マリベル「お城に」
アルス「うん」
マリベル「ふーん。王様に呼ばれたのね」
アルス「そんなところかな」
マリベル「……」
アルス「な、何? 顔は洗ったよ」
マリベル「最近、ちょくちょくお城に行くよね」
アルス「まあ、いろいろ用事があって」
マリベル「いろいろって?」
アルス「いろいろは、いろいろだよ。王様に会ったりとか、アイラとリーサ姫に会ったりとか」
マリベル「気軽に王族と会うわねえ……」
アルス「えっと、行っていい? 遅くなるとよくないから、ほら、今日は……」
マリベル「あたしも行く」
アルス「え?」
マリベル「アルスを一人で行かせたら、あたしのパパとママとの約束、忘れてすっぽかしそうだもんね」
アルス「だから今、その話をしたんじゃないか」
マリベル「家に戻って、靴をかえてくるから、アルスはそこで待ってなさい」
アルス「わかった」
マリベル「いいこと? 置いていったら承知しないからね」
アルス「わかったよ、マリベル」
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~ エスタード島 フィッシュベル付近 ~
マリベル「……アルスさあ。いつもより、歩くの遅くない?」
アルス「うん。だってマリベルが、いつもと違う靴履いてるから」
マリベル「あら、アルスにしては殊勝な心がけね。でもあたしは、このくらい、平気だから」
アルス「その、おかしな靴はどうしたの?」
マリベル「と思ったらいつものアルスだったわ。これはおしゃれよ、おしゃれ」
マリベル「アルスもお城に行くんなら、あたしを見習って、少しくらい気を使いなさい」
マリベル「そうしたら、あんたでも、カッコよさランキングで一位をとれる日がくるかもよ」
アルス「ほんとに一位のアイラに言われたら、考えるよ」
マリベル「あっそう。アルスのくせにナマイキ言うじゃない」
アルス「ごめん」
マリベル「ふん。今日のあたしはキゲンがいいから、特別に許してあげる」
マリベル「ところで、王様と会って、何を話すの?」
アルス「何って……そうだなあ。世界中の、他の国の王様のこととか」
アルス「コスタールとフォロッドの王様はともかく、ネフティスさんとグレーテ姫には、僕の名前で手紙を出したほうが、返事が早いらしいんだ」
マリベル「へー」
アルス「あと、僕たちが魔王を倒すまでの話を、お抱えの吟遊詩人の人が歌にするんだって。そのこととか」
マリベル「……」
アルス「ほかには、王様が、ティラノスをつれてこいっておっしゃるから、無理ですって答えてる」
マリベル「……なんか、イライラするわね」
アルス「え。今日はキゲンがいいんじゃなかったの?」
マリベル「魔王を倒したお話を作るのに、あたしを呼ばないなんて、ありえない!」
アルス「うーん……マリベルを呼んだら、文句が多くてうるさいからじゃないかな」
マリベル「うるさいですってぇ!?」
アルス「題名は、美少女マリベルと仲間たちにしろ、って。言うでしょ、マリベルなら」
マリベル「ふん、別に。名前は出さなくたっていいわ。このあたしの活躍が、ちゃーんと後世に残るんならね」
アルス「珍しいね。明日は海が荒れるかな」
マリベル「しっかり王様に言っとくのよ! 魔王討伐の旅は、マリベルさまなしじゃできなかったって」
アルス「それは、そうだね。みんなのこと、よく話してあるから、安心して。あ、キーファのことも話したし」
マリベル「はぁ? アイツなんかどうでもいいのよ。アイツより、海賊のほうのあんたのお父様とか」
マリベル「今の時代にはいなくても、ハディートとかフォズとか、あの人たちの話のほうが大事でしょ」
マリベル「フォズで思い出したわ。ガボは元気にしてるワケ?」
アルス「うん。いくらか前にも、会いに行ったよ。この頃はそんなに退屈してないみたい」
マリベル「今日はいいの?」
アルス「マリベルが寄りたいなら、寄るよ」
マリベル「あたしはそんなに。アルスの好きにしていいわ」
アルス「じゃあ、寄ろうか」
