女「知ってたわ」(65)
放課後部室
男「なぁ」
女「…………」ペラペラ
男「知ってるか?」
女「…………」
男「ほら、あれ」
男「サイゼリアってあるだろ?」
女「…………あの全国的な飲食店のことかしら?」
男「そうそう、でさ女」
女「何?」
男「サイゼリアって何でサイゼリアって言うか知ってるか?」
女「知らないけど」
男「学年一、頭のいい女なら知ってると思うけど」
男「英単語に『リア』ってあるだろ?」
女「うしろ、後部という意味の『rear』の事かしら?」
男「そうそう、それそれ」
男「でな、ギリシャ神話に『サイゼ』って神様がいてな」
男「そいつは食べ物の神様でいつも椅子に座っているそうだ」
男「その椅子のうしろにはたくさんの食べ物が置いてあるんだと」
男「サイゼって神様の後ろ、リアに負けないくらいの豊富な料理をって意味で」
男「サイゼリアなんだって」
女「へぇ、知らなかったわ」
女「下らない、そんなくだらないことを良く知ってるわね」
女「ある意味そんけ────」
男「…………まぁ、嘘だけど」
女「…………」
女「」イラッ
男「まあ、本当はな」
ピロリンピロリン
男「おっと、友から電話だ」
男「俺、帰るわ」
男「またな、女」
女「…………」
ガラガラガラ
バタン!
ダダダダダダダダ
女「…………」ペラペラ
女「…………」
女「…………」ペラペラ
女「…………」
女「…………」パタン
女「…………本当はどうしてサイゼリアって言うのかしら」ボソッ
サイゼリヤ...
次の日放課後部室
女「…………」ペラペラ
男「女」
女「…………」
男「お前さ、何型?」
女「…………血液型のことかしら?」
男「そうそう」
男「で、何型?」
女「b型」
男「そうか」
女「…………」
男「…………」
女「…………」ペラペラ
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「…………」
男「…………ちなみに」
女「…………」ペラペラ
男「ゴリラも皆、b型らしいぞ」
女「…………」
女「…………」イラッ
男「…………まあ、俺もb型なんだけどな」
ユーガッタメール!ユーガッタメール!
男「母さんからだ」
男「俺、帰るわ」
男「じゃあ、戸締りよろしく」
ガラガラガラ
バタン!
ダダダダダダダダ
女「…………」
女「…………」ペラペラ
女「…………」
女「…………」ペラペラ
女「…………」パタン
女「…………結局、何が言いたかったのかしら」
また次の日放課後部室
男「今日は本読んでないんだな」
女「…………」カキカキ
男「プリント、数学か?」
女「…………宿題」
男「宿題なんだから家でやれよ」
女「何処でやろうと私の勝手でしょ」
男「これは、サイン、コサイン、タンジェントじゃないか」
女「…………だから?」
男「いや、初めてサイン、コサインって聞いたとき何の呪文かと思ったなって」
女「楽しい頭をしているわね」
男「漸近線とか字面超かっこいいじゃん」
女「私には分からないけど」
男「そうそう、女知ってるか?」
女「…………何?」
男「初め、サインとコサインは逆だったんだって」
女「…………は?」
男「だから、初めは斜辺分の縦がコサインで」
男「斜辺分の横がサインだったんだよ」
男「学会で発表するときに助手が移し間違えたから今の感じになったんだって」
女「…………へぇ、知らなかったわ」カキカキ
男「だからさ、ほれあれあるだろ」
女「あれ、じゃ伝わらないわ」
男「あれだよ、あれ」
男「サインのコサインの覚え方」
男「サインは頭文字がsだから斜辺分の縦」
男「コサインはcだから斜辺分の横、みたいな覚え方」
男「あれ、本当だったら使えなかったんだぜ?」
女「…………それは知らなかったわ」
女「確かに、助手のミスからあの覚え方が生まれたとすると」
女「ミスした助手に少しばかりかんしゃ────」
男「…………まあ、嘘だけど」
女「…………」
女「…………」チャキッ
男「どうした?」
男「おもむろにカッターなんて取り出してって」
ブブウ! ブブウ!
男「ん? 妹からメールだ」
男「俺、帰るわ」
男「女、また来週!」
ガラガラガラ
バタン!
