まどか「ゆめ見るようにねむりたい」 (107)
かつて、誰かが言っていた。希望を望んだぶんだけ絶望が訪れると。
ほむら「巴マミ...」
それは、例外なく誰にでもあてはまる世の中の摂理。
ほむら「杏子...」
いつ、なんどきその身に降りかかるかは誰にもわからない。
ほむら「美樹さやか...百江なぎさ...」
人間にも、魔法少女にも、感情の無い宇宙生命体にも
「迎えにきたよ、ほむらちゃん」
そして、神や悪魔にさえも
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ゴゴゴゴゴ
ほむら「はぁ...はぁ...」
さやか「くっ...そ...」
ほむら(まさかあんな手でくるとわね...危なかったわ。でも...)
ほむら「これで終わりよ、美樹さやか」
さやか「......」
ほむら「あなたはよく頑張ったわ。時折、断片的に思い出す記憶を頼りに何度敗れても挑んできて...でも、それもおしまい」
ほむら「直にあなたの円環の理の記憶は、私が思い出させない限り、完全に封印される。そうすれば、あなたはもとの生活に戻れるわ」
さやか「...あたしを殺さないの?」
ほむら「ええ。あなたには、これからもまどかの友達でいてもらう。それは、私にはできないことだから」
さやか「あんた...」
ほむら「...私だって、あなたがまどかを思って挑んできてることくらいはわかってるわ」
さやか「だったら、さっさとやられなさいよ」
ほむら「そうもいかないわ。私もあなたと同じだもの」
さやか「...ねえ、最後に約束してくれない?」
ほむら「...なに?」
さやか「まどかのこと...なにがあっても絶対に守るって」
ほむら「......」
さやか「...頼んだよ」
ドサッ
ほむら「言われるまでもないわ。それが私の全てだもの」
QB「これで終わったかな」
ほむら「ええ。後は、まどかが円環の理の記憶を戻らないように注意すれば...」
QB「...本当にそうかな?」
ほむら「?」
QB「どうにも腑に落ちないんだ。僕らはきみの管理下におかれ、まどかも『ただの人間』になっている。確かにきみにとってはこれ以上ない環境かもしれない...都合がよすぎるくらいにね」
ほむら「なにが言いたいの?」
QB「僕にもわからない。ただ、気を付けるといい。物事というのは、絶えず水面下で動いているものだ。僕らの知らない内に、何かが起こっているかもしれない」
ほむら「......」
クラッ
QB「どうしたんだい?」
ほむら「...なんでもないわ」
ほむら(身体がダルイ...?悪魔となったこの私が?)
数週間後
深夜
鹿目家
知久「うーん...」
詢子「どうしたのさ」
知久「いや...なんとなくアルバムを眺めてたんだけどね。おかしいんだよ」
詢子「おかしい?」
知久「まどかが産まれてから、僕たちがアメリカに行くまでの写真が一枚もないんだ」
詢子「まどかの入学式や卒業式のもか?」
知久「うん。アルバムはこれしか使わないから、分けることはないと思うし...」
詢子「でも、あたしは撮った覚えはあるよ」
知久「僕もなんだ。でも、現にこうなると...」
詢子「もういっぺん物置を探してみるか」
ガチャリ
詢子「ん?」
玄関
まどか「......」
詢子「どうしたまどか。こんな夜遅くまで起きてるなんて珍しいじゃんか」
まどか「......」
詢子「眠れないのかい?まあ、そういう時もあるわなあ。けど、明日も学校あるんだろ?」
まどか「......」
詢子「...まどかぁ。怒ってるわけじゃないんだ。何か反応しなよ」
まどか「......の?」
詢子「?」
まどか「わたし...なんなの?」
詢子「まどか?」
ザワザワザワ
詢子(髪が伸びた!?)
まどか「ちがう...わたし...ここじゃない...」
知久「なにかあったのかい...まどか!?」
ブワッ
詢子「うっ!」
詢子(髪で前が見えねえ!)
ヒュウウウ
知久「いない...」
詢子「...まどかっ!」タッ
知久「駄目だ、どこにも見当たらない」
詢子「二手に分かれるぞ!あたしは左の道から探す。あんたはタツヤを連れて右の道から行ってくれ!」
知久「わかった!」
詢子「なにがどうなってんだ...!?」
翌朝
登校中
杏子「...で、時間内に喰ったら金くれるっていうから食いまくったら、あそこのラーメン屋出禁になっちまってな...」
さやか「へー、そんなこと実際あるもんなんだ」
杏子「だったらあんな張り紙すんなっつーんだよ」
さやか「本当は店の利益だすためにやるからね、ああいうのは」
杏子「はぁ...ショックどころじゃないよマジで。あそこの味、気に入ったのになぁ」
さやか「おっ、前を歩いてるのは...おーい!」
まどか「」ビクッ
さやか「おはよ、まどか!」
まどか「あ、あぅ...」
杏子「どうした?腹でも下してるのか?」
まどか「―――!」ダッ
さやか「まどか!?」
さやか「どうしたんだろ、まどか」
杏子「...なあ、気付いたか?」
さやか「うん。...まどか、パジャマだったね」
杏子「あれか、寝坊して慌てて出てきたのはいいが、着替え忘れてここまで来ちまって恥ずかしいってとこか」
さやか「もしくは、夢遊病の気があるとかかな?あたしは聞いたことないけど」
杏子「うーん、どっちにしても釈然としないな。学校で聞いてみるか...やべっ、もうこんな時間だ!」
さやか「げっ、いつのまに。走るよ杏子!」ダッ
杏子「おうよ!」ダッ
教室
さやか「しゃあ!ギリギリ間に合った...」
仁美「おはようございます」
杏子「おう。あれ、まどかは?」
仁美「まどかさんですか?さあ、今日はまだ見ていませんが」
杏子「こりゃ、今さら寝間着姿に気付いて、慌てて帰ってんだな」
さやか「あれ、でもおかしくない?あたしたち走ってここまで来たけど、まどかとはすれ違わなかったじゃん」
杏子「別の道を通ったんだろ。学校の奴らと鉢合わせないようにさ」
さやか「なるほど。そうかもしれないね」
ガララ
和子「...それでは、出席をとります」
さやか『先生、なんか元気ないね』
杏子『どうせ男に振られたんだろ』
和子「...欠席は暁美さんと鹿目さん、か...」
和子「...皆さんに大事な話があります。落ち着いてきいてください」
杏子「おっ、なんだ?まさかの結婚か?」
和子「鹿目まどかさんが、昨夜から行方不明になりました」
杏子「はっ?」
さやか「ちょ...どういうこと!?まどかが行方不明って」ガタン
仁美「さやかさん」グイッ
さやか「もがっ!?」
仁美「...ひとまず話を聞きましょう。慌てるのはそれからです」