アルス「……おいしいお土産を持ってきてないから、がっかりされるかもしれないけど」
マリベル「あいかわらず、気が利かないわよねー」
アルス「もう森の中だから、その靴、木の根っこに引っかけないようにね」
マリベル「そのときはアルスが助けてよ。それにしても、ここに道を作るように、王様に言ったら?」
アルス「森の動物たちが逃げちゃうよ」
マリベル「ああ、アルスにとっては大事なとこか。アルスは動物にはモテるから」
マリベル「あんたのファンが一番多いところ、モンスターパークだもんね」
アルス「あ、リスだ。迎えかな」
マリベル「どこ?」
アルス「ほら、そこ。こんにちは」
リス「……」
アルス「ガボとおじさんに、僕たちが来たって、伝えてくれる?」
リス「……キュイッ」
マリベル「普通に話してるし」
アルス「なんとなくだよ」
~ 木こりの小屋付近 ~
ガボ「おー、アルスとマリベル。なんかうめえものくれに来たのか?」
マリベル「お腹にピラニアンでも飼ってるのかしら」
アルス「今日はお土産はないよ」
マリベル「あるわよ」
アルス「あるの?」
マリベル「お饅頭とお煎餅、どっちか好きなほう、選ばせてあげる」
ガボ「こっちにする! 木こりのおっちゃんが好きだからな」
マリベル「はい。ならこっちは、アルスに、はい」
アルス「僕にくれるの?」
マリベル「あんたじゃなくて、王様へのお手土産。いくら顔見知りだからって、手ぶらで玉座行くのやめなさいよほんと」
アルス「わざわざ持ってきてくれたんだ。ありがとう」
ガボ「マリベルは、言うことがアルスのかーちゃんにそっくりだな」
マリベル「はぁ? あたしほどの美・少・女に向かって、冗談じゃないわ。アルスがお子さますぎるだけよ」
アルス「あ、さっきのリスだ。やっぱり迎えに来てくれたんだね」
マリベル「こういうとこ」
ガボ「アルスもわかるのかー。おっちゃん向こうにいるから、行こうぜ」
木こり「おんや、遊びに来ただか。リスっ子の言ったとおりだなや」
アルス「こんにちは」
マリベル「今日は動物たち少ないのね。……それ、なに?」
ガボ「オイラの家族の像だぞ」
マリベル「ガボあんた、彫刻家に転職したの?」
ガボ「オイラだけじゃ作れないから、木こりのおっちゃんにも手伝ってもらってる」
木こり「オラは切り出しをやっただけだが」
マリベル「ふーん?」
アルス「マリベル。オルフィーの西の山に、昔僕たちと戦ったおじさんがいるよね」
アルス「あの人がガボに、白いオオカミたちの墓を作らないかって言ったんだよ」
木こり「それでせっせと削ってるてわけだべ」
マリベル「墓もなにも、自分でやったことなのに、ずいぶん都合がいいわね」
ガボ「アイツ前は悪いヤツだったけど、今はそうじゃないからな。許してやらないとかわいそうだ」
マリベル「ふーん。ま、ガボがいいならいいけど」
マリベル「……ていうか、どうしてアルスが知ってるのよ」
アルス「一緒に山に行ったから」
マリベル「……ふうん」
ガボ「マリベルさっきから鼻かゆいのか?」
マリベル「またあたしに内緒で、冒険に行ったんだ」
アルス「ガボの里帰りにつきあっただけだよ。ただ山を登って降りるだけなんて、きっと文句言うと思ったから」
マリベル「あのねえ。こちとら、世界一高い塔を登ってんの。今さらちーっさい山がなんだってのよ」
ガボ「そうかあ? マリベル、ちょっと険しい洞窟に行くと、どこでも怒ってるぞ。喉渇かねえのかなって、オイラいつも思ってた」
マリベル「とにかく、今度どこかに冒険に行くときは、必ずあたしもつれていきなさい」
アルス「うん、でも……」
マリベル「わかった?」
アルス「わかった」
~ グランエスタード城下町付近 ~
マリベル「アルス、もしかしてさっきの以外にも、あたしの知らないところで面白そうなこと、してないよね」
アルス「うーん……何かしたかなあ」
マリベル「とぼけた顔しちゃって」
アルス「マリベルに、まだ話してないことだから……」
アルス「海賊の人たちと、王様たちと一緒に、巻き貝の壺焼きパーティをしたりは。ダーマ神殿の近くで」
