【ゆるゆり】あかり「……櫻子ちゃんって、意外と怖がりだよね」 (24)

・さくあか

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京子「やっぱりさ、悪の美学っていいよね!」

結衣「真っ盛りだな」

京子「こう、胸を躍らされるというかさ」

結衣「躍ればいいってもんじゃないだろ、吊り橋効果じゃないんだから」

ちなつ「そうですよ、ところで結衣先輩、山登りとか興味ありませんか?」

結衣「い、いや、しんどそうだしいいかな……」

京子「……うーむ、誰にも理解されないのか。じゃああかり!」

あかり「んー?」

京子「と、思ったけど一番遠い子だったね……」

結衣「あかりは善良まっしぐらって感じだからね」

あかり「そ、そうかなぁ」

京子「大きなことが出来ないタイプというか」

あかり「えぇ!?」

結衣「おい京子」

京子「い、いや軽い冗談というかさ……つい」

あかり「うぅ……いいもん、あかりは慎ましく平穏に暮らすから」

ちなつ「ちょっと京子先輩! あかりちゃんへこんでますよ!」

結衣「だ、大丈夫だって。あかりまで突き抜けるともうそういう次元じゃないというか」

ちなつ「そうですよ! あかりちゃんなら周りが勝手に大きくしてくれるレベルですよ!」

あかり「そ、それもどうなのかなぁ……」

京子「い、いやごめんごめん。でもさ、それもあかりの美徳だから!」

あかり「そうだと嬉しいんだけど……」

いつものような取るに足らない、ごらく部のおしゃべり。
この時は、特に後を引くこともなく、あかりも気に留めなかったんだけど、
この会話を後々思い返すなんて、夏休みになるまでは分かりもしなかった。


