モバP「本当に好きだから」 (40)

もしかしなくても嫌いな人には本当にダメな内容なので、各々でブラウザバックをお願いします。
また予防線を張るみたいでアレですが、やっつけなんでかなり雑です。
そこを理解の上よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444659277

神谷奈緒「んー宿題終わったー、疲れたー」

アタシにとってみればこんなに長い間シャーペンを握ったのは久しぶりだ。

奈緒母「奈緒ー?ご飯よー」

奈緒「はーい、今行く!」

最近アイドル活動が軌道に乗り始め、
とても忙しい。
けど凛や加蓮達といるのは楽しいし何よりPさんと…

奈緒「ああああ、なんでここでPさんが出てくるんだよアタシ!」

奈緒母「あんた馬鹿なこと言ってないで早く座りなさい」

奈緒「う、うん…」

なんでもない、いつもの食卓いつもの光景。でもアタシはそこに紛れ込んでいた一つ違和感に気付けなかった。

奈緒母「そうだ奈緒、貴方のプロデューサーさんなんだけど」

奈緒「な、なんだよ」

奈緒母「確か野球がお好きだったわよね、新聞屋さんから二枚もチケット貰ったんだけど使い道に困ってるのよ」

奈緒「Pさんは確かに野球好きだったような気がするけど…どこのチーム?」

母が答えた名は、確かにアタシのプロデューサーの贔屓球団の名だ。

奈緒「わかった、明日Pさんにチケット渡すよ、野球好きな娘は他にいるし捌けると思うよ」

奈緒母「あら、奈緒は一緒にいかないの?」

奈緒「いい行くわけないだろ!そもそも!野球にはあんまり詳しくないし!」

ああもう、なんでお母さんはいつもそういうことばっか言うんだ!
真っ赤になってるのを自覚しながら残ったご飯をかきこんで、私は部屋に逃げるように飛び込んだ。

「最近のトレンドはスポーツ観戦デート!野球やサッカーをカップルで楽しむ人が急増中!」

奈緒「!ゴホッ…ゴホッ…」

寝る前、ぼーっとテレビを見ていたアタシを狙い撃つようなトピック。
気付けばアタシは見入ってしまっていた。…別に夕食のを意識しちゃってるとか!そういうのじゃないぞ!

そういえばこの前加蓮がPさんを連れてハンバーガー食べに行ったとか、美嘉と二人でカラオケに行ったとも聞いてる。

みんなそれぞれアプローチしてるんだ、何もしてないのはきっと、私だけ。

部屋に戻って私は母から預かった封筒を開いた。選手たちが描かれたチケット、そこに印字された文字を読む。
試合は今週の月曜の祝日。スマホで確認するとアタシはオフ。

奈緒「でもきっとPさんも忙しいよな…」

それにアタシなんかより、友紀さんとかといった方が楽しいだろうし…

奈緒「なんでアタシが誘うみたいになってるんだ!違うからな、私はチケットを渡すだけ!」

もやもやしたものを抱えながら私は眠りの世界に逃げ込んだ。


翌日、アタシはPさんが1人になるのを見計らって話を切り出した。

奈緒「Pさん、来週の月曜空いてる?」

モバP「どうした奈緒?祝日だから空いてはいるぞ」

私はPさんに封筒を渡した。

奈緒「チケット貰ったんだけど、よかったら使ってほしいなって」

P「お、ロッテ対日ハムか!チケット間に合わなくてBSで見ようと思ってたんだよ、本当にいいのか?」

奈緒「あ、ああ。捨てるのもアレだし、使ってくれると助かるって」

まぁ母さんが。

P「そうか嬉しいなぁ、ありがとう奈緒」

頬を緩めて、目尻を下げて笑うPさんはどことなくいつもより楽しそうだ。

奈緒「べ、別にアタシは何もしてないし」

なんだか見てるだけこっぱずかしい。それじゃアタシはレッスンあるから。そう言って立ち去ろうとした時だった。

P「それじゃ、何時集合にする?」

奈緒「へ?」

へ?

P「会場は12時からだから…って奈緒どうした、ぽかんと口開けて」

奈緒「え、いや。アタシはその」

P「奈緒から野球に誘ってくれるなんて嬉しいよ、二枚で俺と奈緒のじゃないのか?」

奈緒「あ、ああ!そうだよ!」

なんでアタシはここで否定しなかったんだろう。Pさんと出かけたかった、友紀さんや誰かと二人きりにさせたくなかった。
きっと両方だ。
自己嫌悪に陥りそうな私を尻目にPさんはどんどん予定を詰めていく。
気付けばあっという間に約束の日になってしまった。

赤い車体がホームに滑り込んでくる。
乗り込むと既にユニホーム姿がチラホラ見えた。
一応これでもアイドルだからアタシは変装してるけど、逆に目立ちそうだ。
工場が並んでた風景とは一転して高層ビルが目に入る。

