【艦これ】吹雪「わたしたち」 (327)

艦これのSSになります。


>注意


・盛大なキャラ崩壊が含まれています。
・台本形式。
・イベントでボッコボコにされるような、ヘボ提督
・有明の祭りでも爆死したから、ストレス発散に執筆


それでも大丈夫な方はどうぞ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439723607

吹雪(まともに海の上で動けないことが原因で解体されることになりました)

龍田「吹雪ちゃん…」

吹雪「いいんです。わたし、落ちこぼれですから」

吹雪(龍田さん、天龍さんが心配そうに見てる)

天龍「その、なんだ。吹雪………達者でな」

吹雪「はい…皆さんの武運を祈ってます」

つまんねエタれ

吹雪(司令に挨拶して、全て終わり。短い人生だったな…)

妖精さん「では、吹雪。こっちへ」

吹雪「わかりました」

吹雪(そして工廠に向かったところで、わたしの人生は変わりました)

妖精さん「あれ、提督。どうしたんです?」

吹雪「司令?」

~北陸某所~

吹雪「うぅ…どんな人だろう?」

吹雪(解体される、まさにその時。司令は私に言いました)

吹雪「君の移動が出てるって…」

吹雪「今度は上手くやれるかな?」

吹雪(前の鎮守府から移動して、新しい鎮守府にやってきたんですけど…)

吹雪「ここで、あってるのかな?」

吹雪(地図を確認すると、あってます。新しい鎮守府のはずなんですけど。本当に鎮守府?ただの海沿いのビルに見えます)

提督「…間違えてないよ。君が例の駆逐艦?」

吹雪「わっ?!」

提督「何?驚かないでよ」

吹雪(いつの間に。後ろに女の人が立ってました。士官服を来た、背の高い方です)

異動、な



吹雪「申し訳ありません!駆逐艦、吹雪。ただいま着任しました」

提督「どーも。…わざわざ敬礼なんてしなくていいよ」

吹雪「え?」

提督「細かい話は中で話そう。ついて来て」

吹雪(龍田さん、天龍さん。わたし、怖いところに来たかもしれません…)

吹雪は司令じゃなく司令官呼び

~執務室~


提督「はい、紅茶」

吹雪「ありがとうございます」

提督「固くなくていいよ。ほとんど人なんていないから…しいて言えば、私にだけ気を使えばいい」

吹雪「え?」

提督「何か変かな」

吹雪「それって、本当ですか?」

提督「言葉通りだ。まともな鎮守府って呼べないくらい、ウチは人が少ないから。悪いけど、吹雪。ココには間宮も大淀も明石も常駐してないから、そこは注意してね」



吹雪「ほんとに、ここ…鎮守府なんですか?」

提督「一応」

吹雪(ワケがわかりません…)

提督「だから積極的に、君を戦わせるつもりもないから安心して。吹雪は何をしたっていい」

吹雪「それ。どう言う意味ですか?」

提督「意味通りだけど?」

吹雪「…そんな」

提督「だって吹雪、君は戦えないんでしょ?」

吹雪「違います!下手なだけです…」


提督「だったら、ますますしなくていいじゃない?」

吹雪「本気ですか?」

提督「本気。好きなことしていいって、責任者である私が言ってるんだ」

吹雪「ですが………わたしは艦むすです!」

吹雪(そう言うと、司令は渋面を作りました)

提督「だから?」


吹雪「だからって……司令」

提督「なに?」

吹雪「私たちは敵と戦うために、軍属として…国の…ために、その…」

提督「当然の意見だね」

吹雪「…ッ!」

提督「吹雪。君は正しい」

吹雪「でしたら。なんで」

提督「けど、実際に君が戦う必要は少なくとも今はない」

吹雪「異動したんですよ?!」

提督「それは、ね。君には異動してもらって申し訳ないと思うけど、さ」

吹雪「そんな…」

提督「私からは、それだけ」

艦むす→艦娘
司令→司令官
細けえところ推敲してから投稿しろよ

吹雪(…理解が出来ません。こんなことって)

提督「さて、浜風に部屋まで案内させるよ。部屋は好きに使ってくれていい。長旅疲れたでしょ?」

吹雪「………」

提督「返事は?」

吹雪「……はい」

提督「じゃあ、行った。今、浜風を呼ぶから」

吹雪(司令はそのまま内線で浜風を呼びました)

浜風「お呼びですか、提督」

提督「うん。こっちが新人の吹雪。部屋まで案内してあげて」

浜風「わかりました」

吹雪「あの…」

浜風「浜風です。よろしくお願いします。吹雪さん」

吹雪「こちらこそ」

提督「仕事があるから、後はよろしく。浜風」

浜風「はい」


吹雪(執務室を出ました。となりの浜風さんを見ると、無表情です)

浜風「なにか?」

吹雪「いえ、変な司令官だなと」

浜風「それでも、少将であられますから」

吹雪「本当ですか?」

浜風「あの若さで不思議ですが、手腕は確かです」

吹雪「とても見えません」

浜風「私も思っていましたよ」

吹雪「思っていました?」

浜風「執務は恐ろしく早いんです。では、部屋へ案内します」


吹雪(彼女の後ろについて、建物を歩きます。本当に小さなビルです)

吹雪「あの、浜風さん」

浜風「浜風で結構です」

吹雪「じゃ、じゃあ浜風」

浜風「はい」

吹雪「この鎮守府には、あなたと提督の他に誰がいるの?」

浜風「…瑞鶴さん、川内さん、山城さん、それと私ですね」

吹雪「たった4人?」

浜風「問題ありません」


吹雪「(本当かな…?)演習とかは、どうしてるの?」

浜風「基本、艦隊への依頼は受け付けませんから…」

吹雪「個人では別でってこと?」

浜風「そうなります。ああ、着きました。ここが吹雪さんの部屋です」

吹雪(浜風が扉を開ける。すごくシンプルな部屋)

浜風「好きに使ってください」

吹雪「ありがとうございます」

浜風「9時から執務開始、18時終了で私たちは動いています」

吹雪「了解しました」

浜風「けれども、任務がないときは自由にして構いません。実際任務は、ほとんど無いのですが」

吹雪「それって大丈夫なの?」

浜風「私には、なんとも」


吹雪「…そうなんだ。じゃあ、工廠にドック、それから食堂とかはあるんですか?」

浜風「ドッグはありますが、食堂と工廠はありません」

吹雪「……ぇ」

浜風「代わりに談話室はあります」

吹雪「食事とかは、皆さんどのように?」

浜風「食事は、下の台所で好きに作っていただいても構いません」

吹雪「あの……自炊できない時とかは?」

浜風「それなら、瑞鶴さんや川内さんのように勝手に外で食べられても結構です」

吹雪「………ここ、本当に鎮守府ですか?」

浜風「ええ、私も不思議に思っています」

吹雪「………」

浜風「では、浜風も用事がありますので」

吹雪「あ、ありがとうございます。何かと」

浜風「いいえ…そうだ」

吹雪「はい?」

浜風「当面のお金が必要でしたら、提督に申請してください。それでは、明日の予定もまた伝えに来ます」

吹雪(そう言って浜風は立ち去った。私は部屋に放置されて、途方にくれた)


~夜~

吹雪「…お腹すいたな。外で食べてもいいけど…台所に行ってみようかな?」

吹雪(恐る恐る台所に行ってみると、誰かがカップラーメンを食べてました)

瑞鶴「…ん、誰?」

吹雪「あ、あの。すみません」

瑞鶴「ああ、新顔か」

吹雪(私服だ…)

吹雪「はじめまして。本日付で着任しました、吹雪と言います」

瑞鶴「提督さんそう言ってたっけ。……あたし、瑞鶴。よろしく」


吹雪「…よろしくお願いします」

吹雪(本当に瑞鶴さんなの?前の鎮守府の方とは、違う。髪色も黒だし、束ね方も変わってる…あと甲板胸じゃない)

瑞鶴「ね、吹雪はこれから食事?」

吹雪「は、はい!お腹すいっちゃって…」

瑞鶴「タイミング悪かったね。もうちょっと早かったら、一緒に外に行ったんだけど」

吹雪「その、大丈夫です」

瑞鶴「そう。ごめんね?あ、川内か浜風呼んであげよっか?」


吹雪「え、遠慮します」

吹雪(よかった、怖そうな人じゃなさそう)

瑞鶴「わかった」(ズズ

吹雪(困ったなあ、話題がないよ…)

瑞鶴「あのさ」

吹雪「は、はい」

瑞鶴「座ったら?あたしが立たせてる気がして落ち着かないの」

吹雪「あ、ごめんなさい」

瑞鶴「…んーなんか調子狂うのよね」


吹雪(…わたしも、ちょっと困るな)

瑞鶴「それで、吹雪はどんな理由でウチへ来たの?」

吹雪「…どんなって」

瑞鶴「理由あるでしょ?話したくないならいいけどね」

吹雪(瑞鶴さんはラーメンをすする)

吹雪「わたし、は…」

瑞鶴「言えない?」

吹雪「そうじゃないです、けど……」

吹雪(言っていいのかな?)


瑞鶴「……なら、あたしから話そうか?」

吹雪「え?」

瑞鶴「うん。話しにくそうだし」

吹雪「いいんですか?」

瑞鶴「別に気にしないわ」

吹雪(サバサバした人なのかな…?)

瑞鶴「……あたしがここに来たのは、前の提督さんが、もう《瑞鶴》を保有してたから」

吹雪「ダブりですか」

瑞鶴「そう」

吹雪「正規空母でも、そうなんですか?」

瑞鶴「そうなんでしょうね。でね、もう自分がいるワケでしょ?」

吹雪「瑞鶴さんがいるって事ですよね…」

瑞鶴「そう。でね、皆、区別が付かないらしくてさ。面白く無いでしょ?」

吹雪「……それは」

瑞鶴「あとは言わなくてもいいから。それで悔しいから、もう一人のあたしとは違う!なんて自棄っぱちで戦果だけ稼いでたんだ」

吹雪「…そうなんですね」


瑞鶴「けど、MVPの独占が……他の女からは面白くなかったみたい」

吹雪「MVPを獲得できるほど、優秀だったのに?」

瑞鶴「あー、私の稼ぎ方って方法が悪かったから」

吹雪「…悪い方法って?人の戦果を奪うとかですか?」

瑞鶴「そんなコトしないわよ。…ま、それはどうでもいいの」

吹雪「あ、はい」

瑞鶴「でさ、ある程度練度が上がった時にね」

吹雪「はい」

瑞鶴「近代化に回されることになったわけ。やっぱり解体かーって…ところで、提督が拾ってくれたの」

吹雪「…私と似てますね」

瑞鶴「そうなの?」


吹雪「私も解体予定でしたから」

瑞鶴「ふうん。……そう言うコトか」

吹雪「そう言うこと?」

瑞鶴「ん…ダブりで解体ってこと」

吹雪「でも私は……まだ、私」

瑞鶴「私?」

吹雪「…《吹雪》に会ったことがないです」


瑞鶴「それはツイてるね」

吹雪「ついてる…?」

瑞鶴「当事者だから言うけど、すっごく変な気分。あれって」

吹雪「想像できません」

瑞鶴「何て言おうかな?」

吹雪「はい」

瑞鶴「あたしは、あたしなのに、瑞鶴がいるわけ。まるで鏡があるみたいだったわ」

吹雪(それ、嫌だな。同じ《わたし》だなんて…)

瑞鶴「だから、前の提督さんはあたしがいることが怖かったみたいよ?きっと別のあたしも、このあたしのこと、苦手にしてたと思うもの」

吹雪「だから、解体ですか?」

瑞鶴「だと思う。それで解体を決めたみたいだし」

吹雪「そんなことって…」

???「ざらにあるよ。正規空母だと珍しいけど」


瑞鶴「なんだ。川内も帰ってきたんだ」

川内「いちゃ悪い?瑞鶴」

瑞鶴「全然」

川内「とにかく、ただいま」

瑞鶴「おかえり……そうだ、後で川内さ」

川内「なに?」

瑞鶴「新刊の漫画読ませて」

吹雪(川内さんでしょうか?顔は前の鎮守府の川内さんにそっくりですけど、橙色の着物を着てます)

川内「いいけど、その前に…ほら」

吹雪(川内さんは私を観察するように見ます)

川内「はじめましてかな。吹雪だよね?」

吹雪「はじめまして」

(じゃあ何でダブった時点で即解体しないで両方運用してたんだろう……?)

瑞鶴級になるとダブりでも近代化に踏み切れない気持ちはなんとなく分かる


瑞鶴「めずらし。夜戦バカのくせに礼儀正しいだなんて」

川内「それは、ほかの私」

瑞鶴「本当かな?」

川内「あんたもヒトのこと悪く言えないでしょ」

瑞鶴「ばれた?」

川内「壊れた空母」

瑞鶴「あんたもでしょ?壊れてるのは」

川内「アタリ」

瑞鶴「で、なにしてたの?」

川内「先生と会食」

瑞鶴「あっそ、いいねブルジョア」

川内「んー…そこは否定でき無いかも」

瑞鶴「で、何?」

川内「それにさ、またカップ麺?」

瑞鶴「いいじゃん」

川内「太るよ?」

瑞鶴「別にいいでしょ」

川内「彼氏いるくせに」

瑞鶴「あんたもでしょ」

川内「違います。先生です」


瑞鶴「本当かな?……あ、ごめん吹雪。放置ししてて」

吹雪「いいえ。問題ないですけど…」

吹雪(それより、艦娘なのに彼氏がいるとかの方がびっくりです。いいんですか、軍機)

川内「それで、ダブりの話だっけ。二人が話してたの?」

瑞鶴「そ」

吹雪「そうです」

川内「同型艦でダブりなんて不思議でもないよ」

瑞鶴「…そう言うもん?」

川内「空母は言うねえ…那加ちゃんとか、川内とか、神通とか。ダブりやすいらしいね。あ、私もダブって除籍組」


吹雪「確かにそれは聞きますけど。…ダブるものなんですか?」

川内「聞きますけど……?変な吹雪」

瑞鶴「それくらい普通じゃない?」

???「彼女は建造されたばかりなの。知らなくて当然よ」

川内「あ、山城」

瑞鶴「終わったんだ、バイト」

山城「ええ。ついさっき戻ってきたの」

吹雪(山城先輩だ!私服姿だけど、なんのバイトだろう…)


山城「新しい子が来てるって聞いたけど、貴女よね?」

吹雪「は、はじめまして、吹雪です!」

山城「緊張しなくていいわ。真面目そうな子じゃない」

川内「山城、わかんないよ~。浜風みたいかも」

山城「川内」

川内「違わないでしょ?私もだけど」

山城「言い方があるでしょう?相応の、ね」

川内「隠しても仕方ないでしょ、ねえ瑞鶴さんや?」

瑞鶴「何、喧嘩売ってるの?」

川内「おお、怖。スイッチ踏んだ?」

吹雪(仲の良さそうな二人が突然険悪に、これ間接的だけど私のせい?!)

吹雪「…あ、ぅ」


山城「大丈夫?二人が、ごめんなさいね」

吹雪「山城さん」

山城「二人とも抑えて。特に瑞鶴、あなたは自制しなさい」

瑞鶴「ごめん。軽率だった」

川内「こっちこそ熱くなって、すみませんね」

山城「なら一件落着ね…」

吹雪(どうやら、山城さんが一番、発言権が強いみたいです)


山城「見たところ、吹雪」

吹雪「は、はい!」

山城「ごはんまだでしょう?浜風も誘って行きましょうか」

吹雪「いいんですか?」

山城「ええ。かまわないわ。瑞鶴と川内もどう?」

瑞鶴「パス。ゼミの課題あるから」

川内「私も。部屋でゲームしてる」

山城「そう。なら行きましょうか、吹雪」


~近くのファミレス~

浜風「浜風は結構でしたのに…」

山城「そうなの?でも皆で食べると美味しいと思わない?」

浜風「効率的ではありません」

山城「そうかもしれないわね」

浜風「では、何故?」

山城「でも私は好きなのよ。ダメかしら?」

吹雪(ちょっと、状況がつかめません……ファミレスに初めて来ました…)


山城「決まったかしら?なんでもいいのよ、吹雪」

吹雪「は、はいぃ!」

浜風「吹雪も、緊張してますね」

山城「そう?」

吹雪(うう、何を頼めばいいのかわかりません)

山城「…じゃあ、これのセットと、サラダと…それから」

浜風「私はドリンクバーで結構です」

山城「浜風…それだとお腹が空いてしまうでしょう?このプリンなんてどうかしら」

浜風「……そう言うのなら」

山城「決まりね。あと…吹雪」

吹雪「ひゃい?!」

山城「オムライスでいいかしら?」

吹雪「お、お願いします」


~注文して~

山城「いただきます」

浜風「いただきます」

吹雪「い、いただきます」

吹雪(山城さん、ニコニコしてるけど。何を話せばいいんだろ。浜風も無表情で無口だし…)

山城「吹雪、美味しくなかった?」

吹雪「あ、いえ?!そんなことないです、美味しいです!」


山城「ならよかった。…ちょっと小さいけど着任のお祝いも兼ねてるから、なんでも頼んで?」

吹雪「ご、ごちそうになります」

山城「浜風も、美味しいでしょう?」

浜風「美味ではあります」

山城「ならよかった」

浜風「が、栄養は既に満たしてますので、余分な摂取ではあります」

山城「……燃料や鋼材だけだなんて、寂しいじゃない」

浜風「…山城は時々不合理なことを言います」

山城「提督ほどじゃないわ」

浜風「そうでしょうか?」


吹雪(な、なにか話さなきゃ)

吹雪「あの、二人はこの鎮守府で長いんですか?」

山城「私が7年で、瑞鶴と川内が6と5年。浜風は3ヶ月。長いと見るかは吹雪が判断して」

吹雪「7年も………山城さんは、何をしてたんですか?」

山城「まあ、色々ね。最初は提督のお仕事を手伝ってたけど、今は半分も手を出してないわね」

吹雪「その間、出撃とかは…」

山城「まれに」

吹雪「まれって…」

浜風「……提督は、出撃がお嫌いなようです」

山城「浜風」


浜風「そうです。であれば、最低限戦力を期待できる練度の私を遊ばせておきません」

山城「提督の采配ですよ」

浜風「ですが……まして、瑞鶴さんや山城さんを放置するなんて…戦功を捨ててるとしか考えられません」

吹雪「そう…なんですか?山城さん?」

山城「…なんて言えばいいのかしらね」

浜風「プリン、ご馳走様でした。浜風は戻ります」

山城「浜風……」

浜風「では」

山城「ああ……、だめ行ってしまったわ。不幸だわ」

吹雪(スタスタ歩いてく浜風が見える)

吹雪「その、えっと」

山城「気遣いしなくていいわ。あの子、ブラック出身だから」

吹雪「…ブラック、ですか」

山城「こんなことが理解できないのよ、彼女。初めて来た時、点滴と栄養剤を欲しがったくらいだから……耳を疑ったわよ」

吹雪「そんなことが…」

山城「その様子だと提督、あなたに何も言ってないのね」

吹雪「ええ。ただ来いとしか、聞いてません」

山城「なら、いい機会」

吹雪「何がですか?」

山城「…私たちの艦隊のあだ名、教えてあげる」


吹雪「え?」

山城「規格外戦隊だそうよ。ぴったりなネーミングでしょう?」

吹雪「ど、どう言うことですか?」

山城「他の艦隊の、あぶれもので構成されてるから」

吹雪「あぶれ…」

山城「姉と轟沈したのに、不幸なことに生きてしまった戦艦」

山城「度重なる近代化改修と解体で錯乱した軽巡」

山城「重複してしまった空母」

山城「周回するだけの駆逐艦」

吹雪「………ぁ」

山城「そして、満足に戦えない駆逐艦」

吹雪「……」

山城「どれもこれも、揃って心が置き去りになってた。強力でも使用に難ある艦を集めた艦隊ってわけ」

吹雪(……言い返せなかった)

山城「ごめんなさい。あなたを貶めるつもりはないの。けれど本当のことだから、知っててほしいの」

吹雪(何も、私は言えなかった)

