――事務所(夕方)――
北条加蓮「ただいま~」
高森藍子「あっ、お帰りなさい加蓮ちゃん。お仕事、お疲れ様です♪」
加蓮「ん、藍子」
藍子「今日は撮影のお仕事でしたっけ? ……ふふっ、加蓮ちゃん、なんだかすごく疲れたって顔してます」
加蓮「たいしたことないよ。あ、モバP(以下「P」)さんなら次の現場に行っちゃったよ。終わったらそのまま家に帰るんだって」
藍子「じゃあ、今日はここには帰ってこないんですね」
加蓮「私も、荷物を取りに来ただけだし、すぐ帰るし……………………」フー
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第10話。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけるとさらに楽しんでいただける筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「たまにはジャンクフードでも」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「今度は、室内の席で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今度は、室内の席」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「誕生日の前の日に」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「あなたの声が聞こえる席で」
お久しぶりです。
藍子「加蓮ちゃん。よかったら、少し休憩していってください」ポンポン
加蓮「…………いいよ、私は――」
藍子「ほらほら、遠慮せずに♪」(立ち上がって加蓮を引っ張りこむ)
加蓮「え、あ、ちょっと藍子!?」
藍子「えいっ」(加蓮をゆっくりソファの上に座らせる)
加蓮「ちょ――」
藍子「まあまあ。お疲れの時は、ゆっくりお休みするのが1番ですよっ」(加蓮の頭を膝の上に乗せる)
加蓮「……もー。じゃ、ちょっとだけね……」
藍子「ううんっ。ちょっとと言わず、ずっとお休みしちゃいましょう!」
加蓮「えー」
藍子「ね?」
加蓮「……はー。ま、あとは帰るだけだったし」
加蓮「でも藍子。気付いたら20時とか21時とかはやめてよ? もう。お母さんがうるさいんだから」
藍子「…………」メソラシ
加蓮「ちょっと」グイ
藍子「ひゃ」
加蓮「…………」
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………くすぐったい」
藍子「でも、加蓮ちゃん、すっごく幸せそうな顔です……♪」ナデナデ
加蓮「…………うっさい」
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……汗とかうっとうしくない?」
藍子「そんなことないですよ?」
加蓮「そっか……けっこー疲れてるのは自覚してるから大丈夫かなーって、ちょっと思っちゃった」
藍子「ふふ」
加蓮「くぁ…………」アクビ
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「……んー…………」
藍子「………………あっ……加蓮ちゃんって、お話している方が好きなんでしたっけ……?」
加蓮「ん……いいよ。慣れる」
藍子「いえ、無理に私に合わせなくても……」
加蓮「いーじゃん」
藍子「……はーい」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………ごめんやっぱ無理」
藍子「え」
加蓮「無理っていうか勿体無い感じがすごいかも。せっかく藍子といるのにって」
加蓮「こう、カラオケを3時間で取ったのに何も歌わないみたいな?」
藍子「それは、確かにもったいないかも……。でも、加蓮ちゃんがいてほしいって言ったら、3時間でも何時間でもここにいますよ?」
加蓮「はーいそういうこと軽々しく言わないー」ホッペムニムニ
藍子「かるがるしくないでふっ」
加蓮「藍子、何か面白い話してー」
藍子「ま、まだ10秒も経ってないのに……。それに面白い話なんて、すぐには思いつきませんっ」
加蓮「きっと藍子ならお腹が痛くなるくらい大笑いする話をしてくれるに違いない」