さやか「......」
和子「...いいですか?」
仁美「はい。続きをお願いします」
和子「今朝、鹿目さんのお父さんから学校に連絡が来ました。昨夜、唐突に出ていったきり消息が不明となったようです」
和子「直に警察へ連絡が入りますが...誰か、まどかさんを見た人はいませんか?」
杏子「あたしとさやかはさっき見たよ」
和子「本当ですか!?」
さやか「うん。...挨拶したら逃げられましたけど。あと、パジャマでした」
和子「よかった...まだ街からいなくなったわけじゃないのね」
恭介「先生、探しに行きましょう!」
仁美「そうですわ!まだこの街にいるのなら、みんなで探せばすぐに見つかるはずです!」
和子「...そうですね。許可をもらってきますから、みんなはそれまで待機していて」
――――――――――――――――
テクテク
なぎさ(今日こそは、マミにチーズの素晴らしさを叩き込むのです。食べ過ぎたら太るだの健康に悪いだの...そんなもの、チーズを食べれることの代価と思えば些細なことなのです)
まどか「......」
なぎさ「あっ、まどかです。ちょうどいい、まどかにもチーズの素晴らしさを叩き込んでやるのです。おーい!」ブンブン
まどか「......」スッ
なぎさ「気付かなかったのですか?だったら、もっと近寄って...あ、あれ?」
なぎさ「おかしいな、さっきこの路地裏に入ったはずなのに...」キョロキョロ
ほむら宅前
ピンポーン ピンポーン
さやか「......」
杏子「なあ、あたしたちまどかを探しにきたんだよな?なんでほむらの家に...」
さやか「まどかがいなくなった日に、こいつも休むなんて都合よすぎると思わない?」
杏子「そんなの偶然だろ。...あんたさ、たまにほむらに異常に噛みつく時あるよな。そんなに嫌いなのか?」
さやか「嫌い...ってわけじゃないよ、悪い奴じゃないし。でも、なんだかわからないけど許せないものがあるっていうかなんていうか...」
杏子「...まあ、人の気持ちをどうこう言うつもりはねーけどさ、整理くらいはキッチリしときなよ。...出てこないな」
さやか「...仕方ない。暁美ほむら、いるのはわかってるからね!10秒数える内に出てこないとドア蹴破るよ!1、2、3...」
杏子「おいおい、それは流石にマズイだろ」
さやか「7、8、9、10!警告はしたからね!いくぞ、おんどry」
バァン
さやか「りあぶ!?」
ほむら「,,,うるさい」
さやか「いてて...」
ほむら「なんの用かしら...ゲホッ」
杏子「風邪か?」
ほむら「ええ...最近、あまり体調がよくなくて...」ケホッ コホッ
さやか「...あんたさ、まどか知らない?」
ほむら「まどか...?まどかがどうかしたの?」
杏子「なんでも、今朝から行方不明なんだってさ。まあ、それ聞く前に会ったからまだこの街にいるみたいだけど...」
ほむら「行方不明!?どういうことよ、詳しく教えなさ...ッ!」ゲホッ ゲホッ
杏子「おいおい、大丈夫かよ」
ほむら「え、ええ...それより、教えてちょうだい、まどかの身に何が起こってるか...」
カクカクシカジカ
杏子「...っつーわけだ」
ほむら「...そう。教えてくれてありがとう。私も探しに行くわ」
杏子「心配すんな。あたしたちが会った後すぐにクラスの奴ら全員で探しに行ったから、すぐ見つかるって」
ほむら「...でも、探すのは一人でも多いほうがいいでしょう」
杏子「病人に動き回られたらそれこそ足手まといだっつーの。大人しく待ってな」
ほむら「......」
杏子「ほら、いくぞさやか」
さやか「...本当に知らないんだね?」
ほむら「ええ」
さやか「...わかった。ごめん、いきなり疑っちゃったりして」
パタン
ほむら「...さて、と。来なさい」パチン
偽町の子供「」ザッ
ほむら(出せるのは一体だけ、か...この調子では仕方ないわ)
ほむら「すぐにまどかを探しに行ってちょうだい。見つけたら私に連絡をすること」
偽街の子供「」ビシッ
ほむら「まどか...いったいなにがあったの?」
なぎさ「まどかならさっき見ましたよ」
さやか「ホント!?どこで!?」
なぎさ「いつもチーズを買ってるところです。...でも、まどかの様子、なんだかおかしかった気がするのです。なぎさが呼んでも反応しませんでしたし、路地裏に入ったと思ったらどこかへ消えてしまったのです」
さやか「そういえば、あたしたちが声かけた時も変だったなぁ。なんだか怯えてたような...」
杏子「...こいつは、ただごとじゃなさそうだな」
さやか「なぎさ、あたしたちは一回学校に戻るから、まどかを見つけたら連絡ちょうだい」
なぎさ「ラジャーです!」
――――――――――――――――
まどか「......」フラフラ
「...なにか、わかったかな?」
まどか「......」フルフル
「そう...もう少し見てまわろうか」
まどか「......」コクリ
今回はここまでです。
寝たいわの人か 期待
数日後
ゴホッ ゴホッ
ほむら「どう?」
偽街の子供「」フルフル
ほむら「...そう」
QB「だいぶ参っているようだね」
ほむら「...軽口を叩く暇があるなら、まどかを探しに行きなさい」
QB「それができれば苦労はないよ。きみがまどかから素質を失くしてしまったせいで、僕には探知すらできないからね」
ほむら「......」
QB「どうするんだい?さやかたちやマミ、それに学校の人々も探してくれているらしいけど、まるで痕跡が掴めない。このままではどうしようもないよ」
ほむら(たしかに、コイツでさえ駄目だとしたら、このままだと探す手段が尽きたような気もしてくる...いいえ、まだ彼女を探し出せる可能性はある)
ほむら(でも、それにはリスクが伴う。どうすれば...悩む必要なんてないわね)
ほむら(私は、命に代えてもこの世界を護る...そのためなら、私自身なんてどうでもいいわ)
―――――――――――――――――――
トボトボ
さやか「...今日もまどか見つからなかった」
杏子「ひょっとして、魔法少女に関係したことかもしれないな」
さやか「まさか魔獣...?」
杏子「いや、魔力は感じなかっただろ。もし出てきたら、あいつら馬鹿みたいに瘴気を垂れ流してるからわかるはずだ」
さやか「そうだよね。だとしたら、魔法少女に連れ去られた...とか?」
杏子「...わからねえ。けど、あいつは素質もない一般人だろ?連れ去るメリットが見当たらない」
さやか「どうすればいいんだろう...」
―――キィン
マミ『美樹さん、佐倉さん。今どこにいる?』
