ある日、一人の画家が城に呼び出された。
画家「陛下の肖像画を描け……でございますか」
国王「うむ」
国王「元々余は絵画や彫刻といった芸術を奨励しておるし」
国王「そろそろ余も、自身の姿が描かれた絵をいうものを欲しくなってしまってな」
国王「そこで、今我が国でもっとも名声を得ているというおぬしを呼んだのだ」
国王「やってくれるか?」
画家「もちろんでございます!」
画家「私の画家生命にかけましても、必ずや素晴らしい肖像画を仕上げてみせます!」
画家(たとえ私の命がついえても、絵は永久に残る……)
画家(芸術は永久に残る……)
画家(すなわち、後世の人間にも伝わることとなる……)
画家(──ならば!)
画家(陛下の偉大さを後世に知らしめるためにも、陛下のお姿を忠実に再現しよう!)
画家「いかがでしょう!」
国王「…………」
国王「う~む……」
画家(えっ……)
国王「決して悪くはないのだが……」
国王「もうちょっと、こう、なんとかならんものかな?」
画家「なんとか、とおっしゃいますと?」
国王「鼻はもうちょっと高く」
画家「はい」
国王「目はもっとパッチリと」
画家「はい」
国王「もう少しスリムにしてくれ」
画家「は、はい」
国王「あと、髪の毛を増やしてくれ」
画家「か、かしこまりました……」
国王「それと……」
画家(まだあるのか……! これはもう一から描き直す他、なさそうだな……)
画家「いかがでしょう!」
国王「おおっ、すばらしい!」
国王「これこそ余! まさしく余! 余そのものであるぞ!」
画家「ありがとうございます」
画家(だいぶ美化しまくってしまった気もするが……)
画家(陛下が満足しておられるのなら、それでいいのだろう、きっと)
しかし──
画家「陛下、急なお呼び出しをいただきましたが、なにごとでしょう」
国王「うむ」
国王「実は先日、ある国の王と初めて会談したのだが」
国王「絵に比べてブサイクですね、といわれてしまってな」
画家「な、なるほど……(ハッキリいうなぁ)」
国王「ガッカリされるというのは、どうも気分がよくない」
国王「というわけで、もう一度描き直してくれ! 実物よりブサイクにな!」
画家「分かりました……」
画家「いかがでしょう」
国王「う~む、実にブサイク!」
国王「さすがの余も、この絵に比べたらイケメンという自信がある!」
画家(ガッカリされたのがよほど応えたんだろうが、悲しいコメントだ……)
国王「これなら、実物の余を見られた時もガッカリされることはない!」
画家「でしょうねえ」
しかし──
画家「再び私に用とのことですが、いかがなされましたか?」
国王「うむ、この間のブサイクに描かれた余の絵についてなのだが」
国王「余の妻である王妃から猛抗議が来てしまったのだ」
国王「“こんなブサイクと結婚したなんて、社交界で笑われちゃうわ!”」
国王「などと怒られてしまってな」
画家「はぁ……(モノマネうまいな)」
国王「かといってガッカリされるのも、イヤなので」
国王「いっそとことん化け物フェイスにしてくれんか」
国王「そうすれば、妻も“美女と野獣ね!”とかいって笑うであろう」
画家「分かりました……やってみましょう」
画家「……いかがでしょう」
国王「うむ、グロイ! なんかもう人間ではなくなっている!」
画家「ありがとうございます」
国王「ここまで現実離れして、突き抜けておれば、王妃もなにもいわんであろう」
国王「むしろ自分の美しさが際立つ、と喜ぶはずだ!」
画家「そういうものでしょうか……」
しかし──
画家「今度はなんでしょうか?」
国王「この前描いてもらったグロテスクな余のことなのだが」
国王「あれを見た幼い王子と王女が泣いてしまってな」