ダダダダダダダダ
女「…………」
女「…………」カキカキ
女「…………」
女「…………」カキカキ
女「…………」
女「…………妹、いたのね」
ヤンデレかクーデレかそれが問題だ
このテンポ好きだぜ
次の日朝教室
友「おっす、男」
男「おはよ」
友「なぁ、久しぶりにさ、放課後カラオケにでも」
男「パス」
友「ちぇ、なんだよ」
友「幼馴染より女を優先するのかよ」
男「別に女を優先してるわけじゃない」
男「それに、お前を俺は幼馴染だとは思ってない」
友「酷くね!」
男「幼馴染って奴はな、毎日起こしに来てくれたり」
男「お弁当を作ってくれたり」
男「お互いがお互いを意識してるって分かってるのに素直になれない感じの」
男「あの雰囲気をかもし出せる存在」
男「それが幼馴染だ」
男「だから、お前は幼馴染じゃない」ドヤッ
友「…………キモ」
男「うるせっ」
男「とにかくお前は幼馴染じゃない」
友「じゃあ、俺はなんなんだよ」
男「ただの親友」
友「…………親友って響きはいいな」
友「でもよ、結局あれだろ」
友「なんだかんだ言っても女さんがいるからだろ?」
友「あの部室に行くのは?」
男「ちげーよ」
男「ほら、あれだあれ」
友「あれって何だよあれって」
男「興味があったんだよ」
友「園芸に?」
男「園芸に」
友「冗談」
男「本当」
友「じゃあ、普段部活で何を育ててるんだ?」
男「女の好感度」
友「やっぱり、女目当てじゃねぇか!!!」
男「冗談」
男「ぶっちゃけやる事無くていつも本読んでるよ」
男「たまに一言二言喋るぐらいだな」
男「それで好感度が上がるなら誰も苦労しないだろ?」
友「でもよ、中学のときから俺と一緒にずっと帰宅部だったのに」
友「そんな男が入部するだなんて」
男「やんごとなき事情があったんだよ」
友「それが俺は聞きたいんだ!!」
ガラガラ
男「あ、先生来た」
男「友、早く席付け」
友「話を逸らすな!」
放課後部室
トントン
男「入るぜ」
女「どうぞ」
ガラガラ
男「今日は俺、お菓子持ってきたんだ」
男「一緒に食おうぜ」
女「…………何があるのかしら?」
男「ポッキー」
女「…………他には」
男「チョイス?」
女「…………お茶を淹れるから少し待ってなさい」ガタッ
男「りょーかい」ニヤニヤ
五分後
男「知ってるか?」
女「…………」モグモグ
男「緑茶にはさ」
女「…………緑茶には?」
男「アルツハイマーの予防になる物質が含まれてるらしい」
女「…………また、嘘でしょ」
男「嘘じゃねぇよ」
男「なんか、抗癌性物質?も含まれてるとか」
男「テレビでやってた」
女「テレビの情報を鵜呑みにするのは頂けないわね」
男「まぁな」
女「…………」モグモグ
男「なぁチョイスが無いんだが」
女「…………」モグモグ
男「結構あれ好きなんだけど」
女「…………」モグモグ
男「まぁいいけど」
キーンコーンカーンコーン
男「もう五時か」
男「俺帰るわ」
男「また明日な」
女「…………イス」
男「え?」
女「…………チョイス」
男「あぁ、また買ってくるよ」
女「…………」
男「じゃあな」
ガラガラガラ
バタン!
ダダダダダダダダ
女「…………」
女「…………」モグモグ
女「…………」
女「…………」モグモグ
女「…………」
女「…………お菓子の、センスはいいわね」
夕食後男の家
妹「お兄ちゃん!」
男「ん~、何だ~」
妹「私が買ったクッキーが無くなってるんだけど?」
妹「知らない?」
男「…………悪い、食べちった」テヘッ
妹「えぇ~、あれ私の限りなくゼロに近いお小遣いで買ったのに~」プンプン
男「この番組終わったら買ってきてやるよ」
妹「アイスもね!」
男「へいへい」
妹「ヤッター! お兄ちゃん大好き!!」ダキッ
男「暑苦しい、離れろ」グイグイ
妹「でもでも、何でかな~」ダキダキ
男「何がだよ」
妹「いつもだったら『お前のものは俺のもの。おまえ自身も俺のもの』って言ってたのに~」
男「…………そんな台詞は一度も口にしたことがないんだが」
妹「まぁそうなんだけど」
妹「でもさ、いつもはわざわざその日に買いに行こうとはしないじゃん」
妹「どんな心境の変化よ」
男「べつに、ちょっとしたお礼かな」
妹「ふ~ん」ジー
男「…………なんだよ」
妹「べっつに~」
妹「私、お風呂に入るから」
妹「出で来るまでに、買ってきてよね」ウインク!
