夏凜「届いたわ友奈!東郷があんたに凄く依存する装置よ!」 (226)

→初めから
  続きから


※某所より 遅筆マックスやからこっちでやるんやで!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420169746


夏凜「使い方はこう、対象に先っちょを向けて」

友奈「ほう!」

夏凜「ボタンを押すだけ…わかった?」

友奈「ほうほう!」

夏凜「なんでも霊的なアレが勇者の適性を持つ者にアレして…どうにかなるらしいわ。詳しくは知らないけど」

友奈「へ~大赦のぎじゅつってすごいね~」

友奈「でもなんでこんなのが?」

夏凜「もとは言うことを聞かない勇者をコントロールして、操り人形にするためのものだったとかで…」

友奈「うへぇ」

夏凜「流石にイカんでしょってことでお蔵入りになったものを、兄がこっそり引っ張り出してきてくれたのよ」

友奈「そうなんだ~…うーん、ちょっと怖くなってきたなあ」

夏凜「今さら何よ…解除ボタンはこっち。後遺症はないらしいから安心して」

友奈「そ、そうなんだ…」


友奈「なんかあれだね…大赦の人が言うとなんとなく逆に不安に感じるね…」

夏凜「た、確かに…」

期待

届いたって事は、誰が開発したんだ………

友奈「いきなり東郷さんに使うのもなぁ…うーん…」

夏凜「まあこれに関しちゃ嘘ついて大赦が得することもないし…大丈夫よきっと」

友奈「ちょっと貸して?」

夏凜「ほい、落とさないでよ」


友奈「えへへ~」

夏凜「…なんでこっちに向けるの?」

友奈「ごめんね夏凜ちゃん」

夏凜「なんで謝るの?ねえ友奈?友奈?」

友奈「先っちょをむけてスイッチを…こう!」ピピピピッ!!

夏凜「友奈!やめっ…友奈ぁああばばばばばば――ッ!!!」ビリビリビリビリ!!

シュウウウウゥウ…

夏凜「……」

友奈「おお…お…思ったよりすごい派手だ~…」

友奈「煙がすごい…わー、夏凜ちゃん未来から来たターミネーターみたいだよ~」

友奈「…じゃない!夏凜ちゃん!夏凜ちゃん!?大丈夫!?」ササッ

夏凜「……」

友奈「夏凜ちゃん!!夏凜ちゃーーん!!」ユッサユユッサ

夏凜「……のに…」

友奈「夏凜ちゃん!」

友奈「どこか痛いとこない!?かりんちゃ…」

夏凜「信じてたのに…」

友奈「…夏凜ちゃん?」

夏凜「信じてたのに…裏切られた…っ…」!ポロッ

友奈(泣いっ…!)サーッ

友奈「ご、ごめん夏凜ちゃん!本当にごめん!こんなにスゴイだなんて私思ってもなくて…!」


夏凜「…前座なのね」

友奈「えっ?」

夏凜「…やっぱりぃ…っぐず…私…わたしぃ…」ポロポロ

夏凜「しょせん…東郷の…!うう…前座でしかないんだぁ…うわぁああん…!」ポロポロ

友奈「えっ、え」

夏凜「なによ…なによぅ…東郷東郷って…うう…」ポロポロ

友奈「夏凜ちゃん?」

夏凜「友奈はいつも東郷ばっかり…ひっく、今回こそはって思ったのに…がんばって…頑張ってもってきたのに!」ポロポロ

夏凜「…けっきょく…!やっぱり東郷じゃない!もうイヤだぁ…ううああん…!」ポロポロ

友奈「夏凜ちゃん落ち着いて?」

夏凜「構いなさいよ、一緒に居てよ…!東郷だけじゃなくて私も見てよっ…!友奈!!」ガシッ

友奈「ぎゅむっ!」ギュウウゥ


夏凜「友奈ぁ…友奈…私の友奈…はむ」カプッ

友奈「タップ!!!タップだよ夏凜ちゃん!!!」バンバン

夏凜「はむ…ゆうふぁ…はむ…」カプカプ

友奈「かか夏凜ちゃんぐるじいい!あと耳たぶ噛むのやめへェエ!!」バシバシ




夏凜「友奈…友奈ぁ…」モソモソ

友奈「よーしよしよし夏凜ちゃんよしよし」ナデナデナデ

夏凜「んぅ…」モソッ

友奈(落ち着いてきた…かな?)

友奈「うふふ、頭撫でられるの好きなんだね~、夏凜ちゃんって」ナデナデ

夏凜「ん、好きなの…きもち…」

友奈「そっか~ふふ…かわいいね~、うふふふ」ナデナデ

夏凜「///…ゆ、友奈ぁ、友奈…すきぃ…」モゾモゾ

友奈「うわー嬉しいよ~!私も大好きだよ夏凜ちゃん!」ナデナデ

夏凜「ふぁあああぁ…//」トロン

夏凜「ゆうな…ずっと一緒に居て…」スリスリ

友奈「すごいんだね~」ナデナデ


友奈(すごい!スゴイ効き目だよ…!)

友奈(ちょっと効果が強過ぎる気もするけど、相手はあの東郷さんだ!むしろ丁度いいくらいかも?ふふ)

友奈(ほんとに大丈夫だよね?これ…ボタン押したらちゃんと戻るって言ってたけど)

友奈「…」

夏凜「ゆうな…ゆうな…ゆうな…」スリスリ

友奈「えいっ」ピピピピピピッ!


夏凜「ゆうな…ゆう…」スリ

夏凜「ゆ…」

夏凜「…」


友奈「夏凜、ちゃん?」ドキドキ

夏凜「ゆ、ゆ」ブルブル

友奈「湯?」


夏凜「ゆぅああああぁぁあああぁあキエエエエエエ!!」ド――ン!!


友奈「ぶええええ!!」ッズシャアアアア!!

夏凜「ゆ、ゆ、結城友奈…!よくも…よくも…!」ブルブル

友奈「いづづ…」サスサス

夏凜「よくも!!よくも騙したアアアアア!!騙してくれたわねええええ!!」ブンッ

友奈「うわぁ!」サッ スカッ!


夏凜「ひゃぁあ!?」コロリン

友奈「危ないよ夏凜ちゃん!どうしたの!?」

夏凜「わたしに…わたしに使うなんてぇ…一言も言ってなかったじゃない…!くううっ…!!」ワナワナ

友奈「あ~…ごめんね夏凜ちゃん?つい出来ごころ、というか…てへ」

夏凜「……」ワナワナ

友奈「あ、でもちゃんともとに戻ったみたいだね?良かったよかっ――」


夏凜「出来ごころで済ますなあああ!」ブーン!

友奈「ひえっ!」スカッ

夏凜「あ、あんな姿友奈に見られてぇ…うう、明日からどんな顔してあんたに会えば…えぐ」ポロポロ

友奈「えー?どうって別に普通で…というか今本人の」

夏凜「出来るかバカ友奈!!もう!!」

友奈「えぇー?」

夏凜「ううぅ…」ポロポロ

夏凜「あぁぁぁあぁ最悪…最悪だわ…なによあの機械いっそ記憶も奪ってよう…もうお嫁にいけないぃ…うう…」ポロポロ


友奈「あ、えっと…えっと…」オロッ


友奈「こ…根性だよ夏凜ちゃん!」ガシッ!

夏凜「キエエエエエエエ!!」ブンッ!

友奈「うひえええ!!」サッ スカッ!

にぼっしーちゃんかわいい

夏凜「ひゃああうっ」コロリン

友奈「なんかさっきから転がってばっかだね」

夏凜「う…うるさいうるさい!腰が抜けて立てないのよ!」

友奈「へぇ~そうなんだ!」


友奈「そっかぁ…」

クルッ!スタスタ

夏凜「ちょ…友奈?」

ガララッ!

夏凜「ちょっと…ちょっと!あんたどこ行くつもり!?」

友奈「…さっきまでのことは本当にごめん、夏凜ちゃん」

夏凜「…友奈」

友奈「今はちょっと夏凜ちゃん冷静じゃないみたいだから、ね?埋め合わせは次に会った時に絶対するから」

夏凜「友奈?」

友奈「うどんでいいよね?」

夏凜「友奈…あんたまさか…」


友奈「…私、やらなきゃいけないことがあるから」

夏凜「友奈ぁ!!」

友奈「引き留めないで夏凜ちゃん!」

夏凜「留めるわ!!あんたこの状態のあたしを放っぽって行っちゃう気なの!?」

友奈「もうすぐ風先輩たちが来る時間だから大丈夫だよ、なんとかなる!」

夏凜「お――い!!」

夏凜「あんたこれ誰のせいだと思ってるのよ!?ちゃんと最後まで面倒見なさいよ!」

友奈「後ろは振り向かない」スタスタ

夏凜「1人にするなっ!すっ…するな…」

夏凜「しないで…!しないで下さい!戻ってきてぇ!もうぶったりしないから!!友奈ぁ!!」

友奈「辛いこともあるけど、歩みを止めちゃいけない!なるべく諦めず、一歩ずつ前へ!」スタスタ

夏凜「待って!!せめて!せめて椅子か何かに置いていってってば!!」



友奈「だって私、勇者だから!」

ガラピシャン!!


夏凜「ゆっ…」

夏凜「…」


シーン…


夏凜「ううぐぐ…ち…畜生…ぐれてやる…!ぐれてやるもん…ううう…!」ポロポロ

タタタタタ!!

友奈「待ってて東郷さん!」


「コラ――ッ!!廊下を走っちゃイカン!!」


友奈「ひえっ!ご、ごめんなさいごめんなさ…ってアレ?」


風「危ないじゃろうがー!…てね?へへ、似てた?」

友奈「…風先輩?樹ちゃんも」ドキドキ

樹「お姉ちゃんてば…いきなり怒鳴るからびっくりしたよ…」

友奈「ほ、ほんとですよ、もー!」ドキドキ

風「すまんすまん…でもそんな急いでどうしたの?」

友奈「え…あ~…東郷さん迎えに行かなきゃって、つい焦っちゃって」

風「東郷?そういえば補習受けてるんだっけ」

友奈「そうなんです。脚が良くなったから、体育の履修義務があるとかなんとかで」

風「げ、体育の頑固オヤジとマンツーマンか…」

友奈「東郷さん疲れてるだろうから、迎えに行こうって思ってたのつい忘れちゃってて」

風「…そうかそうか、良し許す!でも早歩きくらいにしとかないとほんとにどやされても知らないわよー?」

友奈「えへへ…ごめんなさい!じゃ私行きますから!」

スタタタ…


風「全く健気ねえ…よし、私たちは先に部室行ってますか」

樹「うん!」

スルスル…パサッ

東郷「はあ…」ヌギヌギ


ガララッ!!

友奈「東郷さーん!!」

東郷「ひっ!?ゆ、友奈ちゃん!?」

友奈「あっごめんね、御着換え中だったかー」

東郷「びっくりしたわ…誰も来ないと思ってたから」

友奈「えへへー、面目ない」


東郷「…あれ?そういえば友奈ちゃんどうしてこんなところに?忘れ物?」

友奈「えっと…大したことじゃないんだけどね?…敬っ!」ビシ

東郷「!?」

友奈「――不肖結城友奈!東郷さんのお迎えにあがりました!」



プシュッ!

東郷「んっ…」コクコク

東郷「ぷぁ…ありがとう友奈ちゃん、お茶まで持ってきてくれて。助かったわ」

友奈「水筒を教室に忘れたー!なんて、結構東郷さんもおっちょこちょいだね~」

東郷「ふふ…そうね。友奈ちゃんと一緒だわ」

友奈「そ、そうかなー?あはは…」


東郷「…」

友奈「…」


ミーンミンミンミンミン…

カキーン…    

ファイッ オー! ファイッ! オー!…

友奈「…脚」

東郷「ん?」

友奈「治ってよかった。本当に」

東郷「…うん、友奈ちゃんも」

友奈「でも、もう東郷さんのお世話が出来ないって考えると、ちょっと寂しい感じもするんだ」

友奈「…特にお着換えとか」チラリ

東郷「も、もう…!」

友奈「なんちゃって、えへへ」

ミーンミンミンミン…

東郷「…いつまでも、友奈ちゃんに頼ってるわけにもいかないから」

友奈「…東郷さん」

東郷「体育の補習をお願いしたのも、実は私からなの。足腰を早く鍛えて、友奈ちゃん達の隣を歩くためにって」

友奈「…」

東郷「守られるだけじゃなくて、守る私になるために。勇者の力なんてなくたって、ね?」

友奈「…そっか」


カンッ

東郷「お茶、ありがとう友奈ちゃん」

東郷「次からは大丈夫だから。いつも迎えに来てもらってたら悪いもの」

友奈「…」

東郷「こう見えても私、1人の時はずっと車椅子を手で動かしてたから、スタミナはあるの!」ムンッ

友奈「は、は…」

やっと見つけたぞ
VIPでするんじゃなかったのか?