櫻子「あっ! あかりちゃんだ!」

あかり「櫻子ちゃん?」

夏休みの午後。いつものように、お散歩に出かけて、公園のベンチで休息と水分を取っている時だった。

期待

櫻子「こんなとこでなにやってんの?」

あかり「お散歩だよぉ。今日は一段と陽射しが強くてまいっちゃうけど……櫻子ちゃんはどうしたの?」

櫻子「んー? 探し物かな。まあこんな暑い日がちょうどいいよね」

あかり「?」

櫻子ちゃんの言っていることが良く分からなくて、首を傾げていると、いつの間にか櫻子ちゃんが隣に腰を下ろしていた。

櫻子「あかりちゃん、これなーんだ?」

あかり「鍵?」

櫻子ちゃんがポケットから取り出したそれは、鍵としか言いようがなくて、返した言葉はたったの二音だった。

櫻子「そう! なんの鍵だと思う?」

あかり「えぇ!? 急に言われても……」

櫻子「実はね、楽園の鍵なんだよ!」

あかり「ら、らくえん?」

現実味のない言葉に、気が抜けてしまった。

櫻子「まあ学校のプールの鍵なんだけど」

あかり「えっ?」

櫻子「ちょろまかしてきたの」

あかり「えぇ!?」

櫻子「先生が」

あかり「なんだぁ……ってなんで櫻子ちゃんが持ってるの!?」

櫻子「あはは! あかりちゃんおもしろーい!」

あかり「櫻子ちゃんは恐ろしいね……」

櫻子ちゃんが言うには西垣先生から貰い受けたらしいけど、経緯については詳しく突っ込まなかった。

櫻子「なんかさー夏休みに刺激が足らないと思わない?」

あかり「そうかなぁ、あかりは平穏でいいと思うけど」

櫻子「私は退屈なの! だから!」

あかり「……だから?」

櫻子「夜のプールに忍び込もうかなーって」

あかり「……そんなワック行くようなノリで言わないでよぉ」

櫻子「それでね、今日の夜なんて丁度いいと思うんだけど、あかりちゃん一緒に行こうよ!」

あかり「なんであかりが……」

櫻子「丁度会ったのも何かの縁かなーって」

有無を言わせない押しに、圧倒されてしまう。
呑み込まれかけたところで、一つの懸念が口から出た。

あかり「……でもどうやって家から抜け出せばいいの?」

櫻子「えー、友達の家に泊まるとかでいいじゃん」

あかり「……実際はどこに泊まればいいのかな」

櫻子「じゃあうちにおいでよ! 多分大丈夫だと思うから」

あかり「た、多分……」

なにやら凄い不安に感じる単語だった。

櫻子「……やっぱり駄目かな?」

あかり「い、いや! その! うーんと……い、いいよ、いこっか!」

櫻子「ほんと!?」

あかり「う、うん」

悲しげな櫻子ちゃんの顔を見て、思わず許可してしまったけど、大丈夫かなぁ……。
……うーん、だけど、満面の笑みを浮かべる櫻子ちゃんを見たら、あまり後悔がわかなかった。

櫻子「じゃあ待ち合わせ場所はね……」


空に薄い藍色がかかっているころ、櫻子ちゃんとの待ち合わせ場所についた。
時間よりも結構前なのに、櫻子ちゃんはすでにいて、はやる気持ちを抑えきれない様子だった。
……確かにあかりもドキドキはしていたけど、この前の結衣ちゃんの、躍ればいいというものじゃないという言葉が頭をよぎった。

櫻子「あかりちゃん結構荷物持ってるね」

あかり「そりゃいろいろあるもん。……櫻子ちゃんは随分軽装だね」

櫻子「まあね! 身軽な方がいいじゃん!」

Tシャツにハーフパンツといった出で立ちの櫻子ちゃんは、いかにも活発な少女という体だった。
バッグにも最低限の荷物しかなさそうで、確かに動きやすそうではあった。

なぜか開いている校門を抜け、プールの出入り口につくと、櫻子ちゃんは鍵を使い、
ロックを解除した。……照明まで完備してるなんて。警備とかも大丈夫かなぁと思ったけど、それも西垣先生のお蔭なんだろうか。

櫻子「今日暑くて良かったね」

櫻子ちゃんはプールサイドから水に手を突っ込み、パシャパシャと音を立てている。

櫻子「じゃあ入ろっか!」

あかり「あ、あのね。一応聞くけど、服は?」

櫻子「そのままでいいよ! そっちの方が特別な感じがするし」

あかり「だ、だよね」

意味のない確認だったかも……そもそもあかりも水着は持ってきていなかった。

櫻子「よし、じゃあ!」

櫻子ちゃんはバッグを置き、サンダルを脱ぐと、勢いよく水の中に飛び込んだ。
少し離れたこちらにも、届くぐらいの規模の、派手な水しぶきが舞った。
その瞬間がなんだか網膜に焼き付いて、身体の動かし方を、少しの間忘れてしまう。
半ば呆然としていると、櫻子ちゃんは声を上げて、その心地よさをレビューしている。
それは気持ちいいだとか、単純な言葉だったけど、説得力は余りあるほどにあった。

櫻子「ほら、見て見て! 水も滴るいい女でしょ!」

照明と水に塗られた櫻子ちゃんは、確かに綺麗だった。

あかり「櫻子ちゃん美人さんだもんね」

櫻子「へ? うーんまあね!」

櫻子ちゃんは一瞬戸惑いを見せると、すぐさま元の様子に戻り、輝かしい笑顔を浮かべている。
……胸の高鳴りが、さっきよりも気持ちのいいものに思えた。この感覚に、身を任せていいのかなと自分に問いかける。
半信半疑のままだったけど、サンダルを脱いで、バッグをプールから離れた場所に置いた。

