離れない愛の絆で (241)
花陽「凛ちゃんの幸せは」
花陽「凛ちゃんの幸せは」 - SSまとめ速報
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海未「愛」
海未「愛」 - SSまとめ速報
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の続きです、けど、めんどくさければ前のは読んでもらわなくてもOKではある…けど読んだ方が
アニメ2期8話9話を流用してる部分もあるので季節外れ
今回で終わり
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1424344015
眩しい日の光が、窓から差してきて、私は目を覚ます
ん…朝?少し寒い…
なんだか…頭が…ズキズキする…起きるのも…少しきついな
よいっしょっ…ああ、ダメだ、くらくらする…
少し…気持ちが悪いなぁ
で、どこだろう、ここは
不自然に真っ白な布団…銀色のベッド…白いカーテン…
まさか…ここは…病院?
じゃあ、なぜ、私はここにいるの?
頭を触ってみる…包帯が巻いてある
他のところは…怪我していないらしい
じゃあ、やっぱり、私は頭を怪我して、ここに…?
うーん…お腹空いたな
もしかして、しばらく何も食べてないのかな
誰かが来てくれないと…あ、ナースコール
でも…朝早いかもしれないし…少し悪い気もするな
…しょうがないな、また寝よっかな
じゃあ、おやすみなさー…
コンコン
…誰か来たみたい、看護婦さんかな?
ガラッ
入ってくる…ご飯持ってきてくれるようにお願いしよう
シャーッ
私「あ、あの…」
「あ…起きた?」
違った、看護婦さんじゃない
私の前に現れたのは、学生服を着た…ふわっとした髪の…私より肉づきのいい…可愛い女の子
私「ええっと…」
「おはよう」
私「お…おはようございます」
朝の挨拶…彼女は、一体…
「うーん…何からお話しすればいいのかな」
なんだろう…というか、誰だろう
「じゃあ…まずは…私の自己紹介させてもらうね」
あ…助かるな
「私の名前は…こいずみ、はなよ、っていいます」
私「こいずみ、はなよ…」
はなよ「うん、ええっと…教科書…でいいかな」ゴソゴソ
はなよ「はい、どうぞ」
小泉 花陽…これが、彼女の名前…
花陽「…私のこと、わかる?」
言いにくいな…正直な…話…
私「ごめんなさい、わかりません…」
花陽「そっか…こちらこそごめんね」
彼女に謝らせちゃった、申し訳ない
花陽「…じゃあ…やっぱり…もしかして…」
花陽「あなた…あなた自身のことも…わからないよね」
え…?あ、え…?
ちょっと待って…ええっと…私は…私は…
花陽「じゃあ、私から教えるね」
考える時間を与えられないまま、彼女が話し出す
花陽「あなたの名前は…」
花陽「ほしぞら、りん、っていうの」
ほしぞら、りん…
花陽「漢字は…ごめん、今、わかるもの持ってないや」
りん「…大丈夫」
漢字なんて、どうでもいいよ…
花陽「年は、私と一緒の高校一年生、同級生だよ」
花陽「だから、敬語使わなくても、大丈夫」
りん「あ…そうで…そうなんだ」
訊きたいことが山ほどあるな…
りん「あの…私の…おとうさんおかあさんは?」
花陽「今は家にいるけど、そのうちまた来るんじゃないかな」
あ…昨日の…あの二人…か…
りん「…そう」
花陽「それで…いつ退院できるかは、聞いてない?」
りん「あ…うん、知らない」
彼女は…花陽は知っているのかな
りん「は…花陽ちゃんは、知ってるの?」
そう言った瞬間、彼女の顔が一瞬だけ哀しみに染まった気がした
花陽「…っ」
りん「あっ…えっ…ご、ごめんね、なんか…」
花陽「…あっ、いやっ、こ、こちらこそごめんね、なんか…」
なぜ、そんな顔を見せたのか、私にはわからない
花陽「…花陽は、知らないから、りんちゃんは知ってるかなって思って…」
りん「そっか…ごめんね、わからなくて」
花陽「謝らないで…ね」
りん「うん…」
もう…何が何だか…はあ…
花陽「…じゃあ…私…学校があるから…とりあえず…もう行くね」
りん「あ…うん…あの…」
花陽「なあに?」
りん「…花陽ちゃん、また、来てくれる?」
花陽「…もちろんだよ、りんちゃん」
花陽「じゃあ…またね、りんちゃん」シャーッ
りん「うん、またね」
シャーッ ガラッ
…そっか…私…
…ははは
…なんか…外から…聞こえるぞ
花陽「…やっぱり…なんにも覚えてないみたい」
「…そう」
「…残念ね」
花陽「…にこちゃん…まきちゃん…」
にこ「…」
まき「…っ」
花陽「…ひぐっ…グスッ…にこちゃあん…」
にこ「泣かないの!」
まき「にこちゃん!」
にこ「っ…!」
まき「今は…泣かせてあげて」
にこ「…私だって…泣きたいわよ」
花陽「りんちゃん…りんちゃん…うっ…ぐすっ…ひぐっ…」
まき「…にこちゃん」
にこ「なによ…」
まき「私も…泣いていい?」
にこ「…もう…好きにしなさいよ…」
まき「…ありがとう」
外で何が起こってるかは、今の私でもわかる
私が…私が原因で、悲しんでいる人がいる
それが…その事実が…何も覚えていないことよりも、今、一番辛い
そもそも…私に何が起こったの?
私は…この世界で…何をして生きていたの?
わからない…わからないよ…
タッタッタッ…
花陽「あっ…」
にこ「ちょ、ちょっと…」
まき「…待ちなさい!」
ガラッ ドン!シャーッ
「りん!」
その人は突然私の前に現れた
花陽ちゃんと同じ制服…でも、花陽ちゃんよりもスリムで、長くて青い綺麗な髪…
そしてなによりも、その美しい顔に、見惚れてしまった
私の中で、何かの予感がした
「…りん」
その人は、またしても私の名前を呼ぶ
私はその人が誰かはわからないけど…素敵な人、一目でそう思った
「…私のこと、わかりますか」
またそれだ、答えはひとつ
りん「…ごめんなさい、わからないです」
「…そう、ですか」
やっぱり、この人も、哀しそうな顔をする
当たり前か、この人もきっと、私をよく知る人のうちの一人なんだろうな
ガラッ…
花陽「うみちゃん」
「は、花陽…」
りん「あ…花陽…ちゃん」
花陽「遅刻、しちゃうよ」
うみ「…はい、でも、もう少しだけ待ってください」
花陽「…じゃあ、外で待ってるよ」
うみ「すみません」
りん「うみ…さん?」
うみ「…りん」
この人のことも…よく知りたい
りん「えっと…私より、年上ですか、年下ですか?」
うみ「…ひとつ上です」
ひとつ上…そりゃそうか、こんな綺麗な人、同い年だったらビックリする
りん「あ…ち…遅刻…大丈夫ですか?」
うみ「…貴女のためなら、遅刻するぐらいなんてことありません」
…何を言っているんだこの人は
りん「で、でも…遅刻は…いけませんよ」
うみ「…わかりました」
この人…私より年上なのに敬語を使うんだね
うみ「…また、来ますね」
りん「はい…また会いましょうね」
うみ「では…」
シャーッ ガラッ
あの人は…私の…何?
花陽ちゃんは友達だと思うけど…
うみさんは…なんだろう
あ…また外から何か聞こえる
うみ「…行きましょうか」
にこ「うみ…大丈夫?」
うみ「大丈夫なわけないです」
まき「にこちゃん、気、遣って」
にこ「わ、わかってるわよ…」
花陽「…行こう」
うみ「ええ」
大丈夫なわけない、って、ねえ
そりゃそうだ、あの人は私のためなら遅刻してもいいとか言ってしまうほど私のことが大切なのだろう
でも、私はなにひとつ覚えていない
ただただ罪悪感がのしかかってくる
私は、どうすればいいの?
今は…動けない以上、考えることしかできない
りん「…お腹すいた」
…もう、どうにでもなれ
これから、新しく人間関係が出来上がっていくんだろうな
そのうえで、もしかしたら今まであった関係が消えてしまうかもしれない
でも、それは、今の私には…全く辛くない
辛くないことが…辛い
午後
りん「…ひまだな」
聞いた話によると、退院は明日らしい
大丈夫かな、まだ頭が少し痛いんだけど
おとうさんおかあさんであろう人たちはもちろん喜んでた
でも…新しい毎日が明日から始まるんだ
正直…不安だな
コンコン
りん「!」
ガラッ シャーッ
花陽「こんにちは」
りん「あ…花陽ちゃん」
花陽「退院…明日なんだってね」
りん「あ…聞いた?」
花陽「うん!よかったね!」
りん「ありがとう」
花陽「どう?調子は」
りん「うーんと…まだ少し頭痛いかな」
花陽「そっか…でも本当によかったよ」
りん「えへへ…」
花陽「あ、りんちゃん、りんちゃんの教科書、持ってきたよ」ゴソゴソ
りん「あっ…」
私の、漢字…
花陽「はいっ!」
星空 凛
これが…私の…
花陽「素敵な名前でしょ?」
凛「…そう?」
花陽「うん!」
凛「…そうかな」
星空 凛…
凛「ねえ花陽ちゃん」
花陽「待って」
凛「?」
花陽「花陽ちゃん、じゃなくて…」
花陽「かよちん、って呼んでほしいな」
凛「かよ…ちん?」
花陽「うん!」
かよちん…おかしい、これはどう考えてもおかしい
凛「名前は…はなよ…だよね」
花陽「そうだけど…そう呼んでほしいの!」
どこにかよちんと呼べる要素があるのか、私にはわからないけど…彼女がそうしてほしいと言うのなら
凛「ねえ…かよちん」
花陽「なあに?」
凛「あの…かよちんは…私の…友達?」
花陽「!」
まただ、哀しげな顔が見えた
傷つけてしまったかもしれない
ふむ
花陽「花陽はね…凛ちゃんの…幼馴染だよ」
幼馴染、新しい事実が発覚した
凛「幼馴染…いつから?」
花陽「幼稚園からだよ」
幼稚園から…と、聞いたところで、覚えていないのでほぼ意味が無い、けど…
凛「…長い付き合いだね」
花陽「うん、凛ちゃんは…一番の…大事な…親友」
親友だったのか、そんなこと言われたら…もう…
凛「…ごめんね」
花陽「大丈夫だよ…謝らなくても…」
そう話す声は、確かに震えていた
そして彼女は…涙を流した
凛「か、かよちん!泣かないで!」
花陽「凛ちゃん…」
これからしばらくは人を泣かせる日々が続くかもしれない
凛「ごめんね、ごめんね!」
花陽「思い出も、全部…」
まずい…私と彼女との間には…
でも…私は…覚えていない
花陽「ねえ凛ちゃん」
凛「な、なに…?」
花陽「…だいすき」
言われちゃった
痛すぎる、心が
凛「…本当に…ごめんね…」
謝るしかない、今は、謝るしかない
彼女の心には、一生かかっても塞がらない深い傷ができてしまった
私のせいで
花陽「…じゃあ、もう行くね」
凛「…待って!」
行かないで…
花陽「…えっ?」
凛「こっち、来て」
花陽「え…うん」
今、私にできること、それは…
ギュウッ
花陽「へっ!?」
これしかないかもね
凛「私は…何も…覚えてないけど…これで…許してくれるかな」
…そんなわけないか
花陽「…うっ…ぐすっ…」
…また、か…
花陽「ひぐっ…凛ちゃん…凛ちゃん…!」
彼女との記憶、それが私にとって一番大事なものだったんだろうか
それとも、別に他にもっと大事なものがあるのか
そんなのは、今は関係ない
今は…彼女の傷をできるだけ癒すことだけをすべき
そう…思った
凛「…」ギュウッ
花陽「…もう、いいよ」
凛「…本当に?」
まだ、抱きしめていてもいいつもりだった
花陽「うん、次の人がいるから」
凛「次の、人…?」
花陽「うん、朝来た人だよ」
朝来た人…あの人だ
花陽「じゃあ…もう、行くね」
凛「あ…うん…また…明日?」
花陽「うん…また明日!」ゴシゴシ
シャーッ
行ってしまった…そして、別の人が入ってくる
ガラッ シャーッ
うみ「こんにちは」
出た、朝の美人さんだ
凛「こんにちは」
うみ「えっと…自己紹介していませんでしたね」ゴソゴソ
名前は知ってるけど、フルネーム、漢字は聞いてなかった
凛「はい」
うみ「…」サラサラサラ
うみ「…どうぞ」
園田 海未
凛「…そのだ…うみ?」
海未「はい…」
達筆だった
海未「私の…こと…わからないんですよね」
凛「はい…ごめんなさい」
同じことを訊くなんて…この人も…
凛「あの…」
海未「…はい」
凛「海未さんは…私の…部活の…先輩…ですか?」
海未「ええ、そうです」
なるほど
海未「何も…覚えてないんですか」
凛「…覚えてないです」
海未「…っ」
わかってるくせに…訊かなきゃいいのに…
凛「ごめんなさい」
海未「…」
…この人も、泣きだしてしまった
凛「海未さん…」
海未「…すみません…私…もう…行きます…」
また傷つけてしまったみたい
凛「ごめん…なさい」
海未「では…また…」
シャーッ ガラッ
…本当にただの先輩なのだろうか
夜、私は考えた
おそらく、部活の先輩は海未さん以外にも数人はいるだろう
それに、朝、かよちんといたらしい、にこ、まき、という名前の人たちも気になる
明日退院とはいっても、授業には出れないだろうし、部活も顔を出す程度だろう
ん…?ちょっと待って
そもそも私は何部に入ってるの?
