勇者「銀河辺境の、こんな惑星に飛ばされるなんてな…」(110)

vipに投下してたんだけど、さるったし水遁食らった。
だからこっちに書いてみる

超空間 勇者の宇宙船

勇者(かっこつけて、あんなこと言わなければよかったな…)

勇者(いくらなんでもあの命令は無茶すぎる)

勇者(どう考えても邪魔者処分を兼ねたいやがらせだろうし…)


――数週間前 銀河王国 王都星――

勇者「戦争が終わった以上、兵士の社会的な保障についてもっと考えるべきです」

貴族「はいはい、分かっておる。今は戦勝ムードなんだ。そんなことを言って水を差さないでくれ」

勇者「今の内からしっかり対策をしておかないと、大変なことになります」

勇者「戦争で精神的な傷を負った兵士をほったらかしにし、何の保障も与えずにいると、
   彼らが自暴自棄になって暴動などを起こすかもしれません。そうなると深刻な治安悪化を招きます」

貴族「ちっ、そんなことは分かっているんだよ。お前に言われなくてもな」

勇者「だったら今すぐにこのことに関する、抜本的な措置を講じてください」

貴族「おい、貴様はいつから私にそんな意見ができるほど偉くなった? この国屈指の大貴族である私にそんな口をきくとどうなるか、
   分かっているんだろうな?」

――数日後 王宮――

国王「勇者よ、卿に特別任務を命ずる」

勇者「はっ!」

国王「卿には初めて聞かせるが、戦争終了後、愚かにも我が領地である惑星で反乱を起こした者どもがいる。
   その賊徒を征伐してまいれ」

勇者「反乱があったのに、ニュースにはなってませんね。どういうことですか?」

貴族「余計な勘繰りはするな! これは国家機密にかかわる事項なんだ! 勇者といえど、知らなくて当たり前なのだ!」

勇者「…了解いたしました。それで、鎮圧にあたる部隊の規模は?」

国王「何を言っておる。卿は勇者であろう。専用の機体も余が下賜したはずだ。それを持って単独で命令を遂行せよ」

勇者「陛下、恐れながら意見を申し上げさせてもらいます。それは用兵の観点から言って愚策以外の何物でも――」

貴族「黙れ! 貴様は国王から勇者の称号を頂いておきながら臆病風に吹かれるのか! それに国王陛下の策を今なんと申した!
   陛下のご采配通り、一人で反乱を鎮圧するのだ!! 今すぐ準備し、早急に出発せよ!!」

勇者「しかし、現在私の専用機は故障中でして――」

貴族「貴様の船には自動整備装置があるだろう! それを用いて、航行しながら修理すればよい!」

国王「卿の言うとおりだ。勇者よ、至急目的地へ向かえ」

現時刻 超空間 勇者の宇宙船

勇者(あの貴族、政治的な発言力は抜群だからな)

勇者(朝廷であいつに対抗できる人間はまずいないし、国王だって思いのままに動かせる)

勇者(そんなあいつが、勇者の称号を持ってるとはいえ、たかが一パイロットの俺に意見されたのが癪だったんだろう)

勇者(だから国王にこんな任務を命令させた)

勇者(反乱を一人で治めろなんて、死んで来いと言っているのとほぼ同じだ)

勇者(かといって下手に逆らっても処刑されるだけだし、まだ戦いの中で死んだ方がマシか…。そうすりゃ汚名は受けずに済むし)

通常空間 目的地惑星 周辺宙域

勇者(超空間からの離脱、完了。座標確認よし。これより、通常航行に移る)

勇者(見えてきたな。あれが反乱のあった惑星か…。あんなに自然が残っているとは。青と緑がすごくきれいだ…)

勇者(けれど、妙な惑星だな。俺がこの星の存在を知ったのは、命令された時が初めてだし…)

ピリリリリリリ

勇者(これは、救難信号!? 生き残っている人間がいるのか!? 王都でもらった資料では、駐留部隊玉砕と聞いたが…)

勇者(確認のためにも、着陸地点はこの信号の発信位置にするか)

大気圏内 惑星上 基地

勇者(驚いた。こんなにきれいな形で基地が残っているとは。本当に玉砕したのか?)

勇者(でも着陸する途中で、何度か通信を行っても返事がなかったから、やっぱり誰もいないのか?)

勇者(とりあえず降りて、基地の確認をするか)プシュ

勇者「お、人がいる! おーい!!!!!」

???「…」ビュン ザシュ

勇者「…危ねえな、おい。いきなりナイフを投げるとはご挨拶じゃねえか。当たらずに地面に刺さったから良かったものの…」ジャキ

???「銃を構える前に、足元を見てみな」

勇者「なんだこりゃ!? でかいな! 虫か!? ナイフにざっくり貫かれて死んでいる…」

???「そうだ。靴を突き刺すほどの鋭い針に、猛毒を持っている。刺されりゃ1日と経たずに死ぬだろうよ」

勇者「ってことはお前に助けられたわけか…」

勇者「その徽章から察するに、あんた、騎士号を持ってるのか?」

騎士「そういうお前はの徽章は… 勇者じゃねえか!! なんでそんな奴がここに!?」

勇者「ここの反乱を治めるように命令されたんだ。あんた、どうして通信に出なかったんだ?」

騎士「やばい状態な以上、一応救難信号は出しているが、それにに引き寄せられるのは正規軍だけじゃねえ。
   盗賊の輩かもしれねえからな。一人だとどうしても警戒しちまうんだ」

勇者「一人、ってことはほかのメンバーはすでに…」

騎士「全員死んださ。ここの先住民にやられてな」

ゴゴゴゴゴゴゴ

勇者「なんだ、この地響きみたいな音は?」

騎士「ちっ、奴が来るか。お前、服に飛行徽章をつけてるってことは、戦闘機には乗れるな?」

勇者「ああ、けど俺の機体は今船の中で修理中で…」

騎士「おいおい、どうなってやがんだ。王都でしっかり整備しなかったのか? ここにある機体は一機しかだけだから、
   エレメントすら組めねえぞ」

勇者「それについて話すと長くなる。ってか、突っ込みたいのはこっちも同じだ。戦闘機があるのに、どうして一機だけなんだ。
   戦闘機を運用するときは、編隊を組むのが基本だぞ」

騎士「こっちもその話をすると長くなるんだ。戦いが終わってから話す。まずは出撃だ」

基地 格納庫

勇者「えらく古い機体じゃないか。何でこんなものがここに?」

騎士「話は後だって言っただろ。お前は後席に乗り込んでくれ。操縦は前席で俺がする」

勇者「俺は航法、通信担当か。こんな2世代も前の多用途戦闘機で出撃だなんて…」

騎士「死にたくなかったら乗りな。それにこいつは現在じゃ退役してるが、かつては5000機以上生産された名機だ。最低限は戦える」

勇者「分かったよ。よし、乗り込んだ。しっかし、コンソールが現世代の機種とは少し違うな…」

騎士「そりゃ仕方ねえよ。古いからな。けれど退役前に近代化改修を施されているんだ」

勇者「それは聞いたことがあるから知っている。確かアビオニクスは現世代と同等のものにするっていう魔改造だろ?
   現世代機のコストが馬鹿高くて配備が遅れてたから、改修で延命して配備までのつなぎにするって奴」

騎士「そういうことだ。もっとも、もう主力戦闘機はまにあったから、この世代の機種は全機退役したがな。
   ところでこいつ、扱えそうか? 今の戦闘機に比べたら操作が複雑だろうけど」

勇者「ああ、なんとか行けそうだ。エンジンを始動させてくれ」

騎士「了解。ラダーペダル先端を踏み込んでっと、ブレーキよし。エンジン回転率、85%」

勇者「タキシングをしてくれ」

騎士「了解。後ろは頼むぞ、勇者様」

キーン! ゴーッ!

騎士「離陸完了。脚上げよし。フラップ引き揚げ完了」

勇者「前方に機影を確認。天候のせいか視程が悪くて、ここからじゃまだほんの少ししか見えねえ」

騎士「この機体には、セミアクティブホーミングの中距離用空対空ミサイルが4発、短距離用の空対空ミサイルが4発、
   そして固定武装の機関砲がある。中距離用のミサイルを全弾撃て」

勇者「いいのか? iffが故障した味方機の可能性もあるぞ。まずはしっかり視認してから、攻撃するべきじゃないのか?
   それに全弾撃つ必要ないだろ?」

騎士「いや、機影が増える前に叩くんだ。それと、この惑星には航空機なんか俺たちが乗ってるものしか存在しねえ」

勇者「じゃああれは何なんだ。それに増えるってどういう――。って、機影が増えた!? 数は合計5つ!」

騎士「ちっ、少し出遅れたか! いいか、出し惜しみせずに4発全部発射しろ! 今の内にな!!」

勇者「分かったよ!! 照準良し。中距離用ミサイル発射!!」

バシュッ バシュッ バシュッ バシュッ

ドンッ ドンッ

勇者「くっ、命中したのは2発だけのようだな。意外といい機動力だ、相手は!!」

騎士「了解。これから近接戦闘に移る。敵の姿、しっかり目に焼き付けとけよ!」

勇者「何だ、あれは…。空飛ぶ、木?」

巨大植物「ゴオオオオオオッ!!!!」

勇者「見た目が完全に植物なのに、吠えてやがるし…。けどレーダーに映るってことは、金属的な特徴も持っているのか?」

騎士「あいつが敵だ。周りに飛んでいる赤い奴にも注意しろ」

勇者「あの赤いの、飛んでいる奴以外にも植物にくっついてるし…。まさか、果実?
   それが無理やり航空機のような形をとってるようにしか見えん…」

騎士「大体それで正解だ。奴は間違いなく植物。しかし動くし空も飛ぶ」

勇者「たまげたなあ…。突っ込みどころしかないじゃないか…」

騎士「そうやって植物を扱うのがこの惑星の先住民の特徴だ。これより攻撃を仕掛ける。まずは赤い奴から落とす! 
   勇者様よ、サポートは任せるぜ!」

勇者「飛んでいる赤い果物っぽい奴は二個。それに本体と思しき空飛ぶ巨大植物。敵は合計三体か。後方、側面には俺が気を配る!
   数の上では絶対的に不利な戦いだが、お前の操縦技術を信じるぞ!!」

騎士「任せろ。これまでもこの機体で、一人で何とかこいつを撃退してきたからな!!」

ギューン!! ダダッ!!

勇者「敵側面への機関砲射撃、いきなり外してるじゃねえか!!」

騎士「問題ねえよ、作戦の内だ!!」

ゴーッ クルリ

勇者「さっき当てそびれた赤い奴を、横から追い越しての斜め宙返り!? 何考えてるんだ!! 後ろにつかれるぞ!!」

騎士「大丈夫だって言ってんだろ!!」

キーン!

勇者「相手より大きな旋回角度をとって、先に後背に回り込んだ!?」

騎士「けつが見えたぞ、果物野郎!! そこだ、食らえ!!」

バシュッ ドカーン!!

勇者「上手い!! 短距離用の空対空ミサイルで一個落とした!」

騎士「へっ、赤いフルーツってのは、焼いても不味いだろうけどな」

勇者「6時方向、真後ろだ! 赤い奴にくっつかれている!」

ビシュッ!!

勇者「何だ!? あの赤い奴、液体みたいなのを飛ばしてくるぞ!!」

騎士「あいつの攻撃方法は頭に入ってる!!」

巨大植物「ウオオオオオオオッッッ!!!!!」

パパパパパッ

勇者「気をつけろ、あの植物も機関砲の弾丸みたいなのを撃ってくるぞ!! 果物ばかりに気をとられると落とされるぞ!!」

騎士「くっ、だが、これで」

ギューン!!!

勇者「ぐぅ…!! 垂直急上昇をするのはいいが、gが強すぎないか? この機体の慣性制御装置はどうなってんだ」

騎士「そりゃ現世代の機体と比べると慣性制御装置の性能は落ちるからgは強めさ。でも俺が耐えれるんだ。
   俺より若いお前なら全く問題ないはずだぜ。勇者らしいとこ見せて我慢しな!」

勇者「言ってくれるぜ…! 確かに少しきついが、限界には程遠いgだ。老体にムチ打って操縦してるお前が大丈夫なんだ。
   俺が無理な理屈はねえな!」

ヒラヒラヒラ…

勇者「おい、どうした! なんで失速させるんだ! 機体が葉っぱみたいに錐もみしながら落ちてるぞ!」

騎士「これで隙をうかがうんだ。俺の技量を信じな!」

ビシュッ ベチャッ シュー…

勇者「赤い奴からの液体が右翼を少しかすった! 塗装が溶け始めている…!? 溶解液かなんかか!?」

騎士「その通り、奴らの武器の一つだ。…いけるぞ、この間合い!!」

勇者「姿勢を急に立て直して、失速状態から抜け出した!? しかも相手の真後ろについている!」

騎士「どうだ、これが俺の空中戦闘機動だ!!」

ダダッ

勇者「機関砲での撃墜を確認! 赤い奴は全部落ちた。あとはでっかい植物だけだ!」

騎士「ミサイルはそっちに全部使う!!」

勇者「敵に後ろをとられてから、垂直急上昇。そしてわざと失速して落ち葉のように舞い、
   隙をうかがって今度は相手の後背をとる、か…」

勇者「まさにいぶし銀のドッグファイト技術だな」

騎士「感心してくれるのはうれしいが、それは後にしな。今から巨大植物を叩くぞ!!」

巨大植物「ガオオオオオンッッッ!!!!」

パパパパ!

騎士「そんな機関砲もどきの攻撃、当たらねえんだよ!!」

勇者「しかし、相手が植物ってのは少し厄介だな。レーダー警戒装置の類が全く反応しねえ。勘と目測で攻撃を避けるしか方法がない」

騎士「問題ねえよ。俺は経験の上に積み重なった勘でそれができるし、お前は若くしてそこら辺の勘が働くから勇者なんだろ?」

勇者「そうだな。おっと、攻撃が来るぞ!! 今度は弾丸じゃねえ!!」

シュルシュル ビュンッ ビュンッ!!

騎士「触手攻撃か!! 接近時しか使ってこない、奴の奥の手だ!!」

勇者「ったく、戦闘機の触手プレイなんて誰が得するんだよ!! とっととミサイルをぶち込んでやれ!」

騎士「言われなくても、3発ともくれてやる! 受け取れ!!」

バシュ バシュ バシュ ドンッ! ドンッ! ドンッ!

