灰原「死(イノチ)の果てに遺る希望(モノ) (150)
灰原「死が2人を結ぶまで」
灰原「死が2人を結ぶまで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427285741/)
の続編です。
エロ注意でお願いします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427900644
灰原(あれから2ヶ月......)
灰原(APTX4869の解毒剤を飲む事が寿命を縮める事が分かり、苦悩の果てに死を近付ける事と引き換えに元の身体に戻ってから2ヶ月)
灰原(あれから私は、外国に行く事を選択した彼に寄り添い旅を続けて来た)
灰原(そして、今は......)
某国。とある片田舎。
灰原「......今日もいい天気ね。とても気持ち良いわ」
村人「やあシホ。おはよう」
灰原「おはようございます」
村人「今日はシンイチは?一緒じゃないのかい?」
灰原「まだ寝てるわ。起こしちゃ悪いから先に買い物に出たの」
村人「そうかい、気を付けてな」
灰原「ありがとう」
市場。
灰原「さて、何を買おうかしら......」
村人「あらシホ。おはよう」
灰原「おはよう」
村人「旦那はまだ寝てるのかい?」
灰原「旦那じゃ無いってば......。まあ、寝てるのは間違いないけど」
村人「そうかい、なら寝覚めにスープでも作ってあげなよ。野菜、安くしとくよ」
灰原「ええ、そうね。頂くわ」
村人「はい、毎度。旦那に宜しくね」
灰原「だから、違うのよ......」
灰原(そうなら、良いのだけどね......)
灰原「......ちょっと買い過ぎたわね。重いわ。やっぱり彼に来て貰えば良かったかしら」
灰原「ま、今更仕方無いわね。もう家だし」
ガチャッ......
灰原「ただいま」
新一「あ、灰原!どこ行ってたんだよ?!」
灰原「見て分からないかしら?朝寝坊の探偵さんの為に朝御飯を作ろうと買い物に行って来たのよ」
新一「起こしてくれりゃ荷物位運んだのに」
灰原「別に良いの。散歩がてらだし。気に病むなら調理を手伝って」
新一「わ、分かった。着替えるわ」ダッ
灰原「全く。中途半端に起きる位なら寝ていてくれた方が良いのに。起きてから驚かすつもりが台無しね」クスッ
灰原「ま、とにかく支度しましょう......」
灰原(あれから私達は、色んな国を転々と回った。アメリカ、中国、インド、オーストラリア、南米、アフリカ......)
灰原(1ヶ所にはあまり長居はしなかったけど、様々な所を見て回った。宛も無く......)
灰原(動き回っていないと、死を意識してしまいそうだったから......)
灰原(だけどつい半月程前。たまたま訪れたこののどかな片田舎をどういう訳か気に入った私達は、暫くの間ここに滞在する事にした)
灰原(幸い、この村の人達はとても優しく親切に接してくれた。暫く留まりたいと言うと、長く使っていないけど綺麗な空き家を貸してくれた)
灰原(そして、同居生活を始めて気が付けば今に至っていた)
灰原(余りにゆっくりとしたこの村の空気が、時の流れを忘れさせたかの様に......)
灰原「やっぱり......。ありきたりだけど人間最後は自然に近しい所に行きたがるのかしらね」
新一「よ、待たせたな」
灰原「慌てなくて良かったのに」
新一「何かやらせっぱなしは落ち着かねーからさ。あ、これ切れば良いか?」
灰原「ええ、お願い」
新一「おう、任せとけ!」
灰原(こんなありきたりの日常を、彼とこんな所でするなんて思いもしなかった)
灰原(人生、何が起きるか分からないものね......)
新一「ってぇ!」
灰原「......!どうしたの?」
新一「いや、ちょっと切っちまった」
灰原「気を付けてって言ったのに、大丈夫!?」
新一「大丈夫だ、洗やぁ平気だよ」
灰原「良いから見せて!」
新一「あ、ああ」
灰原「結構血が出てるじゃない!」
新一「だから大丈夫だって、すぐ......」
パクッ......
新一「いっ?!」ドキッ
灰原「んっ......」チュッ......
新一「お、おいちょっと......」
灰原「んっ......」チュルチュル......
新一「......も、もう大丈夫だよ」ドキドキ
灰原「......ふぅ」
新一「あ、ありがとう」ドキドキ
灰原「そんな事は良いから、休んでて。後は私がやるから。ね?」
新一「分かった......」
灰原(......あなたの体調を気にして1人で買い物に行ったのに。ケガしたら意味無いじゃない)
新一(余計な気を使わせちまったな、つーかまだ胸鳴ってやがら......)ドキドキ
新一(迷惑掛けたのになんつーか、どうしようも無ぇな。俺......)
灰原「お待たせ。はい、どうぞ」
新一「サンキュー。じゃ早速」
「いただきます」
灰原「......どう?お味は」
新一「いやあ、最高だな!スゲー旨い!」
灰原「......露骨な褒め過ぎは逆効果よ」
新一「......すんません。でも旨いのはウソじゃねーよ」
灰原「そう。なら一応信じるわ」
新一(可愛くねー!相変わらずこう言う所は可愛くねー!!)
灰原「今、可愛く無いとか思ったでしょう」
新一「えっ?!」ビクッ
灰原「私を敵に回すと、今後大変よ?ここじゃあレトルト食品もなかなか手に入らないし、あなたのご飯はどうするのかしらね?」
新一「......」
灰原「返事は?」
新一「わーったよ、悪かったよ。可愛くなくないです、灰原さんは世界一可愛いです」
灰原「......!!」
新一「あ?どした?」
灰原「な、何でも無いわ。早く食べて」
新一(はっはーん?コイツ照れてんな?)ニヤリ
灰原「そのニヤケ顔、早く止めないと殴るわよ」
新一「へいへい、分かりましたよっと」
灰原「全く......」
灰原(ここに来てから、こんな生活が続いていた。何だか照れ臭い様な、気恥ずかしい様な関係......)
新一「なあ、後で俺も買い物行きたいからさ。一緒に行こうぜ」
灰原「あら、良いけど......。何買うの?」
新一「それは見てから決めるさ。まあ、買い物ってより外に出て2人で歩きたいのさ」
灰原「そう。良いわよ」
新一「良し。じゃあ食べちまわないとな!」
灰原「焦らないでよ?でないと」
新一「......っぐ!」ドンドン
灰原「言わない事じゃない。喉詰まるわよって言おうとしたのに。はい、お水」
ゴクッゴクッ......
新一「......っはぁ、助かった」
灰原「大丈夫?慌てるからよ?」
新一「ワリーワリー。大丈夫だ」
新一「なるべく早い方が良いからな、何でも」ボソッ
灰原「え?」
新一「いや、何でも。さ、食事の続きだ」
灰原「え、ええ......」
灰原(......工藤君、あなたもやっぱり)
灰原(ここに来てから、穏やかで幸せな日々を過ごせてはいるけど)
灰原(やはり不安や気にかかる事が無い訳では無いものね)
灰原(もっとそれをストレートに私に見せてくれれば良いのだけれど......)
灰原(いえ、それは私も同じよね。あなたになかなか話せない事もあるし)
灰原(どこまで行っても不器用よね、私達......)
新一「......んーっ、風が気持ち良いな」
灰原「そうね。本当に......。と言うか食べてすぐで大丈夫?」
新一「平気さ、散歩するだけだから」
灰原「なら良いけど。それにしても、ここは本当にのどかで良い所ね」
新一「ああ。正に田舎って感じだからな。落ち着くよなあ」
灰原「何故私達、ここがこんなに気に入ったのかしら?」
新一「そうだなあ、あんまり経験した事無いからじゃねーかな?こういう所の」
灰原「経験が無い?」
新一「ホラ、俺は親があんなだからさ。結構色んな所連れ回されてたしさ。灰原もまあ、その......」
灰原「そうね。私も家庭があんなだし、あまり田舎に遊びにって言うのは無かったかもね」
新一「そ。だから、あんまり経験が無い分余計にここに田舎らしさと言うか、懐かしさを感じるんじゃねーかな?」
灰原「なるほどね。一理あるかも」
新一「だろ?」
灰原「ええ。そう言えば、今家族の話が出たけどあなたのご家族。心配してるわよね......。きっと」
新一「ん?ああ。どうかな。口に出す様なタイプでも無けりゃ、慰めるってタイプでもねーしな。俺が覚悟を決めたなら、好きにしなって言ってたさ」
灰原「そう......」
新一「何か引っかかるのか?」
灰原「いえ。ただ、あなたの時間を私だけで独占してしまって良いのかと思って......」
新一「バーロ。俺がそう望んだんだ。オメーが気に掛ける事はねーよ」
灰原「......ええ。ごめんなさい、変な話して」
新一「気にすんなよ。ホラ」スッ
灰原「え?」
新一「せっかく2人で歩いてんだから、手」
灰原「......ん」スッ
新一「良し。じゃあゆっくり歩こうぜ」
灰原「ええ」
灰原(......ちょっと変な話をしてしまったかしら)
灰原(それとも気の遣いすぎ、かしら......)
灰原(せっかくこうして彼と手を繋ぐ事が出来る様になったのに、このぎこちなさは何なのかしらね)
灰原(......私の心がそうさせているの?それとも、彼の?)
新一「......っし。着いたな」
灰原「ええ。宛も無くね」
新一「まあそう言うなよ、村のみんなの顔も見たいんだよ」
村人「やあシンイチ。今日は遅いね」
新一「あ、こんばんは。ちょっと寝坊しちゃって」
村人「そうか。まあ、奥さん1人で買い物は大変だから、ちゃんと手伝ってあげなよ?」
新一「いや、その、奥さんじゃ......。んん。分かりました」
村人「うん。それじゃ。奥さんもまた」
灰原「あ、はい。また」
新一「......何回か奥さんじゃ無いって説明してんだけどなあ」
灰原「まあ、その位仲良く見えているなら良い事じゃない?」
新一「まあ、そうだけどさ」
灰原(......そう呼ばれるの、彼は嫌なのかしら)
灰原(......かも知れないわね。何せ、私達未だそう言う......。深い仲にはなれていないものね)
灰原(彼の中にこれ以上深く入るのは、私には無理なのかしら......)
>>13
訂正
こんばんは→こんにちは
少女「あ、シンイチだ!」ダッ
少年「シホもいる!」ダッ
新一「あ、村の子供達だ」
灰原「あら、あなた達。学校は?」
少女「今日は休みだよ!」
灰原「そう、良かったわね」
少年「ねぇねぇ、今日もニッポンの話してよ!」
灰原「ええ、良いわよ。良いわよね?工藤君?」
新一「灰原が良いなら、俺は構わないぜ」
灰原「ありがとう。じゃあみんな、またお話しましょうか」
少女「やったぁ!」
少年「じゃあ、教会に来てね!」
灰原「ええ。行くわ」
少女「きっとだよ!」ダッ
灰原「ええ。慌てて転ばない様にね」クスッ
新一「やれやれ。すっかりガキに懐かれたもんだな。特に灰原は」
灰原「良いじゃない。知り合いが増えるのは喜ばしいわ」
新一「ま、そうだけどさ」
灰原「そうよ。大体、日本人が珍しくて寄ってきたあの子達に親切に接してたのはあなたが先じゃない?あなた、面倒見が良いし」
新一「そうだっけ?オメーも随分楽しそうにしてるけどな」
灰原「まあ、そうね。何だかあの子達を思い出してしまって」
新一「......ああ、そうだな。アイツら、元気にやってっかな?」
灰原「きっと大丈夫よ。あの子達なら。それより早く行きましょう?待たせちゃ悪いわ」
新一「ああ、そうだな」
新一(......嬉しそうだな。灰原。意外と子供好きなんだな)
新一(まあ、オメーもアイツらの面倒見良かったもんな......)
灰原「どうかしたの?」
新一「あ、いや。何でも。行こうぜ」
灰原「ええ」
新一(......灰原、ひょっとしたらオメーは)
新一(いや、深く考え過ぎかな......)
新一(もしそうだとして、俺は応えられるのか......?)
新一(アイツの望みに......)
少女「......へぇ、ニッポンにも私達みたいな子供がいるの?」
灰原「ええ、そうよ。その子達とも仲良くしてたわ。私の大事なお友達だった」
少女「そうなんだぁ、会ってみたいなあ!」
少年「シンイチとも友達だったの?」
新一「ああ。まあな。いつもムチャやる連中だったけど、大事な仲間だったよ」
灰原「ムチャするのは、あなたも同じじゃない?」クスッ
新一「あのなあ......。ま、とにかく良いヤツらだったよ」
少女「そうなんだぁ、会ってみたいなあ!」
灰原「ええ、いつかきっと会えるわ」ニコッ
少年「ねぇねぇ、シンイチ達もいつかニッポンに帰るでしょ?僕達の事、その子達に紹介してよ!いつか会いたいって」
新一「......!」
灰原「......!」
少女「どうしたの?シンイチ?シホ?」
灰原「あ、いえ。その......。私達は、もう日本には帰らないの」
少年「どうして......?」
灰原「その......」
新一「灰原、俺が話すよ。んん。実はさ。俺達ちょっと具合が悪くてさ。身体を休めにここに来たんだ」
少女「そうなの?シホも?」
灰原「ええ、まあ......」
少年「そうなんだ、かわいそう......。でも、何で帰らないの?治ったら帰れるでしょ?」
新一「その、治ったら仕事があるからさ。別の国に行かなくちゃ行けないんだ。だから、日本に帰るのはずーっと先なんだ」
少女「そうなの?」
新一「ああ。それに、俺達この村が気に入ってるからさ。空気が綺麗で、山も森も川も綺麗でさ。治ったとしても当分はいるつもりだからさ」
少年「そっかぁ、じゃあ仕方無いね」
新一「ワリーな。アイツらもみんなに会えたら喜ぶと思うんだけどな」
少年「仕方無いよ。ねぇねぇ、それより前シンイチ話してたけど、シンイチサッカー得意なんでしょ?」
新一「ん?まあ少しはな」
少年「今度僕達に教えてよ!」
新一「ああ、良いぜ。時間のある時教えてくれればな」
少年「ホント?約束だよ?」
新一「ああ、約束だ」
灰原「良かったわね」
少年「うん!」
少女「......」
灰原「あら、どうかしたの?」
少女「ううん。ちょっと不思議だったの」
灰原「不思議?」
少女「うん。どうしてシンイチはシホの事ハイバラって呼ぶの?」
灰原「......!」
新一「あ、いやそれは......」
ガラーン......ガラーン......
少年「あ、お昼の鐘だ!」
少女「帰らなくちゃ!またね、シンイチ、シホ!」
灰原「ええ、またね」
灰原「......ありがとう、工藤君」
新一「何、口八丁は俺の十八番さ。子供に聞かせるには重い話だからな」
灰原「そうね......」
新一「でも、アイツらが不思議がるのも無理はねーか。もう元の身体になってオメーは宮野志保なのに、俺だけ違う名前で呼んでるんだから」
灰原「ええ、まあ。確かに」
新一「いっそ俺も宮野って呼ぶか?やりづらくねーか?」
灰原「良いのよ。灰原で。組織にいた頃はコードネームばかりで呼ばれてたから名前で呼ばれるのは慣れてないの。パスポートと名前が違うと面倒だからここでは本名を名乗ってるけど......」
灰原「私には灰原哀が1番人生で気楽に呼んで貰えた名前だから。あなたにはそう呼んで欲しい」
新一「......分かったよ、オメーがそう言うならな」
灰原「ありがとう。あら?何だか天気が」
新一「ああ、ホントだ。雨が降らない内に帰ろうか」
灰原「ええ、そうね」
なんとも言えない距離感…
新一(何だかな......。もどかしいな)
新一(側にいるのに、何なんだこの感じ。オメーも感じてるのか?灰原......)
灰原(......名前位、好きに呼ばせてあげれば良いのに。何故こう拘ってしまうのかしら)
灰原(また、いらない気遣いをさせてしまったわね。彼に......)
灰原(この先も私達は、こうやって気を遣い続けるのかしら......)
灰原(少し踏み出す事も必要、かも知れない。時間も無いのだから、私達には)
その日の夜。
新一「さて、そろそろ寝るか?」
灰原「そうね。そうしましょう」
新一「ここは夜が来るのが早いよなあ、すぐ辺り一面真っ暗だ」
灰原「そうね。でも、明るくなったら起きて暗くなったら眠るのは人間らしい生活とも言えるわね」
新一「そうだな。する事も無いし、早く寝る方が良いかもな」
灰原「そうかも知れないわね」
灰原(眠る事を勿体無くも思うけど......。ここに来てから体調も良いのはそう言う生活のお陰かも知れないし、複雑ね)
灰原(これから自分のしようとする事を考えると、それも複雑だけれど......)
新一「じゃ、灯り落とすぜ」
灰原「ええ、お願い」
新一「よし」フッ
新一「やれやれ。電気はあるけど、寝室の灯りはランプとはクラシックだよな」
灰原「趣があって良いじゃない」
新一「そうかもな。さ、横になろうぜ」
灰原「ええ」
新一(こうして灰原と一緒に寝る様になるなんてな。最初は心臓が破裂しそうな程緊張したもんだ。今もまだドキドキするけどな......)
灰原「ねぇ、工藤君」
新一「ん?」
灰原「もう少し側に寄っても良いかしら」
新一「え?!あ、ああ。良いよ」
灰原「ありがとう、じゃあ」ギュッ
新一「......っ」ドキッ
新一(何のつもりだよっ?!今までこんな......)
灰原「......驚いてる?」
新一「え?」
灰原「今まで一緒に寝た事はあっても、こんなに近付いた事は無いものね」
新一「いや、その......。まあビックリはしてる......かな」
灰原「イヤ?」
新一「へ?」
灰原「私がこんなに近付くのは、イヤ?」
新一「イヤな訳無いだろ?ただちょっと、いきなりだからさ」ドキドキ
灰原「......いきなり、かしら」
新一「え......っ」
灰原「あの日米花町を旅立ってからしばらく経つけど、その間あなたは私の身体に積極的に触れる事は無かったわよね。手を繋ぐか、抱き締める事はあったけど......。それ以上に至る事は無かった」
新一「いや、その......」
灰原「良いの。仕方無い事だから。あなたが選びたくて選んだ道では無いし、ここに至るまでの後悔も知っているから」
新一(灰原、オメー......)