「次は海浜幕張、海浜幕張」

アナウンスの声で我に帰った私を、電車は大きく揺らした。

ゾロゾロと降りる人ごみに流されてアタシも降車した。改札前には既にユニホーム姿のPさんがいた。

奈緒「ごめん、待ったか?」

P「いや、俺も今来たとこだよ」

コッテコテの少女漫画かよ

奈緒「な、なんだか私が浮いちゃってるな」

い、一応オシャレしてきたつもりだ。アタシの中では。

P「似合ってるけど、周りがユニばっかだからな。まぁ郷に入れば郷に従え、はいこれ。」

足元のバックを弄って、Pさんもユニホームを取り出した。
手渡されたそれに袖を通してみるけど、やっぱり一枚脱がないと着づらい。

P「一昨年くらいに買ったオギノのユニホームだ。今日は奈緒にそれを着てもらおうかな」

4とプリントされたそれを一度脱いでよく見てみる。ワッペンもついてかなりしっかりしてるみたいだ。

P「ロッテのレプユニは値段の割にかなり物がいいんだ、12球団の中でもかなりコスパはいいぞ」

後でまた借りることにして、アタシは一度返した。

P「そろそろ行くか」

奈緒「今日は案内してくれよな、アタシ全然わからないから」

P「任せてくれ、今日は奈緒にロッテファンになって帰ってもらうから」

そう笑って歩き出すPさん。背中についた28という番号を私は追った。



P「駅前を出るとバスロータリーがあるんだが、その一角にあるのがマリンズショップだ」

奈緒「飾ってあるこれ直筆サイン?結構いろんなグッズがあるんだな」

P「駅前の店には主に応援グッズとかキーホルダーみたいなお土産になりそうなものが多いな」

奈緒「飲食店も結構あるんだな、あマリンズファンだ」

P「確かにそこの吉野家はファンの溜まり場みたいな側面はあるな。奈緒、アイドルが入るなよ」


P「そこからすぐにqvcマリンフィールド直通のバスがでてる」

奈緒「さっきから何本もでてる、本数多いんだな」

P「試合前は困ることはないな、運賃は100円。ただ駅からQVCまでそこまで離れてないから歩くのも手だ」

奈緒「今日はどうする?」

P「丁度いい、座れそうだし乗ってみよう」

奈緒「料金は後払いなんだ」

「京成バスをご利用いただきまして誠にありがとうございます…」

P「見えてきたな、あれがQVCマリンフィールドだ。」

奈緒「へぇ…大きいんだなぁ…」

「QVCマリンフィールドへお越しのマリーンズファンの皆さん…」

奈緒「ん?なんかアナウンスが変というか下手というか…」

P「まぁよく聞いてみて」

「バスを降りたら、前は横切らず…交通ルールを守って…今日はチーム一丸となって…」

奈緒「あぁ!もしかしてこれロッテの選手か!?」

P「今日はキヨタ選手だな、こういう地元に密着してる感じも、ひとつの魅力だよ」

供養とかするから

そ、それ以上いけない


P「キヨタはなぁ…なんであんなことしたのか…」

奈緒「なにかあったのか?」

P「…大丈夫、奈緒は俺が守るよ」

奈緒「な、なにいってんだ馬鹿ぁ!」

P「ごめんごめん…って痛い!」

なんでそんなこっぱずかしいことばっか言うんだこの人は!
照れ隠しに外を見ると幕張メッセを通過するところだった。
そういえば、こんどのライブはあそこでやるんだっけ

P「…お、着いたぞ。QVCマリンフィールドだ」

奈緒「球場の青と白が映えるなぁ」

奈緒「うわぁ、すごい数の屋台が…」

P「こういう屋台も球場の醍醐味の一つだな。特にマリンフィールドの屋台はファンクラブカードが使えるお店があったりするんだ」

奈緒「他の球場と違ったりするのか?」

P「あぁ、例えば西武ドームなんかは沢山の店が外部から出店してるよな、その代わり屋台がそこまで多くない」

P「QVCは屋台が多い代わりにそこまで中のお店が多くないんだ」

奈緒「へぇー。ところでPさんマリンフィールドの屋台でおすすめとかってあるのか?」

P「そうだな、俺はそこのソース焼きそばの弁当が好きだったな。ただマリンフィールドの飯は中にあるのが一番うまいぞ」

奈緒「何があるんだ?」

P「それは入ってみてからのお楽しみということで。球場飯は場所によって全然違うからある意味球団の特徴になるかもな」

奈緒「他の球場について教えてよ。友紀さんが好きな東京ドームは?」

P「東京ドームには叙々苑弁当っていう金の亡者…ゲフン王者らしい焼肉弁当があるな」

奈緒「なら友紀さんの中の人が好きなのは?」

P「な、中の人…。横浜スタジアムなら崎陽軒のシュウマイ、コボスタは牛タンBOXだな」

奈緒「きらりが好きな…スワローズだっけ」

P「神宮はなぁ…結構なんでも美味かったりするからなぁ。俺はやっぱりカレーかな、ソーセージ盛りなんかも美味しかったなぁ」

なんだかお腹が空いてくるな…

奈緒「このまえ共演した横山奈緒ちゃん」

P「甲子園は選手コラボ飯が多いからな…全部食べたことはないが、トリタニの弁当は美味かったな」

奈緒「選手プロデュースなんてあるんだ」

P「マリーンズにもあるぞ、呪いつきだけどな…(ボソッ)」

