シスター「あなたは神を信じますか?」(153)
男「消えろ、クソアマ」
シスター「なんという口の利き方ですか」
男「初対面なのに、名乗りもしない不躾な輩には相応だろ」
シスター「う。ご、ごめんなさい。わたし、この度この村の教会へ赴任しましたシスターと申します」ペコリ
男「そうかい。あのジイさん、ついぞおっちんだか?」ケラケラ
シスター「いいえ。 先任の神父様でしたら、中央へ招聘されました」
男「あ、そ。・・・大出世じゃねーか。で、あんたが」
シスター「はい。神父様、先日付けで求位を拝命した司教様の後任として、こちらへ参りました!」ニコニコ
シスター「あなたは男様、でしょう? 司教様よりあなたのことはよk」
男「消えろ、クソアマ」
シスター「そッ・・・・・・」
シスター「わたし、ちゃんと名乗りましたよ?」ムス
男「個人的にな。神とか救いとか口にするやつが気に食わん。というかウゼェ」
シスター「とりつくしまがないじゃないですかぁ!」
男「それと、しつこい女と話の聞かない女が苦手だ。というか女が嫌い」
シスター「わたしどーすればいいんですか」
男「どっか行け。俺にかまうな」シッシッ
シスター「・・・わかりました。どちらにせよ、もうじき祈りの時間。教会に戻らなければ」
シスター「ですが、これだけは訊かせてもらえませんか?」
男「ァんだよ」
シスター「きょ、教会って、どっち・・・ですか?」
男「・・・・・・は?」
■
男「なんと!迷える者に導きを示すはずの神職サマが、まさか自分が迷子になっちまうとは!」
シスター「こ、声が大きいですッ!」
男「しかも足を挫いて歩けないときた!!」
男「さいてーだぜ」
シスター「いッ、いくらなんでも言いすぎじゃありませんか!?」
男「耳元でキンキン喚くな、鬱陶しい。おぶって歩いてやってんのは俺だぞ」
シスター「ひとりで歩けると言ったのに、あなたがッ」
男「チンタラひょこひょこ。一歩動くごとに涙目でうーうー唸りやがって」
シスター「泣いてなんかいません! そんなにイヤなら放っておけば良かったんです!」
男「マヌケ。お前になんかあったら、吊り上げ食らうのは俺だろうが」
シスター「なん、なんであなたが・・・」
男「『町から離れた何も無い森に好んで足を運ぶやつ』なんて何人もいないってことだ」
シスター「それは、わたしの口から、きちんと説明して差し上げればいいだけでしょう?」キョトン
男「・・・あんたの『神様』ってのは、ずいぶんとご機嫌なんだな」
シスター「? どういう意味ですか」
男「だいたい、昨日やって来ただァ? あんた従騎士はどうした?」
シスター「教会にいます。わたしは、その、一人で・・・」
男「教会騎士がシスター放って? はっ。カミサマとの乳繰り合いに夢中で手が離せないってか!」
シスター「言葉が汚すぎます!・・・・・・、言わないで、来たのです」
男「抜け出してきたのか?」クルリ
シスター「・・・・・・」コクリ
男「あんた、やってること滅茶苦茶だぞ」
シスター「だって」
男「はーーー。なんで俺がこんな目に」
シスター「!わた、わたしだってッ! ・・・・・・ッ。好きで、こんな」
シスター「こんな・・・だって、もっと・・・」グス
男「泣くな。鬱陶しい」
シスター「泣いてませんッ・・・・・・」グス
男「もういいから黙ってろ」
シスター「・・・・・・・・・・・・泣いてませんから」ボソ
男「・・・どっちでもいい」
ベネ
ディモールト
何かこの男のサバサバした感じ好きだわ
■
カーーーン ・・・ カーーーン ・・・ カーーーン
シスター「あ。鐘の音・・・」
男「おいおい。シスター抜きでお祈りかよ?」
シスター「・・・祈りに必要なのは、修道士ではありませんから」
男「そりゃ、どういう意味だ?」
シスター「そのままの意味ですよ」
男「要領を得ない物言いはやめろよ」
シスター「・・・どう説明すればいいのか、分かりません」
男「はッ。シスターなのにか」
シスター「・・・ええ。ふふ、おかしいですよね、こんなの・・・」
男「何も知らない人は、アンタらが自分たちの祈りを集めて、神様に届けているものだと思っている」
男「だから、みんな教会へ祈りを捧げてる。神様じゃなくてな」
シスター「そのとおりです」
男「だが、そのアンタらがこんないい加減なことヤッてんじゃ、神も救いもあったもんじゃねーな」
シスター「・・・。神はいますよ」
男「いねえよ」
シスター「なぜ、いないと思うのですか?」
男「なんだ。ご高説垂れ流すつもりか?」
シスター「気になったから、訊いたんです。・・・いけませんか」
男「それを決めるのは俺じゃない・・・いいぜ、簡単なことだ。周りを見てみろ」
シスター「まわり?」
男「社会だナンだなんて言われたって想像できねーだろ」
男「流行病に飢餓に殺人。救いのないことなんて、そこら中に転がってるんだ」
シスター「でも、世界は――」
男「地獄だ。考えてもみろ。親が子供を殺し、子供が親を殺すような世界だぞ」
男「神様なんてのがいるんだとしたら、とっくに何とかしてくれているはずだろうが」
男「それとも、コイツはあれか? 神様がお与えになった試練です、ってか?」
シスター「それは、・・・・・・」
男「そう言ってみろよ。真っ裸で飢えに苦しんでるガキの前で、そう言ってやれよ」
シスター「そッ、そういう子達を・・・。傷つき、迷い、苦しんでる人たちを救うために、わたしたちがいるのです」
男「だが、飢えた孤児はいなくならないぞ」
シスター「・・・ッ。だから、神はいないと・・・?」
男「土台、見えないものを信じろってのが無理があるんだよ」
男「教会のお偉様方の中には、奇蹟を揮えるヤツもいるって話だがな。生憎と、俺は目にした事がないんでねェ」
シスター「・・・・・・。み、見れば、信じるのですか? その・・・奇蹟、を」
男「奇蹟とやらで世の中が丸ごとキレイになったらな」
男「ついでに、俺のようなクズをまとめて消してくれたら、信じてやってもいいぜ」
シスター「そ、そんなのは無理です!」アセアセ
男「当たり前だ」
シスター「・・・・・・。あの」
男「教会なら、もうすぐだ」
シスター「では、なくって、あの。・・・・・・消えないで、くださいね」
男「は?」クル
シスター「きッ、奇蹟が起こっても!男様が消えたら、信じていただけたか確認できないじゃないですか!そういうあれですッ!」
男「顔真っ赤にしてナニ言ってんだ・・・」
シスター「うー! やっぱりなんでもありません!」グイ
男「・・・・・・。おい、鼻水付けんなよ?」
シスター「付けてませんッ!」
???「シスターさまッ!?」ガサガサ
シスター「あ・・・ッ」
男「・・・教会騎士」
???「ご、ご無事ですか!?お怪我はありませんか!?いったい、どこに行っておられたのです!?」ガー
シスター「あ、赤髪卿、落ち着いてください・・・! わたしなら平気です」
赤髪「ああッ!そ、その足は!?挫かれたのですか!?すぐに治療を!!」ガバッ
シスター「わ。ちょ、ちょっと・・・、赤髪卿!?」
???「おーい、いたのかァ? お?」ガサガサ
シスター「緑髪卿!」
緑髪「さんざ探しましたよ。お勤め初日からコレですから。教会長さん、充血しきった目で口から泡飛ばしまくってました」
シスター「そう、ですよね。ごめんなさい・・・」
赤髪「おい緑髪、突っ立てないでこっちに来いッ!シスターさまが足を挫かれてるんだ!」
緑髪「ああ。・・・ところで、そちらは?」
赤髪「なに?」
シスター「あッ。この方は・・・」
男「・・・・・・従騎士が、ふたりも? アンタいったい」
赤髪「貴様いったい何者だ! いや、まずはシスターさまから手をどけろッ!」
男「ならテメエでおぶれ。いいかげん、重くてかなわねェ」
シスター「おも・・・・・・!?」カー
赤髪「口を慎まないか! さあ、シスター、こちらへ」ストン
シスター「ひ、ひとりで歩けますッ!! ぃぅ、ッ~~!」
男「・・・アンタなにやってんだよ」
シスターとイチャイチャするssかと思いきや
これはこれで面白いな
すごくいい
支援
