提督「朝潮型、編成!」 (111)



提督「朝潮型、編成!」

陸奥「あら? あらあら、提督ったら、暑さで変になっちゃったのかしら?」

提督「私はいつもこんな感じだが?」

陸奥「そうよねぇ。いつも変よねぇ」

提督「うむ。……うん?」

陸奥「正気ならいいのだけど、じゃあどういうこと? ウチの鎮守府には朝潮型なんていないじゃない」

提督「そう。朝潮型はいないのだ。というより、深刻な駆逐艦不足で困っている」

陸奥「ホント、困ったわねぇ」

提督「なぜなんだ! まったく、ここの提督は無能だな!」ドン!

陸奥「戦いで勝利するには戦艦、空母、重巡だけいれば十分だ! なーんて豪語していたものねぇ、その無能な提督は」

提督「くそう私だよ……無能な提督は私だよ……そこまで言わなくたっていいじゃないか……」ガーン

陸奥「その結果、駆逐艦の配属申請は行わずにここまできて、そして―――」

提督「まさか制海権の奪還に駆逐艦の力が必要になるなんて……」

陸奥「駆逐艦でなければ最深部までたどり着けないなんて、当時は考えてもみなかったものねぇ」

提督「そう……駆逐艦が必要……つまり、小さな女の子が必要になるんだ」

陸奥「小さな女の子を戦場へ出したくない……でしたっけ?」

提督「うむ。それと、私は巨乳のお姉さんが好きなんだ」

陸奥「…………もしかして、私が秘書艦の理由って、それ?」

提督「おっしゃる通りでございます!」ハハーッ

陸奥「そこはかとなく虚しい気分になるわね……」

提督「まぁ冗談はさておき、そういうわけで、この間ようやく駆逐艦の配属申請を行って、明日付で着任することになったんだ」

陸奥「あら? 急ねぇ?」

提督「何より名前が気に入った、期待の駆逐艦だ。陸奥にはその子の面倒を、しばらく見てやってほしいんだ」

陸奥「いいけれど……その子の艦名は?」







提督「駆逐艦…………―――――――荒潮だ」





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        ~ 翌日 司令室 ~


荒潮「く、駆逐艦、荒潮です! 本日付で、この鎮守府にお世話になります!」ビシッ

陸奥「あらあら? 緊張しているのかしら?」

提督「来てくれたこと、感謝している。養成所とは多少勝手が違うだろうから不便はかけるが、よろしく頼む」ビシッ

荒潮「はいっ! 司令官!」ビシッ

提督「それじゃあ陸奥、まずは荒潮に施設の案内をしてやってくれ」

陸奥「はぁい、了解よ。 それじゃあ荒潮、お姉さんについてらっしゃい」

荒潮「よ、よろしくお願いします!」


     ドダドダ バタバタ テクテクテク……   バタン


提督「ふぅ……行ったか。 子供というのはどうも苦手だ。あんな子を戦場へ送り出すなんて、果たして私にできるのか……。

   くぅ……陸奥よ、早く私の元へ戻ってきてくれ。そして、エッチで健全なお慰めを……」ブツブツ




陸奥「大丈夫?」

荒潮「え、は、はい……大丈夫……です」

陸奥「ふふふっ、初々しいわねぇ。全然大丈夫じゃなさそう」

荒潮「うぅ……」

陸奥「そんなに緊張するものかしら?」

荒潮「はい……やはり司令官の前ですし……」

陸奥「ウチの司令官の場合は、そんなにかしこまる必要なんてないと思うわ。敬語だって使わなくてもいいのに」

荒潮「えっ!? そ、そんな畏れ多い!」

陸奥「あの人は自分に厳しいけれど、他人には甘い人だから。

   それに、のちのち嫌でもあの人の変人っぷりは味わうことになるわ。それこそ、敬語なんて使うのがバカらしく思えてくるくらいに」

荒潮「そ、そうなのですか……? ですが、やはり上官に対してそんな……」

陸奥「あの人は私たちのこと、部下とか兵器とか、そういう風には考えない人なのよ」

荒潮「友達感覚……みたいな感じでしょうか?」

陸奥「それも違うわねぇ」

荒潮「では……?」

陸奥「そういうお店の人、みたいな?」

荒潮「えっ…………」








陸奥「さて、案内は終了。これで一通りの場所は見終えたわね。何かご質問は?」

荒潮「あの……私が寝泊まりする場所は……」

陸奥「あ、あぁ~…………えっと、それなんだけど……」

荒潮「?」





       ~ 駆逐艦寮 ~


陸奥「まぁ普通に考えると、駆逐艦は駆逐艦寮で寝泊まりするものよねぇ……」

荒潮「す、すごい! まるで建設されてから一切使われていないような新しさ!

   お掃除が隅々まで行き届いているのですね! こんな所で生活できるなんて……素敵です!」

陸奥「え、えぇ……。あ、お風呂は大浴場が寮の中にあるけれど、食堂は全艦種共通の別棟になるから、忘れないようにね」

荒潮「はい! あ、それで私のお部屋はどちらに?」

陸奥「えぇっと……」

荒潮「そうだ……隣の部屋の人に挨拶したりしないと……」

陸奥「それなんだけど……あなたの部屋は、どこを使ってくれても構わないから」

荒潮「……はい? でも、どこが空いているのか私、知りませんし……」

陸奥「全部、空き部屋なのよ」

荒潮「……へ?」

陸奥「あなたはこの鎮守府における……――――たった一人の駆逐艦なの」



        ~ 数日後 大浴場 ~


  ……カポーン


荒潮「今日も長い一日…………」ブクブクブク

荒潮( あれから色んな訓練には参加したけれど……なんだか身が入らない。

    秘書艦で戦艦の陸奥さんは色々面倒を見てくれているけど、駆逐艦と戦艦じゃ同じ訓練はできない。

    演習でよく見かける赤城さんと加賀さんは、優しくて強くてカッコイイけれど、そもそも艦種が違いすぎる……。

    重巡の人たちは出撃が多くて忙しそうだし、軽巡の人たちも遠征でなかなか鎮守府にいないし…… )



荒潮「疎外感……。私、こんな大きな鎮守府の中にいるのに…………なんだか独りぼっちな気分……」



荒潮「私……この先もこの鎮守府で……やっていけるのかな……」






   ――― 居場所のないこの鎮守府にいることが ただただ苦痛だった。 でも、そんなある日…… ―――






                ―――― あの子が 来た ――――






      ~ 司令室 ~


朝潮「朝潮型の一番艦、駆逐艦、朝潮です。勝負なら、いつでも受けて立つ覚悟です!」

提督「君が朝潮か。養成所から話は聞いているぞ。養成所を首席で卒業したエリート中のエリート。

   的確で冷静な判断力と戦闘技術、さらにリーダーシップを発揮させたら、朝潮の右に出る者はいないと」

朝潮「お褒め頂き、光栄です!」

陸奥「あら? あらあら、すごい子が入ったわねぇ。どんな手を使ったのかしら?」

提督「駆逐艦が荒潮一人では、荒潮も可哀想だからな。何としてでも姉妹艦をウチに迎え入れたかったんだ」

陸奥「あら、ふふふっ。良かったわね、荒潮」

荒潮「司令官……ありがとうございます!」

提督「いやいや、ははは……。照れるじゃないか」

陸奥「それじゃあ荒潮。あなたに初めての任務よ。 ……朝潮のこと、よろしくお願いするわね」

荒潮「……はい!!」

セキセイインコと化する朝潮

荒潮はあらあらタイプじゃないのか



         ~ 駆逐艦寮 玄関 ~


荒潮( とりあえずここまで案内して分かったことは……この子、すごく真面目な子…… )

荒潮「――――で、最後にここが私たち駆逐艦が生活する駆逐艦寮で……」

朝潮「とても綺麗な建物ですが、なんだか閑散としていますね」

荒潮「えっと、実はこの鎮守府、駆逐艦は私たちしかいないみたいで……」

朝潮「え、我々二人だけ、ですか?」

荒潮( ま、まずい……! ここで私が面白くない艦娘だと思われたら、これから先、二人きりということを苦痛に感じてしまうかも……。

    そしたら艦娘を辞めたくなって、寮を出て行って、私はまた独りぼっちに……!? それだけはダメ!

    なんとか気の利いた冗談でも言って、この場を和ませないと!! )

朝潮「そうですか……我々二人だけ……」

荒潮「か、艦娘は私たちだけだけど、実はこの寮、夜になると『おともだち』がたくさん出るんです!!」

朝潮「……お、おともだち?」

荒潮「そう! 体が半透明だったり、一部無かったりするけれど、とっても人懐っこくて!」

朝潮「体が半透明……一部無い…………それは、我々に害を及ぼす存在なのでは……」

荒潮「平気ですよー! 寝てる間に金縛りとか、息苦しくなったりすることはありますけど!」

朝潮「そ……それは本当に大丈夫と言えるのですか!? 攻撃を受けているのでは!?」

荒潮「急に二階から鉢植えが降ってきたり、ひとりでにガラス窓が破裂したり、それくらいのじゃれ合い程度ですよ!」

朝潮「それは攻撃です! 命を狙われています! こ、この寮は……呪われています!!」

荒潮「あははは……な~んて、今のは全部冗だ―――――」

朝潮「今すぐ司令官に報告してお祓いを……いや、ここまで敵の浸食が進んでいてはもう手遅れ……?

   いっそのこと私の全火力をもって今すぐ建物ごと消し炭に……」

荒潮「あ、あのー……朝潮さん?」

朝潮「はっ! 消し炭は良いとしても―――――」

荒潮「消し炭はダメだと思いますけど……」

朝潮「――――荒潮さんは……!? あなたもかなりこの呪いに侵されているはず……。

   やはり、どちらにしろ陰陽師を召喚してお祓いを……」

荒潮「あ、あの……朝潮さん、今のは冗談で―――」スッ

朝潮「だ、大丈夫です荒潮さん。あなたがどれだけ呪われていても……私は味方でいますから」スススッ

荒潮「そんなに距離を置いて言われても……」

朝潮「ご、ごめんさない。しかし私は一番艦……姉として、必ずあなたの傍にいて、味方であり続けます」

荒潮「朝潮さん……」

朝潮「それから、ひとつお願いがあるのですが……」

荒潮「何ですか?」

朝潮「寝泊まりだけは、別の場所にしたいのですが」

荒潮「えぇー……」






    ――― 朝潮さんはとても真面目で、怪談が苦手な人でした ―――



ageんなゴミクズ




      ~ 司令室 ~



満潮「朝潮型の三番艦、満潮よ」

提督「君が満潮か。いやぁ、よく来てくれたよ」

満潮「…………」

提督「な、なにか?」

満潮「あんたが司令官?」

提督「いかにもその通りだが……」

満潮「はぁ……なんだか腑抜けた感じね」

提督「ふぬっ!?」

陸奥「ぷっ……」クスクス

満潮「司令官っていうのは、もっと堂々としているものだと思ってたから、何だか期待外れだわ」

提督「は、はっはっは……いやぁ言われてしまった。何だか反抗期の娘を持った親のような気分だよ、あっはっは」

満潮「ウザ……」

提督「ははは……はは……」チーン

陸奥「は~い。それじゃあ荒潮、朝潮。 満潮のことをよろしくお願いするわね」

荒潮「は、はい……」


    コツコツコツ  ……バタン


提督「陸奥よ、私は心配になってきた」

陸奥「今後の駆逐艦との接し方に?」

提督「それもあるが……例えば私に子供ができるとするだろう?」

陸奥「えぇ」

提督「実の娘に、あんな風にあしらわれるようになったら……私は正気を保てるだろうか……」

陸奥「あらあら、心配いらないわよ」

提督「本当か……?」

陸奥「うふっ、だって提督にそんな日は、一生来ないでしょうし」ニッコリ

提督「…………」

サンキュームッツ



     ~ 駆逐艦寮 ~




荒潮「ここが私たちの部屋です」

満潮「うっわぁ……」

荒潮「えっと、何か気に入らないところとか……」

満潮「これ、六人部屋じゃないの」

朝潮「そうですね」

満潮「あんた達、いつも二人でこの部屋を使ってたわけ?」

荒潮「そう、ですけど……?」

満潮「はぁ……ワケわかんない。駆逐艦寮で生活するのって私たちだけなんでしょ?