結局なんでサイゼリヤって言うの?
イタリア語で『クチナシの花』
サイゼリヤの創業日7月7日の誕生花にちなむ。
なるほど
次の日放課後
女「…………」ペラッ
男「…………」ペラッ
女「…………」ペラッ
男「…………」ペラッ
女「…………貴方は」
男「…………ん?」
女「…………貴方は私のことが好きなのかしら」
男「…………」ペラッ
女「…………」ペラッ
男「…………」
男「…………はい?」
女「…………私はもてるわ」ペラッ
男「まぁ、美人だよな」
女「…………ここは園芸部」ペラッ
男「そうだな園芸部だな」
女「…………この学校は進学校、別に部活動に力を入れてるわけでも、入らなきゃいけないわけでもない」ペラッ
男「そうだな、学年の四分の一くらいは帰宅部だな」
女「…………貴方は去年の冬にいきなり入部したわ」ペラッ
男「あぁ、去年のあの頃はめちゃくちゃ寒かったな」
女「…………私はもてるわ」ペラッ
男「無表情だと可愛げないな、顔を紅くして言ってくれると」
女「…………なんで、貴方は入らなくてもいい部活、しかも何の生産性も無いものにわざわざ毎日来るのかしら」
男「…………来ちゃいけないのかよ」
女「…………考えて、何か利益があるのではないかと思ったわ」
男「利益ねぇ」
女「…………結果、貴方は私が好きなのではと」
男「…………自意識過剰にも程があるぞ」
男「その思考回路はおめでたすぎるだろ」
女「…………私はもてるわ」
男「もう知ってるって、何回も聞いたって!」
女「小学生のとき、体操着も上履きもリコーダーも鍵盤ハーモニカもお道具箱も」
女「全部、毎日持ち帰ったわ」
男「…………それは災難だったな」
女「…………それでもリコーダーは五度購入する事になったわ」
男「…………それは盗難だな」
女「女子は上履きを隠し、男子は上履きを舐めていたわ」
男「お前の学校の男子は度を越した変態だな!!」
男「てか、どっちも目撃したのかよ」
女「…………しばらく、人間不信になったわ」
女「中学校では告白されたわ」
男「小学校ではされなかったのか?」
女「あの頃は好きな子は苛める者だったのよ」
男「あぁ~、素直になれない男の悪癖だな」
女「昼休みも中休みも放課後も告白されたわ」
男「まぁ、俺からしたらうらやましい限りだけど」
女「男子に好かれるのに対して女子には嫌われたわ」
女「私は比例というものをこのときに学んだわ」
男「まぁ、妬まれるだろうな。その規模で告られてたら」
女「以上が私の経験」
女「そして、それを踏まえた推論が『貴方は私を好きなのでは?』っと」
男「…………まぁ、嫌いではないよ」
男「でも、俺がここにいるわけは最初に言ったはずなんだけど」
男「忘れちゃった?」
女「…………それこそ、好きなんじゃないかと思うわよ。あんな理由じゃ」
男「別にそんな変な理由じゃないぜ」
男「それこそ、世界中の何処にでもあるごくごくありふれた理由だ」
女「…………分かったわ」
女「…………私の勘違いね」
女「ごめんなさい」
男「謝るこてはねぇよ」
男「さっきも言ったろ?」
男「お前の事は嫌いじゃない、むしろ好きなくらいだ」
男「もしかしたら、これから先に女の子としても好きになるかも知れないな」
女「…………そう」
ブウ! ブウ! ブウ! ブウ!
男「おっと、妹からだ」
男「『牛乳かって来い』っか」
女「…………」
男「俺は帰るな」
女「…………そう」
男「おう、じゃあ」
女「…………さ、さよなら」
男「!」
女「…………にゃによ」
男「え、いや」
男「じゃ、じゃあな!」
ガラガラガラ
バタン!
