零崎人識「魔法少女?」零崎双識「そうともさ」 (44)

なぜ人は人を殺すのか。
それは消えてくれた方が誰かにとって少しばかり都合が良かったりとか。
消えてくれないと済まないくらいその人物が悪だったりだとか。
ただ単に殺したいだけなのか。
理由はいろいろあるかもしれない。
それでも人を殺すということは紛れもない悪だ。
人を殺すという行為には必ず悪と言う言葉がついてくる。

では、生きるために人を殺し。
殺すために生きる、そんな存在がいたとしたら。
言うまでもない。
それはきっと、最悪、そう呼ばれるのだろう。

零崎一賊。
殺し名第三位。
唯一呪い名と対を成すことの無い彼らは。
今日もまた誰かを殺しながら。

そしてまだ見ぬ仲間を求めて何処かをさまよっている。


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「魔法少女?」

「そうともさ」

兄貴がロリコンだっていうことは良く知っていたが。
まさかついに妄想を口にするほど犯されているとは思いもしなかった。

ここは兄貴、零崎双識の自宅。
俺にとっては隠れ家みたいなもので。
大事な話をすると気は大抵この安っぽい部屋に集まることになっている。

「おいおい愛する弟よ」

「もしかして僕の頭がおしゃかになったと思っていないかい?」

「おしゃかなのはもともとだろ」

「…それよりも、何だって?」

魔法少女?
兄貴がふざけた事を抜かすのは何時もの事。
普段通りと言えばそれまでだがわざわざ人を呼んどいてする話でもない。
この部屋に呼ぶ、って事はそれなりのことがあって呼んでるはずだから。

「聞こえなかったかい?」

「魔法少女さ」

針金細工のような腕を大仰に振り回しながら兄貴は笑顔でいう。
まるで新しいおもちゃを見つけたかのような。
そんなところが、俺は少し苦手だ。

「…きめぇ」

心の底からの感想をぶつけてやった。

「酷くないかい?」

大の大人が笑顔で魔法少女について語ろうとするという人生最大の汚点を。
そんな汚点をつけさせないようにしようとしたのにこのバカ兄貴は。

「人識は僕が冗談を言っていると思うのかい?」

「あぁ、思うね」

「魔法少女なんかいやしねぇんだよ」

仮にいたとして。
それは俺たちの住む世界が四つから、五つに増えるだけで。
俺たち零崎一賊にとって何一つ関係ない。
 
「そうか」

「だったら見に行こうじゃないか」

「はぁ?」

何をいっているのかわからない。
そんなもんを見るためだけにわざわざ遠出しなければならないなんてゴメンだ。

「私の憧れ、人類最強もあった事があるらしいよ」

…。
請負人なら依頼者の秘密くらい守れっての。

「見に行ってみないかい?」

笑顔で。
目の前の兄貴はもう一度言った。

「奇跡を体現する女の子たちに会いに行こうじゃないか」

「…」

「はぁ…」

やれやれ。
いつもこいつの思いつきには振り回される。
ただただ見たいだけ。
そんな理由で振り回されてはこっちもたまらない。

「分かったよ」

たまらないけれど。
今ここで断って後からグチグチ文句を言われるのもめんどくせぇ。

「それにしても、魔法少女ね」

居るなんて露ほども信じちゃいないが。
奇跡を体現するなんて大げさな文句なんて信じちゃいないが。
だとしてももし仮にそいつらがいるとすれば。

それはきっと、傑作だな。

「どこだよ、ここ」

目の前に広がるのは見る限りの瓦礫の山。
そしてそれをいそいそと片付ける人の姿だった。

「見滝原」

兄貴はタバコをふかしながらそう言った。

「私の憧れ、哀川潤も訪れた事のある魔法少女の住む街だ」

おいおい。
勘弁してくれよ。
場所を聞いたときはどんな田舎だろうか、と思って。
少しは覚悟していたが。
まさか瓦礫の山が目の前に広がっているとは思わなかったぜ。
何これ世紀末?

「街ってかこれただの荒地だろ」

「なにがどーなったらこうなんだよ」

「なんでも最近大きな嵐が通ってしまったらしくてね」

「その影響さ」

へぇ。
しかしまぁこれだけの人がよく動くもんだ。
目をキラキラさせながら皆が皆弱音も吐かずに片付けてやがる。
殺してぇ。
殺人に意味はないけれど。
人の形を見てしまうと殺せそうだと思ってしまう。
そんな零崎としての性が。
少しだけ嫌になっちまう、そんな光景だな。

「さて、手伝うか」

「…っておいおい」

勘弁してくれ。
こんな奴らと一緒に働けるか。
俺は別の所に行くからな!
…。
なんか俺すぐに死にそうだな。

「人識はどこか別の場所に居てくれていいよ」

「少し歩けば壊れていない街もあるだろうしね」

「そうするよ」

言われなくたってそうしようと思っていたところだしな。
なんか甘いもんでも食いたい気分だ。
どこかにいいクレープ屋でもないかな。
そんなことを考えながら俺は嘘臭い笑顔を浮かべる兄貴から離れていったのだった。

「んー…うまっ」

なかなかレベルの高い鯛焼きだな。
結局歩きまくったがクレープ屋が見つからなかったもんで。
仕方なく鯛焼きを買ってみたけど。
なかなかどうして悪くねぇ。

「おっちゃん上手いよ、もいっこ」

俺はたい焼き屋の屋台のオヤジに百円玉を渡してもう一つ買う。
ただ人を殺す零崎が人間らしい事をするなんて。
人を殺すやつが人間よりよっぽど人間らしい、とかそんなこと。
傑作だな。