緑髪「ははははッ! あんた面白いなぁ!」
赤髪「笑うんじゃないッ、緑髪! シスターさま、せめてお手を・・・!」スッ
シスター「ぅ・・・ごめんなさい。煩わせますね」ソッ
赤髪「とんでもありません!」
赤髪「言いたいことはたくさんありますが、まずは大事が無かったこと、神に感謝いたします」ギュッ
男「オイ、俺にも感謝しろよ」
赤髪「黙っていろ。 貴様が、シスターを拐したのではないのか?」ギロリ
男「そいつを運んできたのは俺だろーが」
シスター「そ、そうです! 男様とは迷・・・ぇー、じゃなくて。ぐ、偶然お会いしたの、ですよ?」
緑髪「・・・何らかの方法でシスターを森へ誘導し、その後自身でここまで連れてきた、という可能性もある」
シスター「緑髪卿!?」
男「はッ。なんで俺がこの重たいのを」
シスター「おもくないですッ! も、男様は黙っててくださいませ!!」カー
男「・・・難癖つけられてんの俺だぞ」
シスター「そ、そんなことをして、男様になんの意味があるのですか?」
赤髪「印象操作です。シスターに恩を売るためでしょう」
緑髪「この先の便宜を図るためにシスターへ取り入ろうと近づいた。 そうだとすれば辻褄は合います」
シスター「そんな・・・!いいえ、違います! だって本当はわたしが――」
男「くッだらねえ」
男「何を言い出すかとおもえば。コイツに恩を売って俺になんか得があんのか? はッ、ねェよ」
男「加護だ祝福だ?こいつから頂けそうなモンは、俺にはありがた迷惑なモンばかりじゃねえか!」
シスター「・・・ッ」ビクッ
支援
待ってましたー
支援
緑髪「本当に、面白い男だ。俺たち三人を前にして、怖気のないその物の言い様」
緑髪「・・・だが、何事にも分相応というものがある。あんた口は回るようだが、そういう認識には疎いようだ」
緑髪「彼女は『シスター』で、俺たちは彼女に従う『騎士』だ。俺は気の長い方だと自負しているが」
赤髪「・・・・・・」
緑髪「むこうはそうでもない。『言葉は気を付けて選べよ、俗人』」
男「・・・。こっそり隠れて中傷垂れるよりは随分マトモだろーが」
男「枕抱えてカミサマをファックしながらマスかくのはいいが、カミサマを信じないのは許されないってんなら、ゼヒ理由を知りたいもんだ」
赤髪「貴様ァッ! シスターさま、もう我慢なりません!!」
シスター「やめてください赤髪卿! 緑髪卿も・・・、わたしなら平気、大丈夫ですから」
シスター「男様も、二人の勝手な憶測で気を悪くされたのは分かります。ですが、どうか気をお立てにならないで」
シスター「・・・お願いします」ペコ
赤髪「!シスターさま、そ」
赤髪「!」ピク
緑髪「!」ピク
シスター「え――」
■
――シスターがそれを理解する暇はなかった。
風の動きだけが、襲撃を予測させた。
赤髪は腰の裏に下げた鞘に右手をかけると、猛然と男へ向かって突き進んだ。
躊躇いなく剣を振り抜くと、その動きのままに上体を捻りながら一転、勢いを乗せた刺突を突き入れた。
赤黒く翳る血が、視界に吹き上がる。
シスターと男の間、その先で。
人間のものではない、甲高い悲鳴が上がる。
耳にしたものに不快感をもたらす、異形の悲鳴だ。
赤髪は左足を下げつつ茂みから剣を引き抜き、半身のままに切っ先を森の先へと向ける。
いつの間にかシスターのすぐ傍へ移動していた緑髪は、肩口から伸びるマントをシスターの前面へ展開している。
茂みを掻き分けて現れたのは、奇妙な犬、の形をした何かだった。
濁った赤い目が一つだけ、胴だけが不自然なほど横に膨れており、足は六本、それも蜘蛛のような形をしている。
数は四、それぞれが統制の取れていない動きで、赤髪の手前をヨタヨタと這いずっている。
緑髪「・・・ズー・ズール」
そう呟く緑髪の片手もまた、剣の柄に添えられている。
緑髪「手はいるか?」
相棒に尋ねながら柄を握り、指先に力を込めて感覚を鋭敏化させる。
赤髪「不要だ。お前はそのままシスターをお守りしろ。・・・・・・ついでにその男もな」チッ
緑髪「わかった」
指先に込めた力はそのままに、緑髪は後方で棒立ちの男へと神経を傾ける。
緑髪「あんた、こっちに来い。シスターの後ろに立て。いいか、後ろに立つんだ」
男「・・・・・・」スッ
男は無表情に、いつの間にかへたり込んでいたシスターの後ろへ無言のまま足を運んだ。
シスター「お、男様・・・」
顔は動かさず、シスターがポツリと、震えた声を吐き出す。
緑髪「それでいい。そのまま動くな。すぐに終わる」
まるでタイミングを計ったかのように、その瞬間、犬のような異形『ズー・ズール』が赤髪へ襲いかかった。
目を覆いたくなるようなおぞましさを備えながら疾駆すると、首筋に牙を突きたてようと飛びかかる。
赤髪は短く息を吐くと、上体を傾げ、斜めに剣の軌跡を描く。
それはズー・ズールの蜘蛛状の足を胴から余さず斬り離すと、返す刃が首筋へと滑り込まれる。
鋼が肉を絶つ響きは、短く呆気ない。
斬り飛ばされたズー・ズールの頭部はクルクルと血の糸を引きながら木立の間に消え、残った身体は勢いのまま地面に激突する。
一度小さく跳ねたものの、勢いを殺しきれずに茂みへと突っ込んでいく。
そのときには、すでに残った三体が低い姿勢から、次々へと赤髪の間合いに踏み込んでいる。
赤髪は振り下ろしたままの剣を、前進しつつ横薙ぎにした。
烈風が弧をなぞり、一体の首が胴体から永遠の別れを告げる。
振り切ったところで、後方、横手から凶悪な牙が迫る。
――しかし、踏み止まって身を捻り、振り返りざまの赤髪の一撃のほうが遥かに速い。
刃は至近距離から一体の胴を両断し、残るもう一体のズー・ズールの顔を縦へ断ち割り、そのまま二枚に下ろした。
緑髪「・・・・・・。もう、気配は感じられない。いまので全部のようだ」
赤髪「シスターにお怪我はないか?」
緑髪「あるわけがない。 シスター、終わりました・・・立てますか?」ス
シスター「は、はい。ぃッ、た・・・!」ズキ
緑髪「腫れが大きくなってますね。このまま放っておくと、熱を持つかもしれません」
赤髪「すぐに教会で治療をしなければならんな。 緑髪、俺は先に戻って人を集めておく
緑髪「ああ、わかった。・・・それから、男くん、だったか」クルリ
緑髪「当面の危機は去ったとはいえ、ここにとどまるのは危険だ。 早く村へ入った方がいい」
男「オイ。なぜ、こんな村からすぐそばまで異形種がやってきた」
赤髪「知らんな」
男「ふざけるなよ。 テメエらの結界とやらは、見せ掛けだけのハリボテか?」
赤髪「教会の人間にも分からないことはある。 そして、こういう不慮不測のための我々だ」
男「たった二人でどこまで出来る。 異常なのは間違いないんだ」
シスター「ごめんなさい、男様・・・」
男「なぜ、アンタが詫びる? アンタの騎士サマのおかげで、こっちはケガ一つ負わないで済んだ」
シスター「ごめん、なさい」
緑髪「・・・・・・」
男「なんなんだ。 とにかく、大聖堂に報告を――」
緑髪「もう、いいだろう。 それは俺たちの側で判断し、対処することだ」
男「オイ、待てよ。万一の時、化け物どものオヤツになるのはアンタらじゃなくて、俺たちだから言ってンだ」
赤髪「そんなことにはならないようにすると言っている」
緑髪「神など信じないというわりに、他の人間を気遣うだけの度量は持ち合わせているのか?」
男「俺が気遣ってるのは、自分自身だ。 あんなヤツの栄養になるのは、まっぴら御免だ」
緑髪「なにを言われようが、決定権はこっちにある。 とにかく、あんたは村へ戻れ。なんなら、赤髪に送らせよう」
男「余計な真似するな、一人で戻れる」
赤髪「フン、好きにしろ。 緑髪、シスターさまを頼んだぞ」
緑髪「わかっている。さあ、シスター」
シスター「あッ、まって・・・待って下さい。男様にきちんとお礼を言わせてください」
緑髪「しかし、シスター」
赤髪「シスターさま、こいつは」
シスター「卿たちの言いたいことは分かります」
シスター「でも、どうであっても、足を挫いたわたしをここまで連れてきてくださったのは、男様なのです」
