薬屋「いらっしゃい。おや?」
童女「こっ……こんにちは。あの」
薬屋「おつかいかな?偉いね。」
童女「あっ、あのっ、おくすり。おくすりください!」
薬屋「薬、といってもいろいろあるんだ。」
薬屋「まず症状を教えてほしいな。」
童女「えとあの、えと」
童女「かかさまが」
童女「かかさまがね」
童女「おけがしたの」
童女「森でね」
童女「ばちんってなったの」
薬屋「(ばちん……?)怪我か。ひどいのか?」
童女「このくらいの輪っかにね、あたしがひっかかりそうになってね」
童女「かかさまが、あたしを突いて、かわりに……」
薬屋「ううん、そりゃあお気の毒さま。……お医者様にはかかってないのか?」
童女「かかさまは大丈夫、って言って……」
薬屋「それじゃあ、この薬と、それから包帯。痛み止めもあったほうがいいね。」
薬屋「これで痛みがひかないようなら、ちゃんと町のお医者様に診てもらうんだよ。」
童女「うん、そーする。はい、おかね。」
薬屋「うん、……?」
童女「どうしたの?」
薬屋「葉っぱだ。」
薬屋「とすると、この子は……」
薬屋「まあ、いいか。まいどあり。」
童女「うん!ありがとう!ばいばい!おにいさん!」
薬屋「気をつけて帰るんだよ。お大事に。」
薬屋「世の中には不思議なこともあるんだ。」
薬屋「ふー。今日もよく働いた。」
猟師「おう、店仕舞いか。」
薬屋「またきてたんですか猟師さん。鎮守様の森で猟なんて、バチが当たりますよ。」
猟師「そんなこといったってオメエ、俺はコレ以外に食い扶持を稼ぐ術がねえんだからしょうがなかろ。」
薬屋「今時猟師なんて流行りませんよ。そろそろ廃業するって先週言っていたばかりではないですか。」
猟師「いや、それがよ。大金持ちの顧客が出来てな。」
薬屋「へー。お客さんですか?」
猟師「そこの森にでっけー真っ白なキツネがいてな。それの毛皮が欲しいっつんだ。」
猟師「それを渡せばもう二度と生活に困らないくらいの報酬がもらえんだ。」
薬屋「いやでも、昔からここに住む大妖は、神の使いだというではありませんか。」
薬屋「そんなものに手を出したら、ただでは済まないでしょうに。」
猟師「イヤア、動物は動物さね。」
猟師「こないだトラバサミを仕掛けてよ、今日掛かった形跡はあったんだが」
猟師「毛と血だけ残して逃げられちまった。」
猟師「でも俺は諦めねえぜ。大金が鼻先にぶら下がってんだからよう。貧乏は真っ平だ。」
薬屋「…………。」
猟師「おっといけねえ。すっかり話し込んじまった。」
猟師「明日こそは捕まえてやるぞ。怪我をして遠くへは逃げられんはずだからな。」
猟師「じゃあな、薬屋の青瓢箪。」
薬屋「……はあ」
薬屋「まいったなあ……」
料理屋「全然食事が進んでないわね。今日の日替わり定食はあんまり好みじゃないの?」
薬屋「ああ、いや、旨いです。そうじゃなくて、ちょっと。」
薬屋「良心と良心の間で板挟みになってるというか。」
薬屋「片方を助けると、片方の生活が成り立たない。」
薬屋「でも、片方の仕事を見逃せば、片方が命を落とす。」
薬屋「そんな場面にこれから遭遇しそうで困ってるんです。」
料理屋「へえ。難題だね。どっちについたほうが君の得になるの?」
薬屋「僕の得云々は関係ないですよ。」
料理屋「興味深いね。聞かせてよ。」
薬屋「面白がらないでくださいよ。」
薬屋「片方は顔見知り程度。」
薬屋「片方は今日初めて来店したお客さんの、おそらくおかあさん。僕は会ったことがありません。」
料理屋「どっちもさして君とは繋がりがないってこと?」
料理屋「それなら、お客さまをとったほうが君の得になるのでは?」
薬屋「うーん。でも、なんていうか……」
薬屋「そのお客さんは、こう、常の人ではないというか、支払い能力がないというか。」
薬屋「かと言って、命を落とすのがわかっていながら放っておけるほど」
料理屋「不人情なことはできない?」
料理屋「相も変わらずお人好しだねえ」
薬屋「女将さんなら、どうします。」
料理屋「さてね。私がそういう状況におかれたわけではないし。」
