勇者「もうめんどくさいから、トーナメントで決着つけない?」(65)

長引く勇者と魔王の抗争──

ある日、勇者は魔王にこう提案をした。



勇者「もうめんどくさいから、トーナメントで決着つけない?」

魔王「よかろう」



普通の人間ならば、面倒になったのなら、わざわざトーナメントなど開かないであろう。

しかし、二人は正々堂々と決着をつけることにした。

これこそが、二人が『勇者』と『魔王』である所以(ゆえん)である。

一週間後──

闘技場にて、大会が開かれることとなった。



実況『観客の皆さま、大変長らくお待たせいたしましたッ!』

実況『ただいまより、勇者と魔王の戦いの決着を兼ねた──』

実況『世界最強を決めるトーナメント大会を開催いたしますッ!』



ワァァァァァ……! ワァァァァァ……!



実況『それでは出場者8名の入場ですッ!』

出場者8名──



勇者「俺が必ず魔王を倒す!」チャキッ

魔王「ワシがこのトーナメントに優勝し、世界を暗黒に変えてくれるわ!」

姫「わたくし……がんばります!」

国王「余の王の王たる実力……見せてくれようぞ!」

魔法使い「ボクの魔法で、必ず優勝してみせる!」

村長「ほっほっほ……久々に運動するかのう」

ドラゴン「ギャオオォォォォォンッ!」ズシンッ

スライム「一回戦負けだけは、イヤだなぁ……」

くじ引きの結果、組み合わせは以下のように決まった。



          ┌─  勇者
      ┌─┤
      │  └─  姫
  ┌─┤
  │  │  ┌─  魔王
  │  └─┤
  │      └─  スライム
─┤
  │      ┌─  国王
  │  ┌─┤
  │  │  └─  村長
  └─┤
      │  ┌─  魔法使い
      └─┤
          └─  ドラゴン

一回戦第一試合──

< 勇者VS姫 >



勇者と姫、ともに武器は剣である。

姫「勇者様と戦えるなんて……光栄ですわ」チャキッ

勇者「俺は魔王を倒さなきゃならない……手加減はしないぞ!」チャキッ

姫「分かっております!」

実況『勇者と姫、愛する者同士の戦い! いよいよ試合開始ですっ!』

審判「始めっ!」

勇者「だりゃあっ!」ビュオッ

姫「はっ!」ヒュオッ



パキィンッ!



二つの剣がぶつかり合い──勇者の剣が真っ二つに折れた。

実況『あーっと! 勇者、早くも自分の武器を失ってしまったァ!』

勇者「な、なんだと……!? こんなバカな……!」

姫「どうします? まだ続けますか、勇者様?」

勇者「くっ!」

勇者「やるじゃないか、姫……想像以上だよ」ニヤ…

姫(剣を折られたのに……笑った?)

勇者「ところで、すばらしい剣だね。俺の剣をあっさり折ってしまうなんて」

勇者「ちょっと見せてくれないか?」スッ

姫「…………」

勇者「どうしたんだい? 俺に剣を渡すのは怖いかい?」

姫「そんなことはありませんわ」シュッ

勇者「…………」パシッ

実況『勇者、姫の剣を受け取りました!』

勇者「なるほど……よく磨き込んでありそうだ」

勇者「ところで、君が俺の剣を折れたのは、この剣があったからこそだ」

勇者「そうは思わないか?」

姫「なにがおっしゃりたいの?」

勇者「なあに、簡単なことさ……」ニヤ…

勇者「つまり、君はこの剣がなければ、この俺に勝つことは──」



勇者「できんのだ!!!」ブオンッ



勇者は姫の脳天めがけ、全力で剣を振り下ろした。

ところが──



姫「ふふっ」ヒラリッ

勇者「くっ!」

勇者「うおおおおおおっ!」ブンブンッ

姫「こっちこっち」ヒラッヒラッ

勇者「があっ!」ブオンッ

姫「惜しいですわ」ヒラリッ



実況『姫、勇者の猛攻をことごとくかわしている!』

実況『そうっ! これはまるで……闘牛、闘牛士(マタドール)のようです!』



オオォォォォォ……!

