勇者「・・・だめ?」
魔王「私に何も得がありません」
勇者「ホントに?」
魔王「あるのならば挙げてみなさい」
勇者「・・・えーと、ボクにやられずに済むとか、かな」
魔王「・・・失礼、先に逃げていいかを問うたのはあなたですよね?」
勇者「うん、そうだよ」
魔王「なぜあなたは逃げよう等と愚かにも思ってしまったのでしょうか」
魔王「力量の差を思い知ったからではありませんか?」
勇者「んー・・・じゃあそれで」
魔王「なんですかそれは」
魔王「敵前逃亡したい、という願望が何から生まれるのかはわかりますか?」
勇者「魔王怖いな~・・・とか?」
魔王「恐怖心、そうですね。つまりあなたは私に対して恐怖心を抱いている」
魔王「だから逃げたい、違いますか?」
勇者「ちょっとかな・・・うん、ちょっと」
魔王「歯切れが悪いですね、では恐怖心意外のものは何なのでしょうか?」
勇者「早くお家にかえりたいな~」
魔王「・・・・・・」
勇者「・・・だめ?」
魔王「・・・失礼、よもやこの場でそんな言葉が聞けるとは思いもしませんでした」
④
魔王「・・・コホン、お家にかえりたい、ですか」
魔王「つまり、何かやり残したことでもあるのですか?」
魔王「それも、私の前から逃亡せねばならないほどの用事が、です」
勇者「伝説の剣置いてくから、それでいい?」
魔王「話を反らさないでください、いいですか?」
魔王「話にわざわざ乗っている、ということは、場合によっては逃がして差し上げてもいい、という意思表示の現れです」
魔王「今のその一言は、それを台なしにするところだったのですよ?」
勇者「・・・ごめんなさい」
魔王「・・・よろしい、話を戻しましょう」
魔王「あなたの残してきた重大な用事とは?」
勇者「うん、えーと・・・」
勇者「・・・・・・」
魔王「・・・・・・」
勇者「・・・忘れちゃった」
魔王「 」
魔王「・・・話になりませんね」
魔王「理由も無く危険人物認定を受けたあなたを野に放すなどできるはずがありません」
勇者「ボクが危険人物・・・?」
魔王「ここまで来るのに邪魔したものを屠ってきた身で自覚が無いのですか?」
魔王「散っていった者達も浮かばれませんね・・・」
勇者「でも、その危険人物が王の近くに居るって、すごく危険だと思うんだけど」
魔王「ほう、つまりどういう事でしょう」
勇者「危険なわけだし、魔王を傷つけちゃうかもよ?」
勇者「そういうのは部下に任せてー・・・」
魔王「自分の手でやれば、確認等する手間が省けます」
魔王「それに、私は見た目こそ貧弱ですが、そこそこ戦闘はこなせる方だと自負しています」
魔王「どうですか?一度戦ってみます?」
勇者「戦うんじゃなくて逃げたいんだって!」
魔王「戦うのが恐ろしいのですか?」
勇者「そうじゃないんだけど・・・」
勇者「・・・じゃあ、ホントの事言うよ」
魔王「どうぞ」
勇者「・・・この部屋に入った時から嫌な予感がしてしょうがないんだけど」
魔王「それで逃げたいと」
勇者「うん、尋常じゃないんだ」
魔王「プレッシャーなのでは?緊張、責任感から来る重圧、それに苛まれているのではないでしょうか?」
魔王「例えそうだとしたら、時が解決しますよ」
勇者「ううん、時が解決してくれるレベルを越えてる気がする」
魔王「そうですか・・・じゃあ逃げてみてください」
勇者「?」
しえん
魔王「なぜ不思議そうな顔をしているのです?」
勇者「どうやったら逃げれるのかなって・・・」
魔王「はぁ・・・私に説明させるのですか?」
勇者「そっ、そういう訳じゃないよ!」
魔王「もういいです、言って差し上げましょう」
魔王「まず、あなたは自宅に大事な用事を抱えている、そうですよね?」
勇者「うん」
魔王「しかし、あなたは戦いたくはない、でも私としては逃がすわけにはいきません」
魔王「これでも逃げたいのなら・・・扉を破りでもするしかないのでは?」
勇者「そっか、じゃあそうさせてもらうね!」ザッ
魔王「できるものなら、どうぞ・・・」
勇者「やーっ!」ブンッ
ガキイィィン!