ダダダダダダダダ
女「…………」ペラッ
女「…………」
女「…………」ペラッ
女「…………」
女「…………」パタン
女「…………振られた」ボソッ
④
④
しえん
④
1乙
中休み渡り廊下
友「物理室遠いだろ」ハァ
男「隣の校舎の最上階だからな」
男「でも、俺は慣れた」キリッ
友「そりゃその隣が園芸部の部室だからだろ?」
友「普段それだけ移動してたら慣れるって」
男「アッハハハ、それにしても中庭はいつ見てもしっそだな」
友「花壇にはぺんぺん草しか生えてねぇじゃん」
友「頑張れよ~園芸部!」
男「まぁ、そのうち…………」
友「どうした、男」
友「ってあれ? 女さんじゃん」
男「それに、あれは確か」
友「サッカー部の奴だな」
友「ふーむ」トコトコ
男「(お、おい友! 何処に)」コソコソ
友「(ちょっと待ってろ)」
男「(おい、って)行っちまった」
男「…………先行くか」トコトコ
三分後物理室
友「待って、ろって、行った、じゃね、か!!!」ゼエゼエ
男「いや、遅刻するし」
友「この、薄情者が!!!」
男「で、どうだった」
友「あ? あぁ普通に振られてた」
男「やっぱりな」
友「安心したか」
男「安心したよ」
友「あら素直」
男「あいつは美人だ、性格もいいし、惚れないほうがおかしい」
友「へぇ、冷たい奴なのかと思ってた」
男「無口だからそう思われるんだろう」
男「実際は、楽しい奴だ」
友「なのになぜ、素直になれない?」
男「別に、素直になれないわけじゃない」
男(ただ、忘れられないだけなんだよ)
男(初めて会った日のことを)
放課後部室
女「…………私、ずっと気になってた事があるの」
男「へぇ、なにが?」
女「…………本当は何でなのかしら」
男「だから、なにが?」
女「名前」
男「名前?」
女「サイゼリヤ」
男「サイゼリヤって、あぁ」
男「あれな」
男「あれはサイゼリヤの創業日が七月七日なんだけど」
男「世の中にはな、誕生花ってあるんだよ」
女「誕生花?」
男「誕生石の花バージョンかな、まぁ誕生石と違って三六五日全部にあるんだけど」
男「で、七月七日の誕生花がクチナシの花なんだけど」
男「イタリア語でクチナシの花はサイゼリヤって言うんだって」
女「…………そうなの」
男「ちなみに、花言葉は『私は幸せ』だそうだ」
女「…………そう」
男「誕生花って言ったらさ」
男「俺の誕生日ちょうど長期休暇と被るからあんまり人に祝ってもらえないんだよな」
女「…………私もよ」
男「しかも、一年の休みの中で一番忙しい日だからな」
男「祝ってもらえる暇も無い」
女「…………そんなに忙しいの?」
男「忙しいよ、なんたって宿題はほとんどまとめてその日にやるからな」
男「八月三一日」
女「!」
男「どうした?」
女「…………私も」
男「私も?」
女「…………私も誕生日、八月の最終日」
男「…………へぇ」
男「凄い偶然だな」
男「三六五分の一の確率だろ」
女「…………そうね」
女「私も少し驚いてる」
男「そうだな、じゃあその日の誕生花はなんだか知ってるか?」
女「…………知らない」
男「シロツメクサ」
女「シロツメクサ?」
男「いわゆる、クローバーって呼ばれる花だな」
女「…………クローバー」
男「あぁ、シロツメクサの花言葉は『約束』『私を思って』」
男「四つ葉なら、『幸福』『私のものになって』だな」
女「…………そう」
男「あぁ、それと」
女「…………それと?」キョトン
男「えっ、いや」
女「…………」ジー
男「な、えっと~」
男「な、なんでもない!」
男「そ、そういえば俺、今日夕食当番だった!」
男「は、早く帰らないと」
男「じゃ、じゃあ、またな」
女「…………またね」
ガラガラガラ
バタン!
ダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
男「ハァハァ」ゼェゼェ
男「ハァハァ」ゼェゼェ
男「ハァハァ」ゼェゼェ
男「別に逃げる事ないだろ!」ゼェゼェ
男「あいつが、あの日言ってたのは冗談だって」ゼェゼェ
男「女はいい奴だって」
男「そうだって、分かっただろ!」ゼェゼェ
男「なのに、なんで!!!」
クローバーの花言葉
シロツメクサなら『約束』『私を思って』
アカツメクサなら『実直』『勤勉』
四つ葉なら『幸福』『私のものになって』
そして、クローバー単体の花言葉、そして女があの日口にした言葉
『復讐』
男「なんで、何でだよ!!!」
男「…………忘れたと思ったのに。俺は」
結局、俺は忘れる事ができないのだ
どんなに女が可愛い奴とわかっても
どんなに女が無害な奴だと感じても
あの日、女に始めて会った時
無表情で花壇を見ていた
黒く冷たいあの瞳を
忘れる事ができない
ねみいから寝る
続きは明日書く
1乙
まだか
はよ
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