勇者「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」

姫「うふふ、もう息が上がっておりますわよ? 勇者様」

勇者「お、おのれ……当たりさえすれば、キサマなんか……!」

姫「…………」

姫「当ててみて下さいませ」ニコッ

勇者「な、なんだとォ~~~~~!? ふざけやがって……!」

勇者「後悔しやがれ──────ッ!!!」

ブオンッ!

パシィッ!

勇者の剣は、姫の右手であっさりキャッチされてしまった。

さらに──

ボギンッ!

実況『姫、さっき勇者に渡した自身の剣をあっさりとへし折ったッ!』



勇者「う、うおおおお……!」

姫「魔物は斬れても……たった一人の姫は斬れないようですわね」

勇者「な、何者だ……!?」ガタガタ…

姫「とっくにご存じなんでしょう?」

姫「わたくしは……スーパープリンセス!!!」ジャキーン

勇者「!!!」

勇者「う、ああ、あああ……!」ガタガタ…

姫「どうやら、勝負あったようですわね」クルッ

勇者に背を向け、姫が退場しようとする。



勇者(俺は勇者なんだ……!)

勇者(だから、君は俺の手によって斬られなければならない……!)

勇者「俺に斬られるべきなんだ───────ッ!!!」ブンッ



勇者は姫の背後から、先ほど折られた剣の刃を投げつけた。



姫「…………」

姫「バカヤロ──────ッ!!!」

姫は勇者の投げつけた刃をキャッチすると、超高速で投げ返した。



勇者「うっ、うわ──」



グサッ……! ドザァッ……!



姫の投げた刃は勇者の胸に突き刺さり、勇者は倒れた。

審判「勝負ありッ!」



姫「急所には刺しておりませんわ。すぐに治療してあげなさい」クイッ

僧侶「は、はいっ!」タタタッ

実況『第一試合は、まさかの姫の圧勝ゥ! 波乱の幕開けとなりましたァ!』



ワアァァァァァ……!

ワォ

一回戦第二試合──

< 魔王VSスライム >



スライム「よろしくお願いしますっ!」プルンッ

魔王「ふん……」

魔王(勇者め、まさか女ごときに敗れるとはな……見損なったぞ)

魔王(まぁよい。ワシが姫を倒せば、勇者に勝ったことになるのだからな)

魔王「さて……と、ワシは腕力や魔力だけでなく、スピードにも自信がある」

魔王「スライムよ、おぬし如きに時間は取れぬ。短期決戦といこうではないか」

スライム「は、はいっ!」

審判「始めっ!」

ワアァァァァァ……!