マリベル「うそでしょ」
アルス「ウソじゃないよ」
マリベル「めちゃめちゃ面白そうなことしてるじゃん! よくもヒミツにしてたわね!」
アルス「ヒミツにしようとは、思わなかったけど……。急な話で、マリベルを探す時間がなかったんだよ」
アルス「王様と、リーサ姫と、大臣と、アイラと、あと海賊の人たちも。僕の都合で待たせられないから」
マリベル「っ」
アルス「王様に会いに行ったら、ちょうどたまたまシャークアイさんも来てたんだ。それで……」
マリベル「あっそ。そんなに海賊と遊びたいんだったら、海賊になったら!?」
アルス「もうなったことあるから……あっ! 待ってよ、マリベル!」
~ グランエスタード城下町 噴水の広場 ~
マリベル「……」
アルス「……」
マリベル「……」
アルス「マリベル」
マリベル「……」
アルス「あの、僕、お城に行くけど……」
マリベル「行けば?」
アルス「マリベルは?」
マリベル「あたしはここで、デートのお誘いでも待つことにするわ」
アルス「わかった。なるべく早く戻るよ」
マリベル「……」
アルス「お土産、用意してくれてありがとね」
マリベル「遅かったら、お城の屋根にメラうつから。ちゃんと窓の外みてなさいよ」
アルス「マリベルの言うことのほうが、よっぽど不敬だよ……」
マリベル「フン」
アルス「またあとでね」
シスター「やっほー、マリベルー」
マリベル「?」
マリベル「あら、あんた教会に入ったんだ」
シスター「そうよ。どう? この服。かわいくない? かわいいよねーひらひら」
マリベル「修道服なんて見せびらかすほどのもんじゃないでしょ」
シスター「お嬢様の目は厳しいなあ。ね、彼はどうしたの?」
マリベル「彼? ……ああ、アルスのこと?」
シスター「他にだれがいるのよ」
マリベル「アルスならお城に行ってるけど。なにか用があるなら、伝えとくわよ」
シスター「用っていうか。マリベルは一緒に行かなくて大丈夫なのかなって」
マリベル「なんで?」
シスター「なんでもなにも。この町にも、アルスのこと狙ってる女の子、けっこういるよ?」
マリベル「そういうこと。なら、平気だよ。アルスはあたしにぞっこんだもの」
シスター「うーん。前はわたしも、そうだと思ってたけどね。こんな口の悪い子といつも一緒なんて、好きじゃなきゃムリだろうし」
マリベル「なによ」
シスター「でも、今のアルスは世界の救世主さまなんだよ。噂じゃ、リーサ姫だけじゃなくて、他の国のお姫様とも仲良しなん
でしょ」
シスター「マリベルの知らないところで、アルスにお相手ができてたって、おかしくないよ」
マリベル「……」
シスター「あ。もしかして、会心の一撃でちゃった?」
マリベル「本物の会心の一撃がどんなものか、お望みなら、教えてあげましょうか」
シスター「ひええ。神様おたすけー」
マリベル「あんなジジイに祈ったって、いっぱつギャグしか出てこないよ」
~ グランエスタード城 城内 ~
兵士「グランエスタード城へようこそ」
マリベル「ねえ。アルスは今、この上?」
兵士「こんにちは、アミットさんのお嬢様」
兵士「アルスなら……失礼、アルスさんなら、もう謁見の間を降りられました」
マリベル「そう。どこ行ったかわかる?」
兵士「先ほど、あちらの扉からバルコニーに出ておいででしたよ」
マリベル「さっき言ってた、吟遊詩人に会ってるのかしら」
兵士「吟遊詩人?」
マリベル「なんでもない。ありがと。じゃあね」
兵士「あの、吟遊詩人の彼なら、今日はいませんが……」
兵士「アルスさんから、あなたがた全員の話を聞き、思うところがあったようで、しばらく旅に出ています」
兵士「今はこの島にいない、伝説の英雄にも一度会わなければ、最高の歌は作れない……と、そう申していました」
マリベル「そうなんだ。芸術家って、どいつもこいつも旅が好きなのね」
マリベル「そしたら、アルスは……」
アイラ「あら、マリベルも来ていたのね」
リーサ姫「こんにちは、マリベル。今日もいいお天気ね」
マリベル「ごきげんよう、リーサ姫、アイラ」
