少女「ドヴァキン♪ ドヴァキン♪」(44)

頻繁に見る夢がある…

少女が歌っている。

黒い巨大な生き物が叫んで、終わった世界に一人でいる。

彼女がドヴァキンと言う度、俺は呼ばれている気がした。

「小僧、自分の食い扶持くらいは稼げるようにはなってきたじゃないか」

「…………」

渡された麻袋には少しの金が入っている。

スリで稼いだ金の、俺の取り分だ。

「で、だ。小僧、お前に任せたい仕事がある」

上司にあたる、…のか? 仕事をくれる男は、そう言った。

農園の一部を焼く仕事。

今までの単調な仕事じゃない、

「お前もそろそろこういった仕事に手を出してもいいころだろう」

上司…ブリニョルフは言った。



俺は盗賊を稼業にしている。

盗賊が集まってできた組織…ギルド。そのアジトから素早く出る。

盗賊だという事が、バレないにこしたことは無いからだ。

アジトの入り口から出た俺の姿を見た者はいない。

目的地へ向かった。



盗賊が農園を襲う理由は単なる脅しだ。

農園とある契約をして利益を出している我がギルドにとっては…

今回の裏切りは許せるものではない。

(……警備の数が普通じゃない)

農園の主も、報復を予知しての行動らしい。

農園はハチミツを作っている、今回は蜂の巣を焼き払う事で報復を示す。

『可能なら金庫から金も奪ってこい』

ブリニョルフの指示だ。

忍び込もうとするところに正面から入る馬鹿はいない。

農園を囲む湖の中を進み、下水道から侵入する。

(武器が錆びないか心配だ)

鉄のダガーが俺の武器だが、錆止めなどの加工はしていない。

水気はとっておく。

下水はどうやらドブネズミの巣窟のようだ。

( ・ω・)…

( ・ω・)っ④"

どぶ鼠……他の地方より、更に強力な「スキーヴァー」という種の奴らが、獲物の臭いを嗅ぎ付け頭をあげる。

……このままでは騒ぎが起き、潜入がバレる。

(いや、それ以前に噛み付かれでもしたら……)

ネズミの歯から侵入した雑菌が俺を蝕むだろう。

スキーヴァーの数はおおよそ五匹以上。

小さな盾ほどの大きさがある奴らに一斉に飛び掛かられれば、俺はひとたまりもないだろう。

「……!」

その時、俺はあるものに気が付いた。

どこからか洩れだした"油"だ。

その上にはランタン……。

ネズミ共がこちらに気付くのと同時に、俺は思い切ってダガーを投げ飛ばした。

ダガーがランタンの吊るしを引き千切る。

ランタンは落下を始め……、

――…

ネズミ共を丸焼きにした俺は、そのまま下水道を進んで行った。

(扉だ……。…位置的にも、この上が…)

両腕に力を込めて落とし戸を開けると、カビ臭い空気が鼻腔をついた。

(当たりだ。恐らくは貯蔵庫か)

ダガーを体の前に掲げ、警戒しながら少しずつ進む。

ここからはネズミを相手にするのとは訳が違う。

「―でよぉ、俺はそいつに言ってやったのさ」

傭兵の話し声が聞こえてくる。

懐から小さな鏡を取り出し、確認する。

傭兵は二人だけだ、だが、近くにまだいる可能性は高い。

警戒しつつ進む。

幸い話し込んでいる二人の傭兵は本当にその通りの様で、開けっ放しの扉の前を通りすぎる俺の姿に気付く事は無かった。

(あった。あれが牧場主の金庫か?)

落とし戸から少し進んだ所にそれはあった。

黒塗りされている、やや簡素な金庫だった。

ピッキングの技術はギルド仕込みだ、ピックを一つも折らずに解錠する事に成功する。

(後は……)

外は空が焼けている様な夕暮れだった。

「ったく。あの雇い主も何を考えてんのかねぇ」

「あん?」

蜂の巣牧場の前で、二人の傭兵が会話をしていた。

「普通に考えて、ただの牧場の警備にこれだけの頭数は必要ねぇだろうよ」

「ああ、何でも…盗賊が来るとか何とか」

「あぁ? 何だそりゃ。蜂の巣でも盗みに来るってのかよ?」

何かが柔らかい物にめり込むような音がした。

側からした音に傭兵が振り向くと……、

「―――っなぁ!?」

火の粉を吹き上げて燃える蜂の巣があった。

続いて二つ、蜂の巣が焼かれる。その原因を傭兵の目は捉えていた。

「―矢だ! 畜生! 誰かが火矢で燃やしやがったんだ!!」

「おい! あそこ!」

相方の叫びに傭兵が視線を移すと、その先で弓を投げ捨て屋根から降りようとする何者かの姿があった。

( ・ω・)ふむ…

( ・ω・)っ④"

(後は逃げるだけ……。ん?)