灰原「そう、あなたの気持ちは分かってる積もりだけど......。でもやはりこの何だかギクシャクした時間が続いてると、色々余計な事まで考えてしまって」
灰原「更に気を遣いすぎで、上手く行かなくって」
新一「......」
灰原「だから、もう少し踏み込んで見たくて。でも、どうしたら良いのか分からなくて」
灰原「......結局、何だかんだ言ってももっとあなたに構って欲しい。そんなワガママなのかも知れないわね」
灰原「あの日、あなたと口付けを交わせただけで。こうしていられるだけで十分なハズなのにね。自分の本音が分かると呆れてしまうわ」
灰原「あなたも呆れるわよね。きっと」
新一「いや、そんな事ねーよ」
灰原「工藤君......」
新一「上手く言えねーけど、俺もその......。色々戸惑うと言うか、どうしたら良いのか迷っちまう事もあってさ。きっと変に気を遣いすぎなんだろうな、俺も」
灰原「......」
新一「オメーを気遣うつもりが、却ってお互いに余計な詮索のし過ぎになってんだろうな」
灰原(......工藤君)
新一「いや、俺がビビりなだけなのかもな。1歩踏み出す事で起きる変化を怖がってるのかな」
灰原「それは私も同じよ。あなたへの愛情と不安の矛盾に振り回されている」
新一「......結局、まだまだガキって事なのかな。俺達」
灰原「......そうかも知れないわね」
新一「......なあ灰原」
灰原「何?」
新一「オメーも色々言いたい事はあるだろうし、俺も言いたい事がある。多分たくさん」
灰原「......ええ」
新一「それを一辺に聞いたり話したりすんのは難しいけど......。もっとオメーに踏み出したいのは俺も同じなんだ」
灰原「......ええ」
新一「だから、後ホンの少しだけ時間くれねーかな。ホンの少しだけ」
灰原「勿論。そう言ってくれるだけで嬉しいわ」
新一「ありがとう、灰原。な、なあ」
灰原「なぁに?」
新一「その、何て言うかな。口だけで言ってもアレだから、行動で示したいんだけどさ」
灰原「行動?」
新一「ちょっと起き上がって、座ってくれ」
灰原「......?」
新一「頼むよ、な?」
灰原「え、ええ」
灰原(何?何なの?)ムクッ
灰原「......これで良い?」
新一「ああ。眼を閉じて」
灰原「......分かったわ」スッ
新一「......動くなよ?」
灰原「分かったけど、何なの?」
新一「......」
チュッ......
灰原「!!!」
新一「......」
灰原(く、どう......くん?あ、あなた......。今、私に......)
灰原(キス、してるの......?)
新一(バカか、俺......。行動って、こんなやり方以外にもっと......)
新一(もっと他に......。やり方、が......)
新一(タメだ......頭が、白くなって、行く......)
灰原「......」
新一「......っ、はぁ。だ、大丈夫か?灰原?」
灰原「......」
新一「灰原?」
灰原「......ごめんなさい。頭がボーッとしちゃって」
新一「あ、ああ。その、ワリー。こんな不意打ちみたいに......」
灰原「何か謝る事が?不意打ちなら、私の方が先だもの。気にする事無いわ」
新一「あ、ああ。でも」
灰原「......まあ、不器用なやり方だけど。今のあなたの表したい感情がこうなのだと言うなら、私には喜ぶべき事よ」
新一「......うん。その、今はこれが精一杯っつーか」
灰原「バカね、十分過ぎるわよ。ありがとう」
新一「......ありがとう、こっちこそ」
灰原「何が?」
新一「ありがとうと言ってくれるオメーに対する全てに、ありがとう」
灰原「何よそれ?変な言い方」クスッ
新一「......そうかもな」フッ
灰原「......さあ、今日はもう休みましょうか。遅くなってしまったし」
新一「ああ、そうだな......」
灰原「......また明日、話しましょうね。色々」
新一「ああ、また明日......。もっと色々な」
灰原「ええ。じゃあ、お休みなさい」
新一「ああ、お休み......。あ、そうだ。ホラ」スッ
灰原「?」
新一「ん!」
灰原「何?この腕?」
新一「腕枕ってヤツだよ、ホラ」
灰原「......!そう、じゃあ遠慮なく」クスッ
新一「お、おう」
灰原「......んっ、痛くない?」
新一「大丈夫だ。意外と痛み無いんだな」
灰原「そう。経験無いの?」
新一「ねーよ、んな事の経験なんて」
灰原「そう......。なら、何だか安眠出来そう」クスッ
新一「何だよ、そりゃ」フッ
灰原「じゃあ、今度こそ」
新一「ああ、お休み」
灰原(......無理させた、かしら。でもダメね)
灰原(今はただ嬉しくて嬉しくて......。他に何も考えが出そうに無いんだもの......)
灰原(例えこれが芯からのモノでは無いとしても......)
灰原(して貰えるハズの無いことをして貰えただけで、嬉しくて堪らないのだから......)
灰原(この時の私は、正直浮かれていた。彼との距離が縮まった様な気がして。だから気が付いていなかった)
灰原(この話の中には、結局お互いの核心に触れる話は一切無かった事に)
灰原(結局上辺をなぞっただけの行為でしか無かった事に)
灰原(気付かぬまま、淡い期待と悦びに浸っていた。このまま短くも幸せな時間を生きて行けるのだと)
灰原(けれど、そうは行かない事に気付かされる事になる)
灰原(逃れられない、命と言う現実によって......)
翌朝。
灰原「......んっ、朝ね」チラッ
新一「......zzz」
灰原「まだ寝かせておいてあげましょうか......。昨日は私が無理に遅くまで付き合わせたのだし」
灰原「......少し風に当たってこようかしら」
灰原「......はぁ。やっぱりこの村の空気は気持ち良いわね。朝は特に澄んでいるわね」
灰原「この清浄な空気が私達の身体を癒して、力を与えてくれているのかしら」
灰原「......このままの状態なら、半年まで持ちそうね」
灰原「......それ以上の奇跡は、望んでも叶わないでしょうね」
灰原「......いけないわね。気持ちを自分で暗くしちゃ。戻ってご飯を作らなきゃ」
少女「あ、シホだ!」
少年「おはよう!」
灰原「あら、あなた達。おはよう、早いわね」
少女「うん!今日から学校だもん!」
少年「遠いから早く行かなくちゃ行けないんだよ」
灰原「そう、大変ね」
少年「へっちゃらだよ、ねぇシンイチは?」
灰原「まだ寝てるわ。どうしたの?」
少年「そっかぁ。ねぇ、今度の僕達の休みにシンイチにサッカー教えてって言ってくれないかなあ?」
灰原「そう言う事。良いわよ、伝えておくわ」
少年「本当?ありがとう!」
灰原「どういたしまして」ニコッ
少女「ねぇ、私にお話もしてね!」
灰原「ええ、喜んで」ニコッ
少女「やったぁ、約束だよ?」
灰原「ええ、約束」
少年「ありがとう!じゃあね!」
灰原「ええ、いってらっしゃい」
灰原「......良い子達ね。本当に。元気ではつらつとして」
灰原「今度は何の話をしてあげましょうか......」
灰原「......さて。サッカーの先生にも予定を傳に行かないとね」
灰原「まだ寝ていなければ、の話だけど」クスッ
新一「......んっ?灰原?」
新一「あれ、またいねーな......」
新一「アイツ、また気を遣って起こさなかったのかな?起こして飯の仕度手伝わす位すりゃ良いのによ」フッ
新一「そうだ、いっそ帰ってくる前に仕度しちまうか!驚くぜアイツ」
新一「っし、起きて着替えて......」ムクッ
フラッ......
新一「うっ?!」ガクッ
新一「何だ、立ち眩みか?急に起きすぎたかな......?うっ......」
新一「ゴホッ、ゴホッ......んっ?!」ペッ
新一「......血、か?これ?」
新一「何で血なんか......。まさか、もう......?」
新一「いや、んな訳無ぇよな。だって......」
新一「......いずれにせよ、アイツには言えねーな。血を吐いた、なんて」
新一「血を吐いたなんて......。こんな急に......」
ガタッ......
新一(マズイ、帰って来たか?血を流さなきゃ)ダッ
灰原「ただいま......。あら?工藤君?」
灰原「いない......?音がした様な気がしたけど......」
新一「落ち着け、俺......。冷静に振る舞うんだ、冷静に」ブツブツ
新一 「......よし」
ガチャッ......
新一「よう、お帰り。どこ行ってたんだよ?」
灰原「あら、あなたこそ。どこに居たの?」
新一「ん?トイレだよ、トイレ。それより腹減ったよ。手伝うから仕度しようぜ」
灰原「え、ええ」
新一「よし、さ!今日は手を切らねー様にしなきゃな!」
灰原「そうね......」
灰原(......気のせいかしら。様子がおかしいような?)
新一(バレて無いかな......?とりあえず体調は悪くない)
新一(そうさ、たまたまさ!さっきのは。喉でも切ったんだ、きっと)
新一(そうに違いない。そうさ、まだリミットが来た訳じゃ無いさ!)
新一(そうとも。リミットなんて)
新一(リミットなんて......)
新一(......やめよう、考えるな)
新一(灰原を不安がらせちゃダメだ、明るく明るく......)
灰原「......で、あの子達がね」
新一「......」
灰原「......工藤君?」
新一「え?ああ、何?」
灰原「聞いて無かったの?」
新一「あ、ワリーな。ちょっとボーッとしてさ、ハハハ......」
灰原「あなたにしては珍しいわね?」
新一「たまにゃあるさ、そんな日もさ」
灰原「まあ、良いけど。とにかく、あの子達に今度サッカーを教えてあげて欲しいの」
新一「あ、ああ。サッカーね。分かった。御安い御用だ」
灰原「宜しくね」
新一「お、おう」
灰原「......大丈夫?」
新一「へ?」
灰原「何だかやっぱり変よ?乗り気じゃ無いなら止めても」
新一「だ、大丈夫だって。心配無いさ!やるよ」
灰原「なら、良いけど......」
灰原(......やっぱり、おかしいわ。いつもの工藤君では無いみたい)
灰原(何があったの?工藤君......)
新一(クソ、やはり不自然だ!却って疑われてる)
新一(どうすりゃ良いんだよ、ちきしょう......)
灰原(この日を境に、工藤君は段々口数が減り、笑顔もあまり見せなくなった)
灰原(様子が変なのは分かっていたけど、大丈夫だとしか言わない彼に却って質問しにくくなって行った)
灰原(そして、そうこうしている内に、あの子達との約束の日になった......)
約束の日の朝。
灰原「工藤君、起きて。時間よ」
新一「......ん」
灰原「今日、あの子達にサッカーを教えてあげる約束をしたでしょう?起きて」
新一「......悪い、行けない」
灰原「どうして!?約束したでしょう?!」
新一「......実は、昨日トイレ行く時足を捻っちまったみたいでさ。見た目には何でも無いけど、歩くと痛いんだ」
灰原「え、本当?」
新一「......ああ。だから悪い、謝って置いてくれないか?足が治ったら俺も謝りに行くから」
灰原「ええ、分かったわ......。ごめんなさい、知らずに声を荒げて」
新一「良いんだ、それより宜しく頼む」
灰原「分かったわ、ちょっと行ってくるから」
新一「ああ、気を付けてな」
灰原「ええ、あなたも休んでて」
ガチャッ......バタンッ......
新一「......ワリーな、灰原。でもダメだ」
新一「人様にサッカーなんて教える気力が湧かない......。自分が死ぬかも知れねーのに」
新一「情けないけど......。力が出ないんだ......」
新一「人間、いざって時は弱えーなぁ.......。俺、こんなに弱かったのかよ」
新一「......こんなに、怖いのかよ。死を待つのが」
新一「......」
灰原「......大丈夫かしら、工藤君」
灰原「でも、昨日の夜は熟睡してたから分からないけど、痛みが続く位捻ったのなら......。それらしい物音位しても良いハズだけど」
灰原「......あなたに何があったの、工藤君」
灰原「結局大事な事は私に話してくれないの......?」
少年「あ、来た来た!」
少女「シホ、おはよう!」
灰原「おはよう、遅くなってごめんなさい」
灰原(......この子達には、そんな事情は関係無いのだから。彼が来ない事はきちんと謝らないと)
灰原(楽しみにしていたのでしょうから......)
少年「えー?シンイチ来ないの?」
灰原「ごめんなさい、彼足を怪我してしまったの。治ったらきっと連れてくるわ」
少女「そっかぁ。足が痛いんなら仕方無いね」
少年「うん。残念だけど」
灰原「ごめんなさい、約束したのに」
少年「良いんだ、また今度ね」
灰原「ありがとう。きっと彼も楽しみにしていたと思うから。あなた達が待っているの、伝えるから」
少女「うん。ありがとう」
灰原「お礼を言うのは私よ。許してくれてありがとう」
少年「ねぇ、それよりまた話してよ!」
灰原「そうね。どんな話が良いかしら」
少女「ねぇねぇ、私シンイチとシホが初めて会った時の事聞きたい!」
灰原「な、何故?」
少女「だって、シホはシンイチの奥さんなんでしょ?どうやって会ったか聞きたい」
少年「何でそんな事聞くんだ?」
少女「だって、私だって女の子だもん」
少年「はあ?」
灰原「ふふ、2人も仲良しさんね」
少年「べ、別に......」
灰原「......初めて会った時なんて、酷いモノよ。彼には嘘をついてばかりだったし」
少女「何で?」
灰原「あまり自分の素性を語りたく無かったの。色々あってね」
灰原「それに私、出逢う前から彼に迷惑を掛けていたしね」
少年「会う前なのに迷惑を掛けたの?変なの」
灰原「そうね。変よね。でも迷惑を掛けちゃったの。それは今でも後悔してるし、もしかしたら今も怒ってるかも知れない」
少女「どうして?」
灰原「私が掛けた迷惑で、彼は色々な事を諦め無ければいけなかったから。大事なモノも全部ね」
少年「全部?」
灰原「そう。夢とか、好きな人の事とか。全部ね」
少女「好きな人?シンイチの好きな人はシホでしょ?」
灰原「......さあ、どうかしらね。違うかも知れないわ。それに、私は彼の付き添いなだけで奥さんでは無いの」
少年「そうなの?」
灰原「ええ。だから、一緒にはいるけど彼の好きな人が私とは限らないわ」
少女「ふぅん。でも、絶対シンイチはシホの事大好きだと思うなあ」
灰原「な、何故?」
少女「だって同じ眼をしてるもん」
灰原「眼?」
少女「うん。シホはシンイチを大好きって言う眼で見るでしょ?シンイチもシホが大好きって言う眼で見てるもん」
灰原「!!」
少女「だから、きっと昔の事も怒って無いよ!」
灰原「......そう、かしら」
少年「そうだよ、きっと!もし気になるならもう1回謝れば良いんだよ!きっと許してくれるよ」
灰原「......そうね。その通りね。ありがとう、彼に話してみるわ」
少女「うん!良かった!」
灰原「何が?」
少女「何だか辛そうな顔してたけど、シホ明るくなった!」
灰原「......!!」
灰原「そうね......。ちょっと悩んでたけど、あなた達のお陰で元気出たわ。ありがとう」ニコッ
少女「うん!」
少年「ねぇ、もっと話してよ!他にも色々」
灰原「ええ、良いわよ。彼が来れなかった分、付き合うわ」
少女「やったぁ!」
灰原(......日本でもここでも、子供には敵わないわね)
灰原(何でも分かってしまうのね、この純真な瞳には......)
灰原「......すっかり遅くなってしまったわね」
灰原「まあ、彼の分の穴埋めになれば良かったのだけど......」
灰原「彼、1人で怒って無いかしら。俺をほったらかしにして、って」
灰原「......考えすぎが良くないのよね」
(シンイチはシホの事大好きだと思うなあ)
灰原「......バカね、私。子供の言う事を真に受けてにやけるなんて」クスッ
灰原「でもあの子達の言う通り、過去の過ちはもう1度謝って区切りとしなくてはね」
灰原「彼、何ていうかしら......」
灰原「それも、まずは言ってみてからね。言う前から怯えても仕方無いものね......」
灰原「やっと着いたわ。すっかり暗くなってしまったわね。あら?」
灰原「家の灯りが消えている?どうして?」
灰原「寝てるのかしら、彼......」
ガチャッ......
灰原「ただいま。工藤君?いないの?」
シーン......
灰原「変ね......。どうしたの?」
カタン......
灰原「......!寝室からだわ」
灰原「足が痛くて動けないのかも、サポートしないと」
灰原「1人で大変だったかも、申し訳無いわ......」
灰原「灯りを持って......。良し」
フゥーッ......
灰原「息遣いが聞こえる。やはり寝室ね」
灰原「......泥棒、じゃないわよね」
コンコン
灰原「工藤君、居るの?」
シーン......
灰原「工藤君?」
新一「......居るよ」
灰原(良かった、無事みたいね)
灰原「入るわよ」ガチャッ
灰原「ごめんなさい、遅くなって......。あの子達......と......?!」
新一「......」ゴクッ
灰原「......あなた、何してるの?」
新一「見て分からないか?」
灰原「......この匂い、そのビン。お酒?お酒飲んでるの?」
新一「正解だ。名推理だな。探偵になれるぜ」
灰原「ふざけないで!何をしてるの?!あなた足が痛くて動けないんじゃ無かったの?!」
新一「......」
灰原「大体そのお酒、どうしたの?いつ買ったの?」
新一「今日買ったよ。市場で」
灰原「?!あなた、歩けたの?嘘ついて約束を破ったの?」
新一「......」ゴクッ
灰原「そんなモノ飲んで無いで答えてよ!」
新一「......良いだろ別に。どうせもうすぐ死ぬんだ。酒の1杯や2杯」
灰原「えっ?」
新一「お酒は20歳から、何て言っても俺達にゃ20歳まで待つ時間も無いんだ。今飲んで悪いか?」
灰原「......!た、確かにそうだけど。何故今なの?約束を破ってまでそんなモノ飲む必要が」
新一「血、吐いたよ」
灰原「え」
新一「こないだ、血ぃ吐いた。実は飲んでる間にもちょっと」
灰原「......!!」
新一「まあ、アレだよ。寿命とは関係無いのかも知れねーけどさ。体調も悪い訳じゃ無いからな。ただな、形に見えてくるとやっぱりビビるよなあ......」
灰原「形?」
新一「死ぬ事さ。今まで命を掛けた事も何度もあった気がするけど、ありゃあアドレナリンのせいで恐怖を感じなかっただけなのかもな」
新一「こう静かに確実に寄ってくる死が、こうも怖いとは思わなかったよ......」
灰原「そう、だったの......。ごめんなさい、私が気付いてあげられないばっかりに......」
新一「気にすんなよ。良いんだ、もう」ゴクッ
灰原「......あなたの苦しみは分かったわ。お酒を飲むのも、別に構わない。ただ、こんなやけ酒みたいな飲み方は止めましょう?それに、あの子達には謝ってあげて。あなたが気力の出ない状態なのは仕方無いし、話せばあの子達も分かってくれるわ」
新一「......」ゴクッ
灰原「ねぇ、工藤くn」
新一「楽しいか?」
灰原「え?」
新一「そうやってキレイゴト言って楽しいか?」
灰原「え......」ズキッ
新一「最もらしい事言ってるけどよ、上から目線で俺を哀れんでるだけだろ?同じ寿命のクセに、たまたま俺が早く弱っただけなのによ」ゴクッ
灰原「そ、んな。私はただ、あなたが心配で」
新一「心配?いい加減素直になれよ?」
灰原「は?」
新一「オメーは、ホントはもっと俺に構って欲しいんだろ?愛して欲しいんだろ?なのに罪の意識出してます、一線弁えてますみたいな態度で無理に距離置こうとすんのがイヤなんだよ」ゴクッ
灰原「......!!」ズキッ
新一「こっちから近付こうにも、オメーが壁作って......。いや、壁だらけなのに気付けよ」
灰原「な、何よそれ。あなただってきいた風な口を......。あなただって、私に壁を作ってるじゃない!違うの?」
新一「......」ゴクッ
灰原「憎いんでしょ?私が!あなたの命を縮め、あなたから全てを奪った私が!憎いんでしょ?!」
新一「憎んでねーよ......」
灰原「嘘よ!私がいなければ、あなたは彼女を失う事も無かったじゃない!全部私のせいだもの!恨まないハズが」
新一「オメーこそ、俺を憎んでるだろう?」
灰原「は?」
新一「憎んで、怨んでるだろう......?」
灰原「何を言ってるの?私があなたを怨む理由が」
新一「なら何故オメーは俺に本名を呼ばせない?」
灰原「え?」
新一「なんやかんや理由付けてたけどよ、俺にだけ本名を呼ばせない理由。教えてやろうか?気付いてないなら」
灰原「な、何だって言うの?!」
新一「1番傍にいる俺がオメーの本名を呼ぶと、お姉さんの事を思い出すからじゃねーのか?」
灰原「!!!」
新一「俺が見殺しにした、オメーの姉さんの事をさ......」
灰原「見殺しになんて、だってあれはあなたのせいじゃない。仕方無かった事で......」
新一「でも、助けられなかった。言ってたじゃないか。どうしてお姉ちゃんを助けてくれなかったの?って」
灰原「古い話じゃない......。あの時はただ動揺してて......」
新一「でも、わだかまりが無いとは言えないだろ?」
灰原「......っ」
新一「それによ、お姉さんを連想するとさ。否応なしに意識するだろ?」
灰原「......?」
新一「死を」
灰原「!!」
新一「オメーも表に出さないだけで怖いんだよ、死が。なのに悟り澄ました顔でキレイゴト言ってんのがイヤなんだよな。ホントに......」
灰原「......」ウルウル
新一「泣いてんのか?」
灰原「......だって、私、私」
灰原「あなたにそんな事言われて、悲しい。でも、それは私のせいで言ってる事......」
灰原「私、どうしたら......いいの......」グスッ
新一「......」スッ
ギュッ
灰原「工藤、君......?」
新一「......灰原、灰原ぁ」ギュッ
灰原「い、痛いわ、工藤君......」
新一「ごめんなぁ、酷い事言ってよ......」
灰原「工藤君......」
新一「俺、怖いんだよ、怖くて......。1人で消えてしまうのが怖くて......」
灰原「......大丈夫よ、私はいつもあな」
チュッ......