バシャンと、それはさっきの音よりも随分主張が弱い音だったけど、
あかりにとっては精一杯の勢いで、その音を鳴らした。

あかり「……きもちいい」

櫻子「でしょー!」

水の中に入った途端、周りの世界が塗り替わった気がした。
櫻子ちゃんの、楽園の鍵という言葉が、やっと現実味を持って刻まれた。
そこまで大きい規模のプールではないのに、だだっぴろく感じて、人の海がまるでないのが、酷くアンバランスな光景に見える。
この広大な場所を、独り占めに……二人占めにしているという事実を認識すると、高揚感がわいてきて、また胸の鼓動が速くなる。

櫻子「あかりちゃん!」

あかり「へ? ……うわっ!?」

声の方へ向くと、熱し切った頭に、水を掛けられた気分だった。
……というよりも、実際に掛けられていた。

あかり「えっ!? えぇ?」

櫻子「引っ掛かったね」

櫻子ちゃんは手に何かを持っていた。

あかり「……水鉄砲? なんでそんな」

櫻子「ほら、いろいろ楽しめた方がいいかなーって」

呆れ半分感心半分だった。あんな軽装なのに、こんなものは用意しているなんて。
だけど、櫻子ちゃんにいかにもしてやったりという顔をされると、むしろ清々しいぐらいに思えて、なんだか楽しい気分になってくる。

あかり「ずるいよぉ! あかり丸腰なのに!」

櫻子「んー? じゃあ手でも挙げてみる?」

あかり「?」

言われるがまま、手を挙げてみた。
すると、櫻子ちゃんがこちらに近づいてきて、あかりの脇を勢いよくくすぐった。

あかり「ちょ、ちょっと櫻子ちゃん!?」

櫻子「いやー無防備だったからね」

あかり「無防備にしたのはそっちだよね! もう!」

あかりが怒りのスタンスを見せると、櫻子ちゃんは泳ぎもせず、水の中を走って逃げていく。
同様にあかりも走って追いかけたけど、中々差が縮まらない。
けど、なぜだか足が凄く軽やかに動いている気がした。そんなはずはないのに、地上より動き易いように思えて、心まで弾んでしまう。

あかり「待ってよ櫻子ちゃん!」

櫻子「待てと言われたら待たないよ!」

声にまでその弾みがついたようで、普段では出さないような大きい声が出た。
本気で怒っているはずもなく、追いかけっこをするのがとにかく楽しくて、無心で櫻子ちゃんの背中を追い続けた。


櫻子「……流石に疲れたね」

あかり「……うん」

いくら気持ちが弾んでいても、身体はついていかず、しばらくすると、
二人して足だけを水の中に入れて、プールサイドに座り込んでいた。

櫻子ちゃんは、大人しくなって、手に持った水鉄砲に視線を落としていた。
それから、数十秒ぐらいたったあと、銃口を上に向けて、中身を発射した。

あかり「……なにしてるの?」

櫻子「特に意味も無いけど……なんか照明弾みたいだね」

あかり「誰かに伝えたいことでもあるのかな」

合図みたいな、そんな使い方を思い浮かべた。

櫻子「別に無いよね。……あっでも」

あかり「ん?」

櫻子「今、すっごく楽しいって、誰かに伝えたいかも!」

あかり「あはは、少なくともあかりには伝わってるよ」

櫻子「あっ、そっか。じゃあ伝わったね!」

そう言って、満面の笑みを浮かべる櫻子ちゃんを見ると、つられてこっちまで笑顔になってしまう。

あかり「……ねえ、櫻子ちゃん」

櫻子「んー、なに?」

あかり「あかりもね、今すっごく楽しいよ!」

櫻子「……そっか!」

二人して笑顔をうつしあって、しばらく頬の緩みが元に戻らなかった。


その後は、妙に準備のいい櫻子ちゃんが、ビーチボールを膨らませて、それを使って遊んだり、
意味も無く水の上に浮かんだりしたり、特に中身もないおしゃべりをした。そろそろ時間が遅いかなという頃合いで、プールから上がった。
夏とは言え、濡れた身体に吹き付ける風は冷たくて、着替えないと風邪をひきそうだなぁと、そう思ったとき、櫻子ちゃんが声を上げた。