藍子「無茶ぶりっ。その、普通のお話なら……でも、黒猫さんを見つけたお話とか、収録現場のお話とか、ファンレターをいただいたお話くらいしか……その…………」
加蓮「ん、じゅうぶん面白そうな話じゃん。聞かせてよ」
藍子「もう。加蓮ちゃんの方こそ何かないんですか? ほら、撮影での出来事というか、こんなことがありましたってお話」
加蓮「うーん……」
加蓮「……今日の撮影さ、いつもの雑誌のとこだったんだけど、見慣れないスタッフさんがたくさんいたんだ」
藍子「そうなんですか?」ナデナデ
加蓮「うん。でさー、見慣れない人達まで相変わらず私を気遣ってばっかりで。Pさんが何か言ってんだろうねー……」
加蓮「10分とか20分しか経ってないのに、休憩はいいですか? とか、続けて大丈夫ですか? ばっかり」
藍子「みんなもPさんも、加蓮ちゃんが心配なんですよ」
加蓮「どーなんだか……でもさ、今日……照明さんだったかな? に新人さんが1人いて」
藍子「はい」
加蓮「ん? 新人さんじゃなくて転属してきた人だったっけ? 私よりふた回りくらい年上の人で……まぁいいや」
加蓮「で、その人が私のファンだって言ってくれた。だから、この現場に来ることができて嬉しいって。なんか半泣きだったな……」
藍子「ふふ、よかったですね」ナデナデ
加蓮「で、すぐそばで聞いてたPさんが、よかったな、なんて言うもんだから」
藍子「……あ、加蓮ちゃんのことだから」
加蓮「うん。……つい言っちゃった。当然のことだよ、って」
藍子「もー、やっぱり」
加蓮「あれはさすがに慌てちゃったな……Pさんびっくりしちゃって、でも、すぐに笑ってくれて。その後もまた、さすが加蓮だな、とか言っちゃって……」
加蓮「カメラマンさんと冗談っぽく言ってんだよね。うちの大アイドル様の撮影だ、気合を入れてくれよ、って」
加蓮「カメラマンさんも、承知しました! って。なんだか軍隊っぽかったかも?」
藍子「ふふっ…………」
加蓮「……アイドルやってて……ファンができるのって、嬉しいな。どんな場所でも、誰が相手でも……」
藍子「アイドルやっててよかった、って思える瞬間ですよね」
加蓮「うんうん」
加蓮「でもさ……そういう人達がいつまでファンでいてくれるんだろ、って思っちゃったら」
加蓮「それに、ファンが見てくれる撮影だって思っちゃったら、少し肩に力が入っちゃった」
加蓮「……変に疲れちゃった。今日の撮影」
藍子「お疲れ様です、加蓮ちゃん。加蓮ちゃんは、とっても真面目なんですね」
加蓮「そんな立派な物じゃないよ。神経質で面倒くさいだけ――」
藍子「えい」チョップ
加蓮「あてっ」
藍子「めっ」チョップ
加蓮「あうっ」
加蓮「……もー、なにすんの。1回だけじゃなくて2回も」
藍子「自分を悪く言ったから、おしおきですっ」
加蓮「……そういえばそうだっけ。もー、ちょっとくらい許してよ。癖みたいなもんなんだから」
藍子「じゃあ、チョップしちゃったところ、撫でてあげますね」ナデナデ
加蓮「ひゃっ。……もー」
藍子「ふふ」
加蓮「……もー」
藍子「牛さんみたいになっちゃってますよ、加蓮ちゃん」
加蓮「少なくとも藍子よりはよっぽど胸がある」
藍子「…………」ホッペグニグニ
加蓮「ごめんなふぁいごめんなふぁい」
藍子「ね、加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「今日の撮影、どういう風に始まったんですか?」
加蓮「どういう風に? いや、そんなこと言われても……。Pさんと一緒に現場に行って、衣装に着替えて、普通に始まったけど……?」
加蓮「そんな変な撮影じゃなかったし、かなりの枚数は撮ったけど割とすんなり終わったし……」
藍子「ううん……そうではなくて……。そうだっ。始まる前に、なんて言いましたか? ええと、カメラマンさんや、スタッフさんに」
加蓮「……よろしくお願いします?」
藍子「よかった。きっと、それが大切なことなんです」
加蓮「いや、いやいや、ちょっと待ってよ藍子――」
藍子「あっ。起き上がらないで……」スッ
加蓮「…………」フウ
加蓮「いや、あのね? 私だって子供じゃないっていうか、ふて腐れてたのは昔の話っていうか……」
加蓮「って昔の話なんてしないでよ! 恥ずかしいじゃん!」
藍子「えええ!? 言い出したの加蓮ちゃんですよ!?」
加蓮「昔の話なんてさせないでよ!」
藍子「それも言い出したの加蓮ちゃんですよね!?」
加蓮「……あ、そっか」
