傭兵「…………」
ザッザッザッ
傭兵(一面の焼け野原)
傭兵(家は焼け落ち、ささやかな守りの塔や壁も跡形なく崩れ落ちている)
傭兵(かつては多くの人で賑わった広場も、白く美しい石畳の道も、全て破壊された)
傭兵(そして、死体)
傭兵(数えきれないほどの死体が、そこかしこに転がっている)
傭兵(ほとんどが着の身着のままだ。武器を手にしたまま倒れている者も幾人かいるが、盾や鎧などを纏った重装備の死体は見られない)
傭兵(血の臭い、炭の臭い、肉の焼ける臭い……充満する死の香り)
傭兵(俺を残してきて正解だったな。こんな戦の惨状は、あの子には見せられない)
傭兵(…………戦?)
傭兵「こんなものが……無抵抗の民を殺し尽くすことが戦だと、『正義の戦争』だというのかっ!?」
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ガラッ
傭兵「!?誰だっ!」シャッ
少女「…………」
傭兵「お前は……まさか、この惨劇を生き抜いたのか?」ザッ
少女(ビクッ!)
傭兵「ん?……ああ、つい剣を抜いていたか。すまんな、怖がらせて」カチン
傭兵「どれ、見せてみろ。怪我はないか?」
傭兵(……全身に擦り傷、切り傷。いずれも小さなものだ。他には……左掌から手首にかけて火傷か。これは、痕が残るだろうな……)
傭兵(だが、これだけの悲劇を生き延びたにしては、奇跡的なまでの軽傷だ。少なくとも、身体は。だが……)
傭兵(いや。今はできることだけをしよう)スッ
傭兵「少し怪我があるな、傷薬をつけるぞ。染みるが、我慢できるな?」
少女「…………」コクリ
ヌリヌリ……
傭兵「よし、これでいいだろう。よく我慢したな」ナデナデ
少女「…………」
傭兵「さて……もう、行くぞ」
少女「…………」
傭兵「もう、ここはお前の居場所ではない」
少女「…………」
傭兵「やれやれ……」ヒョイッ
少女「っ!?」
傭兵「子供を背負うのは、お前で二人目だよ」
ザッザッザッザッ
少女「…………っく、ひっ、っく」ブルブルブルブル
傭兵「…………
俺「あ、おかえり傭兵。遅かったね」
傭兵「言ったろう、日が暮れるまで戻らんと。……飯の準備は」
俺「出来てるよ。焚き火も、ちゃんと一晩分枝を集めておいたぜ」
傭兵「そうか。……よっ、っと」ズルズル
少女「…………」
俺「傭兵。……そのこ、だれ?」
傭兵「お前の…………。いや、もう一人のお前だ」
しえん
―――数年後。
俺「ほれ、着きましたよ。西の街だ」
新米商人「おお、ここがC王国の玄関、西の街ですか!」グッ
新米商人「北はN神政領とY皇国、西は遊牧民の割拠するW草原に接し、街道を下って港に出れば南のS諸侯同盟にも行き着く。まさに交通の要衝」
新米商人「それ故に様々な人や物の行き交う開放的な街だと聞いていましたが……いやー、これは予想以上です!」キョロキョロ
俺「……お客さん、随分色々知ってるね。初めてなんでしょ、旅?」
新米商人「いやー、ははは……。実はぜーんぶ、この本の受け売りなんですよね」
つ『Mr.イケメンの世界旅行指南~さあ、自分探しの旅にでよう!』キラリラリン
俺「は、はぁ……
新米商人「でも見ると聞くとでは大違いですね。この本にも町の地図は載っていますが、自分が今何処にいるのかさっぱりで……。お、あっちからいい匂いが」
ガシッ
俺「じゃあとりあえず、商人ギルドに行こうか。この街で商売するなら挨拶は必須だし、俺の報酬の話もあるしね。お客さん、紹介状は持ってるんでしょ?」
新米商人「あ、はい。ここに」ヒラヒラ
俺「じゃ、行こうか。こっちです」
スタスタスタ
新米商人「はーい。……あ、この干し果物!うちの田舎で作ってたやつだ!懐かしいなぁ、ガキの頃はバァちゃんが作ってたやつをつまみ食いしてはぶん殴られてたっけ。新鮮なやつもいいんだけど、干すとまた甘味がグッと増すんだよなぁ。それにしても、こんな遠いところでまで売られてるなんて、すごいなぁ。どれ、記念に一個……」
ガシッ
俺「こ っ ち で す !!」
新米商人「」ズルズル……
――商人ギルド
ギルド長「ほう、MW王国から……。草原を越えてきたのですか。遠いところから来なすったな」
新米商人「は、はい」ガチガチ
ギルド長「それで、扱う品目は?」
新米商人「あ、あの、その、こ、ここ今回は、やくしょ、薬草の類を。粉末にしたものと、そのままのと、2種、2種類」
ギルド長「ほう、薬草。薬商人ですか」
新米商人「は、はい。で、でも私はその、薬を煎じる知識はその、無いのので、その、薬師にまとめて調合してもらったものや、薬の材料になるものを扱わせて、もらいたいと……」パクパク
