零崎人識「魔法少女?」零崎双識「そうともさ」 (44)

なぜ人は人を殺すのか。
それは消えてくれた方が誰かにとって少しばかり都合が良かったりとか。
消えてくれないと済まないくらいその人物が悪だったりだとか。
ただ単に殺したいだけなのか。
理由はいろいろあるかもしれない。
それでも人を殺すということは紛れもない悪だ。
人を殺すという行為には必ず悪と言う言葉がついてくる。

では、生きるために人を殺し。
殺すために生きる、そんな存在がいたとしたら。
言うまでもない。
それはきっと、最悪、そう呼ばれるのだろう。

零崎一賊。
殺し名第三位。
唯一呪い名と対を成すことの無い彼らは。
今日もまた誰かを殺しながら。

そしてまだ見ぬ仲間を求めて何処かをさまよっている。


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「魔法少女?」

「そうともさ」

兄貴がロリコンだっていうことは良く知っていたが。
まさかついに妄想を口にするほど犯されているとは思いもしなかった。

ここは兄貴、零崎双識の自宅。
俺にとっては隠れ家みたいなもので。
大事な話をすると気は大抵この安っぽい部屋に集まることになっている。

「おいおい愛する弟よ」

「もしかして僕の頭がおしゃかになったと思っていないかい?」

「おしゃかなのはもともとだろ」

「…それよりも、何だって?」

魔法少女?
兄貴がふざけた事を抜かすのは何時もの事。
普段通りと言えばそれまでだがわざわざ人を呼んどいてする話でもない。
この部屋に呼ぶ、って事はそれなりのことがあって呼んでるはずだから。

「聞こえなかったかい?」

「魔法少女さ」

針金細工のような腕を大仰に振り回しながら兄貴は笑顔でいう。
まるで新しいおもちゃを見つけたかのような。
そんなところが、俺は少し苦手だ。

なにとなにのクロスかくらい書いてほしいものだな

「…きめぇ」

心の底からの感想をぶつけてやった。

「酷くないかい?」

大の大人が笑顔で魔法少女について語ろうとするという人生最大の汚点を。
そんな汚点をつけさせないようにしようとしたのにこのバカ兄貴は。

「人識は僕が冗談を言っていると思うのかい?」

「あぁ、思うね」

「魔法少女なんかいやしねぇんだよ」

仮にいたとして。
それは俺たちの住む世界が四つから、五つに増えるだけで。
俺たち零崎一賊にとって何一つ関係ない。
 
「そうか」

「だったら見に行こうじゃないか」

「はぁ?」

何をいっているのかわからない。
そんなもんを見るためだけにわざわざ遠出しなければならないなんてゴメンだ。

「私の憧れ、人類最強もあった事があるらしいよ」

…。
請負人なら依頼者の秘密くらい守れっての。

「見に行ってみないかい?」

笑顔で。
目の前の兄貴はもう一度言った。

「奇跡を体現する女の子たちに会いに行こうじゃないか」

「…」

「はぁ…」

やれやれ。
いつもこいつの思いつきには振り回される。
ただただ見たいだけ。
そんな理由で振り回されてはこっちもたまらない。

「分かったよ」

たまらないけれど。
今ここで断って後からグチグチ文句を言われるのもめんどくせぇ。

「それにしても、魔法少女ね」

居るなんて露ほども信じちゃいないが。
奇跡を体現するなんて大げさな文句なんて信じちゃいないが。
だとしてももし仮にそいつらがいるとすれば。

それはきっと、傑作だな。

「どこだよ、ここ」

目の前に広がるのは見る限りの瓦礫の山。
そしてそれをいそいそと片付ける人の姿だった。

「見滝原」

兄貴はタバコをふかしながらそう言った。

「私の憧れ、哀川潤も訪れた事のある魔法少女の住む街だ」

おいおい。
勘弁してくれよ。
場所を聞いたときはどんな田舎だろうか、と思って。
少しは覚悟していたが。
まさか瓦礫の山が目の前に広がっているとは思わなかったぜ。
何これ世紀末?