勇者「全弾命中!! しかし、巨大植物の部位は損壊、所々炎上しているが、まだ撃墜までには至ってない!!」

巨大植物「クオオオオォォォ…」

勇者「巨大植物が逃げていく…。ダメージが大きいのか? おい、これからどうする? 追うか?」

騎士「馬鹿野郎、ミサイルもないのに深追いは厳禁だ。全弾ぶち込み、とっととずらかれ。空戦の原則の一つだ。こっちも帰るぞ」

勇者「基地滑走路上空に侵入。旋回開始」

騎士「ダウンウインドレッグ。フラップと脚を下ろす」

勇者「ファイナルアプローチ」

騎士「操縦桿を少し引いてピッチを維持っと。着陸の瞬間は気を使うぜ」

勇者「接地したぞ!」

騎士「分かってる。ドラッグシュート、展開」

勇者「着陸完了っと。このまま格納庫に戻るのか?」

騎士「ああ。そこに自動整備装置があるからな。少し溶けた塗装も直してやりたいし…」

勇者「オッケー。それが終わったら、この惑星の詳しい事情、話してもらうぜ」

基地内部

勇者「さて、まずはあの巨大植物について聞かせてくれ」

騎士「あいつはおそらく、この惑星の先住民が操る生物兵器だ。元々俺たちが拠点としていたのはこの近隣にある、
   もう一つの基地だったんだが、奴の襲撃でそこは壊滅。生き残った俺は使われていなかったこっちの基地に来たんだ」

勇者「使われていなかった割にはきれいだな」

騎士「まあ使われていなかったとは言えど、非常時のことを考えて整備はしていたみたいだからな。俺も整備ロボットを使ってるし。
   それに武器や食料の備蓄もある」

勇者「なるほど。前の基地は壊滅したのに、どうしてここは大丈夫なんだ?」

騎士「あいつに限らず、この惑星の植物は共通してある種の化学薬品を苦手にしているんだ。ここにはそれを散布してある。
   だから奴はここには近寄らねえ」

勇者「おいおい、前の基地はあの巨大植物につぶされたんだろ? そこにはその薬品を散布していなかったのか?」

騎士「あの巨大植物は、どうも周期的な活動パターンがあるようなんだ。今まで何度か戦ったが、
   奴がここを襲撃してくる日は決まっている。今日はその日だ。まあなんとか撃退できたがな」

勇者「つまり、あいつは周期によって、化学薬品に耐えられる日があり、その時に襲ってくるわけか」

騎士「多分そうだ。最初の襲撃のとき、俺たちは先住民があんな兵器を持っていることを想定していなかった。
   だから完全に不意をつかれる形になり、壊滅した。生き残ったのは俺だけだ」

勇者「この惑星に航空機がないってのは、そういう意味か…。あの巨大植物は、完全に想定の範囲外の兵器だったわけか」

騎士「それに加えてここにいた兵士は、俺の直属の部下を除けば問題のある奴ばかりだ。練度もクソもねえ。だからあっさり死んだ」

勇者「なんか、ものすごくブラックな事情がありそうな惑星だな。ここで反乱が起こったことは、ニュースにもなってない。
   それどころか、惑星の存在自体、鎮圧を命令されて初めて知ったぞ、俺は」

騎士「そらそうだ。ここで行われていたのは、先住民を奴隷として売りさばく商売だからな。それが原因で反乱を起こされた」

勇者「…はあ、そういうことか…。聞いたことがなかったのは、惑星の存在自体、公表してなかったんだな…」

騎士「奴隷商人以外にも一部の貴族、軍高官なんかもこの惑星の事業に一枚かんでいるようだぜ」

勇者「なるほどな…。それで、この惑星の先住民はどんな感じなんだ? 巨大植物は見ても、それを操ってる奴は分からないんだが」

騎士「姿は俺たち人間とほぼ同じで、精神波を使って植物を自在に操ることができるんだ。ここら辺はわずかに残った資料で読んだ。
   軍や貴族は彼らを奴隷の他にも、貴重な研究用素材としても利用していたようだな」

勇者「大体理解したぜ。そういや、先住民たちはあの巨大植物の他にも、歩兵としては攻めてこないのか?」

騎士「それは俺にも謎だ。ここで読んだ資料によると、彼らは植物と同じく化学薬品を苦手としているが、
   活動できなくなるほどじゃねえみたいなのにな」

勇者「とりあえず、今のところ、相手の戦力は空飛ぶ巨大植物一体だけか…」

騎士「戦闘機が1機しかなかったのは、先住民が航空戦力を持っていないのと、奴隷貿易に関わらせるのに、
   まともな部隊を置くわけにはいかなかったからだろうな。一応この基地に、あれ用の燃料や武器の備蓄はあるが」

勇者「2世代も前の退役した機体を置いていたのもそのせいか。いくら軍や貴族がかかわっているといえど、
   現役の機体は回せないだろうしなあ」

騎士「俺がここに回される前からいた奴に聞いた話じゃ、それで十分だったようだけどな。
   先住民は航空機も対空兵器も持っていないから対地攻撃は防げないし、そもそも戦闘機が上空を飛ぶだけで威嚇になった」

勇者「あの巨大植物が出てくるまでは、質の悪い兵士でも、兵器を使えば文字通りの無双状態だったわけか」

騎士「そうだったみたいだな。だが、聞いた話によると、あの巨大植物以外にも、先住民の植物を操る能力は結構強力だとのことだ。
   そこら辺の雑草でも武器にするようだし。もし直接戦うことがあったら、油断するなよ」

勇者「じゃあ、俺の専用戦闘機が修理中な理由も話しておこうか。戦争が終わった後、修理していない内部構造丸見え機体を展示し、
   貴族が各所へアピールするために使っていたためだ。そういうのを見て喜ぶ連中は結構多いんだとか」

騎士「なるほどな。貴族はそういうのが好きだからな…。勇者専用機なんて言うワンオフの機体を造ったのも、
   大方、王と貴族の技術力と武力の象徴とするためで、同じくの武力の象徴である勇者のお前に、下賜されたんだろ?」

勇者「正解だ。戦争中、俺が武勲を挙げて、勇者になってからもらった。量産度外視で、最新鋭技術をふんだんにつぎ込んだ機体は、
   元々造っていたそうだからな。それが専用機として回ってきた。あの機体自体は大好きだが、ワンオフって思想には賛同できん」

騎士「貴族には苦労させられるな。俺もこの年までパイロットをやって、それなりに武勲を立てたから騎士号をもらった。
   けれど騎士になると貴族との付き合いも必要になる。俺は連中を怒らせて、直属の部下数人と共にここに回されちまった」

勇者「俺と一緒だな。こっちも貴族を怒らせてここに回された。…1つ聞きたい。お前はここで、奴隷貿易にどれくらい関わっていた?」

騎士「ほとんど関わってねえよ。ここに来て、先にいた連中にここのことを教えられ、
   そのすぐ後に巨大植物が現れて、ほかの人間は皆死んだ。大体この惑星に来てから3日ぐらいで部隊壊滅だ」

勇者「そうか。あんたがほとんど関わっていないことを知れたのは、素直にうれしいよ」

騎士「つっても、ここにきている以上、奴隷貿易に全く関わっていないとは言えないんだけどな」

勇者「そうだよな。善悪で言えば悪は先住民側じゃなく、間違いなく俺たちだな」

騎士「勇者なんて正義の味方でもなんでもなく、そんなもんだろ? 人をたくさん殺して、それで褒められてもらえる称号だし」

勇者「間違いねえよ。戦争での武勲って言葉を使えば美しいが、要は殺人がうまいですね、だからこの称号をあげます、
   っていうのが勇者号だ」

騎士「…何だ、こんな言い方しても怒らないんだな?」

勇者「こういう性格だからな。戦場で人殺ししまくってたらこうなるさ。あんたも騎士号をもらえるほど殺したんだから、
   俺と似たような性格になってるんじゃねえのか?」

騎士「ハッ、違わねえよ。お前も難儀だな。若いくせに俺みたいなひねくれた性格になっちまって」

勇者「へっ、全くだ。けどお前とはなんだかんだで仲良くやれそうだぜ。同類だしな」

勇者「なあ、いっそのこと、任務を放棄してどっかに逃げるか? この惑星自体、公表されてないし、
   航空機も持たない先住民なんか、宇宙に行けないから王国の脅威にもならないだろう?」

騎士「男と愛の逃避行をする趣味はねえよ。…それに、俺には戦う理由ができちまった」

勇者「…聞かせてもらっていいか、その理由を」

騎士「部下を殺されたからさ。確かに善悪で言えば俺たちが全面的に悪い。理屈の上じゃそれは分かる。
   けれど、感情の面で納得できないんだ」

勇者「そういうことか…」

騎士「最初の襲撃の日、突然現れた空飛ぶ巨大植物を見て、基地は兵士もそれ以外もみなパニックに陥った。
   まともな行動ができたのは、俺とその部下だけさ」

騎士「俺は部下たちの手を借りて、恐慌状態になっている基地で何とか戦闘機を飛ばした。
   部下たちには兵士を冷静にさせるために、基地に残るように命令し、後席には誰も乗せず、俺一人で出撃した」

騎士「しかしその判断は間違っていた。初めて戦う巨大植物を相手に、俺は苦戦した。今日のようにスムーズに退けられなかったんだ。
   結局、撃退には成功したものの、基地は壊滅。後でそこを見に行くと、全員死んでたって訳だ」

勇者「…悪いな、辛いことを話させてしまって…」

騎士「いいよ、気にすんな。どうせお前には話さなければならないことだしな」

騎士「結局のところ、俺は歳を重ねただけのただのガキなんだよ」

勇者「もう結構な白髪が混じっているのにか?」

騎士「けっ、言ってくれるじゃねえか。大人なら、冷静に善悪や損得をわきまえて物事を決める。この場合正しいのは、
   お前の言うように、とっととこの惑星から立ち去ることだ」

勇者「けれど、それはできないと?」

騎士「そうだ。部下を殺された。この一点のみで、俺はあらゆる理屈を受け入れることができねえ。死んだ連中のことを考えると、
   戦わずにはいられないのさ。たとえ何も得られないとしてもな」

勇者「…そうまで言われちゃ、協力するしかないな」

騎士「いいのか? お前には何の得もない戦いだぞ? それに、
   勇者が奴隷にしていた先住民と戦うなんて、どう考えても最悪だと思うが」

勇者「俺もあんたと同じでガキだからな。同類相手には結構な共感を抱いてしまうんだ。それだけでお前に協力したくなってしまう」

騎士「へへっ、そうかい。だったらもう何も言わん。これからも頼むぜ、勇者様」

勇者「修理中だが俺の専用機、見ておくか?」

騎士「そうさせてもらう。どんな機体か気になるしな」


勇者の宇宙船 内部

騎士「派手な機体だな。国章、王家の家紋、それに貴族連盟の紋章まで描かれてるじゃねえか」

勇者「元々そういった連中の象徴として造られた機体が俺に回ってきたんだ。象徴としての役目も果たさなきゃならねえから、
   派手なのは当然さ。こいつは双発複座式、そして可変後退翼が最大の特徴の多用途戦闘機だ」

騎士「複座式でも、1人で動かせるのは俺の機体と一緒か。まあそれでれも俺の機体と同じく、2人の方が戦闘能力は高いだろうけどな。
   それで、修理完了はいつだ?」

勇者「そこの自動修理装置のコンソールを見てくれ。表示されているはずだ」

騎士「どれどれ…。っておい、ちょうど次に巨大植物が来る日じゃねえか!」

勇者「マジかよ…。それより早くに直ってくれたら先手を打てたのに…」

騎士「まあ、相手の活動周期が分かるだけでも儲け物なんだ。次は2機がかりか、こいつに2人で乗り込んで戦えばいい」

騎士「そうそう、この機体の兵装の規格は、現在の主力戦闘機と同じか?」

勇者「そうだぜ。それがどうかしたか?」

騎士「だったら良かった。この基地には、ここの惑星の植物が嫌がる化学薬品を装入した特殊ミサイルがあるんだ。
   そいつを装備すればいい」

勇者「お前の機体じゃそれは使えないのか?」

騎士「ああ。さすがに2世代前のだと古すぎて規格が合わねえ」

勇者「何で規格に合わせて制作しなかったんだ…」

騎士「元々そのミサイルは、先住民相手への脅しや蹂躙に使われる目的で、制作されたんだ」

騎士「そして、いくらここの先住民が航空機を持ってないからといって、運用するには2世代前の機体じゃ古すぎる。
   だから、1世代前の機体をここにもってくることになったんだ」

騎士「つまり、そのミサイルの本格的な運用は機体が変わってからってことなんで、そっちの規格に合わせて造ったんだ」

勇者「1世代前の機体と、今の主力戦闘機の兵装の規格は同じだから、俺の機体で運用できるってことか。
   でもそのミサイル、効果あるのか? あの巨大植物は襲撃してくるとき、散布されている化学薬品に耐えるんだろ?」

騎士「あくまで散布されているものの話だ。さすがに直接撃ち込まれりゃ、効果はあるはずだぜ」

翌日

騎士「そろそろ、ここのポイントの薬品の効果が切れるころだな…。散布しにいかねえと」

勇者「それは俺に任せてくれないか? この星に慣れたいんだ。いろんなところを見回ってみたいし」

騎士「いいぜ。散布装置の準備をしておくから、お前も支度が終わったらそれを取りに来い」


勇者、騎士準備中――

騎士「おお、来たか。こっちの準備は終わってるぜって―― なんだ、そのかっこうは!?」

勇者「鎧型のパワードスーツだ。防具としてもこいつは一流なんでな。後は武器として熱線銃と、高周波で切れ味を増す振動剣だ。
   念のために、しっかり戦いの準備はしていた方がいいだろう?」

騎士「確かにな。しかしそのかっこう、まさに英雄譚に出てくる勇者そのものって感じだな」

勇者「実際俺専用の装備だし、貴族たちはそれを意識して造ったみたいだぜ? 勇者ってのは象徴だからな。
   それでもこいつらは、武器防具としては最高の部類だ。使えるものは使わしてもらう」

騎士「そういうことかい。散布ポイントはここだ。案内板を見ながら行ってくれ」

勇者(さてと、散布ポイントはここだな。化学薬品は基地周辺に、ライン状にまかれている。
   スイッチを押せば、後は装置が自動的にやってくれるみたいだな…)ポチッ

ウィーン ガシャ

勇者(こうやって実際に目にすると、ここの惑星の植物が、この薬品を苦手していることがよく分かるな…。
   ラインの上には、草1本生えてねえや。このラインの中で、例外的に草が生えている所が薬品が切れた場所か…)

勇者(植物の生命力自体はそれなりにあるな。散布してもすぐには枯れないみたいだ)

勇者(…なんだ、人の気配!?)

???男「…」バッ

勇者「何だ、お前は? この惑星の先住民か? それとも、生き残りの兵士か?」

???女「…この臭い、こいつ、あの薬をまいている!!」ギリッ

勇者「もう一人いる!! 今度は女か!!」

???女「そんなものを使うな!!」ビュン!!

勇者「いきなり攻撃か。お前ら、先住民のようだな!!」ガキンッ!

勇者「なっ…! どう見たって木製の槍なのに、俺の剣で斬れないなんて…」

???女「私たちを舐めるな!!!」ブンッ!

勇者「なんて身体能力の高さだ…! パワードスーツを起動させた俺と互角にやりあうなんて…!」キィン!

???男「やめろ! 俺たちは戦いに来たんじゃないんだぞ!!」

???女「うるさい! あの薬を使って、私たちの緑を枯らすのを、黙って見てろって言うの!?」

勇者「理由はよく分からねえが、戦闘中に仲間割れはよくないぜ!」

???男「いいからお前は攻撃をやめて下がれ!! 俺が話をする!! 追手が来る前にけりをつけないと…!」

勇者(追手? こいつらの他にも、誰かいるのか?)

ワラワラ ワラワラ

勇者(何だ? 茂みの中から緑色の肌をした連中がに出てきやがった。かっこうから察するに、こいつらも先住民だな)

先住民たち「ウウー…」

???男「ほら来た! おい、やめろ! 今はそっちじゃなくて、こっちの相手をするんだ!!」

???女「…けど!」

???男「早くしろ! でないとこいつらに殺されるぞ!!」

勇者(確かに、数は結構多いな…)

先住民1「アオー…」シュルッ ビュンッ!

勇者「うおっ!? 触手攻撃!? こいつら、あの巨大植物と似たようなことを!!」

???女「キャッ!?」

勇者「こいつら、間違いなく敵だな。戦闘の優先順位はこいつらからだ…!」

先住民2「オオー…」パパパパッ

勇者「今度は弾丸か! しかもこいつは、木片!? それを銃みたいに撃つとは、植物の力は伊達じゃねえな!!」

???男「おい、そこのお前!」

勇者「俺か?」

???男「そうだ。こいつらを放っておくと、俺たちの命もお前の命も危ない! ここはに共闘しないか?」

勇者「俺は構わねえが、こっちの女は…」

???女「…仕方ないわねえ! 一緒に戦えばいいんでしょ! 分かったわよ!」

勇者「そうかい、じゃあ共闘だ!」バシュッ! ジャッ!!