櫻子「あっ!」

あかり「……どうしたの?」

プールサイドに立ち尽くす櫻子ちゃんに、焦りが見えた。

櫻子「……着替え忘れた」

あかり「大丈夫だよ、これでいいかな」

櫻子「へ?」

置いてあるバッグを開け、中身を取り出し、櫻子ちゃんに見せた。

あかり「その辺で適当に買った下着だけどいいかな? 上着はあかりのになっちゃうんだけど」

櫻子「……な、なんで?」

あかり「んー。櫻子ちゃん、ちょっとそそっかしいところがあるから、念のためかな。念のための準備って馬鹿に出来ないんだよぉ」

嫌味にならないように、柔らかく笑ってみせると、櫻子ちゃんはまた固まって、
動き出すようになるとすぐさまこちらに駆け寄り、あかりの身体を抱きしめた。

櫻子「あかりちゃん!」

あかり「さ、櫻子ちゃん、冷たいよぉ。せめてタオルで拭いてから……」

櫻子「あっ!」

あかり「……こ、今度はどうしたの」

櫻子「な、なんかいる」

あかり「へ?」

櫻子「ほらまた!」

あかり「……櫻子ちゃん」

櫻子「な、なに?」

あかり「ただの風だよぉ」

櫻子「あ、あれ? そうかな」

あかり「……櫻子ちゃんって、意外と怖がりだよね」

櫻子「そ、そんなことないもん!」

あかり「……じゃあなんで離れないのかなぁ」

櫻子「それは、そうじゃなくて……なんかあかりちゃんから離れたくなくて……」

あかり「……? あっ」

櫻子「どうしたの?」

あかり「それって、吊り橋効果ってものなのかな?」

ゆっくり身体を引き離しながら、いつかのごらく部の会話を思い出した。

櫻子「なにそれ」

あかり「えっとね、ドキドキしてると、その人が好きだって勘違いしちゃうことかなぁ」

櫻子「? 私あかりちゃんのこと好きだよ」

あかり「えっ!? あっ、いや、違う」

櫻子「えっ!? 嫌なの!? あかりちゃん私のこと嫌い!?」

あかり「そ、そうじゃなくて! あかりは櫻子ちゃんのこと大好きだよ!」

櫻子「……えへへ、そっか」

捨てられた子犬のようだった櫻子ちゃんの顔が、満開の花が咲いたように変わった。
櫻子ちゃんの笑顔はやっぱり魅力的で、あかりから見ても、ドキリとしてしまう。
……あれ? これも吊り橋効果なのかな。