実況『決着ゥゥゥゥゥ!』

実況『開始わずか2秒! 魔王立てなァ~~~~~い!』



魔王「あが……あ、が……が……」ピクピク…

スライム「いい準備体操になりました!」プルンッ



こうしてトーナメント一回戦の半分が終わった。

一回戦第三試合──

< 国王VS村長 >



国王「お久しぶりです……」

村長「ほっほっほ、まさかおぬしとこんな形で決着をつけることになろうとはのう」

実況『おや……? この二人、なにやら因縁があるようです!』



勇者「──そういえば、聞いたことがある!」

魔王「む!? おぬし、あの二人の因縁を知っておるのか!?」

勇者「ああ」

勇者「実は……村長と国王は実の兄弟なんだ。村長が兄で、国王が弟だ」

魔王「な、なんだと!? では、本来王位は──」

勇者「ああ、本来は村長が王になるはずだった」

勇者「ところが、村長はある村娘と愛し合ってしまったんだ」

勇者「だが当然、王位継承者と村娘の結婚なんて、許されるはずがない」

勇者「だから、村長は身分を捨て、弟に王位を譲り……村娘と結婚した」

勇者「ちなみに、その村娘ってのは、今の村長の奥さんだ」

勇者「ほら、あそこで応援してる」



村長夫人「あんた、ファイト~! 優勝できなきゃ晩飯抜きだよ~!」



魔王「ほぉ~、もう60歳ぐらいだというのに、若々しい奥方ではないか」

魔王「しかし、あの二人にそれほどの因縁があったとは……」

国王「では始めましょうか、兄さん」シュザッ

村長「来い、弟よ」ザッ

実況『両者、独特の構えを取った!』



魔王「む!? なんだあの構えは……拳法か!?」

勇者「そのとおり。あれは、王家に伝わる“陽王拳”と“陰王拳”の構え!」

魔王「なんだそれは!?」

勇者「国王が取っているのは“陽王拳”……」

勇者「帝王に相応しい、圧倒的な拳力で敵を圧倒する拳法だ」

勇者「対する村長の構えは“陰王拳”……」

勇者「王位継承者でない者が身につける、殺しを目的とした邪拳だ」

勇者「おそらく二人とも、“陽王拳”“陰王拳”の両方を使えるはずだが」

勇者「けじめとして、互いに相応しい拳法で挑むのだろう」

魔王「地位を捨てた男と、地位を受け継いだ男の戦いというわけか……!」

審判「始めっ!」



国王「ゆくぞ、兄さん!」

村長「来い!」

国王「クニクニクニクニクニクニクニクニクニクニィ!」

村長「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァ!」

ズガガガガガガガガガガッ!!!

実況『互いに凄まじい速度で拳を繰り出す! まったくの互角でありますッ!』



魔王「かけ声こそちがうが、全く同じ技に見えるが……ちがいはあるのか?」

勇者「ない」

魔王「ないのか!?」

勇者「ああ、ないッ!」

国王「クニクニクニクニクニクニクニクニクニクニィ!」

村長「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァ!」

国王「クニクニクニクニクニクニクニクニクニクニィ!」

村長「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァ!」

国王「クニクニクニクニクニクニクニクニクニクニィ!」

村長「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァ!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!



魔王「それにしても、さすがだな……あの国王は」

勇者「なにがだ?」

魔王「あれだけ早口で叫んでいるのにもかかわらず、ク○ニとは一度もいっておらん」

勇者「た、たしかに……!」

国王「クニクニクニクニクニクニクニクニクニクニィ!」

村長「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァ!」

国王「クニクニクニクニクニクニクニクニクニクニィ!」

村長「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァ!」

国王「COUNTRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

村長「VILLAGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

さらに加速する拳の打ち合い。



勇者「二人とも、凄まじい精神力だ。なにしろ国と村を背負ってるからね」

魔王「しかし、国よりも村の方が小さいはずだが?」

勇者「小さい分、密度が濃い! ……ゆえに互角ッ!」

魔王「なるほど!」

シュゥゥゥ……

村長「ラッシュ比べではケリがつかんか……」

国王「そのようですな」

村長「ならば、“陰王拳”最高奥義でケリをつけてやろう!」シャキーン

国王「望むところです! ならば余も奥義で相手をしましょう!」シャキーン



実況『両者、足を止め、新しい構えを取ったァ!』



勇者「この勝負……奥義を出す方が勝つッ!」

魔王「ワシと同じ考えに至ったか……さすが勇者よ」ニヤ…

村長「“陰王拳”奥義、シャドウ・ホドウ・オーダンホドウ!」

国王「“陽王拳”奥義、サン・シー・ゴロク!」

両者の究極奥義が激突する。





ズガァァァァァンッ!!!





ザワザワ…… ドヨドヨ……

実況『凄まじい爆発音! 勝ったのはどっちだァァァァァ!?』

シュゥゥゥゥゥ……

村長「ほっほっほ……」

国王「ぐっ!」ガクッ

村長「成長……したな」

村長「うれ……しい……ぞ……」ドサッ…

国王「兄さん……!」

審判「勝負ありッ!」



実況『決まったァ~~~~~! 兄弟対決を制したのは国王! 勝者は国王だァ!』



勇者「国王か……面白いヤツが上がってきたな」

魔王「うむ、ダークホースというやつだな」

勇者「もしかしたら、俺たちのどちらかがヤツと当たっていたかもな」ニヤ…

魔王「ふふふ……そのとおりだな」ニヤ…

一回戦第四試合──

< 魔法使いVSドラゴン >



実況『一回戦最後の試合!』

実況『身長165cmと、男性にしては小柄な魔法使いと』

実況『体長5メートル、体重10トンを誇るドラゴンの戦い!』

実況『体格差は圧倒的ですが……はたして!?』



魔法使い「体格だけじゃ戦いは決まらないよ。ボクには魔法があるんだからね」

ドラゴン「グルルルルル……!」ズシンッ…

魔法使い「いくぞっ!」ダッ

ズドドドドドッ!