先住民3「アアー…」メラメラ

勇者「植物なだけあって、さすがによく燃えるな。熱線銃の効果は抜群だ。けど何なんだ、こいつら一体…。
   まるで生気を感じねえ。死体相手に戦ってるみたいだぜ…」

シュルシュル ガシッ!!

勇者「なっ!? 地面の雑草が伸びてきて、俺の足に絡まった!?」

先住民4「ウオー…」

勇者「やべえ、動けねえ!?」

???男「ほら、今足下の草を斬ってやる! そしたらすぐに動け!!」ザシュッ!!

勇者「すまねえ、助かった! にしても器用だな、槍を使ってピンポイントで斬るなんて…」

???女「感心するのもいいけど、早く敵と戦いなさいよ!!」ザクッ!!

先住民4「ア、ア…」

勇者「お前も十分強いな、一撃で敵の胸を槍で貫くなんて! こっちもやってやるぜ!!」バシュッ! ザシュッ!!

先住民5「ケハァ…」メラメラ

先住民6「クハァ…」

勇者「熱線銃と剣の威力にビビったんなら、とっとと帰りな!!」

数分後

勇者「ふう、あらかた片付いたな。そっちはどうだ?」

???男「大丈夫だ。大体倒すか退けた」

???女「こっちも同じよ」

勇者「そうか、だったらお前たちのこと、教えてくれないか? 特にそこの男は、話があって来たんだろ?」

???男「分かった。自己紹介をしよう。俺達はお前たちの言う先住民で、この近くの集落に住んでいる。そこで戦士をやっている」

???女「私もこいつと同じ集落で、神に仕える僧侶をやっているわ」

勇者「俺は自分の国で、一応勇者と呼ばれている」

僧侶「勇者、ねえ。そんな風に呼ばれている奴が奴隷を欲しがったりするの?」

戦士「おい、やめろ。この男は奴隷狩りの現場で見なかっただろ。よそから来たといって、奴隷を欲しがってるとは限らねえ」

勇者「そこの戦士は冷静だな。いい判断力の持ち主だぜ」

戦士「さっきあんたが言ったように、話があるんだ。聞いてくれるか?」

勇者「ここの基地には俺以外にもう一人いるんだ。ここじゃなんだし、そいつのところに行ってからにしようぜ」

勇者たち移動中

勇者「しかしお前たち、強いな。先住民の植物を操る能力は結構厄介だと聞いていたが、それ以外にも身体能力に優れているとはな」

戦士「…自分で言うのもなんだが、ここまで強いのは集落でも俺たち2人だけだよ。俺たちは自分の肉体に身体能力を高める、
   ある植物を共生させている。それを制御することでここまでの強さを身につけられたんだ」

勇者「他の先住民は、それを使えないのか?」

戦士「ああ。肉体に適合するのは俺たち2人だけだった。それ以外の人間がこの植物を体内に生やすと、
   体を食い尽くされて死んでしまう」

勇者「凄いな、そんな植物がこの惑星にはあるんだな」

戦士「元々あったわけじゃないさ。品種改良で作り出したんだ。お前の金属の剣で斬れなかった、こいつの槍もそうやって作られた。
   基本的にここの住民は、武器から生活用品に至るまでみんな植物頼りだ」

勇者「品種改良でそこまで思うがままの植物を作り出すのか…! 見事な技術力だ」

戦士「そうか? 技術が発達した方向性が違うだけだろ? 俺からすると、空を飛んだり、物を燃やす光を放つ銃を作れる、
   お前たちの方がよっぽどすごく感じるぜ?」

僧侶「あんたらが使う、その強い武器のせいで私たちの集落の人間は何人もさらわれたんだけどね。
   私たちの戦いはほとんど通用しなかった」

勇者「何で通用しなかったんだ? おかしいだろ、それだけ強いのに…」

僧侶「あんたに何が分かるっていうの!? 植物ってのはね、生き物なのよ!? 機械みたいに全く同じものは2つと作れない! 
   たまたま凄いのが品種改良で出きったて、それを大量に生産できるとは限らない!!」

僧侶「それに今、あんた私たちのことを強いと言ったけどね、ここまで戦えるのは集落で私とこいつのたった2人だけなのよ!? 
   他はもっとか弱いのよ! あんたみたいによそから来た連中は、そういう人たちをさらっていった!!」

僧侶「凄い武器を持った連中が、それなりの数で攻めてくるのに、私たち2人だけで対抗できると思う!? 人質をとられたりしたら、
   手も足も出なくなっちゃうのよ!!」

勇者「…すまん、今のは失言だった。そっちの事情を全く知らなかった俺が悪い」

戦士「落ち着けよ、お前も。ここで怒鳴ったって何にもならないだろ」

僧侶「…分かったわよ」

勇者「…そろそろつくぜ。この先に、もう一人がいる」

騎士「おう、帰って来たか。なんだ、そこの2人は?」

勇者「ここの先住民だ。俺たちに話があるんだとよ」

騎士「なんだ、やっぱり人間はここに入ってこられるのか」

戦士「お前たちがここの周りにまいている薬は、人間相手にはそこまでの効果はないよ。例外はあるが」

僧侶「といっても、私たちからすれば鼻が曲がりそうなほど臭うから、ここには近寄りたくなかったんだけどね」

騎士「俺は一応、王国から騎士号を授与された男だ。で、お前たちは何者なんだ? 自己紹介と、話の内容を頼む」

戦士「俺はここの近くの集落で、戦士をやっている」

僧侶「私は僧侶よ」

戦士「話の内容は、単純に言うと、俺たちの仲間になって欲しいんだ」

騎士「おいおい、仲間って…。俺たち相手にそういうことを言うからには、よっぽどの事情があるのか?」

戦士「ああ、ものすごく厄介な敵ができた。そいつを倒すのに協力してほしい」

勇者「…それで、敵っていうのは?」

戦士「巨大植物と、それを操っている男だ」

騎士「巨大植物っていうと、あれか? 空を飛んで、赤い果実を周りに従えている奴」

戦士「そうだ。こっちで何度か観察しているが、お前たちはあれを何回か追い払っているみたいだな」

騎士「話から察するに、あの巨大植物はお前たちが操っているわけじゃないみたいだな」

僧侶「そうよ。私たちとは敵対している奴が、あいつを使っている」

戦士「そのことについて、今から具体的に話そう。俺たちのルーツから説明しなきゃならないから、ちょっと長くなるぞ」

僧侶「私たちは、あんたたちに先住民って呼ばれているみたいだけど、もとはあんたたちと全く同じ種族よ」

勇者「どおりで。外見から何までそっくりなわけだ」

戦士「俺たちに伝わっている話によると、元々は銀河中に進出した人類が、生命のいないこの星に入植。環境を改造して、
   今の状況を造り出した」

僧侶「そして、私たちの祖先は自らの肉体に手を加え、精神波を扱えるようにした」

戦士「言語が通じるのはそのためだ。精神波は植物以外にも、ある程度なら人間の脳に干渉できる。
   そのためにこっちの思念を伝えられるんだ」

騎士「なるほどな。だから普通にコミュニケーションが取れるのか。全く、便利なもんだ」

僧侶「そして私たちの祖先は、精神波に対応して操れる植物を作り、既存の機械文明を放棄した暮らしを始めた」

騎士「共通してある種の化学薬品を苦手にしているのは、作られたものであるということの、何よりの証拠だな」

勇者「そこで独自の文明を発展させたわけか。あり得る話だな。銀河王国の初期時代は、かなりの数の人間がいろんな星に無許可で、
   入植しまくったと聞く。朝廷から認識されていない場所があったって不思議じゃない」

騎士「ったく、この事業に関わった貴族や軍高官もそういったことを研究しているのなら、
   ここにもっと資料を残しておいてほしかったぜ。こっちはそこまでディープな話は初耳だ」

戦士「お前たちが戦っているあの巨大植物は、そんな俺たちの祖先が造り出して遺したものだ。
   もっとも、あまりに強力すぎる兵器だという理由で、活動停止状態にされていたがな」

騎士「俺の植物系生物兵器だって読みは、当たっていたようだな」

僧侶「私たちと敵対しているのは、その巨大植物を再び活性化させた奴よ」

戦士「あの巨大植物は、寄生種子を放ち、それを人間に植えつけることができる。種子が発芽してしまった人間は、
   肌が緑色になって、死人のようになり、自由自在に操られてしまうんだ」

勇者「俺たちがさっき戦ったのは、寄生された人間なのか…」

僧侶「一度寄生種子が発芽してしまったら、もう元には戻せないわ」

騎士「つまり、そいつは殺すしかないってことか」

戦士「…残念だが、そういうことになるな」

勇者「その寄生された人間を歩兵として使って、なんでここまで攻めてこなかったんだ? 
   巨大植物のみを使うより、有効な戦術だと思うが」

戦士「寄生された人間は、肌の色を見れば分かるように、植物の特徴が非常に色濃く出る。だから、
   薬品がまいてある場所を突破できないんだ。無理にそれをしようとすると、寄生植物が枯れ、本体の人間もろとも死んでしまう」

勇者「さっきあの場所にあいつらがいたのは、あそこの薬品の効果が切れかかっていたからか…」

僧侶「そうよ。私たちもここの周辺を巡って、一番あの臭いがしない場所を見つけて、そこからここに入ろうとしたのよ」

戦士「あの巨大植物は、武器として触手、溶解液、木片による弾丸を使う。溶解液は飛行する赤い果実も使えるぞ」

騎士「それは知っている。何度かあいつとは戦っているからな」

勇者「寄生された人間が同じような攻撃をするのは、巨大植物の影響を受けているためか…。
   あの機関砲のような攻撃、木片だったとはな」

僧侶「後、巨大植物は、周期的に休眠と活動を繰り返しているの。その中で、活動時の最大活性期のみ、あの薬への耐性を得るわ」

騎士「やはりそうか。決まった日にしかここに来ないから、活動にパターンがあると思っていた俺の考えは正解だったわけか」

勇者「さすがに騎士号をもらった、ベテランの兵士だけあるよ、あんた。読みの正解率が半端ないじゃねえか。
   一つ疑問なんだが、あの巨大植物は飛べるんだろ? それなら、薬に耐性がない日でも、どうして上から攻撃してこない?」

戦士「いや、奴が飛行できるのは最大活性期のときのみだ。それ以外では基本的に地を這って移動するし、
   果実を切り離すこともできない。確かにそれでもめっぽう強いが、空を飛ぶ時と比べれば動きは非常に鈍い」

騎士「くそっ、そこには気付けて無かった! 気づいていれば奴を上空から探し出して攻撃を加えられたのに!」

勇者「まあ、しょうがないさ、今までの読みがほぼ完ぺきに当たってるだけで、お前は十分な古強者だ」

戦士「巨大植物を復活させた奴について、話そうか」

勇者「頼む。それは聞き逃すことのできない情報だ」

騎士「操ってるやつが分かったら、こっちもしっかりとした作戦が練れるからな」

僧侶「元々活動停止状態を解いたのは、私たちの集落にいる、普通の男だった。けど彼は、正義感は人一倍強かった」

戦士「そして現況を変えるために、巨大植物を復活させ、手駒にした。しかしその強すぎる力に、そいつは瞬く間に溺れてしまった」

僧侶「そして男は自らのことを魔王と名乗り、私たちの集落を支配した。圧倒的な暴力をもって」

勇者「さすがにあれほど強ければ、お前達でもかなわないか…」

戦士「魔王が支配者になってから、俺たちの集落は地獄と化した。逆らった人間を殺す、なんていうくらいならいい方だ」

僧侶「奴は自分に従わない人間には、寄生種子を植えつけ、意思を持たないものにして操り始めた。
   巨大植物を制御する精神波の持ち主は、寄生された人間を操ることもできるからね」

戦士「逆らったら殺されるどころか、もっとひどい目に遭わされる。それゆえに、誰も魔王に抵抗できなくなってしまった」

僧侶「けれど、そんな支配を行ってるから、集落の住人はほぼ全員が魔王への反抗的な感情を持ってるわ。表に出さないだけでね」

戦士「俺たちは魔王を倒すために、具体的な行動を起こすことにした。
   そのために、あの巨大植物と戦える、お前たちと仲間になりたいんだ」

僧侶「その動きを魔王は察知して、私たちに追手を送り込んだ。さっきあんたたちと協力して倒したのは、そいつらよ」

勇者「歩兵がいなかったのはそのせいか。魔王に忠誠を誓っている普通の先住民はいないし、ましてや普通の人間を使うより、
   逆らわない寄生された人間を使うほうが便利だからな」

騎士「そしてその寄生された人間は化学薬品が散布されたところを超えられない。やっと合点が行ったぜ」

勇者「この星の人間を奴隷にしていたのは、王国朝廷から忘れらた存在になっていたために、利用しやすかったからだろうな…
   しかも、もとは俺たちと同じ種族が、そういった植物を操る能力を身に着けてるんだ。学術的な価値も高い」

騎士「家畜は動物の方がいいが、人間の奴隷にするなら人間を使うのが一番だからな。同じ環境で活動ができ、
   教育すれば同じ設備や道具が使えるからな」

僧侶「…人間の奴隷は、人間が一番ですって…!?」

騎士「あん、どうかしたか?」

僧侶「どうかしたか、じゃないわよ! あんただって同じ人間でしょう!? しかも私たちを狩る側にいた! 
   どうしてそんな言い方ができるのよ!!」

戦士「落ち着け、言ってることがめちゃくちゃになってるぞ」

僧侶「落ち着けるわけないでしょ!! 確かにこいつらは戦力としては凄い! 現に何度も巨大植物を退けている! 
   けど、こいつらが私たちの集落の人間をさらっていったのも確かよ! 私は共闘なんてやっぱりいやよ!!」

僧侶「そもそも、あの男が巨大植物を復活させた理由を知ってる!? あんたたちの奴隷狩りに対抗するためよ!!
   元々あんたたちが来なかったら、あの男が魔王になるなんてこともなかったのよ!!」

騎士「…魔王が巨大植物を復活させた理由なんて知るわけねえだろ。現に奴を操っている男の存在自体、今初めて聞いたんだし」

勇者「お前もいちいち皮肉を言うな! 話がこじれるだろ!」

僧侶「うるさわいねえ!! とにかく、あんたたちは私たちを奴隷として利用してた! それだけで信用できないわよ!!」

騎士「確かに俺は少し関わっていたと言えるかもしれねえが、ここにいる勇者様は何も関係ないぜ?
   俺のことはどう思ってもいいが、それは頭に入れといてくれ」

僧侶「それでも信用できないわ!! 私たちを奴隷として扱った連中と、同じ出身なんだもん!」

騎士「その理屈で言うと、俺だってお前たちを信用することができなくなるぜ? 魔王は俺の部下を殺した。
   そしてその魔王は、お前たちと同じ集落の出身なんだ」

戦士「…分かった。一度話を打ち切ろう。仲間になるかどうかは、もう少し後に決めよう」

勇者「…その方がいいな。よし、気分転換にここの設備でも見て回ろう。ついて来いよ、お前ら」

僧侶「私はそんなものに興味ないわよ!」

戦士「…いや、少し頭を冷やすためだ。お前もついて来い」

勇者「ああは言ったものの、どこから案内しようか迷うな…。俺の戦闘機でも見るか? まだ修理中だが」

戦士「今まで巨大植物と戦っていたのとは違う奴か? だとすれば興味がある。見せてくれ」

僧侶「私は別に…」

戦士「お前も見ておくべきだ。もし彼らと共闘するのなら、戦力になるかも知れない存在なんだぞ」


勇者の宇宙船

勇者「あれが俺の専用戦闘機だ」

僧侶「なんていうか、巨大植物と戦っていた奴とは違って、ずいぶん派手ね」

勇者「まあそうだ。しかもあの戦闘機とは違って、可変後退翼といってな、翼が動くんだ」

戦士「翼が、動く? 鳥みたいな感じか?」

勇者「さすがに羽ばたいたりはしないよ。翼が猫の耳のようにな、前後に動いたりするんだ。その可変後退翼のおかげで、
   縦横比を変化させられ、速度によっては誘導抵抗を減らせる。だから空中格闘戦ではスペック以上の力を発揮することも可能だ」