奈緒「?」

P「なんでもないよ。屋台村から一塁側を歩くと…ほら見えてきた」

奈緒「なんだか綺麗な、クラブハウスみたいだな」

P「マリンズショップだよ。多分一番大きくて、品揃えも豊富だ」

奈緒「なぁPさん、ショップの入口は向こうだろ?手前は…?」

P「よく気づいたな。そうだ、手前には選手達の記念館も併設してある」

奈緒「時間もあるし覗いてみようぜ」

パズドラ始めなきゃ

そろそろQVCさむいねんなあ

秋晴れの下で見るパブリックビューインク最高でした


奈緒「マリーンズって強いのか弱いのかよくわからなくなった…」

P「気持ちはわかるぞ、リーグ優勝はしないのに日本シリーズだと何故か物凄く勝ち上がるからな」

P「短期決戦とシーズンは違うってわけだ。秋ロッテとか呼ばれるし」

P「次は隣のショップを覗いてみようか」

奈緒「うわぁ、すげぇグッズの数」

端から端まで、所狭しと並んだ商品にアタシは圧倒される。
たまに行くアニメショップも確かに物凄い商品量だが、ここのモノは不思議な力を持ってるみたいだった。

「駆け抜けろホームまで!」
「さらなる未来目指して突き進め!」
「今こそ!大空高く!」

まず店に入って目の前には力強いメッセージが印刷されたタオル。これだけ並んでると…威圧感があるなぁ
その中で私は面白いものを見つけた

奈緒「Pさんみて、見てよこれ!」

「バモバモデスパ バモデスパ」

奈緒「なんか面白いなこれ」

P「デスパイネ選手のタオルだな、そこのタオルに書いてあるのは各選手の応援歌なんだ」

奈緒「へぇ…」

アタシはタオルを棚に戻して物色に戻った。その横はユニホーム売り場みたいだ。壁一面にユニホームがかけられている。

奈緒「あれ…?」

間違い探しのような違和感を感じた一枚のユニホーム。IMAEと書いてあるのはプロデューサーが着ていたもののはずだ

奈緒「プロデューサーの…こんなだったかなぁ…」

店内を見回すと…いたいた。
変な人形の首を揺らして悦に入ってる変態が。
とりあえず一枚撮っておこう。

P「おわっ、奈緒か…びっくりさせないでくれ」

そういうPさんの背後に回りこんで見る

奈緒「あぁ!番号か!」

P「ん?あぁ、イマエ選手のユニを見たのか」

奈緒「どうして番号が違うんだ?もしかしてPさんの海賊版?」

P「んなもの着て来れないよ…
これは少し前に買ったやつでさ、イマエの背番号が変わっちゃったんだ」

奈緒「背番号って変わるんだな」

P「まぁ、たまに変わらない奴もいるけどな。それに引退した選手のユニホーム、番号が変わる前のユニホームを着てる人は多いぞ」

P「例えば…そうだな54とか結構いるんじゃないか?」

奈緒「人気のある方番号なのか?」

P「あぁ…マリーンズファンなら嫌いな人はいないよ」

P「もうそろそろだけど、ショップの方はもういいか?」

奈緒「うん、アタシは満足したけど」

P「なら外で待っててくれ、レジを済ませてくるから」

奈緒「うん、わかった」

アタシは言われて外に出る。日差しは肌をジリジリと焼くけど、吹き抜ける秋風は冷たく心地いい。
ガチャガチャが並んでるとラインナップを覗いてしまうのはオタクのサガだろうか

P「お待たせ、じゃ行くか」

奈緒「うん」

スレタイみてマリーンズかと思ったらマリーンズだった

CSファイナル進出したんで、いてもたってもいられないわけです。


奈緒「ゲートはあっちか、ところでなんでPさんはマリーンズのファンなんだ?」

P「はいチケット、落とすなよ。何でって…千葉県生まれだからな、深くは考えたことはないなぁ」

P「入ってた少年野球のチームのOBにハヤカワっていう元選手がいたのもあるな。サイン貰ったこともあるぞ」

P「やっぱりプロになる人っていうのはすげぇ上手かったらしい。別格だったみたいだ」

奈緒「へぇ…。やっぱり出身地で決まるのかな、じゃあアタシもマリーンズファン?」

P「ははっ、奈緒みたいな可愛い娘がQVCにいたらマサナリお兄さんのカメラは釘付けだな。でもまぁ出身地だけが全てじゃないぞ」

P「確かに友紀はキャンプ地が近かったからだし、横山さんは大阪出身だったな。だけど、自分が好きだと思ったチームを応援するのが一番だよ」

P「勝った負けたの嬉しさ悔しさ、全部分かち合えてこそ、26人目の選手なんだよ…って奈緒?聞いてる?」

かかかかかわいい?今日のPさんはなんでこんなにさらっと爆弾投げ込むんだ!そういえばスポーツ観戦デートは相手の心が開かれやすいって…デデデデートじゃない!何言ってんだアタシ!

P「さて、入場ゲートに着いたぞ。マリンフィールドの入場口は両外野が裏から、内野席は正面からだから特に迷わないな。チケットは出したか?」

奈緒「うん、大丈夫。Pさんに言われて特に持ち物もないから検査は大丈夫だと思うけど」

P「あぁ、ありがとう。マリンフィールドも他の球場同様にペットボトル飲料以外に関しては規定があるからな。公式ホームページの注意事項は必ず一読するように。トラブルを避けて楽しい観戦にしよう」