「街ってかこれただの荒地だろ」

「なにがどーなったらこうなんだよ」

「なんでも最近大きな嵐が通ってしまったらしくてね」

「その影響さ」

へぇ。
しかしまぁこれだけの人がよく動くもんだ。
目をキラキラさせながら皆が皆弱音も吐かずに片付けてやがる。
殺してぇ。
殺人に意味はないけれど。
人の形を見てしまうと殺せそうだと思ってしまう。
そんな零崎としての性が。
少しだけ嫌になっちまう、そんな光景だな。

「さて、手伝うか」

「…っておいおい」

勘弁してくれ。
こんな奴らと一緒に働けるか。
俺は別の所に行くからな!
…。
なんか俺すぐに死にそうだな。

「人識はどこか別の場所に居てくれていいよ」

「少し歩けば壊れていない街もあるだろうしね」

「そうするよ」

言われなくたってそうしようと思っていたところだしな。
なんか甘いもんでも食いたい気分だ。
どこかにいいクレープ屋でもないかな。
そんなことを考えながら俺は嘘臭い笑顔を浮かべる兄貴から離れていったのだった。

「んー…うまっ」

なかなかレベルの高い鯛焼きだな。
結局歩きまくったがクレープ屋が見つからなかったもんで。
仕方なく鯛焼きを買ってみたけど。
なかなかどうして悪くねぇ。

「おっちゃん上手いよ、もいっこ」

俺はたい焼き屋の屋台のオヤジに百円玉を渡してもう一つ買う。
ただ人を殺す零崎が人間らしい事をするなんて。
人を殺すやつが人間よりよっぽど人間らしい、とかそんなこと。
傑作だな。

「…んにゃ、戯言か」

映し鏡の口癖を真似ながら俺は新しい鯛焼きを口に放り込む。

こうして見てみると魔法少女?とか言うのとは縁の無さそうな平和な街だ。
まるで俺なんかがいちゃいけないような。
平和すぎる街。

「まっ、平和な街なんてどこにでもあるよな」

最後の一口を放り込んで。
その屋台を後にしようとする。
その時聞こえて来た大きな声と。
やかましいくらいの悲鳴を俺はきっといつまでも忘れないだろう。


双識と魔法少女とか最悪の食い合わせじゃねーかいいぞもっとやれ

「うええええええーーーー!?!?」

「…っ!?なんだ?」

後ろで聞こえてきた大きな悲鳴。
その声の主は。
周りの人間と比べて小さいと言われる俺と同じくらいの。
そのくらいの小ささの赤い髪の女だった。

「なんで売り切れてんだ!?」

「やぁ杏子ちゃん、ごめんねぇ、ちょうど売り切れちゃって」

「何だと!?何処のどいつだ!ここはあたししか知らない穴場の筈なのに!」

おいおい。
お前しか知らないならこのたいやき屋はとっくに売り切れてるっつーの。
だいたい今日は諦めてまた明日来ればいいじゃねぇか。
…。
なんかこっちに来るんだけど。
嘘だろ。
この町の治安はどうなってやがる。
何が平和な街だ、五分前の俺ファックユー。

「てめぇか!」

「…何がだよ」

かははっ。
威勢がいいってのは悪くない事だけどよ。
あんまり威勢がよすぎると、噛み付いた尻尾が化け猫だったってこともあるぜ。

「…あの…店はなぁ…!」

「…」

「あの店はここいらで一番の鯛焼きを出すんだよ!」

「味わって食べたか!」

…。
なるほどね。
ただの馬鹿だなこいつ。
行動原理がただのガキじゃねぇか。

「…うまかったぞ」

「…ならいいよ」

俺に突っかかってきたキョーコと呼ばれる赤髪の女。
この女こそ兄貴の会いたがっていた魔法少女とは。
俺はまだ知る由もなかった。

りすかとのクロスかと思ったら違った

「~♪」

それにしてもいい街だなぁ。
私はあまりお世辞を言う方じゃないんだが。
ないんだがいい街だ。
つまりはいい街だ。

こうして私が無償で手伝っているところを見ると。
誰も私のことを殺人鬼だとは思わないだろうね。
まぁ魔法少女に会いにいくというのが今回の目的だけれど。
だけれど少しくらい寄り道しても良いだろう。

「おう、細い兄ちゃん、ありがとな」

体の大きいおじさんがそう言いながらお茶を差し出す。

「…」

人の好意に触れるのは久しぶりだ。
私たちの世界では好意が殺意であるから。
殺意以外の思いを抱かれたことがないから。
この気持ちも、悪くない、そんな気がする。

「どうした?いらねぇのか?」

「…いえ、頂きます」

笑顔で差し出されたお茶を受け取る。
作業をこなした私の火照った体に。
その冷たさはじんと染み込んで、少しの間思考を停止させた。

「ありがとうございます」

「例ならあの嬢ちゃんにいいなよ」

「あの年だってのに皆の為に差し入れを持ってきてくれるんだ」

ふぅん。
そんな子もいるのか。
やっぱりこの街は良い街だ。

「…!」

この時私は心の底からこの街に来てよかったと思ったのだ。
知らないとは思うが私はロリコン。
自分で言うのもあれだが小さい女の子が大好物だ!