友奈「…東郷さん、ちょっとそのまま座っててくれる?」スック

東郷「?」


スタスタ ポサッ

東郷「ゆ、友奈ちゃん?」

友奈「…ここ、この位置だよ。東郷さんは私の前で、二人とも同じ方を向いてて…車椅子を押すのは私」

東郷「…」

友奈「東郷さんが元気になるのは嬉しいよ?でも私バカだから、ちょっと混乱しちゃってさー」

友奈「そうそう。東郷さんって私より背が高かったんだね~!」

東郷「ふふ、意外だった?」

友奈「えへへー、かなり!」

友奈「…そんな東郷さんだから、すぐに私なんか追い抜かして、先に行っちゃって、すぐに見えなくなっちゃうんだろうって」

友奈「すごく怖くなった」


東郷「…友奈ちゃん?そんなことは…」

友奈「だからさ」



友奈「ごめんね?東郷さん」

ピピピピピピッ!!

ミーンミンミンミン…

ファイッ オー! ファイッ! オー!…


東郷「…」

友奈「…」ゴクリ


東郷「…」

友奈「…東郷さん?」


東郷「…――ふぁいっ!?」

友奈「ぎょっ!?」ビクッ


東郷「…はっ!?あ…ゆ、友奈ちゃん?」

友奈「ど、どうしたの?急に…」ドキドキ

東郷「ん…?あれ…何かしら…突然ぼんやりして…ごめんなさい、何の話だったっけ」

友奈(…あれ?)

友奈「東郷さん…何ともないの?」

東郷「立ちくらみかしら…やっぱり久しぶりの運動だったから…」

友奈「あのー?」

東郷「ごめんね友奈ちゃん、ちょっと先に部室に行っててくれる?」

東郷「もうちょっと休んだら私も行くから」

友奈「え…で、でも東郷さん…」

東郷「大丈夫、心配しないで…お行きなさい!さあさあ!」ガシッ

友奈「!? わっ…ちょ!と、東郷さん!?」グイグイ

グイグイ… ポイッ!  

友奈「わっとと…!」フラッ

バタンッ

友奈「! 東郷さん、待っ…ええー!そんなぁ!開けてよー!」ドンドン


オーイ!トウゴウサーン…!  

東郷「……」

来てたか期待




友奈「……」フラフラ

友奈(し…失敗した?失敗した失敗した失敗した失敗した…)


友奈「なんで…ちゃんと煙も出てたし、機械の動く音もしたし」

友奈「夏凜ちゃんの時はうまくいったのに…なんで…何で何で…」

友奈「こ、こんなのってないよ…あんまりだ…」

トボトボ


風「居たッ!!友奈――!!」ドドドド

友奈「…あ、風先輩」

風「あれ?東郷居ないじゃない?…じゃなくって!どういうことよ友奈!?部室に行ってみれば夏凜が…夏凛が!!」ガシッ

友奈「夏凜ちゃん…?」

風「あんたの名前と何か…呪詛?みたいなのを延々と繰り返す壊れたスピーカーみたいになってて…」

友奈「それはひどい」

風「とりあえず途切れ途切れにあんたがなんかしたってことだけ聞きとれて…ともかく来なさい!」

そこからのことはよく覚えていません。

聞きかじったところによると、部室では…椅子に座って焦点の不確かな目で何事かをブツブツ呟く私を、夏凜ちゃんが体育ずわりで黙ってじーっと睨め上げていたとか。

その光景に樹ちゃんが大泣きして、風先輩はオロオロして、結局東郷さんは部室に来なかったとか。


なお、現在ではその日のことは勇者部一同結託し、なかったことにしています。

危惧された夏凜ちゃんとの関係も、特に変わることはありませんでした。機械の返品を求められたことも有りません。

ただあれからというもの、ふとした瞬間に夏凜ちゃんと目が合うことが多くなった気がします。

チラチラとこちらを伺う夏凜ちゃんですが、目が合った瞬間ぷいっと顔をそむけてしまいます。

真っ赤に染まった頬が正直いじらしいです。すごい!


東郷さんの一件に関しては…当時「機械の故障」ということで私の中では落着しており、失意の底にあった私は、それ以上鑑みることをしませんでした。


思えば…私はあの時、『依存』という言葉の意味について、もう少し考えてみるべきだったのです。

少し考えれば分かることですが、霊的な機構によって働き、ほぼ軍事レベルの精度で設計されたあの機械が一回使っただけで故障するなど、そうそう起こることではなかったのです。


依存にはいろいろな形があります。

東郷さんにとっての『依存』とは一体何なのか。私はまず真っ先に親友の精神のカタチについて、隅々まで考えを巡らせるべきだったのです。


愚かな私は…そのとき地獄の釜底がほんの少し顔を見せたことにすら気付かず、考えることをやめてしまったのです―――

キーンコーンカーン…


カパッ

東郷「はい、友奈ちゃん。今日の分のぼた餅よ」

友奈「わーい!東郷さん大好き!」


キャッキャ

夏凜「…最近毎日食べてない?流石に太るわよ…?」

樹「あはは…」

風「世話焼き夫婦っぷりがいよいよ板に付いてきたわね…とうごーう!私の分は?」

東郷「風先輩達の分はこっちです」

コトリ

風「…え?なんかちっちゃくない?」

東郷「そんなことないですよ」

風「愛情分ってことかー?世知辛いわー…トホホ…」

樹「でもこのサイズなら太らないからいいかも?はむ、はむ…」モグモグ

夏凜「………」じっ…


東郷「友奈ちゃんはい、あーん♪」

友奈「あーん…むぐ…んんおいひい!」モグモグ

東郷「うふふ」


夏凜「…ほんとに『毎日』になったわね…もぐもぐ」


風「どったの夏凜?じ-っと見つめて…まさか羨ましいとかー?ぐふふ」

夏凜「なんっ…!違うわよ!なんでそうなるのよバカバカしい!」

風「ムキニになるとこがあやしー!」

夏凜「小学生みたいなこと言ってんじゃないのよ!」

ギャーギャー

樹「ごちそうさまでした!」

風「じゃあねー」

樹「さよなら!」

友奈「ふたりとも気をつけてねー!」


東郷「また明日ね、友奈ちゃん」フリフリ

夏凜「……」



テクテク

東郷「私ひとりで家について来てほしいなんて、珍しいですね?夏凛さん」

夏凜「それは友奈払いの理由というか…まあ、ちょっと聞きたいことがあるだけだから。家に付く前に終わるわよ」

東郷「…そうですか」

東郷「なら丁度良かった、かな?私も夏凛さんに少し言いたいことがあったから…」

夏凜「へー?東郷が私に?それこそ珍しいわね…」

テクテク

テクテク


夏凜「東郷、あんた…最近友奈に何かされなかった?」

東郷「最近?ちょっと漠然とし過ぎてて…どういうことかしら?」

夏凜「んー、えっと…何て言ったらいいか…」

夏凜「突然ビリっときたら…こう、世界の何もかもが友奈色になっていたというか…」

東郷「…」

夏凜(い、いやこれじゃとんでもない変態みたいだわ…もっとこう…あるでしょ私!)ブンブン

東郷「…ないわ」

夏凜「…い、いや!何を言ってるのか分からないと思うけど私も何を…え?」

東郷「言いたいことは分かったから。でも、『最近』では心当たりはないわね…そういうことは」

夏凜「そ、そう…」

夏凜(伝わったのか…)

テクテク

東郷「他には?それだけ?」

夏凜「えっ!?あ…ああ、うん…」

夏凜「ん…悪かったわね、急に変なことで呼び出して」

東郷「いえ、それはいいんだけれど…何故?」

夏凜「…」



夏凜『///…ゆ、友奈ぁ、友奈…すきぃ…』



夏凜「―――邪ッ!!」ドゴム!!

東郷「えっ…夏凜ちゃん?」

夏凜「私の!中から!出ていけええ!!」ドゴムドゴムダダドムゥ!!

東郷「夏凜ちゃん?血が出てるわ…頭大丈夫?夏凜ちゃん?」

フキフキ

夏凜「見苦しいところを見せたわね…ハンカチ、洗って返すから」フキッ…

東郷「い、いえ…差し上げるわ」

夏凜「ふう…そういえば答えてなかったわね。さっきの問い」

東郷「?」

夏凜「呼びだした訳よ。『なぜ』って言ってたでしょ…自分で」

東郷「ああ」


夏凜「ちょっと、あんたの様子が…その、前と変わって見えたから」

東郷「…」

夏凜「ちょっと前までの東郷はこう…前向きでおーぷんだった。体育のあれとか」

東郷「…」

夏凜「身体だけじゃなくて、社会的にも友奈に近づこうって心意気があった。風と一緒にニヤニヤしながら見守ってたの、あんたは気づいてないでしょうけど」


夏凜「…それが、さ…ここ数日の東郷には無くなってる気がして…」

東郷「…というと?」

夏凜「友奈にべったりじゃない?最近。なんというかたぶん…悪い意味で」

東郷「……悪い意味……」


夏凜「うん。視野狭窄というか…視界の全部が友奈になっちゃって、他の事が目に入らなくなってる感じ…」


東郷「……」


夏凜「…ごめん。変なこと言った。あんただって何となくでこんなこと言われたくないでしょうけど、でも…」



東郷「…違うわ、夏凜ちゃん」

夏凜「え?」

東郷「悪い意味?とんでもないわ…これは進歩。いや、進化といってもいい」

夏凜「うん?」

東郷「視野狭窄?有り得ないわ。むしろ逆……これは覚醒よ」

夏凜「…」


東郷「一番大事に思ってて、何よりも尊くて、まあそれは前からなんだけど、今にして思えば全然足りなかったの」

東郷「愚かで済ますには重すぎる。気付かずに過ごした時間の無駄なこと!絶対不変の価値観!真実!!それに気付いたのはあの時、あの瞬間だった…!!」

東郷「済みきった視界から見える本当の世界は…なんて…なんて素晴らしいのかしら…!!」ブルブル

夏凜「とう、ごう…?」



東郷「っふっくく…うふ、あはははは……・!!うふふふふ…!」ブルブル


夏凜「―――!」ゾワッ…

東郷「友奈ちゃん!友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん…!!ああっ…!そう!!友奈ちゃんなのよ!!全てはぁ!!」

東郷「友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃんあはっ!あははははははははははっ!!」ケラケラ


夏凜「―――」

夏凜(何言っ…笑っ…目の前…の…東郷?いや…違う…『誰』?…いや…違う…)クラッ…


東郷「あはっ!!はぁ!!くふっ!夏凜ちゃん!ねえ!?あなたもそう思うでしょ!?ねえッ!!あは!!そうでなきゃ…っふふふ、狂ってるもの!!きゃははははは!!」ゲラゲラ


夏凜(これは…一体…)クラクラ

夏凜(……『何』……?)クラクラ



東郷「ねえ」



ガ シ ッ



夏凜「――っひ――」


東郷「そう思うでしょ?夏凜ちゃん」

東郷 『そう、そういえば私の言いたいことがまだだったね』

東郷 『夏凜ちゃん、夏凜ちゃんは友奈ちゃんに近過ぎる。夏凜ちゃんの最近の目線、友奈ちゃんに行ってること、知ってるわ。あなたは気づいてないでしょうけど』


ギュウウゥ…ッ!


東郷 『これだけは覚えておいて』

東郷 『全て友奈ちゃんは私のもので、全て私は友奈ちゃんのもの』


東郷 『友奈ちゃんに余計なことを吹き込んだり、良からぬ事をしでかした時には――――』




東郷 『   殺 す か ら   』

夏凜「――――ッあ!!あああぁぁあああぁあぁぁああぁぁ!!!」ガバッ!!


夏凜「はあっ!!はあっ!!は…!あ、あれ…!はっ…」

夏凜「はあ…何ここ…?べ、ベンチ…?公園の…?」ダラリ

夏凜「は…はあああぁ…あ…」ダラダラ


夏凜「ゆ、夢…?何時の間に寝てたのかしら…なんちゅう悪夢を…」スッ


パサッ


夏凜「…」

夏凜「血…血のついた…はんかち…」ブルッ

夏凜「…は…はあ…!はあっ!はっ!!」ガバッ

スルリ

夏凜「あ、痣が…」


ヘナッ…

夏凜「東郷に…東郷に…握られたとこだ……」ペタン

 タタタタ ガチャ! …バタン!

夏凜「はあ!はあ!…うえっ…!はあ…」ドタドタ ドサッ

夏凜「つ…伝えなきゃ!友奈に!今の東郷は普通じゃない!」

夏凜「そうよ!す、スマホッ!」ゴソゴソ


東郷 『友奈ちゃんに余計なことを吹き込んだり――――』


夏凜「……!」ピタリ

夏凜「じょ…冗談じゃない!友奈が危ないって時に保身なんて…!」ブンブン

夏凜「SNSは東郷にも見られる……!電話なら!」


prrrr…

ガチャ!