奈緒「今日はどの辺りの席になるんだ?」

P「外野指定席の、多分ポール際かな。今日奈緒を案内するには絶好の場所だよ」

奈緒「そうなのか? 」

P「まぁ、とりあえず入ろうか」

係員のお兄さんにチケットを切ってもらって、お姉さんにバックをチェックしてもらう。
彼らもファンなんだろうか、心なしか楽しそうだ。

奈緒「あ、中にも売店がある…」

入ってすぐ、階段横に麺屋さんとグッズの売店があった。

P「あそこでも少し応援グッズが売ってるんだ、少しおつかいを頼まれてくれないか?」

奈緒「おつかい?」

Pさんはアタシに千円を手渡すと風船を買ってきて欲しいといった。
風船ときくとまん丸のアレが思い浮かぶ。
少し訝しみながら私は売店に近付いた。

目的のモノはすぐに見つかった。
白いジェット風船だった、でも風船上げるのってタイガースだったような…

P「確かにラッキーセブンの攻撃で風船上げるのってタイガースのイメージがあるよな。でもマリーンズも飛ばすし、ベイスターズも飛ばすんだぞ」

へぇ、知らなかった。

P「あ、そうだ、トイレは済ませておいてくれ。上にもあるけど凄く混むからな」

奈緒「わかった。じゃあPさんユニホーム貸してよ、そこで着替えちゃう」

奈緒「どうかな?」

カーディガンを脱いで上にユニホームを着た。幸い下のスカートは黒色だったからアタシの主観的には変じゃない…と思う。

P「………」カシャ

奈緒「あ、馬鹿!何撮ってんだよ!」

P「ねぇこれ待ち受けにしていい?」

奈緒「いい訳ないだろぉ!」

P「冗談、冗談。すごく似合ってるよ」

奈緒「そ、そうかよ…」

P「こういうのもいいな…こんど企画してみるか…」

奈緒「また仕事のこと考えてる…」

P「ごめんごめん、じゃあ上に行こうか」

コンクリート打ちっ放しの階段を登ると次第に喧騒が大きくなっていく。最後の階段を登り終えた私の目に広がったのはー

奈緒「すげぇ…」

人がひしめくスタンド、そして緑色の大地とどこまでも広がる空だった。
フィールドの人工芝は青々としていて、雲ひとつない大空も相まってとても広大に見える。
試合前一時間というのに、座席の青色はほとんど見えない。
バックスクリーンの右左で対照的な色に染まっている。
初めて見る光景にアタシはただただ驚くだけだった。

P「奈緒、こっちだ。まずは腹ごしらえをしよう」

そういうとPさんはバックスクリーン裏へと歩みを進めた。
そこには売店があって既に何人かで列ができている。

P「奈緒、そこに座っていてくれ」

白いテーブルを指差され、言われたようにアタシは席に着いた。
ここからだと海が見える。
東京湾ってこんなに綺麗に見えるのか?
空と海の境、水平線は白く霞み、スタジアムに感じた力強さとはまた真逆の雰囲気がある。
アタシはしばらく見入ってしまっていた。

P「お待たせ、これがバックスクリーン裏の名店。サンマリンが誇るモツ煮込みだ!」

Pさんが机に置く発泡スチロールの器から、いい匂いのする湯気が立ち上る。
確かに美味しそうではある、けど…

P「まぁまて、言いたいことはわかる。俺も女子高生相手に昼飯はモツ煮込みだーなんて少し虚しいから。だからそんな目はするな、おしゃれなパスタはこんど連れてってやるから」

とりあえず食べてみろとPさんがひとかけら箸でつまんで差し出してきた。
ホルモンとかモツとか、そういうのにアタシは特に抵抗はないのでなされるままに口に運ばれる。

奈緒「…美味しい」

P「だろ!」

モツに臭みは全くなくて。味は程よく染み込んでいるから噛むたびに滲み出て舌を喜ばす。
生姜も仄かに効いていて、ピリリととした辛さは体を温めるし、その中にも甘みを感じた。これは本当に美味しい。

P「この大根もすげぇ美味いんだよ」

差し出された箸に、アタシもはしたないとは思うけど食いつく。柔らかく煮込まれた大根は言わずもがな。ネギや薬味が程よいアクセントになってる。

…そういえばアタシ、いまPさんに食べさせてもらってた?
あああああ!アタシ何やってんだ!空気に流された?!気分は開放的?この前のテレビみたいになってるじゃねえか!思う壺か!体がアツいの生姜のせいだけじゃないぞこれ!

P「唐翌揚げ丼とか焼きそばとかもあるけど、QVCはやっぱりモツ煮ライスは外せないな。これがご飯に合うんだわ」

P「マリンフィールド内にはバックスクリーン裏のサンマリン以外にもモツ煮込みを出すお店があるから、是非他の店も食べてみてほしい。」

P「まぁ俺的にはここが一番美味しいと思ってるんだけど」

P「ん?奈緒どうした箸が止まってるぞ?なんか顔も赤いし、大丈夫か?」

奈緒「だだだだ大丈夫だから!生姜でポッカポカになってるだけだから!」

P「お、おう。そうか…
俺、小四の時に初めて食べたんだけどそれからずっとこれ食べてるなぁ」

奈緒「そんなに食べてるのかよ…飽きないのか?」

P「うーん、なんだろもう習慣みたいな感じなのかな?」

参考画像
サンマリン 曽根会長のモツ煮込み
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira091340.jpg
・450

