爽「甘いもんが食べたいんだ」
揺杏「あっそ。で?」モチャモチャ
爽「部室にあった菓子も、先週皆で食べちゃって備蓄がすっからかんなんだよな」
揺杏「そうだな。……お、クッキー見っけ」ガサガサ
爽「今日が何の日か知ってるか?」
揺杏「うむむ……あいつ、去年に比べて腕上げたな。彼氏でも出来たか?」サクサク
爽「話聞けよ」
揺杏「きーてるよ」モグモグ
爽「バレンタインデーだぞ!」
揺杏「だからなんだよ……」モグモグモグ
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爽「くぅ~……。そんなに手作りのお菓子が貰えるなんて、お前そんなにモテるキャラだったのか……?」
揺杏「ほら、私手芸部にも入ってるから。この時期は皆でお菓子作って贈りあうようにしてんのさ」
爽「やめろ。私を女子力で殴るのはやめろ~」
揺杏「ちなみに、私は今年けっこー本格的にチョコを作ってみちゃったりした」
爽「やばいやばい死ぬって私」
揺杏「去年はわりかし適当に作ったのでも美味しいって言ってもらえたし、今年はそれ以上の好評が期待できると思うんだ」
爽「揺杏のストレートが私のテンプルに入った! これは耐えられない! ダウーン!」ボフッ
揺杏「他人の枕に顔うずめてんじゃねーよお前はさー。匂いついたらどうすんだよー」
爽「……むぅ」
爽「……変わったもんだよな、私たちの関係も。昔はバレンタインつったら、二人してキャッキャキャッキャはしゃいでたような気がすんだけどなぁ」
揺杏「……そういうもんだろ。昔は良かったとかいちいち言ってたら、いつまでたっても前に進めねえよ」
爽「でも、たまにはあの頃に戻りたいって思ったりしないか? 私も揺杏も、まだまだ子供で『バレンタイン』ってだけで胸膨らませてさ」
揺杏「……」
爽「お互いに作った泥団子を、必死になって相手に食わせようとしたり……」
揺杏「それは確かにあったし楽しい思い出ではあるけど少なくともそこまで戻りたくはないなぁ私は」
爽「今だから言うけど、お前の泥団子、割とデカい石が混ざってて食えたもんじゃなかったぞ」
揺杏「すげーどうでもいい!」
爽「最終的に泥のぶつけ合いに発展して、服汚して先生にめっちゃ怒られたよな……」
揺杏「その話広げるわけ? お前ウチに何しに来たの?」
爽「まあ、マジメに言うとだ。バレンタインつったら、昔はお菓子の分けっことかしてたわけじゃん、私たち」
揺杏「そうだな。言っておくけど、手芸部の皆からのチョコは一個もやんないからな」
爽「外を見てみろよ。この悪天候の中、私は揺杏の家まで手や足を震えさせながらやってきたんだぞ?」
揺杏「人の話聞けって。てか、爽ん家からここまで歩いて五分もかかんないじゃん」
爽「その健気さとか努力とかに免じて、なんかこう、『頑張ったで賞』みたいなもんを私にくれてやってもいいんじゃないかな? ん?」
揺杏「それって押し売りも同然じゃん。ほんとにそんなんで私からチョコ貰えると思ってたわけ?」
爽「んん~~~……」
爽「今日のお前、妙にガードが固くないか? 昔はもっとこう、押せば押すほど、私の都合の良いように動いてくれてたはずなのに」
揺杏「その傾向に気付いてたから私もじょじょに変わってったの。それとも、今の私は嫌いか?」
爽「いや、フツーに好きだよ」
揺杏「ならいいじゃん。私も、爽のことはずっと一緒にいて嫌いじゃねーし」
爽「嫌いじゃないってことは好きってことだろ?」
揺杏「……ま、そーだけどさ……」
爽「で、今日はバレンタインだろ? 私のことが好きなら、チョコを……」
揺杏「結局その話に戻るのな」
爽「去年のよりも本格的に作ったという、手作りチョコを……」
揺杏「あげないけどなーっ!」
爽「やだー! チョコ欲しいチョコ欲しいチョコ欲しいよーーー!! チョコ食わないとバレンタイン楽しんだ気になれないじゃーーーん!!」
揺杏「お前はガキか! つーかどうして貰うの限定なんだよ。……あげる相手とか、いないの?」
爽「私がバレンタインにチョコあげたいって思える奴がこの世にいるんなら、是非目の前に飛んできてもらいたいところだけどな」
揺杏(まさかのマジレス……)
爽「ほら揺杏。早い内私にチョコかイケメンの彼氏を差し出さないと、お前の身に大変な事が起こるぞ」