「…うぇひひ、お疲れ様です」

ストライク!
私は見事、その女の子にノックアウトされてしまった。
あえてもう一度言おう。
ストライク!!

「へー、じゃああんたは他所から来てんのか」

「まぁそう言う事になるな」

俺はすっかりこの杏子という女と打ち解けて。
何故か二人でアイスクリームを買ってベンチに腰掛けている。
まぁ何故かと理由を問われれば。
この女が半泣きで見るに耐えなかったのでアイスクリームを奢ってやった、というくだらない理由なんだけど。

「何しにきたんだ?観光?」

…。
さて、困った。
ここで本当のことを言っていいもんだろうか。
ほぼ初対面のやつに何しにきたんだ?と言われて「魔法少女を探しに」なんて答えたらどん引きされること間違いなしだ。
もしかしたら通報されるかも知れない。

「ま、まぁ、そんなとこだな」

それもこれも全部クソ兄貴のせいだ。
絶対許さねぇ、また殺す理由が増えたぞ。

「ふーん、こんな何もない街にねぇ」 

「でも杏子はここに住んでないだろ?」

「えっ?」

匂いでわかる。
馴染みきってない匂い。
違和感を隠そうとしてるその様子が逆に違和感を覚えさせるんだ。

「よく分かったな」

「あたしは友達に会いに来たのさ」

友達ねぇ。
友達、と口にした杏子はこんな俺でも少し可愛いと思うくらい笑顔だった。

「大事な友達なんだな」

「まぁな、共に危機を乗り越えた仲だからな」

ふぅん。
だったら尚更。
俺なんかと関わっちゃいけないな。

「じゃーな」

「お、おい!」

ベンチから立ち上がり後にしようとした俺を杏子は慌てて呼び止める。

「名前はなんて言うんだよ?」

「…」

「零崎、人識」

偽名みたいな名前だ。
それを信じるか信じないかはお前の勝手だけどよ。
信じてくれない方がありがたいね。
じゃないとあったばかりのお前まで死んじまうかもな。

「そっか、またアイス食おうな、人識!」

馬鹿だろ。
疑いもせず信じてんじゃねぇよ。
俺たちの世界じゃ絶対に早死するタイプだな。
お前みたいな良い奴は。
ほんとまぁ。

「傑作だぜ」

とりあえずここまで。
ゆっくりでも完結させたいです。
見てくれた方はありがとう。
お疲れ様です。

乙 期待

…悪くない


曲識のにーちゃん的にまどマギの魔法少女達はストライクゾーンに入るのだろうか

乙なんだよ!!

四国の魔法少女かと思った

どういう話になるんだろうな

>>14
危ねえよ

兄貴を一言で言い表すとすりゃ変態だ。
少女趣味で小さい女の子に目がない。
体が小さいからって俺に女装させようとしたことすらある救いがたいバカだ。 
人を殺さずにはいられない悪のクセに小さい女の子が大好物ときたもんだ。
なおさら悪い、最悪だ。
そんな軽蔑こそすれ、尊敬なんて露ほどもできないバカ兄貴に向かって

