怪獣怪獣「怪獣」 (38)
キシャー
イーッシャーッ
男「・・・・・・・」
ドドーーーーーン
イヤーッ
ギャオオオオ
ゴゴゴゴゴ
男「・・・・・・・」
男「・・・・・・・」
私は昔から、怪獣の方に肩入れしてしまう質だった。
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少年「おじさん」
私はまだおじさんという歳ではない。
男「・・・・・なんだい」
少年「ヒーローと怪獣、どっちが好き?」
男「・・・・・・怪獣かな」
少年「へぇ」
セヤーッ
ギャオオオオオオ
ドカーーーーーン
少年「あーあ、負けちゃった」
少年は、退屈そうに怪獣の最期を眺めた。
少年「おじさん、暇?」
男「あぁ、まぁね」
今日は仕事も終り、特別することも無かった。
帰宅途中で怪獣と巨人の戦いを見上げる形になった。
少年「じゃあ、怪獣の話をしようよ」
少年「僕の家で」
一瞬ためらったが、彼の目が余りにも輝いていたのに加え
断る理由がさして見当たらなかった。
男「別に、構わないよ」
少年は瞳を一層煌めかせて、喜んだようだった。
少年「僕の友達は皆ウルトラマンを応援するからね」
少年「怪獣好きには初めて出会ったよ」
カラカラと笑う少年の姿は、怪獣のようにも見えた。
少年「おじさん、名前は?」
男「私かい」
私の名前は金城哲夫だ。
少年「キンジョウ テツオ」
少年は、私の名前を咀嚼するように呟いた。
金城「君の名前は?」
少年はにやりと笑みを浮かべた。
怪獣殿下とでも呼んでよ
少年――、怪獣殿下の家は、アパートの一室だった。
狭く、古臭く、畳にちゃぶ台という、時代錯誤も甚だしい部屋だ。
彼はここに一人暮らしているという。
ふと、窓際の棚を見ると、そこには怪獣のソフビ人形が
行儀よくこちらを睨み付けていた。
ゴメスだ。
怪獣殿下「さぁ、お話ししよう」
彼は頭上から垂れる糸を引いた。
部屋に灯りがともる。
どうやら、豆電球の光らしかった。
期待
私たちは怪獣について語り合った。
造形、設定、戦闘能力、またその鳴き声に至るまで。
彼は勿論だが、私にとっても
ここまで怪獣の話ができる人間に出会ったのは初めてだった。
運命のめぐり合わせとは、こういうものなのかも知れない。
私たちは、太陽が地平線に呑み込まれるまで語り合った。
怪獣殿下「時に、金城さん」
怪獣殿下「金城さんは、怪獣ってどういうものだと思う?」
どういうもの、とは?
怪獣殿下「『怪獣』という言葉と概念が存在する以上、それを定義できて然るべきだ」
怪獣殿下「例えばゴムマリならば、『球状で、中に空気が入っている、ゴム製品』という具合に」
怪獣殿下「金城さんは、怪獣をどんなもので、何故存在するものだと思ってるの?」
ゴムマリが足元をころころと転がっていく。
鮮やかなピンク色をしていた。
相変わらず、ゴメスは私を睨んでいるようだった。
金城「私は、怪獣たちは、被害者だと思ってる」
金城「怪獣たちの多くは、人間の環境破壊や、兵器の開発」
金城「そういうものの結果として生まれ、暴れるものが多い」
金城「或いは、人間の負の感情、憎しみや、妬みを糧とするものもいる」
金城「そういった、人間が生み出した『負』を、彼らは人間にぶつけているんだ」
金城「最終的にウルトラマンに倒されてしまうのも、被害者的側面を強くしている」
金城「人間が作ってしまった『負』を、それによってできた悲しみを」
金城「人間に突きつけるために生まれた、自然や宇宙からの使者」
金城「それが怪獣なんじゃないだろうか」
怪獣殿下は穏やかに微笑んでいるようだった。
怪獣殿下「では、金城さんは、怪獣を『人間の愚かさを示すために、大自然が生み出した使者で、被害者』」
怪獣殿下「そう定義するんだね」
怪獣殿下「つまり、怪獣を作り出すのは、超自然的な力であると」
私は首肯した。
金城「彼らは明確に使命があるわけではないが、人間に危害を加えることで」