帰り道を行く途中、櫻子ちゃんは思い出したように口を開いた。

櫻子「……あっ、しまった。今日私の家泊まれないかも」

あかり「へ?」

櫻子「いや、ねーちゃんの友達が来るらしくて、あんまり邪魔しちゃ駄目だとか……だっけ?」

あかり「だっけって言われても……」

櫻子「あと、口実が出て来なくて、焦って友達の家に泊まるって私も言っちゃった……ど、どうしよう、野宿しなきゃ駄目かな?」

あかり「えぇ!? ……い、いや大丈夫だよぉ。あかりのお家に来れば」

櫻子「で、でも嘘ついたのばれちゃうんじゃ」

あかり「……うーん。しょうがないよね。やっぱり回ってきちゃうというか」

櫻子「なにが?」

あかり「嘘をつくのは良くないねってことだよ。……どうしよっかな。なんとか櫻子ちゃんをこっそり入れる方法とかあればいいんだけど」 

櫻子「……いや、私が謝るよ」

あかり「えっ?」

櫻子「元はと言えば私が無理やり誘ったせいだし……」

あかり「で、でも……」

櫻子「あかりちゃんは優しすぎ! もっと怒ってくれていいのに」

あかり「……さ、さっき怒ったもん!」

櫻子「本気じゃないのが見え見えだよ、ただでさえ分かり易いんだから」

あかり「だ、だけど……」

櫻子「あーもう! 謝るったら謝るの!」

あかり「う、うん」

謝る態度からは程遠い櫻子ちゃんに気圧されて、それから家につくまで口を開けなかった。


櫻子「すみませんでした!」

あかり「ちょっと櫻子ちゃん!?」

あかね「あらあら……」

お姉ちゃんが玄関に出て来ると、流れるように櫻子ちゃんは土下座して、こっちの方があたふたしてしまう。
お姉ちゃんも困り顔で、頬に右手を当てている。
櫻子ちゃんは、経緯を話すと、そのまま頭を上げずに微動だにしない。

櫻子「あの、だから! あかりちゃんは悪く無くて! ……えっと」

あかね「顔を上げてくれるかしら」

櫻子「……」

お姉ちゃんに促されて、ゆっくりと櫻子ちゃんは起き上がった。

あかね「……実を言うとね、少し安心しちゃったのよ」

あかり「へ?」

櫻子「はい?」

思いもよらなかった言葉に、あかりと櫻子ちゃんは固まってしまった。

あかね「そのあかりって、姉が言うのも変だけど、いい子すぎると思うのよ」

櫻子「……そうですね」

さっきの櫻子ちゃんと同じような言葉に、どう反応すればいいのか分からない。

あかね「だからね、ちょっと抑圧された所があるんじゃないかって」

櫻子「よくあつ?」

あかね「抑え付けすぎてるってことかしら。たまに一人でいるときに良く分からない行動を起こすし」

あかり「お、お姉ちゃん!」

櫻子「あーなるほど」

お姉ちゃんの言葉に、櫻子ちゃんまで納得してしまって、板挟み状態だった。
……そういえば大きなことが出来ないとか前に言われた気がする。

あかね「ねえ、あかり。今日大室さんと遊んで、どう思った?」

あかり「えっ!? ……うーんと」

あかね「ご、ごめんなさいね。威圧するつもりはなかったんだけど。正直に言ってくれていいの」

あかり「……凄く楽しかったよ」

あかね「……そう」

笑みを絶やさないお姉ちゃんだけど、今はいつも以上に柔らかく笑っている気がした。

あかね「だから良いってことはないんだけどね。やっぱりあなたたちはまだまだ子供なんだし、こんな時間まで二人だけで歩くのは危ないわ。
……あんまりね、お説教はしたくないんだけどね、心配している人がいるってことだけは忘れないでね」