戦士「よく分かんねえが、すごいってことだな…。見た目もめちゃくちゃかっこいいし」

僧侶「あんたあの飛行機に一目ぼれでもしたの? さっきからボーっとしちゃって、あれを見つめてばかりじゃない」

勇者「一目ぼれするのも無理ねえよ。デザインは最高だからな。むしろ惚れなきゃ男としておかしい外見だ」

僧侶「私にはよく分かんない感覚だけど、男ってああいうのが好きよねえ。大きかったり派手だったりする奴」

戦士「それでいて空も飛ぶんだ。気に入らないほうがおかしい。なあ、あれはもちろん飛べるんだよな?」

勇者「そりゃそうだ。修理が終わったら音より速いスピードだって出せる」

戦士「すげえな、おい。自分でも理由はよく分からないが、そう言う話を聞いてるだけで興奮してくるぜ」

勇者「気に入ったんなら乗せてやるよ。空を飛ぶ感覚はまた格別だぜ?」

僧侶「空を飛ぶだけでしょ? だったらあの巨大植物と一緒じゃない? どうしてそこまでうれしそうにしてんのよ?」

戦士「…はあ、空を飛べばなんでも一緒か…」

勇者「…これだから女は…。ロマンも何もわかっちゃいない…」

僧侶「ちょっとなんなのよ、その反応!? 私なんか変なことでも言った?」

勇者「いや、ちょっとからかってみただけだ」

僧侶「…むー。やってくれるじゃない」

戦士「…そういう返し方ができるってことは、どうやらお前も、頭は冷えたようだな」

僧侶「…そうみたいね。自分でも落ち着いたってことが、分かるわ…」

戦士「さっきのことは謝る。話し合いの場で、いきなりこいつが怒鳴って悪かったな」

勇者「いいよ、そっちの事情も、考えればな」

僧侶「理屈の上じゃ、あんたたちと仲間になったほうがいいってわかってるの。でも、奴隷狩りのこととか、魔王のこととか、
   妹のこととかがいっぱい思い浮かんじゃって…。そのせいで、どうしても冷静になれなくて…」

勇者「妹?」

戦士「話してもいいか、お前の妹のこと?」

僧侶「…うん、構わない」

戦士「こいつの妹は魔王によって、巨大植物の制御に利用されているんだ。あいつはその巨体ゆえに一人の精神波のみで、
   操るのは難しい。けれど、人間を生きたままを埋め込み、まずはそれにに干渉、それを介して植物に語りかける」

僧侶「埋め込まれた人間は、植物に肉体的に直接接している。その精神波も使えれば、一人で操ることは十分に可能よ。
   その埋め込まれた人間っていうのが、私の妹なわけ」

勇者「なるほどな。そういうこともあって、なおかつ相手が俺たちじゃ冷静になれないのもうなずける。
   なんていうか、お前はあのおっさんと似たタイプだな」

僧侶「私が? どうして似てるの?」

勇者「あいつも殺された部下のことを考えると、あの巨大植物と戦わずにはいられないそうだ。
   理屈の上じゃこの戦いに自分に道義がないどころか、得さえしないことも知っている。けれど感情で納得できないんだとよ」

戦士「同じようなことを考えてるんなら、あいつとお前も仲良くできるんじゃないのか?」

僧侶「…それは、まだ分からないわよ」

勇者「まあ、今すぐに結論を出す必要はねえさ。それより聞きたいことがある。もし魔王と戦うとしてだ、俺たちだけで勝てるのか?」

戦士「勝機は十分あると俺は踏んでいる。魔王は巨大植物の寄生種子を使って兵力を補充していて、
   まともな人間の味方はだれ一人いない。巨大植物の力のみで俺たちを圧倒しているだけだ」

僧侶「それ故に、奴は強力だけどもろい。巨大植物さえ葬ってしまえば、あとは魔王を倒すだけ。それで決着がつくわ」

勇者「向こうの戦力事情はよく分かった。確かに巨大植物が強くても、それだけじゃあな。
   いや、それだけで集落1つ支配できる巨大植物がすごいのか…」

戦士「俺たちはしばらくここにいさせて貰っていいか? 仲間になるか、そうでないかにしても、
   あの男とは話をつけなきゃならないだろうし」

勇者「おお、全然構わねえよ。ゆっくりしていけ」

基地 駐機してある勇者の宇宙船 シミュレーター

戦士「いいのか、戦闘機の訓練を俺が受けて?」

勇者「いざという時の戦力は多いに越したことがないからな。お前もこいつが気に入ったんだろ? 
   だったらシミュレーターぐらいは動かしとくべきだぜ。この船にはそれがあるんだからな。まずは飛行の感覚からつかみな」

ビュン

戦士「周りの風景が変わった!? 外にいるみたいになっている?」

勇者「シミュレーターを起動させて、周りの画面がついたんだ。今から離陸するぜ!」

戦士「凄い、空を飛んでいる…。こんな感覚、初めてだ! しかも、風が吹いているのも分かるし…。現実と変わらなく感じる…」

勇者「シミュレーションじゃない、本物の空はもっとすごいぜ。さあ、後席もにも操縦桿があるから、それを動かしてみな!」

戦士「うおっ! 機体の姿勢が変わった!? 待てよ、ここの画面の表示に従えばこうやって動かしたら…。おお、曲がれた!」

勇者「こいつは慣性、重力制御装置も完璧、操縦にはコンピューターが最大限にサポートしてくれる。飛ばすだけなら、
   猫にだってできるほど簡単だ。しかも乗員にほぼ負担はかからねえ。基本的な操縦なら、1日で覚えられるぜ!」

戦士「もっと、いろんな動かし方をしてもいいか!?」

勇者「おお。シミュレーションだし、失敗したって死にやしねえ。右手で操縦桿を握って、左手でスロットルレバーを扱いな。
   レバーを押したり引いたりすることで、スピードの調整ができる。自由自在に動かして、空を覚えるんだ!」

戦士「いや、すごく楽しかった。シミュレーションでこれなんだ。本物の空もぜひ飛んでみたい」

勇者「おう、飛ばせてやるぜ。あんたもすごいよ。この短時間で基礎技術はほぼマスターしたんだからな。
   間違いなくパイロットの才能があるぜ」

僧侶「楽しそうね。戦闘機って、そんなにいいものなの?」

戦士「ああ、最高だった。お前もシミュレーターを使ってみるべきだ。本当に操縦は簡単だから、誰でもできるぞ」

勇者「パイロットの才能を持った人間に、異星で巡り合えたんだ。
   俺としてもめちゃくちゃうれしいぜ。次は兵装の使い方を教えてやる」

僧侶「でも、私たちの集落は戦闘機で脅されたり、そこからの攻撃を受けたりしたのよ? 悪いけど、私には好きになれそうにないわ」

勇者「確かにそうだな。無理して好きになる必要はねえよ。でも、この男はこれが気に入ったみたいなんだ。
   だから訓練を受けることを許してやってくれないか?」

僧侶「それは個人の問題だから構わないけど、こういうのって機密とかないの?」

勇者「ちょっと失礼な言い方になるが許してくれ。あんたらの所有している航空機は、あの巨大植物だけだろ? それにあんたらは、
   機械文明を放棄してるから、宇宙に行けねえ。そんな人たちに軍事機密を教えても、俺たちの脅威にはならねえよ」

戦士「なるほどな。仮に俺たちが乗り込んで、宇宙へ行けるような植物製乗り物を品種改良で作れたとしても、
   それはもっと何世代も先の話だろうしな」

勇者「そのころにはこの戦闘機なんか、とっくに旧式化して価値のないものになってるさ」

僧侶「戦闘機の操縦って、そんなに簡単なの?」

勇者「まあ今の世代の奴はな。容易に扱えるように設計されているわけだし。飛ばして基本的な兵装を使うぐらいなら誰でもできるさ。
   スイッチ一つで地面にミサイルや爆弾がぶち込める。けど、動かすのは簡単でも空戦技術は奥が深い」

戦士「ただ動かすだけではなく、どのような状況で、どのように動かし、どのような武器を使うかが重要なわけか。
   これには経験や高度な技術が必要だな」

僧侶「いくら技術や経験が必要でも、簡単に人を殺せる武器が使えることに変わりはないわ。たとえば私たちが武器に使ってる槍は、
   満足に動かせるようになるまでにもすごく時間がかかるし、それで殺そうと思ったらさらなる習練が必要よ」

勇者「その点、戦闘機なら、とりあえず人殺しの技術を身に着けるのはすごく簡単だな。
   当然、俺はそっちの方が兵器としてすぐれていると思う。誰でも簡単に扱えるっていうのが、いい兵器の証拠だ」

僧侶「私はそうは思えない。簡単に人殺しの技術なんて身に着けてしまったら、どんどん命が軽くなっちゃうじゃない。
   私は槍のように、子供のころから修行を積んで、初めて人を殺せる武器の方が、命を重く扱ってるぶん、いいと思うわ」

勇者「そこら辺は価値観の相違だな。俺たちだけで結論を出せるようなもんじゃねえ」

戦士「雑談はこれくらいにして、今後の打ち合わせを行いたいんだ。あの騎士のところへ行こう」

勇者「大丈夫か、お前。また喧嘩になったり――」

僧侶「今度はできる限り自制するわ。信じてちょうだい」

騎士「お前たちの集落に来てほしい、だと?」

戦士「ああ、こっちもお前たちの拠点を見せてもらったんだ。俺たちも自分の住処を案内しようと思ってな」

僧侶「…魔王の奴が、具体的にどんな支配をしているか、知ってもらいたいしね…」

騎士「いいのか? 俺たちは奴隷狩りをしていた側の人間なんだぞ?」

勇者「…一応言っておくが、騎士のおっさんは、この惑星に来て3日で巨大植物の襲撃に遭い、自分以外は全滅している。
   だから奴隷貿易にはほぼ関わってないし、もちろん直接的な奴隷狩りもしてないぞ」

騎士「確かにそうだが、俺たちを見てどう思うかは、向こうが決めることだろ? 
   集落の人間からすれば、俺たちサイドは憎悪を向けられて当たり前だ。現にそこの嬢ちゃんだって俺にキレただろ?」

戦士「いや、出発前に集落の人間には話を通している。ここの人間を連れてくるかもしれないって」

騎士「理屈の上じゃそうだが、感情的な面で納得できるのか?」チラッ

僧侶「何でそこで私を見るの…! って、落ち着け、私。確かに私は魔王のことになると、すごく感情的になっちゃうわ。
   でも、今は一度冷静にならないと、あいつには勝てない。本当に勝利するためには、多分あんた達の協力が必要よ」

騎士「…分かった。付き合おう。もし協力するんなら、お前たちのことをもっとよく知る必要があるしな」

戦士「じゃあさっそく準備してくれ。それが終わり次第、出発しよう」

一行移動中

勇者「基地の隣の森を抜けて、さらに歩いた先が集落か…」

騎士「ここら辺を歩いたのは初めてだな」

戦士「いいか、ここには毒を持った虫や、触るとかぶれてしまう木なんかがある。先頭の俺にぴったりついてきてくれ」

僧侶「一番後ろは私が勤めるわ。歩くペースはしっかり管理するから、安心してちょうだい」

戦士「ちょっと、邪魔になっている草が多すぎるな」シュルシュル

騎士「すげえな、足元の草が勝手に動いて、道をあけてくれている。植物を操る能力をじかに見たのは初めてだぜ」

僧侶「…あんた、本当に奴隷狩りにはほとんど関わっていなかったのね…」

騎士「まあな。一応、お前たち以外のここの先住民を見たことはあるが、とらえられた姿ばかりだったしな。
   基地内部にはできるだけ植物を持ち込まないようにしてたようだし」

勇者「ふう、結構歩いたな。あとどれぐらいでつく?」

戦士「もうすぐだ。ほら、あそこの視界が開けている所があるだろ? あそこを抜けたら、集落だ」

騎士「集落に魔王はいるのか?」

僧侶「いいえ。今は多分、巨大植物の治療に当たってるはずよ。あんたたちが負わせた傷があるから…。
   ここまで来ても寄生種子を、使った兵がいないってことは、そっちも多分魔王の護衛に回ってるはずだし」

騎士「…こっちの、皮膚が緑色になっている死体は?」

勇者「今度は大人ばかりで、皮膚の状況を除けば死体はきれいだな。体格のいい男ばかりが死んでいる」

僧侶「それは魔王が、寄生種子を植えつけたけど、それに適合できなかった人たちよ」

戦士「寄生種子が発芽しても、肉体がそれに合わなければ死んでしまうんだ。
   魔王が兵士にしようとして、できなかった人間はここに放置される」

勇者「そういや、俺たちは寄生種子への対策をしなくて平気なのか?」

僧侶「私たち2人は身体能力を強化する植物と共生してるって言ったでしょ? それがあれば種子は寄生できない。あんたたちは、
   あの薬の臭いが染みついているから、寄生種子の方が嫌がるわ」

騎士「不適合な働き盛りの若い男や、子供を殺しまくってるわけだな…。魔王がこのままいると、この集落は存続できなくなるぞ」

戦士「言われなくても分かっている。だがここに住んでいる一般の人間は、魔王の圧力が強すぎて何もできないんだ」

僧侶「だから私たちが、なんとかしなきゃいけないのよ…」

騎士「ここに来たら、俺たちは先住民に石を投げられるぐらいは、されるとばかり思っていたが、それすらできないようだな…」

僧侶「誰にもそんな気力はないわよ…。みんな生き延びるだけで精いっぱい。用事が無ければ家から出ようとすらしないわ」

勇者「確実に住民の気力をそいで、支配するわけか…」

戦士「見えてきたぞ、あれが俺の家だ。多分俺の父親がいるはずだから、一度顔を合わせよう」

戦士の家

戦士父「おお、帰って来たか。僧侶のお嬢さんも無事みたいで何よりだ」

僧侶「まあね。一度魔王の追手が来たけど…」

戦士「こちらの彼のおかげで退けられた」

勇者「まあな。そういや、ここにはあの寄生種子の兵はいないのか?」

騎士「多分必要ねえんだろ。あの見せしめがあれば、誰も表立って逆らおうなんて思わないだろうし」

戦士父「あなたたちが、他の星から来た方々か。私はここの戦士の父だ」

勇者「俺は一応、国では勇者と呼ばれている」

騎士「俺は騎士だ。その称号を国からもらった」

戦士父「勇者に騎士か。味方になってくれれば、心強い限りだな。おい、お前達。ほかの有力氏族の当主の方々も呼んできてくれ。
    早速、この家で今後のことを決める、会合を開こうと思う」

