昼下がり、外ではセミが鳴いてる。
うだるような暑さの中、部屋で男は一人。
男「・・・。」
自室の机に向かい、無言で眼前のPCのキーボードを打つ。
画面には文字が打たれていく。
『さっきもコンビニの前のDQNがウザかったよ』
ただただ愚痴を書き連ねる、いわゆる雑談掲示板であるが、
平日の日中からこのようなことをしているこの男、
いわずもがなニートであった。
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男「…チッ」
愚痴の傍ら飲んでいた缶ビールが切れた。
男「…はぁ」
男(さっきコンビニ行ったばかりなのに…)
男「………」
男「……めんどくせえなあ、ぁあ」
男「…………」
男「……買いに行くか」
男「ビール以外に必要なのは、っと…」
男「…あートイレットペーパーくらいか」
出来るだけ目立たない格好で。
といっても昼間に働いていないというだけで充分目立つのだが、それは仕方ない。
それはそれだ。
今はビールを買わなくては。
男「…あち゛ぃぃ…」
男「……はぁ」
無言で、何も考えずに歩く。
基本的にクーラーの効いた屋内にこもりがちな生活を送っているせいで、暑さには普通の人より弱い自信がある。
男「……買いに行く手間が省けねぇかなあ」
とはいえ、通販に頼るというのもなんとなく腑に落ちないものがあるのだ。
仕方なく、コンビニにまで足を延ばす。
……と、
男「……ん」
男(なんか、が道の真ん中に)
男(こんなのいつもは…なかった、よな?)
それは違和感だった。
『それ』は、よく道に落ちている軍手の片方のように、黒い汚れにまみれた格好で道をふさぐように立っていた。
二本の足で。直立していた。
所謂、それは人の形をしていた。
男「…なんだこれ」
男(大きさでいうと、ふつうに街歩いてそうな女くらいか?)
人の形をした、女の背丈をした、小汚いなにか。
得体の知れないものには興味が湧く。
男「おら」
コツンと、アタマと思われる部分を小突いた。
ガクン、と、アタマがうなだれる。
男「…うなだれてから動かなくなったぞ」
……、……
男「もう、ほっとくか…?」
…ジ……ジ…
男(…あれ、変な音が聞こえる…?)
ジジ…ジジジ、ガガ…ジジジガガ
男(や、やっぱなんか変な音出てるぞこれ…!?)
ピーガガガゴゴゴガガ、ザザザザ、ザザ
男「うわっ」
男「これ、もしかしてさっきので壊したとか…」
ザザザザ、ザザー…
?「ア゛…、こ……マ……スか」
男「…!?」
?「アー、あー、聞こエますカ?」
男「し、しゃべった!?」
?「ヨかった。チャンと、聞こえているようですね」
男「な、なんだおまえ…」
?「失礼ながら、あナたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
男「え、あ、男だけど…」
?「……、男様、でスね。承知致シました。」
男「…なあ、お前もしかしてロボットなのか?」
?「お察シの通りでございます」
男「すげえな…ロボットなんて初めて見た…」
男「っていうか、ほんとにロボットなのか?確かに声にノイズみたいの混じっちゃいたが…これはまるで、」
?「人間の女性、デすか?」
男「…ああ」
目の前のロボットの容姿は、まるで、人間の女性だった。
黒く汚れたなかで、その表面は皮膚のよう、うつむいたままの顔は、長いボサボサの黒髪の隙間から見えるところによると、結構、美人のようにも思えた。
そして、その姿体にはたくさんのゴミが張り付いている。これらが遠目からのシルエットを鈍らせたのだろう。
と、しても、このゴミ越しの曲線は…
男(本物の女とくらべても割とスタイルいいんじゃね…?」
?「いやですわ、スタイルがいいだなんて、男様。おだてるのがお上手です」
男「口に出てたか!?」
?「丸聞こえでございました」
男「…う、すまん…。イヤラシイ目とかそういうんではないんだ。許せ」
?「もちろんです。これから」
?「居 候 さ せ て い た だ く 身 で す の で」
男「…………は?」
IINE
まだか
期待
?「今後とも、よろしくお願い致します、男様」
男「いやまてまてまて!い、居候とか…冗談だよな…?」
?「冗談…?はて、冗談とはなんでしょう」
男「それがもう悪い冗談だっ!」
?「男様は私を家に招き入れるしかないのです。それ以外ないのです。」
男「なんだよそれ…、つかお前ロボットなんだろ?だったらほら、お前を作った…ご主人がいるだろ?」
?「……なら、あなた様がこれから私のご主人様です」
男「…ぇ…」
心なしか、ドキッとしてしまったのは内緒である。
?「もし男様が私を連れて行かずに置いていくというのであれば」
?「私はいつまでもこの場所で、行くあてもなく、立ち尽くすのみですので…」
男「お、おい、なんかやめろよそれ…」