魔法使い「はあっ!」

ドゴォッ!

魔法使い「でりゃ!」

ドガァッ!

ドラゴン「グオオオオッ……!」グラッ…



実況『左右の拳でのコンビネーションから、ハイキック、エルボーッ!』

実況『魔法使い、体術でドラゴンを圧倒しています!』



魔王「なぜだ!? なぜ魔法使いがこれほどの格闘技を!?」

勇者「魔法使いは鉄を魔法で溶かしてダンベルを作って体を鍛えたり」

勇者「召喚魔法で魔界からトレーニングコーチを呼んだりしてるからね」

魔王「なるほど! 実に魔法使いらしい鍛錬法だ!」

ドラゴン「な、なんのこれしき……!」

ドラゴン「“灼熱の炎よ、我が命によりて敵を焼き尽くせ”!」

ブオァァァァァッ!

魔法使い「くっ!」



実況『ドラゴンが右前足から炎魔法を撃ちましたが、魔法使いかろうじてかわした!』

オォォォォ……!



勇者「す、すごい! 高位の炎魔法じゃないか!」

魔王「あのドラゴンは、魔王軍最高の魔法の使い手なのだよ」

勇者「へぇ……大したもんだな」

ドラゴン「悪いが、ここで決めさせてもらう!」

ドラゴン「“重圧よ、我が眼前にある空間を押し潰せ”!」

ズシンッ……!

魔法使い「ぐうっ……!」メリメリ…

ドラゴン「クックック、この重圧には耐えられまいて!」



実況『あーっと! 魔法使いの動きが急に鈍くなった!』



勇者「なんだ、あの魔法は!?」

魔王「重圧魔法だ……今、魔法使いの体には成人男性10人分の重圧がかかっておる!」

勇者「一人60kgとすると、600kg! なんて魔法だ……!」

魔法使い(これじゃ……ドラゴンに接近するのはムリだ!)

魔法使い(だったら──)

魔法使い(召喚魔法で、ボクの胃の中にガソリンを呼び寄せる!)チャポン…

魔法使い(さらに、炎魔法でボクの口の中に炎を浮かび上がらせる!)ボワッ

魔法使い(そして、ガソリンを吐き出せば──!)オエッ…

魔法使いの口から、強烈な炎が噴射される。



ゴォアァァァァァッ!!!



ドラゴン「なにぃぃぃっ!?」

ドラゴン「し、信じられん! まさか、炎を吐き出す生き物が存在するとは!」

ドラゴン「だが!」

ドラゴン「“白き壁よ、悪しき炎から我を守れ”!」シャキーン



ゴォアァァァァァッ!!!



魔法使い「!」

実況『おーっと! 白い壁によって、魔法使いの炎のブレスは全て遮断されたァ!』

魔法使い「ぐ……!」

魔法使い「今の技は一度使うと、内臓を大火傷する自爆技……ボクの負けだ」ガクッ

審判「勝負ありッ!」

実況『ここで魔法使い、ギブアップ! ドラゴンが二回戦進出だァッ!』



ワアァァァァァ……!

ドラゴン(あっぱれな戦いだった……もし私が人間だったら惚れていたかもしれん)

ドラゴン「すぐに治療しよう」

ドラゴン「“聖なる光よ、傷つきし者に癒しを与えよ”」パァァァ…

魔法使い「ボクを……治療してくれるのかい?」

ドラゴン「竜の世界にはこんなことわざがある」

ドラゴン「『もし火を吐いて死にそうになった魔法使いがいたら治してやれ』とね」

魔法使い「ふふ、ずいぶん具体的なことわざだね。ありがとう……」ニコッ



実況『敵味方と種族を超えた美しい友情! 皆さま、拍手をお願い致します!』

ワアァァァァァ……! パチパチパチ……!



魔王「魔法の達人であるドラゴンと、炎を吐く魔法使いの戦いか……」

魔王「意外性こそなかったが、いい戦いであった」

勇者「うん……両者、自身の長所を最大限に発揮した名勝負だった」

準決勝第一試合──

< 姫VSスライム >



実況『いよいよトーナメントは準決勝へ!』

実況『姫とスライム、先に決勝に駒を進めるのはどっちだ!?』

ワアァァァァァ……!



