ちひろ「オマケな私」 (18)
やまもなければオチもない。
オマケに不定期更新ですが。
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まったくのノープラン。たまの休日がそんな予定なのはどうなのよ、と旧友に突っ込まれたのだけど。
正直、休日といってもプロデューサーさんの不始末の始末に追われる日でしかない。
これが私のいつもだ。
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ホテル特有のふかふかとしたソファーから眺めるラウンジには今晩使われるのだろうマイクとピアノ。
プロデュースで見慣れた道具とはいえ、仕事以外で見るのはごめんこうむりたい物だ。
なにしろ、あの唐変木。あれやこれやと理屈をつけて、私をステージに送り込もうとするのだ。
先日はニュージェネレーションの三人まで抱き込んでボイストレーニングをさせてくるとか。
声出すとスッキリするよ、とか凛ちゃんが薦めてきたのを、じゃぁちょっとだけ、と受けてしまった私も私だ。
あれだけ罵声まみれのボイストレーニングはやったことがありませんよ、とトレーナーさんに呆れた顔で言われて始めて嵌められたと気が付いたわけだし。
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都内の週末とはいえ、朝早く。宿泊客が朝食を食べにバイキングへと行く流れから外れたこのラウンジには人が少ない。
どのぐらい少ないかと言えば、ウチの子達が3人いても騒ぎにならない程度には、だ。
本日の尻拭いはプロデューサーさんの代理で3人の慰労会、のハズなんだけど。いやー、すでに空気が重い。
まあ、気持ちはわからなくはない。
次のオフ、開けとくように、と言われて待ち合わせはホテルのラウンジ。
17歳の女の子としては期待に胸を膨らませて何が悪い、といったところだ。
その相手がプロデューサーさんであることを除けば落ち度はない。
そしてオマケが他に2人いることを予想しなかったことも。
待ち合わせ場所に到着した一番手は、変に意識していることを意識されないようにと、いつも通りのボーイッシュな沙紀ちゃんで。
二番手がプロデューサーさんが意識しやすいように、ただ騒がれないようにとシックな奏ちゃん。
「沙紀じゃない……」
「……あー、そういうことっすか。あー、まあ、そんなもんっすよね……」
流石にプロデューサーさんと付き合いが長い二人だ。何がどうなっているのか、察してくれたようだ。
沙紀ちゃんと奏ちゃんが同時にため息をつく。
信じられないことにそこにあと1人追加で、オマケに主催が欠席すると伝えに行かなくちゃいけない不幸なアシスタントがいるんですよねー……。
「私に沙紀、ってことはTBS絡みかしら?」
「あー、それならもしかして」
「そ、あたしもいる」
最後に来たのはあまりに普段通りな奈緒ちゃんだった。
そんな奈緒ちゃんに奏ちゃんが軽いジャブ。
「折角の機会なのに奈緒ったらホントに普段通りね。あ、コーヒー三つ、ホットと」
「アイスでお願いするっす。奏とまでは言わないでももう少しオシャレしたらどうなんっすか? シューズがソレとかレッスンに行く気だったんすか?」
「あたしもアイスで。だってなぁ」
視線を足元に走らせればホテルのラウンジでは完全に浮いたランニングシューズ。
パンプスとカジュアルシューズの二人に対し気まずげに頬をかく奈緒ちゃんは一言、
「あの人だしなぁ」
誰もが納得できる言葉で返す。
そう、プロデューサーさんはそういう人だ。
以前も、みちるちゃんとかな子ちゃんと法子ちゃんの慰労にスイーツバイキングに行ったハズが気が付けば新規の営業になってたりしたのだ。
オフだから仕事をしない、という発想が欠落している人なのだ。
