提督「赤城が俺の目を盗んでボーキサイトを狙うお話」 (34)

赤城「しのんで食すボーキサイトのなんて美味なことよ」ボリボリ

提督「こら! 赤城! またお前はボーキを勝手に食べやがって!」

赤城「げえ!? なぜバレたのですか! 提督は今執務室にいたはず!」ボリボリ

提督「分かるに決まっているだろ! 俺の目が黒いうちは無断ボーキができないと思え! くらえ! 正義の提督延髄切り!」

赤城「やられた! なんてことなの! 提督の目からは逃れられないの!?」ボリボリ

提督「そうだ! それがお前の運命だ!」

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赤城「ひえ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

提督「二度とこのようなことをしないと誓うか!」

赤城「はい! 誓います! 誓います! 提督の靴も舐めます! ぺろぺろぺろぺろ、ん、んちゅう、ぐっぽ」ペロペロ

提督「なに~? 信用できんな!」

赤城「そんな! 信じてください! 信じてください! 私は昨日も一昨日もその前の日も、誓いの日々を重ねてきたじゃありませんか!? 三顧の礼という言葉もあります。信用を得るために三度訪ねて頭を下げたという話です! 私はそれを一年間毎日のように誓ってきました。そろそろ信じてくれてもいいはずです!」ボリボリ

提督「それもそうだな! そう何度もなされた誓いを無下にするのは鬼のような所業だ。あい! わかった! 赤城を信じる! これから心を改めるように!」

赤城「はい! ありがとうございます! ありがとうございます! そのご寛恕に感銘を受けました! これから心を入れ替えます!」

提督「では、俺は執務に戻る! お前もなすことをなせ!」

赤城「仰せのままに!」フカブカ

提督「ではな!」スタスタ

赤城「………」フカブカ

赤城「………」チラッ

赤城「………ふうううう。危なかったです。でも、なんとか誤魔化せたようです」ボリボリ

赤城「それにしても、私のつまみ食いをこうも容易く見破るとは、あの提督も只者ではありません。対策を考える必要があります」

赤城「私のギンバイ練度は相当のものです。そこらへんの艦娘の警備では盗まれたことにさえ気づかないほどです」

赤城「だからこそ、提督が恐ろしい! 一体どんなトリックがあるっていうの!?」

赤城「ここにはカメラやセンサーの類はありません。提督の視野が極端に広いとしか………きっと提督にはいつも三百六十度の大パノラマが展開されているのだわ!」

赤城「ならば、話は簡単です! 提督の目を盗んでしまえばいいんです!」

赤城「こんなこともあろうかと、明石にこれを頼んでいて良かったです」

赤城「アイスクリーム屋さんでよく見る巨大なスプーン。底が深くてくるりと回すとまるまるとアイスが掬えるものです」

赤城「アイスディッシャーという名称があるようですが、これはアイスを掬うものじゃありません。目を掬い取るもの、すなわちアイズディッシャーです!」

赤城「ふふふ。これで提督の厄介な瞳をくるりとアイスクリームのようになめらかに摘出してあげます!」

赤城「ちなみに、提督の目を抉ることは犯罪ではありませんよ! この前、執務室で読んだ本では阿賀野さんが提督の目を取って大切に保管していました! 愛情表現の延長線上だと提督は艦娘に何をされても文句を言えない! これが提督の弱点です!」

赤城「一航戦の誇りにかけてこの赤城、卑しい犯罪者に成り下がる気は毛頭ありません!」

こんこん

赤城「提督さん………寝てますか?」

提督「寝てるよ」

赤城「夜伽の艦娘も………」

加賀「いないわ。安心して赤城さん」

赤城「部屋の中も月明かりが差し込み真っ暗というわけでもない………最高のコンディションです!」

赤城「では、そろりそろりと失礼します」

赤城「提督、ではそのお目玉頂戴致します! 許してください!」クルリ

提督「ぐぎゃああ! この世のものとは思えない痛みだ! 視神経は人間の神経の中でも特に太い! それが切断された時の痛みは筆舌しがたい!」

加賀「大変。目がなくなって出血がひどい。止血処理を行います」ホウタイ クルクル

赤城「もう一方のお目玉も頂戴です!」クルリ

提督「ぐぎゃあああ! 痛みが痛みを呼ぶ! そして世界が闇に包まれた! 急に視野が奪われる恐怖! そして二度と取り戻せないことへの畏怖! それらがないまぜとなり強烈な不安感を産む! 壮絶な孤独感に押しつぶされそうだ!」