杏子『今はまどかの家の辺りだ。どうかしたのか?』
マミ『いえ、ひとまず私の家で作戦会議をしようかと思って。あと...』
さやか『あと?』
マミ『暁美さんから話があるそうよ』
さやか『暁美ほむらが?...わかった。すぐに向かいます』
―――――――――――
マミホーム
さやか「で、話ってなんなのさ」
ほむら「まどかのことよ」
杏子「悪いが、あたしらは何も手がかりを掴めてないよ」
ほむら「わかってる。私が用があるのは、あなたとあなた」
なぎさ「なぎさと」
さやか「あたし?」
ほむら「ええ。あなたたちが、まどかの場所を突き止める最後の希望...ぐッ!!」ゲホッ
杏子「おい、大丈夫か?前より悪化してるじゃねえか」
ほむら「大丈夫...これくらいなんでもないわ」
さやか「...あたしたちになにをしろっていうの?」
ほむら「正確には、私があなたたちにするのよ」
なぎさ「???」
ほむら「ただ、いまの私には二人同時にすることはできないから、どちらから受けるかは話し合って...」
さやか「あたしからでいい」
なぎさ「さやか?」
さやか「なにするかは知らないけど、まどかを探すのに必要なんでしょう?だったら、悩むことなんてないよ」
ほむら「それにリスクを伴うとしても?」
さやか「知ったこっちゃないよ」
ほむら「...わかった。あなたのそういうところは嫌いじゃないわ」
さやか「さ、早くやりなよ」
ほむら「その前に...杏子、こっちに寄ってくれるかしら。なぎさは壁際に」
杏子「なんだ?」
ほむら「あなたたちがそこにいると厄介なことになりそうだから」
なぎさ「?...この辺りでいいのですか?」
ほむら「...OK、その辺りでいいわ。死にたくなければ動かないように」
杏子「なんだ、まるで巻き添えくらうような言い方じゃねえか」
ほむら「ではいくわよ」
さやか「おう」
パンッ
さやか「――――!」
ジャキィ
ほむら「」グイッ
杏子「へっ?」
ピタッ
ほむら「......」
さやか「......」
なぎさ「な、な...」
なぎさ(ほむらが手を叩いたと思ったら、いきなりさやかが変身してほむらに襲いかかって、ほむらが杏子を盾にして...)
ほむら「久しぶりね。気持ちはわかるけれど、剣を収めてくれるかしら」
さやか「あんた...なんでまどかを守らなかった!」
ほむら「......」
さやか「答えろ暁美ほむら!」
杏子「...落ち着け、さやか」
さやか「杏子は黙ってて!これはあたしたちの問題なんだ!」
ほむら「...たしかに、いまのあなたにどうこうできることじゃないわね」
杏子「盾にされてる当事者おいといてそれはないだろ。それに、ここが誰の家だと思ってんだ」
さやか「誰の家って...」
マミ「...ふたりとも、なにをしているのかしら」ニコリ
数分後
マミ「少しは頭が冷えたかしら?」
ほむら「げふっ...」ブラーン
さやか(つ...つええ...)ブラーン
杏子「だから落ち着けって言ったのにさ」
さやか「ほむら...あんた、悪魔のクセになにあっさり負けてんのよ」
QB「それは仕方ないよ。彼女の力はイレギュラーなだけで、決して無敵でも万能でもないからね」
なぎさ「どういうことなのですか」
QB「もともと、暁美ほむらという少女は時間を操ること以外は最底辺の魔法少女だった。だから、マミのように魔法の応用も聞かなければ、杏子やさやかのように魔法とは別の武器を持つことすらできなかった。弓を操っていた時ですら、武器以外に固有魔法は持っていなかったしね。良く言えば特化型、悪く言えば不器用といった感じかな?」
QB「いまだってそうさ。『まどかを人間らしく生活させる』という想いのもと絶大な力を手に入れたのはいいけれど、それもまた一部に特化しただけで、彼女の他の能力が変わったわけじゃない」
さやか「するってえと、つまり」
QB「円環の理や僕らに対してはかなりの力を発揮できるが、それに関係のない者に対してはいつも通りというわけさ」
ほむら「...ほんと、こういう時だけはよく喋るわね」
マミ「事情はよくのみこめないけれど...美樹さん。いま大事なのは、暁美さんを倒すこと?それとも、鹿目さんを見つけ出すこと?」
さやか「そ、それは...」
マミ「少なくとも、暁美さんはこうなることも承知の上であなたになにかをした。それをあなたは受け入れた。だったら、なにを優先するべきかは...わかるわね?」
さやか「......」
マミ「暁美さんも、協力を得たいときは高圧的な態度をとっちゃ駄目よ。そんなことされたら勘違いされるに決まってるじゃない」
ほむら「...あなたに言われたくないわ」ボソッ
マミ「なにかいった?」
ほむら「...なにも」
マミ「さ、落ち着いたところで整理しましょう。暁美さんは、美樹さんになにをしたかったの?」
ほむら「...私が聞きだしたかったのは、まどかの居場所」
杏子「はぁ?」
ほむら「これ以上は、彼女に聞いた方が早い。そうでしょう?美樹さやか」
さやか「......」
さやか「...たしかに、円環の理の一部だったあたしは、あいつの存在を感じ取れる」
さやか「でも、そこまで。あたしがわかるのは、まどかがこの街にいることだけだよ」
ほむら「そう...まあ、それだけでも進歩だわ」
杏子「あー...ついでにひとついいかさやか?」
さやか「なに」
杏子「あんたさ、なにを怒ってたんだ?いくらなんでも過激すぎって気もするぞ」
さやか「...話すと長くなるけどね」
――――――――――
まどか「...ねえ」
「?」
まどか「わたしって...なんなのかな?」
「えっ...」
まどか「ここは故郷のはずなのに、わたしはアメリカに居たはずなのに...なにも痕跡がない」
「......」
まどか「ここで過ごした記憶も、向こうでの生活も、記憶だけはあるのになにも痕跡がない。まるで、その記憶だけつくられて、転校してきた日から始めさせられたような感じがして...」
まどか「わたしって、本当に生きてたのかな。わたしの記憶が付けられたものなら...わたしってなんなのかな」
「...あなたは鹿目まどか。それは揺るぎない事実だよ」
まどか「...本当にそうかな?」
まどか「ねえ、『わたし』は本当に存在してるの?鹿目まどかなんてものは、本当はいないんじゃないの?」
「......」
まどか「自分が分からないことって...こんなにも苦しいことなの?」
「...私は、本当のあなたを知っている」
まどか「!」
「でも、それを知ることは、今より更に苦しむことになるかもしれない。それでも知りたい?」
まどか「...うん」
