佐久間まゆ「……やっぱり、苦い」 (27)



「先輩、お疲れ様です」

「おぉお疲れ。久しぶりだな」

「ですね。そろそろ会うかなとは思ってましたが」

「お前煙草なんて始めたのか」

「……えぇ、最近ですが」

「良いことないぞ」

「じゃあ、先輩はどうして吸ってるんですか」

「そりゃお前、良いこと無いからだよ」

「何すかそれ」

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「あららぁ手つきが素人だ」

「そ、そりゃ最近吸い始めたからですよ」

「火が近いぞ」

「すみません…………あぁ、苦い」

「そう思うだろ。驚くことにな、その内何も感じなくなる」

「この苦さに慣れてくんですか」

「慣れて慣れて本数も増える。加えて煙草の値上がりだ。本当に良いことなんて無い」

「でも、止められない」

「止めれないんだよな」




「俺に言えるのは、苦いと感じる内に止めとけって事だけだな」

「それは……無理な相談ですね」

「おいおい、昔は素直に二つ返事だったのによぉ」

「研修中は取り敢えずハイって言えばいいと思ってたんです」

「聞きたくなかったなぁ」

「冗談ですよ。まぁでも……あの頃思ってた事と、現実は違いますね」

「現実はどうだ?」

「それなりです」

「それなりか」

「はい」

「でも煙草は吸う」

「毎日吸いますね」




「お前の担当、ええと……」

「佐久間まゆ、ですね」

「そう、まゆちゃん。最近調子良いみたいだな」

「ですね」

「どうした、あんま嬉しそうじゃないな」

「まさか。嬉しいですよ、仕事は山ほどありますが」

「売れっ子の担当はそうだよなぁ……俺も昔は仕事に潰されると思ったよ」

「今はもうプロデューサーしてないんですよね」

「まあな。楽でもないが、そこまで苦でもない」




「……最近は、声や歌の仕事が増えました」

「ほう」

「まゆ自身も得意らしくて、実力もまだまだ伸びそうです」

「いい事だ。仕事と共に成長するのは、理想の形だ」

「ですね……その分、ダンスの方も伸びて欲しいと思うんですがね」

「先ずは得意を伸ばす事だ。一つ身に付けば、苦手な所への意識も変わる」

「その教えを、まゆにも伝えてますよ」

「善き哉善き哉」

「今でも、先輩に指導してもらえてよかったと思ってます」

「そうかそうか。ほれ、火をどうぞ」

「あ、すみません」




「…………あの」

「ん? どした」

「……いや、やっぱいいっす」

「思わせ振りだな」

「はい、いや…………ですね」

「お前は最初からだんまり決めるタイプだよなぁ」

「結局治らなかったですね」

「その辺俺を見習って欲しかったな」

「先輩は何でも大っぴらに言い過ぎだと思います」

「それくらいの方がこの業界楽だよ。口が軽いと思われてりゃ、秘密を打ち明ける奴は減る」

「それで……味方が減ってもですか?」

「端から仲間が少ないんだよ。社外の人間とは、会話だけでも取引だ」

「初めて聞きました」

「俺も最近分かったからだよ」




「マ、どうあれ機会があったら逃さないこった。例えば今とかな」

「です、か」

「どうせこの時間帯に煙草吹かすのは俺くらいなもんだ」

「…………じゃあ、先輩が煙草吸ってる間だけ、いいっすか」

「あぁ。この1本を味わっとくから、好きに話してくれ」

「ありがとうございます」




「それじゃあ……どこから話せばいいか、分からないんすけど」

「先ずは最近の事を」

「知っての通り、今俺は佐久間まゆのプロデューサーです」

「もう直ぐで1年になる位です」

「仕事のメインは雑誌モデルで、声や歌の仕事が次に伸びてます」

「アイドルとしてのステージは、まだ大舞台にも慣れていない感じはしますが」

「プロデュース方針としては、概ね順調です」

「このペースを維持すれば、アイドルとして問題は全く無いです」

「このままなら……」




「まゆは、いい子です」

「礼儀正しくて、レッスンも真面目」

「歌の事となると一生懸命、先生に指導を仰いだり」

「そういう様子で、周りからも一目置かれています」

「元々読者モデルな事もあって、知名度も中々です」

「そこに慢心しない、というかあんまり本人は意識してないみたいですが」

「とにかく、アイドルとしては申し分ない実力があると思います」

「あの子のプロデュースが出来る事で、毎日忙しいですが」

「それでも、充実していると思います」




「……ここからは、個人的な思いです」

「思い過ごしかもしれません。そう思ってもらって構いません」

「まゆをプロデュースしている間は、充実してます」

