【異端】
僕には何もなかった。
力も魔力も……
何もかもが僕からそっぽを向いて、振り向いてくれはしない。
無力なまま、無価値なまま時は過ぎる。
止まったままだ。
ずっとずっと止まったまま……
成長して身長が伸びても、ちっとも変わりはしない。
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僕は、僕のままだ。
何故この世界に生まれた?
蔑まれ、足蹴にされ……
価値無き命があることを知るためか?
僕は……
僕はそんなちっぽけな存在が実在するってことを……
それを証明する為に生まれ、己を恥じて死ぬのか?
踏まれる命なんて必要ない。
必要ない存在を証明するのが、僕なのか?
だとしたら何て残酷なんだろう。
せめて、せめて一つだけでも希望があるのなら。
僕はそれに賭けてみたい。
そう願いながら、今日も魔学書を読む。
「一つでいい、一つでいいんだ」
何でも良い、一つでいい……
そう願いながら読んでいる書物が、最後の一冊。
魔界図書館、最後の一冊。
一冊一冊を読む度に儚い願いを削がれる日々だった。
でもこれで終わり。
これで、最後……
頼む何か一つでいいんだ。
お願いだ。僕は強くなりたいんだ。
何か、何かヒントをくれ。
「結局全部同じ。受け継がれる血脈、血筋」
優秀な血筋か、羨ましいな。
「血筋、血脈……結局は血か……」
血液はあらゆる魔術に共通する。
どの書物に記載されていても何ら可笑しくない。
寧ろ血液が記されていない書物なんてなかった。
例えばコウモリ、トカゲ、ネズミ……
血液は様々な魔術に使われている。
しかし、【これ】は違った。
「えっ? 【人間】の、血?」
ーー人間。
僕とは違う世界、異世界の住人。
詳しくは知らないけど、彼等の中にも魔術を使える者がいるらしい。
けれど人界との接触は原則として禁じられている。
「まるでもう諦めろって、そう言われてる気分だ」
いや待て、魔術に血が不可欠だとするなら……
血の力がそこまで重要視されているのなら……
「術師自身が血を飲めばどうなる?」
そうだ。
血を術に使うのではなく、血を直接取り込めば、【得られる】のか?
魔を、力を、得られる。
魔を使う者から血を得れば魔力を得られる?
直接血を飲めば、そのものの力を得られるのか?
だとすれば魔術は回り道してることになる。
魔力を得るには、更に高い魔力を持つ者の血を得ればいい。
術そのものを身に宿すことが出来るのなら、過程は必要ない。
完成された術を奪えばいい。
完成された魔術を持つ者の血を……
「……いや、こんな考えは馬鹿げてる。もう帰ろう」
寝ますら
きたい
おもしろそ
きたい
結局、方法を見出すことは出来なかった。
僕は何も得られないまま終わるのか?
【何もない】を証明する為に……
これからを生きて行かなくちゃならないのか?
僕には、強くなろうとすることさえ許されないのか。
ーー鐘が鳴った
そろそろ閉館の時間だ……
兄さんも心配するだろうし、急いで帰ろう。
「ああ君、待ちたまえ」
この人……
ああそうだ。確かこの図書館の館長さんだ。
今まで一度も話したことないのに、どうしたんだろう。
いよいよ怒られるのかな、いつも閉館ぎりぎりまで粘ってたし。
一度も借りたことないし、閉館間際に来て少しだけ読んで帰ったこともある。
でもいいや、もうこの図書館に来ることはないんだから……
「私がこの図書館の館長になってから、君ほど熱心な子は見たことがない」
「えっ?」
怒られるばかりと思っていたから、その言葉はかなり意外だった。
いつも顰めっ面で機嫌悪そうだから、凄く怖いお爺ちゃんなんだとばかり思ってた。
「私から見て、ただ読むのではなく学んでいたのは君くらいなものだ。
それに読む調べると言っても、大体は出題された一文を調べる程度……」
「は、はぁ、そうなんですか」
「君には伝わらんだろうが、私とてもは感動している。
こんなにも膨大な数の書物から必死で学ぼうとしてくれた」
「(必死か。そりゃそうだ。この図書館は僕の希望『だった』んだから)」
「それで、君は望む物を得られたかね?」
「……いえ、何も得られませんでした」
「では、学んだことはあるかな?」
「それなら沢山あります」
「ふむ、良ければ一つだけでも訊かせてくれるかな?」
「……それは我々を魅了魅惑し、果ては道を誤らせ狂わせるだろう」
「誘惑に打ち勝ち、欲望を断ち切れる者こそ、真の力を得るに相応しい」
「我々は知らなければならない……あっ、すいません」
「いいや大丈夫。そのまま続けて」
「……我々は力に支配されてはならない。我々は力に屈してはならない」
「強い意志を持つのだ。決して、力に身を委ねてはならない」
「我々(魔族)は、力の為にあるのではない……以上です」
「いやはや素晴らしい。
その歳でそこに至るとは想像しなかったよ」
「そんな、偉そうに好き勝手語っちゃってすいません。
でも、嬉しいです。ありがとうございます」
「……もし君が良ければの話しだが、いいかね?」
「はい、何でしょう?」
「良ければ、明日からも来てくれないか。
急で申し訳無いが、君を助手として雇いたい」
「助手って、本の整理や何かですか?
僕にはそれくらいしか出来ませんよ?」
「それもあるんだが……
いや、今日はもう遅い。詳しい説明は明日にしよう。
そこで君が納得したら、助手になって欲しい」
「えーっと……はい、分かりました。
じゃあ明日また来ます。ありがとうございました」
ここまで
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