?「別に、ただ居候させてくれなんておこがましいことは言いません」
?「代わりにお手伝いとして男様にご奉仕させていただきます」
男「お手伝い、か…」
?「とにかくお試しでも雇ってみては?初回版・一日お試しセットです」
正直、家にお手伝いがいてくれるというのはとても有り難いような気がする。
現に、今の部屋はそこらじゅうにゴミが落ちている。
それをなんとかしてくれるのであれば…
男「ま、まあ一日くらいなら」
?「本当ですか!」
ロボットは顔を上げた。
汚く汚れた、綺麗な顔立ちが、ニコッと優しく微笑んでいる。
男(…やっぱ美人だ)
男「い、一日だけだぞ!」
?「はい!」
女ロボ「私のことは女ロボとお呼びくださいませ、ご主人様!」
この笑顔、言い値で買おう、トホホギス。
男「女ロボ…か。まぁよろしくな」
半ば強引に決めてしまったが、女の笑顔というものは悪い気がしないものだ。
引きニートのくせに何寒いことぬかしてんだこいつは……
だかきたい
……ということで、目の前の美人ロボットがお手伝いに来ることになった。
男「・・・」
女ロボ「・・・?」
男「・・・?」
女ロボ「…男様はなぜ立ち止まっておられるのですか?」
男「え、いや、なんでって」
女ロボ「この路地を歩いていたということはどこかに行く用事があったのではないのですか?」
男「…あっ」
忘れてた。
ビールを買いに行くんだった。
あと、トイレットペーパー。
女ロボ「日中にこのような場所にいられると暑いでしょう、早めに行かれては?」
男「そう…だな」
今まで無自覚だった暑さと、セミの声が耳に刺さる。
自覚した今、これはまるで苦行だ。
男「さっさと買って帰ろう…」
女ロボ「はい」
買うものを買って帰りの路地。
男の家が見えてきた。
男「あそこのアパートだ」
女ロボ「あのボロアパートですか」
男「そういうなよ。結構住みやすいんだぞ」
女ロボ「働いていない人間にも、住みやすい、なんてものがあるんですね」
男「…それはいうなよ…」
女ロボ「冗談です、ふふ」
三階建ての安アパート。一部屋1LDKの中の一室のドアの鍵を開ける。
男「汚いけど…まあ、入ってくれ」
女ロボ「お邪魔します」
女ロボ「うわぁ…汚い」
男「そ、その反応は傷つくぞ…」
女ロボ「客観的に見た正直な感想です。掃除は今すぐにでも取り掛かったほうが良さそうですね」
男「そんなにか…?」
女ロボ「そんなにです。箒とちりとりはどこです?」
男「台所にあるぞ」
女ロボ「お借りしますね」
女ロボはお手伝いらしく掃除を始めてしまった。
よんでりゅ
すごい。部屋が綺麗になっていく。
思わず「なんということでしょう」とでも言ってしまいそうなほど、見る見るうちに汚かった部屋が生まれ変わっていく。
男「お前…結構すごいんだな」
女ロボ「それはこちらのセリフです。どんな生活をすればこんなに部屋が汚れるのでしょう」
女ロボ「クローゼットの中の服がカビてましたし、あの窓脇なんてキノコが生えてましたよ?」
男「ま、まじでか」
女ロボ「それに、せめてゴミくらいはゴミ箱に入れて下さい」
男「だってゴミ箱が一杯だっt」
女ロボ「ゴミ箱の中身もちゃんと片付けてくださいっ」
男「…すません」
女ロボ「謝るより少しは手伝ってほしいです。ゴミ袋にゴミを分別するとか」
男「そうだな…手伝ってもらって悪いしそのくらいはやるよ」
男(えっと、これは可燃で、これは不燃、いや資源ゴミか?)
女ロボ「それは不燃ゴミでいいですよ」
男「お、そうか」
男「よく気がついたな、迷ってるって」
女ロボ「それもお手伝いロボットの仕事のうちですので」
男「お手伝いロボット?ロボットの中にも種類があるのか?」
女ロボ「いえ、私の中に、自分は手伝いロボットだ、という認識があるだけでして」
女ロボ「いかような種類があるか、までは」
男「そうなのか。でも戦闘ロボットとかあったら面白そうだなぁ。腕にサイコガンみたいな」
女ロボ「どこのコブラなんですか…。現実的に考えたら、介護ロボットなんかはありそうですけど」
男「あーありそー」
女ロボ「…あんまり興味なさそうですね。一生世話にならないと思ってる人の顔ですよこれ」
男「はは…」
男「っと、ゴミはこれで全部分別完了かな」
女ロボ「ですね。疲れました」
男「ああ。まさかゴミ袋15袋分になるとは…」
女ロボ「カビてた服がわりかし多かったですからね」
男「改めて見ると俺の部屋ん中、魔窟と化していたんだなぁ」
女ロボ「よくこんな部屋に長い間住んでられたものです」
男「考えが甘かったよ…。掃除を一切やらないと大変なことになるんだな…」
女ロボ「これに懲りたら、掃除は小まめにしましょうね」
男「はーい」
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