金城「結果として、人間の『負』を抉り出す」
金城「ある種、この世界からの人間への警告、または挑戦と見てもいいかもしれない」
怪獣殿下「なるほど」
怪獣殿下はカラカラと笑った。
突如、目の前が暗転した。
ゴメスが笑っていた。
ガイアのガンQが大好きでした期待
視界が白に変わる。
そこはどこかの、街中だった。
ギャオオオオオオオオオオオ
怪獣殿下「熔鉄怪獣デマーガ」
怪獣殿下「身長50メートル、体重5万5千トン」
怪獣殿下「怪獣好きな田口清隆らしい、いい怪獣だ」
デマーガ「ギャオオオオオオオオオオオ」ゴオオオオオオオオ
怪獣殿下「やや期待外れな回答だったよ金城さん」
怪獣殿下「いや、君は金城哲夫であり、金城哲夫ではない」
怪獣殿下「本物の金城哲夫がどんな答えを出してくれるか、いささか興味があるが」
怪獣殿下「死人に願いを掛けるのは虚しい」
何を言っているのだこの少年は。
その時、宙から電脳的なエフェクトと共に、光の巨人が推参した。
ウルトラマンXだ。
怪獣殿下「ウルトラマンXは怪獣をスパークドールズに変える力を持つ」
怪獣殿下「変身者の大空大地は、怪獣と共存できる未来を目指しているそうだ」
怪獣殿下「心優しい青年なのだろう」
イーッシャーッ
怪獣殿下「だが愚かだ」
少年がカラカラと笑う。
やはり、怪獣のように見えた。
怪獣殿下「怪獣は被害者だと、自然が生み出したと、そう言ったな金城」
怪獣殿下「それは完全に間違いだ。純然たる、大いなる、間違いだ」
怪獣殿下「君に一つ問いたい」
怪獣殿下「きみは怪獣の何に惹かれて怪獣贔屓になったのだ?」
ごくりと唾を呑み込む。
デマーガをふと眺めた。
デマーガ「ギャアアアアアア」
私は
金城「私は、怪獣の、被害者的な哀愁や、その、儚さに」
怪獣殿下「 嘘 を 吐 く な !! 」
その通り、嘘だ。
怪獣殿下「君は初めて怪獣を見た時、彼らがために倒壊する家屋に興奮したはずだ」
その通りだ。
怪獣殿下「彼らが放つ熱戦によって焼き払われる草木に震えたはずだ」
その通りだ。
怪獣殿下「その獰猛な牙に、理性無き瞳に心奪われたはずだ」
その通りだ。
怪獣殿下「自らの破壊衝動を代行する怪獣に、敬意を、感謝を覚えたはずだ」
その通りだ。
私は昔から、怪獣の方に肩入れしてしまう質だった。
それは、怪獣たちの、理由無き破壊に、殺戮に
自らが絶対に為し得ることのできないその行為に
焦がれたからだった。
怪獣殿下「人間は心の内に破壊衝動を抱えている」
怪獣殿下「対人、戦争、己、政府、差別、環境破壊、社会、世界」
怪獣殿下「この世のありとあらゆる、自身に憎しみ、悲しみを抱かせるもの」
怪獣殿下「その全てを破壊し、抹殺したい―、という破壊衝動」
怪獣殿下「それが結集し、創造されたものこそが怪獣だ!」
怪獣殿下「怪獣を生み出したのは自然や、宇宙ではない」
怪獣殿下「人間だ」
怪獣殿下「人間の思いが、その破壊衝動のはけ口として、怪獣を生み出した」
怪獣殿下「人間が、破壊のために怪獣を創造し」
怪獣殿下「自らの破壊を代行する怪獣を望み」
怪獣殿下「破壊を執行する怪獣を呼び寄せるのだ」
怪獣殿下「怪獣とは、絶対的な破壊の権化、その姿だ!」
怪獣殿下「大空大地は言った!」
怪獣殿下は巨人を指さす。
怪獣殿下「怪獣と人間が共存できる日が来ると!」
丁度、ウルトラマンXがザナディウム光線によって
デマーガをスパークドールズに変えた瞬間だった。
怪獣殿下「そんな日は来てはならないのだ!」
怪獣殿下「怪獣は破壊しなければならない!その全てを!」
怪獣殿下「のうのうと暮らすだけの怪獣に意味は無い!」
怪獣殿下「ましてや、ウルトラマンと共に人間を守ってはならない!」
怪獣殿下「怪獣は英雄でも、被害者でも、共存生命体でもない」
怪獣殿下「破壊者だ!」
怪獣殿下「そうであることを、誰よりも、お前たち人間が望んでいる!」
金城「君は」
誰だ?