「馬鹿じゃねぇのお前!!」

と叫んだのはついさっき。
嫌なことを思い出しそうな赤髪の女、杏子と別れて街をブラブラしていた時だった。



「そう叫ぶなよ人識、可愛いだろう」

そう言って奴がお姫様抱っこで連れてきたのは桃色の髪の毛をした杏子よりもさらに一回り小さい体つきの女。

「何さらってんだてめぇ!」

「おいおい人聞きの悪いことをいうなよ、私はこの女の子を守ってあげたんだ」

信じれるわけがねぇ。
たとえ百歩譲って助けていたとしてもどうせ厄介事になるに決まってる。

「捨ててこい」

「酷い」

目の前のやつが厄介事を抱え込んでるのに、それはむざむざと見過ごすほど俺は馬鹿じゃない。
第一もう小さい女はうんざりだ。
誰にも見られていない今。
ここで。

「殺してやろうか」

ぞくりと。
背中に氷柱でもぶち込まれたかのような悪寒が走る。
辺り一帯を殺意が支配する。

その殺意は人識のものではなく。
むしろ殺そうとした人識に向けられた物だった。

「おや?」

兄貴が素っ頓狂な声を出す。
その声を無視して俺は臨戦態勢に入った。

「明らかにただもんじゃねぇよな」

殺す、という明確な意思の元形成された本来人にあってはならない思い。
それが殺意。
しかしこの殺意は。
これは。

「殺せる手段を持ってやがる…」

殺す、ではない。
殺せる。
お前達などいつでも殺せる。
殺意の中に絶対的な確信を持つ者だけから吹き出るある種呪いのようなもの。

だが。

「そりゃ、同じさ」

俺はわざとナイフをしまい両手をひらひらとブラつかせてそう言った。

「俺はいつでもその女を」

世界が凍りつく。
人識に向けられている殺意と人識が放つ殺意がぶつかり合いその場所だけ異世界と化す。

「殺せる」

そう言い放った直後。
人識の額にはその持ち主には似合わない無骨な銃が向けられて。
人識は逆にそいつの喉元へ向けてナイフを突き出していた。

双識は飽くまで女子中学生のプロでローティーン少女幼女皆殺しは曲識の方だよな。
思い出を汚すからだっけ?少女趣味の動機って

「誰だお前?」

聞く。
目の前の少女に。
黒い髪の毛をなびかせ今にも引き金を引こうとしている少女に。
ありったけの殺意を込めて、聞く。

「…普通、じゃないよな?」

「…この子には手を出させない…!」

目を凝らして遠くを見るといつの間にか廃工場の隅で目を閉じうずくまっているピンクの髪の毛の女がいた。

「…兄貴?」

「いやぁ、どういう訳か私にもわからないよ」

「分かることと言えば気がついたら手の中で眠っていた彼女が居なくなっていたって事だけだ」

幻覚?
時宮?
それとも全く別の?

体はいつでも目の前の敵を屠るに足る状態であるにも関わらず、脳は目の前の理解不能な状況になんとか追いつこうとしていた。

「かははっ、俺と年がほとんど変わんねー女がこの殺意を、ね」

全く因果な世界だ。
この世の中にはまだまだ俺の知らないことがあるらしい。
実に傑作だ。

「…あの子にどうして手を出したの?」

黒髪の女は体を動かさず目だけを動かして兄貴に問いかけた。

「うふふ、僕に対しての敵意を彼女へのもの、と勘違いしてしまってね」

「仕方ないから気絶させてここまで運んできたってわけさ」

このバカ…。
確かめやがったな。
兄貴くらいの零崎が殺意の向きを間違うはずがねぇ。
全くクソみたいなヤツだ。

「…で?どーする?」

俺はナイフをしまい問いかけた。
黒髪の女の銃口は未だにこちらを向いたままだ。

「ここでやりあってもいいが生憎俺はナイフ一本だ」

「ここいらで終いにしようぜ」

「…馬鹿じゃないの?ナイフ一本ならどう考えてもあなたが不利じゃない」

「あなたが命乞いする理由にはなっても、私が諦める理由にはならないわ」

ズレてんだよなぁ。
こいつがズレてんのか俺がズレてんのか。
いや、きっと俺なんだろうな。
きっと俺が馴染めないだけなんだろう。

「だからよぉ」

そこで一息おいて。

「ナイフ一本で殺されるような無様は晒したくはねぇだろ?」

ぞくり、と。
黒髪の女が総毛立つ。
辺り一帯がどす黒い雰囲気で塗りつぶされる。

「私を殺せるつもり?」

「かははっ、どうかな」

「喧嘩じゃお前のほうが強いかもしんねーが」

「ナイフで殺す手段ならお前の万倍知ってるぜ」

頬の刺青を指で掻きながらふてぶてしく言い放つ。

ちゃっ、と。
黒髪の女は銃をしまう。
そうだ、それが懸命だな。
だってピンクの髪の毛の女の安否を確認した瞬間。
急速に殺意が消えていくお前なんて。
何がどう起ころうとも、何もどうもならねぇよ。
実につまらねぇ、しまらねぇ。

「今度彼女に手を出したら」

「容赦しない」

それだけ言い放つと女はまるで幻覚だったかのように目の前から忽然と姿を消した。
日も沈み、尚一層暗くなる闇だけが辺りを支配していった。

兄貴に聞いた話だと。
魔法少女とは奇跡を叶えた代償らしい。
どこかのアニメ見たく勝手に選ばれて勝手に決められて勝手に戦う。
そんなもんじゃなくて。
自分が心から願ったその奇跡の代償として、魔法少女になり魔女を倒すことを宿命付られるそうだ。
つまりは、結果。
目的じゃなくて、結果。
なるほどね、殺すという目的のあとに零崎になっちまう俺たちと似てるっちゃあ似てるかもしれねぇ。