「わかった。なら、見せてあげるよ。あなたの本当の姿をね」
今回はここまでです。読んでくれたかたはありがとうございます。
乙
―――――――――――――――――――
さやか「―――そして、まどかは契約して、円環の理になった」
さやか「全ての魔女を産まれる前に消し去り希望になる...聞こえはいいけど、言うほど単純なことじゃないんだ」
さやか「そりゃそうさ。魔女になりそうなやつを問答無用で導くってことは、いわばエゴの押し付けに近いからね」
さやか「で、『円環の理』に何の自我もなかったら、そのエゴを貫くどころか、魔女の原因の魔法少女そのものまで消しちゃうかもしれない。そこにセーブをかけるのが、まどかの意思さ」
マミ「...魔女?鹿目さんの意思?」
杏子「なにがなんだかサッパリだ」
ほむら「続けなさい」
さやか「まどかの意思は、自分の巨大なエゴを制御するために必要だったんだ。まどかの意思がなけりゃ、みんなここにはいないと思う」
マミ「えーと、つまり鹿目さん=円環の理ってことでいいかしら?」
さやか「それで大丈夫っす」
杏子「じゃあ、いまいるまどかはなんなんだよ」
さやか「...あれは、まどかの『人間としての意思』。そこの悪魔が引き裂いた人間の部分さ」
マミ「ちょっとスケールが大きすぎるけど...なんとなくわかったわ」
なぎさ「わ、わけがわからないのです」
杏子「ここにバームクーヘンがあるだろ?このままだと、綺麗な円形だ。でも、こうやって一部だけ切っちまうと...」
なぎさ「あっ、まるじゃなくなった」
杏子「そういうこと。つまり、一個の商品としては不格好になっちまうわけだよ。まあ、味は変わらないんだけどね。これでいいか?」モグモグ
さやか「だいたい合ってる。てか、あんた喰いたかっただけでしょ」
マミ「でも、暁美さんが鹿目さんの意思を引き裂いて、なにか不都合なことがあるの?佐倉さんの理論じゃないけど、円環の理も機能してるみたいだし、問題はないんじゃ...」
さやか「...わかんないよ」
マミ「えっ?」
さやか「そんな事態は、今まで有り得なかったんだから、何が起こるかなんてわかるはずもない」
さやか「でも、これだけはいえる。この世の摂理を乱したなら、後に必ず大きな報いを受ける」
ほむら「......」
ほむら「それで?あなたは私になにを望むのかしら?」
さやか「...?」
ほむら「確かに、私は彼女の想いを踏みにじった。だから、私を殺す?私が死ねば満足かしら?」
さやか「...そんなのは、誰も望んでいない」
ほむら「こんな形はまどかの望みじゃなかった。でも、まどかが家族やみんなとの繋がりを肯定してるのも事実よ」
さやか「でも、円環の理が壊れることをまどかが望むはずがない!」
ほむら「なら、あなたはまたまどかを円環の理に戻すというの?また、みんなから忘れられろというの!?」
さやか「そうだよ!それが、まどかの、魔法少女のための...」
バ キ ッ
なぎさ「き、きょうこ...?」
杏子「...さやか。あんた、いまなんつった?」
さやか「え...」
杏子「まどかがもう一遍いなくなっちまえばいいと、本気で思ってんのか!?」
さやか「ちがう...あたしは...そんなことを言うつもりじゃ...なんであたし、あんなことを...」
杏子「...ほむら。ちょいとこいつを借りてくぜ」
ほむら「え、ええ...」
杏子「きな、さやか。散歩でもしてちょっと頭冷やそうぜ」
さやか「......」
パタン
ほむら「」ポカン
マミ「どうしたの?」
ほむら「いえ...まさか、杏子があんなに怒るとは思わなかったから...」
マミ「彼女は友達思いだから。きっと、鹿目さんを犠牲にすることがみんなのためって言葉が許せなかったんでしょう」
ほむら「あなたは違うの?」
マミ「まさか。私も許せないわ。...でも、さっきのも美樹さんの本心じゃないに決まってる。あなたもわかってるでしょう?」
ほむら「......」
なぎさ「...マミは、どっちがいいと思いますか?」
なぎさ「円環の理が正しくなるためにはまどかが必要で、でもそうしたらまどかと会えなくなって...なぎさには、正解がわからないのです」
マミ「...それでいいんじゃないかしら」
なぎさ「えっ?」
マミ「知りすぎてるとね、その分だけ視野が狭まっちゃって意見が偏りすぎちゃうの。その所為で、どうしても相手をとにかく否定してしまいがちになってしまう」
マミ「鹿目さんは、自分の信じるもののために円環の理となった。暁美さんも、自分の信じたもののためにに鹿目さんを否定した。スケールが大きくなっただけで、本質的なことはこれだけなのよ」
マミ「正解なんてものはあらかじめ決めるものじゃないと思うわ。特にこの場合は」
なぎさ「...結局、マミはどう思うのですか?」
マミ「少なくとも、誰の意見も聞こうともせずに決めちゃうのは嫌かな...暁美さんもよ」
ほむら「......」
マミ「いい機会じゃない。あなたは、鹿目さんが独りになるのが嫌だった。そのことを伝えて、彼女本人と話し合いましょう」
マミ「確かに、解りあえないかもしれない。妥協点も見つからないかもしれない。でも、話し合うことは決して無駄じゃない」
マミ「もし、話し合う場を作ることすら悪というのなら、私はそれを許さないわ」
ほむら(話し合う...か)
ほむら「...まさか、あなたの口からそんな言葉が出るとは思わなかったわ」
マミ「どーいう意味よ」ムー
ほむら「でも...いくらか楽になったかもしれない」
ほむら(思えば、今まではまどかとワルプルギスのことで必死で、みんながみんな意見の押し付けになって...まともな話し合いなんて一度もなかったわね)
マミ「それはよかったわ。さ、美樹さんと佐倉さんが帰ってきたら、鹿目さんを探しに行きましょう」ニコッ
――――――――――――――――――――――――
外
杏子「...少しは落ち着いたか?」
さやか「...うん」
杏子「ったく、カッとなるのはあんたの悪い癖だけどさ、あんなこというなんてらしくないじゃんか」
さやか「......」
杏子「あー...殴ったのは悪かったよ。あたしもついカッとなっちまってさ」
さやか「ううん。助かったよ。もう少しで見えないなにかに飲まれそうだったから...」
杏子「はぁ?」
さやか「時々、変な感覚を思い出すんだ。あたしは、もっと大きな存在の一部だった...あたしはここにいるべきものじゃないって」
杏子「......」
さやか「さっきも、その感覚が湧いてきて、気が付けばあんなことを言ってて...」
杏子「あんたじゃない別の誰かに乗っ取られそうってことか?」