「…んにゃ、戯言か」

映し鏡の口癖を真似ながら俺は新しい鯛焼きを口に放り込む。

こうして見てみると魔法少女?とか言うのとは縁の無さそうな平和な街だ。
まるで俺なんかがいちゃいけないような。
平和すぎる街。

「まっ、平和な街なんてどこにでもあるよな」

最後の一口を放り込んで。
その屋台を後にしようとする。
その時聞こえて来た大きな声と。
やかましいくらいの悲鳴を俺はきっといつまでも忘れないだろう。


「うええええええーーーー!?!?」

「…っ!?なんだ?」

後ろで聞こえてきた大きな悲鳴。
その声の主は。
周りの人間と比べて小さいと言われる俺と同じくらいの。
そのくらいの小ささの赤い髪の女だった。

「なんで売り切れてんだ!?」

「やぁ杏子ちゃん、ごめんねぇ、ちょうど売り切れちゃって」

「何だと!?何処のどいつだ!ここはあたししか知らない穴場の筈なのに!」

おいおい。
お前しか知らないならこのたいやき屋はとっくに売り切れてるっつーの。
だいたい今日は諦めてまた明日来ればいいじゃねぇか。
…。
なんかこっちに来るんだけど。
嘘だろ。
この町の治安はどうなってやがる。
何が平和な街だ、五分前の俺ファックユー。

「てめぇか!」

「…何がだよ」

かははっ。
威勢がいいってのは悪くない事だけどよ。
あんまり威勢がよすぎると、噛み付いた尻尾が化け猫だったってこともあるぜ。

「…あの…店はなぁ…!」

「…」

「あの店はここいらで一番の鯛焼きを出すんだよ!」

「味わって食べたか!」

…。
なるほどね。
ただの馬鹿だなこいつ。
行動原理がただのガキじゃねぇか。

「…うまかったぞ」

「…ならいいよ」

俺に突っかかってきたキョーコと呼ばれる赤髪の女。
この女こそ兄貴の会いたがっていた魔法少女とは。
俺はまだ知る由もなかった。

「~♪」

それにしてもいい街だなぁ。
私はあまりお世辞を言う方じゃないんだが。
ないんだがいい街だ。
つまりはいい街だ。

こうして私が無償で手伝っているところを見ると。
誰も私のことを殺人鬼だとは思わないだろうね。
まぁ魔法少女に会いにいくというのが今回の目的だけれど。
だけれど少しくらい寄り道しても良いだろう。

「おう、細い兄ちゃん、ありがとな」

体の大きいおじさんがそう言いながらお茶を差し出す。

「…」

人の好意に触れるのは久しぶりだ。
私たちの世界では好意が殺意であるから。
殺意以外の思いを抱かれたことがないから。
この気持ちも、悪くない、そんな気がする。

「どうした?いらねぇのか?」

「…いえ、頂きます」

笑顔で差し出されたお茶を受け取る。
作業をこなした私の火照った体に。
その冷たさはじんと染み込んで、少しの間思考を停止させた。

「ありがとうございます」

「例ならあの嬢ちゃんにいいなよ」

「あの年だってのに皆の為に差し入れを持ってきてくれるんだ」

ふぅん。
そんな子もいるのか。
やっぱりこの街は良い街だ。

「…!」

この時私は心の底からこの街に来てよかったと思ったのだ。
知らないとは思うが私はロリコン。
自分で言うのもあれだが小さい女の子が大好物だ!

「…うぇひひ、お疲れ様です」

ストライク!
私は見事、その女の子にノックアウトされてしまった。
あえてもう一度言おう。
ストライク!!

「へー、じゃああんたは他所から来てんのか」

「まぁそう言う事になるな」

俺はすっかりこの杏子という女と打ち解けて。
何故か二人でアイスクリームを買ってベンチに腰掛けている。
まぁ何故かと理由を問われれば。
この女が半泣きで見るに耐えなかったのでアイスクリームを奢ってやった、というくだらない理由なんだけど。

「何しにきたんだ?観光?」

…。
さて、困った。
ここで本当のことを言っていいもんだろうか。
ほぼ初対面のやつに何しにきたんだ?と言われて「魔法少女を探しに」なんて答えたらどん引きされること間違いなしだ。
もしかしたら通報されるかも知れない。

「ま、まぁ、そんなとこだな」

それもこれも全部クソ兄貴のせいだ。
絶対許さねぇ、また殺す理由が増えたぞ。

「ふーん、こんな何もない街にねぇ」 

「でも杏子はここに住んでないだろ?」

「えっ?」

匂いでわかる。
馴染みきってない匂い。
違和感を隠そうとしてるその様子が逆に違和感を覚えさせるんだ。

「よく分かったな」

「あたしは友達に会いに来たのさ」

友達ねぇ。
友達、と口にした杏子はこんな俺でも少し可愛いと思うくらい笑顔だった。

「大事な友達なんだな」

「まぁな、共に危機を乗り越えた仲だからな」

ふぅん。
だったら尚更。
俺なんかと関わっちゃいけないな。

「じゃーな」

「お、おい!」

ベンチから立ち上がり後にしようとした俺を杏子は慌てて呼び止める。

「名前はなんて言うんだよ?」

「…」

「零崎、人識」

偽名みたいな名前だ。
それを信じるか信じないかはお前の勝手だけどよ。
信じてくれない方がありがたいね。
じゃないとあったばかりのお前まで死んじまうかもな。

「そっか、またアイス食おうな、人識!」

馬鹿だろ。
疑いもせず信じてんじゃねぇよ。
俺たちの世界じゃ絶対に早死するタイプだな。
お前みたいな良い奴は。
ほんとまぁ。

「傑作だぜ」

とりあえずここまで。
ゆっくりでも完結させたいです。
見てくれた方はありがとう。
お疲れ様です。

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