咲「PSYCO-LES」 (73)
長くなりそうなんでこっちでやることにしました
vipで書いたヤツを加筆修正して投稿します
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泉「えー、こちら公安局です。現在、この区域は案件のため立ち入りを制限されてます」
泉「近隣住民の皆様は速やかに退去してください。繰り返しお伝えします。こちら公安局……」
咲「あの、すみません」
泉「近隣住民の方ですか? 申し訳ございませんが、ここは現在立ち入り禁止となっています」
咲「そ、そうじゃなくて、その……」
泉「捜査の妨げになりますので、どうか理解とご協力のほどを……」
咲「……公安局百合課1係、監視官の宮永咲です」スッ
泉「か、監視官!!?」
咲「そこを通してもらってもいいですか?」
泉「ここ、これは大変失礼しました!! どうぞお通りください!」
咲「あ、ありがとうございます。お疲れ様です」
泉「おお、お疲れ様です!!」
咲「……」
泉「……」
咲「あ、あの」
泉「は、はいなんでしょうか!?」
咲「弘世監視官はどこにいるか分かりますか……?」
泉「ひひ、弘世監視官は、えと、その……!」
「君、もう下がっていいぞ」
泉「へ?」
菫「私が弘世だ」
泉「!!?」
咲(この人が……)
泉「しし、失礼します!!」
菫「……配属早々に案件とは災難だったな」
咲「ほ、本日付けで配属になりました、宮永咲です」
咲「どうぞよろしく……」
菫「悪いが」
菫「百合課の人手不足は深刻だ。新米扱いはしていられない」
咲「…………」
期待
菫「対象の名前は新子憧」
菫「街頭スキャナーで色相チェックに引っかかり、セキュリティドローンがセラピーの受診を要求したが拒絶し逃亡」
菫「記録したサイコレズはバイオレットパープル。高い攻撃性と独占欲求が予想される」
咲「そんなに色相が濁るまで治療を受けなかったなんて……」
菫「想い人とは幼馴染みの関係で、それが故にあくまでも自分の気持ちを否定し続けていたらしい」
咲「だから治療も受けずに葛藤し続けて、色相が……」
菫「何にせよサイコレズ判定を待つまでもない潜在犯だ。発見次第速やかに執行する」
咲「了解です」
菫「相手は死に物狂いで逃亡を図り、抵抗をするはずだ」
菫「逃げられないと分かれば私たちを殺しに来ることもある」
咲「っ……」
菫「ここはそういう現場だ。分かって来た限りは覚悟しておけ」
咲「……はい」
ンァァァーッ……!! ンァァァーッ……!!
菫「来たか……」
咲「……護送車?」
菫「……宮永、これから会う人間を同じ人間だと思うな」
菫「奴らはサイコレズの百合係数が規定値を超えた人格破綻者だ」
菫「同じ潜在犯を狩るために生かされた狩猟犬……それが執行官。君が預かる部下たちだ」
咲(執行、官……)
ザッ
智葉「……」
爽「ふあ……」
洋榎「~♪」
豊音「わぁ……!」
咲(この人たちが、私の……)
爽「……」
爽「見慣れない可愛い子がいる……」
洋榎「たぶんあれやろ、新しく入ってきた宮田とかいう新人」
豊音「違うよ愛宕さん! 宮田さんじゃなくて宮崎さんだよ!」
智葉「どっちも違う」
菫「……紹介しよう。今日から君たちの2人目の飼い主になる、宮永咲監視官だ」
咲「よよ、よろしくお願いします!」
「…………」
菫「以上だ。事件のブリーフィグを開始するが、全員対象のデータには目を通してあるな?」
智葉「ああ」
豊音「ばっちりだよー」
咲(しょ、紹介これだけ……?)