   だったらわざわざこんな無駄に広い部屋で、二人で生活する意味ってある?

   部屋なんていくらでもあるんだから、私は空いてる別の一人部屋にさせてもらうわ」

朝潮「ですが司令官が、姉妹同士で仲良くしろと……」

満潮「あんた真面目よねぇ。いい? 私はあんたみたいな、上からの命令にただ従うだけの艦娘になりたくないの。

   私が一人部屋が良いって思ったんだから、私は勝手にそうさせてもらうわ。 それじゃ」

荒潮「あっ、ちょっと待って満潮ちゃ――――」


     バタン!


朝潮「行ってしまいましたね……」

荒潮「前途多難ですね……」



     ~ その日の夜 ~




荒潮「すごい雨……」

朝潮「今朝の報道では、台風が本土に上陸しつつあると言っていました」

荒潮「へぇ……まぁでも、この建物は新しいし頑丈だからきっと平気―――――」


  コンコン   ガチャ キィイイイ……


朝潮「ん? 誰だろう……―――」

満潮「き、来てあげたわよ……」

荒潮「あれ、どうして? 一人部屋に居たんじゃ……」

満潮「よ、よくよく考えたら! やっぱり同型の駆逐艦同士、同じ部屋で生活するべきだと思ったのよ!」

朝潮「でもあなた、上からの命令にただ従うのはイヤだって……」

満潮「いやっ、それは……! こ、効率的な選択をとっただけよ!

   いずれこの駆逐艦寮にもたくさんの駆逐艦が入ってくるだろうから、部屋がいっぱいになって立ち退かないといけなくなるでしょ!

   引っ越しの荷物とか手間を考えたら、最初から同じ部屋にまとまっておいた方が効率的だと思ったのよ!」

荒潮「…………」ジトー

朝潮「…………」ジトー

満潮「べ、別に台風のせいで一人が怖くて寂しくなったとか! そういうのじゃ全然ないんだから!」

朝潮「……ふふっ」

荒潮「……あははっ」

満潮「なっ、なんで笑うのよーっ!!」







     ――― 満潮ちゃんは口調がキツイけれど、結構寂しがり屋の可愛い人でした ―――




      ~ 司令室 ~


霰「霰です……」

提督「よ、よろしく……」

霰「…………」

提督「…………え? なに?」

霰「…………」

提督「陸奥よ……なぜこの子は私の目をじっと見つめたまま何も言わないんだ……」(小声)

陸奥「提督が何か言うのを待っているんじゃないかしら?」(小声)

提督「え、そうなの……?」(小声)

陸奥「駆逐艦の子が皆元気でお喋りな子だと思ったら大間違いよ」(小声)

提督「そうか……。 コホン! いやぁ霰、よく来てくれた! 君の今後の活躍を期待しているぞ!」

霰「んちゃ」

提督「……うん!? え、は?」

霰「…………」

提督「陸奥よ……! この子、今『んちゃ』って言ったぞ!

   なんだこれは! 意味が分からん! 意味が分からんぞ!?」(小声)

陸奥「あらあら……また強烈な個性を持った子が来たわねぇ……。

   それじゃあ荒潮、朝潮、満潮。 いつもみたいに頼んだわよ」

荒潮「はい!」

朝潮「えっと……じゃあ霰、ほら、行きましょう」

霰「うん」


      テクテクテクテク……


霰「あっ、司令官」

提督「な、なんだ……」

霰「よろしく、お願いします」ペコリ

提督「あ、はい……よろしくお願いします……」


    テクテクテク…… バタン


提督「いや、本当に何なんだあの子……」

陸奥「提督が駆逐艦の子たちを理解できるようになるのは、まだまだ先の話になりそうねぇ」






     ~ 駆逐艦寮 朝潮型の部屋 ~


荒潮「えぇっと……あ、霰ちゃん……?」

霰「…………」ボー

朝潮「施設案内から戻って来てから、ずっとあぁやって窓の外を見ているわね……」

満潮「ちょっと霰! あんた人の話聞いてんの?」

霰「…………」

荒潮「え、えぇっと……さっきから、何を見ているんですか?」

霰「…………うみ」

荒潮「海……?」

霰「きれい」

満潮「海なんて養成所で嫌と言うほど見たでしょうが。

   まさかあんたントコの養成所は、山の中にあったとか言わないでしょうね?」

霰「やまの中…………そんな養成所があるなんて、知らなかった……」

満潮「あるワケないでしょうがッ!!」

朝潮「お、落ち着いて満潮……霰も悪気があったわけじゃ」

満潮「だとしたら尚更落ち着いてなんかいられないわよ……」

荒潮「霰ちゃんは、海が好きなんですか?」

霰「ふつう」

満潮「こっの座敷童…………」イライライラ

霰「あっ……満潮……その髪」クルッ

満潮「な、なによ急に振り向いて!」

荒潮「あ、あぁ~! 霰ちゃん、満潮ちゃんの髪型が気になるんですよね!」

霰「……」コクン

朝潮「たしかに、満潮のその髪型、とってもオシャレで可愛いもの」

満潮「べっ、別に大したモンじゃないでしょ! あんたも髪を伸ばせば……その、やってあげても……」

霰「ドーナツ食べたくなってきた……」

満潮「あ……あんたねぇえええええっ!!」





       ――― 霰ちゃんは口数が少ないけれど、たまに面白いことを言う、不思議な子でした ―――



     ~ 司令室 ~


大潮「駆逐艦、大潮です!!」

提督「やぁ、よろし―――」

大潮「あなたが司令官ですね! うおぉおー! すっごーい! 初めて見たー!!」

提督「え、あぁ。 そうだとも、これからよろ―――」

大潮「大潮、今日からテンションアゲアゲで! 頑張りますっ!!」

提督「うむ。大潮には期待し―――」

大潮「あーっ! 司令官の机に置いてあるそれって、新発売のおせんべいですよねー!」

提督「は? えっと、あれは……」

大潮「いいなぁ~。大潮、おせんべいにはちょっとうるさいんですよ~!」

提督「貰い物だから詳しくはないが……そんなに好きなら、やろうか?」

大潮「本当!? わーい、じゃあ貰っていきますねー!」ガシッ

提督( 袋ごとなのか…… )

大潮「うおぉおー! 結構イケますねぇ! おいしい!」ボリボリ

提督( 今ここで食うのか…… )

大潮「あ、司令官も食べますー? 一枚くらいなら、ほら、どうぞ!」

提督「あ、ありがとう……」

提督( もともと私の物なんだが…… )

陸奥「それじゃあ大潮のこと、よろしくね、皆」

荒潮「はい!」

満潮「ほら、そこのうるさいの、さっさと行くわよ」

大潮「あ、ちょっと待ってー!」


   バタバタバタ バタン


提督「………………」

陸奥「名前の通り、大きな潮の流れみたいな子だったわねぇ」

提督「大きな渦潮は、燃料や弾薬以外にも、多くの物を飲み込んでいくようだな……」

陸奥「頭に電探でもつける?」

提督「小型のやつで頼む」

支援




     ~ 駆逐艦寮 大浴場 ~


大潮「それ! ドーーーーン!!!」バシャーン!

