櫻子「櫻子様の超絶タップダンステクを見よ!」タカタッタタカタカカッカタカタカタカタタベギッ (64)

※ 予め断っておきます。




ちとさくです。

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~~ 生徒会室


櫻子「……」

千歳「……」

向日葵「……」

綾乃「……」



メガネ『グロ中尉やで~』



櫻子「や………………」


櫻子「やらかしたぁ……」ドヨーン

千歳「あはは……」


綾乃「あー、動かないで大室さん。今片付けるわ」

向日葵「お手伝いしますわ」

綾乃「じゃ箒とちりとりをお願い」


櫻子「ご、ごめんなさい、池田先輩…………」

千歳「ううん、平気やで。それよりも怪我とかない?」

櫻子「はい、怪我とかはないです……」

千歳「そか。なら良かったわぁ」


綾乃「千歳ー。これどうする?捨てちゃって平気かしら?」

千歳「うん。フレームもグニャグニャやし、捨ててきてもらってええかな」

綾乃「分かったわ」


櫻子「はぁ…………」ドヨヨーン


千歳「……あの、大室さん?」

櫻子「はい……?」


千歳「本当に気にせんといてな? うちそそっかしくてメガネ壊しちゃうこと多いし、慣れとるから」

櫻子「でも……今回はわたしが踏んづけちゃったのが原因じゃないですか……」

千歳「それはそうかもしれんけど……。踏まれるところに置いといたうちも悪いんやから」

櫻子「いえ、でも…………」



櫻子「……わたしが“第一回 生徒会タップダンス大会”なんて開かなければこんなことには……ッ!!」

向日葵「それは本当にね」


千歳「あはは。でも結構楽しかったで?」

櫻子「いや……ダメです!!!」ガタッ


櫻子「なんていうかですね、わたしこのままじゃ最悪感があるんですよ!」

向日葵「罪悪感ね」

櫻子「そう、罪悪感」



櫻子「だから池田先輩! わたしに! わたしになにか責任を取らせてください!!!」ゲザッ

千歳「責任……」


千歳「う~~~ん……急にそう言われてもなぁ。特に思いつかへんよ」

櫻子「なんでもいいです! なんでも!!!」


千歳「手っ取り早いのは弁償って形やけどなぁ」

櫻子「できればお金以外の方法で!!!」ゲザァッ


向日葵「ちなみに……池田先輩。メガネの予備って持ってます?」

千歳「予備かぁ。基本は家に置きっぱやねぇ」


向日葵「それって日常生活に支障が出ませんか? 特に帰り道とか危ないのでは……」

千歳「確かに一人で帰るとなると危ないなぁ。けど千鶴に迎えに来てもらえばええから、そこは心配せんといて~」

向日葵「あぁなるほど。それなら安心ですわね」

千歳「ふふ、こういうときに姉妹がおると助かるなぁ」


櫻子「……!」ピコチーン!