「……はい」

夏凜「! もしもし友奈!?」

「…」

夏凜「急にごめん、でも急ぎなの!何も言わずに質問に答えて頂戴!」

夏凜「あんた私にア…アレをした日に!あの後あの機械を東郷に―――」

「私が?私がどうかしたのかしら」

夏凜「使っ…え?」

「…」

夏凜「その声…東、郷」

「…ええ」

夏凜「な、なんで…」ブルッ

「何でって…私と友奈ちゃんのお家は隣なのよ?」

夏凜「あ…」

「晩御飯くらい一緒する仲でも…別におかしくはないでしょう?くすくす…」

「…夏凜ちゃん」

夏凜「う、うう…!」

「あなた…さっき私が言ったことを―――」

夏凜「ひ…ぃっ!わあああっ!」ポイッ!

ガンッ コッ  プツッ… ツー ツー…



東郷「……」スッ

ガチャ

友奈「ふう~」

東郷「あ、おかえり友奈ちゃん」

友奈「いや~東郷さんちのおトイレはいつ見ても綺麗だね!私感動しちゃうよ!」

東郷「そういうことは報告しなくてもいいのよ?」

友奈「あれ?電話?東郷さん代わりに出てくれたの?」

東郷「ええ…夏凜ちゃんから。でも風先輩と間違えたって」

友奈「そっかー夏凜ちゃんデジタル弱いもんね…ありうる!」

東郷「ええ、ほんとに…」

東郷「おつむまで弱いようね」ボソ

友奈「え?何?」

東郷「…さ、こっちに座って?御飯のあとは…御勉強の時間です!」ポンポン

友奈「う…うひゃー、お手柔らかに…」

東郷「ふふ…」

夏凜「……」ぼふっ!


夏凜(落ちついて…冷静に!冷静になるのよ三好夏凜…!)ギュッ

夏凜(東郷がえらいことになってるのは多分あの碌でもない装置のせい…)

夏凜(なら話は簡単よ…どこか東郷の目が届かないタイミングで友奈にぜんぶ話して、すぐに解除ボタンをおさせればいい。それだけ)

夏凜(電話はダメ…しかし焦ることはないわ…ぜんぜんない… 学校、そう学校よ!待てば必ず機会は訪れるはず!)

夏凜(問題は…やっぱり東郷に見つかったとき…)

夏凜(今の東郷をいつもの東郷と思ってはいけない…!『やる』と言ったら『やる』目だった…!あれは…)ブルッ

夏凜(おそらく電話の一件でただでさえ私はマークされているだろうし…もし失敗して、東郷にターンが回れば…)


夏凜「……」


夏凜(い、いや!ダメよ三好夏凜!何よ悪い想像ばっかり私らしくもない!勇気と根性さえあれば大抵なんとかなる!)ブンブン

夏凜「勇者部!!みよしかりーん!!ファイト――ッ!!」ガバッ!



キーンコーンカーン…

きりーつ、礼!神樹様に…拝!


夏凜「…」チラリ

友奈「…」


夏凜「…」チラ

東郷「…」


夏凜(今のとこ何も変わったところは…ない…わよね?)

夏凜「…」ギュッ


夏凜(守って見せる…友奈も東郷も…!今度こそ、私の手で!)

先生「――…よしさん…三好さん?」

夏凜「!? あっ…はいっ!?」ビシッ

先生「着席の号令、聞こえませんでしたか?」

夏凜「えっ…あれ…あ!ご、ごめんなさいっ!」ドサッ

ハハハ… クスクス…

夏凜「く、くう…っ//」

先生「まったくもう。ボーってしてないで?ほら、次は家庭科だから移動ですよ!」


友奈(夏凜ちゃんぼーっとしてたな…なんだろ?)ポケ~

夏凜「ぐ、ぐくく…!」キッ

友奈「えっ…何で私睨むの!?」


東郷(…)

カチャカチャ… トン  ハハハ…

友奈「料理実習です!」ジャンッ!

夏凜「東郷はともかく…友奈!」

友奈「はいっ!」シャキッ

夏凜「こうして3人同じ班になった以上、一番の不安因子はあんたよ!くれぐれも足を引っ張らないでよね!」

友奈「いえす、サー!夏凜ちゃん!」ビシ

友奈「あれ?でも夏凜ちゃんもあんまり料理上手じゃ……」

夏凜「シャラップ!!」

友奈「あひ!!」

東郷「あらあら…まあまあ」ニコニコ


夏凜(…ひとまず何時も通りにふるまって、東郷の警戒を解く)

夏凜(私は何も見なかった!怖いのでもう口出しなんてしません…という感じを演出しつつ、ただ待つ!これが今私が打てる最善手!)


先生「この実習では包丁など刃物を使います。取り扱いには気をつけるようにー!」

ハーイ!

カチャ カチャ  コトン ワイワイ…

トントントン…

夏凜「……」チラチラ


友奈「うー、ジャガイモなかなか剥けないよ~!」ガッチョン ガッチョン…

東郷「友奈ちゃん、ピーラーの構え方はそうじゃないわ。貸してみて?」

友奈「そうなの?はい」

東郷「こうして…こう!」シュウッ

友奈「ほう!」

東郷「こうこう!!」ヂュワッ!

友奈「ほうほう!」


トントントントン…

夏凜(平和ね…そして予想通り東郷は友奈にべったりだわ)

夏凜(まあまだ初日よ…そう簡単にチャンスなんて巡ってくるはずがない…ここは辛抱の時よ、私!)

トントントンドッ!!

夏凜「あ痛づっ!!」カタン!

ジワリ…

友奈「夏凜ちゃん?」

夏凜「くっ…不覚だわ、指切っちゃった…」ポタ…


東郷「大丈夫?」カタリ

友奈「あちゃー血がでてるよ~…保健室いこう?」

夏凜「大げさね。平気よこのくらい…ちゅぅ」

東郷「でも、一応消毒くらいはした方がいいわ」

友奈「そうだね…あ!2回の手洗い場に消毒液がある筈だから、そこで!」

夏凜「んな配置までよく知ってるわねあんた…ちゅぅちゅぅ」

友奈「えへへー、勇者ですから!…あ、夏凜ちゃん舐めちゃダメだよそれ逆効果だよ!」むんず

夏凜「え…そうなの?」

東郷さんパネェ

東郷「2階ね。夏凜ちゃんは場所が分かってないみたいだし、友奈ちゃん連れて行ってあげて?」

友奈「がってん!東郷さんはお鍋の火を見ててね!」

東郷「はーい」


夏凜「ちょ、ちょっと…それくらいひとりで…」

友奈「じゃあ…すいませーん!先生!夏凜ちゃんがケガしちゃったんで外で消毒してきまーす!」


ザワッ…

夏凜「ぎゃああああああなんでいちいち叫ぶのよ小ッ恥ずかしいいぃ!」ぺしっ!

友奈「あいてっ!?」


東郷「ふんふ~ん♪」トントントン…

ジャ――――…


友奈「…だからね、口の中なんてどんなばい菌が居るかわかったもんじゃないんだから!」

夏凜「うるさいわね!も、もうわかったわよ!」

夏凜(くっ…今日は厄日だわ…!)

夏凜(それもこれももとは東郷の…!)

夏凜(東郷…あれ?)

夏凜「…」


友奈「十分洗えた?じゃこっちの消毒液…」

夏凜「…ふたりっきり?これってチャンスじゃない?」ボソ

友奈「ぁえ?」


夏凜「…ゆ、友奈!」ガシッ!!

友奈「ふぁっ!?か、夏凜ちゃん!?」ギョッ

夏凜「わ、私!あんたに言っておかなきゃならないことが!!」グググ

友奈「なに!?なになんなの夏凜ちゃん!?」

夏凜「いきなりで困惑するかもだけど答えて頂戴!大事なことだから!落ち着いて聞いて!」グググ

友奈「落ち着いて!落ち着いて夏凜ちゃん!!」ペシペシ


夏凜「あんた前のあのこと覚えてる!?例の装置を私に使った日!」

友奈「覚えてる!覚えてるから!愛の告白はもうちょっとムードを保ってやってほしいな夏凜ちゃん!!」ペシペシ


夏凜「あんたあの時一番の目標は東郷だって言ってたわね!?」

友奈「言いました!ごめん!!ごめんよ怨んでるよね夏凜ちゃあああぁ!!」ペシペシペシ

コツ… コツ…

夏凜「『使った』のよね!?あの装置を!!あの後に!」

友奈「う、うん?えっとぉ…?」ペシ…



コツ… コツコツ…


夏凜「そうじゃなきゃおかしい…おかしいもん…!あんな東郷…」ブルブル

友奈「とうごうさん?え?夏凜ちゃん…?」



夏凜「…友奈!!友奈ぁ…!あの時からなの!理由はそれしかない!それしか考えられない…!」ガシッ… ズルリ


友奈「わっと…!?」フラッ

夏凜「東郷がおかしくなったのは、絶対あの―――!!」




コツッ… コツンッ

カツ――ンッ…



「私が」


夏凜「あの、あ――――――…あ、あぁ……」

友奈「あれ?あれはもしや…」



「何だっていうのかしら?」


夏凜「と、と、と…!!とう、っと、と…!!」ガタガタ




東郷「その話…私も聞きたいな、夏凜ちゃん……」ニコッ…


友奈「わー、東郷さん!」

夏凜「とう…ごうぅ………!!」ヘナヘナ


ヒュウウウウゥ…… ゴオオオオオォ…

友奈「東郷さんも来ちゃったんだ!助かっ…じゃない、お鍋は見てなくて大丈夫なの?」

東郷「ええ平気よ…他の班の子に見てて貰ってるから」


夏凜「なんっ…なん…!なんで、東郷…あんた…っ!!」ガタガタ

東郷「…友奈ちゃんの事を先生が呼んでたから、呼びに来たの。夏凜ちゃんは任せて、先に戻ってて?」

友奈「わー、わざわざ伝えに来てくれたんだ。ごめんね?」

東郷「いいの。…それに私自身も…」


東郷「…『ばい菌』が……気になったって言うのも…あったから…ね…?」スッ

ジッ…

夏凜「っ、ひ…!」ガタガタ


友奈「そっかぁ…ふふ、なるほど!やっぱり東郷さんは優しいや!」

東郷「もう、照れるわ」

友奈「そういうことなら…夏凜ちゃんのことは宜しくね!まだ消毒終わってませんので!」

東郷「ええ。あと…ちょっと夏凜ちゃんの様子がおかしいから、やっぱり保健室に連れてくわね」

夏凜「………!」ガタガタ

友奈「え?あ…ほんとだ…なんか震えてない?大丈夫?」

夏凜「ゆ、ゆう、ゆうなぁ…!ひ、ひとりに…しな…!」ガタガタ


友奈「気付かなかったよ、ごめんね…でもいきなりどうしたんだろ?心配だよ…」

東郷「私が責任持って連れて行くから。さ、友奈ちゃんは行った行った!」

友奈「う、うん…夏凜ちゃん!無理して戻ってこなくてもいいからね?またあとで保健室に迎えに行くから!」


タタッ

夏凜「…あ…っ!」ガタガタ


スタタタタタ…

夏凜「あ…あぁぁ…」ブルブル

東郷「さてと」

ガッ!!

夏凜「ひぐっ…!」


ドンッ!  メキメキ…

夏凜「が、ぁ…あぐ…!」


東郷「騒がないで、振り向くな。無理に身をよじると腕が折れるわよ」グググ

夏凜「う、うう…」


東郷「どうにも動きが不自然だから、餌を撒いてみたら…案の定ね。あんな分かりやすい罠に…」

東郷「にぼし女は脳ミソのサイズまで小魚並かしら?…嗚呼ッ!おぞましい!!」

ミキミキ…!

夏凜「う、ああっ…!あ!!と、東郷…!」

東郷「友奈ちゃんに…何を吹き込もうとしたッ!!」

ガシッ!

夏凜「痛っ…!髪…い、嫌!離しっ…」


東郷「―――言えッ!!」ブンッ!

ガンッ!!

夏凜「あぐっ!」


東郷「言えッ!!言えッ!!言えぇ!!」ブンッ!ブン!

ガンッ!ガンッ!

夏凜「やめ…がっ!!やめへ…ああぁぐっ!!」


東郷「私の!!友奈ちゃんを!どうする気だッ!!この腐れにぼし…がぁッ!!」ブンッ!

ガーンッ!!

夏凜「ぎゅぅっ!…うぐ、っく…ぅ…うぅ…」ポロポロ

東郷「はぁっ!!はぁ!はっ…はぁ…ふーっ…」


夏凜「ひっぐ…っう…ぁう…」ポロポロ


夏凜「…う…!」ポロポロ

夏凜「と、東郷…!うう…っ!」ギュッ

夏凜(ダメ…だめだ…!ここで押し負けたら…友奈は…東郷は…!勇者部は…!)


ググッ…!