山城「でも、私はそれでもいいと思ってるの」

吹雪「……山城さん?」

山城「他人には好きに言わせておけばいい。重要なのは、どう考え何を成したか。提督の受け売りだけどね」

吹雪「…そう、ですか」

山城「そろそろ出ましょうか。最後に暗い話でごめんなさい」

吹雪「あ、いえ。ごちそうさまでした」




~吹雪の自室~


吹雪「……解体されないだけで、実質左遷だったんだ」

吹雪(ベットの上で寝てると、涙が出てきた)

吹雪「私、いらないのかな…」

浜風『吹雪、いますか?』

吹雪「はい」

浜風『失礼します。提督から、明日十時に、正面前の港に来ることだそうです」

吹雪「港に?」

浜風「どうかしましたか?」

吹雪「いえ、なんでも…ないです」

浜風「そうですか。では、浜風も就寝します。お休みなさい」


~翌朝~

吹雪「おはようございます。司令官」

提督「おはよう、吹雪」

吹雪(二人だけで港に立ってるって、すごく変な気分)

提督「さて吹雪」

吹雪「はい」

提督「私に、君がどれだけ動けるか見せて欲しい」

吹雪「…疑ってるんですか?」

提督「まず現状の確認がしたいだけ」

吹雪「わかりました…」

吹雪(艤装を展開、そのまま海に降りる)

提督「浮きはするんだ」

吹雪「艦娘ですよ…」

提督「けど、この目で……いや、なんでもない」

吹雪「?」

提督「忘れて。さ、じゃあ航行してみよう。ボートで追いかけるからやってみて」

吹雪「(何を言いたかったんだろ?)…了解です」


吹雪(そのまま海上を走る。結構な速度を出してるけど、司令官もボートで付いてくる)

提督「吹雪、止まって」

吹雪「次は何ですか?」

提督「これ、撃ってみて」

吹雪「…演習弾ですね」

提督「さ、撃った撃った」

吹雪「…どうなっても知りませんよ」

吹雪(わたしは砲を構える。そのまま、まっすぐ前を向いて撃って____、派手に転んだ)


吹雪「ぷっは!」

提督「…なるほどね」

吹雪(海水でビッショビショの司令官はわたしをまじまじ見てます)

提督「もういい」

吹雪「な、なんですか?」

提督「吹雪、帰ろう」

吹雪「もう、いいんですか?」

提督「疑問点が解けたから。今日はおしまいで。……それに着替えないと、わたしは風邪を引いちゃう」

~鎮守府、ドック~

吹雪(ドッグが2つしかないなんて…)

妖精さんα「あ、新顔」

妖精さんβ「また、拾ってきた」

妖精さんγ「自分はさっさと自室で入渠すませるような、ひどい上官で大変だね」

吹雪「えっと…」

妖精α「艤装は外して。メンテしてやるから」

吹雪「どうも…」

妖精γ「痛いとこ、ある?」

吹雪「ないです」

妖精β「なら安心。ほら、入った入った」

吹雪「ええっと…」

妖精α「完璧にしてあげるから大丈夫」

吹雪「…お願いします」


~ドック~

浜風「おや…吹雪ですか」

吹雪「浜風?」

浜風「吹雪はどうしたんですか?」

吹雪「私は、練習で……浜風こそ、どうして入渠してるの?」

浜風「イ級を狩ってました」

吹雪「一人で?!」

浜風「そうですが、何を驚いてるんですか?」

吹雪「驚くよ……司令官は何か言わないの?」

浜風「はい。何の問題もありません。提督にも許可を貰っています」

吹雪「おかしいよ…そんなの」


浜風「おかしい、とは?吹雪、それはどう言う意味でしょうか?」

吹雪「だって、一人だなんて…」

浜風「イ級程度に遅れはとりません」

吹雪「わかった。…確認するけど、司令官の命令じゃないんだよね」

浜風「はい。そうですが?」

吹雪「ならいいよ………でもさ、浜風は怖くないの?」

浜風「怖いとは何でしょうか?吹雪は、提督のようなことを言いますね」

吹雪「…浜風、あなた」

浜風「さて、私は修理が終わりました。では、吹雪、お先に失礼します」

吹雪「…………」


~廊下~

妖精β「新顔、浮かない顔でどうしたの?」

吹雪「……妖精さん。この鎮守府の人で、まともな人はいないんですか?」

妖精β「面白いことを言うね。まともな人がいるわけないでしょ」

吹雪「え…?」

妖精β「君らは未だ、艦娘だ」

吹雪「それって、どう言う意味ですか」

妖精β「おっと」

吹雪「…妖精さん?」

妖精β「ごめん忘れて吹雪」

吹雪「気になります。お願いです。教えてください」

妖精β「……私が言ってもダメだと思う」

吹雪「ますます。分からないです」

妖精β「ごめん、僕からは何も言えない。……それでも気になるなら、提督に聞いてみな」

吹雪「あ、待ってください!」

吹雪(すっと妖精さんは見えなくなりました)

吹雪「…どう言う事なんだろう?」

~提督自室~


吹雪(あの後、暇そうな川内さんに教えてもらって、司令官の自室まで来ました)

吹雪(妖精さんの言葉もそうですけど、どんなつもりで司令が私を呼んだのか…)

吹雪(ここで一つ、聞いてみたいと思います)

吹雪「司令、いらっしゃいますか?」

提督『___鍵は開いてる』

吹雪「失礼します」

提督「奥にいるよ」

吹雪「わかりました……んん?」


吹雪(なんの匂いだろ。すごく甘い匂い)

提督「どうした。吹雪?」
 
吹雪(随分ラフな格好です。短パン、タンクトップです)

吹雪「……お話を聞きたくて」

提督「何を聞きたいの?」

吹雪(匂いの元がわかりました。司令官が吸ってる。手巻きのタバコからです)

提督「吹雪?」

吹雪(ダメだ、聞けないよ…)

吹雪「…浜風の出撃です。彼女とドックで会いました。勝手な行動ではありませんか?」

提督「ああ。それ」


吹雪「それ……とは何ですか」

提督「好きにさせてるから。今更だなって」

吹雪「……無断出撃ですよ?」

提督「吹雪、君の気にする事じゃない。違う?」

吹雪「う…」

提督「吹雪。今君は、私に具申したけれど、その意見を私が受け入れると思ったのかな?」

吹雪「考えてませんでした…」

提督「では、君は単なる思いつきを私に話したわけね」

吹雪「司令官?」

提督「違う?」

吹雪「そんなつもりは、ありません!」


提督「なら、浜風は君の問題ではないだろう?確認するけど、吹雪」

吹雪「はい」

提督「私の鎮守府運営に、一艦娘でしかない君が口を出す権限はあるのかな?」

吹雪「…あ……」

提督「どう?」

吹雪「……ありません」

提督「よろしい。では、他に何かある?」

吹雪(ダメ。勇気を出さなきゃ)

吹雪「司令官」

提督「何」

吹雪「どうして、私を呼んだんですか?」


提督「……意図してなかった。と言ったはずだけど」

吹雪「妖精さんが言ったんです。君たちは未だ艦娘だって」

提督「…………………彼らの話を真に受けちゃいけないよ」

吹雪「ごまかさないで下さい」

提督「…」

吹雪「浜風もそうですけど、瑞鶴さんも、川内さんも、山城さんだって。みんなどこか変です」

提督「………」

吹雪「司令官は、何を考えてるんですか?」

提督「吹雪」

吹雪(司令官は灰皿でタバコを消してわたしを見ます。大きな声でなかったのに、わたしは黙ってしまいました)

提督「君はなんだ?」


吹雪「艦娘です」

提督「なんの?」

吹雪「駆逐艦の…これが必要ですか?」

提督「…そんな答えしか無いなら、今の君に私から話す事は無い。下がれ」

吹雪「どう言う事ですか?!」

提督「もう一度言わせる?下がれと言ったんだけど」

吹雪「…………わかり、ました」

提督「気分が悪くなった。不敬は無視しとく」

吹雪「失礼、します…」


~吹雪自室~

吹雪(なんなんだろう。あの司令官は!変なこと言って、本当のこと話さず!)

吹雪(でも、どうして最後、あんな失望した顔してたのかな…?)

吹雪「ダメだ。寝よう」

吹雪(…もう忘れればいいんだ)


~談話室~

吹雪(何もないまま、日にちが過ぎて行きました)

妖精α「新入り、どうした?」

吹雪「あ、妖精さん。おはようございます」

妖精α「おはよう。で」

吹雪「?」

妖精α「一人、何してるの?」

吹雪「…することが無いので、困ってます」

妖精α「部屋でテレビでも見てなよ。CSも海外放送も大丈夫だよ」

吹雪「何を見ればいいのか…」

妖精α「あ、そっか…ごめん。ネットは提督の許可がないとダメだから」

吹雪「いいえ、ありがとうございます。気遣い」

妖精α「つまんなそうだけど、本当に大丈夫?」

吹雪「……どう、時間を潰していいのかわかんなくて」

妖精α「あー、浜風と同じか」



妖精γ「いや彼女には、乳が足りない」

吹雪「ひゃわ?!!」

吹雪(いいいきなり、妖精さんがわたしの上着の間に!)

妖精α「あ、おい!なんてことを!」


妖精γ「ふはははは!!どうだ、うらやましいだろう?」

妖精α「いや全然」

妖精γ「実を言うと、私もだ」

妖精α「気が合うな」

妖精γ「吹雪の反応を浜風がしてくれたらサイコーだったのに」

妖精α「無反応って死にたくなるね」

妖精γ「だな。しょんぼりする」


吹雪「ふざけてないで、服から出てってください!」

吹雪(妖精さんをつまみ出します!)

妖精γ「酷い」

吹雪「本当に、何を考えてるんですか?!」

妖精γ「からかいたかった?」

吹雪「困りますよ!恥ずかしいですから!」

妖精α「…ふうん」

吹雪「なんですか、その視線」


妖精α「いやブッキーは、浜風よりも感情表現が得意だなって」

妖精γ「貧弱ゥ、だけどな」

吹雪「ば、バカにしてるんですか?!」

妖精γ「してないよ」

妖精α「うん」

妖精γ「でも、ぱい乙はね」

妖精α「おい、こら。需要層が違う、おk?」

妖精γ「ああ、そうね。理解理解」


吹雪「もう怒りましたよ、私!」

妖精α「うわ、艤装を出したよこの子!」

妖精γ「逃げろー!」



~台所~


吹雪「もう、どこ行ったの?!」

瑞鶴「…何、なにキレてるのさ?」

吹雪「あ、瑞鶴さん。妖精さん見ませんでした?」

瑞鶴「妖精?…見てないなあ。それより、落ち着いたら?」

吹雪「あ、あ?ごめんなさい!」

瑞鶴「別にいいけど」

吹雪「…すみません」


吹雪(まだ瑞鶴さん苦手です…)

瑞鶴「ねえ」

吹雪「はい」

瑞鶴「コーヒーでいい?ちょうど淹れたから」

吹雪「あ、珈琲…」

瑞鶴「牛乳と砂糖も必要よね」

吹雪「あ、ありがとうごさいます」

吹雪(…瑞鶴さんにカフェオレ作ってもらいました)

瑞鶴「どう?」

吹雪「おいしい、です」

瑞鶴「よかった」


吹雪「…はあ」

瑞鶴「あと吹雪さ、想像で話すけど」

吹雪「はい」

瑞鶴「うちの妖精の言うことは話半分に聞けばいいから」

吹雪「…でも、許せません」

瑞鶴「そっか。じゃ、ほどほどにね。あたし、もう出るから」

吹雪「瑞鶴さんは、どちらに?」

瑞鶴「大学。単位がヤバイから」

吹雪「え?」

瑞鶴「じゃ、よろしく。もしも川内と会ったら言っておいて、遅くなるからって」

吹雪「えっ?えっ?え?」

吹雪(艦むすが大学?理解が追いつきません)


~吹雪自室~


『守府で発生した誤射事件の速報です。被害にあったのは、この泊地の男性司令官と見られており、海軍省では人事面での不備がなかったのか原因についての究明を…』

『あなたもこれで一安心。安心のサービスは』

『そのひと匙が、死を迎え入れると分かっていても。他ならぬ、お前の手だったら、そのカレーを』

吹雪「…はあ」

吹雪(テレビのチャンネルを変え続けても、面白くないです)

吹雪「私、なんで居るんだろ」

吹雪(これなら、解体された方がマシじゃないのかな?)

吹雪(瑞鶴さんみたいに学生になって…)


浜風「…吹雪。在室してますか?」

吹雪「あ、はい。います」

浜風「では、失礼します」

吹雪(浜風が入ってきた)

浜風「提督からの通達です。『午後、自分と同行するように』」

吹雪「了解です」

浜風「集合は14:00。遅れないようにしてください」


~鎮守府正面~


浜風「吹雪、こっちです」

吹雪「…あれ、司令は」

浜風「あちらで、電話されてます」

吹雪(ハッチバックの脇に立って、私服の提督が携帯で何かを話してます)

提督「…そっちで処理しろ。私は戦わない。それに彼は…上官じゃない。いい?」

浜風「提督。吹雪、到着しました」

提督「ん…」

吹雪(片手間ですね…)


提督「ただの艦隊なら倒せるだろ?それ以上のものなら言ってこい。いいな?」

浜風「大丈夫ですか?」

提督「…上の連中が煩いだけ。例の誤射事件を、恵比寿で処理できないから私に掛けてきたの…忘れてくれていいよ。浜風や吹雪には関係のない話。ここなら、舞鶴あたりがなんとかするだろ」

吹雪(…なんでしょう。司令官が荒れてます)

浜風「そうですか」

提督「そ。よし、じゃあ行こっか。乗って」


~郊外のショッピングセンター~


吹雪(上手いのですが、やや飛ばし気味の司令官の運転で私たちは移動しました)

吹雪「ここは…」

浜風「…提督」

提督「ショッピングモール」

浜風「場所は理解しました。しかし、提督の意図が分かりません」

吹雪(浜風に同意です)

提督「何、服を買ってやろうと思って」

浜風「制服が支給されてます」

吹雪「私もです」

提督「…………」
 
吹雪(すごく、司令官が呆れた顔してます)

提督「いいから行くぞ」



吹雪(そこから、司令官に延々と服を選ばされました)

浜風「…吹雪」

吹雪「やっと終わったんだ」

浜風「理解できません。提督は衣類に何を思ってるのでしょうか?…軍属が着飾るなど」

吹雪「そう思うよね」

浜風「同感です」

吹雪(鎮守府まで宅配を依頼した司令官が戻ってきます)

提督「…お前らには、ほとほと呆れた」

吹雪「どう言う意味ですか?」

浜風「同じく、です」

提督「好きな服の一つ二つくらいないの?」

吹雪「…わかりません」

浜風「理解できません」

提督「そっか……質問が悪かった。欲しいものは?」

浜風「特には」

吹雪「私もです…」

提督「もういい。……最後にアイスでも食べて帰ろう、疲れた」

吹雪「アイス?」

浜風「アイスですか?」

提督「…?」

浜風「行きましょう提督」

吹雪「ええ」

提督「………私は今日一番悲しい気持ちになったよ」


~アイスクリームショップ~


店員「お待たせしました。レモンシャーベットとライムシャーベット」

浜風「ありがとうございます」

店員「バニラとチョコミント」

吹雪「どうもです」

店員「それから、…ええと、サーティセブンスペシャル一つ」

提督「ああ、私だ」

吹雪「……」

浜風「……」

提督「どうした、二人して?自分の食べればいいだろ」

吹雪「司令官。本気で食べるんですか、そのアイスの山」

提督「山?七つ乗せただけじゃん」

浜風「…私は何も言いません」

提督「フン。アイスが好きでもいいじゃないか。私の金だ」

吹雪&浜風「「(絶対、サイズを間違えてる)」」


吹雪「司令って、健啖なんですね」(ボソ

浜風「提督は体格も良いですから、当然では?」(ボソ

吹雪「でも食べすぎじゃない」(ボソ

提督「どうかした、吹雪?」(ドタプン

吹雪「………」(スカ

浜風「吹雪?」(ポヨン

吹雪「………」(リフジンダ

提督「顔を覆ってどうした?吹雪?お腹痛い?冷えたなら食べるぞ、そのアイス」

吹雪(言えない。胸が痛いなんて言えないよ…)

~談話室~


川内「おかえり。提督とどこに行ってたの?」

吹雪(談話室で雑誌を読んでた川内さんが聞いてきます)

吹雪「えっと、浜風と提督さんでショッピングモールへ」

川内「あ、いいな。服は何買ったの?」

吹雪「ええっと…」

川内「教えて」

吹雪「その」

川内「ねえねえ」

瑞鶴「困ってるから、やめなって川内」

吹雪(困ってたら、帰宅したらしい瑞鶴さんが助けてくれました)


川内「えー、シーズン変わったから聞きたいだけだって」

瑞鶴「あなたは着れないでしょ?」

川内「でも、ズイズイだって新作欲しいでしょ。その参考にするだけだって」

瑞鶴「…ん、確かにそうだけど」

川内「ねね、だからどうなのさ?吹雪は、何買ったの?」

吹雪「えっと」

川内「うん」

吹雪「司令官に選んで、もらいました」

瑞鶴&川内「「あー、そのパターンか」」

吹雪「えっえ?」

川内「じゃ、こう吹雪はこれ!って押しは無いんだ」

吹雪「は、はあ?」

瑞鶴「…司令、自分が好きだけど似合わない服を無責任に他人に着せるからね」

川内「わかる」

瑞鶴「しかもセンスがいいから…コーデそれだけしか出来ないんだよね。ま、吹雪なら…こんな感じじゃない?」

吹雪(瑞鶴さんが、スマホを見せてくれます。浜風の買った服に似てる気がします)

吹雪「そんな感じです」

川内「…あー期待したけどダメか」

瑞鶴「そんなもんでしょ」

川内「じゃ、ズイズイ。今度行こうよ、買いに」

瑞鶴「そうね。山城も誘って行こうか」

吹雪(うう、話について行ける気がしません。本当、何が楽しいのかな?)


~吹雪自室~

吹雪「…なんか今日は疲れたな」

吹雪(服も知らないよ…そんな艦娘以外のことなんて…)

妖精β「それはどんな疲れ?」

吹雪「うわッ?!!」

妖精β「そんなに驚かないでよ。傷つくなあ」

吹雪「なんで?!」

妖精β「妖精だから」


吹雪「~~~ッ?!今朝はよくも!」

妖精β「僕じゃないよ」

吹雪「…え、あれ?…あ、本当だ」

妖精β「ダメだね、吹雪」

吹雪「う…」

妖精β「で、どうだい?調子は」

吹雪「…悪くないです」

妖精β「なら良かった。提督に話を聞きに行ったそうだから、ちょっと心配してたんだ」

吹雪「それが何の関係があるんですか?」

妖精β「あるよ。傷ついてないかなって」

吹雪「…艦娘ですよ、わたし」

会話がクッソつまらん、表現が下手過ぎて全員無表情にしか見えんわ
『艦娘は兵器じゃないんだ』的なことをやりたいっぽいのに周りが不干渉・不親切過ぎて無茶苦茶感が凄いし


妖精β「それは関係ないよ。彼女も変わってるからね。君に心ないことを言うかもしれない」

吹雪「…よくわかりません」

妖精β「じゃあ考えようよ」

吹雪「…」

妖精β「それで繰り返すけど、今日はどう疲れたの?」

吹雪「え?司令官と浜風と買い物に行って、瑞鶴さんと川内さんに服の趣味を聞かれて…」

妖精β「そうなんだ。じゃあ、どんな疲れなの?」

吹雪「疲れは疲れですよ…」

妖精β「質問が悪かったね。どう疲れたのか教えて欲しいんだ」

吹雪「…司令官と服を選んだのが」

妖精β「それは何故?」


吹雪「ねえ、答える必要があるの?」

妖精β「うん。あるよ。けどまだ、君はダメかも」

吹雪「前も、似たこと言わなかった?」

妖精β「言ってる。君が気がついたら、僕は黙るよ」

吹雪「待って」

吹雪(また、妖精さんは消えちゃいました)


~母港~

吹雪「…」(ボー

妖精α「あ、ブッキー」

吹雪「ああ、妖精さん」

妖精γ「ゲームしようよ。ワンダースワン」

吹雪「?」

妖精γ「そ、そんなsegaの力が艦むすに通用しない、だと?」

妖精α「バッカ。バンダイだって販売元、スワンは」

妖精γ「ホント?」

妖精α「うん」

妖精γ「なら、ネオジオしようぜ!提督が予備機含めて抱えてるの知ってんだ」

妖精α「吹雪も来る?それともズイズイんところで漫画でも読む?」

吹雪「え?いや、私は…」

妖精α「ね?」

吹雪「いえ、私はいいです」

妖精γ「まだ無理か。浜風よりは良さげだけど。行こう、α」

妖精α「うん。じゃ、吹雪も吹雪の楽しいコト見つけなよ」

吹雪「あ……、うん?」

吹雪(…楽しいコト?)