櫻子「そうだ先輩! だったら今日はわたしが池田先輩をお家まで送り届けます!」ガバッ



千歳「え?」

向日葵「あなたが……?」

櫻子「もちろん!」


向日葵「…………信用なりませんわね」シラー

櫻子「お前はわたしをなんだと思ってるんだ!」ムキー


櫻子「大体な、こう見えてもわたし、道案内には自信があるんだぞ!」

向日葵「はぁ? どの口が言いますのよ。あなたこの前、おつかいの途中で迷子になってたじゃないの」

櫻子「うぐッッッ……。いや、あのときはネコを追っかけてて……」


向日葵「それに今回は道案内じゃなくて、池田先輩を無事に家まで送り届けるのが目的でしょう」

櫻子「あ、そうだった」


向日葵「まったく、先が思いやられますわね……」

千歳「ふふ」


向日葵「まぁでも確かに、迎えに来てもらうよりはあなたが送ってくほうがいいかもしれませんわね」

櫻子「だ、だろぉー?」


向日葵「櫻子のせいで他の方に迷惑がかかるというのも、申しわけないですしね」

櫻子「向日葵さっきから一言多くない?」


向日葵「と、そういうわけですので池田先輩、今日は遠慮せず櫻子をこき使ってやってくださいな」ニコッ

櫻子「言い方は気に入らないけど、向日葵の言う通りです先輩! 今日のわたしは犬のように働きますよ!!」

千歳「う~ん、そこまで言ってくれるんなら、お願いしようかなぁ……」

櫻子「マジですか? やったぁ!」


千歳「じゃ、とりあえずお手」

櫻子「わん!!!」ペタッ


千歳「でも本当にええの? うちの家、大室さん家から結構遠いで?」

櫻子「心配いりませんってー! 池田先輩、わたしを誰だと思ってるんですか!?」


千歳「……犬やな」

櫻子「わん!!!!」


千歳「お座り!」

櫻子「わん!!!!!」スッ


千歳「変顔!!」

櫻子「わぅぅん!!!!!!」アヘェ


千歳「……あ、メガネないから変顔見えへんわ」

櫻子「しょ、しょんなぁ!」アヘェ

向日葵「その顔やめなさい」


櫻子「……っと、冗談はこれくらいにして、もう帰りましょうか先輩!」

向日葵「そうですわね。時間も遅いですし」

千歳「ん、せやね」


櫻子「つーわけで向日葵、また明日な」

向日葵「あら、あなた一人で送ってくつもりですの? わたくしもご一緒しますわよ?」

櫻子「いや、それじゃわたしが責任を取ったことにならないじゃん」

向日葵「どういう理屈ですのよ……」

櫻子「いーいーかーらー! 向日葵は先帰ってろよ! つーか今日は楓が家で待ってるって話してただろ!」


向日葵「……そういえばそうでしたわ。今日はお夕飯の支度もありますし」

櫻子「ったく、楓をあんま心配させんなよ」

向日葵「はいはい悪かったですわよ。じゃあ、池田先輩はあなたに任せますわ」

櫻子「ふふん。それでよいのだ」


向日葵「……ということなので、先輩。申し訳ありませんが、櫻子をよろしくお願いいたします」

千歳「うん、任せとって~」


櫻子「……あれ、立場逆転してない!?」



~ 10分後


綾乃「ただいまー」ガララッ


綾乃「ごめんなさい、ガラスをどこに捨てるか聞いてたら遅くなっちゃったー……って、誰もいない!?!?」ガーン

綾乃「え、千歳も、大室さんも、古谷さんも! カバンもないし……まさか、帰っちゃったの!?」ガガーン


綾乃「……はぁ、もう。私を忘れて帰るなんてひどいわ……」ショボン



りせ「」(∵)ジー

綾乃「……って会長!?」ビクッ


りせ「」(∵)……

綾乃「……」



綾乃「会長もしかして、私のことを待っててくれたんですか……?」

りせ「」(∵)……


りせ「」∑d(∵) ビシッ

綾乃「……!!!」


綾乃「か、会長ォォォー!!!!!」ダキッ

りせ「」ヾ(∵)ツ








~~ 校門前


向日葵「それでは、わたくしはこっちですので……」

千歳「ん、今日はいろいろありがとな~」

向日葵「いえいえ。櫻子が粗相しましたらすぐにご連絡ください」

櫻子「相変わらず失礼なやつだな……」


千歳「それじゃまた明日な、古谷さん」

向日葵「ええ、それでは」

櫻子「宿題忘れんなよー」

向日葵「あなたがね」



櫻子「……さて、それじゃー張り切って、先輩を悪の手から守っちゃいますよ!」

千歳「ふふ、頼りにしてるで大室さん」

櫻子「お任せください! えっと……そう、たこぶえに乗ったつもりで!」

千歳「大船やな」

櫻子「そう、大船大船。……で、まずどっちの道に行けばいいですか?」

千歳「それじゃー……最初は左のほうに進んでもらってええかなぁ」


櫻子「了解です! あ、ちゃんと見えてないと危ないと思うんで、手繋ぎますね」

千歳「せやね。うちもそっちのほうが安心やわぁ」


キュッ


櫻子「おぉ……」

千歳「どうかした?」


櫻子「いや、池田先輩っておてて暖かいんだなーって思いまして」

千歳「そうなん~?」

櫻子「えぇ、向日葵と比べるとー……ってゲフンゲフン! なななんでもないです!!!///」

千歳(ほぼほぼ言うてしまっとるけど……)



千歳「大室さんはどっちかっていうと、冷たいほうやね~」

櫻子「そーなんですか?」

千歳「千鶴と比べるとな」

櫻子「へぇー……」


千歳「手が冷たい人って、心が暖かいらしいで」

櫻子「え、そうなんですか!? えへへー参ったなー」テレテレ


千歳「ま、ただの迷信やけどねぇ」

櫻子「喜び損!?!?」ガーン

期待


櫻子「うわっ、空がもう暗くなってきてますよ」

千歳「あ、ホントや」


櫻子「日が落ちるのも早くなりましたよねー」

千歳「せやねぇ。もう6時くらいには真っ暗やもんなぁ」

櫻子「じゃあ今は……5時くらいですかね?」

千歳「かもしれんなぁ」


櫻子「外が暗いと帰り道が怖くていやなんですよねー。学校から家までって、街灯が少なくって」

千歳「暗いところ、苦手なん?」

櫻子「あー、いや、その、夏にちょっと水浸しの幽霊を見ちゃって……」

千歳「え……幽霊?」


櫻子「あ、実は見間違いだったんですけどね! でも……」

千歳「それがトラウマで、ちょっと怖くなっちゃった……?」


櫻子「……」

千歳「……」


櫻子「……ひ、向日葵には内緒にしといてくださいね///」

千歳「あはは、心配せんでも誰にも言わんよ」


~~ 池田家


千歳「ただいま~」

千鶴「おかえり姉さん。遅かったね」


櫻子「ん? …………んン!?!? い、池田先輩がふたり!?!?」

千鶴「?」


千歳「あ、大室さん会ったことなかったっけ? うちの双子の妹でな、千鶴っていうねん」

櫻子「……あッ! あぁー妹さんですか!!!」ポン

千鶴「よろしくね、大室さん」

櫻子「は、はいこちらこそ! ……急に驚いてすみませんでした!」ヘコヘコ

千鶴「いや、慣れてるから平気だよ。それより今日はどうして姉さんと?」

櫻子「……実はですね――――」







櫻子「――――と、いうわけで、池田先輩のメガネを踏んじゃいまして…………」

千鶴「なるほど。それでお詫びに姉さんを家まで連れて来てくれた、と」

櫻子「はい……。本当にすみませんでした」ペコッ

千鶴「私は別に……。あ、そうだ。今、替え持ってくるね」

千歳「ありがと~千鶴」

千鶴「何番目の?」

千歳「13番目のやつお願いしてええかなぁ?」

千鶴「分かった」

櫻子(そんなにメガネあるの!?!?)