洋榎「なんかビッチ臭い女やった気がするなぁ」
爽「ツインテールの可愛い子ってことだけは覚えてる」
菫「……今から二手に分かれて対象を追う。姉帯と獅子原は私に付いて来い」
爽「異議アリ!!」
菫「は?」
爽「私、新人ちゃんとがいいです菫先生!」
菫「黙れ。誰が意見していいと言った?」
菫「あと菫先生じゃない、弘世監視官だ。次その呼び方をしたら隔離施設にぶち込」
豊音「わ、私も出来れば宮永さんとがいいなー、なんて思ってたり……」
菫「だ れ が 意見していいと言った? 同じ言葉を二度も言わせるな」
菫「いいか? お前たちはただの犬だ。犬なら犬らしく飼い主の命令にのみ従順に……」
爽「さ、行こっか新人ちゃん。あ、自己紹介まだだったよね? 私獅子原爽、たぶん年上だろうけど気軽に爽って呼んでくれて……」
咲「あ、あの……」
菫「無視するな!!」
豊音「わ、私は姉帯豊音って言います! みんなみたいに豊音って呼んでくれればちょー嬉し」
菫「おい……」スチャ
爽「さ、仕事するかー」
豊音「うぅ、また後でいっぱい話そうね宮永さん……」
菫「今この瞬間から私語をしたヤツは問答無用で撃つ。分かったヤツから黙って私の命令を聞け」
菫「獅子原と姉帯は私と来い。あとの2人は宮永監視官に同伴しろ」
菫「監視官の了解なく勝手な行動をすることは許さない。現場での指示は全て監視官から仰げ」
菫「以上だ。各自ユリネーターを取り、対象を追え。見つけ次第速やかに執行するように」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
洋榎「さーて。うさぎさんチームに負けんよう亀さんチームも頑張ろかー」
咲「え、えっと、あの……どうすれば……?」
洋榎「アンタさんが待機を命令してくれればそれで何の問題もないでー」
洋榎「働かんでいいなら万々歳や」
智葉「給料泥棒はやめておけ、洋榎」
咲(どど、どうしよう……)
咲(弘世さんからは何の指示もされなかったし、いや指揮するようには言われたけど急にそんな……)
洋榎「ま、そう緊張しなさんな監視官様」
洋榎「ユリネーターの使い方は分かっとるんやろ?」
咲「い、一応研修は」
洋榎「知っての通りそいつは相手のサイコレズを読み取る銃や」
洋榎「潜在犯にだけ反応してセーフティーが解除される」
洋榎「ユリネーターの言いなりになって撃て言われたヤツを撃ったらそれで終いや」
咲「そ、そんなこと言われても……」
洋榎「基本モードならパラライザーや。撃って対象を制圧して、隔離施設にぶち込めば一件落着」
洋榎「何も難しいことあらへんやろ、大丈夫いけるいける」
咲「で、でも新子さんの百合係数次第では……」
洋榎「そうやなぁ……まあアンチチキンで済めばいいってところやろ」
洋榎「もしかしたらイレイザーになるかもな」
咲(イレイザー……)
洋榎「ま、それを決めるのはユリネーターやし、ウチらには関係ない話や」
咲「イレイザーって、その……対象の記憶を消すんですよね?」
洋榎「せやで。最悪レベルにサイコレズが曇ったどうしようもならんヤツ限定やけどな」
洋榎「恋心もろとも記憶を消せばサイコレズも浄化されるし、まあ合理的なこと考えるわ」
咲「……」
智葉「宮永監視官」
咲「は、はい!?」
智葉「今は研修の時間じゃない。案件に集中しろ」
咲「すす、すみません!」
洋榎「あはは、まあその通りやな」
咲「え、えっと、話を戻しますけど、対象を捕まえる段取りの打ち合わせとかはしないんですか……?」
智葉「私たちが獲物を狩り、お前はそれを見届ける」
智葉「ただそれだけのことだ」
咲「も、もうちょっと具体的に……」
洋榎「まあ任せとけってことや。餅は餅屋って言うやろ?」
智葉「愛宕の言う通り、私たちはこの道の専門家だ」
智葉「故に私たちには私たちの流儀がある……」
智葉「ただ、責任を全て取らされるのはお前だ。私たちのやり方が気に喰わないなら……その銃で私たちを撃て」
咲「なっ……」
智葉「私たちも対象と同じ潜在犯だ。ユリネーターは作動する」
咲「そんなこと……って、ちょ、ま、待ってください! えっと……」
洋榎「そういえば紹介がまだやったな。アイツは辻垣内智葉、でもってウチは愛宕洋榎」
洋榎「末永くよろしゅうやで、宮永監視官」
咲「は、はい……」
洋榎「さーて。んじゃま社会のために働くとしましょかー」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
憧「はぁ……ぁ……」
憧(なんで、こんなことに……)
憧(私はただ、シズの隣でいられるだけでいいのに……)
憧(それなのに、どうして……!)
カタン…カタン…
憧「!」
憧(誰か来てる……もうここを嗅ぎ付けたっていうの……?)