スライム「よろしくお願いします」プルンッ

姫「こちらこそ」



審判「始めっ!」

姫(決勝で戦う可能性があるのは──お父様かドラゴン! どちらも手強い!)

姫(ここでスライム相手に、余計な体力を使うわけにはいきませんわね!)

姫「一気に決めさせてもらいますわ!」サッ

スライム「!」



実況『これは……!? 先ほど国王が見せた“陽王拳”の構えだァ!』



魔王「ほう、姫も“陽王拳”を使えるのか」

勇者「国王の実娘なんだから、当然だろうね」

姫「ヒメヒメヒメヒメヒメヒメヒメヒメヒメヒメェ!」

ズガガガガガガガガガガッ!

姫「ヒメェッ!」

ズガァッ!

姫「PRINCESSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!



実況『ものすごい速さのラッシュ! 先ほどの国王のよりも速いような……』



勇者「速いはずさ……」

勇者「なにしろ、姫は急傾斜の坂道をダッシュで駆け上がる特訓を毎日してるからね」

魔王「瞬発力に自信あり、ということか……」

魔王「だが、いくら速くとも打撃技では──」

スライム「ざ~んねん」プルンッ

姫「え!?」

スライム「ぼくには全然きいてませんよ~」ペチャッ…

姫「な、なんですって!?」

スライムのゲル状の体が、姫の体にへばりつく。

実況『なんとォ! スライムには姫のラッシュが全く効いていない!』



スライム「ちなみにぼくの体って、服を溶かすことができるんですよ」ジュルジュル…

姫「服を……!?」

スライム「こんだけ観客もいることだし……」ジュルジュル…

スライム「ストリップショー、してもらいましょうか」ジュルジュル…

姫「ああ、あああっ……! わたくしのドレスが……!」ジュワァァァ…



ワアァァァァァ……!

姫「いやああっ……ああああっ……!」ジュワァァァ…

姫「くっ……なんてことなの……」ボロッ…

スライム「さぁ、降参してもらいましょうか?」

スライム「これ以上、溶かされたくなかったらね」

姫「え? なぜ?」

スライム「えっ」

姫「えっ」



勇者「ふぅ……」

魔王「ふぅ……」

勇者「さて、賢者化(スッキリ)したところで、解説と驚き役を再開しよう」

勇者「スライムは大きなミスを犯した……!」

魔王「ミスだと……!? いったいどんなミスを!?」

勇者「姫は、脱げば脱ぐほど強くなるタイプ! ようするに、露出狂だ!」

魔王「なにィィィィィ~~~~~~~~~~!?」

スライム「ひっ!」ササッ

姫「あら? まだ肝心なところが溶けてませんわよ?」ズイッ

スライム「ぼくは……いやがる女を脱がせるのが好きなんだ!」

スライム「あんたみたいなヘンタイに用はない!」

姫「あら……ならばもう、わたくしとしてもあなたに用はありませんわ」

姫「これだけ脱げれば十分、本気を出せますしね」シャキン

姫「“陽王拳”と“陰王拳”を合わせた究極拳、“陰陽王拳”!!!」



ドゴォォォォォンッ!!!



スライム「うぎゃあああああああああああっ!」



勇者「初めて見た……!」

勇者「たとえ、物理攻撃が効かない相手でも問答無用で倒す、“陰陽王拳”!」

魔王「なんという語呂の悪さ……!」

スライム「ま、参りました……」ガクッ…

姫「こちらこそ、ちょっとやりすぎましたわ」

審判「勝負ありッ!」



実況『準決勝第一試合、ついに決着ゥ~~~~~!』

実況『姫、スライムを下し、みごと決勝進出ですッ!』



ワアァァァァァ……!



国王(余と兄さんでもついに会得できなかった“陰陽王拳”を会得していたとは……)

国王(我が娘ながら、恐ろしい才能よ……)

準決勝第二試合──

< 国王VSドラゴン >



ワアァァァァァ……!



国王「なんとしてもおぬしを倒し、娘との戦いに臨む!」

ドラゴン「ギャオオォォォォォンッ!!!」ズシンッ…



審判「始めっ!」



国王「ぬおおおっ! “陽王拳”究極奥義、サン・シー・ゴロク!」

ドラゴン「“竜巻よ、我に近づく敵をはじき飛ばせ”!」ビュオオオッ

バチィンッ!