櫻子「しかし驚きましたね……。話には聞いてましたけど、思ってた以上に池田先輩とそっくりでした」

千歳「そう? 大室さんは、どんなん想像しとったん?」

櫻子「もっと鶴っぽい見た目なのかと……」

千歳(鶴っぽい見た目ってどんなんや……)


千鶴「おまたせ姉さん。はい」

千歳「ありがと~」スチャッ


櫻子「おぉ、メガネかけると本当に見分けつきませんね」

千歳「双子やからね~」

千鶴「……もし見分けがつくようになりたいなら、目つきで判断するといいよ」

櫻子「目つきですか?」


千鶴「そう。目つき悪くて性格悪そうなのが私で、ふわふわしてて天使みたいなほうが姉さんだから」

櫻子「へぇーなるほどー!」

千歳「ち、千鶴……天使とか、あんま冷やかさんといて……///」

櫻子「って、冗談なんですか!? もーからかわないでくださいよー!!」

千鶴(冗談のつもりじゃなかったんだけどなぁ……)


櫻子「……さて、それじゃ任務も完了したことだし、わたしはそろそろ帰りますねー」

千歳「うん。送ってくれてありがとなぁ」

櫻子「いえいえ。それではまた明日!!」


ガララッ


櫻子「…………あっ」サー


千鶴「……?」

千歳「大室さん、どしたん? そんな固まって……」

櫻子「…………い、いえ、なんでもないです!!! さーて、今日はご機嫌にスキップしながら帰っちゃおーっと♪」


千歳「……あ、まさか。千鶴、今の時間分かる?」

櫻子「ちょっ」

千鶴「えっと、確か18時過ぎくらいだったと思うけど」

千歳「……なるほど」


千歳「18時過ぎかぁ。どうりで空が真っ暗なわけやなぁ」

櫻子「……さ、さっきまではこんなに暗くなかったんですけど…………」

千鶴「この時期はいきなり暗くなるからね」


櫻子「で、でも大丈夫です。全然ひとりで帰れますから! よゆーです!」

千歳「う~ん……そう言うても、ここから大室さんの家まで結構あるで? 一人で帰るのは危ないと思うわぁ」

櫻子「そ、そんなことは……」

千鶴「それに最近物騒だし……」

櫻子「うっ……」


櫻子「わ、わたしはどうしたらいいんでしょう…………」

千歳「う~~ん……」

千鶴「……」


千鶴「……せや、いいこと思いついた」ピコーン

櫻子「…………いいこと?」








~~ 古谷家


♪ テコテコテコテン

向日葵「あらメールが。……池田先輩ですわ」ポチー


差出人:池田 千歳
題名:大室さんについて
本文▼

こんばんわ、古谷さん。
大室さんだけど、すっかり日が暮れてしまって、一人で帰すのは危ないと判断したので、今日はうちに泊めていくことにしました。
大室さんが携帯忘れててご家族に連絡がつかないので、差し支えなければ、古谷さんのほうから伝えておいてもらえますか。


向日葵「まったくもう、あの子また携帯電話を忘れて……」ハァ

向日葵「分かりました。伝えておきます。……っと」ポチポチ


ピポパ

向日葵「……もしもし。あら、花子ちゃんですか? 撫子さんいらっしゃいます?」

向日葵「…………え、今日は急なお泊りでいらっしゃらない? ではご両親……も、そうですわよね」

向日葵「………………」


向日葵「……あぁいえ、実は櫻子も先輩の家にお泊りになったらしくて」

向日葵「…………そうですわね。このままだと、今日は花子ちゃん一人になってしまいますわ」

向日葵「……はい、はい。お願いですか? なんでしょう?」


向日葵「………………」


向日葵「…………ふふ。はい、もちろんですわ。花子ちゃんに来ていただけると、楓も喜びます」

向日葵「えぇ、いつでも来てください。それじゃ、また後で」


ピッ


向日葵「……」フゥ

向日葵「まったく、櫻子ったら…………」


向日葵「……でもまぁ今回ばかりは、携帯を忘れてもらってよかったですわ」クスッ








~~ 池田家


千歳「古谷さん、分かりましたやって」

櫻子「すみません、なにからなにまで…………」


千歳「ええんよ~。それじゃ早速お風呂入って晩ごはんの用意せなな」

櫻子「え、もう晩ごはんですか?」

千歳「うちおばあちゃんおるから、ご飯も早めなんよ~」

櫻子「あーなるほど」


千歳「せやからな、お風呂はパパっと入らなあかん」

櫻子「なるほど」


千歳「しかも今日は大室さんもおって一人多いから、なおさら早く入らなあかん」

櫻子「なるほど」


千歳「だから一緒に入って、時間を短縮するで」

櫻子「なるほど」




櫻子「えっ」


カポーン


櫻子「ふぃー生き返りますねぇー」

千歳「古いお風呂でごめんな~?」ゴシゴシ

櫻子「いえいえ全然! 木のお風呂なんてまるで温泉みたいだし、最高じゃないですか!」

千歳「ホント?」

櫻子「ホントですとも! お湯かげんもちょうどいいです!」

千歳「なら後で千鶴にお礼言っといてなぁ~」

櫻子「なんでですか?」


千歳「……実は今、外で千鶴が火に薪をくべとるんよ」ゴシゴシ

櫻子「え!?!? マジですか!?!?」

千歳「ふふ、冗談や」ゴシゴシ

櫻子「なんだもーびっくりしたー!!」


千歳「綾乃ちゃんと同じような反応しとるなぁ」ワシワシ

櫻子「むむ、杉浦先輩と同レベルとは不覚なり……」


千歳「あ、そういえば綾乃ちゃん学校に置いてきてしもたな」ワシワシ

櫻子「あっ」


千歳「あとで電話して謝っとこか」ワシワシ

櫻子「そうですねー」


櫻子「…………」ジー

千歳「……」ワシワシ


櫻子「……大したことない話なんですけどー」

千歳「?」


櫻子「池田先輩を見てると、なんだか気分が落ち着きます」


千歳「落ち着き……? どういうこと?」キョトン

櫻子「あ、いえ、なんていうか、別に深い意味とかないんですけどね!?」

千歳「ふふ、なんやそれ。変な大室さん」ジャバー


櫻子「あははは……」

櫻子(おっぱい的な意味でとは言えない……)