憧(逃げようにもこのあたり一帯は警備ドローンだらけ……)
憧(完全に公安の網にかけられてる……見つかるのは時間の問題で……)
憧「くそっ……くそっ……!」
憧(全部、全部アイツらに壊される……)
憧(私の平穏な日常も、シズとの日々も将来も……)
憧(少し色相が曇っただけで、全部……)
憧「おかしいよ……ぐずっ、こんな世の中狂ってる……」
憧「私は、サイコレズなんかじゃない……」
憧「シズに対するこの気持ちは、そんなんじゃ……」
『なあ憧……』
『私たち、この先何があっても……ずっと親友でいようね』
憧「ッ……!!」
憧「ごほっ……ごほっ……!」
憧「うぅぅ……ぁぁああッ……!!」
憧「違う……違う……違う違う違う違う違う違う違う」
カタン…カタン…
憧「!」
憧(に、逃げなきゃ……)
憧(でも、もう逃げ場なんか……)
カタン…カタン…
憧(戦うしか、ない……)
カタン…
憧「ぐずっ、うぅ……」
憧「助けて……シズ……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『―――相手は死に物狂いで逃亡を図り、抵抗をするはずだ』
『―――逃げられないと分かれば私たちを殺しに来ることもある』
咲(殺しに……)
咲「…………」
ガタッ
咲「!!」スチャ
「…………」
『百合係数アンダー50。執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
咲「……はぁ」
洋榎「ちょっと怪しいだけの市民に銃口向けるなんて、えらい気張ってるみたいやな」
咲「!」
洋榎「まあこの一帯は治安悪いで有名やし道も入り組んでるしで、不気味で仕方が無いって気持ちは分かるけど」
咲「愛宕さん……」
洋榎「洋榎でええで? 好きに呼んでくれてええけど」
咲「……」
洋榎「随分浮かない顔しとるなぁ……」
洋榎「新子憧はただの女子高生や、こっちに危害を加えられるほどの器量も度胸もない」
洋榎「そんな不安そうな顔せんでもええと思うで」
咲「……ありがとうございます、心配してくれて」
洋榎「初案件やし緊張するのも分かるけど、いずれは馴れるから大丈夫やで」
咲(執行官って怖い人ばかりだと思ってたけど……愛宕さんは良い人かも……)
洋榎「監視官の安全守るのも執行官の仕事や。ウチの目が黒いうちはアンタには指一本触れさせんから安心し」
洋榎「白目の時は知らんけどな」
咲「ふっ……あはは……」
洋榎「お、やっと笑ったなー。スマイル一番乗りや」
咲(この人の声を聞いてると安心する……やっぱりとっても良い人だよ……)
『―――これから会う人間を同じ人間だと思うな』
咲(愛宕さんがそんなことを言われるような人間だとは思えない……)
咲(それなのに、どうして……)
洋榎「どんな時でも笑顔が一番~♪」
咲「……」
咲(後ろからだし、バレないよね……?)スチャ…
『百合係数オーバー200、執行官。任意執行対象です』
咲「!」
咲(ほ、本当に、潜在犯なんだ……)
洋榎(うーん……あんまし良い気分はせんな……)
咲「……」
爽『あー、テステス、マイクテスマイクテス』
咲「!」
爽『こちらハウンド4、B5区域にて対象を発見』
爽『どうするー? 手っ取り早く頭ぶち抜く?』
菫『待機だ。そのまま目を離すな。ハウンド3と私がその場を包囲する』
爽『でもなんかさっきから怪しいことしてるんだよなー』
爽『あの子相当に頭キレるらしいし、変な工作とかされても厄介だしー……』
爽『私だけで執行、いっちゃう?』
菫『……よし、許可する。しくじるなよ』
爽『ふふ、了解。任せんさーい』
憧「シズ……ぐずっ、シズ……」
やべえ、めっちゃ面白い
爽「かのキリストは言いました」スチャ…
『百合係数オーバー180。執行対象です』
爽「明日のことを誇るな。1日のうちに何が起こるか、あなたは知らないからだ……」
爽「とさ!!」
ドゥゥン !!
憧「!」
爽「なっ!?」
爽(この距離で後ろから狙って避けられた……!?)