藍子「もうっ」
加蓮「えっと……とにかく、お願いしますとかありがとうございましたくらい言えるってば。子供じゃないんだから……!」
藍子「分かってます。でも、ちゃんと言うことって大切だなって」
藍子「前にドラマの撮影でお世話になったメイクさんのお話なんですけれど……私、いつものように、相手に言われるよりも先に笑顔で挨拶したんです」
藍子「ほら、Pさんがよく、スタッフさんには必ず先に挨拶しなさいって言うじゃないですか」
加蓮「うん、言われる言われる」
藍子「そうしたら、なぜかすっごく喜ばれちゃって」
加蓮「え? 挨拶しただけで?」
藍子「はいっ。こう、よろしくお願いしますっ、って言ったら、みるみるうちに笑顔になって……私の方がびっくりしちゃいましたっ」
加蓮「ふむふむ」
藍子「腕まくりするほどに気合を入れられちゃいました」アハハ
加蓮「おー」
藍子「メイク時間もちょっと長引いちゃって。これじゃ満足できないんだー、私の全力はもっと上のところにあるー、なんてっ」
加蓮「あはは。他のスタッフさんに怒られそうっ」
藍子「……収録の後にこそっとお訪ねしたら、楽屋の床に正座してました」
加蓮「あーあー」
藍子「でもなぜかすっごく楽しそうで。ずっとニコニコしちゃってましたけれど……」
加蓮「やりたいようにやった! 私は本望だ! ってヤツ?」
藍子「あっ、そうです、そういうこと言ってました!」
加蓮「アホだ」アハハ
藍子「それで、ええと……つまり、その、挨拶が大切だってお話ですっ」
加蓮「そういえばそうだっけ。すごいね、先に挨拶されたってだけで行き着く先が楽屋に正座だもん。まさにどうしてこうなっただよね」
藍子「ですねっ」
加蓮「だねー。きっとその人、藍子のことが大好きだったんだよ」
藍子「だったら嬉しいですけれど……」アハハ
藍子「でも、そのことがあって……私たちにとっての当たり前が、当たり前じゃないのかもしれないって思ったんです」
加蓮「……ん? どゆこと?」
藍子「ええと……挨拶をするだけでも、幸せになってくださる方がいらっしゃるんだなって。挨拶することが当たり前になっちゃってるから、なかなか意識できないことだなって」
加蓮「分かるような分かんないようなー……えっと、私は当たり前みたいにポテトを食べられるけど、入院したら食べられなくなるから、実はすごく大切なことだった、とか?」
藍子「もうちょっと明るい例えはないんですか……? でも、たぶんそんな感じです」
加蓮「ふうん……挨拶がねー」
藍子「でも、そう言われてみたら、ここに来た時にPさんやみなさんにおはようって言われて、それだけで元気になれてた気がしますっ」
加蓮「うーん……そんなもんなのかなぁ……」
藍子「私、いっぱいの人に幸せになってほしくて、アイドルをやっているんです。ファンの方だけじゃなくて、スタッフの方も……」
加蓮「うんうん」
藍子「どうやったら幸せになってもらえるかな? って考えたら、もしかして挨拶ってとっても重要なことじゃないかなって気づいて」
藍子「あ……えっと、それだけですっ」
加蓮「……え? あ、うん。あははっ、なあんだ。面白い話、持ってんじゃん」
藍子「そんなことないですよ~。普通のお話ですっ」
加蓮「ふふっ」
>>18 訂正を1つ……
5行目の藍子のセリフ
誤:とっても重要なことじゃないかなって 正:とっても大切なことじゃないかなって
藍子「それと……加蓮ちゃんは、いつか見捨てられちゃうんじゃないか、ってよく言いますけれど……」
藍子「最初からそう思ってたら、ホントに見捨てられちゃうかもしれません」
藍子「自分のことが嫌いだ、って言い続けたら、ホントに嫌いになっちゃうみたいに」
藍子「それよりは、自分のことを覚えててほしいって思って……お仕事をした方がいいかな、って」
藍子「それで思い出したのが、挨拶の話だったから」
藍子「ちょっとだけ……加蓮ちゃんにも、意識してほしいな? なんて思っちゃいました。ふふ」
加蓮「…………ん」
加蓮「うん……そだね……いいね。いいかもね、そういうのも」
藍子「はい♪」
加蓮「じゃあ藍子」
藍子「?」
加蓮「おはようございます、藍子。今日も……その、ありがと、ね」
藍子「! はいっ、おはようございます、加蓮ちゃん。今日も、大好きです♪」
加蓮「えっ」
藍子「え?」
加蓮「いや……え? なんでそーなる?」