少しずつ分かってきた。
兄貴がただ観光目的のためにこんな遠いところまで来るわけがねぇ。

「同賊探しか?」

「おやおや、妹と言っておくれよ」

「…」

「ここに零崎がいるかもしれねぇと?」

確かに聞いた話では、魔法少女というものはなんとも不思議な技を使うらしい。
そんな技を持っていれば人を殺したくなる奴も居るのかもしれない。

だが。

「ありえねーよ」

そう、ありえない。
何故なら零崎は後天的な物ではなく。
先天的な異常だからだ。
いや、それも正しくない。
何よりそれが有り得ないとされる理由は。

「零崎は願わねぇ」

願うくらいなら、殺す。
辛いくらいなら、殺す。
縋るくらいなら、殺す。

全ての方法が、目的が、殺人へと収束してるからこその零崎なのであって。
殺人のために魔法を得るのは間違いであって。
零崎にとって。
殺人こそが、魔法だからだ。

「うふふ、興味深い」

「確かにそうとも言える」

「だけどね、人識」

兄貴は細い腕を大げさに振り上げて言った。

「何事にも例外はあるものだよ」

「お前のような、ね」

俺のような。
よく分からねぇ。
自分の事を自分で客観視できるほど俺は俺のことを良く知らない。
そんな面倒くさいことをするくらいなら、映し鏡であるあいつを観察した方がまだ効率がいい。

「取り敢えず明日は予定があるからね」

「今日はもうお休み」

お休みと言ったにもかかわらず、兄貴はタバコに火をつけて外へ出た。
いい加減疲れた俺は今日こそは八時間寝てやる!と意気込み、意気揚々とベッドの上へ転がりこんだのだった。

見滝原中学校。
見滝原市の中で一番大きい中学校で。
男子の比率よりも女子の比率の方が多い。
少しばかり特殊な構造をしている校内を除けば、割とどこにでもある学校だ。
そんな学校に通う見滝原中学3年生、巴マミは、客人を招くためにいそいそと部屋を片付けていた。

「…」

哀川潤。
人類最強。
以前であったことのある超がつくほどの万能人間。
まさに人類最強と言って差し支えない存在。
今日来る客人はその哀川潤の知り合いらしい。

「確かに顔は広そうね」

人類最強の知り合いと言われてやはり少しだけ緊張する。
だから巴マミは心を落ち着かせるために少しばかり思考を別な方へ巡らせる。

「お兄ちゃん…」

彼女に兄はいない。
どころか家族さえいない。
幼い頃、不運な事故により彼女の家族は皆死んでしまったからだ。
ここで言う「お兄ちゃん」とは。

「…嘘つきの、お兄ちゃん」

嘘つき。
戯言吐き。
彼女が以前であったことのある人類最強。
その付き添いとして出会った一人の青年のことだった。
誰よりも嘘をついて。
誰よりも嘘が下手で。
そして誰よりも、優しい。
その優しさは、どこか欠陥があるのかと思うほど、歪で容赦がなかった。

「…」

あの嵐の日。
スーパーセルを乗り越えると同時に彼は忽然と姿を消した。
もう一度会いたいと願いながら、だけどもう会えないだろうなとどこかで思っている。
彼があの時あの物語に与えた影響は微々たるものだったが、彼を忘れられない人がいるところを見ると。
存外、無駄ではなかったらしい。

どんどんどん、と。
乱暴に玄関がノックされた。
どうやら客人が来たようだ。
きっと彼じゃないだろう。
だけど、それでも。
別れた日から数ヶ月がたった今もその思いを捨てられないでいる。

「は、はーい!」

勢い良くドアを開けるとそこには、やはり彼はいなく。
居るのは二人の後輩の姿だった。

「あ、マミさん!こんちはっす!」

「よっ、マミ…って、なんでちょっと残念そうなんだよ」

客人ですらなくて、巴マミは少しだけ気が抜ける。

「ざ、残念じゃないわよ」

慌ててそういうが二人には少し怪訝な顔をされてしまった。

「さやかの奴が上手いケーキ持ってきたんだ、紅茶入れてくれよ!」

「おいこら!いいこと言ってんじゃないわよ」

…。
彼とはもう二度と会えないだろう。
会えないだろうけれど。
彼は確かに残してくれた。
まぁ。
だから。
それだけでも充分幸せだなって思う。

「ふふ、いらっしゃい」

彼が残してくれた、私達への贈り物。
目に見えないそれは確かに、今でも私をここへ繋ぎ止めている。

「…おい」

「どうしたんだい、愛すべき弟よ」

このクソ兄貴は。
どうしてこうも人の神経逆なでするような言い方しかできないんだよ。
別に気を使えってんじゃねぇ。
気をつけろっていってんだ。

「…お前が今から巴マミって奴の家に行くのはわかる」

「…俺がついていくってのも、まぁわかる」

「うふふ、賢い弟を持てて私は嬉しいよ」

「だからってなんで俺を縛るんだよ!」

しかも容赦なしにきつく締めやがって!
決めた、殺す!
絶対に殺す。
こいつを殺す理由は数え切れないほどあるが、たった今1つ増えた。
殺す!