灰原「んんっ......?!」
新一「......」
灰原「ん、んーっ......!!」バタバタ
新一「......」ギュッ
灰原「んっ、はな......してっ......」バッ
新一「......」
灰原「何するの?!」
新一「キスしたよ」
灰原「恐怖の慰みに?そんなの、そんなの......」
新一「言ったじゃないか」
灰原「え?」
新一「あなたが望むなら、この身を捧げるって言ったじゃないか。嘘なんだな、あれは」
灰原「ち、違うわ。ただ......」
新一「良いよ、別に。悪かった......」ゴクッ
灰原「工藤君......」
新一「行きなよ」
灰原「え?」
新一「こんな状態の俺といても仕方がない。行きなよ」
灰原「イヤよ、そんなの......。行かない、行きたくないわ」
新一「じゃあ傍にいてくれよ!離れないでくれよ!!」
灰原「......!」
新一「ああ、もう分からない。何も......分からねぇよ......」ゴクッ
灰原「......」
新一「......」
灰原「......工藤君」ギュッ
新一「......」
灰原「ごめんなさい、私......。なるから」
新一「......?」
灰原「あなたの好きに......。なるから」
新一「......バーロ、止めろよ」
灰原「だって、だって......」
新一「酔っ払いの言う事なんざ真に受けんな。このまま朝になりゃ、頭も冷える......」
灰原「でももう私だってどうしたら良いか分からないわ!」
新一「!!」
灰原「分からない、分からない......。私も怖いわ。怖くて分からないわ。工藤君......」
新一「灰原......」
灰原「分からないけど、言わないで。行けなんて言わないで......。離れたくないの、あなたから......。私も1人になりたくない......」グスッ
新一「......灰原」
灰原「怖い、怖い、怖い......。暗いわ。怖いわ......」ガタガタ
新一「......」ギュッ
灰原「工藤君......」ギュッ
新一「......」
灰原「......」
チュッ......
新一「ん......」チュッ......
灰原「んんっ......」チュルッ......
灰原「は......ぁっ......」ブルブル
新一「......っ、はぁ」
灰原「......どうしたら、良いの?」
新一「知らねーよ。やり方なんて......」
灰原「とりあえず、脱げば良い......?」
新一「......俺がやるよ」スッ
灰原「......っ」ビクッ
新一「どうした......?」
灰原「分からないの、何だか......。肌が敏感に......」ブルブル
新一「......」ガシッ
灰原「あ、んまり......。乱暴にしないで......。身体が、身体が変な感じ......」
新一「今更無理だよ......」グッ
灰原「んっ......」
新一「オメー、ブラしてなかったのか......?」
灰原「必要、無いでしょう......?殆ど2人でいるだけなんだもの......」ブルッ
新一「寒いのか?」
灰原「ううん。ただ、変な感じ......。寒いのかしら?火照ってるのかしら......?分からない、もう分からないの......」
新一「......」モミッ
灰原「はぅっ!!きゅ、急に胸触らないで......っ」ビクッ
新一「そう言われても......」モミモミ
灰原「んんっ!ダ、メ、だって......言って......」ビクビクッ
新一「......気持ち良いし、無理だ。止めんのは」モミモミ
灰原「んっ!?そ、お尻......っ、揉まないで......っ」
新一「......」チュッ
灰原「ん、ん......っ......」チュクッ......
灰原(もう、何も考えられない......)
灰原「......あ、ぁっ、はぁ......」ビクビクッ
新一「だ、大丈夫か?」
灰原「も、良いから......。何でも良いから......。あなたも脱いで。もっとくっついて......」
新一「......分かった」
なんか始まってた
灰原いい子過ぎる
新一「......」バサッ
灰原「......下、取って」
新一「なあ、無理しなくても」
灰原「......良いから、お願い」
新一「......」スッ
灰原「......あっ、はぁっ......」
灰原「あ、ぁ......っ」
新一「だ、大丈夫か?」
灰原「わから、ない......。あなたに触れられる度、身体が......っ」ブルッ
新一「......だな」
灰原「え?」
新一「服、取ったけど......。キレイだな」
灰原「んっ......、私が......?」
新一「ああ。キレイ過ぎるぜ......。マジで女神みてーだよ」
灰原「やっ......、そ、んな事っ、言われたら......っ......んんっ?!」ガクッ
新一「灰原?!」
灰原「......も、立っていられない......」
新一「......」ギュッ
灰原「くど......くん......」
新一「ワリ、灰原......。も、抑え、効かね......」
灰原「もう、好きにして......。どうにでもして......。私を、あなたの......」
新一「......」チュッ
灰原「......ん、んっ」
新一「......」スッ
クチュッ......
灰原「んんっ?!」ビクビクッ
灰原(そ、んな所......っ、触っちゃ......っ)ビクビクッ
新一「......ん、んっ」モミッ
灰原「はぅっ!!」ビクッ
灰原「む、ねと......っ、ソコ、までっ......」ビクビクッ
新一「......」クチュクチュッ
灰原「ああぁぁあっ?!」ビクビクッ
灰原「な、に......?これっ......?!」ブルブルッ
新一「......可愛いな、灰原」
灰原「は、ぁ......っ?」ビクッ
新一「カオがピンク色で......、表情も、可愛くて......」
灰原「やぁっ......、こんな時に......っ......。いつも、は、いわない......の、に......っ......ズルイッ......」ビクビクッ
新一「......ワリー。なあ、灰原」
灰原「......な、に?」ハァ、ハァ
新一「俺の、も......。その......」
灰原「......あっ」
灰原(あ、れが......っ、工藤君の......。男性、自身......。大きい......っ)
灰原「これを、どうしたら......?」
新一「その......。く、口に......」
灰原「口に......?な、舐めれば......良いの?」ブルッ
新一「う、うん......」
灰原「わ、かったわ......。んっ......」パクッ
新一「っ......!」
灰原(......どうしたら、良いの......?何だか、これだけで......変、な気分......)チュルッ
新一「......っ!」
灰原(......工藤君、が反応......してる......っ?こうしたら......?)チュプッチュパッ
新一「......っ、灰原っあんま、動いたら......っ」
灰原「......?」チュルッ
灰原(何......?どうしたら......?でも、止まれない......)チュプッチュパッ
新一「......っ!も、ヤベッ......、出ちまうっ!」ブルッ
灰原「っ?!」
新一「......っく!」ビュルルッ ......
灰原「う、んっ?!」ゴクゴクッ......
灰原(な、に......っ、これ......っ?!)ゴクッゴクッ......
灰原「んっ......はぁっ......?!」
新一「ワ、ワリー、灰原!大丈夫か?」
灰原「ん......っ、うん......。ね、工藤君......これ......。工藤君の......?」
新一「う、うん......」
灰原「......うれ、しい」ビクッ
新一「灰原......」
新一「灰原っ!!」ガシッ
灰原「っ?!」バタッ
新一「灰原......、俺......」
灰原「......して、好きに......して......」
新一「......っ!」ズ...ズズ......ッ......
灰原「......はぁっ......あ、うぅぁっ......?!」ビクッ
灰原(身体の中に......っ、入って......く、る......?工藤君、が......)ブルブル
新一「く、っ......」ズズッ......
ズンッ......
灰原「はぁっ......あああぁっ......?!」ビクビクッ
新一「ワ、リ......痛く、ねぇか......?」
灰原「あ、あ、ぁぁ......っ......」ビクビクッ
灰原(ど、うなって......?身体が、身体が無くなったみたい......っ?あ、ぁっ......?)ブルッ
新一「大丈夫、か?」
灰原「......ん......うんっ......」コクッ
新一「......動く、ぜ」グッ
灰原「あぁっ?!う、ぁぅっ......!?」ビクビクッ
灰原(息がっ、できな......っ、身体が......も、わからない......っ......)
新一「......っ!」グッグイッ
灰原「うあっ!!あ、あ、あぁっ......!!」ビクビクッ
新一「くっ......はっ......」グイッグイッ
灰原「あ、はぁっ!!あ、ああぁぅっ!!」ビクビクッ
灰原「く、どうくんっ!わ、たし......っ......」ブルッ
灰原(工藤君が......動く度......。何も分からなくなる......っ!)
新一「......っ」チュッ
灰原「んっ!んぅっ?!んんんっ!!」ブルブルッ
灰原(し、んじゃう......っ......し、ん......アタマが......シロ、ク......)
新一「くっ......はっ......」グイッグイッ......
灰原「あああぁあああっ!?」ブルブルッ
灰原(な、にか......くる......カラダの......なかから......っ......!?)
新一「くっ......も、ダメだ......っ!」ブルッ
灰原「わ、たし......もっ......なに......か............く、る......っ......くどう......くんっ......!!」ブルブルッ
灰原(ダメ......ッ......もう......っ!)
新一「う、おぉぉあっ!!」ビュルルッ......
灰原「ああああああぁぁあああっ!!」ビクビクッ
新一「うっ......」ガクッ
灰原「あ、ぁぁ......っ」ガクッ
灰原「......んっ」
灰原「......気を失ってしまったの......?」チラッ
新一「......」スー、スー......
灰原「......工藤君と私のこの格好、間違い無いわね」
灰原「したのね、私達......。行為を......」
勃起しちまった
灰原「......こんな、ベッドどころか脱ぎ散らかした服の上での初体験なんて、最悪ね」
灰原「......正直、良く覚えていないけれどね。痛みすら感じない程興奮していたのかしら」
新一「......」スー、スー......
灰原「......ごめんなさい、流石にベッドまで運べないわ。これで我慢してね」ファサッ
灰原「......少し、頭を冷やしましょう」
灰原「......まだ外は暗いわね。あれから何時も経ってないのかしら」
灰原「彼との行為、から」
灰原(......正直、虚しいわ。彼と初めて結ばれたのに。それに至ったのは愛情からじゃない)
灰原(仮に愛情からだとしても、それ以上に......。現実逃避。恐怖から、現実から眼を逸らす為だもの)
灰原(そう言う行為が、終わった後これ程虚しさを感じるモノだとは、哀しいモノとは知らなかった)
灰原(......いえ、それより哀しいのは)
灰原(これ程虚しいのに、それ以上の悦びを感じてしまった事ね)
灰原(どんな形であれ、彼に触れられた。弄ばれた。1つになれた。それが嬉しい、悦び。そう感じてしまった事が哀しい......。女として、これ程惨めな初体験も無いでしょうに。名前の通り。哀に相応しい哀しい性ね......)
灰原(彼が酔った勢いで彼女の名前を口走らなかっただけが救いかもね。そうなってたら、私はもう立ち直れなかったかも知れない......)
灰原(......いずれにせよ、明日からどうしたら良いのかしら。彼は恐怖を拭えたのかしら)
灰原(仮に拭えなかったとして、もしまた彼に求められたら私は......。それを拒めるかしら)
灰原(現実逃避せず、前向きに生きようと言える力が私にあるのかしら......)
灰原(......哀しい悦びを知ってしまった、私に。そんな力は残っているのかしら)
灰原「......いずれにせよ、今日は彼と別の部屋で寝ましょう。気持ちを落ち着けないと」
(シンイチは、シホの事大好きだと思うよ)
灰原「......笑ってしまうわよね。あの言葉で喜んで帰って来た結果がこれだものね」
灰原「ホント、バカよね。私......」
灰原「こんな形で結ばれたのも、きっと罰なのね。私への」
灰原「......でも、自業自得だとしても」
灰原「もう少し......やり方は無かったの、神様......」
翌朝。
灰原「......眩しい」
灰原「いい天気ね。相変わらず......」
灰原「......彼は起きたかしら」
灰原「とりあえず、彼と今後について話さなくちゃ......」ムクッ
灰原「きちんと話せば彼も......んっ?!」ビクッ
灰原「うっ、ゴホッ、ゴホッ......」ペッ
灰原「......!......血、だわ」
灰原「......私にも、彼と同じ兆候が」
灰原「......死、の」ビクッ
(オメーだって怖いんだろ?死が)
灰原「......死ぬ事なんて怖くない。彼と一緒なのだから。そう思っていたのに」
灰原「足下から蟻が這い上がってくる様なこの嫌な感じは何......?」
灰原「これが、死を自覚すると言う事......?」
灰原「......とにかく、彼の所に行かないと」
灰原「話をしないと......。この事も......」
コンコンッ
灰原「工藤君、起きてる?」
新一「......ああ」
灰原「入るわよ......」ガチャッ
新一「......よう」
灰原「おはよう......」
新一「......あの、昨日は俺」
灰原「良いの、それはもう。それより......?この匂い、もしかしてまた」クンクン
新一「あ、ああ。ワリー。その、つい手が ......。出ちまって......」
灰原「ダメよ、またお酒なんて!お酒なんて......」ドクンッ
新一「......?灰原?」
灰原「お、お酒なんて飲んじゃ......」
灰原(どうしたの?私......?何故口が動かないの?!何故身体が強張るの?)
灰原「ダ、ダメよ。お酒なんて......」
灰原「1人で、飲んじゃ......」
新一「灰原......?」
灰原(何を言ってるの?私?!彼を止めようとしてるのに......)
灰原「わ、私にも......。頂戴」
新一「え?あ、ああ」
灰原(何を......っ、ダメッ、ダメよ!!止めなさい!!そんな事したら)
新一「......ほら」スッ
灰原「あ、ありがとう......」
新一「でも、何でだ?昨日は......」
灰原「わ、私も飲んでみたく......。なったの。あなたと一緒に」
灰原(そんな事をしたら、彼を止められない!止めなさい!やめ......)
灰原「......んっ」ゴクッゴクッ
灰原(あ、あ......っ)
灰原「......っ、はぁ」
新一「大丈夫かよ?そんな一気に」
灰原「平気よ、平気......。もう少し、頂戴」
新一「......うん」
灰原(あ、あぁ......。そうなのね。私、もう)
新一「......はいよ」トクトク
灰原「ありがとう......」ゴクッゴクッ......
灰原「ふぅっ......。お酒の味は良く分からないけど、美味しいと言うべきなのかしら......」
新一「無理に呑むなよ、吐いちまうぞ」
灰原「そうね。シェリーなんて名前でも、お酒とはとんと縁の無い生活だったものね。ふふふ......。おっかしい......」クスッ
新一「おい、大丈夫か?酔ったのか?」
灰原「そうね。酔ったのかしらね......」ギュッ
新一「......っ?!」
灰原「酔ったから、あなたに抱きついちゃう。ふふふ......」ギュッ
新一「灰原......」
灰原「ダメ?」
新一「いや......。ダメなんかじゃ。でも、昨日あんな事した俺に......」
灰原「素直になれって言ってたじゃない。私、もうどうでも良い......。あなたとこうできたら......」
灰原「好きよ、工藤君......」
新一「灰原......」チュッ......
灰原「んっ......」ギュッ
灰原(ああ。やっぱり私の心は折れていたのね......。彼に昨日抱かれた時に......)
灰原(いえ、いつからか分からないけど......。もう、どうでも良い。もう私は、彼と堕ちるしか無いわ......。絶望と愉悦の中で、果てるまで......)
灰原(もう私は、この快楽から脱け出せそうに無いから......)
灰原(ああ、また頭が白くなる......)
灰原(......それからは、良くある堕落した人間の生活......)
灰原(たまに食事を摂る事と、排泄、睡眠以外はほぼお互いの身体を求めあい快楽に溺れる日々)
灰原(いつが正気か、狂気か、起きているか、夢の中なのか。分からない状態)
灰原(あるのはただ、哀しみと快感の2つのみ......)
灰原(このまま私達は縺れ合い、絡み合いながらいつか終わりを迎えるのだと思っていた......)
灰原(ある意味、私の望んだ天国であり、最も望まなかった地獄......)
灰原(その中で工藤君が何を想って私を求め続けたかは分からない。失った彼女の代用か、死への恐怖から逃れる為のモノか......)
灰原(分からないけれど、工藤君の求めに私は応え続けた。私の求めにも、彼は応え続けた)
灰原(時にこれではいけないと思いつつも、流され行きまた自分に絶望する......)
灰原(そんな葛藤すら失い、いつしか私の心の中は快楽を得る事のみになりつつあった......。そんなある日......)