戦士「了解。じゃあ、俺はこっち側へ行ってくる」

僧侶「じゃあ、私はあっち側で」

会合中――

当主1「確かに、お前たちは我らの集落の人間をさらったものと、同じ出身だ」

騎士「待てよ。確かに俺は少し関わってたかもしれないが、こっちの勇者様は違うぜ。完全に真っ白だ。シミ一つないぐらいに」

勇者「この騎士のおっさんだってそうさ。この星に来て、三日で自分以外は全滅したんだ。ほとんど奴隷貿易には関わってないよ」

当主2「なるほど。その言葉、信じさせてもらおう」

当主3「それに今では、奴隷狩りより魔王の方が優先的に対処すべき課題だ。魔王は現在も活動しているが、奴隷狩りはもうない」

戦士父「魔王に殺されたものの総数は?」

当主4「すでに、さらわれた人間の数を優に超えてしまっている」

僧侶「もう報告していますが、彼らは戦闘機を使って魔王の操る巨大植物を退けています」

戦士「俺もそれとは別の機体を見て、操縦の訓練をさせてもらったが、なかなかにすごいものだ。
   彼らはぜひ味方として迎えるべきだと思う」

当主1「君たちの意見は?」

勇者「俺は構わないぜ」

騎士「こっちもだ。あの巨大植物は、俺にとっても倒すべき敵だからな」

当主5「なるほど、では彼らには味方になってもらうということでよろしいかな?」

戦士父「私は賛成です」

ワイワイ ガヤガヤ

集落民「た、大変だ!!!!」

当主1「どうした!? 今は会合中だぞ!! その場に無断でいきなり入ってきおって!!」

集落民「ま、魔王がここに戻ってきたんだ!!」

当主6「何!?」

戦士父「お前たちはすぐに魔王のもとに迎え!!」

戦士「了解、行くぞ!!」

僧侶「ええ!!」

勇者「俺も行かせてもらう。鎧型のパワードスーツと、熱線銃、振動剣は持ってきてるからな」

騎士「俺も行くぜ。魔王の面は一度直接拝んでおきてえ」

勇者「お前、武器は?」

騎士「熱線用のライフルなら持ってきている。何、自分の身ぐらい自分で守れるさ」

魔王「ほう、やはり貴様らが最初に来るか」

僧侶「何しに来たの? まだ人を殺したりないの…!?」ギリッ

騎士「魔王なんて名乗ってるだけあって、なかなかに貫禄のある姿だな」

勇者「同意見だ。見てくれは立派なもんだ」

魔王「なんだ、お前たちは見かけない顔だな。他の星から来たものか?」

戦士「その通りだ」

魔王「私が、戦士と僧侶が異星のものどもの拠点に赴こうとしているのを察知し、差し向けた追手はやはり倒されたのか」

勇者「おお。こいつらと一緒にぶった斬ったり、燃やしたりしたぜ」

魔王「そしてあの戦闘機を使い、私の巨大植物に傷を負わせたのもお前達か?」

騎士「よく分かってんじゃねえか」

魔王「ならば話は早い。私は有力氏族どもに話があって来たのだが…。
   その前に、異星の2人と、この集落の戦士と僧侶。お前たち、私の部下にならないか?」

戦士「…どういう意味だ。お前、一体何を考えている?」

魔王「意味など簡単なこと。強大な敵がいれば味方にしたくなるのが普通だ。私の場合、意思を持たぬ兵ならそれなりの数がいるが、
   そうでない部下は皆無だ。より強力な支配体系を確立するには、貴様たちのようなものが味方になってくれるとありがたい」

僧侶「誰があんたの味方になんかなるか! 私の妹にひどいことをしているくせに…!」

魔王「それは仕方がない。貴様の妹はそういう方向で利用するのが一番効率的だからな。だがお前たちはそうではないぞ。
   集落屈指の戦闘能力を持つ2人に、異星の強大な武器を持つ2人。これらが自分の意思で私に従う姿を集落民に見せると――」

戦士「いよいよもって集落の人間は絶対服従。精神的に反抗心を抱くことすら難しくなるわけか」

魔王「分かっているではないか。改めて貴様たちに言おう。我が部下となれ」

勇者「お断りだ。何で俺がお前の下につかなきゃならねえ。子供を殺してその死体を積み上げるような奴が上司だなんて、絶対嫌だね。
   まだ俺に向かって遠回しながらも、死ねと命令する貴族の方がマシだ」

騎士「俺も断る。大体貴様は支配が目標なようだが、それならなぜ子供や大人の男を殺すんだ?そんなことをすれば、
   将来性の芽が摘まれてしまい、この集落の存続自体が危うくなるぞ。そんな奴の下につくなんて、泥船に乗るようなもんだ」

魔王「なるほど。私の殺戮のせいで集落が維持できない、か。むろんそんなことはこちらも承知の上だ。
   しかし恐怖が無ければ人はついてこないのだよ」

勇者「そんなこと言ってる時点でお前は無能だよ。まあ俺たちを部下にするのはあきらめな」

魔王「ならば一つ、取引をしないか? 私は貴様らが勝つまで、集落の民を殺さない。数を維持するためにもな。
   しかし貴様らが負けると、有力氏族はすべて、私に従ってもらい、この集落を私が支配するために全力を尽くしてもらう」

戦士「有力氏族にしにきた話っていうのはそれか…」

戦士父「何!? 私の息子たちがお前に負けると、有力氏族すべてがお前に従うようにしろだと…!」

魔王「ちょうどいいタイミングで会合が開かれているようで助かったよ。その提案を呑めば彼ら4人が死ぬまで、
   私は集落に何もしない。それに貴様たちが支配体系の確立に協力してくれれば、無駄な血は流れずに済む」

当主1「そんな提案、誰が呑むか!!」

当主2「そうだ!!」

魔王「ほう、よいのか? 呑まないのならさらに死人が増えるぞ? それに貴様たちが私に勝てるとすれば、
   この集落の最高戦力である2人と、異星の2人の協力が不可欠だ。それがいなくなってからの抵抗など、犠牲を出すだけだ」

当主3「ぐむむ…。だが、正論だ…」

勇者「なあ、ようは俺たちが勝てばいいんだろう? だったら話は早い。この提案、呑んでくれ」

騎士「そうだな。俺も負ける気は全くないしな」

当主4「何を言うか!!」

戦士父「…待て、いいだろう。その提案、呑もう」

当主5「しかし!!」

戦士父「今この場でこいつの意見を蹴って見ろ。私たちが死ぬだけならいい方だ。こいつは間違いなく、子供達を殺すだろう。
    もはやこの案は呑むしかないんだ」

魔王「賢い選択だな。よろしい。ならば今より、私は彼ら4人が敗死するまでここの住人は一切殺さん。
   では私は去ろう。巨大植物が気になるからな」

寄生兵たち「「「「「ウウー…」」」」」」

戦士「家の外には、すでに寄生種子を使って操られている兵士でいっぱい!?」

魔王「今この瞬間から戦いは始まっているんだ。お前たちがここで死ねば、私は有力氏族をすぐにでも従えられる。
   まあ、治療が忙しいので私自身はこの場から退くが、のちに様子を見に来る。せいぜい頑張るんだな」

勇者「けっ、仕方ねえ!! おっさん、お前は戦えるな!?」ザシュッ!! バシュッ!!

騎士「まあ、それなりには!! ライフルの熱線を食らえ!!!」ビシュッ!! ビシュッ!!

寄生兵1「アオ…」メラメラ

僧侶「こんなところでは、絶対に死ねない!!!」ザクッ


数分後

騎士「ゼェ…、ハァ…」バシュッ!

勇者「おっさん、さすがに生身の戦闘で俺たちについてくるのは無理か…!」ザシュッ!! バシュッ!!

僧侶「もうちょっと頑張りなさい!! もうすぐ全部倒せるから!!!」

戦士「何とか、魔王の兵は倒せたか…」

騎士「ヒィ…。しかし、パワードスーツをつけてる勇者と同じぐらい動けるとは…。なんて身体能力だ…。フゥ…」

勇者「無理すんな。だいぶ息が上がってるぞ。さすがに年波には誰も勝てねえよ」

僧侶「ここにいたら、また魔王の兵に襲われそうね…」

戦士父「君たち、大丈夫か!?」

勇者「おう、なんとかな」

騎士「…戦士と僧侶の嬢ちゃんの2人は、俺たちの基地に来た方がいいな。そこならあの緑色の兵の襲撃はねえ」

戦士「そうだな、親父。俺たちはそうさてもらう」

僧侶「…魔王に勝ったら、帰ってくるから」

戦士父「…そうか。武運を祈る」

勇者「今から出発しても大丈夫なのか? もうすぐ夜だぞ? それに魔王の追手が…」

戦士「これでも結構、俺たちは奴の兵を倒したからな。今日一日で連れてこられる数は、これが限界だろう」

僧侶「今すぐ出発しましょう。下手にグズグズするより、そっちの方がいいわ」

基地

勇者「しっかり道案内くれて助かったぜ。夜の森は俺たちだけではまず歩けなかっただろうし」

戦士「まあ俺たちもここにしばらくいさせてもらうからな。集落より、ここの方が作戦も練りやすいだろうし」

僧侶「けどどうして、魔王はあんな提案をしてきたんだろう?」

騎士「そりゃ、そろそろ安定した支配権が欲しいんだろう。奴は現在、恐怖によって集落を圧倒しているが、それはもろい」

戦士「俺たちという、抵抗できる人間を潰してから、有力氏族を傘下に収める。そうすりゃ完璧って訳か」

勇者「だがまあ、奴自らそんな提案をしてきたんだ。これでしばらく、集落で魔王に殺される人間はでない。
   俺たちは戦いに専念できる」

僧侶「けど、魔王が約束を破って、人殺しを始めたら…」

騎士「それはねえよ。魔王の提案の主眼は、有力氏族を従えることだ。ここで約束を破ったら有力氏族たちは、
   言うことを聞かなくなる。そうすりゃ安定した支配が遠のいて、不利益を被るのは魔王自身だ」

戦士「約束をきちんと自分が守ることで、心理的にも有力氏族が逆らないにくくするつもりか…」

勇者「…もう難しい話はよして、今日のところは寝ようぜ。俺たちがやるべきことは、そういうことを考えるんじゃなく、
   戦いに勝つことなんだから。そのためには体力をとっとかないと」

騎士「賛成だ。今日のところは休もう」

騎士「宿泊用の施設はあるから、そこに案内するよ。ついて来い。そっちの嬢ちゃんは個室でいいな?」

僧侶「うん。それでお願い」テクテク

勇者「しかし、歩きながら時々上を見たりすると思うんだが、ここは本当に星空がきれいだな。都会じゃ見れない景色だ」

戦士「そうか? 俺たちは見慣れているから、もう何とも思わないぜ。それより宇宙で直接見た方が、よっぽどいいんじゃないか?」

勇者「ところがそうでもないんだな。宇宙は空気がないから…。俺はやっぱり大気圏の底で見上げる星空の方が好きだぜ」

騎士「ここの景色もいいが、俺はやっぱり故郷で見上げる星空が一番だ。この戦いが終わったら、まずはそれを見てみてえ」

僧侶「…私は、ここの星空はすごく好きだし、きれいだと思う。でも、私だけがそんな風に感じちゃっていいのかなって…」

騎士「…どういう意味だ?」

僧侶「だって、私の妹は魔王にとらわれて、巨大植物に埋め込まれているのよ? そうなったら、星空を見上げるどころか、
   自分の体をきちんと自分で動かすことすら難しい。それなのに、私だけ物事をきれいだと感じていいのかなって…」

騎士「…そんなことを後ろめたく思う必要はねえよ、と言いたいところだが、俺も似たようなことは考えてしまうしな…。
   死んだ部下たちはもう何もできないのに、何で俺は生きてるんだろうってな。俺はそれを紛わす為に戦っている面もあるし…」

勇者「めんどくさい話だなあ、おい。要は勝てばいいんだろう? そうすりゃお前の場合、妹も戻ってくるし、
   騎士のおっさんもこれ以上戦わずに済む」

戦士「…そうだな。今は勝利のことを考えて、突き進めばいい。それが俺たちにできることだ」

戦士たちの集落

騎士「…これはひどい状況だな…」

勇者「一応、木でできた家はたくさんあるが…。住人がいると言う活気をを感じない…」

僧侶「…奴隷狩りが始まってから、ここの雰囲気は一気に暗くなった。それに魔王の支配がダメ押しした感じよ」

戦士「…俺の家に行こう。俺の父親は、この集落の有力氏族の当主なんだ。ほかの氏族の当主とも、そこで話し合うつもりだ」

勇者「ちょっと待てよ。なんだ、あのいっぱい積んであるものは…」

僧侶「…近くに行って、見てきなさい。魔王の支配のやり方が、一発で理解できるから」

騎士「…! これはひどい…! 死体を積み上げているのか!? しかも子供ばかりじゃないか…!」

勇者「どれもバラバラで、すごくむごい殺され方をしている…」

戦士「魔王に逆らった家の子供はこうやって殺されるんだ。ここにおいてあるのは、見せしめにするためさ…」

勇者「おい、きちんと葬ってやった方がいいんじゃないのか?」

僧侶「私だって僧侶よ! そうしたいに決まってるでしょ! けど、下手に手を出したら、
   私たちじゃなくて関係のない子供が殺されるのよ!!」

勇者「…悪い。そうだよな。死体をこんな風にしてるってことは、どうにもできない状況にあるってことなんだよな…」

すまん、ちょっと今日は限界。
書き溜めてあるから、また今度投下する
良かったら見てくれ

設定も話の流れもハードなsfで良いね

期待

勇者「なんかもう、雰囲気的に共闘するのが確定みたいな感じになっているが、改めてここで確認しておく。
   一緒に戦うってことでいいんだな?」

戦士「ああ。もう一度言おう。俺たちの仲間になってくれ」

騎士「そうだな。これから頼むぜ。それと、嬢ちゃんにはこの間のことは謝っておく。
   怒鳴っているときに、皮肉を言ったりして悪かったな」

僧侶「…うん。こっちこそ、いきなり怒鳴ったりしてごめん」

勇者「ふふ、仲間っていうのはいいよな、やっぱり。それにここの有力氏族は優秀で助かるぜ。
   うちの国の貴族連中よりよっぽど凄い」

騎士「まあな。魔王がいたあの場で提案を呑むっていう即断ができたのは大きい。あの場にいたのが貴族連中なら、
   何も決まらぬまま話し合いだけが長引いていたな。そうなると、魔王が怒って子供を殺し始めるかもしれない」

戦士「大変なんだな、お前たちも」

僧侶「ふーっ。寝ようって言ったのに、結局話し込んじゃったね」

騎士「全くだ。今度こそ本当に寝よう。疲れがたまったままじゃいかん」

勇者「じゃあ、お休み。次の戦いは勝とうぜ」

戦士「そしたら、すべて終わりだ」



騎士「ええと、寄生種子に取りつかれて、それが発芽したのがあの兵士だったな? そいつとの戦いでわかったが、
   俺がお前たちと共闘すると言っても、生身じゃ無理だ」

戦士「お前たちの武器を使っても、あの巨大植物を外部から破壊するのは難しい。だから、こっちが考えた作戦としては、
   生身で奴の内部に入り込み、そこでこいつの妹を救出、魔王を倒すってものなんだが…」