P「うーん、食べたな!」

奈緒「うん、お腹にいい感じに溜まったよ」

P「そろそろ20分前だし、座席についておこうか」

奈緒「何かあるのか?」

P「15分前からスタメン発表をやるんだ、外野席にいるからにはちゃんと応援しなくちゃな」

P「その前に飲み物買っておこうか、マリーンズの応援は喉乾くぞ。奈緒は何飲む?」

奈緒「アタシはコーラ…っていいよPさんそれくらい出すよ!」

P「ここは俺に出させてくれよ、奈緒にはマリーンズファンになってもらわなきゃいけないし」

P「デートでくらい奢らせてくれよ、カッコつけないとな」

奈緒「Pさん…」

P「…あれ、いつもなら馬鹿ぁって拳が飛んでくるはずなのに…」

奈緒「…ありがとな」

P「…あぁ!」

奈緒「いつかPさんより稼げるようになって返すから」

P「おいこら神谷」

Pさんはコーラを二つ、それに唐翌揚げとポテト盛りを買ってきた。
Pさん曰く6回を回ると腹が減るんだそうだ。

奈緒「そのトレイは?」

P「あぁ、サンマリンのおやっさんが仕入れの時に出るダンボールを千切ってトレイにしてくれるんだ」

P「確かに東京ドームとかだとドリンクホルダーつけてくれたりするけど、個人的にはこれがすごい好きなんだ」

奈緒「確かに…なんか嬉しいな」

P「まぁあっちのファンからしてみればただの強がりにしか見えないだろうけどな」

P「こういう人情味が、俺は好きなんだよ」

奈緒「なんかわかる気がする…見えないところの、小さな思いやり…か」

なんだかアイドルを支える裏方みたいだ。

P「席はここみたいだな、奈緒奥に座りな」

改めて見るとやっぱり広い。外野席も隅々まで見渡せる。
15分前には殆どの席が埋まっていた。

P「さぁそろそろだな立って立って」

あたりを見回すとゾロゾロと立ち上がり始めていた。拡声器をもって叫んでる人もいる。
Pさんがいうには応援団の人のようだ。

P「応援歌は覚えてきたか?」

奈緒「…15曲近くな、いきなり動画送ってきて明後日までに覚えろって…普段ボーカルレッスンしててよかったよ…」

P「よしよし、頑張ったな。スタメン発表では歌わないけど応援歌が歌えるだけで全然楽しさも違うんだ」

P「さぁスタメン発表が始まるぞ」

ロッテ 応援 MVP うっ、頭が……

MVPども本当に嫌い、全員死刑にしたい
あの頃は二階内野席で見ることが多かったからあのクソみたいな横断幕を何回見せられたことか
ああいうのはアイマスにも野球にも絶対に出てくるから、それを周りの正常なファンが正さなきゃいけないってことよ

長文ごめんなさい、TSUYOSHI大好きだったんです


…ファイターズ
一番センター ヨウダイカン…

奈緒「なんか地味だな」

P「ビジターチームの紹介だからな、でも見てみろ相手の外野は物凄く気合入れてるぞ」

奈緒「本当だ、鳴り物も歌も使って盛り上げてる…」

P「野球は一チームじゃできないからな、相手を尊重することも大事だ」

P「そろそろウチのチームだ」

Pさんがそう言うとスタジアムに音楽が鳴り響いた。バックスクリーンのオーロラビジョンにも映像が流れ始める。

「一番センター オギノタカシ!」

ドンドンドン オッギーノ! オッギーノ! オッギーノ!