「まぁまぁ、そう殺気立つもんじゃないよ」

「ほら、見えてきた」

「あん?」

兄貴の針金のような指の先には。
中学生の一人暮らしにしてはいささか贅沢に見えるマンションがあった。

「…ここが魔法少女、巴マミの家…?」

魔法少女というから。
一体どんな家なのかと少し期待していたのだが。
蓋を開けてみるとなんてことない、ただのマンションだ。

「…なぁ」

「なんだい?」

「…俺たちが巴マミの家に入るのを誰かに見られたらどうすんだ?」

「それを聞くのかい?」

…。

「まぁ一応」

「殺す」

「女も?」

「女も」

「子供も?」

「子供も」

「年寄りも?」

「お年寄りも」

全くつまんねぇ。
動かない的をぶっ殺すなんざ零崎じゃなくてもできる。

「つまりいつも通りって訳ね」

「あぁ」

殺すことに抵抗がないと言っても。
こうも続けばうんざりもする。
まぁ、それが零崎なんだよな。
ほんと、傑作過ぎる。





「老若男女、容赦なし、だ」

時期的にサイクル後からロマンチスト少し前かな?

一応クビシメ直後です
ソウシキが生きていて人識がいーちゃんを知っている状態だと考えてもらえれば幸いです

つーかこれ前スレある?

>>30
一応いーちゃんがくる話もあります
このスレも日本語かなりおかしい部分がありますけど前のはいわゆる処女で、このスレ以上に日本語が滅茶苦茶です
一応このSSだけでも話はわかるように書きたいと思ってます

今日はここまでです
見てくれてありがとう
下手ですけど付き合ってくれれば嬉しいです

みてたよ

>>32
すっごい嬉しいです
付き合ってくれれば嬉しいです

前スレあるのか、探してみよう

おっつ

過去スレ置いときますね
いーちゃん「魔法少女?」哀川「そうともさ」
いーちゃん「魔法少女?」哀川「そうともさ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407092296/)

生きている以上必ず誰かと共に生きる。
必ず誰かと引き合う。
それが因果を束ね、奇跡を起こす魔法少女でも。
他者を蹂躙し、同種を[ピーーー]零崎でも。
お互いひかれ合う。
引き合い、引かれ合い共に生きていく。
そして、引かれあった後、殺し合うものもいる。
だとしたら。
全く別の存在である二つは。

「人識、ここで別れようか」

「あ?なんでだよ?」

「…嫌な予感がするんでね」

引かれあった後、どうなるのだろうか。




「…マミさん…」

「…えぇ、この感じ…」

「…なんかやばそうだな」

「あたしら外に出ときます」

「えぇ、お願い」

愚かな二つの種は、理解することもなく踏み込むこともなく。
ただただお互いを否定する。
否定しあって、殺し合う。







「…かはは、何だ、お前?」

「…あなたこそ誰?ここに、何の用?」

魔法少女と零崎は、奇跡を願う者と殺戮を好むものは。
決して混じらない。

「こーんな分かり易い殺意振りまいちゃってさぁ」

「…あんた、何なのよ」

「やぁやぁやぁ、これはこれは」

「可愛いお嬢さんたちがお出迎えかい」

始まる音がする。
決して交錯しないはずの物語が。
複雑に絡み合い、そして動き出す。
音がする。

「かはは、傑作だぜ」

「実に残念だよ、お二人さん」

物語は動き出す。
始まりへ向かって、収束へ向かって。



『零崎を、始めよう』

先に動いたのは黄色い髪の毛の女だった。
予想外の襲撃にも関わらず彼女はまるで先頭訓練でも受けていたかのように迷いなく動く。

「えいっ!」

可愛らしい声をあげてその女はテーブルクロスを思いきり捲くりあげた。 

「うぷっ」

予想していなかった行動のため人識はそれをもろに顔面に食らってしまう。
なるほど、ただの少女じゃないらしい。

「…このっ…!」

ダメージはない。
何故ならその狙いは人識を傷つける為ではなく。
人識の行動を遅らせるためのものだったから。

「…ちっ」

一瞬で視界を塞がれた人識はとりあえず斜めしたにしゃがむ。
そうしてテーブルクロスを引き剥がすと同時に彼女の次の一手避けようとした。

「ぐっ…!?」

「甘いわね」

だが。
今回は巴マミの方が上手だった。

「…女の子に鈍器は似合わねーぞ、おい!」

「後で直してあげるから」

「気絶しなさい!!」

振り上げられたそれは。
目の前にある人識の頭を穿たんとして吸い込まれていく。
気絶。
そうして彼を無力化しようとしたのだ。
それが彼女にとって最初の間違いだった。

