京太郎「ゆうきの一歩」 (78)


咲-Saki-ss

・2月2日は須賀京太郎の誕生日! きょうたんイェイ~

・京タコ 苦手な方はバックお願いします



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優希「よう、京太郎! 優希ちゃんからデートのお誘いだじぇ」

京太郎「おう、タコス食い行くかー」

優希「うむ、タコスがなければ始まらんじょ! ……それにしても」

京太郎「ん? どした?」

優希「京太郎、デートなんて言ったら前はもっといろいろ反応を見せたというのに……倦怠期ってやつか? 寂しいじぇー」

京太郎「もう慣れたっつーの……倦怠期も違うだろ」

優希「ん? やっぱり私にメロメロか?」

京太郎「そうじゃねぇよばーか」

優希のこの手の冗談にはすっかり慣れ、適当に流せるようになった

夏ごろまではいちいち反論して、じゃれあって……それが楽しかったし、なんだかんだ高校での新生活に溶け込めるか不安がなかったわけでもないので正直助かっていた

初対面からずっとこの調子でやり取りを続けているし、そもそも優希は好みのタイプともかけ離れていたものだから全く気にもかけていなかったというのもある

京太郎「……ま、いいけどさ。 だいたいこっちにしてみりゃ……」

優希「なんだ?」

京太郎「デートっていっても相手がお前じゃねえ……」

優希「なんだと! デートする相手もいないくせに!」

京太郎「うっ……」

優希「だいたい、私になにが足りないというんだ!」

京太郎「む・ね」

優希「ぐぬぬ……いまに見ていろ! 大きくなっても触らせてやらんぞ!」

京太郎「大きくなんねーから心配すんな」

……大きくならなかったら触らせてくれるかのような……そういう話じゃないよな、うん

優希「どうした? 鼻の下伸ばして……またいやらしいこと考えてたのか?」

京太郎「ま、またとはなんだ!? だいたいお前でそんなこと考える余地がないっつーの!」


優希「なんだと!? 失礼な……まあいい、誕生日だろ? 今日は奢ってやるじぇ」

京太郎「ん?奢りはいいって、この前いろいろ貰ってるし」

先日、誕生日当日に先駆けて麻雀部でパーティーをやってもらっている

竹井先輩がお受験の真っ最中で、俺の誕生日当日にパーティーを開催すると参加することができなかったのだ

どうしてもみんなでやりたい! 参加する! って散々にゴネたもんだから前倒しで誕生日パーティーをやったんだけど……試験の方は大丈夫なんだろうか?

優希「遠慮するなって! 特別な日は特別扱いされていいんだじょ?」

京太郎「そう言われてもだな……いくら親友でも何度もとなると……」

何度も誕生日プレゼントを貰うのも悪いし、女の子に奢ってもらうのも……って気持ちもある

男としてはやっぱり多少の見栄は張りたいというか、なんというか……あれ?

……いつからだったかな、優希のこと『女の子』だなんて思い始めたのは

優希「ふむ……まあ無理に奢られろとは言わんがな。 今日のこと、染谷先輩に伝えておくじょ?」

京太郎「ん? ……あ、おう……頼む」

……別に、遊びに行くから部活休みますってことではない。 現在、麻雀部は軽い活動休止状態にあるのだ

今年の夏……インターハイで功績を挙げた清澄高校麻雀部にはボロボロの自動卓が1つ……

麻雀部前部長にして生徒議会会長の竹井久はその人望と口のうまさで交渉を重ね、なんとか卓を1つ修理するだけの予算をふんだくる事に成功したのだ

期末試験前の期間に合わせて卓を修理に出し、今はそれぞれの都合に合わせて染谷先輩の実家の雀荘に行って打つことで部活の代わりとしている

優希「それじゃあ放課後にね……ア・ナ・タ」

京太郎「はいはい、後でなー」

パチリとウィンクを飛ばして走っていく優希の背中を見送り、俺も教室へ向かって歩き出した


――――――

京太郎「うーん……」

やっぱり、変な感じだ

最近は、ふとした拍子に自分の中で優希を女の子扱いしていることに気づいて……なんだか無性に恥ずかしいというか、そんな気持ちなる

春から夏にかけては優希の態度もあって、俺自身も中学時代の頃の感覚のまま、あまり男女を意識しないでいたけれど……

咲「京ちゃん、なにしてるの? 授業始まっちゃうよ?」

京太郎「んぁ?」

咲「んぁ? じゃないでしょ……ぼけっとしないで、ほら!」

京太郎「咲……俺は今、ちょっと考え事をしてるんだ」

咲「うん?」

京太郎「だから、次の数学は」

咲「……サボってもいいけど、ノートは見せないからね」

京太郎「なんでだよ!? 試験前だぞ! 俺がどうなってもいいのかよ!?」

咲「それなら授業出ればいいでしょ」

京太郎「まったくだな」

咲「だいたい、数学が面倒なだけでたいした事でもないんでしょ?」

京太郎「ん……まぁな」

咲「……話、聞いてあげよっか?」

京太郎「いいよ、本当にたいしたことじゃねぇし」

人に話すことでもないと思うし……っていうか、アレだ

……優希のこと意識してるみたいで、ちょっと恥ずいし


嫁田「なんだよ、咲ちゃんにも話せないのか?」

京太郎「……どこから出てきたんだよ、お前は」

嫁田「そりゃ、教室に決まってんだろ」

咲「……授業、始まるよ?」

嫁田「ちょっと飲み物買いに行こうかと……」

咲「だーめっ! 教室戻って!」

嫁田「はいはい、ごめんごめん……で? 咲ちゃんに話せないなら俺が聞いてやるけど?」

京太郎「別に平気だって」

嫁田「言葉にすることで考えが整理されていいんだぞ? たいしたことないならそれこそ一回話してみろって」

京太郎「わざわざ人に話すことじゃないんだよ!」

嫁田「あ? またやらしいことか?」

咲「京ちゃん、真っ昼間から学校でそういうのは……」

京太郎「違うっつの!ちょっと優希の……」

咲「優希ちゃん?」

京太郎「あ、いや……」

嫁田「相変わらず迂闊だな……ちょっと心配になるレベルだぞ?」

京太郎「……うっせ」


咲「それで、優希ちゃんが?」

京太郎「あー……放課後、タコス食いに行くからRoof-top行くの遅れるってだけ」

咲「あ、そうなの? わかったよ」

嫁田「へぇ、デートかよ?」

京太郎「別に、タコス食いに行くだけだって! いつもの事だよ」

嫁田「……いつもデートしてるって自慢か?」

京太郎「どうしてそうなるんだよ!? あ、なんならお前らも一緒に来るか?」

咲「え? いいよ、邪魔したら悪いし」

嫁田「デートに他人呼ぶか? 普通……」

京太郎「だからそういうんじゃねぇって……からかうなよ」

嫁田「へいへい……でも、ちょっとは進歩したじゃねぇか」

京太郎「なにが?」

嫁田「お前が誕生日を女子と過ごすようになるとは……」

咲「ふふ……なにかあればみんなで集まって騒ごう! だったもんね。 ちょっとは大人になったかな?」

京太郎「……女子って言ったって優希だぞ? 別になんも起きねぇよ」

嫁田「へー?」

咲「そう?」

京太郎「……なにニヤニヤしてんだよ、気持ちわりぃ」

嫁田「別に……な?」

咲「ねー」


京太郎「……なんだよ、言いたいことあるなら……」

「こら、授業始めるぞ。 席つけー」

咲「……もう、京ちゃんのせいで怒られちゃったじゃん」

京太郎「俺のせいかよ?」

嫁田「ほら、いいから座れよ」

促されて自分の席に着く……左に嫁田、正面に咲……一年も同じクラスにいれば席が固まることだってある

教科書とノートを取り出していると嫁田が少しばかり机を寄せてくる

嫁田(で? 実際片岡とはどうなのよ?)

京太郎(うっせーな。 試験前だぞ? おとなしく授業聞いてろよ)

嫁田(俺、数学得意だし)

京太郎(俺はそうでもねーんだよ!)

嫁田(後でノート見せてやっから。 試験どこ出るかもだいたいわかるし)

京太郎(それはマジで助けてくれ)

……まあ、なんだかんだこいつに話を聞いてもらって損をしたことはない。 ちょっと反応も見てみたいし、整理する意味でも話してみてもいいだろう

京太郎(……じゃあさ、最近気づいたんだけど)

嫁田(おう)

京太郎(……優希ってもしかして……)

嫁田(……?)

京太郎(……わり、やっぱ無しで)

嫁田(はぁ? 気になるだろ、言えよ)

京太郎(だって、なんか……俺のキャラじゃないっていうか)

嫁田(で?)

京太郎(いや……その、優希ってもしかしてさ)

嫁田(おう)

京太郎(……けっこう、その、ちょっとな? 本当にちょっとだけど……)

嫁田(なんだよ、早く言えよ)



京太郎(……あいつ、実はけっこうかわいくね?)



咲(え? いまさら?)

嫁田(逆に驚いたわ。 普通にかわいいだろ)

京太郎(咲は入ってくんなよ! 男同士の話してんだから!)

咲(優希ちゃんの話でしょ?)

嫁田(いいじゃねーか咲ちゃんだし。 で、いつから好きなの?)

咲(私も気になるなあ)

京太郎(好きとかじゃねぇよ! ただ、なんかの時に一回そう思ったら……なんか、ちょっと気になるだけだよ)

嫁田(とりあえず付き合ってみればいいんじゃね?)

京太郎(付き合うとかそんな、気軽に行くもんじゃねぇだろ)

嫁田(お、意外と純情タイプ?)

京太郎(そういうわけでもねーけどさ……優希だぞ? そういう感じじゃなくて……なんつーかな……)

咲(優希ちゃんは、特別?)

京太郎(……そりゃあ、特別っちゃ特別だけど……そういうんじゃなくって……)

嫁田(とりあえず、どういうのなんだよ?)

京太郎(言葉にできねーから困ってんの!)

京太郎(……とりあえずさ、優希とは付き合ってみてダメでしたーじゃすまないだろ?)

嫁田(……ああ、部活とかか?)