灰原「......じゃあ、ちょっと買い物して来るわね」
新一「ああ。早く戻って来てくれよな」
灰原「ええ、勿論......。帰って来たら、また......」
新一「うん......」
灰原「じゃあ、後でね......」
新一「ああ、待ってるよ......」
灰原「......さて、必要な物も買ったし帰らなきゃ」
灰原「彼が待ってるものね......。帰って、また......んっ」ビクビクッ
灰原「......想像するだけで。終わってるわね。私」
灰原「......どうでも良い事ね。今の私には」
エロい
灰原さん健気でいい子やなあ〜
少年「あ、シホだ!」
少女「ホントだ!シホーっ!」タタタッ
灰原「あなた達......」
少年「しばらく姿見なかったから、心配したんだよ?」
少女「うん、他のみんなもあんまり会わないから心配してたよ?」
灰原「そう、ごめんなさい......。色々あってね」
少年「そうなんだ、大丈夫?」
灰原「ええ、まあ......」
少女「何だか、シホ元気無さそうだよ?」
灰原「何でもないわ。ありがとう」
少年「ねぇ、シンイチは?足治ったかな?」
灰原「え?えぇ。もう大丈夫よ」
少年「じゃあ、サッカー教えてくれるかな?」
灰原「......」
少年「シホ?」
灰原「ごめんなさい。足は治ったけれど、彼はちょっと今......。その、忙しくて」
少年「何で?だってこの村には休む為に来たんでしょ?」
灰原「事情があってね、その」
少年「もう良いよ!」
灰原「!」
少年「どうせ僕達みたいな子供の相手は面倒くさいんだ!だからシンイチは来ないんだ!」
灰原「そうじゃないの。彼は面倒なんて......」
少女「ねぇ、もうやめなよ」
少年「うるさい!シホもシンイチも嘘つきだ!バカ!」タタタッ......
灰原「......」
少女「ごめんなさい、シホ。怒らないで」
灰原「良いのよ。嘘つきだと言われても仕方無いものね」
少女「ううん。仕方無いよ。でもあの子、楽しみにしてたから。シンイチにサッカー教えてもらって、今度こそ勝つんだって」
灰原「勝つ?」
少女「うん。もう少ししたらね、町でサッカーの大会があるの。私達のチーム、人数もギリギリで出るのがやっとで、勝ったこと無いの。教えてくれる人もいないし」
灰原「そうだったの......」
灰原(でも、今の私達には出来る事なんて......)
灰原「ごめんなさい。とにかく、あの子には今度キチンと謝るわ......。じゃあね」
少女「待って!」
灰原「え?」
少女「何があったの?シホ?」
灰原「別に何も無いわ......」
少女「だって、今凄く辛そうな顔してるよ!?」
灰原「......!」
少女「私、シホとちょっとの間しかいないから......。関係無いって言われるかも知れないけど」
少女「でも、シホが悲しそうなのはやだ。シホは私達に楽しい事してくれたから」
少女「私も、シホを楽しくしてあげたいよ!」
灰原「......」
少女「ねぇ、何があったのか話して?お願い」
灰原(この子......)
灰原「......分かったわ。約束を破っておいて、勝手を言うのも失礼だものね」
少女「ありがとう!」
灰原(子供の言う事を真に受けて、何を話そうと言うの?彼が待ってるのに)
灰原(......とにかく、当たり障りの無い話をして帰りましょう。これ以上この子達を私達に関わらせない方が良いしね)
灰原(無垢な子供を騙すのは、気がひけるけど。もう私達には何の力も無いし、時間も無いのだから......)
少女「心の病気?」
灰原「ええ。病気と言うか、心が疲れちゃったのね。彼も私も。色々あって」
少女「だから、元気が出ないの?」
灰原「そう。なーんにもする元気が無くなっちゃったの。情けない事にね」
少女「そっかぁ......。かわいそう」
灰原「でも、これはこれで幸せなのよ?」
少女「何もする元気が無いのに?」
灰原「ええ、まあ」
少女「ふーん、変なの」
灰原「そうね。変かも知れないわね」
灰原(子供に何を言ってるのかしら。私)
少女「そっかぁ。じゃあやっぱりサッカー教えてもらうのムリだね......」
灰原「そうね。ごめんなさい......」
少女「ううん。でも、あの子がガッカリするだろうなあ」
灰原「ずいぶんあの子を気にかけるのね。やっぱり仲良しなのね」クスッ
少女「そ、そんなんじゃ無いよぉ!」
灰原「良いじゃない。仲良き事は美しき事よ」
少女「う、う......」カーッ
灰原(子供らしい素直な好意......。清々しいわね。今の私達には無い物かも知れない......)
少女「と、とにかく残念だなあ。私もサッカー教えて欲しかったのに」
灰原「あなたも?」
少女「私達のチーム、人数ギリギリで出るのがやっとって言ったでしょ?メンバー足りないから私も出るの」
灰原「そうなの?でも、他に女の子は?相手チームにも女の子はいるの?」
少女「ううん。去年は私だけ。今年もきっと私だけ」
灰原「そんな!危ないじゃない?身体も小さいのに男の子に混じって......」
少女「うん。確かにね。いっつも押されて転んだりしちゃうよ。他の町の子は、身体大きい子ばかりだし」
灰原「だったら尚更、止めた方が良いわ。ケガしたら大変よ?」
少女「で、でも......」
灰原「時には諦める事も立派な決断よ。無理をしないで応援に徹するのも悪い事じゃないと思うわ。人数が足りないと言っても、人にケガさせてまで出る事も無いわ」
少女「う、うん......」
灰原(何を言ってるの、私。子供に自分の諦めを押し付けるなんて。でも、無理をしても良い事なんて無い。そうよ、諦めも大切よ......)
少女「うん。シホの言う通りかもね。でも......」
少女「逃げてちゃ、勝てないから」
灰原「......!!!」
少女「シホ?」
灰原「今......。何て?」
少女「え?」
灰原「今の言葉、もう1度聞かせて......?」
少女「え?えーと......。逃げてちゃ、勝てないから......」
灰原「......!!」
「逃げてちゃ勝てないもん、ぜーったい!」
「逃げるんじゃねーぞ、灰原......。自分の運命から、逃げるんじゃねーぞ......」
灰原「......!!」ウルウル
少女「どうしたの?シホ?」
灰原「......あなたは何故、そう思うの?」
少女「え?えーと......」
少女「お父さんとお母さんが良く言ってるの。最初から諦めるなって。それに......」
少女「は、恥ずかしいけどあの子の事、やっぱり手伝ってあげたいから。あの子も負けても負けても頑張ってるし。私も頑張りたいの!」
灰原「......そう」ポタッポタッ......
少女「泣いてるの?シホ?大丈夫?」
灰原「大丈夫よ......。ありがとう......」ギュッ
少女「え?シホ?」
灰原「ありがとう。あなたのお陰で、大事な事を思い出したわ......」
少女「大事な事......?」
灰原「ええ。とても大事な事......」
灰原(逃げてちゃ、勝てない......。そうよね。諦めちゃ、いけないのよね。最後まで)
灰原「ありがとう。あなたのお陰で、元気が出たわ。もう大丈夫!」
少女「本当?」
灰原「ええ、本当よ。ありがとう。そして、約束するわ。彼にも元気を取り戻させてみせる。そして、あなた方との約束を守ってみせるわ」
少女「本当に?」
灰原「ええ。本当よ。必ず。必ず元気な彼を連れて来るわ」
少女「じゃあ、約束だよ!」
灰原「ええ。約束の握手」スッ
少女「うん!」ギュッ
灰原(......私は、また逃げる所だった。また全てを放棄する所だった!)
灰原(でも、もう逃げない......!闘うわ。この子が大切な事を思い出させてくれたのだから!)
灰原(そして、工藤君にも思い出させてみせる......)
灰原(本当のあなた自身を......!例えあなたに嫌われたとしても......)
灰原(残るこの命を賭して......!)
夕刻。
新一「......遅いな。灰原。何かあったのかな」
新一「捜しに行くかな......」
ガチャッ......
灰原「ただいま......」
新一「灰原、遅かったな。大丈夫か?」
灰原「ええ。大丈夫よ。遅くなってごめんなさい」
新一「良いんだ。無事なら。まあ、とりあえず向こうに行こうぜ。飯より先に......」
灰原「......ごめんなさい」
新一「え?」
灰原「あなたとはもう......。そう言う事はしない」
新一「何言ってんだよ、灰原?」
灰原「いえ、ちょっと間違ったわ。今のあなたとはもう......。そう言う事はしない」
新一「......何のつもりだ?」
灰原「何のつもりも何も、言葉の通りよ。今のあなたは、私の知る工藤君じゃない。だから、そう言う事をしたくない。それだけ」
新一「今更何を......?!何だよ、その目......」
灰原「......」
新一「今更生き返った目をしやがって。気に入らないな......。生きる活力を取り戻したとでも?」
灰原「ええ。その通りよ。私は気付いたの。私とあなたがそれぞれ何から逃げていたのか。何が間違っていたのか......。やっと分かったの」
新一「何......?」
灰原「あの時。あなたが彼女に真実を告げずに別れを告げると言った時......。違和感を感じた。あなたらしくないと」
新一「何が俺らしく無いんだ?アイツに真実を告げるのが残酷だから、そうしなかっただけじゃねーか.......」
灰原「いえ、あり得ない。いつものあなたなら」
灰原「真実を何よりも大事にするハズのあなたに、本来あの選択肢はあり得ない。するハズが無い。いつものあなたなら、全てを彼女に告げていた。告げた上でこれからの人生をどうするか考えたハズよ」
灰原「でも、あなたはそうしなかった。あの時点であなたは既に現実から目を背けたのよ。そして、目を逸らし続ける為に諸国を放浪し続けた」
灰原「同じ傷を舐めあう為の、私と言う道連れと共にね......」
新一「フン!妄想をペラペラと。オメーに俺の何が解る!?」
灰原「解るわ。言ったハズよ。私達はお互いに何から目を背けたのか、と」
新一「......」
灰原「......あの時、いつもの私ならあなたに真実を告げる様促したハズ。真実を追求し闘い続けるあなたを愛しているからこそ、あなたに最後まで真実と向き合って欲しいと言ったハズ」
灰原「でも私はしなかった......。きっと無意識にこう思ったから」
灰原「このまま工藤君が彼女に別れを告げるなら、工藤君と一緒にいられるかも知れないと」
新一「......!」
灰原「結局、私も自分の欲望の為に現実から目を背けた。でも、気付くべきだった」
灰原「そうして手に入れたあなたは、私の愛しているあなたでは無い事を。死と言う現実から目を逸らした、只お互いを慰め合うだけの相手でしか無い事を」
新一「......」
灰原「......ごめんなさい。工藤君。あなたがあなたらしく生きるチャンスを、私がねじ曲げてしまった。あなたが好きなあまりに。あなたの側にいたかったあまりに。あなたを傷付けてしまった。取り返しの付かない事をしてしまった」
新一「......バーロ。オメーが何故謝るんだ。違うだろう?」
灰原「工藤君......?」
新一「逆だよ。灰原。俺はオメーに謝らなくちゃ......」
灰原「え......?」
新一「あの時......。オメーが想いを告げてくれた時......。俺は本当に嬉しかったんだ。心から嬉しかったんだ」
灰原「工藤君......?」
新一「......オメーが俺と最期を共にしたいと言った時、俺も思った。コイツと一緒にいたいって」
新一「でも、俺の中に蘭に対する未練があったのも、紛れも無い現実だった。あの時答えを出す事が、俺には出来なかった」
新一「そんな中途半端な男が側にいる事が、どれ程オメーを傷付けるか。分かってたんだ。分かってて、でもオメーに側にいて欲しかった」
新一「だから、ああ言う形を取った。そうすれば、俺が一緒に居てくれと言った時にオメーに拒まれないと思ったから......」
灰原「工藤君......あなた......」
新一「結局俺は、中途半端な心のまま......。あの世への道連れにオメーを巻き込んじまったんだ。オメーには、薬を飲まずに寿命を延ばす研究をする選択肢もあったのに」
新一「俺の迷いと格好付けが、オメーの死を近付けてしまった。俺がオメーの命を削ってしまったんだ」
新一「許してくれ、灰原......」
灰原「謝る事なんて無いわ。あなたにそんな運命を背負わせたのは、他ならないこの私......」
灰原「でもあなたは、理由と経緯はともかく最期の供に私を選んでくれた。私に共に死ねと言ってくれた」
灰原「それだけで、私は幸せよ......」
新一「バーロ!何言ってんだよ!?何で怒らない?!何故だ?何故なんだ?!何故オメーはそこまで俺を......」
灰原「......この命は、あなたがくれた命だから」
新一「?!」
灰原「......組織から抜けた時、私はいつ死んでも良いと思ってた。生きる糧となるモノは何も無い。罪を犯したこの身が生き永らえて良いハズも無い。そう思ってた」
灰原「実際に何度か自分を犠牲にしようとした。でもその度に......。あなたが助けてくれた」
灰原「あなたや、彼女や......。阿笠博士、探偵団の子供達......。色んな人が助けてくれた。励ましてくれた」
灰原「私に、生きろと言ってくれた」
灰原「この身、この命はそうしたみんなの想いで有るモノなの」
灰原「いつか、あなたが私に言ってくれた事を覚えてる?」
新一「......?」
灰原「逃げるんじゃねーぞ、灰原」
新一「!!」
灰原「自分の運命から......。逃げるんじゃねーぞ、って......」
新一「......」
灰原「私が生きる決意が出来たのは、あの言葉のお陰なの」
新一「......言ったっけかな。んな事」
灰原「ええ。一生忘れられないわ......」
灰原「その言葉を思い出した時、今の私達はやっぱり逃げている事に、いえ......。生きながら死んでいる事に気が付いたの」
新一「生きながら......」
灰原「そう。お互いに過去の過ちや後ろめたさを隠したまま、挙げ句に現実逃避に淫らな日々を過ごすばかり......」
灰原「......正直、哀しかった。でも、情けない事に幸せでもあった。あなたと1つになれて」
灰原「けど、その幸せは本当の幸せじゃない。そんなのは、麻薬中毒と同じ。快楽を得る為だけの、死人と変わらない生き方よ」
灰原「そんな状態で最期を迎えるのは、嫌だと思った。あなた達が与えてくれた、かけがえの無い命を......。最期まで大切に燃やし抜きたい。そう思ったの」
新一「......今更、何をしようってんだ?もう俺達には、時間がねーんだぜ?」
灰原「ええ。確かにね。でも、残された僅かな時間で、私にはやりたい事が出来たの」
新一「やりたい事......?」
灰「ええ。私とあなたの......。生きた証を遺す事よ」
新一「証を......?」
灰原「ええ。そうよ」
新一「どうやって......?」
灰原「......本当はね、私ね?あなたの子供を作りたかった」
新一「なっ!??」ドキッ
灰原「あなたの子供を産んで育てて......。あなたが生きていた証を遺してあげたかった」
新一「なっ、おま、その......。子供って......」カーッ
灰原「今更あれだけ痴態を晒して、恥ずかしがる事も無いじゃない?」クスッ
新一「......っ」カーッ
灰原「......でも、私達にはそんな時間は残っていない。残念ながらね」
灰原「だから、形として生きた証を遺す事は出来ないかも知れない。でも、だからって諦めたくない」
新一「ど、どうしようってんだよ?」
灰原「......私ね、この村の子達に勉強を教えてあげようと思うの」
新一「勉強を......?」
灰原「そう。私が培って来たモノを通じて、色んな事に興味を持って欲しい。そして、私の様に得た力を間違った事に使わず、正しく震える人間になって欲しい。時間は無いかも知れないけど、出来る限りの事をしたいの」
新一「それがオメーの言う、生きた証を遺す事なのか......?」
灰原「ええ、そうよ。後世に名を遺す様な大きな事は出来なくても、出逢った人の心に1つでも何かを......。生きる希望となる何かを遺せたら、それはその人が生きた証になるんじゃないかしら」
新一「......」
灰原「あなたも、やってみない......?」
新一「俺が......?」
灰原「ええ。あなたも、勉強やサッカーを教えて......。私と一緒にやってみない?」
新一「......俺には無理だよ。そんな力は」
灰原「あるわ。あなたにはそんな力がある。私が生きている事が、その証拠よ」
新一「灰原......」
灰原「いきなり決断するのは難しいと思う。私も、今はこう言っててもいつ死の恐怖に足がすくむか分からない。でも、精一杯やってみるつもり」
新一「......」
灰原「明日、私は学校に言ってボランティアとして働かせてくれないか頼んでみるつもり。無理には言わないけど、もし手伝ってくれるなら、その時はお願いね......」
新一「......」
灰原「......今日は別の部屋で寝るわ。一緒には寝れないけど、これだけは言っておくわ」
新一「?」
灰原「あなたをこんな運命に巻き込んだ事、心から後悔してる。でも、もう後ろは見ない。前を見て進むわ」
灰原「だから、何のしがらみも飾りも無く言うわ」
灰原「工藤君を愛してる。心の底から愛してる。本当に本当に......。大好きよ」
新一「!!!」
灰原「......じゃあ、また明日。お休みなさい。工藤君」
ガチャッ......バタンッ......
灰原(......言いたい事は言った。後は彼の選択次第)
灰原(例えどんな選択でも、私は受け入れる。彼の選択に口を挟む資格は無いのだから)
灰原(でも願わくば、あなた自身を取り戻して。工藤君......)
新一「......チッ、好き勝手言いやがって」
新一「本当にキレイゴトの好きなヤツだぜ......。ったくよ......」
新一「今更......。こんな俺に何が出来るってんだよ......。こんな俺に......」
新一「......」
「あなたがくれた、命だから......」
新一「......バーロ。オメー自身の努力で得た命だろうがよ」
新一「......でも、アイツがそう感じてんなら」
新一「俺は、俺は......」
>>78
震える→奮える
翌朝。
灰原1晩経ったけど、彼はどんな決断をしたのかしら......)
灰原(......とにかく、声をかけるしか無いわね)
灰原「工藤君、起きてる?」コンコン
シーン......
灰原「工藤君?」コンコン
シーン......
灰原(寝ているのかしら......)
灰原「......私、行くわね。あなたも無理せずゆっくりしていてね」
灰原「じゃあ、行ってきます」
ガチャッ......バタンッ......
灰原(......寝ているのか、それとも行きたくないと言う決断なのかしら)
灰原(そうだとしても仕方無いわ。私は自分の決めた道を行かなくちゃ)
灰原(......工藤君)
ポーン、ポーン......
灰原「......?何の音かしら?」
灰原「向こうの原っぱの方から......」
ポーン、ポーン......