「でも…………怖い」

「俺は、まゆが怖いんです」

「アイドルとしての佐久間まゆではなく、ずっと側に居る、佐久間まゆが」




「事務所に居ると、ずっと視線を感じます」

「最初は気のせいだって思ったんです」

「俺が信頼出来なくて、不安だからこそ見ているんだって」

「でも、段々と打ち解けてからも、変わらない」

「日に日に距離は近づいてます」

「二人きりになると、怖くて仕方がない」

「あの子がじっと俺を見るんです」

「そして笑うんです」

「俺とは真逆で、あの子は楽しくて嬉しくて、堪らないみたいです」




「どうしてまゆがそんな顔を見せるのか、俺には分かりません」

「佐久間まゆのプロデュースなら、自信があるのに」

「いざまゆ本人の事になると、俺は何一つ分からない」

「まゆが何を思って俺を見ているか、笑っているか」

「聞いても、答えてはくれません」

「でも、そんな事が何度も続いて、続いて……」

「これが自惚れで、まゆが冗談なら全然いいんです」

「でも、そうじゃない」

「あの目を見たら、とてもそんな風には思えない」

「俺は何時か、まゆに…………まゆから、逃げ出してしまう」




「先輩」

「あぁ」

「そんな短い煙草、吸うんですか……」

「お前こそ早く次の煙草出せ。ほれ、火だ」

「……ありがとうございます」

「取り敢えず今は吸っとけ。頭がぼやけて、楽になる」

「…………ですね。息を吐く度、意識がぼんやりとして……」

「そして引き戻される。それでも、少しの間だけでも……」

「……難儀ですね」

「あぁ、人生は難儀だ」




「雨……」

「あららぁこいつも難儀だ」

「先輩、傘は」

「忘れたよ」

「俺もです」

「梅雨明けたって言ってたろ」

「ですね」

「マ、止むだろ」

「止みますかね」

「あぁ。続くが、何時かは終わる」

「だといいんですが」




「さて、俺は戻る。これ以上はお小言が飛んでくる」

「俺も遅くなるとちひろさんが休憩待ちしてるんで」

「そうか」

「先輩。今日の話は、聞かなかったことにして下さい」

「……あぁ、そうするよ」

「ありがとうございます」

「何もしてねーよ。只一緒に煙草吸っただけだ」

「それだけでも十分ですよ。一人で吸ってるのは楽しくなくて」

「そうか。……マ、また何かあったら此処に来い」

「そうします」

「それじゃあな」




「戻りました」

「プロデューサーさん遅いです。じゃあ私休憩取りますから、その間ここよろしくお願いします」

「はーい」

「ちゃんと時間計ってましたから、私も同じだけ休みますからね」

「はいはい」

「……この後、ミーティングですよね?」

「そうですが」

「出来れば、着替えた方がいいと思いますよ」

「善処します」

「そうして下さい、それじゃ」

「……着替えなんて、持ってないですよ」




「さて。そろそろか……」

「お疲れ様です、プロデューサーさん」

「……お疲れ様。雨、大丈夫だった?」

「ちょっと濡れちゃいました」

「タオルとか持ってないなら探してくるけど」

「お願いします……あ、プロデューサーさん、煙草、吸いましたか?」

「あぁ……ほら、だから離れて」

「いいんです。お疲れなんですね」

「そうでもないさ」




「タオル、ありがとうございます」

「いいよ。しかし雨が続くなら、帰りは送った方がいいかな」

「そうですねぇ。雨、止みそうにないです」

「止まないかな」

「プロデューサーさん」

「何だ」

「今なら、誰も居ません」

「うん」

「いい……ですよね?」




「まゆ、近いぞ」

「近いから、いいんです」

「誰か来るぞ」

「誰も来ません」

「やめてくれ」

「どうして?」

「……煙草、吸いたてだから」

「それでも、いいんです」

「やめてくれ」

「だいじょうぶです……」






「……やっぱり、苦い」






 以上になります。


 佐久間まゆのプロデューサーへの思いは各カードで語られていますが、
 果たしてプロデューサー自身はまゆの事をどう思っているのか。それが話の骨子です。
 改めてプロデュース――一人のアイドルと常に向き合うことの難しさを感じます。

 それでは、佐久間まゆが運命の相手と幸せになる日を願って。

この作者がまゆの愛しすぎで幻覚を見てないかを祈るばかりである

巧妙なホモスレ

ヒェッ

何言ってんだみんな? ままゆは可愛いだろ?
問題なんてないじゃないか

いいssだった、かけ値なしに

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