浜風「吹雪、どうしたんですか」

吹雪「あ、浜風」

浜風「はい」

吹雪「それはこっち。艤装展開してどこ行くの?」

浜風「出撃です。イ級を狩ります」

吹雪(浜風はそう言った。ふと思った。彼女となら、大丈夫かもしれない)

吹雪「…私もついて行ってもいいかな?」

浜風「構いませんよ」

吹雪「ありがとう」


~海上~

浜風「戦えないと、提督から聞いてました」

吹雪「…うん。そうだよ」

浜風「だから、まともに滑れないと思ってましたが、その様子なら安心ですね」

吹雪「ありがと。でも…」

浜風「?」

吹雪「砲撃とか雷撃とか。苦手なんだ」

浜風「そうですか」

吹雪「浜風は___」

浜風「吹雪、静かに。来ます」

吹雪(ぼこりと、海中からイ級が飛び出す。それを浜風は、やすやすと倒す)

浜風「ふう。こんなものですね」

吹雪「すごい…」

浜風「すごくありません。私は私のできるコトをしてるだけです」

吹雪(…今なら、彼女に聞けるかな?)

吹雪「ねえ、浜風」

浜風「なんしょうか?」

吹雪「楽しいコトってなに?浜風にとって」

浜風「………そんなこと、考えたことがありませんでした」

吹雪「だよね」

浜風「吹雪も妖精に聞かれたんですか」

吹雪「そうだけど。浜風も?」

浜風「ええ。じゃにず屋、とーけん男児?と言った方の写真をくれましたが…何がいいのかわかりません」

吹雪(なにやってんだアイツら)

浜風「連装砲ちゃん×連装砲さんとか言う冊子もありましたが、理解できませんでした」

吹雪「なにそれ?」

浜風「さあ?昔見た、秋雲が書いてたモノに似てましたが。浜風は不要でしたので写真と一緒に捨てました」

吹雪「変なことをするんだね。妖精さん」

浜風「同感です。ちなみにその冊子を、川内さんが拾って、山城さんに怒られてました」

吹雪「なんで川内さんが怒られるんだろ?」

浜風「さあ?何だったのでしょう?」

吹雪「わかんないね」

浜風「ええ。…もう、近場はいいでしょう。戻りましょう吹雪」

吹雪「うん」

~母港~

妖精α「あ、駆逐艦二人」

妖精γ「美しい凸凹…」

妖精α「それな」

浜風「…なんでしょうか。不快な気持ちになりました」

吹雪「私も」

妖精α「メンテするから艤装、渡して」

吹雪「はい」

妖精γ「ほら、浜風も」

浜風「おねがいします」

妖精α「ところで…浜風、それ何?」

浜風「ああ、鋼材ですよ。拾いました。きれっぱしですが」

妖精γ「なら、倉庫に置いてきて。あ、ついでに吹雪も案内したら?君らの予備装備もあるし」

浜風「…そう言えばそうでしたね」

吹雪「倉庫があるの?」

浜風「ええ。ではいい機会です。吹雪、行きましょうか」

吹雪「うん」


~倉庫~

吹雪「こんなとこがあったんだ…」

浜風「本当に、物置ですよ。提督の私物もありますから…川内さんと山城さんも荷物を置いてるみたいです。ギターとアンプ関連は、川内さんで、山城さんは書籍ですね。他は提督のものです」

吹雪「でも、この一帯は艤装関連なんだね」

浜風「この形だと、吹雪型と陽炎型ですね。奥は軽巡の5500t級でしょうか?」

吹雪「ふーん。あれ…なんだろ、ここ」

浜風「吹雪?」

吹雪「浜風、ここだけ並び方変じゃない?」


浜風「どうしてですか、吹雪。特別、おかしいようには見えませんが」

吹雪「変だよ。だって艦種で分けてあるのに、ここだけ駆逐艦と戦艦のパーツが積んであるもん」

浜風「ジャンクパーツでは?サビも浮いてますし、…見た事もない形です。それに動いたとしても、老朽化がありそうです。とても稼動可能な状態だとは思えません」

吹雪「あ、本当だ。戦艦の方は砲塔が欠けてる」

浜風「それに、仮に戦艦の艤装だったとしても、魚雷発射管が近くに置いてあるのが不自然です。私が予想するに、妖精さんの実験か提督の趣味でしょう」

吹雪「なぜそう言えるの?」

浜風「スロットマシンの実機や、2stのエンジンの近くに艦娘関連の部品をまとめて置くような人を、私は提督と妖精さん以外に知りませんから」

~談話室~

川内「や、二人とも元気だね」

吹雪(戻るとまた和装の川内さんがいた)

浜風「艦娘として当然です」

川内「耳が痛いや」

浜風「…でも私はそれでも」

川内「ん?」

浜風「川内さんが私よりも強いことが納得できません」

川内「まだ負けないよ」

吹雪「あの」

川内「なに?」

吹雪「…なんで川内さんは鎮守府なのに制服を着用しないんですか?」

川内「なんでって。作戦以外で制服着用の規定ある?」

吹雪「それは…」

川内「規則は目的があって作るものだよ。もちろん、それに従うことをみんなが約束しないと意味がないけどね。でも、疑わないのも私どうかと思うな。従うことと、考えないことは違うよ」

吹雪「………でも、艦娘です」

川内「じゃ、艦娘って何?」

吹雪「建造されて、艤装を装備できて…あとは」

川内「じゃ、普通の艦艇も艦娘なワケね」

吹雪「それは、違います」

川内「でも吹雪の言い方だとそうだよ」

吹雪「でも…」


山城「はい。川内、いじめない」

吹雪(山城さんが、また助け舟を出してくれました。どうやら、今戻ったみたいです)

浜風「…山城さん。帰られたんですか」

山城「うん。新米艦隊の相手として、演習に行ってきたの。久しぶりに疲れたわ」

吹雪「そうなんですね…」

川内「うぅ~…山城、なんで止めるのさ。自分は格下相手にストレス解消してきたくせに…」

山城「そんなのじゃないわ」

川内「そう?乗るな山城、鬼より怖いって聞いたけど?」

山城「…他愛のない噂よ。それに、川内」

川内「なにさ」

山城「吹雪は、まだそうじゃないもの」

川内「…艦が小さいから未熟ってワケじゃないでしょ」


山城「でも心は、否応なしに体に引きずられるわ。重力がなければ生物が生きていけないように、大きさが熱を蓄えるように、それは自然なことじゃないかしら」

川内「やだやだ。インテリの話はこれだから…」

山城「そうかしら?でも、あなたも勉強してるじゃない」

川内「そうだけど、もっと近くで役に立つことだよ。山城や瑞鶴の勉強してるようなのじゃないからさ」

山城「はいはい、でも今日はおしまい。今の川内が吹雪たちに感じた気持ち、昔私もあなたに感じてたんだから」

川内「…なるほどね。そうか」

吹雪(なんで、川内さんは私たちを見たんだろう。それから何の話だったの?)

川内「じゃ、いいや。ズイズイがカラオケで待ってるから私行くね」

山城「いってらっしゃい」

川内「終電前には戻るよ。提督にはよろしく」

吹雪(そのまま川内さんは談話室から出てった)


山城「…二人とも。無茶しちゃダメよ」

浜風「善処します」

吹雪「はい」

山城「なら、提督を誘って食事に行きましょうか。あの人、放置してるとすぐに酒とタバコだけですから」


~吹雪自室~

吹雪(意外なことに、司令は酒癖がまったく悪くなかった。逆に山城さんが笑い上戸でびっくりした。あと浜風も入れて四人でテーブル席だったんだけど、隣の学生のねっとりした視線が嫌だった。提督がスプーンをひきちぎって黙らせたけど。)

吹雪「……いいのかなあ」

妖精β「じゃ、なにならいいの?」

吹雪「びっくりした。また、貴方?」

妖精β「うん。今日は川内と面白そうな話をしてたらからね」

吹雪「…面白くないよ。川内さん、屁理屈言うから」

妖精β「吹雪の屁理屈は、君の常識から外れてることかも」

吹雪「う?」

妖精β「そうは思わないんだ?」


吹雪「…どう言うこと?」

妖精β「分からないなら、いいよ」

吹雪「そんなこと、いつも貴方は言うけど……何の意味があるの?」

妖精β「僕は知ってるけど言わない。君が気づくことだから」

吹雪「…わけがわからないよ」

妖精β「わかってることの方が、わからないことより何時も少ない」

吹雪「提督も、貴方も、川内さんも、ここの皆は、そんなことが好きなの?」

妖精β「惜しいな。そう言うコトじゃないんだ」

吹雪「だったら何なの?」

妖精β「それは君が気づくことだよ、吹雪」


~母港~


吹雪(出撃もなし、やるコトもなし、わたし、何だろ?)

吹雪「……ほんと何してるんだろ、私」

瑞鶴「吹雪?」

吹雪「瑞鶴さん」

瑞鶴「朝、早いわね。何してるの?提督さんの朝練の付き合い?」

吹雪「いえ違います。と言うか…司令官、そんなことしてたんですね」

瑞鶴「私には腕相撲負けるけど…、提督さん鍛えてるから」

吹雪「とてもそうは見えません」

瑞鶴「見えないのが、人じゃないかしら?」

吹雪「…そうですけど」

瑞鶴「じゃあ。吹雪に提督さんのこと教えてあげる」

吹雪「ありがとうございます」


瑞鶴「見ての通り、提督さんは女性です。彼氏はいないみたい。でも、チャーハン作るの上手よ。でもカラオケは下手ね。趣味は、色々みたい。ギャンブルもするわ、特に競馬を思い出した時に大当たりさせてるわ。あと食べ物だと、蟹缶が好き。それから、猫に死ぬほど嫌われる体質。提督さんは嫌いみたいだけど、子供に好かれる。特に小さな男の子から」

吹雪「…困る情報です」

瑞鶴「でも、他人の事ってほとんどそうじゃない?」

吹雪「かもしれませんね」

瑞鶴「でしょ?その人がわかるって言えても、誰かに説明するのはとても骨が折れるのよ」

吹雪「……そう思います。それで、瑞鶴さんは、こんな朝に何を?」

瑞鶴「久しぶりに練習してたの」

吹雪「そうなんですね…」


瑞鶴「シャワー浴びたら、大学行くけどね。ちょっと失敗したかな」

吹雪「…じゃあ、練習しなくても良かったのでは?」

瑞鶴「さぼって勘を落としたくないから。だから、たまにしてるの。それだけ」

吹雪「なるほど…」

瑞鶴「じゃ、行くわ。そろそろ」

吹雪「………あの、瑞鶴さん」

瑞鶴「なあに?」

吹雪「質問いいですか?」

瑞鶴「いいわよ」


吹雪「なぜ学校に行かれてるんですか?」

瑞鶴「あー………」

吹雪(まただ、こんな対応)

瑞鶴「理由なら言えるけど、吹雪はそれをどうして知りたいの?」

吹雪「…えっと」

吹雪(…なんでそんなこと聞かれるんだろ)

瑞鶴「ね、吹雪」

吹雪「はい」

瑞鶴「おせっかいだけど、吹雪は自分って考えた事ある?」

吹雪「あります」

瑞鶴「どんな風か教えてくれない?」

吹雪「私は誰だろうって」

瑞鶴「じゃあ吹雪は誰なの?」

吹雪「私は私です。吹雪です。それ以外には言えません」

瑞鶴「……そっか」

吹雪「?」

瑞鶴「ピカソのリトグラフは全て同じだと思う?或いは、同じカメラとレンズで撮影した、写真家と素人の撮影データの違いとか」

吹雪「瑞鶴さん?」

吹雪(リトグラフ?ピカソ?なに?)

瑞鶴「課題で出されたテーマなの。吹雪ならさ、どう答える?」

吹雪「よく、わかりません」

瑞鶴「うん、あたしもよく分からない」

吹雪「瑞鶴、さん?」

瑞鶴「…さて問題です。同じ絵なら、作品として何が違うのかってことね。絵をマスプロって言い換えてもいいけど」

吹雪「…?」

瑞鶴「あたしからの吹雪への宿題」

吹雪「宿題?」

瑞鶴「覚えてたら、教えてね」

吹雪(そう言うと、瑞鶴さんはすたすた歩いてきます)

吹雪「なんだったんだろ…」


~執務室~


提督「それで?」

吹雪「ですから…待機に耐えられそうにありません。何か命令を下さい」

吹雪(タバコをくわえた司令官が見つめてきます)

提督「…どんな命令でも?」

吹雪「はい」

提督「なら、質問だけど。その命令が、死ねと言うような内容でもいいわけ?」

吹雪「それが作戦の中でなら」

提督「自己犠牲って奴ね」

吹雪「はい。私が大破していても、進撃しろと司令官に命じられれば、私はします」

提督「………」

吹雪(司令官は、机から立ち上がると、執務室の応接セットのソファーに座りました。私を見て、司令官は座るように促します)

提督「君は、真面目だね」

吹雪「…よく言われました」

提督「だからクズだ」

吹雪「?!」

提督「はっきり言うけど。駆逐艦は安い」

吹雪「………!」


提督「考えてもみなさいよ。上から君たちに名指しで与えられる任務は地味なものばかり。輸送任務が多いことも、事実でしょ?それに、いくら砲撃の代わりに魚雷があっても、相手が大型艦であれば彼我の差はなんともしがたい。だから、華々しい戦いを他艦種に譲ってしまうこともあるだろうね。何せ、覆せない火力、そして重要度の差が、他の艦種と比較した時に君らには存在するんだから」

吹雪「それは…わかってます」

提督「だからこそ君たちは軽んじられる」

吹雪「……」

提督「所詮代用できる存在だと、多くの提督から思われてる。君たち駆逐艦を捨て駒にすることは、たとえば……瑞鶴のような空母を捨てるより、多くの指揮官にとっては選択しやすい。私も例外ではないよ。君たちのコストはあまりに安いし、君ら程度の犠牲はペイできると考えてる」

吹雪「……だったら」

提督「うん?」

吹雪「司令官は、何故私を移籍させたんですか?」

提督「それは知らなくていい」

吹雪「何故ですか?!」

提督「私が答えたくないと思っているから。君の人事の秘密を話したくて、私は吹雪をうちに呼んだわけじゃない」

吹雪「司令官の言ってることがわかりません!」

提督「私は『わかった』と勘違いされるのが怖いだけだよ」

吹雪「それでもです!」

提督「時期が来れば話そう」

吹雪「司令官!」

提督「吹雪…あまり私を失望させないで」


吹雪「お願いします。教えてください。もう、本当に…ダメなんです」

提督「最初に言ったでしょ。何をしたって良いって」

吹雪「それが、わからないんです!」

提督「……では解体の方が良いって思うのかな、吹雪」

吹雪「これなら普通の女の子の方が楽かもしれません…」

提督「そっか、『普通の女の子』ね」

吹雪「司令官?」


提督「今はもういい、戻りなさい」

吹雪「待ってください!」

提督「午後から、浜風とできるような任務を与えるよ。それでいいでしょ?」

吹雪「………う、…」

提督「じゃあ、出た出た」


~洋上~


浜風「…そんなことがあったんですか」

吹雪「もう、司令官が分からない」

浜風「そうでしょうか?」

吹雪「じゃ浜風は、どうしてそう思うの?」

浜風「提督は無駄はしても、あまり間違えはしません。ひどく効率が悪く見えますが」

吹雪「信じられない」

浜風「吹雪はそう思っているんですね」

吹雪「うん」

浜風「でも信じてます」

吹雪「そっか………でも、わかんないんだよ。浜風。最近、いろいろな事が」

浜風「例えば?」

吹雪「うまく言えないんだけれど…」

浜風「…なんでしょうか?」

吹雪「絶対、瑞鶴さん、川内さんは他の瑞鶴さんや川内さんと違う。山城さんだってそう」

浜風「それが?」

吹雪「…艦娘として間違えてる気がするの。私もそこに入れて、他の同型とは違う気がするの」

浜風「そうですか」

吹雪「浜風は不安にならないの?」

浜風「全然。私は私が他の浜風と違っても興味ありません。沈まず戦えることが重要ではありませんか?」

吹雪「……そうだけれど、けど」


浜風「……それでも、今は行きましょう。予定よりも遅れ気味です。目的地まで急ぎます」

吹雪「…わかった」

浜風「吹雪。私たちは余裕があるから、そんな事を考えてるだけかもしれません」

吹雪「……かもね」

浜風「速度を上げましょう。嫌な天気です」


~執務室~


提督「…………」

妖精β「煙草クサ」

提督「なんだ。お前なの」

妖精β「換気しなよ。肌が腐るぜ」

提督「は、可笑しいわね。ねえ、こんな私を誰が好いてくれる?」

妖精β「いるさ」

提督「好き者だね、そんな男」

妖精β「…非合法の、そのタバコをまずやめなよ。それからちゃんとメイクすること」

提督「媚だと思うの、惰性の化粧って。ロクでもない男へ愛想を出すなんて最低」

妖精β「ね、荒れすぎだよ、提督」


提督「そりゃねえ、あんな電話を受けるくらいだから……時々、自分が嫌になる」

妖精β「君は、心をもっと開くべきだよ」

提督「開いてるよ、みんなに」

妖精β「嘘だよ…ぜんぜん違うよ」

提督「誰に開いてないと思うの?」

妖精β「吹雪だよ」

提督「…………」

妖精β「図星だろ、提督。さっきの君の吹雪への言い方はなんだい?まるで駆逐艦が要らないみたいじゃないか」

提督「価値が低いと言っただけよ」

妖精β「他ならぬ君自身が、その事情をよく知ってるだろ。なのに、あの子によく言えたね」

提督「言っちゃ悪い?」


妖精β「吹雪を傷つけないであげなよ」

提督「…もっと残酷なことを言えばいいのかな?心が強くなるまで、折ってやるの」

妖精β「バカを言うな。君は…先に吹雪が潰れるだけだ」

提督「知ってる」

妖精β「ひねくれすぎだよ。いい機会だ。告白すべきだ。君の過去を包み隠さずに、ね。個人的な意見だけど、あの子たちに君の秘密を黙っているのはフェアじゃない気がするんだ」

提督「山城は知ってるでしょ」

妖精β「だからって…瑞鶴や、川内、そして浜風、吹雪には黙ってるの?君の話が必要なのはあの四人だ。君の生き方が、彼女らの助けになるって、何でわかんないんだよ」

提督「話しても意味がない。君達だってそう思ってるからこそ、浜風と吹雪に、あの対応なんだろ?」

妖精β「提督…」

提督「何かを与えて導くのは、偽善だよ。痛みを消してやっても、やがて死に至るかもしれない。ましてや彼女たちなら、心が衰えるだろうね、確実に」

妖精β「だから苦しめと?」

提督「誰かの救済なんて期待するなって言いたいだけ。誰に祈っても意味がないのに」

妖精β「時々、君が分からなくなるよ。僕には」

提督「何とでも…それに瑞鶴と川内は、もう言っても変わらない。彼女たちの答えは、彼女らの関係の中で出すしかない」

妖精β「それはそうだけど、さ。でも」

提督「β。なんにせよ、私は…」

(ジリリリリ

妖精β「電話だね。しかも、その着信音は…舞鶴だね」

提督「また、話す」

妖精β「それがいいよ。あと君も、鍛えたほうがいいんじゃないかな?」

提督「…あんまりうるさいとスリッパで叩く」

妖精β「そうかい。じゃあ、また」


~洋上~

ヲ級「……」

吹雪「…なんで?!」

浜風「吹雪、走って!」

吹雪(突然、空母とその護衛が出てくるなんて!)