千歳「それなら、うちは大室さんからいっぱい元気をもらっとるよ~」

櫻子「へ? 元気ですか?」


千歳「うん。それにうちだけやなく、綾乃ちゃんも、古谷さんも、会長も、そう思っとるんやないかなぁ」

櫻子「そうですかね?」


千歳「間違いないと思うで。特に綾乃ちゃんとは、よくそういう話をするしなぁ」

櫻子「……えへへ、なんかくすぐったいなぁ」


千歳「よし大室さん、頭洗ってあげるからおいで~」チョイチョイ

櫻子「ホントですか! やったぁ!」ザバァ

千歳「じゃ、そこに座って」

櫻子「はーい」チョコン


千歳「大室さんは直接上からかぶせても平気な人?」

櫻子「はい、大丈夫です!」


千歳「それじゃ、シャワー入りま~す」

櫻子「はーい!」ジャバババ


千歳「次はシャンプー行きま~す」

櫻子「はあーい」


千歳「どうですか~? 気持ちいいですか~?」ワシワシ

櫻子「おおお~気持ちいいで~す」


千歳「かゆいところとかありませんか~?」ワシワシ

櫻子「ふとももの内側あたりがかゆいでーす」

千歳「それは自分でかいてくださ~い」


櫻子「……あ、そっか」カイカイ

千歳「素!?」



千歳「はい、シャンプー流しま~す」

櫻子「おねがいしまーす」ザバー


千歳「はいオッケーで~す」

櫻子「ありがとうございまーす!」


千歳「次にコンディショナーいきま~す」

櫻子「はーい」







千歳「はいおしまいで~す」

櫻子「ありがとうございます!」


千歳「じゃ最後に湯船入って温まろか」

櫻子「そうですね!」


ザブーン


櫻子「ふぅー極楽極楽♪」

千歳「ほらほら、ちゃんと肩まで入らんと、風邪引くで?」

櫻子「おぉ、そうですね」


千歳「……ふふ、なんだか妹がもう一人増えたみたいやね」

櫻子「わたしが妹ですか?」

千歳「せやね~」


櫻子「そういえば池田先輩ってお姉ちゃんなんですよねー」

千歳「双子のやけどなぁ」

櫻子「そっかー、だからかなぁ」

千歳「……どうかしたん?」

櫻子「あーなんて言いますか……」


櫻子「池田先輩ってお姉ちゃんなのに、向日葵とかうちのねーちゃんとは違う感じがするんですよねー」

千歳「違う感じ?」


櫻子「はい。なんていうか、あのふたりはどっちも怒りっぽいんですよ」

櫻子「でも池田先輩って全然怒らないじゃないですか」

千歳「せやねぇ。あんま怒ったりはせんほうかなぁ」


櫻子「お姉ちゃんて、妹を叱らなきゃいけないんじゃないんですか?」

千歳「う~ん、そういうときもあると思うけど……」


千歳「うちは、そんなん誰も決められへんと思うなぁ。姉妹の形って、姉妹の数だけあると思うで?」


櫻子「……そう、なんですかね」

千歳「……? どうかしたん?」


櫻子「向日葵や池田先輩がそうであるように、わたしも一応お姉ちゃんなんです」

千歳「妹さん……花子ちゃんやったっけ?」


櫻子「はい。なんですけど、わたしってどうも花子からお姉ちゃんとして見られてないっぽいんですよ」

千歳「なんでそう思うん?」


櫻子「あいつ、ねーちゃんのことは“お姉ちゃん”て呼ぶくせに、わたしのことは呼び捨てにしてくるんです」

千歳「……」


櫻子「それに向日葵とねーちゃんからも“もっとしっかりしなさい!”って叱られるし」

櫻子「でもそれってつまり、ふたりから見て、わたしはお姉ちゃんとしてダメダメってことじゃないですか」

櫻子「だから色々考えたんです。どうしたらちゃんとしたお姉ちゃんになれるのかなって」

櫻子「ねーちゃんを参考にして、花子を叱ったりもしたんです」

櫻子「けど、そうしたときって大抵逆効果で、最後は花子とケンカして終わっちゃうんです」


櫻子「そんな中で、ふたりとは違う池田先輩がいて」

櫻子「先輩は全然怒らないし、優しいし、でも、それでお姉ちゃんとして尊敬されてる」


櫻子「……へへ、だからお姉ちゃんがなんなのかって、分からなくなっちゃったんです」

櫻子「はぁ……。どうやったら、ちゃんとしたお姉ちゃんになれるんだろ……」

千歳「……そんな考えすぎんでも、大丈夫やと思うけどなぁ」


櫻子「そうですね。……あ、なんかすいません、急に変な話しちゃって」

千歳「ううん。うちかて大室さんの先輩や。後輩の悩みを聞くくらい、当たり前や」


櫻子「へへ、優しいお姉ちゃんが一人増えたみたいで嬉しいです」

千歳「あら、ずいぶん似てへん姉妹やなぁ」


櫻子「えへへ」

千歳「うふふ」







櫻子「んしょ、パジャマありがとうございます!」

千歳「大きさ大丈夫そう?」

櫻子「はい、着心地最高です!」

千歳「ふふ、それならよかったわぁ。うちのお古でごめんなぁ?」

櫻子「いえいえ、このままずっと着てたいくらいですよ」

千歳「明日の朝には返してな~」


櫻子「池田先輩は着ぐるみパジャマなんですね」

千歳「うちは歳納さんにもろてから、毎日これ着とるよ」

櫻子「わたしもです!」

千歳「うちら着ぐるみ愛好家やなぁ」

櫻子「ですね! 先輩のタヌキ、とっても可愛いです!!」


千歳「……これタヌキやなくてアライグマやで」

櫻子「えっ」


千鶴「二人とも、ご飯できてるよ」

千歳「は~い」

櫻子「は、はぁーい!」



櫻子「わ! すっげ! おいしそー!!!」

千歳「ふふ、いっぱい食べたってなぁ。千鶴も喜ぶと思うから」


櫻子「え、これお母さんが作ってくれたわけじゃないんですか!?」

千歳「今日は千鶴が作ったんやで~。凄いやろ?」

櫻子「はい! うちのねーちゃんでもこんなに作れないですよ」


千歳「しかもこれを当番の度にやってくれとるんや。千鶴には頭が上がらんわぁ~」

千鶴「ね、姉さん……。コレとか昨日の残りだし、そんな大したもの作ってないから……///」


千歳「ふふ、千鶴は将来いいお嫁さんになるなぁ~」

千鶴「も、もう! からかわないでよ……」

千歳「さっきの仕返し~」

千鶴「姉さん……///」

櫻子「…………」








~ 古谷家


向日葵「……」ジャバジャバ

花子「ひま姉、お皿洗い手伝うし」ヒョコッ

向日葵「あら、休んでていいんですのよ?」

花子「ううん。せっかく泊めさせてもらうんだし、なにかひま姉の役に立つことがしたいし」


向日葵「そんな気を使わなくて大丈夫ですわ」

花子「いや、これくらい人として当たり前だし」

向日葵「ふふ、ありがとうございます。どこかの誰かさんに、花子ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいですわね」