霰「わっぶ」ブクブクブク

満潮「こら大潮! 子供じゃないんだから飛び込まないでくれる!?」

大潮「えぇー! いいじゃん、誰にもかかってないし」

満潮「霰に直撃してるわよ!!」

荒潮「大潮ちゃんはすごく元気だけど、新しい環境に不安とか緊張とかはないんですか?」

大潮「そりゃーもちろん! アリアリに決まってるよー!」バシャバシャ

荒潮「泳ぎながら言われてもまったく説得力がないんですけど……」

霰「あうっ」ブクブク

朝潮「霰、大丈夫?」

霰「うん」

大潮「だってこの先、深海棲艦と戦ったりしなきゃいけないわけでしょー? 怖いのも痛いのも嫌だなぁーって」

荒潮「でも、その割には元気そうですし……」

大潮「へへん! そのためのおせんべい!」

朝潮「おせんべい? たしか、司令室でもおせんべいがどうのって言っていたわね?」

大潮「うん! 大潮、おせんべいが大好きなんだぁ。戦いは嫌だけど、おせんべいを食べることで気を落ち着けるのです!」キリッ

霰「……全然おちつけてない」

大潮「お風呂から上がったら、服を着るよりも先に食べるんだ~。風呂上りのひとパリ!みたいな」

朝潮「大潮、服は着て」

荒潮「というか、脱衣所まで持ってきたんですか?」

満潮「こんな湿気の多い場所に持ってくるなんて、バカなの?」

大潮「……え?」

朝潮「今頃、おせんべいはフニャフニャね」

荒潮「ふやけたおせんべいって、美味しくないんですよね……」

大潮「そ、そんなぁー! 今すぐ助けに行かな―――ツルッ――うわぁあああ!」

霰「こけてる」

満潮「ふふっ、自業自得ね」

朝潮「ふふふっ」

荒潮「あはははっ」




       ――― 大潮ちゃんは騒がしいけれど、場の雰囲気を明るく照らしてくれる子でした ―――




      ~ 司令室 ~



霞「朝潮型の十番艦、霞よ。よろしく」

提督「うむ、こちらこそよろしく頼む」

霞「ひとつ質問してもいいかしら?」

提督「なんだ?」

霞「ここ、司令室よね?」

提督「いかにも」

霞「なんでこんなに汚いわけ?」

提督「秘書艦が掃除をしてくれないからだ」

陸奥「あら? 私のせい? お掃除なら毎日してるけど、その度に提督が散らかすんでしょ?」

提督「いやぁ、書類仕事がたくさんで――」

霞「はぁー……」

提督「…………あの」

霞「部屋がスグに散らかるのは、それだけ仕事もいい加減ってことよ」

提督「あ、いえ……その……」

霞「そうやって言い訳しようとするのは、自責を認めないクズのすること」

提督「く……くず……?」

霞「そうよ。そうやって私たちの見本にもなれないようなだらしない人間は、

  たとえ上官でもクズよ。 クズ司令官と言われても仕方がないと思いなさい!」

提督「うぅ…………そこまで言わなくたって……」ショボーン

霞「ふん! 甘えてんじゃないわよ!」

陸奥「あらあら……。じゃあ提督のことはそっとしておいて、いつものように霞のこと、お願いしてもいいかしら?」

荒潮「は、はい!」


     ゾロゾロゾロ……  バタン


提督「陸奥ぅ……」

陸奥「はいはい、何かしら?」

提督「まさか……この歳になって……あんな小さな子に本気でダメ出しされるとは思っていなかった……」

陸奥「まぁ、実際に机の上は汚いものねぇ。忙しいのは分かるけれど」

提督「なんだか田舎のカーチャンを彷彿とさせる子だったよ……」

陸奥「お母上にお小言を言われている提督の煤けた後姿が、なんとなく想像できるわ」

提督「彼女の言葉を思い返せば思い返すほど、正論すぎて泣きたくなる。なんという屈辱…………」

陸奥「今日は早めに休みます?」

提督「…………しかしあの罵倒、意外に悪くないのかもしれない」

陸奥「……はい?」

提督「待てよ……むしろ幸せだったのか?」

陸奥「早めに休みましょうか」





       ~ 工廠 ~



霞「へぇ……ここが鎮守府の工廠……。養成所の物置みたいな工廠とは違って、さすがに立派な造りね」

荒潮「霞ちゃんの艤装はもう届いていますよ」

大潮「ここ、ここ! 大潮の隣のスペースにあるよー!」

霞「……うん。間違いないわ。私の艤装ね」

満潮「霞の艤装って、なんだか新品みたいに綺麗よねぇ。養成所では使ってなかったの?」

霞「使わずにどうやって訓練するのよ。これくらいの清潔さを保つのは普通でしょ?」

霰「でも……隣の大潮の艤装とくらべると…………」


   ボローン……


朝潮「大潮ほどではないけれど、私たちのと比べても霞の艤装は一段と綺麗ね」

霞「あ、ありえないわ……何この汚さ」

大潮「えぇー、普通に使ってるだけなんだけどー?」

霞「これのどこが普通なの? 大潮って言ったっけ、アンタ、最後に艤装の手入れをしたのいつよ?」

大潮「うーん、まだ養成所にいた頃だから……うーんと……いつだぁ?」

霞「はァ!? 艤装の手入れは少なくとも三日に一回! そっちでは習わなかったわけ!?」

大潮「……どうだっけ?」

朝潮「まぁ……たしかにそう教えられたけれど」

荒潮「実際にそこまで頻繁に手入れをしている人はいませんでしたね……。

   大破すれば修理に出して、新品みたいになって帰ってきますし……」

霞「信じらんない。艤装っていうのは、私たちにとって命同然じゃない!?

  もし戦闘中に艤装の不具合で航行不能なんかになったら、一体どうするつもりよ!?」

満潮「まぁ、そうなったら大変だけれど」

霰「実際、そうなったことなんてないし……」

霞「そうやって慢心している艦娘が、真っ先に海の底へ落ちるのよ!

  私は毎日艤装の手入れをしているけれど、なにもアンタたちにも毎日やれなんて言わないわ。

  でも、せめて三日に一回は手入れすること。 特に大潮! いいわね!?」

大潮「えぇーっ」



荒潮「ま、まぁまぁ霞ちゃん、皆には皆のペースがありますし……」

霞「そんなの知らないわよ! アンタの言う『皆のペース』が原因で、誰かが轟沈したらどう責任とるつもり!?」

荒潮「うぅ……」

満潮「霞の言うことは分かるけど、そんなに熱くならなくたっていいじゃない」

霞「私たちは仮にも姉妹なんだから、熱くなって当然よ!」

朝潮「姉妹……」

霞「私たちは姉妹であり、この鎮守府に在籍するたった六人の駆逐艦でもある。

  その中のたとえ一人でも……私の前からいなくなるなんて、絶対に許さないから」

荒潮「霞ちゃん……」

朝潮「……そうね。たしかに霞の言う通りだわ。たとえ手間でも、私たちが無事に帰ってこられる確率が少しでも増すのなら……

   手入れでも何でも、するべきだと私も思うわ」

霰「朝潮が言うなら……私も」

満潮「はぁ……そうよね。艤装にはそれなりに愛着あるし、悪くはないかもね」

大潮「うぅ……でも、大潮のやつ……皆よりスゴク時間かかりそう……」

霞「ずっと放っておいたからでしょ。自業自得よ」

大潮「うえぇえー」

霞「はぁ……。 じゃあ、私も手伝ってあげるから……さっさと終わらせるわよ」

大潮「ほ、本当!? 霞ありがとぉおおっ!」

霞「う、うるさい! 口より手を動かしなさいよ!」






         ――― 霞ちゃんは人に厳しいけれど、とっても仲間想いな子でした ―――





    ――――― それから私たち六人は訓練をし、遠征をし、出撃を繰り返した ―――――





    ――――― 一時はどうなるかと思ったけれど、それなりに仲良くやってこれた ―――――





             ――――― そんなある日のこと ―――――








     ~ 司令室 ~



朝潮「朝潮型六名、全員揃いました!」

提督「うむ。朝から集まってくれて感謝する」

満潮「急に呼び出しておいて、しょうもない話とかはやめてよね」

荒潮「み、満潮ちゃん、まずは司令官の話を聞きましょうよ」

霰「ねむい」

霞「で、話って?」

提督「少し回りくどくなるが聞いてくれ。まずは今さらだが、私が君たちをここへ着任させた理由から話そうと思う」

朝潮「私たち朝潮型が、この鎮守府に集められた理由……ですか?」

提督「そうだ。発端は軍令部から下された、北方海域の制海権奪還の命令だった。

   うちには優秀な戦艦や航空母艦が在籍していることもあり、艦隊の火力には自信があった。

   だからその北方海域も楽々と制圧できるだろうと、考えていたのだが……」

陸奥「北方海域の海流が激しすぎて、私たちじゃ最深部までたどり着けない所があるのよ」

霞「それで、速力のある私たち駆逐艦の力が必要になったってわけね」

陸奥「あら、正解よ」

満潮「ふぅん。でもそれって、別に私たちでなくても良くない? 駆逐艦なんて世の中には山ほどいるじゃない」

提督「確かにそうだ。他の鎮守府から駆逐艦を借りようと考えたこともあった。

   だが、端末でとある養成所の候補生リストを見ていて、ビビッと来たんだ」

大潮「感電ですねぇー!?」

霞「うるさい」

提督「どんな荒波にも、激しい潮の流れにも負けなさそうな駆逐艦……荒潮の名前を見た」

荒潮「わ、私ですか!?」

提督「そうだ。君の名前を見て思った。君と、その姉妹たちの艦隊であれば成功させられると」

荒潮「司令官……」



朝潮「さすが司令官! ……しかしそれは、結局どの駆逐艦でも良かった、ということなのでは?」

提督「あ…………うん、まぁそうなんだけどね」

満潮「嘘でも何とか言い返しなさいよ」

提督「とにかく! そういうわけだから君たちには、六人で北方海域へと向かってもらいたい!」

霰「わたしたち……六人だけで……」

大潮「うぉおお! なんか初めての試み!!」

荒潮「今までの出撃は、戦艦や空母の先輩たちの護衛でしたけど……今回は私たちだけで……」

提督「不安なら辞退してくれても構わない」

霞「ふん、望むところよ」

朝潮「朝潮型駆逐艦の、腕の見せ所です!」

提督「そうか……。正直な気持ちを言うと、私は不安だ。できれば辞退してほしい」

満潮「それ、私たちだけじゃ頼りないって意味?」

提督「そうは言わないが、とにかく心配なんだ」

大潮「心配ご無用です! 大潮たち、訓練も十分積みましたし、実践も何度も経験しました!!」

霰「大丈夫……」

霞「だいたい、上官が兵士の心配をして出撃を取りやめるなんて意味わかんないわ。そこまで心配する必要あるわけ?」

提督「心配はする。 ……なぜなら君たちのことが、大切だからだ」





       ~ 駆逐艦寮 ~


霞「司令官って……クズだけど、その、結構情に厚いところがあるのね」

満潮「まぁ、多少は見直したかも」

大潮「ねー? それでどうするの?」

荒潮「私たちだけでの、北方海域への出撃……。しばらく私たちで考えるように言われたけれど……」

霰「不安がないと言えば嘘になる……でも……」

朝潮「司令官のお話では、今回の北方海域への出撃任務は、この鎮守府に与えられた最後のチャンス。

   私たちが明日に迫った出撃を辞退すれば、出撃任務は他方の鎮守府へと移譲される……」

荒潮「私たちの出撃と任務の達成が、司令官自身の評価にも繋がるということですね……」


一同「…………」


霞「私は……出撃したい!」

朝潮「霞……」

霞「別にあのクズ司令官のためとかじゃなくて、私たちのために。

  私たちは着任してから今日まで、血の滲むような努力を重ねてきたわ。

  強くなるために戦って、戦って、戦って……。

  北方海域への出撃は、そんな私たちの成果を示すチャンスだと思う。

  この任務を成功させて、私は艦娘としての自信をつけたい」

満潮「もしもの時はどうするつもり? 最悪、轟沈だってあり得るわ」

霞「轟沈が怖くて、駆逐艦なんて務まるの?」

満潮「ふふっ……言ってくれるじゃない。いいわ、私も霞に賛成」

大潮「はいはーい! 大潮も賛成! 成功させて帰ったら、絶ッ対カッコイイよ!