浜風「…どこかの艦隊の撃ち漏らしでしょう。ヲ級は、小破。随伴艦も、中破のものが少なくありません。潜行していたんでしょうね。あの様子では」

吹雪「…っ!」

浜風「最大戦速で振り切ります。足が遅くなってることを祈りましょう」

吹雪「わかってる!」


浜風「敵、艦載機来ます!」

吹雪(怖いけど、やるしかない!)

吹雪「当たって!」

浜風「対空戦、ね」

吹雪(ダメだ、浜風はともかく、うまく当たんない)

浜風「吹雪!」

吹雪「あうっ?!」

吹雪(うそ、あんな攻撃に当たったなんて)

浜風「よかった…まだ、大丈夫。航行できる」

吹雪「ごめん…」

浜風「いえ。それより、追いつかれました」

吹雪「そんな…」

人としてキチンと出来てないと妖精に苦言を呈されてるような人間(しかも諦観して改める気無し)が他人を更生しようとか何様だろうね
しかもそれでいて吹雪以外の他の奴はほっぽらかしだし


浜風「…吹雪、先に」

吹雪「浜風?」

浜風「雷撃、開始します」

吹雪「何、してるの!?」

浜風「時間稼ぎです。吹雪は戻ってください。…提督に電文を」

吹雪「何言ってるの?!」

浜風「私のほうが時間を稼げます。練度から考えても妥当です。早く、吹雪」

吹雪「…嫌です。そんなこと!」

浜風「吹雪!」

吹雪(あ、ダメだ。ヲ級の艦載機…ここで、私たち沈んじゃうの?)

??「見つけました」

??「二人とも、がんばって!」


吹雪「入電?あと、艦攻?」

浜風「……どうやら、味方のようですね」

吹雪「すごい…」

吹雪(ヲ級の艦載機が次々落ちてく。そして、助けてくれた艦隊が見える)



??「大丈夫ですか?!」

??「…やっぱり駆逐艦二人だったね、大井っち」

??「北上さん、駆逐艦は無視して集中してください」

??「やりました」

??「nice、加賀」

??「たまたまでしょ」

??「五航戦…今、なんて言ったの?」

??「喧嘩は後ネ。奴を〆るヨ」


吹雪(すごい。ヲ級たちが沈んでく)

浜風「ありがとうございます。助かりました」

金剛「当然ネ」

加賀「…金剛、あなたの撃ち漏らしでしょう?」

金剛「foo、加賀はキツいヨ」

瑞鶴「だから、怖がられてるのよ」(ボソ

加賀「…それはどう言う意味かしら?」

瑞鶴「別にー?なんでも有りませんけどー?」

北上「喧嘩はやめなよ…だるいし、帰ろ?」

大井「ですね!…問題ないんでしょ?貴方たち」


浜風「ええ。痛みますが問題はありません」

吹雪(そんな風に答えた浜風に、『彼女』は言う)

吹雪改二「あまり無理しないでくださいね」

浜風「ありがとうございます」

吹雪「………」

吹雪(私、だ。改二だけど)


金剛「oh、彼女も、ブッキーですね」

瑞鶴「本当だ」

吹雪(瑞鶴さんだ。やっぱり、うちの瑞鶴さんとは違う)

加賀「…特別珍しいことでは無いでしょう。ところで、貴方たち、どうしてこんな場所に?」

浜風「任務です」

加賀「何処の所属か、教えてくれないかしら。交戦中に邂逅したことを報告しないといけないから」

浜風「◯◯です」

北上「◯◯?」

大井「ありましたっけ、そんなところ」

金剛「知らないネー」

瑞鶴「…嘘つかなくてもいいのよ。二人とも」

加賀「五抗戦、黙りなさい」

瑞鶴「ちょっと!」


加賀「それと、金剛、ボケたのかしら?……例の所よ」

金剛「……I know.あそこですカ。なら思い出しましタ」

吹雪「…??」

吹雪(二人は、うちの鎮守府の知ってるの?)

北上「…あー、提督が電話でキレてたとこ」

大井「そういえば、怒ってましたね」

浜風「…それがどうかされました?」

加賀「個人的な話よ」

金剛「そうデス」

吹雪「……」

加賀「なら、二人に質問してもいいかしら」

浜風「構いませんが」

加賀「…あの瑞鶴は、何をしてるの?」

吹雪「瑞鶴さん?」

瑞鶴「ちょっと、加賀さん。他所の私まで、何か言うつもり?それって横暴じゃ」

加賀「貴方は、黙ってて」

瑞鶴「な、なによ。そんな言い方、ないじゃない!」

北上「そうだよ、加賀」

金剛「加賀、cool down,相手が怖がってるヨ」

加賀「…ごめんなさい。瑞鶴も」

瑞鶴「別に、いいけど…」

吹雪(ちらりと、皆私たちを見てきます。何かあったのでしょうか…?)


浜風「…質問に答えさせていただきます。瑞鶴さんは、瑞鶴さんです。今は大学で勉強されてます」

加賀「そう。わかったわ」

金剛「…山城モ?」

浜風「山城さんは、何処かで働かれています」

金剛「フウン。I see」

吹雪(終わったんでしょうか?)

北上「なら、戻ろうよ鎮守府に。ヲ級との追いかけっこ、疲れたし」

大井「そうですよ。さっさと行きましょ。吹雪も思うでしょ?」

吹雪改二「え?ええ」

瑞鶴「さんせーい」

金剛「じゃ、帰りましょウ!」


吹雪(そうして、どこかの鎮守府の方々は帰投していきます)

加賀「……そうだ浜風。最後に伝言頼めるかしら」

浜風「かまいません」

吹雪(浜風が加賀さんから伝言を受けてる時、わたしの近くを私が滑って行きました)

吹雪「………」

吹雪改二「…さっきの動き、なに?」

吹雪「…ッ?!」

吹雪(振り返れば、もう『わたし』は遠くにいます。けど、あの声がずっと耳に残ってました)

~瑞鶴自室~

瑞鶴「もう治ったの?」

浜風「ええ。すっかりよくなりました」

瑞鶴「珍しいじゃん、浜風が来るなんて」

浜風「瑞鶴さん宛に、伝言があったので」

瑞鶴「誰から?」

浜風「舞鶴の加賀さんからです」

瑞鶴「じゃ、近くで言ってくれない?……今、ネイルの仕上げだから、動けないの」

浜風「分かりました」

瑞鶴「で、加賀は何って?」

浜風「『貴方を認めない』だそうです」

瑞鶴「そんなことか。あの加賀も根暗ね。どうして加賀って性格がきつくて、悋気が強い女しかいないのかしら?」

浜風「さあ?」

瑞鶴「あんたたち、浜風も大概だけどね」


浜風「…では、伝言を伝えましたので」

瑞鶴「待った。お礼させて」

浜風「…ネイルがあるのでは?」

瑞鶴「今終わったの。貸してみて、塗ってあげるから」

浜風「わたしは、いいです」

瑞鶴「はいはい黙った黙った。大人しく手をだす、ほら」

浜風「合理的ではありませんね」

瑞鶴「けど、装う事は自己表現よ。生きるためのね」

浜風「……」


~談話室~


川内「暗い顔で、どうしたー?吹雪ー」

吹雪「あ…川内さん」

川内「ん、どした?」

吹雪「あ、いえ、別に…」

川内「今日のことで凹んでるの?仕方ないよ、最初っからなんて上手くできないよ」

吹雪「……あ、いえ、それも…まあ」

川内「歯切れ悪いね?」

吹雪「その、助けてくれた人が…舞鶴の方だったんですけど」

川内「うん」

吹雪「山城さんや、瑞鶴さんのことを気にされてました」

川内「ああー」


吹雪「川内さん?」

川内「うちの瑞鶴と山城は有名人だからね。瑞鶴なんて、全国の空母たちの共同演習に、学校帰りに参加して圧倒的な成績出したそうだから」

吹雪「あの、瑞鶴さんが?」

川内「うん。…頭おかしいからね。うちのズイズイと山城はああ見えて腕っ節が強いから」

吹雪「山城さんも、そうなんですか?そうは見えませんけど」

川内「歴史上でも珍しい、戦艦最後の砲撃の経験は伊達てないからね。それに………やめた、これは別にいいや」

吹雪「?」

川内「なんにせよ、あの二人は飛び抜けてるよ。うん」

吹雪「……そうです、よね」


川内「まだ何か黙ってるな、吹雪」

吹雪「…いえ、そんなことは」

川内「言ってみなよ。笑うかもしれないけど」

吹雪「笑うんですか?」

川内「さあ?吹雪が面白く話せばだけど。ほら言った。…ほんと嫌なら、言わなくてもいいけどね」

吹雪「……実は、」

川内「うん」

吹雪「わたしと会ったんです」

川内「わたし?ああ、吹雪ってことね。吹雪と同じ、吹雪」

吹雪「はい。それで、その…向こうが改二で」

川内「うん」

吹雪「どうして、私は戦えないのかって、思っちゃって…それで、私…私は」

川内「悔しい?」

吹雪「わかんないんです、そうなのかも…ただずっと覚えてて…」


川内「ざっくりしてんなー、それ」

吹雪「…そうですね。どうしたいのか、わかんないんです」

川内「わかんなくてグチャグチャ?わかんないことがわかんないじゃなくて?」

吹雪「はい。…わたしが吹雪であるのかも、よくわかんなくなってきました」

川内「どゆこと?」

吹雪「…わたしは吹雪だけど、吹雪らしくないじゃないかとか、…ごめんなさい、何言ってるんだって話ですよね」

川内「うーん、わかんないね」

吹雪「ですよね…」

川内「でもさ、そう考えられるって、いいことじゃない?」

吹雪「そうですか?」

川内「だよ。瑞鶴なら、自我の芽生え云々とか言いそうだもん。提督は別だけど」

吹雪「……ううん?」


川内「だから、今日は考えるのをやめよう。吹雪」

吹雪「ええ?」

川内「はい、ボウリングのチケット」

吹雪「いや、わかりますけど、何ですか?」

川内「提督からもらったから行こうよ?負けたら罰ゲームね」

吹雪「え?え?」

川内「…そうだな。負けたら額に肉だね。油性ペンで。それか、逆ナンね」

吹雪「ちょちょちょっと!待ってくださいよ!」

川内「待たない!よーし、うちのキタローも誘おう。あいつプロテイン飲んでるくらい面白いから」

吹雪「あ、ちょっと川内さん、引っ張らないで!」


~執務室~

山城「提督」

提督「……どうした、山城」

山城「こちらのセリフです。どんな大声を出してるんですか」

提督「機嫌が悪くなっただけ。舞鶴の阿呆が浜風と吹雪の件を恩着せがましく言ってきたから」

山城「…だから物にも当たったんですか。マグを握って割るだなんて…また貴女は…手を切ると言うのに」

提督「つい手元がね。それにこれくらい、すぐ治る」

山城「…ご自愛ください。貴方は提督なんですから」

提督「提督ね…」

山城「事実でしょう」

提督「そうね。ねえ山城、私が提督でいいのかしら」

山城「どうかされましたか?」


提督「…どう生きるのがよかったんだろう。そう考えてた」

山城「……提督?」

提督「ごめん。独り言」

山城「なら、良いのですが」

提督「ああ、そう山城。明日、人が来るから用意しておいて」

山城「かしこまりました」

提督「よろしく。ハラ立つ男だから、私がキレたら抑えてね」

山城「舞鶴ですか…あれだけ怒っておいて…」

提督「うん。来るなって言ったが来るんだど。建前は、失敗を謝罪したいって理由らしい。断ってやりたかったけど…上官命令だとね」

山城「…それなら、まず耐えてください。壊すのが、マグくらいならいいですけど」

提督「善処する」

~翌朝~


吹雪「浜風、おはよう」

浜風「おはようございます」

吹雪「昨日は、ありがとう」

浜風「別にかまいません」

吹雪「うん、でも気分だから」

浜風「そうですか」

吹雪「あのさ、言うね。浜風のこと、私、誤解してた」

浜風「吹雪?」

吹雪「うん。それが言いたかっただけ。これからもよろしくね」

浜風「変な吹雪ですね」

吹雪「かもね」

川内「…おーい、吹雪」

吹雪「川内さん?」

川内「提督が呼んでるよ」

吹雪「わかりました。いきます」

川内「なんかしたの?」

吹雪「あ、いえ。わかりません」

川内「じゃ、伝えたからねー」


~執務室~


舞鶴提督「…ああ、彼女も吹雪だったのか」

提督「見れば分かるでしょ」

吹雪「え、えと」

山城「吹雪。こちらにいらっしゃい」

舞鶴「わたしのところは、改造済みでね」

吹雪改二「……」

提督「自慢か」

舞鶴「悪いかな?」

提督「別に」

吹雪「あ、あの…」

提督「まあ、座れ。昨日の状況を確認したくて、いらした…」

舞鶴「舞鶴の◯◯だ。よろしく」

吹雪(舞鶴の提督…大将。40代くらいの、ロマンスグレーの素敵な男性です)

吹雪「初めまして」

舞鶴「ウチの撃ち漏らしが原因で迷惑をかけて申し訳ないね」

吹雪「あ、いえ…」

舞鶴「ただ、ウチの吹雪からちょっと聞いたが…君はひどく危なっかしいそうだね」

吹雪「え?あ?」

提督「…おい、タヌキ」

舞鶴「タヌキとは失礼な。太ってもないぞ?」

提督「とぼけるな」

舞鶴「いやー厳しい。妙齢の女性に、いじめられるなんてね。僕、泣いちゃうよ?」

吹雪(ちょっと訂正します。この人、軽そうです)


提督「…気色悪い。それで、突然なんのつもりだ?謝罪は済んだ。で、吹雪を呼び出したが」

舞鶴「確認だよ」

提督「確認?」

舞鶴「そう。それでだね、吹雪」

吹雪「は、はい」

舞鶴「君は、最近移籍したって本当かい?」

吹雪「え?はい、そうです」

舞鶴「そうか。なら、練度はまだまだ低いんだろ?」

吹雪「…その通りです」

吹雪(…なんだろ?)


提督「おい。何が言いたい?」

舞鶴「急かすなよ」

提督「要点を言わない、お前が悪い」

舞鶴「だからさー、君な…いいや、うん。そうね、ぼくは単に合同演習を申し出たいだけさ。ほら、お互いにメリットがあるだろう?ね?」

提督「…なるほど」

舞鶴「悪くないでしょ?駆逐艦とかの育成も兼ねて、どうよ?」


提督「吹雪を呼ばせたのは」

舞鶴「ん?」

提督「ここまで考えてか?」

舞鶴「なんのことやら」

提督「電話の意匠返しのつもりか?」

吹雪「司令官?」


提督「吹雪。黙ってて」

舞鶴「喧嘩っ早いな~。怖いぜ表情」

提督「誰が売ってると思ってるんだ、ええ?」

舞鶴「まあ怒るなよ。練度に関しては、真実じゃないか。それに、喧嘩に乗ったのは君だ」

提督「あ?陸で沈めてやろうか」

山城「提督。抑えて下さい」

舞鶴「怖いな。なあ、まるっきり全てが悪い話じゃないだろう?」

提督「私の心の健康は悪いな」

舞鶴「ははは、それは失礼。でも、君は自分の部下が負けるとでも言うのかい?」


提督「…勝っても負けてもお前にしか利益がないだろう」

舞鶴「利益なんてないじゃないか。ああ、でも私たちが負けて君がわたしの配下に入ってくれるなら、喜んででするのだがね」

提督「断る」

舞鶴「ふられたな」

提督「もしも、お前が女でも同様だ」

舞鶴「手厳しいなぁ、君は」

吹雪「…お話しが、よく見えませんが」

提督「話しは全て終わってるんだが、コイツが」

山城「提督。抑えてください」


舞鶴「いやなにね、吹雪くん。わたしがわがままを言ったんだよ。実際にねえ、君の顔を見てみたかっただけさ」

吹雪「はぁ…?」

舞鶴「けど、うん。君には悪いけど、ウチの吹雪の方がいいね」

吹雪「…っ」

吹雪改二「…」(フッ


提督「おい」

舞鶴「おっと失礼」

吹雪「…それはどう言う意味ですか?」

提督「吹雪!」

山城「吹雪、やめなさい」


舞鶴「いや、なんかトロそうだから。彼女の部下って事もあるし」

吹雪「………」

提督「部下が失礼した。けれどお前、私の部下に何のつもりだ?」

舞鶴「なんでもない。なんでもないとも、ねえ?」

吹雪「…ませんか」

舞鶴「ん?」

山城「吹雪」

吹雪「訂正していただけませんか。トロいってこと」


舞鶴「……動きを見ないことにはねえ」

提督「おい吹雪」

吹雪「証明します。トロくないこと」

舞鶴「いいね。じゃあ…そうだな、やはりここは演習で雌雄を決めようか。腕力で決める、簡単だろ?」

提督「吹雪!」

舞鶴「おや、君は取り消すのか。部下は勇気あるのに、司令官は尻尾巻いて逃げる。ああ、君は振る方が得意かな?お尻をねえ、こう」

提督「……お前。いい加減にしろ」


山城「抑えてください提督。貴女が手を出せば、どうなるか分かってるでしょう?」

舞鶴「おお、怖い。なんにせよ、楽しみにしてるよ」

提督「くそが。おい、これを見越してか?」

舞鶴「さあ?」

提督「お前」

舞鶴「ま、ちょっと私も部下から言われててね…性格が悪いですって」

提督「節穴の部下ばかりじゃないんだな」

舞鶴「おかげさまでね。ともかくだ、演習くらいいいだろ?」

提督「………」

舞鶴「君の性格上、逃げないだろうし……うん、お互い正々堂々とやろうか。山城くんも、そう思うだろう?」

山城「………私にはなんとも」

舞鶴「あーあ、嫌われた」


提督「ふざけるな。うちは5人しかいないぞ?」

舞鶴「そーか…ふむ。なら、横須賀に言え」

提督「横須賀?」

舞鶴「アイツ、経験のためにと酒匂とプリンツオイゲンの派遣の打診をしてきていたよ。彼なら、君に喜んで貸してくれるだろう。連携もあるし。同じ太陽を見た仲間だろう?」

提督「…受けるとは言ってないが」

舞鶴「そうだね、2週間後くらいの演習はどうだ?」

提督「話を聞いていたか?」

舞鶴「聞いてたさ」

提督「では私が受ける前提で話を進める理由を教えてくれ」

舞鶴「君が受けると思ってるからだよ」

提督「………」

舞鶴「なんなら、六人目、君がどうにかしてもいいけど?」


吹雪改二「……司令、お時間です」

舞鶴「あ、時間?じゃ、そうだね。私から、それだけ。楽しみにしてるよ、演習で会えるの」

吹雪「……」

舞鶴「そっちの吹雪も元気でね~」


~鎮守府外~


吹雪改二「司令官」

舞鶴「ん~?」

吹雪改二「喧嘩売りすぎではないですか?」

舞鶴「いやー、いいよ、これくらい」

吹雪改二「これくらいって……規模でも成績でもウチが優っているのに、なぜあの様な格下相手に…」

舞鶴「そこが頭の痛いとこなんだよ吹雪」

吹雪改二「?」


舞鶴「吹雪。あの場にいた吹雪と山城に違和感を感じなかった?」

吹雪改二「いえ、吹雪が生意気だなくらいしか…」

舞鶴「それだよ。普通、艦娘は他所の提督に噛みつかない。だけど、あの吹雪はそれをした」

吹雪改二「?」

舞鶴「だから、危険だよ」

吹雪改二「司令官のおっしゃる意味が今ひとつ理解できません」

舞鶴「あーごめんね吹雪。あとで説明してあげる。兎に角ね、あいつ含めて誰かの麾下に入れた方がいいのさ」

吹雪改二「提督を指揮下にと言うのもおかしな話です」

舞鶴「まま、そこは……ほら、司令長官にぼくがなるみたいなね?」

吹雪改二「…左様ですか」

舞鶴「左様左様。いや、吹雪は聞き分けがいいから。好きだよ、ホント。分かりやすくてさ」


~執務室~


提督「吹雪」

吹雪「……」

提督「啖呵を切ってくれたけど、どんな気持ち?」

吹雪「……すみません」

提督「今は責めない。私に教えて欲しい」

吹雪「…悔しかったです。バカにされたことが」

提督「でも事実じゃないか」

吹雪「今はです。未来は違います」

山城「吹雪」


提督「そうか…言ったな」

吹雪「…あ…う…」

提督「終わったことだ。仕方ない。君は言動を自省することだ」

吹雪「申し訳、ありません」

提督「問題は演習だ。さて、どうするか」

山城「…まさか、提督。受けるおつもりですか?」

提督「形だけでも受けざるをえないだろう」

吹雪「……拒否しないんですか?」


提督「あの手の男は陰湿で嫉妬深い。負けたり勝ったりするより、逃げるのが一番ダメなのさ」

山城「ですが…流石に戦力差があります。一隻分は大きい穴です」

提督「…負けていいんだ。演習自体はするだけするよ。世話をかけるな山城」

山城「いいえ。その理由なら、了解しました」

提督「…山城、吹雪。じゃあ出てっていいよ」

吹雪「司令!」

提督「ん?」

吹雪「負けたくないです」

提督「…そうか、なら同じ吹雪だけは倒してみろ」

吹雪「はい」


山城「吹雪。貴方…」

吹雪「悪いことしたと思ってます。けど…」

山城「…けど?」

吹雪「でも、嫌なんです」

山城「……わかったわ。けど、提督に言ったことはどう実行するの?」

吹雪「う…う」

山城「…だと思った。なら、川内に事情を話しなさい」

吹雪「山城さん?」

山城「面倒見てくれる筈だから。あなたから頼んでみなさい」


川内「まじ?舞鶴と演習?」

吹雪「はい」

川内「うわー、うわぁ…吹雪が脳筋だった」

吹雪「…ぅ、そう言われるとかもしれませんけど」

川内「まあでも、うん。それくらいならいいよ」

吹雪「本当ですか?」

川内「うん、練習ならね…ただ、来週にしてよ。今週はちょっと先生と用事あるから」

吹雪「あ、ありがとうございます!」


浜風「吹雪、いいですか?」

吹雪「浜風?」

川内「おや、乳風どうした?」

浜風「浜風です。吹雪、提督がお呼びです。もう一度、見てやるだそうです」

吹雪「え?」

浜風「え?とは何ですか」

吹雪「わかりました。行きます」

吹雪(司令官が?どんな風の吹き回しだろう…)