京太郎(麻雀部好きだし……そういうのでギクシャクすんの嫌だぜ、俺)

咲(……そりゃあ部活の事とかもあるかもしれないけど……そういう細かいことは抜きにしてさ? 優希ちゃんのこと、どう思ってるの?)

京太郎(どう? どうって言われても……)


俺は、優希のことをどう思ってるんだ?

好き? 嫌い? そんなの好きに決まってる

高校に上がってから、一緒に過ごした時間は下手したら咲や嫁田よりも長いぐらいだ。 嫌いなわけがない

明るくて元気いっぱいの優希と一緒にいるのは楽しいし、こっちまで元気になれる

タコスを作るのだってもはや趣味みたいなもんだし、俺の作ったタコスをおいしそうに食べる優希の幸せそうな顔を見るのは最近の楽しみのひとつだ

それに、最近気づいた事だけど……『女の子』として見ても、けっこうかわいいと思う

どうして『かわいい』なんて思っちまったんだか……俺と優希の間に男女はなくて、入学当初からいい友達で……そう、親友って言ってもいいぐらいだと思う

それぐらい気の合う友人で、そんな、恋愛なんて余計なことが入る余地なんて無かったはずだ


それなのに……ここ一年の付き合いで、なんというか、まあ……いつの間にか、優希は俺にとって気になる『女の子』になっていた



咲(京ちゃん?)

京太郎(俺は……)

嫁田(ん?)

京太郎(あ、いや……俺さ、優希のこと好きだぜ)

嫁田(おお!それじゃあ……)

京太郎(でもさ)

咲(うん)

京太郎(その『好き』は他のみんなへの『好き』と何が違うんだ?)

京太郎(俺は、お前らのこと好きだぜ?和も、染谷先輩も、竹井先輩のことだってさ……)

いや、むしろ嫌いなやつなんていない。 昔から俺の回りには友達がたくさんいて、俺はみんなのことが好きで、みんなも俺のことを好いてくれていて……

別に、それでいいだろ? みんな友達で仲良く楽しくやれてるんだから……

嫁田(……そこら辺はまだまだお子様のお前には難しいのかねぇ? )

京太郎(うるせーな……どうせガキだよ。 好きだとか、恋愛だとか……よくわかんねぇし)

咲(そんなに難しく考えなくてもいいと思うけど……春頃とかさ、和ちゃんのこと気にしたりしてたじゃない)

京太郎(それは……なんつーか違うだろ? 男ならおっぱいでかくてかわいくて料理の上手な奥さんいたらいいなーって思うじゃん)

嫁田(それはわかる)

咲(これだから……)

京太郎(なんだよ? 女子だってイケメンで優しくて高身長高収入の旦那が欲しいとか思うんだろ? 似たようなもんじゃねぇか)

咲(そう言われると……まあ、そうなのかもしれないけどさあ……)


和は、とびきりかわいいと思う

外見なんか文句の付け所もないし、内面だってちょっと子どもっぽいところがあるけどそんなところもかわいいと思うし……

入学した頃、和に声をかけたのはかわいい女の子の友達が欲しいって思ったからだ

高校生になって、ちょっと大人になったような気分で、そのうち恋人を作るのなら和みたいな子がいいな、とは思った

けど、それはあくまでも見た目の印象で、理想の話であって……別に和と付き合いたいって話じゃなくって……そりゃあ、あの頃に和から付き合おうって言われたら喜んで付き合っただろうけど

女の子と付き合うとか、恋人を作るとか、そういうのはあまり実感のない話で……高校生活三年間もあればそのうちそういうこともあるんだろうなー……ぐらいの事であって



京太郎(……なんか、やっぱりわかんねぇや)

咲(はい、そこで思考停止しないで)

嫁田(年頃の男の子らしく普通に彼女欲しいとか思わねぇの?)

京太郎(彼女いたら人生楽しいんだろうな、とは思うけど……)

そう、俺が想像していたように中学時代に比べて彼女持ちの友人は増えた

口では女なんて面倒だ、なんて言っててもあいつらはみんな楽しそうで……羨ましい、とも思う

京太郎(でも、優希は友達だぜ? そういうのは……違うだろ?)

嫁田(……だってよ?)

咲(はぁ……)

京太郎(……なんだよ、そのため息は)


咲(なんというか……ダメダメだね、京ちゃんは)

京太郎(なんでだよ?)

咲(まあ、京ちゃんらしいけど……もう少し自分で考えてみなよ)

嫁田(ま、俺はそこまで関係性を友達で固定しなくてもいいと思うけどな。 人間関係なんて切っ掛けひとつで何があるかわかんねぇぞ?)

京太郎(……大事な友達だよ、優希は)

京太郎(……あ! これあいつには言うなよ!? めっちゃ恥ずいし、調子乗るから!)

咲(……はいはい)

嫁田(そんなんで照れんなよ。 つか彼女欲しいんだろ? で、片岡は特別なんだろ? 付き合いたいとか思わねぇの?)

京太郎(……しつこいなお前)

嫁田(親友が少し大人になろうとしてるからね。 ちょっとうれしいのさ)

京太郎(同い年だろ、ガキ扱いすんなよ!)

嫁田(片岡じゃダメなん?)

咲(ちょっと、嫁ちゃん……)

嫁田(少しぐらいつついてやんねぇとこいつも考えないって)

咲(たしかにそうだろうけど……あまりつついて変に拗れちゃったら……)

京太郎(…………)

好き嫌いの話なら、当然優希のことは好きだ

毎日、嫁田とバカやって麻雀部のみんなと過ごして……そんな中でも優希と話したり、タコスを食べたりするのは楽しい時間だ

でも、恋人っていうのは……もっと、なんて言うか……特別な関係なんだと思うんだ

俺は今、毎日が楽しい

もし、優希が本当に『特別』になっちゃったら……この日常もきっと変わってしまう

現状に不満はない。 この日常を失ってしまう可能性があるなら……それなら……




京太郎(それなら、俺は……)


嫁田(ん?)



京太郎(俺は……優希とは、付き合いたくない)



咲(……ほら)

嫁田(……すまん)



――――――

和「おかえりなさい、ゆーき」

優希「ただいま、のどちゃん!」

和「次、自習になりましたよ。 先生が風邪でお休みだそうで……」

優希「お、ラッキーだな!」

和「もう、試験前なんですからちゃんと勉強しないとダメですよ?」

優希「はいはい、わかってるじょ……あのさ、今日の部活なんだけど……」

和「来れないんですか?」

優希「うーん……たぶん行くけどちょっと遅くなると思う。 京太郎とデートしてくるじぇ」

和「デデデ……っ!?」

優希「デデデ?」

和「あ、いえ……そ、そうですか……デ、デデ、デート、ですか……」

優希「ちょっとタコス食べてくるだけだじぇ? 顔真っ赤にして、何を想像したんだ? 」

和「べ、別に何も想像してませんっ!」

優希「私が京太郎とタコスを食べに行くのなんて珍しいことでもないだろ? なんならのどちゃんも一緒に来るか?」

和「そんな、お邪魔になっては悪いですから……」

優希「私も京太郎ものどちゃんを邪魔に思ったりしないけどなあ……」

和「いえ、咲さんと一緒に先にRoof-topに行ってます」

優希「ん、わかったじぇ! 染谷先輩に遅れるとはメールしてあるから」

和「わかりました……あ、あの、ゆーき」

優希「ん? どうした?」

和「その、つかぬことをお聞きしますが……ゆーきは、その……須賀くんと、
お、お付き合いするんですか?」

優希「私が? 京太郎と?」


優希「……お付き合いするかと言われても、それは私が決めることでもないじぇ? 京太郎サイドの問題もあるし……」

和「えっと、それはそうなのですが……そ、それではその……ゆ、ゆーきは」

優希「……うん?」

のどちゃんはそこまで言って、ハッとしたような顔で周囲を見回す

それから真っ赤な顔を寄せ、ひそひそと囁いた

和(す、須賀くんのこと、好きなんですか……?)

優希「へ?」

和(あ、大丈夫ですよ、安心してください! 誰にも言いませんから!)

優希「あ、いや……のどちゃん、ちょっと落ち着いて……」

和「私、口は固い方ですから! ふたりだけの秘密です!」

優希「のどちゃんストップストップ! 近いってば! ついでに声も大きい!」

和「っと、これは失礼しました……で? どうなんですか?」

優希「……そんな期待の眼差しを向けられても困るじぇ」

というか、のどちゃんが顔真っ赤にして聞いてくるお陰で、なんだかこっちの方が恥ずかしくなってくるんだけど……

優希「……でも、どうして急にそんなこと……今さら聞くことか?」

和「それはまあ……でも、ずっと気になってたんですよ? ゆーき、須賀くんと春に知り合ってからすぐに仲良くなって……」

優希「なんだ? のどちゃんやきもちか?」

和「なっ……! そんな、別に……やきもちなんて……ちょ、ちょっとだけです!」

優希「……のどちゃんはかわいいなぁ」


和「うぅ……と、とにかく! けっこう前から噂だってされてますよ? ゆーきと須賀くんが付き合ってるんじゃないかって……」

優希「みたいだなー……別に付き合ってないんだけど」

和「そうですよね? よかった……もし、噂通りだったら……」

優希「だったら?」

和「……ゆーき、親友の私にも話してくれなかったのかなって……ちょっと落ち込んでました」

優希「ふふ……大切なことはのどちゃんにはちゃんと話すぞ? 親友だからな! 私も、のどちゃんに何かあったら私に話して欲しいと思ってる……絶対力になるじぇ!」

和「えへへ……はいっ! 親友ですからね!」


……噂されてしまうのもわかる

私も京太郎も、周囲にたいして男女の隔てなく誰とでも仲良くするタイプだけど……麻雀部で一緒ってこともあって私たちの距離は特に近い

夏ごろまでは咲ちゃんと……なんて噂話も度々耳にしたけど、嫁田を交えた三人で散々漫才をしていたせいか「嫁さん」なんて、ただの定番ネタ程度の認識が浸透したみたいだ

しかしまあ、噂されている最大の原因は京太郎にあるだろう

私が言うのもなんだけれど……普通、ただの友達に毎日お弁当――タコスのことだ――は作って来ない

それこそ、嫁田なんかは「愛妻弁当か?」なんて……京太郎が嫁って色々気になるところだけども

それに、私もそれに乗って一緒に京太郎をからかって遊ぶんだけどな

とにかく、京太郎は人がよすぎるんだ

人のために何かすることを全く苦に思わないし、どんなことでも回りの人間と楽しむことができる……そんなやつだ

最近はタコス作りの腕前も上がって、毎日笑顔で私にタコスを渡してくれて……

私がおいしいって言うと、よかったって言って……すごく嬉しそうに、笑う

その笑顔が眩しすぎて……あいつにそういうつもりがないってわかっているのに、私にだけじゃなくて、みんなに優しいんだってわかっているのに……


勘違い、しそうになるんだ



和「……ゆーき?」

優希「……あ、すまんすまん。 ちょっとぼーっとしちゃったじぇ」

和「いえ、気にしないでください……それじゃあ、教えてくださいよ」

優希「む?」

和「須賀くんのことです。 大切なことじゃないですか!」

優希「……のどちゃんが大事にしすぎな気もするんだけど」

和「そんなことありませんよ! 親友の恋路です! 応援させてください!」

優希「恋路って……」

和「……違うんですか?」

もともと、のどちゃんに隠し事をする気はない。 聞かれれば、言うつもりだった

とりあえず、恋バナはひそひそ話でするものだと思っているらしいのどちゃんに合わせてあげることにする

声を潜めて、顔を寄せて、いかにもな感じに囁きかける

優希(……内緒だじょ?)