夏凜「…東郷…き、聞きなざい…!」

東郷「…」

夏凜「あ”…あんたは…おかしくなってるの!う…自分で分からない…?っふ…普通の東郷なら…絶対こんなこと…しないッ!」

夏凜「ほんの少し!ほんのちょっとで良いから友奈に話をさせて…そしたら全部、元通りに…!」

東郷「…噛み合わないわね。阿呆に何を言っても無駄か」

夏凜「東郷!とうごうッ!!お願いだから…冷静に話を…!!」

東郷「まあいいわ」スッ


キラッ


夏凜「ぁえ?」

東郷「もとを断てば関係ないものね」


グッ

続ききてたのか

プスッ


夏凜「あっ」

東郷「…ねえ、分かる?あなたの背中に、今何が刺さってるか」


夏凜「は…はぁっ!はぁ!」サーッ…


夏凜「―――う!うぁッ! とうごっ」

東郷「…嫌ね、まだ先っちょだけよ?」

東郷「そんなに慌てないで…」


ズブ…


夏凜「あ!っひ!ぁぁあぁああッ…!!」ビクビクッ

東郷「大きい声を出すなって…言わなかったかし…らっ」

クリッ


夏凜「!! い”っ…痛い!東郷やめてお願いだからぁ!やめてぇ!!」ガクガク

夏凜「やめて!やめてやめて止めてっ!!とうごう!これ以上はっ!しゃっ!洒落にっ!なっ、てない…からっ!!ああ…!」ガタガタ

東郷「洒落や冗談でこんなことをすると?私が?」


東郷「物狂いじゃあるまいし…あは」

夏凜「………う、うううぅ、ひゅ…!」ガクガク



東郷「くすっ…怖がり過ぎよ…そんなに痛がるほどかしら?まだ何センチも入ってないわ」

夏凜「ぁ、ぁあ」ガタガタ

東郷「…まだ唾でも付けておけば完治する程度の傷…でも」スッ

ツ…

夏凜「―――ひ」ゾクゾク

東郷「この下は、丁度腎臓…」

東郷「私がこのまま…ほんの少し…体重をかけてあげれば…」


ツツ――…


夏凜「あ、あああああぁぁぁ…、ぁ…!」ゾクゾクゾク

スッ

東郷「…なーんてね」


夏凜「へっ…あっ!?」グイッ!


ドンッ!  

夏凜「あぐぅっ!」ドサッ!


東郷「…帰してあげる。良く考えたら、夏凜ちゃんは未遂だもの」

東郷「『それ』はやりすぎだわ…ごめんね?くすくす…」


夏凜「あ、へ…あ…あぁぁ…」ガクガク

夏凜「ぁぁ…ぁ…」ヘニャ


チョロッ…

夏凜「!? あっ、やっ…ああ…!」



…ピチャリ

東郷「…呆れた」


東郷「もういいわ、もういい。色々萎えちゃった」

東郷「さっさと保健室にでも何でも行ってしまいなさい。まさか”それ”で授業に戻るわけにもいかないでしょう?」


夏凜「うっ、うぐ…」ポロ


夏凜「うう…!ううぅぅ…ううう」ポロポロ

東郷「さっさと居なくなって…私の気が変わらないうちに!」


ドン!


夏凜「ひぐっ!」ビクッ

夏凜「ぅ、ぁあ…うわぁああ…うわーん…」ポロポロ


ズルッ

夏凜「うわあぁぁーん…ひっぐ、うええぇぇ…」ポロポロ


ズッ ズッ…  ズルッ…


うわーん、っぐ…ぅぅぅ…


ズッ…




東郷「…」




東郷「…行ったわね」

クルッ!  カツッ カツッ…


東郷「…」

東郷(保健室に行った?いえ、違うわね…『三好夏凛』が『あの恰好』で大人の眼の着く場所に行くはずがない)

東郷(汚れたスカート、額に傷、服をめくれば背中には刺傷。そんなものが大人の眼に触れればどうなるか)

東郷(事情を正直に話せば…すなわち私の凶行が明らかになれば、勇者部が…友奈ちゃんが今までどおりの日常を送ることは不可能になる)

東郷(夏凜ちゃんの言葉から察するに、彼女は私が狂気か何かに取りつかれていると考えているのでしょう)

東郷(であるならば尚のこと、『東郷美森』の人生を破滅させるような行動は彼女にとって禁忌!都合のいいことに…!)


東郷(今、現実的に彼女が取る行動は…教室で着替えて…傷を隠しながら…家に帰って震えて眠る。そんなところでしょう)

ピタリ

東郷「…」

東郷(でも、困ったわ…夏凜ちゃん、生かしておいたらやっぱり友奈ちゃんにイヤナコトを吹き込むに違いないわ)

東郷(私だって友奈ちゃんを何時でも監視できるわけじゃない…夏凜ちゃん愚直なところがあるから、諦めずに…いずれ成功するかもしれない)

東郷「…」

東郷(…どうしよう…どうしよう…勇者部…夏凜ちゃん…)

東郷(夏凜ちゃん、夏凜ちゃ……友奈ちゃん…)

ドクン

東郷(…友奈ちゃん?)

東郷(…そうだ!仕方ないわね!友奈ちゃんの為だもの!)

東郷(死んでもらいましょう!そう!残念だけど仕方がないわ!友奈ちゃんきっと悲しむだろうけど、私と一緒ならきっと乗り越えられるはず!)

東郷(殺さなきゃ!いざという時の為に考えていたあのプラン!実行に移す必要がある…!)

東郷(友奈ちゃんを『保護』できて、夏凜ちゃんをバレずに抹殺できて、風先輩たちにも悟られないあの作戦を!!)

東郷「そうとなれば急いで…!」ポロポロ

東郷「あ、あれ?」ポロポロ


東郷「おかしいわね…涙?何時の間に」ポロポロ


東郷「変なの…別に悲しいことがあったわけでもないのに」グシッ


東郷「さて、と…友奈ちゃんにはどう説明しようかな?先生が呼んでたって嘘の事」

東郷「夏凜ちゃんのことは…誤魔化す必要もないか。どうせあの調子じゃ誰にも何も言えない」


東郷「~♪」トトト


出発前にあらすじだけでも…と思ったけど予想以上に時間かかってしもうた
夕方頃にまた戻ります

乙です

こっちならゆっくりやってくれて大丈夫だぞ
待ってるからな!

完結させてくれよ!

一旦乙
戻った後記憶あるところが怖いよな……

いいぞお!

待ってる

あーあやっぱ百合アニメってカプ豚わくんだな
どうして友奈が東郷キチなんだよ、東郷が友奈キチなんだろ

SSだからね、そういう面もあるよ

>>82
ゆゆゆは男が出ないだけで百合アニメじゃないだろ

いつの時代も黒髪はクレイジーサイコレズとは言え酷い話だよね…

本編でもサイコではないけどメンヘラだったからな

友奈ちゃんは微妙に東郷さんに独占欲が見える

友奈ちゃんのスマホの暗証番号は
東郷さんの誕生日という重い事実

>>88
そして東郷さんのスマホパスは友奈ちゃんの誕生日というのも事実

ゆう.....がた?

東郷さんみたいにIT詳しい人は間違いなく誕生日をパスワードとかいう発想しない
友奈ちゃんから言い出してますね

まさかこんな所で続いていたとは

夕方(今日のとは言っていない)



皆さんこんにちは。結城友奈です!

突然ですが、夏凜ちゃんが最近おかしいです。


家庭科の実習があったあの日、夏凜ちゃんが家庭科室に戻ってくることはありませんでした。

東郷さん曰く「急に寒気がして、熱っぽかったので帰った」とのこと。保健室に寄らずに直帰したのを送っていたので、東郷さんも遅れたそうです。

お見まいに行こうと思ったのですが、「うつしたら悪いので来るなと言っていた」…ということをこれまた東郷さんから聞いたので、泣く泣く断念したのでした。くすん


三日後、熱がひいたらしい夏凜ちゃんが学校にやってきたときには、そのおでこには大きな絆創膏が張られていました。

びっくりしてどうしたのか聞くと、ぴしゃりと一言「転んだ」と呟くと、それ以上特に教えてくれませんでした。

風邪のせいでふらふらして打ったのでしょうか。心配です。


それからしばらく夏凜ちゃんは元気がありませんでした。

病み上がりでしんどいのかな、と陰ながら心配していましたが、ここの所はもとの調子を取り戻してくれています。


…ただその時期と一致して、夏凜ちゃんの様子…正しくは、「夏凜ちゃんが東郷さんと居る時の様子」がおかしくなったのです。

まず目を合わそうとしません。

東郷さんはニコニコいつもの優しい笑顔で夏凜ちゃんを見ているのですが、夏凜ちゃんの方はというと…喋ることはふつうに喋るのですが、ほとんど目を合わせないんです。

前はこんなことはありませんでした。はてなです。


次に、東郷さんと二人きりになるのを嫌がっているように感じるのです。

私がおトイレなんかで二人を残してどこかに行こうとすると、夏凜ちゃんも必ず着いてきます。


3つ目。そういう時は必ず、人が変わったようにビクビクおどおどして、キョロキョロと周囲を確認しながらもごもごと口を開きかけて…つぐむ。ということを繰り返すのです。


察するに東郷さんと口喧嘩でもして、一方的にぶちのめされたのかな?と思うのです。東郷さん怒ったら怖いし、口達者だし。

事情が分かれば取り持ってあげたいのですが、がつがつ入りこんでいくのも気がひけます。

友人として、こういう時はどうすればいいのか。静かに見守って時が解決してくれるのを待つのが得策なんでしょうか?…わかりません。今度お父さんに聞いてみよう。



そう言えば、東郷さんは東郷さんで、私を家に誘って勉強会とか武道の稽古とか(私が指導役です!えへん!)をすることが多くなりました。

しかしその一方で、せっかく誘ってくれたのに途中でふいと抜け出して、しばらくしてまた戻ってくるというのをよくやるのです。

どうしたの?と聞いても、「秘密よ」としか答えは返ってきません。ミステリーです。



風「また捨て犬!?今月これで3件目よ!?」

樹「荒んだ世の中だねお姉ちゃん…」モグモグ

友奈「クラスに飼いたいって子が何人かいたから、私当たってみますね!」

東郷「…」ニコニコ

夏凜「…」


夏凜(あれからだいたい一ヶ月…東郷に変わった様子はない。悪い意味で)

夏凜(風も違和感を覚えてきてる。…樹は何も勘づいてないみたいだけど)

夏凜(最悪なのは、慣れてしまうこと…!あんな…異常な東郷を、そのままずっと放っておくわけにはいかない!)

夏凜(兄貴を通じて大赦には当たってみた。でも分かったのは装置が一点物の試作品で…技術開発者も不明ということだけ。大赦へ直接メールしても、音沙汰はなし)

夏凜(解除ボタン以外の解決方法は今のところない…)

夏凜(発動と違って解除するのに本人に向ける必要はない。ただボタンを押すだけでいい…なんのこっちゃない。指先一つで解決する)

夏凜(友奈にひとこと、伝えさえすれば…)

夏凜「…」ギュ

―――… 私がこのまま…ほんの少し…体重を …―――


夏凜「…」ブルッ


バーテックスなんか比ではない。狂乱した風のそれとも違う。発するのは同じ『殺意』でも、性質は全く異質なものだ。

無機質さや衝動的な情動からは程遠い、あの生々しい…


夏凜「…っふ、…!」ガチガチ



明らかに人気のないところに来ても、そこに有り得ない視線を感じるのだ。

身体が、舌が、思考回路が、凍りついたように動かなくなる。


夏凜「…」ガチガチ

東郷「友奈ちゃん、あーん」

友奈「はむっ!」


神様。どうか、少しだけ時間をください。

私が立ち直るその時まで、どうか…何事も起こりませんように―――

友奈「おーいすぃ―――!!」」バタバタ

東郷「…」ニコニコ


私の『愛情』をたっぷり詰め込んだぼた餅を頬張る友奈ちゃんを見て、私の心が満たされていく。


でも足りないの。


それに外は危ない。夏凜ちゃんの眼にも光が戻り始めている。


世界を変える必要なんてなかったのね。私たちが変わればいいだけだもの。

準備は整った。友奈ちゃんちゅっ。




カー…  カァー…


東郷「これよ」

友奈「わぁ~すっごい土蔵だぁ~…近くで見るとまた違うねー」


東郷「ふふ、早い早い。見せたいものはこの中よ」

友奈「楽しみだなぁ!せっかくだし、暗くなる前に早くみちゃおうよ!」

東郷「ええ…」





ギイイィ…

バターン…


友奈「うわっ!暗いよ東郷さん!」

東郷「電気つけるわね」パチッ

ヴーン…

友奈「あ、電気は通ってるんだ…ひえぇ、モノでいっぱいだぁ~」

東郷「全部家が建ち替わる前からあるらしいわ。前の土地の所有者のものか…もしかしてもっと前の時代の蔵かも」

友奈「はぇ~すっごいんだねー!」



スタ スタ

友奈「見た目の割に埃とかは溜まってないんだね」

東郷「ええ、それはまあ…掃除したから」

友奈「へえー?言ってくれた手伝ったのに~」

東郷「…くす、ありがとう友奈ちゃん」

ガララ…  カコン

東郷「ほらこれ」

友奈「何これー!地面に蓋!」

東郷「地下室よ。私が見つけたの。父も母も蔵には興味がなかったみたいで…知ってるのは私だけ」

友奈「おっ!ピーンときた!今からここを探検ってわけだね!」

東郷「……」ニコニコ

友奈「うぉぉぉ勇者っぽいぞー!一番!結城友奈いっきまーす!」ダッ!