さやか「...わかんないけど、それが一番近い気がする」
杏子「そうか」
さやか「ねえ、杏子はどう思う?」
杏子「んー...いまのさやかがらしいっちゃらしいかな」
さやか「へっ?」
杏子「なんかさっきまではさ、まるで誰かの代弁者みたいにしたり顔で話してたじゃん。そんなのぜんっぜんさやからしくねえ」
さやか「んなっ...」
杏子「あんたはもっと単純と思いきや、細かいことを気にして悩むバカなやつだろ。ずっと悩みと戦ってる方がまだあんたらしいさ」」
さやか「くぅ...反論できないのが悔しい...」
杏子「そんで、悩み抜いて問題が解決したらトコトン頼りになるスゲエやつ。それが、あたしの知ってる美樹さやかだよ」
さやか「!」
杏子「さっさとその問題を解決しちまって、頼れるところを見せてくれよ」ニカッ
さやか「...ありがと、杏子」
――――――――――――――――――――――
まどか「そんな...こんなことが...」
「...それが、あなたの本当の姿。誰にも届きえないあるべき場所だよ」
まどか「いやだ...いやだよぉ...」グスッ
「......」
まどか「わたし、戻らなくちゃいけないの?もっとみんなと一緒にいたいのに...お別れしなくちゃいけないの?」
まどか「パパもママもタツヤも、誰も見てくれないところにいかなくちゃいけないの?」ポロポロ
「...ごめんね。私のせいだよね」
まどか「......」グスッ
「心配しないで。これ以上、あなたに背負わせたりなんかしない。あなたは何も考えなくていい」
まどか「え...?」
「全ての絶望は...私が受け止めるから」
トプン
――――――――――――――――――――――――
さやか「!」ビクン
杏子「な、なんだ?」
さやか「この感覚...まどかが近くにいる...!」
杏子「本当か!?」
さやか「こっちだ」
杏子「ちょっと待て。いま携帯で連絡する」
マミ宅
マミ「はい。佐倉さん?え...わかった、すぐに向かうわ!」
マミ「鹿目さんが佐倉さんたちの近くにいるそうよ」
なぎさ「見つかったのですか!」
ほむら「よかった...まどか...」フラッ
マミ「だいじょうぶ?体調が優れないなら、ここで休んでた方が...」
ほむら「いいえ...私も行くわ」
マミ「あまり無茶しないでね。鹿目さんもきっと心配しちゃうから」
ほむら「......」
ほむら「ええ」
マミ「なによその間は」
――――――――――――――――――――――
廃工場
さやか「ここからまどかの気配が...」
杏子「○○地区の工場跡だ」
マミ『わかったわ』
杏子「ずいぶん広い工場だな...暗くて見辛いし、隠れられでもしたら厄介だぞ」
さやか「どの道探すしかないでしょ。さきいくよ」
杏子「...待て」
カツン
杏子「誰かこっちにくる...気をつけろさやか」
さやか「え?まどかじゃ...」
杏子「だとしても、だ。なんであの時逃げたやつが迷いもなく向かって来るんだよ。万が一のときのために...」
さやか「わ、わかった」
カツン カツン
杏子「くるぞ」
さやか「......」ゴクリ
カツン
「...迎えに来たよ」ニコリ
さやか「まどか!なんだ、やっぱまどかじゃん。心配させおって、このこの~」
「ごめんね、遠回りなことしちゃって。でもだいじょうぶ。もう全て解決したから」
さやか「遠回りだかなんだか知らないけどさ、早く帰ろう。みんな心配してるよ」
「うん、そうだね。一緒に帰ろう」
さやか「ほら、杏子もなんとかいいなよ。...杏子?」
杏子「......」
杏子(いま...こいつはなんていった?)
杏子(『迎えにきた』?...散々心配かけておいて、謝りもせずにんなこと言えるタマじゃねえだろ、まどかは)
杏子(それにあいつのこの雰囲気...何かがおかしい。わからねえが、いまのコイツはまともじゃねえことだけは確かだ!)
杏子「離れろさやか!」
さやか「えっ?」
「」ザワザワザワ
さやか(な、なに!?まどかの髪が伸びて...)
「お帰りなさい、私」
ズルリ
さやか「え...?」
ボトッ ボトッ
ズズズ
さやか(あたしの身体が...溶けて...まどかの身体のなかに...?)
「これで...私の欠片はあとひとつ」
さやか(ああ...そうか、そういうことだったんだ)
いまのあたしはえんかんのことわりにつくられたみきさやかのようなもの
みきさやかはもうきえさっていて、あたしはえんかんのことわりのひとつにすぎなかったんだ
杏子「さやかぁ!」
だいじょうぶだよ、きょうコ。あたしはモとのかタチにもどるだケ
ナニモ コワクナイ
――トプン
杏子「てめえ...さやかになにしやがった!?」
「...私は、私を元の形にもどしただけだよ」
杏子「さやかはどこにやったって聞いてんだよ」
「さやかちゃんはもういないよ。あれは、さやかちゃんをもとにつくった私の一部」
杏子「ふざけんじゃねえ!さやかはさやかだ。お前じゃねえんだよ!」ブンッ
ガキィ
杏子(なんだ!?槍がこれ以上進まねえ...!)
バチィ
「......」
杏子(さやかは円環の理の一部で、こいつはさやかを自分の一部といった。なら、コイツの正体は...!)
杏子「ハッ、ようやくわかったよ。これが神様の力ってか。なあ、円環の理!」
マミ『佐倉さん、なにが起きてるの!?』
杏子「...マミ。来るんじゃねえ。そんで、ほむらとなぎさ連れてできるかぎり遠くに逃げろ。どこでもいい。とにかくこの街を出ろ」
マミ『佐倉さん!?』
杏子「まどかに気をつけろ...頼んだよ」
ピッ
杏子「...まどかはどうした」
円環「まどかはここ。私と一緒にいるよ」
杏子「お前が殺したのか?」
円環「殺したんじゃないよ。まどかは、独りぼっちで頑張ってきたぶん、ここで幸せな夢を見続けるの」
杏子「そいつは死んでるのとなにが違うんだよ」
円環「一切の不幸がない世界...それはとっても素晴らしいことだよ」
杏子「ワケのわからねえこと言ってんじゃねえ!」
ガキィン
円環「...無意味なことは止めようよ。さあ、杏子ちゃんも一緒に...」
杏子「うるせえ...」
円環「大丈夫。なにも怖くないよ。あるべきところに...」
杏子「うるせえっていってんだ!あたしはお前なんて大嫌いだバーカ!」
円環「......」
『...杏子』
杏子「なっ...!」
さやかの声『大丈夫だよ。ここは幸せな世界。なにも悩まなくていい。なにも心配しなくていい。そんな夢のような世界だよ』
円環「だから...」
円環(さやかの声)『私を、信じて』
メキメキ
杏子(槍が折られ...ッ!)
