神谷奈緒「初恋が叶ったとしたら」 (22)
アイドルがアイドルにならないで普通の思春期を送っていたら的なifです。
短いです。
気楽に楽しんでもらえたらなによりです。
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その日、むさ苦しいアニ研に一条の光が差し込んだ。
神谷奈緒。
そう名乗った新入生は、野暮ったい印象はあるものの美少女と言って差し支えない容姿をしていた。
俺を始め、容姿カーストで上位に位置する女子と会話などしたことのない、陰キャラ揃いの部活動である。
当然のように狂喜乱舞し、なけなしのトークスキルを振り絞って、神谷を囲んでの座談会が日夜開かれた。
とはいえ、アニメの話題などそのうち尽きるもの。
今までどおり、俺以外の部員はたまーに顔を出す程度に戻っていった。
俺以外と言った。
例外が一人いる。神谷奈緒である。
神谷は熱心に部活動に参加した。
俺が自分以外で初めて出会う、アニメを研究する人間だった。
「センパイ、マドラックスってキング・クリムゾンに似てません?」
「おお、確かに似ているな。弾が当たる運命を吹っ飛ばすというわけか」
「そうそう! いやぁ、さすがセンパイだ。話がわかるぅ!」
俺達は似たもの同士だったから、こんな会話をする程度には仲良くなっていた。
5月頃のことである。
せっかくの大型連休なので神谷を遊びに誘うことにした。
極めて自然に、平静を装って。内心はバクバクであったが。
俺の内情を知ってか知らずか、神谷はあっさりオーケーだった。
俺達の暮らす町からは秋葉原のほうが行きやすいけど、少し遠出をして中野ブロードウェイへ。
「おおー、ここが中野!」
どこぞの妹キャラのように諸手を上げてグルグルと、タンクトップから覗く腋が眩しい。
パンキッシュなキャップとオーバーオールのコーデは何かのキャラのようにハマっていた。
こんなことを言ったらぶっ飛ばされそうだから言わないけれど。
「まあ一日は長いし、ゆっくり見て回ろうぜ」
「そうだな、センパイ。あー、あたしTRFってところに一度行ってみたかったんだよね~」
「別にいいが、何故よりによってそこなんだ……」
俺は格ゲー出来ないぞ?
一度デートに行ったから何が変わるわけでもなく。
つか、俺が一方的に意識しているだけなのだろう。悲しいことに。
梅雨に入ったが、校内で唯一合法的にアニメが見られる場所はいつも通り。
むしろいつもは来ない連中が来ている分賑やかだ。
「センパイ、テレビ空かないし今日も一勝負していかないか?」
「おう、いいぞ」
俺達は先に帰る旨を部員共に伝えると、一路ゲーセンへ。
TRFで刺激を受けて格ゲーを始めたわけではない。
何をするかというと音ゲー。
具体的に言うと太鼓を叩いてドン!ってやつだ。
コインを入れて選曲、二人でフチをカカカカッっと連打する。すると最高難度の鬼レベルでプレイすることが可能になる。
曲はXジャパン、紅。
今となっては高難度曲のイメージも薄れたが、初見の時は腕を殺しに来ている連打譜面に絶望したものだ。
ドッカッドドカッドッカドッドカッ
譜面は覚えている。腕を脱力して反動を上手く使うことができれば見た目ほど難しい曲ではない。
ドドカカドドカカドドカカドドカ
しかし横から香水混じりの汗の香りが流れてくる。
脳髄がジーンとしびれ、あっ、ミスった。
「センパイ、後ちょっとでフルコンだったのに。惜しかったなあ」
「やっぱ紅は腕が疲れるからな」
それだけではないが。
「それは同感」
やおら彼女はスクールバッグから制汗剤を取り出すと、服の上からシューシューと散布しだす。
「煙草臭いと親がうるさいからさ。あ、センパイ後ろやってくれない?」
ポニーテールにしている量の多い髪を、首下からかきあげるようにして捧げ持つ神谷。
振り返りながらの上目遣い、反則だ。
制汗剤をかけてあげている間、こっそり髪の匂いを嗅いだ。
若干のタバコ臭さと、女の子の匂いがした。
期末テスト、何それ美味しいの?
俺のテスト結果は国語が良くてそれ以外は普通だ。
一週間前泣きついてきた神谷は、昨年の過去問を与えたお陰か赤点は免れたようだ。
まあそんなことはどうでもいい。夏休みが始まった。
アニ研に合宿はない。だが各自で鑑賞会を開くのは自由である。
クソ暑い中、アニメを見るために登校してくる物好きなどいない。
俺達だけ。
掃除の行き届いていないホコリ臭い部室に、二人。
窓を全開にして扇風機を回し、アニメを見ている。
外周を走る運動部の掛け声が遠くに聞こえる。
汗が肌を伝う。
「なあ神谷、わざわざここに来なくても、アニメなら家で見れるぞ」
古ぼけたブラウン管から目をそらさず、すぐそこに座っているはずの彼女に呼びかける。
「センパイがそれ言う?」
カラカラと神谷が笑う。
テレビはセリフを紡ぎ続ける。
セミが鳴いている。
テレビはセリフを紡ぎ続ける。
「なあお前さ、いや、俺のうぬぼれじゃなかったらだけどさ……俺のこと、好きか?」
画面から、目が、離せない。
小さな息遣いも、程よい制汗剤の香りも感じるというのに。
「……今ので少し嫌いになったかな」
汗が、顎から滴り落ちた。
「それって」「こっち向いて」
反射的に顔を向けると柔らかい掌に両ホホを固定され
「んっ……ちゅ、ちゅぅっ……ぷはぁ」
唇を奪われた。
「おま、いきなりすぎるだろ!」
「肝心なところでチキったからお仕置き!」
ヤケクソのように叫んだ奈緒の顔はとても赤くて。
それはきっと暑さだけのせいじゃなかった。
俺はそんな彼女のことが可愛くて仕方なくなって、だからこう言った。
「好きです。付き合ってください」
なんて返ってきたかは覚えていない。
暑さで夢を見ていたのかも。
けれどその日から俺にはとっても可愛い彼女ができた。
それだけは確かな事実だ。
お わ り
奈緒ちゃんは俺たちの理想を体現した存在です
駆け抜ける妄想
なるほど確かに奈緒には後輩ポジが似合う
でも後輩に辱められちゃう先輩奈緒もいいのではないか(哲学
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