉ちゃんに向き合う。

あら^~たまりませんわ^~

妹「わたしはずっと、お姉ちゃんのことが好きだったよ」




……言えた。
やっと……言えた。
お姉ちゃんに、好きだって。
ずっと言いたかった、ずっと言えなかった。

姉「……い、いもうと……」

妹「わたしね、お姉ちゃんが前の彼氏さんと会うよりも前から、お姉ちゃんが好きだったよ」

姉「……え」

妹「だからね、お姉ちゃんが彼氏さんにフラれて落ち込んでた時、お姉ちゃんの気持ちがすごくよくわかったの」

姉「……そっか。 男くんに、私を取られちゃったから……だから、あの時……」

妹「うん。 辛かったよ? ほんとに、なんにも考えられなくて、ただただ辛くて。 最近になってやっと立ち直れたくらいだもん」

姉「……全然気が付かなかった。 妹が、私のことが好きだったなんて」

妹「そりゃね。 言えるわけないって思ってたし」

姉「……だよね」

妹「でも……お姉ちゃんは、言ってくれた。 伝えてくれた。 だから、わたしもやっと、やっっと伝えられた」

妹「ずっとずっと言いたかった、お姉ちゃんのことが好きって。 好きだよ、お姉ちゃん。 お姉ちゃんが好き」




お姉ちゃんが好きって声に出すたび、胸があったかくなる。

姉「わ、わかった、うん。 わかったから、あんまり好き好き言われると恥ずかしい……」

妹「ずっと言いたくて言えなかったんだもん。 我慢してたぶん、言わせてよ」

姉「……そんなに、好きだったんだ」

妹「うん」

姉「なんか……ごめんね」

妹「お姉ちゃんが謝ることじゃないよ。 わたしが勝手に好きになっただけだし。 それに……お姉ちゃんには、幸せになって欲しかったから」

姉「妹……」

妹「でももう、そうやってお姉ちゃんが幸せになれーって祈る必要がなくなるね」

姉「……それは、どうして?」

妹「わたしが幸せにするから」

姉「……っ」

妹「ちょっ、ちょっと、顔逸らさないでよ。 わたしまで恥ずかしくなってくるよ……」

姉「……こう言うとアレだけど、最初から妹を好きになってれば、傷つくこともなかったのかな」

妹「……うん。 わたしはお姉ちゃんを捨てたりなんて絶対にしないし。 だって、ずっと好きだったんだから」

姉「……じゃあ、かなり待たせちゃったみたいだけど。 私と、付き合ってくれますか?」

妹「喜んで!」

―――――――――――――――――――――――




というわけで、わたしはようやく自分の初恋を叶えることができて。
こうやって、お姉ちゃんと恋人同士になることができた。
これからやりたいことなんて、たっくさんある。
でも、焦る必要なんてない。
これまでだって、すんごい時間をかけたんだから。
だから、ゆっくり、そのやりたいことを消化していこうと思ってる。

お姉ちゃんと一緒に、ね。





おわり

終わりです。 ありがとうございました。

姉妹百合いいね

いいゾ~^これ


すばらっ!

百合は素晴らしい
乙でした

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