   司令官、おせんべいたっくさんくれるかも!」

霰「朝潮は……どう思う?」


朝潮「……たしかに霞の言う通り、これは私たち自身にとっても絶好のチャンスだと思う。

   私たちが大きな一歩を踏み出せるか否かの、大きな分岐点のように感じるわ」

霰「なら……」

朝潮「でも、焦りすぎているような気もする。自信がないわけではないけれど、絶対に誰も轟沈しないという保証はないもの……」

霞「そんなのは百も承知よ。でも、そんなことを言い始めたら、私たちは一生前へ進めないわ!」

朝潮「駆逐艦なら前へ出ろ……養成所では散々言われた言葉ね。 分かったわ。……私も出撃に賛成する」

霰「………………なら、私も」

大潮「いよーし! これで満場一致だね!!」

満潮「まだよ。 まだ荒潮の意見を聞いてないわ」

荒潮「わ、私は……」

荒潮( 怖いからやめよう……なんて、言えるわけがない…… )

朝潮「荒潮?」

荒潮「……何でもありません。私も、出撃に賛成です」





           ――― その一言で、私たちの北方海域出撃は決定した ―――






         ――― そしてその翌日に私たちは出撃し、全員が無事に帰投した ―――






       ~ 駆逐艦寮 会議室 ~




朝潮「これより、第一回、朝潮型駆逐会議を始めます。今回の議題は、秘書艦の陸奥さんから頂いた議題……

   『北方海域の出撃を振り返って』について議論していきたいと思います」

大潮「いぇーい! どんどんぱふぱふー!!」

霞「静かにして」

朝潮「それでは……えーっと、まず今回の出撃について、良かった点を挙げてください」

霰「はい」

朝潮「どうぞ」

霰「出撃の30分前に集合して、準備はバッチリだった」

朝潮「30分前集合……準備万端っと……」キュッキュッキュッ

大潮「はいはいはーーい!!」

朝潮「どうぞ」

大潮「出撃前の点呼で、皆声が大きかった! 気合十分アゲアゲって感じで!!」

朝潮「声が大きい……気合が入っていた……」キュッキュッキュッ

荒潮「は、はい……私もいいですか?」

朝潮「えぇ、どうぞ」

荒潮「えぇっと……出撃する時―――――――――」


    バァン!


霞「ふざけないで……」



満潮「…………」

荒潮「霞ちゃん……」

霞「30分前集合? 声が大きい? 笑わせないで……。出撃してから……会敵してからどうだったのよ!?

  何が良い点だったのか!! 胸を張って言えるのなら、今すぐ言ってみなさいよ!!」

一同「………………」

満潮「朝潮、良い点については終わり」

朝潮「…………」

満潮「次、進めて」

朝潮「つ、次……は…………」

荒潮「朝潮……」

朝潮「…………次は、今回の出撃の…………悪かった点について」

大潮「大潮が…………大潮が進路報告を……間違えました」

満潮「北方海域の近くまでは妙高型の人たちと一緒に行ったことがあるから分かるって、あんたが言ったのよね、大潮」

大潮「そ、それはそーだけど……」

満潮「はぁ……だから進路決定をあんたに一任したのに……北と南を間違えるって、バカにも程度ってもんがあるわ」

大潮「だ、だからって全部大潮のせいにしなくたっていいじゃんか! 羅針盤は必ず二人以上で確認しろって、

   いつも訓練で言われてたのに! 近くにいた満潮は見ようともしなかったでしょ!!」

満潮「あんたがバカみたいに自信満々な顔してるからでしょうが!!」

大潮「そうやって言い訳する方がバカなんだよーだ!!」

満潮「はァ!? あんた本当に反省してんの!?」

大潮「ふーんだ! 満潮こそ反省すべきだよ!!」

荒潮「ふ、二人とも……喧嘩しちゃ――――」

霞「進路を間違えた時点で作戦は失敗。けれど、あれじゃ進路が正しくても失敗してたわ。ねぇ朝潮?」

朝潮「うっ……」

霞「まさか敵の水雷戦隊と会敵して、真っ先に旗艦が大破するなんて、誰が想像したかしら?」

朝潮「…………」

霞「何とか言いなさいよ。アンタに言ってるのよ、朝潮」



朝潮「ごめんなさい」

霞「ごめんですって……!? ごめんで済まされるとでも思ってんの!?

  旗艦大破っていうことは、それだけで艦隊の敗北なのよ!!」

朝潮「…………」

霰「朝潮は……悪くない」

霞「なに? 何が悪くないのか、言ってみなさいよ霰」

霰「朝潮は、進路を修正した上での作戦の練り直しを、ずっと考えながら航行してた」

霞「それで敵の発見が遅れて、単縦陣の先頭にいた朝潮に砲撃が命中した……そう言いたいのよね?」

霰「うん」

霞「まぁいいわ。百歩譲ってアンタの言うように、朝潮は悪くないとする。 ……じゃあアンタは?

  そのとき朝潮の後ろにいたアンタは、何をしてたわけ?」

霰「それは……」

霞「アンタっていつもそうよね。何か不安なこととか困ったことがあると、すぐに自分の考えを放棄する。

  全部朝潮任せ。朝潮の後ろに隠れて何もしない。アンタの存在って何なの?」

霰「うるさい……」

霞「なにその目? 図星を言われて頭にきたんでしょ? ふんっ、ちょっとはその闘志を深海棲艦にぶつけてみたら?

  できないわよね……アンタも朝潮と同じで、弱いから」

霰「朝潮は……弱くない!!」


    パシン!!


霞「痛っ! この……やったわね! 霰ぇええええええええええっ!!!」

霰「許さない……朝潮に、謝れ! 謝れ!」

朝潮「うぅ……やめて……やめて二人とも……やめてよぉ……」










    怒鳴り合う大潮と満潮。 殴り合いにまで発展した霞と霰。 子供のように泣き崩れる朝潮。


        ……そして、何もできずにただ立ち尽くしているだけの私。


       これが私たちの、記念すべき第一回朝潮型駆逐会議。 事実上の、解隊でした。


や霞畜

悲しいなあ…







           ~ 夜 鎮守府桟橋 ~



荒潮「………………」

陸奥「あら、荒潮じゃない。涼みに来たの?」

荒潮「逃げ出してきたんです」

陸奥「部屋には居られない?」

荒潮「……はい」

陸奥「そっか……。あなた達、なんだかんだで仲良しだったから、あの時は少しびっくりしたわ。

   大潮と満潮がすごい剣幕で怒鳴り合っていたし、霞と霰は取っ組み合いになってて手の施しようがなかったし、

   あの朝潮は全然泣き止まなかったし……あなたは魂の抜け殻みたいになっていたし」

荒潮「本当に、申し訳ありませんでした」

陸奥「今まで見てこなかったから分からなかったけれど、駆逐艦の子って、本当に血の気が多いのね」

荒潮「…………」

陸奥「あ、今のは褒め言葉よ? だからこそ、自分よりも大きな戦艦や空母にも恐れず突進できるのだと思うわ」

荒潮「……それなら、私は駆逐艦失格です」

陸奥「あら? どうして?」

荒潮「今回の皆の喧嘩を見ていて分かりました。私には……私だけには、ああやって熱くなれる闘志がないんです」

陸奥「ふぅん、闘志ねぇ……。別に熱くなることだけが、闘志だとは思わないけれど?」

荒潮「え?」

陸奥「なんというかこう、静かに燃える、狂気に似たような闘志の方がよっぽど恐ろしいと思うわ。ほら、神通みたいな」

荒潮「……たしかに。陸奥さんはどうですか?」

陸奥「私? うぅん、そうねぇ。私もどちらかといえば、熱く闘志を燃やすタイプではないわねぇ」

荒潮「では、神通さんみたいな……?」

陸奥「それも違う気がするわ。私の場合……追い詰められれば追い詰められるほど、自分を偽るタイプかしら」

荒潮「自分を……偽る?」



陸奥「そう。私は戦艦だけど、深海棲艦は怖い。好き嫌いだってあるし、困難から逃げ出したいと思うことなんて、しょっちゅうよ」

荒潮「そうなんですか?」

陸奥「えぇ。だからこそ、自分を偽るの。

   面倒な人には好きだと言う。不味いものを食べたら美味しいと言う。辛い時には興奮して、焦った時には余裕を見せる。

   怖い時には、大笑いして楽しいと言ってみせるの」

荒潮「あの……よく分かりません」

陸奥「ふふふっ、本当にそうよねぇ。弱い自分を強く見せるために自分を偽るのだ! っていう私の姉の、受け売りよ」

荒潮「はあ……でもそれって、そう言ってるだけで、実際に強くなるわけじゃないですよね?」

陸奥「えぇ、もちろん。でもね、ずっとそれを続けているうちに、自分が本当に強くなった気分になれるときがあるのよ」

荒潮「まさしく、自分を偽っている……ということでしょうか」

陸奥「そういうことね。荒潮は何だか昔の私に似ているから、前向きになれるおまじないだと思って、少し試してみるといいわ。

   もしかしたら意外と、そういう才能があるのかもしれないわよ?」

荒潮「それは、喜んでもいいのでしょうか……」

陸奥「そこは喜ぶところでしょう? たとえ嬉しくなくてもね」

荒潮「あっ……」

陸奥「頑張りなさい荒潮。諦めるのは、まだ早いんじゃないかしら?」

荒潮「……はい。陸奥さん……私、がんばります!!」




       ~ 鎮守府 食堂 ~




荒潮「隣、いいですか?」

朝潮「荒潮……いいけれど」

荒潮( いきなり暗い……。でも! 暗い時こそ明るく!! )

荒潮「よいしょっと……えーっと……朝潮、今朝は何だか元気がないですね!」

朝潮「荒潮はなんだか、スッキリした顔をしているわ」

荒潮「そ、そうですか? 天気がいいから気分も晴れやか~なんですよきっと!」

朝潮「今日は一日中雨よ」

   ザー

荒潮「あっ……」

朝潮「…………」

荒潮「朝潮は『朝』でもシャキっとしてるように、私は『荒』い天候では元気なんですよ!」

朝潮「荒潮には……今の私がシャキっとしているように見える?」

荒潮「えっ!? そ、それは……」

朝潮「……ううん、ごめんなさい。意地の悪いことを言って」

荒潮「いや、朝潮が謝ることじゃ……」

朝潮「昨日、あれからずっと考えていたの。霞の言った言葉が、頭からずっと離れなくて……」

荒潮「か、霞ちゃんもきっと……悪気があって言ったわけじゃ……」

朝潮「うん、分かってる。旗艦大破は艦隊の敗北だなんて、当然だもの。ああやって霞が指摘してくれなかったら、

   私はもっと苦しんでいたのかもしれない。私は誰かに責めてほしかったの……この不甲斐ない旗艦のことを」

荒潮「でも私は……旗艦は朝潮以外にいないと思います」

朝潮「どうして?」

荒潮「それは……その、朝潮と一番付き合いの長い僚艦が言っているのだから、そうなんです」

朝潮「ありがとう、荒潮。 でも、きっと他の皆は、そうは思ってないわ」

荒潮「なら……確かめてみましょう!」

朝潮「確かめる?」

荒潮「私……このまま皆が離れ離れになるなんて嫌だから……。 だから私、きっと皆を仲直りさせてみせます!