花子「……その通りだし」


花子「花子は妹をほっといて、急に先輩の家に泊まりに行っちゃう櫻子なんかとは違うし」

花子「花子はちゃんと人のことを考えてあげられるし」

花子「花子は自分勝手な櫻子なんかと違うんだし」

向日葵「ふふ、そうですわね」


花子「…………」ハァ


向日葵「……花子ちゃん? どうかしました?」

花子「櫻子って……」

向日葵「?」


花子「櫻子って、花子のことなんてどうでもいいと思ってるのかな……」

向日葵「……」


向日葵「……そんなことないと思いますけど」

花子「でも、いつも花子のやることに難癖つけてくるし、しょっちゅうからかってくるし……」

花子「なんていうか、花子に優しくないと思うし……」

花子「もし花子に妹がいたら、絶対もっと優しくしてあげると思うし」


向日葵「……そうですわね。確かに櫻子って、そういうところありますわよね」

花子「そういうところしかないし!!!」

花子「大体、花子のことを大切に思ってくれてるなら、花子に直接連絡してくれたっていいはずだし!!!!!」

花子「花子が一人って分かってるなら、お泊まりなんて中断して帰ってきてくれたっていいはずだし!!!!!」

花子「それなら……それなら花子がひま姉に迷惑かけることだってなかったのに!!!!!」

向日葵「………………」


向日葵「花子ちゃんの気持ちは痛いくらいに分かります」

向日葵「けれど今回だけは、そう言わないであげてくださいな」


花子「…………ひま姉が櫻子の肩を持つなんて珍しいし」


向日葵「今日はなんで櫻子が先輩の家に泊まったのか、分かります?」

花子「えぇ……。櫻子が帰ることも忘れて先輩の家で遊んでたとか」

花子「無理言って先輩の家に泊めてくれってお願いしたとか」

花子「花子と二人っきりはいやだから、泊めてくれそうな人を探したとか」


花子「……どうせそんなところだと思うし」

向日葵「そんなわけありませんわ」



向日葵「あの子、メガネが壊れてなにも見えない先輩を家まで送ってあげたんですのよ」

向日葵「そしたら暗くなって帰れなくなっちゃって、仕方なしにお泊りすることになったんですのよ」

花子「……そう、なんだし」


向日葵「本当はわたくしも一緒に送ろうと思ったんですけれど、楓がいるだろうって、無理やり帰されてしまって」

向日葵「そんな経緯がありますので、今回だけは許してやってほしいんですの」

花子「……」


向日葵「それと実は櫻子、花子ちゃんが一人になっちゃうことを知らないんですの」

花子「……は!? なんでだし!?!?」

向日葵「私が伝えませんでした」

花子「……なんでだし」

向日葵「…………多分、それを伝えたら」


向日葵「櫻子は花子ちゃんのため、無理にでも帰ってこようとするんじゃないかって思いまして」

花子「…………」


向日葵「ここ最近は物騒ですし、暗がりのなか中学校の制服を着た女の子が歩いてるのは危険ですわ」

花子「……確かにそうかも」


花子「けど、櫻子が帰ってくるなんて思えないし……」

向日葵「断言はできませんけど、わたくしは帰ってきたと思いますわ」

花子「なんでだし?」


向日葵「わたくしは、妹がいるからって帰されたんですもの」

花子「……」

向日葵「そんな櫻子が花子ちゃんのことをどうでもいいと思ってるなんて、考えにくくって」

花子「…………」


花子「……櫻子は本当に仕方ないやつだし」

向日葵「ふふ、それは同感ですわ」


楓「お姉ちゃん……。楓もう眠いの……」

花子「楓」

向日葵「それじゃ花子ちゃんには楓を寝かしつけてもらおうかしら」

花子「ん、分かったし。花子もそろそろ寝ようと思ってたし」

向日葵「それじゃ、お願いしますね」


向日葵「……櫻子のことも」

花子「……ひま姉に免じて、今回だけだし」

楓「?」



花子「楓、花子と一緒に寝るし」

楓「花子お姉ちゃん……。うん、一緒に寝るの……」

花子「それじゃお部屋に行くし」


楓「うん。でも寝る前に、前教えてもらった、楓が気持ちよくなれるところ触ってほしいの……」

花子「か、楓! それひま姉とかの前で言っちゃダメだし!」ヒソヒソ


向日葵「やっぱりわたくしも一緒に寝ますわ」








~~ 池田家


千歳「電気消すで~」

櫻子「オッケーです!」


パチン


櫻子「へへ、人ん家のベッドっで、なんかワクワクしますね!」モゾモゾ

千歳「そう? うちはどっちかっていうとソワソワするけどなぁ」

櫻子「ソワソワですか?」


千歳「こう、布団の重みがいつもとちゃうや~んとか考え始めると、無性にソワソワしてくるんよ」

櫻子「あーなるほど! そう言われるとソワソワしてきたかも!」

千歳「ホンマ~?」


櫻子「分かんないです! 気のせいかもしれません!」

千歳「ふふ、大室さんは正直やなぁ」

櫻子「素直で爽やかで明るくて美少女なところが櫻子ちゃんの売りですので」

千歳「そこまでは言ってへんけどね」


櫻子「ふふ、あーあ……」

千歳「どしたん?」


櫻子「ん、今までこんなに池田先輩とお話しすることってなかったじゃないですか」

千歳「言われてみればそうかもしれんね」

櫻子「でも今こうやって話してて、すっごく楽しいんです」

千歳「そう? それはありがたいなぁ」

櫻子「だから、なーんでもっと早くお話しておかなかったんだろうって思いまして」

千歳「……ふふ、せやな」