憧「ッ……」タタッ…
爽「あー、逃げられるのはちょっとまずいかもっ……」
菫『状況を説明しろハウンド4! 何があった!?』
爽『ごめん菫、しくじっちゃった。今はホシと鬼ごっこ』
菫『なっ』
爽『大丈夫大丈夫、さっきはなーぜか避けられたけど次はちゃんと当て……』
ズシャ
爽「る?」
爽「ってわああああああああああ!!?」
咲「!!?」
菫『獅子原! 一体何が起きた!? 獅子原!」
爽「ったぁ……なんだこれ、落とし穴……?」
菫『状況を説明しろ! 無事なのか!?」
爽「あー、なんかよくわかんないんだけど、穴みたいなのに落ちた」
菫『は?』
爽『腰とか脚とかまあまあ痛いけど基本大丈夫。心配してくれてありがと』
菫『……ホシの状況は?』
爽『逃げられちゃったかなー。この穴結構深いから外見えねえ』
菫『こ、の、間抜けがぁ……!!』
爽『いやー、油断し過ぎた。完全に舐めてたわ、JKがやることじゃないでしょあれ』
菫『笑ってる場合か! さっさとホシを追え! 挟み込むぞ!」
爽『そうしたいのは山々なんだけど、出れなくて』
菫『くそっ……! おい全員聞こえてるか!?』
洋榎『聞きたくなくても聞かされとるでー』
菫『状況はさっきの通りだ! 獅子原の役立たずの代わりにホシを追えるヤツはいるか!?』
咲『し、獅子原さんの現在地に一番近いのは私と愛宕さんです! 2人で追います!』
菫『ホシの動きが想定通りならC7区域で挟み込めるらしい! 全速力で来い!』
咲『了解です!』
爽『私は誰が助けてくれるのー?』
菫『お前は事件が終わるまで始末書の内容でも考えてろ!!』
豊音『えっと、獅子原さんの現在地なら私が近いから、私が助けにいくね』
爽『愛してるよ豊音ー。あ、ちょっとサボりたいからゆっくりめでいいよ』
菫『し、し、は、ら~……!!』
智葉『説教はあとでにしておけ菫、対象が優先だ。あと爽も余計なことを言うな』
智葉『宮永監視官、聞こえるか?』
咲『は、はい聞こえてます!』
智葉『敵はなかなかにやり手らしい。発見次第迷わず引き金を引け、それ以外のことは何も考えるな』
咲『は、はい……?』
智葉『私は挟み撃ちが失敗した時のためにD7区域に向かう。徒労で終わらせてくれよ』
良いね
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
憧「はぁ……ぁ……」
憧(一人、倒した……)
憧(でも、たぶんまだいる……全員倒すなんて絶対無理……)
憧(さっきは偶然、工事中の穴を見つけたからそれを利用出来たけど……あんなの二度も出来るわけない)
憧(逃げるしかない……そのためにもまずは警備ドローンがいないところまで移動して……)
憧「!」
菫「……」ザッ…
憧(公安……!)
菫(想定通りならこの区域にいるはずだが……)
菫『竹井、本当にここでいいんだな?』
久『もっちろん、私が言ったこと間違ってたことあるー?』
久『っていつもなら自信満々で言うんだけど、残念ながら今回は自信ないのよね』
菫『はぁ……』
久『そのあたりは廃区画だから街頭スキャナも無ければ監視カメラも無いわけだし、正直お手上げ』
久『あなたたちだってユリネーターが無ければお仕事できないでしょ? それと同じことよ』
菫『まあいい……日頃からお前に頼り過ぎるのは良くないと思っていた、これも良い経験になる』
久『対象の位置はもちろん周囲の状況とかも一切伝えられないから、くれぐれも気を付けてね』
菫『百も承知だ。どこぞの無能と一緒にするな』
久『ふふ、お手並み拝見させて頂くわ、監視官様♪』
憧(このまま隠れてたらやり過ごせそう……)
憧(でも……今やり過ごせたとしても、いつか必ず見つかって……)
菫「……」
憧(あの銃があれば……)
憧「……やるしかない、わよね」
憧(いや、絶対にやってみせる……)
憧「どれだけ汚れようと、私の心は私だけのものよ……」
憧「絶対に好きにさせない……アンタたちなんかに、絶対……!」
菫(誰もいない、か……?)
菫(いや、潜伏している可能性もある……宮永たちと合流するまでは周囲の捜索だ)
菫(油断していたとは言え獅子原がやられたんだ……ただの女子高生とは言え決して侮ることは……)
カガヤイテー ココイチバンー♪
菫「!」
菫(なんだこの音……携帯の着信音……? こんなファンシーな……)
菫(まさか、新子……?)