P「オーギーノ!オーギーノ!」
奈緒「お、オーギーノ!オーギーノ!」

奈緒「なぁPさんもしかして!」

P「あぁ、奈緒の着てるユニホームはオギノのレプリカだ。今日も球界屈指の足で撹乱してほしいな」

「二番 レフト カクナカ…」

それからもスタメン発表は続いて、一回の表、ファイターズの攻撃に。

奈緒「Pさん、今日の先発?のワクイってどういう人?」

P「スタミナが物凄くて100球投げてもそこまで力が落ちないのが武器だな。変化球にキレがあれば完投もゆうにできるピッチャーだよ。」

奈緒「100球超えるのってすごいのか?」

P「あんまり投げないな。普通なら疲れがでて打たれ始めるんだよ」

P「それにワクイはこの前130球投げたばっかりなんだ。今日に影響しなきゃいいんだけど…」

P「それにしてもよく先発とか知ってるな」

奈緒「きらりや友紀さんの話聞いてればまぁ、少しはね」

ファイターズ一回の攻撃
一番ヨウダイカンを凡打で打ち取るも、謎のアクシデントがワクイを襲った。

奈緒「今転んだように見えたけど」

P「手からついたな、怪我してないといいが…。説明が欲しいな」

その後ワクイは復帰し、投球練習が認められ続投へ。
しかし続く二番ナカシマに11球を粘られた後、四球を選択される。

P「うまいなぁ…」

奈緒「なんかすごい時間かかったけど、ファール?ばっかりだったな」

P「カットっていう技術だよ。相手に球数を投げさせられるし、焦らせればフォアボールも貰える。」

P「まぁ、ワクイの体力なら大丈夫だ」

すると三番タナカのヒットで一、三塁とすると、主砲ナカタのタイムリーで先制を許す。

奈緒「あぁ…点取られちゃったぞ」

P「うぐぐ…大丈夫まだ一点だ」

続くレアードは一塁に歩かせ、二死満塁の状態でヤノを迎えることに。

奈緒「あぁ!Pさんしっかり!しっかり!」

P「あばばばばば」

なんとか変化球で凡打に仕留める。

奈緒「なんだかめちゃくちゃドキドキしたよ」

P「なんとか一点で凌いだか…
よし、これから反撃だな!」

なにこの人怖い……

>>24 ごめんなさい

実際の応援とは曲の順番とか違うけど許して

一回裏マリーンズの攻撃

奈緒「そういえばPさんはさっき何買ったんだ?」

P「これだよ」

袋から二つのタオルを取り出した。一枚には下克上の文字、もう一枚はアタシが手に取ったデスパイネ選手のだ。

P「最近不調気味のデスパを、どうか奈緒の応援で温めてくれ、頼むぞ!」

奈緒「お、おう。…ふふっありがと」

Pさんに習ってタオルを首に下げる。新品のタオルの匂いはなんだかすごく落ち着く。

「大事な大事な一戦!俺たちの力で絶対に!勝ちましょう!」

「オオー!」

「千葉ロッテ!ファイト!」

応援団長の音頭に合わせて、ライトスタンドが声を張り上げる。Pさんも、そしてアタシはなんとかだけどそれに合わせてコールしていく。
ほんの数秒で一体感が生まれていった。

応援団長が手を挙げる。それに合わせてタオルを掲げ始めた。
伴奏が始まる。アタシとPさんも同じくタオルを掲げて歌う。

「オー オーオー オーオーオー」
「オーオー オオオオーオーオーオー」
「ナインのために 我らは歌う」
「今日の勝利はマリーンズのもの」

ダンダンダダダン「オオー ロッテ!」

アタシはラッパと強く叩かれる太鼓、スネアの音色に全身を震わせていた。物凄い高翌揚感の中にあった。

「一番 センター オギノタカシ」

「ラララ…駆け抜けろホームまで オギノタカシ ラララ…駆け抜けろタカシ!」

一番オギノがヒットで出塁、カクナカのバントで二塁とするもキヨタ、クルーズと打ち取られていく。

奈緒「ヨシカワっていうのもすごいピッチャーだな」

P「日ハムの左腕エースだな、制球がいいと本当に手がつけられない投手だ…」

一点を追う展開。今日は長い戦いになりそうだった。




次に試合が動いたのは二回裏マリーンズの攻撃

「五番 ファースト イグチタダヒト」

「うーてイグチ!頼むぞイグチ!」

P「ここで一発…頼む!」

奈緒「一点が難しいな…」

ファールを織り交ぜながらカウントはツーツー。
その時だった、物凄い快音がフィールドに響く。一瞬にしてスタンドが沸き立った。

左翼手が追うのをやめる。打球はレフトスタンドで吸い込まれた。

P奈緒「やったああああああ」

なんとか試合は振り出しに戻って、1-1に。まだまだゲームはわからなくなった。

期待

ファイナルまでに間に合わせようと思ったのに…
うまくいかないものです…

明日から四連勝だ!

その後両チームとも得点圏にランナー進めるも、決定打にかける展開が続く。
ライトスタンドにしても、折角の三塁ランナーを返せずに落胆。息つく間もなく絶体絶命の場面を迎えるワクイ。のらりくらりと抑えていく姿にPさんの寿命が3.34年は縮んだそうだ。

試合は膠着したまま、七回裏ラッキーセブンの攻撃を迎えた。
表ではワクイが作ったピンチを、なんとかマツナガが好リリーフ。
なんとかしてこの流れをつかみたいマリーンズ。

最初のバッターはデスパイネ。
ここまでヒットはない。

P「代打をだすならサブローかフクウラか…」

奈緒「かえるの?」

P「イトウ監督次第だけどな…流石に冷えすぎてるからなぁ」

交代させる、と言われてアタシは少し悲しくなった。良く知ってる選手というわけではない。ショップでその人のグッズが目にとまったとか、Pさんに少し教えてもらった程度の知識しかない。

それでも奇妙な縁をアタシは感じていたんだ。

奈緒「アタシは…アタシはデスパイネ選手を信じてみたい」

P「え?」

奈緒「あんまりよく知らなくて…別に大好きってわけでもないけど…」

奈緒「アタシは応援していたいんだ」

望まれてるパフォーマンスに届かないこと。期待されてることができなかったこと。
アイドルとして経験してきた色んなことはきっと、なかなか打てない時の悔しさと似ているはずだ。
アタシがくじけそうな時には仲間が、ファンが、そしてPさんが支えてくれる。
野球選手だって、ファンがいる。
アタシ達の応援で、支えてあげたい。

打ってくれ…

アタシはタオルを握り、胸元に掲げ、祈った。


P「そうだよな…」

P「一番大事なことを忘れてたよ…」

そういうとPさんは私の拳を手で包んだ。そっと下ろされた左手の主は私に力強く言う。

P「奈緒。マリーンズファンはな、祈らないんだ」

P「選手たちを信じているから、いや勝ってくれるって知っているから」

P「神頼みなんてする必要がないんだ」

奈緒「…うん」

P「だからその代わり、声を出す。力の限り応援する」

フィールドではファイターズの選手たちが守備につこうとしていた。

P「千葉マリンに集まったみんなで、大きな声で、応援しなくちゃな」

奈緒「…ああ!」

応援団のラッパが伴奏を吹き始める。響く太鼓のリズムは体を揺らす。
勇壮な音色は選手の為に。
肩にかけたタオルを頭上に掲げ、アタシは力の限り叫んだんだ。

デスパイネがバッターボックスに入る。ピッチャーは回またぎのアリハラ。昨日は好リリーフを見せたらしい。

審判が手を挙げ、始まりを告げる。
既に数コーラスを歌っていた。
アリハラが振りかぶり初球を投げる。それは一瞬の出来事だった。

快音が響く。

白球は高く高く上がる。そしてそのまま歓声止まぬスタンドへと突き刺さった。

アタシは…なんだかよくわからない大声をあげてPさんとハイタッチした。
体中の毛が逆立っているみたいだ、興奮が収まらない。
決してアタシだけが変なわけじゃなく、スタンドの誰もが肩を組み、手を叩き、拳を重ね、思い思いにこの瞬間に酔いしれていた。