東郷「どうぞどうぞ」


ギシッ ギッ

友奈「…階段急過ぎて駆け降りれないね」

東郷「そうね、危ないわ。ケガしたら大変だもの…」

ザッ…

友奈「よっと!一番乗り!」タン!

友奈「あれ、思ったより広…い…」

ヴーン…


友奈「電気暗くてよく見えないけど…これ…」


東郷「…」タン


友奈「…座敷牢?」

東郷「……」スタスタ


友奈「すごい錆びの匂い…ほんとに何時から有ったんだろう、これ…」サワサワ

東郷「…ちょっと退いて?友奈ちゃん」スッ

友奈「うん?」

東郷「…」 カチャカチャ… カキン


友奈「…って東郷さん?なんで扉開けて…というか鍵持ってたの!?」

東郷「…」スタスタ


友奈「わわっ!ダメだよ入っちゃ危ないよ!罠とかあるかも!!…ってそれはないか」

東郷「平気よ。ほら、友奈ちゃんも」

友奈「う、うう…」スイッ


… ピチョン…

友奈「ひ、ひええ…格子を超えたら雰囲気が違うね…ね、東郷さん…」ヒヤッ

友奈「うぇ~、なんか怖いよ…」

東郷「友奈ちゃんちょっと」チョイチョイ

友奈「なにー東郷さん?」トトト


東郷「これに手を置いてみて?」ニコニコ

友奈「なにこれ?…鎖が付いて、鉄の…えーと」

東郷「いいからいいから」ニコニコ

ガシッ

友奈「あう」



…カチャン


友奈「はえ?」

東郷「さ、反対の手も」クイッ


カチャン


友奈「うん?ん?」


東郷「でーきた♪」

ジャラジャラ…

よしいいぞ…いいぞ…

友奈「おっ…お?…ふん!」グイッ!

ジャラララ… ガキン!


友奈「あ、あはは…すごーい手錠で繋がれちゃった~、あはは」

東郷「…」ニコニコ

友奈「なんか本物の罪人になっちゃったみたいだよー、なーんて、はは…」

東郷「…」ニコニコ


ピチョン…

友奈「…東郷さん」

東郷「…」ニコニコ

友奈「えーっと、そろそろ解いて欲しいかなーって…」

東郷「ダメです」

友奈「えっ」

東郷「友奈ちゃんはここに磔り付けます」

友奈「えっ」

東郷「今日から友奈ちゃんはここで暮らすのよ?お世話は全部、私に任せて」

友奈「え、東郷さん…え?」


東郷「お食事もちゃんと持ってきてあげる。お昼は私も学校があるから…食べさせてあげられないけど…朝晩の2食、栄養はきちんと考えて作るわ」

友奈「ちょっと」


東郷「着替えも、湯あみも…髪をすくのもストレッチも勉強も、全部私がやる」

友奈「は…」


東郷「そう…これからじっくり、友奈ちゃんの全部を…私に染めてあげる」

ニコニコ


友奈「…!」ブルッ


東郷「下の方は…うーん、こればっかりは仕方がないよね?…大丈夫、すぐに私が掃除してあげるから」ニコニコ


友奈「…と、東郷さん…その顔…やめてよ…東郷さんらしく、ないよ…」



東郷「誰にも邪魔はさせない。ずっと側に居て、どこにも行かないで…私と友奈ちゃんが同じ色に…ああ、素敵な色に染まったら…」フルッ

東郷「…っふ、ふうぅ…っくくく…!その時は…ふふ…!」ブルルッ


友奈「―――」ゾッ…

友奈「…東郷さんっ!もう変な冗談はやめて!こんなの……!」


東郷「…その時は」スッ… 



ピトッ

友奈「―――ひっ」



東郷「…一緒に、『素敵なところ』に…イキましょう?」

続きに期待したい!

その瞬間、私の脳に湧きあがったものは恐怖ではなく、ただ一つの「疑問」だけでした。

生存本能とか…そういう生き物として優先されるべき諸々を押しのけて、なぜそんなものが前に出たのか。理由を考える暇はありませんでした。




東郷「…ん」スイッ

チュゥ…


友奈「!? ~~~~~!、!?」


ヂュ… チュ… レロ…  ニチャッ…

目の前に居るコレは。東郷さんの顔で笑って、東郷さんの声で喋って、東郷さんの匂いを燻らせるこのヒトは…




ドンッ! バンッ! バタン!!

友奈「ん”!!んんんん”…ん…!!」ポロポロ



東郷「む…んっ…んぅ…っ!」

チュ… ヂチュ…  ペチャッ…




一体、誰だ?




…ピチャン

なんてこったR18スレに迷い込んでいたようだ

素晴らしい

おお…




友奈が消えて2週間になった。

現在、勇者部としての活動は行っていない。放課後の全ての時間は友奈の捜索に使われている。

市街地は駆けずり回るように探しつくした。今日は県西の山道まで足を伸ばし、探索だ。


はっきり言って普通に考えると居るわけもない。だいぶ前に勇者部でピクニックに来たことがあるから…訪れたのはただそれだけの理由による。

…要するに、私たちはそこまで切羽詰まっていた。

ザッ… ザ…


風「っはー!…途中までバスだったとは言え…山道ってのは案外疲れるわね~」

樹「…うん」

夏凜「…」

ザッ ザクッ…

風「…人間って不思議よね」

夏凜「…」

風「数でいったらほんの5人のうちの1人よ? たったそれだけの人間の…居場所が分かんなくなるだけで…」

風「…部室…あんなに静かになるなんて…」

樹「…お姉ちゃん」ギュ

風「樹?」

樹「友奈さん、ほんとに…無事なのかな…」

再会がてら読み直したが何がどうしてこうなった(つづきはよ)

風「…樹」

樹「警察の人も、大赦の人まで…皆一生懸命探してくれてるって言ってたよ」

風「…」

樹「それなのに…これっぽっちも…てがかりも、何も見つからないなんて…」フルッ

風「やめなさい」

樹「もしかして…もしかしたら…!友奈さんは、もうっ…!」フルフル

風「――言うなっ!」

樹「…」ビクッ!




夏凜「…」


友奈の意識が無かった頃とはまた違う。

原因も何も分からない。「風や樹には」心当たりもない。勇者システムの一切と関連がないということは、逆に現実的な不安に繋がった。

戻りつつあった日常に、突如としてぽっかり空いた不気味な穴は、あるいはあのとき以上の混乱を勇者部にもたらしていた…

風「あっ…ご、ごめん、怒鳴ったりして…」

樹「ううん、私こそ…」


ナデッ

樹「…ん」

風「大丈夫…!うん、大丈夫よ!」ナデナデ

風「あの時だってそうだったじゃない?ずっとこのままかも…って不安にさせといてさ、結局何もなかったみたいに急に起きたじゃん、友奈のやつ」ナデナデ

樹「…うん」

風「…勇者部五箇条。友奈自身が言ってたでしょう?為せばたいてい何とかなる…って」

樹「うん」

風「こんな…理由も、意味もわかんないまま…居なくなっちゃうような奴じゃない…絶対に」

風「だから…信じて待とう?」

樹「…お姉ちゃん」




夏凜「…」

夏凜「…」

東郷は居ない。調べたいことがあるから、と最近は早々に家に帰ってしまう。

風もそれを無理に引きとめることはなかった。



夏凜「…っ!」ブル

東郷が関わっていないわけがない。

身体の震えはまだ収まらない…でも、きっともう行ける。友奈の居ない2週間を以て漸く、どうにもならないレベルから回復した。



夏凜「…風」

風「ん?何さ夏凜」


風達まで危険に曝す訳にはいかない。…真実を追えるのは私だけだ。


夏凜「これからは、私も別行動をとらせてもらうわ。…その、探す範囲は広い方がいいでしょうし」


風「…夏凜、それは…」

風「…」

風「分かったわ、好きにしなさい」



夏凜「ありがとう。じゃ、早速だけど今日はこれで失礼するわ」クルッ

ザッ タタタタ…



風「は?…ちょ!?夏凜!?」

ヒュー…

風「早いわね、もう見えなくなっちゃった」

樹「…」

風(ほんとーに分かりやすい…思いつめた顔って感じね…)

風「…どいつもこいつも、『悩んだら相談』って条文だけ無視し放題なんだから。困った困った」


樹「…」

…ポロッ  


風「…あらら」

スッ


風「…ぎゅー!ほれ、可愛い顔が台無しだぞー妹よ」ギュウ

樹「……お姉ちゃん…っ…!」ポロポロ

風「大丈夫。このまま勇者部をバラバラになんて…絶対させないんだから」

樹「う、うえーん…うう…!」ポロポロ

風「…」

ガッ! ガササッ!

夏凜「よっ、ほっ…!」ヨジヨジ

ガサッ

夏凜「よい…っと!うわっ!」フラッ ガシ!

バササッ…

夏凜「とと、危ない危ない…流石に木の上は安定しないわね…」


夏凜(この距離なら大丈夫でしょう…中は見えないけど、東郷邸の様子は見渡せる)


夏凜「双眼鏡はっと…あったわ」ゴソゴソ


夏凜「…」カチャ





夏凜(学校での動きは同じクラスだから把握できる。何かあるとすれば…当然だけど、放課後から翌日の登校までの間)

夏凜(暗視機能付きで夜もバッチリよ!家の中が分からない以上完全ではないけど…闇に紛れた外出なんかは把握できる)


夏凜(にぼしは常備!これさえあれば徹夜なんてなんのその)ゴソゴソ

夏凜「さあ、根比べよ東郷…!」ポリッ!

ガチャン  …バタン


東郷「…」


手製の晩御飯が乗った盆を持って外に出ると、ヒリつくような視線を感じた。


東郷「やっと来てくれたのね、夏凜ちゃん」


丁度右前方に気配。監視が行われるならここだろう…といくつか当たりは付けていたが、こうも上手くいってくれるとは。

間違いなく川越しの小山の木立からだ。今目を合わすわけにはいかない。焦らずとも後で3番のカメラを確認すれば、あのにぼし女が映っている筈だ。


東郷「…~♪ …おっと」

スキップしそうになるのを堪えて歩く。十数秒歩いて、土蔵に辿り着く。


ギイイィ… 

東郷「…」


     …バタン

東郷「…くふっ」

わざとらしく勿体つけて、見せつけるように土蔵に入ると、後ろ手に重い扉を閉めて、小さく顔をほころばせた。



嬉しくない筈がない。これで一番の懸案事項が排除されるのだから。

こっからか…

トン トン トン…

ガチャン!  ギイィ…


東郷「こんばんは、友奈ちゃん」


友奈「……」

東郷「あら、今日はお小水だけなのね…折角弁付きのバケツも用意したんだから、もう遠慮しなくていいのに」

友奈「……っ…」

東郷「でもちょっとまだ臭うかな…?芳香剤と消臭剤を増やさないと…」


友奈「…やめて…」

東郷「お掃除が終わったら食事にしましょう?…ふふ、友奈ちゃん好きだもんね?『あーん』って…」カチャッ


友奈「お願い…やめて、ください…もう…」

東郷「…」



友奈「…寒い、暗い、臭い、怖い…怖い…っ」ポロッ

東郷「……」


友奈「怖い、怖い、怖いよっ…お父さん…お母さぁん…!みんなぁ…」ポロポロ

友奈「…ううっ…お家に、学校に…帰してくだざい…!う”ぇっ…っぐず…」ポロポロ


東郷「…気になってたの」

友奈「うっ…うう…!うぇ…」ポロポロ


東郷「ここに来てから…なんで友奈ちゃんが私の名前を呼んでくれないのか…」スッ

東郷「気が変わったわ」

カチャリ

東郷「…はむ」パク

モグモグ…



友奈「…うう、う…?」ポロポロ



東郷「…んぅ」モゴモゴ




スッ… ガシッ!


友奈「ひゃぁっ…ひ…!」ジャララッ…


…チュッ

友奈「!? ……んぅ…!ん…!!」ポロポロ

東郷「…ん!」グッ


ググッ…! 

ドロロ…

友奈「!?!? ん、ん”―――ッ!!」ポロポロ

にぼっしーが完全に東郷さんの手のひらの上で転がされてる…

ガチャン! ドタン!



東郷「……」グググググ…

ドロロッ…


友奈「ん”……!!!」ポロポロ


…ゴクン




東郷「…ぷはっ」

ニチャッ…


友奈「っぷは…っ、う、うぇっ!うええ…ッ!」ブルブル

東郷「…口移しは初めてよね?…ふふ」


東郷「さあ、まだいっぱいあるから。残さないでね?」

友奈「……!?」ブルブル


カチャリ… 

東郷「もぐ…」ハムッ


友奈「い、イヤっ…嫌ぁ!!」ガチャン! ジャララッ…



ガシッ チュッ…

東郷「…んっ!」ググッ

友奈「むぐっ…!」グッ

レロッ…

友奈「!!… ッう”…う”う”ッ!!」



ガリッ!