ちらりと視界の端に、光る黄金が映った。

(……確かこの部屋は)

窓枠に手をかけ、反対の腕で窓を突き破る。

「ヒッ!」

部屋の隅で縮こまる牧場主に一瞥をやると、俺はベッドサイドのミニテーブルから黄金の像を奪い、

そして入った窓から躍り出る。飛び出した下は湖だ。

―――

「やるな、小僧。生きて戻るとは」

ギルドに帰った俺を出迎えたのはブリニョルフだった。

「これ、金庫の中の物全部だ」

金と書類を受け取ったブリニョルフは、ニヤけた顔で満足そうに頷いた。

「分け前は後でやる。今は休むと良い」

「……」

俺は首肯して、その場を後にした。

(喉が渇いた……)

ギルドの横にある地下街……ラットウェイの酒場で喉を潤す事にした。

まだ報酬は貰ってないが、その位の余裕はあるだろう。

「おぉ! 生きてたか小僧!」

俺を見つけるなりブリニョルフと似たような事を言ったのは、ヴェックスという女盗賊だ。

すでに妙齢な彼女は腕のたつ盗賊で、今回俺が済ませた仕事の前任者でもある。

「どうだ。あたしが教えてやった情報は役にたったろう」

彼女は農園への潜入に失敗した……が、下水道の存在や屋敷の構造等を明らかにした為、俺の潜入が楽になった。

俺は農園に行く前、ヴェックスから情報を貰っていたのだ。

「たんまり報酬が入ったんだろう? 一杯奢りなよ」

俺の肩を捕まえるヴェックスに一人の男が声をかけた。

「ヴェックス。子供に酒をせびるな、みっともない」

この酒場に常駐するもう一人の盗賊、デルビンだ。

彼も勿論ギルドメンバーの一人だ。

「なんだってぇ?」

荒い口調とは別に、ヴェックスは睨んだ様な表情をデルビンに向ける。

ラットウェイでは日常茶飯事の光景だった。

「実はまだ報酬は貰ってないんだ、だから安い酒なら」

俺はそう言って、場を仲裁した。

夜。

「小僧、やっぱりここにいたか」

ブリニョルフの声だ。

声の主が横に座った。

「ほれ、小僧。約束の金だ」

俺はブリニョルフと麻袋を一瞥した後、袋を受け取った。

「……重い」

思わず口に出る程、報酬ははずまれた。

「当然だ。お前はそれだけの事をしたんだからな」

ブリニョルフは続いて酒ビンを寄越した。

メイビン・ブラックブライアという、この町で一番権力を持つ町人の家が作る有名なハチミツ酒だ。

「飲め、小僧。滅多にお目にかかれんぞ?」

頷いて、俺は酒のフタを飛ばした。

横から同じものが飛んでいく。

「衛兵の畜生に当たったら面白いのにな」

ブリニョルフが軽口を叩いて、俺は薄笑を浮かべた。

酒を少し呷った後、ブリニョルフが言った。

「……実はな、お前にもう一つ任せたい仕事がある。この美味い酒に関わる事だ」

ガタン …ガタン

「仕事……、また難しい奴か?」

そう尋ねると、尋ねた相手は肯定した。

「メイビン・ブラックから直々の依頼だ。今度は蜂蜜酒醸造所の裏切りだ」

―――

ガタン ガタッ

「うわっ!」

馬車から転げ落ちそうになる。

「大丈夫ですかい? ちょいとでこぼこ道が続きますから、気をつけてくだせぇ」

馬の操者は鞭を入れながら俺にそう言った。

今はこの国スカイリムでも中立の要塞(街の事)ホワイトランへ向かう馬車の上だ。

「…………」

そして相乗りが一人。

「……」

フードを深く被り、ローブを着込んだその人は、服装の影響で正体が分からない。

体格からして女か、それとも子供なのか……屈強な肉体を持つオークや、体臭で分かるカジート、アルゴニアンの類いではないだろうが。

それに目の前の相手には後に上げた獣人の特徴たる耳や尻尾が無いから違うだろう。

どうやらその人もホワイトランまで向かうようだった。

(息が詰まるな……)

