ハルユキ「......戻って...きたのか」(19)

目を醒ますとそこは見慣れた天井と割と広い部屋。自分の部屋だ。
自分が寝ていたベッドから上体を起こし思う。一番最近の記憶より少し殺風景だな、と。

僕の名前は有田春雪。梅郷中学に通う3年生だ。
...もっとも今さっきまでの話しなんだけどな。

枕元に置いてあるニューロ・リンカーを首にセットし脳内に映像化されたスクリーンの右下、カレンダーのウィジェットを選択する。
今日の日付と年号を確認し自分の予想と反していないことに安堵した。


━━2046年

この時期の僕は中学1年。
まだ荒谷達にイジメに遭っていて塞ぎ込んでいた時期。
そして、あのゲームに出会っていない時期だ。
勿論それも一緒に確認した。ニューロ・リンカーのドライブエリア内にその存在は確認できない。

しかし思う。
このまま何もなかった事にして、知らないフリをして過ごすのもアリなんじゃないのかと。

少し間を置いてから途端に頭を左右に振るう。

駄目だ。僕は何の為にここに来たか忘れたのか。
仲間達を、先輩を救う為にここに来たんじゃないのか!
七千年もの間、悪を撒き散らしてきた奴らに終止符を討つ為じゃないのか!!

あの世界の性質上の影響でいくら精神が成長しようとも昔ながらの内向的思考が影を刺そうとする。が、その精神に無理矢理鞭を振るう。

「...僕には...オレには翼がある。皆ともっと先へ行くんだ」

━━そうですよね、先輩。

カーテンの隙間から見える朝の空へもう逢う事が叶わない人に囁いた。

はよ続きを。

同級生の背中越しに初老の男がどこかやり辛そうに慣れない手つきで空中を忙しなく動かしている。
今は数学の授業中だがもう黒板とチョークを使う授業法を採っている教師は少ない。

その昔、ヘッドギア型の仮想シミュレートマシン、ナーヴ・ギアが開発されて以降脳内量子無線端末は劇的に進化を遂げた。
当時ナーヴ・ギアに纏わる凄惨な事件はあったが、やはり有用性は侮れず開発は進んだ。

その果てに生まれたのが、脳と直接量子無線接続する携帯端末ニューロ・リンカーだ。
ニューロ・リンカーは従来の端末の問題を殆どクリアしこの時代、国民の一人に一台を所持している。

ふと脳内スクリーンの端に黄色いマークが走る。
メールを受信した様だ。

授業中に学内ローカルネットに繋いだ状態でメールを送る猛者は中々いないが、メールの送り主はそんな事関係ないようだ。
1通目を開くより先に2通目が送られてくる。

あまり気乗りしないが右手を宙に浮かし1通目のメールアイコンを指先で開く。大体予想は出来ているが。

『昼休みハルの教室に行くから。いつもコソコソ逃げ回って、今日こそは絶対に捕まえるんだからっ!!』

メールは文面ではなく音声メールだった。声の主は見知った女の子。

ハル(...ゴメンな、チユ。今日も一緒出来ない)

目を釣り上げて猫の様なその女の子に想像しながら心の中で謝った。

昼休みになる。
オレは誰よりも先に教室を出る。別に購買部や学食に行くためではない。ある場所へ行き、いつもの日課を行う為だ。

日課というのも語弊があるかもしれない。オレが所謂過去に戻って来てからひたすらに繰り返してきた事。
訓練と言った方がいいかもしれない。

すれ違う生徒達の間を生身で出る最高速ですり抜けて行く。これも訓練のうちだ。前の時間軸で身につけた気配を消す技術で目立つ事なく目的地に辿り着いた。

戻ってきた理由は皆を救う事。
あのゲームで出会ってきた全ての人を救う事だ。
勿論、前の時間軸でも同じ気持ちだった。だが"奴ら"に手も足も出なかった。

当然だ。
"奴ら"はオリジネーター...つまり現実時間で7年。加速時間で七千年も前にダイブした初代リンカー達だ。
ぽっと出のオレが敵うはずはなかった。

...きっとオレは、慢心していたんだと思う。
ユニークアビリティを持ち、色々な人達の助けもあったがクロム・ファルコンの呪縛も解き放った。

そんな中での"加速研究会討伐戦"。

各勢力合同による加速研究会のメンバーを討つ作戦であったがオレは良い意味でも悪い意味でも加速世界で知られていたし注目されるのは自明だった。
七王による会議でオレが先鋒を務める事になったのだが、いつものオレなら断っていた。先輩や赤の王であるスカーレット・レインも無理はするなと言ってくれていた。