加賀「しっかりして! 大丈夫よ! 提督、あなたには私がついているわ!」

提督「おお! おお! 暗闇の中で優しく響く声! 世界に絶望しそうな俺の弱き精神に再び活力を与えようとする声! もっと聞かせてくれ! お願いだ!」

加賀「大丈夫、大丈夫。私が、この加賀がいつまでも提督と一緒にいるわ!」

赤城「では、私は盗みを悟られずに後はそろりそろりと来た時のように静かに帰ります」

バタン

赤城「やりました。無事に仕事が完了しました。盗むのはボーキサイトだけと心に決めていましたが、この盗みは未来への投資ですから、ノーカンです」

阿賀野「あれ? 赤城さん?」

赤城「げええ!? 眼球フリーク阿賀野!? どうしてここに!?」

阿賀野「なんだか、とってもすごい声が響いてきたんですけど、何かあったんですか?」

赤城「どうして阿賀野が!? いいえ、決まっています。提督の目玉を盗みに来たに決まっています! しかし、それは今私の手元にあります」

阿賀野「赤城さん? どうしてこっちを向いてくれないんですか?」

赤城「どうします、この状況! 私が先に盗んだと知られてはまずいです! くそう、もう少し早くに来てくれていたら、私は無駄な労働をせずに済み、阿賀野は目玉が得られてwin-winでしたのに!」

阿賀野「………あの、赤城さん?」ガシッ

赤城「ええい! ままよ! ぱくり!」

阿賀野「………また提督に黙ってつまみ食いですか? 怒られますよ?」

赤城「………くそう! DHAが豊富に含まれているような味わいです。正直まずい! でも目玉を盗んだことがバレるのよりはまずくない!」モキュモキュ

阿賀野「なんだか苦しそうです。一気にほおばったせいで噛み切れないのですか? お水いりますか?」

赤城「これは頷きます! 全力で!」

阿賀野「では、少し待っていてください。コップ一杯の水を取ってきますから」トコトコ

赤城「………」チラッ

赤城「よし! 行きましたね。この隙に逃げさせてもらいます!」

赤城「逃げ切りました! ここは安全! さて、早く口の中の目玉を吐き出さないと」

ごきゅん

赤城「………」

赤城「………まずい! 飲み込んでしまいました! これでは取り出せない!」

赤城「私の喉はいつも食すことしか考えていないがための失策!」

赤城「しかも事情的に誰にも助けを求めることができないこの状況です」

赤城「仕方ありません。ここはもう諦めましょう。それに眼球にはDHAがあるんです、賢くなれるかもしれません」

赤城「それに食べてしまえば、いつバレるかと阿賀野にビクつく必要ももうありません」

赤城「それにこれで提督の視力は永遠に失われたと言っても良いでしょう。私のギンバイライフを妨げるものはもう何もありません」

赤城「考えてみれば良いことずくめです。笑いが止まりません」

赤城「さあ、今夜はもう寝ましょう。明日からの輝かしい食生活を夢見て!」

赤城「朝、鎮守府全体を騒がす事件が発表されました! なんでも提督の目が何者かに盗まれたという窃盗事件です!」

榛名「榛名、感激です! いつも提督の下着を後ろめたい気持ちで盗んでいましたが、上には上がいることを知り、榛名、安心しました!」

金剛「オー………榛名の症状が悪化してしまったデス。ですから、榛名、よく聞くデスヨ? そんな下着とかではなく、生身の提督に思いを告げてアタックするのが一番デース」

榛名「なるほど! 下着で満足するのではなく、提督の生ペニスを盗んでこいということですね!」グッ

金剛「違いマス」

阿賀野「提督の綺麗な瞳が、盗まれた………?」

赤城「鎮守府は右へ左へ大騒ぎ。しかし、こういう時こそかえって冷めるのが一航戦です」

赤城「なにぶんこの大騒ぎ。今ならどれだけ堂々とボーキサイトを食い散らかしても誰にも気づかれないはずです」

赤城「さて、それでは悠々と保管庫に向かいましょうか」

保管庫

赤城「やはり、見立て通り、ボーキサイトが大量に保管されています。普段ここの警備は厳重で私でも少し苦労しますが、今はもぬけの殻! このボーキサイトは私の食欲の餌食になるのが運命!」