あかり「……うん」

櫻子「……はい」

あかね「はい! じゃあこれでこのお話は終わりね。お風呂沸いてるから、二人で入っていらっしゃい」

あかり「お、お姉ちゃん……」

あかね「どうしたの?」

あかり「ありがとう……」

あかね「……ふふっ、いいのよ」

俯くあかりの頭を、大好きな手が撫でた。

櫻子「あの、本当にありがとうございました!」

あかね「……これからもあかりと仲良くしてね」

櫻子「はい! もちろんです!」


櫻子「お姉さん、凄く優しい人なんだね」

あかり「……あかりの自慢のお姉ちゃんなんだ」

頭から流れて来るシャワーが熱いのか、目頭が熱いのか、定かにならなかった。

あかり「塩素を浴びてるから、ちゃんと流さないとね」

櫻子「髪傷めないといいんだけどなー」

出来るだけ丁寧に洗って、影響が出ないといいなと願った。
一通り身体を洗い終えた後、二人で湯船に入った。

あかり「二人だと足伸ばしにくいね」

櫻子「うーん、じゃあ私はさっさと上がろうかな」

あかり「駄目だよ!」

櫻子「へ?」

あかり「身体冷やしてるんだから、ちゃんと浸からないと風邪ひいちゃうよ」

櫻子「でもなんかのぼせちゃいそうというか……」

あかり「うーん、あっ、そうだ! ……ちょっとごめんね」

立ち上がって、向き合っている櫻子ちゃんの背後にまわって、そのまま腰を下ろした。

櫻子「あ、あかりちゃん?」

あかり「これなら足伸ばせるし、櫻子ちゃんがのぼせそうになってもわかるよぉ」

櫻子ちゃんの身体を両足で挟むようにして、座り込んだ。

あかり「体型同じぐらいで良かったね」

櫻子「なんで?」

あかり「これなら顔が見やすいもん」

櫻子「そうなの、かな?」

語尾を上げる櫻子ちゃんが少し可笑しくて、クスっと笑ってしまう。

櫻子「あかりちゃんってさ、髪下ろしてると大人っぽいよね」

あかり「そ、そうかなぁ」

素直に嬉しくて、口元が緩んだ。

櫻子「たまには下ろしてみたら?」

あかり「……櫻子ちゃんは、こっちの方が好き?」

なんだか恋人さんに言う台詞みたいで、口に出してから顔が熱くなった。

櫻子「うーん、わかんないけど、好きなのかな?」

あかり「じゃあ、櫻子ちゃんの前では下ろしてようかな」

櫻子「……秘密の共有ってやつだね!」

あかり「えっ?」

櫻子「ほら、今夜のプールとかもさ、なんかそんな感じしない!?」

あかり「……うーん、お姉ちゃんには言っちゃったしね」

櫻子「うぅ……まあそうなんだけど」

あかり「でも、そういうのってなんだか大人っぽいよね!」

櫻子「……なんかそういう風にはしゃいでいるのは子供っぽいかも」

あかり「うぅ……」


櫻子「あかりちゃんは寝るの早いんだよね」

あかり「うん。でも、今夜はちょっと寝付けないかも」

櫻子「私も」

あかり「でももう疲れてるから……」

櫻子「……私も」

胸の高鳴りは、まだあのプールの延長線上にあるようで、どうも落ち着きがたらなかった。
とは言っても身体は疲れていて、そのギャップがなんとも難儀なものだった。

櫻子「うーん、そうだ。あかりちゃん、そっちいっていい?」

あかり「こっち地面だよ」

なんとなくベッドで寝る気がしなくて、上は櫻子ちゃんに譲ったような形だった。

櫻子「じゃあ、こっちきてよ」

あかり「えぇ、いいけど。なんで?」

けだるい身体を起こして、櫻子ちゃんの寝床に入り込んだ。

櫻子「なんかあかりちゃんと一緒だと落ち着くから、眠れるかなって。……こういう穏やかなのって私好きかも」

あかり「あかりは櫻子ちゃんと一緒だとドキドキしちゃうんだけどなぁ。でもそういう刺激もいいかなって」

櫻子「じゃ、じゃあ眠れなかったりする……!?」

あかり「今は違うよぉ」

込み上げてきた欠伸を、こらえもせずにした。

あかり「だって大切なお友達が添い寝してくれるんだもん、安心しちゃうよ」

櫻子「……そっか。……ねえあかりちゃん」

あかり「んー?」

櫻子「……手、繋いでくれないかな」

あかり「暑苦しくないかなぁ……」

櫻子「大丈夫だよ、すぐ眠れる気がするから」

あかり「……あかりもそんな気がする」

あかりの右手で、櫻子ちゃんの左手を握った。
手を繋ぐと、徐々に残り火のような高鳴りが収まって、今日が終わる気がした。
ちょっとだけ物寂しかったけど、繋がれた手はそのままで、次の日が来ても、
櫻子ちゃんがおはようって言ってくれるから。それってきっととっても幸せだと思うから。
明日を楽しみに待ちながら、意識は夢の中へ落ちて行った。


おわり
さくあか好きです

すばらしい

わぁいさくあか あかり さくあか大好き

淡くて綺麗なSSだった
さくあかはいいものだ

惜しみない乙を>>1に捧げるわ

おつー

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