【アイマス】果てしなく仁義ない戦い (21)

むかしむかし。

この町にはアイドルが溢れかえり。

キラキラしていて。

一度ここに足を踏み入れたのなら、人はただ楽しさだけを追求し悩みも不安も怒りもこの町にはまるで無縁だった。

だから、この町はこう言われた。

アイドルタウン。

芸能事務所が多くこの町に並び。

アイドルを目指す女の子はこの町を自分の故郷にした。




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それから時代は流れ。

大きなシャボン玉が日本の頭上でパチンと弾けた時。

この町の事務所は倒産して行き。
アイドルタウンは死んだ。

アイドルを目指す女の子達もこの町に来なくなった。

そして、この町に残ったのはキラキラの衣装を着た女の子達と寂れたビルの群れ。

それからまた時代は流れ。

この町はアイドルタウンは。

また息を吹き返した。

日本一の風俗街へと。

世の中の人はこの町を忌み嫌ってこう呼んだ。

i(私は)dool(人形)タウンと。

Chapter.1
天海春香

産まれ育った町はこの町。

母親か父親かそれか両方か、この町に置き去りにされた。

きっと、この町で子供を作り運悪く男に産まれ無かったから捨てたのだろう。

この町は女性には厳しすぎる。

普通に生きて行くことすら死に物狂いだ。

綺麗に生きて行こうと決めたのなら今すぐこの場で首を吊り、来世に期待しなければならない。

私は運が良いのか悪いのか、すぐに拾われた。
この町ではそのまま餓死してしまう子が多い。
みんな自分の事で精一杯だし、他の子を育てる余裕なんて勿論あるわけない。
実際、私もそうだ。

そして、この町には他人を信用するなと言うのは良く言われている事で。

騙す方よりも騙される方が悪い。
盗むよりも盗まれる方が悪い。
正直者は不正解で嘘つきが正解。

事実、私は拾ってくれた人に100万円で売り飛ばされた。
その時の年齢は確か8歳だ。

覚えている言葉は。
可愛いからあと2年で働ける。
それと、今日から仕込んで行く。

私の恩人は100万円を受け取ると、軽い別れを私に告げて満面の笑みで帰って行った。

この人は善意で私を助けたのではなく、お金が欲しいから私を育ってていただけなんだって子供ながらに思った。

ピンク色の証明に沢山の衣装。
きっとここはキラキラしていた頃のライブハウスの名残りなんだろう。

店にいるのは、タバコを加えてお金を数えてる肌荒れが酷い女の子一人と。

注射をしている女の子一人。

不意に耳元に囁かれた一言。

今日は新人さんが二人らしい。

指を差された方を見ると、怯えた表情の女の子が一人。
膝を抱えて、座っている。

あの子の隣に座るように促された私は言われるがままその子の隣に座った。

???「人形とかを意味するドールのスペルはdollだぞ」

雰囲気は好きなのでがんばれ

面白い
続けて

春香「・・・」

私と同世代の女の子がこの場にいてそれに同じ境遇だ。
その事に安堵しほんの少しだけ恐怖心が無くなった。

しかし、何を話して良いのか分からない。
いや、何かを話す必要はないのかもしれない。

ここは殺伐とした空気が流れている。
一言何かを言えば他の人達が私に絡んでくるんではないかと気がした。

でも、私は彼女に興味があった。
何と無く友達になれそうな感じがした。

この状況で友達を作るなどと場違いで平和ボケした考えを持つべきではないのかもしれないが、もう一人ぼっちの私には誰か心の拠り所が欲しいと願っていた。


立ってたった一週間で1000まで落ちるのか…
ここもまた生き馬の目を抜く街か
落ちなければがんばれ

話しかけるべきかかけないべきか、あれこれ悩んで結果的には話しかける事に決まったが、次は最初の一言は何にすべきか悩んだ。

こんにちは、良い天気ですね。
これを最初に思い付いたが、あまりにここの雰囲気とミスマッチ過ぎてすぐにやめた。

そもそも外は良い天気なのは良い天気なのだが、風俗街のこの街には特有の陰湿な空気が漂っており晴れていてもじめじめとした嫌な空気が流れている。

今外に出てみれば最初に目撃するのは酔っ払ったサラリーマンと干からびた吐瀉物だろう。

「あの・・・」

体がビクッと震える。

声のして方を見てみると今正に私が話かけようとした女の子がこちらを向いていた。

私は返事も出来ずに黙っていると、女の子はこう言った。

「こんにちは、いい天気ですね」

私は思わず吹き出してしまった。

ついさっきこれは最初に交わす言葉じゃないと不採用の印を押した言葉を彼女が言ったからだ。

それに、少し驚いた。

私よりも少しおどおどしている彼女の方から話しかけてくるとは思いもしなかったからだ。

春香「こ、こんにちは。確かにいい天気ですね」

「はい」

彼女は、はにかんだ笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て、あぁ何だかこの子とはいい友達になりそうだなって思った。