シスター「ここで礼を失するような者に、人々の祈りを受ける資格はありません。そして、教会の勇者が従う道理も」
シスター「わたしの言葉が間違っていると思うのなら、その剣は返上し、この身は捨てていきなさい」
赤髪・緑髪「・・・――、我々の剣は、その御心の信ずるものと、共に在ります」ザッ
シスター「ぃ、た・・・ッ、!・・・・・・ッ」スクッ
シスター「・・・男様、本当に、ありがとうございました」
男「言ったろ、自分のためだったからだ」
シスター「本当は、けっこう不安だったんです。だから、ね・・・、男様には救われました」
男「アンタが心の中でどう思ってたかなんて興味ねぇよ」
シスター「ずっと・・・決して、優しくはなかったけど。想像してた方とはちょっと、・・・かなり・・・違いましたけど」
シスター「男様いてくれたから、いま、わたしがここにいます」
男「大袈裟だ」
シスター「それから、男様が話してくれたこと。もう一度、わたしなりに一生懸命答えを探してみます。男様に、理解してもらえるように」
男「必要ねーよ」
シスター「結界のことも、ちゃんと大聖堂へ報告して、調べるようにします」
男「そうしてくれ。信仰心はないが、長生きはしたいと思ってるんでね」
シスター「また、会いたいです」
男「俺は会いたくない・・・と言っても、大して広くもない、同じコミュニティにいればな」
シスター「会えますか・・・?」
男「『神様』に訊いてみたらいいだろ」
シスター「だったら・・・ふふ、きっと、会えます」クスリ
男「アンタらの神様がそう言ったのか?」
シスター「わたしたちの、ではありません。わたしの、です」ニコ
男「なんだ、その手は」
シスター「祈らせてください、男様のために」
男「・・・。ほらよ」クイ
シスター「え・・・い、いいのですか・・・?」
男「アンタが言ったんだろ、それに・・・ここでゴネて、泣き出されると面倒だからな」
シスター「わッ、わたし、泣いたりなんて・・・!」
男「早くしろ、礼をしたまま騎士サマが待ってるだろーが」
シスター「もぉ・・・」ソッ
男「・・・・・・」
シスター「・・・・・・」キュ
男「・・・・・・」
シスター「・・・・・・」チュ
男「は?」
シスター「終わりました」
男「あ、ああ。・・・おい、いまの」
シスター「それでは、男様。これで失礼します。 男様も、どうかお気をつけて、お帰りくださいますよう」フカブカ
そう言い終え、シスターが踵を返すと、二人の騎士がすばやく立ち上がる。
緑髪がシスターの前で腰を落とすと、シスターがその肩に手をかけ、体重をかける。
赤髪はそれを確認すると、緑髪に一瞬視線を送り、小さく頷いてから駆け出す。
シスターを背負った緑髪がゆっくりと、負担をかけないように歩き出す。
騎士の背に負ぶさりながら、シスターは頭を後ろへ向けた。
そして、男の顔を見つけると、静かに微笑んだ。
やがて男の姿が見えなくなるまで、シスターは男を見つめ続けた。
シスターが遠ざかり、やがて村へ入っても、男は動くことを忘れてしまったように、その場に立ち続けた。
しばらくして、ようやく男の手が動いた。
祈りをと、シスターが触れた右手の甲を指先でなぞる。
握られただけは残らない、たしかな温かさを、男は感じた。
───と思っていたが
読みごたえあるなー
ただ着地点が読めない
とにかく支援
あんまりウザくない地文だな
し
■
シスター「シスターです。・・・教会長さま、いらっしゃいますか?」コンコン
教会長「・・・入りなさい。鍵はかけてません」
シスター「はい、失礼します。――あ」キィ
修道女a「それでは、教会長様、わたしはこれで」チラ
教会長「うむ。中央へは・・・、わたしが直接話したほうが良いのだろうな。貴女は、騎士卿らへ報告しなさい」
修道女a「はい。では、そのように・・・。シスターさま、前を失礼します」ペコリ
シスター「あ、どうぞ・・・」ス
教会長「・・・・・・。シスター、挫かれた足の治療は済んだのかな?」
シスター「はい、さきほど。 ・・・あのッ、教会長さま!今回の件、本当にす――」
教会長「もう、結構。戻ってからこっち、謝ってばかりいるではないか」フゥ
教会長「とにかく務めを。・・・放棄したわけではないのだろうが、結果的にそういう形になってしまったのは・・・」
教会長「非常に残念という他、ないですな。現時点中央で、とくに問題に上げようという動きはないそうだが、ね」
シスター「・・・そう、ですか」
教会長「ともかく、こうして改めて呼び立てたのは、他でもない」
シスター「わたしたちが襲われた件、でしょうか?」
教会長「常時ならば起こり得ないことなのは、言うべくもないだろうが・・・。四基の結界機全てがフローを起こすなどな」
シスター「中央の方は、なんとおっしゃっていたのですか?」
教会長「『そちらの問題なのだから、適宜判断し、対処しろ』と。 この意味は、お分かりですな?」
シスター「もちろん、わかっております・・・。 しかし、万に一つの可能性もあります」
シスター「中央へ連絡して、本隊から騎士を向けていただくよう、お願いはできませんか・・・?」
教会長「一応、話だけはしてみますがね、おそらく受理されることはないでしょうな」
シスター「そんな・・・・・・。 あのッ、それでしたら、わたしからも中央の方へお願いを!」
教会長「結構です」
シスター「ッ!」ビク
教会長「優先順位を、取り違えないでいただきたい。貴女には、他にするべきことがあるはず・・・、違いますかね?」
シスター「・・・・・・いいえ」
修道女b「教会長、準備が整いました」コンコン
教会長「よろしい。・・・いいですか、すぐに結界機を作動させるように」
シスター「はい・・・」
修道女b「失礼します」キィ
教会長「シスターを、祈りの間までお連れしなさい」
修道女b「かしこまりました。 シスターさま、こちらです」スッ
シスター「・・・・・・」クルリ
教会長「・・・シスター」
シスター「はい」
教会長「善き祈りを、捧げるように」
シスター「・・・ッ」
教会長「・・・・・・・・・・・・。フン、世間知らずの生娘というのは、手に余るものだ」
緑髪「教会長、俺です」コンコン
教会長「緑髪卿か。入りなさい」
緑髪「いま報告を受けましたよ。コイツは、明日には、騎士庁からも通達が来るでしょう」
教会長「様子はどうだったのかね?」
緑髪「単純に、数が多いですね。赤髪の方は、まだ粘ってるようですが」
教会長「フッ、見かけによらず、職務熱心な方というわけか」
緑髪「時にウザッたくなるほどにね。融通が利かないのが、拍車をかけて困りモンです」フゥ
教会長「移送中の危険種が逃げ、こちらへ向かっているそうだが」
緑髪「まァ、逃げたと言えば、聞こえはいいですがね。 まだ情報が錯綜気味ですが、移送分隊は全滅だそうです」
緑髪「駆けつけた本隊にも少なくない犠牲が出たようで、辺り一面は、さながら血の池地獄だとか」
教会長「危険種指定された異界種の上級眷属というのは、そこまで凄まじいのかね」
緑髪「俺も、見たことはありませんがね。教会で、埃を被った本に出てくるような存在でしょう?」
緑髪「ファンタジーって言葉を、そのまま体現したような、規格外のカイブツみたいですよ」
緑髪「ソイツを剣一本でふん縛れって言うんですから、大聖堂ってのは、人非人の集まりだと思えますよ」
教会長「結界機の停止、異界種の大量出現、危険種の接近。偶然とは考えられんが」
緑髪「考えるまでもないでしょう。間違いなく、シスターに」
教会長「――惹かれたか」
教会長「中央へ、特級戦力の派遣を申請する他ないか」
緑髪「受理されますかねぇ?」
教会長「せざるを得ないだろう。村の人間が何人食い殺されようと替えはきくが、彼女に限ってはそうもいくまい?」ニタァ
緑髪「中央は手放したがってたって噂もありますがね。だから、何も無い、大陸の東端なんかへ送ったんだと」
教会長「追縛部隊が間に合わなければ、その時は、別の手段を講じる必要があるな?」
教会長「・・・しかし、フフ、片田舎の教会へ飛ばされて二十余年・・・ようやくに巡ってきたチャンスだぞ」