揺杏「とうとう脅迫までしてきやがった」
爽「わ る い 子 は い ね ぇ が ぁ ~~~~」
揺杏「……なんでそこでなまはげになる?」
爽「おらー。私にチョコをくれない悪い子揺杏は食っちまうぞおらぁ~」ガバッ
揺杏「わーっ!」ドサッ
爽「おらおらおらぁ~~。た べ ち ゃ う ぞ ぉ~~~」モゾモゾ
揺杏「ばっかお前どこ触って…………ひゃっ!?」ビビクン
爽「ここか? ここが弱いのか~?」
揺杏「や、め、ろ、ってマジ……ひんっ?」ビクッ
爽「どうしたどうした、そんなもんかゆあ~ん?」
揺杏「にゃっろぉ……。……お返しだおらっ!」ガバッ
爽「うわー! ケダモノー! 揺杏が襲いかかってくる~!!」
揺杏「動くなおらおら~! 倍返しにしてやるからなぁ~!」
爽「ひゃ~~!」
爽「……ふぅ」
揺杏「…………」
爽「疲れたな、なんか……」
揺杏「ったく、こんなに散らかしやがって……。私の部屋で暴れ過ぎなんだよ爽は……」
爽「揺杏だってノリノリだったじゃないかよ」
揺杏「そうだけど」
爽「疲れて腹も減ったし、なんか甘いもんでも食べさしてくんないかな?」
揺杏「しつこいなぁお前……」
揺杏「大体な、チョコをせがむなんてモテない男のすることだぞ。爽は女子としてそれでいいのかよ」
爽「欲しい相手に催促するのってそんなに悪いことか? 渡すのに丁度いい機会を作ってやるようなもんだし、別にいいんじゃね?」
揺杏「ダメダメ。渡す側は、どういうタイミングで渡すか予め考えたりしとくもんだから催促とかは逆効果なの。少なくとも、私にはな」
爽「……じゃあ、揺杏は私にチョコレートくれないのか。バレンタインなのに」
揺杏「あげるもなにも、まだ完成してないし。ウチに来るのが早すぎたんだよ、お前」
爽「ん? ちょ、ま、マジでチョコくれるのか、揺杏!?」
揺杏「マジマジ。つか、さっきまでチョコくれ言ってた癖にいざ貰えるってなると驚きすぎじゃない?」
爽「そりゃ驚くよ! ……いや、驚かないけどさ……」
揺杏(どっちだよ)
爽「いや何だかんだ付き合い長いし、去年はダメだったけど今年は一応手作りのチョコが貰えるかなー、とガチで期待してなかったわけでもなかったりっていうか」
揺杏「なんか言ってることメチャクチャだぞ。いったん落ち着け」
爽「いや落ち着いてるよ、安心しろ。……ところで、さ」
揺杏「ん?」
爽「他の皆……成香やチカや、ユキたちに配る用のは作らないのか?」
揺杏「いや、麻雀部のみんな用のはもうあるよ。手芸部にあげる分作ってる時、簡単なやつをささっと作っといたんだ」
爽「ううむ……なんて妬ましい女子力の持ち主だ……」
揺杏「おいおい勘弁してよ。爽のは、別にちゃんと作ってあるし……」
爽「なっ……!」
揺杏「あー、勘違いすんなよ? 麻雀部の中でも爽だけ特別なわけじゃないっていうか……その……」
揺杏「……ほら。部長はチカセンがやってたけど、ウチのエースはずっと爽だったわけだし、相手校の対策とかも爽が頑張ってやってくれてたわけだし」
揺杏「そもそも爽がユキ誘ってなかったらウチの麻雀部もインハイとか目指してなかったし、しかも全国でいいとこまで行けちゃったわけだし」
揺杏「そりゃ楽しいことばっかじゃなくて、私なんか強豪にやられっぱなしだったけど、そんでもあの夏は大事な思い出になったっつーか……」
揺杏「つまり、えと……。……爽のお陰であれから凄く楽しい一年送れた気がするし、ちょっとだけでもお礼的なあれがしたいかな、って……」
揺杏「それに麻雀打ってる時の爽、なんつーか、その、かっこよかったし……。そんで、私も爽のこと今までよりもっともっと……」
揺杏「……あー、とにかく!」
揺杏「そこまで派手じゃないかもだけど、それなりのチョコ作ってやっから安心しろ! だから今は我慢しとけ、な?」
爽「……おう」
揺杏「ほら、分かったらさっさと帰んな。渡す相手が側にいたんじゃ、チョコ作る気になんかなれねーよ」
爽「あ、うん。帰る帰る。悪いね、時間取らせちゃって」
揺杏「別にいーってこんくらい。……ほら、忘れ物だぞ」ポイッ
爽「忘れてないって。今取ろうとしてたの」
揺杏「はいはい。……てかお前、今日手ぶらで来てたんじゃなかったんだな」
爽「ん? まあ、一応な」
揺杏「一応ってなんだよ。何持ってきてたの?」