アルス「いつの間に……もう戻ろうと思ってたんだよ」
マリベル「両手に花でいいわね、アルス」
アルス「え? あ、そうだね」
リーサ姫「まあ、マリベルったら」
アイラ「うふふ。アルス、あっちのお花が呼んでるわよ」
アルス「?」
リーサ姫「そうだわ、マリベル。今日はお土産をありがとう」
リーサ姫「この頃は毎日、世界のどこどこでとれたって食材のお料理ばかりで……。フィッシュベルの味を、なつかしく思っていたところだったの」
マリベル「なによりだわ。どういたしまして」
リーサ姫「アルスも、お兄様が好きだった、あのお魚のお料理。よかったら持ってきてね」
アルス「うん。次は母さんに頼んでみるよ」
アイラ「マリベルもいることだし、お見送りはここまででいいかしら?」
アルス「そうだね。二人とも、また今度」
リーサ姫「ええ、また。アルス、この前のきれいなお花畑、とても素敵だったわ。また、つれていって」
アルス「もちろん。ほかにもきれいな場所はたくさんあるから、いつか案内するよ」
リーサ姫「ふふっ、楽しみ」
~ グランエスタード城下町 ~
マリベル「……お花畑?」
アルス「ほら、メモリアリーフの西の。グリンフレークがあったところだよ」
マリベル「行ったの。お姫様と二人で」
アルス「アイラも一緒に、三人でね。キーファと行った場所を、リーサ姫に教えてあげようと思ってさ」
マリベル「……」
アルス「アイラがそばにいるようになってから、リーサ姫は落ちついたよね。笑って、キーファの思い出話ができるようになったし」
マリベル「……」
アルス「王様からも頼まれたんだ。ちょっとずつ、城の外の世界を見せてやってほしいって。跡継ぎのこともあるだろうから」
マリベル「アルス」
アルス「なに?」
マリベル「あたし、先に帰る」
アルス「えっ?」
マリベル「っ」
アルス「あ、ちょっと、マリベル! そんな靴で走ったら、危ないよ!」
マリベル「うるさい! アルスのバーカ!」
アルス「……」
アルス「……」
オルカ「よーおアルス。見てたぜ。へっ、フラれてやんの」
アルス「……」
オルカ「おい」
アルス「……3、4、5、6……」
オルカ「なに数えてんだよ」
アルス「追いついたらマリベルの気がすんでて、話を聞いてくれるようになってるまでの時間」
オルカ「なんだそりゃ。田舎者の考えることは、わかんないな」
アルス「大事なことだよ。早すぎても遅すぎてもだめだから」
オルカ「はん、女の子ひとりモノにできないんじゃ、救世主がきいて呆れるぜ」
アルス「当たり前じゃないか。マリベルは、魔王より手強いんだ」
~ エスタード島 フィッシュベル付近 ~
アルス「マリベル」
マリベル「……」
アルス「マリベルは、僕がマリベルを誘わなかったことを怒ってるの?」
マリベル「……」
アルス「ねえ、マリベル」
マリベル「マリベルマリベル、うるっさいわね」
アルス「君の名前だよ」
マリベル「そーよ! 怒ってんの! こんなスペシャルな美少女ほっといて、自分だけ遊びまわるなんて、信じらんない!」
アルス「カンチガイしてるよ。僕はマリベルのことも、誘うつもりでいたんだよ」
アルス「リーサ姫たちとメモリアリーフに行くとき、最初にマリベルの家に行ったんだ」
アルス「そうしたら、マリベルのお母さんが、マリベルは台所で料理をしてるって……」
マリベル「……」
アルス「ガボのときは、マリベルは家にいなくて、お城の厨房に行ったとか聞いたし……」
マリベル「……」
アルス「壺焼きパーティのときも、マリベルは部屋で何かの勉強をしてたって、聞いたよ」
アルス「お手伝いさんが、入っていいって言うまで部屋に入るなって、マリベルに言われたって言ってた」
マリベル「……」
アルス「心当たりがあるって顔だね」
マリベル「ふーん。誘いには来てたんだ。ま、そうよね。あたしがいたほうが、百倍楽しいでしょ」
アルス「そうだね」
マリベル「そ、ならいいわ。一緒に行ってあげられなくて、ごめんねアルス」
アルス「……」
マリベル「なんで笑うのよ」