教会長「神に祈ったことなど無いわたしでも、今回の偶然には、さすがに十字架に感謝を捧げたくなったものだ」
教会長「頭の中に花の詰まった箱入り娘でも、このわたしなら有効に使ってやれる」
教会長「見ておれよ、中央のボンクラども。 其処に座すべきは貴様らではない、このわたしだ・・・ッ!」ギリッ
緑髪「・・・・・・・・・」
■
エレベーターを降りた先は、二階部分が吹き抜けとなっている、巨大なホールだった。
『赤子を抱いた聖母』や『青薔薇と白百合』などが描かれた、豪奢なステンドグラスが四面に並んでいる。
頭上には巨大な球形のシャンデリアが一基、その輝きでホール全体を白く照らしていた。
修道女b「シスターさま、ご覧になれますか? あの扉の先が、祈りを捧げるお部屋となっております」
そう言って彼女が指したのは、ホールの最奥に設えられた、黒塗りの扉だった。
元よりこのホールには、目ぼしい調度品どころか、敷かれた絨毯以外には何も存在しない。
そんな中にあって、いかめしい機械の併設されたその空間は、気持ち悪くなるほどの矛盾感を主張していた。
シスター「・・・・・・あなたは、この村で生まれ育ったのですか?」
修道女b「はい、そうですが・・・シスターさま? それが、どうかされましたか?」
シスター「あなたが教会へ入られたのは、自分の意志でしょうか?」
修道女b「それは・・・。いいえ、そうであるとは、言い切れません」
修道女b「わたしには姉が三人おりますが、みな修道女なのです」
修道女b「幼い頃から、大きくなった姉が一人、また一人と修道女として家を出てゆくのを見てましたから」
修道女b「次はわたしの番なのだと、自然に思うようになっていました」
シスター「生涯の選択でしょう。ご両親からは、なにも言われなかったのですか?」
修道女b「きっと、父も母も、わたしも姉と同じように修道女になるのを望んでいたのだと思います」クス
修道女b「シスターになるつもりだと話したら、手を叩き、綺麗な花と歌で祝福してくれました」ニコッ
シスター「・・・・・・祝福とは、なんだと思いますか?」
修道女b「えッ、えっと、祝福・・・ですか? それは、どういう・・・」アセアセ
シスター「あなたの、素直な感じ方を、言葉にしてほしいのです」
修道女b「は、はい。あの・・・、他者を思いやり、感謝し、慈しむ気持ちを・・・自分の心を、相手に贈ることではないでしょうか」
シスター「相手を真に想う、ということですか?」
修道女b「あ、愛を生むのは、心です。 自身を愛し、隣人を愛し、他者を愛すことが、心からの祝福になるはずです」
修道女b「心が枯れることは、ありません。 ですから、わたしには、この世界は祝福に満ち溢れているように見えます」
修道女b「たくさんの方に、そのことを教えて差し上げるのが、わたしたち修道女の務めなのだと考えています」
修道女b「この道を選んでなければ、こんな風に考えることもできなかった。だからいま、修道女である自分に、後悔はありません」
シスター「とても、立派なことですね・・・」
修道女b「あ、いえッ! すいません、あの、シスターさま・・・」シュン
シスター「なぜ、謝るのですか? わたしも、あなたと同じように考えていますよ」ニコ
シスター「でも」
シスター「だとしたら、なぜ、飢えた孤児はいなくならないのでしょうね・・・」ポツリ
修道女b「え?」
シスター「・・・ここまでで、十分です」
かすかな機械の駆動音。
修道女が気づいたように顔を上げると、決して近くはなかったはずの扉は、目の前まで迫っていた。
呆けたように立ちすくむ修道女の前で、ゆっくりと内側から開いていく。
反射的に中へ目を向けそうになって、あわてて視線を下へ戻す。
すぐ右に立っていたシスターが、修道女の視線の端で、そっと足を踏み出した。
毛の長い絨毯を歩く音が、耳を擦る。
シスター「・・・・・・あなたは、神を信じますか?」
シスターの声に、心臓が跳ねる。
さきほどの呟きを喉の奥で反芻していた修道女は、小さく唾を飲み込んで答えた。
修道女b「はい、もちろんです」
そして、混乱する頭が、言葉を続けさせた。
修道女b「・・・シスターさまは、信じておられないのですか・・・?」
シスター「わたしは、」
返す答えは、金属同士が擦れたような、不快な音に阻まれて消えた。
シスターの姿はもう、どこにもなかった。
■
扉を抜けた先は、殺風景な部屋だった。
ホール同様に敷き詰められた絨毯以外には、分娩台のようなものが一つあるだけ。
シスターは中へ入ると、足を止めて屈み、ブーツのファスナーを下げた。
足を後ろへ引き、それを振り脱ぐと、絨毯を裸足で踏みつつ歩きだす。
そのまま、背中のコンシールファスナーへと手を伸ばし、これも下ろす。
つぎに襟元のリボンを引っ張ってほどくと、ついに服がはだけた。
スカートも同様にすると、まとめてその場へ脱ぎ捨てる。
台の前まで進んだところで、ブラのフロントホックを外し、残ったショーツも脱ぐ。
生まれたままの姿になると、台へ仰向けに乗り、静かに目を瞑る。
「登録番号、二万、三千、九十九、照会」
シスター「・・・。・・・・・・システム、起動」
「血塊機、起動」
そう言うや、血塊機の各部が展開する。
せり出した固定具が、シスターと血塊機とを繋ぐ。
左右足元から持ち上がった計四基のアーム状のフレームの先では、無数の鋭利な突起物が鈍い光を放っている。
アームは一度シスターの体の前まで駆動すると、一瞬停止。
そして、全身を、突き刺した。
針のようなもので首から下、足の先に至るまでびっしり貫かれる。
激痛に、汗が噴き出す。
荒くなった息を吐き出す。
せりあがる嘔吐感が、逃げ場を求めて口腔を圧迫する。
奥歯を噛み締めてやり過ごすと、うっすらと目を開ける。
(はりねずみだ・・・)
全身から血の吸われている現状を意識させられる光景に、感覚を落としそうになる。
手放すまいと、唇を強く噛み、五感を必死に手繰り寄せる。
汗でべったりと張り付いた髪から汗が垂れ、瞼の上を撫でる。
(いっそ眠ってしまえば、楽になれるのかな)
こうするたび、何度も考える。
しかし、実行したことはない。
痛くて辛いのは嫌だし、怖いが、自分が無くなってしまうのはもっと怖い。
こんなことが、シスターの本来の務めであるなど、想像もするまい。
知らなければ・・・、たとえ知っていたとしても、理解も納得も出来ないだろう。
それが、人の心というものだ。
(こころ・・・)
さきほどの修道女は、心は枯れないと言っていた。
果たして、彼女がこの役目に就いたとき、同じことが言えるだろうか。
自分たちは、世界というシステムの、消耗品だ。
ティッシュペーパーや筆記用具と一緒で、使えなくなれば新しいものに取り替えるだけ。
吸血を終え、フレームが引いてゆくと、足元から別の小さなアームが持ち上がる。
吊り下げられた丸い輪が、ピタリとシスターの女性器へと宛がわれる。
(ぁ・・・。いや、だ・・・きもち、わるい・・・)ピク
もっとも最低で醜悪なのは、アフターケアも万全だったということだ。
常人であれば、五回も繰り返せば使い物にならなくなる。
しかし、消耗品であるのなら、当然数がいる。
だから、血塊機は『女性』に干渉する。
祈りを終えたシスターは、例外なく『翌日が危険日、生まれる赤子は女子』という状態にされる。
そして、程よく壊れてきたところを、犯して、孕ませる。
(ほんとう、最、低・・・)
穴だらけにされて血を吸われるばかりか、肉体を弄くりまわされ、女性としての尊厳をも奪う。
(なに、が・・・善き、祈り・・・ですか)
祈れるわけがない。
何も知らなかった頃は、無心でこなせた。
しかし、もう違う、いまは違う。
機械に秘部を弄られ、自身の一番大事なモノを書き換えられている惨めさに、涙が零れる。
決して泣かないと決めているのは、この瞬間だけは泣いてもいいと決めているからだ。
(男様・・・)
神など信じない、と言った男のことを想う。
(・・・男様が、このことを知ったら・・・どう、する、のかな)
(そんな酷い話があるか、って、怒って・・・くれますか・・・?)