そんな奈緒ちゃんはサーブされたアイスコーヒーにミルクとシロップを垂らして一混ぜ。
まだら模様のコーヒーをストローで一啜りしてこっちをストレートに見る。
「今日はどこから営業になるのか、って気になってたんだけどさ。ちひろさんのエスコートならそこは安心だよな」
どーやらバレてたようで。
諦めて席を移動しますか……。
「ちひろさんが来るってとこは」
「プロデューサーさんは来ないんすね」
察しが良すぎて泣けてくるのは休日のせいだろうか。微妙に弛緩した空気に涙腺まで緩くなりそう。
あ、会計はまとめてでいいです。ええ、経費にしたいんで。
と、あの、奈緒ちゃん、じとっとした目を向けないで。
「いや、今回はどんなトラップがあるのか、と」
すっぱりと言ってくれるのは性格のせいか。
いや、プロデューサーさん相手の恥じらいを求めちゃダメか。
「トラップって、なんかあったんすか?」
「んー、前は勉強会になってたな」
「……オフでっすか?」
「そ、オフで」
うわぁ、という引いた沙紀ちゃんの顔。あ、微妙に逃げられる体勢になってる。
まあ、オフだし一日どうだ? とプロデューサーさんに誘われた結果が試験勉強ですからねー。
「あんときゃ、文香さんに悪いことしたよホント」
「なんで文香さんが関係するのかしら?」
「教師役」
納得した。という奏ちゃんの視線がこっちに。ちょ、そんな鋭い視線は危険ですよ危険!
仕方ないじゃないですか、プロデューサーさんが文香ちゃんが事務所にもっと馴染めるように、ってイベントやろう、って。
その結果が、経費節約になっただけで、他意はないんですから!
「でも奈緒って、そこまで勉強ダメだったかしら?」
「あたし、TBSの時がどんぴしゃで試験期間だったんだよ。で、あんまり時間が取れないって愚痴ってたらさ」
「あー、そういうところはあの人らしいっす」
「最初は頼子に頼もうと思ってたんだけどさ」
奈緒ちゃん達の会話をBGMに、私は懸案事項に思考を向ける。
先ほどからこちらの様子を伺っていた4人、正確には男1人に女の子が3人の席だ。
意識の高い系の中年男性と自意識の高い系の女の子たち。
どうみても同業者です。本当に、
「ちひろさんに残念なお知らせがあるのだけれど」
ええ、本当に残念です。今日はお仕事とは無縁だったはずなのに。
1パック198円みたいな安い挑発でそんなLiveなんて。
あ、奈緒ちゃん。大事だからイメージとかすっごく大事だから。
ケンカ腰でLive吹っかけられたからって、オブラート、オブラートに包んで。
「私たちと休むのは結局仕事になるんじゃないんすか?」
既に火が点いた奈緒ちゃんを横目に沙紀ちゃんが物憂げな表情を浮かべる。
可愛い子と過ごすのは貴重なんですよ?
あ、沙紀ちゃん、更に椅子を引いたりしなくても、ね?
別にキャバクラごっことかする、あ、他人の振りをしなくてもいいから。そんな友紀ちゃん隣にした美優さんのマネしなくていいから。
「奈緒のこと止めなくていいのかしら?」
沙紀ちゃんとの茶番ごっこを見飽きたのか、奏ちゃんの投げやりな問いが。
どう転んだところで出るとこ出るまで収まりがつかない煽りっぷりだしなぁ……。
そう考えるとウチの子達はみんないい子ですよねー思いやりがあって……。あぁ、プロデューサーさんが反面教師過ぎるのか。
んー、大丈夫じゃないですかねー?
なんで、ってアレどう見ても噛ませですよ? ほら、アレ、奥にいる子が本命でしょうけどあの程度なら。
「いや、Liveするな、って止めないんっすか?」
どうせプロデューサーさんのことですし、慰労会だけじゃなくて、ああした相手の挑発まで考えてたんでしょうし。
なら、予定通りLiveすればいいんですよ。
「随分と断定するっすね」
「なんというか、ちひろさんも十分凄いわね」
大和ちゃんならストレートにアレですな、って言ってたかな?