藍子「お疲れ様です、って言おうかなって思ったんですけれど、それはさっき言ったから別のことが言いたくて。そうしたら、思いついたのがこれでした」
加蓮「……………………」
藍子「…………」ワクワク
加蓮「…………何で目ぇ輝かせて待ってる?」
藍子「…………」キラキラ
加蓮「あー、もー……はいはい、私も藍子のことが好きですよー……大っ嫌いだけど」
藍子「……最後に何か付け加えないと死んじゃう病気はまだ治らないんですか?」
加蓮「不治の病だからね、しょうがない」
藍子「もうっ……。私、加蓮ちゃんがお世話になってる病院に駆け込んで、相談しちゃいますからっ」
加蓮「えっ」
藍子「加蓮ちゃんが、余計なこと言わないと死んじゃう病気なので治してください、って……ううん、違うなぁ……」
加蓮「待って、ちょっとそれ待ってストップ!」
藍子「余計なこと言わないと死んじゃう病気を治したいけれど、直接相談するのは恥ずかしいから私が代理で来ました、かな?」
加蓮「ストップってばぁ! そんなことされたら絶対に次に会った時に笑われる! 大笑いされる!」
藍子「あ、それと…………ううん、あのお話にしよっかなぁ。それとも、こっちの方がいいかな?」
加蓮「これ以上まだ何か握ってるの!? 待ってホントやめてただでさえ私のあんまり知られたくない時期を知ってる連中だらけなんだからあそこ!」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「な、なに?」
藍子「………………えへ♪」
加蓮「うおあああああ! マジでやる気だこの子! そんなことやったら引き千切るからね! 藍子のアルバムぜんぶ引き千切る絶対に引き千切る!」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「なによっ!」
藍子「冗談です♪」
加蓮「…………は?」
藍子「加蓮ちゃんが冗談ばっかり言うから、加蓮ちゃんの真似をしたら上手く言えるかなって思って。私、上手くやれてました?」
加蓮「……………………藍子」
藍子「はいっ」
加蓮「撮影の疲れが吹っ飛ぶくらい疲れた」グタァ
藍子「じゃあ、ゆっくり休んでいってくださいね」ナデナデ
加蓮「したたかになりやがってぇ…………」
藍子「でも、私のアルバムは千切らないでくださいね……? たいせつな思い出と、それに、加蓮ちゃんの写真も、いっぱい入ってるんですから」
加蓮「藍子が変なことしない限り私だってしないわよ…………」
藍子「あはっ」ナデナデ
……。
…………。
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………」ボー
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………」ボー
藍子「疲れは取れましたか?」
加蓮「……どうだろ……たぶん、疲れてはないけど……なんか、あんまりここから動きたくない感じ……」
藍子「どうせなら、ちょっとくらい眠っちゃった方がいいのかもしれないですね……1時間や2時間くらいでしたら、大丈夫ですから」
加蓮「藍子といるんだし、寝るなんてもったいないよ……」
藍子「なんですかそれー」
加蓮「寝顔を晒したら写真に撮る奴がいるし」
藍子「もうやりませんってばー!」
加蓮「半端に寝ちゃったら、夜に辛くなっちゃうし」
藍子「もう夕方だから、今寝ちゃうと夜に眠れなくなっちゃいますね」
加蓮「そだね。これでも規則正しい生活を心がけてる……っていうか身体が勝手にしちゃうから、昼寝とかすると困っちゃって」
藍子「お仕事で遅くなる時はどうしているんですか?」
加蓮「頑張ってる」
藍子「頑張っちゃうんですか」
加蓮「頑張っちゃうんです」
藍子「ふふっ」
加蓮「頑張ってる私は嫌い?」
藍子「嫌いな訳、ないじゃないですか」
加蓮「そっか」
藍子「ええ」
加蓮「ごめん、知ってて聞いた」
藍子「もー、加蓮ちゃんってば」
加蓮「…………」ボー
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………」
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………あ」
藍子「…………?」ナデナデ
加蓮「いや、こうして藍子の顔を下から見上げたら――」
藍子「見たら?」
加蓮「なんか間抜けっぽく見える」
藍子「!?」ガーン