イヴァルスタッドという、小さな集落に辿り着いた。

ここで一晩休息をとり、明朝またホワイトランヘ向けて出発する。

馬手がとった宿でくつろいでいた時だった――

どう゛ぁきん

どう゛ぁきん

なお じす う゛ぁーりん

「…!?」

歌声が聞こえてきた、外からだ。

いてもたってもいられず、俺は外にとびだす。

「ドヴァーキン……」

宿の入り口を開け放ち、辺りを見渡す。

やがて俺は、宿の上で歌う少女を見つけた。

「……?」

歌を止めた少女は、こちらに視線を向ける。

「……その歌は」

宿屋の屋根に座り、歌っていた彼女はおもむろに立ち上がると、歌を再開する。

ドヴァキンの謎が明かされるのか?

( ・∀・)っ④"

深夜はあまりスカイリム知らない人多いのかな?

ネットカフェから書くから一旦id変わります。

「……なにかしら?」ニコ

そう言って少女は微笑んだ。

どこか拙い発言とその屈託無い笑みから、どこか幼い印象を受ける。

「君は……夢に出てきた」

そこで一旦言葉を区切り、考えをめぐらせる。

(いきなりこんな事を言っても、頭のおかしい奴と思われるだけだ……)

クスクスと、少女が笑う。やっぱり変な奴だと思われた、そう思って俺は弁明をしようと彼女に顔を向ける……

「――!?」ゾクッ

少女はつい先程とは打って変わった表情をしていた。

「くすくすくす」

まるで蛇に睨まれた蛙の様な……そんな気分にさせる表情だった。

妖艶で密かで、そして恐ろしい笑みだ。

捕食者とその獲物の様な気分、なぜ目の前の……今懐にあるダガーで一突きすれば絶命してしまう様な少女に、そんな気分にさせられるのか……。

「ドヴァーキン、あなた、ドヴァーキンね?」

俺の目には少女が突然姿を消した様に見えた。

しかし違った、一瞬で間合いをつめてきたのだ。

「ド、ヴァーキン…?」

「そう」

少女の指先が俺の顎に添えられる。

(……!?)

動けない……、まるで麻痺毒でも盛られた時の様だ。

いや、体が空中に縛り付けられていると言った方が正しいか。

(…そんな事はどうでもいい…)

今はこの得体の知れない恐怖感が何より勝っている。

「ファ・ス」

少女は何かを耳元で囁く。

「ファ…ス…?」

「ファス、よ。ねぇ、ドヴァーキンは――」

「!?」

一塵の嵐が巻き起こったかの様に思えた。

突然に、目を開けていられなくなるほどの突風が俺の体に叩きつけられ、それが晴れた時には何かを言いかけていた少女は姿を消していた。

「……」

触れられた顎に熱が残っている気がする。

―――

「へぇ? お客さんに相乗りなんていましたっけ?」

朝になって馬の操者が言った言葉だ。

(……俺はリフテンの町からここまでずっと、一人で馬車にゆれていたというのか……)

大きな車輪を鳴らして馬車はホワイトランへと向かっていく。

(今は余計な事を考えるのは止そう……仕事に差し支える)

冷静さを欠いた者から脱落していく、ブリニョルフの教えだ。

……盗賊ギルドのある町、リフテンはこのスカイリムという国の最南東の端にある。

そして今日の朝まで滞在していたイヴァルステッドの町はスカイリムの中心近い。

目的地のホワイトランはここまで辿った距離の半分もない。

(となれば今日中には仕事につけそうだ)

上司のブリニョルフは仕事の概要はあちらで聞けと言っていた。

だから現場につくまでどうすればいいのか分からない。

(ああ、こういう時が一番落ち着かないんだ……)

予想通り、ホワイトラン要塞には日が傾く前に辿り着く事ができた。

(今回の仕事の協力者……マラス・マッキウスは宿にいるとか言ってたな)

ホワイトランには宿屋が二つあったが、先に大きな方へ向かった。

そして協力者を見つける。

マラス・マッキウスは件の蜂蜜酒醸造所で下働きとして働いているという男だった。

今回盗賊ギルドのターゲットになった醸造所は依頼主であるメイビン・ブラックブライアのライバルという訳だ。

同業者を潰して自分の方の蜂蜜酒をもっと売ろうという魂胆か。

協力者の説明では、醸造所の方へ向かえば全て分かるという。

追求しても何一つ説明をしないマラスに呆れた俺は、ひとまずその醸造所へ向かう事にした。

―――

扉を開けると、途端に酷い臭いに鼻をつかれる。

(……獣と血の臭い?)