千歳「けどこれから先、いくらでもお話しする機会はあるんやで?」

櫻子「そうですね」


千歳「だからこれからは、もっといっぱいお話ししようなぁ」

櫻子「はい! 楽しみにしてます!」



千歳「ふぁぁ……。そろそろ寝んと明日の授業に響くわぁ」

櫻子「えぇーもっといっぱいお話ししたかったですー」

千歳「ふふ、それはまた今度な。おやすみ大室さん」

櫻子「はい、おやすみなさーい」



――――――――
――――
――


―――― なんでだろう。

池田先輩とおやすみの挨拶を交わしたあとも、わたしの瞳はぱっちりと開いていて、まるで眠れる気がしない。

今日は授業中に寝なかったし、生徒会の仕事もちゃんとやった。消灯時間はいつもよりも遅いくらいだ。


だけれどわたしは眠れない。

身体は確かに睡眠を求めていて、まぶたは今にも落ちてきそうなのに。

身体のまんなかでもやもやが渦巻いていて、わたしの安眠を妨害する。

こんな気持ちになったのは、向日葵がちなつちゃんにマフラーの編み方を教えていたとき以来かもしれない。


しかしわたしは、そのもやもやの原因を知っていた。

今日、お風呂で池田先輩に話したこと。

あれがもやもやになって、わたしを苦しめているんだ。


だけど、なんで今になってこんなことで苦しんでいるんだろう。

それだけがわからなかった。

だって今までだって、思うところはあったっていうのに。


今までは、ここまでもやもやすることなんてなかったのに。


このもやもやの原因は、一体どこにあるんだろうか。

わたしは、今日池田先輩と話したことを、ひとつひとつ思い出していく。


今日は池田先輩のメガネを踏んでしまった。笑って許してくれて、わたしの怪我の心配までしてくれた先輩は、本当にやさしい人だと思った。

次に先輩の手を引いて、家まで送り届けた。仕事でふたりきりになることは何度かあったけれど、普通にふたりきりになったのは初めてだった。

次に、もうひとりの池田先輩と出会った。涼しい顔をしていてたけど、とても優しいんだろうなって分かる。だって、先輩の妹なんだから。

次に一緒にお風呂に入った。キャンプの銭湯では一緒だったけど、ふたりきりで入るとまた違う。わたしはここではじめて、先輩に悩みを打ち明けた。

はじめて、打ち明けた。




あ…………。


そうか。

はじめて、打ち明けた。

はじめて、他の人に打ち明けたんだ。


今までずっとひとりで悩んで、行動してたことを、はじめて口に出してしゃべったんだ。


前に花子とケンカして、わたしがどうやって謝ろうか悩んでたとき、向日葵に言われたっけ。

確か「きちんと言葉にしないと伝わらない」とか、そんな感じのこと。

それはきっと、他人にだけじゃない。

それはきっと、わたし自身の心にも、同じことが言えたんだ。


だからこんなにも悲しい。



こんなにもツラい。






こんなにも、悔しい。


だって、こんな現実はあんまりじゃんか。

お姉ちゃんとして生まれてきたのに、お姉ちゃんとして認められてない。

わたしだって自分なりに、それなりに、精一杯やってきてるつもりだったのに。

頑張れば頑張るほど空回りして、花子との距離が離れていく。


花子にとって、今のわたしってどういう存在なんだろう。

たまたま先に生まれてきて、自分よりちょっと身体が大きくて、いつもワガママ言ってて、なんかムカつく女。

そんなものかもしれない。


でも、そう思われたって仕方がない。

わたしは花子に、そこまでお姉ちゃんらしいことをしてやれなかったんだから。

だから、仕方がない。

ねーちゃんや向日葵に、叱られたって仕方がない。

ふたりだって、好きでわたしを叱ってるわけじゃない。

きちんとしたお姉ちゃんになってほしくって叱っているって分かってる。


けれど。



こんな現実はあまりにもつらいよ。






「大室さん」


櫻子「…………池田、先輩?」

千歳「そんな思いつめる必要はないんよ」

櫻子「や、やだなぁ先輩。なんの話ですか」

千歳「しらばっくれてもあかんで」

櫻子「……なんの、話ですか」


ギュッ


櫻子「ぁ……」

千歳「ごめんな。うち、そこまでは察してやれんかった」

櫻子「あの先輩、話聞いてます? べつに、なにもないですってば……」

千歳「そんなはずないやん」


櫻子「あ、ありますって! 櫻子ちゃんはいつでも元気100倍なんですから! だから思いつめてなんて……」

千歳「涙流しながら言われても、説得力ないで」

櫻子「……ッ!」


千歳「今の大室さんは、自分で泣いとったことも分からんほど、自分を追い詰めて、周りが見えなくなっとる」

櫻子「……」

千歳「……お風呂で話してたこと、思い出しとったんやろ?」

櫻子「…………」


櫻子「……」コク

千歳「そっか」



千歳「大室さんは、うちを本当のお姉ちゃんみたいって言ってくれたけど」

千歳「……本当のお姉ちゃんやったら、うちは姉失格やね」

櫻子「……ッッ!」フルフル

千歳「いや。きっと大室さんのお姉さんだったら、お風呂の時点で微小な変化に気付いてたんやと思うわ」


千歳「それで……どうかしたん? 話したくなかったら、無理に話さんでもええけど」

櫻子「……」


櫻子「……想像以上に、ツラかったみたいです。わたし」

櫻子「花子に、お姉ちゃんとして、見られてないってことが」


櫻子「いや、わかってるんですよ。仕方ないことだって」