「あのお名前は?」

春香「名前・・・ないんです」

「そ、そうですか。私もです」

この街には名前を持たない子は少なくない。
私のように捨てられた子なら尚更だ。
拾ってくれたあの人からはおいやお前としか呼ばれていなかった。

私と同じように名前がない彼女もまた捨て子なのだろう。

お互い似たような境遇だからか、一気に二人の距離が近付いたような気がした。

「あの・・・」

彼女の生唾を飲み込む音が聞こえる。
きっと、この後に重大なことを言うのだろう。
大きく息を吐き出した後に私の耳元で逃げませんかと言った。

逃げる?
確かに彼女はそう言った。
これから待つ様々な暗い未来を否定し投げ出したいのだろう。

私もそれに同意したいのだが、もし失敗した場合を考えるとどうも気が乗らない。
怖い、そしてそんな勇気も持っているわけがない。

失敗すればただのお金を稼ぐ人の形をした機械の私達は故障と思われ修理と言う名の暴力を受けるだろう。

成功してもまだ子供の私達が生きていけるほど、この街は甘くない。

「嫌・・・?」

春香「えっ?」

「やっぱり怖いですよね」

春香「・・・」

「でも、私は嫌です。お金を稼ぐ機械になるだなんて、人として生きたい」

真っ直ぐな言葉と真っ直ぐな目。
とてもこの街には似合わない彼女に私は惹かれてしまった。

会ってまだ一時間も経っていないのに暖かな希望が湧いてくる。

彼女の手を取り私は頷く。

彼女の手は震えていて私の手も同じように震えていた。
お互いの震えを抑える為に強く握る。

この店の支配人が私達の元へやってくる。
両手をハエの様にさすりながらタバコのヤニで汚れた歯を見せながら。

転がっている酒瓶を手に取る。
彼女の手の震えは無くなっていた。

私は自分が震えているのか分からない。
きっと彼女と同じように震えは無くなっていればいいなと思う。

男は分からない達に手を伸ばしおいで、仕事を教えると言った。

彼女は男の股間を思いっきり蹴り上げ、男はうずくまる。

「うるさい、ばかぁ!」

同じく私も酒瓶を男の頭に振り下ろす。
ビンが割れ破片が彼女の手を掠める。

男は気絶したのかそのまま動かなくなり、私達は出口に向かって思いっきり走った。

人として生きたい。
彼女の言葉が力強く体に響く。

出口の扉を開けて空を見上げる。

太陽が輝いていて、雲ひとつ無い青空。

「さぁ行こう!」

春香「うん!」

今日はなんていい天気なのだろう。



乙です

Chapter2
如月千早

三浦あずさ。彼女がこの街のトップアイドルとなったのは数年前の事。

風俗街と言われたこの街は彼女のおかげでまたアイドルが育つ街へと変わった。

タチが悪いのはまだこの街は風俗とアイドルの二面性を持っている事。

売れないアイドルは風俗へ売り飛ばされるか、自ら稼ぎに行くか。

だがあずささんは風俗街と呼ばれるこの街を全否定するかのようにこの街を少しずつ変えて行く。

事務所を設立し彼女が稼いだお金は彼女の元へと集う夢を持った女の子達に使われていった。

そして、彼女と彼女を慕う女の子達はこう呼ばれるようになった。

三浦組と。

暴力団ともヤクザ組織とも言われるこの三浦組はこの街では恐れられており。

勿論、この街に住む住人からも快く思われていないのだが元々風俗街と呼ばれた時代でもそう呼ばれていたのを知っている。
なので風俗が縮小して行く今、新たな矛先が三浦組に向いただけの事。
住人達の怒りに対して何も思わない。

ストライキを起こせば話は別だか、彼らは特に何もして来ない。

風俗街、アイドル活動がこの街の大きな観光収入源なので両方潰れればこの街はもうおしまいだ。
それは彼らにとっても痛い。
だから表立って文句を言う人は少ない。

暴力団やヤクザ組織と言われてはいるが、住人達に何か危害を加えたわけではない。



あずささんはこの街から風俗を無くそうと躍起になって活動していた。

営業してる店に発破をかけいくつもの店を潰して来た。
それが三浦組、ヤクザ組織、暴力団と呼ばれる由縁だ。

二面性はどうしても消せないが、それでも風俗店は少なくなった。

もっとも風俗店で稼ぐ女性も多いので良心的な所はある程度は残してはいる。

そんな活動をし私達の希望の光。
あずささんは三ヶ月前、重大な発表をした。

アイドルを辞める。

この発表に三浦組や芸能メディア、全国の人々は驚いた。

真「千早、考え事かい?」

千早「・・・お疲れ様です。真さん」

真「いやぁ大変だよ。若い連中の騒ぎを抑えるのはさー。あれからもう三ヶ月だよ三ヶ月。そろそろ落ち着いてくれればいいんだけど」

千早「確かにそうですね。が、無理じゃないでしょうか」

真「・・・まぁ確かに叔父貴が最近、何やら悪い考えを持っているようなんだ」

千早「知っています。次期後継者としてはどうするつもりですか?」

真「止めたいね。叔父貴は僕を殺したいだろうし何より叔父貴が組長になってみてよ。組長がやった事が全て無になる」

千早「双子のあの子達も叔父貴さんに着いているみたいですね」

真「ははは。それが厄介なんだよ。彼女達。えーと亜美と真美だっけ?見境無いからね」

千早「確かに・・・で、どうするんですか?止めると言っても具体的な対抗策は何も無いのですか?叔父貴さんの派閥は徐々に膨らんで来ています。今の内に手を打っておくべきでは?」

真「対抗策は何も考えていないよ。僕は同じアイドル同士で殺し合いなんてしたくは無いし話し合いで解決したい」

千早「でも、次期組長にはなるんですよね?」

真「うん」

千早「綺麗事ですね」

真「だと僕も思うよ。でも叔父貴に組長になられたらこの街は終わるよ」

千早「そうですね・・・すみません。私、もう行きます」

真「ねぇ・・・もし僕が協力をしてくれと頼んだらしてくれるかい?」

千早「・・・争いは好きではありませんから遠慮しておきます」

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