僧侶「だったら、それは私たちで3人でやりましょ」

勇者「…おっさんには悪いが、あの息の上がりようから見て、俺たちの足を引っ張るだけだろうしな」

騎士「へっ、言ってくれるぜ。だが事実だ。けど俺はボーっとしてるだけってのはどうにも性に合わねえ。
   だから上空から支援させてもらう」

勇者「戦闘機を使ってか? 対地用の武器があるのか?」

騎士「一応な。ほら、小型の無線機だ。勇者は使い方を知っているだろうから、他の2人にそれを教えてやってくれ」

戦士「魔王が拠点としている場所は分かっている。何とか歩いて行ける距離だが、それでも結構ある」

僧侶「だったら、あんたが先行して上から様子を確認してくれない?」

騎士「了解。航空機を使った戦いで、最も基礎となるものの一つだな、それは」

戦士「最大活性期に入った巨大植物は飛行可能で強大だ。なので、今の内にけりをつけよう」

勇者「結構歩いたな…。まだつかねえのかよ」

騎士『こちら上空だ。お前達、聞こえるか?』

僧侶「ええ。よくあんたの声が響くわ」

騎士『巨大植物を確認した。もうすぐお前たちからでも見える。今は動いていないな。
   こっちに気付いているかもしれねえが、反応はない。攻撃するか?』

戦士「いや、下手に刺激されたら内部に入りにくい。今は周期的に考えて休眠中だが、攻撃で目覚めるかもしれないしな」

騎士『了解。じゃあ引き続き偵察を継続する』

勇者「…ついたか。しかし、こうやって地面から見上げるとでかいな。おまけにこの間負わせた傷は、それなりに治ってやがる」

僧侶「さて、と。よじ登って、あそこまで行くわよ。そしたら中に入れる」

勇者「なんだ、具体的な場所が分かるのか?」

戦士「まあ、奴のことに関する文献はうちの集落に残っているからな。そこに一通りのとこは書いてある」

僧侶「今までは、知識があっても対抗できなかったんだけどね」

勇者「じゃあ、蔓とかにつかまってっと」ヨジヨジ

戦士「手がかり、足がかりは十分だな。登りやすくて助かる」ヒョイヒョイ

僧侶「そうね。これより登りやすい木は、そうそうないわ」ヒョイヒョイ

勇者「…お前ら登るスピードがめちゃくちゃ速いな…」ヨジヨジ

僧侶「あんたが遅いんでしょ? しっかりしなさいよ」ヒョイヒョイ

戦士「まあ、俺たちはこういうのに慣れているからな」ヒョイヒョイ

勇者「こういうのはやっぱ地元民にはかなわないな。バッテリーも十分だし、パワードスーツを使うか…」ヒョイヒョイ

戦士「ここが巨大植物の中か…」

勇者「2人とも、槍は構えておけ。いつ敵が来るか分からんぞ」

僧侶「言われなくても分かっているわよ。さあ、奥に進みましょ」

魔王「ほう、やはりこいつの休眠期に来たか」

戦士「出たな、魔王。やけに守りが薄いじゃないか」

僧侶「あれは、私の妹!? こんなところにいたのね!!」

勇者「あのカプセルみたいなのに閉じ込められているのか…。まだ生きてるんだな?」

魔王「無論だ。そうでなければ制御はできん。当然、助けたくば私とその配下の兵たちを倒してみろ!」

ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ

寄生兵「「「「「「「「オー…!」」」」」」」」

勇者「外部の守りが薄かったのは、ここで待ち伏せるためか!!」

戦士「みんな、準備はいいな!! 行くぞ!!」

僧侶「絶対勝つ!! 勝って、妹も集落のみんなも、救ってみせる!!!」

寄生兵1「ウウー…」ベシャッ

勇者「おっと、やっぱりお前も溶解液を使えるんだな。だが、こっちには熱線銃がある!」バシュッ!! バシュッ!!

僧侶「ここまで来たらあと一息よ、私は絶対、やり遂げる!!」ザクッ!! ブン!!

寄生兵2「アアオォン…」バタリ

寄生兵3「クハァ…」グッタリ

戦士「もうこれ以上、お前たちのような存在を増やすわけにはいかないんだ!!」ブン!! ザクッ!!

寄生兵4「オオアア…」バッタリ

寄生兵5「カハァン…」グタリ

勇者「2人ともいいぜ、その調子だ!! 敵は多いから、体力の配分を間違うな!!」バシュッ!! ザシュッ!!

寄生兵6「シクァ…」メラメラ

寄生兵7「セハァ…」ボトリ

シュルシュルシュルシュルシュル ガシュガシュガシュッ!!

勇者「うお、大量の触手が俺に絡みついて…」

寄生兵8「アアーン…!」

勇者「やばい、狙われている!! このままじゃ身動きができない!」

戦士「今触手を斬ってやる!! お前はこいつを木片で狙っている奴を倒せ!」

僧侶「分かったわ!! 今助けてあげるから、ちょっとの間辛抱しなさい!!」ザクッ!!

寄生兵8「ケオ…」グッタリ

戦士「よし、触手が切れた! 動けるか!?」

勇者「ああ、大丈夫だ。しかし、俺の触手プレイなんてどこにも需要がないだろうな…。お前のならあるかもしれないが…」チラッ

僧侶「何、助けてっやたのにその態度? 次変なことを言ったらあんたの首に風穴を開けるわよ!」

戦士「…お前のなら、少し見てみたいけど…」ボソッ

僧侶「…むっつりすけべ…」ジトッ

戦士「いや、今のは不意に口から出た言葉であって、そこまで意識してないと言うか、えっと、その…」アセアセ

勇者「…自分でふっといてなんだが、今はその会話は後にしよう、そろそろ決着をつけるぞ!!」

勇者「ふぅ…。あらかた片付いたな…」

魔王「何を言っている。まだ私の兵は尽きてないぞ!」

ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ ワラワラ

寄生兵「「「「「「「「アー…!」」」」」」」」

僧侶「嘘!? まだこんなに!!」

戦士「敵はこいつらだけじゃないんだぞ!! まだ魔王もいるというのに…!」

勇者「こりゃ、かーなり厳しいな…」

寄生兵9「オアー…」パパパパパ

僧侶「くっ、木片の弾丸!! 何とか避けたけど!!」

寄生兵「「「「「「「「オー…!」」」」」」」」

パパパパパパパパパパパパパパパ

勇者「やばい、遮蔽物の後ろに隠れろ!!」

戦士「くそっ!! 弾幕を張られたら、近寄ることすらできない!!」

魔王「さあ、兵どもよ!! 貴様らには質はなくとも数がある!! 一気に距離を詰め、奴らを殺せ!!!」

勇者「ハァ…、ハァ…。何人倒したか、カウントもできねえ…」ザシュッ! バシュッ!

戦士「ヒィ…、ヒィ…。そろそろ、俺も体力がつきかけている…」ザクッ!

僧侶「フゥ…、フゥ…。あともう少し、あともう少しで妹を取り返せるっていうのに…!」ザクッ!

寄生兵「「「「「「「「アー…!」」」」」」」」

勇者「おい、逃げるぞ…。まだ体力のあるうちにな」

僧侶「何言ってんのよ!! ここで逃げだすなんて…!」

戦士「…いや、悔しいがその判断は正しい。俺たちが死んだら、集落は全てあいつの手に落ちる。
   ここはなんとしてでも生き延びるべきだ」

勇者「…今回はチャンスが無かっただけさ。逃げ延びて、また体制を整えてから挑戦すればいい」

僧侶「ここまで来て…。けど、それ以外に方法はなさそうね…」

魔王「逃げる、か。なるほど。この場におけるもっとも正しい手法だ。だが、この私が貴様たちをやすやすと逃がすと思うか?」

僧侶「思ってないわよ…! けど、今は逃げなきゃ何も守れない…!」

戦士「いいか、一塊になって、ここから脱出するんだ。出口の付近にいる兵は、全員が全力で蹴散らす!!」

勇者「俺が先頭に行って、熱線銃を乱射する!! お前たちはしっかり後ろについて来い!!」バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!

戦士「よし、表に出た!! このまま一気に巨大植物の表面を滑り降りるぞ!!」

勇者「地面についたら、上空のおっさんに連絡をとる!!」

僧侶「それから基地に戻って、体勢を立て直すわけね!!」

一行地上到着後――

僧侶「嘘でしょ…」

寄生兵「「「「「「「「アー…!」」」」」」」」

戦士「地上にも、こんなに大量にいるなんて…」

魔王「言ったはずだぞ、容易には逃がさんとな」

勇者「魔王の声!? いったいどこから!?」

戦士「奴はまだ巨大植物の中だ!! 多分、精神波で語りかけているんだ」

巨大植物「ガオオオオオンッッッ!!!!」

ドドドドドドド

勇者「巨大植物が、動き始めた…!? 休眠期間じゃなかったのか!?」

僧侶「多分、魔王が強引に覚醒させたのよ。傷をおしてね…」

戦士「前方には大量の兵、後方には活動中の巨大植物…。いよいよ、進退窮まったか…」

魔王「もはやどう転んでも貴様たちに勝ちの目はない!! さあ、息絶えるがよい!!」

勇者「かといって、生きるのを放棄するわけにはいかねえだろうがよ!!」ザシュッ!! バシュッ!!

戦士「あがいて、あがいて、最後まで戦い抜いてやる!!」ザクッ!!

僧侶「絶対に、絶対に私は死ねない!! 妹のためにも!!」ザクッ!!

寄生兵「「「「「ウー…!」」」」」シュルシュル パパパパ ボタァ!!

勇者「くっ! やっぱり触手や木片、溶解液は厄介だな!!」

巨大植物「ゴアアアアアアッッッ!!!!」

ビシュッ! ボカン!!

戦士「前だけじゃない、後ろの巨大植物の攻撃にも気をつけろ!!」

僧侶「分かってるわよ!!!」

騎士『よお、お前達、大分苦戦してるようじゃねえか』

勇者「おっさん!! どうした!? いきなり機体を俺たちの目の前に急降下させて!?」

騎士『いいか、今からお前たちを助ける。そこの位置から動くなよ!!』

ダダダダダダッ!!!

寄生兵「「「「「「「「ウ、ア…」」」」」」」」グッタリ ボロボロ ボトボト バタリ

勇者「おい! 機関砲を掃射するのはいいが、俺たちも近くにいるんだぞ!! 当たったらどうすんだ!?」

騎士『俺の腕を信じろ。現にお前達には当てずに、敵だけを散らしたじゃねえか』

僧侶「確かに…。前方の兵の数が一気に減ったわ…。それにしても、威力が高すぎるんじゃない? 私達に当たったらと思うと…」

戦士「当たってないからいいだろ。今の攻撃のおかげで、兵たちの体勢は崩れた!! このまま一気に突破するぞ!!」

魔王「おのれえ!! やってくれるではないか!! だが私の武器には、まだこいつがあるぞ!!」

巨大植物「グオオオオオオッ!!!!」

シュル!! バシュ!! ドンッ!!!

戦士「やっぱり、後方の巨大植物は生身の俺たちには驚異的だな…!」

勇者「おい、このまま全力で走るぞ!! 距離をとったら、一気に上空から支援攻撃を加えてもらう!!」

僧侶「前の兵の数、このままなら強引に突っ切れそうね…! 行くわよ!!」

タタタタッ!!

勇者「今だ!! 巨大植物に攻撃してくれ!!」

騎士『了解! ありったけの空対地ミサイルと精密誘導爆弾を食らいな!!』

ヒューン ヒューン ヒューン ヒューン ヒューン ヒューン

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッカーン!!

僧侶「やった!? あれだけの爆発を食らえば、もうさすがに動けなくなるんじゃ…」

戦士「いや、まだだ!! 巨大植物は動いている!!」

魔王「すさまじい攻撃だな!! だがまだこいつの動きを止めるには至らん!!」

巨大植物「ガオオオオンッ!!!」

ズドドドドドドォ!!!

勇者「さっきよりスピードが上がった!? 後ろから突進してくるぞ!! このままじゃ追いつかれる!!」

僧侶「急いで走らないと…!」

戦士「クソ、体力が厳しいって時に…!」

寄生兵10「ウワァ…」ドヒューン!!

戦士「俺たちがさっき追い抜いた兵たちをぶっ飛ばしながら、猛烈な勢いで追いすがってくる!!」

勇者「このままじゃ逃げ切れねえぞ!! おい、戦闘機の兵装は!?」

騎士『もうさっき全部使っちまったよ!! なんてしぶとさだ!!』

勇者「…こうなったら仕方ねえ。どこまでできるかは分からんが、俺が踏みとどまって時間を稼ぐ。お前たちはその隙に逃げろ!」

戦士「何を言ってるんだ!! 3人一緒に逃げるんだ!」

僧侶「そうよ!! 大体あの巨大植物相手じゃ、生身の人間じゃ時間稼ぎにもなりゃしないわよ!!」

騎士『そこの2人の言う通りだ。お前じゃ奴には対処できねえよ』

勇者「だったらどうしろって言うんだ!! このままだと俺たち3人は全滅!! お前はまた1人ぼっちだぞ!!」

騎士『…もう俺は1人になる気はねえよ。それに、犠牲になんて若いお前がなるべきじゃねえ。それは年寄りの仕事だ』

戦士「まさか、お前…」

騎士『いいか、僧侶の嬢ちゃん。よく聞きな。俺は大切な部下を死なせてしまった。けれど、お前の妹はまだ生きてるんだろ?
   だったらそいつを助けるためにも、お前たち3人は絶対にここで死んじゃいけねえ』

僧侶「あんた、何言ってんのよ…。ねえ、何する気!!」

騎士『時間を稼げるのはほんの一瞬。悪けりゃそれすらねえかもしれねえ! いいか、俺が突っ込んだらお前たちは全力で逃げろ!!』

勇者「おい、待てよ!! お前はそれでいいのか!? 死んだ部下のことを考えたら、戦わずにはいられないって言っただろ!!」

僧侶「そうよ、あんたも生き残って、一緒に基地に戻りましょ!! それからもう一度、魔王と戦えばいい!!」

騎士『お前ら3人を生き残らせるには、この方法しかねえ。俺の戦いはこれで終わるが、こういう死に様は悪くねえよ。
   その代わり、お前達には何としてでも、奴に勝ってもらうからな!!』

キーン ドンッ! ドカーン!!!!

戦士「戦闘機で、巨大植物に突っ込んだ…」

僧侶「機体が爆発して、燃えている…」

魔王「ええい、クソッ、動かんか…! さっきまでの猛攻に、ダメ押しの今の一撃か効いたのか!? 巨大植物が、動かん!!」

勇者「チャンスみたいだぞ、多分巨大植物はこの戦闘で負ったダメージが大きすぎるんだ。今は動けねえみたいだ、逃げるぞ!!」

僧侶「待ちなさいよ!! 巨大植物が動けないなら、あの騎士を助けるチャンスだってあるかもしれない!! 
   まだ生きているかもしれないでしょ!!」

戦士「いや、あの爆発ではおそらく…」

僧侶「だから、確認しなくちゃまだ死んだとは限らないでしょ!! 巨大植物が動けなかったら、あいつを助けられる可能性も…!」

勇者「生きていたとしたらなおさらだ!! あのおっさんの命を懸けた覚悟を無駄にしてはいけない!!
   あいつは俺たちに逃げろと言った!! それをしなければ、あの騎士のさっきの攻撃は全部無駄になってしまうんだ!!」

僧侶「…な、なんで、なんでいきなりあんなことをしちゃったのよ…!!」ポロポロ

戦士「泣きながらでもいい…。今は、逃げるんだ…」

基地

勇者「あいつは?」

戦士「今、1人で部屋にいる。やっぱり、あの騎士の死が堪えたようだ。しばらくそっとしておいてくれだとさ」

勇者「…そうか。しかし、これで俺も明確な戦う理由ができちまったな。今までは、あの騎士に共感したからってだけだったのに…」

戦士「…亡くなったあの男の、復讐か?」

勇者「その感情ももちろんある。それの否定は絶対にできねえよ。けどさ、それ以上にお前たちに会えてよかったってことがあるんだ」

戦士「なんだ、それは?」

勇者「国から勇者なんて称号をもらってしまうとな、ものすごく目立ってしまうんだ。当然顔も見たことの無い自称親戚や、
   自称同級生なんて輩が大量に近寄ってきてしまう。それとは逆に、今までの俺の仲間は全部俺から離れてしまった」

戦士「…勇者になるってのも、なかなかに大変なんだな」

勇者「勇者になってから、貴族に嫌われて、俺はたった1人で反乱を治めろと命令され、この星に来た。だけど、
   そのおかげでお前たちに会えたんだ。お前に会ったとき、仲間になってくれと言われて、俺はうれしかった」

勇者「そんな言葉を聞いたのは、勇者になってから初めてだったからな。そして俺は、お前たちと仲間になることができた。このまま、
   俺が戦うのをやめたら、魔王は確実にお前たちを殺してしまう。それは嫌なんだ。もう仲間を、俺は失いたくない」