赤城「運命からは逃れられない! それではいざ! ボーキサイト!」

赤城「………どうして、どうしてですか! 一体何が起こっているの!?」

赤城「どうして! なぜ手が伸びないのですか!」

赤城「ボーキサイトに手を触れようとすると、途端に引っ込む! まるで笛をさかんに鳴らすヤカンに触れてしまった時のように!」

赤城「なんですか? こんな大変な時期に私だけが良い思いをするのは間違っている?」

赤城「戯けたことを! こんな静止は私の食欲の前ではダンプカーが蜘蛛の巣を散らすようなものです!」グイッ

赤城「とった! これであとは口元に運べば自動的に食す! 勝った!」

赤城「………どうして?」

赤城「どうして口が開かないのですか………!」プルプル

赤城「そんなまさか私の口がボーキサイトを拒絶しているっ!?」

赤城「そんな馬鹿な!? 私の口元にボーキがあればそれを噛み砕き喉に通す。これは熟した林檎が地面に落ちるより自明の理! 地球の回転が逆になっても変わらない真理!」

赤城「それが今否定されているっ! 信じられません!」

赤城「なに? あなたが起こした騒ぎです、潔く自首して謝りましょう?」

赤城「何を馬鹿なことを考えているのですか私は!?」

赤城「っは!? まさかこれは良心の声!? そんな一航戦赤城に良心が芽生えたとでも言うのですか!?」

提督「くくくく。その声に従うといい! 赤城!」

赤城「提督!? どうしてここに!? それより私に何をしたのですか!?」

提督「俺は何もしていない」

赤城「そんなはずありません! さもないと、この胸の苦しみは説明できません!」

提督「赤城、お前に良心が芽生えたんだよ!」

赤城「どういうわけですか! 私は良心なんてものは持ち合わせていません!」

提督「正確には良心の声に耳を傾けない技術だ。しかし、お前は俺の目玉を食った! それがお前の敗因だ!」

赤城「どうして提督の眼球を食べたことで私に良心が芽生えるのですか!」

提督「………」

赤城「答えてください! 提督!」

提督「実存主義者のサルトルは独我論的な世界は他者のまなざしによって崩壊すると言う。つまり、他人が見ている前では悪いことは出来ないということだが、その見られている感覚はその当人の内なる目によって生み出される。この場合内なる目とはすなわち」

赤城「まさか私の中の眼球っ!? 私が間違って飲み込んだ眼球がいつも見られている感覚を私に呼び起こし、ひいては良心の蘇生も引き起こしたというのですか!?」

提督「そうだ! お前が俺の目を盗もうと考えていた瞬間にお前の負けは決まっていたんだ赤城!」

赤城「でも、どうして食べるなんてわかったのですか!? あれは阿賀野がいたからこそ」

提督「その阿賀野もグルだ! お前はまんまと実存主義的トラップに引っかかったんだ!」

赤城「ぜえぜえはあはあ………この胸の痛みの理由はそれですか」

提督「そうだ! お前は今まで散々悪事を働いてきた! その分良心の締め付けはとてつもない万力のように赤城お前を圧迫しているだろうっ!」

赤城「しかし、こちらもギンバイのプロ、食欲の鬼………たかが良心が目覚めた程度で私の行動を制限できないのですよ」

提督「それはどうかな?」

赤城「………何ですか?」

提督「お前は普段身だしなみなんて気にもしない奴だったが、今は必死に服装髪型を整えて乙女の表情を見せているぜ!」

赤城「なんですって!? そんな………まさか………っは!? 本当です! 提督の前だと思うとしきりに自分の格好がおかしくないか気になって仕方がありません! どうして!?」