でも、みんなプロデューサーさんが信頼を置いてるアイドルなんですから。
ならプロデューサーさんが信じてるアイドル、その判断を信じるのはアシスタントとして当然ですし。
「そこまで言われると、ね」
「答えないのは女が廃るっすね」
期待
「で、奈緒は売られたケンカを買って」
結局、えー、ひのふの、トリプルスコアで勝ちましたね。
1対3なのにそれですから、ソロでやったら10倍以上の差がついてたかもしれませんねー。
そんな私の言葉に、コタツに突っ伏していた加蓮ちゃんは膨れた表情を浮かべる。
「そこ奈緒が負ければ、所詮TP一番の小物よって言えたのにー」
ぶー、という不満の音を立てながらコタツの上でぐるぐると蜜柑を回転させ。
その蜜柑をネコのようにライラちゃんが突いてテーブルの上を転がしていく。
「あたしと加蓮、1cmしか違わないよなー」
「ライラさんは4cm違いますですよー」
「ライラ、凛とは15cmも差があるもんね」
Liveした結果、見事にオフどころでは無くなった奈緒ちゃんと事務所にいったん戻ってきたらこの状態。
かっこいい事を言ってた奏ちゃんと沙紀ちゃんはといえば、奈緒ちゃんがソロでもいいと啖呵を切ったらそれに乗っかって。
事務所に行くっていったら用事がってどっか行っちゃったし。って、あの二人こないだの経費の精算まだじゃないですか、逃げられた? 次でいいか……。
で、仕切り直すにも、服を変えたほうがいいしということで事務所に戻ったところ、コタツにすっぽりとはまり込んだライラちゃんと加蓮ちゃんのお出迎え。
事務を任せていた留美さんと真奈美さんは入れ替わりでお昼だそうだ。
加蓮ちゃんも、買い物に行ってたらしいけど、顔バレしたから私たちと似たような感じで事務所に避難しようとして、途中の公園でライラちゃん引っ掛けたとか。
「でもホントに、プロデューサーに迷惑がかからないんだよね?」
自分のことじゃないのに心配するのはウチの事務所の特徴なのか。
プロデューサーさんの偉大さがよくわかる瞬間だ。反面教師として。
ダメでもプロデューサーさんがなんとかしますって。
あ、説明になってない系だコレ。
あ、加蓮ちゃんこの人ダメかも、って酔っ払った早苗さん見るような目で見ないでね? ライラさんもー、って加蓮ちゃんのマネしなくていいから。
今、私、素面だから。ね?
準備なしにLiveをやったということでかなりぐったりとした奈緒ちゃん。
その頭をぺしぺしと加蓮ちゃんが叩き続けているのが微笑ましい。
奈緒さん、イイ音ですねー、って流石に脛は。
「でも、ちひろさんもお休みなのに奈緒の面倒見なくてもいいのに」
「だーもう、あたしが悪かったって」
「でも休日手当が貰えるんでございますですよ?」
えー、ライラちゃん、誰からそんな単語を?
「チヅルさんが色々と教えてくれますですよー」
「そっかー、奈緒休日手当があるのか。あー、そういえばライラさー最近気になってる新作何かない?」
「フゴフゴさんが新作があると言っていたですよー」
「みちるんとこで新作かー。ねーライラー」
そっかー、千鶴ちゃんかー。泰葉ちゃんだけない分マシかなー?
加蓮ちゃんの露骨な催促に奈緒ちゃんがジト目を向ける。
が、加蓮ちゃんはと言えばライラちゃんに耳打ちを一つ。
「おーいライラをダシにするなよな」
「奈緒お姉ちゃん、ライラさんフゴフゴさんの新作を食べてみたいですよー」
うーんこの。加蓮ちゃんのニマニマとした顔が実にいい笑顔だ。
あー、奈緒ちゃん? それは流石にアイドルがあげちゃダメな声ですからね?
自重、自重でお願いしますね?
