さやか「ふっふっふ。今日は四月一日。エイプリフールかぁ」
さやか「さてさて、どんな嘘をついて回ろうか」ククク
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――四月一日・HR――
さやか(さーて。最初に騙すのは誰がいいかな……。まどかはいい感じで騙されてくれそうだよね。仁美は騙されても上品に笑って許してくれるだろうし、マミさんは『めっ』て感じで叱ってくるかな。ほむらは……やめておこう。何か無表情でキレそうだから怖い)
和子先生「今日はみなさんに、大切なお知らせがあります」ドンッ
さやか(またか……)
和子先生「実は先生、近い将来結婚することになりました!」ニコニコ
さやか「!?」
クラス一同「!?」
和子先生「実は今日の朝、彼が笑いながら告白してくれたんです。『俺たちも、そろそろ結婚を考えるじきだよなー、あはは!』って」
さやか「うわぁ……」
さやか(彼氏さん、それアカン感じなエイプリルフールジョークだよ……)
和子先生「ふふふっ。今日は帰ってからさっそく彼と将来について話し合おうと思います。みなさんも、将来設計はよく考えてすること! 今日のHRは以上です!」
さやか(今日の夜は修羅場か……軽い気持ちで吐いた嘘だろうにさ……)
まどか「それじゃさやかちゃん、バイバイ」
さやか「おう!」
さやか(…………)
さやか「はあ。何か朝のHRが重すぎて、嘘吐けなかったんじゃん……。くやしいなぁ」
さやか(どうしよっかなぁ。誰か、嘘をついても罪悪感のないある程度ノリのいいやつが通りかかってくれないかな……ん?)
杏子「……」
さやか「杏子じゃん」
杏子「ん?」
杏子「なんだ、さやかか。学校の帰りか?」
さやか「うん。そんなと――」
さやか(――はっ。いや、これは嘘を吐く絶好のチャンスじゃん!)
さやか「ううん。違うよ、杏子。あたし、あんたに会いに来たんだ」
杏子「そうなのか? 何の用だよ」
さやか「あたしね、実は前々から杏子に秘密にしてたことがあるんだ」
杏子「何だよ。もったいぶらずに言えって」
さやか「あたしね、杏子のこと……愛してる! 結婚して!」
杏子「は? さやか、お前なに言って――ああ、なんだ。エイプリルフールか」
さやか「む。速攻でばれたのは面白くないけど……どしたの杏子? ちょっとあんたらしくない反応だけど」
杏子「いや、この日に吐かれるウソってなんだか感慨深くてさ」
さやか「感慨深い?」
杏子「ああ。さやかはさ、エイプリルフールの起源を知ってるか?」
さやか「えっと、ごめん。よく知らないや」
杏子「そっか。いや、あたしって教会の娘だろ? だからエイプリルフールの起源についても詳しいんだよ。だからこの日に限っては、どんな嘘つかれても怒たりはしないよ」
さやか「へ? 教会とエイプリルフールの起源って、なんか関係があんの?」
杏子「おおありさ。エイプリルフールっていうのは、フランスの教会から始まったんだ」
杏子「そもそも四月一日っていうのはフランスの新年際の最終日のことでな。フランスではその日、盛大なお祭りが行われるんだ」
さやか「ふーん」
杏子「春祭り。一年の始動を祝うフランス国民の楽しみだ。けどな、第一次世界大戦の年の四月一日はちょっと事情が違った」
さやか「違ったって、なにが?」
杏子「その少し前に、前線に出ていた当時の皇太子が戦死しちまってたんだ」
さやか「え。せ、戦死って、そんな!」
杏子「戦争だからな。そういうこともあるさ」
さやか「それは……そうかもしれないけど……」
杏子「何にしても皇太子の戦死だ。隠しきれるもんじゃない。本来なら、すぐにでも国民に広めて盛大な葬列を執り行わなければならない。その葬儀の予定日が、四月一日だったんだよ」
さやか「で、でもそれとエイプリルフールと、何の関係があるのさ? 皇太子さんが死んじゃったのは不幸なことだろうけど、それとウソをついていい日になるって何のつながりもないじゃん」
杏子「まあ聞けって。あのな、さやか。当時、フランス皇太子の葬儀が行われるはずだった四月一日のその日、フランス国民は皇太子の戦死を知らずに新年のお祭りを楽しんだんだ」