   それで……どれだけ皆が朝潮を必要としているか、朝潮に見せてあげます!」






       ~ 駆逐艦寮 大浴場 ~

   カポーン


霰「…………」

荒潮「あぁは言ったけれど……まさか、いきなりお風呂で勢ぞろいするなんて……」

満潮「…………」

朝潮「いつもこの時間帯に皆で入っていたから、その癖で皆揃ったのね……」

霞「…………」

荒潮( 空気が……重い…… )

大潮「…………あーあぁー。 司令官が言ってた。北方海域の出撃任務は、他の鎮守府でカタがついたってさー」

満潮「当然よね。よっぽどのバカが航路を決めない限り、作戦失敗なんてあり得ないものね」

大潮「向こうの駆逐艦は連携も良く取れてたんだってー。誰かさんみたいに、航路の決定を人任せにしなかったらしいよー」

荒潮「あは……あははは……ちょっと皆、そういえばこの間、ちょっとした笑い話を聞いたのだけど―――」

霞「人任せと言えば、うちの駆逐艦には、旗艦を庇うどころか盾にしている駆逐艦がいるらしいわよ。

  その旗艦も弱いと来たもんだから、もう救いようがないっていう笑い話よね?」

霰「たまたま艦列の最後尾にいたから無事だった艦娘が、

  自分なら上手くやれたって言ってる、口だけ番長の姿が愚かだったっていうオチらしい」



   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………



荒潮( 皆の怒りはまだ冷めていない……。 ううん、それどころかむしろヒートアップしてる……。

    このままじゃダメ……皆をお風呂から出しちゃいけない……この論争に、ここで決着をつけなくちゃいけない…… )