菫(いや、落ち着け……この状況でそんなことあり得るのか……?)
菫(ヤツは相当に頭がキレると言った……それこそこれは罠の可能性が高い)
菫(あの携帯に近付いたところを急襲、といったところか)
菫(所詮は子供の考えること……まあ年齢でいうなら私もヤツと大して変わらんが……)
菫(今現在最善の選択は……警戒を強めながら携帯の周囲を詮索することだな)
菫(ふっ、単細胞な獅子原や姉帯あたりなら簡単に引っかかっただろうが、私は……)
憧「ふぅ……」
憧(とりあえず、ここまでくれば大丈夫かな……)
憧(携帯……しょうがないよね……)
憧(最初は銃を奪おうと思ったけど、奪ったとしても私が使える保障なんてどこにも無いし)
憧(むしろああいうのってGPSとか付いてたりするだろうから、逆に奪った方が危険だと思って逃げたんだけど……)
憧「この様子だとどうやら正解だったみたいね」
憧(警備ドローンの網はもう抜けた……これでやっと一息付ける……)
憧(とりあえず、今日は一晩ここで過ごそう……もう体力限界……)
憧(これからのことは、明日考えて……)
咲「う、動かないで」
憧「!」
咲「動くと……撃ちます」
憧(う、そ……)
憧(ど、どうして……?)
憧(向こうの動きを読んであえて街頭スキャナの多い場所に移動したのに……それなのに……)
咲(弘世さんの言った通りだ……C7区域に居た……)
咲(愛宕さんに置いてかれて迷子になってたけど……ちゃんと着いて良かった……)
咲(でもどうして私だけなんだろ……? 弘世さんや愛宕さんは……)
『新子憧。百合係数オーバー180。執行対象です』
咲(百合係数、180……)
『―――発見次第迷わず引き金を引け、それ以外のことは何も考えるな』
咲(辻垣内さんはそう言ってたけど、でも……)
憧「い、いや……やめて……撃たないで……」ウルウル…
咲「っ……」
咲(この人は街頭スキャナに引っかかっただけで、何もしていない……)
咲(まだ更生の余地がある人を撃つなんて、そんなの絶対に間違ってるよ……!)
憧「いや……やだ……忘れたくない……忘れたくないよ……」カタカタ…
咲「お、落ち着いてください。私たちはあなたを助けに来たんです」
憧「来ないで……」
咲「あなたにはまだ更生の余地がある……だから、私と一緒に来てセラピーを……」
憧「来ないでっっ!!」
咲「ッ……」
憧「はぁ……ぁ……!」
咲(どうすれば、信じてもらえて……)
咲「……」
咲「ごめんなさい。こんなものを持ってる人間を信じろだなんて、無理ですよね」スッ…
憧「え……?」
咲「ここに置いて……いや、そっちに渡しますね」シュッ
カランカラン…
憧(この人、何考えて……)
咲「改めてもう一度言います」
咲「新子憧さん、私たちはあなたを助けに来ました」
咲「セラピーを受け、ちゃんと段階を踏んで治療をすればまだ間に合います」
咲「だから、私と一緒に……」
憧「嘘よ……」
憧「もう戻らないんでしょ……? 私のサイコレズ……」
咲「そ、そんなことありません!」
憧「じゃあどうしてアンタたちは私に銃を向けたのよ……?」
咲「ッ……」
憧「サイコレズが曇りきって、回復の見込みが無いと判断された人間を公安は取り締まる……」
憧「アンタたちに目を付けられた時点で私は終わり……そんなことくらい分かってるんだから……」
咲「ち、違います! 新子さんはセキュリティドローンからの案内を拒絶したから……!」
憧「するに決まってるでしょ!?」
憧「潜在犯認定を受けて何年も隔離施設に入れられるなんて……そんなの耐えれるわけないじゃない!」
咲「でもそうしないとサイコレズは……!」
憧「友達や家族に隔離施設に入れられたってことを知られるくらいなら死んだ方がマシよ!!」
憧「それこそシズに知られたら……私、生きていけないよ……」
咲「新子さん……」
憧「ねえ、あなた私を助けてくれるんでしょ……?」
憧「助けてよ……私のサイコレズ、今すぐ綺麗にしてよ……」
咲「っ……」
憧「私を助けるってそういうことだよ……?」
憧「あなたにはそれが出来るっていうの……?」
咲「そ、それは……」
咲(出来る、わけがない……)
咲(それなのに私は、助けるだなんて大口を叩いて……嘘を吐いて……)
憧「……もしあなたが隔離施設に入るのを勧めるだけしか出来ないようなクズなら」
咲「!」
憧「私はアンタの助けなんかいらない……!」スチャ…
咲(ユリネーターを……!?)