薬屋「他人事だと思って。」
料理屋「知らぬ存ぜぬを決め込んで、成り行きに任せてみては?」
薬屋「むう。」
料理屋「ここで君が頭を悩ませていても何かが変わるわけではないのでしょう。」
薬屋「……そうなんですが。ごちそうさまでした。」
料理屋「一晩ゆっくり眠れば、案外良い考えが浮かぶかもしれないよ。」
薬屋「はあ……」
薬屋「猟師さんの家は小さい弟さんがいるんだよなあ。」
薬屋「猟で生活してるなら、その邪魔をしちゃあいけないよなあ。」
薬屋「あの子には可哀想だけど、女将さんの言うとおり、放っておこうかな。」
薬屋「積極的に僕が猟に関わってるわけじゃないし……なあ。」
薬屋「助けて欲しいと頼まれたわけでもない、し……」
薬屋「眠……い……」
薬屋「朝だよ……どうしよう……なにも思いつかない」
猟師「よう!薬屋の青瓢箪。」
薬屋「わっ!」
薬屋「お、おはようございます。猟師さん。」
猟師「なに驚いてやがんでえこのモヤシ。」
薬屋「猟師さんは、なんだかご機嫌ですね。」
猟師「おう!昨日、罠の話、しただろ。」
猟師「雇い主におんなじ話をして毛ェ渡したら、なんだか金くれてよ。」
猟師「久しぶりに弟に腹一杯飯を食わせてやれたんだよ。」
猟師「毎日ひもじい、ひもじい、って泣いてた弟のよ、あんな笑顔見たことねえや。」
猟師「おっかあもおっとうもいねえ分、俺がしっかりしなきゃなんねえからな。」
薬屋「へ、へえ……」
猟師「そろそろ行ってくらあ。」
薬屋「いって、らっしゃい……」
薬屋「うん、やっぱり、あの子には可哀想だけど」
童女「おにいさん!」
薬屋「ここは、見なかったことに……って、うわあ。」
童女「どうしたの?げんきがないの?」
薬屋「いや、うん。元気だよ。君こそどうしたの?」
童女「あのね、かかさまがね」
童女「おくすりのお礼にもっていきなさいって。」
薬屋「わー……木の実に茸に山菜に鮎……生きてる……」
童女「葉っぱのお金じゃだめだって、しらなかったの。ごめんなさい。」
薬屋「ああ、いや、ありがとう……」
薬屋「お母さんの具合はどう?」
童女「おくすり飲んで、痛いのは少なくなったって。」
童女「お家にお招きしてよくお礼を言いたいから」
童女「おにいさんのお休みを聞いてきなさいって。」
薬屋「え、ええー……」
童女「いつ?」
薬屋「明日は定休日だけど、お礼なんていらないから」
薬屋「僕はできればいかない方向で検討願いたいなー、なんて」
童女「明日おやすみなの!?じゃあ明日いこう!」
薬屋「それはちょっ……」
童女「何かご用があるの?」
薬屋「暇だけど……」
童女「じゃ、いこう!」
薬屋「いやでも」
童女「いこ?」
薬屋「う、うん……」
童女「明日迎えにくるから準備して待っててね!」
薬屋「あーはいはい。……あ、ちょっとまって。」
童女「んー?」
薬屋「これ。料理屋の女将さんに持たせてもらった稲荷寿司。」
童女「おいなりさん!」
薬屋「良かったら、持って行って。」
童女「いいの!?ありがとうおにいさん!」
薬屋「あ、うん……」
童女「またあしたね!おにいさん!」
料理屋「へえ、どれも新鮮で良い食材だわ。」
薬屋「うん……。」
料理屋「今、この鮎焼くわね。」
薬屋「女将さんの言うとおり一晩寝たら、悩みが増えたんですが。」
料理屋「他人の人生っていろいろあるのねえ。」
薬屋「ちょっ……また」
料理屋「だから私にとっては他人事なんだって。はい、焼けた。美味しそうだわ。」
薬屋「……。」
薬屋「……いただきます。」
料理屋「面白いから、何か進展があったら教えてよ。」
薬屋「もう!」
薬屋「で、次の日ってわけだ」
薬屋「押しに弱いよなあ僕は……」
薬屋「案の定鎮守様の森だし……」
薬屋「牛車の外は変な霧とかで包まれてるし……」
童女「もうすぐつくよ!」
薬屋「うん……」
童女「ついたよ!」
薬屋「わー……立派な御殿だなあ……」
童女「はやくはやく!かかさまが待ってる!」
薬屋「どうしよう……」
童女「はやくー!」
薬屋「わ、わかったよ……」
女主人「急にお呼びだてしてすまぬ。驚いたことであろう。」