満潮「はぁ……イライラする。私、もう出るわ」

荒潮「ダメ!!」ガシッ

満潮「な、なによ!?」

荒潮「こんなのダメ…………今ここで、決着をつけましょう!!」



満潮「決着……?」

霞「いい案ね。今なら全員が丸腰だから、公平な戦いができるってことよね?」

荒潮「そ、そうじゃなくて! もっと穏便に……それでいて熱くて……

   忍耐強さが必要で……明確な決着がつく勝負で決着をつけます!」

満潮「なにそれ」

大潮「ふーん! どんな勝負でも、大潮は絶対に負けないもんねー!」

霰「私が……勝つ」

朝潮「荒潮……その勝負って一体……」

荒潮「……まずは全員、落ち着いて……肩まで湯船に浸かりましょう」




       ~ 数分後 ~


霰「たしかに穏便……1ミリたりとも動く気になれない」

満潮「それでいて、かなり熱いわね」

霞「そして……たしかにこの勝負、忍耐強さが勝敗の分かれ目だわ」

大潮「我慢勝負なら…………大潮は負けない!!」

朝潮「私は………………もうダメかも」

荒潮「勝負内容は単純明快。全員が肩まで湯船に浸かって、最後まで入っていられた人が勝ちです。

   今回の北方海域の出撃に関して、勝者の言い分が正しいということにします」

霰「わたしが勝ったら…………朝潮が悪い、弱いって言ったことを撤回して、謝ってもらう」

霞「じゃあ私が勝ったら、朝潮は弱くて、霰は一人じゃ何もできない腰抜けってことを本人に認めてもらうから」

大潮「なら大潮が勝ったら! 満潮はこれから一生、大潮におせんべいを献上すること!」

満潮「はァ!? あんたそれ北方海域の出撃と関係ないじゃない!?」

大潮「負けるのが怖いんだぁー」

満潮「ふん! いいわ。じゃあ私が勝ったら、大潮は全身全霊を込めて司令官にカンチョーすること」

荒潮「そ、それはさすがに司令官が可哀想な気が……」

朝潮「私は……どうしよう」

荒潮「朝潮が勝ったら、皆から問答無用で旗艦を務めることを認めてもらう、でいいですよね?」

朝潮「……そうね。そうするわ! …………でも長湯はちょっと苦手だから……うぅ……」




       ~ 一時間経過 ~




朝潮「………………」

霰「朝潮、平気?」

朝潮「私は……たいしょうふ」

霞「ふん、こんな、へなちょこが、旗艦だなんて、笑えるわね。霰も、そろそろ、限界なんじゃないの?」

霰「霞の方こそ…………早く出たそうにしてる」

大潮「熱くない……熱くない……熱くない熱くない熱くない熱くない熱くない熱くない……」ブツブツ

満潮「ちょっと、静かにしてくれる?」

大潮「冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい……」ブツブツ

満潮「うるさいって言ってんのよ!!」

荒潮「あの……発案した私が言うのもアレなんですけど、極度の長風呂は体に毒って言いますし……皆そろそろ……」

霞「出たければどうぞ」

大潮「大潮は絶ッ対に出ない! 少なくとも、満潮が尻尾を巻いて飛び出していくのを見送ってから!!」

満潮「あっそう。その言葉、そっくりそのまま返すわ」

霰「朝潮も荒潮も、安心して出てくれていい。勝つのは私だから」

朝潮「いやよ………………出ない……」

荒潮「みんな……」




        ~ 二時間経過 ~



朝潮「かき氷……たべたい……」

満潮「ほら、朝潮がヤバくなってきたわよ。 大潮、あんた外へ連れて行ってあげなさいよ」

大潮「満潮が連れて行けばいいじゃん」

霞「はぁ……だいたい何で、こんなバカげた勝負を思いついたのよ……」

荒潮「何故でしょう……」

霞「陸奥秘書艦に見つかったら、絶対に叱られるわ」

霰「叱られるだけならいいけど……」

大潮「噂に聞いたんだけど、陸奥さんって怒るとすごく怖いんだって……」

満潮「どこの情報よそれ…………全然、想像できないけど……」

大潮「なんでも……訓練中にふざけていた那珂ちゃんに向けて、実弾入りの主砲を放ったとか……」

霞「あぁ、それなら聞いたことがあるわ……。

  第三砲塔が暴発したっていう話だけど、近くで見ていた川内さん曰く、目が本気だったらしいわ……」

霰「それ以来……那珂ちゃんはアイドルと艦娘のメリハリをきちんと付けるようになったって……ラジオで話してた」

満潮「あの人、ラジオ放送なんてしてたの……」



         ~ 三時間経過 ~




朝潮「かきごおり…………つめたくて……おいひい」

霞「朝潮が幸せそうな表情になってきたわね……」

荒潮「朝潮……そろそろ出た方がいいですよ…………」

朝潮「だいじょうぶ……あたま、くらくらするけど……たぶん、あいすくりいむげんしょう……」

満潮「アイスクリームといえば……間宮さんのアイス……新作ができたって聞いたわ……」

大潮「へぇ……。おせんべいも好きだけど、間宮さんのアイスも好きだなぁ……」

霰「わたしも……すき……」

荒潮「それなら……明日にでも皆で、食べに行きます……?」

霞「いいわね。ごちそうになるわ、荒潮……」

大潮「荒潮……太っ腹ぁ……」

満潮「悪いわね荒潮……」

霰「ありがとう荒潮……」

荒潮「なんで私が……おごるみたいな話に……なっているんですか……」

霞「間宮さんのトコの食券……もう無いから……」

大潮「あれってそもそも……どうやったら手に入るんだっけ……」

満潮「基本は月に二枚……。それに加えて、何かを頑張ったら……司令官がご褒美としてくれる……らしいわ」

荒潮「ご褒美……何を頑張ればいいんでしょう……」

霰「任務とか……あと、司令官を喜ばせたり……」

霞「喜ばせる、ねぇ……」

大潮「色仕掛けとか……?」

満潮「そんなちんちくりんで、どうやって色仕掛けなんてするのよ……」

大潮「満潮に言われたくない……」

霰「陸奥さんくらいでないと……無理……」

荒潮「司令官は陸奥さんみたいなお姉さんが好みって言っていたので、私たちじゃ勝ち目がありませんねぇ……」

霞「いや、普通に考えて色仕掛けなんてダメに決まってるじゃない……」

大潮「霞はまぁ、ねぇ……」チラッ

霞「アンタも変わらないでしょ大潮」

大潮「この間ちらっと見た感じだと、まだ大潮の方が大きかったような気がする……」

霞「気のせいでしょ……。っていうかアンタ……お風呂でいつも、ドコ見てんのよ……」




             ~ 四時間経過 ~





満潮「ねぇ……大潮……」

大潮「なに……」

満潮「あんた……何で進路、間違えたのよ……」

大潮「それは…………怖くて」

荒潮「大潮ちゃんは……全然そんな風に、見えませんでしたけど……」

大潮「出撃前までは平気だったんだけど……。出撃して、進路決定を任されてから…………

   なんだか不安になって……急に怖くなって…………焦って、気が付いたら……見間違えてた」

満潮「恐怖……ねぇ。まぁ確かに、普通の状態ならあんなミスはしない……。私も……あの恐怖は初めて味わったわ……」

霰「満潮も……?」

満潮「戦艦や空母の先輩たちと一緒に出撃する時は感じなかったあの感覚……。 今思えば、私も正気じゃなかった……」

霞「……私もよ。真っ先に出撃したいって言い出した手前…………弱気な所を見せたくなかったけれど…………」

霰「霞……」

荒潮「私たちだけでの、初めての出撃任務…………みんな、怖かったんですね……。  ねぇ朝潮……――――朝潮?」

朝潮「…………」ブクブクブク

大潮「すごい朝潮……肩どころか……頭まで湯船に浸かって…………」

朝潮「…………」ブクブク……ブク……ブク……



    シーン……



霞「ば、バカ!! 溺れてんじゃない!!」

満潮「朝潮! しっかりしなさい!!」

朝潮「…………」チーン

荒潮「は、早く応急処置しないと! 大潮ちゃん、冷たい水をいっぱい汲んできて!」

大潮「うん!!」

荒潮「満潮ちゃんは脱衣所でバスタオルの用意をお願いします!」

満潮「分かったわ!」

荒潮「それじゃあ、残った私たちで、朝潮を脱衣所まで運びましょう!」

霰「うん……!」

霞「それじゃあ引き上げるわよ!……せーっの!!」ザバァアン

霰「朝潮…………想像してたより、意外と大きい……かも」




            ~ 脱衣所 ~



荒潮「よかった……朝潮、のぼせているだけみたいね…………」パタパタ

霞「あれだけ最初から音を上げていたのに……朝潮も頑張るわよね……。

  っていうか荒潮、アンタ……仰ぐのはいいけど、服くらい着たらどうなの……」

荒潮「そういう霞ちゃんだって……」

大潮「うぅ……体が熱い……ぎもぢわるい……」

満潮「大潮はせめてパンツくらい履きなさいよ」

大潮「えぇー……熱いよぅ……あ、せっかくだから皆で朝潮の横に寝そべって、比べっこでもする?」

霞「なんでアンタはいっつもいっつもそう比べたがるのよ……」

荒潮「大潮ちゃん……私たちは皆、同じくらいの大きさ……それでいいじゃない……」

大潮「う~ん、大潮の見立てによると、朝潮と荒潮は意外とあるように見える……」

荒潮「ちょっとぉ……」

満潮「熱いなら黙りなさい、このエロオヤジ」

霰「……」ガサゴソ

霞「霰、アンタなにやってんの? 探し物?」

霰「……あった」

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荒潮「なにそれ…………CD?」

霞「なんでこんな所にそんなもの――――」

霰「これ、あげる……」

霞「は? わ、私に?」

霰「うん。 那珂ちゃんのCD……私のお気に入り…………」

霞「あ、どうも……。 って、なんで私なのよ……あんまり興味ないんだけど」

霰「あの時…………殴っちゃったから…………そのお詫び……」

霞「えっ……」

霰「いつも朝潮を頼ってばかりで何もできない自分……それは、私自身が一番良く分かっていること。

  でも、その居心地の良さに甘えて……結局私は何もできないままで…………それを霞が指摘してくれて……

  本当にその通りなんだけど……悔しくて…………殴っちゃった。 ごめんなさい…………」

荒潮「霰ちゃん…………」

霞「アンタこれ…………なんで風呂場にまで持ち込んでんのよ」

霰「それは……」

荒潮「本当はすぐにでも謝りたくて…………ずっとタイミングを探してたんですよね?」

霰「うん……」

霞「はあ……。アンタって本当に不器用よねぇ……私も大概だけど」

霰「…………」

霞「あの時……私だって朝潮の立場だったら冷静に対処なんてできなかった。

  怖くて何もできなかったのは……私も同じよ。

  撤回するわ……朝潮は弱くなんかない。霰も……腰抜けなんかじゃないわ」

霰「霞……」

霞「その……ほら握手。 これでお互いに殴ったのは……チャラにしましょ」

霰「うん……」ギュッ

霞「ふふっ……アンタの一発、かなり重かったわ。これでチャラになるんだから、感謝しなさいよね」

霰「霞の方が……一発多かった……」

霞「ご丁寧に数まで数えてたなんて、ほんっと……アンタが仲間で良かったわ」

霰「私も……」

荒潮( 良かった……二人とも、ちゃんと仲直りできた……。

    ううん、二人とも本当は謝りたがっていたみたいだし、時間の問題だったのかも……。

    あとは大潮ちゃんと満潮ちゃんだけど…… )


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                      .          .           .       

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これまた変なのに荒らされたなあ

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                     :. .    .       .      .:       
                      .          .           .       

                     <●>  <●>

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                      .          .           .       

                     <●>  <●>

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通報してきたよ

>>75
ありがとうございます。助かります。



満潮「お、大潮……」

大潮「んー?」

満潮「その……私もあんたと同じ立場なら……怖くて、進路を間違えて……その、するかもしれなかったり……」

大潮「え? なに?」

満潮「だから、つまりその……わ、わわわ……悪かっ……」

大潮「…………」

満潮「…………」

大潮「あーあぁ~、だめだめ! 熱くてボーっとする上に、お腹すいたー! 早く部屋に戻ろう!」

満潮「だっ、だったら早くパンツを履きなさいってば! 全裸のまま部屋に戻る気!?」

大潮「うーん、それ有りかも! どうせ私たち以外、誰もいないし!」

満潮「ふ、ふーん、したければすれば? あーあぁ、せっかく新発売のおせんべいが部屋に置いてあるのに……

   露出狂が近くにいるんじゃ、さすがに食べてる場合じゃないわねぇ」

大潮「新発売のおせんべい!? 食べたい!!」

満潮「……なら、さっさと服を着なさい。 ……あ、あとで…………一緒に食べるわよ」

大潮「み……満潮ぉおおおっ!! 大好きぃいいいいっ!!」

満潮「こ、こら!! 全裸でくっつくなぁああ!!」

荒潮( こっちの二人もいつも通り……。 良かった……あとは朝潮、あなただけですよ…… )




         ~ 翌日 司令室 ~





提督「全員、揃っているな? 今日君たちを呼び出したのは他でもない、任務のことだ」

陸奥「前回の北方海域出撃任務……反省会は十分に済んだわよね? あと、仲直りも」

荒潮「はい……本当にご迷惑をおかけしました……」

陸奥「うふっ、あらあら、私は見ていて楽しかったけれど?」

提督「それで任務についてなのだが……急で悪いが、次は南西諸島への遠征任務の話が上がってきている」

霞「今度は遠征任務……資材の運搬?」

提督「厳密には違うがそんなところだ。詳しい概要については後で話すとして……まずは確認したいことがある」

荒潮「前回と同じ……任務を受けるかどうか、私たちが決めろということですね」

提督「そうだ。今回の任務……深海棲艦に出くわす確率は低いが、ハッキリ出現しないとも言えない。

   遠征とはいえこれも任務。 危険はつきものだ」

霰「また……私たちだけで……」


一同「………………」


荒潮「……できると思います」

満潮「荒潮……」

荒潮「私たちは……あの時の私たちとは違います。お互いを指摘し合って、許し合うことができた今の私たちなら……」

提督「ふむ……それは立派なことだが、他の皆はどうだ?」

朝潮「遠征なら……私も賛成です。ですが…………旗艦は、私以外の者にしてください」

一同「!?」



提督「……私は、君たちの中で旗艦にするなら、朝潮が適任であると判断した。それでも、旗艦を辞退したいと言うのか?」

朝潮「はい」

提督「……そうか。分かった。なら旗艦は別の者にしようと思うが――――」

霞「ちょっと待って。 私、遠征任務は反対よ」

満潮「私も」

大潮「大潮もです!」

霰「わたしも……」

提督「それは、自分たちの練度では、南西諸島海域への遠征は無理だろうとの判断か?」

満潮「バカね、そんなの楽勝に決まってるじゃない」

霞「私たちが言っているのは、朝潮が旗艦を下りるなら参加しないって言ってるの」

大潮「悔しいけど、旗艦は朝潮が一番だから!」

霰「私は……朝潮を守る、僚艦でいたい……」

朝潮「でも私に……私に旗艦の資格なんて……」

満潮「つべこべ言わない! 私たちが入りたい部隊は、朝潮を旗艦とした部隊なのよ!!」

霞「どれだけ不安でもいいわ。私たち僚艦が、朝潮を全力でサポートする」

大潮「それが私たち!」

霰「朝潮型駆逐艦の力………!!」

朝潮「みんな……」

荒潮「朝潮。 私たち全員が、あなたの旗艦を必要としていること……もう、分かってくれましたよね?」

朝潮「荒潮……。 わ、私……私は…………――――」


一同「………………」コクン


朝潮「私…………旗艦、やらせてください! 司令官!!」

霰「朝潮……!」

満潮「やれやれね」

大潮「そうこなくっちゃー!」

霞「ふふっ、世話の焼ける旗艦だわ」

提督「了解した。……ではここに、朝潮を旗艦とした部隊を編成する!!」



荒潮「司令官、部隊名はどうしましょうか?」

提督「部隊名?」

大潮「そういえばこの前の出撃の時は、部隊名なんて無かったもんねぇー」

提督「うーん……じゃあ朝潮型駆逐隊で」

満潮「まんまじゃない」

霰「適当……」

陸奥「あら、でもいいじゃない、朝潮型駆逐隊。姉妹が六人揃って部隊を組むなんて、結構珍しいことよ?」

荒潮「そうですよね。うん、朝潮型駆逐隊……なんだか嬉しいですね!」

朝潮「えぇ……でも、少し恥ずかしいような……」

霞「なーに言ってんのよ、誇りに思えるくらい、ドーンと構えればいいのよ」

大潮「そうそう! すっごく羨ましいー!!」

提督「(適当につけた割には)気に入ってくれたみたいだな。

   では朝潮型駆逐隊は、明朝マルヒトマルマルより、遠征任務を開始すること!」

一同「了解!」

提督「さて、そうと決まれば君たちは部屋に戻って十分に休養を――――」

大潮「あーーーっ!!」

提督「ん? どうした大潮、何か大事な用事でも思い出したような顔をして」

大潮「忘れてたー! お風呂でのこと!!」

ageんなゴミクズ



提督「お風呂?」

大潮「こっちの話です! まぁとりあえず司令官! ちょっと立って、こっちに来て!」

荒潮「大潮ちゃん……まさか……」

満潮「それ……言い出したのは私だけど……おせんべいのお返しのつもり……?」

提督「なんだ? そっちに行けばいいのか? よっこいしょ」ガタン

大潮「そしたら目を閉じて私たちに背中を向けて!」

提督「こうか? えっと……何が始まるんだ?」クルッ

霰「終わりの……始まり……」

提督「え?」

霞「それは……アレよ、たぶん大潮から司令官に、感謝のスキンシップでもあるんじゃないの」

提督「す、スキンシップだと!? しかも目を閉じた状態でか!? わ、私にそういう性癖は……!!」

大潮「あぁ~、司令官! 動いちゃダメだからね、手元が狂うから!」

提督「手元が狂う? ど、どういうことだ? 待て、心の準備が!」

陸奥「あらあら……何だかこれは……良く分からないけれど、すごいことが始まりそうだわ……」

提督「私もようやく駆逐艦の子らに好かれてきたということか? いやしかし、いきなりこれはハードすぎないか??」

大潮「いいから、それじゃあ司令官は息をいーっぱい吸ってー吐いてー吸ってー―――――」

提督「スーハースーハー」

大潮「行っきまっすよぉーー!!」

提督「え?」

霰「黙祷……」

大潮「せーーーーのっ!!」




           ブスリ!!