この前のフェスで歌ったときみたいだ。
そこはアタシ達と、ファンのみんなしか居ない世界。
それは目の前に広がる光景とどこか似ている気がした。

勝負を前に祈らないなんてすげーな、おい

飛び跳ねなきゃいけないからね、祈ってる時間がないのね



その後の試合はオオタニがピンチを作るも、ウチが好リリーフ、セーブを8、9回でみせて後続をシャットアウト。
その一発が決勝点となって、マリーンズが勝った。

P奈緒「よっしゃあ!」

アタシは勢い余ってPさんに抱きついた。Pさんは優しく抱きとめてくれる。
いつもなら恥ずかしいとか思ってできないようなことも、いまならなんでもできそうだ。
メイド服だってきてやらぁ

それくらいアタシの心は熱く、熱く、燃え上がっていた。
アタシだけじゃない、スタンドが、球場が雄叫びをあげて揺れているように見える。

知らない間にアタシは初めて来たマリンフィールドに魅せられ、惹きつけられていたようだ。

Pさんもさっき買った下克上タオルを振り回して狂喜乱舞してる。
そういえばきらりも変な傘もって飛び跳ねたりしてた。ぶっちゃけ事務所の揺れが怖くて止めて欲しかったけど、今なら理解できる。

応援してるチームが勝つの、すげぇ嬉しい!

長いこと千葉にいるのに、今まで知らなかったことを後悔した。
父親がテレビで見ている野球は、アタシにとって邪魔でしかなかったけど、今なら私の目にも違って映るだろうか。

マリーンズファンが誰に言われるでもなく、自然に肩を組み始める。
老若男女、初対面とか関係なく。
アタシもPさんと、そして隣は小さな男の子と。

恥ずかしながら、そのときになって始めてアタシは隣人の存在をキチンと認識した。
…正直Pさんとのデートと、初めての球場でいっぱいいっぱいだったんだ

小さな体には少し大きなユニホーム。
帽子を目深に被ったその顔を、中腰になったアタシは覗き込む。
手を差し出し、微笑むとおずおずと、でもしっかりと握り返してくれた。

マリーンズが本当に好きだから
みんなでこの喜びを 分かち合おう

左右に揺れるライトスタンドは、大海原のように。
右に立つPさんを仰ぎ見る。
ふと目があって、互いに笑顔が溢れた。
左の少年とも目があった、屈託のない笑顔が眩しい。
アタシ達だけじゃない、みんなが笑ってる。

奈緒「みんな、いい顔してるな」

P「そうだな…勝ったから味わえる、いわゆる勝利の美酒は、つまり負けることもあるからこそ美味いんだと」

P「負けが続いて苦しい時も、チームを応援し続けるファンが、戦い続ける選手がいる」

P「喜びだけじゃない。苦しみも、悲しみも、全部みんなで分かち合うんだ」

奈緒「みんなで…分かち合う…」

P「だからこそ、俺たちはただのファンじゃない。みんながみんな、26人目の選手なんだ」


帰りはマリンフィールドから海浜幕張まで歩いて帰ることにした。
今はまだ、この余韻に浸っていたい。

奈緒「んー、今日は楽しかったよPさん!」

P「あぁ、俺もだ。奈緒の初めての観戦が負け試合だったらどうしようかと、途中物凄く胃が痛かったけどな」

奈緒「あはは…アタシも勝ちが見れて本当によかった!」

奈緒「アタシ、少しマリーンズに興味出てきたよ!」

P「お、嬉しいこと言ってくれるなぁ」

奈緒「また…来たいな」

あれ、これなんかアタシがデート誘ってるみたいじゃ…うわああどうしよ!?
そこまで言って、アタシはまた失言に気付いて慌てて取り繕う。

奈緒「今度は事務所のみんなで!みんなで行こう!」

もう球場の魔法は解けてしまった、からいつものアタシだ。
デートの約束なんてアタシにはまだ…

そんなことを悶々と考えていると、Pさんはまた爆弾を落としていった。

P「それもいいな、けど…俺はまた、奈緒と二人で来たいな」

奈緒「あわわわ、だからなんでそういうこと言うんだ馬鹿ぁ!」

さらっと真顔でそんなこと言うなぁぁ!
きっと本人は何の気なしに言ってるんだろうけど!
だからこそ余計にタチが悪いというものだ。

暫く歩くと、なんだか賑やかなオジさんを反対側の歩道に見た。
なんだか道行くマリーンズファンとハイタッチしてるみたいだ。

奈緒「Pさん、あのおじさんみんなとハイタッチしてる」

P「あぁ、ボビーおじさんな。いやこれは勝手にみんなが呼んでるだけだからホントのとこは知らないけど…」

P「色んなところに出没してるんだよなぁ、前は札幌ドームにもいたとか聞いたな」

奈緒「へぇ…」

あれも分かち合い方の一つなんだろう。普段なら変な人だけど、今は誰もが笑顔でハイタッチに応じてる。
まだまだみんな、勝利に酔ってるんだ。

ビジターのファンもいるのが気になるけど…

アタシ達はすこし横道していくことに決めた。
といっても幕張メッセに寄るだけなんだけど。

奈緒「やっぱりデカイな…」

P「いやいや、今のお前らならハコとしては小さいよ」

奈緒「そう言ってくれるのは、嬉しいんだけどさ…」

奈緒「やっぱりまだ、人前に出て歌って踊るのは…難しいよ」

P「いいや、それでいいよ。緊張しなくなったら、それはそれで問題だからな」

他愛もないことを話しながら、展示ホールを歩いていく。
今日も何かのイベントをやっていたんだろうか、まばらに人が歩いている。
しばらく歩くとイベントホールが見えてきた。

