それなら、今日一番素晴らしかったのはやっぱり、忍ちゃんだと思うんです。

知っていますか？忍ちゃん、今日のメインだった新しいフレーズの振り付け、昨日まではできていなかったんです。

といっても、昨日初めて教わったフレーズで、私や柚ちゃんあずきちゃんが何となくつかめている中で、どちらかというとダンスが苦手な忍ちゃんが一歩遅れていただけなんですが。

でも今日のレッスンが始まってみたら驚きました。忍ちゃん、昨日よりずっとずっと滑らかできれいに踊って見せたんです。

なんでも、昨日の夜にたくさんイメージ練習したからその成果だ、と。

私だってもちろん、お家に帰ってから頭の中で復習して今日に臨みましたけど、せいぜいが現状維持で精いっぱいでした。

忍ちゃんはまるで実際に体を動かしたかのようで…。

…苦笑してます？だって本当にすごかったんですよ？

まったく大げさになんか言ってないのに…

あ、いえ、謝っていただくほどでは…

…でも確かに、もしかしたら少しだけ、誇張も入っていたかもしれませんね。

無意識のうちに。

…私、実は忍ちゃんのこと尊敬しているんです。

私たちのことをよく見てくださってるPさんなら知っていると思いますけど、忍ちゃんって努力家さんじゃないですか。

なおかつ、目標を持つのが上手なんです。

…少し言い回しがしっくりきませんね。

私の言いたいこと、伝わりますか？

努力って、その矛先が漠然としているといつまでたっても成果に変わりません。

これは私のバレエからの経験則なんですが、誰だって過去よりも現在よりも、もっと上手にもっと優雅に、そんな風に考えながら練習をしますよね？

でももっと上手なダンスっていうのは今の私自身のダンスとどこが違うのか。

もっと優雅な表現の“優雅”って、具体的にどのような感覚なのか。

そういうことがわかっていないと、どんなレッスンにも意味はないんです。

その点について、忍ちゃんは普通の人とは一線を画しています。

何よりすごいのはその目標が、理想が、ほかの誰よりも確固としていること。

歌ならこのように、ダンスならあのように、トークならまた別の…どんな細かい分野でも自分がすごいと思った物や人のことをよく見て、少しでも取り込もうと行動に移す。

自分の目指すべき地点を明確に見つけることができる。

これってすごく難しいんですよ？

今回の件でもそうでした。

振り付けの体運びこそトレーナーさんの教え通りで、基本に忠実だったんです。

けれどそこかしこに、柚ちゃんのような奔放な楽しさ、あずきちゃんのような大胆な躍動感、そして私のような表現のメリハリ、全部全部少しずつ取り込んで、忍ちゃん自身の魅力に変換して、みんなが見入ってしまうようなダンスに変えて見せたんです。

ダンスレッスンでこうですから、普段彼女の目には、周りの景色はどう見えているんでしょうか？

きっと世界は大きなお手本、小さなお手本でいっぱいで、日々少しでもお手本に近づけるように全力なんだと思います。

理想を見つけてしまえばあとはぶれず迷わず一直線。

青森から単身飛び出してきたって話を初めて聞いた時も、驚くより先に忍ちゃんらしいなぁって感じました。

…忍ちゃんのそうゆうところ、うらやましいと思うこともあります。

私がもし、忍ちゃんのように理想めがけて迷わずにいたらきっと、今でも一人のバレリーナだったと思うんです。

小さいころからずっとずっといっしょだったバレエで、一生懸命頑張っていたはずなんです。

…ふふ、そんな不安そうな顔しないでください。

もちろん今では、アイドル活動も心の底から楽しめていますよ。

…ですけど、人生のifってどうしても考えてしまうじゃないですか。

あのとき、もし貴方に出会わなかったら、なんて。

…そう、バレエの理想を見失って迷っていたところを、私はPさんに助けてもらったんでしたね。

いまのこの道は、あなたが入口を見つけてくれました。

そして道に入って、たどって、何かをつかみかけていた時に、今度は忍ちゃんと一緒になれた。

それからはもう急転直下、本当に本当に普通のことを教わって、世界の全部が新しく見えるようになって、ファンと一緒に楽しむことを覚えて、お友達も増えて………そして立ち止まることの大切さにも気が付きました。