和(……! は、はい! もちろんです!)

優希(……えー、でもー、やっぱりー……)

和(大丈夫ですよ! ちゃんと秘密にしますから!)

ちょっと焦らすと食いついてくるのどちゃんはちょっと子どもっぽくてかわいらしい

ドキドキワクワクと期待にその大きな胸を躍らせているのがわかる。 というか、はしゃぎすぎじゃなかろうか

……あまり焦らしすぎてもかわいそうだ。 とりあえず、打ち明けることにしよう



優希(……私は、京太郎のこと、好きだよ)


和(やっぱりそうだったんですね!)

優希(うん、まあ……でも、別に意外でもないだろ?)

和(そうなのかな……とは思ってましたから。 ……あの、ゆーき)

優希(……もう、いちいち言い淀まなくてもいいじょ? 聞きたいことがあるならドーンと来い、だじぇ!)

和(そうですか? それでは遠慮なく……こっ、ここ、告白とか! しちゃったりするんですか!? )

優希(……のどちゃんグイグイ来るね)

和(それはもう! ゆーきこそちょっと落ち着きすぎです! もっとドキドキワクワクしないんですか? デートですよ、デート!)

優希(……なんでのどちゃんがそんなに盛り上がってるんだ?)

和(ゆーきのことなら、私は自分のことのようにうれしいですよっ!)

優希(そりゃ、私ものどちゃんにいいことがあったらうれしいけどな……別になにも起きんじょ? タコスを食べるだけだじぇ……そんなのしょっちゅうだじょ)

和(それはわかってますけど……)

優希(それに、期待されてるところ悪いけど……私は告白とか、そういうことはする気はないじょ?)

和(え、なんで……ああ、たしかに告白はされる方がいいですね)

優希(……そういうことじゃないんだけども)

和(あ、それじゃあいつ頃から好きなんですか? きっかけは?)

……そんな、根掘り葉掘り聞かれるのもちょっと照れくさいんだけどなあ

優希「……そんなことより、試験勉強しなくていいのか? せっかくの自習時間だじょ?」

和「私、試験範囲の復習はもう済ませてますから!」

優希「それならちょっと危なげだから英語教えてほしいじぇ……」

和「構いませんけど……どこですか?」

優希「とりあえず試験範囲から……」

和「さすがにそれは不味いですよゆーき!?」


いつから、どうして……かあ

京太郎……最初の印象は、それほど良くはなかった

のどちゃんに近づく悪い虫のうちのひとつくらいに思ってたけど……話してみるとこれが存外良いやつで

鼻の下を伸ばすことはしょっちゅうだったけど実際になにかよからぬことをすることはなかったし、ノリも良く打てば響くから話していて楽しかった

のどちゃんは男より麻雀、なんて京太郎に言った記憶があるけど……それは私も同じで。 あの頃に京太郎を異性として意識することはなかったと思う

男友達はもともと多い方だしけど恋愛に発展するような相手はいなかったし、京太郎もそのうちの一人で……まあ、特に仲のいい相手ではあったけれども

私も京太郎も、たくさんの友達を作ってその輪の中心で活動するタイプだ。 その点でも相性が良かったし、のどちゃんなんかは人見知りする方だし、仲良くなった咲ちゃんもおとなしい方だったから麻雀部内で余計なことを気にせずに一緒に騒げる相手ができたのはうれしかった

……先に変わったのは、京太郎の方なんじゃないかと思う



京太郎『ちわーっす』

優希『おかえりなさい、ア・ナ・タ♡ ご飯にする? お風呂にする? それとも……ワ・タ・シ?』

京太郎『な……に、言ってんだよ、ばーか』



夏の終わりから秋にかけての頃だったろうか……いつも通り、部室に入ってきた京太郎に声をかけただけだったのに……あいつはちょっと赤くした顔を背けて、照れたように返してきて

そしたら、私もなんだかちょっと恥ずかしくなって……

意識したきっかけなんてその程度のことで

でも、一度意識してしまったらそれ以前のようには戻れなくって

それから、京太郎が特別な存在になるまで……いや、ちょっと特別な存在なんだと自覚するまで、それほど時間はかからなかった



和「ゆーき? 聞いてますか?」

優希「ん? 今日の晩御飯はタコスがいいじぇ」

和「なんの話ですか……しっかりしてください、また追試なんてことなったら冬休みに合宿所予約したのに行けなくなりますよ?」

優希「む、それは困る! せめて赤点は逃れないと……」

和「そこは平均点ぐらいの志は持ってくださいよ!」

優希「うむ……せっかくのどちゃんが教えてくれるんだから頑張らないとなー」

和「ええ、頑張ってくださいね? ……須賀くんのことも大切ですが、勉強だって大切ですよ」

優希「まったく、のどちゃんはやきもち焼きだな……そんなに心配しなくても私の一番は当分のどちゃんだじょ?」

和「なっ……そんな心配少ししかしてませんっ!」

優希「少しだけかー……そんなこと言ったら私だってジェラシー感じてるじぇ? のどちゃん、春頃から咲ちゃんにぞっこんだし、インハイ以降はシズちゃんや憧ちゃんとも連絡とってるみたいだしー」

和「そ、そんな……咲さんも穏乃も憧もみんな大切な友人で……でも、ゆーきは長野に来てからの最初の友達で……あの、その」

和「ゆ、ゆーきは私の一番大切な親友ですよ!!」

優希「の、のどちゃん……」

和「は、はい!」

優希「あの、すごくうれしいけど……教室でそんな大声で叫ばれるとさすがに恥ずかしいと言うか……」

和「え、あ……し、失礼しました……」


和「あうぅ……」

のどちゃんは再び顔を真っ赤にして机に突っ伏している……今のはさすがに私も恥ずかしかった。 回りのクラスは授業中だろうし、下手したら近くの教室には聞こえていたんじゃないだろうか

私は、ちょっと暴走してしまったとしても、こういう風に真っ直ぐに友情を伝えてきてくれるのどちゃんのことが大好きだし、やっぱり一番の友達だと思ってる

のどちゃんに、咲ちゃん、染谷先輩と竹井先輩……それに、京太郎

みんな、私にとって大切な人たちで……

そして、京太郎は私にとってちょっと特別な男の子だ

だけど、私は今すぐに京太郎と特別な関係になりたいとは思っていない

きっと、先に男女を意識したのは京太郎だ

もしかしたら、京太郎も私のことを……少しは、特別に思っていてくれるのかもしれない

それでも、あの頃を境に京太郎はよく口にするようになった……自分達は、『友達』『親友』だって

普通、照れくさいしわざわざそんなことは口にしない……私はのどちゃんや咲ちゃんにわりと言ってる気もするけど

京太郎はきっと、そういう……特別な関係を望んではいないのだろう

今まで通りに……互いに大切な友達として尊重しあって、話して、遊んで……そうやって一緒にいられる方がいいんだ

私だって、現状に満足している……麻雀部のみんなと一緒で毎日が楽しい

……それに、京太郎は恋人を作る気はないのだろう。 特に仲のいい女子と言うと私や咲ちゃんのはずだから……そういう心配も要らないはずだ

だから、当分私の一番はのどちゃんのままで……もしそれが変わるとしたら……

私らしくないかもしれないけど、その時は、京太郎から……

すみません本日はここまでで
情けないことに最後まで書ききれなかったけど当日に建てたかったので…
今週中にはなんとか終わらせたいと思っています

こういうしみじみしたタコス好き

タコス可愛い
あと>>1の書く嫁田くんと咲ちゃん好き

京タコはやっぱりいいものだ

京タコは素晴らしいね

タコス可愛い

一週間たったのに書き終わらない…切りのいいとこまで投下します。明日明後日には終わらせたい


――――――

本日最後の授業とホームルームが終わると、みんな思い思いに立ち上がり教室を出ていく

期末試験前だ。 みんな勉強だったり、お昼に学校が終わるのをいいことに遊びに行ったりと忙しいのだろう

京太郎「んじゃ、またRoof-topでな」

咲「あ、もう行くの?」

嫁田「早く片岡に会いたいんだろ」

京太郎「言ってろばーか」

そう吐き捨てると、京ちゃんはさっさと教室を出て行ってしまった

咲「……あのさあ」

嫁田「わり、つい……」

昔っから私や京ちゃんをからかうことに全力の嫁ちゃんは、何かあればポンポンと軽口を叩いて私たちの機嫌を損ねたりすることはしょっちゅうだ

まあ、いつものことだから尾を引いたりはしないんだけど

咲「……ね、あのさ」

嫁田「ん? どしたの咲ちゃん?」

咲「……京ちゃん。優希ちゃんのこと好きだよね?」

嫁田「自覚してないだけだろうな。 めっちゃ意識してんじゃん」

咲「だよね……」

京ちゃんは昔から女心がわからない……というか、そもそも男女の壁がない。 みんなが友達だ

中学時代、教室の隅で本を読んでた私に声をかけて友達の輪に無理矢理ねじ込まれたのはよく覚えている

……休み時間にいろいろスボーツにも参加させられたっけ。 あまりにも動けないものだから途中から見てるだけになったけど

とにかく、何をするにもみんなで楽しく! だった京ちゃんには恋愛は難しいんだろう……自分の気持ちを持て余しているように見える

……まあ、なんだかんだ言ったところで私の恋愛経験値も読書から得られたものばかりで、実践経験はないんだけど


咲「……それなのに」

嫁田「だから悪かったって……」

嫁田「あ、そういやさ……相手の方はどうなん? 脈アリだと思うけど、俺そこまで片岡と話さないし……」

咲「優希ちゃんは……」

どうなんだろう? どう考えても嫌ってはいないよね? もし京ちゃんが告白したらたぶん付き合うんじゃないかなあ……

和「咲さん」

咲「あ、和ちゃん」

教室の入り口に和ちゃんの姿が見える。 迎えに来てくれたんだろう……私一人でRoof-topまで迷わずに行けるとは思えないし、正直助かる

和「Roof-top、行きましょう? ゆーきと須賀くんは……」

咲「うん、聞いてるよ」

嫁田「デートだってな」

和「え、あ、はい……」

嫁田「あのさ、片岡って須賀のこと……」

和「そ、それは秘密です!」

嫁田「ふーん……やっぱり一番大切な親友のことだし話せませんってか?」

嫁ちゃんがククッと喉をならしてニヤニヤと笑う

誰かをからかうときはいつも楽しそうだ。 京ちゃんはこれのせいで余計にイラつくなんて言ってたけど、私はそれほど気にもならない……矛先が他人に向いてる限りは

和「なっ……なな、なにを」

咲「……授業中に叫んでたから、聞こえたよ」

和「……穴があったら入りたい気分です」

嫁田「それに秘密とか言っちゃった時点でわかるんだよなあ」

和「そ、そんな!?」

咲「……和ちゃん、今日は落ち着き無いね」

和「いろいろあったので浮き足立ってます……」


嫁田「……ま、とりあえずなんとかなりそうだな」

和「……どういうことですか?」

咲「そういうことだよ……誰かさんのせいでちょっと京ちゃんがめんどくさい感じになってるけど」

嫁田「……なに? そんなに見つめられると照れるんだけど」

嫁ちゃんをジトッと睨んでみるも、いつも通り飄々としてまったく堪えた様子はない

嫁田「それにさ、それもなんとかなるだろ。 いつになるかはわからないけど」

咲「……それもそうかあ」

気持ちが互いを向いてるなら、京ちゃんがもう少し素直になればどうにかなるだろう

……それがいつになるかはわからないけど。 早ければ今日、遅くても卒業までにはさすがに……

和「咲さん? その、つまり……」

咲「あ……うん、大丈夫だと思うよ。 京ちゃんがやらかさなければ」

和「……そう言われると少し不安になるのですが……須賀くん、ちょっと……ほら、迂闊な人ですから」

咲「京ちゃん残念系だからね……」

嫁田「君らもう少しさ……いや、仕方ないか」


咲「……うん、とりあえずRoof-top行こ? 京ちゃんと優希ちゃんなら大丈夫だよ」

和「そうですね、ここで心配していてもどうにもなりませんし……うまく行くといいのですが」

嫁田「そのうちうまく行くって。 それに急に進展したりすると……」

和「……どうなるんですか?」

嫁田「つまり、片岡を須賀に取られるってことよ」

和「……それは、少し寂しいですね。 いえ、ゆーきが幸せなら私は構わないのですが」

咲「ふふ……ほら、和ちゃんには私がいるじゃない」

和「咲さん……!」

嫁田「俺もいるぞ?」

和「え? えっ?」

咲「こらっ! 和ちゃんにちょっかいかけないの!」

嫁田「へーい、さーせーん」

咲「まったくもう……」

嫁田「じゃ、俺食堂行って昼食べてくるわ。 部活頑張ってなー」

咲「え? あ、うん……また明日ね」

和「お疲れさまです」

ひらひらと手を振って教室を出ていく嫁ちゃんを見送る……たまにこう、ふらふらと行動するものだから付き合いは長いけどいまだになにを考えているのかわからないことがある

京ちゃんはわかりやすいんだけどね

和「私たちも行きましょうか? 染谷先輩、校門で待っててくださってるはずですから」

咲「あ、そうなの?」

和「……私が咲さんと合流できなかった場合を考えると、染谷先輩が校門で張ってないと……」

咲「……ごめんなさい。 それじゃあ急ごっか……お昼は」

和「染谷先輩がご馳走してくださるそうです。 楽しみですね」

咲「やった! 染谷先輩お料理上手だからねー」


――――――

下駄箱で靴を履き替え、優希と合流予定の校門に向かう

……授業は結局ほとんど頭に入らなかった。 嫁田も咲も余計なことばっかり……やっぱり話さない方がよかったか? 優希のことばかり考えてしまう自分が、やっぱりらしくない気がしてモヤモヤする

京太郎「……ん? あれは……」

校門の前には既に優希の姿が見える……自習だったらしいしホームルームも終わるのが早かったのだろう

一緒にいるのは……染谷先輩か

まこ「おお、京太郎……お疲れさん。 誕生日おめでとう」

京太郎「こんちわっす! ありがとうございます……今日もあとで顔出しますんで」

まこ「ふふ、ゆっくりデートしてきて構わんぞ? テスト前じゃけえ、息抜きも大事じゃからのう」

京太郎「麻雀も十分息抜きになりますから……優希は電話っすか?」

まこ「部長……じゃない、久から電話来たんでな、今優希が話しとるんじゃ」

優希「お、来たか京太郎! ほれ、竹井先輩だじょ!」

京太郎「うぉ!? 投げんなよ、染谷先輩のだろこれ!? ……もしもし? お疲れさまです」

久『はぁい須賀くん、誕生日おめでとう! 私が入試で苦しんでるっていうのにこれから優希とデートらしいじゃない?』

京太郎「え、いやその……す、すみません……」

久『いや冗談だからそんな気にしないでよ……』

京太郎「……つか、大丈夫なんですか? 電話してる暇があるならノートや参考書見直した方が……」

久『私を誰だと思ってるの? これくらい余裕よ余裕』

京太郎「そうは言っても万が一ってことも……」

久『……チェンジ』

京太郎「はい?」

久『チェンジ! 不安を煽るような言葉は要りません!』

京太郎「えぇ……染谷先輩、お願いします」

染谷先輩がやれやれと苦笑しながら電話を受けとる


まこ「あんたなあ……京太郎だって心配して言ってくれとるのに……」

優希「ダメじゃないか京太郎……竹井先輩が頑張っているというのにテンション下げるようなことしたら」

京太郎「いやいや……むしろ言って当然だろ。 余裕かましすぎだって」

まこ「久もあれで緊張しとるんじゃよ。 これでリラックスできるなら……はいはい、すまんね」

なにやら電話口から叫び声が聞こえる……竹井先輩といえど、さすがにプレッシャーはあるらしい

思い返せばインハイの時もちょっとやらかしてたし……何でもできる人な気がしてたけど、そこまで万能ってわけでもないんだな

優希「まあ、午前の分は結構できたらしいから竹井先輩なら大丈夫だろ!」

京太郎「……そうだな! 竹井先輩が失敗するわけないよな!」

まこ「……あんたら、こう……微妙に圧かけるのやめてあげてな」

京太郎「あ、聞こえちゃってます?」

優希「これは申し訳ないじょ……それじゃあ京太郎、行くか?」

京太郎「そうだな……染谷先輩は咲の待ち伏せだろ? あの調子だと電話も長引きそうだし……」

優希「自転車取ってくる! ちょっと待ってろ!」

京太郎「あいよー」


まこ「……ん? ……京太郎、ちょっとええか?」

京太郎「へ? またっすか?」

久『ねね、須賀くんさ……ここだけの話、優希とはどうなの?』

京太郎「はぁ!?」

久『なんもないってことはないでしょ? あ、何かあるのは今日これから?』

京太郎「…………」

電話の先でニヤつく竹井先輩の顔が容易に浮かぶ。 人をからかうのが楽しくて仕方がないってタイプだから……あ、嫁田に似てんのか。 今になって気づいたわ

久『ケチケチしないでさー教えてくれたっていいじゃないのよー』

京太郎「……別に、なんもないっすけど。 知ってるでしょう?」

久『ふたりがちょっといい感じなのは知ってるけどー?』

京太郎「……そうですね、いい友達ですよ。 染谷先輩どうぞ」

久『あ、ちょっと……』

まだなにやら言ってるようだけど、これ以上構うのも面倒だ。 竹井先輩の取り扱いは染谷先輩に任せるに限る

……優希は友達だ。 余計なお節介は、受けたくない

まこ「すまんのう、京太郎」

京太郎「いえ、染谷先輩が謝ることじゃないですよ」

まこ「ほうか?……京太郎も、あまり難しく考えんでな」

京太郎「……なんのことですか?」

まこ「さあのう? なんか考え事しとるようじゃったから……行き詰まってるなら余計なことは脇に避けて、少し素直に考えてみた方がええと思うよ」

京太郎「……俺、余計なこと考えてますかね?」

まこ「それはあんたが考えんと。 わしにはわからんからのう……話、聞こうか?」

京太郎「……今は大丈夫です。 なんかあったら頼りにさせてもらいます」

まこ「ん、いつでも待っとるよ」

優希「おーい! 京太郎、行くじぇー!」

京太郎「ちょ、待てって! 走って自転車追うのはキツい……すみません! それじゃああとで行きますんで!」

まこ「はいよ、気ぃつけてね」


――――――

優希「なんの話してたんだ?」

京太郎「ハァ……べつに……ハァ、ふぅ……竹井先輩と違って染谷先輩は大人だなーって……」

しばらく走らされたせいで呼吸が苦しい……以前は結構な時間走り続けられたけれど、高校に上がってからは麻雀一本で少々運動不足気味だ

……こう、体力の衰えを感じるとちょっと嫌だな……ハンドに復帰する気はないけど、少しぐらい走ったりしてみるかな。 健康にもいいし

優希「ふーん? 竹井先輩だって十分大人だと思うけどなー」

京太郎「そりゃまあな……でもなんつーか、染谷先輩の方が……信頼度が高い」

優希「言いたいことはわかるけどな……竹井先輩だって頼りになるじょ?」

京太郎「それはわかってるって……でも普段頼るなら染谷先輩かな」

優希「……京太郎は」

京太郎「ん?」

優希「……実は、染谷先輩みたいな人が好みのタイプだったり?」

京太郎「……は?」

……ああ、言われてみると染谷先輩って優しいし料理も上手いし……実は結構美人だし

……もうちょい胸があれば

優希「……なんか失礼なこと考えてないか?」

京太郎「……そんなことないぞ? まあ、あんまり考えたことなかったな……いい先輩だし、尊敬してるけど」


優希「……それじゃあやっぱり、のどちゃんみたいな子がいいのか? かわいいし、おっぱい大きいし、家庭的で非の打ち所がないじょ」

京太郎「まあ……でも、好みのタイプってだけで和にどうこうしようなんて気もないけどな。 友達だし」

優希「へぇ……そうなのか」

京太郎「そもそも、和にもそんな気無いだろ」

優希「全く無いな! 」

京太郎「……なに笑ってんだよ?」

優希「ふふ……別に、なんでもないじょ!」

京太郎「……ご機嫌だな?」

優希「あー……そりゃあ、タコスが近づいてきてるからな!」

京太郎「……なるほどね」

タコスで機嫌が良くなるんだから安いもんだ。 こいつはいつも楽しそうで羨ましい

それにしても……好みのタイプなんて聞かれるとは思わなかった。…… 別に、普通だよな? 男だったら、たぶん和みたいな子は理想像だろ?

……本当に女の子を好きになったことなんてないから、実際のところはよくわからないんだけど

そういえば、こっちだけ話すのも不公平だよな? 聞かれたから、聞いてみるだけ……別に、他意はない

京太郎「そういうお前はどうなんだよ? 好きな男のタイプとか」

優希「……へ!?」

京太郎「俺が話したんだからそっちも言えよー」

優希「……う、うん。 えっと……その」

京太郎「……そんなに悩むことか?」

優希「……私のパートナーたるもの、タコス作りの腕は欠かせんな!」

京太郎「だいぶ狭いな……世の中の男半数は切ったんじゃねぇか?」

優希「……ばーか」

京太郎「なんでだよ!?」


タコスか……まあ、想像の範疇というか……わかりやすいやつだな

タコスなら、俺だって……

優希「というか、京太郎はデリカシーが無さすぎだ! レディーにそういうことは聞くもんじゃないじぇ?」

京太郎「……だーれがレディーだよ、ちんちくりんのくせして」

自転車を押しながら少し先を歩く優希の頭をくしゃくしゃと撫でる

……優希はレディーなんて柄でもないだろ。 それに、大切な友達だからこそ……女だからとか、そうやって変な壁を作りたくない

優希「あ、こら! 髪は女の命だじょ? あまり気安く触れるもんじゃないじぇ! これでもそこそこ気を遣ってるんだぞ!?」

京太郎「はいはい、ごめんごめん」

……これは俺が悪いのかな、やっぱり。 俺が優希を女の子扱いしたくないとしても、優希は実際女の子なわけだし……

そこに気づいたからには、今後はそこら辺の距離感に注意してあまり女の子扱いしないように気を付けながらちゃんと女の子として対応しなきゃ……なに言ってんのかわかんねぇな、これ

優希「京太郎?」

京太郎「……ん?」

優希「どこまで行くんだ? 通りすぎるぞ?」

……気がつけば目的のタコス屋である

どうも考え事を始めるとすぐに回りが見えなくなるところがある……これは悪い癖だよな。 なんとかしねぇと

京太郎「……わり、考え事してた」

優希「なんか難しいことか?」

京太郎「いや、タコスどうしようかなーって」

優希「そいつは重要だな……タコスひとつが今日の戦績を左右する! 質、量、共に大事だじぇ!」

京太郎「麻雀の成績がそこまでタコスに左右されんのはお前ぐらいだっつの」


優希「いつもの! それに追加でスペシャルタコスだ!」

店主「毎度! 今日はなんかあるのかい?」

優希「連れが誕生日なんでな! とびきりうまいタコスを頼む!」

店主「おお、おめでとう兄ちゃん! よし、更に一人前サービスするよ!」

京太郎「あ、すみません……ありがとうございます」

優希「サンキューオヤジ! 将来私がプロになったらイメージキャラクターを務めてやるじょ!」

店主「そいつはありがてぇや! なんならバイト代出すからここらに貼る宣伝ポスターにでも……」

優希はずいぶん長いことここに通っているらしい……まあ、タコスを売ってる店はそうは無いし当然と言えば当然か

店主のおっちゃんとも仲がいいみたいだし、バイトの兄ちゃん姉ちゃんにさえ『いつもの』でお目当てのタコスが出てくる

まあ、優希なら別にどんなタコスが出てこようが喜んで食べるだろうからあまり関係ないんだろうけど……

優希「ほれ、京太郎。 スペシャルタコスだ!」

京太郎「お、さんきゅ……ってでかいな!? さすがスペシャル……つーかお前はどんだけ食べるんだよ……?」

優希「いつも三人前は食べるし、それにおまけしてもらった分と……」

京太郎「おまけ分お前が食べるのかよ!?」

優希「ん? 食べるのか?」

京太郎「……いや、スペシャルタコスで十分だわ」

優希「だろ? まあタコスに関しては私に一日の長があるからな! 任せておくじぇ!」

京太郎「へいへい……」


優希「タコスうまー」

京太郎「……お前はほんっとにうまそうにタコス食べるよな」

優希「そりゃあもう! ほんっとにおいしいからな! これ無しには生きられないじょ!」

京太郎「ふふっ……それだけおいしそうに食べられりゃタコスの方も本望だろうよ」

優希「至福の時だじぇ~」

本当に、おいしそうだ

優希がこんなにおいしそうに食べるもんだから俺もタコスに興味を持ったし、大会で優希のパワーの源になってるってことで買い出しにも行ったし……インハイの頃には店探すよりも早いからって自分で作りはじめたっけ

優希「どうした? 食べないなら私がもらうぞ?」

京太郎「……ああ、食べていいよ。俺、お前が食べてるとこ見るの好きだし」

優希「!?……けほっ!ごほっ!」

京太郎「お、おい大丈夫か? ほら水……」

優希「……す、すまん。 ちょっと驚いて……」

京太郎「何にだよ?」

優希「それは……スペシャルタコスだぞ? もらえるとは思わなかったじょ」

京太郎「俺はそこまで食い意地張ってねぇって……あ、少し食べちゃってるけどいいよな?」

優希「お、おう……」

京太郎「……な、なに照れてんだよ! 別に、友達なら回し食いくらい普通だろ?」

優希「そ、そうだな」


……こういうところ、気を付けないといけないんだろうか?

一応、男子と女子ってとこなんだよな……いつも恥じらいなく大口開けてタコス食べてるくせに……顔なんか赤くしたりしちゃってさ

……ちょっと、かわいいじゃんか

京太郎「……あーもう!」

優希「な、なんだ急に!? タコスか? 返すか?」

京太郎「か、返すってお前、そんな……」

優希「え、うぁ……」

……ほら、やっぱりなんか変な感じになっちゃったじゃないか

俺は悪くない……優希がちょっと照れたりとかするから、こっちもなんか意識しちゃって……

ちら、と一度は逸らした視線を優希に向けると、頬を染めた優希が視線を伏せて黙々とタコスを食べている

あ、うん……かわいいわ、やっぱり。 優希、かわいい。うん、そこは認めよう

でも……だからといって、なにかが変わるわけじゃない。 変わっちゃいけない。 かわいい女の子の友達なんて、和とか……他にもたくさんいるし

だから、別に優希がかわいいからといってなにが変わるってわけでもないんだ。 今まで通り、普通に接すればいいんだ! 普通に……

優希「……きょ、京太郎?」

京太郎「な、なん……ですか?」

優希「……なんで敬語?」

京太郎「あ、その……べ、別に……」

……普通に、って意識すればするほど普通にするのは難しくって

ひとまず深呼吸して、気持ちを落ち着けて……

京太郎「……で? どうしたんだ?」


――――――

京太郎「……で? どうしたんだ?」

優希「あ、その……そろそろ春期選抜も始まるだろ? 試験期間抜けたら大会に向けて調整もしていかないと……」

今日は、なんだか変だ。 私も、京太郎も

私が変な理由はわかってる。 これで案外落ち着いてる方だと自分では思ってるぐらいだ

言葉には、やっぱり力があると思う。 のどちゃんに京太郎が好きだって話して……そのせいで、なんだか余計に意識しちゃうというか……

だいたい京太郎も京太郎でもっと発言には気を付けてほしいというか、なんだこいつ。 友達友達言うなら、あまりこっちを意識してるような素振りを見せないでほしい。 ちょっと、期待しちゃうだろ

京太郎「ああ……俺、秋の選抜もダメだったからなあ……今度こそは、みんなと一緒にいい結果出したいな」

優希「そう簡単に結果なんて出るもんじゃないじょ。 努力した先についてくるもんだじぇ」

京太郎「わかってるって。 麻雀はじめて一年も経ってないし、みんなと同じだけの結果をポンポン出せたら天才だよ」

優希「秋の選抜で出てきた東海王者なんかは麻雀はじめて五ヶ月だったらしいけどなー」

京太郎「マジかよ……やっぱ上のやつらは違うな……」

優希「ま、あんまり上を見ても仕方ないじぇ。 高校生活は三年間あるし、インハイもあと二回あるじょ」

京太郎「そうだな……やっぱり、俺も選手としてみんなと東京行きたいし」

優希「私も、みんなもそう思ってるじょ。お前が頑張ってるのはみんなも知ってるからな! 最近はRoof-topに来てるおっちゃんたちには戦績いいじゃないか」

京太郎「みんなには勝てないんだけどな……さすがに男子の地区予選でみんなレベルのやつはそうそう出てこないだろうし、勝って自信つけたいんだけど」

優希「あんまり調子に乗るなよ? 全国トップチームのエースである私がそう簡単に負けるわけにはいかないじぇ! だいたい私たちに簡単に勝てるようになったら県予選なんて余裕だじょ」

京太郎「だよなー」


……よし、いつもの調子になってきた

麻雀の話なら、変に意識することもないし……ちゃんと応援してやりたいけど、そういうのは私のキャラじゃないしな

……あまり厳しいこと言わないで、優しい言葉をかけてやれたら、その方が好感度高いのかもしれないけど……

京太郎「……俺さ、夏も秋も……すげぇ悔しかったんだよな」

優希「……うん」

京太郎「女子の方は団体戦で凄い結果出してさ、個人戦も上位入賞したし……なんか、情けなくって」

優希「……さっきも言ったろ? そう簡単に結果なんて出ないじょ。 京太郎が麻雀はじめるずっと前から練習頑張ってるやつらが大勢いるんだから……スタート遅かった分、たくさん練習しないとな」

京太郎「おう! みんな自分の練習もあるのに練習付き合ってくれるしさ……俺も頑張るよ」

優希「うん、その意気だ! 仲間だろ? 練習なんていくらだって付き合ってやるじぇ!」

京太郎「サンキューな……よし! 付き合ってもらってばかりじゃ悪いし、タコス追加で!」

優希「おお! ってそんな、悪いじょ……今日はお前の誕生日で……」

京太郎「いいからいいから!日頃の感謝の印に、な?」

優希「……まあ、ここはもらっといてやるじぇ」


京太郎が、麻雀のことを気にしているのはよくわかってる

そもそもキャリアが違うから仕方がないんだけど……それでも、それで納得できることじゃないだろう

女子がチームを結成してすぐに最上級の結果を出しているなか、男子は自分一人で初心者からのスタートだ

力の差は大きいし、普段の練習も勝ち星なんてほとんどつかない。 公式の大会だって結果なんて全然出ない

……それでも腐らないで、悔しいって思って、毎日頑張ってる京太郎は……けっこうカッコいいんじゃないかって、思う

京太郎「はぁ……俺もタコス食って麻雀で力を発揮できたらなぁ」

優希「バカなこと言うな! そんなんでホイホイ勝てたら苦労しないじょ! そもそも発揮できるだけの力をつけるとこからだ!」

京太郎「それはそうだけどやっぱり……ってお前が言うなよ!? タコス食って麻雀勝ってるじゃねぇか!」

優希「ふむ……前に先輩たちが話してたけど、これはなんというか……集中力のスイッチというか、そういうのだろ? 京太郎もなにかそういうの考えればいいんだじょ」

京太郎「……タコス食べるとか、靴下脱いだりぬいぐるみ抱えたり、眼鏡外すとかおさげにするとか……そういうのを作るってことか?」

優希「そうそう……でも、今言ったように基礎力つける方が先だじょ? 集中したところで基本ができてないんじゃ意味ないじょ」

京太郎「わかってるけど……もう基本ぐらいはできてるだろ? やっぱり必殺技的な……」

優希「そういうこと言ってる内はダメダメだじぇ」

京太郎「……はーい」


優希「よし! タコスぢからもチャージしたことだし、Roof-top行くか! 京太郎の特訓をせねば!」

京太郎「もういいのか? まあ俺も練習はしたいけどさ……」

優希「私だって練習は必要なんだじぇ? 県内で言っても、うちは竹井先輩抜けちゃうけど龍門渕はフルメンバーだしな……ノッポをボコボコにできるだけの力をつけねば!」

京太郎「それに個人戦、秋季もあの子にやられてたしな……なんだっけ? ポニテのさ、けっこうかわいい……」

優希「……平滝の南浦数絵ちゃんだな。 正直夏に相当レベルアップしたはずだし勝てるつもりだったんだけどな……なんか、おじいさんがプロらしいじょ?」

京太郎「へぇ……やっぱり東場耐えきられると南場の失速と相手の加速が……」

……けっこうかわいい、だって

そりゃ、かわいかったけど……なんか、悔しいな

私だって容姿にはけっこう自信が……ある、けど……やっぱり、胸ないとダメなのかなぁ……

学校でも、デートするには胸が、って……でもこればっかりはどうにもできないし……

背も低くて、全体的に子どもっぽいし……京太郎おっぱい好きだし……ちょっとは可能性あるんじゃないか、なんて思ってたけど改めて考えると……やっぱりダメなのかなあ?

京太郎「……でもさ、インハイの時もあのチャンピオンとやりあえたんだし! 大会なら直接対決でうまくいかなくても最悪他の奴から稼いじゃえば……どうした?」

優希「……うっさいばか。 すけべ」

京太郎「なんでだよ!?」


優希「ふん……どーせ女子の選手なんてかわいい子とおっぱい大きい子しか覚えてないんだろ?」

京太郎「そ、そそ、そんなことねぇよ!」

優希「なに動揺してんだばーか」

京太郎「してねーし! ちゃんと覚えてるよ! なんで怒ってんだよ!? お前と打ってた相手なら全員とは言わないけどだいたいわかるって!」

優希「……なんで? 言っとくけどそんな嘘すぐにばれるじょ?」

京太郎「なんでって、そんなんお前の試合見てたからに決まってんだろ! 一応麻雀部員だしある程度は覚えてるって!」

優希「……大会、私の試合見てたのか? みんなのもあったのに……」

京太郎「……ぐ、偶然だろ。 咲たちの試合だってちゃんと見てたし……」

優希「……そっか。 そっかあ……」

……ちょっと、いや……かなりうれしい

私の試合、見ててくれたのか。 みんなの試合もあったし、きっとのどちゃんや染谷先輩の試合の方が勉強になるのに……

もしかして、やっぱり少しは気にしてくれてるのだろうか?

……いやいや、こんなことでいちいち期待してたらキリがない

京太郎も、その気がないならあまり気を持たせるようなこと言わないでほしいんだけど……

京太郎「優希?」

優希「じょ?」

京太郎「自転車、忘れてるぞ?」

優希「……あ、すまん」


行き同様に自転車を押しながら、京太郎とRoof-topに向かう

……今日はどうもいろいろ考えすぎちゃうというか……京太郎に変に思われてないかな?

でも一応? デートなわけだし? ちょっとぐらい緊張しちゃっても仕方ないよな?

いつも通り、普通でいられないから……だからこそ恋なんだろう

入学当初はだらしないアホ面に見えた京太郎の横顔も、ちょっぴり凛々しく見えるんだから不思議なものだ

京太郎「練習と言えば、染谷先輩が冬休みに合宿所押さえたって言ってたろ? 試験の方は大丈夫か? 追試になると……」

優希「う……のどちゃんにも言われたじょ……まあ、今日ものどちゃんに勉強見てもらったしなんとかするじぇ……というか、そういうお前は大丈夫なのか!? どーせ勉強だってろくにしてないだろ?」

京太郎「そりゃ、まだなんにもしてないけど……俺は一夜漬けすれば赤点とらない程度の学力はあるの!

優希「それはそれで自慢気に言うことじゃないじょ!」

京太郎「……それにしても、俺は夏の合宿には参加できなかったからな。 楽しみだぜ!」

優希「誤魔化したつもりか……? まあ、夏は他校も一緒だったから仕方ないじょ。 今回は京太郎をしっかり鍛えてやるからな!」

京太郎「よろしくな! お前も算数ドリル卒業しなきゃな」

優希「……インハイ以降頑張ったし、点数移動の計算ぐらいできるじょ……?」

京太郎「なんでちょっと自信ないんだよ」

優希「……せっかくのデートなんだからもっと楽しい話しようじぇ」

京太郎「デ、デートじゃねぇし!」

優希「……?」

やっぱり、今日はちょっと変だ。 誘ったときはそうでもなかったけど……嫁田辺りにでもなんか言われたのか?

京太郎も、こっちを多少意識してるような気がする

……なんか、ドキドキしてくるな

もしかして、その、行けちゃったりするんだろうか

……そんなに急ぐつもりはなかったけど、やっぱり好きなものは好きだ。 ちょっと欲も出てくる

……それでも、ここは告白とかするタイミングじゃない。 これでも女の子としてやっぱりロマンチックな雰囲気とか、そういうのに憧れもあるわけで

とりあえず、できるだけいつも通りに、違和感がないように……ちょっと、探りをいれてみる


優希「ふふっ……なーに照れてんだ?」

京太郎「てっ……照れてねぇよ! タコス食いに来ただけだし! ほら、くだらないこと言ってないでさっさとRoof-top行こうぜ!」

優希「そんなに冷たくしなくてもいいじゃないの! 聞いたところ私たち噂されてるらしいじょ?」

京太郎「う、噂?」

優希「だから、付き合ってるって」

京太郎「……そりゃ、俺も……そういうこと聞かれたことはあるけど……」

優希「なんなら……」

……さすがに、ちょっと緊張する。 いつもからかう時みたいに、さらっと言わないとダメなんだけどな……

勇気を出して、一歩踏み込んでみる


優希「なんなら、ほんとに付き合ってみるか?」


京太郎「え……」


京太郎が、固まった

……どう判断すればいいんだろう? ちょっとぎこちなかったかもしれないけど、わりといつも通りに言えたはずだ

こう、想定的には「なに言ってんだばーか」とか「あーはいはい、そうですね」とか言って流されるか、「つ、つつ、付き合うわけねーだろ!」とかちょっとテンパった感じで返されるかのどっちかだと思ってた

……どうしよう。 気まずい

優希「……な、なーんて、冗談……」

京太郎「……い、嫌だよ! そんなの!」

優希「……え?」


……これも、ちょっと想定外だった

京太郎が、嫌だって、言った

京太郎「あ……いや、だから……その……」

優希「……なーに本気になってんだ? こんな、冗談に……決まってるだろ?」

京太郎「あ、ああ……そう、だよな……俺も、別に……その、そういう意味じゃ、なくて……」

優希「…………」

京太郎「…………」

こんなに強い拒絶をされるとは、思ってなかった

そりゃあ……友達と恋人は、違うだろうけど。 今は、仲のいい……すごく、仲のいい友なん達だと、思ってた。 こんな言い方するなんて……京太郎は違ったのか?

嫌だって言われた。 せめて……もっと、いつもみたいに「俺たち友達だろ?」って、そう言ってくれれば……まだ前向きに、まだ時期じゃないんだって、そう思えた

でも、嫌だって……そんなの、嫌だって……そんな風に言われたら……


もう、どうしようもないじゃないか


とりあえず今日はここまでで
イベント物はちゃんと準備して当日に投下しないとダメだと思った(バレンタインから目を背けながら)

乙乙

ここで切るとかドSなの…
乙、舞ってるのよー

遅くなりましたが投下


――――――


優希「……京太郎」

京太郎「…………ん」

優希「ごめん……私、ちょっと……用事思い出したから! 今日は帰るじぇ!」

京太郎「え……優希、その……」

優希「みんなにはよろしく言っといてくれ! じゃあな!」

京太郎「優希!ちょっと待っ……!」

優希が自転車に飛び乗り、そのまま走り出す

……泣いてた、のか?

京太郎「優希……」

……今のは、どう考えても俺が悪い

冗談にテンパって固まって、反射的に……あんな、そんなの嫌だ、なんて……

そりゃあ優希だって、あんな風に言われたら傷つくよな。 俺だって、冗談でも付き合おうなんて言ってあんな風に返されたら傷つくし……

……冗談、なんだよな?

まさか、優希が俺のこと……なんて、

京太郎「って、そこじゃなくて! 今は追いかけるのが先だろ!」


幸い、ここはまだまだ田舎で……通りを外れて少し行けば人通りもなく見晴らしのよい、自然に囲まれた長閑な風景が広がっている

だから、自転車で走ってる女子高生なんてものは簡単に見つかるわけで

京太郎「――――――優希っ!!」

優希「っ!?」

こちらに気づいた優希が、更に速度を上げる

京太郎「待てってば!」

優希「――うるさいっ! 来るなっ!」

京太郎「話を、聞けって! 違うんだよっ!」

優希「知らんっ! 聞きたくないっ!」

京太郎「なんで逃げるんだよっ!?」

優希「お前が追ってくるからだろ!!」

タコスをたらふく食べたばかりでこうも走らされるとキツいのなんのって……やっぱり、最低限のトレーニングはしとこう。 っていうか、自転車はズルい。 速すぎ。 タイヤの力ってすげー

京太郎「はっ……はぁ……待て……!? 優希! ほんと、ストップ!!」

優希「じゃあ追うなっ!」

京太郎「追わないから止まれって! スカートで、立ち漕ぎすると……その、見えてるからっ!!」

優希「なっ……!? 見、見るなばかっ!! ……きゃっ!?」

京太郎「優希っ!」

優希はこちらの言葉に気を取られたのか、派手に転倒する……水色……いや、なんでもない


優希「……っつつ……いったぁ……」

京太郎「あー……その、大丈夫か?」

優希「あ……すまん……って! ど、どこ見てるんだこのばかっ!」

京太郎「見えちゃったもんは仕方ないだろ!? 見ようとして見たわけじゃねぇよ!」

優希「知るか! 寄るな!」

京太郎「だから悪かったって! ……怪我とかないか?」

優希「……ちょっと擦りむいただけだから、大丈夫」

京太郎「……そっか」

優希「……うん」

京太郎「…………」

優希「…………」

沈黙が、重い

……わかってる。 悪いのは、俺だ。 なら、謝らなきゃ……謝らなきゃ、ならない

京太郎「……ゆ、優希?」

優希「……………………なに?」

京太郎「……あの、さっきのは……その、違うんだよ」

優希「……なにが」

京太郎「だから、嫌だとか……そういう、アレだよ」

優希「……いいよ、別に。 気にしてないから」

京太郎「なら……そんな顔すんなよ」


目許も少し赤くなってるし、それ以前に……なんというか、本当に酷い顔だ……いつもの輝くような笑顔が欠片も見られないというのは俺としても辛い

……俺のせいなんだよな

優希「……これは、今コケたのが思いのほか痛かっただけだじょ。 自意識過剰だ、調子に乗んな」

京太郎「うぐ……」

ごしごしと袖で目許を拭って悪態をつく様子を見ると、本当に俺がただ自意識過剰なだけなんじゃないかって気がしてくる

京太郎「……それでも、さっきのは俺が悪かっただろ? ちゃんと謝りたくて……」

優希「いいから!」

京太郎「!」

優希「……ほんとに、気にしてないから……早くRoof-top行って練習してこい! まだまだ下手くそなお前は練習ご必要だじぇ?」

京太郎「……お前は行かないのかよ、練習」

優希「用事があるって言ったろ?」

京太郎「なんだよ、用事って」

優希「…………私は、大会までにグレートおいしく力も満点になるという幻のタコスを探す旅に出る使命があるから」

京太郎「それはさすがに無理があるだろ……」

優希「……あとで、ちゃんと行くから……先に行ってろ」

京太郎「……わかったよ」

優希がスカートや制服についた砂を払ってる間に倒れたままの自転車を起こして、籠から投げ出された鞄を拾う……鞄、中身入ってる感じがしないけど大丈夫なのか?

京太郎「……ほら」

優希「ん……ありがと」


京太郎「……なあ、優希」

優希「…………ん」

京太郎「俺さ……こんなこと言うのも、ちょっと恥ずかしいけどさ……」

誤解されたままにはしたくない。 気にしてないって言ってるけど、そんなはずがない……俺なら、気にする

京太郎「……お前のこと、あー……ほんとにさ、大切な友達だと思ってるから……さっきのは、なんか驚いたっていうか、ちょっと照れくさかったっていうか……そういうので……」

優希「もういいからっ!!」

京太郎「あ……」

優希「もう、いいから……」

京太郎「……よくねぇよ」

優希「っ……! 私が! もういいって言ってるんだから! ほっとけよ!」

京太郎「それなら……それなら泣くなよ! 俺は、お前がそんな顔してんのほっとけねぇよ!」

優希が、泣いてる

元気で、勝ち気で、普段俺には……いや、親友の和にすら絶対に見せないであろう涙を流している

放っておけるわけがない


優希「どうして! そっとしといてよ! 私は……私は、こんな顔見られたくないんだ……っ!」

京太郎「さっきも言ったろ! 大切な友達のこと放っておけるわけ……」

優希「私は! そんな風に、思ってない!」

京太郎「え……」

一瞬、時間が止まったかのように感じた

そんな風に思ってない? 優希は俺のこと……友達だって、思ってくれてなかったのか……?

優希「私は、私は……!」

優希が目の前で泣いてるのも、どこか遠くに感じる……なにも頭に入ってこない

なんで? どうして? そんな言葉ばかりが頭の中をぐるぐると回っている

なにか、なにか言わないと……優希に、嫌われたくない……その一心で、とにかく口を開く

京太郎「ゆ、優希……お、俺……」

優希「わたしはっ!!」

京太郎「っ!?」

体が、震える

優希が、泣きながら、声を荒げている。 こんな姿は見たことがない

何を言われるんだ? 本当は、ずっと嫌いだった? 邪魔だった?

いつも笑顔で、暗い感情なんて見せることのない優希に嫌われていたら……そんな風に考えただけでこっちまで泣きそうになる



優希「お前が……お前のことが、好きなんだよっ!」



京太郎「…………す、き……?」

優希「っそうだ! 悪いか!」

何を言われているのかわからず、思考が再び停止する

最初によぎったのは、安堵だ

それから、慌てて優希に向き直る。 そんなの、こっちだって同じなんだから……誤解を解けばいいんだ。 そう思った

京太郎「そ、そんなの! 俺だって……」

優希「そうじゃないっ! わかれよ!」

京太郎「……っ! なんだよそれ! 俺、わかんねぇよ!」

そうじゃない? じゃあ、なんなんだよ? 混乱して、怒鳴り返す


優希「わたしは、お前のこと友達だなんて思ってない! 私の好きは、違うんだ……」


優希「もっと特別な……好き、なんだ……」


優希「だから!」


優希「だからもう……そんな気もないのに、優しくしないで……」



京太郎「あ……う……」

優希「う……くっ……ひっく……」

特別な、好き? 優希が? 俺を?

そこまで言われれば、さすがになにを意味しているのかわかる

しかし、頭の中身はさっきからずっとこんがらがったままで……情報の処理がちっとも追いつかない

ただ、ドキドキと響く自分の胸の鼓動がうるさくて、とにかく顔が熱くて……泣きじゃくる優希の前で固まったまま、ただただ時間が過ぎていく

優希は、好きなんだ。 誰を? 俺をだ。

じゃあ、俺は? 優希のこと、どう思ってる?

いつも明るくて元気なムードメーカー……いつもたくさんの友人たちに囲まれている。 おいしそうに、幸せそうにタコスを食べる姿を見てるとこっちもなんだか暖かな気持ちになって……

麻雀にだって真摯に取り組んでいた。 全国でたくさんの強敵たちと戦う姿はカッコよかったし、憧れた。 俺もあんな風に打ちたいって思えた

それに……優希はかわいい。 たぶん、恋人だったら回りに自慢できるぐらいには

だけど、優希は……たしかに、俺にとって特別なやつだけど……友達なんだ

というか、俺は友達以外の人付き合いなんて……知らない。 どうすればいいのか、わからない

口からこぼれたのも、ただの疑問で

京太郎「な……なんで……?」

優希「……そんなの、こっちが聞きたいぐらいだ!」

優希「京太郎なんて、バカで、顔つきもだらしないし、デリカシーもないしヘタレで麻雀も下手くそで、ついでに女の子の胸ばっか見てるし……」

優希「……なんで、お前のことなんか好きになったんだろうな」

優希「好きにならなければ、ずっと……ずっと友達で、一緒にいられたのに……」


……優希の言う通りだと思う。 恋人になって、もし別れてしまったら? それに特別な関係になれば、友達なら気にならなかった些細なことだって気になるようになるかもしれない。 特別な関係になったら、今まで通りではいられなくなる

だけど……友達なら、ずっと一緒にいられるんだ

優希「……こんな告白とか、最悪だじょ。 そもそも、言うつもりもなかったのに……」

京太郎「あ……! 優希、俺……」

優希「ん……もういいよ。 大丈夫だから」

京太郎「え……と、その……」

優希はどうやら話してるうちにだいぶ落ち着いてきたらしい……俺とは反対に

優希「……ごめんな」

京太郎「なんで、お前が謝るんだよ……?」

優希「京太郎、嫌だったろ? お前に……そういうつもりがないの、わかってたんだけどさ……なんか、気持ちが昂っちゃって……だから、ごめん」

京太郎「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺……俺は……」

優希「……すぐに、普通にするのは無理かもしれないけどさ……ちょっと放っておいてくれれば、なんとか、するから……」

京太郎「だから、待ってくれ! 話を聞いてくれよ!」

優希「……まだ、何かあるのか? 今から改めて……フラれたり、したら……私だって、さすがにキツいじょ……?」

京太郎「だから、違うんだ……俺、俺は……とにかく、聞いてくれよ!」

なにが違うのか……もうそれすらわからなくなってるけど

このままだと、きっと優希とは今まで通りに過ごせなくなるんだって、そう感じた

だから、とにかく優希と話して、ちゃんと考えてることを聞いてもらわないとダメなんだって思った


京太郎「俺、嫌なんだ! お前と今まで通りにやっていけなくなるの……」

京太郎「本当に、お前のこと大切な友達だと思ってて……お前と一緒に過ごすの、楽しいんだよ!」

京太郎「お前と話して、タコス食べて、麻雀打ってさ……そういう時間、本当に大事な時間なんだ」

京太郎「毎日、お前のこと考えてる……おいしいタコス食べてもらいたいし、いつだって笑っててほしい」

京太郎「だから……だから! 俺は本当に、お前のこと、特別で、大切な友達だって……」

優希「ちょ、ちょっと! ちょっと待って!」

京太郎「な、なんだよ? だから、俺はお前と……変な風になっちゃうの、嫌で……」

優希「そうじゃなくって! だって、お前、今の、まるで……」

京太郎「……なにか変なこと言ったか? そりゃあ、かなり、恥ずかしかったけど……」

優希「~~~~!! じゃあ、ちょっと待て! 次は私が話すから!」

京太郎「お、おう……」

優希が、顔を赤くしてなにか考え込んでる……ただ、そわそわと落ち着きがないし、視線も定まらない

そんな様子を見てたら、こっちもなんだか落ち着かなくって……

思い返してみると、テンパってたとはいえ恥ずかしいこと言い過ぎじゃないか?

でも、嘘は言ってない……優希とは、ずっと一緒に、仲良くやっていきたいって……そう思ってる

優希「……きょ、京太郎!」

京太郎「あ、ああ……なんだ?」


深呼吸をして、ちょっと咳払いをして、呼吸を整えた優希がまっすぐにこちらを見据える

優希「私……私は、お前のことが好きだ! もう、友達じゃ嫌なんだ! だから……よかったら、付き合ってほしいって、そう思ってる!」

京太郎「え……」

優希「……どうだ? 嫌か?」

京太郎「あ、いや、俺たち、友達だろ……? だから、そんなの……違うだろ?」

優希「……京太郎、私のこと、好き? それとも、嫌い?」

京太郎「そりゃあ……そんなの……」

優希「……京太郎」

京太郎「……なんだ?」

優希「私さ、今……すごく怖いよ、 フラれるの……でも、ちゃんとしたいんだ」

優希「お前が、やっぱり私と付き合えないって言うなら……ちゃんと受け入れる。 お前が友達でいたいって言うなら、きっと、そうできるようにする。 だから、フるならちゃんとフって……?」

優希「……もし、お前が私のこと少しでも好きだって思ってくれてるなら……付き合ってもいいって思ってくれてるなら、京太郎のこと、ちゃんと特別な人なんだって……そう思いたいから」


優希は、ちゃんとしたいって言ってる。 中途半端でうやむやにしたくないって……そう言ってる

なら、それにはちゃんと応えなきゃいけない……友達、なんだから

でも、俺は本当に……優希のことを友達だって、そう思ってるか?

……優希は、もう友達じゃ嫌なんだと言った。 怖いって、震えながら……前からずっと友達だって言ってた俺に……どれほど勇気がいることなんだろう

……俺は、怖かった。 ずっと、ずっと……優希のことが好きなんだって、そう認めたら、今の関係が変わっちゃうんじゃないかって……そう思ってた

さっき言われちゃったけど、どうしようもないヘタレだ。酷すぎて涙が出そうだ。 俺ひとりだったら……きっと、ずっと心のなかで言い分けして気づかないふりをしていたんだろう

それでも……優希が一歩、こちらに踏み出してくれた

だったら俺も勇気を出して、一歩前に踏み出そう

京太郎「……優希!」

優希「……うん」

京太郎「今まで、ごめん! 俺、ずっと自分のこと誤魔化してた」

京太郎「怖かったんだ……お前と一緒にいるの、楽しくて……認めて、変わるのが怖かった」

京太郎「俺も、お前のこと友達だなんて思ってなかったんだ……! 特別な、女の子だった!」



京太郎「……俺、お前のことが好きだ!」




優希「…………」

京太郎「…………」

優希「…………」

京太郎「……なんか、言ってくれよ」

優希「だ、だって……なんか、恥ずかしぃ……」

京太郎「そんなん、こっちだって……」

優希「えっと、その……じゃあ、私たち、付き合うってことで……いいのか?」

京太郎「お、おう」

優希「うん……」

京太郎「………」

優希「…………」

……やっぱり、今まで通りじゃいられない。 恥ずかしくて、照れくさくて……顔だってまともに見れない

ふたりして顔真っ赤にして黙りこくって……でも、優希となら……こんな雰囲気も、嫌じゃない


京太郎「……なあ、優希」

優希「な、なんだ?」

京太郎「……恋人って、なにすればいいんだ?」

優希「そんなの……わかんない。 いたことないもん」

京太郎「……俺も」

優希「それじゃあ……また今度さ、タコス食べに行こ?」

京太郎「正真正銘、デートってやつか?」

優希「うん、たぶん……」

京太郎「……いつもと変わらないな」

優希「ふふ……そういえば、そうだな」

京太郎「ふふふっ……ははっ! なんだ、変わらないじゃんか!」

バカみたいだ、俺……結局、俺たちは俺たちなわけで

友達から……もっと特別な、恋人になったって……なにかが急に変わるわけじゃないんだ

優希「……ほんと、今までいろいろ悩んでたのがバカみたいだじょ……あ、誕生日! 恋人ならさ、きっとなにか……特別なこと、するんだよな?」

京太郎「ああ……そういえば、そうらしいな」

優希「………それじゃあさ」

京太郎「ん?」

優希「……ちゅーしてやろうか?」

京太郎「な!? な、ななな、なに言ってんだよ!? そ、そんな……まだ、まだ早いよ!」

優希「あははっ! 京太郎、顔真っ赤だぞ?」

京太郎「うっせ! お前だって人のこと言えねぇよ!」

……やっぱり、少しだけ変わるのかもしれない。 友達に、キスはしないもんな


優希「ああ……そうだ! バレンタイン、もうすぐだろ? 恋人のイベントだし、なにか用意するじょ!」

京太郎「え、いいのか?」

優希「私の特製タコスとチョコ、どっちがいい?」

京太郎「……バレンタインなんだから、チョコくれよ」

優希「タコスは自信あるんだけどなー……あ、それとも……」

京太郎「今度はなんだよ?」

優希「プレゼントは、わ・た・し♡ とかの方がいいか?」

京太郎「バ、バカ言うなって! まだ高校生だし、付き合い始めたとこだぞ! 早いってば!」

優希「冗談に決まってるだろ、すけべ。 っていうか意外と奥手な……いや、ただのヘタレだったな」

京太郎「うるせぇよ!」

優希も、すっかりいつもの調子を取り戻したらしい……変わったのは、いつもの冗談が、もしかしたら、そのうち、現実になるかもしれないってことだ

優希「……またやらしいこと考えてる?」

京太郎「ち、違うってば!」

優希「そもそも、そういう……キ、キスとか……恋人っぽいことは、いつからありなんだ? まだ早いって、いつならいいの?」

京太郎「そ、そりゃあ……い、1ヶ月ぐらい経ってからとか……?」

優希「……それじゃあ、私のファーストキスは来月のホワイトデー辺りか?」

京太郎「うぇ!?」

優希「お返しと一緒に楽しみにしてるじぇ?」

京太郎「あ、おい! 待てって!」


自転車を押しはじめた優希の腕を掴む

優希「どうした? キスはハードル高すぎたか?」

京太郎「う……す、少し……でも!」

ハンドルを握る優希の手をほどいて、自分の指を絡める

優希「……な、なに? 急に……」

京太郎「お、俺……まだまだガキで、恋人っぽいこととか、今は、これぐらいしかできないから……」

優希「……うん」

京太郎「でもさ、少しずつ頑張るから……だから、今はとりあえずこれで勘弁してくれ……」

優希「……私も、まだまだ子どもだから……ふたりで、少しずつ頑張ればいいじょ」

京太郎「……ああ、そうだな」


優希との関係が友達から恋人に変わって……やっぱり、今までみたいにはいかない

ちょっと目が合えば顔が熱くなって、身体の接触なんて今までもいくらでもあったのに……手を握るだけで緊張して。 友達の頃の方がよっぽど気が楽だった

でも、きっと変わって良かったと思えるはずだ

俺はまだまだ子どもで、急に優希と恋人らしく……そんなのは難しいかもしれない

でも、優希はふたりで頑張ろうって言ってくれた。 それならきっと、頑張れる

もう、変わることを怖がったりしない

優希とふたりで、一歩ずつ、一歩ずつ……変わっていけば、いいんだ


カン!

きょうたんイェイ~ (十日前)
ここ一年くらい新規の京タコ見てない気がしたので建てたけどやっぱりもっと早く準備しないとダメですね。次回があれば気を付けます。ありがとうございました

良かったよおおおおおおお京タコ素晴らしいよおおおおおお乙だよおおおおおおお

乙だじぇ
これはまさにグレートおいしく力も満点になる幻の京タコ

乙ー
これは後日談やバレンタイン編ホワイトデー編もほしいところ

おつ!
優希が報われたよよかった!!

もちろん初キッスまで書いてくれるんだよね?(チラッ

乙です
嫁田くんと咲ちゃんの話も見たいな

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