東郷「!!  …ッぐ!」バッ


ポタタッ!



友奈「はぁ…!はぁ…! ッぅえ…!はぁっ…!」ブルブル

東郷「…嗚呼、舌…」

東郷「血…ふ、ふふ…痛ぁい……」


ポタ… ポタ…


友奈「はぁ、はぁ…は……」


友奈「…あ…」


東郷「……ふふ、あは…酷い…くくっ」


友奈「…あ、ぁぁぁあぁ…」ガタガタ

友奈「ご、めんなさい…ごめんなさい…!」ガタガタ



東郷「謝らないで?むしろ待ってたの…」

友奈「ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめんなさい…っ!」ポロポロ



東郷「友奈ちゃんは優しいから。抵抗らしい抵抗なんてこれが初めてね」

東郷「そう、2週間も経ってよ?…2週間も監禁されて…ふふ」

東郷「やっと行った抵抗、ヒトを傷つける行為が…舌を噛むこと?」


東郷「…それだけ?」

友奈「ごめんなさいっ…!ごめんなざいぃ…!」ポロポロ



東郷「足りないわ」

キラッ…


友奈「ひっ…」


東郷「これね、私が今手に持っているモノ。何か分かる?」

友奈「ぁ、あ…!」ガタガタ


東郷「…そう、ナイフよ。お肉を切り分けるナイフ」

東郷「ほら…」


スッ


東郷「あなたが持って」

友奈「ひ、ぃ……!!」ガタガタ


東郷「―――持てッ!!!」

友奈「ひっ!ひゃいっ!!」


グッ…


東郷「良いわ…良い子ね…友奈ちゃん…」


友奈「……」ガチガチ

東郷「これで、あなたは私を殺しうる武器を得た。…ところであなたの手錠の鍵は、私の服の内ポケットに入っているわ」

東郷「倒れた私に手を伸ばし…鍵を取るという動作を行うに、あなたの手の鎖の長さは十分」

友奈「……」ガチガチ

東郷「…もう何が言いたいか分かるでしょう?」

友奈「い、いや…嫌だっ…」ガチガチ


東郷「足りないって言ったじゃない… 私の事が怖いんでしょう?開放されたいんでしょう?」


東郷「…ほらッ!」グッ


ググッ…!

友奈「ひっ…!」ビクンッ

ズブッ…


友奈「あ…?」

友奈「………ぇ、あぁあぁ…!」ガタガタ



東郷「ふ…!はぁっ!はあッ!ああ…痛い!痛いわ友奈ちゃん…!!」ググッ…

友奈「い、いや、あ、…違っ…!」ガタガタ


東郷「ほら見える…!?っはあ…!あなたの持っているナイフが…!」グググ


東郷「うっ、う…!今私のお腹に…あは!入ろうとしてるぅ…っ!」ググググ…


友奈「あ、ああああああ!!うわあああああッ!!っあぁぁぁ!」ポロポロ



東郷「まだ浅い!まだ全然!もっと、もっと刺し込んでッ!刃をぐちゃぐちゃにかき回せば…!っは!」ググ



友奈「嫌!!いやイヤ嫌だいやだやめてええぇええぇ!!」ポロポロ



東郷「――私を殺せる!!友奈ちゃんは自由になる…!!」

怯えてる友奈ちゃんprpr

ググググ…


友奈「やめっ…ぅえっ!止めてェ!やめてよおおおっ!!」ポロポロ



東郷「あははっ!ねえ!何が嫌なの!?何がッ!?…ねえッ!友奈ちゃんッ!!」


友奈「いやだああああッ!!あッ!うあぁあぁんっ!!こっ殺じだぐない”ッ!ぁああああッ!!」ポロポロ


ググ…!!

友奈「わだっ、私!!いやだぁ!嫌だよぅっ!!」ポロポロ



友奈「―――東郷さぁんっ!!!」ポロポロ

ググ…

東郷「…」


グ…   ズッ…

友奈「うああああぁ…あ? ああ…っ!」ポロポロ

東郷「っ… ふうッ…」ズルッ


カラーン…  





東郷「やっと呼んでくれた…嬉しい」

友奈「……ぅ…ひっく…」ポロポロ

東郷「後悔するかもしれないわよ」

友奈「……」フルフル


東郷「…あは、あはは…!」

東郷「……ああ…っ!」

ギュウウッ…!

東郷(まだよ…『それ』はまだ…!抑えるのよ東郷美森…!)



東郷「…ああ!愛しい…そういうあなただから私は…!」

東郷(大好きで、愛しくて!もう…どうしようもなくなりそうになる…!!)ゾクリ


友奈「…と、ご…っ」ガタガタ



カタン

東郷「…ご飯はその調子じゃ無理かしら。お掃除だけしておくわ」

東郷「うふふ、ちょっと機嫌がいいから…今日だけは鎖をうんと長くしといてあげる。落ち着いたら自分で食べてね」


友奈「………」ガチガチ


ピチョン…

東郷「~~~♪」




ピチョン…

狂ってやがる・・・

腹刺して大丈夫なのか東郷さん

「肉」を切り分けるナイフか…さて切られる肉とは果たして





あれから夏凜も部活に来なくなった。放課後は東郷を追いかけるようにして、早々に居なくなってしまう。


樹はここ数日でよく笑うようになった。

立ち直ったわけじゃない。…私を心配させないためだ。


風「…顔に出ちゃってたかな」

樹の声が戻らないと知ったときもそうだった。身勝手に感情を爆発させる私を、樹は抱きとめてくれた。

…姉妹ふたりが辛い時、最終的に我慢するのはいつもあの子じゃないか。


風「勇者部を…バラバラにはさせない、ね…」

いつも口だけ達者で何もできない。

お姉ちゃん、お姉ちゃんと慕い信じてくれるあの子に、私は今までどれ程のことをしてあげて来れたろう?

日頃の世話?それだけか?…いつもいつも、肝心な時に心の支えにすらなってやれないような私が、何を以て『お姉ちゃん』などと。


風「…父さん、母さん…」

ふたりだったら、こういう時どうするのかな。

…私はどうしたらいいんだろう。


姉妹二人のアパート。樹は、今日も笑顔で壁の向こうに居る。






樹「……」




リー…  リー…



夏凜「…」ポリ

監視をスタートして3日が経った。


…ご両親の申請を端に、友奈の実家で大赦による捜索が行われたらしい。

何か手掛かりにになるようなものがあれば…という藁にもすがるような関係者の願いも虚しく、成果はなかったと言う。

兄貴を通じて得た情報では、件の装置の姿もなかったらしい。




夏凜「……ちくしょう…」ポリッ

もっと早く返してもらっていれば、と後悔しない日はない。

今となっては全てが遅い。最早あの装置の所在は、同じく行方不明の友奈しか知らないのだ。



夏凜「…そろそろか」

混沌性を増す状況とは対照的に、東郷の動きは規則的だった。朝晩の2回、食事が乗っているらしい御盆を持って敷地内の土蔵に入っていく。

たまに何か…食事以外の良く分からないものも持っていったりしてはいるが。

夏凜「! …出てきた!」


そして決まった時間に出てくる。食事をとるだけとすればずいぶん長い。

東郷は悠々と庭を渡ると、裏口から屋内に引っ込んだ。


夏凜「…」

不自然だ。家族もいるのに、わざわざ『東郷が』『ひとりで』『あんな場所で』『時間をかけて』ご飯を食べる意味があるだろうか。

…深く考えるまでもなく、もう間違いない。



夏凜「友奈…!」スッ



観測に一日。パターンの確証を得るのに一日。そして今日も日が暮れた。

もう居ても立っても居られない。


夏凜「…ふんっ!」ポイ!

無造作に双眼鏡を投げ捨てると、木刀を両手に構える。


夏凜「…はっ!」ザザッ!

足だけで木を下り着地する。立ち上がると、枝の上に置き去ったにぼしに一瞥をくれ、前を向く。



夏凜「……」ダッ

最早振り返ることはない。呼吸を整えると私は駈け出した。

夏凜「…ふー」

ギュッ…


夏凜「―――せいっ!!」ヒュッ


カッ…  カチャ――ン…


夏凜(…土蔵がカビだらけなら、南京錠まで錆びだらけで助かったわ)


夏凜「…ふんっ」

ギイイイィ…


シーン…

夏凜(暗っ…!)

夏凜「…」


ヒュウウゥ…

夏凜「…っ」ゴクリ

夏凜(こ、ここに入っていくのね…)

夏凜(東郷が家の中に引っ込むのはさっき見た…でも)


夏凜「…一応用心はしていきましょう」スッ

ピカッ

夏凜(…両手が塞がらないのはいいけど暗いわね、ヘッドライトってのは)

夏凜(電灯のスイッチはあったけど…そっちは逆に明る過ぎる。気付かれちゃーダメなのよ…)

夏凜(気付かれちゃ…)


夏凜「…!」ゾクッ

夏凜(……コラ!こら私っ!今さら何ビビってんのよ…!)ブンブン

夏凜(鍛練は積んできた!武器と覚悟さえあれば、東郷になんて負けないんだから…!)ギュッ

夏凜「あいつには悪いけど、出会ったら今度こそ叩き伏せる…!気合いで負けたらおしまいよ…!」

コツ… コツ… カシャン

夏凜「うっ…もう!モノが多すぎて歩きづらい…!」


コツ… コツ…

夏凜「どこかに手掛かりがある筈よ…物陰に隠し扉とか…」

夏凜「…ムッ!その箪笥の陰なんか怪しいわ!」


コツ!コツ!  …ガッ!


夏凜「――ぶべっ!」ドシャア!!

夏凜「い、痛ったぁ…!なによこの床ぁ!なんでこんなとこに出っ張りが…!」サスサス


夏凜「…出っ張り?」

チャリッ…

夏凜「何これ?床に…取っ手?」




カチ コチ   カチ コチ…



ガタン!

風「…はっ!」

風「よ、よだれが…情けない、寝ちゃってたのね」クイッ



カチ…コチ…

風「もうこんな時間か…」

風「…樹、ちゃんと寝れてるかしら?」スッ


トン トン

スーッ…

風「…」ソロリ


風「居ない?トイレかな…」


スッ

風「…電気、付いてないわね」


ガララ

風「お風呂でも…ない?」

風「…」ドクン


タタタタタ… キュッ!


風「そ、そんな…」ドクン

風「靴がない…!樹…!」

ジジジ…

リー… リー…


タタタ…

風「樹―ッ!樹!返事して!樹…!」


「うるせーぞ!夜中に騒ぐなー!」


風「あっ…す、すいません!」

風「…何よぅ、いいじゃないちょっとくらい…!」トボトボ



ヘタリ

風「はあ…」

風(気まぐれな散歩ってだけ、かもしれない…でも何となく違う気がするのよね…)


風「こんな夜中にどこ行っちゃったって言うのよ…」

風「樹…」じわっ


風「! いけない…!」グシッ



ザザーン

風「…」トボトボ

風(海岸か…何時の間にこんなところまで来たんだろう)


風「…」

風(夏凛の奴、いつもこの砂浜で鍛練してたっけなあ)


ザザーン…

風「…」

風「夏凜…東郷… 友奈…」


風「…あっ」

風「樹!もしかしてあの子…!」バッ!





ガコンッ…


夏凜「…」


土蔵の暗さとは違う、粘りつくような闇が私を覆った。

ヘッドライトを向けると、照らされた階段が薄ぼんやりとその輪郭を曝す。



夏凜「…っふ…」


木刀を握った手が汗で湿っていた。決して落として無くさぬように、自然と掌に力が入った。

本能が言っていた。この一対の木の棒は、この先…いよいよ以て私の命綱になるのだと。

カツッ… カツッ…

夏凜「……臭い」

夏凜(一歩一歩下るごとに強くなる…何?この臭い…)



カツッ…   …コツン

夏凜(…ついちゃった)

夏凜「ここは…」



ピチャン…

夏凜「鉄格子…監獄…?」

夏凜(どう見ても個人宅の設備って感じじゃないわね…)



ピチャン…  ピチャン…

夏凜「…」ブルッ

夏凜(完全に地の底ね…小さい窓すらない。月の光が届かない上に、壁の色まで黒いから…ヘッドライトじゃ足りないわ)

夏凜(スイッチは…あった)ゴソ


夏凜(ここなら電気点けてもバレないでしょうし… いいよね?)


パチッ  

ヴーン…

夏凜「…」


ピチャン… 


友奈「…」



夏凜「…友奈?」

友奈「……あ、ぁ…」


友奈「か、りん…ちゃん…?」ズッ…




夏凜「―――ゆ、友奈ぁっ!!」ダッ


…ガシャン!