提督「………くくくく」

赤城「っそういえば、今の提督は目が見えないはず!」

提督「そうともさ」

赤城「今のはブラフ!?」

提督「でも、赤城お前は俺の言葉にドキリとして内省を行った。人からどう見られるかをしきりに気にしているようだな! 赤城!」

赤城「そ、そんな」カアアア

提督「そして赤城、お前は今図星をさされて赤面している!」

赤城「え? ええ!」カアアアア

提督「なぜなら赤城、お前はこの俺に惚れているからだ!」

赤城「っ!? 私が、提督に?………いえ、でも、そんな。しかし、ここまで身だしなみを気にしてあたふたするのは提督が初めて………まさかこれが恋っ!」

提督「そうだ! それが恋だ! 赤城は俺に惚れている!」

赤城「私は提督に惚れている………好き」

提督「しかし、お前は次にこう考える! 私はでも提督に見合う女なのかしらと!」

赤城「………提督に見合うかどうか………見合わない! いつも意地汚くボーキサイトを盗んでは食べてきた薄汚れた豚のような赤城には提督と思いを共にする資格がない! 悲しい! 苦しい!」

提督「そうだ! それが良心の痛みであり苦しみだ!」

赤城「提督………助けて………自分の罪の重さで押しつぶされてしまいます………! 痛い、悲しい………」

提督「自分のしたことで本当に欲しいものを失う恐怖を味わうのは因果応報だ!」

赤城「そ、そんなことを言わないで………お願いします。お願いします」

提督「………もうしないと誓うか」

赤城「誓います。誓います」

提督「しかし、お前は誓いを何度も破ったな?」

赤城「ごめんなさい。ごめんなさい。もう二度としません」ポロポロ

提督「………よし、わかった。ここまで苦しんでいるんだ。これ以上は悪魔の所業だ」

赤城「ありがとうございます! ありがとうございます!」

提督「では口を大きく開け! 俺の目玉を取り出すぞ!」ズコッ

赤城「あがっ!? ぐがあああああ!」

提督「辛抱だ! 辛抱! もう少し………もう少し………取れた!」

赤城「ぜえはあ、ぜえはあ」

提督「目玉をもとに戻してと。やはり視覚はあったほうが便利だな! 可愛い赤城の姿がよく見える!」

赤城「かっ!? かわいい!?」カアアア

提督「俺の目玉を取り込んだことによって良心の心臓に電気ショックを与えたことになり、良心の蘇生に成功したようだな」

赤城「………あの、提督、ありがとうございます」

提督「そうだな。調子はどうだ?」

赤城「はい。厚い雲から光が差し込んだように晴れやかな気持ちです」

提督「そうか。でも、どうするよ? 赤城」

赤城「どうするとは?」

提督「一時的とはいえ俺の目は赤城の内なる目の役割を果たしていたんだ。赤城の恥ずかしいところなんて全部丸見えだったわけで」

赤城「わ、忘れてくださいっ!」カアアア

提督「そうは言えども、あんなに乱れている様をまざまざと見せつけられては忘れようもないな」

赤城「そ、そんなお嫁にもういけない………」

提督「だから、赤城、提案があるんだ」

赤城「………なんですか?」

提督「俺と結婚しよう」

赤城「………え? えええええ!?」

提督「そう驚くことでもない。俺は赤城を深いところまで知って、こいつとはもっと一緒にいたいと思ったんだ」

赤城「でも、提督、私はその薄汚れた」

提督「そう卑下するな! お前には醜いところがたくさんある! それは認めよう! だが、俺はお前の綺麗なところもそれだけ沢山見てきたんだ!」

赤城「あの、でも」

提督「俺では不満か?」

赤城「いえ、そんな私も提督には好意を寄せていますし、とても嬉しい」

提督「ならば、結婚は決まりだな」

加賀「おめでとう。赤城さん。実は私も提督のことが好きでしたけど、相手が赤城さんならば、快く諦めがつきます。どうかお幸せに!」

赤城「………加賀さん」

阿賀野「提督の眼球は良い眼球です。きっとお二人は幸せになれます!」

榛名「榛名、赤城になりたいです! 奴の全身の皮を剥いて、それを被れば榛名こそが提督の新婦さんです!」

金剛「変な考えはやめるデス。提督が選んだ人ネ。文句を言わずに祝福をするのが一番デス」パシッ

赤城「みんな………!」

提督「さて、ではこの指輪を受け取ってくれるね?」

赤城「いいえ。その前にまだ大事なことを聞いていませんよ? 提督」

提督「………ああ、そうだったな! 失礼! 赤城! 愛している!」

赤城「私もです! 愛しています! 提督!」


おわり

寸劇見てるみたいだった。乙

ギャグマンガ日和みてる気分だった。乙。

ミュージカルとかオペレッタみたいな感じだな乙


まさか目を盗むがそっちの方向とは思わんかったw

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