櫻子「なにやっても空回り、ちょっとしたことですぐケンカして、こんなんで尊敬されようってのが、そもそも間違ってるんです」


櫻子「……でも、わたしだって、頑張ってるんです」

櫻子「こんな頑張ってるのに、なんでだめなんだろ、どうしてなんだろ」

櫻子「みんなができてるのに、ちゃんとやれてるのに……」

櫻子「どうして、わたしだけ、できないんだろ……」


櫻子「…………そんなどうしようもない想いが、理不尽さが、自分の中から溢れ出てきちゃって」

櫻子「制御できなくなっちゃって」

櫻子「自分が情けなくなっちゃって…………」


櫻子「それで……これですよ」

千歳「…………」


櫻子「それと、ついでに言っちゃいます。……先輩方と、ご飯食べてる時、ちょっと嫉妬しちゃいました」

千歳「嫉妬?」

櫻子「はい。池田先輩、いいお嫁さんになるとか、いろいろ話してましたよね」


櫻子「……姉妹で、あんなふうに冗談言い合えるのって、凄く素敵だと思います」

櫻子「お互いに、信じあってるからこそ、言い合える冗談だと思うんです」


櫻子「わたしが、花子に同じことを言っても、皮肉にしか思われないのに」

櫻子「ねーちゃんに『またあんたは意地悪言って』って、叱られるのに」


櫻子「一方で先輩は、あんな仲良くお話ができている」

櫻子「だから、嫉妬しちゃいました」


櫻子「気軽に冗談を言い合える、その姉妹仲に、嫉妬しちゃったんです」

櫻子「羨ましいんです……すっごく」


櫻子「はは、わたし、なんて性格悪いんだろ。そりゃ、花子にも嫌われますよね」

千歳「…………」


櫻子「……わたしのこと、嫌いになりました?」

千歳「なるわけないやん」

櫻子「先輩に、こんなしょーもない嫉妬してるんですよ」

千歳「嫉妬心なんて、誰にでもあるもんやん」

櫻子「…………でも」


千歳「よく聞いてな、大室さん」




千歳「大室さんは、そんなクヨクヨする必要なんてこれっぽっちもあらへんのよ」


櫻子「……なんでそんなことが言えるんですか」


千歳「だって大室さんはメガネがなくて一人じゃ帰れないうちを家まで送ってくれたやんか」

櫻子「……それはだって、わたしがメガネ割っちゃったからで…………」

千歳「ううん。その心意気が大事なんよ。これができない人、世の中にはたっくさんおるよ」


千歳「それに手だって繋いでくれた。あんなん、普通の人は恥ずかしがってやってくれへんよ」

櫻子「恥ずかしいって……なんでですか……?」


千歳「近くに大室さんのクラスメイトがいるかもしれない」

千歳「そしたら変に囃し立てられるかもしれないし、翌日からかわれるかもしれない」

千歳「けれど大室さんはそんなことも気にせんと、うちと手を繋いでくれた」

千歳「その場の恥よりも、うちのことを考えてくれた」

千歳「……あれホンマに嬉しかったんよ?」


櫻子「わたしそんなことまで考えてませんでしたよ……」

千歳「ふふ、だとしたらもっと好きになってまうわ」

櫻子「ななな、なんでですか!?」


千歳「だって無意識にそれをやっとったんやろ? なら大室さんは根っからの優しい人ってことやん」

千歳「そんな大室さんが性格悪いだなんて、いくら自分のことだからって、滅多なこと言うもんやないで?」

櫻子「………………」

千歳「……うちは今日だけで、こんなにも大室さんの優しさを感じてる」


千歳「だから、毎日一緒にいる花子ちゃんに大室さんの優しさが伝わってないなんて、絶対にありえん!」


千歳「……きっと、ちょっとしたことで心がすれ違っとるだけや。心配することないで」

櫻子「…………」

千歳「うちが、保証したる」


櫻子「……そう言ってもらえるのはありがたいですけど、やっぱりわたし自信ないです……」

千歳「だったら大室さんに、一番大事なことを教えたる」

櫻子「……大事なこと?」


千歳「それはな、花子ちゃんに、どう思ってるのか直接聞くことや」

櫻子「え、えぇっ!?」

千歳「だってそれが一番手っ取り早いやん。もしかしたら大室さんの勘違いなだけかもしれんで?」

櫻子「いやいやいや、そんなん無理ですよぉ……」


千歳「……なんで?」

櫻子「いやだって、お姉ちゃんからそういうこと聞くのって、すごくカッコ悪くないですか!?!?」

千歳「うん。すごくカッコ悪いなぁ」

櫻子「だったら……」

千歳「でも、しないといけないし、しないままなら、もっとカッコ悪い姿を晒し続けるかもしれんよ」


千歳「あんな。うちらかて姉妹ゲンカくらい、いくらでもするんよ」

櫻子「え、そうなんですか? あんなに仲いいのに……」

千歳「もちろん。ずっと一緒にいれば、ケンカは日常茶飯事や」


千歳「けどうちらは、ちゃんとケンカにもルールを定めとってな」

櫻子「ルール……?」

千歳「それがさっき言ったこと。どう思ってるのか、どうしてそう思ったのか、お互い素直に打ち明けること」

櫻子「……」

千歳「そうやって話し合ったらな、意外とあっさり解決したりするもんやで」


千歳「あ、なんだ、そんなことか。それくらいだったら、うちが手を引いたろうかな、とか」

千歳「それは大変やな、それならうちも手伝ったるわ、とか」

千歳「なんでそんな大切なこと言わんかったんや!? うちはええから、早く行っとき! とか」


櫻子「……池田先輩、譲ってばっかりじゃないですか」

千歳「あはは。お姉ちゃんやからね。確かに譲ってばっかりなのは否定できんけど……」


千歳「でも、話してみて、納得しないと譲れんのよ」