川内「おぉ~、慌ただし。けどま、なんでそんなにも入れ込むんだろ?」

浜風「彼女にとっては初の演習らしいです」

川内「そうなの?だから来たんだ」

浜風「そうですよ…他にも理由はありそうですけど」

川内「だね…時に浜風。そのネイルの色いいね。どしたの?」

浜風「瑞鶴さんが勝手に」

川内「あー、なるほど」

浜風「?」

川内「予行演習だねぇ、後輩の爪でやるなんて。ズイズイも可愛いな」

浜風「瑞鶴さんが可愛いですか?川内さん、どう言う意味でしょう」

川内「そのままだとも、浜風。よし、いいかい?」

浜風「なんでしょうか?」

川内「今週の金曜か土曜にズイズイに、黙っていて欲しければスイーツバイキングに連れて行けと言うんだ」

浜風「…意味がわかりません」

川内「大丈夫。言えば連れててってくれるから。あ、ズイズイが気合入れた服着てる時だよ?」

浜風「言うことは、了解しました」

川内「お願いねー」


~母港~


吹雪「…また、ですか?」

提督「悪い?」

吹雪「……いいえ」

提督「さあ撃った」

吹雪「わかりました。いっけえ!」

提督「ハズレ……次」


~しばらくして~

提督「次」

吹雪「…スルーしないでください」

提督「何、へばった?」

吹雪「そうじゃないです。こんなに、外してるのに。何も言わないんですか?」

提督「言ってどうなる?」

吹雪「う…」

提督「なら、次は雷撃」

吹雪「…行きます。当たって!」

提督「………」

吹雪(提督が頭を抱えてます)

提督「吹雪、もういい。ちょっと」

吹雪「…?」

提督「近くに来て」

吹雪「あ、はい」

提督「わかった。基礎からやるから。ほら、脇を締めて重心を…」

吹雪(司令官が私に構えさせます)

吹雪「あの、司令官」

提督「黙って」

吹雪「は、はい」

提督「さ、これでいい。押さえてるから撃って」

吹雪「いや、それだと司令官が…」

吹雪(硝煙とか発射音で酷いことになるんですけど)

提督「いいから」

吹雪「わかりました。撃ちます!」

提督「…ほら命中」

吹雪「え…?」

吹雪(嘘、あたった?)


提督「何、その顔」

吹雪「ほんとだ、ほんとだ!」

提督「…次はどっちがいい?浜風が、対空は悪くないって言ってたし、雷撃にしようか」

吹雪「え、あ、はい!」

提督「出来るまでやるから」


~談話室~


山城「お疲れさまでした」

提督「ありがと。山城は、バイト戻り?」

山城「ええ」

提督「お疲れ」

山城「それで報告書を拝見しました。…本気で演習をするんですね」

提督「舞鶴のハゲだから。やむをえない。あんたも同席してたでしょ、山城」

山城「提督の性格なら取りやめる可能性も考慮してました」

提督「なるほど。ところで…ハゲとの演習自体は山城は別にいいんだ?」

山城「…悪人ではないと思いますが」

提督「でもデコが広い。それだけで有罪」

山城「不敬ですよ、提督」

提督「私は基本、私以外の提督は嫌いなの」

山城「そうですか。ところで…」

提督「ん?」


山城「吹雪に技術を教えたそうですね」

提督「それが?」

山城「どんな心変わりですか。浜風だって教えなかったのに。吹雪に川内に声をかける様にさせたんですけど、二度手間になりましたね」

提督「…それはごめん。けど」

山城「けど?」

提督「演習を受けた理由が吹雪だったから、かな」

山城「はい?」


提督「同じ吹雪には負けたくないんですって、うちの吹雪」

山城「知ってます」

提督「それなのに、あんまりにも下手なの知ってるから、つい手を出しちゃった」

山城「昔取った杵柄ですか」

提督「そうだね」

山城「…提督」

提督「ん?」

山城「僭越ながら、瑞鶴と川内には、提督ご自身の経歴を話してもいいのでは?」

提督「妖精と同じことを言う」

山城「瑞鶴は、もう選べます。それに私のように、艦娘を続ける理由もないはずです。川内も同様です」

提督「そうだね。この時代に変な話だけど」

山城「私からは以上です。これよりは提督の判断に任せます」

提督「そうだな……あー、湿っぽい。山城。浜風と吹雪を呼んできて」

山城「どうされました?」

提督「気分を変える。らーめん行くよ」

山城「え?」

提督「え?って何?」

山城「…今からですか?夕食も食べたのに」

提督「あなた好きだったじゃない」

山城「いや、私は、その……」

提督「らーめん」

山城「……たい、へん申し訳ないのですが」

提督「背脂マシマシの貴女が?」

山城「……体型が崩れてしまいますので、装備が」

提督「なら、余計知らない」

山城「ああ?!なんですか、その態度!」

提督「肉が怖くて、食事を楽しめるわけないでしょ」

山城「その引っ張らないで下さい」

提督「さあ、ラードが私たちを待ってる!」

山城「まってません!」

提督「いいだろ山城。私と共に体重計を前にして絶望しようじゃないか…」

山城「やめてください!…あ、わかりましたよ、服の号数また合わないんでしょ!」

妖精α(諦めなさい)

妖精γ(オークを前にした女騎士状態にしてあげる…)

山城「妖精さん?!どこ、ちょっと見てないで助けて!いや、提督、せめて浜風だけに…」


~らーめん屋~


吹雪「…ちょっと、キツイかな」

浜風「?」

吹雪「いや、浜風。不思議そうな顔をしても…あと、何で山城さんは泣きながら食べてるんだろう」

提督「乙女の敗北らしいな。こんなに美味いのに」

山城「…くッ、どうして、こんな…バルジが…」

吹雪(うわぁ…)

吹雪「司令官…」


提督「しかたないね。油は魔物だからね」

浜風「でも、美味しいです。らぁめん」

提督「なら、よかった。吹雪は?」

吹雪「ちょっと多いかもです。でも美味しいです」

提督「でも食べられそうだね」

吹雪「はい」

提督「しかし、吹雪」

吹雪「なんです」


提督「蒸し返すけど、ホント操艦下手」

吹雪「う」

提督「そのぶん、変な癖とかついてないからいいけどね」(チラ

浜風「……」

提督「浜風、君のこと。雷撃の溜め、あれダメだから」

浜風「はい」

提督「ま、努力しなさい。二人とも、方向性は悪くないから」

吹雪(…あれ?なんで司令官は詳しいんだろ?)

山城「うぅ…お箸が止まらないわ…ああ、ダメ、替え玉なんて…」


~吹雪自室~


吹雪「らーめん美味しかった…もう、寝ようかな」

妖精α「ほらよ、キャベ◯ン」

吹雪「うわ?!」

妖精γ「にんにくフレーバー女子はアウトです。…はいブレスケアも」

吹雪「あ、有難うございます」

吹雪(なぜ、鉄礬土味。そして何時の間に…)


妖精α「そういえば、山城が体重計の上で悲鳴あげてたね」

妖精γ「フッ、やつのラブハンドルは鎮守府最強…」

妖精α「あいしんくとぅー」

妖精β「ラブハンドル?」

妖精γ「あ、β」

妖精α「腹肉のこと。愛の取っ手だよ。山城、今カレシいないけど」

妖精β「ああ…」

妖精γ「山城もモテるんだけどね。こう、相手がオヂさんとか、キモデブとかなんだよね」

妖精α「その点、ズイズイと川内はいい男とっ捕まえてるから勝組」

妖精γ「でも、二人の肉は物足りないから、彼氏が羨ましくはない」

妖精α「それな」

妖精γ「…肉、肉なのだ。デヴに堕ちかねない危うさが良いのだ」

妖精β「それなら」

妖精α「どうした、β」

妖精β「僕は駄肉率一位は提督だと思う」

妖精α&γ「「ああ~、圧巻のぽんより。二の腕ヤバす」」

吹雪「ちょ、なんなんですか?私の部屋で猥談しないでくださいよ!」


妖精α「あざとさ特型」

妖精γ「それが吹雪型」

妖精α「白パンツはスタンダード」

妖精α&γ「「笑」」


吹雪「怒りますよ?!」

妖精α「なら撤収!」

妖精γ「ラジャー!」

吹雪「あ、こら!」

妖精β「ははは」

吹雪「笑ってないで!!」

妖精β「ごめんごめん。でも、ちょっと顔つきが良くなったね、吹雪」

吹雪「そうですか?」

妖精β「うん、何かあったの?演習するって聞いたけど」

吹雪「…司令官のおかげで、コツがつかめた気がするんです?」

妖精β「コツ?」

吹雪「はい」

妖精β「…いやいや、豚骨キチの彼女が君に教えたの?」

吹雪「そうですけど…?(豚骨キチ?)」

妖精β「………そうか、浜風じゃなくて君か…あいつの気持ちを動かしたのは」

吹雪「???」

妖精β「…演習頑張って。応援してるよ」

吹雪「あ、はい。頑張ります」


~某所~


川内「もういい?服着ちゃってもいいわけ?なーに、まだ全然じゃん」

川内「描けない?いつも言うよね、センセ」

川内「うーん?僕は美術屋だから絵が下手なんだ…なにそれ?人よりすごく上手じゃん」

川内「…別にいいけどね。センセの作るもの、なんだって私好きよ」

川内「ん?私の話?」

川内「…新しい子が来たんだけど、練習に付き合うことになったんだ」

川内「大変?そうでもないよ。あ、今度彼女の艤装も見せてあげようか?」

川内「え、いいの?倒錯だって?変なの、先生」

川内「呪縛?ふふ、やっぱり先生は面白いわ。そう、だから怨念背負ってるの私たち」

川内「形を強制している?…当たってる指摘かもね」

川内「あの子は違うのかって?ああ~、瑞鶴ね」

川内「うーん彼女はまた違うから。だから私が練習相手」

川内「……センセ、またその話?」

川内「辞めてどうするのさ、艦娘」

川内「わかんないよ、まだ。私が強いの知ってるでしょ?」

川内「モデルだけになるにはもったいないよ。うん、多分…」

川内「…私はこの感じがいいの。素敵だと思わない?」

川内「そんなこと。じゃ、ご飯行こ?フレンチが食べたい、あたし」


~母港~


吹雪「川内さーん!」

川内「ごめんごめん。お待たせ」

吹雪「すっぽかされたと思いましたよ…」

川内「悪いね。じゃ、やろうか」

吹雪「はい!」


~訓練中~


川内「ここまで」

吹雪「…まだやれます」

川内「気持ちはね。でも詰んでるよ」

吹雪「わかってます」

川内「バカみたいな練習量もいるけど、吹雪」

吹雪「はい」

川内「浜風に付き合ってるなら、今、吹雪にいるのは動きの考え方。練習した通りの動きを本番でできなきゃいけないから」

吹雪「…ですけど」


川内「焦る気持ちはわかるけど、今を見なきゃ。それに…何時までも私相手だと、癖がつきそうだしね」

吹雪「癖ですか?」

川内「うん癖。誰でもあるから…あー、瑞鶴がいてくれると良かったんだけど」

吹雪「言われれば、今朝から見てませんね」

川内「デートだって、彼氏と」

吹雪「知りませんでした」

川内「お弁当作ってったの知ってるんだから」

吹雪「ほんとですか?」

川内「羨ましいよね。今頃なにしてるんだか」

吹雪「…艦娘が付き合ってもいいんでしょうか?」

川内「知らない。ダメじゃないならいいってことでしょ」


~某所の観覧車~


瑞鶴「あ、ごめん溜息ついてた?」

瑞鶴「楽しかったよ。ほんと」

瑞鶴「ちょっと、嫌なことがあってさ。今度、私のこと嫌いな相手と演習なの」

瑞鶴「…演習嫌いだって言ってなかった?」

瑞鶴「言ったかな、私。でも、そうかもね」

瑞鶴「ありがと、気遣ってくれて。好きだなそんなとこ」

瑞鶴「照れすぎ。そんなに褒められると、恥ずかしいかな…」

瑞鶴「………何?進路で言いたいことあるの?」

瑞鶴「…それはやめて」

瑞鶴「なんで?君まで、軍属になって戦う必要ないでしょ」

瑞鶴「…守る、か」

瑞鶴「私は艦むすだよ?戦うのは仕方ないの」

瑞鶴「前も言ったよね。戦い終わった後で生きるために、勉強してるって」

瑞鶴「だから、ごめん」

瑞鶴「けどね」

瑞鶴「…………。なによ、その顔。はしたないとか言うわけ?」

瑞鶴「ちょっと、こっち見てよ。私の顔に何か付いてる?キスくらいいいじゃない」

瑞鶴「ならいいの。でも覚えてて。私が、君のこと好きなの本当だから」

瑞鶴「嘘じゃないわ。提督さんとは違う感情だもの」

瑞鶴「…応援行くよ?やめてよね、恥ずかしいから」


~山城自室~


妖精β「山城、ちょっといいかな」

山城「どうしたの?」

『…最初期の国産艦むすたちについての記録と、すでに退役済みの彼女たちの再軍備についてのガイドラインを、軍部に』

妖精β「ラジオはそのままでいいよ。演習のことさ」

『また解体後についての、公試結果の開示を陸軍が要求しており…』

山城「…そうね、三日後ね」

妖精β「仕上がりはどう?」

山城「上々だと思うわ。吹雪も人並みになった。問題は、川内と瑞鶴のやる気…それから応援」

妖精β「そうなんだ」

山城「まあ、なんとかなるでしょう。負けてもね」


妖精β「そっか」

山城「それだけかしら?」

妖精β「うん。…ちょっと、瑞鶴も川内も心配だけどね」

山城「そうね」

妖精β「あと提督が荒れてる」

山城「舞鶴提督ね…ほんとあの人は」

妖精β「気をつけてやって欲しい。アイツ、相当気に入らないことばっかりしてたから…」


山城「わかってる。あと、妖精さん」

妖精β「…どうかした山城?」

山城「お願いがあるの」

妖精β「どんなの?」

山城「友達のことで、私のわがままを聞いてくれる?」

妖精β「…どんなのかな?」

山城「友達がね、必要な時に助けてあげて欲しいの。それだけね」

妖精β「わかった…αとγにも頼んでおくよ。でも、僕から友達には連絡しないからね。それでもいい?」

山城「ええ。ありがとう」


~演習場、控え室~


吹雪「……」

浜風「緊張してるんですか、吹雪」

川内「そりゃ、お初ならね」

瑞鶴「バカ言ってないで行くわよ」

川内「あー、制服がきつくて胸当てを諦めた人は言いますなあ」

瑞鶴「つけてます、当ててます!サイズあってないの、あんたもでしょ!」

山城「…川内、ちゃかさない。皆、準備は出来た?」

瑞鶴「問題なし」

川内「です」

浜風「ありません」

吹雪「大丈夫です」

山城「覚悟はいいかしら?」


川内「…結局、6人目は来ないんだ」

吹雪「川内さん」

瑞鶴「呼ぶと思う、あの人?」

川内「だよね」

山城「…こればかりは仕方がありません。出来ることををしましょう」

浜風「了解しました」

山城「では、行きましょう。私たちの全てを出すつもりで」


吹雪「…瑞鶴さん。ちょっといいですか」

瑞鶴「どしたの?」

吹雪「前のこと、わかりました」

瑞鶴「…へえ。どう答えるの?」

吹雪「選ぶことと、考えることです。そう私は思ってます。たとえ同じものでも選んだなら、私だけのものです」

瑞鶴「そっか。覚えておくわね」

吹雪「はい」


~演習場 ロビー~


舞鶴「呆れた。6対6って申請したのに、5人のまま?」

提督「そっちは完全に潰しにきてるな」

舞鶴「当然じゃん。勝たないとさ、示しがねえ?」

提督「フン」

舞鶴「じゃ、何を賭ける?」

提督「何?」

舞鶴「賭けっていうか、対価だね。わりに合わないことしたんだ。この前の電話、覚えてない?」

提督「あの時、私に動けと?持ち主のいなくなった哀れな人形を潰せと?」

舞鶴「君ならバレずに鎮守府の制圧くらいできるだろ。僕と違って武闘派だから。それにメガネの配下くらい、お前には朝飯前じゃないか」

提督「くだらない」


舞鶴「君も海軍の人間だろ」

提督「人間ね……」

舞鶴「失礼」

提督「いい。それで、赤レンガからの駄賃につられるの?何が欲しいわけ、その歳で?」

舞鶴「君。地位、権力」

提督「本心からだったら、あんたを殺すわ」

舞鶴「怖。本当だよ…って言いたいが無理そうだ。おいおい殴るなよ?」


提督「何が無理だ?…ふざけてないで、本当のところ何がしたい?」

舞鶴「山城、瑞鶴、川内の移籍」

提督「その意図は?」

舞鶴「強いのが欲しいんだ。少しでも呉を潰しておきたい。大規模作戦決行も近いしね」

提督「断る」

舞鶴「じゃあ君らの解体に切り替えようか」

提督「は?」


舞鶴「正直言うとね」

提督「待て。何を言ってる?」

舞鶴「本音を言ってるんだけど?やだな」

提督「耄碌したか?」

舞鶴「いやいやまだ若いさ。けど、君より老けたのは事実だね」

提督「怖いのか、私が」

舞鶴「もちろん。私は君らがたまらなく怖いんだ。管理できないものは、潰すに限るだろ?」

提督「………」

舞鶴「だから、君らの解体を希望してる」


提督「私が乗るとでも?」

舞鶴「ノらなくたっていいんだ。僕個人としての勝負としても完結できるしね。二択。簡単だろ?君に勝ったと思えるなら、君が賭けようが賭けまいが別にいい。それに勝ったら勝ったで、君が不要であると上層意見できる…違うかな?赤煉瓦なら、君でも拒否できまい」