国王「パパの正体はモンスターなんだ、と近づかなくなってしまったのだ」
画家「そうですか(そりゃそうだ)」
国王「というわけで、描き直してくれ! 可愛く! ポップな感じで!」
画家「……分かりました」
画家「これでどうですかね」
国王「おおっ、これは可愛い!」
国王「絵本の中から飛び出してきたような、キュートな余が誕生だ!」
画家「ありがとうございます」
国王「これなら、我が愛しき王子と王女も喜んでくれるにちがいない!」
画家「……どうも」
しかし──
画家「……なんでしょうか」
国王「あのキュートな肖像画、なかなか好評だよ」
画家「どういたしまして」
国王「なのだが、こうなるとやはり絵だけでは物足りん」
国王「というわけで、セリフや効果音、ストーリーなどもつけてくれんか?」
画家「まぁ、やってみます」
画家「いかがでしょう?」
画家「絵を複数枚描き、さらにそれぞれにセリフや効果音を描き足すことで」
画家「キュートな陛下が大冒険をする、というストーリー肖像画が出来上がりました」
国王「おおっ、すばらしい! しかもストーリーも面白い!」
国王「これなら、王子と王女はもっと喜んでくれる!」
画家「…………」
しかし──
画家「なんすか?」
国王「王子と王女が喜んでくれたのはいいのだが……」
国王「やっぱり、これって肖像画とはいわないんじゃないか、って気がしてきたのだ」
国王「というわけで、改めて余の姿を忠実に再現した肖像画を──」
画家「芸術ナメんじゃねえええええッ!!!」
国王「ひっ!?」ビクッ
画家「陛下、いやアンタ……」
画家「美化しろだ、不細工にしろだ、可愛くだの、もうワケ分かんねぇんだよ!」
画家「しかも結局行きつくところがループってよぉ……」
画家「ワガママと迷走がすぎんじゃねえのか!? おお!?」
国王「な、なんだと! 絵描き風情が偉そうに!」
国王「しょせん絵描きなど、余のような財力の持ち主が庇護しなければ」
国王「満足に食っていけん存在ではないか!」
画家「だまらっしゃいッ!!!」
画家「たしかに絵を見たって腹は満たせねぇし、喉も潤わねぇし、寒さもしのげねぇ」
画家「画家なんつうもんは、しょせん虚業よ……」
画家「だがな! だからこそ、プライドを持たなきゃならねぇ!」
画家「自分の芸術家魂ってヤツにウソをついちゃならねぇんだ!」
国王「あうう……」
画家「芸術は芸術好きな金持ちがいなきゃ成り立たんが──」
画家「その金持ちに決して媚びないこともまた、芸術の本質よ!」
画家「分かるか! 分かるかねッ!? 分かるだろうッ!?」
国王「わ、分かる! 分かります! 分かっております!」
画家「本当か!?」
国王「ほ、本当ですとも!」
画家「じゃあどうする? 分かったんなら行動で示せや」
国王「あの……これ以上ワガママは申しません!」
画家「ほう……?」
画家「じゃあ、アンタの肖像画はどうすんだ? どれにするんだ?」
画家「あんなたくさん肖像画があったら、未来の人たちが混乱しちまうからな」
画家「どれか一つに絞れ」
国王「えぇとですね。あの……二番目に描いてもらった、イケメンのやつ!」
国王「あれでいいです!」
画家「で!?」
国王「あれがいいです!」
画家「あ!?」
国王「ひっ!」
画家「あんな美化しまくった絵が、肖像画だなんて私は認めんぞッ!」
画家「私の芸術家としてのプライドが許さんッ!」
国王「ひええええっ! すみません、すみませんっ! じゃあ他の──」
画家「王が一度決めたことを簡単に覆すんじゃねえ!」
国王「おうっ!?」
画家「っつうわけで、アンタにゃあの肖像画に相応しい王になってもらう!」
画家「心身ともにイケメンになってもらう!」
国王「へっ!?」