「美嘉とちょーっと話す必要があるかなぁ」
「ねー奈緒おねーちゃーん、加蓮もー加蓮も連れてってー」
「よーし、ライラ。加蓮ほっといてみちるんとこ行くか」
「ちょっと!」
立ち上がろうとした加蓮ちゃんの頭を奈緒ちゃんがぐりぐりと押さえつけての反撃。
ライラちゃんはフゴフゴさんフゴフゴさんと鼻歌まじり、李衣菜ちゃんから貰ったジャケットを羽織りはじめる。
あー、奈緒ちゃんと加蓮ちゃんは念のために上着とか替えてから出かけてくださいね?
「え? ちひろさんも行こうよ? ね、奈緒?」
「そうだよ。あたしがヘマしたんだしお詫びもしたいしさ」
ここまでお世辞抜きに言ってくれることにほっこりしつつ。
ちょっと、さっきの件プロデューサーさんに報告しておきたいので、とそう言うが。
「ライラさん達、待つのですよー?」
「そうだよちひろさん。メール一本なら待つよ?」
プロデューサーさんのことですからねー。一本じゃすみませんし……。
そう言って苦笑する私に、ああという乾いた笑いを浮かべるTPの二人。
たまに夜になっていたですよー、というライラちゃんの言葉が重かった。
乙。一区切りついたなら何か一言ほしいところ
「で、せっかくのオフなのに仕事とはな」
「私がいう事じゃないけど、大丈夫なの?」
オフのやり直しですよー、とライラちゃんたちが出かけた直後。
留美さんと真奈美さんが昼から戻ってきて開口一番がこれ。
ダメでしょうかねー?
「いや、流石にダメだろう」
「プロデューサーさんもそうだけと、正直働き過ぎよ」
労基署が出てくるレベルよ。と釘を刺されましても……。
いやですね、やっぱりこう、自分が頑張る分だけアイドルの皆さんが輝く訳じゃないですか。
それがなんというかこの上もなく、楽しくてですね。
「しかしそれも度を越すとなるとな。今だって神谷君のライブの事務処理に出社している訳だしな」
「……ねぇ、ちひろちゃん。貴女前の休日はどう過ごしたの?」
前の休日ですか? 前ー前ー前ー……?
んー? 前?
「真奈美、コレ……」
「ああ、わかった。ああ、瑞樹さんか? ん? いやそうではなくてだね」
おっと、かなり可哀想なものを見る目ですよコレ。
具体的に言えば自宅の住所を忘れたプロデューサー並に。
というか、真奈美さんが瑞樹さん手配してるんですが……。
「瑞樹さんに監視して貰おうかとね」
いやー、そういえば私も家で久しぶりに掃除とかしなくちゃなー。しなくちゃいけないから、瑞樹さんとご一緒は出来ないかなーって。
「あら、ちひろちゃんは私と一緒じゃ御不満なのかしら?」
背後から聞こえる声に振り返れば。
楓さんも。
あ、これ詰んだ。
「ちょーっと、ちひろちゃん? 」
思わず口からこぼれた言葉に瑞樹さんが剣呑な声を上げる。
言い訳を考えようにも、頭の中を右から左に流れる瑞樹さんの武勇伝はノンストップ。
具体的には出資しているハズの店から出禁喰らってる件とか。
「知らない! 瑞樹そんなの知らないわ!」
いやいや、と可愛らしく両手を耳にあてて首を振る瑞樹さん。
真奈美さん、人選間違ったかーって表情で、そんな今更。
あ、楓さん? 事務所なら出禁も何もないですよね、ってそんなおつまみ用意しなくていいですよ?
「ちひろさん、ナッツのこのみにうるさいんですね」
ふふ、とか笑って日本酒開けないでくーだーさーいーよー、もう。
こんな感じで私の休日は過ぎていくのだった。
ちょっと、これ以上ダメっぽいのでHTML依頼出してきます。
すみません。
残念無念
お疲れ様
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