バレリーナだった時も、アイドルになってからずっとずっと全力で進んできました。

今日は昨日より少しでも前へ、明日は今日よりもっともっと前へ、そんな風に考えていたんですけど、忍ちゃんに余裕の取り方を教えてもらって、だんだんだんだんゆっくりしっかり進むようになって、ふと今までを振り返った時。

あぁ、楽しかったんだなぁって…

そう、思えたんです。

迷ってもよかったんです。だからこそ今の私がある。

立ち止まってよかったんです。足元には素晴らしい落し物がたくさんある。

それを、知ることができた。

だから私は、この感謝をすこしでも忍ちゃんにお返ししたい。

…ですけどまだ、本当の意味で忍ちゃんにお返しできてはいないと思うんです。

ありがとうと、なんども言葉にしました。

でもいつも苦笑いで、気にしないでって…

どうすれば喜んでもらえるか、どこでなら頼ってもらえるか、それを探すためにここのところずっと忍ちゃんのことを見ているんです。

Pさん、しってますか？忍ちゃんって意外と食いしん坊さんなんですよ？

お祭りなんかに遊びに行くと、焼きそばから何からいろんな屋台のものをすごくおいしそうにを食べますし、お家から送ってもらったリンゴも、またリンゴかぁ、なんて言いながら結局ペロッて全部食べちゃいますし。

なんて、最初はそんなことぐらいしかわからなかったんですが…。

最近、ふっと気が付いたんです。

忍ちゃん、まっすぐにしか進まないなって。

私に立ち止まることを教えてくれた忍ちゃん本人は、いまはまだ前しか見つめていないなんだなって。

いつだったか、忍ちゃんが本番前にあえて全力で遊ぶようになってPさんが慌てていたことがありましたよね？

川島さんやいろんな大人を見習うんだ！って…

理想に向けて迷わず、あきらめず、一直線に。

忍ちゃんのいいところですけど、それがたたって、時々間違えるんです。

でも振り返らない。

反省はするけど、振り返らない。

きっと忍ちゃんのなかであの失敗は、もう二度と同じミスはしないって反省の中だけにしかありません。

もしかしたら、恥ずかしすぎて忘れたいとおもっているかも。

立ち止まって振り返ってみれば、ちょっとおっちょこちょいな笑い話のひとつなのに。

自分のなかで糧にできる、大切な思い出の一つなのに。

だから今度は私が教えてあげるんです。

昔の私自身と似ているからこそ、私が教えてあげられると思うんです。

そしてそれが、一番のお返しだと思うから。

…ふふ、思わず勢いづいてしまいましたね。…少し体が熱いです。

…今の話、できれば忍ちゃんには秘密でお願いしますね？

まだまだ具体的にどうしようとかは考えているところでもありますし、なにより、もしかしたら意固地になってしまうかもしれないから。

あんまり女の子に使って喜ばれる言葉ではないですけど、忍ちゃん、頑固さんでもありますし、ね？

………ふぅ、それにしてもやっぱり少しだけ、いや、すごく疲れていたみたいです。

すこし興奮した後だからでしょうか…こう、疲れがどっと…目を、目を開けているのがつらくなってきて……

Pさんの車の振動ってやさしくって…どうしても、どうしても……

ああ、運転してもらってるのに、Pさん、すいません。

寝ちゃダメ…寝ちゃ、だ…め…

…プロゅ――さん、しのぅ、ちゃん―――いつも、ありが、と…う……―――――



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……ねぇ
アタシ、ずっと後ろの席にいたよね…？
車に乗る時も、穂乃香ちゃんと一緒にだったよね…？
………やっぱり気づいてなかったの、かなぁ？
…それとも、わかったうえで？…いやいやまさか…


…………はぁ。顔、あっついや…

おわり！

もし本当に本当に心から大好きな友達がいたら、とにかく褒めて褒めて自慢して自慢する
そんな話

やっぱりしのほのはいいものだなって、少しでも思ってもらえたらうれしいです

ついでに過去作の一部も置いておきます
よかったらどうぞ

モバP「工藤忍の独白」
千川ちひろ「我が名はちひろ。邪神が一柱なり」
城ケ崎美嘉「シャボン玉」小日向美穂「パチンと消えた」　etcetc…

ではでは

過去作もっとなかった？

しのほのホントかわいい

幸子と智絵里が天使のやつ好きだったぜ
あれを宣伝しないでどうするんだ
乙

「ぴにゃー（乙です）」