提督「あぁああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!!  あぁっ……」









           ――――― こうして編成されたのが、私たち、朝潮型駆逐隊でした! ―――――



提督の尻は犠牲になったのだ…

この空気で嘘だろ大潮w






     ~ 南西諸島海域 目的地 無人島 ~




朝潮「だいたいこんな所ね……皆、少し休憩よ」

霰「疲れた……」

荒潮「でも、ひとまずこれで、資源の入手ポイントの発見という任務は成功ですね」

霞「この小島を見つけるのにかなり時間がかかったけれど、労力に見合うだけの結果は出ているわ」

大潮「さらに発見だけじゃなくて、一部の資源を持ち帰れば大潮たちの任務は大成功! やったねっ!」

満潮「このまま帰り道でも深海棲艦が現れなければ、だけどね」

霰「この大荷物を持って鎮守府に戻ったら、きっと司令官、大喜びする……間宮さんのアイス券、もらえるかも」

荒潮「そうですね。あ、でも今頃司令官は……」

満潮「肛門をおさえて寝込んでいるかもしれないわね」

朝潮「それどころか、もっとひどい状態になっているかも……」

大潮「大潮の全身全霊を、指先に込めたから!」エッヘン

霰「最悪の場合、司令官は再起不能で退役……死因は艦娘による刺殺」

荒潮「言葉にすると、なんだか物騒ですねぇ……。実際は司令官のお尻に、艦娘の指が刺さっただけなのに……」

満潮「もっと言うと、それだけで死亡したってところが、かっこ悪すぎでしょ……」

霞「となると、殺人を犯した大潮は、もっと恥ずかしいことになるわね」

大潮「カンチョーして逮捕されるなんて嫌だぁあああっ!!」

霞「まぁ冗談はさておいて、そのせいでアイス券がもらえなかったら、大潮が全員分おごりなさいよ」

大潮「えぇー! 満潮がやれって言ったのにぃー!」

満潮「いや、あの状況で突然やる大潮がおかしいでしょ」

朝潮「あ……ところで私、お風呂でのことはあまりよく覚えていないんだけど、結局勝負はどうなったの?」

霰「あ、そういえば……」

満潮「なんだか曖昧なまま終わったわね、あの勝負……」

荒潮「ふふっ……でも、結局皆の言い分が通ったじゃないですか。だから、みんな優勝っていうことで」

霞「ま、そういう落としどころで……ってあれ? 荒潮は? 荒潮って、優勝したら何するって言ってたっけ」

大潮「そもそも聞いてないような気がするけどー?」

荒潮「また仲の良い朝潮型に戻りたい…………私の言い分も、いつの間にか通っていました」

朝潮「うふふ、荒潮らしいわね」

霰「でも……もっと欲張っても良かったのに」

大潮「そうだよー! 例えば高級おせんべい一年分とか!」

満潮「それはあんただけでしょ」



霞「まぁ、大潮じゃないけど、たしかに荒潮はもっとワガママになっても良い気がするわ」

荒潮「ワガママに……ですか?」

満潮「そうね。何かこう遠慮がちというか、一歩引いてるところが気に入らないわ。

   もっとその……私たちに甘えたり、キツく言ったり、理不尽なことを言ったり……信頼してほしいのよ」

荒潮「信頼……ですか……」

霰「それに、喋り方も」

荒潮「え?」

朝潮「荒潮だけはいつも敬語だから、余計に距離を感じてしまうのかもしれないわね」

霞「なんだか荒潮って、深窓の令嬢って感じよね。艦娘になる前がどうだったかは聞かないけれど、育ちの良さが丸わかりよ」

荒潮「あの……喋り方までは……そう簡単には変えられなくて……すみません」

大潮「まぁでも仕方ないよねー。満潮や霞が口うるさいように、持って生まれた性質はそう変わらないもんねぇー」

満潮「あァ!?」

霞「大潮、アンタは逆に遠慮ってものを知った方が良いみたいね」ボキボキ

大潮「うげっ、ホラすぐに怒る!」

霰「まぁまぁ落ち着いて。暴力反対」

霞「アンタが言うなっ!」

大潮「ぷぷっ」

満潮「ふふっ……」


一同「あはははははははっ」


朝潮「あぁ~お腹痛い……。 ふふっ……自分で言うのもなんだけれど、私たち……最高の駆逐隊ね」




          ~ 夕方 帰投中 ~



朝潮「両舷前進、原速を維持。大潮、満潮、方角は大丈夫?」

大潮「方角はN! NはNORTH! NORTHは北! 進路は北、ヨーーーシ!!」

満潮「間違いなく北ね。 ……別にそこまで大袈裟に確認しなくたっていいわよ」

大潮「指差呼称は大事! 司令官の穴にプラグインときも、穴を間違えないように指差呼称してたんだから!」

満潮「どう間違えるのよ……。 次下品なこと言ったらぶっ飛ばすわよ」

朝潮「霰、周辺に敵影は?」

霰「敵影なし」

朝潮「荒潮、霞、背後はどう?」

霞「こっちも異常なし」

荒潮「潜水艦にも注意してみましたが、それらしい影はありません」

朝潮「ありがとう。引き続き索敵を続けながら航行しましょう。積み荷との接触にも注意して」

大潮「うぅ~、ドラム缶重いよぉ」

朝潮「頑張って大潮。もう少しの辛抱よ」

荒潮「辛いことは考えずに幸せなことを考えましょう」

大潮「幸せ……たとえば?」

荒潮「ほら、水平線の向こうに見える夕日がとても綺麗です」

霰「それに……あたたかい……」

霞「本当ね……私たちが戦争してるのを忘れさせてくれるくらいに、綺麗で温かいわ」

大潮「たしかに幸せかも……あの真ん丸な夕日が……おせんべいに見えてきた……」ジュルリ

満潮「ふんっ、あんな大きなおせんべいなら、すぐに傷んで、大潮がお腹壊す未来まで見えたわ」

大潮「えぇ~お日様おせんべいはそんな簡単に傷んだり……あれ、でも黒いポツポツが…………」

朝潮「本当ね……あれは……」




霰「敵機!!」




荒潮「敵の艦載機……こちらに向かってきます!!」

霞「うそ……この海域に敵の空母がいるってこと!?」

満潮「……あの艦載機の量だと……空母ヲ級クラスじゃないの!?」

朝潮「何とか凌ぐしかないわ……方向はそのまま! 両舷前進、第二戦速!! 輪形陣!」

大潮「うぬぬぬぬっ……速度が上がらないぃい……」

霰「朝潮……積み荷が重くて、せいぜい第一戦速までしか……」

朝潮「……分かったわ。速度は第一戦速を維持。……来る! 全艦、対空戦闘用意!!」

一同「………………」


   ゴクリ…………


朝潮「撃てぇええーーーーーーーーっ!!!」



          ~ 数分後 ~



朝潮「被害報告」

霰「霰、外傷なし」

大潮「大潮、無傷だけど空腹!」

満潮「満潮、無傷よ。主機から異音がするけれど、航行に問題はないわ」

荒潮「荒潮、無傷です」

霞「霞、同じく無傷。全員無事だったみたいね」

荒潮「敵の艦載機は撤退していったけれど、いずれ第二次攻撃が行われるでしょうね……」

朝潮「そうなる前に、私たちは撤退するわ」

大潮「撤退するの? 迎撃するっていう選択肢は?」

朝潮「もともとこの海域に空母クラスの深海棲艦が出現することが異常事態よ。

   敵の編成も分からないまま突っ込んでいって、さらに重巡や戦艦が待ち受けていたら、私たちに勝ち目は無いわ」

満潮「戦略的撤退ってやつね」

霞「でも、たとえ撤退したとしても、第一戦速までしか出せない私たちじゃ簡単に追いつかれるわよ?」

朝潮「そうね。だから、積み荷はここで投棄するわ」

大潮「投棄!? もったいないよォ!」

荒潮「いいえ大潮ちゃん。私たちの命を粗末にする方が、よっぽどもったいない……そうですよね、朝潮」

朝潮「えぇ。これは私の独断だけど、艦隊の決定事項よ」

霰「私たちが鎮守府に帰れなかったら、それこそ任務失敗になる。私も投棄すべきだと思う」

満潮「大胆で容赦ない決断……悪くないわね」

霞「いいわ朝潮……アンタの決断、私は信じるわ」

朝潮「ありがとう、皆……」

荒潮「そうと決まれば、あまりグズグズしていられませんね」

朝潮「そうね。 ……全艦、積み荷を投棄。両舷前進、一杯! 絶対に皆で……私たちの鎮守府に帰りましょう!!」

一同「了解!!」



        ~ 数分後 ~




荒潮「あっという間に星空……。 これで敵の航空機の追撃に関しては、問題ありませんね」

霞「積み荷を投棄していなかったら、今頃私たちは火の海ね」

大潮「お土産を持っていけなかったのは残念だけど、何とか任務を成功させなきゃ!」

朝潮「機動部隊からは逃れられたし、あとは鎮守府に戻るだけ―――待って……前方に敵影!!」

満潮「またァ!?」

霰「一難去ってまた一難……」

荒潮「駆逐2、重巡1……戦艦2……敵の水上打撃部隊です……」

霞「せ、戦艦が二隻!? さっきの空母といい、どうなってんのよこの海域!!」

朝潮「まっすぐこちらに向かってきているわね……よし!

   それなら、陣形は単縦陣のまま、最大戦速で突っ切るわ! 反抗戦よ、砲雷撃戦用意!」

満潮「あくまでやり過ごすって算段ね……いいわ! 逃げるのは癪だけど、一発報いてみせる!」

大潮「いよーっし! 朝潮型駆逐隊の、初めての夜戦だよぉおーー!!」

朝潮「朝潮型駆逐隊……これより、夜戦に突入します!!」


ここの大潮好きだわぁ




荒潮「最大戦速ですれ違う……それだけのはずだったのに…………どうしてこんな……」

朝潮「くっ……霰……返事をして……」

霰「朝潮…………無事……で、良か……った」

朝潮「霰……どうして……私も庇わなくたって良かったのに……」

霰「朝潮は旗艦で……私は僚艦……そだれけ……だよ」



霞「くそ……しくじったわ……満潮、大潮……アンタたちは動ける……?」

大潮「うぅ……」

満潮「だめ……私の主機はイカレてるし……それより大潮が……怪我をして……意識が……」

霞「満潮……アンタもね……」

朝潮「私と霞が中破……霰、大潮、満潮が大破……荒潮が唯一無傷……よかったわ……」

荒潮「…………」

霞「荒潮……なに呆けてんのよ……」

荒潮( 私だけ……? 向こうは六隻で、こっちは私だけ…………全滅……? )

朝潮「荒潮……聞いて」

荒潮( 弱気になっちゃダメ……私が……私が戦わなきゃ…… )

朝潮「今まともに動けるのは……もう、あなたしかいないわ……。海域から離脱……しなさい……」

荒潮「いや……」



霞「荒潮……アンタ、わがまま言ってないで……」

荒潮「ワガママ言ってもいいって、言ったのは霞ちゃんじゃない!」

霞「い、言ったけど……今はそんなこと言ってる場合じゃ……」

荒潮「それに私は……もう嫌なの。独りぼっちになるのは……もう、絶対にイヤ……」

朝潮「荒潮……」

荒潮「独りぼっちだった私の前に……笑顔で手を差し伸べてくれた…………

   そんな大切な仲間を……姉妹を……私は…………失いたくない!!」

朝潮「ありがとう荒潮……。けれど一隻で相手にするのは……」

荒潮「決めたの……私は戦う。二人は霰ちゃん達を守って、ここにいて……」

霞「まさかアンタ、一人で突っ込む気なの!? 無茶よ!」

荒潮「無茶でも何でもやるのよ。私は、駆逐艦だから。……朝潮型の、駆逐艦だから!」

朝潮「ダメよ荒潮! 離脱して!」

霞「そうよ! お願いだから無茶するのはやめなさい!」

荒潮「朝潮、霞ちゃん……私を信じて。私も、皆のことを信頼しているわ。だから……」

霞「今さら敬語をやめるなんて……ズルイわよ……バカ……」

荒潮「信じて。私は決して沈まないし……皆を沈ませないから」

朝潮「……本当に、勝てるの?」

霞「ちょ、ちょっと朝潮! アンタ、荒潮を行かせるつもりなの!?」

荒潮「勝てるかどうかは分からない。でも、私は沈まないわ」

朝潮「怖くない?」

荒潮「怖いけど平気よ。こういう時のためのおまじないを……陸奥さんから教えてもらったから」

霞「おまじない……?」

朝潮「…………分かったわ。絶対に沈まないと、約束できるのね?」

荒潮「えぇ……絶対に」







荒潮( 絶対なんて……普段の私なら言わないのに…… )