灰原「この音、ボールの......?まさか......」
灰原「......!!」
新一「......よっ、はっ!」ポーン、ポーン
新一「......ふぅ。やっぱり鈍ってんなあ」
灰原「工藤君......」
新一「......っ!見つかっちまったか」
灰原「あなた、何をしてるの?」
新一「見りゃわかんだろ?サッカーの練習だよ」
灰原「練習......?」
新一「教える人間がヘタクソじゃあ、子供らがガッカリすんだろ?」
灰原「!!」
新一「......済まなかったな、灰原。俺が不甲斐ないばかりに、オメーにあんな辛い台詞を吐かせちまったよ。本当にゴメンな」
灰原「そんな、あなたが謝る事なんて」
新一「......俺な、昨日オメーと話した事で何だか胸がスッキリしたよ。最初から俺が溜めないで話してりゃ、嫌な思いさせずに済んだのにな。何回か話そうとしたけど、やっぱり上辺でしか話してなかったんだな。きっとさ」
灰原「それは私もよ。漸く私達、本音でぶつかり合えたのね」
新一「そうだな。ちょっと遅かったけどな」
灰原「そうね。そしたらもっと初体験はムードを持って出来たかもね」
新一「ああ、ホントにな。悪かったよ......」ポリポリ
灰原「謝らないでよ、バカね」クスッ
新一「へへ、そうだな。バカだよな、ホントにさ」
灰原「ふふっ......」
新一「......ふふっ」
「アハハハハハ......」
新一「......なあ、灰原」
灰原「何?」
新一「昨日、オメーが行っちまったから言えなかったけどさ」
灰原「......ええ」
新一「俺......。心から、オメーと一緒にいたい」
灰原「......!!」
新一「オメーは、蘭の代用でも傷を舐め合う為の慰めでも無く......」
新一「好きだから、一緒にいたいんだ」
灰原「......!!」
新一「俺、頑張るよ。残り少ない時間を、灰原が俺と一緒にいて良かったって思えるようにさ」
新一「だから......。灰原哀さん。そして、宮野志保さん」
灰原「......はい」
新一「今度こそ......。本当の意味で、俺と最期まで一緒にいて下さい。お願いします」
灰原「......良い、の?本当に......私で......」ポロポロ
新一「......お願いします!一緒にいて下さい!」
灰原「......もっと......あなたらしく言ってよ......」ポロポロ
新一「......オメーが好きだ!だから、俺と一緒にいてくれ!!頼む!!」
灰原「......バカ、バカ、バカ」ポロポロ
灰原「止めてよ......。せっかく新しい生き方を始めようとしてるのに」ポロポロ
新一「......?」
灰原「幸せ過ぎて......。満足しちゃったら、出来なくなっちゃうじゃない......」ポロポロ
新一「......灰原」
灰原「一緒に、いる。何があっても、工藤君と一緒にいる......」ポロポロ
灰原「......良い?」ポロポロ
新一「......ったりめーだ!」ダッ
灰原「......!」
ギュッ......
新一「......もう、離さねぇ。離れねぇ」
新一「ずっと一緒だ......。何があっても」
灰原「......うん」ギュッ
灰原「ありがとう、工藤君......」
新一「......その、良かったらさ」
新一「新一って呼んでくれないか?」
灰原「え?」
新一「その、変な意味じゃないんだぜ?ただ、名前の方が......。近いって感じがすっからさ」
灰原「......わ、分かったわ。んん。し、し、し」
灰原「......新一、君」
新一「......!」ドキッ
灰原「な、何?」
新一「......な、慣れないからドキッとしちまった」ドキドキ
灰原「私だって、慣れないわよ......」ドキドキ
新一「ワ、ワリー。無理させたかな」
灰原「大丈夫よ。慣れるから、その内」
灰原「じゃあ、新一......君?私も、名前で呼んで?」
新一「あ、ああ。その、どっちで......?」
灰原「どっちでも良いわ。あなたの呼びやすい方で」
新一「じゃ、じゃあ......。あ、哀」
灰原「......はい」ニコッ
新一「......っ!え、と......し、志保」ドキドキ
灰原「......はい」ニコッ
新一(ヤベ、可愛いな......)ドキドキ
灰原「......で、どっちにするの?」
新一「い?え、えーっと......」
新一「ど、どっちも使い分けで......」
灰原「なぁに?それ」クスッ
新一「いや、結局どっちも呼び慣れないからさ......」
灰原「......分かったわ。大変だけど、何とか対応するわ」クスッ
新一「ん、うん......」ドキドキ
灰原「で、新一君?行く?一緒に」
新一「いや、悪いけど今日は行けねぇ。3日くれないか?その間に、必ずカンを取り戻すからさ」
灰原「分かったわ。待ってる」ニコッ
新一「何だよ、一緒に行かないのって怒られるかと思ったぜ」
灰原「ううん。私は、今日一緒に行ける事より」
灰原「あなたが戻って来てくれた事が、嬉しい」ニコッ
新一「俺が......?」
灰原「ええ。私の好きな、あなたの顔になった」ニコッ
新一「......そっか、なら頑張らねーとな!」
灰原「ええ。じゃあ、行くわね」
新一「ああ。俺もすぐ追い付くからな!オメーに!」
灰原「ええ、行ってきます。新一君!」
新一「行ってらっしゃい、哀!」
灰原(......良かった。あなたがあなたに戻れて)
灰原(本当に......。良かった......!)
新一「......正直、まだ自信は無ぇ。俺なんかに何が出来るもんか」
新一「でも、頑張るさ。オメーがいるから」
新一「待っててくれよな、灰原。すぐオメーのレベルまで追い付くからな!」
新一「っと。名前で呼ぶのも慣れねーとな、ハハ......」
灰原(こうして、私達は新しいスタートを切った)
灰原(学校に話をして、私達はボランティアとして参加する事を認められた。人手の足りない小さい学校故、歓迎を持って迎えられた。私は、自分の得意な理科を教える事になった)
教師「えー、皆さん。今日からボランティアとして新しく来てくれた方を紹介します。どうぞ」
生徒A「新しく?誰だろ?」
生徒B「こんな田舎に?」
少女(誰だろ?)
少年「......」
灰原「皆さん、こんにちは」
少女「あ、シホ!」
少年「......!」
灰原「今日から皆さんと一緒に勉強をさせて貰います。シホ・ミヤノです。宜しくね」
「はーい!」
少女「シホ......」
灰原「......」パチッ
少女「......!」ニコッ
少年「......」
灰原(幸い、面通しは小さい村なので既に終わっており、スムーズに受け入れて貰う事が出来た)
灰原(子供達との交流は、正直戸惑う事ばかりだった。灰原哀として「子供同士」の交流はしていたけれど、大人と子供での交流は、あまり慣れていなかったから)
灰原(けれど、その慣れない環境に私の心は逆に活気づいた。自分のしようとする事への、決意が固まった)
灰原(そして放課後、私はあの子達と話をする事にした......)
少女「凄い凄い!シホ!どうしたの?」
灰原「あなたのお陰で元気になったから。こうして働きたくなったの」
少女「嬉しい!じゃあ毎日会えるんだね!」
灰原「ええ。毎日会えるわ」ニコッ
少年「......」
灰原「......まだ私達の事、怒ってるかしら」
少年「......」ブンブン
灰原「じゃあ、どうして黙ってるの?」
少年「......ひどい事、言っちゃったから」
灰原「あなたが謝る事は無いのよ。私達が約束を破ったんだから」
少年「......じゃあシンイチは何で来てないの?」
灰原「......」
少年「僕の事、怒ってるからじゃないの?」
灰原「それは違うわ。彼はね、今トレーニングをしてるの」
少年「トレーニング......?」
灰原「そう。私は、彼女と約束したの。彼を元気にして、あなた達とサッカーするって」
灰原「彼は元気になった。でもね、まだ自分に納得して無いの。鈍った腕であなた方の前に出るとガッカリさせてしまうから。だから練習してるの」
少年「本当?僕達の為に?」
灰原「ええ。彼は3日待ってと言っていたわ。だから3日待ってて。必ず彼は来てくれるから」
少年「うん......。分かった!ありがとう!」
灰原「お礼なら、彼女に言ってあげて。私が元気になれたのも、彼女のお陰だし」
少女「わ、私は何にも」
灰原「ふふっ......。とにかく、宜しくね。2人とも」
少年「うん......。あの、シホ」
灰原「なあに?」
少年「シンイチに言って欲しいんだ。ゴメンねって。2人が来てくれて、とっても嬉しいって」
灰原「分かったわ。でも、それは彼が来た時にもう1度言ってあげて」
少年「分かった!」
灰原「じゃあ、また明日ね」
少年「うん!」
少女「また明日!」
少年「......なあ、シホに何したの?」
少女「な、何もしてないわよ!」
少年「ふーん......」
少女(シホ、元気になって良かった......)
少女(私、ちょっとは役に立ったかな......?)
灰原「......で、あなたにゴメンって彼が」
新一「そっか。気にする事無いのにな。俺が悪いんだから」
灰原「行った時に、フォローしてあげて」
新一「ああ。分かった」
灰原「で?進捗はどうなのかしら?新一監督?」
新一「な、何だよ、そりゃ」
灰原「指導者なんだから、監督でしょう?」クスッ
新一「......まあまあかな。もう少しやりゃ、何とか出来そうだ」
灰原「そう......。あまり根を詰めないでね」
新一「わーってるさ。そっちはどうなんだよ?シホセンセー」ニヤッ
灰原「な、何よそれ」
新一「ボランティアとは言え、授業教えてんならセンセーだろ?」
灰原「......正直、慣れない事だから体力的には厳しいけど。でも、やりがいはありそうよ」
新一「そっか。あんま無理すんなよ」
灰原「お互いにね。ああ、そうそう。彼はこうも言ってたわ」
新一「?」
灰原「私達が来て、嬉しいって」
新一「そっか......。なら、もっと喜ばせてやんなきゃな」
灰原「ええ......」ニコッ
新一「さて、今日はもう寝るか」
灰原「そうね。早めに休みましょう」
新一「ああ。で、哀さん?その......」
灰原「......ええ。また一緒に寝ましょう」ニコッ
新一「......っし!」
灰原「あ、でもアレはお預けよ。今のリズムに慣れるまで」
新一「い?!マジかよ?!」
灰原「イヤなら早く仕上げてね?監督?」
新一「......へいへい。分かりましたよ」ハァ
灰原「でも......」チュッ
新一「......!」
灰原「これ位は、ね」
新一「......十二分過ぎるぜ、今の俺には」
灰原「ふふっ。頑張りましょうね、新一君」
新一「ああ、哀......」
灰原(正直、完全に死の恐怖を消せた訳じゃかったと思う。でも、私達は笑える様になった)
灰原(ごまかしの笑いでは無く、心からの笑顔で)
灰原(それが何よりも嬉しかった。幸せだった)
灰原(そして、時間はあっと言う間に経ち......。約束の3日後を迎えた)
はよ
学校のグラウンド。
灰原「......はい、では皆さん。今日は新しく皆さんと勉強をさせて頂く人を紹介します。宜しくね」
「はーい!」
生徒A「でも、その人どこにいるの?」
灰原「今ね、ちょっと準備をしているの。みんなを驚かせたいからって。もう少し待っててね」
「はーい!」
少女「ねぇ、シンイチ来てくれる様になって良かったね!」
少年「うん。でも、何をするのかなぁ?」
少女「分かんないけど、待ってようよ」
少年「うん、そうだね」
灰原(......さぁ、準備はしたわよ。新一君)
灰原(正直、あなたが何をするつもりかは知らないけれど......)
数時間前。
灰原「子供達を先に待たせて欲しい?」
新一「ああ。上手く行くかは分からないけど、挨拶がてらビックリさせてやりてーんだ」
灰原「何をする気なの?」
新一「ま、見てのお楽しみ、だ」
灰原「分かったわ。でも、あまり自分にプレッシャーをかけない方が」
新一「......大丈夫さ。心配すんな。じゃ、頼んだぜ。俺はギリギリまで練習すっからさ」
灰原「分かったわ。待ってるわ......」
現在。
灰原(......正直、彼はまだ不安を感じている様子もあった。自分にハッパをかけようとして、追い込み過ぎなければ良いのだけれど......)
とてもすばらしいです
「おーい!」
灰原「!」
少女「あ、シンイチだ!」
少年「シンイチ!」
新一「良し。向こうからは見えてるみたいだな。ゴールはアレだな?」
生徒A「ねぇ、来ないよ?何してるの?」
生徒B「あそこで止まっちゃったよ?」
少女「何してるんだろ?」
少年「シンイチ......」
灰原(新一君、何を?)
新一「......上手く行くかは分からねぇ、でもこの蹴りに今までの弱い自分を乗せて蹴っ飛ばす」
新一「文字どおり......。ヘタレな自分にケリをつけてやる」
新一「見ててくれよ、みんな......。哀......」
新一「......いっけぇぇぇぇえ!!」ドゴォッ
灰原「......!」
少女「スゴイ......!あんな遠くから......」
少年「ゴールに......」
パスッ......
少年「......入った!」
生徒A「スゴーイ!入ったよ!」
生徒B「プロみたいだ!」
灰原「新一君......。やってくれたわね......」クスッ
少女「スゴイスゴイ!シンイチ、サッカーホントに上手なんだね!」
少年「うん、スゴイ!スゴイや!」
少女(......目がキラキラしてる。良かった)ニコッ
新一「ふぅ。どーにか上手く行ったぜ......」
灰原「随分とハデな挨拶ね?」クスッ
新一「志保?ワザワザ来なくても今そっちに行くのに」
灰原「良いじゃない。ヒーローを出迎えてあげないと」
新一「ヒーロー?」
灰原「見てよ、あの子供達の盛り上がり様を。キック1つでみんなあなたに夢中になってるわ」
新一「......良かったよ。上手くいって。哀も見てくれたよな?」
灰原「勿論。見せて貰ったわ。素晴らしかったわ」ニコッ
新一「......良かった。何せ、今のシュートは決意を込めて蹴ったからな。ゴールに入って良かった」
灰原「決意?」
新一「もう、弱い自分には負けない。不幸な自分になりたがるのは......。悲劇に酔いたがるのはやめる」
新一「そして、目の前の好きな女を守るんだって決意を込めたシュートだったよ」
灰原「新一君......」
新一「......ま、機械のインチキ無しであんだけ飛んだのは出来すぎだったけどな」ニカッ
灰原「......そうね。今度は子供達にアレは機械のインチキですって言わなくて済むわね」クスッ
新一「へへ、そうだな。さ、向こうへ行こう!みんなにちゃんと挨拶しようぜ」
灰原「ええ、宜しくね」
新一「おう!」
灰原(......やっぱり、心配は不要だったわね)
灰原(1度やると決めたあなたは、誰よりも強いものね。さっきのシュート、絶対忘れないわ)
灰原(......あなたはそう言うつもりは無いと思けど、私にとってあのシュートは何よりのプレゼントよ)
灰原(私の呼び掛けに、あなたが全力で応えてくれたんだもの......)
灰原(ありがとう、新一君......)
灰原(私も、あなたに負けない様に頑張るわ......)
新一「と、言う訳で今日から一緒にみんなとサッカーやらせて貰うシンイチ・クドウだ。宜しくな!」
「はーい!」
新一「っし、じゃあ早速始めよう!みんな、移動してくれ!」
「はーい!」
新一「......さて。もう1つ先に済ませないとな。哀、みんなを向こうで待機させててくれ」
灰原「ええ、分かったわ。約束を果たさないとね。頑張って」
新一「ああ」
少女「あ、シンイチが来るよ!」
少年「あ......」
新一「やぁ、久し振りだな。遅くなっちまって、ゴメンな」
少女「良いの、ちゃんと遅くなっても来てくれたから!ね?」
少年「う、うん......」
新一「......やっぱりまだ怒ってるか?無理もないよな。約束、1度破っちゃったからな」
新一「本当に、済まなかった」ペコッ
少年「違うんだ。前にシンイチにもシホにも酷い事言ったから、怒って無いかなって。怖くて......」
新一「そんな事、気にする事無いさ。こっちが悪かったんだからさ。アイツも気にしてないさ」
少年「ホントに?」
新一「ああ。ホントさ。だから、これから一緒にサッカーやらせて貰えるかな?」
少年「もちろん!」
新一「良かった。宜しくな!大会に向けて頑張ろうぜ!」
少年「うん!」
少年「うん......。あの、シンイチ」
新一「ん?」
少年「シンイチとシホが来てくれて、本当に嬉しいよ。ありがとう」
新一「俺こそ、みんなと頑張れる事になって嬉しいぜ!ありがとな!」
少年「うん!」
新一「よし、みんなの所に行くぞ!」
少年「うん!」タタタッ
新一「......ふぅ。取り敢えず許して貰えたかな?ん?」
少女「......あの」
新一「ん?どうかした?」
少女「ありがとう、来てくれて。あの子、嬉しそう」
新一「......なあに。君の大事な人の為だからね」ニカッ
少女「......!ち、違うもん!そんなんじゃないもん!」タタタッ......
新一「......素直だな。子供は」
新一(灰原がああ言う決意をしたのも、分かる気がするよ)
新一(きっと、無垢な心に触れて何かを取り戻したんだろうな)
新一(......いや、元々そうしたかったのかも。アイツは)
新一(ここに来て、子供達と楽しそうに触れ合うのを見て......。アイツはこう言う生活をしたかったのかもって思った)
新一(普通の......。家庭的な生活を。子供が欲しい、まで考えてるとは思わなかったけど)
新一(だけど、俺に自信が無かったばかりにその望みに応えてやれなかった。回り道をし過ぎちまった。大切な時間を浪費しちまった)
新一(その分まで、とは言わないが......。出来る限りの事を哀にも子供達にもしてあげなきゃな)
新一(時間の許す限り、な......)
灰原「お疲れ様。御詫びは済んだ?」
新一「ああ。何とかな」
灰原「そう。良かったわね」ニコッ
新一「ああ。じゃ、やって来るぜ!」
灰原「ええ、お願いね」
新一「よーし、みんな!まずは軽くミニゲームからだ!2つに分かれて始めるぞー!」
「はーい!」
灰原(あの眼。あなたもしたのね。私とは違う決意を......)
灰原(お互いに見届けたいわね。最後まで......)
灰原(こうして、それぞれの決意を胸に新たな挑戦が始まった)
灰原(それぞれの得意分野を通じて、子供達に1つでも何かを伝えたい。そう願って)
灰原(慣れない指導者生活だったけど、精一杯私達は頑張った)
灰原(その甲斐あり、子供達も私達の活動を楽しみにしてくれる様になり、私達もリズムを掴みつつあった。しかし......)