戦士「それがお前の、戦う理由か…」

勇者「騎士のおっさんはあんな最期を遂げてしまった。けれどそのおかげで俺とお前たちは生き残っている。
   生き残ったお前達、死んだ騎士、そして俺自身のためにも、次は勝つ」

戦士「そうか…。だが、あの巨大植物と戦う方法はあるのか? 戦闘機はもうなくなってしまったし…」

勇者「前にお前に俺の専用機を見せただろ? あれを使って戦う。といっても、今は修理中だがな」

戦士「それで、その修理が終わるのはいつだ?」

勇者「厄介なことに、あの巨大植物の最大活性期と同じ日だと思う。それまでの期間、お前には訓練を受けてもらいたい」

戦士「俺が、あの戦闘機に乗るためのか?」

勇者「そうだ。といっても操縦は俺がする。お前には後席に乗り込んでもらう」

戦士「分かった。俺が役に立つのなら、なんでもしよう。しかし、あの巨大植物にお前の戦闘機なら勝てるのか?」

勇者「ここの植物が苦手にしている化学薬品があるだろ? あれを装入した、特殊ミサイルがあるんだ。
   騎士の機体には規格が合わずに、装備できずじまいだったが、そいつを奴に撃ち込んでやれば…」

戦士「なるほど。確かに巨大植物は最大活性期にあの薬への耐性を得るが、それはあくまで散布されたものへの話だ。
   それを弾丸として、直接当てれば、勝機はあるかもしれない」

勇者「そういうことだ。一度、僧侶に会おうと思う。そこであいつの意思も確認したい」

戦士「そうだな。心配だし、顔を見に行こうぜ」

僧侶「あら、来たのね。何か用?」

勇者「意外と元気そうで良かったぜ。まだ泣いてるのかと思ってた」

僧侶「…もうさっき、さんざん1人で泣いたからね…。今は何か、吹っ切れた感じ」

戦士「それで、次の戦いには参加できそうか?」

僧侶「もちろん。っていうかあの騎士、やってくれたわ。あんなこと言われて、特攻されたら、戦わざるを得ないじゃない」

勇者「何としてでも、奴には勝て、だからな…。確かにあの最後の言葉を聞いたら、戦うしかねえよな」

僧侶「…あいつは、自分も戦いたいって気持ちでいっぱいだったはずなのに、それを強引に押し切って私たちを助けてくれた。
   だからこそ、生き延びた私たちは、あいつの戦いを受け継がなきゃならない」

戦士「それがあの男の、意思だろうしな…」

勇者「ったく、あのおっさん。死に際に飛んでもねえ重荷を残してくれたぜ」

僧侶「その重荷があっても、私たちは勝たないと。そしてあいつの言ったように、私は妹を助ける。
   そのためには、この戦いをここで終わらせるわけにはいかない」

勇者「…お前の考えはよく分かった。次が多分最終決戦だ。今度こそ、奴に勝とう」

戦士訓練中――

勇者「シミュレーターの起動、確認。悪いが実機が飛ばせない以上、お前にはシミュレーションの訓練しか受けさせられねえ。
   本物の空は実戦でぶっつけ本番だ」

戦士「仕方ねえよ。それで構わねえ」

勇者「いい覚悟だ。お前にやってもらう、後席の乗員の任務は、今から戦闘シミュレーションに入って覚えてもらう。いいな?」

戦士「了解した。始めてくれ」 

勇者「後席正面の詳細データディスプレイを見ろ」

戦士「目標の距離変化率と方位が表示されている」

勇者「よし。今度はその下の戦術情報ディスプレイを確認しろ」

戦士「敵味方識別装置の使用はここか…。目標の位置や高度、速度が分かるな」

勇者「遠距離空対空ミサイルと、中距離空対空ミサイルは後席からでも撃てる。兵装制御パネルを操作するんだ」

戦士「ロックオン。この場合、味方なら目標の輝点は菱形で覆われるんだな…。これはそうじゃないってことは敵だ。ミサイル発射!」

勇者「遠距離空対空ミサイル、命中を確認。基本的に空戦じゃ相手のアウトレンジから一方的に攻撃するのが理想で、近づいての、
   格闘戦は避けるべきなんだ。だが今回は味方は俺たちだけで、編隊も組めないから、間違いなくドッグファイトがある」

戦士「分かった。腹をくくっておく」

僧侶「ずっとシミュレーターに入りっきりだったわね。訓練の成果は?」

勇者「なかなかだ。俺のフォローにはなってくれている」

戦士「あの機体は1人でも動かせるが、やっぱり2人の方が強いのか?」

勇者「当然だ。空戦じゃ四六時中あたりの光景に気を配らなきゃならねえ。その場合、目玉が2つより4つあったほうが有利だ。
   2人だと機器の操作のときの負担も、1人の場合より確実に減るしな」

戦士「そういや可変後退翼がどうとか言ってたが、あれはどうなってるんだ? 
   さっきのシミュレーションのときはよく分からなかったんだが」

勇者「翼はスピードに合わせて、コンピューターが的確な角度をとるように計算してくれる。ここら辺は全部自動だ。
   お前がこんなにわか仕込みの訓練でそれなりの働きができるのも、最新鋭戦闘補佐コンピューターのおかげだ」

僧侶「なんかさっきから話を聞いてて思うんだけど、機械の方が何でも自動でやってくれるんなら、
   人間が乗る必要はないんじゃないの?」

勇者「そうでもないんだな。やっぱりコンピューターより人間の方が優れている所はたくさんある。
   戦争のような、命のやり取りをする場ではそれがダイレクトに表れてくるんだ」

戦士「…仮に人間の必要性がない兵器が出てきたとして、それはもろいだろうな。
   前にお前が言ったように、命を軽視しすぎている」

僧侶「…今の魔王と同じってことね。あいつは1人でもすごく強いけど、それは巨大植物のおかげで、
   あれが無くなったらすぐに崩れるだろうし…」

勇者「俺たちはしばらく訓練三昧だが、お前はどうする? 新しい武器の使い方でも覚えるか?」

僧侶「戦闘機の操縦は簡単みたいだけど、生身で使う武器はどうなの? 簡単に扱えるの?」

勇者「いや、さすがに歩兵用のライフルには高度なコンピューターとかはついてないから、人間の方が頑張らなくちゃならねえ」

僧侶「だったら遠慮しておくわ。下手に慣れない武器を使うより、なじみの槍や植物で戦うほうがいい」

戦士「そうだな。そっちの方が確度の高い戦い方ができるだろうし…」

勇者「そっか。お前も訓練はしているのか?」

僧侶「一応1人でできることはしてるわよ。まあ、ほんとはあんたがいてくれて、相手になってくれたらもっとはかどるんだけどね」

戦士「…すまんな。俺は戦闘機の方にかかりっきりなもんで…」

僧侶「構わないわよ。そっちの方が戦いのためになるし。その代わり、絶対に腕を上げなさいよ? 
   あいつのためにも、私たちは勝たないといけないんだから」

しばらくして――

勇者「いよいよ明日、俺の戦闘機の修理が完了する。そして周期から察するに、巨大植物の最大活性期も明日だ」

戦士「これが多分、最終決戦だ…。勝てばすべてが戻ってくる。お前の妹も、平和な集落も…」

僧侶「明日こそ、私たちは勝つ。そしてあいつの死に、絶対に報いてみせる」

勇者「いい覚悟だな。2人とも。明日の作戦としては、俺たち2人は戦闘機に乗り、巨大植物を迎え撃つ」

僧侶「私は?」

勇者「巨大植物にあの化学薬品が詰まった特殊ミサイルを撃ち込んだら、最低でも動きは鈍り、飛行能力は失われると思う」

戦士「そうなってからは、俺たちは生身で巨大植物に入り、そこで魔王と戦い、お前の妹を取り返さなければならない。
   お前はそれまで、待機していてもらう」

僧侶「ちょっと待ちなさいよ! 私だけ仲間外れ!? せっかく気合い入れて、戦いに備えていたのに!!」

勇者「そうじゃねえよ。生身での戦闘は一緒にこなしてもらうんだ。俺たちは仲間だからな。少し戦う時間が少ないだけだ。
   巨大植物は落としてみせる。だから、お前にはそれを信じて待っていてほしい」

僧侶「…そんな真剣な目で、そうまで言われちゃ仕方ないわね。いい? 絶対に空での戦いは勝ちなさいよ!!」

戦士「ああ。負けるわけにはいかない、決してな」

勇者「俺たちを信じな。勝利以外の道はありえねえよ」

翌日

戦士「多分巨大植物の影響だろう。俺の精神波に少しの揺らぎがある。それから察するに、巨大植物が近づいてきている」

僧侶「私も感じるわ。間違いない、あいつよ」

勇者「よし。戦闘機の修理は完了している。出撃するぞ!!」

戦士「了解だ。…いよいよ本物の空か」

僧侶「待ってるからね。絶対に勝ってここに戻ってきなさいよ」


勇者専用戦闘機

勇者「俺の戦闘機の今回の兵装は、遠距離空対空ミサイル5発、短距離空対空ミサイル2発、虎の子の特殊ミサイル1発、
   そして固定武装の機関砲だ」

戦士「薬の入ったものは1つだけか…」

勇者「まあ、本格的な運用は騎士の戦闘機の機種が、2世代前の奴から1世代前のに変わってからだからな…。試作された奴しかない。
   けど俺の腕を信じてくれ。前席からの操作で、必ず命中させてみせる」

戦士「頼んだぞ。その1発にすべてがかかっていると言っても過言ではないんだからな」

勇者「へっ、プレッシャー掛けてくれるじゃねえか。さあ、いよいよ離陸だ!」

上空

戦士「これが、本物の空…。シミュレーションとは、似ているようで全然違う…」

勇者「そりゃそうだ。だが今までお前は訓練を積んだんだ。やれるさ。さあ、俺を支えてくれ!!」

戦士「…分かった。前方に機影を確認。巨大植物だ。まだ視程外。――いや、待て!! 機影が増えた!! 数は8つだ!!」

勇者「落ち着け。多分あの赤い果実を切り離したんだ。遠距離空対空ミサイルでの攻撃に移るぞ」

戦士「了解。レーダーをトラック・ワイル・スキャンモードに設定。詳細データディスプレイ上に情報の表示を確認」

勇者「よし。戦術情報ディスプレイは?」

戦士「戦術情報ディスプレイ上には、目標のミサイル攻撃の優先順位表示を確認」

勇者「ここら辺はしっかりコンピューターがやってくれるからな! 優先順位通りに、攻撃を開始!!」

戦士「遠距離空対空ミサイルミサイル、全弾発射!!」

バシュッ!! バシュッ!! バシュッ!! バシュッ!! バシュッ!!

ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! スカッ!!

戦士「発射弾5発中、4発の命中を確認。被弾した目標はいずれも撃墜!!」

勇者「やはり命中率100%とはいかねえか…。これより空中格闘戦に入る!! しっかりついて来いよ!!」

巨大植物「ガオオオオンッ!!!」

パパパパパパパパパパ

勇者「前にお前と戦った機体とは、性能が違うんだよ、こいつはな!! そんな木片弾丸攻撃、当たるわけねえだろ!!」

戦士「気をつけろ!! 巨大植物以外本体以外に、赤い果実が3つもある!! それに本体の傷も修復さている!!」

勇者「4対1か…! だがこのくらい、覆せるさ、俺の専用機に、お前が乗ってくれてるんだからな!!」

ビシャッ!! ビシャッ!! ビシャッ!!

戦士「くっ、赤い果実に囲まれている!! 溶解液に気をつけろ!!」

勇者「けっ、やっぱり数の上じゃ不利すぎるが、質の上じゃどうかな!?」

キィーン!! ビュン!! クルン!!

戦士「うおっ!! 反転してから宙返りのように急降下して、そのまま機体の姿勢を普通に戻した!?」

勇者「おいおい、このぐらいの機動はシミュレーションでさんざんやっただろう?」

戦士「そうだが、やっぱり本物は違うな…。けれど、今この機体であんな激しい動きをしたのに、
   こっちには何の負担もない…。それが本物の空では、少し妙に感じる…」

勇者「まあ、慣性制御装置も重力制御装置も最新式のが万全の状態だ。よっぽどのことがない限り乗員に負荷はねえよ。
   妙に感じてもそこはそのうちに慣れるさ」

戦士「5時方向、1機ついてきている」

勇者「さっきの機動で振り切れねえとは…。あいつ、なかなかやるじゃねえか」

ビシャッ!!

戦士「溶解液が来たぞ!!」

勇者「さっきは急降下、今度は急上昇で攻撃だ、行くぞ!!」

ビュン!! キーン!! クルン!!

戦士「さっきとは正反対の機動!? 宙返りの頂点で反転して、一気に相手の上方をとった!!」

勇者「シュート・キューが出た!! さあ、食らいな!!」

バシュッ!! ドカーン!!

戦士「ミサイルの命中を確認!! 敵機撃墜!!」

勇者「どうだ、俺の腕は!!」

戦士「見事だ!! その調子でほかの奴も頼む!!」

勇者「任されよう!!」

勇者「次のターゲットはお前だ!!」

戦士「上手い!! 残りの2つの間の果実に割り込んで、両方の体勢を崩した!!」

勇者「見えた、勝利の道筋、ってな!!」

キーン!!

戦士「体勢を立て直すのが遅れた、1機に追いすがる作戦か!!」

勇者「へへっ、どうかな? それだけで終わるつもりはないぜ!?」

戦士「!? おい、6時方向、真後ろだ!! 敵にこっちもぴったりくっつかれている!!」

勇者「挟み撃ちにして俺たちの動きを封じたつもりなんだろうな、お前らは!! だが甘えよ!!」

ギューン!!

戦士「今度は一気に垂直急上昇か!! うまく相手から逃れた!!」

勇者「この機体の性能を舐めてもらっては困るぜ!! 上昇、旋回、降下、どれも超一流なんだ。だからこんな動きも可能だ!!」

グーン!! ダダダダッ!!

戦士「真下に捉えた相手に向かって急降下、機関砲を射撃、か。命中は確認した!! 赤い果実はあと1つだ!!」

勇者「順調だな!! このまま一気に決着をつけてやろうぜ!!」

キーン!! バサッ!!

戦士「あの果実、こっちの機体と交差した!?」

勇者「いい度胸してるじゃねえか!! 正面から向かって来るとはな!! だがこの動きについてこられるか!?」

クンッ!! ギュルルルルーン!!

戦士「機首を上げて、その後機体を傾けることで、宙返りしながら螺旋を描くように飛ぶのか!!」

勇者「どうだ、この機動!! お前に真似できるか!?」

クンッ!! ギュルルルーン!!

戦士「嘘だろ、おい!! あの赤い果実も、俺たちと全く同じ機動を…!!」

勇者「だったらこっちもそれを繰り返してやる!!」

バサッ!! バサッ!!

戦士「互いにあの螺旋を描くような機動をしながら、交差している!?」

勇者「ここで、右回転をして背面になった瞬間に左のラダーペダルを踏み込むと…」

戦士「俺たちの機体が、左にぶれながら回転して、急減速した!?」

勇者「あーら、不思議!! スピードの有り余ったお前は俺たちの前に出ちまったな!!」

戦士「相手の背後をとった!! この距離ならいける!! 短距離用空対空ミサイルを使え!!」

勇者「言われなくても分かってるさ!! お前でフルーツは最後だ!! 落ちろ!!」

バシュッ!! ドカーン!!