薬屋「終わった……猟師さんの言ってた狐とは実は何の関係もありませんでしたー」
薬屋「っていう細やかな期待すら裏切られた。」
薬屋「尻尾隠して下さいよ!」
女主人「薄々気づいているようだからの。隠す必要もなかろう。」
女主人「そなたの薬のおかげで、怪我もこれ以上の悪化が抑えられたぞ。その礼がしたくてな。」
薬屋「それって、あの、人間の罠で怪我、しちゃったんですよね。」
女主人「いかにも。」
薬屋「ということは、あれですよね。人間を恨んだり、呪ったり、祟ったり、みたいな。」
女主人「……?、なぜじゃ。」
薬屋「なぜ、って」
女主人「鎮守さまの狛狐ともあろうものが」
薬屋「よりにもよって本当に神の遣いですか人類詰んだなこれ。」
女主人「良いから聞け」
薬屋「あ、はい。」
女主人「よいか。鎮守さまの狛狐ともあろうものが、あんな単純な罠にかかったのは妾の不注意よ。」
女主人「妾は、齢千年を超える大妖である。」
女主人「ヒトにもいろいろ在ることも知っておるし」
女主人「この程度のことでいちいち人間を恨んでおったら身が持たぬわ。」
女主人「鎮守さまの森を荒らす不届きものもおれば」
女主人「そなたのように妖とわかっていながら、丸腰でのこのこついてくるお人好しもおる。」
薬屋「あ。」
女主人「そのように怯えずとも良い。取って喰ろうたりはせぬわ。」
女主人「ま、望みなら喰ろうてやってもよいがの。性的な意味で。」
薬屋「!!!??!?」
女主人「冗談じゃ。そのように赤くなりおって。可愛いの。」
薬屋「かっ、からかわないでください!」
女主人「……改めて礼を言う。ありがとう。」
女主人「これは、心ばかりの品じゃ。」
女主人「妾が鎮守さまに拾われる前に誑かした、人間の殿方から巻き上げた財宝じゃ。」
薬屋「もらえませんよそんなもの!」
女主人「安心せよ。もう何百年も昔のことで、今更足が付くこともない。」
女主人「庭を掘ったら出てきたとでも言えば良かろ。」
薬屋「そういうことではなく!」
薬屋「それに、お礼なら昨日娘さんからもらいましたよ。」
薬屋「木の実とか川魚とか。」
女主人「ああ、あれはあの子の気持ちよ。妾の気持ちはまだ示しておらぬ。」
女主人「それに、いなり寿司、なかなか美味であったしのう。」
薬屋「あんたを見捨てようとしたのに」
薬屋「こんな風にされると、困る。」
女主人「ヒトの事情など知らぬし。」
女主人「こうでもせぬと、妾がすっきりせぬからこうしているだけよ。」
薬屋「」
女主人「これを受け取ってしまえば、妾たち側の味方をせねばならぬなどと」
女主人「くだらぬことを考えているのではあるまいな?」
薬屋「そっ……それは、だって」
女主人「それこそ思い上がりぞ。」
女主人「そなたはそなたの営みを普段通りに行えば良い。」
女主人「千にひとつ、万にひとつ、妾が猟師に獲られて毛皮になったとしても」
女主人「そなたが気に病むことはない。そういう運命だったというだけよ。」
薬屋「僕がここの場所を猟師さんに喋っちゃうかもしれないとか、」
薬屋「後をつけられてましたとか、」
薬屋「僕がここに来た痕跡を発見されましたとか」
薬屋「そういう、僕が関わったことが要因となって、あなたが捕らえられることだって充分考えられるではありませんか。」
薬屋「僕はそれが嫌なんです」
女主人「人間は心配症な上にいろいろ考えるのう。」
女主人「だから寿命が短いのだぞ。」
女主人「命あるものは死ぬ時は死ぬし、妾はただそれを受け入れるだけよ。」
薬屋「そんな」
女主人「妾の後はあの子が継ぐであろうし……そうじゃ」
女主人「そんなに、良心の呵責と戦いたいなら、そなた、妾が万が一毛皮にされたあと、あの子を成獣になるまで育てれば良い。」
薬屋「飛躍しすぎやしませんか。」
女主人「この話は終いじゃ。本当は、食事にも呼んでやろうと思うたが興が削がれた。帰れ帰れ。」
薬屋「帰れ、って……。」
女主人「かーえーれ、と。」
薬屋「うわあ!?風が……吹き飛ばされる……!」
猟師「なんで捕まえられねんだ性悪狐め」