今年の四月に、ミリオンスターズがライブを成功させた場所。
そしてかつて、あの765プロも。

アタシは共演したよしみ、横山の方の奈緒が出演してるのもあって、観覧させてもらっていた。

物凄い迫力だった。パフォーマンスは勿論、トロッコはファンの間を駆け回り、アクシデントにも動じない。

ありていに言って、感動した。

アタシは、アタシ達はあれを超えなきゃならない。
自然と体が強張っていくのがわかった。

P「大丈夫、奈緒達ならできるよ」

そんな様子をさとったのか、Pさんが私に声をかけた。

P「伝説になれなんて言ってないんだ。いつも通り楽しんでいけばいい」

P「事務所も、アイドルもFランクから始まって、今はこんな広いハコが埋められる」

P「そしてまだまだ成長していけるんだ。言うなれば…そう、下克上みたいなもんさ」

奈緒「下克上…」

P「この業界にはまだまだ上はいる。追いつけ追い越せ、トップアイドルになるんだろ?」

奈緒「ああ!」

その後もPさんと話し続けて、アタシの心持ちも大分軽くなってきた。
アタシもプロとして、できることを精一杯やろう。

そうこうしている内に海浜幕張駅についた。

QVC帰りのピークは過ぎ、ホームの人影はまばらだった。
電車は数分でホームに到着し、アタシとPさんは二人で扉の前に立った。

奈緒「そういや凛と加蓮はなにしてんのかなぁ」

P「気になるのか?」

奈緒「いや、まあね。実はPさんと約束した後に、今日一緒に遊ばないかーっていう誘いが来てたんだ」

P「それは凛たちに悪いことしたかなぁ」

奈緒「ちゃんと言って断ってあるし、大丈夫だろ」

電車は南船橋に到着する。
早い時間の夕方とはいえ、ららぽーと帰りの客は結構多そうだ。

P「乗ってきそうだなぁ、奈緒こっち寄りな」

奈緒「う、うん!」

肩を引き寄せらせ、まるで恋人みたいな格好に。もう突っ込むのやめよう、頭がパンクしそうだ。

そんな時だった、乗り込んできたのは何故かこの二人。

加蓮「あ、奈緒にプロデューサー!なーにしてんの?」

奈緒「か、加蓮?!」

凛「私もいるよ、奈緒」

P「凛まで…トライアド集結だな」

加蓮「それにしても奈緒がPさんとお揃いのユニホームを着ておでかけなんて、隅に置けないなぁ」

凛「ねぇ奈緒、私奈緒がどんな家庭の用事だったのか物凄く気になってきたかな」

P「おい、奈緒。お前さっきちゃんと言ったって言ってなかったか」

奈緒「えーと…、少し伝達に齟齬が」

おかしいな冷や汗が止まらない

加蓮「二人寂しくお買物してる間、Pさんとお楽しみだったみたいだねー」

奈緒「…正直すまんかった」

凛「それにしても奈緒も野球好きだったんだね」

加蓮「意外だね〜、アタシは親がヤクルトファンだけど」

P「そうなのか、初耳だなぁ」

加蓮「ふふ、誰にも言ってないからね。アタシ病弱だけど、腸内環境だけはすごくいいんだ」

奈緒「その話すごく反応に困るんだけど」

凛「プロデューサー、今度は私も連れてってよ」

加蓮「あ、凛だけずるい!アタシも!っていうか一緒に神宮とか行っちゃう?」

奈緒「だ、駄目だ!Pさんはマリーンズファンなんだから!」

P「神宮か、事務所からも近いしな。いいかもしれないなぁ」

加蓮「ホントに!?」

凛「そしたらきらりも呼ばなきゃね」

P「確かにそうだな」

加蓮「うぅー…凛、意地悪だなぁ」

凛「二人だけにいい思いはさせないよ」

P「よし、ならいっそ事務所のみんなで行くか」

三人「はぁ…」

P「わからないわ…」

2人が増えて賑やかになるアタシ達。
明日事務所にいけばもっと多くの仲間たちがいる。
時にライバルとして、立ち塞がるけど。みんなと切磋琢磨していければいいな。

目先の目標としては、次のライブ。

みんなで作り上げたライブが、もし最高なものになれば。
そこにはどんな風景があるんだろうか。

明日からまた頑張ろう。
まだ見ぬ世界に向けて、そこで待ってるであろう喜びや楽しさに向けて。

P「奈緒、もう西船橋ついたぞ」

加蓮「奈緒ー?おいてっちゃうよ」

凛 「奈緒、行こうか」

大好きなみんなと分かち合うために。

以上です。
csファイナル進出記念に書き出したら、気づいたらファイナル二戦目…
まだまだこれから、頑張って欲しいです。

依頼を出してきます、お目汚し失礼しました

清田に何があったんだ

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