大事なことを訊いてなかった
かよちんに教えてもらうしかないか
うーん…馴染めるかな、クラスも、部活も
…私には男とかいるのかな
って、いたら、今日来てるか、ははは
あー、憂鬱だなぁ…
翌朝
今日は、退院の日だ
ああ、緊張する、どうしよう
私の記憶には、ほぼこの病院のことしかない
だから…気持ち的には、初めての外の世界
凛「ううーっ!」
思いっきり伸びをしてみたけど、それでもダルさは抜けない
凛「…がんばろう」
自分で自分を励ます
そうでもしないと、もたないかも
…とにかく知りたいことがありすぎる
ひとつずつでもいいから、解き明かしていこう
午後
凛の家
花陽「これが、凛ちゃんの練習着」
凛「…可愛いね」
花陽「でしょ?でも、今日は持って行かなくて大丈夫」
衝撃の事実が発覚した
私たちはスクールアイドルというものをしているらしい
そして、かよちん、海未さん、にこさんまきさんは同じグループらしく、他にも四人メンバーがいる
おまけに私の通う学校は女子校
次から次へと新しいことがわかって、まだ整理がついていない
凛「アイドル、か…」
おそらく私は歌も振り付けも全て忘れている
凛「みんなに迷惑じゃないかな…」
花陽「大丈夫だよ!みんなも事情はわかってるし、それに、凛ちゃんならすぐにできるようになるよ!」
凛「…だといいんだけど」
花陽「じゃあ…制服に着替えて、荷造りして、行こ!」
凛「うん」
かよちんは明るく振る舞って、私を励ましてくれる
私には、それがとても嬉しかった
凛「かよちん」
花陽「…なあに?」
凛「ありがとう」
花陽「…うん!」
笑顔が眩しいね、かよちんは
通学路
凛「私は…みんなと仲がよかったの?」
花陽「もちろんだよ!μ'sはみんな仲良しなんだから!」
どうやら私のグループの名前はμ'sというらしい
構成は各学年三人ずつ
私と同じ一年生は私とかよちんと、まきさん
にこさんは三年生、海未さんは二年生
あと四人もいるとは、正直仲良くできる自信がない
凛「…緊張するな」
花陽「大丈夫だよ!みんな凛ちゃんのこと、知ってるんだから」
凛「でも…私がみなさんのこと知らないから…」
花陽「みんな優しいから、教えてくれるよ」
凛「…そう」
花陽「…やっぱり、元気のない凛ちゃんは…」
凛「…ごめんね」
私は、元気いっぱいな女の子だったようで
かよちんにとっての私は、元気な私
でも…どうしても…今の私には…
元気は…出せない
そこで…ひとつ訊いてみた
凛「ねえかよちん」
花陽「なあに?」
凛「私って、好きな人とかいたの?」
花陽「!」
立ち止まった
凛「あ…」
まずいこと訊いてしまったかも
花陽「…その…」
凛「…忘れて」
花陽「あっいやっ、その…」
凛「いいの、忘れて」
私は、全て忘れてるけどね、ははは
花陽「…あとで、教えるよ」
凛「!」
これは…いるってことかな?
…楽しみかも
校門
凛「わあ…立派だね」
想像の遥か上だった
いかにも伝統のありそうな学校
花陽「さ、行こ?」
凛「…うん」
これは…もっと緊張する
なんだか色々な設備がある
あれは…なんだろうあの首の長い生き物
そしてあれは…道場かなにか?
…ん?あの青い髪は…
まさか
凛「…海未さん!?」
海未「…!」クルッ
花陽「!」
やっぱりだ、あの顔は
海未「…っ」ガラッ ドン
凛「ちょっ…」
足早に逃げ込んでしまった
花陽「…」
凛「…あそこは?」
花陽「…弓道場だよ」
凛「弓道?」
花陽「海未ちゃんは、弓道部と兼部してるの」
凛「…兼部…」
すごいな、アイドルと弓道を両立しているなんて
すごい美人だから、きっと道着とか似合うかも
花陽「…とりあえず、早く行こっか」
凛「…うん」
なぜ、逃げるように入ってったのかな
そんなに私に会いたくないのかな
でも…また哀しい顔をしていた気がする
やっぱり、ただの先輩ではないのかな
凛「私は…弓道部には入ってないよね」
花陽「もちろん入ってないよ」
凛「…そう」
部室
花陽「ここが部室だよ!」
凛「…」キョロキョロ
アイドル研究部の名に恥じない内装だった
ここの他に、まだ大きな部室があるらしい
そして…
凛「ミナリンスキー…?」
花陽「さ、屋上行こう」
凛「うん」
可愛いサインだな〜なんて思ったりしたり
さあ、いよいよだ
μ'sのみなさんに、会う
…
花陽「じゃあ、開けるよ?」
凛「…うん」
ついに屋上前の扉へ
凛「…」ゴクッ
ガチャッ
μ's「!」
花陽「みんな、お待たせ」
凛「こんにちは」
「凛!」タッタッタッ
ひとりが走ってきた
「…っ」タッタッタッ
驚いた、金髪の美人だ
「っ!」ギュッ
金髪の美人が私を抱擁する
花陽「えりちゃん!凛ちゃん病みあがりなんだから!」
えり「凛…心配したわ…」
えり…さん、か
外国人?わからないや
えり「…私のこと、わかる?」
あなたも訊くのね
凛「…ごめんなさい」
えり「…そう」
また人の哀しい顔を見なければならない
えり「ごめんなさい、凛」パッ…
凛「…あなたみたいな美人には、哀しい顔は似合いませんよ」
えり「!?」
なんだなんだどうした
えり「…そ、そんなこと言う子じゃなかったわ」
舐められたもんだな
「えりち、どいて」
次に現れたのは、長ーい尻尾を二本垂らした、包容力に溢れた人
「…凛ちゃん…」
凛「…お名前は?」
「とうじょう、のぞみ、やで」
…不思議な喋り方をする人
凛「のぞみ、さん」
のぞみ「…せやで」
凛「…ごめんなさい」
先に謝る、それが得策
のぞみ「…謝る必要なんて、ないよ」
そんな…悪いのは私だけど…
凛「わかりました」
のぞみ「ねえ凛ちゃん」
凛「はい」
のぞみ「…笑って」
…普通なら簡単なことだけど
凛「…ごめんなさい、今は…」
のぞみ「…そう」
あ…また…また人を泣かせてしまった
凛「…許してください」
のぞみ「ええんよ…無理してやらせようとしたウチが悪いんよ…でも…」
のぞみ「っ!」ギュッ
また…抱きしめられた
のぞみ「凛ちゃんには…笑っててほしいんよ…」
泣きながら抱きしめられると…こっちも辛い
凛「…すみません」
えり「…ぐすっ」
えりさんまで泣きだしてしまった、もうダメだ
にこ「のぞみ!」
のぞみ「…わかったよ」パッ…
にこ「凛は…凛は…」
涙目になりながらのぞみさんに叫んだのは、聞き覚えのある声
黒髪ツインテールの、小さな身体
あの人が、にこ…
凛「にこさん、こんにちは」
にこ「!」
うろたえる小さな身体
にこ「…もう、あなたは凛じゃないわ」
…言われちゃったなあ
まき「にこちゃん!なんてこと言うの!」
にこさんに怒ったのは、真っ赤な髪のつり目、ああ、あの人がまきさんなのね
まき「…」タッタッタッ
涙目で走ってくる
まき「りん…!」ギュッ
抱きしめられるのは何度目だろうか、そして、泣かせるのも
まき「りん…りん…」
凛「ごめんなさい、まきさん」
まき「…っ!」
もう…何度謝ればいいのか…
花陽「…ぐすっ」
かよちんも…一番泣きたいのはこっちだ
「凛…ちゃん?」
溶けるような声で私の名前を呼んだのは、髪に緑のリボンを付けた…
凛「…お名前は?」
またこの質問
「ことり…みなみことり」
凛「ことりさん、ですか」
ことり「…っ…ぐすっ…」
お願いだからこれ以上泣かないで
そして…奥でひとり肩を震わせているのは
サイドテールの美少女だった
「…」
凛「…ことりさん、彼女の名前は?」
ことり「…こうさか、ほのかちゃん」
凛「ほのか、さん」
あれが、リーダーの
あっ…へたりこんで…
またひとり、泣きだした
もうやめて
私のせいで、哀しまないでほしい
凛「みなさん…泣かないでください…」
逆効果だった
みんなが一斉に声をあげて泣きだした
こうなったらもうどうすることもできない
私は何をすればいいのか
海未「みなさん!」
後ろから声が張り上げられた
まきさんから離れ、振り向くと…いや…振り向かなくてもわかる…彼女だ
凛「海未さん…」
海未「どういうことです、これは…」
凛「私のせいです」
海未「凛の…せい?」
凛「はい、私のせいです」
海未「…みなさんしっかりしてください!」
凛「…どうすればいいんでしょうか」
海未「凛は悪くありません…」
えり「…ごめんなさい、めそめそしててもどうにもならないわよね」
海未「…私だって…私だって…」
海未「っ!」ギュッ
今まで抱きしめられた中で初めて
心に、何かが流れ込んできた
海未「凛…!」
彼女もまた、泣きだしてしまった
でも、彼女の抱擁は明らかに他の人とは違った
私の胸が高鳴っていた
凛「…あなたは…私の…何?」
花陽「凛ちゃん…さっき…自分に好きな人がいるのかって訊いてきたよね…」
かよちんが泣きながら突然その話題を掘り返してきた
…まさか?
花陽「あのね…海未ちゃんはね…」
花陽「凛ちゃんの…恋人なの」
これまでで一番の衝撃だった
私と海未さんが…恋人?
凛「…冗談だよね」
μ's「!」
あ…やばいかも、禁句だった可能性が
でも…普通じゃないよ…だって…
凛「だって…海未さんは…」
どこからどう見ても
凛「…女の人だよ?」
にこ「…あんたね」
にこさんがこっちに来た、そして…
パァン!
私は、ビンタされた
海未さんに抱きしめられたまま
海未「…なにするんです!にこ!」
にこ「あんたの代わりに私がこいつをビンタしたのよ!」
海未「こいつとはなんですか!」
にこ「こいつは!あんたの気持ちを踏みにじったのよ!いくら記憶をなくしたからってそんなこと許しちゃいけない!」
海未「しょうがないではないですか!凛は悪くありません!」
にこ「あんたはこいつに甘すぎるのよ!」
私のせいで言い争いが始まった
私を抱きしめている人が、喧嘩をしている
私は…もう我慢ができなかった
凛「っ…ひぐっ…」
海未「!」
にこ「…っ!」
凛「…ぐすっ…ひぐっ…ごめんなさい…私が…全部…悪いんです…ごめんなさい…」
にこ「う…」
海未「…」
より強く抱きしめられ、胸へと沈められる
豊満とは言い難いけれど…その胸は、私の哀しみを吐き出すには十分すぎるぐらい温かいものだった
凛「うぅ…っ…ひっく…ぐすっ…」
海未「…貴女が…全てを抱え込む必要はありませんよ」
さっきは、冗談だよね、なんて言ってしまったが
もしかしたら、本当なのかな
海未さんが、私の恋人だってこと
…
私が落ち着いた頃には、既に日暮れがきていた
座り込んでいる私に、メンバーのみなさんが話しかける
にこ「その…さっきは…ごめん」
凛「大丈夫ですよ」
にこ「…あんた、さっきからセリフが冷たいわよ」
凛「ごめんなさい」
にこ「あーもー!やりにくいわね!」
やりにくい…か
にこ「その話し方なんとかなんない?」
凛「…?」
にこ「敬語よ敬語!」
凛「…でも」
敬語を使うのは当然だと思うけど
にこ「私の知ってる星空凛は敬語を使っていなかったわ」
凛「そうなんですか?」
にこ「そうよ!」
そうだったのか…
でも…先輩だし…んー…
凛「ごめんなさい…敬語…使いたいです」
にこ「む〜!」
ほのか「いいじゃん、にこちゃん」
リーダーが現れた
ほのか「清楚系凛ちゃんも、アリだと思うよ!」
にこ「凛が…清楚!?」
そんなに私には合わない言葉だったのだろうか
ほのか「凛ちゃん」
凛「なんですか?」
ほのか「あーかわいー!」
こんな小さなことで可愛いがられると、嬉しい
ことり「凛ちゃん凛ちゃん!」
凛「はい?」
ことり「あーんかわいー!」
こんなに言われると照れる
まき「ちょっと!凛!」
凛「なあに?」
まき「その…私…可愛い?///」
な ん だ っ て ?
いや可愛いけど…なんで突然
にこ「今の凛になら素直になれる気がしたのね?」
まき「な、なによ!悪い!?」
凛「…可愛いから、自信持って」
まき「…っ///」
にこ「惚れちゃダメよ、凛は海未の女なんだから」
まき「わ、わかってるわよっ!」
凛「可愛いよ、まきちゃん」
まき「や、やめてよっ///」
花陽「まきちゃん…顔真っ赤だね」
えり「ねえ…凛?」
凛「あ…えりさん…」
えり「その…語尾の口癖も…消えちゃってるの?」
口癖…?私には口癖があったのか
凛「多分、消えちゃってると思います」
えり「そう…んー…」
なんだろう、気になる
凛「私の口癖、教えてください」
えり「いいわよ!」
わくわく…
えり「ズバリ、あなたの口癖は…にゃ、よ!」
…にゃ!?