爽「……あー、気にすんな。せいぜいサイフとか、そんぐらいだから」
揺杏「ふーん」
揺杏「んじゃ、また。チョコ今日中に届けに行くから待っててな」
爽「おう。ばいばーい」
爽「…………はぁ」
爽「結局、揺杏にチョコ渡しそびれちまったなぁ。人生思うようにいかねえもんだ」
爽「参ったなぁ。なんかすっげー気合い入れて作ってくれるっぽいけど、そんなチョコに私の持ってきた市販品が勝てるわけないじゃんっての」
爽「やっぱ昔からずっと一緒にいた相手だし、それも含めて、この一年間のお礼とか色々込みで他の三人より特別なチョコ贈ろうと思ってたのになー」
爽「ああもうマジどうしよう。今から手作りとか私にゃ無理だし、せめてもう少しでもよさげなやつ買ってきた方が……」
爽「元はといや、話の途中で適当に渡すだけのつもりだったのになぁ。何やってくれてんだよ、あいつ……」
爽「……なこと言っても仕方ないし、もっかいチョコ選びから始めるか。面倒くさいな、本当に」
爽「……まあ、でも」
爽(私の一方通行じゃなくて、良かったな……)
支援
揺杏「こんにちはー。じゃなくてこんばんはー」ピンポーーン
爽「……む! 来やがったな、揺杏め」
揺杏「あっ、爽だ。お~い、早く開けてくれよ~」ピンポンピンポンピンポピンポーーーン
爽「連打すんなばか! 今行くから待ってて!」
揺杏「ほいよ~」
揺杏「つーわけで爽、ハッピーバレンタインデーだ。受け取ってくれるでしょ?」
爽「もち! 外は寒いし、早く約束のブツを渡してくれ」
揺杏「あいよ。……ほれ、小っちゃいながらも私の心を込めまくった手作りチョコケーキだ! 味わって食えよ!」
爽「おぉ~~。……って、それっぽい箱だけ手渡されてそれ言われるとリアクションに困るな」
揺杏「まあ、万が一落とされても困るし一応ここでは開けないで欲しいかな。あげといてなんだけど、大事にして欲しいかなって」
爽「分かるよその気持ち。ありがとな、揺杏」
揺杏「うん。味見はしたし、多分美味しいと思うから後で適当に食べてよ」
爽「味わって食えばいいのか軽い気分で食えばいいのか分からんな」
揺杏「んじゃ、爽の好きな味わい方で食べてよ」
爽「分かった」
揺杏「ところでさー。爽、あの後私ん家の近くまで来たりした?」
爽「えっ。なんで?」
揺杏「いや、家からここまで来る途中それっぽい足跡が私ん家からずっと続いてたからさぁ」
爽「……あー、それはあれだ。今日揺杏の家に遊びに行った時に」
揺杏「嘘つけ。私が見た足跡は形もはっきりしてて新しかったぞ。雪はあれより前から降ってたんだし、そんな時の足跡はとっくに消えてる筈だろ」
爽「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
揺杏「アホか。私に用あったんなら、遠慮せずにここで済ませときなって」
爽「うーん……」
爽「……ま、帰ったら家のポストでも見てみることだな。何かいいものが置いてあるかもしんないぞ」
揺杏「ははーん……。まさか、爽がそういうことをするキャラだったとはな~」
爽「う、うるさいばか。早く帰れ。ドア閉めるぞ」
揺杏「へいへい、大人しく帰るよ。また明日……いや日曜だから、また明後日な」
爽「おう。部活の皆に渡す用の菓子、忘れずに持って来いよ」
揺杏「分かってるって。……それじゃ、」
揺杏「またな爽。さっき、爽からチョコ貰えるって思うだけでめちゃくちゃ嬉しくなったよ」
爽「またな揺杏。揺杏からチョコ貰えて、私もすごくすごく嬉しかったよ」
揺杏「へへへっ……。大好きだよ、爽」
爽「ああ。私もそれと同じくらい揺杏のこと好きだぜ、多分」
揺杏「多分かよ」
爽「多分じゃない。絶対」
揺杏「そんならオッケーだ。……これからもよろしく、な! 爽!」
爽「ああ、揺杏!」
揺杏「ハッピー!」
爽「バレンタイン!」
カン!
バレンタインの思い付きだけでスレ建てたけど完走出来て良かったです……。あと、爽揺書くのとても楽しかったです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。html依頼してきます。
乙
so good.
乙
このSSでこの二人の魅力に気づいた
乙です
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