「…きゃあっ!?」

持っていた木刀がバラバラになる。

「甘いよなぁ」

「無力化ってんならもっといい方法があんだろ」

彼女は見誤っていたのかもしれない。
自分が何を相手取っているのかということに。

「まぁそれは俺たちの得意分野か」

「な、なにを…!」

「大体よぉ、部屋の中に入っただけで襲いかかってくるやつが普通なわけないよなぁ?」

「…」

「だから[ピーーー]」

にたりと、彼は笑って。

「お前みたいな普通じゃない奴は、ただの殺人事件と何ら代わりのない方法で」

「警察も驚くようなあっさりとした殺し方で」

「殺してやんよ」

そして、一息に彼女の喉をかき切った。

「…零崎?何言ってんのこいつ?」

「…さぁな…」

聞き覚えがあった。
どこで聞いたかは思い出せないがつい最近聞いたような言葉だ。
零崎。
確かそれを聞いたとき変わっているなとしか思わなかったが。

「杏子っ!!」

「…ぐっ!?」

友達の声でなんとか反応する。
目の前の針金細工のような男は。
今確かに自分の首元を狙ってきた。

「…ふぅん、おかしいなぁ」

取り出したのは巨大な鋏。
およそ紙を切るためのものではないであろう凶悪すぎる刃。

「なら私は武器を使おう」

「これなら君たちにとっていいハンデだろ?」

武器を使う方がハンデになる。
普通なら頭がおかしいんじゃないかと思ってしまうが。
この男にふざけている様子など微塵もない。

「…何がなんだか分かんねーが」

「さやか、こいつブチのめすぞ」

「…ちょ、変身…!?」

「マミの方も心配だしな、タラタラしてらんねー」 

「片腕でも吹っ飛ばしゃあ勝負ありだ!」

そうして彼女は。
赤い服と彼の持つハサミよりも遥かに強大な槍を持つ。
まさに魔法少女と言うにふさわしい姿となった。

「あーもうっ!」

「殺す気で来たんだ!殺されても文句は言えないよねぇっ!?」

一閃。
彼女の振りかぶった槍は彼の居た地面を驚く程深く抉りとる。

「らぁぁぁあっ!!」

「なるほど、君たちが」

しかし怯んだ様子もなく彼はひらひらとそれを避け続ける。
不気味に笑いながら。

「私の妹候補なんだね」

合格だ、そう言いながら彼は持っていた鋏を彼女の動きに合わせて。

「なっ…?」

鋏で彼女の額を貫いていた。

アレか、完結頑張ってくれ

生きていれば不可思議なことや、有り得ないことくらい経験する事だってある。
言っちまえば俺という存在自体がもはや有り得ないしあってはいけないもんだ。
それはあいつ然り。
自分を巻き込むほどの、そして周りに影響を与えてしまうほど欠陥的の優しさを持ったあいつが。
俺に似ているということもまた、ありえない。
だがまぁ。
有り得なくとも理解はできる。
きっとそれは、奇跡と呼ぶにはあまりにも悲惨で。
奇跡と呼ぶにはあまりにもイビツすぎるもんではあるが。
まぁ、一応は、理解できる。