えり「そうよ!にゃ、よ!」
私は猫娘だったのか…
凛「…そうだったんですね」
んー…無理だな、うん
凛「ちょっと…わかりません」
えり「えー、残念」
残念、か…また謝らないとダメかな
凛「ごめんにゃさい」
噛 ん で し ま っ た
えり「ハラショー…」
凛「恥ずかしいです…///」
なんだこの恥さらし…ん?
のぞみ「りーんーちゃん?」ワシッ
凛「」
のぞみ「ニューバージョン凛ちゃんは、わしわし未体験やんな〜」
わしわし、とは…とりあえず今は私のない胸をつかまれている
のぞみ「いくで〜」
嫌な予感がする
のぞみ「わしわしMAX!」ワシワシワシ
凛「ひゃあっ!」
のぞみ「うへへへへへ」ワシワシワシ
予感が的中した、胸を揉まれている
凛「や、やめてください!やめて〜!」
のぞみ「まだまだまだ〜」ワシワシワシ
海未「のぞみ!」
…やっと止まった
のぞみ「あらら〜、恋人に止められちゃあどうしようもないやんな」ニヤニヤ
そう言って胸揉み先輩は私から離れた
そして代わりに私の左に座り込んだのは…
海未「…」
えりさんも、もちろん美人だけど…
この人は私の目には誰よりも美しく映っていた
そして…この夕焼けに照らされる横顔に
…見覚えがある、気がした
そして、彼女はこちらを見て、私の右肩を掴んで
抱き寄せた
それを見てだろうか、他のメンバーが一斉に私たちから離れた
のぞみ「邪魔しちゃいかんねえ」
ほのか「そうだね…でも…」
にこ「見逃すのは…もったいないわよねえ」
花陽「どきどき」
やじうまどもめ
でも…どれだけ愛されているのか、今、わかるのかもしれない
海未「凛?」
凛「はい…」
海未「…見つめ合いたいです」
恥ずかしいことを堂々と言う
でも…この人の言うことには、逆らえない気がした
そして私は、彼女の顔を見る
凛「…」
海未「…」
えり「あれが、見つめ合う視線のレーザービームってやつね、ハラショー」
ことり「おくせんまんの胸騒ぎだね」
まき「いみわかんない」
そんな会話が聞こえても、私たちの見つめ合いか途切れることはなかった
そして、私は、なぜか…
自分から、目を、瞑ってしまっていた
理由はわからなかった
でも、私の中の何かが、そうさせたのかもしれない
そして…唇に…柔らかいものを感じた
にこ「…やりやがったっ!」
花陽「はううう…」
まき「凛…!」
ほのか「凛ちゃん本当に覚えてないの?」
ことり「ちょっと怪しいよね」
えり「美しいわ…」
のぞみ「スピリチュアルキス」
記憶のないはずの私が、なぜキスをねだったのか…
目を開けて、その視界に映ったものは
誰よりも美しい
涙を流して、下を向く
海未さんの姿だった
やはり、キスを交わしたとはいえ、私の記憶がないことには変わりはない
それが、このキスを、逆に切ないものにしたのかもしれない
凛「顔を上げてください」
海未「…ごめんなさい」
凛「…そうですか」
辛いものは辛い、それはわかる
だから、私は黙って…逆に抱き寄せた
凛「…ねえ海未さん」
海未「…」
凛「今の私には、あなたと過ごした大切な時間は残っていません」
凛「でも、今の私でよければ、あなたの知らない星空凛でもよければ…」
凛「あなたの、一番大事なものになりますよ」
海未「…ばか」
そう言って、彼女は、私の肩に寄りかかる
にこ「ぬおおおおお」
花陽「どきどき」
まき「記憶をなくすとこういうことが起こるのね…」
ほのか「海未ちゃんが…ガッツリ甘えている…」
ことり「これはミナリンスキーのサインよりレアなんじゃ…」
えり「ハラショーが実体化したわね」
のぞみ「スピリチュアルの具現化が目の前に」
やじうまの声が聞こえる
凛「今の私でも…愛してくれますか?」
海未「…勿論です」
帰り道
どうやら、かよちんだけでなく、海未さんも、私の家の場所がわかるらしい
だから、海未さんに送っていってもらうことにした
凛「…」
海未「…」
参ったな…キスまでした相手なのに会話がない
第一、冷静に考えれば記憶をなくしてから数日しか会ってない人とキスをするなんておかしい
私もとんだ尻軽女だな
もし本当に…本当だろうけど…海未さんが私の恋人だとしたら…私は男に興味がないってことかな
でも嘘をつかれている可能性もなくはない
うーん…信用しきれてない自分がいることが恥ずかしい
海未「…凛」
凛「っはいっ!」
びっくりした…
海未「その…敬語で話しかけられるのは…違和感があるので」
ありゃ、海未さんもそうなのか
でも…やっぱり…
凛「ごめんなさい、私、どうしても敬語を使いたいです」
海未「…なら自身のことを、私、ではなく、凛、と言ってくれませんか」
私は自分のこと、凛、って言ってたのか
んー…それは…どうだろう…
凛「…まだ、無理…です」
なんか違うな、うん
海未「…そうですか」
がっかりされちゃった、どうしよう
やっぱり言われた通りにするべきなんだろうか
いや、でも…なんか今の私は前と大分違うみたいだし…
凛「もしかして、言われた通りにしないと、愛せませんか?」
これを訊けば一発かな
海未「…そんなわけないではないですか」
…そっか
海未「さっき言ったでしょう、今の貴女でも変わらず愛すって」
凛「…すみません」
できるだけ、海未さんの気持ちに応えよう
そして…私も、海未さんのことを、本気で信じて、本気で愛せるように、がんばろう
っていうか…
こんなに綺麗で人間的にも素敵な人に愛されてるってこと自体、実はすごく幸せなんじゃないかな
海未「凛、手、繋ぎましょう?」
おっと…恋人らしいフリが
凛「…喜んで」
海未「本当に、らしくないセリフですね」
違いがよくわからないんだよな、前の私との
海未「…でも、後輩らしい後輩の凛も、可愛いですよ」
前の私は後輩らしくなかったのだろうか、失礼なやつだなあ私
凛「…」ギュッ
海未「…」ギュッ
あ…まただ
海未さんと触れ合うと…心の中に、何かが流れ込んでくるのがわかる
凛「…あったかい」
海未「凛の手も」
あったかいのは手だけじゃない
もちろん、心も、だよ
…私は、病院で初めて海未さんを見たときに、一目惚れしてたのかもしれない
だって、見ただけで胸騒ぎがするなんて、只者じゃないよ
記憶がないのに抱きしめられただけで胸が高鳴るのも、普通じゃないし
凛「…」チラッ
海未「…」
美人…見惚れちゃうよ、海未さん
海未「…でも、哀しいですね」
なにがだろう…
海未「私と過ごした夜は…貴女の中には残っていないなんて」
夜…濃厚な関係だったんだな
私はどれだけ海未さんに貪られたのだろうか
凛「私、おいしかったですか?」
海未「…なっ…!///」
いいぞーこの反応
凛「夜を過ごしたってことは、もちろん、私のこと、隅々まで食べ尽くしたんでしょう?」
海未「なんでそういうことだけ覚えているんですか!///」
やっぱりだ、この人、私のこと食べたな
凛「意外と、夜は野獣なんですね」
海未「違います!覚えてるってのはそういうことではないです!///」
どういうことなんだ
海未「その…破廉恥な…知識を…覚えているっていう…ことですよ///」
あー、じゃあまだ…
凛「キス、までですか?」
海未「そ、そうです…」
私が逆に食べていた可能性も消えたな
凛「…ごめんなさい」
海未「もう…」
こういうネタ、弱いんだ…
凛「弱点、見つけちゃいました」
海未「だ、ダメです!そんな破廉恥なことを言うのは!」
凛「…ふふっ!」
海未「あ…」
うん、自分でも気づいた
記憶をなくしてから、初めて笑ったかもしれない
凛「私…」
そして…ふと、横を見ると
海未さんは、また涙を流していた
海未「よかったです…笑顔が…見れて…」
海未「だって…私の知る貴女は…笑顔の絶えない貴女ですから…」
…もう、泣き虫なんだから
凛「泣かないでください、ね」
そう言って両手を握ってあげる
この人は…泣き顔も美しい
隙がないな
…
海未「…はい、着きましたよ」
凛「ありがとうございました」
多分、海未さんからすれば、遠回りだろう
それなのに…本当にありがたい
凛「…では、また明日」
海未「はい、また明日」
離れていく彼女の背中は、可憐としか言いようがなかった
その姿が見えなくなるまで、私はそこに立ち尽くしていた
間違いなく、見惚れていた
今日だけで何度目だろうか
彼女に、見入ってしまったのは
夜
凛の部屋
退院初日からいろいろありすぎて…
まだ知りたいことが多い
とりあえずかよちんにいろいろ訊いてみようと思って、携帯電話のロックを解除しようと思った、が…
パスコードを覚えていなかった
参ったな…連絡を取り合うことができない
どうしよう、親に言って携帯ごと変えようか
うーんでもそうするしかないよな…
はあ…めんどくさいなあ
…アイドル、か
私に、できるかなあ
翌日
家を出て、家の前で待つ
かよちんが昨日家に電話をかけてきて、今日も学校まで一緒に行くと言ってくれた
オマケに私はかよちんに携帯のパスコードを教えていたらしく、逆に教えてくれた
そんなにかよちんを信頼してたんだな…
あ…来た…ん…?あれ…かよちんじゃないぞ…
近づいてくるのは…海未さんだった
海未「おはようございます」
凛「おはようございます…」
でも…私は問いたださなかった
正直、はめられた、けど…
悪い気、しないもんね
…
海未「昨日は眠れましたか?」
他愛のないことだけど…
凛「はい!眠れました」
海未「…それはよかった」
本当のことだ、昨日はぐっすりだった
海未さんのあったかさを思い出したら、無意識のうちに眠っていた
ああ…抱きしめてほしいな
海未さん、いい匂いだし…
海未「今日から本格的に参加してもらいますが…」
…そっか、がんばらないとな
海未「わからないことがあったら、なんでも訊いてくださいね」
凛「…はい、ありがとうございます」
多分ほぼわからないことしかない
質問攻めになっちゃうだろうなぁ
前の私はどんな感じでした?とかも訊きたいな
うーんでもそれは少し怖い気もする
とりあえず今は合わせるしかないかな
でも…ひとつ訊かなければならないことが
凛「あの…早速…」
海未「どうぞ、聞きますよ」
凛「その…アイドルをやってる…目的は?」
海未「…あ」
これを知らないことには、やる意味ないもんね
放課後
部室
当然ながら、私たちは無意味にアイドルをやっているわけではなく
ラブライブという大会の優勝を目指しているらしい
その最終予選が間近だという
ついていけるかな…大変だ
絵里「それじゃあこれから、最終予選で歌う曲を決めましょう、歌える曲は一曲だから、慎重に決めたいところね」
綾瀬 絵里
にこ「私は新曲がいいと思うわ」
矢澤にこ
穂乃果「おおっ!新曲!」
高坂穂乃果
海未「予選は新曲のみとされていましたから、その方が有利かもしれません」
花陽「でも、そんな理由で歌う曲を決めるのは…」
真姫「新曲が有利ってのも、本当かどうかわからないじゃない」
西木野 真姫
ことり「それに、この前やったみたいに、無理に新しくしようとするのも…」
南 ことり
希「…例えばやけど、このメンバーでラブソングを歌ってみたらどうやろか…」
東條 希
先ほど、全員の正式なフルネームを覚えたところ
真姫ちゃんの名前すごいな…真の姫って
まあそういうキャラっちゃそうだけどさ
μ's「…ラブソング!?」
びっくりした
花陽「なーるほどー!」
かよちんに火がついた
花陽「アイドルにおいて恋の歌すなわちラブソングは必要不可欠、定番曲の中に必ず入ってくる歌のひとつなのに、それが今までμ'sには存在していなかった!」
へえ…意外
絵里「…希…?」
希「…」
穂乃果「でも、どうしてラブソングって今までなかったんだろう」
ことり「それは…」チラッ
海未「…な、なんですかその目は」
希「だって海未ちゃんも恋愛経験ないんやろ?」
海未「うえっ?な、なんで決めつけるんですか!」
海未さんが作詞担当らしい…海未さんには私がいるじゃん
穂乃果「海未ちゃんあるの!?」
ことり「あるの!?」
海未「なんでそんなに食いついてくるのですか!」
おーい私、私がいるぞ
花陽「あるの!?」
矢澤「あるの!?」
海未「なんで貴女たちまで!」
あるって、だからあるって
にこ「どうなの!?」
花陽「あるの?」
穂乃果「海未ちゃん答えて!どっち!?」
ことり「ぐすっ…海未ちゃん!」ウルウル
気づいてくれ!私に!