ギルド長「ふむ、なるほど……分かりました」
新米商人(ドキドキ)
ポンッ
ギルド長「貴方はどうやら、信用に値する商人のようだ。この紹介状はお返しします。それと……これが西の街商人ギルドの許可証です。王都以外でしたら、この許可証で自由に商いができるはずです」
新米商人「あ、ああありがとうございまひゅ、じゃない、ございます!」
ギルド長「今日はお疲れでしょう。この奥に宿がございますので、ゆっくりとお休みください。良い商売を」
新米商人「は、はい。では、失礼します……」ポ~
ギルド長「…………」(シュボッ)
俺「……」
ギルド長「……ふーっ。面白い人間と喋った後は、煙草が美味いね」スパー
俺「そうですか」
ギルド長「うん。きみの連れてくる商人は、面白い奴が多いね」
俺「……別に、仕事を選んでるつもりはないんですけどね。こっちだって商売だし」ボリボリ
ギルド長「それでも、きみが護衛としてついてくる商人は皆いい面構えをしている。さっきの彼を含めてね。……もっとも、まだまだ商人としての修行は必要そうだが」
俺「そりゃ、ギルド長に比べればそうでしょうよ」
ギルド長「ふふ、お世辞として受け取っておくよ。……さて、報酬の話だったね」
チャリリリリン
ギルド長「この額であっていたかな?」
俺「……確かに」
ギルド長「うん。……ところで、手は空いているかね?いくつかの隊商が護衛を探している。君ぐらいの腕ならば文句はなかろうと思うがね」
俺「……うーん」
俺「……今日の所は、失礼させてもらっていいですかね。また明日来ますんで、その時に」
ギルド長「ああ、君も疲れてるだろうしね。わかった。護衛の話は2・3日後でも大丈夫だよ」
俺「では」ペコリ
――西の街郊外、小川村
俺(なんだかここも、随分久々な気がするなぁ)
俺(小川を跨ぐ丸太橋を渡って左、村外れの池のそば……)テクテク
農家A「おーい、今日はもうあがんべー」
農家B「おう、ここ蒔き終わっだらなぁー!」
俺(麦の種まきか)
俺(俺は、米の方が好きだけどなぁ)テクテク
これは面白そう
期待
俺「……さて、着いた」
俺(相変わらず花やら薬草やら、植物に埋もれたような家だな)
俺「……あれ?看板?こんなのあったっけ」
看板『※注意 お花を摘むのはいいですが、中には素手で触ると大変なことになる植物もあります!欲しいものがあるときは黙って持ってかないで、必ず店主に言ってください』
俺「悪餓鬼がいたずらでもしたのかな?大変だねえ」キイイ
店内。
少女「はい、お婆ちゃん。腰痛と、リウマチの薬。もう歳なんだから、あんまり無理しちゃ駄目よ?」
婆「わかってはいるんだけどねえ……」
少女「少しでも痛くなったら、大人しくしてること。無理したらまた歩けなくなるわよ。……じゃ、お大事に」
婆「はい、ありがとうね。また来るよ」ヨタヨタ
俺「……」ガチャ キイイ
婆「おや、扉を開けて待っててくれたのかい、ありがとうね。……おや、あんた……久しぶりだねえ」
少女「あ、俺……!」
俺「……ども」
婆「……あんたがいない間、あの娘は随分と寂しがっていたよ。女の子をあんまり長い間、一人にするもんじゃあないよ」
少女「ちょ、お婆ちゃん!」
婆「はいはい、それじゃ失礼するよ」ギイイ バタン
少女「……もうっ」プンスカ
俺「…………」
少女「あー俺、お婆ちゃんのことは気にしないでね。あの人ああやってしょっちゅう人のことからかうんだから」
俺「あー、うん」
少女(ジロジロ)「また随分と汚れたわねえ。待ってて、今お風呂沸かすから。その埃だらけの外套は脱いで、そこに掛けといてよ。
後で洗っとくから」テクテク
俺「……少女」
少女「ん?」
俺「その……なんだ……。ただい、ま」
少女「………………ぷっ」
少女「あっははははははは。なぁに、いきなり」
俺「別に、帰ってきたから言っただけだろ。そんな笑わなくたって……」
少女「ごめんごめん。……うん。おかえり、俺」ニコッ
そう言って、少女は微笑んだ。
肩のあたりまで伸ばした緑の黒髪。
顔は食べること、笑うこと、喋ることに特化している。
体つきは華奢ながら、一本筋の通ったものを感じさせる。その昔、時には何日も野宿生活だったあの日々が培ったのだろうか。
そして、少女の体で最も目を引くもの……褐色の肌は、ゆったりとした服に隠れほとんど見ることが出来ない。
半年前と、何ら変わるところはない。
それでも俺は、……その笑顔が、とても眩しく思えた。
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