千歳「そうせんと、千鶴のことを理解してあげられないし」

千歳「千鶴が間違ったことを主張してきたとき、ちゃんと叱ってやれない」

千歳「だから……大事なんよ。情けなくても、カッコ悪くても、ちゃんと話し合うことって」


千歳「……花子ちゃんも、待ってると思うで?」

櫻子「…………花子が、ですか」

千歳「せや」

櫻子「………………」



櫻子「先輩」

千歳「……なぁに?」


櫻子「わたしにも、できますかね」

千歳「……もちろん!」

櫻子「だったら……」


櫻子「だったらわたし……やってみます」

櫻子「花子と、ちゃんと話し合ってみます」

櫻子「それで花子の気持ち、ちゃんと聞いて、わたしも、わたしの気持ちを、ちゃんと打ち明けてみます」

櫻子「それで……いいんですよね?」

千歳「……ん、完璧や」

櫻子「……」パァァ


櫻子「うぅ……今から緊張してます、わたし……」

千歳「ふふ、ちゃんとなに言うか考えとかんと、カッコ悪いのがさらにカッコ悪くなるで?」

櫻子「ちょっと脅さないでくださいよぉ!」


千歳「じゃあ今日は徹夜でセリフを考えなあかんなぁ」

櫻子「そ、そうですね……って、アレ、もう寝るって話しませんでしたっけ!?」

千歳「そんなん授業中寝たらええやん。今は勉強より、家族の方が大事や!」


櫻子「……池田先輩って思ってたよりも不真面目なんですね」

千歳「嫌いになった?」

櫻子「いいえ……。とても、心強いです!!」



――――――――
――――
――



* 2日後


~~ 池田家


千鶴「……あれ、姉さんもう学校行くの?」

千歳「うん、今日は生徒会の仕事で、校門前で服装チェックせなあかんのや~」

千鶴「そっか。いってらっしゃい」

千歳「いってきま~す」


ガララッ


千歳「……あら?」

櫻子「…………あ、池田先輩! おはようございます!」


千歳「どしたん? こんな朝早くに……」

櫻子「あの……その、花子とのこと、池田先輩に真っ先に報告したくって!」


千歳「それでわざわざうちまで?」

櫻子「はい!」

千歳「ふふ、そっかぁ」


櫻子「それで一緒に学校行きながら話したいんですけどー……」

千歳「大室さん」

櫻子「はい?」


千歳「悪いけど、話さんくても大体分かるわ」

櫻子「え!? な、なんでですか!?」

千歳「だって、顔に書いてあるもん」

櫻子「か、顔ですか!? 朝洗ったときはなにも書いてませんでしたよ!?」

千歳「いや、そうやなくてな……」



千歳「そんな眩しい笑顔見せられたら、嫌でも分かってまうってこと」



櫻子「……えへへ、そう見えますか?」

千歳「そうにしか見えへんよ」


櫻子「ま、まぁー素直で爽やかで明るくて美少女なところが櫻子ちゃんの売りですからね」

千歳「ふふ、せやなぁ」


千歳「でも聞きたいなぁ。花子ちゃんとちゃんと和解できたお話」

櫻子「ホントですか!? じゃあお話しますね!」

千歳「ふふ、楽しみや」


櫻子「あ、そうだ。その前にちょっとお願いがあるんですけど……」

千歳「うん? なに?」

櫻子「あの、よければなんですけど……」



櫻子「この前みたいに、手を繋いで登校したいんです……」


千歳「……」


千歳「もちろん、ええよ」ニコッ

櫻子「……それじゃ失礼しますね」

千歳「おいで」


ギュッ


櫻子「……えへへ///」

千歳「あら、大室さんの手、今日は暖かいなぁ」

櫻子「え、ホントですか?」


千歳「うん。この前はもっとひやっとしてたもん。間違いないで」

櫻子「うーん……あーほら、この前は寒かったからですよきっと!」

千歳「ふふ、そうかもしれんなぁ」

櫻子「絶対そうですって!!!」



千歳「それで、花子ちゃんとはどうやってお話したん?」

櫻子「あ、それはですね、まずわたしの方から花子に話を持ちかけてですねー」

千歳「うんうん」


櫻子「最初はなんか嫌そうな顔してたんですけど、なんとか誘い出してー――――


―――― 右の手のひらで池田先輩の体温を感じる。

わたしは昨日あった出来事を、なるべく詳細に思い出しながら説明していく。

けれどどこか上の空な自分もいて、ときどき池田先輩にきょとんとした顔をされたりして。


そんなときに池田先輩が見せる笑顔は、花子や向日葵とはまたちょっと違うけれど、

それは小さな太陽のように、とても優しくて暖かい。


笑顔の池田先輩を見ていると、なんだか、ふわふわするというか、安心するというか、

うーん……うまくいえないけれど、とにかく、ずっとそばにいたいなって、そんな気持ちになる。


この気持ちの正体がなんなのかはよく分からないけれど。


今はひとつだけ言えることがある。


千歳「そっかぁ。花子ちゃんもきっと嬉しかったやろなぁ」

櫻子「そう思います?」

千歳「もちろんや。大室さんの妹さんやもん。やっぱり悪い子なわけなかったわぁ」

櫻子「へへ……」


櫻子「ねぇ、池田先輩」

千歳「うん? なぁに?」

櫻子「池田先輩はやっぱり……」

千歳「やっぱり……?」





櫻子「池田先輩はやっぱり、わたしのもうひとりのお姉ちゃんです!!」



おしまい

なんでしょうねこれは。

ありがとうございました。

乙!

おつー
良かった

おつ
ちとさくもアリだな

乙。タイトル見た時、足を折ったのかと思った

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