夫人「毛皮ひとつ捕まえるのに一体何日かかってますの?」
猟師「へえ、すんません。いつもあとちょっとのところなんですが。」
夫人「こんな何にもないところ、毛皮の為でなければ来ませんわ。早く捕まえて頂戴。」
猟師「は、そう言われやしても。」
夫人「あたくしを誰だと思ってますの。あたくしは、さる大臣の妻ですのよ。」
夫人「あなたがた小汚いドブネズミは口ごたえなどせずに言うことを聞いていれば良いんですの。」
猟師「あんた……」
夫人「このぐず。のろま。」
猟師「弟のためだ、我慢我慢我慢……」
夫人「明日中に、毛皮を持ってきて頂戴。」
夫人「でなければ、今までお渡ししたお金も全部返してもらいますからね!」
猟師「!」
猟師「クソッ……!」
薬屋「……!」
薬屋「ここは……店の前、か。」
薬屋「夢だったんだろうか。」
薬屋「……夢ではないな。この箱……。」
薬屋「金銀、瑠璃に玻璃、真珠に玉がこんなに……」
薬屋「はー……」
猟師「やーっととっ捕まえたぞキツネ。」
仔狐「きゅー!きゅー!」
猟師「なんか小せえ?」
猟師「生け捕りだし、違ったら違ったで放せばいいか。」
仔狐「きゅーっ!」
猟師「いってえ!噛み付きやがったな!」
猟師「このやろ!お前はここに入ってろ!」
料理屋「へえ。すごいね。」
薬屋「鑑定してもらったら、どれも本物で、しかも古いものなので相当な金額になるらしいです。」
料理屋「億万長者というわけね。しかしなんだってそんなに、むすっとしてるの?」
薬屋「べつに……」
料理屋「でも、これでこの前の君の悩みは大方解決したね。」
薬屋「は……?」
料理屋「だから。片方に仕事をさせると片方が死ぬ話。」
薬屋「全然解決してませんよ何言ってるんですか。」
料理屋「ん?片方は、経済的に困ってるんでしょう?」
薬屋「そうなんです……って!あ!」
薬屋「ごちそうさま!」
料理屋「……慌ただしいこと」
夫人「真っ白で上等の毛皮。」
夫人「ああ、楽しみ。」
夫人「今度の茶会で自慢しましょう。」
夫人「きっと目立つに違いないわ。」
夫人「……あら?鏡に、汚れ?」
夫人「いいえ、これは汚れではないわね。」
夫人「後ろ!?」
薬屋「そうだそうだ解決するかもしれない方法が……って、わあ!?こんなところでなにやってんですか!」
女主人「薬屋!あの子を、あの子を見ておらぬか!?」
薬屋「は?あの子?娘さん?」
女主人「この3日、あの子が帰って来ぬのだ。」
薬屋「とりあえず座って。詳しく聞かせてください。」
女主人「少し目を離した隙に……」
薬屋「心当たりは?」
女主人「そなたのところに行ったのであろうと思うたのだ。」
女主人「それから、妾の毛皮を欲しがっていた輩のところにも行ってみた。」
女主人「妾はどうなろうと構わぬが、あの子に何かあったら……!」
薬屋「さあ、これを飲んで。落ち着きますよ。」
猟師「あれは……!」
猟師「おい!その車!」
夫人「!はやく、こんなところは早く離れますわよ!」
猟師「どういうことだ!あんた俺がキツネ捕まえるまでここに滞在するって」
夫人「こんなバケモノの出るようなところ、いつまでもいられますか!」
猟師「ばけもの……?待て!約束の金はどうなるんだ!おい!」
夫人「知ったことではありませんわ!」
猟師「見ろ!俺はキツネ捕まえてきてやったんだぞ!」
夫人「……!」
夫人「ああ、美しい白ギツネ。少し小さいけれど、でもその分柔らかい毛並み。」
仔狐「きゅーん」
夫人「いいわ。買い取りましょう。」
夫人「その代わり、今すぐ毛皮を剥いで頂戴。」
仔狐「!」
猟師「悪く思うなよ……」
いいね
薬屋「ちょっとまって!まってください!」
猟師「……!」
猟師「モヤシ?」
夫人「なんですの。早くおやり。」
女主人「その子を離せ!お前たちの探している大狐はここに在る!」
薬屋「ちょっとあんたなに言ってんですか!」
薬屋「隠れてろと言ったではないですか!さっき!」
女主人「ヒトの言うことなど聞く耳持たぬ!さあ、人間共よ!」
大狐「早くお離し!さもなくば……」