しかし、気が大きくなっていたオレは先輩や赤の王の制止も振り切り先鋒を引き受けた。

ここで全ての歯車は狂いだした。

奴らの根城の一つであり、issキットの本体が秘匿されている東京ミッドタウン・タワー。そしてそれを守護する大天使メタトロン。
オレが先鋒を務めるのには理由があり、このメタトロンが放つ即死攻撃をオレはスキル"光学誘導"で防げるのである。
いや、

防げる"はずだった"

何と奴らはエネミーのテイムどころかエネミーの攻撃属性を改変するまでに至っていたのだ。

光学誘導が発動する属性は光線系属性のみ。メタトロンが放った攻撃は熱線系属性に改変されていて見事スキル発動に失敗。
直ぐ後ろで行軍していた合同軍に直撃し6割以上のリンカーが犠牲になり、勿論作戦も失敗しissキット本体も別の場所へと移動してしまった。

メタトロンの不正改変はあったが作戦を失敗した原因であるオレが所属するレギオン、ネガ・ネビュラスに責任追求があり結果、先輩ことブラック・ロータスが討ち首となった。
本来ならオレが責任を負うべきなのだが、六王そして全リンカー達は加速世界最大の反逆者であるブラック・ロータスの首を求めたのだ。

オレは断固反対した。処刑されるべくはオレであり先輩ではない。

処刑所として選ばれた場所は嵐ステージだった。
乱入するも直ぐに緑の王グリーン・グランデに取り押さえられ地面に組み伏せられる。
力を入れるもまるでビクともしない。それでも抵抗し声を張り上げる。

『先輩ッ!止めてください!!!貴女はここで死んじゃいけないッッ!!』

『今の加速世界には先輩のような人が必要なんだッ!!』

『...それに...一緒に、いてくれるって言ったじゃないですか...ッ!!』

はち切れんばかりに叫ぶも嵐の風や雨に虚しくかき消されていく。
しかしあのいつ何時も凛々しくも雄々しく導いてくれた声音が嵐の中でもはっきりと聞こえた。


『???シルバー・クロウ』

先輩は青の王ブルー・ナイトに処刑されるその瞬間、言っていた。


『君は、まだ誰も見得ぬ先へと征く事が出来る』

『私は、そう信じている』


その日、黒のレギオンは姿を消した。

見ている方はいらっしゃらないと思いますが一応補足的なやつを。

これはアクセルワールドのssです。
ジャンル的に言えば逆行再構成物になるのかな。
一応原作は小説アニメ共に見てましてゲームはやっておりません。
ので、ゲームとの矛盾点がありましたらスルーして頂けましたら有難いです。

そしてたぶん一番重要なポイントですが、原作のネタばれが多分に含まれると共に原作を知ってる前提で進まってしまう可能性大です。
勿論なるべくマイルドになる様に心掛けしますが、アニメしか見ていない方は少し判らない部分も出てくると思います。ご了承下さい。

あと原作がまだまだ未完なのでストーリー上オリジナルがかなり食い込んでます。もし原作を知っている方で原作と違う部分を見つけたら、それはオリジナルか私のミスなのでご理解をお願いします。因みに私は原作12巻以降まったく知りません。ご了承下さい。

再構成物になりますのでたぶんハルユキ君の独白部分が主になりそうです。
もしかしたらあまり他キャラとの絡みないかも。勿論必要以外でって事で。
こんな感じでまったり進めてくので良かったら見たって下さい。

これは期待

黒のレギオン、ネガ・ネビュラスが解体してレギオンメンバーは散り散りになってしまってからの詳細は判らない。
少なくともかつて同じレギオンメンバーであり幼馴染でもあるシアン・パイル<黛拓武>とライム・ベル<倉嶋千百合>はあの一緒に苦楽を共にした日々を綺麗さっぱり忘れてしまった。

同じ飼育員であったアーダー・メイデン<四埜宮謡>も飼っていた梟が死んでしまってからは連絡をとっていない。
残りのメンバーも同じだ。

だがオレには最早どうでもよかった。

オレにあったのは後悔と怒り。
オレの身代わりにさせてしまった先輩への後悔と処刑されるその瞬間まで何も出来なかったオレ自身への怒り。
オレの慢心がこの自体を引き起こしたのだ。オレがこんな不甲斐なくなければ、

オレにもっと力があれば。

オレは力を渇望した。
issキットなど頼らない純粋な力を。

それからオレは実生活の殆どをつぎ込み無限中立フィールドにダイブし続けた。
一番手っ取り早く戦闘経験とbp<バーストポイント>を一度に獲得出来るサドンデスバトルをひたすらに繰り返しレベリングをした。
得れる物は全て得たし利用出来るものは全て利用した。
あのかつて何だかんだ言いつつも仲の良かった赤の王スカーレット・レインですら利用し、騙し、殺した。