ギュッ
円環「もういいんだよ、杏子ちゃん」
杏子「えっ」
円環「...ごめんね。家族が亡くなって、さやかちゃんもいなくなって...今まで、ずっと辛かったよね」
杏子「...なんだよ、いまさら」
円環「でも、私には人の生き方を変えることはできない。だから、せめてあなたの絶望は私が受け止める」
杏子「なんだよ...」
杏子(なんで、こんなに温かいんだよ...さっきまで敵対してたあたしがバカみたいじゃんか...)グスッ
―――杏子
杏子「と、父さん!?」
―――済まなかった、杏子。お前の言葉に耳を傾けようとしないばかりに、こんな目に遭わせてしまって...
杏子「ち、違う!あたしのせいだ!あたしが...」
―――もういいのよ、杏子。誰も、あなたを恨んでなんかないわ
―――モモ、お姉ちゃんと一緒にいたい!
杏子「母さん、モモ...!」
―――私たちはもういなくならないよ。だから...
杏子「...ありがとう、父さん。みんな」
トプン
今回はここまでです。現在の円環の理が導く時のイメージはだいたいこんな感じです
乙
やはり(今は)邪神か
円環の理が救済の魔女化してる?
――――――――――――――――――
タタタ
ほむら「ちょ、ちょっと!巴マミ!」
マミ「佐倉さんから逃げろと電話が入った。その直後に、佐倉さんと思われる魔力が消えた。なら、私たちは佐倉さんの言葉を信じるしかないわ!」
なぎさ「...杏子とさやかを見捨てるのですか?」
マミ「......」
なぎさ「嫌です...なぎさはいきます!きっとさやかも杏子も無事なのです!なぎさは二人を見捨てたくありません!」
マミ「黙ってて!」
なぎさ「」ビクッ
マミ「私だって...私だって行きたいわよ!でも、あの佐倉さんが私に頼んだのよ。あなたたち二人を連れて逃げろと...」
なぎさ「マミ...」
マミ「私たちは魔法少女...いつかは別れる日がくるの...」グスッ
マミ「私たちの為すべきことは、何が起こってるかわからなくても、必ず切り抜けて...生き残って彼女達の意志を継ぐこと...」ポロポロ
ほむら「...行きましょう、二人共」
マミ「暁美さん...?」
ほむら「杏子の力は私もよく知っている。なら、あなたの判断は間違ってない」
ほむら「とにかくいまは彼女の言葉に従ってここから離れましょう」
「その必要はないよ」
円環「えへへ、とうちゃく」フワッ
なぎさ「まどか...」
ほむら「違う...!」
なぎさ「え?」
ほむら「まどかはどうしたの!?」
円環「まどかはここにいるよ」
ほむら「...!?」
円環「さあ、みんな一緒に」
ゴッ
ほむら「え...?」ドサッ
マミ「ごめんなさい。こうでもしないと、絶対にあなたは無茶しちゃうもの」
なぎさ「ま、マミ?」
マミ「...佐倉さんが気をつけろと言った意味がわかったわ。そうやって、彼女たちも手にかけたのね」
円環「杏子ちゃんもさやかちゃんも、ここにいる。みんな一つに戻っただけだよ。いや、杏子ちゃんは招待したって言った方がいいかな?」
マミ「...悪いけど、今の貴女はちっとも信用できない。なぎさ、暁美さんを連れて逃げて」
なぎさ「マミ。マミも」
マミ「早く」
なぎさ「っ...!」
タタタ
円環「逃がさないよ」
パァン
マミ「こっちの台詞よ」
円環「酷いなぁ。いまの、私じゃなかったら当たってたよ、マミさん」
マミ「当てるつもりで撃ったもの」
円環「...まあいいや。マミさんも一緒になりましょう」
マミ「遠慮させてもらうわ。いまのあなた...好きじゃないもの」
円環「そっかぁ...なら仕方ないかな」スッ
パァン パァン パァン
円環「いくら撃っても無駄だよ」
マミ「それはどうかしら?」
シュルルル
円環「リボン...」
マミ(私の目的は、彼女を倒すことじゃない。少しでも時間を稼ぐこと。そうすれば、いつか二人が突破口を見出してくれる!)
円環「......」
スッ
マミ(リボンがすり抜けた!?)
円環「さあ、マミさん。これからはずっと一緒だよ」
マミ「ティロ・フィナーレ!」カッ
ドズン
円環「だから無駄だって。...あれ?」キョロキョロ
円環「ちぇっ、砂埃のせいで見失っちゃった」
ハァ ハァ
マミ(なんとか隠れれたけれど...どうすればいいのよあんなの。次元が違うとかそういう問題じゃないわ)
円環「マミさーん、どこいっちゃったの?」キョロキョロ
マミ(おちょくってるのかしら。あなたなら、ここにいることも既にお見通しでしょう)
円環「マミさーん...仕方ない。私の一部から回収しようかな」
マミ(えっ...?)
マミ(どういうこと?まさか、私を本当に見失っていたというの?)
円環「あの子は...あっちだね」
マミ(そんなわけがない。円環の理は、過去も未来も全てが見えているはず。なら、私がここにいることも...待って)
マミ(なら、どうして彼女はわざわざ私たちを追いかけてるの?)
マミ(そうよ、概念なら私たちを追うこともなく瞬間的にケリを着けられるはず!なのに、それをしないということは、答えはひとつ)
マミ(彼女はまだ完全じゃない!だから、鹿目さんと共に連れてこられたなぎさはともかく、まだ導かれていない私と暁美さんの位置はわからないんだわ!)
マミ(このことをなぎさに伝えなきゃ...)
マミ『聞こえる?』
なぎさ『マミ、無事ですか!?』
マミ『ええ、なんとか...それより、あなたたちに伝えなくちゃいけないことが』
円環「みぃつけた」
マミ「なっ...」
円環「よかったぁ。私の一部にテレパシーを送ってくれたおかげで、位置が掴めたよ」
マミ(逆探知...!?マズイ、すぐに逃げ)
スッ
マミ「えっ...?」
円環「ごめんね、怖がらせちゃって」ギュッ
マミ(あたたかい...)
円環「でも、私を信じてほしいの。そうすれば、希望は絶対に消えないから」
マミ「うぅ...」
マミ(なんでこんなに安心できるのよぉ...)
ズズズ
マミ「私...これでいいの?」
円環「いいんだよ。マミさんも杏子ちゃんもほむらちゃんも...もう傷つくことはないんだよ」
マミ「私...私は...」
―――お疲れ様、マミ。
マミ「お父さん、お母さん...!」
―――ずっと見ていたわ。あなたが傷ついて、泣いて、それでも一生懸命戦ってきた姿を...