灰原(順調に物事が進んでいるからと言って、私達から事実が消える訳じゃない)
灰原(......命の灯火は消えかかっていると言う現実が、私達に迫って来ていた)
学校に行き始めてしばらくたったある日の夜......。
新一「......ふぅ。今日も疲れたな」
灰原「お疲れ様。どう?調子は」
新一「ああ。少しずつだけど、みんな上達して来てるよ。元気過ぎて、相手が大変だけどな」
灰原「そう。その割には大変って顔はしてないわよ?」クスッ
新一「ん、まあ......。なんつーか、こう言う指導者側から関わる事がこんなに楽しいとは思わ無かったよ」
新一「部活みたいなのとはまた違う。人に教えて、それを通じて自分の勉強にもなる。大変だけどその分得る物もデカイよな」
灰原「そう。良かったわね」
新一「まあな。オメーこそどうなんだ?」
灰原「あなたと同じよ。子供達にいかに分かりやすく授業をするか考えるのは大変だけど、上手く行った時の喜びは大きいわ」
灰原「実験をした時の子供達の楽しそうな顔は他に換えがたいモノね」
新一「そっか。上手くいってんなら何よりだ」
灰原「ええ。そう言えばサッカーの試合はいつだったかしら?」
新一「ああ、後1ヶ月後さ。何とか勝たしてやりてーんだよなあ......」
灰原「ええ、そうね。せっかくあの子達も頑張っているんだものね」
新一「ああ。......なあ、俺達ここに来てどんくらいだったかな?」
灰原「そうね。大体......。2ヶ月以上は。日本を離れてからだと、4ヶ月は確実に経ったハズね。カレンダーも置いてないから、日付の感覚があまり無いけれど......」
新一「そっか、そん位経つか......」
灰原「......残り時間を気にしてるのね」
新一「......ああ。大会まで持ってくれりゃ良いが」
灰原「......」
新一「おいおい、そんな顔すんなよ?別に暗くなってる訳じゃねーんだから」
灰原「ええ。分かってるけど......」
新一「大丈夫だ。前みたいに酒に逃げたりはしねーさ。ただ、事実は事実として確認しとかなくちゃな」
灰原「ええ、そうね......。そう言えば、あれから吐血は......?」
新一「ああ。あれからは出てねーな。身体もまあ大丈夫かな。志保はどうなんだ?」
灰原「同じよ。吐血は無いし、取り敢えず安定してるわ」
新一「そっか。生活に張りが出て、少しは身体も活気づいてるのかな」
灰原「ええ。そうかも知れないわね......」
新一「だよな。それに......!?」ビクッ
灰原「......新一君?どうしたの?」
新一「......何でもねー。ちょっとトイレに行ってくる」
灰原「え、ええ」
灰原(新一君......?)
灰原(あなた、まさか......)
新一「......っ、ゴホッ、ゴホッ!」ビチャッ......
新一「......っ、ハァ、ハァ、ハァ」
新一「......クソ、あんな話した矢先にこれかよ」
新一(今までより血の量が多い......。吐いた後の疲労感もずっと酷い)
新一(正直、血は吐いて無かったが少しずつだるさや身体に澱みの様な感覚を覚えてはいたけど......。遂に表面化しやがったか)
新一「......ハッ、調子乗るなよって死神さんが警告に来やがったか?」
新一「そう簡単に、見逃さねーってな......」
ガチャッ......
新一「?!」
灰原「......やっぱり、新一君」
新一「......ノックもせずにトイレに入るのはマナーがなって無いぜ?」
灰原「そんな事を言ってる場合じゃ無いでしょう?!その血の量......」
新一「大丈夫だ。今は落ち着いたよ。言っとくが、ホントに血は吐いて無かった。今の今までな」
灰原「......でも、ちょっとは具合の悪さを感じていたんじゃないの?」
新一「オメーも、か?」
灰原「ええ......。ちょっとした違和感の様なモノだけど......」
新一「そっか......。まあ、隠そうとしたんじゃねーんだ。ただ、大丈夫と思ったから言わなかった。オメーもだろ?」
灰原「ええ、確かに......。とにかく、向こうで休みましょう。安静にしないと」
新一「ああ、そうだな......」
灰原「立てる?手を」サッ
新一「ああ、ありがとう......。うっ......」ガクッ
灰原「新一君?!」
新一「だ、大丈夫大丈夫。ちょっとまだ力が入らないだけさ。少し休ませてくれ」
灰原「......」ウルウル
新一「おい、大丈夫だって......。泣くなよ......」
灰原「だって、だって......」
新一「心配無いって。だから気にするなって」
灰原「無理よ......。だって、あなたがそうなったのは私のせいなんだから......」グスッ
新一「哀......」
灰原「弱気になっちゃいけないって......。気にしちゃいけないって......。分かってる。分かってるけど......」
灰原「でも苦しい。あなたのそんな姿を見るのが辛くて堪らない......」ポタッ......
灰原「何故あなたがこんな目に......。私さえいなければ、私さえ......」ポタッポタッ......
新一「哀......。もう止めろ。自分を責めるのは」
灰原「責められて当然よ。あなたの命を縮め、他にも人の命を奪ったかも知れない。そんな悪魔の様な薬を作った人間なのよ、私は......」グスッ
灰原「責められて......。当然よ......。赦されるハズが無いのよ、本当は......」
灰原「ああ、あなたの命が救われるなら......。あんな薬を作ったこの腕を切り落としてしまいたい......」グスッ
新一「......!!」
灰原「あなたが助かるなら、この心臓をえぐり出してしまいたい......。あなたが助かるなら、何でもするのに。他に何もいらないのに」グスッ
灰原「何もしてあげられない......。何にも......出来ない......」グスッ
灰原「ごめんなさい、新一君......」グスッ
新一「......ったく。オメーはホントにバカだなあ」ナデナデ
灰原「......えっ?」
新一「何でオメーが謝るんだ。1番辛いのは、オメー自身だろ?」
灰原「だって、だって......」グスッ
新一「言っとくけどよ。謝られても困るんだよ。だってさ、俺......」
新一「オメーを恨んだ事なんか1度もねーんだからさ」
灰原「え......?」
新一「まあ、正直に言うとな?身体が小さくなった直後は腹立ったさ。そりゃ。絶対に許さねー位に思ってたさ」
新一「でもな、オメーに会って、オメーを理解してからは1度もオメーを憎んだ事はねーし、恨んだ事もねーんだよ」
新一「誰よりも辛かったのは、オメーなんだからな......」
灰原「......でも、私のした事は」
新一「......確かに、哀のした事は赦される事じゃ無いかも知れない。一生を費やしても」
新一「でも、少なくとも俺は哀を恨んでない。寧ろ感謝してる。だって......」
新一「身体が小さくなったから......。コナンになったから俺は哀に......。志保に会えたんだから」
灰原「!!!」
新一「あの薬を飲んで、失ったものは確かに沢山あるかも知れない。それは事実だ」
新一「でも......。でもな?APTX4869を飲んでコナンになったから、得られた事も......。出逢えた人も沢山いるんだよ」
灰原「新一、君......」
新一「コナンになったから、俺は歩美、元太、光彦、小林先生。学校のみんなに会えた」
新一「コナンにならなかったら、服部ともあれほど仲良くなれたかどうか。コナンにならなかったら、あんなに色んな場所に行っていろんな人に出逢えたろうか?」
新一「キッドともあれほどやり合う機会があったかどうか。そもそも、あの時コナンにならなかったら、俺は黒の組織と関わったろうか?」
新一「黒の組織と関わったからこそ、奴等を潰す事が出来た。志保のお姉さんを助ける事が出来なかったのは、本当に残念だったけれど......」
新一「それでも、コナンになって得た出逢いや別れは全て俺の大事な宝物なんだ。新一として生きるハズだった、失った未来と比べても勝るとも劣らない。大事な思い出だ」
新一「哀がくれたきっかけで、俺はたくさんのモノを得られた。だから、こうなった事を恨む理由なんて無いんだ。今だって、哀のお陰で希望を取り戻せた。楽しい毎日を送れてる」
新一「何より、やっぱり......。やっぱり繰り返しになるけどさ。身体が小さくならなかったら志保に会えなかった。今目の前にいる大事な人に会えなかった」
新一「でも会えた。会えたんだよ。こうやって会えたんだ。それは奇跡だ」
新一「そんな奇跡をくれた哀に......。俺は心から感謝してるよ。ありがとう」
灰原「......あ、あなた。バカよ」グスッ
灰原「バカ、よ......あなた......。何でそんな事言えるのよ......」グスッ
灰原「本当に、バカよ......」ポタッポタッ......
新一「へへ、そうかもな。なら、オメーもバカなんだよ。バカを好きになっちまったんだからな!」ニカッ
灰原「新一君......」
新一「......なあ、哀」ギュッ
灰原「......うん」
新一「俺は確かにバカだ。だから、そんなバカにはオメーが必要なんだ」
新一「だから......。自分を責めないでくれ。自分を傷付けないでくれ」
新一「オメーが苦しむ姿を見る方が、悲しむ姿を見る方が、自分の身体が病むより辛いんだ」
新一「だから泣くな。無理して笑えとは言わねーけどさ。でもやっぱり泣き顔より......」
新一「オメーの笑顔を見てたいからさ......」
灰原「......良いのかしら、私」ギュッ
新一「ん?」
灰原「あなたに赦されて、良いのかしら」
新一「本人が良いってんだから良いんじゃねーか?」
灰原「......そう、かもね。でも、考えたら私はあなたとは居られないわよね」
新一「何で?」
灰原「だって、生きている間はともかく......。私が命を落としたら、私が行くのは下よ。間違いなく上じゃないわ。あなたは上に行く人だもの......」
新一「じゃあ俺も下にいきゃあ良いんだろ?」
灰原「え......」
新一「まあ、ここまで必死に生きて自分の過ちを償おうとしたオメーを神様が赦さないとは思えないけどな。仮にオメーが下に行くってんなら、俺も行くまでさ」
新一「オメーのいない所にいくなんて、俺はゴメンだからな。嫌だっつっても行くからな。絶対に。我が儘言うなよ」
灰原「......どこまでバカなのよ、あなた」
灰原「こんな私の為に、地獄まで行こうと言うの......?」
新一「地獄って決まってねーだろ?まあ、だとしても行くさ。本当の意味でずっといるって約束したんだからな。オメーとさ」
新一「いい加減分かれよ。その位惚れちまったんだよ、オメーにさ。文句あるか?」
灰原「......無いわよ。あるわけ無いじゃない。あったとしても」
灰原「こんな大バカに言って聞かせる言葉なんか無いわよ......。ホントに......」
新一「散々な言われ方だな......」
灰原「事実でしょ。でも、私も大バカなら仕方無いわね......」クスッ
新一「そうそう。そうやって笑ってろよ。その方がずっと良いぜ」
灰原「......分かったわ。自分の罪を忘れはしないけど、もういちいち泣かないわ。あなたに失礼だものね」
灰原「ありがとう、新一君......」
新一「礼を言うのは俺だっての。俺の為にあれほど悲しんでくれて、ありがとな」
灰原「それこそお礼なんて。当たり前の事だもの。あなたの心配をする事は......」
新一「......うん。さて、立つかな。大分楽になったよ。いつまでもトイレに座ってたくねーしな」
灰原「それもそうね。随分な所でシリアスな話をしてたのね、私達」クスッ
新一「ああ、だな。さて......」グッ
灰原「無理に1人で立たないで。はい、手を」スッ
新一「ああ、ありがとう」グッ
灰原「......ふぅ。歩ける?」
新一「もう大丈夫さ。なぁ、哀」
灰原「なぁに?」
新一「オメーは今は体調大丈夫なんだよな?」
灰原「?え、ええ」
新一「そっか......」
灰原「どうしたの?」
新一「いや......。取り敢えず寝室行こう」
灰原「え、ええ」
寝室。
灰原「大丈夫、新一君?着いたけど」
新一「ああ、大丈夫だ。それより、哀」
灰原「なぁに?」
新一「......驚くなよ」
灰原「え?」
チュッ......
灰原「!?」
新一「......」ギュッ
灰原「......んっ」ギュッ
新一「......ふぅ」
灰原「......」
新一「......驚いた?」
灰原「いえ、あの......。急にどうしたの?してくれたのは、嬉しいんだけど......」
新一「その、今晩......。しないか?」
灰原「しないかって、アレを?」ドキッ
新一「ああ」
灰原「なっ......。ダメよ!さっきあんな事になったばかりなのに?!休まないと......」
新一「休んでどうにかなるもんでもないさ。大丈夫だよ」
灰原「で、でも......。何故今?」
新一「まあ、ここんとこ忙しかったからして無かったしな。何より、出来る時にしとかねーとさ。もし出来ないまま終わっちまったら、オメーとのアレの記憶は、酒に酔って現実逃避しただけの嫌な記憶で終わっちまう」
新一「好きな女とするなら、心を通わせた楽しい記憶として胸に残してーんだよ。頼むよ、志保......」
灰原「新一君......」
新一「......ダメか?」
灰原「......分かったわ。でも、調子が悪くなったらすぐ止めてね」
新一君って呼ぶのは園子のイメージだなあ
新一「ありがとな、哀」ギュッ
灰原「新一君......」ギュッ
灰原(......本当は、少しでも身体を休めて欲しい。でも......)
灰原(彼の望みにも応えてあげたい。私達には時間がないのは事実だから......)
灰原(何よりも......。彼が私を慰みモノでは無く1人の女として求めてくれている事が嬉しい。だから応えたい)
灰原「......結局、私もなのかも」ボソッ
新一「何が?」
灰原「こんな状態でも拒否しないのは、私もあなたと1つになりたいからなのかも」
新一「......!」
灰原「はしたないかしら......?」
新一「いいや。んな事無いさ......」
灰原「本当?」
新一「ああ、本当さ。そう言って貰えて、嬉しいぜ」
灰原「......ありがとう、新一君」ギュッ
新一「哀......」チュッ
灰原「んっ......んん......っ」ビクッ
新一「ん......」チュルッ......
灰原「ふ......ぁ......っ......」ビクビクッ
新一「大丈夫か......?」
灰原「ん......。大丈夫......。もっと、して......?」
新一「うん......。その前に......」
灰原「そう、ね。脱ぎましょうか......」スルッ
新一「......」ジーッ
灰原「あ、あんまりジロジロ見ないで。恥ずかしいから......」
新一「ワ、ワリー。でも、見たいんだ。目に焼き付けておきたいんだ」
新一「哀の......。全部をさ......」
灰原「......!」
新一「ダメか?」
灰原「......いいえ。あなたがそう望むのなら」スルッ
新一「......」
灰原(......正直恥ずかしいわ。でも、それより嬉しい)ドクンッ
灰原(あの時とは違う......。心からそうしたいと思える)ドクンッ
灰原(こんな行為でさえ......)ビクッ
灰原「んっ......」ブルブルッ
新一「ど、どうしたんだよ?」
灰原「......み、見られてるとしちゃうの」ブルブルッ
新一「?」
灰原「興奮......しちゃうの......」ビクビクッ
新一「!!」
灰原「あなたの視線が......。感じられる度に......。身体を電気が走るみたいに」
灰原「身体がうち震えるの......。変に思うかも知れないけど......。変、かしら?」
新一「んな事無いさ......。俺のが変かもな......」
灰原「何故?」
新一「その台詞を聞いて、喜んじゃってるからさ。俺が」
灰原「!」
新一「俺の視線なんかで、志保が興奮してるって思うとさ。変態かな、俺......」
灰原「......いいえ。ありがとう。新一君。脱ぎ終わりまで、見ててね」
新一「......うん」
灰原「......んっ」ビクビクッ
新一「......」ドキドキ
灰原「......お、終わったわ。新一君」ビクビクッ
灰原「......改めて私を見て、どう思う?」ビクビクッ
新一「キレイだよ。凄く」
新一「やっぱり......。女神みてーだよ。いや。女神だよ。哀は」
灰原「んっ......。言ってて、恥ずかしくない?その台詞......」ブルッ
新一「全然......?例えキザにおもわれようが、これが本心だよ」
新一「キレイだよ。本当に......。眩しい位にさ」ギュッ
灰原「......本当に、バカね。あなた」ギュッ
灰原「そんなクサイ台詞を真顔で言われたら......」
灰原「もっと好きになっちゃうじゃない......」
新一「そんなんで俺をもっと好きになってくれんなら、いくらでも言うさ。何百回だってさ」
灰原「なら、もっと言って......?もっと私に触れて......?」ギュッ
新一「分かったよ......」チュッ......
灰原「んっ......」チュルチュルッ......
新一「......んっ、ふぅ。柔らかいな。唇」
灰原「あなたのもね。ねぇ、あなたも......」
新一「ああ。分かった」スルッ......パサッ
灰原「......」ジーッ
新一「あ、あんまジロジロ見んなよ」ドキドキ
灰原「お返しよ。お互い様」クスッ
新一「チェッ、仕方ねーか......」パサッ
新一「......終わったよ」
宮野志保も美人だといいなあ
灰原「......キレイね」クスッ
新一「ハァ?何処がだよ?からかうなよな、ったく」ポリポリ
灰原「いいえ。キレイよ。あなたの姿。以前は絡み合うだけで......。あなたの姿、キチンと見れなかったもの」
新一「......言い方がちょっとエロいんだけど」
灰原「事実だから仕方無いわね。抱き合うのに必死、とでも言えば良かった?」クスッ
新一「......ったく。敵わねぇなぁ。オメーにはさ」ナデナデ
灰原「......あなたにもね」
新一「......柔らかいな。哀の髪」
新一「温かいな。哀の頭」スッ
灰原「......んっ」ビクッ
新一「柔らかいな。ほっぺた」ナデナデ
灰原「......あなたの手も、温かい」
灰原「温度だけじゃなく、あなたの温かさが伝わって来る」
灰原「あなたの命を、感じる」
新一「俺も感じるよ。志保の命を......」
灰原「もっと感じたい。あなたを」
新一「もっと感じたい。オメーを......」チュッ
灰原「んっ......」ビクビクッ
新一「ん、ん......っ」チュルッ......
灰原「は......ぁ、ぅ......っ......」ブルッ
新一「......大丈夫か?」ギュッ
灰原「いちいち心配しないで......。気持ち良い、だけだから......」ギュッ
新一「......うん」
新一「......じゃあ」チュパッ
灰原「んんっ?!」ビクビクッ
新一「ん、ん......」チュピッチュルッ......
灰原「はぁ......っ、ん、ぁ......っ、あんま、り......なめちゃ......っ」ビクビクッ
新一「んっ......」カリッ
灰原「んんっ!!」ビクビクッ
灰原「ダ、メ......、乳首......っ......噛んじゃ......っ」ブルッ
新一「ん、ん......っ」コリッ
灰原「あぅっ?!」ビクッ
灰原「ダ、メ......ッ、両方......いじったら......っ」ビクビクッ
新一「ん、ん......」モミモミッ
灰原「はぁっ?!あ、ぅぅっ!!」ビクッ
灰原「ダメ......って、ば......!!そんな、はげし......く......っ!!」ブルブルッ
新一「んっ......」チュパッチュパッ......
灰原「あ、ぁっ!!ダ、メ......しんい......ち......っく......」ビクビクッ
灰原(も、ダメ......っ......く、る......っ!)
灰原「はぁぁあぁぁっ!!」ビクビクビクッ
新一「......っと、大丈夫か?」ガシッ
灰原「......じ、ぶんで......させたクセに......」ハァ、ハァ
新一「だ、だってよ。心配すんなって言うから......」
灰原「ダメ、と言ったら......。少しは......加減してよ......。んっ......」ビクビクッ
灰原「まだ......。感じてる......。さっきの......」ビクッ
新一「いや、ワリー。つい......。感じてる姿も可愛かったからさ......」ポリポリ
灰原「......ホントに?」ドクンッ
新一「ん?」
灰原「私、可愛かった......?」ドクンッ
新一「ああ、スゴくな」
灰原「......じゃあ、良いわ」
新一「ん?」
灰原「やっぱり加減......。しなくて良いわ」
新一「哀......」
灰原「でも......。呼吸する間くらいは欲しいわ。気絶したく無いから......」
新一「......分かった。行くぜ」モミッ
灰原「んっ......」ビクッ
新一「......」スッ
クチュッ......