実況『ドラゴンを守る竜巻によって、国王が弾き飛ばされたァ!』



国王「ぐっ!?」ドサッ…

国王(究極奥義が……通用しない!?)

ドラゴン「今のがキサマの最強技のはず……終わりだな」ズシンッ…



勇者「国王陛下……ここまでかッ!」

魔王「文字通り……王手となってしまったか!」

勇者「お、今うまいこといったね」

魔王「よせやい」テヘッ

ドラゴン(しかし、中途半端な魔法はこの国王には通じまい。魔力を無駄にするだけ……)

ドラゴン「最上級の魔法でトドメを刺すとしよう!」ボワァッ

ドラゴン「“黒き炎よ、我が敵にまとわりつき、血も肉も骨も残すな”!」

グオァァァァァッ!

ドラゴンの右前足から、暗黒の炎が放たれる。



ボワァァァァァッ!

国王「ぐおあああああああああああっ!!!」ボワァァァ…



ドラゴン(終わった……)

国王「…………」プスプス…

ドラゴン「なにっ!?」

実況『国王、服こそ燃え尽きてしまったが、立っています! なんというタフネスッ!』



国王「ドラゴン君、君のおかげでようやく余は最終形態となれた」ボロッ…

ドラゴン「さ、最終形態……!? なんだそれは!?」

国王「“裸の王様”になァ!」スッポンポーン



勇者「は、裸の王様だと!?」

魔王「知っているのか、勇者!? 裸の王様とは、いったいなんなのだ!?」

勇者「詐欺師にだまされて裸で歩いてた王様が、子供に指摘されるという童話だ」

魔王「ほぉ~、権力は真実をも歪めるという風刺が込められた名作ではないか」

国王「この形態であれば、余も使えるッ!」

国王「“陰陽王拳”をなァ!」



ドゴォォォォォンッ!!!



しかし、地面に叩きつけられていたのは国王であった。

国王「が、がはっ……!」

国王「余の力を丸ごと返されるとは……不覚」ガクッ

ドラゴン「習っててよかった……合気道!」

審判「勝負ありッ!」

実況『ドラゴン、合気道によって、国王の技をかろうじて返したァ~~~~~!』



魔王「魔法に加え、合気道とは……ドラゴン恐るべし!」

勇者「巨体を全く生かさない戦闘スタイル……男らしいぜ!」

魔王「アイツ、メスだけどな」

決勝戦──

< 姫VSドラゴン >



ワアァァァァァ……!

実況『ただいまより、決勝戦を開始いたします! ──両選手入場!』



姫「正々堂々戦いましょう」

ドラゴン「グルルルル……!」ズシンッ…

大歓声の中、ついに決勝戦が始まった。



姫「“陰陽王拳”!!!」ズオッ

ドラゴン「──を、合気道で返す!」グルッ

姫「その力を利用して──蹴るッ!」グルルッ



ドゴォンッ!!!



ドラゴン「グギャアアアッ!」ドズンッ…

姫「合気道は覚えました……わたくしには通用しませんわよ」



実況『すっ、凄まじい攻防! それにしても姫の実力は底が知れません!』



ワアァァァァァ……!

ドラゴン(くっ……! 数々の上級魔法を使い、合気道まで放った私には──)

ドラゴン(もう力が残っていない……!)