夏凜「クソッ!ここにも鍵か!」

夏凜「…友奈!無事なの!?東郷に何か…!!」


友奈「…ぅ…」ゴソ

夏凜「…!?」


夏凜(ゆ、友奈…?これが…!?)

夏凜(ケガは…ない…それに、ガリガリってほど痩せてもない…)

夏凜(なのに『生気』がない…!何これ…まるで死人じゃない…!)


夏凜「ずっと…閉じ込められてたの?」

友奈「…けほっ」ジャラッ…


夏凜「たった2週間で…何を…一体何をされたら…そんなに」

友奈「…」

夏凜「別人みたいに…やつれるって言うの…!?」ブルブル



友奈「と、ご…さん…」

夏凜「……!」

夏凜「―――はぁあ―ッ!」ブンッ!

ガキィンッ!


夏凜「壊れない…!?なんでこっちのは新しくなってん…のよっ!」ブンッ

ガキンッ!

夏凜「こなくそーっ!」ビュンッ 

ガキ―ンッ… 


夏凜「畜生…!」

友奈「夏凜ちゃん…なの…」

夏凜「! 友奈!私が分かるわね!」

友奈「う、ん…」ジャララ…


夏凜「もーちょっと待ってなさい!そんなとこ、すぐ出してあげるか…らっ!!」ヒュッ

ガキィン!


友奈「…たしが… 悪いんだ…」


夏凜「…何、よっ!?」ヒュン!

ガキン!

夏凜「くっ…!」フラッ

友奈「…と、う…けほっ、えほっ…」

夏凜「こ、こら!無理すんな!あんたはちょっと黙ってなさ…!」グッ



友奈「とうごうさんに… ずっととなりに居てほしいなんて…ばかなこと…」

夏凜「…!」


友奈「かんがえてたから… ばちが…あたったんだな、って…けほっ」



夏凜「…ゆ、友奈…」


夏凜(なに…なんなのよ、東郷…!)

夏凜(いくら装置にやられてるからって…友奈にこんな思いさせて、こんな顔させて…!)ギュウゥ


夏凜「ほんとに…何考えてんだ…バカ東郷っ…!」ブルブル

ピチョン…


「御言葉ね」


夏凜「!!」バッ!


「そっくりそのままお返しするわ…バカって言うのは、あなたのような女のこと」


友奈「ぁ…ひっ…!」ブル


夏凜「出やがったわね…!堕ちるところまで堕ちた…外道め…!」ギュ



「一度ならず二度までも…撒かれた餌には飛び付かずにはいられない、野生の『下等動物”アニマル”』が…!」





夏凜「―――東郷美森…!!」


東郷「―――三好夏凜…!!」


ゴオオオオオォ…

友奈「ひ、ぃううぅ……」ガクガク


東郷「怯えないで?友奈ちゃん…邪魔なんてさせないから…くす」

東郷「さぁて…」クルッ


夏凜「東郷ぅ…!」ギリ


東郷「…3日目ね?」


夏凜「…何?」チャッ


東郷「あなたが猿のように木の上に現れて、よ…ふふ」


夏凜「…!」ドキッ


東郷「…まさか気付いていないとでも?あなたの行動パターンなんてお見通しなのよ」

東郷「策でも有るのかって心配してたんだけど…その調子じゃ何もなさそうね?」

夏凜「…」ドクン ドクン

東郷「ここであなたを抹殺すれば、処分はたやすい」

夏凜「…」ドクン…


東郷「あとは表向きの演技さえ続けて…『悲しみに暮れる哀れな被害者の友人』を装えば、私を疑う者はいない」

東郷「…少なくとも、私と友奈ちゃんが一緒になるまでの時間は稼げるわ」


夏凜「…」


東郷「一緒になる…ふふ、そうよ…私と友奈ちゃんは、一緒になるの」


友奈「…っひ……!」ガチガチ


東郷「友奈ちゃんが儀式にふさわしい色になったら、私と友奈ちゃんはずっと、永遠に一緒になる」

東郷「世界は私と友奈ちゃんで完結する…他の一切を挟む余地のない、美しい私たちだけの景色が生まれるの!」


夏凜「…」


東郷「時間も空間も関係ない!ヒトにも神にも邪魔されない!!…私たちだけの世界!あはっ!素晴らしいと思わない!?」

東郷「でも…その為には心も肉も…全部一緒にならなくちゃいけない。その過程で友奈ちゃんは死んでしまうけれど…それはきっと、とても悲しいけど…」


東郷「…避けられないことよね。大義と比べれば全くの些事……仕様がないもの」


夏凜「…」

東郷「…私には友奈ちゃんが必要だわ。友奈ちゃんが居なくなったら、離れて行ったなら…!それは私が死んだも同じ!」


東郷「誰にも渡さない…!友奈ちゃんは私のもの…!友奈ちゃんは私自身だ…!!」ギリッ


友奈「…ぅ、うう…」ポロッ




東郷「―――お前たちの様な虫けらがッ!!私たちの世界に立ち入るなッ!!」

友奈「…ひっく…」ポロポロ


夏凜「…一つはっきりしたわ。やっぱり、今のあんたは東郷でも何でもない」チャッ


東郷「…は?」

夏凜「東郷の面を被った外道め…!身体の持ち主…ほんとの東郷には悪いけど…!」


ヒュヒュンッ!


夏凜「…ブチのめさせてもらう!!…歯ぁ食いしばりなさい畜生がっ!!」ザッ!


ダンッ!  …ゴオッ!

東郷「……」


夏凜(先手を突いた!勝てる!今の東郷、言動は狂っていても…身体は単なる少女!)

夏凜(鍛練を積んだ私なら出来る!右で鳩尾に深い一撃、左で下顎に軽い一撃!一瞬で昏倒させる!)

夏凜(不意さえ突かれなければなんてことは…!)



東郷「…」スッ


夏凜(左手で…顔を防御!?そんなもの…!)

…ドンッ!!  ビシッ!


夏凜「!? あ”ッ…」ヨロッ 


バチィッ!!


夏凜「―――っぎ!!あぁあぁあぁぁッ!?!?」ビクビクビク


ドサッ!   カラーン…


東郷「…左手をこれ見よがしに動かしてやれば、右手への注意が御留守になる」


夏凜「が、っがは…っあ…あ”…!」ビクビクビク…!


東郷「人間は…バーテックスほど素直に動かないものよ?くす…」


夏凜(な、に…?からだ、が、痛…あ、しびれ…て…!)ビクンッ!


東郷「分からないって顔ね」


ウィー…

東郷「…なんのこっちゃない”スタンガン”よ…電極が圧縮ガスで飛び出るっていう、ただそれだけのね」

東郷「銃は剣より強し…剣の達人も、文明の利器の前では無残なものだわ…はぁ」ポム


夏凜「そっ、な……っ…!」ビグン…!

ドスッ!


夏凜「げぼっ…!あ”…!」


東郷「こうも予定通り動かれると面白くもないものね。最後に小魚らしく跳ねまわったのは見てて楽しかったけど」グリッ


夏凜「い、ぐっ…!」ビクン


東郷「屠殺した後は…すり身にしてちょっとずつ厠に流してあげる。排泄物と似たものどうし、浄化施設で仲良く無に還りなさい」スッ


キラッ…


友奈「あ、ぁあ…!夏凜ぢゃ、ん…っ!夏凜ちゃんっ!」ジャララッ!


東郷「…」ピクッ


友奈「やべ、で…やめて…!やめてあげて…!」ポロポロ

ある意味本編より絶望的だぞこれ…

東郷「…気に入らない…」


友奈「あ”…!」ポロポロ


東郷「なんでぇ…?なんで…こんな…糞にぼしばっかりあなたは…!」

東郷「なぜ私を見てくれないの…友奈ッ!!」


友奈「ち、違…」ポロポロ



東郷「…ふん」

東郷「始末するという判断は正解ね…!夏凜ちゃんは…やっぱり友奈ちゃんを誑かす畜生だったッ!!」


東郷「…いつまでうつ伏せてるんだッ!起きろっ!!」ドスッ!


夏凜「ぐ、はっ…!」コロン…

チャキッ!

東郷「言い残すことがあるなら聞くわ…あはっ!無様な命乞いで私を満足させたら!!何なら生かしてあげても…!」


夏凜「ぅ、な…を……」


東郷「…」

東郷「何…?」


ポタリ


東郷「…」



夏凜「ゆ、うな、だけは…たすけて…」ポロ


夏凜「…おねがい…」ポロポロ


ピキッ

東郷「…そう」



友奈「やめてえええええええっ!!」ポロポロ



グッ…!

東郷「…死になさい…!」


ヒュンッ!



樹「…」ぼーっ


ガラガラ…

樹「!」ビクッ


風「はー、やっぱり部室に居た…」

…ピシャン


樹「…お姉ちゃん」


スッ

風「…そこ、友奈の机ね」

樹「…」

風「こっちが東郷、こっちが夏凜…そんで、これとこれが…私と樹の」サスッ



シン…

樹「…」

風「…いきなりひとりでどうしたの?心配したんだから」ギュ

樹「!」ビクッ

樹「ん、ぅ…!」グイッ

風「わわっと…!?ど、どうしたのよ?」フラッ


樹「…っ」プイ

風「うーむ…」


風(拗ねてる…?イヤちょっと違う)

風(こんがらがっちゃてる時の樹かしらね、これは)


風「何かあったのね?話してみて」



樹「…」

風「ゆっくりでいいから。ね?」

リー…  リー…


樹「…わからなく…なっちゃったの」

風「…」



樹「私は…誰の役にも立てない。勇者部のみんなみたいに…えらく、ない」

樹「勇者になって、ヒトのために…お姉ちゃん達のために…やっと何かできるって思って…嬉しかったけど、それももう無い」

樹「歌の時だってそうだった…!結局自分のこと、なんだよ…!今だって勝手に飛び出してお姉ちゃんに迷惑かけて…」


風「……」


樹「…お姉ちゃんみたいに立派になりたいっていう…ほんとうにそれだけ…」

樹「友奈さんが居なくなっても、私は何もできてない…お姉ちゃんの後を、ひっつき虫みたいに着いて歩いて」

樹「何かしなきゃ、やらなくちゃって考えてたら… わけわかんなくなって…それで…!」グッ



風「…違うのよ、樹」ギュウ

樹「ん、おねえちゃ…」

風「…勇者部は居心地良かったでしょう?」

樹「…?」

風「実はそれってね、東郷も友奈も夏凜も、もちろん私も樹もみんな…『自分勝手』な人間だからなの」

樹「…ん?」

風「他の人が幸せになってる姿を見て自分も嬉しくなるから、人助けをするっていう…まー、ある意味究極の自己満足?の為に生きてるわけだもんね」

樹「…それ、何だかむじゅんしてるよ?」

風「んー、そう?…でも、本当にヒトの事しか考えない聖人ばっかりだったら、機械みたいな面白みのない部活になってたって私は思うなあ」


樹「…」

風「勇者部はねー、全員が全員好きなことやって皆幸せって言う、奇跡みたいな場所だから」

風「思いだしちゃったんだよね?だからココに来ちゃったんでしょ」

樹「…うん」


風「誰もいない部室ってのは…こうよ。寂しいもんだ」



リー…  リ…


樹「…」

風「樹だって、あの幸せな空間を作ってた欠片のひとつなんだから。何も出来ないなんて言うのは…それこそ他の皆にも失礼だって思わない?」グシッ


樹「ん…」モゾ

風「樹は私を立派だって言うけど、そんなことない。私だって樹が居なくなったら生きていけない」

樹「…嘘だよ」

風「ほんとよー?うりっ」グシグシ



風「焦らなくてもいいの。樹は樹のままでいればいい」ナデナデ

樹「…」モゾ


風「…私たち二人だけでも、この場所を守っていきましょう。私たち勇者部の居場所を」

風「皆最後には絶対ここに戻ってくるわ。今日の樹みたいに、自然とね」

樹「…くす」

風「え?」

樹「わたしたち、なんか捨てられた犬みたいだね」

風「…人が折角いいこと言ってんのに!何よあんたときたらー!がおーっ!」バッ


樹「きゃー!」キャッキャ


…ズルッ!

風「―――わべっ!」


樹「!? お、お姉ちゃん」


ガターン! バサバサバサ… カラーン…


樹「あ、ぁ…机が…」ワタワタ


風「いつつ…! …あちゃー、ぶちまけちった…あでで」サスサス


樹「ほ、ほらお姉ちゃんつかまって!」サッ

風「ごめーん、もー…あんな偉そうに喋っといてバカだな~私は…」スッ




カチッ    ピピピピピピピッ!!


風「ん?」

樹「…何?今の音」

風「なんか今お尻で踏んだような…?」


風「…まいっか」





カラーン…


東郷「……」


友奈「う、う……う…?」ポロポロ


夏凜「…っ…?」ビクン…

夏凜(い、生きてる…の?私は…)



夏凜(ナイフは…頭の…となり?落ちてる…外した?東郷が?)