加蓮「変な顔してるー。っていうか、変な顔に見えるー」
藍子「え、えええっ。そ、その、やめてくださいよっ加蓮ちゃん変なこと言うの! 違いますよね、違いますよね!?」
加蓮「変な顔ー!」
藍子「きゃーっ! も、もう。そんなこと言うなら膝枕なんてしてあげませんからっ」
加蓮「先に誘ったの藍子でしょ? そんなこと言ってー」プニプニ
藍子「つつかないでくださいっ」ペチ
加蓮「あはは。ごめんごめん。今の冗談」
藍子「え……? 冗談、ですか?」
加蓮「うん。ホントは別のことを言いたかったんだけど、ついやっちゃった。……ごめんね?」
藍子「ほっ……。もう。次からは、冗談を言った時にもおしおきしちゃいますよ?」
加蓮「やめてよ。私のほっぺたが毎日真っ赤になるじゃん」
藍子「それでも冗談を言うのはやめないんですね……。それで、本当に言いたかったことって?」
加蓮「うん。なんか、こうして藍子の顔をぼーっと見上げて……膝の上に頭を乗っけてて……」
加蓮「よかった、藍子がいる、って感じ」
藍子「私が……? 私はいつでも、ここにいますよ」ナデナデ
加蓮「ありがと……。……声が聞こえなくても、話をしてなくてもさ」
加蓮「よかった、ちゃんといてくれる、なんて…………も、もう、恥ずかしいからこの話はナシっ!」
藍子「…………あはっ」
加蓮「あーっ、笑った。今笑った! 弱みを見つけたって顔になったーっ!」
藍子「え? ち、違いますよ違いますっ。だいたい弱みなんて探す理由がありませんっ」
加蓮「そーやっていろいろ集めて病院に持っていって私を笑い物にするんだー!」
藍子「あれは冗談だって言ったじゃないですか!」
加蓮「いーや分かんないよ? いつもの仕返しだー、って企んでるかもしれないし?」
藍子「そう思われる自覚があるならもうちょっと素直になってくださいよ……それに仕返しなんて」
藍子「もし加蓮ちゃんに何かやるなら、どうやったら喜んでくれるかな? って思いたいですっ」
加蓮「んー」
藍子「私にできることなんて、あんまりなくて……膝枕だって、その、膝、あんまり柔らかくないかもしれませんけれど……」
加蓮「藍子」
藍子「は、はい!」
加蓮「膝枕において大切なのは柔らかさじゃない」キリッ
藍子「す、すっごい真顔……!」
加蓮「膝枕において大切なのは!」
藍子「た、大切なのは?」ゴクッ
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………なんだろ?」
藍子「」ガクッ
加蓮「いや、なんかさ、ここで名言を! ってやろうと思ったけど、なーんにも思いつかなかった」
藍子「あ、あはは……カッコイイことを言うのって、なかなか難しいですよね」
加蓮「ちょっと恥ずかしいなぁ、もー……あ、そうだ」
加蓮「ていっ」チョップ
藍子「ひゃっ」
加蓮「よし」
藍子「びっくりした……。急にどうしたんですか?」
加蓮「えー、ほら、私が自分のことを嫌いだって言ったら藍子がチョップするみたいにさ、藍子が自分のこと何もできないって言ったら私がチョップする」
加蓮「これでWin-Winだね」ドヤ
藍子「……???」
京太郎は出ますか?
加蓮「……間違えた。これで互角だね」ド、ドヤ
藍子「……ドヤ顔、崩れてますよ?」
加蓮「うっさいなー……駄目だ、疲れてるからかな、今日は調子が変かも」
藍子「でも……そうですよね。自分には何もできない、なんて言っちゃったら、ホントに何もできなくなっちゃいますよね」
加蓮「うんうん、そゆこと。藍子は何だってできる!」
藍子「私はなんでもできる!」
加蓮「おお」
藍子「だって、私はアイドルだから!」ドヤッ
加蓮「おおお」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………わ、忘れてください……///」プシュー
加蓮「いいじゃん、自信満々系アイドル。ドラマもなんでもどんとこおい! ってやってたら、じゃあ試してみよっかなってなるよきっと」
藍子「な、ならないですよ、こんな私なんて」
加蓮「えい」チョップ
藍子「きゃう」
加蓮「主演女優? いーやまだ甘い! 私を題材にドラマを作れ! ……ってくらいに言ってみよう」
藍子「えええ……!?」
加蓮「ほら、演技レッスンだと思って。はい、せーのっ」
藍子「うぅぅ……わ、私を主役に、ドラマをつく、作って……やっぱり言えません~~~!」
加蓮「ちぇ、あとちょっとだったのに」