怪獣殿下「さぁ、誰だろう」
怪獣殿下は懐から何かを取り出した。
怪獣殿下「君かもしれないし、彼らかもしれない」
彼は「それ」を掲げた。
その瞬間の屈託のない笑みで
私は彼が少年であることを思い出した。
怪獣殿下「これが私の怪獣だ」
違う。それは怪獣ではない。
それは、
金城「ただの粘土の塊だ」
均整がまったくとれていない、ただの、粘土の塊。
怪獣殿下「どうだろう」
粘土がぶくぶくと肥大化する。
瞬く間に40メートルを超える巨体と化す。
そして、ウルトラマンと対峙する形となった。
その姿は――――、
金城「私だ・・・・・」
私だった。
怪獣殿下「君には自分自身に見えるのか」
少年は楽し気に笑っていた。
彼の瞳は、初めて出会ったときとおなじように輝いていた。
怪獣殿下「彼は見る者が考える怪獣の姿を映し出す・・・僕にはかっこいい怪獣に見えるが」
怪獣殿下「環境破壊とか、兵器開発とか、そういう無駄なバックヤードの無い」
怪獣殿下「純粋に、破壊するだけの、完全なる、怪獣の中の怪獣」
怪獣殿下「そうだな、命名の法則に従えば『なんとか怪獣』、後ろに固有名詞が来るわけだが」
怪獣殿下「怪獣怪獣『怪獣』とでも名付けようか」
私は、いや、私の姿に見える怪獣は、正義の巨人に飛び掛かった。
怪獣殿下の言う通り、怪獣の頭の中には破壊することしか無いらしい。
周囲の建物が轟音と共に崩壊した。
彼が吐き出す熱線によってコンクリが溶解していく。
いつの間にか、怪獣はウルトラマンXに馬乗りの形になった。
怪獣はウルトラマンを殴打する。
怪獣はウルトラマンを殴打する。
怪獣はウルトラマンを殴打する。
怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私の姿をした怪獣はウルトラマンを殴打する。
私は、ウルトラマンを殴打する。
ふいに
ウルトラマンが動かなくなった。
私の股下に寝転がっていた正義の使者は、粒子となって消滅した。
怪獣殿下「おめでとう」
少年が笑っている。
私は吠えた。あらん限りの力で咆哮を上げた。
手近な自動車を、オフィスビルに投げつける。炎上した。ははは。
逃げ惑う人々が乗る車の渋滞に、熱線を吹きかける。皆死んだ。はははは。
街中を、理由もなく走り回る。あらゆる物が踏み潰され、崩れ去った。ははははは。
たのしい
怪獣殿下「どうだい」
分かるだろう?
怪獣殿下「壊すのは、楽しいんだ」
怪獣殿下「でも、現実じゃ、そんなことできない」
だから怪獣がいるんだよ。
怪獣殿下「そのための、怪獣なんだよ」
特撮が、怪獣に街を破壊させる理由。
主人公のヒーローを立てるための所謂「やられ役」たる怪獣が
子どもたちに、特撮ファンに支持される理由。
怪獣殿下「私たちは皆、心に怪獣を飼っているんだ」
私は、少年に穏やかな笑みを向けた。
そこからの私の行動は、ある種必然だった。
私は怪獣殿下の上に馬乗りになると、その顔面を何度も殴りつけた。
ウルトラマンXにしたのと同じ要領で殴りつけた。
人間は、自身に憎しみや、悲しみを抱かせるものに対して、破壊衝動を持つ。
今の私にとって、彼こそが、それだった。
少年は光の巨人よりも脆く、すぐにただの肉袋になった。
金城「君は、誰だ」
怪獣殿下「君自身かもしれないし、君の中の怪獣かもしれないし」
怪獣殿下「皆の中の怪獣かもしれないし、また、どれでもないかもしれない」
或いは、
怪獣殿下「怪獣を愛した人間の成れの果てかもしれない」
カラカラという少年の笑い声が、火の海となった街に響き渡る。
あぁ、やはり
その笑い声は怪獣のようだ。
-1967年-
金城哲夫「円谷さん、少しお時間よろしいですか」
円谷一「あぁ、金城くん、大丈夫だよ」
金城「26話と27話のプロットができたので、見てもらおうかと」
円谷「そうか、どういう感じになるの?」
金城「今回の怪獣は、ひたすら破壊するんです」
金城「人間の失敗の結果生まれた、とかではなくて、元々いた怪獣が」
金城「怒りに身を任せて、大阪城とかを」
円谷「へぇ、タイトルは?」
金城「タイトルは・・・」
《怪獣殿下》
~おわり~
乙
やはりレイオニクスは滅ぼさねばならんな
初めてssを書きました。
疲れました。
次からは休憩を挟むか
あらすじを決めておこうかと思います。
乙です。
ダイナの38話とか、マックスの22話とかに影響を受けたのかな?
コスモスやXが気に入らないってだけ?
乙
ウルトラに稀にある奇妙な感じの話だった
怪獣保護、共存路線を否定するわけではないだろうけど
保護とかができるってことは、ある程度怪獣を御せることでもあるわけで
そうすると、人知の及ばない存在からは遠ざかる
そこに怪獣って何みたいな疑問が出てくるのは共感できる
まあ、そういうのを含めて怪獣だとも思うけどね
ただあくまで主役はウルトラマン
怪獣映画の怪獣ならともかくウルトラ怪獣は
爆殺されるなり、沈静化されるなり、保護されるなりして人間とウルトラマンにしてやられるのが役目だろう、今も昔もな
共存路線なら共存路線なりの苦労と考え方がある
破壊衝動の権化ってのは確かにあるなあ
面白かった乙
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