そしてレベル9に到達した時、オレは加速世界でこう呼ばれていた。


━━━━災禍の鴉<クロウ・ディザスター>、と

加速世界の全レギオン、全リンカーたちにある噂が流れていた。

災禍の鴉を討った者には七の神器<セブンアークス>の第四<ザ・ルミナリー>が贈られる。

この噂の出処は不明だが、六王達は元々災禍の鴉を討伐せんとしていた故に噂に便乗。配下のレギオンへと災禍の鴉討伐を通達した。

それからは苛烈を極めた。
一息つく間もなく戦闘、また戦闘の繰り返し。無限に攻撃される中、着実に精神を磨り減らしていた。
その中でとある情報を耳にする。あるポイントで加速研究会が現れる、と。

オレは真っ先にそのポイントに向かった。全ての元凶である奴らを倒せば先輩の死は無駄ではなかったと証明出来ると信じていたから。

しかし所定の場所、所定の時間になっても奴らは一向に現れなかった。
当然だ。
これは所謂ガセ情報。所定ポイントの座標を見れば馬鹿でも判る偽情報。その判断が出来ない程精神は磨り減っていた。

『━━鴉さん。いえ、シルバー・クロウ』

旧東京タワーの頂きで、後ろから摩耗した記憶の中と同じ懐かしい声が聞こえてくる。

『…まだ僕をその名で呼んでくれるのですね……師匠』

後ろに振り返る。
そこには記憶と寸分変わらない笑顔。
かつて黒のレギオンの副長を務めていた、<空を見下ろす者>━━

━━スカイ・レイカーの姿がそこにあった。

しえ

師匠キター

かつてオレに心意システムを授けてくれた師が悠然と立っている。
その背中に強化外装<ゲイル・スラスター>を装備して。

『…レイカー師匠、何故僕を騙してまでここに…』

『今の貴方なら騙し騙されは専売特許でしょう?……サッちゃんが今の貴方を見たらどう思うかしら…?』

『……いくら貴女でも僕の前で先輩の名を口にするのは許さない』

『クロウ、貴方何様のつもりですか。まさか今更になってサッちゃんの彼氏気取りですか』

明らかに侮蔑した視線を向け挑発してくるレイカー。
しかしその程度じゃ何も感じない。

『……話しはそれだけですか?ならもうここに要は無い』

話しは終わったとばかりにレイカーの脇を抜けようとするがその前に立ちはだかれる。

『待ちなさいクロウ。この世界に闇を振りまく貴方をみすみす行かせると思いますか?』

『押し通る、と言ったら?』

『…力尽くで止めるまでですッッ』

言葉を言い終えるやいなやレイカーは持ち前の身軽さと強化外装の出力を乗せたハイキックを繰り出す。

『……くッ』

必殺の威力を込めたであろうその脚には心意システムの発動を表す<オーバーレイ>がはっきりと輝いていた。
しかしその必殺は空を切る。レイカーの顔には苦渋が浮かぶ。

『…師匠、貴方の攻撃が僕に当たる事はもはやありません』

オレのレベルは9。対しスカイ・レイカーのレベルはあの頃と同じ8。同レベル同ポテンシャルが原則のこの世界でレベル差がある場合それが覆る事は万に一つもない。

『先輩は言いました、僕ならまだ見ぬ先に行けると。だから僕は止まる訳にはいかないんです』

その言葉と共にオレの身体が光に包まれる。
かつて師匠と慕い、共に戦場を駆け抜けた仲間スカイ・レイカーを倒す為に、思い出と決別する為に力を発動する。

一迅の風が吹いた。

風が過ぎ去った痕にはcgグラフィックの残滓が輝いていた。
アバターが死んだ時特有の光。

━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━
━━━━
━━


これでネガ・ネビュラスの生き残りはオレとメイデンだけ。しかしネガネビュの駆逐が始まって既に随分の時がたった。もはや生きてはいないだろう。

今思えばオレのミスから始まったこの戦いも随分の時が過ぎた。現実では1年と少ししか経っていないがこの世界では一千年以上の時が経っている。
この世界で過ごし続けているオレの精神と記憶は摩耗しきり、もはや何の為に戦っていたのかもあやふやだ。
だがそれももう終わる。

この一年でやっと突き止めた情報。
issキット本体が隠されているポイントであり、
そして最後のレベル9がいるポイントだ。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom