錬金術士♀「異邦の剣士」 (31)
「こんにちは、私は錬金術士です」
そう自己紹介すると大抵の人は首をかしげる。
何故なら、世間一般に"錬金術士"という職業はあまり知られていないからだ。
じつは私自身も、言葉自体を師匠から伝え聞いただけで、その意味するところはよく分かってない。
ただこうして、薬学化学物理学その他諸々に詳しい人のことを便宜上そう呼ぶのだと、私の師匠は言っていた(便宜上って…)。
ちなみに、その師匠は
"金髪の幼女"姿である。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433629362
~~
錬金術士「あすこ……茂みの向こうにいるね、獲物が……」
女剣士「……うん」
イノシシ「……ブゴ、フゴ…」ノソノソ
錬金術士「……よーし、それじゃ……今日も、その剣の腕前を見せてもらおっかな」
錬金術「…頼んだよ」ポン
女剣士「分かった…」
ガササッ
イノシシ「ブギッ?!」
女剣士「………」ザッ
イノシシ「…………」ジリッ
女剣士(出来る限り疾く、相手を暴れさせないよう一瞬で…)
女剣士「…………っ」ジィ
錬金術士「………ごくり」
チャキッ
女剣士「っ!!」
ザシュッ
イノシシ「プギィ!!……ギッ」
……ドサッ
錬金術士「おお~…」
…
錬金術士「いやー、相変わらず見事な技だったね、"居合抜き"っていうんだっけ、ああいうの」チパチパ
女剣士「うん、でも別に大したアレでもないし……私の故郷じゃ大体の人は出来る」
錬金術士「そっか、でもそれでも凄いよ、猪の脳天を一瞬で切り裂いちゃうんだから」
イノシシ「」パカー
錬金術士「うひゃー、横一文字に割れた頭骨が皮一枚繋がって、口みたいにパカパカしてる」
女剣士「動物の死骸で遊ぶとバチが当たるよ、ほら早く、さっさとむこうの川まで運ぼう」
錬金術士「ごめんごめん、イノシシさんもゴメンなさい…」ナムー
錬金術士「あなたのお肉は私達がおいしくいただきます。毛皮はなめしてキチンと売り捌きますので」
イノシシ「」
女剣士(……いや、別にそこまでする必要はないけどさ)
錬金術士「さてと、じゃあこの棒にイノシシの足を吊って二人で運ぼ」
女剣士「ん、分かった」
錬金術士「いそいそ……よいしょ、って重!……ぉぉ」
女剣士「………大丈夫?私一人で運ぼうか?」
錬金術士「いーいー、平気だから……よいしょ、よいしょ」
錬金術士「ふー…これだけの大物なら、きっとさぞ立派な毛皮になるだろうねぇ」
女剣士「そうだね…」
錬金術士「ふぅ……血を抜き終わったら解体して内臓取り除いて、肉と毛皮を別にして…」
女剣士「……それじゃあ、私は肉の調理担当で」
錬金術士「私は毛皮をなめしちゃうか……はぁ、何が悲しくて若い身空に毛皮をなめして生計を立てなくちゃいけないのか」
錬金術士「とほほ…」
女剣士「……………」
錬金術士「あ、晩御飯、美味しい料理期待してるから、お願いね」
女剣士「え?………うん…頑張る」
錬金術士「……よし、私もがんばろ」
…
トンテンカンテントン
錬金術士「ふぅ……ひと休みひと休み」
女剣士「おつかれ、もう作業終わったの?」
錬金術士「とりあえず折り返しってところかな……ふぅ」
パチパチッパチッ
グツグツグツ
錬金術士「お、お肉煮えてる、美味しそ……って、臭っ!?」
女剣士「え、そう?……別に気にならないけど、これくらいなら…」
錬金術士「……そう、なの?」
女剣士「うん…」
錬金術士「…そっか、じゃあ私も……臭くない」
錬金術士(と、思い込むことにしよう……そういや調味料とか切らしてたんだったか…)
錬金術士「あははは、はは…」
女剣士「……?」
錬金術士「女剣士ってさ……本当、剣だけって感じだよね」モグモグ
女剣士「うん?……それってどういう意味?」
錬金術士「んー、なんていうか、それしか興味ないみたいな……これまでの人生を剣一筋に捧げてきた、的な」
女剣士「昔から鍛錬はしてたけど、まぁ……自分が不器用な人間だっていうのは自覚してるよ…」
女剣士「……そういうのが、たぶん迷惑になってるっていうのも含めて」モグモグ
錬金術士「ん?別に?……そういう真っ直ぐな生き方、私はいいと思うけど」
錬金術士「純粋で」
女剣士「……そう」
女剣士「…………」モグモグ
錬金術士「うん」
女剣士「…………」モグモグ
錬金術士「…………」モグモグ
錬金術士(………あぁ、沈黙が気まずい…)
女剣士「………」モグモグ
期待
百合スレの将来が見える
錬金術士「あー、食べた食べた、ごちそうさま」パン
女剣士「ごちそうさま」
錬金術士「タンパク質がたっぷりとれた気がする。やっぱりタンパク源にはお肉だよね、それか魚」
錬金術士「また前みたいに、虫でタンパク質とろうとか言いだされるよりずっといい」
女剣士「……虫ってそんなにダメかな、手軽に摂取できていいと思うけど」
錬金術士「だからって、ねぇ……前に地面を掘り返して急に芋虫差し出してきたときは気絶するかと思ったよ…」
女剣士「あれは……なんかゴメン」
錬金術士「別に謝るほどのことじゃないけど、ああ……いいや、私こそごめん」ペコリ
女剣士「?……なんで謝ってるの?」
錬金術士「…なんとなく?」
女剣士「そっか、じゃあ…私と一緒か」
錬金術士(お前もなんとなくかよ)
錬金術士「あっという間に真っ暗だ……あー、今日も疲れた」
女剣士「……もう寝る?」
錬金術士「あー、うん……だね、明日には村に下りたいし、もう寝ようかな」
女剣士「……ん、じゃあ私起きてるから、ゆっくりしていいよ」
錬金術士「いつも悪いね、じゃあ…」ゴロン
女剣士「…………」
錬金術士「夜更け過ぎくらいになったら起こして、おやすみ」
女剣士「ん、おやすみ…」
錬金術士「…………」スースー
女剣士「………」
錬金術士「……………」
女剣士「………」
錬金術士「………ねぇ」
女剣士「…なに?」
錬金術士「……腕か膝か、どっちか貸していただけるとありがたいのですが」
女剣士「………じゃあ、膝で」
錬金術士「うぃー……サンキュー」ズイッポフ
女剣士「?……今なんて?」
錬金術士「ありがとう、ってこと…」
女剣士「……ああ、そう」
錬金術士「………」スースー
……
…
…
チュンチュン
錬金術士「……んぁ、あれ?もう空が白んでる……って」
女剣士「………」スゥスゥ
錬金術士(寝てるし…)
錬金術士「……おはよう」ユサユサ
女剣士「…ん……?…あぁ、おはよう」
錬金術士「もう朝じゃん、起こしてくれなかったの?」
女剣士「……いや、よく寝てたから」
錬金術士「そっか…」
錬金術士(夜のうちに毛皮の続きをやっときたかったんだけどな…)
錬金術士(というか、二人とも寝ちゃうって危ないんじゃ…)
錬金術士「……ん?」
狼「」
錬金術士(…なんか、死骸が一個増えてる……)
女剣士「それね、夜中に襲ってきたヤツ」
錬金術士「あ、そう」
錬金術士(なるほどなぁ…)
錬金術士「相変わらず、女剣士は怖いなぁ…」
女剣士「そうかな…」
錬金術士「まぁいいけど、んんーっ……さて、とりあえず向こうの川で歯磨こう」
女剣士「ん」
…
錬金術士(結局、予定より村に着くのが遅くなってしまった)
錬金術士「太陽がてっぺんより向こうにいっちゃったか…」
女剣士「……………」
錬金術士「……じゃあまあ、私は酒場にいってくるけど、そっちはどうする?一緒に来る?」
女剣士「いい、私はいっても仕方ないし、外で待ってる」
錬金術士「そか、じゃあちょっと待ってて、何か適当な軽食も調達してくるから」
女剣士「うん」
錬金術士(何にしよう……無難にサンドイッチかなぁ……あぁ、たまにはオムライスとか食べたいな…)