海未「そ、それは…う…ううっ…」ヘタッ
海未「…凛が、最初です…」
はい
ことり「びっくりしちゃった!」
びっくりしちゃった、じゃないよ
穂乃果「もー、変に溜めないでよ〜!ドキドキするよ〜!」トントントントン
海未「穂乃果もことりが最初でしょう!?」
ことほの「…うん」
この二人も付き合ってるのか…すごいグループだな
真姫「…にしても、今から新曲は無理ね」
絵里「…でも…諦めるのは、まだ早いんじゃない?」
真姫「…エリー?」
希「そうやね!曲作りで大切なんは、イメージや想像力だろうし」
海未「まあ…今までも、経験したことだけを詞にしてきたわけではないですが…」
実体験じゃダメなのかな
穂乃果「でも…ラブソングって要するに恋愛でしょ?どうやってイメージを膨らませればいいの?」
この人たちは鈍感なのだろうか…
凛「あの…海未さん…」
μ's「!」
うっ…一斉にこっち見た
凛「…私との…経験じゃ…無理なんですか?」
海未「!」
海未「いや…そういうわけでは…ないんですが…」
凛「…なんか…ごめんなさい」
海未「こちらこそ…」
真姫「…言葉にするのは難しい、ってことよね」
海未「…はい」
それなら…しょうがないか
絵里「…どうしましょう」
にこ「難しいわね…」
やっぱり無理にラブソングにしなくても…
μ's「…」
希「そうやね…例えば」
何か思いついたみたい
廊下
タッタッタッ
花陽「…っ…受け取ってください!」
希「おっ、いい感じやん!」
海未「これでイメージが膨らむんですか?」
希「そうや、こういうとき、咄嗟に出てくる言葉って、結構重要よ?」
穂乃果「でも、なんでカメラが必要なの?」
希「そっちの方が緊張感出るやろ?」
…すみません…イミワカンナイ…
希「それに…記録に残して…後で楽しめるし…」
悪趣味なのはわかった
希「次、真姫ちゃんいってみよう!」
真姫「な、なんで私が!」
…
中庭
真姫「…はいこれ…いいから受けとんなさいよ…」
真姫「べ、べつにあなただけにあげたわけじゃないんだから、勘違いしないでよね」
記憶をなくしても私の中にはツンデレの概念は残っていたみたいだ
希「おおーっ!」
花陽「パーフェクツです!完璧です!」
お手本のようなツンデレ
真姫「どう?これで満足?」
にこ「ふんっ、なーに調子に乗ってるの」
真姫「べつに乗ってなんかいないわよ!」
そうだな、調子に乗ってはいない
希「じゃあにこっちもやってみる?」
にこ「ふふん、まったく…しょーがないわねーっ」
アルパカ小屋
シュルッ
髪を…下ろした
にこ「どうしたか…って…わからないの…?ダメ!恥ずかしいから見ないで…」
μ's「…」
ちょっと寒くないかな
にこ「あーもー、しょうがないわねぇ、ちょっとだけよ?」
にこ「髪、結んでない方が好きだって、前言ってたでしょう?」
にこ「…あげる、にこにーから、スペシャルハッピーな…ラブn」
ピーッピーッ
希「あ、バッテリー切れた」
よくできた茶番だなあ
にこ「ぬわぁんでよ!」
はあ…わざわざこんなことしなくても
凛「…私、やってみていいですか?」
希「凛ちゃん!?」
穂乃果「いいかも!やってみてやってみて!」
ことり「それなら…目の前の相手は…」
絵里「希ではなく…」チラッ
海未「…へっ!?」
もちろん、作詞担当に直接言った方が、早い
…
海未「…ゴクッ」
凛「…海未さん、時間作ってもらって、すみません」
海未「い、いえ…」
凛「私の…相談に乗ってほしくて」
海未「相談、とは…」
凛「…私、好きな人がいるんです」
海未「好きな、人?」
凛「はい」ギュッ
海未さんの手を握る
μ's「…!」
凛「その人は…」
面白い
支援
凛「細身でスタイルが良くて…靡かせる長い髪が綺麗で…とっても美人さんなのに、本当は泣き虫で…甘えんぼさんで…」
海未「…それって」
凛「海未さん…その人は…私の気持ちを…受け取ってくれるんでしょうか…」
海未「…きっと、受け取ってくれますよ…」
凛「それは…嬉しいです…」
そう言って私は海未さんに身を任せる
海未「…」
希「そこまでやーっ!」
止められた
凛「…どうでしたか?」
希「ラブラブなのはわかったから…」
なんのヒントにもならなかったのか…
…
帰り道
穂乃果「結局なんにも決まらなかったね」
海未「難しいものですね…」
私のやつはなんだったんだ
真姫「やっぱり、無理しない方がいいんじゃない?次は最終予選よ?」
海未「そうですね…最終予選はこれまでの集大成、今までのことを精一杯やりきる、それが一番大事な気がします」
ことり「私もそれがいいと思う」
花陽「うん…」
絵里「でも、もう少しだけ頑張ってみたい気もするわね」
μ's「えっ?」
真姫「エリー…」
…なんで?
凛「絵里さんは反対なんですか?」
絵里「反対ってわけじゃないけど…でも、ラブソングはやっぱり強いと思うし、そのくらいないと、勝てない気がするの」
穂乃果「んー、そうかなあ…」
海未「難しいところですが…」
絵里「それに、希の言うことは、いつもよく当たるから」
穂乃果「じゃあ、もうちょっとだけ、考えてみようか」
海未「私は、別に構いませんが…」
絵里「それじゃあ、今度の日曜日、みんなで集まって、アイデア出し合ってみない?」
絵里「資料になりそうなもの、私も探して見るから、希も、それでいいでしょ?」
希「えっ?ああ…そうやね」
言い出しっぺがそんな反応でいいの?
日曜日
穂乃果の家
希「むうううう…」
穂乃果「…好きだ!愛してる!」バッ!
穂乃果「…うわああああんこんなんじゃないよねええええっ!」
絵里「ま、まあ…間違っては…ないわね」
穂乃果「はあ…ラブソングって…難しいんだね」グタッ
絵里「ラブソングは結局、好きという気持ちをどう表現するかだから、ストレートな穂乃果には、難しいかもね…」
にこ「ストレートというより、単純なだけよ」
希「と言ってるにこっちもノート真っ白やん」
にこ「わわっ…これから書くのよ!」
ことり「まあまあ、じゃあ参考に、恋愛映画でも見てみない?」
…
ことぱなえり「うっ、ううっ…」
花陽「かわいそう…」
なぜ穂乃果さんと付き合ってることりさんが普通の男女恋愛映画を持ってきたのかは謎
穂乃果「ぐーぐー」
リーダーは…寝ている
ことぱなえり「わっ…わああああっ!」
真姫「…!」
にこ「ううううっ、なによっ!安っぽいストーリーねっ!」
希「涙出とるよ…ん?」
そう、私も気になっていた
海未「ううううっ!」
海未さんは耳を塞ぎながら、私にすがりついていた
ことり「なんで隠れてるの?怖い映画じゃないよ?」
私はあなたが一番怖い
絵里「そーよーっ、こんなかんどーてきなしーんらろりーっ」
海未「わかってますっ!恥ずかしい!」チラッ
海未「あっ…ああああああ」
画面の中では、いい年した男女がキスをしようとしていた
海未「いえええあああああややや」
ことぱなえり「ああああっ!」
穂乃果「ぐーぐー」
海未「あああああああっ」ダッピッカチッ
海未さんは一瞬で立ち上がりテレビを消し明かりをつけた
海未「はあ…はあ…はあ…」
絵里「…ああ…」
ことり「海未ちゃん!」
海未「恥ずかしすぎますっ!破廉恥です!」
私にはキスするのに…?
…わかった、この人、男が無理なんだな
花陽「そうかな…」
海未「そうです!そもそもこういうことは、人前ですべきものではありません!」
おい、どの口が言うんだ
穂乃果「…ほえ」
ことり「穂乃果ちゃん、開始三分で寝てたよね」
穂乃果「ごめーん、のんびりしてる映画だなーって思ったら、眠くなっちゃって」
絵里「なかなか映画のようにはいかないわよね…じゃあ、もう一度みんなで言葉を出し合って」
真姫「待って!」
μ's「!」
真姫「もう諦めた方がいいんじゃない?」
真姫「今から曲を作って、振り付けも歌の練習もこれからなんて」
真姫「完成度が低くなるだけよ」
絵里「…でも!」
海未「実は私も思ってました」
私も思う
海未「ラブソングに頼らなくても、私たちには、私たちの歌がある…」
穂乃果「…そうだよね」
にこ「相手はA-RISE…下手な小細工は通用しないわよ」
A-RISEというのは、同じ秋葉原で活動しているアイドルらしい
絵里「…でも!」
…やっぱり、どうしても希さんの意見を通したいのかな
希「確かにみんなの言う通りや、今までの曲で全力を注いで頑張ろう」
絵里「…希…」
希「今見たら、カードもそれがいいって」
絵里「待って、希、あなた…」
希「ええんや、一番大切なのは、μ'sやろ?」
絵里「…」
穂乃果「…どうかしたの?」
希「うんうん、なんでもない!じゃあ、今日は解散して、明日からみんなで練習やね!」
真姫「…」
…
穂乃果「じゃあねー!」
花陽「またね!」
真姫「…花陽、先帰ってて」
花陽「…?」
凛「…?」
真姫ちゃんの視線の先には、絵里さんと希さん
真姫「…」ダッ
真姫ちゃんは二人を追い始めた
私は、いつも通り、海未さんに送ってもらうつもりだったけど…
凛「…海未さん」
私も…知りたい
海未「はい?」
凛「すみません、今日は、先に帰ってもらって大丈夫です」
海未「えっ?」
凛「私も…真姫ちゃんについて行きます」ダッ
海未「ちょっと!凛!」
私は、真姫ちゃんを追いかけていた
よく考えたら、海未さんから離れたら、帰り道がわからない
でも…知りたい
なぜ、絵里さんが希さんの肩を持つのか
真姫「…」サッ
凛「…なんで絵里さんはあんなに希さんの意見を大事にするのかな」サッ
真姫「わからないわ…ついて行けば、きっとわか…ちょっと」
気づいたみたい
真姫「なについて来てんのよ」
凛「私も、真姫ちゃんと同じで、怪しいと思ってるの」
真姫「…そう」
絵里「本当にいいの?」
希「いいって言ったやろ?」
絵里「ちゃんと言うべきよ、希が言えば、みんな絶対協力してくれる」
希「…ウチにはこれがあれば十分なんよ」スッ
そう言ってカードを見つめる希さん
絵里「…いじっぱり」
希「…えりちに言われたくないなぁ」
真姫「…どういうこと?」
希「…じゃ、また明日」
絵里「希…」
真姫「…」タッタッタッ
凛「…っ」タッタッタッ
真姫「待って!」
のぞえり「!」
希「真姫ちゃん…と、凛ちゃん?」
凛「…すみませんついてきちゃって」
真姫「前に私に言ったわよね、めんどくさい人間だって」
確かに…めんどくさそう?