灰原「はぅっ!?」ビクッ
灰原「お、しりと、ソコッ......。いっしょはっ......んんっ」ビクビクッ
新一「......」チュッ
灰原「ふ、ぁっ......」チュルッ
灰原(ど、こも......。かしこも......。新一君が......っ)ビクビクッ
新一「......んっ」クチュクチュッ
灰原「んんっ!!」ビクビクッ
灰原(そんなっ......。かきまわし、たら......っ......ダ、メ......ッ......)ビクビクッ
灰原「も、ダメ......っ、しんい......っ、く......ま、た......っ......」ビクビクッ
新一「また......。イキそう?」クチュクチュッ
灰原「あぅっ!!う、んっ......うんっ......」ビクビクッ
灰原(アタマが......。何も......。考えられなく......っ)ビクビクッ
灰原(で、も......。前と違う......今は......)
灰原(あなたが......。私を愛してくれているのが......分かる......っ)ビクビクッ
灰原「も...ダメ......っ、また......っ」ビクッ
灰原「ああぁぁぁぁあっ!!」ブルブルッ
新一「......イッた?」ギュッ
灰原「......き、聞かないでよ。そんな事」ハァ、ハァ
新一「......ワリーな」ナデナデ
灰原「......謝らないでよ。バカ」
新一「......なぁ、哀」
灰原「えぇ、分かってるわ。私も、もう限界」
灰原「来て、新一君......」
新一「......ああ。行くよ」ギュッ
新一「......なぁ、1つ言っておきたい事があんだけどさ。夢中になっちまう前に」
灰原「......?なあに?」
新一「その......。今まで照れ臭くて言えなかったけど」
新一「あ、あ......」
新一「愛してる」
灰原「......!!!」
新一「オメーを心から......。愛してる」
灰原「......本当?」
新一「ああ。本当だ」
灰原「......ねぇ、もう1度聞かせて?」
新一「愛してる。灰原哀を、宮野志保を。心から愛してる」
灰原「......もっと言って」
新一「愛してる。世界でただ1人オメーだけを......。愛してる」
灰原「ああ......。ああ......」ポタッ、ポタッ......
新一「な、泣くなよ......」
灰原「ああ、だって......だって......」ポタッ、ポタッ......
灰原「その言葉を......。聞ける日が来るなんて......。思いもしなかった......」ポタッ、ポタッ......
灰原「言葉は無くても、伝わって来るあなたの愛情だけで幸せだった......。でも」ポタッ、ポタッ......
灰原「今、物凄く......。幸せ......」ポタッ、ポタッ......
灰原「私......。生きてて良かった......。あなたに愛してるって言って貰えて、本当に良かった......」ポタッ、ポタッ......
灰原「私はそれだけで......。今日まで生きて来た意味があった......。この日の為に生きて来て良かった......」ポタッ、ポタッ......
灰原「ありがとう、新一君......」ギュッ
新一「バーロ。礼を言うのはこっちだよ。俺なんかをここまで愛してくれて、本当にありがとう」
新一「都合の良い言い方かも知れねーけど、俺も思う」
新一「俺は、今日の為に生きて来たんだって......。オメーに愛情と感謝を伝える為に生きて来たんだって」
新一「今は心から、そう思う」
灰原「新一君......」
灰原「ありがとう......。他に、言葉が出てこないけれど......。ありがとう......」ポタッ、ポタッ......
新一「だから、泣くなってのによ......」ナデナデ
灰原「悲しい涙ならダメでも、嬉し涙なら良いでしょう......?」ポタッ、ポタッ......
新一「そっか......。そうだな」ナデナデ
灰原「気持ち良い......」ギュッ
新一「そっか。落ち着くか?」ナデナデ
灰原「ええ......。ねぇ、新一君」
新一「ん?」
灰原「愛してるわ。私も、ずっとずっと......。あなたを愛してる」ニコッ
新一「......ありがとう」ニカッ
新一「何と言うか、本当に感極まると、ありがとうしか出てこねーな」
灰原「でもそれが、最高の賛辞よ。私にとっては」
新一「......ありがとな」チュッ
灰原「あ......っ」チュルッ
灰原(何て......。幸せなの)ブルッ
新一「......はぁ、じゃあ」
灰原「ええ......」
新一「行くぜ......」ズッ......
灰原「んんっ......入ってくる......っ、新一君が......」ビクッ
灰原(愛する人と......。心から1つになれると言う事が、こんなに幸せだなんて......知らなかった)ビクビクッ
新一「もう、少し......」ズッ......ズズッ...
灰原「あ、ああっ......!は、ぅっ......!」ブルッ
灰原(カラダの中に......。広がっていく......。あなたが......)
新一「......っ!」
ズンッ......
灰原「はぁぁあっ!」ビクビクッ
新一「......っ、大丈夫か?」
灰原「だい......じょうぶ......っ」ニコッ
新一「良かった......」
灰原「ね、ぇ......。この状態で......。眼を見て......言って......」ビクビクッ
新一「......!ああ。分かった」
新一「......愛してる」
灰原「わたしもっ......愛してるっ......」ギュッ
新一「哀......。動くぜ」グイッ
灰原「あぅぅぅっ!!」ビクッ
灰原(カラダに......。電気が......っ、とけて......なくなるみたいに......っ、気持ち良さが......)ブルッ
新一「志保......」チュッ
灰原「んふっ......ん、ん......」ビクビクッ
灰原(気持ち良い......心から......気持ち良い......)ビクビクッ
新一「ん、ん......」グイッグイッ......
灰原「んんっ!!ん、んんんっ?」ビクビクッ
灰原(あなたが......。教えてくれた......。このぬくもり......。人を愛する幸せ......)ギュッ
新一「んっ......哀......哀っ!」グイッグイッ
灰原「あぅぅぅっ!し、新一......君......」ビクビクッ
灰原(出来る事なら...。あなたに生きて欲しい......ずっと一緒に生きていたい......)ビクッ
新一「っく、ヤベ......っ」ギュッ
灰原「ま、だ......っまだいて......っ、新一......っ」ギュッ
新一「......!っ、ああ、何とか頑張るぜ......!」グイッグイッ
灰原「うあぁぁぁぁっ!!」ビクビクッ
灰原(......でも、それは叶わない。なら)
灰原(この幸せな瞬間を、刻み付けておきたい。ずっと......)ビクビクッ
新一「志保 ......っ、志保っ!!」グイッグイッ
灰原「は、ぁっ!!あ、ぁぁぁっ!!」ビクビクッ
灰原「わたしもっ、もう......っ」ブルブルッ
新一「俺......もっ」ブルブルッ
灰原「しん......い、ち......っ、いっしょにっ......」ビクビクッ
新一「あ、あっ......分かったっ......」グイッグイッ
灰原「ああぁぁぁぁっ!!」
新一「い、くぜ......っ、哀っ」グイッグイッ
灰原「はうぅぅっ!!き、て......っ!」ブルブルッ
新一「.....っ、おおぁっ!!」ビュルビュルッ
灰原「ああぁぁああぁぁぁぁああっ!!」ビクビクッ
灰原(ああ、広がっていく......。身体中が......彼で......満たされて行く......)
灰原(白い光が......広がっていく......っ......あ、あ......)
灰原「......んっ」ムクッ
新一「お、目、覚めたか」
灰原「あれ、私......。寝ていたの......?」
新一「寝ていたって程じゃないさ。ホンの僅かな間、気を失ったって感じさ。ちょっと心配したけどな」
灰原「そう、ごめんなさい......。あなたは?身体は?」
新一「大丈夫だ。心配ねーよ」ニカッ
灰原「そう、良かった......。私、あまりにも気持ち良くて......あなたを気遣う余裕も無くて」
新一「お互い様さ。俺もそんな感じだったよ」
灰原「そう......。何と言うか、前と比べてあまりに気持ち良くて」
灰原「前は......。快感の中に哀しみと虚しさがあったけど、今は......。ただ幸せ」ニコッ
新一「ああ、ゴメンな。前は......最低だったからな......。俺」
灰原「ううん。違うの。責めてる訳じゃないわ。私も同じだったもの。ただ、今は本当に......。幸せなの......」ギュッ
新一「哀......」ギュッ
灰原「......この先、何があってもきっと大丈夫」
灰原「今日を経験出来たから。あなたと心から1つになれた幸せを感じられたから」
灰原「ありがとう、新一君......」
新一「......戻っちまったか。何か、くだけた感じで良かったんだけどなあ」
灰原「え?」
新一「気付かなかったか?さっき、俺の事を君無しで新一って呼んでたんだぜ?」ニカッ
灰原「本当?」
新一「ああ、本当だ」
灰原「そ、そうなの。ごめんなさい」
新一「何で謝るんだ?フツーに呼べば良いじゃねーか。まあ、君付けもオメーらしいから良いけどさ」
灰原「で、でも......」
新一「まだ気にすると思ってるか?蘭の事」
灰原「え、あ、あの......」
新一「......まあ、こんな言い方は偉そうって言うか変な言い方だけど」
新一「俺は2人の人を同時に好きでいるのは無理な人間みたいだからさ。蘭との思い出は確かに大事だけど」
新一「今、俺が好きなのは目の前にいるオメーだけだよ。だから、何て呼ばれても気にしない」
新一「寧ろ、オメーに気を遣わせちまって悪いと思ってる。もし、負い目を感じてるとしたら......。ゴメンな。俺のせいでよ」
灰原「そんな、謝る事なんて......。でも、新一って呼ぶのも正直呼びにくいのは事実なの。君付けで慣れてしまってるから。少なからず、彼女が気になるのも確かにあるわ」
灰原「でも、そうね。フランクな呼び方も悪くないとあなたが思うなら......」
灰原「新ちゃん、って呼ぼうかしら」クスッ
新一「い??!」ドキッ
灰原「ダメ?」
新一「い、いや......。イヤじゃないけど、いきなりぶっ飛んだっつーか......」
灰原「まあ、良いじゃない?年長者の言う事は素直に聞くものよ?」クスッ
新一「っ、こんな時だけ歳上ヅラしやがって......」
灰原「いじけないの。し・ん・ちゃん」クスッ
新一「......っ」カーッ
灰原「赤くなってるわよ?」クスッ
新一「っせーなぁ、ったく......」
灰原「ねぇ、新ちゃん」
新一「ん?」
灰原「......最期まで、こうやって楽しくいましょうね」
新一「ああ、そうだな。まだやる事もあるしな......。頑張ろうぜ、一緒に」
灰原「ええ......。それじゃあ、そろそろ寝ましょうか。明日もやる事が待ってるものね。あの子達が......。待ってるんだもの」
新一「ああ、そうだな。んじゃ、寝る前にもっかい言っとくか」
灰原「え?」
新一「愛してる」
灰原「......私も、愛してる」ニコッ
灰原(......今日1日、色んな事を改めて自覚したわ)
灰原(私達がここに至るまでに失ってきたもの、過ち、罪、人との別れ......。色んなモノを代価に、私達はここまで来た)
灰原(決して、笑顔だけで築かれて来た道じゃない。だからこそ)
灰原(それを自覚してなお、お互いを想いやる事が出来る。お互いを愛する事が出来る。そんな今を手に出来た。それが嬉しい)
灰原(あなたのお陰よ、ありがとう......)
灰原(その日を境に、私達はより仲良く。より日々を一生懸命生きる様になった)
灰原(私達の指導に、子供達も応えてくれた)
新一「よーし、焦るな焦るな!周りを見てボールをキープしながらパスコースを探せ!」
少年「っ、焦らず......。よしっ!」ザッ
新一「そうだ!その調子だ!」ニカッ
灰原「こうして、先程貯めて置いた酸素の中に火をつけた棒を入れると......」
ボゥッ
少女「わぁ、いきなり燃えた!」
灰原「そう、酸素には物を燃やすのを助ける力があるの。だから火が突然強くなったの」
少女「へぇ、スゴーイ!」ニコッ
灰原「じゃあ、それについてもう少し詳しく話していきましょうか......」
灰原(日々が、充足していた。これ以上無いくらい。でも)
灰原(それと比例して、私達の身体もまた、悪くなって行った......)
灰原「......っ!ゴホッ、ゴホッ」ブハッ......
新一「哀!大丈夫か?!」ガシッ
灰原「だ、大丈夫よ......」ハァ、ハァ
新一「でも、この血の量は......」
灰原「大丈夫よ......。この間のあなたも、大丈夫だったでしょう?」ハァ、ハァ
新一「で、でも......」
灰原「大丈夫よ。約束したでしょう?最期まで生きるって」ハァ、ハァ
灰原「この位、何でもないわ」ハァ、ハァ
新一「......」
灰原「それに、あなたも身体......。辛いでしょう?」ハァ、ハァ
新一「......!」
灰原「あなたも辛いけど、立っているのなら......。私も膝を着いている訳にはいかないわ」ハァ、ハァ
新一「......分かったよ。ムチャ言いやがって」
灰原「お互い様よ。意地っ張りは」ハァ、ハァ
新一「確かにな......。だが、子供達の前じゃ」
灰原「分かってるわ。あの子達の前では、こんな姿は見せないわ」
灰原「寧ろ、あなたの方が......。動くの、大変でしょう?」
新一「俺は大丈夫さ。何とかな。しかし、時間はどうやら......。無いみたいだな」
灰原「そうね......。後どれ程保つか......」
新一「......考えても仕方ねぇ。立てるか?」スッ
灰原「ええ。大丈夫......」グッ
新一「休まなくて大丈夫か?」
灰原「大丈夫よ。行きましょう......っ」フラッ
新一「お、おいっ」ガシッ
灰原「ごめんなさい......。ちょっとふらついて」ハァ、ハァ
新一「やっぱり今日位、休んだ方が良い!今日で終わっちまいたいのか?!」
灰原「その覚悟で、あなたはあの日私を抱いたのでしょう......?」ハァ、ハァ
新一「......!」
灰原「ベッドの上で休んで永らえても、それは私の望む生じゃないわ。最期まで闘わせて。お願い......」ハァ、ハァ
新一「......分かったよ」
灰原「ありがとう、新ちゃん」ニコッ
灰原(あなたも辛いのに、私の心配ばかり。ホントにあなたって......。不器用よね......)
新一(......とうとう、哀まで弱って来ちまったか。俺も何処まで保つか)
新一(だけど、結局......。止められそうにねぇな)
新一(俺達お互い、意地っ張りだからよ......)
新一(せめて、後少し......。後少し保ってくれ。俺達の命......)
新一(俺達の生きた証を遺すまで......。まだ俺は何にも......。遺せちゃいないんだ)
新一(頼む......。神様がいるんなら、もう少しだけ時間をくれよ)
新一(死ぬのが怖いんじゃない。せっかくここまで来たんだから、せめてアイツらの試合位は見届けてーんだよ)
新一(共に生きる志保の為にも......。だから頼む)
新一(俺達を後少しだけ、生かしておいてくれ......!!)
灰原(......思い詰めた顔ね。あなたもきっと同じ想いよね)
灰原(後少し......。後少しで良いから、生きたい)
灰原(覚悟をしておいて生にしがみつくのは醜いかも知れない。でも)
灰原(後、ほんの刹那......。私達に時間を頂戴。神様......)
灰原(迫りつつあるリミットと闘いながら、私達は必死に生きた)
灰原(日に日に......。加速度的に弱って行く身体を引きずりながら、子供達の所に行った)
灰原(最早、日常生活も困難な程弱りながらも私達は闘い続けた。運命と)
灰原(あの日約束した、私達の生きた証を遺す為に......)
灰原(そうして何とか私達は、あの子達のサッカーの試合まであと数日の所まで漕ぎ着けた......)
灰原(お互い、立っている……。いや、生きているのがやっとの状態で)
新一「……よーし、今日の練習はここまでだ。みんな、また明日な」
「はーい」
新一「……ふぅ」フラフラ
灰原「……大丈夫?」
新一「大丈夫じゃねぇさ……。でも、みんなの前じゃ弱いトコは見せらんねーだろ?」ニカッ
灰原「……そうね」
灰原(……まだ立っているだけの私はともかく、動いてあの子達を指導しているあなたは私より相当辛いはず)
灰原(何故まだ動けるのか、正直不思議な位……。やっぱりあなたは凄いわね……)
灰原「……さぁ、帰りましょうか」
新一「……そうだな」
少年「シンイチ!」
新一「……ん?どうした?」
少年「あ、あのさ。ちょっと話があるんだけど、いい?」
灰原(……応えてあげたいけど、彼の体調を考えたら)
灰原「ごめんなさい、ちょっと今日は」
新一「……良いよ。志保。気ぃ遣わなくて」
灰原「でも……」
新一「大丈夫だ。2人っきりの方が良いのかい?」
少年「うん……」
新一「分かった。ちょっと待っててくれ。行ってくる」
灰原「……分かったわ」
新一「うし。じゃあ、行くか」
少年「うん……」
灰原「……大丈夫かしら」フラッ
灰原「……っ、人の心配をしている場合でも無いわね。私も」
少女「シホーッ」タタタッ
灰原「あら、どうしたの……?」
少女「あの子、来なかった?」
灰原「ええ、来たわ。でも、話があるって新ちゃん……。んん。工藤君と向こうへ」
少女「そうなんだ、何だろ?」
灰原「さあ、何かしらね。男同士2人で話したいみたいだったけど」
少女「そうなんだ。私に位話してくれれば良いのに……」
灰原「相変わらず仲良しね」クスッ
少女「そ、そんな事ないもん」
灰原「ふふふ……。うっ……」フラッ
少女「大丈夫?!シホ?!」
灰原「大丈夫、大丈夫よ……」ハァ、ハァ
少女「でも、凄く疲れてそうに見えるよ?最近ずっと」
灰原「大丈夫。心配無いわ……」ニコッ
少女「う、うん……。ねぇ、シホは帰らないの?」
灰原「ええ。ここで彼を待つわ」
少女「そっか……。ねぇ、私もちょっとお話して良い?」
灰原「ええ。良いわよ」
少女「ありがとう!」
灰原(……考えてみればこの子達と過ごせるのもあと僅か。相談に乗ってあげたくなるのも分かるわ)
灰原(少しでも応えてあげられれば良いのだけれど……)
灰原「それで、話って?」
少女「うん、あのね……」
しばらく後。
少女「……じゃあね、シホ!」タタタッ
灰原「ええ、またね」ニコッ
新一「……楽しそうだな、そっちも話してたのか?」
灰原「あら、そちらも終わったの……?」
新一「ん、まあな」ニカッ
灰原「何だか嬉しそうね」
新一「まあな。ちょっと微笑ましい話だったのさ。そっちは?」
灰原「ええ。こちらもよ。楽しい時間だったわ」
新一「そうか、そりゃあ良かったな」
灰原「ええ、本当に……」
新一「……さて、帰るか。ホラ」スッ
灰原「ええ」スッ
新一「歩けるか?」
灰原「大丈夫よ。あなたは?」
新一「大丈夫。行こう」
灰原「ええ」
新一「……なあ哀」
灰原「なぁに?」
新一「……後少し、頑張ろうな」
灰原「ええ。後、少し……」
灰原(……その日の出来事は、私達にとても暖かな物を残してくれた)
灰原(それが力をくれたのか、何とか私達の命の灯は消える事無く耐え続けた)
灰原(そして、あの子達との約束の日……。サッカーの試合の日を迎えた……)
朝。
灰原「んっ……」
灰原(身体に力が入らない……。これはもう、いよいよかも知れないわね……)
灰原(新ちゃんは……?起きているのかしら)
ガチャッ……
新一「よう……。起きたか」
灰原「おはよう。早いのね」
新一「ん、まあな。約束の日だからな」
灰原「そうね……」
灰原(声が出ていない……。顔も真っ青だわ……。彼も、もう……)
新一「……人の顔見てそんな怪訝そうにするなよ」
灰原「ごめんなさい、でも……。あなたの声があまりに……。か細くて……」
新一「……ああ。だから、コイツを探してた」スッ
灰原「……それって」
新一「ああ、今の俺には必要なモンだろ?」
灰原「……確かにね。でも、ちょっと恥ずかしいかもね」クスッ
新一「笑うなよ……。準備、出来るか?」
灰原「ええ、何とか……」
新一「良し......っ」グラッ
灰原「新ちゃん!!」ガシッ
新一「へ、へへ。ワリー。力、入んねぇや。流石に......」ハァ、ハァ
灰原「大丈夫?!しっかり!!」
新一「だ、大丈夫だよ」ハァ、ハァ
灰原「でも......」
新一「せっかく約束の日まで命が保ったんだ。今更身体気にしても仕方ねぇさ」ハァ、ハァ
灰原「......」
新一「これが......最後だからよ......。一緒に見届けようぜ。今まで俺達がしてきた事が少しでも実を結んだのか」
灰原「......分かったわ」
新一「良し。準備しよう。手伝うぜ」
灰原(......やっぱり、悟ってるのね。恐らく、私達はもう)
灰原(だからこそ、最後まで......。それが私達の生きる意味だものね......)