さやか「へ? どういうこと?」
杏子「当時のフランス王妃と、葬儀を執り行う予定だった司祭のエイプリル卿が国民に嘘を吐いたんだ。皇太子は死んでいません、ってな。戦時中、暗い雰囲気の中にある数少ない楽しみであるお祭りを中止させないために、そんな嘘をついてまで葬儀を遅らせたんだ」
さやか「そ、そんな……!」
杏子「もちろん簡単にできることじゃない。国葬ってのはそう簡単に予定を動かしていいもんじゃないことぐらい、さやかにだってわかるだろ? 国葬を取り仕切る立場だったエイプリル司祭がそんなことをしたら……下手をしたら首が飛んでてもおかしくなかった」
さやか「そうなんだ……」
杏子「自分の立場や命を脅かしてまで葬列を遅らせたエイプリル司祭の高潔さと、自分の息子の死を隠してまで国民の楽しみを取り上げることを良しとしなかった当時のフランス王妃のやさしさ。その二つがあって初めてなしえたことなんだよ」
さやか「すごい。わが身を犠牲にして、そんなことをできるなんて、本当にすごいよ!」
杏子「それから、エイプリル司祭の名前をとって四月一日はエイプリルフールと呼ばれるようになった。四月の初めだからエイプリルって名前がついてるって勘違いしてる人は多いけど、ホントの起源はそっちさ」
さやか「あたし、そんなことはちっとも知らなかった。ただ、嘘をついてもいい日なんだって、そんな認識しかなかった……!」
杏子「そっか。でもエイプリルフールっていうのはな、本来なら優しいウソをつく日なんだ」
さやか「優しい、ウソ?」
杏子「そうだよ。人を喜ばせる優しいウソをついて、ウソをつかれた側も、それをわかっていながら受け入れるっていう行事なんだよ」
さやか「そっか。エイプリルフールって、そんな意味があった行事だったんだね。あたし、明日まどかに話してみる!」
杏子「ああ。ぜひそうしてくれ」
――四月二日――
さやか「――というわけで、エイプリルフールっていうのは優しいウソをついて、それを受け入れる日なんだよ!」
まどか「へぇ! いいお話だね。そっかぁそんな起源があったんだ!」
ほむら「……美樹さやか。まどかに嘘を教えるのはよくないわね」
さやか「……え?」
まどか「ほむらちゃん? ウソって……今の話、嘘なの? すごく素敵な話だなって思ったんだけど……」
ほむら「ええ。エイプリルフールの起源は諸説あるけれども、今みたいな話は聞いたこともないわ。間違いなくでまかせよ」
さやか「はあ!? 何だよほむらっ。嘘なわけないでしょう。因縁つけてこないでよ!」
ほむら「因縁ですって? そもそもエイプリルは英語圏の言葉で、フランス人にそんな人名がいるとは思えないわ。百歩譲ってフランス圏でそういう人名があったとしても、エイプリルは女性名よ。国葬を行えるほど高位な司祭が女性というのはまず考えられないわ。昔の話なら、なおさらよ」
さやか「そんな……でも、確かに杏子が――」
ほむら「あなたってほんとうに愚かね。昨日はエイプリルフールでしょう?」ファサ
さやか「……あたしって、ほんとバカ」ガックリ
――展望台――
杏子「ぎゃははっ。さやかのやつ、まんまとだまされてやんの。ってか、誰だよエイプリル司祭って! あー腹が痛てぇ。魔法を使ってのぞき見した価値があるってもんだ」クックック
QB「エイプリルフールか。君たちの風習はよく理解できないよ。杏子。君は何がしたかったんだい?」
杏子「ああん? ちょっと確認したいことがあったのさ」
QB「ふーん。一言で行ってしまえば、それはどんなことだい?」
杏子「それはだな」ニヤリ
杏子「さやか、いず、べりーえいぷりるふーりっしゅ!」
おしまい
去年SS選手権に投げ込んだネタをSSに仕立てあげたから、見覚えのある人もいたかもしんない
スレタイからしてエイプリルフールネタなのに一瞬でも杏子の話を信じちゃったり、途中で『エイプリフール 起源』を検索しちゃった人は挙手ー。ノの字を書くだけの簡単なお仕事ですよー。
おつおつ
こんなもんで騙されんわーッ!
杏子ちゃんが早乙女先生同様の勘違いをすると思ったのに
このSSまとめへのコメント
畜生、騙された…ノ