希「そうやったっけ?」
真姫「…自分の方がよっぽどめんどくさいじゃない!」
…言うねえ
絵里「気が合うわねえ、同意見よ」
…そうなんだ、私には…よくわからない
…
希の家
ギィーバタン
真姫「おじゃまします」
凛「おじゃまします」
希「遠慮せんと入って」
シュボッ
希「お茶でええ?」
真姫「あ…うん」
凛「大丈夫です」
希さんはお湯を沸かし始めた
真姫「…一人暮らし、なの?」
希「うん」
驚いた…希さんは一人暮らしなんだ
希「子供の頃から…両親の仕事の都合で、転校が多くてね」
真姫「…そう」
絵里「だから、音ノ木坂に来て、やっと居場所ができたって…」
希「その話はやめてよ〜、こんなときに話すことじゃないよ」
ピーッ
希「おっとっと」カチャカチャ
真姫「…ちゃんと話してよ」
真姫「もうここまで来たんだから」
そうだね…私の場合家に帰れない可能性がある
絵里「そうよ、隠しておいても、しょうがないでしょう?」
希「べつに、隠していたわけやないんよ?えりちが大事にしただけやん」
確かにそうかも
絵里「うそ…μ's結成したときから、ずっと楽しみにしていたでしょう?」
う…その頃の話は無理
希「そんなことない」
絵里「希!」
希「…ウチが、ちょっとした希望を持っていただけよ?」
真姫「いいかげんにして!」
凛「ま、真姫ちゃん…」
真姫「いつまでたっても話が見えない、どういうこと?」
真姫「…希!」
凛「…」
絵里「…簡単に言うとね、夢だったのよ、希の」
希「えりち」
絵里「ここまできて、何も教えないわけにはいかないわ」
真姫「夢?ラブソングが?」
絵里「うんうん、大事なのは、ラブソングかどうかじゃない」
絵里「…九人みんなで、曲を作りたいって」
絵里「ひとりひとりの言葉を紡いで、思いを紡いで…本当に全員で作り上げた曲…そんな曲を作りたい…そんな曲でラブライブに出たい、それが希の夢だったの」
絵里「だから、ラブソングを提案したのよ…うまく、いかなかったけどね」
絵里「…みんなで、アイデアを出し合って、ひとつの曲を作れたらって…」
希「言ったやろ?」カチャ
希「ウチが言ってたのは、夢なんて大それたものやないって」
真姫「じゃあなんなの?」
希「…なんやろうね」ゴトッ
希「…ただ、曲じゃなくてもいい、九人が集まって、力を合わせて、何かを生み出せれば、それでよかったんよ」
希「ウチにとってこの九人は、奇跡だったから…」
真姫「…奇跡?」
希「そ、ウチにとって…μ'sは…奇跡」
希「転校ばかりで、友達はいなかった…当然、分かり合える相手も」
希「…初めて出会った」
希「自分を大切にするあまり、周りと距離を置いて、みんなとうまく溶け込めない」
希「ズルができない、まるで、自分と同じような人に」
希「思いは人一倍強く、不器用な分、人とぶつかって」
希「…それが、ウチとえりちの出会いやった」
希「その後も、同じ思いを持つ人がいるのに、どうしても手を取り合えなくて、真姫ちゃん見たときも、熱い思いはあるけど、どうやって繋がっていいかわからない」
希「そんな子が…ここにも、ここにも」
希さんは私を見て笑った
希「そんなとき、それを大きな力で繋いでくれる存在が現れた」
希「思いを同じくする人がいて、繋いでくれる存在がいる、必ず形にしたかった」
希「この九人で、何かを残したかった」
希「確かに、歌という形になれば、よかったのかもしれない」
希「けど、そうじゃなくても、μ'sはもう既に何か大きなものを、とっくに生み出してる」
希「ウチはそれで十分、夢はとっくに…あ」
希さんは、何かを見つけたように、お茶の入ったカップを見つめた
希「一番の夢は…とっくに…」
希「だからこの話はおしまい、これでええやろ?」
絵里「…って、希は言うんだけど、どう思う?」
…なるほどね、それがμ'sなんだ
私には…その奇跡が…わからない
真姫「…」スチャッ
絵里「…」スチャッ
二人はドヤ顔で携帯を取り出した
まさか…収録して…
希「まさか…みんなをここに集めるの?」
違った、考えすぎた
真姫「いいでしょ?一度くらいみんなを招待しても」
流石お金持ち、そんな考えは普通はない
真姫「…友達…なんだから」
希「…」
うわあ…そのウィンクはずるい
…
穂乃果「えーっ、やっぱり作るの?」
真姫「そっ、みんなで作るのよ」
結局みんな集まった
ことり「希ちゃんって、一人暮らしだったんだね」
海未「初めて知りました」
花陽「何かあったの?真姫ちゃん」
真姫「なんにもないわよ」
あったけどね
絵里「ちょっとしたクリスマスプレゼント、μ'sから、μ'sを作ってくれた女神様に」
花陽「みんなで言葉を出し合って、か…ん?」
かよちんが何かを発見した
花陽「これって…」
希「あ…!」
希さんは急いでかよちんからそれを取り返して、隠した
花陽「希ちゃん!」
にこ「そういうの飾ってるなんてー、意外ね」
それは、ステージ上で制服で決めポーズを決める、μ'sの写真だった
いったいいつのライブのものなんだろうか、でもそこに写る私は、私であって私じゃない
希「べ、べつにいいやろ?ウチだってそのくらいするよ…友達…なんやから」
そう言って顔を赤らめる
ことり「…希ちゃん!」
凛「…かわいいですね」
希「…今の凛ちゃんに言われるとは…」
希「〜!///」バタバタバタ
絵里「暴れないの」ギュッ
絵里さんが希さんを止める
絵里「たまにはこういうこともないとね?」
希「…もう」
多分ここもデキちゃってるな
穂乃果「あ…見てー!」
μ's「…ああ!」
外は、雪が降っていた
みんな思わず飛び出す、もちろん、私も
みんなで、空を見上げる
ふと、リーダーが、言葉を発した
穂乃果「…思い」
花陽「…メロディ」
かよちんも続く
海未「…予感」
海未さんの発した言葉は、私をハッとさせた
海未さんを病院で見たとき、何か…不思議な、予感がしたから
私は…海未さんに続いた
凛「…不思議」
真姫「…未来」
ことり「ときめき」
にこ「…空」
絵里「…気持ち」
希「…好き」
好き、か…
私は…これから…μ'sのみんなを…
かよちんを…
そして、海未さんを…
なんの迷いもなく
好きだって
言えるのかな…
次の日から、猛練習が始まった
幸いにも、新曲ということで、全員が一からだった
おかげで、私だけ置いていかれるということもなかった
練習を重ねていくうちに、メンバーとの距離も縮まり始めた
絵里さんは、常に私の身体のことを気にかけてくれる
希さんは、溢れる包容力で、些細な悩みならなんでも解決してくれる
にこさんは、ときに厳しく、ときに優しく、私を鍛えてくれる
穂乃果さんは、有り余る元気で、私に活力を分けてくれる
ことりさんは、どんなときも私を可愛く見せてくれるように努力してくれる
真姫ちゃんは、距離が縮まれば縮まりほど素直じゃなくなっていったけど、私のことを好いてくれてることはわかる
かよちんは、他の誰よりも、私に親身になってくれる、なくてはならない存在
そして、海未さんは…
帰り道
凛「…ってことがあって、にこさんが私のお尻に蹴りを入れてきたんですよ…ひどくないですか?」
海未「にこの指導は極端ですからね…」
こうやって海未さんと一緒に帰るのは、もう何度目になるだろうか
もう道は覚えた
でも、私たちは恋人同士
道を覚えている、覚えていないなんて関係ない
正直、あの退院した日以来、恋人らしいことはしていない
それが…少し、さみしいかも
凛「もうすぐですね、ライブ」
海未「ええ、緊張してきてます」
気持ちを紛らわすために、関係ない話題を振ってみる
凛「私、記憶なくしてからは初めてだから、結構不安です」
海未「いえいえ、凛ならできますよ」
凛「そう言われると、助かります」
海未「貴女の努力は、みなさんが認めていますよ」
凛「そうですか…」
海未「自信を持ってください」
凛「ありがとうございます」
海未さんは、いつもいつも私を褒めてくれる
なんだか、照れちゃうな
海未「…凛」
凛「はい」
海未「一生懸命な貴女、素敵ですよ」
甘い言葉が簡単に飛び出してくる
流石、作詞してることはあるね
凛「…海未さんの方が…素敵です」
海未「…」
私には、そんな才能はない
代わりにあるのは、高い身体能力
それが幸いして、なんとか練習にもついていけてる
海未「…さ、ここで、お別れですね」
凛「…はい」
毎日、別れるのが惜しい
あれ…これって…
ちゃんと、恋してるのかな
そんなことを考えていたら、海未さんがぐいぐい近づいてきて
驚いて後ずさりした私は背中から壁にぶつかり、海未さんは壁に手をつく
凛「な…なん…」
なんだろうこの体勢
テレビで見たことあるぞ
背が高い方が壁に手をついて
低い方が挟まれる
凛「と、突然どうしたんですか…?」
これは…かなり
恥ずかしい
海未「…」
凛「だ、黙ってないで…///」
ダメだ…目を…合わせられない
顔も真っ赤だし…
海未「…こっちを向いてください」クイッ
そう言って顔を無理やり海未さんの方へ向かされる
凛「や…やあん…///」
やあん、なんて言ってしまった
決して可愛子ぶったわけではない
素で出てしまった
心臓が、すごい速さで鳴っている
思わず、目を閉じてしまった
その隙に…
海未「ん…ちゅっ」
キス…
目を開けると、海未さんは、鋭い目で、私を見つめている
私は…涙を流してしまった
海未さんを見ると…なんだか胸が苦しい
こういうことは人前ですべきではないと言った口が、こんなところで私にキスをした
いや、人前だけど…普通の道だけど…なぜなのか、誰一人通らない
今、この空間には、私たちしかいないんだ
海未さんが訊いてきた
海未「…私のこと、好きですか?」
そんなこと言われても…答えはひとつしかない
凛「…好きです///」
もちろん…恋愛的に
夜
なんだかずっとぼーっとしてる
どきどきが止まらない
海未さんのことしか考えられない…
ああ…目を開けてても海未さん
閉じてても海未さん
寝ても覚めても…海未さん
抱きしめてほしい…
あの胸に…もう一度…沈みたい
好きです…好きです…
胸が…苦しい…
海未さん…
翌朝
今日も、海未さんと、学校に行く
でも…いつも通り、いつもの場所で会うだけなのに
こんなに緊張するのは、なんでだろう
昨日のことが脳裏に焼きついていて…
ふと唇を触れてみる
この唇は…昨日、海未さんとキスを交わした唇
キスは前に一度したはずなのに…前のものとは明らかに違った
ああ…会いたいのに…
会ったら会ったで、きっと目も合わせられられない
海未「おはようございます」
来た
ふり向くと、やはりそこには、今一番愛しい人が立っている
凛「お、おはようございます…」
目を合わせずに挨拶をする
不自然だ…
やはり…先に挨拶してくれたんだし
というか先輩だし、目は合わせないと失礼極まりない
そう思って顔を見る
凛「っ…」
海未さんの顔を見た途端
胸が…熱くなった
凛「あ…」
言葉も出ない
海未「さ、行きましょう」
彼女が私の手を握る
私の手は、震えていた
なんてこった…相手はいつも通りに振る舞っているのに、こっちはまったく平常心を保てない
常に…顔が赤い
海未「凛?」
凛「ひゃいっ!」
最悪だ…変な声出してしまった
海未「…クスッ」
笑ってもらえた、よかった…
海未「どうしたんですか?」
凛「いやっあのっそのっええっと」
海未「落ち着いてください、凛」
凛「ごめんにゃさいっ!」
今度は噛んだ!もう!
海未「さっきからおかしいですよ…?」
あなたのせいですっ!
これは…どうすれば治るの?
とりあえず深呼吸
凛「すー、はー、すー、はー」
よーし
凛「…あのっ」
何を言うか考えていなかった
凛「…なんでもないです」
海未「…そうですか」
…もうこれをどうにかしてもらうには、ひとつしかないかもしれない
凛「海未さん」
海未「はい?」
凛「私を、抱きしめてください」
海未「へっ!?」
驚かれた…してくれないのかな…
凛「…無理ですか?」
海未「…いえ、驚いただけですよ」
凛「早く…」
海未「はい」ギュッ
ああ…これだ
私が満たされていく
海未「どうですか」
凛「…気持ちいいです」
そうとしか言えない
海未「それは…よかった」
朝の路上で抱き合う女子高生
異常だ
でも…私は、これでやっと、落ち着いてきた
海未「…」
凛「…もう、大丈夫です」
離すようにお願いする
海未「…」パッ
もう、私は…この人にメロメロだな
海未「ほら、行きますよ」
再び手を握られる
でも、今度は震えていない
海未さんの温かさに、私は包まれている
凛「…」
でも、やっぱり
凛「どきどきします」
海未「もう…可愛いんだから」
その言葉で顔を真っ赤にしていたら
目の前はもう学校だった
昼休み
もちろん、お昼も毎日海未さんと一緒
今日も中庭に行く
今日は…あーんでもしてもらおうかな
いや…気持ちが悪いぞ、私!
…
凛「…」モグモグ
海未さんが隣にいるだけで、ご飯が美味しい
もう自分でもわけがわからない
海未「凛、勉強にはついていけてますか?」
凛「…はい、真面目にはやってます」
海未「勉強に真面目な凛は…やっぱり違和感ありますね」
もう、四六時中あなたでいっぱいだから
真面目にやっても、頭に入ってこないんです
海未「でも、世話が焼けない分、安心はできます」
むしろ私は余計なお世話を焼かれたい
海未「あ…ご飯粒、ついてますよ」
えっ…ちょっと…
彼女の綺麗な指が、私の頬を撫でた
二重の恥が、私を赤くする
海未「…」パクッ
え゛
海未「…食べちゃいました///」
あなたは…ずるい
放課後
さあ、今日も練習がんばるぞ
そう思って屋上の扉を開けると…
…参った、彼女がすぐそこにいた
海未「あ、凛」
凛「…こんにちは」
早速どきどきしてきたぞ
なんと、二人きりだ
凛「…」
海未「…」
気まずいな…悪い意味じゃない
穂乃果「いえーい!」ガチャ
沈黙を破ったのは、この二人
ことり「あ、海未ちゃん、凛ちゃん」
海未「遅かったですよ、まったく」
穂乃果「ごめんごめーん、掃除が長引いちゃって」
そして、次々に他のメンバーもやってくる
花陽「凛ちゃん先来てたの?」
真姫「早かったわね」
だんだん緊張が薄れていく
これはこれで安心できる空気
ああ…日常だ
でも、隣にいる彼女と二人きりになった途端
私はいつも通りじゃいられなくなっちゃう
…
練習後
海未「今日はここまでです」
練習が終わった
本番は…明後日だ
メンバーも仕上げてきている
私も、初ステージに向けて、緊張感が…
花陽「凛ちゃん、もう少しだね」
凛「あ…うん」
疲れて座り込んでいる私の横に、かよちんが
花陽「明日が、本番前最後の練習か…」
凛「…そうだね」
私も、メンバーとの間に、確かに絆が生まれ始めていた
凛「…好きなのかな」
つい独り言が出てしまった
花陽「ん?」
凛「あ、いやなんでもないよ」
私は…μ'sを…
海未「お疲れさまです」
凛「…ありがとうございます」
海未さんに話しかけられると、なんだか安心するんだか、どきどきするんだか
花陽「あ、海未ちゃん…」
かよちんは、海未さんと場所を変わった
花陽「ごゆっくり」
む…なんだその言葉は
凛「…」
海未「…」
この微妙な空気は、練習前と同じだ
空気を変えるために、質問をしてみる
凛「ねえ海未さん」
海未「はい?」
凛「海未さんは、なんでアイドル始めたんですか?」
海未「…」
正直、アイドルっていう感じの人ではない
もちろん、美人だから違和感はない
でも…少なくとも自分からやるような人ではない
海未「…私は、穂乃果に巻き込まれたようなものです」
巻き込まれた?
海未「実は、この学校は、廃校寸前だったんですよ」
ここにきて新たな事実を知るとは
海未「新入生の減少が、理由でした」
確かに、一年生はひとクラスしかない
海未「穂乃果は、そんな状況を救う為、学校をアピールする、ということで、スクールアイドルを始めました」
海未「私とことりは穂乃果の幼馴染なので、必然的に巻き込まれてしまいました」
海未「初めは嫌々でしたが…穂乃果の熱意に押されて…」
海未「でも、アイドルを始めたことで、大切な仲間と出会うことができました」
海未「穂乃果は昔から、私を引っ張っていってくれました」
私とかよちんみたいなものかな
海未「今こうやって続けているのも、半分穂乃果の為…でした」
でした…?
海未「でも、今は違います」
海未「今は…貴女を、見守るため、ですよ」
そう言って微笑む彼女
私は…顔を赤くする
凛「…そう、ですか」
愛されてるなぁ、私
こんな素敵な人に
海未「さ、帰りましょう」
凛「…はい」
私を…見守るため、か
帰り道
記憶をなくす前の私は、海未さんと、どのような時間を過ごしていたんだろう
知りたいな…
凛「…海未さん」
海未「はい?」
凛「…私と海未さんは、デートとかもしたんですよね」
海未「まあ…そうですね」
そりゃそうか…
海未「じゃあ…まだ今の凛とはしていないので」
…ん?
海未「予選の結果が出たら…行きましょう」
凛「へっ!?」
誘われた
凛「で、でーと…に…」
でも、よくよく考えたら私は…
海未さんと、二度、キスを交わしていたんだった
だから、デートなんか、べつに…
気にしすぎることでは…ないはずなんだけど
海未「はい、デートです」
デート…その言葉が、単純に恥ずかしかった
恥ずかしいといっても、いい意味で
凛「…///」
海未「…ふふっ」
もう、笑わないで!
翌日
朝、いつもより早く集合場所に来た
べつに、特に理由はない
でも…こうやって、待つ時間が、好きかも
海未「…凛!」
凛「あ…おはようございます」
来た、私の大好きな人
海未「おはようございます」
凛「じゃあ、行きましょう」
海未「ええ」
私が、海未さんの手を握る
海未さんはまた、いつもの笑顔で、握りかえす
放課後
本番前最後の練習が終わった
明日に備えてだろうか、いつもより終わるのが早い
海未「明日はいよいよ本番です、みなさん、今日はゆっくり休んでくださいね、では、解散!」
μ's「お疲れ様でしたー!」
明日が、私の初ステージ…
緊張するな
しかも、最終予選だなんて
ちょっと荷が重いけど…がんばるぞ
凛「海未さん、帰りましょう」
海未「あ、凛…ごめんなさい」
凛「…え?」
海未「明日の学校説明会に備えて、準備をしないと…」
あ…なるほど
凛「…そうですか」
海未「すみません…」
凛「大丈夫です、がんばってください!」
…さみしいな、じゃあ今日はかよちんと
海未「…」ギュッ
…なんであなたはそんなに優しいの
また、私は彼女の胸に沈む
海未「今日は、これで勘弁してくださいね」
もちろんだよ…
凛「…ばか」
翌日
なぜだろうか、緊張はしていたけどよく眠れた
ああ、わかった、海未さんに抱きしめられた日は、よく眠れるんだな
もう生理的に彼女を求めてるのかな
我ながら気持ち悪い?
会いたいな…
…じゃない、ラブライブだラブライブ
気合い入れるぞ!
シャーッ
あ…
雪…降ってる
…綺麗
西木野宅前
雪の中、かよちんと一緒に真姫ちゃんを待つ
海未さんたち二年生は、学校説明会に関わっているので、途中から合流とのこと
だから、今日は一年生の二人と、会場に行く
凛「…寒いね」
花陽「うん…でも、午後からは晴れる予報だよ」
凛「…そっか」
…真姫ちゃんの家大きいなあ
お金持ちだから…当たり前かな
キイイ
真姫「お待たせ」
凛「おはよう、真姫ちゃん」
真姫「おはよう、凛」
花陽「おはよう真姫ちゃん」
真姫「おはよう、花陽」
花陽「…?」
かよちんが、真姫ちゃんの持つ小さなカバンに気づいた
真姫「…!」
凛「どうしたの?」
真姫「…これ、お母さんがみんなにって」
花陽「…これは?」
真姫「…カツサンドよ!」
…可愛いところあるね
カツは、少しお腹にくる気もするけど
…
絵里「…そう、それは仕方ないわね…」
二年生を除いた私たちは既に会場に向かっていた
絵里さんはリーダーと電話をしている
学校説明会が大幅に遅れているらしい
絵里「わかったわ、私から、事情を話して、六人で進めておく」カチッ
絵里「…ひとまず、控え室に向かいましょう」
にこ「うわあああああああ」
…
絵里「…ごめんなさい、今、会場の前に着いたところなんだけど…」
絵里さんは再びリーダーと電話をしていた
花陽「すごい…ここが、最終予選のステージ…」
凛「…大きい」
にこ「あ、当たり前でしょ?ラブライブの最終予選なんだから…」
にこ「…なにビビってんのよ…」
そういうあなたの足も震えている
真姫「すごい人の数になりそうね」
希「これは九人揃ってじゃないと…」
絵里「とにかく、終わり次第こっちに急いで…」
海未さんたち…大丈夫かな…
…
凛「…わあ」
花陽「すごい…今からここで歌うなんて」
凛「…綺麗」
私とかよちんは、ベランダからライトアップされたステージを見ていた
真姫「本当にここがいっぱいになるの?この天気だし…」
絵里「きっと大丈夫よ」
ツバサ「びっしり埋まるのは間違いないわ」
出た、A-RISE
あんじゅ「完全にフルハウス、最終予選にふさわしいステージになりそうね」
完全にフルハウス…?イミワカンナイ…
にこ「あ、A-RISE…」
真姫「ダメよ、もう対等、ライバルなんだから」
にこ「…」
へえ…そんなにすごいんだ私たち
英玲奈「どうやら、全員揃ってないようだが…」
絵里「え、ええ、穂乃果たちは、学校の用事があって、遅れています、本番までには…なんとか」
ツバサ「…そう、じゃあ、穂乃果さんたちにも伝えて」
ツバサ「今日のライブで、この先の運命は決まる、互いにベストを尽くしましょう」
ツバサ「…でも、私たちは負けない」
そう言ってA-RISEの三人は去った
…
希「…雪、止まないね」
真姫「晴れるって、言ってたのに…」
にこ「…で、穂乃果たちは?」
絵里「…ええっ!?動けない!?」
絵里さんはまた電話をしている
多分、間に合わないかもしれないとか、そんなところだろう
絵里「…そんな」
真姫「来られないの…?」
絵里「…」
外は、ほとんど吹雪
天気予報は外れている
今は…今はただ、祈るしかない
私は…九人で、このステージに立ちたい
…
しばらくすると、雪も風も弱まった
私たちは、二年生たちがやってくることを信じて
控え室を飛び出し、外へ出ていた
きっと…きっと間に合うはず
すると…
見えた、向こうからやってくる三つの影
絵里「穂乃果!」
穂乃果「えりちゃーん!」
リーダーが絵里さんに抱きつく
穂乃果「うわーはーはーはーはーん!」
リーダーは、絵里さんに抱かれながら、泣いている
穂乃果「寒かったよう!怖かったよう!これでおしまいなんて絶対に嫌だったんだよう!みんなで結果を残せるのはこれで最後だし、こんなに頑張ってきたのに、なんにも残んないなんて悲しいよう!」
絵里「…ありがとう…ぬえっ!?」
リーダーの鼻水が絵里さんのコートについていた
にこ「もう…みんな泣いてる場合?」
希「目、うるうるしとるよ?」
にこ「私は泣いてない…希こそ」
希「…もう」
ぞろぞろと人がやってきた
多分この人たちの助けがあって、間に合ったんだろうな
絵里「みんなにお礼しなきゃね」
穂乃果「…うん!」
穂乃果「みんな、本当にありがとう!私たち…一生懸命歌います!今のこの気持ちをありのままに!大好きを…大好きなまま…大好きって歌います!」
穂乃果「絶対…ライブ成功させるね!」
凛「…海未さん、間に合って、よかったです」
海未「…ええ、本当に」
そう言う海未さんの目にも、涙が見えた
…
私たちは今、ステージの上に立っている…
がんばれー!いっけー!ふぁいとー!
みゅーずー!おねえちゃーん!
ほのかー!ことりちゃーん!うみー!はなよー!りんちゃーん!のぞみー!えりー!まきちゃーん!にこにー!
応援と歓声が聞こえる…
穂乃果「みなさんこんにちは!これから歌う曲は、この日に向けて、新しく作った曲です!」
穂乃果「たくさんのありがとうをこめて、歌にしました!」
穂乃果「応援してくれた人、助けてくれた人がいてくれたおかげで、私たちは今、ここに立っています!」
穂乃果「だからこれは…みんなで作った曲です!」
μ's「聴いてください!」
初ステージ…がんばるぞ
…
今日は、クリスマスイブ
学校は、今日で終わって、明日から冬休み
大変だったなあ、何が何だかわからない状態で放り出されて…
しかもアイドルをやらされた(?)
それに…女性が恋人だった、なんて、ね
でも、今は…その人のことが…
ガチャッ
穂乃果「いえーい!」パァン
クラッカーが鳴り響く
にこ「未だに信じられないわ…」
希「にこっち、これは現実やで!」
私たちは、A-RISEに勝ち、本戦出場を決めた
今日は部室でお祝いパーティー兼クリスマスパーティー
花陽「うう…夢が…叶う…」
凛「かよちん」
花陽「あっ、凛ちゃん!やっと来た…」
私は日直でみんなより遅かった
真姫「待ったわよ、凛」
凛「えへへ、ごめんね」
ことり「凛ちゃーん!」ギュッ
凛「わわっ」
ことり「…がんばったね、凛ちゃん!」ナデナデ
凛「…ありがとうございます」
ことりさんが、私に声をかけてくれた
それを、絵里さん、希さんが見守る
そして…
海未「凛」
ことり「おっと…」パッ
海未「変な気遣いしなくても大丈夫ですよ…」
ことり「でもでも〜」ニヤニヤ
この人の小悪魔感はすごい
海未「…もう」
ことり「じゃ、私は穂乃果ちゃんにー!」
穂乃果「わわっ、ことりちゃん///」
ここもここで、なかなかラブラブ
海未「凛、お話があります」
凛「…はい」
なんだろう
海未「私、結果が出たら、デートに行きましょう、と、言いましたよね」
あ…そうだったな
凛「はい」
海未「明日…空いてますか?」
…もちろん、あなたのために
凛「空いてますよ」
わかってたよ、明日に誘われるだろうなって
海未「…今晩から、は?」
…ん?
凛「今日の夜…ですか?」
海未「はい」
…あれ、これって…
一緒に…夜を…過ごすってこと?
凛「…少し、待ってもらっていいですか?」
海未「…ええ」
親に電話してみよう
…
部室を出て親に電話をした
海未さん曰く、明日は丸一日デートをするらしい
今晩から明日の夜まで、家の外で過ごしていいのか、親に訊いてみた
答えは…オーケーだった
ガチャッ
海未「…どうでした?」
凛「…オーケーです」
海未「…!」
凛「今夜…お世話になります」
海未「はい!」
海未さんと、一夜を過ごして…
次の日、デート
なんて恋人らしいんだろう
で…問題の…
凛「…どこへ行くかは決めてあるんですか?」
これを訊かないと、ね
海未「ええ」
どこだろう…
海未「…鎌倉です」
…!?
凛「かまくら…ですか?」
イルミネーション…とかかと思ったけど…
鎌倉…鎌倉…?
海未「はい、鎌倉ですよ」
…海未さんらしいかな
凛「…わかりました」
海未「嫌ならそう言ってもらってもいいんですよ」
んー…どうだろうか…んー…
凛「…嫌じゃ、ないですよ!」
海未「…それはよかったです」
鎌倉、か…
海未「…とりあえず、今は、パーティーを楽しみましょう」
凛「…そうですね」
海未さんが微笑む
その笑顔に…弱いんです
…
そのあとは、みんなで飲んで食べてのバカ騒ぎ
うん、わかったよ、自分の気持ち
μ's…
…大好き
…
海未さんは、久しぶりに私の家の前まで来てくれて、私の荷造りを待ってくれている
どの服を持っていこうかな
どうも私は女の子らしいものが苦手だったらしく、スカートが少ない
でも、もちろん海未さんとのデートだから、スカートを持っていく
それから、ありったけのお金も、ね
ご飯は、海未さんの家で出してもらえるとのこと
緊張するなあ…
ライブとは違う緊張感
凛「…よし!」
荷造り、終わり!