勇者「・・・痛い」ビリビリ
魔王「おや、私を倒せないばかりか扉さえ破れないのですか?」
勇者「なんで・・・?」
勇者「じゃあ燃やせばいいよね!」ボッ
パチパチ・・・
勇者「・・・あれっ!?」
魔王「ふふふ・・・」
魔王「失礼、少々からかってしまいました」
勇者「えっ?!」
魔王「その扉、私でも破れないほどに頑丈にできてますから」
魔王「あなたには破れません、絶対に」
勇者「騙された・・・」ガックリ
魔王「物理的な脱出は不可能です。抜け道などもこの部屋にはありません」
勇者「えー・・・じゃあ、どうやったら出れるかって言ったら・・・」
魔王「私を倒すしかないでしょう」
勇者「そうだよね・・・」
???「・・・・・・」バッ
勇者「わっ!?」
魔王「おや、伝令です」
サキュバス「・・・・・・」ニコニコ
勇者「伝令なんだ・・・」
サキュバス「~~~」ゴニョゴニョ
魔王「はい、わかりました、ありがとうございます」
サキュバス「・・・・・・」ニコニコ
ボンッ
勇者「あれ、消えた」
勇者「そうだ、脱出の呪文で・・・」
魔王「今封じてしまいました」
勇者「えーっ!」
魔王「残念でしたね、タッチの差です」
勇者「うう・・・もっと早く気づいてたら・・・」
魔王「・・・ああ、勇者さん、今の伝令の連絡についてなのですが」
魔王「城の内部で戦闘中だった味方の方々を生け捕りにした、という報告でした」
勇者「嘘っ!?」
魔王「誠です」
勇者「そんな・・・じゃあ外から助けてもらうとかは・・・」
魔王「できません」
勇者「どうしよ・・・」
魔王「私を殺します?」
勇者「それができないんだってば・・・」
魔王「できない・・・のですか?」
勇者「できないよ・・・」
魔王「それはなぜなのでしょうか?」
魔王「あなたは私の部下を屠ってきた勇者でしょう。今更私を殺せないなど・・・」
魔王「おかしくは、ないでしょうか?」
勇者「だから、嫌な予感がして近寄れないんだって・・・」
魔王「それは戦いが嫌いだからですか?」
勇者「ちょっと違う気がする」
魔王「では、恐怖心から来るものですか?」
勇者「それも・・・ちょっと違うかも・・・」
魔王「そもそもあなたは、魔物を討伐して回る血も涙もない方なのでしょう?」
勇者「血も涙もないって・・・」
魔王「そんな方が恐怖心など抱くでしょうか」
勇者「高所恐怖症だったりして・・・」
魔王「ここは高所ですか?」
勇者「・・・ごめんなさい」
魔王「しかし、一応恐怖心はお持ちのようですから、これは感じているのではなく」
魔王「感じさせられている、と受け取れはしないでしょうか?」
勇者「それってもしかして・・・」
勇者「犯人は魔王・・・?」
魔王「その通りです」
魔王「あえて手が出せないように、こうさせてもらっています」
魔王「本当は焦燥するほどの恐怖を植え付けることができるのですが、流石は勇者、というところでしょう」
勇者「・・・そんな事してどうするの」
魔王「私は、恐怖の対極にあるものが快楽である、と、考えています」
魔王「私が戦くような恐怖を払ってあげれば、そのまま快楽の中に引きずり込むことも可能ではないか、と」
勇者「・・・?」
魔王「・・・先程、伝令が参ったでしょう」
勇者「あのサキュバス・・・?」
魔王「あの方は、私の母です」
勇者「!?」
魔王「そして勇者、あなたがおめおめと足を踏み入れてしまったこの部屋は」
魔王「私の・・・寝室です」サッ
魔王「これでわかりましたか?私の思惑が」
勇者「それって・・・」
勇者「・・・・・・」
勇者「・・・全力で逃げたい!」ダッ
魔王「全力で逃がしませんよ・・・」ガバッ
勇者「わーっ!」
魔王「ふふふ・・・」
~end~
おい
おい
短編書くなら日を跨がないようにしよう・・・
跨がるのは魔王ですか。それでは
お、おう…
乙
続き書けや!
いや書いてくださいお願いします
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません