美希「蹲る」 (14)

「大好きはーにぃ~♪」

今日ね、ミキ、オフだからなんとなくふらふらーってしてたんだけど、とってもラッキーってカンジ!

空は晴れててキレイだし。
ミキが通ろうとすると、信号は青になるし。
いちいち男の人に声掛けられることもないし。
欲しいなーって思ったものがセール中だったりするし。

「いつもこんな感じだといいのに」

そう呟きながら、角を曲がろうとした時のことなの。

「痛っ」

何かを、蹴っちゃった。

でもそれは、よく見ると、人の頭だったの。


女の人が、うずくまってた。



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「あ……えっと、ごめんなさいなの」

女の人は、返事もしないでうずくまったまま。

「……だ、大丈夫なの?」

返事はない。

「……あの、大丈夫だったら、もうミキ行くね?」

……やっぱり、返事はない。

なんなのなの。

「…………」

ミキ、ちょっとだけイヤな気分になったから、その人の横を通って、そのまま振り返らないで帰ったの。

……ヘンなヒトだったのかな?

「いってきまーす」

次の日、いつもみたいに事務所に行こうとして、家を出た時。

「いたっ……って、え?」

また、うずくまってる女の人を蹴っちゃったの。

家の前のブロック塀に、ぴったり体をくっつけた、昨日と同じ服の髪の長い女の人。

「…………」

なんなの? もしかして、昨日、あの後ついて来てたの?

……このヒト、なんかヤ。

ミキは、そのまま走って逃げたの。

角を曲がる時、ちらっと見た女の人は、いつの間にか頭をミキの方に向けてた。


「おはよーなのー」

「あら、おはよう美希ちゃん」

「あ、小鳥、おはよーなの。……小鳥だけ?」

「ええそうよ。他のみんなは仕事だったりオフだったり。プロデューサーさんは、今は他の子の付き添いね」

「ふーん」

事務所についたし、もう安心かな。

さっそくソファーでひと眠りするの。

「あら、寝ちゃうの?」

「うん……時間になったらおこしてほしいの……」

「分かったわ。それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさいなの~……zzZ」


「……あふぅ……って、あれ?」

目が覚めると、窓からは夕日がさしてた。

事務所には、誰もいないみたい。

「……起こしてって言ったのに。小鳥のばか」

今日のお仕事は、確かお昼からだったの。

今からじゃ間に合わないよね。

……帰ろう。

そう思って事務所のドアを開けると、すぐ目の前に、うずくまってたの。



春香が。

「えっ……? 春香……だよね? ど、どうしたの?」

返事はない。

「っ……なんなの!」

春香の肩を掴んで、床から引き剥がそうとする。

でも、できない。春香は、すごい力で床に引っ付いていた。

「春香! ふざけるのはやめて!」

春香は、相変わらず返事もしないでうずくまってる。

「っ……! もういいの!」

そう言って、ミキは春香を飛び越えて行って、階段を駆け降りた。

「え……?」

事務所のビルを出ると、まず、その静かさに驚いたの。

事務所前のこの通りは、普段は夜でも車が走ってるのに、今は一台も走ってない。

そして、通行人が一人もいない。

人はいる、でも、通行人はいない。

だって……だって、みんな、うずくまってるもん……。

スーツを着た男の人も、学生服の男の子も、主婦みたいな女の人も、赤ちゃんも、お婆ちゃんも、みんなみんなみんな、うずくまってる。

でも、頭だけは、こっちに向いてる。

「なんなの……なんなのなの!!」

ミキはその光景を見て走り出す。

こんなの、耐えられない。

道路の上にうずくまってる人達を避けながら、走る。

どこまで行っても、みんなうずくまってる。

でも、いつ見ても頭は全部こっちに向いてる。

どうして……?


「……あっ!」

そうやって走りながら角を曲がると、うずくまってる人達の中、一人だけ立っている人を見つけたの。

「ちょ、ちょっと! そこの人!」

ミキは、思わず近寄って、肩に手を置いた。

でも、すぐに後悔した。

だって、その人の服、見覚えがあったんだもん。

「あ……ああ……」

ゆっくりと振り向く女の人。

ミキは、少しずつ見えてくるその顔から、目が離せない。

「はぁーっ……はぁーっ……」

心臓がバクバクいってる。

身体が震える、汗が頬を伝う。

逃げたいのに、逃げられない。身体が言うことを聞かない。


そして、女の人の顔が──

「ただいま戻りましたー」

「あ、お帰りなさいプロデューサーさん。美希ちゃんが待ってますよ」

「どこですか?」

「あっちのソファーで寝てます。今起こしてきますね」

「お願いします」

「いえいえ♪ 美希ちゃーん、プロデューサーさんが来たわよー……ほら美希ちゃん、起きてー……美希ちゃーん?」

「…………」

「……あの、プロデューサーさん……」

「どうかしたんですか?」

「美希ちゃん、なかなか起きてくれなくて……」

「そうですか、じゃあ俺が起こしますよ。音無さんは仕事に戻ってください」

「はい、そうします」

「おーい、美希──」



「ふぅ……珍しいわね、あの美希ちゃんが、プロデューサーさんが来ても起きないなんて……」


「でも、なんで美希ちゃん、うずくまって寝てたのかしら……?」



おわり

乙乙
よかった

ま、跨る

こわかった

なんなのなの

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