待たせている海未さんのところへ
…
凛「お待たせしました」
海未「いえいえ、さ、行きましょう」
大きなカバンを背負って、海未さんの家に向かう
…
海未「ここですよ」
凛「わあ…」
海未さんの家は…大きい日本家屋だった
凛「すごい…」
海未「寒いですから、入って」
凛「は、はい」
驚いて立ち尽くしちゃった
凛「おじゃまします」
家に入ると…いい匂い
海未さんの匂いだ…
向こうから、海未さんの母であろう方が歩いてきた
海未ママ「いらっしゃい、凛さん!」
凛「こんにちは」
海未「もう怪我は大丈夫なんですか?」
凛「はい、もちろん」
海未ママ「よかった…」
凛「でも…怪我する前のこと、忘れちゃったんです」
海未ママ「…海未から聞きましたよ」
凛「…そうですか」
海未ママ「残念です…でも、またこうやって、我が家に来てくれて、嬉しいですよ」
凛「ありがとうございます」
海未ママ「さあ、上がって上がって!」
凛「はい!」
優しいなあ、さすが、海未さんのお母さん
…
海未の部屋
海未「ここですよ」
凛「…綺麗」
やっぱり、海未さんの部屋だけある
本当に綺麗に整理されている
凛「おいっしょっ」
荷物を降ろして、座り込む
座布団…クッションじゃないあたり、海未さんらしい
なんだか…リラックスできるのに、どきどきもする
海未「さて…どうしましょうか」
凛「…明日の計画、立てませんか?」
海未「それは、大丈夫です」
凛「?」
海未「私が、決めてありますよ」
もう決めてあるとは…
海未「…見せてあげますよ」
凛「あ…はい」
…どんな感じかな
海未「これです」ペラッ
予定表であろう紙を机に広げて、海未さんが隣に座る
達筆…病院で見た字、そのもの
海未「初めは、鶴岡八幡宮」
細かく時間がふってある
しっかりしてるなあ
海未「次は、高徳院です」
高徳院…といっても、わからないや
海未「最後は、小町通りです」
小町通り…昼食も兼ねるって書いてあるな
海未「ここで、お昼したり、お土産を買いますよ」
凛「なるほど…」
凛「でも…なんで鎌倉なんですか?」
海未「!」
あ…
…久しぶりに見てしまった
海未さんは、哀しい顔をした
凛「…ご、ごめんなさい、忘れてください」
海未「…貴女との…」
凛「…?」
海未「貴女との…最初の…」
海未「…なんでもないです」
最初の…なんだろう
あんまり、問いたださないようにしよう
凛「ごめんなさい、変なこと訊いちゃって」
海未「いえ…大丈夫ですよ」
また、こんな顔を見ることになるなんて…
海未「…では、私は、晩御飯を作るので」
凛「えっ?」
海未さんの…手料理?
海未「凛は、ここで待っててくださいね」
凛「ちょっ…私にも、手伝わせてください!」
海未「いいんですよ、凛は休んでいてください」
凛「でも…!」
海未「…私が、自分の手料理を、凛に振る舞いたいんです」
海未「だから…」
凛「…わかりました」
海未「では…本でも読んで、待っていてください」
そう言って、海未さんは行ってしまった
何を作ってくれるんだろう
…でも、今からってことは、そこそこ時間がかかるってことかな
本、か…
難しそうな本ばっかりだな
どうしようか…
…寝よっかな
仮眠でもとって、待ってよう
でも…布団は…押入れの中かな
じゃあ…仕方ないか、座布団二枚ぐらいで
…これ、さっき、海未さんが座ってた座布団だよね
匂い、嗅いじゃおう
やっぱり、いい匂いだな
んー…包まれて…
意識が…薄れて…
…むにゃむにゃ…
…
海未「…凛、起きてください」
ん…なに…?
海未「ご飯できましたよ!」
あ…そうだ、仮眠とってたんだっけ
海未「ほら、起きてください」
あー…眠い…
凛「むー…海未…ちゃん…」ムクッ
あ…ちゃん、なんて言っちゃったよ…寝ぼけてるな…
ん…?
海未「…」
あれ…海未さん…
泣いてる…?
海未「…」
なんで…泣いてるのかな…
こういうときは…
こうすればいいのかなー…
ギュッ
海未「…!」
凛「泣かないれくらひゃい…」
ダメだ…まだ眠いな…
凛「大丈夫れすよ…」
海未「…ぐすっ」
海未さん抱きしめてたら…また眠くなってきちゃったな…
海未「…ううっ…凛…」
いつもは、私が海未さんの胸に沈んでるけど…
今は、私が沈ませてあげる番…
凛「ぎゅー…」
海未さん…あったかい…
だーいすき…
…
凛「いただきます」
海未「どうぞ、召し上がれ」
海未さんの手料理は、豚の生姜焼きだった
凛「…美味しいです!とっても!」
海未「それは…よかったです…」
本当に美味しい
少し…冷めちゃったけどね
…
凛「ごちそうさまでした」
海未「満足していただけましたか?」
凛「もちろんです!」
海未「そうですか…」
海未さんは…すごく優しい顔をした
凛「また、作ってください」
海未「…はい、喜んで」
…
そのあと、お皿洗いを手伝った
海未さんはやらなくていいと言ってくれたけど
どうしても、私は手伝いたかった
美味しいものを振る舞ってくれた、お礼に
こういういたって普通のことを海未さんと一緒にするだけで
なんだか心があったかかった
手は水で冷たいけどね
正直、さっき、なぜ海未さんが泣きだしてしまったのか、訊きたい気持ちはある
でも…
やっぱりそれは訊いてはいけない気がした
多分、前の私のことで、何かを思い出したのかもしれない
海未「…」
凛「…」
今は…黙々と…皿洗いに集中する
知りたい気持ちを抑えて
…
海未「ありがとうございました」
凛「いえいえ」
当然のことをしたまで、です
…
海未の部屋
海未「絵里は、最初は私たちのことをド素人呼ばわりしていて…」
海未さんから、μ'sのより深い話を聞いている
みんながみんな、それぞれの思いを抱いて、ひとつになったんだね
希さんの家で聞いたこととはまた違ったことを知れた
私は…かよちんのオマケだったらしい
海未「合宿も二度あったんですよ」
凛「合宿…ですか」
海未「二度とも真姫の別荘にお邪魔して」
別荘…か、真姫ちゃんは本当にお金持ちだな
海未「二度目の合宿のことは…よく覚えてます」
海未「希と貴女と山に登って…」
海未「貴女は泣いて嫌がっていましたよ」
そんな…
凛「…みっともないです」
海未「みっともない、なんて…貴女の口から聞けるとは」
凛「だって…」
海未「今の貴女は…可愛げがあるのかないのか、本当にわかりませんね」
どこか懐かしい目をして、海未さんはそう言った
海未「でも、希が晩御飯はラーメンだと言うと、貴女は顔を明るくして…」
前の私は、今の私と違って、感情が大きく動く子だったみたい
海未「そんな貴女が…私には可愛くて…」
凛「…」
凛「…あの」
海未「はい?」
凛「渡したいものが…あります」
海未「…実は、私もです」
多分、二人とも同じ
凛「クリスマス…プレゼントです」
海未「…同じ、ですね」
渡すなら…今かな
カバンを引き寄せて、持ってきたものを取り出す
かわいい包装がされている
凛「…どうぞ」
海未「ありがとうございます」
凛「開けてみてください」
海未「はい」
このプレゼントは…私の気持ち
海未「あ…綺麗」
凛「…ハナミズキです」
私が海未さんにあげたのは、白のハナミズキの髪飾り
花言葉は…
私の想いを、受け取ってください
凛「つけてみてください」
海未「はい…」
青い髪の海未さんには、きっと似合う
海未「…どうですか?」
凛「とっても、似合ってます」
海未「…ありがとうございます」
海未さんが微笑む
海未「では、私からも」
なんだろうか…
海未「これです」
凛「わぁ…」
とーっても可愛いスカートだった
私の持ってきたスカートも可愛いと思ってたけど
海未「どう…ですか?」
凛「可愛い…」
海未「…気に入ってもらえてよかったです」
海未ママ「お風呂沸きましたよ!」
海未「!」
凛「…どっちから、入りましょうか」
海未「何を言っているんです?」
凛「…?」
海未「勿論、一緒に入りますよ」
えっ
凛「い、一緒に…?」
ほ、本当に…?
海未「嫌…ですか?」
…そんなわけない
凛「いえ、一緒に入りましょう!」
脱衣所
裸…裸…海未さんと…裸のお付き合い
凛「…」モジモジ
海未「…凛?」
海未さんはもう脱いでいた
凛「…」チラッ
…綺麗な身体
凛「…〜///」
海未「…寒いので…早く…」
凛「…はいっ、ごめんなさいっ!」
私も急いで脱ぐ
やっぱり…恥ずかしいよ…
…
シャワーを浴びる海未さんは
水も滴るいい女、と言ったところだろうか
なんとも美しく…
魅力的だった
なんていい背中だろう
お尻も…なんてところを見てるんだ私は
海未「…」シャーッ
頬ずりしたいぐらい…
海未「…凛も、どうぞ」
凛「…あ、はい!」
海未さんが場所を代わってくれる
凛「…」シャーッ
…見られてるかな
ギュッ
凛「ひやっ!?」
わわわわわわわ後ろから抱きつかれた
海未「…すみません」
ああああ謝られても困る
海未「つい…つい」
凛「ええええええっと///」
肌と肌がみみみみみみ密着
胸が胸が胸が当たってる
シャシャシャワーをとととと止めないと
キュッ
…あああああなにこれなにこれ
ちちちちち近いからうううう海未さんの吐息が耳に
凛「ひゃうん///」
海未「…凛…」
凛「い、いつまで…///」
海未「…」パッ
凛「…///」
海未「続きは…また後で」
つつつつつつつ続き!?
海未「じゃあ…髪、洗いますよ」
凛「ふえっ!?」
海未「ほーら!」
椅子に座らされた
顔が爆発しそう
凛「…///」
海未「はーい」ワシャワシャ
優しい手つきで、髪を洗われる
海未「かゆいところはありませんかー?」
凛「だ、だいじょぶです…///」
海未「そうですか」
続き…?続きって…何されるの…?
まさか…裸と裸で…
海未「じゃあ流しますよ」シャー
水で流されながら、頭を撫でられる
気持ちいい
海未「…」シャー
凛「…///」
海未「はい、次は…背中、流しますよ」
凛「せ、せなか?」
海未「はい」
今度は背中…か
海未「じゃ、いきますよ」
凛「はい…」
海未「…」ゴシゴシ
凛「…」
…
湯船に浸かってる私の横で、海未さんが髪を洗う
私も、お返しとして洗いますと言ったんだけど
断られちゃった
海未さんが言うには、私には二度、洗ってもらったらしい
だから…今日は、私に、って
海未「…」シャーッ
凛「…」チラッ
海未「…ふう」キュッ
海未さんも、湯船に入ってくる
海未「失礼します」
凛「は、はいっ」
海未「…あったかい」
凛「そ、そうですね」
見つめ合いながら、海未さんが微笑む
海未「凛、こっちに来てください」
凛「えっ…は、はい…」
もう…なんだろう
海未「向こうを向いて」
さっきの座ってる版だ
海未「こうすれば、もっとあったかい」
凛「…///」
これが…続き?
海未「…」
あれ…何もしないのかな
海未「…」
…逆に気まずくて…
のぼせそう
凛「あ、あの…」
海未「はい?」
な、なんて言おうかな…
凛「その…なんでもないです」
ああもうなんで私はいつも
海未「遠慮しなくていいんですよ」
凛「…じゃあ」
凛「その…さっき言ってた…続きって…これですか?」
海未「…いえ、本当の続きは、布団の上で、ですよ」
うわああああああ
凛「///」
まずい、どきどきどきどき
海未「楽しみですか?」
楽しみっていうかそうじゃないっていうか
凛「ひう…///」
海未「…可愛い、食べてしまいたいです」
ひゃああああああああ
これは、これは布団の上でえええええええ
海未「頬ずりしちゃいます」スリスリ
きゅう…///
…
海未「…さあ、あがりましょう」
凛「…///」ポケー
海未「…凛?」
凛「…はっ、はいっ!」
完全にのぼせていた
海未「貴女に、どいてもらわないと…」
凛「すみません…」ザバッ
凛「ふわ…」クラッ
海未「あ、危ない」ガシッ
凛「のぼせちゃいました…」
海未「…早く出ましょう」
…
海未「凛はそこで休んでてもらって大丈夫ですよ」
海未さんが布団を敷く
のぼせた私は、パジャマで女の子座り
まだ、顔が赤い
目も虚ろとして…眠いや
海未「…よし、終わり、さ、歯磨きしましょう」
凛「はい、おいっしょっ…わわ」クラッ
海未「…肩、貸しますよ」
凛「すみません…」
海未「いえいえ、私にも責任はあります」
凛「じゃあ、お願いします…」
…
肩を貸りて、洗面所まで来た
すると、海未さんは歯ブラシを取って…
私に、膝枕をしてくれた
海未「私が、磨いてあげますよ」
凛「…はい」
もう…全て受け入れるしかない
凛「お願いします」
海未「では、口を開けて」
凛「はい…」
歯ブラシが、口の中に
海未「…」シャカシャシャカ…
海未さんの脚、細いのに柔らかい
胸と同じだなぁ
こうやって思いっきり上から見下ろされてるのも
なんだか…
海未「…」シャカシャシャカ
海未「…はい、終わりです」
凛「ふぁい…」ムクッ
口をゆすぐために立ち上がる
海未「大丈夫ですか?」
凛「…」コクッ
あんまり迷惑はかけたくはない
こうやって、歯磨きまでしてもらえただけで、本当に嬉しい
…
部屋に戻ってきて、私はフラフラと布団に倒れこむ
凛「…ふあ」
あくびが…眠いなあ
海未「では、寝ましょうか、ね」
凛「ふぁい」
ドサッ
海未「…」
…あ、忘れてた
海未さんが、押し倒したような体勢で、私を見下ろす
途端に、恥ずかしさが戻ってきた
凛「…///」
凛「はううう…///」
今思い出したけど、今日クリスマスイブだったっけ
涙目になりながら、きつく目を瞑る
海未「…ちゅっ」
まずはキスですよね
私、キスをされるとき、いっつも目を閉じてるな
次は…ん?
うわわわわわわわまた耳に耳に吐息が
海未「…愛してる」
…へっ!?
海未「さ、寝ましょ」
え…お…終わり?