憧「自分の力で、この腐ったサイコレズと一緒に生きていく……!」
憧「シズへの気持ちは誰にも触らせない! この気持ちもサイコレズも全部私のものよ!!」
咲「新子、さん……」
「だから言っただろう監視官」
咲「!」
憧「誰!?」
智葉「迷わず引き金を引け、と」
咲「辻垣内、さん……」
憧「どうやらアンタのお仲間みたいね……」
智葉「仲間なんて殊勝な関係じゃない」
智葉「首輪の付いた猟犬と飼い主……ただそれだけだ」
憧「……5秒以内に銃を降ろしなさい。さもなくばコイツを撃つわ」
咲「!」
智葉「……」
憧「本気よ? 高校生だからって舐めんじゃないわよ」
憧「サイコレズが曇りきった今……1人くらいなんとも思わないんだから」
咲「あ、新子さん……」
智葉「……断言してやろう、お前には撃てない」
憧「!」
智葉「意中の相手に好きの一言も言え無いヤツが……人なんて殺せるはずがない」
憧「ッ……!!」
智葉「コイツの引き金は……お前が思っているよりずっと重いぞ」
憧「う……あぁ……」
智葉「随分と手を焼かされたようだが、これで終わりだな……」スチャ…
『新子憧。百合係数オーバー180。執行対象です』
憧「ひっ……」
咲「ま、待ってください辻垣内さん! 撃っちゃダメです!」
智葉「……退け、監視官」
咲「退きません! これは命令です! 執行官、銃を降ろしなさい!」
『宮永咲、監視官。百合係数アンダー20。執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
智葉「チッ……馬鹿者が……」
憧「ど、どうして……?」
咲「言ったでしょ? あなたを助けるって」
智葉「監視官、どうしてそこまでしてそいつを庇う?」
智葉「私たちの仕事が何か忘れたんじゃないだろうな」
咲「忘れてなんていません。サイコレズの曇った人間を救う……それが私たちの仕事です」
咲「新子さんは街頭スキャナに引っかかっただけです」
咲「まだ何もしていないしサイコレズも更生の余地があります。彼女は執行対象じゃありません」
智葉「それを決めるのはお前じゃない。この銃だ」
咲「システムの言いなりになって執行するべきじゃない人間までも執行するなんて、そんなの間違ってます!」
智葉「サイコレズがどうしてそこまで曇ったのか、お前は考えないのか」
咲「それは……」
智葉「今そいつを見逃してみろ、間違いなく罪を犯すぞ」
智葉「拉致、監禁、傷害、強姦……このサイコレズなら殺人にまで至ってもおかしくない」
咲「だから更生して……!」
智葉「この社会の目でもあるユリネーターが、そいつに180もの数値を付けた意味がまだ分からないのか」
咲「!」
智葉「今執行しないと本当に手遅れになる……」
智葉「退け、監視官」
咲「……退きません」
智葉「退け!」
咲「何もしていない人間の記憶を、恋心を消すなんて! そんなの絶対に間違ってます!!」
智葉「お前、もしかして……」
咲「新子さん、銃を返して」
憧「え……?」
咲「辻垣内さん、これ以上私の命令に背くなら……」
咲「私はあなたを撃たないといけません」スチャ…
『辻垣内智葉、執行官。百合係数オーバー250。任意執行対象です』
智葉「……くく、まさかここまでバカだったとはな」
咲「お願いします……銃を降ろして……」
智葉「……」
咲「辻垣内さん……!」
智葉「言ったはずだ、私たちには私たちの流儀がある」
智葉「それが気に喰わないなら……引き金を引け、監視官」
咲「ッ……!!」
智葉「私は私の信念に従ってそいつを執行する……」
憧「ひっ……」
咲「と、止まりなさい! 執行官!」
智葉「ユリネーターの言いなりになって引き金を引いたことなんて……一度も無い」スチャ…
『新子憧。百合係数オーバー180。執行対象です』
咲「ダメ……ダメだよ……」
憧「ぁ……ぁぁ……」カタカタ…
智葉「……二度目が無い事を祈ろう」
咲「ダメーーーーーー!!」
―――ドゥゥン
智葉「……」
智葉「……」フラ…
―――ドサ
咲「ぁ……ぁぁ……!!」
憧「こんな、ことって……」
智葉「……」
咲(辻垣内さんを……撃った……)
咲(私が……この手で……)カタカタ…
『―――ユリネーターの言いなりになって引き金を引いたことなんて一度もない』
咲「っ……」
『―――私は私の信念に従ってそいつを執行する』
咲「……新子さん、お願いします」
咲「私と一緒に来てください……」
咲「私はあなたを……助けたいんです」
憧「……」
憧「分かり、ました……」
咲「っ……!」
咲(やった……これで新子さんは記憶を失わずに……!)