提督「呆れた」

舞鶴「だろうね」

提督「付き合いきれない。貴方は、貴方の艦隊で一人遊びしていればいい」

舞鶴「…んー、それは言われると痛いね。ただ」

提督「…ただ?」

舞鶴「僕は人形は家に帰れってとは思ってる」

提督「……」

舞鶴「本気だとも。スカッとすると思わない?自分の思うがままに、人形を従わせるって事は。おもちゃ箱に整然と片付けるんだ。うっとりしないか?」

提督「あなたの使う人形って言葉が私の想像通りなら」

舞鶴「うん」

提督「貴方フェミニストに喧嘩売ってるわね」

舞鶴「あははは、おかしなことを言う。僕はマチスモも右でも無いぜ」

提督「でも、アナーキスト気味」

舞鶴「否定はできない」

提督「それに、もう自分は人形遊びをしてるでしょう?よく言えるわね」


舞鶴「たしかに。けど、僕は僕の人形を大切にするよ?だからこそ、僕の物でない、くそ忌々しいコッペリアどもを壊してやりたいだけさ。あとさ、作った相手に毒を吐く人形なら、壊したくもならないかな?」

提督「ピグマリオンは人形に心を入れた事を悔いるべきね」

舞鶴「そんなことは、どうでもいじゃないか?奴は、ブリキに心を吹き込んだオズよりましさ。少なくとも、奴は所有を奴は失わなかった。僕はどうだ?勝手にケースから逃げられたよ。その上、今や僕の障害になりつつあある」

提督「ゲス」

舞鶴「ああ、そうとも、僕はゲスさ」

提督「その人形が巣立つものだとは思わなかったの?」

舞鶴「巣立つ?」

提督「心を入れたのは貴方だろう」

舞鶴「いや全然。むしろ僕が、保守するのだと思ってたよ。そのために、いろいろ手を尽くした」

提督「……」


舞鶴「君が反応するのは、図星ってことじゃないか?」

提督「……黙って」

舞鶴「あの子達を普通の女の子に戻してあげなよ」

提督「どの口が言う」

舞鶴「そうだね。僕らは最低だ。兵具を少女の形に作る。でもって、彼女ら艦娘に暴力を委任する。しかも、こちらから強引に人間性を押し付けてだ。僕ら提督の理解しやすいように人間風に加工してからだから、より最悪だ」

提督「……」

舞鶴「僕らは、君らに初めから多様性を与えなかった。そのことは、僕らの罪だと思ってる。けれども、何故そうしたのかの理由くらい考えて欲しかった。……解体も悪いことじゃ無いぜ。人として無作為に死ぬ。立派じゃ無いか。彼女らの強さはおかしいんだから、さ。呪縛から逃げてもいいんじゃないか」

提督「長々言って、言いたいことはそれだけか?」

舞鶴「うん、それだけ」

提督「…私は行くぞ」

舞鶴「じゃ、いい返事を待ってるよ。うちが勝つけど。賭けの結果を守らなくてもいいさ。僕らが勝つってことが重要だから」


~演習場~


吹雪改二「来ましたね」

金剛「腕が鳴るネ」

加賀「…瑞鶴」

瑞鶴「…え?あれ?…本当に、あたし?」

北上「んー、特盛だね。スタイルなら絶対向こうがいいよ」

金剛「oh…ズイズイは残念だったんですね…」

瑞鶴「何よ?!あっちが特殊よ!皆だって他の私見たでしょ?!」

武蔵「お前らは何を言ってるんだ…しかし、妙な雰囲気だ。本当にただの艦娘か?」


山城「…そう言う配置ですか」

瑞鶴「制空取れないね、これだと」

山城「瑞鶴?よそ見してどうしたの」

瑞鶴「なんでもないわ」

吹雪「大和型…」

川内「んー、雷巡削って火力取ったようだね」

浜風「関係ありません。やるだけです」

山城「浜風の言うとおりね」


武蔵「…やめだ」

金剛「武蔵?」

武蔵「この武蔵にとって、この戦いは公平でない。演習ならなおさらだ。傍観させてもらおう」

加賀「武蔵、貴方」

武蔵「……そら、来たぞ。対処しろ。私は知らん」


浜風「武蔵、動きありません」

川内「無視を決め込んだんじゃない?なんでか知らないけど」

瑞鶴「なら好都合。山城」

山城「行きます」



加賀「…敵機ね」

瑞鶴「私たちが負けるわけないでしょ!」

加賀(……相手がただの瑞鶴たちならね)

吹雪改二「回避しました!」

加賀「…制空確保」

瑞鶴「拍子抜け。加賀さんの過剰な心配じゃないの?」

金剛「ナイス」

北上「なら、行きましょうかねえ…」

吹雪改二「勝ちましょう。皆さん!」


~演習場 廊下~


提督「………」

妖精β「ねえ」

提督「来てたの」

妖精β「誰が皆の艤装のメンテするのさ」

提督「……」

妖精β「黙ってないでよ。何があったのさ?」

一旦投下終了かな?
とりあえず乙


提督「……奴が賭けを持ちかけたの」

妖精β「彼らしいね」

提督「…負けたら移籍ならキレてやろうと思ってた」

妖精β「彼との会話ね。それで?移籍はなかったんだろ」

提督「解体でもいいってさ」

妖精β「それは彼の意思だろう。君は、君の主観でどう思ってるんだい」

提督「なら…負けていいと思った。もういいじゃないか、台無しにしたって」

妖精β「…いくら何でも無責任だろ。君の鑑娘に対して」

提督「自覚してる」


妖精β「解体も移籍も君が決めることだ。…誰かとの勝負で決めることじゃないだろう」

提督「分かってる」

妖精β「なら、部下に言うことあるんじゃないか?」

提督「彼女らは強い。もういいじゃない、鑑でなくても」

妖精β「いくら強くても……今、彼女たちはピンチだよ」

提督「私に変えろって?」

妖精β「うん」

提督「……」


妖精β「少なくとも、僕らはそのために君に協力したんだ。でないと技術将校の舞鶴から離れたりしない」

提督「それでも」

妖精β「相手が、舞鶴だってことも運命だよ。提督」

提督「……モノは?」

妖精β「あればいいんだね、君のが」

はよ

~演習場~


浜風「瑞鶴さん!」

吹雪(瑞鶴さんへの砲撃を浜風が防いだ…やっぱり無茶してる)

瑞鶴「浜風」

浜風「まだ戦えます」

瑞鶴「無茶して…」

浜風「私は、嫌なんです。私の前で誰かが傷つくのが。だから気にしないでください」

瑞鶴「ばか…自分を大切にしなさい」

吹雪(5対5の状態ですけど、それでも徐々に押されてきてます。いくら瑞鶴さんたちが強くても…制空が取られてては)


川内「…あの雷巡。面倒だね」

吹雪(軽口叩きながら、回避と攻撃を行う川内さん)

山城「そうね。こっちも、金剛相手に手こずってるわ」

吹雪(…砲撃しつつ艦載機も操る山城さん。そのうえ操艦って…)

瑞鶴「うちの、司令官は何してんだって話なんだけど…」

吹雪(そして瑞鶴さん。手数は少ないですけど、一番的確です…この三人がほぼほぼ捌いてる感じです…けど、このままじゃ)


提督『聞こえたぞ。瑞鶴』

吹雪「司令官?」

瑞鶴「…それは失礼いたしました。負けていいんだ〜って思ってたんだけど、あたし。面倒だし」

山城「だからね…あのね瑞鶴、私の機体で加賀のアレとやり合うの骨が折れるのだけど?」

瑞鶴「ごめん、山城。甘えてた」

提督『……気が変わった。勝て』

川内「提督…勝手じゃない?勝てって」

提督『なんとでも言って』

山城「どうされますか?」

提督『……あれ、やっていいから。瑞鶴、私まで保たせて』

瑞鶴「いいけど。恨まれるよ。舞鶴に、確実に」

提督『いいからやって。嫌われても屁でもないでしょ?』

瑞鶴「はいはい…山城、聞こえてた?」

山城「ええ」

提督『間に合わす』

山城「…武運長久を願ってます」

瑞鶴「そうね。山城にも迷惑かけたし……ぱぱっと、本妻を沈めときましょうか」



瑞鶴「これ、余裕じゃない?…あっちの私、色気付いてるだけあってヤル気なさげだし」

金剛「まだ何とも言えないヨ。こっちは旗艦の山城を小破にすら持ってけないシ」

加賀「やはり欠陥と言われようが、戦艦ね…練度も飛び抜けてるわ」

金剛「……鉄底を抜けタ。山城ダヨ。正直、私は気味が悪いネ」

加賀「そうね、知ってる。扶桑と沈んだはずなのに、生きてた艦娘だからね」

北上「古強者だねえ、いや亡霊?」

吹雪改二「いくら歴戦と言っても、こちらは向こうの駆逐艦を一人大破させてます。勝てます」

北上「…ま、吹雪の言う通り。がんばりましょ~」

加賀(…?山城から、晴嵐が発進?それが瑞鶴に着艦?)


瑞鶴「ありがと、山城」

山城「いいえ」

瑞鶴「提督さんも、勝手だわ。あんな命令…」

山城「今に始まったことじゃないでしょ?気持ちが高ぶると、一方的にしゃべるんだから、あの人」

瑞鶴「そうね。じゃ、川内まかせた。つゆ払い」

川内「まっかせて。でも、これだと沈むしかないか……んー、貸し一つだから、ズイズイ」

瑞鶴「分かってる」

吹雪「なにするんですか?」

瑞鶴「示現流」

吹雪「へ?」

瑞鶴「一の太刀疑わずってね。わたしは弓道だけど」

山城「瑞鶴。軽口はそこまで。浜風、敵の注意を引いてもらえるかしら?」

浜風「了解です」

吹雪「待ってください、この構えって」

山城「吹雪、待機で。私たちの護衛に一人いるでしょ」

吹雪「…了解です」


北上「突出してくる…あれは、川内だね。突っ込んでくるよ、こっちに」

吹雪改二「雷撃では?」

金剛「考えにくいデス。ケド…捨て艦経験してる山城ナラ」

瑞鶴「まず迎撃よ。返り討ちにしてあげる!」

吹雪改二「いや、後ろに浜風もいます!」

瑞鶴「関係ないわ、沈めるだけ」

加賀「ええ。…やりました。まず、駆逐艦を大破」


吹雪「浜風…」

山城「轟沈はしないわ。いい気分ではないけどね」

吹雪「ですけど…」

瑞鶴「山城、どう客観的に?」

山城「…今です」

瑞鶴「じゃ行くわ。ぱっかんってね」


加賀「瑞鶴!!」

瑞鶴「へ…!?」(ズドン

吹雪改二「瑞鶴さん!」

金剛「何が起きたノ?!」

加賀「…艦載機の体当たりよ。それも二機分の爆装を積んで!」

北上「…嫌だ。特攻じゃん、そんなの」

川内「だねぇ、艦載機の使い捨て。うちの空母は、頭おかしいもん。それくらいやるよ」

北上「いつの間に?まだ距離が…」

川内「そっちのミスじゃん〜?」

北上「うざいんだけど……!」

川内「ネタバレすると、浜風で間違えたんだよ。最大戦速をね、合わせてたの気付かなかった?」

金剛「シット!北上、それ以上近づかせないデ!」

川内「じゃあ、遊ぼっか。北上!」


吹雪(爆装した艦載機を直接叩き込むなんて…しかも浜風と川内さんの特攻と引き換えだなんて)

吹雪「瑞鶴さん!」

瑞鶴「怒らないでよ吹雪。向こうの瑞鶴なら潰した。で、残りは正規空母、戦艦、駆逐艦…これで互角でしょ?」

吹雪「だからって……川内さん達を見捨ててなんて」

瑞鶴「是非は後で。サクッと、空母をもう一隻沈めないといけないから」

吹雪「ですけど」

加賀「瑞鶴ッ!!」

瑞鶴「やだやだ、本当に恐ろしい顔…人様に見せられないわね、あれ」

吹雪「瑞鶴さん!」

瑞鶴「吹雪、散った。本気出すから、邪魔」

吹雪「……わかりました」

加賀「許さない。貴方だけは…!」

瑞鶴「やってみなよ、ロートル?時代は過ぎたのよ」


加賀「沈めてやります…!」

金剛「加賀、抑えるネ。こっちも川内に引っかき回されたカラ、立て直すネ」

加賀「許せません。練度と実力がありながら、あんな、尊厳を折るような技を……!」

吹雪改二「ごめんさない。わたし、瑞鶴さんも、北上さんも守れませんでした…それに金剛さんも無事じゃ」

金剛「No problem.わたしは大丈夫…しても、嫌にシツコい奴だったヨ。きっちり北上を落とした上で、ありったけの魚雷をバラ撒くなんテ…」

加賀「金剛、離して」

金剛「いいけど、瑞鶴とサシでヤルとか、そんな余裕は無いヨ。…来るネ」

吹雪改二「ええ。来ます」


山城「恨まれて不幸だわ……けど、負けたくないわね」

瑞鶴「綺麗な戦いなんて出来ないからね」

吹雪「…行きましょう」

瑞鶴「吹雪」

吹雪「はい」

瑞鶴「私と山城で老嬢どもは抑えるから」

吹雪「?」


瑞鶴「察しなさいよ…向こうの鼻面折ってくること。むかつくんでしょ、あの駆逐艦」

吹雪「それって」

瑞鶴「いーい?べそかいて戻ってくるのは許さないんだから」

吹雪「はい…!」

支援



加賀「…あなたは、許さない」

瑞鶴「許しなんて請わないんだから、知らないわ」

金剛「やっぱり、相手は山城だったネ」

山城「覚えてるわよ、金剛。貴方のこと…ああ、不幸だわ。鉄の底で一緒だったのに」

吹雪改二「……勝てないよ、あなたじゃ」

吹雪「やってみないと、わかんないでしょ!」

~離れたところで~


舞鶴『武蔵』

武蔵「なんだ、提督よ」

舞鶴『負けるよ。このままだと』

武蔵「やつらの勝敗に興味はない。静観すると言ったからな」

舞鶴『だったらどうする?お前に挑んできたら』

武蔵「ならば挑戦者に分からせてやるだけだ」

舞鶴『安心したよ。その調子でいてくれ』


加賀(やはりこの子、得体が知れません。この私が攻めあぐねるなんて…)

加賀「…それだけの実力があって、何故、あんな事を」

瑞鶴「あなたに言ってもしかたないことだし」

加賀「真面目に!」

加賀(わからない。どうしてこんなにも彼女は飄々としているのか)

瑞鶴「どうでもいいでしょ?悔しかったら、沈めてみなさいよ、私を」

加賀「大口を叩いて…!」

瑞鶴「慰めてもらえば、貴方の提督さんに?…ああ、金剛に取られてるのか」

加賀「…許さない」

瑞鶴「欲しいものは手に入れなきゃ。加賀、違うかしら?」


吹雪(瑞鶴さん。あんなにも煽ってまで、艦載機を引きつけてくれてるんだ…)

吹雪改二「よそ見してていいの?」

吹雪「く…!」

吹雪改二「逃げてばっかり、最初の威勢はどうしたの?!」

吹雪(まだ、チャンスを見て…)


山城「闘魂があっていいわね。貴方の艦隊は」

金剛「downerなアナタらしい評価デース。随分余裕デスネー?」

山城「余裕なものですか……ところで金剛、加賀は放置で良いのかしら?」

金剛「先に貴方を沈めれれば、大丈夫だからネ」

山城「あら勝負を捨てたの?だったら、勝利を譲ってくれないかしら?私、ドック大嫌いなの」

金剛「ジョーダン、キツいネー。テートクに敗北のプレゼントなんてNOデース」

山城「そうね。私もよ」


瑞鶴(…無駄に艦載機を浪費したのが不味かった、か。面倒だわ、そろそろ負けようかしら?)

瑞鶴(でもなあ…見てるんだよね。きっと)

加賀「ここまで?」

瑞鶴「やっぱ図体デカイのって得よね。ちっとも沈まないもの、鈍足だけど」

加賀「減らず口を…!」

瑞鶴(山城、これで気づくだろうな)


加賀「…沈みなさい」

瑞鶴「ありがと山城。沈むのは。あんたの方よ加賀」

加賀「な?!瑞雲?!」

吹雪改二「加賀さん!?…何時の間に、援護だなんて」

瑞鶴「桜花とかあれば、また話は別だったんだけど、チームプレイでしょ?」

加賀「……く、悪運の強い…!まだ勝負はついてないわ」


吹雪(今だ!)

吹雪「いっけえー!」

吹雪改二「しまった?!」


金剛「シット!カッタいネー。化け物じみてるヨ。二人も面倒見ながらだなんテ…」

山城「くう…痛いじゃない」

金剛「でも、終わりが見えてきたヨ。私を舐めないで欲しいデース」

山城「見下したことがあったかしら、金剛?」

金剛「ナイからダヨ。…残り少ない艦載機で援護してモ、瑞鶴は限界そうだネ」

山城「ええ、そのようね…」

金剛「だったラ」

山城「私、あきらめが悪いのよ?さあ、集中しなくていいのかしら…?」

金剛「?!」


加賀「止めよ」

瑞鶴「…そ、加賀。あなたのね」

加賀「な?」(ズドン

加賀「うそ、飛行甲板が…そんな。どこから、砲撃されて…」

瑞鶴「ふう、焦った。やっと、トドメね」

加賀「…嘘」

瑞鶴「わたしだけが沈めるって、思ってたの?」


金剛「……やってくれたネ、山城!自分は砲撃を耐えつつ、加賀を狙うなんテ!」

山城「そうね、金剛、あなたのミスだわ。きっと私は沈むけど…アナタもよ」

金剛「ジーザス」

瑞鶴「じゃあね、金剛」

金剛「…せめて貴方と瑞鶴に砲撃してくヨ。全砲門fire!」

瑞鶴「痛…嗚呼、やっぱり不幸だわ…」


吹雪(この航跡なら当たるはず!)

吹雪改二「!!」

吹雪「うそ?!」

吹雪(あの雷撃を回避だなんて)

吹雪改二「ヒヤッとしたよ。けど、私の勝ちです!」

吹雪「あ、痛ぁ!」

吹雪改二「びっくりしたけど、ここまでか…」

吹雪「うぅ…」

瑞鶴「吹雪!」


吹雪改二「瑞鶴さんは中波、これで私たちの勝ちです」

吹雪「…まだ、まだぁ!」

吹雪改二「諦めななよ。もう無理だよ。駆逐艦と、中破の空母が無傷の大和型と駆逐艦を倒せるの?」

吹雪「…う、ぐ」

吹雪改二「諦めたら、楽になるよ?」

吹雪(そう言われても)

吹雪「…ない」

吹雪改二「?」

吹雪「やめない。絶対にやめるもんか!」

吹雪改二「…ああそう。けど、あなたの負けだから」

吹雪(…悔しい。こんなところで)

吹雪(ダメなままなの?わたしは、このまま負けて…)

吹雪(そんなの…いやだ!)


瑞鶴「吹雪、回避!」

吹雪改二「?!!」

吹雪「うわ!」

吹雪(とっさに、回避。吹雪改二と私がいたところに、砲弾が撃ち込まれます)

吹雪改二「砲撃、そんな?武蔵さん…いや、そんな」

吹雪(大きな水柱の向こうに、誰かがいます)


提督「何やってる?吹雪?」

吹雪「司令官?!」

吹雪改二「……長門型!?」

武蔵「ほぅ…」


瑞鶴「遅い、提督さん」

吹雪(…演習場に、艤装をつけた司令官?)