…キスしかされなかった…けど…
愛してる、って…
凛「愛して、る…?」
海未「…はい」
いつも敬語の海未さんが…愛してる、って
どうしてだろう、でも…
なんだかすごく…
凛「うううぅ…///」
胸が…きゅんきゅんする…
海未「ほら、布団をかけないと、風邪をひいてしまいますよ」
凛「ひゃい…///」
食べちゃいたいって言われたから…襲われると思ったのに
これはこれで…ずるいよ
海未「…凛?」
これじゃ…さみしいよ
凛「…もっと///」
海未「…はい?」
前の私も、こんなにいやらしい女だったのかな
凛「もっと…キスしてください///」
愛がほしい
もっと濃い愛を、注いでもらいたい
凛「もっと…///」
もちろん、抱きしめられたり、髪や身体を洗ってもらったり
それだけでも十分に愛は感じる
でも…もっと
もっとほしい、あなたから、ありったけの愛が
海未「…もう」
海未さんが、部屋の明かりを消して、私に覆いかぶさる
海未「破廉恥なひと」
私は、目を潤ませて、海未さんを求める
海未「…いいんですね?」
凛「はい…///」
お互いに、指を絡ませ合う
そして、海未さんが再び、私の唇を…
海未「…ちゅっ…んっ…」
凛「んん…ちゅ…ん…///」
…
ん…まだ…夜…?
目が覚めちゃったのか…
海未「すう…すう…」
海未さんが隣で寝てる
私を抱きしめながら
キスされたときからの記憶は…ほぼない
覚えてることといえば…
耳を咥えられたところ、とか…
もう、半分、えっち…だったよね
さすがに下半身まではいかなかったけど…
私から頼んだんだけどね…ずっと受けだったし
…寝ないとな
明日はデートだし
クリスマスイブにお泊まりして…
クリスマスにデート
もう、立派に恋人だね
海未「すう…すう…」
寝顔も素敵です
私も、そっと目を閉じる
こんなに愛してもらって…
何か、お礼がしたいな
あ、いいこと思いついた
明日、デートのおわりに…
…
ん…
海未「凛、起きてください、朝です」
凛「…んあ…海未さん…」
海未「おはようございます」
凛「おはようございまふ…」
もう朝か…んー…
凛「うにゅ…」ムクッ
凛「ふわああ…んー…ふう…」
海未「とりあえず、布団から出ましょう」
凛「はい…」
デートの日…どきどきするな…
…
朝食は鮭の塩焼きだった
海未「…凛、大丈夫ですか?」
凛「?」
何がだろう
凛「いただきます」
海未「いただきます」
凛「…美味しいです」
海未「…凛!今なんと!?」
凛「え…美味しい…です…」
海未「凛が…魚を…美味しいと…?」
どういうことだろう
凛「なんか…おかしいんですか?」
海未「…以前の貴女は…魚が大の苦手でした…」
…まさか、ここまできて新しい事実を知るとは
海未「喜ばしいのか…そうでもないのか…」
やっぱり複雑だよね…
凛「でも…美味しいですよ」
海未「それなら…よかったです」
実際美味しい
…
朝食を済ませて、着替える
持ってきたスカートを履くつもりだったけど
昨日貰ったスカートを履くことにした
凛「よいしょっ…」
海未さんの頭には、私のプレゼントがついていた
やっぱり、似合っている
私のスカートも、感想を聞いてみよう
凛「早速、履いてみました」
海未「嬉しいです」
凛「かわいいですか?」クルッ
一回転して、微笑んでみる
海未「ひえっ?あ、その…///」
凛「…」ニコニコ
海未「キュンときちゃいました…///」
凛「えへへ…」ヒラヒラ
海未「はう…///」
電車
海未「いい天気ですね…」
凛「はい、晴れてよかったです」
冬晴れ…雲ひとつない
初デート…といっても、今の私にとって、だけど
デート、か…
今日は…今日は、目一杯女の子っぽくなろうかな
凛「…」スススス…
海未「あ…」
密着してみる
凛「今日は…甘えたおしちゃいます」
海未「…はい」
…
鎌倉に着いた
海未「さあ、着きました」
凛「最初は…八幡宮、でしたっけ」
海未「ええ」
凛「あの…」
海未「…?」
凛「…」ギュッ
腕を組んでみた
海未「あ…」
凛「…行きましょう?」
海未「…はい」
鶴岡八幡宮
凛「…立派な場所ですね」
とっても広い敷地
長い階段、その先には、本当に立派な建物がある
階段の手前にも、小さめの建物が
凛「…これは?」
海未「舞殿、といいます」
凛「まい…でん」
海未「はい」
凛「何を…するところなんですか?」
海未「そうですね、いつもなら神事を行ったり…」
海未「あと、結婚式なんかもできますよ」
凛「結婚式?」
海未「ええ、事前に申請をすれば、貸してもらえるんです」
凛「へえ…」
この建物で、結婚式か…
凛「…海未さんなら、きっと着物が似合いますよ」
海未「…私は…凛に着てほしいです」
凛「どうして、ですか?」
海未「貴女が、自分で言ったんですよ…自分はお嫁さんがいいって」
凛「えっ」
海未「私に、引っ張っていってもらいたいって」
凛「そうなんですか…」
海未「…少し、強引になりすぎた気もしますが」
強引…あの帰り際の…キスとか…昨日とか
思い出しただけで、なかなか
凛「今の私も、同じ気持ちです」
引っ張っていってもらいたい…
凛「海未さんに…ついていきたいです」
海未「…本当に可愛いお嫁さんですね」
そう言って、私の頭を撫でる海未さん
手袋越しだけど、暖かさが伝わる
その暖かさが、嬉しい
私も、つい、組んでいる腕に力が入った
海未「さ、上へ行きましょう」
凛「…はい!」
…
上からの眺めは…一望だった
天気がいいのもあるのかも
凛「綺麗ですね」
海未「ええ」
あなたの方が…なんてのは、言うには早すぎるかな
でも、本当だもんね
私にとっては、ずっとずっと
海未さんが
一番綺麗だもん
そう思って、より強く
腕を組んだ
高徳院
歩いて高徳院まで来た
そこそこの距離だけど…
それよりも、初めて見た、大仏
いや、少なくとも、今の私は、初めて
やっぱり、大きいものは大きい
凛「…」
とにかく圧倒されて…
海未「以前の貴女なら、大仏さんだーって、喜び回ったんですが」
そうなんだ…でも、今の私は…
凛「本物は、違いますね」
こんな感想
海未「え、ええ」
海未さんは、少し驚いたような反応
凛「記念写真、撮ってもらいません?」
海未「あ…いいですね、お願いしてみましょうか」
…
海未「…なんで突然あんなことをするんですか!///」
凛「いいじゃないですか…」
海未「まあ…普段からしてますから…大丈夫ですけど…///」
写真の中で、大仏をバックに私は海未さんに抱きついていた
凛「…いい写真!」
海未「撮ってくださった方も唖然としてましたし…」
女の子同士だしなあ
小町通り
人、多いなあ…
クリスマスといっても、やっぱり観光地
みんながみんな、デートスポットに行くわけじゃないんだね
凛「何食べましょうか」
海未「もちろん、チョココロッケですよ!」
凛「…!?」
チョココロッケ!?
なんて得体の知れないものなんだ
海未「初めこそイメージが良くないと思いますが…」
海未「食べれば、変わりますよ」
そこまで言うなら…
…
凛「美味しい…」
海未「ほら、やっぱり」
これはすごいな
食べてみないとわからない
海未「チャレンジしてみるものですよ」
凛「…はい」
実際美味しい
…
凛「あ、お団子…」
美味しそうだな…
海未「…食べましょうか」
凛「はい!」
ええっと…はちみつレモン?
凛「私はこれ食べてみようかな」
海未「じゃあ私は栗餡で」
…
変わりものに見えてもやっぱり味は確かなようで
凛「これもすごく美味しいな」
海未「…凛、最後の一個、交換しません?」
凛「いいですね、どうぞ」
海未「ありがとうございます」
交換したものを食べてみる
凛「こっちももちろん美味しいです」
海未「これもなかなかですね」
こういうのも食べ歩きの醍醐味かもしれない
…
その後は、ワッフルといった洋菓子や
豚まんといったものまで
美味しいものをたくさん食べた
…
海未「せんべいです!」
海未さんは嬉しそうに言った
おせんべいか…
…
海未「美味しいです!」
海未さん、嬉しそう
安いからと、次から次へと平らげる
美味しいものを食べるときは、誰だって顔が緩くなっちゃうよね
それは、海未さんも同じ
海未「凛はもういいんですか?」
凛「はい、もう結構お腹いっぱいになっちゃって」
海未「…そうですか」
食べ歩きって意外と満腹になれるんだな
お金の掛かり方が少しキツイけど
海未「…さ、そろそろ、お土産を買いましょうか」
凛「あ…はい」
そうだ…あんまり考えていなかった
…
海未「鎌倉といえば、鳩サブレです」
凛「鳩…サブレ?」
鳥肉みたいな味するのかな
海未「これですよ」
あ…違う、鳩の形してるだけだ
凛「鳩の形だから鳩サブレ…」
海未「…そう、ですね」
シンプルイズベスト、なんて言葉を聞いたことあるけど
このためにあるのかな
海未「でも、美味しいんですよ?」
名物ってぐらいだから…そうなのかな
…
とりあえず買ってみた
うち帰ったら、食べてみよう
海未「さて…そろそろ」
凛「…帰ります、か?」
海未「ええ」
デートも終わりか…
美味しいものいっぱい食べた
海未さんにも…甘えた
でも…もっと、一緒にいたいな…
海未「…凛?」
凛「行きましょう」
電車
海未「…」
凛「…」
会話が…ないや
…ここは、こうしよう
凛「…」コテッ
海未さんの肩に、頭をのせてみる
海未「…疲れましたか?」
凛「いえ…ただ、こうしたかったんです」
海未「そうですか」
少しでも、あなたと触れていたいから
あなたの暖かさに…触れていたいから
帰り道
荷物を取りに、とりあえず海未さんの家まで行く
もう周りは真っ暗だ
海未「楽しかったですか?」
凛「もちろん!」
海未「それは…よかったです」
あなたと、一緒なんだから
当たり前ですよ
でも…やっぱり人前だから、昨日のように
大胆にいくことはできないし
たくさんたくさん愛をあげたりもらったり
それはそんなにはできない
でも…さりげなく、ささやかなことで
二人の愛を確かめあえるなら
それは…
海未「では…」
凛「あ、はい!」
海未さんの家についた
中に入り、荷物を持ってくる
今日の分もあって、量が増えた
凛「よいしょ」
海未「大丈夫ですか?」
凛「はい!大丈夫です!」
…そうだ、お礼
玄関外
海未さんは家まで送ってくれると言ってくれたけど
私は断った
海未「本当に大丈夫ですか?」
凛「はい!」
昨日の夜はとってもお世話になったし
これ以上迷惑はかけたくない
そして…今までのお礼がしたい
海未「…気をつけて」
凛「…」ドサッ
荷物をおろす
海未「…?」
凛「…ちゅっ」
海未「…!」
私から、海未さんの頬に、キスをした
海未「…///」
…本当は、このあとに言いたいセリフがあった
それは…
「凛は、海未ちゃんのこと、大好きにゃ」
前の私の喋り方で、海未さんに想いを伝えてみたかった
でも…考えてみた
もしこれを言ったら…海未さんは、私が記憶を取り戻したと思うかもしれない
でもそこで私が戻っていないと言ったら
それはそれでまた海未さんを傷つけてしまうかもしれない
だからといって、断りを入れてから言っても…
効果は、半分もないと思う
…結局、今の私は、前の私とは全然違う人
初めこそ、前の私の様に振る舞うことに抵抗があったけど
今は、やってみるのもいいかも、なんて思った
でも…今更…
今の星空凛は、私
前の星空凛は、いなくなった
それでも、この人は
目の前の、この人は…
私が、星空凛である、それだけで
何も知らない私を、愛してくれる
両親のような肉親でもないのに
私が私として目覚めてから…いろいろなことがあった
病院での出会い
屋上でのキス
みんなとの曲作り
幾つもの帰り道
路上での…キス
ライブ前日の抱擁
私の初ステージ
昨日の…いろいろ
今日のデート
その中でも海未さんといる時間、それが…
私が愛を感じる時間
私が幸せを感じる時間
凛「…」
海未「…凛?」
私は、海未さんの胸に飛び込んだ
海未「…」ギュッ
思いっきり…涙を流した
凛「…ごめんなさい」
海未「…」
このごめんなさいには、色々な含みがある
海未さんなら、全部受け取ってくれる気がした
海未「顔を…上げてください」
彼女の綺麗な指が、私の涙を拭う
海未さんは、私の目を見つめて、言った
海未「私は、いつだって…貴女のことを」
…もう何度目だろうか、キスをするのは
でも、このキスは、今までのどのキスとも違う
これは…誓いのキス
唇を離し、目を閉じて、お互いにおでこを合わせる
私たちは心の中で誓った
何か大きな哀しみが二人に起こったとしても
例えば…記憶を失うようなことがあったとしても
何があっても、二人は、共に愛し合うと
うみりん「愛してる」
戻らぬまま終わりましたごめんなさい
これはうみりんとしてどうなのか…
一応もうこれで終わりです
おつやで~
記憶戻らなかったか……
まあこれも一つのENDやな……
記憶喪失もので戻らないっていうのは珍しいな
乙
おつ
これはこれでアリかなー
新しい思い出を築き上げてから何十年も経ったあとに突然戻ったらそれまでの記憶の方が消えるからずっと戻らないよりかはむしろそっちの方がバッドになりそう
このSSまとめへのコメント
次回作を待とう!
めっちゃ感動した
次回に期待ですね!