藍子「恐れ多すぎますよ!」
加蓮「多くない多くない」
藍子「うぅ……」
加蓮「ふふ」
藍子「もー…………」
加蓮「そうやってなりたいものになっていくのがアイドルかなって、私は思うけどな」
藍子「そうですね……。……いやでも自信満々な私にはなりたいって思いませんよ?」
加蓮「自信はつけたいのに?」
藍子「自信をつけることと自信満々になることって違うような気が……」
加蓮「そっか。私もそこまでは……いつも不安ばっかりだ。不安ばっかりで、表にいろんなもの貼り付けて」
加蓮「いつかそれが自分自身になる――のは、やだな。仮面は仮面のままにしておかなきゃ。いつでも剥がせるようにしなきゃね」
藍子「そうですよ。加蓮ちゃんが、かわいそうです」
加蓮「えー、私のやってることなのに?」
藍子「はいっ」
加蓮「そっかー……ふふっ」
加蓮「…………♪」メヲトジル
藍子「…………」ナデナデ
加蓮「…………」
藍子「…………」ナデナデ
加蓮「…………」
藍子「…………」ナデナデ
加蓮「…………あったかいなぁ……」
藍子「?」
加蓮「藍子、って感じがする」
藍子「私って感じ……?」
加蓮「うん。藍子がいる、って感じ。……あはっ。さっきも言ったっけ、これ」
藍子「言っちゃいましたね」アハハ
加蓮「ん…………そっか、藍子がここにいるんだ」
藍子「はい。私は、ここにいますよ」
加蓮「藍子」
藍子「はい」
加蓮「まだ、ここにいるよね」
藍子「はいっ」
加蓮「まだいてくれるんだよね。もしも、明日、いなくなっちゃっても……」
加蓮「今日は、ここにいてくれるんだよね」
藍子「……はい。きっと、明日も、明後日も、私はここにいます」
加蓮「ん……」
加蓮「……明日のこと、1週間後のこと……1ヶ月、1年……アイドルとか、ファンのみんなとか、ううん、私、ちゃんと自分の足で立ってるかなんて分からないけど」
加蓮「今日は、ここにいる」
加蓮「私も、みんなも、いてくれる」
藍子「はい」
加蓮「……うん。そう考えたら、少しだけ心が軽くなったかも」
藍子「よかったです。……ねえ、加蓮ちゃん。1日1日を、ゆっくり、信じていきましょう」
藍子「ほら、幸せって、毎日の積み重ねでできあがっていますから♪」
加蓮「……積み重ね、か」
藍子「それに、明日の心配ばっかりしてたら、今日のことを見落としちゃいますよ?」
藍子「来年の話をしたら鬼が笑う、ならぬ、明日の話をしたら今日が寂しがる、ですっ」
藍子「もしかしたら今日、家に帰ったら、加蓮ちゃんのお母さんが加蓮ちゃんの好きな物をいっぱい作ってくれてるかも!」
藍子「そうしたら、帰るのもちょっぴり楽しくなりませんか?」
加蓮「どうだろ……難しいな。期待して……裏切られることに慣れるとさ。そうやって毎日を楽しめる藍子が、ちょっと羨ましいよ」
加蓮「……だからいっぱい教えてよ、藍子。明日も、藍子のお話を聞きたいって思えるように」
藍子「……はいっ。いっぱい、お話しますね」
加蓮「ふふっ。…………」チラ
加蓮「……ん?」
藍子「……?」
加蓮「……ねえ藍子。例えばだよ? 藍子と話をしてたら日付が変わってたなんてことになってたら、それって今日も明日も藍子がいてくれるって信じられることになるのかな?」
藍子「え、えっと……? どういうことですか?」
加蓮「ん」クイッ
藍子「……?」チラッ
藍子「……………………!?」ゾワッ
加蓮「9時でーす」
藍子「え、えええ!?」
加蓮「前のカフェの時が8時だっけ? 記録更新おめでとう」
加蓮「では藍子。スマホのチェックをどうぞ」
藍子「は、はいっ! ちょっと失礼しますね……ひゃーっ! お母さんからメールがいっぱい来てる~! 不在着信まで!」
加蓮「っていうか気づきなさいよ……いや私も人のこと言えないっか。私の方は……」
加蓮「あーうん、知ってた、知ってたけどお母さん悟った文章と一緒に夕食の写真を添付するのやめて心に来るから」ポチポチ
藍子「マナーモードにして鞄に入れっぱなしだったから……! か、加蓮ちゃん加蓮ちゃん、電話で弁解するの手伝ってください~!」
加蓮「しょーがないなぁ。今日も藍子の犠牲になりましたっと」
藍子「やめて~~~~っ!」
おしまい。読んでくださり、ありがとうございました。
>>34
……どこか別の場所と勘違いされてませんか?
乙
乙!
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