『新子憧。百合係数オーバー180』
『執行モード、アンチチキン』
『落ち着いて照準を定め、対象を制圧してください』
咲「え?」
ドゥゥン !!
憧「うぁぁッ!?」
咲「ッッ!!?」
―――ドサ
憧「……」
咲「そん、な……」
咲「愛宕、さん……」
洋榎「……」
菫「……宮永監視官」
菫「君の状況判断については、報告書でキッチリ説明してもらう」
久(まーたとんでもない新人が入ってきたわね)クス…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
咲「……」
咲「はぁ……」
咲(配属初日であんなこと……うぅ、死にたいよ……)
咲(新子さんがイレイザーで執行されると勘違いして、辻垣内さんを撃って……)
咲(辻垣内さんも私と同じで、手遅れになる前に新子さんを助けたかった……それなのに、私は……)
洋榎「ま、そう落ち込みなさんな」
咲「愛宕さん……」
洋榎「アンタは良い勉強になった、新子もたぶん救われた」
洋榎「まあ、智葉のこと以外は最高の結末やろ」
咲「あの、辻垣内さんの容態は……?」
洋榎「さあな、ウチもそれを知るためにここまで来たんやし」
洋榎「おーい久、入るでー」
咲「!」
久「入るって言いながら入っちゃ声かける意味ないでしょ……って」
久「あら、誰その可愛い子は?」
咲「あ、あの……分析官の竹井久さん、でしょうか……?」
久「そうだけど……」
咲「き、昨日付けで百合課に配属になりました! 宮永咲です!」
久「わお♪ あなたが智葉を撃ったっていう新任の監視官?」
久「へー、思ってたよりずっと可愛いわ」
久「顔に似合わず思い切ったことするのね、何があったの?」
久「智葉にキスでもされちゃった?」
洋榎「相変わらずやの……セクハラはほどほどにしとけよ」
久「2人きりだと襲っちゃうかもしれないし、それは無理そうね」
咲「えっと、その……辻垣内さんの容態、ここにくれば分かるって訊いて……」
久「はいはい、2人はそういう目的」
久「いくら医師免許持ってるからって、分析官に健康管理まで任せるお役所って問題アリアリだと思わない?」
久「そりゃ私も潜在犯だけどさ、だからって便利にコキ使われちゃたまったもんじゃないっての」
久「ねえ咲、早く偉くなってこの体質改善してよ。そうね、まずは施設にサウナスパとかを……」
洋榎「話それまくっとるぞー」
咲「あ、あの……辻垣内さんの治療は……?」
久「あ、それね。パラライザーとは言え当たりどころが悪かったわね」
久「脊髄に良い感じに直撃かましてくれちゃったから、まだ本調子ってわけにはいかないわ」
久「喋るくらいなら出来るけど、動いたりはちょっとね。もちろんベッドのお共も♪」
咲「……」
久「……顔だけでも見たいってなら面会くらい大丈夫よ。どうする?」
咲「い、いえ、面会とか、そういうのは……」
洋榎「良くないやろ、とっとと謝ってこい」
咲「で、でも……」
洋榎「デモもストライキもあるか。こういうのは長引けば長引くほど面倒くさいんや」
洋榎「それに、智葉に伝えたいこともあるんやろ? なら行かんでどうすんねん」
久「良いオカンっぷりね、洋榎」
洋榎「やかましい、ウチはまだ18や。オカン言われる年齢やない」
久「で、どうする? 会うの? 会わないの?」
咲「……会い、ます」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
智葉「……」
咲「……すみませんでした!」
智葉「……執行官に謝る監視官も珍しいな」
咲「……やっぱり怒ってますか」
智葉「あれがお前の判断だったのなら、私が文句を言える筋合いはない」
咲「でも、私は対象の執行判定を間違えて……それで……」
智葉「執行モードがアンチチキンと知っていたなら、お前は迷わず引き金を引けたか?」
咲「……」
智葉「監視官、アンチチキンでの更生過程は把握しているか」
咲「……はい、知っています」