―――あなたは、私たちの最高の娘よ。
マミ「違う...私は、そんなのじゃ...」グスッ
―――もう一度やり直そう。家族としての時間を
マミ「...うん」
トプン
なぎさ「マミ!?返事をしてください、マミ!?」
QB「どうやらマミも脱落してしまったようだね」
なぎさ「マミ...」
QB「どうするんだい?このまま、あてのない逃避行を続けるつもりかい?」
なぎさ「......」
カツン
なぎさ「?」
偽街の子供「」トコトコ
なぎさ「だ、誰なのですか!?」
QB「彼女はほむらの使い魔だよ。ほむらの味方だから警戒する必要はないと思うけど...」
偽街の子供「」グイグイ
なぎさ「心配なのですか?」
偽街の子供「」コクコク
なぎさ「...なら、ほむらをお願いしてもいいですか?私はやらなきゃいけないことがあるのです」
偽街の子供「」コクリ
グイッ
なぎさ「見かけによらず力持ちなのですね。頼みましたよ」
スタタタ
フワッ
円環「お待たせ、私の一部」
なぎさ「......」
円環「さあ、私の元へ帰ってきて」
なぎさ「ひとつ、いいですか?」
円環「?」
なぎさ「なぜ、私とさやかだけでなく、マミと杏子にも手を出したのですか?あなたでいう回収をするのなら、私とさやかだけで十分だった筈です」
円環「その答えはあなたも知っている。あなたも私の一部なんだから」
なぎさ「...残念ながら、なぎさはまだ円環の理の記憶は返してもらってないのです。だから、あなたの一部だということが未だに信じられないのです。だから...」
プーッ
シャボン「」フワフワ
なぎさ「最期まで抵抗させてもらうのです」
なぎさ(...私の大好きな、彼女たちのように)
――――――――――――――――――――――
ほむら「うっ...」
QB「おはよう、ほむら」
ほむら「ここは?」
QB「きみが好きな丘の上だよ。彼女が運んできたんだ」
偽街の子供「」ビシッ
ほむら「状況を説明しなさい」
QB「きみを気絶させた後、マミが脱落。そして、いまさっきなぎさも脱落したようだ」
ほむら「!!」
QB「さて、残ったのはきみだけだが...これからどうするんだい?」
ほむら「...まどかは、どうなったの?」
QB「?」
ほむら「あいつがまどかのワケがない!さやかを、杏子を、マミを、なぎさを傷付けるあいつが、心優しいまどかのわけがない!」
QB「...きみは勘違いをしているかもしれないけど、彼女は誰も傷付けていないよ」
ほむら「え...?」
QB「攻撃を仕掛けていたのはあくまでマミたちであって、彼女は一切攻撃なんてしていない」
QB「脱落というのは、現状彼女たちはなにもできなくなったということで、死んだわけではないと思う」
ほむら「どういうこと?」
QB「それは、彼女に直接聞くしかないね」
フワッ
円環「迎えに来たよ、ほむらちゃん」
ほむら「......」
円環「さあ、今度こそ私と一緒に...」
ほむら「まどかはどうしたの?」
円環「」ピクッ
ほむら「あなたはまどかじゃない。なら、まどかはどこへ行ったの?」
円環「まどかはここにいるよ」
ほむら「死んだわけじゃないのよね」
円環「そうだよ。まどかだけじゃない。みんなここにいる。だから、ほむらちゃんも一つになろう?」
ほむら「...よかった」
ほむら「なら、あなたを葬れば全て元通りというわけね」
ほむら「あなたさえ消してしまえば、まどかは人間として生きていける。それだけじゃない。マミも杏子もさやかもなぎさも...彼女の愛した全てが戻ってくる!」
円環「......」
ほむら「あなたがなんだろうが関係ない。私はまどかを人に戻すためなら、どんな手段も厭わない!」キィィン
バサァ
ほむら(出るのは翼だけ...でも、まどかを裂いた時の力が発揮できれば!)
ソッ
円環「やめようよ、こんなこと」
ほむら「ッ!」
ほむら(そんな!瞬きすらしていないのに、一瞬でこんな近くにまで!)
ギュッ
円環「ほむらちゃんは悪魔なんかじゃないよ」
ボロ...ボロ...
ほむら(翼が崩れていく...!?)
円環「私はほむらちゃんを見捨てたりはしない。だから、私を信じて」
かつて、この丘で私の髪を編んでくれた時のように、花びらが舞い上がる。
居心地のいい安心感が、満足感が私を満たしていく。
次第に、微睡むように目蓋も落ちていき、徐々に意識が薄れていく。
視界の端で、最後の私の僕が倒れ、塵となって消えていく。
今までの記憶が、これから描くはずだった未来が、走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えて駆け巡っていく。
最後に見えたのは、いま眠っているまどかの顔。
まるで、全てのしがらみから解き放たれたような、無垢な寝顔。
その表情は、今まで見たこともないほど幸せそうだった。
トプン
QB「...してやられたよ、円環の理」
円環「......」
QB「おかしいと思ったんだ。全知全能なんて言葉ですら及ばないはずのきみが、たかだか一人の魔法少女にああも簡単に害されてしまったことがね」
QB「でも、いまならわかる。きみとまどかの関係も、ほむらに付け入る隙を与えた理由も、さやかが執拗にほむらに戦いを挑んだことも、きみの真の狙いも...」
QB「円環の理。今までの事態は、全てきみの掌だったということだね」
QB「おそらく、まどかが契約した時点で『きみ』と『まどか』の役割は分担されていたのだろう。きみはとにかく魔法少女を導く役割であり、まどかは魔法少女自体を無くさないように制御する役割だった」
QB「これで、円環の理は完成するはずだった。...しかし、きみの存在を脅かしかねないイレギュラーが起きた」
QB「一つは、今までの記憶を持ち、まどかを唯一知っている暁美ほむらの存在。まどかを求め続けた彼女の存在は、きみから見たら疎ましかっただろうね」
QB「もっとも、彼女だけなら大した問題ではなかったはずだ。なんせ、彼女はまどかが愛した世界のために戦っていたのだからね。問題は、もう一つのイレギュラー...僕らの実験さ」
QB「この実験によるほむらの魔女化を防ぐため、きみは『まどか』に加えて、『さやか』と『なぎさ』を模したきみの一部を送り込んだ」
QB「...だが、ほむらがまどかの本心を聞いたとき、きみは最悪の未来を視てしまった。そう、ほむらがきみを完全に破壊する未来だ」
QB「あの段階でのほむらは、精々きみとまどかを裂くことくらいしかできなかった。だが、彼女はいつかきみと同等かそれ以上の因果を持った存在にまで成長してしまう」