画家「さぁ、こんなところで油売ってるヒマはない!」
画家「イケメンキング、略して“イケキン”目指すぞ!」
国王「は、はいぃ~っ!」
画家「さぁ、ジョギングだ! いちに! いちに!」タッタッタ…
国王「えっほ! えっほ!」タッタッタ…
画家「いつもアンタは玉座にふんぞり返って、運動不足だからな!」タッタッタ…
画家「足腰から鍛え直すんだ! ほら、あと2キロ!」タッタッタ…
国王「えっほ! えっほ!」タッタッタ…
画家「いいぞ! なかなかの根性だ! さぁ、もう3キロだ!」タッタッタ…
国王「ふ、増えてませんか!?」タッタッタ…
国王「さぁ、運動したら食事にしましょう!」
画家「なんだ、この豪勢すぎる食事は! なんかのパーティーでもあるまいし!」
画家「栄養バランスを考え、もっと質素な食事にしろ!」
国王「はいぃ~!」
画家「料理人! 陛下の健康はキサマにかかっている! 頼んだぞ!」
料理人「イエッサー!」ビシッ
画家「飯を食ったら、絵を描け!」
国王「余がですか?」
画家「そうだ! 芸術は心を豊かにする!」
画家「アンタ自身も絵を描くことで、心に威厳とゆとりを持つ王になるのだ!」
国王「は、はいっ!」サラサラ…
画家「ダメだ、ダメだ! デッサンがなってなぁい! やり直し!」
国王「すみませぇん!」
画家「政治についてはよく分からんが──」
画家「下々のいうことに耳を傾けること! 独裁はいかん!」
国王「はいっ!」
画家「あとイエスマンばかり周囲に置くな!」
画家「目下の人間にあれこれいわれるのはそりゃ嫌だろうが」
画家「もう私に散々あれこれいわれてるから、大丈夫だろう!」
国王「ええ、そりゃもう!」
国王「風通しのいい政治を目指します!」
……
……
……
大臣「陛下、お喜び下さい!」
大臣「市民が、自発的に陛下を祝うパレードを行っております!」
大臣「このところ、陛下の民からの人気は高まるばかりですよ!」
画家「やりましたね、陛下!」ガシッ
国王「うむ!」ガシッ
ワァァァ…… ワァァァ……
「陛下バンザーイ!」 「名君バンザーイ!」 「国王バンザーイ!」
国王「おぬしと出会ってからはや数年、王としては成長できたかもしれぬが」
国王「結局……この肖像画のような“イケキン”にはなれなかったな……」
国王「鼻は低いし、目もパッチリしてないし、髪の毛も増えることはなかった」
画家「ですが……今の陛下は、いい表情をしておられますよ」
国王「……ありがとう」
画家「陛下」
国王「ん?」
画家「ここらでもう一枚、描かせてもらえませんか? 肖像画」
国王「おお、そうだな! ぜひお願いする!」
………………
…………
……
~ 現代 ~
学生A「この王様は有名画家と親交があって、肖像画がいっぱい描かれたらしいけど」
学生A「この二枚だけが残ってるんだってさ」
学生B「へぇ~、だけど全然顔ちがくね?」
学生B「こっちの王様はすげえイケメンだけど、こっちはあんまり……」
学生A「最初に描かれた方の肖像画は、相当美化されたものだといわれてるね」
学生B「だけどなんか──」
学生B「こっちの美化されてない方の肖像画のが、いいツラ構えしてるよな」
学生A「うん、ボクもそう思う」
おわり
ありがとうございました
乙!
イイハナシダナー
乙
乙
偉い人の肖像画を描く人は大変だったろうな
外面よりも内面からにじみでるイケメンさのが描いてて充実するだろうな
乙ー
乙
画家、有能過ぎんよー
この人はいつも良い話書くなぁ
乙
>>33
他にどんなのがありますか?
努力する奴ってどんなに着飾ってるやつよりもすげぇ輝いてる
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