錬金術士(ふわとろ、ふわとろ…)トコトコ
女剣士「…………」
女剣士「…………」ポツーン
女剣士「…………」
女剣士(…………暇だ)
女剣士「…………」
武闘家「?……あんな所に女の子が一人で立ってるぞ」
武闘家(変わった格好だな、腰に剣を下げているけどあの子も冒険者なの、か…)
女剣士「………ハァ…」サラ
武闘家(…かわいい)
武闘家「やあ…そこのお嬢さん、ごきげんよう」ヒョコッ
女剣士「………?」
…
酒場の店主「……なるほどな、確かに悪くない毛皮だ、傷や劣化も少ないし」
錬金術士「そうでしょう、何よりなめし方が上手く出来てると思いませんか?」
酒場の店主「あ?あぁ、それは……まあまあってとこかな」
錬金術士「ありゃりゃ………そっか」
酒場の店主「この位なら、一枚当り40Gで買い取ってやってもいいぞ」
錬金術士「……もうちょっと、色を付けてもらうわけには」
酒場の店主「無理だ、嫌ならよそへ行くこったな」
酒場の店主「まぁもっとも、この辺じゃろくに商売やってる店なんざここくらいなもんだが」
錬金術士「………ちぇ、じゃあ仕方ない……それで手打ちにしますよ」
酒場の店主「まいどあり!」
ガチャガチャチリーンッ
錬金術士(我ながらこういう駆け引きというか、商才のなさに涙がでそう……なんて)
グゥー
錬金術士「……あと注文を、卵サンドと、ベーコンとレタスのサンドイッチを」
錬金術士「…あ、これチーズって入ってる?」
酒場の店主「入ってるぜ、まぁ一応な」
錬金術士「じゃあそのチーズを抜きで」
酒場の店主「ああ、あいよ」
錬金術士「…チーズ抜いた分は、他のを増すっていうのは」
酒場の店主「残念ながら、チーズを抜いても値段は据え置きなんでね」ガサゴソ
酒場の店主「ほらよ、サンドイッチ二つ」
錬金術士「ケチ」
酒場の店主「こっちも商売だからよ、若人が文句言うな」
錬金術士「…まぁいいや、そういや店主……こういう噂を聞いたことってないかな?」ガサガサ
酒場の店主「あん?……噂?」
錬金術士「そう、凄腕の剣士の噂をさ……」パク
錬金術士(ん、卵サンド美味しい)
…
武闘家「君も、冒険者なのかな?けっこう若い風に見えるけど…」
女剣士「…………」
武闘家「一人?俺もね、いま一人で旅してんだ、武者修行っていうの?」
女剣士「…………」
武闘家「まぁ若気の至りってやつかな、ガーッと勢いまかせにここまで旅してきたんだけど…」
武闘家「最近は、もう一人で魔物とかと戦うのも流石に辛くなってきたっていうか……」
武闘家「うん、この辺はレベルが違うよね、そう思わない?」
女剣士「…………」
武闘家(……ふむ、反応なし……けっこうシャイな娘、なのかな)クビカシゲー
女剣士(何だか知らないけど、すっごい話しかけてくる、私に用なのかな……困るんだけど)
武闘家(でも、そんな伏し目がちな表情も物憂げで、イイっ!)グッ
武闘家(こんな娘と旅できたら、それはもう……ぐへへへwwwww)
武闘家「……よしっ」キリッ
武闘家「それで、ものは相談なんだけどさ」
女剣士「…………」
武闘家「もし、よかったらでいいんだけど」
女剣士「…………」
武闘家「どうか俺と一緒に、旅をしてくれませんかっ!!」ドゲザッ
女剣士「…………」
武闘家「…………」
女剣士「………」クシクシ
武闘家(む、無視かーーーーいっ!!)ガビーンッ
武闘家(ちょ?!土下座までしたのに、ひでぇえっ!!)
武闘家「ぐむ、むむむむ……こ、こうなったら…!」
女剣士「…?」
武闘家「とあっ!!」バッ
ガシッ
女剣士「!?」ギクッ
武闘家「とりあえずさ、そこの店に入らない?こんな所で立ち話もなんだし」
女剣士(う、腕を掴まれた、こいつ……!)カチャッ
武闘家「お茶くらいだったら奢っても……ん?」
女剣士「っ!」グッ
女剣士(斬るっ!)