吹雪「なんで」

提督「聞いてなかったのか?持たせろと私は言ったけど」

吹雪「でも司令官が、艦娘で。なんで…嘘…」

提督「嘘なもんか。ビックセブンが、助けに来たんだ。……勝つぞ、吹雪」


瑞鶴「ちょっと、提督さん。私たちがもたせたんだけど」

提督「悪い。…しかし、前半サボってたお前が言うか?」

瑞鶴「あ、それはゴメン」

提督「いいさ、わたしの気が変わったんだからな」


瑞鶴「……薄々だったけど、そう言うこと」(ジロジロ

提督「聞かれなかったからな。黙ってるつもりはなかった」

瑞鶴「なるほどね。しかし…ダサいね、提督さんその格好」

提督「ダサいのは許してくれ…サイズが合わなかったからだ…」

瑞鶴「ああ、だから手甲しててもサラシに軍装の上着なんだ。しかも足元は…包帯?」

提督「笑え、靴下が履けなかった……」

瑞鶴「…肉なのね」

提督「ああ。今度お前みたいにパーツを取り寄せることにするよ」

瑞鶴「そうしてよ。私も今、主機周り大鳳のパーツ流用してるから」



舞鶴『出やがったか


武蔵「…提督よ。これも見越してたか?」

舞鶴『向こうの瑞鶴の特攻も入れてな』

武蔵「食えない男だ、提督よ?」

舞鶴『なんとでも言え。おい武蔵。これならいいだろ?』

武蔵「無論」

舞鶴『…さて、長門型戦艦だ。相手に不足ないだろう』

武蔵「だな。…出ようか」


吹雪改二「こんなことって…!」

武蔵「吹雪、いい。私が出る」

吹雪改二「武蔵、さん」

提督「………」

武蔵「提督…いや長門、か?ふむ…それにしては随分年代の入った艤装だな……まあ、容赦はせんよ」

提督「たいした自信だ」

武蔵「逆に折れても知らんぞ、その傲慢」

提督「そっくり返すよ。武蔵御殿」


武蔵「提督。忠告する。一度やめた人間が勝てるほど……ここは、甘くはない!」

提督「知ってる」

武蔵「では、尋常に勝負と行こうか」

提督「…瑞鶴、回避。吹雪、それに同行。こっちで武蔵を沈める」

吹雪「司令官、無茶です?!」

提督「構うな。小娘に腹が立ったから教育指導してやる。なに身の丈を知ってもらうだけだ」


~演習場 司令所~

舞鶴「…武蔵と吹雪でアレに勝てるかな?」

妖精β「わかってるくせに」

舞鶴「…ああ、やつのところの妖精ね」

妖精β「君も老けたね」

舞鶴「そりゃ人間だよ。白髪生えるし、皮膚は弛む。歯茎も痩せる。年を食っても進められるのは仕事と肩書きだけらしい。あ、生え際もか」


妖精β「本音を喋って」

舞鶴「…そうかい。随分憎まれたもんだ」

妖精β「だから、提督が憎いの?」

舞鶴「いや、逆だよ。僕はね、彼女が好きなんだ」

妖精β「そうだとしたら、ゆがんでるよ、酷く」

舞鶴「わかってるよ」

妖精β「だったら」

舞鶴「そんなことくらい。彼女と会った時から知ってるさ」


妖精β「………尚更、許せないよ。そしたら」

舞鶴「……」

妖精β「ねえ」

舞鶴「今の提督は幸福だ」

妖精β「なに、どういうこと?」

舞鶴「同じ艦が手に入るんだから。そうしたのは僕らだけど。艦のデータの一元管理、ばらつくパラメーターを一定にして、ほぼ同じ個体を得られるようにした。ついてるよ、あいつらは。互換できるんだから」

妖精β「……」

舞鶴「今の提督は、なんの心配もしなくていい。彼女らは、初めから彼女らだ。与えられた個性は一定で、僕らは理解しやすい。信頼を築くのでさえ容易になった。でも、……当時の彼女たちは違った。皆、生きてた」


妖精β「今の彼女たちも生きてる」

舞鶴「個体識別のできない君達が言える言葉ではないだろう?あれが生きているとでも?君らは、どんな艦も同じさ。同じ顔、同じ声。長くこの仕事を続けていると、最初期の神風型たちこそが本当の艦むすだったと思える。だから、それを僕らはやめた。平然と人格ある娘たちを死地に向かわせるのは正しいことかって、怯えに取り憑かれて。だからこそ、艤装こそ作れど、同じ艦を作るようにしたんだが…」

妖精β「…だから、君は解体を勧めるんだ、提督に」

舞鶴「そうだとも。恨まれようが、憎まれようが、僕は僕の好きな人を死なせたくはない。そしてその人が集めた自分と同じ意思を持った個体もね。それが叶わないなら、庇護下に置きたい。それだけさ」

妖精β「………」

舞鶴「艤装は呪いだよ。艦娘であれと言う、ね。自発的に背負うもの以外、本来担うものじゃない。だからこそ、僕らは人間から艦娘を作らなくなった。今や、彼女たちは海域に漂う記録を集めて作る。自由意志を持っただけの兵器にすぎない。君らも知るところだろ?」

妖精β「だったら君は、なぜ僕らを否定しなかった?そしてなぜ解体を残したんだい?」


舞鶴「たまたまだよ。深い理由はない」

妖精β「わからない。君は艦娘は兵器じゃない、人間なんだと思ってたんじゃないか?だからこそ新しい艦娘をつくったんじゃないの?そして彼女たちにも人になる道を残すために、解体出来るようにしたんじゃないのかい?」

舞鶴「艦娘は最初から兵器だよ。人であるとかないとか、そんな問題ではない。……人間など、そもそもどの時代にも生きていないよ」

妖精β「……?」

舞鶴「ただ生きるだけなら蝿でも出来る。人であるために生きるなら、強力な人格が必要だ。思惟もなく、悟性も持たず、ただ情動と本能にのみ従う輩を僕は人として認めない」

妖精β「……」

舞鶴「意思がない人形など壊れてしまえ。僕は彼女たちのために花婿を作ってやるほど暇じゃない」

妖精β「そういうことか、やっと理解したよ君のこと」

〜演習場〜



武蔵「…は!大した練度だ!」

吹雪改二「武蔵さん!」

武蔵「何、この装甲は伊達でないよ」

提督「………」
 
吹雪(二人も艦むすを相手取る、司令が見えます。しかも余裕です)



瑞鶴「そりゃ、私たちにあれこれ言えるはずだよ」

吹雪「…元艦娘だったなんて」

瑞鶴「怪しかったんだけどね。たまに、燃料ガメてたから」

吹雪「ほんとですか?」

瑞鶴「そ、あとタバコのつまみが鋼材だった時もある」

吹雪(技術を教えられたのも、司令官が元艦娘だったから?でも戦艦なら、なぜ、あんなにも駆逐艦の技術に詳しく…?)


~演習場 司令所~

妖精β「君は、耐えられないんだ。意思を持った艦娘が不幸になることが」

舞鶴「……」

妖精β「だから、艦娘たちを固定した。陽炎型なら、その艦のようにだとかね。そしたら、初めから一定の心を吹き込んでやれると知ってたらからでしょ?」

舞鶴「その通り」

妖精β「でも君は、すべての艦娘を幸福にできないとわかってるからこそ…じゃないの?」

舞鶴「当たってるよ。…自分の娘たちが苦しむくらいなら、解体の時に儚く消えるようにすべきだろ?」

妖精β「不思議だったんだ。どうして解体して普通の女の子になったあとで消えてしまう子がいるのが」

舞鶴「艦以外のアイデンティティーを持たない少女など、餌食にされるだけだからね」

妖精β「……君の親心は、少し歪んでいるよ。なんで信じてやれないんだ?」

舞鶴「妖精、君はもう答えを言ってるよ。すべての艦娘を幸福にできないからさ」


〜演習場〜


武蔵「…どれ、これならどうだ?」

提督「……ち」

吹雪「司令官!」

吹雪(私たちを司令官が、武蔵さんの攻撃から庇いました)

提督「…殺しきれないか。吹雪。よく聞け、勝負をかける。瑞鶴も…」

瑞鶴「分かってる」

提督「なら、こう動けるな?」


~演習場 司令所~


舞鶴「おや、そろそろ勝負が決まるようだ」

妖精β「ねえ」

舞鶴「なんだ?」

妖精β「僕は、あなたは提督を憎んでると思ってた」

舞鶴「どうして?」

妖精β「普通、あんなことをしないから」

舞鶴「解体した艦娘を素材に再建造のことかな?…そうだね、そう見えるかも。あいつには悪いことをしたよ。何にでもなれるって重いことをしてしまった。接続さえ出来るなら、なんでも乗せられるからな、時津風は」


妖精β「彼女は苦しんだんだぞ。艦種を変えた、君のせいで」

舞鶴「あいつしか出来なかった。いや、別に改造そのものはあいつ以外でもできたが…土佐型を繋ぐにはあれしかなかった。なにせ両者とも、書類上に存在したって共通項があるからね。しかもあの時、求められたのはただ単に途方もない火力だったし」

妖精β「それでも、君は信頼を受けてた駆逐艦を改造して差し出した」

舞鶴「…技術屋の宿命だよ。スポンサーには勝てない」

妖精β「よりにもよって、あんな鉄底みたいな作戦の時に。彼女が山城を拾ったのもその時だ。提督は認めないだろうけど、彼女は…贖罪をしてるんだ。吹雪や、浜風みたいな子を拾って」

舞鶴「不器用だな。誰に似たんだ」

妖精β「…君がそれを言うかい?」


舞鶴「事実だ。否定しないよ。けど」

妖精「何を言うんだ?」

舞鶴「私もだよ。彼女には裏切られたも同然だから」

妖精β「君は…」

舞鶴「心があったから裏切られた。大切にしたいと思っていたさ。でも僕の手から離れていった。なら憎まれても近くにいるしかない。違うかな?」

妖精β「……」

舞鶴「…勝負は決まったようだ。楽しかったよ」

妖精β「まって、賭けはどうするの?」

舞鶴「そちらの勝利。何もなしでいいよ。あの子によろしくと伝えておいてくれ」


吹雪改二「瑞鶴が出てくる?」

武蔵「囮だ、吹雪、沈められるな?」

吹雪改二「はい!」

武蔵「…よくやった。これで大破だ」

吹雪改二「…長門、来ます!」

武蔵「相手に不足なしだ!」

吹雪(……怖いです、司令。でも…!)

吹雪(やってみせます)

吹雪改二「いつの間に?!」

吹雪「やああああ!」

吹雪改二「あう!」

吹雪「やった!」

武蔵「吹雪!」

提督「よそ見していいのか?もう中破だろ。武蔵?」

武蔵「そちらも小破に見えるが」

提督「ああ、装備が古いからね」

武蔵「……貴様らは強いが、貴様の態度含めて好かん」

提督「そう。感想ありがとう」

吹雪改二「武蔵さん!」

武蔵「吹雪、離れてろ!」

提督「そうね、離れられるならね」

武蔵「…貴様、なぜ魚雷を!?」

提督「古典に則ってみようかしら?武蔵…あなた魚雷で沈んだんでしょ?さて何発耐えられるかな?」

武蔵「貴様ッ!!」


吹雪改二「武蔵さん!」

吹雪(ここで、させない!)

武蔵「吹雪?!」

吹雪改二「私が…!」

吹雪(届いて!)

吹雪改二「…そ、んな」(ドン

提督「…助かったよ吹雪。王手だ、武蔵」

武蔵「…この、武蔵が」

提督「終わりだな」

吹雪「…勝った?」

提督「嗚呼、私たちの勝利だ」


~演習場 司令所~


妖精β「まってよ」

舞鶴「負けだな。見ただろ?」

妖精β「…悔しがらないんだ」

舞鶴「別に。彼女が出てきたなら、負けて当然だ」

妖精β「君は」

舞鶴「心を考えてやる時期なのかもしれないな。じゃあな」

妖精β「ちょっと」


舞鶴「なにかな?」

妖精β「…最後にどうして、提督に喧嘩を売ったんだい?電話の件、鎮守府の制圧に君の土佐型を使う必要があったとは言え」

舞鶴「僕は彼女は嫌われてるからね。確かに手伝ってくれてたら嬉しかったよ。けどまあ、演習に引き出すには、あのやり方がスマートだと思ったんだ。あいつも実績は必要だろ?」

妖精β「君は、嘘つきだ。本当のことを何も言わない」

舞鶴「人間はそんなものさ。今度ウチに来い、間宮のあんみつくらい食べさせてやるよ」

おばさん長門提督…
ながもんじゃないのか?

元々時津風で建造されていたけど、いろんな武装と互換効くからという技術者のエゴで長門に艦種変更されたのがこの提督という感じなのか

~控え室~


提督「勝ったな」

浜風「妖精の応急手当てを受けた姿で言うセリフではないかと思います」

提督「浜風の毒舌が強くなることに私は驚いてるよ」

浜風「そうですか」

提督「…山城、タバコ」

山城「ダメです」

提督「………お前もか」

山城「火気厳禁です。爆発しますから」

提督「私は陸奥じゃないんだが…」


山城「しかし映像を見ましたが、大和型相手に慢心しすぎです。鉄底の時の装備じゃないんですよ?」

提督「ああ、現役時代に酷使した改装前の長門型の艤装じゃあな……これなら大和型をストックしとけばよかったか?加賀…空母しかないな。土佐…いや部品がないな?紀伊型は…ううむ」

吹雪「え?長門型以外も装備できるんですか、司令官?」

提督「潜水艦以外はなんでも」

浜風「明石や秋津洲、朝日系統の工作艦は?」

提督「…明石のクレーンで断念した。あんなの無理だ」


瑞鶴「なにそれズルくない?」

提督「私事だが同感だな。けれど、出来るんだから仕方ない」

瑞鶴「私も翔鶴ねえの使えるけど…提督さんのはもっと広いワイルドカードみたいなのね」

提督「ワイルドと言うか…舞鶴はスレーブで繋げてると言ってたな。私と艤装の間にもう一段階演算機、軍旗か勅令式を挟んで信号を仲介させてるそうだ。だから艤装側では私を正規のユーザーと認識するし、私は自分の艤装のように使える」

瑞鶴「…舞鶴、変態ね」

提督「だから技術将校だ。医学博士号も持ってたんじゃないか?専門は電子工学だけど」


瑞鶴「じゃ、なんで提督さんみたいな艦娘が他にいないの?そんなにハイスペックなら、さ」

提督「居たら逆に困る。術式は舞鶴しか知らないからな。しかし……艤装を付け替えるだけで艦種を変えられる、か。化け物以外の何物でもないな」

瑞鶴「…あー、そういう理由か。コストが高いとか、予想してたんだけど」

提督「さあ、他に理由は知らん。舞鶴のみぞ知るワケだ」

川内「でも、作ってもいい気がするんだけど」

提督「……でだ川内、仮にそんなのが離反したらどうなる?」

川内「メッチャ嫌」

提督「そう言う事」

瑞鶴「……面倒なのね、強いってこと」

提督「その通り。…ついでに言うと、私たちの鎮守府だけど、赤煉瓦が私を管理したいだけに作ったワケ」

川内「それで仕事も少ないわけね」


浜風「提督。なら倉庫の駆逐艦の艤装は?」

提督「あれ、私の。時津風の時のやつ」

浜風「……」

提督「なんだ、その目は」


浜風「いや、馬鹿っぽくなくて驚いてるだけです。時津はアホの子でしたので」

提督「…いや、その子と違う。私は磯風型」

川内「なら、大正生まれじゃん、提督。私の元艦より年上……ババアなの?」

提督「違う」

瑞鶴「…ババアなんだ、提督さん」

提督「断じて違う。少なくとも金剛型より若い」

恐ろしく自己満足な贖罪だな


吹雪「でも」

提督「なんだ?」

吹雪「どう言う理由で、提督は艦種を変更されたんですか?」

提督「…今、君らは艤装と一体で建造されるだろ?」

吹雪「はい」

提督「昔々、大昔。私たちの頃は、船体と艤装は別で建造してた。で、私は駆逐艦に作られた。開発したのは舞鶴だよ」

浜風「…そういえばニュースでやってました。最初の艦娘は違うって」

提督「で、その頃はまだ建造技術が微妙でね。目標生産量まで艦娘の製造が行かなかった。……それでよりにもよって大規模作戦の時に、支障を出した。大型艦が足りなかったんだ、あの時は。まだまだ大和型は作れてなかった頃さ。そんな時に鉄の底だよ。…舞鶴、私の元提督様は、私らに目をつけた。往時のあいつは金がなかったが、技術は持ってた。一度艦を引っぺがして、再建造すればいいってね。うまい考えだよ、あいつは前に話した通り、仲介用の装備さえかませば何にだって出来ることを知ってた」


吹雪「…それが提督であった理由は?」

提督「時津風の逸話があったから。ゲン担ぎだろ?で、私は解体、プラモデルみたいに即再建造」

吹雪「そうだったんですか…再建造はどうだったんですか?」

提督「初めは何も変化なし。改造したばっかりは、駆逐艦とほぼ一緒だった。けど、土佐型…本当は加賀型なんだけど、加賀が空母になってるから…加賀型戦艦の艤装を背負ってたらこうなってった」

川内「でも、提督。顔立ちは長門似じゃん?」

提督「まあな」

瑞鶴「なんで土佐型じゃないの?それって、どう言うこと?」

提督「いや、土佐自体、数が少なくて…故障させるとあれだから。基本は長門型で練習、実践は土佐型に切り替え。で、こうなったワケ…実際、本当の長門と似てないんだがな」

川内「…部品取りの都合ね」

提督「本来ありえない艦だからな、やむをえないさ」


瑞鶴「なら、提督さん」

提督「どうした、瑞鶴。その期待を込めた目は?」

瑞鶴「私みたいに空母すればいいのに。そしたら今日も一発じゃない」

提督「…………」

瑞鶴「提督さん?」

山城「実は、装備できても空母系下手なんですよ、提督」

提督「山城?お前」

山城「何時でしたっけ?信濃、ろくに使えなかったじゃないですか。あと航空戦艦も……扶桑姉様の装備して、日向セリフだなんて……本当に、あれを根に持ってるんですよ。ウフフフフフ…」

提督「いや、その…すまん」

瑞鶴「なら残念。でも、今度練習しましょ?」

提督「嫌、やめとく。…お前の練習は正気を疑うからな。まだ軽巡とか重巡の方がいい」

川内「軽巡?提督が?」

瑞鶴「ん?」

川内「提督の頭身で軽巡、駆逐の制服って想像できない」

瑞鶴「うわ、キツ」

川内「ね?着たらあざとい、エロいよ絶対」

提督「」

金剛(100歳)
ってかなんだこのチート艦…

山城「そこまでにしなさい」

川内「えー」

山城「こら。でも、提督?相当無理されたのでは?」

提督「久しぶりの接続が、あれだけ痛いとは思わなかった」

山城「申し訳ありません…」

提督「いいさ、山城のせいじゃない」

川内「むしろグッジョブじゃない?」

提督「だな」


瑞鶴「私的には、投了でもよかったけど…」

吹雪「……どうかしました?」

瑞鶴「提督さんの所為だから。全部、キャラじゃないことしたのも」

提督「瑞鶴、何言ってるんだ…って痛………やっぱ定期的に背負わないとダメか」

瑞鶴「そうそう。背負うだけで効くからね。驚異の恒常性だよ」

川内「あー、だから先生、呪いってか」

瑞鶴「…のろけ?」

川内「違うし」

瑞鶴「いや、信じられないんだけど」

川内「いいの。気にしなくても」

山城「こら…二人とも」

浜風「モテる人は違いますね」

山城「燃料投下しないで、浜風」


吹雪「…あの、司令」

提督「ん?」

吹雪「…ありがとうございます。勝たせてくれて」

提督「私じゃない。さあ、出よう…最低限動けるだろ?」


~演習場、玄関~


加賀「…瑞鶴ッ!」

金剛「加賀!」

吹雪(玄関のホールで、すれ違った鹿賀さんが瑞鶴さんに詰め寄ります。そのまま…ビンタ)