         ――――――自分を、偽る。




荒潮( 陸奥さんの言っていたおまじない……。 お願い……私に勇気を )


荒潮「…………敵艦見ゆ。来たわね深海棲艦……この先は、一歩たりとも通さないから」


      ガタガタガタガタ


荒潮( 震えてる……私、震えてるの……? どうして? 怖いから? )




      『 怖い時には、大笑いして楽しいと言ってみせるの 』




荒潮( 怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い……………………―――――――――楽しい? )




荒潮「うふっ……うふふ…………」





朝潮「え? 荒潮……?」

荒潮「……あはは……あはははははははははははははっ!!」

霞「あれって……遠くてよく見えないけど……荒潮、笑ってるの?」

荒潮「うふふっ、いいじゃない……面白いわ深海棲艦。朝潮型の四番艦、荒潮が……相手になってあげる!」

朝潮「あんなに殺気立ってる荒潮……初めて見たわ……」

霞「ど、どうなってるの……戦闘中に笑うなんて……あの荒潮に限って……」




荒潮「うっふふふふ、暴れまくるわよぉ~! 荒潮の魚雷、くらいなさいっ!!」シュバッ


   ドォオオオオン!!!   ドォオオオン!!!


荒潮「まずは二隻……んふふふっ! 敵から上がる炎って、興奮しちゃうわぁ」

霞「い、一気に駆逐艦を二隻撃破!? あれ、本当に荒潮なの!?」

荒潮「重巡? ふふふ……次はあなたよ……あははははっ、華麗に散りなさい!」


    ドォオオン!!


朝潮「ほとんどゼロ距離からの艦砲射撃……敵の重巡洋艦を撃沈……」

霞「危ない! 戦艦の砲撃が来る!!」


   ドォオーーン!!


荒潮「くっ……あらあら、素敵なことするのね…………服がボロボロよぉ?」

朝潮「だめ……荒潮! 応答して! もう戻って! 撤退して!!」

霞「全然聞こえてない……何あれ……ホントどうなってんの!?」


   ドォーン! ドォーン! ドォーン!


荒潮「うふふ……まだまだ当たらないわぁ! あははははっ、勝利の女神はここよ? 捕まえてごらんなさぁい!」

霞「まさか荒潮……私たちから深海棲艦を遠ざけようとしてる!?」



荒潮( 陸奥さんの言った通り……自分を偽ることで、本当に強くなった気になれた……。

    ううん……まるで、これが本来の私みたいな……不思議な感覚…… )


  ドォーン!  ドォーン!


荒潮( くっ……でも、私ももう、ここまでみたいね……。弾薬も魚雷も全部使い果たして……。

    あとはこのまま、朝潮たちから深海棲艦を引き離すだけ……)

荒潮( 皆ありがとう……。私の大切な友達で、ライバルで、仲間で、家族…………。

    私……朝潮型で良かった……。朝潮型駆逐隊で……良かった )

深海棲艦「ヴォオオオッ!!」

荒潮「みんな……荒潮の席、ちょっと外すわね……さようなら――――」







陸奥「全砲門、開け! 目標は敵の戦艦……撃てぇええーーーーー!!!」






荒潮「陸奥……さん……?」

陸奥「敵戦艦二隻の轟沈を確認っと。あら、案外拍子抜けね、あらあら」

荒潮「………………私……助かった……の?」

陸奥「あら、生きているのが不思議っていう顔してるわね?」

荒潮「だって……だって私――――」

陸奥「だって、死ぬつもりだったから……でしょ?」

荒潮「………………」

陸奥「自分を偽り続けると、そのうち色々ワケ分かんなくなっちゃうのよねぇ。自暴自棄って言うのかしら?

   だから死んでもいいなんて、余計に考えちゃうのかもしれないわね」

荒潮「…………」

陸奥「いい? だからこれだけは覚えておきなさい。 あなたは姉妹を大切に想うのと同じくらいに、自分を大切になさい」

荒潮「自分を……大切に……」

陸奥「それくらいの保身は許してくれるでしょ? あなたの姉妹たちは」

荒潮「陸奥さん……私…………私……」

陸奥「荒潮、今は何も言わなくていいわ」

荒潮「うっ……くぅ……」ポロポロ

陸奥「ほら行くわよ。あなたが守ったその姉妹たちが、向こうであなたのことを心配しているわ」

荒潮「はい……」

陸奥「ふふっ、駆逐艦荒潮……あなたは紛れもなく、駆逐艦だわ」




       ~ 翌日 司令室 ~



提督「本当に……本当にみんな、よく帰って来てくれた。

   君たちが持ち帰った情報から、今後の作戦に新たな活路を開くことができた。感謝する」

荒潮「あら~、司令官のおかげよ」

提督「お、おう……」

陸奥「あの海域には深海棲艦が出現しないと思っていたけれど、敵も同じように、あの島の資源に狙いをつけていたようね。

   誤った情報を伝えて、本当にごめんなさい」

霞「い、いえ……陸奥秘書艦が悪いというわけでは」

満潮「そうよね……それに、私たち全員、こうして陸奥さんのおかげで無事なワケだし」

朝潮「それと、荒潮のおかげよね」

霰「そういえば私……気絶しててあの時のこと、よくわかってない……」

大潮「大潮も! 夜戦でいきなりやられちゃって! あの後どうなったのか知りたい!!

   あ、いや……それ以上にもっと知りたいことがあるんだけど……」チラッ

荒潮「大潮ちゃんは一番意識が無かったものねぇ。気になることがあれば、何でも聞いてくれてもいいのよ?」


一同「………………」


荒潮「あら? 皆どうかしたの?」

満潮「いや……その……それはこっちのセリフというか……」

提督「この際だから勇気を出して尋ねるが…………荒潮、なんか性格変わってないか?」

荒潮「だって霞ちゃんが……ねえ?」

霞「はァ!? 私!? なんで私が出てくるのよ!」

荒潮「皆を信頼しているのなら、敬語はやめろって言ったの、霞ちゃんよねぇ?」

霞「いやいや確かに言ったけど! なんかもうそれ以上にアンタの性格が変わってるって言ってんのよ!!」

荒潮「あら? そうかしら?」

霞「クズ司令官も! お尻ムズムズさせてないでなんとか言いなさいよ!」

提督「え!? あ、そうだな! なんというかこう……陸奥に似てきた感じがする」

陸奥「あら? 私のせいって言いたいのかしら?」

霰「明らかに陸奥さんの影響を受けていることはたしか……」

陸奥&荒潮「あら、あらあら」



提督「荒波にも負けない駆逐艦だと思っていたが、どうやら『あらあら』のあら潮だったようだ……」

満潮「寒ッ……上手いこと言ったつもりなの?」

大潮「司令官! 気合の注入なら、大潮にお任せください!」

提督「ひィ!」

朝潮「と、とにかく司令官! 私たち朝潮型駆逐隊、無事に任務を成功させることができました!」

提督「ん? あ、あぁ、そうだな。本当によくやってくれた」

朝潮「それでその差し出がましいお願いなのですが……ご、ご褒美……といいますか」

提督「え?」

霞( あぁ、間宮さんのアイス券ね……そんな話もあったわね )

満潮「そ、そうよねぇ。私たち、死ぬ気で頑張ったんだから、何かご褒美のひとつくらい貰わないと、気分が盛り上がらないわ」

提督「そ、そうかご褒美ねぇ…………うーん、頭を撫でてあげるとか?」

霰「そんなの要らない」

提督「うお……バッサリだな……」

朝潮「わ、私はそれでも嬉しいのですが……その、例えば……間宮さんのアイス券……とか」

提督「え、間宮さんのアイス券か……うーん……」

大潮「ね! いいでしょ、司令官! アイス! アイス!」

提督「しかしなぁ……任務達成のたびに与えていたら有難みが薄れるし、ここで特別にあげてしまったら、

   同じように頑張っている他の艦にも示しがつかない……」

霞「別にバレなきゃいいじゃない。ケチケチしてると嫌われるわよ」

提督「いやぁ、そうは言ってもなぁ」

霰「司令官の……けち……」

提督「だ、ダメだぞ……そんな目で見ても……」

朝潮「司令官……朝潮……アイスが食べたいです……」クゥン

提督「うっ……やめろ! そんな捨てられた子犬みたいな目で……私を見るんじゃない!」

満潮「はぁ……こんなに頼んでるのに、本当に面倒なカタブツね。荒潮もそう思わない?」

荒潮「私は………――――――」





           面倒な人には――――――





荒潮「 ―――――――……んふっ、私は司令官のこと…………       好きよ? 」









    ―――― このあと私たちは、おいしいアイスを食べました ――――








(おわり)

以上となります。
今回は可愛い可愛い朝潮型が着任した頃のお話を、荒潮の目線で描いてみました。
荒潮の成長もそうですが、朝潮型駆逐隊の喧嘩こそが、今回表現したかったシーンでした。
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

朝潮型シリーズですが、残りあと2作の予定です。がんばります!

過去作

①提督「朝潮型、整列!」
提督「朝潮型、整列!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443872409/)
②提督「朝潮型、出撃!」
提督「朝潮型、出撃!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443970090/)
③提督「朝潮型、索敵!」
提督「朝潮型、索敵!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445001663/)
④提督「朝潮型、遠征!」
提督「朝潮型、遠征!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445615911/)

おつ


二作というと霰と朝潮が残ってるのか

乙、素晴らしい。
荒潮の口調が新鮮でよかったのと、生真面目さに裏付けされて真面目に飄々と振る舞ってるって考えると実際面白い。

おつん
荒潮が喧嘩を治めるシーンがすごく好き

>>101
ところで霰の話は「出撃!」じゃないか?

>>104
あれは番外編で那珂ちゃんの話だと思うの

乙です

成長する過程であの口調になあ
よかったよ

>>101
霰は前にあったから朝潮とまだ参加してない二人じゃないの?

朝雲山雲は未着任だろ?
数から考えて霰朝潮だろ

陽抜を彷彿とさける戦闘シーン良かった

それぞれいい性格だった

乙乙
面白かったわ


とても良かった

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年11月07日 (土) 16:27:57   ID: sYJYspAe

いいかげん、轟沈と撃沈の区別つけて書けや。
区別つかない、バカが多すぎる。

2 :  SS好きの774さん   2015年11月08日 (日) 15:47:19   ID: JF4I8-iW

俺はこのシリーズ好きだな
ロリコンになりそうだ

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