(それとも、興味ないって・・・、お前のことなんかどうでもいいって、言われちゃうかな・・・)
(男様・・・、わたしも、ね・・・)
(わたしも、神様なんて、信じません)
やがて血塊機から解放され、燭台の灯が落ちても、シスターはただ一人のことを想い続けた。
ハードやな…
■
?「――、――、・・・・か」コンコン
シスター「・・・ん、・・・ぅ?」パチ
シスター「ぁ・・・、ここ、わたしの部屋・・・?」
赤髪「赤髪です、シスター? いらっしゃらないのですか?」コンコン
シスター「そっか・・・戻ってきて、そのまま・・・・・」ムク
シスター「ぁ・・・ぅ・・・ッ」フラッ
シスター「けほッ、あか、赤髪卿・・・? どうかしましたか?」
赤髪卿「お耳に入れておきたいことがあるのですが」
シスター「どうぞ、入ってください」
赤髪卿「はい、失礼します!」ガチャ
赤髪卿「あ・・・ッ、申し訳ございません、お休みになっておられたのですか?」アセ
シスター「いえ、具合が悪いというわけではないのです。 ただの、貧血、ですから・・・」
赤髪「貧血、ですか?」
シスター「ええ・・・あ、大した事はないんですけど、立ち上がるのがちょっと辛くって・・・ごめんなさい」
赤髪「そッ、そのような・・・、でしたら、簡潔に済ませます!」
シスター「ぁ・・・赤髪卿? そのケガは、けほッ、どうしたのですか?」
赤髪「は? ああ、つい先ほどまで近くで異形種に対処していたもので。なんとも、お見苦しくて申し訳ありませんが」
シスター「そんなこと・・・、あ、治療は・・・?」
赤髪「これこそ、大した事ありません。それに、先ほど結界が作動したのを確認しました、もう大丈夫でしょう」
シスター「・・・・・・そう、ですか。よかった・・・」
赤髪「はい。しかし、別件で、騎士庁から通達が」
シスター「中央から?」
赤髪「それが、危険種に指定された異界種が、こちらへの向かっているそうなのです」
シスター「危険種、ですか・・・」
赤髪「捕縛保護の指令が下されていた異界種《囁くもの》が、一度捕獲した部隊を潰滅させ、逃走したようです」
シスター「・・・潰滅」
赤髪「すでに大規模な追縛部隊が後を追っている他に、騎士庁からの援軍もこちらへ向かっています」
シスター「・・・それで、時間的な猶予は、どのくらいあるのです? 村の方たちの避難状況は?」
赤髪「一両日中には接敵するはずです。 避難は、まだ・・・」
シスター「そんなッ、では早く村の方へ説明して、避難を!」
赤髪「・・・それが、教会長の見立てでは、村への接近を許す前に片がつくだろうと・・・」
シスター「村へは、なにも知らせないとおっしゃった・・・?」
赤髪「はい」コクリ
シスター「・・・ッ、そのような話がありますか!?」
赤髪「・・・自分も、考え直していただくよう、打診はしたのですが」
シスター「そう。では、わたしから話します」ムク
シスター「ぅ・・・ッ」クラッ
赤髪「シスター!」
シスター「ッ・・・へいきです。ただの、貧血と言ったでしょう・・・」
赤髪「しかし、無理をなさっては・・・!」
赤髪「わかりました、自分が、もう一度話をします!」
シスター「でも、もし・・・」
赤髪「それでも聞き入れて貰えなければ、中央を通して言ってもらいましょう」
赤髪「それで、よろしいですか?」
シスター「・・・わかりました・・・。 赤髪卿、あなたにお任せします」
赤髪「了解しました。 それと、シスター」チラ
シスター「なんですか?」
赤髪「教会長から、こちらが落ち着くまでは教会の外へ出ないように、とのことです」
シスター「・・・・・・そう」フゥ
赤髪「丁度良かった、などと思いたくはありませんが・・・。お体の具合も芳しくないようです、どうか安静にしてて下さい」
シスター「自分の体のことは、自分が一番よく分かってるつもりです」
赤髪「申し訳ありません」
シスター「・・・いいえ。卿がわたしのことを心配して言ってくれているのはわかってます・・・」
シスター「・・・・・・お話はそれで全部ですか?」
赤髪「はッ、以上です」
シスター「では・・・あの、少し眠りたいので、下がってもらえませんか?」
赤髪「あ、これは・・・、長々と申し訳ありませんでした!」
シスター「いいえ。村の方たちへの件、よろしくお願いしますね」
赤髪「はいッ、では、失礼します!」
シスター「ご苦労様でした」
シスター「・・・・・・・・・・・・」
シスター「自分の体のことは、自分が、一番・・・?」
シスター「・・・うそばっかり・・・」
まだなの?