しばし後。
少女「いよいよだね!」
少年「うん、でもシンイチ達まだかなあ?」
少女「もうすぐ来るよ。あ、ホラ!」
少年「あ......」
新一「やあ、待たせたな」ニカッ
少年「遅いよ、シンイチ!」
少女「ねぇ、なあに?その蝶ネクタイ」クスッ
新一「良いだろ?みんなの晴れ舞台だからな」ニカッ
少女「でも、目立つよ?」クスッ
灰原「あまり笑わないであげて」ニコッ
少女「あ、シホ!」
灰原「みんなの緊張を解す為に選んだんだから。笑わないであげて」
少女「うん、分かった」ニコッ
新一「さあ、円陣組むぜ。みんなの所に行こう」
少年「うん、分かった!」タタタッ......
少女「2人も早くね!」タタタッ......
新一「......緊張を解す、か。まあそういう役にも立つか」
灰原「本当は違うけれどね。説明するのも面倒でしょう?蝶ネクタイ型変声機」
新一「ん、まあな。もう大声は出せねぇけど、コイツの集音機能を最大にすりゃ声を響かせられるからな」
新一「また......。博士に助けられたな......」
灰原「そうね......」
新一「さて、行こうか......」
灰原「ええ......」
しばし後。
新一「良し、みんな集まったな。いよいよだ」
新一「今日までみんな良く頑張って来た。俺の教えにみんな良くついて来てくれた。ありがとう」
少女「......」
少年「......」
一同「......」
新一「後は、全力で楽しんで来てくれ!思いっきり力を出してゲームをしよう!」
「おー!!」
新一「良し、行って来い!」ニカッ
少年「シンイチ......」
新一「ん?」
少年「......」スッ
新一「......良し」スッ
パンッ
新一「行って来い!」
少年「うん!」タタタッ......
灰原「お疲れ様......」
新一「ああ。終わったよ。仕事は......。後は、試合を見せて貰うさ......」ニカッ
灰原「ええ。そうね」
少女「シホ!」
灰原「......!」
少女「頑張るよーっ」ブンブン
灰原「......」ニコッ
新一「......やっぱ子供に好かれるよな。オメーはさ」
灰原「あなたもね......」
新一「っ......」
灰原「大丈夫?座りましょう」
新一「ああ......」
ビッピーッ......
灰原「始まったわね....」
新一「ああ、そうだな......」
灰原「見えてる?」
新一「見えてるさ。オメーは?」
灰原「大丈夫よ。まだ」
新一「そっか......」
灰原「......頑張ってるわね、あの子達」
新一「ああ。楽しそうだな......」
灰原「あなたの教えのお陰ね......」
新一「俺の力じゃねーよ。アイツらが頑張って来たからさ。それに......。オメーが手伝ってくれたからさ......」
灰原「そうかしら......?」
新一「そうさ......」
灰原「あ......。見て!」
新一「......!」
ビッピーッ
灰原「見えた?あの子......」
新一「ああ。いいゴールだったな......」
少年「シンイチーッ!」ブンブン
新一「......」グッ
灰原「良かったわね。本当に嬉しそう......」
新一「ああ......。本当にな......。なあ、哀......」
灰原「なぁに......?」
新一「ありがとな......」
灰原「え?」
新一「オメーがいてくれたから、俺は希望を取り戻して......。幸せな時間を迎えられた......。ありがとな......」ニカッ
灰原「バカね。お互い様......じゃない......」ニコッ
新一「いや。オメーのお陰だよ......。良くこんな俺に......。ついて来てくれたよ。ありがとな......」
灰原「何を言ってるのよ。あなたがいる所なら......。私は何処でもついて行くわよ......。いつまでも、どこまでも......」
新一「そっか......」ニカッ
灰原「お礼を言うのは私なのに......。あなたのお陰で......。どれ程幸せだったか......。感謝してもしきれないわ......」
新一「それこそ......。お互い様だろ......?」
灰原「そうかしら......?」
新一「そうさ......」
灰原「じゃあ、もう心残りは無い......?」
新一「そうだな......。まあ、日本のみんなの先も......。あの子達の先も......。見たかったけどよ。それは......。仕方ねぇや......。それよりさ、哀。今......。言っときたい事があるんだ......」
灰原「今......?なあに?」
新一「あのさ......。こんな時になんだけどさ......」
新一「......結婚、しようか」
灰原「......!!!」
新一「ホントは......。もっと早く......。言うつもりだったけど、なかなか言えなくて......。でも、死ぬ前に......。どうしても言っときたくてさ......」
灰原「......バカね。ホントに。こんな時に。あなたらしいけど」クスッ
新一「へへ。なあ、哀。そして、志保......」
灰原「はい」
新一「こんな俺だけど......。結婚してくれるか......?」
灰原「......勿論。喜んで」
新一「ありがとう......」ニカッ
灰原「じゃあ、宣誓しましょう......?」
新一「ああ......。じゃあ、あなたは......。工藤新一を夫として......。永久に愛する事を誓いますか......?」
灰原「誓います。永遠に......。あなたは......。灰原哀を......。宮野志保を......。妻として永久に愛する事を誓いますか......?」
新一「誓います。永遠に......」
灰原「じゃあ、誓いのキスを......」
新一「みんな見てるぜ......?」ニカッ
灰原「構わないわ......」ニコッ
新一「うん......」チュッ
灰原「ん......」ギュッ
新一「......ふぅ」
灰原「......ふふ」ニコッ
新一「何だよ......?」
灰原「もう、幸せ過ぎて......。これ以上は無いと思ってたのに......。最後に......。こんな嬉しい事があるなんて......」
灰原「でも、こんなギリギリで言うなんて......。ホント、ズルイんだから......」
新一「ワリーな、そいつは......。怒るか?」
灰原「怒らないわよ......。ああ、でも......」
灰原「今ので......。何にも心残りは無くなっちゃったわ.....。少しも......」
新一「そっか......。俺も何だか......。気ぃ、抜けちまったよ......」
灰原「ええ。何だか......。眠くなって来ちゃったわ......。ちょっと寝ても良いかしら......」
新一「ああ。良いよ......。俺も......。眠くなって来たよ......」
灰原「じゃあ、一緒に寝ましょうか......。離れちゃ......。嫌よ......」
新一「ああ。分かってるよ......。寝ても覚めても......。ずっと側にいるさ......」
灰原「ありがとう......。ねぇ、寝る前に1つ......。聞いておきたいんだけど......」
新一「何だい......?」
灰原「あの、ね......?」
ピッピッピーッ......
審判「試合終了!」
少年「やったぁ!勝ったぁ!」
チームメイト「やった!やった!初めて勝った!」
少女「やったね!」
少年「ううん。やった!やったよ!」
少女「じゃあ、シンイチ達の所に行こ!」
少年「うん!」
少年「シンイチ達、喜んでくれたかな?」
少女「勿論よ!早く行こ!」
少年「うん!」
少年「シンイチー!」タタタッ......
新一「......」
少女「シホー!」タタタッ......
灰原「......」
少年「シンイチ、やったよ!僕達勝ったよ!」
少女「見てた?この子ゴール入れたんだよ!」
新一「......」
少年「シンイチ?」
少女「もう、何?寝てるの?全くぅ。シホも何とか言ってよ!」
灰原「......」
少女「......シホ?」
少年「ねぇ、どうしたのシンイチ......?」
少女「シホ......?ねぇ、起きてよ?ねぇ、ねぇ!」
チームメイト「おい、どうしたんだよ?」
少年「ねぇ、起きてよ?シンイチ!」
少女「起きてよ、シホ!」
「起きてよ!!」
新一「......」
灰原「......」
......あのね、もし。もし私達に子供がいなら......。何て名前にする?
......そうだな。間違ってもコナンにはしねーな。
そうね。私も哀にはしないわ......。私、考えてる名前があるの。
へぇ、どんな......?
女の子だったら、希(のぞみ)。男の子なら、望(のぞむ)。どう?
2人合わせて希望、か。そいつは良いや......。
ええ。素敵でしょう?
ああ。そいつは......。最高だ......。
>>137訂正
いなら→いたなら
灰原(こうして、私達の旅は終わりを告げた......)
灰原(命の灯を、最期まで精一杯燃やし尽くして......)
15年後。某国開催ワールドカップ。
アナウンサー「えー、この度はワールドカップ優勝、おめでとうございます!」
青年「ありがとうございます」
アナウンサー「今大会は得点王に輝くご活躍、素晴らしかったですね!」
青年「いえ。たまたま運が良かっただけです」
アナウンサー「何はともあれ、この喜びをどなたに伝えたいですか?」
青年「そうですね。私の恩人達に伝えたいですね」
アナウンサー「恩人?」
青年「ええ。私をここまで導いてくれた、2人の日本人に」
アナウンサー「日本人?」
青年「ええ」
青年(シンイチ......。僕はここまでやってこれたよ。あの日の約束を胸に......)
15年前。
新一「それで?話ってなんだい?」
少年「うん、あのね......。僕、怖いんだ」
新一「怖い?」
少年「うん、いくらシンイチに教えて貰っても自信が無いんだ。僕なんかじゃダメなんじゃないかって。不安なんだ......」
新一「......」
少年「僕、いつも自信が無くて。だからシンイチに教えて欲しくて。でも怖いんだ。ダメだよね。僕なんかじゃ」
新一「そんな事は無いさ。誰だって怖い時はある。逃げたい時はある。それは恥ずかしい事じゃない。俺にだってあるさ」
少年「本当?」
新一「ああ。本当さ。でも、分かったんだ。例え時間が掛かっても良い。諦めず逃げずに戻ってこれれば。闘う事を忘れなければ。いっかたきっと何かを成し遂げられるってな」
少年「逃げずに、諦めなければ......」
新一「そう。それにな。僕なんかじゃダメって言ってたけど、そんな事は無い。君なら出来るさ。だって、君達が俺達に希望をくれたんだから」
少年「僕達が?」
新一「ああ。君達がいたから、俺達は希望を取り戻して頑張ろうっておもえた。君達には人に希望を与える力がある。それは凄い事だ。そんな君達が頑張れば、出来ない事は無いさ」
少年「本当......?僕にそんな力がある?」
新一「ああ。あるさ。君達が俺達の希望なんだ。だから、諦めず頑張ろう。な?」ニカッ
少年「うん、分かったよ!ねぇ、シンイチ」
新一「ん?」
少年「あのね、僕......夢があるんだ」
新一 「どんな?」
少年「あのね、僕......。もっとサッカー上手くなって、シンイチより凄い選手になりたいんだ。なれるかな?」
新一「ああ。なれるさ。俺よりずっとスゲーヤツにな!」
少年「本当?」
新一「ああ。約束する。絶対なれるさ!」グッ
少年「うん!」グッ
現在。
青年(あの日を忘れなかったから、ここまでやってこれたよ。シンイチ......)
同時刻。某国記者会見場。
アナウンサー「この度は歴史上に残る大発見、おめでとうございます!」
女性研究員「ありがとうございます」
アナウンサー「その若さでの快挙、正に天才の為せる業ですね!」
女性研究員「私1人の力ではありません。私達を導いてくれた、2人の日本人のお陰です」
アナウンサー「2人の日本人?」
女性研究員「ええ、そうです」
女性研究員(シホ、見てる?私、ここまで来たよ......)
15年前。
少女「ねぇ、シホ。最近シンイチと凄く仲良さそうだよね」
灰原「そうかしら......?」
少女「うん。羨ましいなあ」
灰原「あなたもあの子と、仲良くしたいのね?」クスッ
少女「う......。うん」
灰原「好きなんだ。やっぱり」
少女「......うん」コクッ
灰原「そう。なら......。私が言える事は1つ。正直に気持ちを伝える事」
少女「正直に?」
灰原「そう。胸の内を全て相手にストレートに伝える。それしかないわ」
少女「でも、自信無いし......」
灰原「大丈夫よ。私に希望を取り戻してくれたあなたなら」
少女「私が?」
灰原「そ。あなたのお陰で私は元気になれた。そんなあなたが正直に気持ちを伝える事が出来れば、きっと相手にもあなたの魅力が、想いが伝わるわ」
少女「そう、かなあ」
灰原「ええ。きっとね」
少女「うん......。分かった!やってみる!」
灰原「ええ。頑張ってね」
少女「うん。後ね、私......。シホに教えて貰った勉強楽しいから、もっと勉強して偉くなりたいなあ。なれるかな?」
灰原「勿論。なれるわ。諦めず頑張るあなたならね」
少女「本当?」
灰原「ええ。約束するわ」
少女「うん。分かったよ!私、頑張る!」
灰原「ええ。頑張ってね......。応援してるわ。ずっとね......」ニコッ
現在。
アナウンサー「......で、その日本人とは?どういう人達ですか?」
女性研究員「......詳しい素性は、私達も知りません。ある日、子供だった私達の所にやって来た、旅の男女でした」
青年「2人は夫婦では無いと言っていましたが、私達には仲睦まじい夫婦に。いや、それ以上の関係に見えました」
女性研究員「彼女達は、療養の為に訪れたと言っていました。ですが、その甲斐無く私達の住んでいた土地で息を引き取りました」
青年「彼等と過ごした日々は決して長くはありませんでしたが、私達にかけがえの無い物を遺してくれました」
女性研究員「人を思いやる気持ち、諦めない心」
青年「可能性に向かって闘い続ける事。色んな事を彼等は私達に教えてくれました。彼等がいたから、私達はここまでやって来れたのです」
アナウンサー「なるほど。その2人のお名前は......?」
女性研究員「......シホ・ミヤノ」
青年「シンイチ・クドウ。彼等こそ私達にとっての」
「希望の光、でした」
日本。
TV「シンイチ・クドウ......」
蘭「......!」
新出「どうかしましたか?」
蘭「あ、何でも......」
蘭「......新一」
蘭(今のニュースはあなたなの?新一......?)
蘭(だとしたら、あなたはもう旅立ったのね......)
蘭(私は今、幸せだよ?あなたに言われた通り)
蘭(あなたは幸せだった?新一......)
「......ああ」
蘭「......!」クルッ
蘭「......まさか、ね」
蘭「......さよなら、新一」スタスタ......
新一「......ああ。さよなら。蘭」
灰原「......やっぱり、気になったのね」クスッ
新一「あ、いや......」
灰原「良いのよ。みんなの行く末をやっぱりみたいからって、この世に留まってたんだから」
新一「ああ、そうだな......」
灰原「でも、良かったわね。あの子達があんな立派になって。あなたの生きた証を遺せたわね」ニコッ
新一「俺は何にもしてないさ。アイツらが頑張って得た結果さ。哀の方こそ良かったな」
灰原「私だって何もしていないわよ。でも、良かったわ......」
新一「ああ。そうだな」ニカッ
灰原「......そろそろ行く?」
新一「ああ。日本のみんなの方も幸せそうだったしな。もう本当に思い残す事は無い。俺のワガママですまなかったな」
灰原「良いのよ。私も見たかったから」
新一「そっか。じゃあ、行くか。向こうはどんな所かなあ」
灰原「行けば分かるわ。あなたと一緒なら、どんな所でも良いわ」
新一「そっか。でも、良いのかよ?」
灰原「何が?」
新一「だってよ。今度こそずっと俺なんかと一緒にいなきゃいけねーんだぞ?」
灰原「バカね。良いに決まってるじゃない。私は永遠にあなたを愛し側にいると誓ったんだもの。それに......」
灰原「命ある時から、あなたこそが私にとっての」
灰原「希望、なのだから」
新一「そっか......。なら、宜しく頼む。ずっとな」
灰原「ええ。永遠に......。どこまでも......」
工藤新一。灰原哀こと宮野志保。
数奇な運命に翻弄された2人の生涯は、幕を閉じた。
だが、2人の魂の灯は決して消える事は、離れる事は無い。
悠久の時の果てに、いつかきっと......。
コンコン......ガラッ
新一「志保!」
志保「あなた......」
新一「う、産まれたんだよな?俺達の子供!」
志保「ええ。双子よ......。男の子と女の子の」ニコッ
新一「そ、そっか!良かった!あ、ありがとう!お疲れ様!」ギュッ
志保「大袈裟ね、全く」クスッ
新一「良かった、本当に良かった!そうだ、名前!名前考えなくちゃな!」
志保「ええ。あのね?実はもう考えてるの」
新一「ええ?マジかよ?スゲーな!何て名前?」
志保「ええ。何故かふと浮かんだの。まるでこの子達がお腹に宿る前から決まっていた様な......」
新一「ん?何か......。俺も何となく志保が考えてる名前が分かるような気が......?なあ、言ってみてくれよ」
志保「ええ、この子達の名前は......」
名探偵コナン
死(イノチ)の果てに遺る希望(モノ)
完
これにて完結です。
時間が出来たら、補完編(少年探偵団や服部らとの別れ)を書きたいと思います。
ありがとうございました。
乙でした
依頼出されてるみたいですがURLがおかしいですよ
>>147
ありがとうございます、後程再依頼します。
失礼しました、>>146さんでした
面白かった
乙
亀だが乙
このSSまとめへのコメント
感動的なお話でした!乙!
ただ最後、新一と哀がなくなった後に出産してるのはなぜか、気になるが