夏凜(東郷…)

夏凜「く…!」ググ…


東郷「………」ブルブル


夏凜(とどめも刺さずに…自分の両手見つめて…何やっ…)

夏凜「……!」



東郷「わ、たしは…私は…」ブルブル



夏凜「と、とうごう…」



東郷「―――今まで…!い、い、一体…一体何を……っ!!」ペタリ



夏凜(その顔、その目…)

夏凜「…東郷、あんたなのね…」

夏凜「ったく、もう…!」

夏凜「戻ってくんのが…遅すぎるってのよ、ばかぁ…!」ポロッ


東郷「……」プルプル


夏凜「…とうごう?」


東郷「……」スッ 

…チキッ



夏凜「あ、あんた…またナイフなんて持って何…!ハッ!」

夏凜「―――や、やめろぉ!!」ググッ!



東郷「―――ふッ!!」シュッ!!


ガシッ!!


夏凜「ぐ!ぐくくく…!」グググ…!

東郷「離してっ!離してよ夏凜ちゃんっ!!」ポロポロ


夏凜「東郷こそ!…一体何のつもりよ!?あんた今自分の腹かっ捌くとこだったのよ!?」ググ


東郷「嫌だ…嫌ぁ…!うう…!」ポロポロ

東郷「もう、友奈ちゃんに…夏凜ちゃんに…えぐ、皆に…!合わせる顔がない…ッ!!」ポロポロ


夏凜「はぁ!?ちょ、だからってこんな…!」ググ


東郷「死なせてよ!…死なせてっ!!」ポロポロ


夏凜「…あああぁもう!戻ったら戻ったで面倒くさい奴ねえあんたはっ!!」ググ…!


グググ…

夏凜「く、くう…!」

夏凜(スタンガンにやられたのがまだ効いてる…!身体が痺れて…!)


夏凜「だ、ダメ…抑えきれないっ…!」プルプル



東郷「う、うううっ…ぐすっ!」グググ!


夏凜「じょ、じょ…!!」プルプル

夏凜「――じょ、冗談じゃない!冗談じゃないっての!!」プルプル



夏凜「…東郷!しっかりしなさい!!」

グググ…

夏凜「…あんた!あんたはッ!友奈を捨てて逃げる気!?」


東郷「! す、捨ててなんか…!」ググ…


夏凜「そうでしょうが!あんた…こんなことで責任取ってるつもりなの!?…調子のんなバカ東郷!!」


東郷「……っう、ぐす…!」ググ


夏凜「友奈を…友奈を見なさい!」


東郷「……!」グ…


夏凜「死ぬならその前にちゃんと向き合え!あんた達…親友なんでしょうが!!」

友奈「―――さん…と…ご…さんっ!」


東郷「…」


ジャララ…

友奈「…とうごう、さん!」


東郷「あ…」



友奈「もどってきて、くれたんだよね…」


友奈「東郷さん…!」

ガチャン! ギイイィ…

タタタ…!


東郷「…友奈ちゃん!」ガシッ


友奈「とう、ごうさん…あは、本物だぁ…」ナデ

東郷「友奈ちゃん友奈ちゃん…!友奈ちゃん!」ポロポロ


友奈「とうごうさん、東郷さん…」ナデナデ


東郷「ご、ごべんなざい…わだ、わだじ…!私…!一体どうやって…あ、謝っていいか…!」ポロポロ


友奈「いい、の…いいんだよ…私こそ、ごめんね…」


東郷「何で友奈ちゃんが謝るのっ!悪いのは全部…!」


ギュウ

東郷「…!」

友奈「おかえりぃ…東郷さん…」ギュウゥ…


東郷「…ぅ、うううぅ」ポロ



東郷「うううぅ…うえーん…!うっ、ひっぐ、うえええぇん…」ポロポロ






うえーん…


夏凜「…やれやれ、元鞘ってわけ…」ペタン

夏凜「…… 東郷、友奈… 良かった…」


ゆうなちゃぁん…    とうごうさん…



夏凜「…ふぅ」

夏凜「―――こらぁ!東郷!…あんた私にもいっぱい言うこと有るでしょう!?」

友奈…そして東郷が帰ってきたあの夜だが…その後の事が大変だった。

ひとまず色々と酷い状況だった友奈を連れ出し、私のアパートに連れて行った。

道中も東郷は情緒不安定で何度か錯乱したけれど…その度に私が拘束し、その隙に友奈が東郷を抱くという戦法が功を奏し、到着するころには我を取り戻していた。

私と東郷ふたりで友奈をお風呂に引きずり込むと、痛みで涙目になるくらいに洗い尽くし、私愛用のジャージを着せ、警察に行った。


用意したシナリオは…ふと思い立って山登りに行った友奈だが、敢え無く遭難し、2週間以上彷徨い歩いた末にようやく町まで辿り着き今に至る…というもの。


…何度思いなおしても穴だらけである。当時異常な精神状態だった私たちは、どこから突っ込めばいいのか分からないほどデタラメなその言い訳が通じると信じ切っていた。


そんなこんなで、大慌ての大人たちに浴びせられかけた怒涛の質問攻めは壮絶だった。何故山に?2週間もどうやって生き延びた?町に来るまでに電話とかかりて連絡できなかったのか?

遭難者の割になんでそんなに身なりがきれいなのか?というか何故3人そろって警察に?…などなど。


はっきり言って何を答えたのか分からない(覚えてない)し、大人たちがそれを信じたとも思えない。

それでも後日何の追及もなかったのは…大赦が気を利かせてくれたお陰か、はたまた神樹様のご加護だろうか。


ちなみに友奈だが、病院に運ばれて無事が確認されると、駆け付けた家族にひと通り心配され…こってり絞られたようである。

翌日、風と樹を加えてお見まいに行った際には、ふたりが本気で不安がるほどにゲッソリだった。

例の装置については、友奈が退院して復学した際に、私立ち会いのもと友奈が東郷に打ち明けた。

その時の修羅場は…これもまた覚えていない。

とりあえず友奈が本気の涙を流していたこと、東郷がすごく笑顔だったこと、家に帰るといつの間にか私の下着が変わっていたこと…という3点だけかろうじて記憶にある。

思い出そうとしても頭と胃袋が痛くなってたまらないので、私は考えることをやめた。




そして、あの『装置』…最終的に全ての罪を擦り付けられる形となった例のブツの所在は…実は今も謎である。

友奈曰く部室の机にしまったらしいが見当たらない。…もっとも今見つけた所で恨みを込めてブチ壊すくらいしか用途がないので、無理に探し出すこともないだろう。

…願わくば、勇者以外の誰かが発見して放棄せんことを。


かくして勇者部はもと通りとなった。

目の前いっぱいに広がる楽しい時間をどう消費するのか。贅沢に悩み続ける日々に、やっとこ帰ってきたのである…



カリカリ…


友奈「うーあーぁー! 疲れたよ~!何で部活に来てまで勉強しなくちゃいけないの~…」バタリ

東郷「ふふ、仕様がないじゃない?友奈ちゃん一ヶ月も遅れてるんだもの」

友奈「うう…世知辛いよ~」カリカリ

東郷「あっ、そこまた間違えてるわ」

友奈「ぅえぇ!」




カリカリ…


友奈「…東郷さん」

東郷「なぁに?友奈ちゃん」


カリ…

友奈「ありがとう。側に居てくれて」

東郷「ううん。こちらこそ」




東郷「友奈ちゃん、意外と心配性なのね?」

友奈「えへへ…まぁ~、そうなのかな…」


コツン

友奈「…お互い様、だね」

東郷「…ええ」


ギュ




東郷「…不束者ですが、これからもよろしくね。友奈ちゃん」

友奈「…うん。東郷さん!」





夏凜「…こいつらあたし達の存在目に入ってる?同じ部屋に居るってこと忘れてない? どっこい…しょ!」グンッ

風「荷物整理免除の代わりに友奈の教育係を命じたのはあたしだけどさ… ふんっ!」グイッ

ドサリ

風「ふう…全くもー、すっかり『ふたりだけの世界』ね…。立ち入りがたいわ!」

夏凜「…その言葉はあんまり使ってほしくない… あ、樹!ダメよ!その荷物は軟いから一番上にのっけて頂戴!」

樹「えっ!あぁ、ご、ごめんなさぁい!」ドタドタ

ズルッ

樹「きゃああ!」ドサドサ


風「ぬう!大丈夫か妹よー!」トタタ

樹「うう…お姉ちゃーん…」モゾ



夏凜「…何やってんだか」

夏凜「…」チラ


…だから友奈ちゃん!そっちの……は…こうで…!

…わー!すごいよ東郷さん… …!


夏凜「…」


風「――な~に黄昏れた目ぇしてんのよかりーん!!」

バーン!

夏凜「うわぁっ!…っとぉ!こらぁ!何してくれてんのよ危ないわね!」


風「だってぇ…にぼっしーがにぼっしーらしくない顔してるもんでつい?…てへ♪」コツン

夏凜「にっぼしー言うな!…そんで何よその仕草!?鳥肌が立つわ!」

クイクイ

夏凜「? …樹?何よ」

樹「か、か、夏凛さん!」ズイッ!

夏凜「う、うん?」タジ


ギュッ!

樹「夏凜さんには…その、私たちが!居ます!」

夏凜「お…おう?」


樹「勇者部はみんなでひとつだから!その…だから、友奈さんや東郷さんも一緒で…!」

樹「…あれ?えーっと、えっと…」オロッ


夏凜「…」

樹「ち、違うんです!私の言いたいのは…えーっと…つまり…!」オロオロ


夏凜「…ん」ナデナデ

樹「ふぁあ!? 夏凛さん!?」ビクッ



夏凜「…大丈夫よ。言いたいことは…その、何となく伝わったから」

樹「そう…ですか?」


夏凜「…ん、んー、んぅ…」モジッ

夏凜「…ありがとう」

樹「…え?」キョトン


夏凜「…何でもない!ほら!ボサッとしてない!」

樹「は、はひっ!」ビシッ!

夏凜「…サクッと荷物なんて片付けて、友奈の勉強に加勢するのよ。東郷だけに任せてなるもんですか!」


樹「! …はいっ!」ニコッ


夏凜「そうと決まれば…樹!あんたその辺のを全部右端からがーっと寄せてあげなさい!根性よ!」ダッ

樹「え、ええ!?無理ですーっ!」タタッ



ドタドタ…


風「あはは…父さん、母さん」

風「完璧じゃないかもだけど…私にしちゃ、上出来だったよね?」


ミーンミンミン…



風「…ん!よしっと!」ノビッ


風「夏凜ー!樹ー!あたしを放っぽって楽しそうにしてんじゃないのー!」タッ

…依存には色々な形があります。

といっても、薬物とかアルコールとかギャンブルとか…そういう悪いものだけではありません。

社会とか、家族とか、友達とか。私たちは少なからず、そういうものに依存して生きているのです。


おかしな機械に頼らずとも、幸せで暖かい、なあなあな依存関係の光の中に私たちは生きています。


東郷さんや夏凜ちゃんや風先輩や樹ちゃん、お父さんお母さん、近所のひとたち…私にとっての光は、まさにそういう人たちです。

おお何と素晴らしい!ビバ依存!…なんて言ったら危ないヒトになっちゃうかな?てへへ…



願わくば、皆さんも暖かい光に照らされて生きられますことを。

…そんなこんなで頼り頼られつつですが、今年も幸せな一年となりますように!



どうも、結城友奈でした!

_人人人人人_
> おわり <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄

乙!
ずっと前から見てたよ

おつ
なかなかハラハラしたわ

乙!

おつ
bad endルートも書いてくれていいのよ?

乙!

乙乙
装置の行方が少し怖いのが心残り


面白かった

良かった・・・
ハッピーエンドだった・・・

どうやって逆転すんだろと思ったらそうきたか乙

乙です

ハッピーエンドね!

下着が変わってた謎がまだ解けない

乙でした。

ほのぼのあまあまパターン書いてもいいのよ

乙。ハッピーでよかった
バッドだと東郷さんは友奈ちゃんを食うつもりだった?

遅ればせながら見てくれてありがとね
かわいい夏凜ちゃんをいっぱいかけたと思います

>>191
おん?ええのんか?

いいよ!

やったれ!

やっほう!

ど~んとこいだよ~

マジかよ…

はよ

こっちでやってたのか

おつおつ

>>201
もらしちゃったんだろ

>>213
誰が履き替えさせたんだろうね

>>213
漏らした経緯が重要だと思うんです

そんなことよりバッドエンドのほうが気になります

バッドはよ!

夏凜ちゃんのおもらし!

思いついたけど正月終わっちまったので続きはゆっくりになりそうです
なお内容は色々やばそう

期待
死人出ないといいが無理っぽいなぁ……

楽しみに待ってる

待ってるよー


エピローグ来たからまた誰か装置間違って押すのかと思ったらそんなこたあなかったな
別ルートは怖い物見たさ全開で待ってる

別ルートって真っ先に夏凜ちゃん死ぬ気しかしないよ…

バッドエンドはなしか

待ってる

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