■
夢を、見た。
目を見張る、荘厳な建物。
日中残滓が夢を構成するのなら、振り返れるべくもない幼き頃の情景。
視界に写るものすべてが、白一色に塗りたくられて。
あらゆるものが画一に染まっていた、子供のわたしの、生命の足跡。
どうしようもなく寂寥だった、あの日々。
遠い、遠い過去の夢。
?「やあ、元気にしてたかい、シスターちゃん」
わたし「はい」コク
?「おや、背が伸びたんじゃないかい? たしか、前に会ったのはー、ええっと・・・」
わたし「四月と二十一日まえです、おじさま」
おじさま「おお、そうだったっかい。 いやぁ、近頃、物覚えが鈍ってきてなぁ」ポリポリ
おじさま「あー、その、シスターのお勤めは・・・・・・、どうだい?」
わたし「かわったことはありません」
おじさま「そうか・・・。怖くはないかい?」
わたし「痛いしつらいですけど、こわくはないです」
わたし「もう、なれました」
おじさま「・・・・・・そう」
わたし「こんどは、どれくらいいられるんですか?」
おじさま「うん、実はね、ぼくは今回付き添いなんだ。 だからね、すぐに帰らなきゃいけない」
わたし「そうですか」
おじさま「そんなに残念そうな顔をしないでおくれ」ナデナデ
わたし「してましたか?」
おじさま「うん」ニコ
おじさま「ああ、そうだ!」ポン
わたし「?」
おじさま「ぼくと一緒にきた子だけどね、シスターちゃんとそんなに年は変わらないはずだよ」
おじさま「だから、きっと楽しくおしゃべりできると思うんだ。あとで、紹介してあげるね」
わたし「おんなのこですか」
おじさま「男の子だよ。女の子がよかったかい?」
わたし「おとこのことは、話したこと、あんまりないです」
わたし「それに、きっとわたしのこと、こわがると思います」
おじさま「大丈夫だよ」
おじさま「怖いものなんて何にもないんじゃないかってくらい、とにかく元気なやつだからね」
おじさま「元気すぎて落ち着きがないのと、ちょっと口が悪いのが困りものだけどね」
わたし「おじさまのこども?」
おじさま「ははは、まさか。彼には父親も母親もいなくてね、縁が合って、ぼくが面倒を見てるんだよ」
わたし「わたしとおんなじ」
おじさま「でもね、ぼくは息子だと思ってる。本人の前では、恥ずかしくて言えないんだけどね」テレ
わたし「はい」
おじさま「シスターちゃんのことも、娘だと思ってる・・・って、こんなこと言われたらイヤかもしれないけどね」
わたし「いやじゃないです」
おじさま「じゃあ、嬉しい?」
わたし「わかりません」
おじさま「そっか・・・」
わたし「おじさま」
おじさま「なんだい?」
わたし「また、外のお話が聞きたいです」
おじさま「もちろん、いいとも。今日はどんな話をしようかな?」
わたし「まえ、いってた・・・」
わたし「ひとりぼっちのおんなのこと、それを助けたおとこのこのお話しが聞きたいです」
おじさま「ああ、いいとも」
おじさま「・・・その少女はね、小さい頃からうそをたくさん――」
■
おじさま「ほら、挨拶しなさい」
?「・・・アンタだれ?」
おじさま「こら。きちんとしろ」ゴツン
?「いてェ! ・・・ったくよー。おれは男だ」サスサス
わたし「・・・」
男「なに、こいつ。しゃべれねーの?」
おじさま「そんなわけないだろう」
男「でもよー、他のやつらも、おれが話しかけてもちっとも反応しないしよー」
男「おれ、独り言ばっかのアブナイやつだと思われたぞ、きっと」
おじさま「じっさい、友達いないもんな」
男「うっせーな!」ムカ
わたし「・・・・・・」ポツリ
男「あ? なんて?」
わたし「・・・わたしのこと、こわくないの・・・?」
男「ハッ。なんで怖がるんだよ。 なに、おまえ変な病気とかもってんの?」
わたし「・・・」フルフル
男「んじゃー、怖くねーよ。それともなに、怖がってほしいのか?」
わたし「・・・」ブンブン
男「そうだ、なあ、ココのこと教えてくれよ。他のヤツとは全然話せなかったからよ」
男「アンタ、えーっと・・・?」
わたし「・・・シスター」
男「そっか、まー、よろしく」
わたし「はい」コク
おじさま「・・・」クス
■
男「アンタさ、神様って信じるか?」
わたし「神様なんていません」キッパリ
男「あ、やっぱそーなん?」
わたし「だってたすけてくれたこと、ないから」
男「なにが?」
わたし「よく話すおんなのこ、またあとでねって。・・・でも帰ってこなかった」
男「・・・? よくわかんねぇけど。あのさ、神様、ってなんだとおもう?」
わたし「おねがい、なんでもきいてくれる」
男「七つの光る玉を集めて、みたいな?」
わたし「?」
男「・・・。神様ってさー、そいつが生きていく上で必要な、心の支えなんじゃねーかな」
わたし「こころ?」
男「信念っつーの?俺はよくわかんねぇけど、そういうの?だったりさ」
男「大切な誰かだったり、大事な何かだったり、まぁ人それぞれ違うんだけどよー」
男「何にもない、カラッポなヤツってのは、きっとすぐにダメになっちまうんだな」
男「オレもさぁ、親いなくてずっと掃き溜めみたいなとこで震えて、ハラ空かしてたから、ちょっと分かんだ」
男「毎日、今日こそ死ぬかもってビクビクしてな。死ななきゃ死ななかったで、明日こそ死ぬかもってさ」
男「カラッポのヤツも一緒だよな。起きて、働いて、食って、寝て、その繰り返しだろ?」
男「呼吸して動ければ、それって生きてるってことになんのか?」
わたし「・・・・・・、わかんない」
男「あのジイさんさ、オレだけじゃなくて周りに転がってた連中、まとめて拾ってったんだよ」
男「ぐじゅぐじゅに腐って、蛆と蝿のお世話になってたのも、綺麗に埋めてくれたんだ」
男「だからさ、このジイさんのこと、信じてみようかなって」
男「お願い何でも叶える、アンタらの言う神様ってのは、いないかもしれないけどな」
男「オレには、あのジイサンが神様に見えたんだ」
男「だから、神様はいる。オレは、神様信じてる」
男「まあ、ほとんどジイさんの受け売りなんだけどよ・・・」
わたし「・・・おじさまのことが、好きなんですね」
男「ちッ、ちげーって! あ、アンタ、オレの話し聞いてたか?」アセ
わたし「ちがった?」
男「そッ、違くねーけど・・・?! じ、ジイさんには言うなよ、なんか・・・ハズイだろ」
わたし「はい」コク
わたし「でも、じゃあ・・・わたしには、神様いないんですね・・・」
男「ん、そういや、アンタはなんでココにいんの?」
わたし「他に行く場所、ないから」
男「ココ、なんもねーじゃん。外に遊びに行ったりしねーの?買い物とかさぁ」
わたし「外、出たことないです」
男「うげ、マジかよ! ずっとココに・・・。え、どっか行きたいとか思わねぇの?」
わたし「思っても、出られませんから」
男「試してみたのか?」
わたし「・・・?」フルフル
男「ふーん。・・・連れてってやろうか」
わたし「・・・・・・・・・え?」キョトン
男「外だよ、外。行きたいだろ?」
わたし「・・・・・・、ちょっと、怖いかも」
男「でも、行きたいだろ?」
わたし「・・・・・・・・・うん」コク
男「んじゃぁ、連れてってやる」
男「あー、つっても、今すぐは無理だなぁ。もう、帰るし・・・」
男「次だ。つぎに、来たときな?」
わたし「男さま」
わたし「やくそく?」
男「ああ、絶対だ」
わたし「わたしの神様に、なってくれる?」
男「それまでので、よけりゃーな」
わたし「ゆびきり」ス
男「え。なんも、そこまで・・・あ、いや、まーいいけどよ」ギュ
わたし「ゆびきりげんまん」
男「うーそつーいたら、はーりせんぼーんのーます」
ふたり「ゆびきった!」
わたし「男さま、わたし待ってますね、ずっと。・・・ずっと、待ってます」ニコ
男「・・・・・・ッ。あ、アンタさ」ドキ
わたし「はい」
男「その、もっと・・・笑ったほうが、いいと、おもうぞ・・・ってナニ言ってんだオレは」ゴニョゴニョ
わたし「? へんな男さま」クス
思えば、心から素直に笑えたのは、これが初めてだった。
純白ではない白に塗りたくられたわたしの心に、はじめて色が落ちた。
そして、わたしは変われた。
それは決して良いことばかりではなかったけど。
わたしは、今のわたしに、後悔なんてしていない。
これは、わたしの陽だまりの記憶。
そんな、懐かしくて温かい、夢を見た。
支援
続きが気になる
シスターは救われてほしい
■
修道女a「赤髪さま、どなたかお探しですか?」
赤髪「ああ。教会長に話があったのだが、部屋には居ないようでな」
修道女a「教会長様でしたら、さきほど緑髪さまと二人で、倉庫の方へ向かわれましたよ」
赤髪「倉庫へ?」
修道女a「はい」
赤髪「・・・何用だ? まあ、いい。すまんな、助かった」
修道女a「いいえ」
修道女a「あの、じつは、明日からのお休みで三年振りに、実家へ戻れることになりまして」クス
修道女a「といっても、例の怪物騒ぎの件で、先延ばしになってしまったのですけれど・・・」
赤髪「そうか、三年振りか。久方ぶりに家族や旧友たちに会えるのだ、嬉しいだろう」
修道女a「それは、はい。でも・・・、三年という決して短くはない間、ひとり、わたしだけが離れて生きていて」
修道女a「違う場所で、違う時間を過ごしていたわたしを、受け入れてくれるか不安な気持ちもあるんです」
修道女a「少し・・・・・・ほんの、少しだけ、なんですよ?」
修道女a「修道女として生きると決めたのはわたしで。それこそ、五年以上も家に帰ることが出来ない子だっているのに・・・・・・」