「…」

だが、こいつは何だ?
確かに俺はナイフで喉元を掻き斬ってやった。
手に残る感触も何時も通りの感触。
何一つ不手際なんてねぇ。

「…やって…くれたわね」

コイツはどうやって説明を付ける?
幻覚か?幻術か?
いいや、もっと別の。
どす黒い、何かだ。

「かははっ、確かに殺したと思ったんだがよー」

「…いいえ、私は殺せない」

「…」

「ただの人間には、殺せない!」

その女が腕を振るとそこには大量のマスケット銃が現れた。
何だこりゃあ。

「何が起こってやがる…!」

何が起こって。
いや、違う。
俺はとっくに解を知っているじゃあねぇかよ。
これは。
こいつは。

「魔法少女」

「奇跡を願う少女達の、姿よ」


目の前のそいつは。
人も殺せないような顔をしたその女は。
俺のどてっ腹に向けて無数の銃弾を撃ち込んだ。

「…!」

夥しいほどの銃弾。
一発一発が致死量の威力を持ち、その一つ一つが確かな敵意を持って俺に突っ込んでくる。
それを。

「…おらっ!」

間一髪で避ける。

「なっ…!?」

「おいおい、女、ちゃんちゃらおかしいぜ」

「俺はただの人間、零崎だ」

「どっかの嘘つきとは作りが違うんだよ」

嘘つき。
その言葉が指す人間は考えるとおりだが。
ここでその言葉をはなったのは全くの偶然だった。
しかし。

「…嘘つき…?」

意外にも、その女はその言葉に反応した。

「…あなた…あのお兄ちゃんを知ってるの?哀川さんを…嘘つきのお兄ちゃんを知ってるの…!?」

…おいおい。
見るからにこりゃあ。
フラグたってねぇか欠陥人間。
そうか、あいつは人類最強に付いて行ったのか。 
だからこそ、見て取れる。
この女、甘すぎる。

「…さぁな、お前が死んだら教えてやるよ」

「…」

「…ふふふ」

…なんだ?
恐怖でネジでも飛んじまったか?

「…あなた、似てるのね」

「どことなく、ううん、お兄ちゃんにそっくり」

またそれか。
確かに自分でも写鏡のようだとは思うが。
思うが、それを他人に言われるのは少し面白くねーな。

「…でもね」

「あ?」

「私はお兄ちゃんが好きだったけれど」

「あなたのことは、大嫌い」



別に好かれようと思ってはいねぇさ。
ただ初対面の女にそこまで言われたのは久々だからな。
少しだけ涙腺が緩んだだけだよちくしょう。

「…じゃあどうする?殺してバラして揃えて晒すか?」

さっきの銃を見た限りでは、コイツの技にはスキがある。
それもデカいスキだ。
俺ならその術を使う一瞬に…

「…っ!?」

「レガーレ」

気が付くと俺の体は黄色いリボンで拘束されていた。
それも、ギッチギチに。
あぁ、くそ。
これも全部あのクソ兄貴のせいだ。
もう謝っても許さねぇ。

「…客人が来るまであなたは拘束します」

「…」

「零崎双識の知り合いさん?」

「…はぁ」

やっぱりか。
結局この女こそが兄貴の知り合いって奴か。
ってまぁ俺も部屋にこいつがいた時からそうだろうとは思っていたけどよ。
なるほど、確かに悪くねぇ。
魔法少女は、悪くねぇ。
 
「…おい」

「…なぁに?」

「作り笑いはするもんじゃねーぜ、大嫌いなあいつそっくりだ」

しかもそれが下手と来やがるから、なおのことあの嘘つきを思い出す。

「…あんたの客人ってのが兄貴ってことはわかった」

「…」

「今すぐ兄貴を呼べ」

「あら?命乞いかしら?」

「ふざけんなデカパイ女」

「考えろ、俺の兄貴だ」

「…?」

女はまだわからないと言ったような顔をしている。

「初対面でお前を殺そうとした俺の兄貴だ」

「…これだけ遅いと何してやがるか分かんねーぞ」

「っ!」

「…確かに貫いたはずだけどね」

ふふふ。
これだから。

「悪いな、あたし幻覚使えるんだよ」

「…言ってしまっていいのかい?」

これだから。
やめられない。

「…大丈夫さ、メリットデメリットは、人類最強に教わった」

「ただし」

「てめぇのぶっ潰し方は自己流だけどなぁっ!」

ずがぁ、と先程の槍が地面にぶつかる。
この轟音。
ふふふふふ。

これだから、妹探しはやめられない!!

「…ぐっ、げ!」

「杏子!?」

この子にたぎるモノがあるのは確かだ。
確かにこの子は私にはない何かを持っている。
だが、それだけだ。
それだけで、浅い。

「…っ、てめ、ぇ、なんで?」

「答えを聞きたいかいお嬢さん」  

「どうして先程の君が幻覚だと気づけたか」

二度も地面を叩いた。
一度目は驚く程の威力で地面を深く抉った。
しかし二度目は音が響くだけで地面には傷一つついていない。

「…更に言うと額を刺された君は本物だね」

「その嘘が、私の尊敬する哀川さんから教わった物だというのなら」

首を掴んでいる手に更に力を込める。
普通の人間ならとっくに気絶している。
にも関わらず、彼女を若干の涙を流すだけでひたと僕を見据えていた。

魔法少女、ね。
悪くない。

「甘すぎる」

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