アルス「マリベルは、どれだけ旅しても、変わらないな」
マリベル「?」
アルス「そのほうがいいや」
マリベル「ははーん。みんながアルスのことを、救世主として見るって話ね」
アルス「うん」
マリベル「みんな、よく、あんたで騒げるよね。アルスなんて、いつもボケーッとしてるだけなのに」
アルス「そこはともかくとして。たまに考えるんだ」
アルス「もし、あの神殿の封印をとかなかったら、アミットさんに夕食に呼ばれることなんて、なかっただろうって」
マリベル「……」
マリベル「アルス、カンチガイしてるよ」
アルス「え?」
マリベル「今日はパパたちじゃなくて、あたしが呼んだの」
アルス「そうなの?」
マリベル「プロビナで話したこと、あんたおぼえてる?」
アルス「教会が山の上にあって、マリベルが怒ってたこと?」
マリベル「そーいうんじゃなくてさ。あたしの料理のウデに、文句つけたでしょ」
アルス「そうだっけ」
マリベル「とぼけたってムダだよ。あたしはおぼえてるんだから」
マリベル「自分のほうが上手いとまで言ったわよね」
アルス「思いだした。だってマリベル、ただの焼き魚を得意げに言うんだもの」
マリベル「焼き魚の何が悪いのよ」
アルス「悪くはないけど、フィッシュベルで焼き魚が作れない人はいないよ」
マリベル「そう言ってられるのも、今のうちよ。今日はアルスに、あたしのすごさを改めて、思い知らせてあげる」
アルス「それで練習してたんだ」
マリベル「言っとくけど、あんたのためじゃないから」
アルス「うん」
マリベル「あたしの名誉のために、練習したんだから。そこんとこは、カンチガイしないでよ」
マリベル「……空の色が変わってきたわね。急ぎましょ、アルス」
アルス「うん」
~ フィッシュベル ~
マリベル「あ、そうだ」
アルス「わ! 急にとまらないでよ、ぶつかっちゃうよ」
マリベル「ついでだから、あんたのカンチガイ、もうひとつ教えてあげる」
アルス「?」
マリベル「アルスはさっき、あたしのパパに呼ばれることないって言ったけど……」
マリベル「救世主にならなくても、きっと同じだったと思うよ」
アルス「どういうこと?」
マリベル「あなたはいずれ、お父様の後を継ぐんだから。つまり、村で一番の漁師になるってことでしょ」
アルス「……」
マリベル「有名になる順番が、早いか遅いかの違いじゃないかしら」
アルス「そんなふうに考えてみたこと、なかったな」
マリベル「まっ、どんだけ有名だったって、弱っちいオトコは、魚にも、女の子にも相手にされないと思うけどね」
アルス「うん、そうだね」
マリベル「もしアルスが、一番の漁師になれたら、そのときもあたしが、魚を焼いてあげてもいいよ」
アルス「船の上で?」
マリベル「そうかもね。うふふっ」
おまけ
~ 天上の神殿 ~
吟遊詩人「ついに……着いたか……。ここが……」
吟遊詩人「すごい眺めだ。この眺めだけで一本書けてしまいそうだぞ」
吟遊詩人「アルスさんの話では、英雄メルビンはここに残ったそうだけど、さて……。あの人に話を聞いてみるか」
吟遊詩人「あのー」
メルビン「しーっ」
吟遊詩人「?」
メルビン「地上からのお客とは珍しい。だが、今は歓迎しているヒマがないでござる」
吟遊詩人「なにゆえ……もしや魔物が!?」
メルビン「いや、わしが地上の友人から秘密裏に譲っていただいたこの本の存在が神官にバレたでござる」
吟遊詩人「はあ……?」
メルビン「ほとぼりがさめるまで、わしは隠れていなければ」
神官「メルビンさん。探しました」
メルビン「御免!」
神官「あっ! ちょっと! 待ちなさい! こら! 逃げたら記録に残しますよ! いいんですか! 待ちなさい!」
吟遊詩人「……」
吟遊詩人「……足の速いご老人だ。わたしもあんなふうに、生涯現役でいたいな」
吟遊詩人「おっと、そんなことより、英雄メルビンを探さないと。いったい、どんな人なんだろうなあ」
fin.
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