修道女a「いざ、自分にその番が回ってくると、そういう余計なことを考えてしまって・・・、情けないですよね」
赤髪「・・・情けないことなど、ない」
赤髪「俺も、似たような思いをしたことがあるから分かる」
赤髪「人は温もりを求めるが故に、一度手に入れた温もりが離れることに恐怖する。みっともないほどにな」
赤髪「誇張ではなく、人は一人では生きてはいけない。しかし、慣れというのは怖い・・・環境に順応するように働くのも、また人」
赤髪「ひとりであることの寂しさを知ってしまったお前の反応に、可笑しいことなどない」
赤髪「――心地良い場所から、自分が忘却されているかもしれない」
赤髪「――いずれまた、そこから離れ、自ら孤独を選択しなければならない」
赤髪「気が竦んで当然だ。たとえ自分で選んだ道でも・・・・・・いいや、自分で選んだ道だからこそ、だな」フッ
修道女a「・・・赤髪、さま・・・」
修道女a「・・・・・・・・・ッ」プ
赤髪「な、なぜ笑うのだ!」
修道女a「すみ、すみま、せ・・・ッ」クスクス
修道女a「その、赤髪さまが、そのようなことを、お、仰るなんて」
赤髪「・・・・・・あまりにも想像につかんか」ムス
修道女a「あ・・・、申し訳ありません・・・! わたし、あの・・・ッ」
赤髪「柄にもない事を言ったのは、自覚している」
赤髪「・・・だが、俺も人間だ、そういうことを考える事だってある。・・・お前と、同じようにな」チラ
修道女a「・・・あ」
赤髪「肯定し遠ざける痛み、拒絶し受け入れる痛み、決断する痛み、すべて等価だ。だからこそ、価値がある」
赤髪「シスターさまだけではない。俺は、お前たち修道女を、尊敬しているのだ」
修道女a「赤髪さま・・・・・・」
赤髪「恥の掻きついでに、もう一つ言わせてもらうが」
赤髪「お前は、ひとりではない。・・・・・・・・・何か相談があるなら、聞いてやってもいい。俺で、よければな」ゴホン
修道女a「・・・とても、嬉しいです。本当に、頼ってもよろしいのですか?」パァ
赤髪「俺は嘘はつかん。ただ、今すぐは、具合が悪い」
修道女a「あッ、お急ぎなのでしたね。 すいません、お引止めしてしまって・・・」
赤髪「なに、構わん。無闇に探し回る手間が省けた」
修道女a「そうであったなら、よかったです」ニコ
赤髪「うむ。ではな」
修道女a「あの、話せて、良かったです。なんだか嫌な予感がして・・・不安だったんです、わたし」
赤髪「大丈夫だ。もう少しすれば人手も増える。お前たちだけではなく、村の人間もしっかり護る」
赤髪「・・・気に入らんヤツもいるがな」ボソ
修道女a「?」
赤髪「なんでもない。行くぞ」
修道女a「はい、いってらっしゃいませ!」ペコリ
赤髪「・・・家、か」スタスタ
赤髪「・・・・・・・・・。落ち着いたら、休暇を申請してみるのもいいか」
抜けのせいで不自然な部分がありました
>>108の頭
赤髪「む。その荷物は、どうしたのだ?」
■
シスター「ん、ぅ」パチリ
シスター「ぁ、みず・・・」ムク
シスター「グラスは・・・、ぅー。くら、暗くって」
シスター「あった。んん、ん・・・ッ」ゴクゴク
シスター「はふ、・・・」
?「ッ―――ッ!」ガタァン
シスター「きゃぁ!?」ガシャ
シスター「ぐ、グラス、落としちゃいました」
シスター「いまの、・・・? 外から・・・」
シスター「ま、窓から覗くのは、外へ出たことにはならないですよね? ・・・うん、へいき」カチャ
シスター「・・・・・・」チラ
シスター「ぇと、だれか・・・いるん、ですか?」
?「・・・・・・ぐ、ごッほ、ッ・・・ぐ」ズシャ
シスター「ひっ!・・・ぁ・・・だ、だれ?どなた、ですか?」
?「!・・・・・・ち、めんどくせーのに、見つかっちまった・・・」
シスター「そッ、その、声・・・! 男様ですか!?」
男「ちげー・・・よ、ごほッ! だ、から・・・どっか、行け」
シスター「も、もしかして、どこか怪我してるんですか!?」
男「なんでもねぇ・・・から、・・・ほっ、とけ」ズリ、ズリ
シスター「!」クルッ
バタン!
修道女a「ぁ! シスターさま、至急、お伝えしたいことが――」
シスター「あとにして!」ダッ
修道女a「ど、どちらへ行かれるのですか!?」
シスター「なんでもないから、ほうっておいて!」
修道女a「ぇ、し、シスターさま・・・?」
(うらぐち!)
シスター「はぁ、はぁ、お、男様ぁ、どこ・・・どこですか?!」
男「・・・きゃあきゃあ、わめくな・・・って、うっとお、し・・・」
シスター「!? 男様、ち、血がっ!!」
シスター「なんで・・・ッ。こんな、うそ・・・、血だらけじゃないですかぁッ!」
男「階段で、転んだんだよ・・・」
シスター「うそつかないで! こんなの、ふつうじゃないです!」
男「よせって・・・、服が、汚れるだろーが」
シスター「そんなのいいの! な、なんで、こんな、男さま、いや・・・」グス
男「・・・なぁ、最後に、頼みがあンだけどよ・・・」
シスター「・・・さ、さいご、だなんて、言わないで・・・ッ」ポロポロ
男「自分の、体のことだからな・・・どんな状態かは分かってる」
シスター「・・・いいえ、男様。・・・男様は、だいじょうぶです」フルフル
シスター「わたしが、助けますから」
男「・・・ぁ?」
(――おとこさま)
シスターの両手が、男のべっとりと血に塗れた右手を柔らかく握る。
躊躇うことなく、胸へ強く引き、乳房が圧されるほどに当てる。
淡い碧色が、ぼんやりとシスターの手から溢れだす。
繋がった手を通して、碧い光が男とシスターを結んでゆく。
男「この、ひかりは・・・」
大気が小さく揺れ、音が鳴る。
静かに生まれた光は、もう今は二人を包み込んで力強く輝き、周囲を真昼のように照らしている。
ふと、どこからか小さな鈴の音が聞こえた気がして、男は目を一度しばたかせた。
その刹那、男の瞼の裏で、少年と少女が笑いあう光景が過ぎった。
(やくそく――)
男「アンタは」
頭の中に、声が走った。
そう表現するしかない不思議な感覚を、男が舌の上で持て余す。
そこでようやく、全身を襲っていた寒気が無くなっていることに気づくと、慌てて身体をまさぐる。
シスター「きゃ・・・!」
バランスを崩したシスターがよろめいて横手をつく。
同時に、煌々と輝いていた光が一瞬で霧散する。
大気に、静けさが戻った。
男「・・・な、なんだ、これ」
男「――治ってる。傷が、塞がってる」
シスター「ごめんなさい。流れて失ってしまった血までは、補給できないんです」
シスター「だから、もしかしたら、しばらく眩暈などが続くかもしれません」
シスター「でも」スッ
シスター「・・・よかった・・・よかったよぅ・・・!」ギュウ
シスター「・・・・・・男様」グス
シスター「これも、ありがた迷惑、でしたか?」
男「・・・・・・・・・。そういうことかよ」
シスター「男様?」
男「神聖大教会・統皇聖堂が擁する生きた神の身体、それを構成する七つの奇蹟の発現者――」
男「幻想聖女《癒しの御手》」
シスター「ぁ・・・・・・」
シスター「おっ、お詳しいんですね・・・」
男「知り合いが、教会関係の仕事に就いててな」
男「・・・ンなことより、いつまで抱きついてんだ?」
シスター「ひゃぁ!///」バッ
シスター「あの!いまのは、そーいうあれじゃなくってね・・・男様のね、心臓の音がトクントクンって、それでね、その・・・!」カァ
男「わかったから、落ち着け」
男「あーあー、服べちゃべちゃになっちまったじゃねぇか」
シスター「へ、へいき! い、いっぱい持ってますから! おなじの!」
男「そうじゃなくて、血で汚れた服をどう説明すんだって話なんだが」
シスター「か、階段でころんだってことにすれば!」
男「なんで階段で転んで服が血塗れになるんだよ」
シスター「だ、だって、さっき男様も・・・」
男「・・・つーか、アンタなんか変わったな」
シスター「え・・・、そうですか?」
男「半日前に別れたときとは、印象が全然違う」
シスター「それっ、どっ、どんなふうに、でしょうか・・・?」ドキドキ
男「なんかガキっぽいな」
シスター「が・・・、え、えぇ~・・・」ガーン
男「ま、飾ってない、素のアンタってカンジだな。俺はべつにイヤじゃねぇぞ」
シスター「ぇ!、ゃっ、あっ、ありがとぅ、ござぃます・・・」テレテレ
男「え。ああ・・・? いま、俺なんつったっけ」
シスター「あの、男様・・・・・・?」
シスター「男様は、どちらのわたしの方が、好きですか?」ジッ
男「どっちかが好きなのは前提なのか」
男「・・・・・・・・・。いまのアンタのほうが、雰囲気は好き、かもな」
シスター「ッ!」パァ
男「雰囲気だけだぞ、雰囲気だけな」
シスター「はい! というか、答えていただけるとは思ってなくって・・・」
男「ガキの頃に、質問に質問で返すんじゃないって、散々怒鳴られたモンでな」
シスター「わたし今、その方にすっごく感謝しちゃいたいです!」
男「・・・言葉が変になってるぞ」
男「なんでかね、今のアンタを見てると懐かしいというか、昔のことを思い出す」
シスター「!・・・・・・む、むかしって?」ドキ
男「・・・・・・」
シスター「・・・・・・おとこさま?」
男「ある・・・女とな、約束したんだ」
シスター「!」
男「ハッ。俺は結局、ソイツをすっぽかしたんだがな、ハハ・・・」
シスター「・・・・・・。おとこさま」
シスター「おぼえてるの? ・・・おもい、だしたんですか・・・?」
男「・・・おれ―――」
男「!!」ガバッ
シスター「ぇ、んーー!」
(んむぅーーー?! く、くち、ふさがれた!)