「……すまないが今日はやってないんだ、また今度来てくれないか」

そう言ったのはこの醸造所のオーナーであるサビョルンという男だ。

「ん? あんた、旅人か? それなら一つ、頼まれ事をしてくれないか、旅人にしか任せられない仕事があるんだ」

「……」

「店の様子を見てくれよ」

そう言われて、辺りを見渡すと、臭いの原因が散らばっていた。

ネズミの死骸がいくつか転がっている。それに変なクスリの臭いもする。

「店の裏にネズミの巣ができたみたいなんだ。……で、だ。ここを訪れる旅人みんなに聞いてるんだが、あんた、そのネズミ共を退治しちゃくれないかい?」

(こういう事か)

何となく、マラスやブリニョルフが考えている事が分かった気がする。

「ここに奴らを皆殺しにする薬がある、こいつを奴らの巣に撒いてきてくれればいい。そうすりゃ金をくれてやる、どうだ? 悪い話じゃないだろう?」

「汚い獣の巣に入るんだ、報酬ははずんでもらおうか」

醸造所を潰す手っ取り早い方法は、その信用を無くす事だ。

俺を使い走りにしている連中は、大方この薬を酒に混ぜろとでも言いたいのだろう。

どうやらネズミの巣は店の貯蔵庫から通じているようで、この頼みを引き受ける事で店の裏に入ることができた。

少し前、ブリニョルフに似たような仕事をやらされた事がある。

(同じ要領でやれって事か……)

「ネズミの巣は……。……気が滅入るな」

襲い掛かってくるネズミを片っ端からダガーで斬り殺し、奥の巣へと向かって行く。

途中蜘蛛まで巣食っていたが、ギルドから持ってきた火炎魔法を放てる魔法のスクロールが役に立った。

そうして巣の最奥部へと辿り着いた時だ。

「っ!!」

矢が近くの壁に突き刺さる、よく見ればそれは氷でできていた。

「お前かぁぁ……俺のネズミ軍団をめちゃくちゃにしてくれやがったのはぁぁ!」

(……魔術師がいるなんて聞いてないぞ)

―――

「で、ネズミ共はそいつがけしかけてたって事か」

「ああ」

仕事を終えた俺は、サビョルンに報告を済ませ、店の片隅に陣取る。

つい先程何故この日に俺を仕事に寄越したのか知ったからだ。

酒場の扉が開き、兵士が入ってくる。

「これはこれは兵士長様、お待ちしておりました」

サビョルンが言う。いつのまにか俺の隣に来ていたマラスはニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。

「新しい蜂蜜酒の試飲という誘いに、いてもたってもいられなくてな、早めに仕事を切り上げてきてしまった」

「さ、こちらです」

知らないのだ、兵士長もサビョルンも。

その新しい蜂蜜酒とやらはネズミの駆除薬入りだという事を。

―――

「蜂蜜酒に毒など入れおって! サビョルン、貴様は牢獄行きだ!!」

カンカンに腹を立てた兵士長が憐れな男を連衡していく。

「しばらくの間、この店はお前に任せる」

「はい」

マラスはしたり顔で頷くと、扉が閉まったのを確認して俺に向き直った。

「さて、うまくやったようだな」

「あんなイカれた奴がいるなんて聞いてないぞ」

俺が言ったのは勿論ネズミと暮らしていた魔術師の事だ。

「ま、言わなかったからお前は余計な事を考えずに仕事にあたれた。そして俺も余計に傭兵を雇う金を省けた、良い事じゃないか」

「……」

「で、仕事の話だ。そちらさんの目的は経営書やらなんやらだろ。サビョルンの部屋は二階だ、好きに漁って行きな」

スカイリムググってきた
ゲームだったのか

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