瑞鶴「……気は済んだ?」

加賀「あなたを認めない」

瑞鶴「なら、その気持ちでも持ってれば?」

加賀「…!!」

瑞鶴「行っちゃった、か」


山城「瑞鶴、大丈夫?」

瑞鶴「別に、痛くもないわ…カットバンある?」

山城「待ってて」

金剛「…ソーリー」

瑞鶴「金剛さんが謝ることじゃないわ。それに…そっちの瑞鶴に言っといて、悪かったって」

金剛「…それはnoだネ」

瑞鶴「知ってた。じゃあね」

金剛「次は負けないヨ。絶対…それに加賀に何を言ったのか知らないケド」

瑞鶴「?」

金剛「提督のハートは私の物デース」


吹雪「いいんですか、提督。止めなくて」

提督「いいさ。別に」

吹雪改二「…長門さん。それから、私。ちょっといいですか」

提督「…吹雪か」

提督「……」

吹雪改二「私たちの負けです。油断してました」

提督「……」

吹雪改二「けど次は負けません。特に、そっちの私には」

吹雪「…私も」

吹雪改二「では、失礼します」

川内「…いやー青春してるね」

北上「いいの?仲間放置しておいて」

川内「いいの。理解があればさ」

北上「ふぅん、変な奴」

川内「そんな奴から、普通ジュースをおごってなんて貰わないよ。あんたも普通じゃないよね」

北上「そうかも…って、駆逐艦が来てるけど?」

川内「ああ…、浜風ね」


浜風「川内さん。瑞鶴さんは?」

川内「あっちで、金剛と…お、終わったね。おーい瑞鶴!」

瑞鶴「なによ?吹雪と瑞鶴ダブってるんだから、あんた呼び方ってもんがあるんじゃない?」

川内「なんで機嫌悪いのさ」

瑞鶴「根暗女にビンタ食らって、その恋敵に焚きつけやがってと注意されたらこうなるわ」

川内「おー、幸運の空母とは思えない」

瑞鶴「で、何?」


浜風「瑞鶴さんを、呼んでます。男性の方です。携帯鳴らしたとか、何とか」

瑞鶴「…マジかー」

浜風「行かなくて良いんですか?舞鶴の瑞鶴さんと勘違いされるんじゃ」

瑞鶴「それは無いから、うん。ごめん、出る」

川内「…ってコンパクト取り出し、前髪チェックか」

浜風「瑞鶴さんだけ新品のジャージですもんね」

川内「実はシュシュも変えてるんだよ」

浜風「本当だ」

川内「あれは、カレシだな」


~演習場 ロータリー~


提督「各自解散…って瑞鶴は?」

川内「はい。パーマのハンサムとバイクの二人乗りして行きました」

提督「分かった。で、川内」

川内「はい何でしょう?」

提督「…私たちから遠いのは何故?」

川内「それはですね」

吹雪(白いクーペがロータリーに入って来て、川内さんのとこで滑らかに停車しました)

川内「先生が迎えに来てくれたからです。では」

提督「…よし帰るか」

山城「提督、スルーは止めましょう」

提督「あれ、なんだ?突っ込む隙もないぞ」

山城「浜風と吹雪が絶句してます。フォローしてあげて下さい」

吹雪「…大型艦てすごい」

浜風「提督と山城さんは残念ですね」

吹雪「ちょっと、浜風?!」

~クーペ~


川内「あれでいいの?いいんだよ、センセ。勝手にするだろうからさ」

『世……に拡大の兆…を…せる意志権に……て、政府は公式に…………の際は、艦娘の扱いについても』

川内「あれ、消したのラジオ?」

川内「え、結果が分かってるからだって」

川内「センセ、頭良いなー。何の話か私さっぱり」

川内「…何、センセ?」

川内「無理してる?……かもね、うん」


川内「……なんだかさ、今まで窓の外を眺めてるみたいだったんだよね」

川内「今も見えるでしょ。私たちが動いてるのに、景色の方が動いてるみたいなコレ」

川内「別に、それを気にしてなかったんだよ。私は今まで、それをどうでもいいって思ってた」

川内「私のパーツに私や神通や那珂が組み込まれても、別に気にならなかったしね」

川内「私の他は何もかも変わる。だからいいんだって、考えてた」

川内「そんなものでしょ?動くものに当たらず、流れに乗るみたいな。周りに私である主張をする必要なんてないんだから」

川内「でもさ、考えちゃったんだ。じゃあ、私はどこにあるの?みたいな、ね」

川内「私は私だよ。川内で、先生の生徒兼モデルで、女の子っぽいことに憧れてる」

川内「でも、それを、どう置こうとしてるか…わかんなくなっちゃった」


川内「今日の演習のせい?…ううん、違うよ。例の新人が来てから考えてた」

川内「あー、私。嫌なことだけ避けててたんだけどな」

川内「ごめんね、先生。ばかなのに、ダラダラしゃべって」

川内「…遠回りしよう?」

川内「あのさ、先生。どこ行こうにも私、ダサーいジャージなんですけど」

川内「買ってあげるって。先生さー、ナンパじゃないんだから」

川内「勘違いするけど、それでもいいの?」

~バイク~


瑞鶴「見に来て疲れなかった?」

瑞鶴「全然……いいって言ったのにバカなんだから」

瑞鶴「見えてたに決まってるでしょ……演習してても分かってたんだから」

瑞鶴「応援したから、勝って嬉しい?」

瑞鶴「当然でしょ、私だもん」

瑞鶴「なにそれ、なんで笑うの?怒るよ」


瑞鶴「カットバン?うん、ちょっと引っ掛けただけ」

瑞鶴「………ねえ、聞いて良い?」

瑞鶴「私、だってわかってた?」

瑞鶴「君はすぐ分かる?あのね、そう言うことじゃなくて」

瑞鶴「私が二人いたでしょ。そう言うこと」

瑞鶴「間違えなかったか、ってね」

瑞鶴「バカにするな?いや、けど」

瑞鶴「………それでも君だら、か」

瑞鶴「……」

瑞鶴「泣いてないわ」

瑞鶴「こっち見ないでったら。運転中に危ないでしょ?」

瑞鶴「振り返らないでよ!もう……でも、背中だけ貸して今だけだから」

~レンタカー~


提督「しまった渋滞だ」

『世……に拡大の兆…を…せる意志権に……て、政府は公式に…………の際は、艦』

吹雪「ツイてないですね」

提督「ああ、ラジオうるさい…タバコが欲しい」

吹雪「爆発するって山城さんが」

提督「陸奥じゃない。…それに、どうせあいつら、後ろで寝てるだろ?」

吹雪「あ、本当ですね」

提督「どうりで静かなワケだ。いい身分だ」

吹雪「なんか、すみません」

提督「いいさ、誰のせいでもない」


吹雪「ちょっとまって下さい…コレですよね」

提督「ありがと」

吹雪(提督さん、紙巻きに滑らかに火を付けます)

吹雪「…美味しいですか?」

提督「ん?死ぬほどまずいよ」

吹雪「わかりません。なら、どうして吸うのか…」

提督「不合理と無駄を愛するからだ。これを無用の用という」

吹雪「…?」

提督「人の言葉を知りな、吹雪……しかし動かん。あー、山城に免許取らせるかなあ?無理か、艦娘だもんな」

吹雪「提督もですよね」

提督「…そ。でも書類の上では人間になってる。ハラ立つことに、舞鶴の養子」

吹雪「そうなんですね…」


提督「そう。けど、私たちが本当の人になれるワケがない。誰かのお腹を借りてもいないんだから」

吹雪「………」

提督「それに私たちは、燃料と鋼とボーキサイトと弾薬で出来てる」

吹雪「?」

提督「砂糖とスパイスで出来た女の子には成れない。私たちはどうしようもなく兵器だから」

吹雪「……そうです。艦娘です」


提督「だけど、それでも意志がある。心と言い換えてもいいが、我を持ってる」

吹雪「そうですね」

提督「吹雪、君は誰だ」

吹雪「私は吹雪です。負けず嫌いです……こうやって考えろって事ですよね、司令官?」

提督「そう言う事。自分で気づく事に意味がある。思考さえも疑わしいが、行為をする主体としての私は揺るがないのだから」

吹雪「…かなり、難しいです」


提督「だから考えろ。疑念を持てることは好機なのだから」

吹雪「…司令官は」

提督「ん?」

吹雪「どうして私を呼んだんですか」

提督「その前に………浜風、起きてるだろ?お前も聞け」

浜風「鋭いですね」

提督「伊達にお前らより生きてない。生まれて10年も経ってないジャリに理解されてたまるか」


吹雪「司令官?」

提督「理由だろ?………早い話が興味だな」

浜風「興味?」

提督「どんな艦も一定の個性を得るはずだ。川内や瑞鶴が指摘した艤装の呪縛が正しいなら」

吹雪「……」

提督「けれども、お前らは、艤装から逸脱してる。…もっとも川内や瑞鶴みたいに艤装を長く外してるってのも大きいが。それでも、お前たちは他の個体と違う。だったら、艦以外の個性や性質を獲得できるんじゃないか?それを確かめたくて集めたんだよ」



吹雪「…助けてくれた訳じゃないんですね」

提督「違う。何者にもなれない私の代わりに、何かになって欲しいと期待してるだけだ」

浜風「…提督?」

提督「誰かを救えるとか、贖罪とか、主体である自分がどうして客体的な判断が出来るんだろうか?」

浜風「それが、大人だからではありませんか」

提督「私は、それすらも疑問だよ。罪を雪ぐことも誰かの救済も人には出来ない。人でもない私にできるのは、私の前で困っている者に手を出すことだけだ」

吹雪「……それでも、提督は」

提督「ああ、流れ出した。飛ばすぞ…湿っぽい話は嫌なんだ」

~鎮守府~


吹雪(司令官と山城さんは車を返却に行きました。浜風は、…提督からお使いを頼まれました)

吹雪「一人か…」

妖精α「あ、吹雪」

妖精γ「おかえり」

吹雪「ただいま。って、妖精さんたち、演習にも来てたじゃないですか?」

妖精α「…ふ、僕等クラスだと、これくらい造作無い」

妖精γ「提督も好きにいじらせてくれるからね。建造だけは断固拒否されるけど」

吹雪「…うん、やっぱり意味不明です」


妖精β「ひっくるめられるのは、心外だな」

吹雪「え?」

妖精β「おかえり吹雪。勝ったじゃん」

吹雪「あ、ありがとうございます」

妖精β「どうしたの?」

吹雪「いや、勝てたの本当、私の力じゃなくて」

妖精β「それは、提督が助けに入ったから?」

吹雪「ええ。司令官が艦娘だってことも驚きですけど、あんなにも強いだなんて」


妖精β「………強いことがいいことかな?」

吹雪「いいことだと思います。少なくとも弱いことよりは」

妖精β「じゃあ、吹雪は仮に提督みたいな強さを手に入れたら何をするの?」

吹雪「敵を倒します。そして、戦争を終わらせます」

妖精β「一人で出来ると思う?」

吹雪「無理だと思います」

妖精β「そうか……ねえ、吹雪、自分がなんだか分かった?」

吹雪「ええ。少しなら。負けん気が強くて、アイスが好きです。それで、艦娘です」


妖精β「そうか。じゃあ吹雪。艦娘から降りるつもりはある?」

吹雪「まだ、分かりません」

妖精β「わかった。……君はもう大丈夫だろう」

吹雪「?」

妖精β「だだ環境を受け入れるだけなら、何も変わらない。君がそう思えるならもう大丈夫」

吹雪「???」

妖精β「君には自分がある。それならいいんだ」

砂糖とスパイスだけじゃ女の子は出来んわな



ステキなものたくさんとケミカr(違う

浜風「吹雪どうしました?」

吹雪「あ、妖精さんが…って、浜風大荷物、どうしたの?」

浜風「打ち上げだそうです」

吹雪「打ち上げ?」

提督「勝ったから飲もうって事」

吹雪「司令官」

山城「浜風、ありがとう。お金足りた?」

浜風「問題ありません」


提督「なら、ちゃちゃっとつくって飲むぞ」

浜風「 …提督。瑞鶴さん、川内さんは?」

提督 「リア充は無視」

山城 「荒れてますね、提督」

提督「…いいんだぞ、山城。泊地のガキンチョと飯に行っても」

山城「ちょ!彼は違います!!」

吹雪「?」

浜風「提督、山城さんは何を慌ててるんですか?」


提督「いやな、こいつ逆源氏しようと、その泊地の愛宕から…」

山城「 違います、違います!教え子っぽいだけです!」

浜風「山城さんもしたたかなんですね」

提督「したたかだな。イケメンの青田買いだ…乳くせえ、あんなの、どこがいいのやら?」

山城「怒りますよ?提督、いいんですか?飲みますよ、私?知りませんからね!」



吹雪(その後の宴会で初めてお酒を飲みました。微妙な味でした)

吹雪(浜風も飲まされたんですけど、表情変わらず。でも、顔色変わって寝てしまったので、泥酔した山城さんとまとめて談話室に放置されてます)

吹雪(司令官曰く、どちらもヘボいだそうです)

吹雪(で、その司令官は、山城さんに言われた『年増』発言で「目にもの見せてやる!」と消えたまま…)

吹雪「…母港に誰か立ってる?」


〜母港〜

吹雪(…駆逐艦?しかもタバコ吸ってます)

??「気付いたか」

吹雪(高い声、何処かで聞いたような…)

提督「私だよ」

吹雪 「え、司令官?」

吹雪「確かに顔立ち似てますけど、縮尺が…」

提督「言ったろなんでも背負えるって?」

吹雪「いや、でも」

提督「全く川内も瑞鶴も人の話を最後まで聞かずに…しかしこの艤装を背負ったら、体から資材が剥がれてった。…人間でないと再確認したね」


吹雪「…やっぱり、司令官なんですね」

提督 オウ。どうだ、年増じゃないだろ?これなら。お前と比べて旧式の艤装だけどな」

吹雪「そうですね」

提督「?」

吹雪「…司令官がうらやましいです」


提督「何故?」

吹雪「司令官は特別じゃないですか…」

提督「…特別か」

吹雪「司令官の替わりは何処にもいないじゃないですか」

提督「悪い事なんだけどね」

吹雪「?」

提督「何かが普及するほど、廉価になるほど、その何かの一つあたりの存在感は薄まっていく。舞鶴がいい例さ。今や、私のようなものを作るより大和型の建造の方が安上がりだ。けれど、あまねく物自体は普及した方がいいんだ。誰もが手にできる可能性は多いほうがいい。建前だけでも平等になるのだから」

吹雪「それでも…」


提督「特別ばかりいい事でない」

吹雪「ですけど」

提督「私など、大和型で代替できる。アメ公のハイ、ローじゃないが、高くつく私など今や求められてないのさ。私でもそうする。それでも効率考えずに特別を選ぶなら、それは愛だよ」

吹雪「…司令官」

提督「誰かの特別である前に、私たちは私たちだろう?人でなくても、それは疑いようがない」

吹雪「そう、思いはします」

提督「ならこの話はここまでだ。話しても無駄だ」


吹雪「…………そうですね」

吹雪(提督は、タバコを艤装の煙突に捨てます)

提督「吹雪、夢はあるか?」

吹雪「夢ですか?」

提督「したい事でも好きな事でもいい」

吹雪「えっと」


提督「………瑞鶴なら知りたいと言った。川内は見たいと言った。山城も気付いてるし、浜風もいずれ知るだろう。私はね、君たちのそれを叶えてやりたい。ホールデンの妄想よりマシだと自分では思ってる」

吹雪「…あります」

提督「なんだ?」

吹雪「安定が欲しいです」

提督 「それはまた抽象的だな、やたら」

吹雪「自分でもうまく言えないんです。けど、司令官やわたしたちが、認められたいんです」

提督「艦娘だと認められてるじゃないか?」


吹雪 「違います」

提督「イマイチ、わからん。説明してくれ」

吹雪「その、ちゃんと、みなさんから一人の個人として…ああ、言葉が出ないんですけど」

提督「呆れた」

吹雪「え?」

提督「社会に対して法で認められた人格を求めるのか、吹雪。私たちは艦娘だぞ?社会に参加したいなら、解体や、隷属的だがカッコカリもあるだろ。わざわざ、そんな荒唐無稽な事を何故選ぶ?」


吹雪「…知ってます。でも、そう思うんです」

提督「お前の欲しいものが一番高いな。いや、瑞鶴、川内が欲しがる愛も難しいが」

吹雪「でも可能性だけは買えるじゃないですか、瑞鶴さんたちは」

提督「…吹雪、お前が言ったことは困難だぞ?」

吹雪「でも、やりたいんです」

提督「なら勉強だな。法を学べ、歴史知れ。自分で考えろ」

吹雪「…大丈夫ですかね?」

提督「さあな。お前だけでは叶わないかもな…けど、私は応援してやる。人の要らなくなる時代だ。お前の意見は風穴をあけるかもな…」


〜???〜

提督「見ろよ、ウートニウムのジジイ。病室のベットからでもテレビは見えるだろ?」

舞鶴「なんだ行き遅れ」

提督「うちの吹雪が当選だ」

舞鶴「元艦娘議員、か」

提督「どうした?」

舞鶴「悔しいが貴様が正しかったらしい。お前は身勝手な理屈で、最終的に多くの艦娘を結果として自由にした」

提督「それはすまないな。お前の人形を自由にさせてさ………好き勝手できる間に、随分艦娘と遊んだろ?」


舞鶴「寝言は寝て言え」

提督「古女房と寝れもしないくせに」

舞鶴「既婚だぞ、バツはついてるがな。それに兵器でマスかく馬鹿がいたら正気を疑う」

提督「は、どうだか?何の為の憲兵だ。お前がそう作ったんだろ」

舞鶴「当たり。何にせよ、身体の関係を直線的に求めるのは愛じゃない。愛も恋も危険で身勝手だが、それでも良いものだ。…どうにも、今はただの同衾が愛と混同されてるらしいがね」

提督「爺が話す内容ではないな」

舞鶴「違いない」


提督「個人的にはどうなんだ、艦娘の権利獲得は?」

舞鶴「さあな。幸せになって欲しいと思うだけよ。頑張りには応援しかできないんだから」

提督「そうか」


『議員、抱負をどうぞ』

『では、抱負を述べさせて下さい。
 私は艦娘でした。今でもカラダはそうです。これからもそうでしょう。
 けれどわたしたちには意思がありココロがあります。
 だからこそ、こうしてこの場に立っています。
 私を選んでくれた人の期待を背負って私は、頑張りたいと思います。
 
 当選した後、言われました。
 君はたまたま選ばれたのだと。最初の艦娘らの議員だと。そうかもしれません。
 そして公約で掲げた法案、それらが私の生きてるうちに、全て叶うとは思っていません。
 逆に、私の理想は社会から否定されるかもしれないと思っています。

 けれども、だからと言って私は諦めたくはありません。
 何故なら、それは私だけの意思ではないからです。
 幾多の人が、願ったものだと確信しています。
 だからこそ、私は声をあげ、戦うことを約束します。

 繰り返しますが、私の当選はたまたまかもしれません。
 だけど、私を選んでくれた人の希望を繋ぐために、
 私は私たちの理念のために行動します。
 たとえ人間になれなくても、ココロと意思を使い社会に参加する権利。
 わたしたちはそれを願ってきました。
 より良い世界を望むために、わたしたちは戦います』


以上で、完です。

誤字脱字、本当に申し訳ありません。
脳内補完をお願いします。
では、お目汚し失礼しました。

すみません依頼出すの忘れてました。
下げます。

おつ
なかなか面白かった

色々と考えさせられるSSだった

乙!
面白かった
強いて言うなら会話が淡白すぎるかな、みんな感情を持ってないようにすら感じた

なんかいろいろ考えたよ…おつつ

続編書いてくれ

ageんなゴミクズ

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