(え、なに、おっ、おとこさま!? ゆび、口のなか入って・・・!)
男「(アイツらは・・・!?)」
(だ、だれですか? こ、ここからだと、なんにも、み、みえないっ)
(というか、おとこさま! てっ、手が、む、むねっ、・・・に!)モゾ
男「(じっとしてろ!)」キッ
(ぅーー! なんっ、なんなんですか、この状況はぁ!)モゾ
(ゃ、うごくと、さきっぽこすれ・・・って、うそ! わたしなにを!?)ピク
(これ、わたしのからだ、おかしい・・・、・・・な、なんかヘンな気分に・・・)
男「(八人、今ので全部か?)」
(あ、そう、だ・・・。わたし、いまカラダ、おかしくされて・・・だから)
(は、・・・・・・・・・は、・・・ふ)ゴク
(・・・・・・お、おとこさまの、ゆ、ゆび・・・っ)チュプ
男「(!?!?)」バッ
(わ、おとこさま、すっ、すごい顔してる・・・こんなビックリした顔みたの、は、はじめて・・・・・・かわいい)ピチュ
(ぅ、こ、これっ、ばれちゃう? むね、さきっぽ、か、かたっ、かたくなってるの・・・!)
(や、っだ・・・おとこさまの、ゆび、すっごくおいし・・・・・・舌、とまらな・・・)チュパ
(これっ、これ、おとこさまの、味・・・、おとこさまの・・・におい・・・っ!)
男「ッ!」
シスター「んゃ!」チュポン
男「アンタ、なにして」ネト~
男「糸引いてるし・・・」
シスター「は、っは・・・ぁ、もっと・・・」トローン
男「おい」
シスター「ふ、・・・ん、ぅ?」ポヤ~
男「いい加減にしろ」パチン!
シスター「ぁぷ!?」
シスター「ほ、ほっぺた、い、・・・ッたぃ」ジワ
男「しっろかりしろ」
シスター「ぇ、ぇッ」
男「いきなり発情して、どういうんだ」
シスター「・・・ぇ? !ぁ、ちがっ、ちがう、違うんです!」
シスター「これッ、その・・・!病気!みたいな・・・ものでッ」
男「なんて病気だよ」
シスター「それは・・・・その、なんて言ったらいいのか」
男「適当なこと言って、誤魔化そうとしなくてもいいんだぞ」
シスター「そうじゃないんです! 言いたくないんじゃなくって、男様に、どう言ったら分かってもらえるか」
男「ああ、そうかい」
シスター「ほ、本当なんです! わたし、あんなこと・・・」
男「わかったよ」
シスター「うそ、わかってません!」
男「どーすりゃいいんだよ」ハァ
男「・・・・・・事情があるのはわかった。その話は今はいい」
男「真面目な話をする、黙って聞け。いいな?」
シスター「ぅぅッ・・・・・・~~! わ、わかりました・・・」
男「いいか、すぐにこの村から離れろ」
シスター「え?」
男「どこでもいい、身を隠すんだ」
シスター「えッ、なんで・・・」
男「もう詳しく説明する時間はない、言うとおりにするんだ」
シスター「でも、わたし、」
男「二、三日の間でいいんだ、騎士に話して先導させろ。できるな?」
男「もしもアテがつかなけりゃ、俺が経路からゼンブ用意してやる」
シスター「でも、わたしいま・・・教会の外に出ちゃ行けないことになってて・・・そのぅ」
男「はァ?なんだそりゃ?」
シスター「その、危険種の件が落ち着くまでは、と」
男「・・・ああ。なら、大丈夫だ。 教会の管理者にすぐに事情を説明しろ」
男「身に危険が迫ってるから、ちょいと身を隠したい、ってな」
シスター「わ、わたしが・・・?」
男「しかも教会の内部のヤツに、だ」
男「まあ、従騎士が二人いれば、まず問題なんて起きねえだろうが」
男「なるたけ、人の多いところを選んで移動するんだ。なんなら、東都まで行っちまえばいい」
男「あとは、俺がカタを付けてやる」
シスター「なんのことですか、男様? わたし、話がよく・・・・・・」
男「・・・急にこんなこと言い出して、イカレたやつだと思うか?」
シスター「そ、そんな」フルフル
男「根拠もない、いい加減なデタラメを言ってると思うか?」
シスター「・・・・・・」
男「俺は」
男「アンタに・・・・・・信じろなんて、言えねえけど」
シスター「男様」ジッ
男「?」
シスター「わたし男様のことは、ずうっと、信じているんですよ」ニコ
男「・・・・・・・・・」
シスター「すぐに、教会長さまに話します」スクッ
男「・・・。ああ」
シスター「男様も、手伝ってくれるんですよね?」
シスター「その、さっきの・・・・・・経路?とか」
男「騎士に任せておけば、問題ないと思うがな」
シスター「男様にお願いしたいの。 ・・・それで、出来れば、一緒に来てほしい・・・」
男「それは、無理だ」
シスター「どうしても・・・?」
男「俺は、俺でやることがある。それに、緑の方はともかく、赤いのが許可するとは思えねえしな」
シスター「わたしが許可します」
男「聞き分けろって」
シスター「・・・・・・ぅ」
男「アンタに付いてってやるのは無理だが、こっちはこっちで、アンタのために動く」
シスター「でも、男様・・・? 本当に困ったら、その時は、助けに来てくださいね」
男「間に合うか分からんし、そもそも俺はどうやってアンタの状況を知るんだ?」
シスター「す、少しくらい遅れても構いませんから・・・ね?」
男「ハァ・・・。わかったよ、だからとっとと行け」
シスター「や、やくそ――」
男「・・・・・・」
シスター「く、は、いい、です・・・。けど、わたし、待ってますから」
男「・・・ああ、わかった」
シスター「男様も、あまり危ないこと・・・無茶は、しないでくださいね?」
男「努力はする」
男「時間がない、もう行けよ」
シスター「・・・、はい!」ダッ
男「・・・・・・・・・」
男「まさか、な」
男「いまさら、俺にどうしろってンだ」
男「クソったれ、話が違うじゃねえかよ、ジイさん」
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わからない事のほうが多くてイライラする
おもしろいし続きが気になるからはよ頼む
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