QB「それを恐れたきみは、早々に芽を摘むことにした。まず、ほむらがまどかを裂く未来を『まどか』に見せず、『きみ』と『まどか』を分離させ、ほむらのもとに自分の分身であるさやかとなぎさを送り込んだ。そしてきみはさやかにこう命令をした。『戦い続け、暁美ほむらを弱らせろ』と」
QB「さやか自身、なぜ戦っているかはわかっていなかっただろう。しかし、無意識下に組み込まれた使命には逆らえなかったんだろうね」
QB「そうなれば後は簡単さ。ほむらの力が弱まりきった時、さやかとなぎさを回収し、ほむらをその手で導く。そのついでに不安分子であるマミと杏子も導いてしまえば、最早きみを知る者は誰一人としていなくなる」
QB「そして、まどかの意思さえ乗っ取れば、誰の手にも触れることのできない真の『円環の理』の完成さ。...僕の推測は間違っているかい?」
円環「考えすぎだよ、キュゥべえ」
円環「私は、まどかの意思を継ぎ、魔法少女の希望となり続ける...ただそれだけだよ」
円環「もう、誰にも辛い思いはさせない。まどかがこの役割を本心から受け入れていないのなら、私が代わりとなる」
QB「...ほむらの希望は、まどかと共にいること。マミの希望は、仲間や家族と共に歩むこと。杏子の希望は、失った日常を取り返すこと。きみは、それを与え続けるということかい?」
円環「そうだよ。精一杯戦ってきた魔法少女たちは、絶望のない世界で暮らし続けるの」
QB「そうかい。もはや、僕の理解の範疇にある話ではなくなったようだ。わかるのは、これからは未来永劫、僕は契約を結び、きみは魔法少女を導き続けるということだけだね」
QB「きみの行動に関してとやかく言うことはできない。でも、一つだけ忠告させてもらうよ」
円環「?」
QB「希望というのは、絶望があって初めて意味を為すものだ。僕たちが尊敬したこのエネルギーは、そんなにお手軽に切れるものじゃない」
QB「もしきみが、いまのこの状況を希望だというのなら気をつけるといい。案外、きみにとっての絶望はすぐそこにまで迫っているかもしれないよ」
QB「じゃあね、円環の理。きみとはもう二度と会うことはないだろう。僕らは魔法少女じゃないからね」スゥッ
円環「...残念だけどキュゥべえ。私に絶望は訪れないよ」
円環「だって私は円環の理。魔法少女たちの希望だから」
*********************
「―――むら」
だれ...?
「―――ほむら」
わたしをよぶのは...だれ...?
「ほむら!」
ほむら「わひゃう!?」
ほむら母「もう、やっと起きたわね」
ほむら「え、えっと...はわっ!もうこんな時間!」
ほむら母「ほらほら、早く支度しなさい。お友達が来ちゃうわよ」
ほむら「はい~!」
ピンポーン
ほむら母「ほら、噂をすれば」
ほむら「ご、ごめんなさい!すぐに準備するから!」
ガチャリ
まどか「おはよー」
ほむら「お、おはよう」ゼー ゼー
ほむら母「鹿目さん、今日もほむらのことよろしくお願いしますね」
まどか「いいえ、こちらこそお世話になってます。じゃ、いこっか」
ほむら「行ってきまーす!」
ほむら母「行ってらっしゃい」
まどか「ほむらちゃん、寝癖すごいね」ウェヒヒ
ほむら「ついさっき起きたばかりで...目覚ましが鳴っても起きれなかったです」
まどか「ほむらちゃんって、意外と抜けてるところあるよね」
ほむら「そうね...そこにグズとウスノロを足してもいいわ」
まどか「もう、そういうこと言わないの。ほむらちゃんは可愛いんだから、自信をもって」
ほむら「か、可愛いって...///」
まどか「あっ、さやかちゃんたちだ。おはよー」
ほむら(でも、グズとウスノロは否定はしないのね)
まどかがいて
大切な人たちが側にいて
みんなでいっしょに学校に通って
おいしいご飯を食べれて
平和な日常を当たり前のように過ごして
みんなで笑い合って、支え合って過ごして...
これが、私の望んだ世界。どうしようもなくくだらなくて、それでも愛おしい世界。
私はいま、希望に包まれてるわ。
ほむら「まどか...」
まどか「?」
でもね、おかしいの
欲しかったものが全てあるのに。
本当なら、満足できるはずなのに。
ほむら「...ううん、なんでもないわ。さっ、遅刻しないように急ぎましょう」
杏子「げっ、もうこんな時間かよ!」
さやか「よーし、教室まで競争だ!」
まどか「ま、まってよ~。ほむらちゃん、わたしたちもいこっ!」
ほむら「...ええ」
まどか。あなたの顔だけが、真っ暗で見えないの。
終わり
これで終わりです。円環endです。続きは構想はあるけれど、キリがいいのでここで終わらせます。
読んでくれた方はありがとうございました。
乙
このなんとも言えない後味の悪さ
ほむらがまた何かのきっかけでまどかから主導権を取り戻してまた取り返されて…
と未来永劫続くのかもな
乙でした バッドエンドって辛いなサム
この理さんは「これは幸福なことなんだろう?」を地で行く感じだな
続編も期待しておくぜ
乙です。これまどか戻りたくないっていってるのに円環に取り込んでるからほむら殺さないと円環崩壊確定なのでは?
乙。
林海象監督の古い映画に同名の作品があるけど、関係ある?展開が似てると言えなくもない、かな…?
>>101
円環的には、まどかは本来はもういらないから放置でも構わない。ちゃんと、いままで通り死にかけの子しか導かないから安心してね→でも、自分だけが作られた別物であるこの世界に耐えられるかな→ならいっそこの中で思い通りに過ごせばいい。それが、今まで我慢して私に付き合ってくれたまどかへのお礼。
といった感じです。優しい御方です。
ちなみに続編は方向性がかなり違ってくる予定です
>>102
『ガンソード』というアニメの小説版第二巻のタイトルがこれでして、その元ネタがこの映画ということだけしか知りません。関係あるっちゃあるかも。
円環崩壊云々…って点でちょっと疑問に思ったんだけど、
“円環の理”という存在の定義が“ありとあらゆる時空間に存在し、全ての魔法少女を魔女になる前に導く存在”という解釈で成り立つのであるとしたら
それが崩壊なんかしたらそれまで救済されていた魔法少女の全てが一斉に魔女化して、世界どころか宇宙が瞬時に消え去ってしまうんじゃ無いんだろうか?
簡単に纏めてしまえば、“円環の理の消滅=全ての魔法少女の魔女化からの救済の歴史の消滅”という公式が成立するわけだし……?
一言で言うとそびえ立つクソ
ただ、周りからボロクソ言われながら完結まで続けられるメンタルは素晴らしい
次はメアリー・スー系「以外」のSSをよく読んで出直してくれ
乙です
この円環なんかこわい
>>68の言う通り救済の魔女って感じがする
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