シャッ
錬金術士「あああ!!はいはーいストップストーップ!ちょっとタンマーっ!」ババッ
武闘家「え?誰だ、急に」
女剣士「!」ピタッ
錬金術士「あ……危ない危ない、もう少しで流血沙汰になるところだった」
武闘家「なんだ?って、また新しいレディが………こっちは、なんだか普通な感じだな」
武闘家(どうしても、そっちの娘と比較すると見劣りするというか、決してつくりは悪くないんだけど…)フンフム
錬金術士(……何か失礼なことを思われてる気がする)
錬金術士「えーっと、ナンパしてる最中に悪かったね、でもこの子は私の連れ……っていうか」
錬金術士「その、そういうの"通じない"んだよね、残念ながら」
武闘家「ふぇ?……え?それってどういう」キョトン
錬金術士「ああ……この子、異国の生まれでね、この国の言葉が分かってないんよ」
錬金術士「だから通じないってこと……ね?女剣士」
女剣士「?……え?」
錬金術士「じゃなくて……えっと…もういいや『もう用事は済んだから、行こう』」
女剣士「……『ああ……うん、分かった』」
錬金術士「それじゃ、そういうことで……武者修行の方を頑張ってください」
錬金術士「グッバーイ」
女剣士「……………」
武闘家「え?…ええ?いやいやちょっと待って!どういう意味??今のって」
武闘家「いまその子になんて言ったの、ってどわあっ?!」ドテッ
錬金術士「!……あっ、うわぁ…」
女剣士「どうかした?」
錬金術士「別に?なんでもないから、振り返らなくていいよ、ぜーんぜん」
女剣士「?……そう」
武闘家「い痛……何だよもう、何か足に引っかかった、ような……ぁ」
武闘家「あ、あえぇ?!いつの間にかベルトが切られて、ズボンがずり落ちてる!?何故?!」パンツマルダシー
武闘家「は、恥ずかしい///」カオマッカ
…
女剣士「……それで、どうだった?」
錬金術士「ん?……んー、あんまり芳しく無かったよ」
錬金術士「えっと、ひいふうみい……宿屋代が一人一泊15Gだから、あんまり余裕は」
女剣士「じゃなくて……さ」
錬金術士「ああ、そっちね……そっちの方もあんまり収穫は無かった、かな」
女剣士「………そっか」
~
酒場の店主『凄腕の、剣士?』
錬金術士『うん、こう右眼のとこに傷があって、長身の大男……だったかな』
錬金術士『私も人づてに聞いただけだから、よく知らないんだけどさ』
酒場の店主『はぁ、右眼にキズのある男ねぇ…』
錬金術士『こういうトコの店主なら何か知らないかなって、で?…どうなのそこんところは』モグモグ
酒場の店主『ああ、まぁこの店はよく冒険者が立ち寄るし、誰も彼も生傷の絶えねえ連中ばかりだけど』
酒場の店主『生憎、そういうヤツは俺の記憶にはねえな、全然…』
酒場の店主『それに、ここに来るのは大抵三下の冒険者か、それ以下の半端者ばっかりなんでな』
錬金術士『そっか、それは残念…』モグ
酒場の店主『なんだい?もしかして惚れた男の尻でも追っかけてんのか?アンタ………それとも』
錬金術士『いや、だから私は知らないんだって、私の連れがソイツにご執心でさ』
錬金術士『国中を探し回ってる最中で、私はただの付き添い……みたいな感じかな』モグモグ
酒場の店主『へぇ、そいつはまたご苦労なこって……まぁでも』
酒場の店主『あんま若い内に、そう危ないことに首を突っ込まねえ方がいいと思うがね、俺は…』
錬金術士『……だろうねぇ、私もそう思うよ』ペロリ
~
~
錬金術士「ごめん…お詫びといってはなんだけどこれ、サンドイッチ…女剣士の分ね」スッ
錬金術士「チーズは抜いてもらったから」
女剣士「別に、そう簡単に見つけららるなんて、私も思ってないから…」
女剣士「だから、ありがと…」
錬金術士「そう、それなら……どういたしまして」
女剣士「ん……ところで、そっちの分はどうしたの?」
錬金術士「ああ、私はもうさっきの店で食べてきたから、大丈夫だよ」
女剣士「………え」
錬金術士「へ?」
女剣士「……先に一人だけで食べるとか、抜けがけ」
錬金術士「いやぁ、朝から食べてなかったから、ついつい手が勝手に」
女剣士「…………」
錬金術士「……あれ?もしかして女剣士、怒ってる?」
女剣士「別に……怒ってないけど」モグモグ
女剣士「……ただ」
錬金術士「ただ?」
女剣士「……やっぱりいい、なんでもない」
女剣士「………」モグモグ
錬金術士「あっ、そう……ならいいけど」
錬金術士「相変わらず多くを語らないね、女剣士は…」
女剣士「…………」モグモグ
錬金術士(おぁー、疲れる……はやく宿屋に泊まって、お布団で眠りたい)
女剣士「ねぇ、お水ってまだある?」
錬金術士「うん、はい水筒」
女剣士「ありがと、ところで……さっきの人、何の用だったのかな」
錬金術士「…ああ、あれね……彼はただの壺売りだったよ」
女剣士「へぇ、壺売り……」
錬金術士「壺いりませんか~、壺をどうぞ~、壺を買えば幸せになれますよ~ってさ、それだけ」
女剣士「壺は要らないなぁ…」
女剣士「…んく」ゴクゴク
錬金術士「……それにしても、女剣士ってよく男の人に声かけられるよね、うらやま」
女剣士「……何でなんだろう、私なんかに声かけなくてもいいのに、面倒くさい」
錬金術士「やっぱり、いろいろと人目を引くんじゃないかな、女剣士は…」
女剣士「……そう?」
錬金術士「やっぱり、美人もいいことばっかりじゃないんだね」
錬金術士「私は"普通"でよかったよ、本当に」
女剣士「…………」
乙!
残念
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