姫「さぁ、終わりにしましょう」スタスタ…

ドラゴン「うっ!」ビクンッ

姫「?」

ドラゴン「どうやら……“ドラゴンブレス”をしなければならないようだ」

姫「なんですの、それ?」



実況『ドラゴン、謎の技を予告! ドラゴンブレスとはいったいィ!?』



勇者「ドラゴンブレス……聞いたことがない技だな。どんな技か想像すらつかないよ」

魔王「ま、まさか……ッ!」

ドラゴン「ヒッヒッフー」

ドラゴン「ヒッヒッフー」

ドラゴン「ヒッヒッフー」

姫「…………!?」



実況『ドラゴンが独特の呼吸を開始! これがドラゴンブレスなのでしょうか!?』



姫「ちょ、ちょっと……苦しそうだけど大丈夫!?」

ドラゴン「うっ、うっ、ううう……」

ドラゴン「産まれるゥゥゥゥゥ……!」ゴロン…

姫「えええええっ!?」

ドラゴン「ついさっき気づいたんだ……私は妊娠、していたのだと……!」ヒッヒッフー

ドラゴン「ドラゴンの子供は、母体に対して小さく、気づきにくいからな……!」ヒッヒッフー

ドラゴン「うぐぅぅぅぅ……!」ヒッヒッフー



実況『なんということだァ~~~~~~~~!!!』



姫「どうしましょう、お父様!」

国王「余にいわれても困る……! 兄さん、どうすれば!?」

村長「わしもドラゴンの出産なんぞ、立ち会ったことはないからのう」

スライム「このままじゃ、死産になっちゃうよ!」

魔法使い「くっ……! 出産魔法なんて存在しないし……どうすればいいんだ!?」

オロオロするばかりで、手の打ちようがない選手たち。

まさに烏合の衆、有象無象である。



すると──

魔王「数ばかりいて、だらしがない奴らだ!」バサッ…

勇者「ここは俺たちに任せてもらおうか!」スタッ



姫「勇者様!?」



魔王「ドラゴン! ドラゴンブレスを維持したまま、ゆっくりと力を入れるのだ!」

魔王「焦らなくていい!」

ドラゴン「は、はい……」ヒッヒッフー

勇者「よし……赤ん坊が少しずつ出てきた!」

勇者「あとは俺が丁重に引っぱりだす」グイッ…



大勢の観客と選手が見守る中、ドラゴンの出産が進められていく。

やがて──



子ドラゴン「おぎゃあ……! おぎゃあ……!」



魔王「やったな、勇者!」

勇者「ああ!」

パシィッ!

ライバル同士の美しいハイタッチ。



ワアァァァァァ……!

ワアァァァァァ……!



実況『つ、ついにやりました! 勇者と魔王の手によって、新しい生命が誕生したァ!』

ドラゴン「私はもう戦えん……。よって優勝は──」

姫「いいえ……わたくしに優勝者の資格はありませんわ」

姫「この大会の優勝者、もう観客の皆さまも参加者も分かっているでしょう?」

姫「──そう」

姫「勇者様と魔王の同時優勝ですわ!」



ワアァァァァァ……!



ユ、ウ、シャ! ユ、ウ、シャ! ユ、ウ、シャ! ユ、ウ、シャ! ユ、ウ、シャ!

マ、オ、ウ! マ、オ、ウ! マ、オ、ウ! マ、オ、ウ! マ、オ、ウ!

国王「異議なし」パチパチ…

村長「文句なしじゃわい」パチパチ…

スライム「そのとおり!」プルプル…

魔法使い「ありがとう、勇者! 魔王!」パチパチ…



ユ、ウ、シャ! マ、オ、ウ! ユ、ウ、シャ! マ、オ、ウ! ユ、ウ、シャ!

マ、オ、ウ! ユ、ウ、シャ! マ、オ、ウ! ユ、ウ、シャ! マ、オ、ウ!



実況『今大会の優勝者は、勇者と魔王に決定いたしましたァ!!!』

ワアァァァァァ……!

声援に応える二人の英雄。

勇者「ありがとう、みんな! 苦しい戦いだったが、優勝することができた!」

勇者「俺たちの同時優勝を祝って、これからは人も魔族も仲良くしよう!」

魔王「うむ! もはや我らの間に壁はない!」



ワアァァァァァ……!



普通の人間ならば、自分たちは一回戦負けだからと委縮してしまう場面であっただろう。

しかし、二人はほんのわずかな気後れもなく、堂々と優勝者として振る舞った。

これこそが、二人が『勇者』と『魔王』である所以(ゆえん)である。





                                   ─ 完 ─

これで終わりです

姫にボコられる勇者とスライムにボコられる魔王をやりたかったがための物語ですが
楽しんでいただけたら嬉しいです

何が何だか分からなかった


なかなかのSSだった


テヘッしちゃう魔王かわいい

出産乙

ツッコミどころが追いつかないよ!!

世界平和乙

乙!

正直言うと後半尻すぼみ感があった

ちょっと待てよ!?って感じで面白かった

いつも独特のテンポがあって、投下中にどんなレスをしたらいいのか分からん

ちょっと後半失速気味だったかな?

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