勇者「見たか!! 俺の必殺の空中戦闘機動を!!」

戦士「敵機撃墜!! すさまじい動きだったな…。これで残るは巨大植物のみだ!!」

勇者「さあ、特殊ミサイルをぶち込んでやるぜ!!」

巨大植物「グオオオオオッ!!」

パパパパパパパ

勇者「今更そんな機関砲もどきの攻撃、当たるわけねえだろうがよ!!」

戦士「まだ撃たないのか!?」

勇者「1発限りの特製ミサイルだからな!! 外すわけにはいかねえ! 敵の白目が見えるぐらいにまで近づいて、撃ってやるぜ!!」

巨大植物「ゴアアアアアアッ!!」

ビシャッ!! ビシャッ!!

勇者「あきらめな!! 果実と比べて動きの遅いお前じゃ、溶解液も命中させられねえよ!!」

巨大植物「ガアアアアアアアッ!!」

シュルシュル!! ビュンッ !! ビュンッ!!

勇者「触手攻撃が好きなようだが、一つ教えておいてやる!! 戦闘機の触手プレイは、さすがに需要ねえよ!!」

バシュッ!! ドンッ!!

戦士「よし、特殊ミサイルの命中を確認!!」

勇者「お薬の味はどうだ!?」

勇者「効き目はあるか?」

巨大植物「ガオオオオンッ!!」

戦士「相変わらず吠えているな…。いや待て、命中した部位が変色している」

巨大植物「グアァッ…!! グアァッ…!!」

勇者「吠え方が変わった!?」

戦士「間違いない、奴は苦しんでいる!!」

勇者「効いているってことか!! さすがに直接ぶち込んだだけはあるぜ!! こんなに早く効果が表れるとはな!!」

戦士「見ろ、巨大植物が高度を落としているぞ!!」

巨大植物「クオオォォォォ…」

勇者「うまい具合に、基地の方に向かってくれてるじゃねえか…!」

ドスーン!!!

戦士「基地の近くに落ちた!! 俺たちも射出レバーを引いて脱出して、奴を追うか!?」

勇者「アホ、慌てすぎだ!! 機体を投棄してどうすんだ! しっかり基地に着陸して、それから巨大植物に向かうぞ!!」

戦士「そうだったな、すまん…! あいつとも合流して、魔王と戦いに行こう!!」

基地

僧侶「見たわよ、巨大植物が近くに落ちたわね!!」

戦士「その後奴に動きは!?」

僧侶「ないみたい! 落下地点に、ずっと留まっているわ!」

勇者「効果抜群じゃねえか!! よし、奴のところに向かうぞ!!」


巨大植物付近

巨大植物「カァァァァ…」

勇者「…声を出すだけで精一杯って感じだな」

僧侶「やったじゃない!! さすがね、あんたたち!! 空での戦いは大勝利よ!!」

戦士「前みたいに、中に入るぞ!! こいつの妹はそこにいるはずだ!!」

勇者「了解!! 最後の木登りだな!!」

巨大植物内部

魔王「貴様らぁ!! あの攻撃は何だ!! 巨大植物の生命が尽きかけているではないか!!」

僧侶「やった…! ものすごい効き目ね!! このままあんたを倒して、妹を取り戻す!!」

魔王「できるものならやってみろぉ!! 来い、ものども!!」

寄生兵「「「「「ァ…」」」」」

勇者「相変わらず数は多いが、様子がおかしい? 元々死人みたいな感じなのに、それにさらに精彩を欠くというか…」

戦士「多分さっき、この巨大植物にあの薬を撃ち込んだせいだろう。植物の面が強く出ているあの寄生された人間は、
   その影響を大きく受け、力を無くしている」

僧侶「ここ、あの薬の臭いがひどいもんね…。なんにせよチャンスよ!!
   こんなほとんど動けない状態じゃ、数は多くても戦力にはなりえない!!」

勇者「斬って燃やして、貫いてやるぜ!!」バシュッ!! ザシュッ!!

戦士「もうすぐだ、もうすぐでこの戦いが終わる…!」ザクッ!!

僧侶「あと一息で、妹が助かる!! あんたたちに、邪魔はさせない!!」ザクッ!!

寄生兵「「「「「ォ…」」」」」メラメラ バラバラ グタリ パッタリ バッタン

勇者「片付いたな…。魔王、これで後はお前1人だけだ!!」

魔王「まだ私が残っているということを忘れるな!!」シュルシュル

勇者「もうさすがに触手攻撃は飽きてるんだよ!!」ザシュッ!!

魔王「ぐう…!! 触手が切断されたか!! ならばこれで!!」パパパパパ

戦士「ぬるい!! お前の木片の弾丸は、簡単に避けられる!!」

魔王「ええい、ならば貴様ら全員、溶かし尽くしてくれるわ!!」バシャッ!!

僧侶「いい加減往生しなさい!! しつこいわよ!!」ザクッ!!

魔王「ぐああああ!! う、腕が槍で貫かれた…!!」

勇者「そろそろとどめだな。…何つーか、やっぱりこの巨大植物が強すぎただけで、魔王本人の戦闘能力は大して高くないな」

戦士「こいつは俺たちみたいに、身体能力を強化する植物を体に共生させているわけでもないしな…」

僧侶「そろそろ決めるわよ!!」ジリッ

魔王「ま、待て…!! 忘れるな!! 貴様の妹の命は私の手の内にあるんだぞ!!」

勇者「この期に及んで人質作戦か…。往生際が悪すぎるぜ」

僧侶「いい加減にしなさいよ、このっ!!」ビュン!! ザン!!

戦士「上手い跳躍だ! 一気に間合いを詰めた!!」

魔王「な、なんだ今の動きは…!! 全く反応できん!!」

僧侶「私の妹から離れろ!!」ブンッ!!

勇者「見事な投げ技だな。魔王があっさりぶっ飛ばされた」

魔王「ハァ…、ハァ…。な、ならばこれでどうだ!! この男に見覚えがあるだろう!?」

騎士「」

勇者「騎士のおっさん!? 生きているのか!?」

魔王「そんなわけあるか!! こいつは愚かにも私の巨大植物に戦闘機で体当たりをした後、確かに死んだ!!
   その死骸を何かに利用できないかと回収しただけだ!!」

戦士「…死体の状態は結構きれいだな。所々焼け焦げてはいるが…」

魔王「さあ、貴様たち!! この愚か者の死骸をこれ以上傷つけられたくはないだろう!? おとなしく私の――」

勇者「…」バシュッ!!

魔王「ぐお!? 銃か!?」

勇者「いい加減にしろよ、てめえ…!! このおっさんを愚か者だと言うのは、俺たちが許さねえ…!! 
   こいつは俺たちに命をくれたんだ!! 挙句の果てにその亡骸をもてあそびやがって…!!」

戦士「…魔王が遺体を取り落した。お前はそれを取りに行ってくれ」

僧侶「…分かったわ」

僧侶「騎士の亡骸は取り返したし、位置的にもう私の妹を人質にとることも無理ね」

戦士「そろそろあきらめろ。もう抵抗は無駄だ」

魔王「やかましい!! 戦士と僧侶よ!! そもそも貴様らはなぜ異星のものどもの味方をする!! 
   そいつらは我らの集落の人間をさらっていったんだぞ!! 私はそれに対抗できるよう、巨大植物を使っただけだ!!」

勇者「…対抗するためなら、基地を潰しただけで良かっただろ」

戦士「巨大植物の力におぼれ、それを持って俺たちの集落を自ら蹂躙した男が、巨大植物を使っただけだと…!?」

魔王「そもそも、お前たちのような異星のものが来たからこそ、私はこの巨大植物を復活させねばならなかったのだ!!
   私はこの力の持ち主として当然のことをしたまでだ!! 私は悪くない!!」

僧侶「…ふざけるな!! 巨大植物を操るために、私の妹を利用し、そして寄生種子を使い、何人もの子供を殺した!!
   そのあんたが悪くないですって!?」

魔王「なぜ、なぜその男の味方をするのだ!! いいか、今すぐその男を殺せ!! そうすればお前たち2人は私と対等の存在として、
   扱ってやる!! ともにこのまま――」

戦士「…」ドカァッ!!

魔王「へぶぅ!?」

戦士「槍も使わずに、素手で人を殴ったのは久しぶりだ」

勇者「殴りたくなるのは当然だ。無理ねえよ」

僧侶「何でこいつの味方をするのか、教えてあげるわ。確かにこいつは私たちをさらっていった連中と同じ出身よ。
   けど私たちのために命を懸けて戦ってくれている!! それに、この騎士も私たちのことを命を張って守ってくれた!!」

戦士「翻ってお前はどうだ…!! 俺たちと同じ出身のくせに、やっていることはただ恐怖をを植えつけるために、
   陰湿な暴力を振るうだけ。そんなお前に、味方なんかできるわけないだろう…!」

勇者「だとよ、魔王さんよ。まあ、俺としてはそこまで言ってくれる仲間に巡り合えて良かったよ。
   そしてこの戦いの勝敗を分けたのはそこだ。お前はいかにすごい力を身に着けようと1人ぼっちだ。俺たちにかなうはずがねえ」

魔王「待ってくれ…。私が、どうして、あり得ない…。なぜ巨大植物の力を…」

戦士「救いようがないな。今この男が敗因を教えてくれたのに、理解できないとは…」

勇者「もういいだろ。そろそろとどめを――」

僧侶「…私がやるわ。…さようなら」ザクッ!!

魔王「こんな結末、あっていいはずがないんだ…。あっていいはずが――」

魔王「」

勇者「哀れな男だな。力に呑まれすぎたんだ…。確かに巨大植物を復活させる原因を作ったのは俺たちの側かもしれないが…」

戦士「巨大な力を持った以上、それに溺れないよう努力するのは当然の義務だ。それができなかったこいつに、非はすべてある」

僧侶「あんたがどうこう思うことじゃないわよ。悪いのは子供を殺したりしたこいつなんだから」

勇者「お前の妹が閉じ込められている、カプセルみたいな器官はそのまま壊していいのか?」

僧侶「ええ、構わないわ。剣で妹を傷つけないように斬ってちょうだい。そして中から妹を出して、私に渡して」

勇者「そらよっと。生きてるか?」ザシュッ!!

戦士「ああ。血色もいいし、呼吸も脈も正常だ。うちの集落で薬草を使った治療をすれば、すぐに治るだろう」

僧侶「やっと、やっと取り戻せたのね…! それにこれでもう魔王に殺される人間は出てこない…! 私たちの、勝ちだ…!!」

戦士「その男の亡骸は、俺たちが清めよう。集落に運ぶぞ」

勇者「分かった。それで、この巨大植物は?」

戦士「やはりあの特殊ミサイルで、薬を直接撃ち込まれたのが相当効いたんだろう。生命の息吹を感じない」

僧侶「これで全部解決ね。帰りましょう、私たちの集落へ」

集落

ワイワイ ガヤガヤ ヤンヤ ヤンヤ ドンチャンドンチャン

集落民1「魔王はいなくなった!! これでもう子供を殺されずに済む!!」

集落民2「奴隷狩りもなくなったんだ!! 人さらいも出ないぞ!!」

集落民3「本当にめでたいことだ!! さあ飲め、騒げ!!」

勇者(集落中すっかりお祭りムードだな…。まあ、これだけ素直に喜べるのはいいことか…)

僧侶「いたいた、探したわよ!! ほら、あんたもしっかりお礼を言いなさい!!」

勇者「お、妹が目を覚ましたのか!!」

戦士「ああ。容体もほぼ万全で、もう出歩いても大丈夫だ」

僧侶妹「…えっと、その…。わ、私のことを、た、助けてくれて、ありがとうございました…」モジモジ

勇者「なんだ、お前とは正反対な性格の妹だな…」

僧侶「ほら、私の後ろに隠れないの。もっと前に出て」

勇者「…お前しっかりお姉ちゃんやってるんだな…。すごく意外だ」

僧侶「うるさいわねえ。これぐらい私だってするわよ! 当たり前でしょう!?」

戦士父「こんなに明るい活気に満ちた集落は久しぶりだ…! 君には本当に感謝する。我々に尽力し、魔王を倒してくれてありがとう」

勇者「…そこまで感謝されるようなことはしてねえよ。魔王が巨大植物を復活させたのは奴隷狩りに対抗するためで、
   その原因を作ったのは俺たちだ。だから協力するのは当たり前だ。むしろ、俺たちは謝らなきゃならねえ」

勇者「勇者という称号を持ったものとして、国を代表して謝罪する。奴隷狩りのことは、本当に申し訳なかった。再発防止のため、
   俺は勇者という地位を全力で使っての努力をする」

戦士「なあ、お前よかったらこの集落に残らないか? お前ほどの男がいてくれたら、こっちとしても心強いし…」

僧侶「そうよ。あんたなら大歓迎! ここに住みなさいよ!!」

勇者「おいおい、さっきの話聞いていただろ? 俺は帰って、この惑星で奴隷狩りを再び起こさないようにしなきゃならねえ。
   だから行かないと…」

僧侶「…そう、なんだかんだで、あんたがいないと少しさびしくなるわね…」

勇者「それにな、俺は騎士のおっさんを故郷の惑星に連れて行く必要がある。あいつもう一度地元の星空を見たいって言ってただろ?
   だからそれを眺めさせてやって、そこの土に葬ってやるんだ」

戦士「…あの男の遺体は、きちんと清めて俺たちの作った棺に納めてある。だからそれを連れて行ってやってくれ」

戦士父「さあ、堅苦しい話はここまでにして、今日のところは大いに楽しもうではないか!! せっかくの宴だ!」

僧侶「私たちが作ったフルーツとか、ジュースやお酒がいっぱいあるのよ!! ぜひ味わって!!」

勇者「そうだな。いい匂いがするし、腹も減ってきた。食事にするか」

勇者が帰る日 基地

戦士「すまないな、見送りが俺たちだけで…」

僧侶「ここ、周りにあの薬の臭いが漂っているから、誰も近づきたがらないのよ…」

勇者「いいよ。ここの基地は好きにしてくれ。薬がきれたら、また近づけるようになるだろうし」

戦士「帰り際にこんなことを聞いて申し訳ないが、本当に奴隷狩りは再開されないんだよな? そのことが心配で…」

勇者「ああ、それなら問題ない。こんな言い方をして悪いが、今回下された反乱鎮圧の命令の主眼は、あくまで俺への嫌がらせだ。
   宇宙に行けない以上、お前たちは軍事的な脅威になりえないし、地理、戦略的に見ても、この星に全力を挙げて奪還する価値はない」

勇者「それに、俺は勇者で知名度は結構高い。その俺が奴隷貿易の事実を知ってしまったんだ。公表するぞって脅せば、
   表立ってそれを再開することもできない。奴隷なんてさすがに法律で禁止されているからな」

勇者「貴族の弱みを握った以上、もう下手な命令はされないだろうし、奴隷狩りを再開なんてすれば、その貴族の家はさすがに断絶し、
   癒着している商人や軍もただでは済まないだろうな。きちんと俺が再発防止のために目を光らせておく」

僧侶「安心したわ、それを聞いて。これで私たちの、本当に平和な集落が戻ってくるのね」

勇者「さてと。騎士のおっさんは宇宙船に乗せたし、俺はそろそろ出発する」

僧侶「じゃあね。あんたのこと、絶対に忘れないから」

戦士「戦士として、お前たちほどの男と共闘できたことを、俺は心から誇りに思う」

勇者(あの2人はきちんと距離をとっているな。離陸のときに危ないから…。ディスプレイ越しで外を見ている以上、
   俺のことは見えないだろうが、手を振っておくか…)ノシ

勇者(各計器すべて正常。エンジン始動。離陸開始)

戦士「――」ノシ

僧侶「――」ノシ

勇者(何を言っているか分からないが、あの2人も手を振ってくれている。…さようなら、植物の民が住まう、美しい緑の星よ)

終わり

これで全部終わり。
読んでくれた人、ありがとう。
ssは2作目で、今回も書くのは楽しかった。
また何か、他の作品も書いてみるから、もしよかったらその時また読んでくれ。

おつ

スピードあって良かった



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