夫人「なにをしているのです!毛皮ですわ毛皮!毛皮があちらからきたのですよ!」
猟師「お、おう……」
薬屋「ちょっと!猟師さん、なんでこの状況で銃構えるんですかやめてくださいよ!」
猟師「しかたねえんだ!こっちは生活がかかってんだから!」
大狐「グルルル……」
薬屋「ああもう!ご婦人!」
夫人「な、なによ」
薬屋「猟師さんにはいくら払う契約ですか!」
夫人「このくらい、だけどそんなこと聞いてどうするんですの」
薬屋「僕はその三倍出します!」
猟師「お前……そんなことしたらお宝がパアだろうが馬鹿かテメエ。」
薬屋「あれはもともとこの狐さんのものです!」
薬屋「そもそも僕のものではありません!」
大狐「阿呆め!そなたにやったものゆえもう妾のものではないわ!」
薬屋「その言葉お返ししますよ狐さん!」
薬屋「それならもう僕のものだから、僕がどう使おうと僕の勝手です!」
大狐「妾がやったものをそのように使われると困る!」
薬屋「キツネの事情なんか知らないんですよ!」
薬屋「こうでもしないと、僕がすっきりしないんですよ!」
大狐「!」
猟師「…………」
夫人「まあ!どうして銃を下ろすんですの!獲物はすぐ目の前に!それでも猟師ですの!?」
猟師「ああ、俺は猟師失格だ。明日から廃業だな。」
夫人「!?」
猟師「おい薬屋の青瓢箪!」
薬屋「はい!」
猟師「キツネ一匹捕まえられない猟師がたった今失業したから明日から雇え!」
薬屋「猟師さん……!」
猟師「売り物がないから、貰う金もない!だから、報酬の三倍だしてもらう理由もないしな!」
夫人「あなた!なぜ逃がしたりするんですの!?」
仔狐「かかさまー!」
大狐「娘!」
猟師「ほら、あんたから受け取った金だ。返すよ!」
夫人「なんですの!なんなんですの!庶民風情がこのように!あたくしに恥をかかせて……!?」
大狐「ほう……ならば、永遠に恥をかけぬようにしてくれようぞ……」
夫人「昨日の晩の……!化け物!はやく!はやく車をだしなさい!」
薬屋「狐さんこわい……」
・
・
・
料理屋「それで、最近店も大きくして繁盛しているってわけなのね。」
料理屋「同じ客商売としてはあやかりたいものだわ。」
薬屋「いやあ、遠方からもお客さんがきてくれて大変有難いですよ。」
料理屋「元猟師の彼も、番頭が板に付いてきたようだし。」
薬屋「ええ、僕の仕事がなくなっちゃうのでほどほどに、とは言ってるんですが。」
番頭「ちび共!またいたずらしやがって!」
童女「きゃー!」
弟「にーさんが怒ったー!」
番頭「罰として店の床掃除だお前ら!」
童女「きゃー!お掃除だいすきー!」
弟「大好きー!」
番頭「まったく……」
料理屋「そういえば話はかわるけど、都のなんとかいう大臣の奥方様の話聞いた?」
薬屋「いえ……」
料理屋「毛皮好きで有名だったのだけど、ある日を境にぱったりと毛皮を集めなくなったんですって。」
料理屋「毛皮に触れただけで、全身が真っ赤に腫れ上がる病にかかったそうよ。」
薬屋「……うわあ」
料理屋「なんでも、いままで毛皮にされてきた動物の祟りだとか。」
女主人「祟りなどこの世に存在しないよ女将。」
料理屋「あらいらっしゃい。」
女主人「大方、なにか毛皮に関する恐怖が引き金になって体がそんな反応をしているだけであろう。」
薬屋「……ほんっとーに、なにもしていないんでしょうね?」
女主人「せぬせぬ。枕元に立ってやっただけよ。」
薬屋「うわあ。」
女主人「女将、いなり寿司を包んでくれ。」
料理屋「はいはい。またお稲荷様へお参り?」
料理屋「昔は小さな祠だと思っていたけれど、今はすっかり立派な神社よねえ。」
女主人「それはそうであろう。なぜならあそこは」
薬屋「商売繁盛の神様がおわしますから、ね。」
<おしまい>
以上、おそまつさまでした。
ご支援ありがとうございました。
途中id変わっちまいました。
元ネタは、赤毛のイケメン、ムックさんの歌ですぞ。
蛇足ですが以前書いたもの。
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