咲「アンチチキンは執行された者の心の中にある億病な気持ちと恐怖心を消し去る」
咲「言うなればヘタレを治すことで対象に気持ちを伝えさせ、サイコレズの浄化を図るのが目的です」
智葉「その通りだ。想いが遂げられたのならもちろんサイコレズは浄化される」
智葉「仮に遂げられずとも気持ちを伝えたことで吹っ切れ、前を向くことによってサイコレズは浄化される……それがアンチチキンの仕組みだ」
咲「……」
智葉「新子がどっちに転ぶかは分からない……最悪の場合、もう1つの道に進む場合だってある」
咲「サイコレズの更なる悪化……ですよね」
智葉「そうなった潜在犯の末路は1つだ」
智葉「例え執行モードがアンチチキンだと知っていても……お前はその可能性を危惧し撃つのをためらっただろう」
咲「……私の判断は、間違っていたんでしょうか」
咲「ただチームの脚を引っ張って、みんなを危険に晒しただけなんでしょうか……?」
智葉「……刑事というのは誰かを狩るための仕事じゃない」
咲「!」
智葉「誰かを守り、救うための仕事だった」
咲「辻垣内さん……」
智葉「お前は何が正しいかを自分で判断した、役目より正義を優先出来た……」
智葉「そういう上司の下なら……私もただの猟犬ではなく、刑事として働けるのかもしれない」
咲「っ……!」
咲「ありがとうございますっっ!!」
智葉「執行官に礼を言う監視官も珍しい……」
咲「ぐずっ……ひぐっ……」
智葉「そうやって子供みたいに泣くヤツも……」
智葉(やはりお前は……アイツの妹なんだな)
智葉(宮永、咲……)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
菫「……つまり、あの場における君の判断に間違いはなかったと」
菫「それが結論か、宮永監視官」
咲「はい。彼女には自分で想いを伝えられる力がありました」
咲「事実、アンチチキン執行後の経過は良好。意中の人間とも無事に結ばれ……サイコレズは着実に減少しています」
咲「隔離施設に入っていたとしても……彼女は同じ道を辿れたはずです」
菫「……辻垣内、何か言いたいことは?」
智葉「何も無い。宮永監視官は義務を果たした、それだけだ」
咲「っ……!」
菫「はぁ……」
ビービービー
『エリアストレス上昇警報』
『◯◯地区△△女子高等学校にて規定値超過サイコレズを検知』
『当直監視官は執行官を伴い、ただちに現場に直行してください』
菫「……任せたぞ、宮永監視官」
咲「は、はい!」
洋榎「コーヒーブレイクも終わりでお仕事の時間か……」
爽「はいはい! 私咲と一緒に行きたいでーす!」
豊音「わ、私も!」
菫「姉帯と愛宕は私と別現場だ。獅子原は始末書の続きを書いておけ」
爽「なにぃ!?」
豊音「そんなぁ……」
菫「辻垣内はリハビリがてら宮永監視官に同伴だ」
智葉「了解」
愛宕「さーて、今日の天気はいかがなもんかねー」
豊音「うぅ……どうしていじわるするの弘世さん……?」
菫「いじわるなんてしていない。辻垣内は病み上がりなんだぞ、こんな現場連れて行けるか」
爽「なら智葉のサポートがてら私も……」ガタ…
菫「お前はいいから座ってろ」スチャ
智葉「……行くぞ、監視官」
咲「は、はい!」
終わり
お疲れ様でした、ありがとうございました
いつやる気がなくなるかも分からないんでオムニバス式に話を考えて行こうと思います
次は8割方出来てるんで近いうちにスレ立てます
乙です
乙 凄い面白い
サイコレズといえばピンク
続き期待
期待してます
乙 皆の過去が気になるところ
もう見てないかもだけど、ここのスレは2か月持つから新しく立てなくてもここで書けばいいんじゃねーの?
これはこれで完結してるし
次は別スレで良いと思う
六唐的なのは久洋でいいのか?いずれにしても乙。次回作あるなら楽しみにしてるで
乙です
乙です
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